平成25(行ウ)779 障害年金不支給決定取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年1月21日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文31,538 文字)

平成28年1月21日判決言渡平成25年(行ウ)第779号障害年金不支給決定取消請求事件 主文 1 処分行政庁が平成24年2月28日付けで原告に対してした障害認定日による障害厚生年金を支給しない旨の決定を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 主位的請求主文同旨 2 予備的請求処分行政庁が平成24年2月28日付けで原告に対してした事後重症による障害厚生年金を支給しない旨の決定を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,処分行政庁に対し,頸椎症性脊髄症(以下「本件傷病」という。)により,主位的には障害認定日である平成14年1月5日に国民年金法(以下「国年法」という。)及び厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)所定の障害等級に該当する程度の障害の状態にあったとして,予備的には上記障害認定日後に上記障害の状態に至ったとして,国年法所定の障害基礎年金並びに厚年法所定の障害厚生年金及び障害手当金(以下,障害基礎年金,障害厚生年金及び障害手当金の給付を併せて「障害給付」という。)の各裁定の請求(以下,これらの裁定の請求を併せて「本件裁定請求」という。)をしたところ,処分行政庁から,平成24年2月28日付けで,障害認定日及び裁定請求日における原告の本件傷病による障害の状態は国年法及び厚年法所定の障害等級に該当する程度のものではないことを理由として,障害認定日及び事後重症による障害給付をいずれも不支給とする旨の各決定を受けたことから,主位的に,上記各決定のうち,障 害認定日による障害厚生年金を不支給とする旨の決定(以下「本件不支給決定」という。)の取消しを,予備的に,上記各決定のうち,事後重症による障害厚生年金を不支給とする ,上記各決定のうち,障 害認定日による障害厚生年金を不支給とする旨の決定(以下「本件不支給決定」という。)の取消しを,予備的に,上記各決定のうち,事後重症による障害厚生年金を不支給とする旨の決定の取消しを求める事案である。 1 関係法令等の定め(1) 関係法令の定め本件に関係する法令の定めは,【別紙1】関係法令の定めのとおりである。 なお,【別紙1】において定義した略語は,本文においても用いる。 (2) 国民年金・厚生年金保険障害認定基準(昭和61年庁保発第15号社会保険庁年金保険部長通知。平成14年庁保発第12号による改正後のもの。 以下「障害認定基準」という。)国年法施行令別表及び厚年法施行令別表に規定する障害の程度の認定に関しては,具体的な認定基準として障害認定基準が定められており,処分行政庁における障害等級の認定は障害認定基準に従って行われている。障害認定基準は医学的知見を総合した上で定められたものであり,障害認定基準の定めのうち本件に関係する主なものは,【別紙2】障害認定基準記載のとおりである。(甲21,乙6,弁論の全趣旨) 2 前提となる事実(証拠等を掲げるもののほかは当事者間に争いがない。)(1) 原告ア原告は,昭和26年○月○日生まれの男性である(甲3)。 イ原告は,昭和51年4月1日,日本電信電話公社の職員として採用され,日本電信電話共済組合共済組合の組合員の資格を取得し,平成9年4月,同共済組合が厚生年金保険に統合されたことにより,厚生年金保険の被保険者となった。 (2) 原告の傷病ア原告は,平成12年7月5日にZ1病院(現在の名称はZ2病院。以下,名称変更の前後を通じて「本件病院」という。)を受診し,検査を受けた 結果,本件傷病と診断され,同年8月31日に椎弓形成手 原告は,平成12年7月5日にZ1病院(現在の名称はZ2病院。以下,名称変更の前後を通じて「本件病院」という。)を受診し,検査を受けた 結果,本件傷病と診断され,同年8月31日に椎弓形成手術を受けた。その後,本件病院において,平成14年1月23日現症で本件傷病による両下肢の痙性麻痺の障害(以下,原告の両下肢の痙性麻痺の障害を併せて「本件障害」という。)が残存している旨診断された。(甲3,13,乙1の1,乙2,10,弁論の全趣旨)イ本件傷病は,頸椎の経年的変化による椎体後縁の骨棘や,椎間板の膨隆により脊髄が圧迫され,脊髄白質の感覚や運動伝導路が障害されることにより,四肢に運動,感覚障害を生じる疾患である。本件傷病で認められる頻度の高い臨床症状,徴候として,上肢では手指のしびれ感や鈍痛で始まり,次第に手指巧緻運動障害が出現するものとされ,下肢では痙縮を伴う運動麻痺(痙性麻痺)による歩行障害及び感覚障害が出現し,脊髄障害が高度になると歩行不能となり,膀胱直腸障害も出現するものとされている。 (甲5ないし8,27,乙8)(3) 本件訴訟に至る経緯ア原告は,平成23年11月28日,処分行政庁に対し,本件傷病により,主位的には障害認定日である平成14年1月5日(以下「本件障害認定日」という。)に国年法及び厚年法所定の障害等級に該当する程度の障害の状態にあったとして,予備的には本件障害認定日後に上記障害の状態に至ったとして,本件裁定請求をした(以下,本件裁定請求をした平成23年11月28日を「本件裁定請求日」という。乙1の1及び2,2)。 イ処分行政庁は,平成24年2月28日付けで,原告に対し,本件障害認定日及び本件裁定請求日における原告の本件障害の状態が国年法施行令別表並びに厚年法施行令別表第1及び第2の定める程度に該 )。 イ処分行政庁は,平成24年2月28日付けで,原告に対し,本件障害認定日及び本件裁定請求日における原告の本件障害の状態が国年法施行令別表並びに厚年法施行令別表第1及び第2の定める程度に該当していないとして,障害給付をいずれも支給しない旨の各決定をした。 ウ原告は,平成24年5月1日,前記イの各決定を不服として,関東信越厚生局社会保険審査官に対し審査請求をしたが,同社会保険審査官は,同 年11月30日付けで原告の審査請求を棄却する旨の決定をした(乙3,4)。 エ原告は,平成24年12月13日,前記ウの審査請求の棄却決定を不服として,社会保険審査会に対し再審査請求をしたが,同審査会は,平成25年6月28日付けで原告の再審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲2,乙5)。 オ原告は,平成25年12月5日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。 3 争点及び争点に関する当事者の主張本件の争点は,本件障害認定日及び本件裁定請求日における本件障害の状態が,厚年法施行令別表第1の定める障害等級3級に該当する程度のものであるか否かであり,争点に関する当事者の主張は以下のとおりである。なお,原告は,本件障害の状態が国年法施行令別表の定める障害等級1級及び2級に該当する程度のものである旨は主張していない。 【原告の主張】(1) 本件障害の状態は障害等級3級12号に該当することア本件障害の状態は障害認定基準における「両下肢に機能障害を残すもの」に該当すること本件傷病は脊髄の器質障害であり,これによる障害の程度の認定に当たっては障害認定基準の「肢体の機能の障害」(第3の第1章第7節第4)が適用されるところ,本件障害認定日及び本件裁定請求日における本件障害の状態は,以下のとおり,障害認定基準が障害等級3級の例示として っては障害認定基準の「肢体の機能の障害」(第3の第1章第7節第4)が適用されるところ,本件障害認定日及び本件裁定請求日における本件障害の状態は,以下のとおり,障害認定基準が障害等級3級の例示として掲げる「両下肢の機能障害を残すもの」に該当する。 (ア) 痙性麻痺による障害の程度を判断するに当たっては日常生活動作の状態を重視すべきであること障害認定基準は,「肢体の機能の障害」に関する認定要領において,「肢体の機能の障害の程度は,運動可動域のみでなく,筋力,運動の巧緻性, 速度,耐久性及び日常生活動作の状態から総合的に認定を行う」と定めており,これは,脳及び脊髄の器質障害並びに多発性障害の場合,日常生活動作が大きく制限される一方で,関節可動域及び筋力については全く問題がないか,問題が小さい場合も多いことによるものと解される。 本件障害のような痙性麻痺の場合も,その医学的特性により,関節可動域及び筋力には問題がなくとも日常生活動作が制限される場合があり,関節可動域及び筋力によって障害の程度を判定できないことが多いから,その障害の程度を判定するに当たっては,日常生活動作の判定を最も重視すべきであり,関節可動域及び筋力の制限の程度にかかわらず,日常生活動作の状態によって障害の程度が認定されることもあり得るというべきである。 被告は,原告の股関節及び膝関節に関節可動域及び筋力への制限がないことから本件障害の程度は軽度であると主張するが,関節可動域及び筋力への制限が大きくない場合であっても,痙性麻痺が歩行に影響を与えることは多く,日常生活動作の状態によってしか障害の程度を認定できない障害も存在するのであるから,上記主張は失当である。 (イ) 原告の両下肢は日常生活動作のほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」に該当するこ 生活動作の状態によってしか障害の程度を認定できない障害も存在するのであるから,上記主張は失当である。 (イ) 原告の両下肢は日常生活動作のほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」に該当すること障害認定基準は,「機能障害を残すもの」とは,日常生活動作の一部が「一人で全くできない場合」又は日常生活動作のほとんどが「一人できてもやや不自由な場合」をいうものと定めているところ,本件病院のZ3医師が作成した診断書においては,平成14年1月23日現症及び平成23年9月27日現症の原告の下肢の「日常生活動作の障害の程度」として,「歩く(屋内)」の項目が「できる」と判定されているほかは,「片足で立つ」の右,「階段を登る」及び「階段を降りる」の各項目が「一人で(手すりがあれば)できるが非常に不自由」,「歩く(屋外)」,「片足 で立つ」の左及び「立ち上がる」の各項目が「一人でできても(支持があればできるが)やや不自由」と判定されており,7項目の日常生活動作の判定項目のうち,6項目が「一人でできても(支持又は手すりがあればできるが)やや不自由」以上と判定されている。 また,本件障害は,本件障害認定日の時点で,既に症状が固定しているものというべきところ,Z4医師が作成した平成26年10月28日現症の診断書によれば,原告の両下肢の日常生活動作のほとんどが「一人でできてもやや不自由」以上であることはより明白である。 さらに,原告の診療録や,Z4医師が作成した意見書の内容からも,原告の両下肢の日常生活動作のほとんどが「一人でできてもやや不自由」以上であることをうかがうことができる。 したがって,原告の両下肢の動作は,本件障害認定日及び本件裁定請求日のいずれにおいても,そのほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」に該当する。 (ウ 以上であることをうかがうことができる。 したがって,原告の両下肢の動作は,本件障害認定日及び本件裁定請求日のいずれにおいても,そのほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」に該当する。 (ウ) 原告の具体的な歩行の状態は「一人でできてもやや不自由」な程度のものであること原告は,歩行速度が他者より遅く,300mごとに休まなければ歩き通すことができず,つまずきやすく,反張膝であり,非常にぎこちない歩き方にならざるをえない状態である。また,原告は,東京都内の勤務先まで片道60分かけて電車通勤し,職場での社内歩行も一人で行っていたものの,上記の電車通勤は,自宅から自宅の最寄り駅までは妻が車で送迎し,必ず着席できる新幹線に乗車し,勤務先から最寄り駅まで200mほどを10分かけて歩くというものであるし,上記の社内歩行も,階段は利用することができず,ゆっくりと転倒に注意しつつ歩行し,気を付けていても10mから20m歩く度につまずき,仕事の終了近くにおいては右足を振り子のように歩いていたというものである。 このような原告の歩行状況からすれば,原告の歩行を一般的な意味で「一人でできる」と判定することに合理性はなく,少なくとも「一人でできてもやや不自由」と判定されるべきである。 (エ) 原告の就労状況からも障害等級3級と認められるべきであること原告は,本件障害により,本件障害認定日及び本件裁定請求日のいずれにおいても,300m以上の連続歩行が必要である労働,立ち仕事,重い物を運搬するような労働はすることができず,当時従事していた机上作業以上の労働はすることができない状況にあった。 障害認定基準における呼吸不全,内科的疾患等の各認定要領においては,「肉体労働は制限を受けるが,歩行,軽労働や座業はできるもの」以上が障害等 上作業以上の労働はすることができない状況にあった。 障害認定基準における呼吸不全,内科的疾患等の各認定要領においては,「肉体労働は制限を受けるが,歩行,軽労働や座業はできるもの」以上が障害等級3級に該当するものとされており,これらの定めに比しても,座業しかできない原告の障害の程度は3級と認定されるべきである。 (オ) 本件障害を一下肢の障害と評価するのは妥当ではないこと被告は,原告の左下肢の障害の程度は軽微であるとして,本件障害の程度は一下肢の障害と評価されるべきであると主張するが,Z3医師の作成した診断書,Z4医師が作成した意見書等によれば,原告の左下肢には痙性があり,その足関節には筋力低下及び関節可動域制限が見られ,日常生活動作にも障害があるものとされているのであるから,本件障害は両下肢に障害があるものとして評価されるべきであり,上記左下肢の障害を認定の対象から外すことはあり得ない。 イ原告の右下肢のみを評価しても障害認定基準の「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」に該当すること仮に,被告の主張するとおり,原告の右下肢のみに障害があるものとして本件障害の状態を評価するとしても,本件障害の状態は,以下のとおり,本件障害認定日及び本件裁定請求日のいずれにおいても,障害認定基準が障害等級3級の例示として掲げる「一下肢の機能に相当程度の障害を残す もの」に該当する。 障害認定基準によれば,「機能に相当程度の障害を残すもの」とは,日常生活動作の多くが「一人で全くできない場合」又は日常生活動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」をいうものとされ,下肢の動作は,「歩く(屋内)」,「歩く(屋外)」,「立ち上がる」,「階段を登る」及び「階段を降りる」の5動作で判定されるものとされているが,上記5動作 できるが非常に不自由な場合」をいうものとされ,下肢の動作は,「歩く(屋内)」,「歩く(屋外)」,「立ち上がる」,「階段を登る」及び「階段を降りる」の5動作で判定されるものとされているが,上記5動作はいずれも両下肢を用いて行う動作であり,これら5動作の判定により,一下肢のみの動作の程度を直接判断することは不可能である。Z4医師が作成した意見書の補足によれば,原告の右下肢の障害の程度を左下肢と分割して判断すれば,「歩く(屋内)」,「歩く(屋外)」,「立ち上がる」の全てが「(支持があればできるが)非常に不自由」と判定され,右下肢に係る日常生活動作の全ては「非常に不自由」以上と判定されることとなる。 前記アで述べたとおり,原告の通勤,勤務状況や,右下肢の関節可動域制限及び筋力低下の程度からしても,本件障害の状態が障害等級3級に該当することは否定されるものではなく,原告の右下肢の障害のみを評価したとしても,本件障害認定日及び本件裁定請求日のいずれにおいても,本件障害の状態は障害等級3級12号に該当する。 ウ小括以上によれば,本件障害の状態は,本件障害認定日及び本件裁定請求日のいずれにおいても,障害認定基準における「両下肢の機能障害を残すもの」又は「一下肢に相当程度の機能障害を残すもの」に該当し,障害等級3級12号の「身体の機能に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」に該当する程度のものである。 (2) 本件障害の症状が固定していなかった場合には,本件障害は障害等級3級14号に該当すること 仮に,本件障害の症状が固定していない場合には,Z3医師の作成した診断書,Z4医師の作成した診断書等の記載からすると,本件障害の状態は,本件障害認定日から平成26年10月 に該当すること 仮に,本件障害の症状が固定していない場合には,Z3医師の作成した診断書,Z4医師の作成した診断書等の記載からすると,本件障害の状態は,本件障害認定日から平成26年10月28日までの間に悪化していることになる。そして,本件障害の状態は,少なくとも障害手当金の給付の対象となる程度のものであるから,本件障害は,本件障害認定日の時点で,障害等級3級14号の「傷病が治らないで,身体の機能又は精神若しくは神経系統に労働が制限を受けるか,又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの」に該当する。 【被告の主張】(1) 本件障害の状態は障害等級3級12号に該当する程度のものではないことア本件障害の状態は障害認定基準の「両下肢に機能障害を残すもの」に該当しないこと本件障害認定日及び本件裁定請求日における本件障害の状態は,以下のとおり,そもそも両下肢に障害があるものとして評価されるべきではないし,これを両下肢の障害と評価したとしても,障害認定基準の定める「両下肢に機能障害を残すもの」に該当する程度のものではない。 (ア) 原告の両下肢に障害があるとはいえないことZ5医師の作成した意見書及びZ4医師の作成した意見書の記載によれば,原告は,頚髄症に起因する痙性不全四肢麻痺による両下肢痙縮と右尖足,右反張膝を呈しており,歩行障害(耐久力,スピードの低下と不安定性,易転倒)及び続発性の右関節の緩みがあるとされているものの,原告の歩行障害の主たる要因は右下肢の痙性麻痺及び尖足であり,左下肢の痙性麻痺の程度は軽度であって,障害を及ぼすほどの症状ではないといえる。 したがって,原告の両下肢には痙性麻痺があるものの,左下肢の痙性 麻痺については障害を及ぼす程度の症状とはいえないから の程度は軽度であって,障害を及ぼすほどの症状ではないといえる。 したがって,原告の両下肢には痙性麻痺があるものの,左下肢の痙性 麻痺については障害を及ぼす程度の症状とはいえないから,本件障害の状態は,原告の右下肢のみに障害があるものとして評価されるべきである。 (イ) 本件障害を両下肢の障害として評価したとしても「両下肢に機能障害を残すもの」には該当しないことa 「両下肢に機能障害を残すもの」該当性の判断基準障害認定基準は,障害等級3級12号に相当する障害の程度として「両下肢に機能障害を残すもの」を例示し,上記「両下肢に機能障害を残すもの」とは,日常生活動作の一部が「一人で全くできない場合」又はほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」をいうところ,障害の程度がこれに該当するか否かは,疾病の特質等に関する医学的見地をも踏まえ,診断書等に基づいて関節可動域,筋力,日常生活動作等の身体機能を総合的に認定した上で判断されるべきである。 原告は,本件障害の程度を判断するに当たり,日常生活動作の障害の程度を重視すべきである旨を主張するが,痙性麻痺による障害の程度が,関節可動域及び筋力の程度に関わることは医学的見地からの常識であるし,痙性麻痺が日常生活動作の不自由の程度に与える度合いは個人差が大きく,麻痺の種類によっても動作に与える影響は異なるものであるから,障害等級該当性は,日常生活動作の障害の程度のみによって単純に判断できるものではない。 b 原告の痙性麻痺は軽度のものであり,右足関節の尖足が歩行に大きな影響を与えているともいえないこと原告の診断書には,原告の股関節及び膝関節に痙性麻痺があるとの記載はあるものの,麻痺の程度に関する記載はない。また,上記診断書には,原告の股関節及び膝関節の関節運動筋力は正 ているともいえないこと原告の診断書には,原告の股関節及び膝関節に痙性麻痺があるとの記載はあるものの,麻痺の程度に関する記載はない。また,上記診断書には,原告の股関節及び膝関節の関節運動筋力は正常と記載されているほか,股関節及び膝関節には可動制限はないものと判断されてい ることからすれば,原告の痙性麻痺は重度のものとはいえない。 さらに,原告の診断書には,原告の右足関節は尖足傾向にある旨が記載されているものの,足関節が強直の状態である旨の診断はされておらず,尖足傾向にあっても足裏を地面につけることはでき,歩行は可能な状態であるといえるから,右足関節の尖足が歩行に大きな影響を与えているとはいえない。 c 原告は実際に歩行等が可能であることZ3医師の作成した診断書において,「一人で全くできない場合」に該当すると判定された日常生活動作はない。また,下肢の日常生活動作を判定する上で最も重要な動作は歩行であるが,原告は,屋内は補助用具無しで歩行可能であり,屋外であっても歩行はやや不自由な程度とされているにすぎず,実際に,自宅の最寄り駅から職場まで60分かけて電車通勤し,職場での社内歩行も一人で行っていることからすれば,歩行についてはほぼ可能な状態といえる。さらに,階段の昇降についても,痙性麻痺により股関節や膝の突っ張りがあるため不自由はあるものの,筋力が保持されているため,昇降は可能である。 d 原告の下肢の状態は独立の障害の程度として評価されていないことZ3医師の作成した意見書には,原因となった傷病,外傷名として「頸椎症性脊髄症」と記載されているものの,障害名は「体幹機能の著しい障害,一上肢の軽度機能障害」と記載されており,下肢の障害については,その程度が軽度であるため,独立の障害の程度としては評価されていない 性脊髄症」と記載されているものの,障害名は「体幹機能の著しい障害,一上肢の軽度機能障害」と記載されており,下肢の障害については,その程度が軽度であるため,独立の障害の程度としては評価されていない。 イ本件障害の状態は障害認定基準の「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」に該当しないこと本件障害の状態は,原告の右下肢のみに障害があるものとして評価されるべきであり,以下のとおり,本件障害認定日及び本件裁定請求日のいず れにおいても,障害認定基準における「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」に該当する程度のものではない。 (ア) 障害認定基準は,障害等級3級に該当する障害の程度として,「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」を例示しており,上記「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」とは,日常生活動作の多くが「一人で全くできない場合」又は日常生活動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」をいう。 原告の両下肢の日常生活動作については,「一人で全くできない場合」に該当する日常生活動作はなく,「片足で立つ」の右が「一人でできるが非常に不自由」,「階段を登る」及び「階段を降りる」が「手すりがあればできるが非常に不自由」とされているほか,これ以外の日常生活動作は「一人でできてもやや不自由な場合」又は「一人でうまくできる場合」に該当するとされている。 また,原告の平衡機能についても問題は生じていない上,原告は,長時間歩行を要す作業は不能であるものの,軽作業,中等度作業は可能とされており,実際に,原告は,自宅の最寄り駅から職場まで60分程度をかけて電車通勤し,職場での社内移動も一人で行い,1か月に20日前後勤務している。 さらに,原告の右下肢の関節可動域や関節運動筋力の制限の程度は軽微であるし, 宅の最寄り駅から職場まで60分程度をかけて電車通勤し,職場での社内移動も一人で行い,1か月に20日前後勤務している。 さらに,原告の右下肢の関節可動域や関節運動筋力の制限の程度は軽微であるし,Z5医師の作成した意見書においても,原告の障害は右下肢のみに生じており,かつ,その障害の程度は軽微であるとされている。 よって,原告の関節可動域,筋力,日常生活動作等の身体機能を総合的に認定すれば,本件障認定日及び本件裁定請求日のいずれにおいても,原告の障害の状態は,「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」には該当しない。 (イ) 原告は,本件障害の程度を左下肢と右下肢に分割し,右下肢に係る 日常生活動作の全てが「非常に不自由」以上である旨主張するが,障害認定基準の掲げる下肢の日常生活動作のうち,「片足で立つ」以外の動作は通常両下肢で行う動作であり,仮に一下肢に障害があれば,健側の下肢が患側を補いながら動作を行うのであるから,障害の程度を左下肢と右下肢に分割して評価することはできない。 よって,一下肢に障害のある場合であっても,両下肢に障害がある場合と同様,右下肢と左下肢に分けることなく日常生活動作の障害の程度を判断すべきである。 ウ小括以上によれば,本件障害の状態は,本件障害認定日及び本件裁定請求日のいずれにおいても,障害認定基準の「両下肢に機能障害を残すもの」,及び「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」に該当する程度のものとはいえず,障害等級3級12号に該当するものとは認められない。 (2) 本件障害の程度は,障害等級3級14号にも該当しないこと障害等級3号14号に該当するためには,本件障害が傷病が治らない状態にあることが必要であるところ,傷病が治った状態とは,器質的欠損若しくは変形 害の程度は,障害等級3級14号にも該当しないこと障害等級3号14号に該当するためには,本件障害が傷病が治らない状態にあることが必要であるところ,傷病が治った状態とは,器質的欠損若しくは変形又は機能障害を残している場合は,医学的に傷病が治ったとき,又は,その症状が安定し,長期にわたってその疾病の固定性が認められ,医療効果が期待し得ない状態で,かつ,残存する状態が自然経過により到達すると認められる最終の状態(症状が固定)に達したときをいう。 Z3医師,Z4医師が作成した診断書等の記載はほぼ同じであり,医学的見地からも,本件障害認定日及び本件裁定請求日から平成26年10月28日までの障害内容,程度にはほぼ変動がないと判断されていることからすると,本件障害の状態は,上記「傷病が治った状態」に該当するから,障害等級3級14号には当たらない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 痙性麻痺の特徴等本件傷病等の脳,脊髄の障害による下肢の痙性麻痺が出現した場合,足が内反尖足を呈し,膝が曲がらず,歩幅は小さく,足先を引きずり,つまずきやすく,ぎこちない歩行となり,足底の前半分及び足指の底面を地面につけて歩くという尖足歩行等の歩行障害がみられることがあるものとされている。 痙縮の程度を評価する方法としては,ModifiedAshworthScale(以下「MAS」という。)という方法がある。これは,痙縮を示す四肢を検者が他動的に動かした際の抵抗量を「0」,「1」,「1+」,「2」,「3」,「4」の6段階で評価するものであり,「1+」は「軽度の筋緊張亢進があり,catch と引き続く抵抗が残りの可動域(2分の1以内)にある」状態,「 の抵抗量を「0」,「1」,「1+」,「2」,「3」,「4」の6段階で評価するものであり,「1+」は「軽度の筋緊張亢進があり,catch と引き続く抵抗が残りの可動域(2分の1以内)にある」状態,「2」は「さらに亢進した緊張が可動域(ほぼ)全域にあるが,他動運動はよく保たれる」状態をいうものとされている。もっとも,MASに対しては,安静時の筋緊張の程度を測定するものであり,動作時の痙縮の評価には不向きであることが指摘されている。 また,日本整形外科学会及び日本脊椎脊髄病学会が監修した「頚椎症性脊髄症診療ガイドライン2015」によれば,本件傷病による歩行障害においては,下肢の筋力低下を伴うことは必ずしも多くないことが指摘されている。 (前提となる事実(2)イ,甲5ないし8,19,27,31ないし34,乙8)(2) 本件傷病の発症及び本件病院における受診経過ア原告は,平成12年4月頃,右足首を捻挫したが,次第に右下肢全体に力が入らない状態となり,通常の歩行のほか,階段や坂道の昇降が特に困難となった。原告は,その後も歩行障害が続いたため,同年7月5日,本 件病院を受診し,検査を受けた結果,本件傷病と診断され,同年8月28日から同年9月23日まで,本件病院に入院し,この間の同年8月31日に椎弓形成手術を受けた。 上記手術後,症状は一部改善したものの,右下肢に十分に力を入れることができず,膝が震え,右足のつま先がよくつまずいて転倒するなど,通常の歩行や,階段や坂道の昇降が困難であるという状態は継続していたことから,原告は,本件病院の退院後,少なくとも平成24年5月22日までの間,3か月ないし1年に1回程度,本件病院への通院を継続していた。 (前提となる事実(2)ア,甲3,4,17,28,乙2,10)イ平成12年8 病院の退院後,少なくとも平成24年5月22日までの間,3か月ないし1年に1回程度,本件病院への通院を継続していた。 (前提となる事実(2)ア,甲3,4,17,28,乙2,10)イ平成12年8月28日から平成24年5月22日までの間の本件病院における原告の診療録等には,平成12年11月27日分の経過記録に「左下肢の痙性↑にて歩行障害+。階段手すり要。」との記載があるものの,その他には左下肢の症状について明示的に言及する記載はなく,主に右下肢に痙性麻痺があることや,右下肢が内反尖足傾向にあることなどが記載されている(甲13,乙10)。 (3) 原告の就労状況原告は,本件傷病の発症後も,平成26年3月に退職するまで従前の勤務先における就労を継続していた。原告が本件裁定請求の際に処分行政庁に提出した「病歴・就労状況等申立書」(以下「本件病歴等申立書」という。)には,原告の就労状況に関し,以下の内容が記載されている。(甲28,乙2)ア本件障害認定日頃の就労状況等(ア) 通勤,出勤状況a 通勤手段は,①自宅から最寄りの熱海駅までは妻の運転による自動車での送迎(10分),②熱海駅から品川駅までは新幹線の利用(40分),③品川駅から勤務先までは200m程度を徒歩で移動(10 分)であり,通勤時間は片道合計60分である。 b 本件障害認定日の前月である平成13年12月の出勤日は19日,前々月である同年11月の出勤日は21日であった。 (イ) 仕事の内容コンピュータシステムの開発プロジェクトの管理者として,作業の指揮,管理業務等を行っており,通常は,作業報告書の作成等,会社内での机上作業が主体である。 (ウ) 仕事中,仕事の終了時の身体の調子仕事中においては,机上での作業は問題ないものの,会社内での移動 ,管理業務等を行っており,通常は,作業報告書の作成等,会社内での机上作業が主体である。 (ウ) 仕事中,仕事の終了時の身体の調子仕事中においては,机上での作業は問題ないものの,会社内での移動の際には移動時間を多めに見積もっておく必要がある。会社外への移動については,ゆっくりとしか歩くことができないほか,階段が利用できず,エレベーターが必須であり,気をつけて歩いても,10mから20m程度歩く度につまずくことから,問題がある。 仕事の終了時においては,右足が疲れてほとんど制御できず,右足を振り子のようにして歩いている。 (エ) 日常生活において不便を感じていること起床直後は右足の麻痺の程度が弱く,足を丁寧に運びながらの歩行が可能であるが,夕方になると麻痺の程度が強くなり,右足の制御が不能で,力も入らなくなる。 長距離を歩行することは困難で,300mから500mを歩行するのが限界であり,走ることもできない。 また,便意を催していても,力を入れることができないため,うまく排泄することができない。 イ本件裁定請求日頃の状況(ア) 通勤,出勤状況通勤手段については,本件障害認定日頃の状況と同様であり,本件裁 定請求日の前月である平成23年10月の出勤日は19.75日,前々月である同年9月の出勤日は17.5日である。 (イ) 仕事の内容特命事項の調査業務として,パソコン又は書籍による調査分析作業を行っており,朝から夕方まで,机上での作業である。 (ウ) 仕事中,仕事の終了時の身体の調子机上での作業は問題ないものの,本件障害認定日頃と同様,トイレ等の社内での移動時には転倒に注意する必要がある。 仕事の終了時においては,本件障害認定日頃の状況と同様,右足の麻痺の程度が強くなり,ほとんど制 業は問題ないものの,本件障害認定日頃と同様,トイレ等の社内での移動時には転倒に注意する必要がある。 仕事の終了時においては,本件障害認定日頃の状況と同様,右足の麻痺の程度が強くなり,ほとんど制御できず,力が入らなくなる。 (エ) 日常生活において不便を感じていること右足の麻痺の状況は本件障害認定日頃の状況と同様であるが,右足の麻痺に加え,両足首から両足指にかけて,痺れが強くなってきている。 また,飲酒すると右足が制御できなくなり,全く力が入らなくなることから,歩行することができなくなる。 便意を催した際に,力を入れることができないため,うまく排泄することができないのは,本件障害認定日頃の状況と同様である。 (4) Z3医師が作成した診断書等の記載内容ア平成23年9月30日付けの各診断書の記載内容本件病院の整形外科の医師として原告を診療していたZ3医師が平成23年9月30日付けで作成した原告の平成14年1月23日現症の診断書(以下「本件診断書1」という。)及び平成23年9月27日現症の診断書(以下「本件診断書2」といい,本件診断書1と併せて「本件各診断書」という。)の記載内容は,【別紙3】診断書の記載内容1記載のとおりである。なお,特に指摘するものを除き,本件診断書1と本件診断書2における記載内容には違いがない。(甲3,4,乙1の1) イ Z3医師の関東信越厚生局社会保険審査官の照会に対する回答Z3医師は,関東信越厚生局社会保険審査官からの照会に対し,本件各診断書における日常生活動作の障害の程度について「歩く(屋内)」が「一人でうまくできる」,「歩く(屋外)」が「一人でできてもやや不自由」と評価したことにつき,医学的見地も含めた本件障害の状態について,以下のとおり回答した(乙9)。 (ア) 平 歩く(屋内)」が「一人でうまくできる」,「歩く(屋外)」が「一人でできてもやや不自由」と評価したことにつき,医学的見地も含めた本件障害の状態について,以下のとおり回答した(乙9)。 (ア) 平成14年1月23日現症及び平成23年9月27日現症の本件障害の状態は,いずれも両下肢の痙性,特に右下肢の痙性が目立ち,痙性内反尖足変形を呈している。歩行は跛行(左右差)を呈しているが,屋内では補助具等は不要で歩行移動は自立しており,屋外では長距離歩行等に際し杖を補助に使用することもある。参考として,原告の障害の程度は身障者(5級)相当である。 (イ) 本件障害の状態を判断する上での参考として,MRI等の画像所見,神経学的所見では変化がないこと,自覚的な訴えとしては,平成19年頃までは右足の内反尖足変形がやや軽くなり,走りやすくなった旨の記載があることが挙げられる。 (5) Z4医師が作成した診断書等の記載内容ア平成26年10月28日付け診断書の記載内容Z4医師が平成26年10月28日付けで作成した原告の同日現症の診断書(以下「Z4医師診断書」という。)の記載内容は,【別紙3】診断書の記載内容2記載のとおりである。なお,特に指摘するものを除き,Z4医師診断書の記載内容は,本件各診断書の記載内容と違いがない。(甲17)イ Z4医師が作成した平成26年11月6日付け意見書等の記載内容Z4医師が作成した平成26年11月6日付け意見書及び平成27年5月26日付け上記意見書の補足の書面(以下,これらを併せて「Z4医師 意見書」という。)には,原告の障害の状態として,以下の記載がある(甲18,26)。 (ア) 原告の両下肢の痙縮の程度をMASによって評価した場合,右下肢の痙縮の程度は「2」,左下肢の痙縮の程度は「1+」 という。)には,原告の障害の状態として,以下の記載がある(甲18,26)。 (ア) 原告の両下肢の痙縮の程度をMASによって評価した場合,右下肢の痙縮の程度は「2」,左下肢の痙縮の程度は「1+」であり,MASの「2」は中程度の痙縮といえる。 (イ) 原告の尖足は軽度であり,つま先から接地したとしても,踵に自重を落とすことにより踵をついて歩行することが可能であるが,無理に踵をつき,体重を前方にシフトすれば膝関節は過伸展し,逆向きに反り返った状態(反張膝)となる。この状態を長く続ければ,膝の靱帯は伸び切り,関節が不安定となって,最終的には膝関節の裏側の痛みとともに,さらに歩行が不安定となる。 2 障害認定基準と障害等級該当性の判断【別紙1】関係法令の定め記載のとおり,厚年法施行令別表第1各号は,障害等級3級に該当する程度の障害の状態を定めている。そして,障害の程度を認定する際の具体的基準としては,【別紙2】障害認定基準の定め記載のとおり,障害認定基準が定められており,処分行政庁による障害の程度の認定は,障害認定基準に従って行われていることが認められる。 障害認定基準は,医学的知見に基づき作成されたものとして,その内容は合理的なものということができるところ,障害給付の支給の公平性を確保するためには,障害の程度の認定を一定の合理的基準に従って運用する必要性があることを考慮すれば,処分行政庁が障害認定基準に基づいて障害給付の支給要件である障害の程度の認定を行うことには合理性があるということができる。そして,処分行政庁としては,障害認定基準を定め,これに従った運用をしている以上,特段の事情のない限り,障害認定基準と異なる取扱いをすることは許されないというべきであり,障害認定基準によれば障害等級に該当すると認められる事案であるにもかか 定め,これに従った運用をしている以上,特段の事情のない限り,障害認定基準と異なる取扱いをすることは許されないというべきであり,障害認定基準によれば障害等級に該当すると認められる事案であるにもかかわらず,処分行政庁がこれを障害等級に該当しない ものとして障害給付を支給しない旨の処分をした場合には,当該処分は違法となると解すべきである。 3 本件における検討(1) 本件傷病が「傷病が治らないもの」に該当するか否かについて障害認定基準は,厚年法施行令別表第1に規定されている障害等級3級に該当する障害の状態の基本は,労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとし,ただし,「傷病が治らないもの」にあっては,労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものと定めている(障害認定基準第2の1(3))。また,「傷病が治った状態」とは,器質的欠損若しくは変形又は機能障害を残している場合は,医学的に傷病が治ったとき,又は,その症状が安定し,長期にわたってその疾病の固定性が認められ,医療効果が期待し得ない状態で,かつ,残存する症状が自然経過により到達すると認められる最終の状態(症状が固定)に達したときをいうものと定めている(同第1の5)。 前記認定事実によれば,本件各診断書には,平成14年1月23日の時点で本件傷病が治った(症状が固定して治療の効果が期待できない状態を含む。)ことが確認された旨が記載されており(認定事実(4)ア),Z4医師診断書にも,痙性麻痺に起因する右反張膝は現在も進行しているとしつつ,平成14年1月23日に本件傷病が治ったことが確認された旨が記載されていること(同(5)ア)が認められる。 また,本件障害の程度に関する平成14年1月23日現症の本件診断書1 行しているとしつつ,平成14年1月23日に本件傷病が治ったことが確認された旨が記載されていること(同(5)ア)が認められる。 また,本件障害の程度に関する平成14年1月23日現症の本件診断書1の記載と平成23年9月27日の現症の本件診断書2の記載の間に大きな違いは見当たらず(同(4)ア),本件病歴等申立書の記載からも,本件障害認定日と本件裁定請求日の障害の状態に大きな差異は見られない(同(3))。 他方,Z4医師診断書に記載された平成26年6月28日現症の右下肢の関節運動筋力及び日常生活動作の一部(右の「片足で立つ」と「歩く(屋内)」) の障害の程度は,本件各診断書の記載に比して重度のものとされているが(同(4)ア,同(5)ア),上記本件各診断書とZ4医師診断書の記載の違いは,医師による本件障害の程度の評価の差異と理解することが可能な程度のものであり,本件各診断書が作成された当時から,本件傷病の症状が顕著に悪化したということはできない。 以上の各診断書,本件病歴等申立書の記載等からすれば,本件傷病は,本件障害認定日の時点で既に症状が固定していたものと認めるのが相当であり,本件傷病は「傷病が治らないもの」には該当しないというべきであるから,本件障害の状態が障害等級3級に該当するか否かは,本件障害の状態が,労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものといえるかによって判断されることとなる。 (2) 脊髄の器質障害に関する障害認定基準の定め障害認定基準によれば,障害の程度の認定は,第2の「障害の程度」に定めるところに加え,第3の第1章「障害等級認定基準」に定めるところにより行うものとされているところ(障害認定基準第2の3),肢体の障害による障害の程度については,「上肢の障害」,「下肢の 程度」に定めるところに加え,第3の第1章「障害等級認定基準」に定めるところにより行うものとされているところ(障害認定基準第2の3),肢体の障害による障害の程度については,「上肢の障害」,「下肢の障害」,「体幹・脊柱の機能の障害」及び「肢体の機能の障害」の区分によってそれぞれ認定基準及び認定要領が定められており(同第3の第1章第7節),上記「肢体の機能の障害」に関しては,原則として,「上肢の障害」,「下肢の障害」,「体幹・脊柱の機能の障害」に示した認定要領に基づいて認定を行うものの,脳卒中等の脳の器質障害,脊髄損傷等の脊髄の器質障害,多発性関節リウマチ,進行性筋ジストロフィー等の多発性障害の場合には,関節個々の機能による認定によらず,関節可動域,筋力,日常生活動作等の身体機能を総合的に認定するものとされている(同節第4の2(1))。 前提となる事実(2)のとおり,本件障害は,脊髄の器質障害である本件傷病によるものと認められるから,本件障害の状態が障害等級3級に該当する か否かは,障害認定基準第3の第1章第7節第4の「肢体の機能の障害」に関する認定基準及び認定要領(以下,併せて「本件認定基準等」という。)に従って行われるべきこととなる。 (3) 本件障害の状態が「両下肢に機能障害を残すもの」に該当するか否かについてア本件認定基準等によれば,肢体の機能の障害の程度は,運動可動域のみではなく,筋力,運動の巧緻性,速度,耐久性及び日常生活動作の状態から総合的に認定を行うものとされており,障害等級3級に該当する程度の下肢の障害の状態としては,「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」及び「両下肢に機能障害を残すもの」が例示されているところ(障害認定基準第3の第1章第7節第4の2(2)),原告は,本件障害認定日及び本件裁 態としては,「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」及び「両下肢に機能障害を残すもの」が例示されているところ(障害認定基準第3の第1章第7節第4の2(2)),原告は,本件障害認定日及び本件裁定請求日のいずれにおいても,本件障害は「両下肢に機能障害を残すもの」に該当すると主張する。 本件認定基準等は,肢体の身体機能の障害の程度と日常生活動作の障害との関係を参考に示したものとして,「機能障害を残すもの」とは,日常生活動作の一部が「一人で全くできない場合」又は日常生活動作のほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」をいう旨を定めており(同(4)),日常生活動作と身体機能との関連は,厳密に区別することはできないものの,下肢の機能に関するものとして,「立ち上がる」,「歩く」,「片足で立つ」,「階段を登る」,「階段を降りる」の5つの動作が判断指標として掲げられている(同(3))。そして,本件認定基準等は,障害手当金が支給される程度の障害の状態として「一下肢に機能障害を残すもの」を,障害等級3級に該当する程度の障害の状態として「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」及び「両下肢に機能障害を残すもの」を,障害等級2級に該当する程度の障害の状態として「両下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」,「一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」 及び「四肢の機能に障害を残すもの」をそれぞれ例示しているところ(同(2)),これらの例示は,各下肢について個別に障害の程度を判定した上,各下肢の機能障害の程度及び機能障害を有する下肢の数によって障害等級を定めることを予定しているものと解されるから,「両下肢に機能障害を残すもの」に該当するためには,各下肢の障害の程度を個別に評価した上,両下肢のいずれについても日常生活動作の一部が「一人で全 害等級を定めることを予定しているものと解されるから,「両下肢に機能障害を残すもの」に該当するためには,各下肢の障害の程度を個別に評価した上,両下肢のいずれについても日常生活動作の一部が「一人で全くできない」又は日常生活動作のほとんどが「一人でできてもやや不自由」となる程度の障害が認められる必要があるものというべきである。 イ原告は,原告の左下肢には痙性があると診断され,日常生活動作に障害があること,足関節には筋力低下と関節可動域制限があることなどから,本件障害は両下肢の障害として評価されるべきであると主張し,原告の陳述書(甲28)にも左下肢が不自由である旨の記載がある。 そこで検討すると,前記認定事実によれば,本件各診断書には,平成14年1月23日現症及び平成23年9月27日現症の本件障害の状態に関し,原告の両下肢には痙性麻痺が残存している旨が記載されている一方で,足関節の背屈については,右下肢の自動可動域が「-10」,他動可動域が「5」,関節運動筋力が「半減」とされているのに対し,左下肢の自動可動域は「10」,他動可動域は「10」,関節運動筋力は「やや減」とされており,日常生活動作の障害の程度についても,右下肢の「片足で立つ」が「一人でできるが非常に不自由」とされているのに対し,左下肢の「片足で立つ」は「一人でできてもやや不自由」とされていることが認められる(認定事実(4)ア)。 また,前記(1)のとおり,本件傷病は本件障害認定日において既に症状固定に至っているものであるところ,Z4医師診断書にも,平成26年10月28日現症の原告の障害の状態に関し,原告の両下肢痙縮が認められる旨が記載されている一方で,足関節の背屈については,右下肢の他動可動 域が「5」,関節運動筋力が「半減」とされているのに対し,左下肢の他動 の障害の状態に関し,原告の両下肢痙縮が認められる旨が記載されている一方で,足関節の背屈については,右下肢の他動可動 域が「5」,関節運動筋力が「半減」とされているのに対し,左下肢の他動可動域は「10」,関節運動筋力は「やや減」とされ,股関節,膝関節及び足関節の底屈についても,右下肢の関節運動筋力が「やや減」とされているのに対し,左下肢の関節運動筋力は「正常」とされているほか,日常生活動作の障害の程度についても,右下肢の「片足で立つ」が「一人で全くできない場合」とされているのに対し,左下肢の「片足で立つ」は「一人でできてもやや不自由な場合」とされていることが認められる(同(5)ア)。 さらに,原告は,平成12年4月頃,右足首を捻挫したことを契機として本件病院を受診したものであるところ,同年8月28日から平成24年5月22日までの間の本件病院における原告の診療録等には,主に右下肢に痙性麻痺があることや,右下肢が内反尖足傾向にあることなどが記載されているものの,平成12年11月27日分の経過記録を除き,左下肢の症状について明示的に言及する記載はなく(同(2)ア,イ),本件病歴等申立書の原告の就労状況等に関する部分にも,右下肢の状態については具体的に記載されているものの,左下肢の状態については,本件裁定請求日頃の状況として,両足首から両足指にかけて痺れが強くなってきていると記載されているのみである(同(3))。 上記の本件障害の状態に関する診断書等の記載からすると,原告の右下肢と左下肢には,いずれも本件傷病による痙性麻痺が残存しているものの,右下肢の障害の程度は左下肢の障害の程度に比して相当重度のものであるということができ,本件障害による原告の日常生活動作の支障は,主に右下肢の障害に起因するものと認めるのが相当である しているものの,右下肢の障害の程度は左下肢の障害の程度に比して相当重度のものであるということができ,本件障害による原告の日常生活動作の支障は,主に右下肢の障害に起因するものと認めるのが相当である。 そうすると,原告の左下肢の日常生活動作については,「片足で立つ」が「一人でできてもやや不自由」とされているものの,その余の両下肢を用いる日常生活動作の障害は,いずれもその大半が原告の右下肢の障害に 起因しているものと考えられ,原告の左下肢の日常生活動作の一部が「一人で全くできない場合」又はほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」に当たるとはいえないから,原告の左下肢の障害は「機能障害を残すもの」に該当する程度のものとはいえず,本件障害認定日及び本件裁定請求日のいずれにおいても,本件障害の程度は「両下肢に機能障害を残すもの」に該当しないというべきである。 (4) 本件障害の程度が「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」に該当するか否かについてア原告は,原告の右下肢のみに障害があるものとして本件障害の状態を評価したとしても,本件障害の状態は,本件認定基準等が障害等級3級に該当する程度の障害の状態として例示する「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」に該当すると主張するところ,本件認定基準等は,肢体の身体機能の障害の程度と日常生活動作の障害との関係を参考に示したものとして,「機能に相当程度の障害を残すもの」とは,日常生活動作の多くが「一人で全くできない場合」又は日常生活動作のほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」をいう旨を定めている(障害認定基準第3の第1章第7節第4の2(4))。 イそこで,原告の日常生活動作の障害の程度が問題となるところ,原告は,原告の具体的な歩行の状態は「一人でできてもやや不自由」な う旨を定めている(障害認定基準第3の第1章第7節第4の2(4))。 イそこで,原告の日常生活動作の障害の程度が問題となるところ,原告は,原告の具体的な歩行の状態は「一人でできてもやや不自由」な程度のものであると主張し,原告の歩行状況を録画した電磁的記録(甲20)及び本件障害の状況を記載した原告の陳述書(甲28)を提出する。 前記認定事実のとおり,Z4医師診断書には,原告の日常生活動作の障害の程度として,「歩く(屋内)」及び「歩く(屋外)」のいずれについても「一人でできてもやや不自由」に該当する旨の記載がある(認定事実(5)ア)。また,本件各診断書及びZ4医師診断書には,平成14年1月23日,平成23年9月27日及び平成26年10月28日の各現症時のいず れにおいても,日常生活活動能力及び労働能力については,長時間歩行を要する作業は不能又は適さない旨の記載があるほか(同(4)ア及び(5)ア),本件病歴等申立書には,本件障害認定日及び本件裁定請求日前後の就労状況のいずれについても,原告はゆっくりとしか歩くことができず,会社内での移動では移動時間を多めに見積もっておく必要があり,階段も利用できず,10mから20m程度歩く度につまずくこと,長距離を歩行することは困難であり,300mから500mを歩行するのが限界である旨が記載されている(同(3))。 上記の各診断書の記載や本件病歴等申立書の記載内容は,原告が提出する陳述書等の内容と整合するものであり,前記(1)で説示したとおり,本件傷病の状態は,本件各診断書が作成された時点から顕著に悪化したということはできないことも考慮すると,原告の本件障害認定日における歩行状況は,屋内外を問わず,長距離の歩行が困難であり,頻繁につまずき,ゆっくりとしか歩くことができないという状況にあった 悪化したということはできないことも考慮すると,原告の本件障害認定日における歩行状況は,屋内外を問わず,長距離の歩行が困難であり,頻繁につまずき,ゆっくりとしか歩くことができないという状況にあったものと認められる。 そして,上記の原告の歩行状況からすれば,原告は,屋内外を問わず,健常者と同等の歩行をすることは困難であったといえるから,原告の「歩く」動作については,屋外及び屋内のいずれについても,「一人でできてもやや不自由」に該当する程度のものであったと評価するのが相当である。 これに対し,被告は,原告が自宅から職場まで60分をかけて電車通勤し,職場での社内移動も一人で行い,1か月に20日前後勤務していたとされていることから歩行は可能であったと主張し,Z3医師が作成した本件各診断書にも,原告の日常生活動作に関し,「歩く(屋内)」は「一人でうまくできる」と記載されており(認定事実(4)ア),Z3医師は,上記の評価をした理由として,歩行は跛行(左右差)を呈しているが,屋内では補助具等は不要で歩行移動は自立していることを挙げている(同イ(ア))。 しかしながら,原告は,通勤時において,自宅から最寄り駅まで自動車で 送迎してもらっていたほか,品川駅から勤務先までは徒歩で移動していたものの,その距離は200mにとどまっていたことからすると(認定事実(3)ア(ア),同イ(ア)),原告の歩行移動が自立していたものであったことを考慮しても,屋内の「歩く」動作が「一人でうまくできる」程度のものであったということはできない。 ウ上記のとおり,原告の本件障害認定日における歩行状況は,屋外及び屋内のいずれについても「一人でできてもやや不自由」な程度であったことが認められるところ,その余の本件障害認定日における日常生活動作の障害の程度については,本 障害認定日における歩行状況は,屋外及び屋内のいずれについても「一人でできてもやや不自由」な程度であったことが認められるところ,その余の本件障害認定日における日常生活動作の障害の程度については,本件各診断書及びZ4医師診断書の記載(認定事実(4)ア及び(5)ア)のとおり,原告の右下肢の動作については「片足で立つ」が「一人でできるが非常に不自由」又は「一人で全くできない」程度のものであったほか,両下肢を用いて行う動作である「立ち上がる」が「支持があればできるがやや不自由」,「階段を登る」及び「階段を降りる」が「手すりがあればできるが非常に不自由」という程度のものであったことが認められる。 そこで,上記の日常生活動作の障害の程度を参考にしつつ,原告の右下肢の機能障害の程度を検討することになるところ,下肢の日常生活動作として掲げられた動作のうち,「立ち上がる」以外の動作はいずれも両下肢を用いて行う動作であり,これらの動作の障害の程度は,健側の下肢(障害の程度が比較的軽度な下肢をいう。)が患側の下肢(障害の程度が比較的重度な下肢をいう。)の動作を補った結果によって判定されていることからすると,各下肢の障害の程度が異なる場合において,患側の下肢の機能障害の程度を個別に判断するに当たっては,両下肢を用いた結果によって判定された日常生活の障害の程度を参考としつつ,各下肢の障害の差異の程度も踏まえた上で,当該患側の下肢の障害の程度を個別に評価する必要があるというべきである。 前記(3)で説示したとおり,原告の両下肢には本件傷病による痙性麻痺が残存しているものの,原告の日常生活動作に対する支障は主に右下肢の障害に起因するものと認められる。そして,上記のとおり,原告の日常生活動作の障害の程度は,右下肢の動作である「片足で立つ」が「一人 が残存しているものの,原告の日常生活動作に対する支障は主に右下肢の障害に起因するものと認められる。そして,上記のとおり,原告の日常生活動作の障害の程度は,右下肢の動作である「片足で立つ」が「一人でできても非常に不自由な場合」又は「一人で全くできない場合」に該当する程度のものであったほか,歩行を含む両下肢を用いた5つの動作のいずれもが,障害が軽度である左下肢によって補ってもなお,「一人でできてもやや不自由」又は「手すりがあればできるが非常に不自由」に該当する程度のものであったから,原告の右下肢の機能障害の程度は,相当程度のものであったと考えるのが合理的である。 そして,前記認定事実のとおり,本件各診断書及びZ4医師診断書によると,原告の右下肢は,足関節の背屈の他動可動域が「5」,関節運動筋力が「半減」とされ,関節可動域及び関節運動筋力の制限もみられていたこと(認定事実(4)ア及び(5)ア)も総合的に考慮すれば,本件障害認定日における原告の右下肢の障害の状態は,「機能に相当程度の障害を残すもの」に該当するというべきである。 エこれに対し,被告は,日常生活動作の障害の程度に関する「片足で立つ」以外の動作については,通常両下肢で行う動作であるから,障害の程度を左下肢と右下肢に分割して評価することはできないと主張する。しかしながら,各下肢の障害の程度が大きく異なる場合,健側の下肢が患側の下肢の動作を補った結果によって当該患側の下肢の障害の程度を適切に評価することは困難であるから,このような場合には各下肢の日常生活動作の障害の程度を個別に評価する必要があるというべきである。 また,被告は,原告の関節可動域や関節運動筋力の制限の程度は軽微であると主張するほか,被告が提出するZ5医師作成の意見書(乙11)には,原告の右下肢の痙縮及び尖 る必要があるというべきである。 また,被告は,原告の関節可動域や関節運動筋力の制限の程度は軽微であると主張するほか,被告が提出するZ5医師作成の意見書(乙11)には,原告の右下肢の痙縮及び尖足の程度は比較的軽度であり,歩行や階段 昇降などに大きな影響を及ぼしているとは判断し難い旨の記載がある。しかしながら,前記認定事実のとおり,「頚椎症脊髄証診療ガイドライン2015」においては,本件傷病による歩行障害においては,下肢の筋力低下を伴うことは必ずしも多くないことが指摘されており(認定事実(1)),本件認定基準等が,脊髄の器質障害等の場合に,関節個々の機能による認定によらず,関節可動域,筋力,日常生活動作の身体機能を総合的に認定することとしている(障害認定基準第3の第1章第7節第4の2)のも,このような本件傷病の特質を踏まえたものと解されるから,原告の関節可動域や関節運動能力の制限の程度をもって,直ちに本件障害の程度が軽度であるということはできない。また,原告の右下肢の痙縮の程度はMASにより「2」と評価されているものの(認定事実(5)イ),MASによる痙縮の程度の評価は,動作時の痙縮の評価には不向きであることが指摘されており(同(1)),機能障害の程度を検討するにあたって上記評価を重視するのは相当ではないし,既に説示したとおり,原告の下肢の日常生活動作の障害の程度の大半は,原告の右下肢の障害に起因するものと認められることからすれば,原告の右下肢の障害が歩行や階段昇降に影響を及ぼしていたことは明らかである。 さらに,被告は,Z3医師作成の「身体障害者診断書・意見書」(乙10の28頁)において,下肢の障害が独立の障害として評価されていないことから本件障害の程度は軽度である旨を主張し,Z5医師の意見書(乙11)にもこれ Z3医師作成の「身体障害者診断書・意見書」(乙10の28頁)において,下肢の障害が独立の障害として評価されていないことから本件障害の程度は軽度である旨を主張し,Z5医師の意見書(乙11)にもこれに沿う記述がある。しかしながら,Z3医師作成の上記意見書には,原告の総合所見として「体幹機能の著しい障害(両下肢痙性による2km以上歩行不能)を呈している。」と記載されており,本件障害は「体幹機能の著しい障害」として評価されていたものと解されるから,上記意見書において本件障害が独立の障害として評価されていなかったということはできない。 (5) 小括以上検討したところに加え,原告の労働能力という観点からみても,前記認定事実のとおり,本件診断書1には,平成14年1月23日現症時の日常生活活動能力及び労働能力に関し,「軽作業,中等度作業可能。長時間歩行を要す作業不能。」と記載されているほか(認定事実(4)ア),本件病歴等申立書にも,原告の就労内容は作業報告書の作成等,会社内での机上作業が主体であったことが記載されており(同(3)ア(イ)),原告としては,机上作業等,下肢に負担が少なく,長距離の移動を伴わない軽作業,中等度作業に労働が制限されていたものと認められることも考慮すれば,本件障害認定日時点における本件障害の状態は,本件認定基準等が障害等級3級に該当する程度の障害の状態として例示する「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」に相当するものと認められ,厚年法施行令別表第1の12号の「前各号に掲げるもののほか,身体の機能に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」に該当するものというべきである。 第4 結論以上によれば,原告に対し障害認定日による障害厚生年金を不支給 しい制限を受けるか,又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」に該当するものというべきである。 第4 結論以上によれば,原告に対し障害認定日による障害厚生年金を不支給とした本件不支給決定は違法であり,原告の主位的請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官増田 稔 裁判官齊藤充洋 裁判官池本拓馬 【別紙1】関係法令の定め第1 障害基礎年金に関する法令の定め 1 国年法(1) 第15条(給付の種類)この法律による給付(以下,単に「給付」という。)は,次のとおりとする。 1号 〔省略〕2号障害基礎年金3号及び4号 〔省略〕(2) 第16条(裁定)給付を受ける権利は,その権利を有する者の請求に基づいて,厚生労働大臣が裁定する。 (3) 第30条(支給要件)ア 1項障害基礎年金は,疾病にかかり,又は負傷し,かつ,その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)において,次の各号に該当した者が,当該初診日から起算して1年6月を経過した日(その期間内にその傷病が治った場合においては,その治った日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。)とし,以下「障害認定日」という。)において,その傷病により次項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときに,その者に支給する。〔以下省略〕1号国民年金の被保険者であること。 2号国民年金の被保険者であった者であって, により次項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときに,その者に支給する。〔以下省略〕1号国民年金の被保険者であること。 2号国民年金の被保険者であった者であって,日本国内に住所を有し,かつ,60歳以上65歳未満であること。 イ 2項障害等級は,障害の程度に応じて重度のものから1級及び2級とし,各級の障害の状態は,政令で定める。 (4) 第30条の2ア 1項疾病にかかり,又は負傷し,かつ,当該傷病に係る初診日において前条1項各号のいずれかに該当した者であって,障害認定日において同条2項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態になかったものが,同日後65歳に達する日の前日までの間において,その傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったときは,その者は,その期間内に同条第1項の障害基礎年金の支給を請求することができる。 イ 2項ないし4項 〔省略〕 2 国民年金法施行令(以下「国年法施行令」という。)(1) 4条の6(障害等級)国年法30条2項に規定する障害等級の各級の障害の状態は,別表に定めるとおりとする。 (2) 別表障害の程度障害の状態 1級1ないし8 〔省略〕 9 前各号に掲げるもののほか,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする症状が前各号と同程度以上と認められる状態であって,日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの10及び11 〔省略〕 (備考) 〔省略〕第2 障害厚生年金及び障害手当金に関する法令の定め 1 厚年法(1) 第32条(保険給付の種類)〔平成24年法律第63号による改正前のもの〕この法律による保険給付は, (備考) 〔省略〕第2 障害厚生年金及び障害手当金に関する法令の定め 1 厚年法(1) 第32条(保険給付の種類)〔平成24年法律第63号による改正前のもの〕この法律による保険給付は,次のとおりとする。 1号 〔省略〕2号障害厚生年金及び障害手当金3号 〔省略〕(2) 第33条(裁定)〔平成24年法律第63号による改正前のもの〕保険給付を受ける権利は,その権利を有する者(以下「受給権者」という。)の請求に基づいて,厚生労働大臣が裁定する。 (3) 第47条(障害厚生年金の受給権者)ア 1項障害厚生年金は,疾病にかかり,又は負傷し,その傷病につき初めて医師又は歯科医師の診療を受けた初診日において被保険者であった者が,障害認定日において,その傷病により次項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にある場合に,その障害の程度に応じて,その者に支給する。〔以下省略〕 2級1ないし14 〔省略〕 15 前各号に掲げるもののほか,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする症状が前各号と同程度と認められる状態であって,日常生活が著しい制限を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの16及び17 〔省略〕 イ 2項障害等級は,障害の程度に応じて重度のものから1級,2級及び3級とし,各級の障害の状態は政令で定める。 (4) 第47条の2ア 1項疾病にかかり,又は負傷し,かつ,その傷病に係る初診日において被保険者であった者であって,障害認定日において前条2項に規定する障害等級に該当する程度の障害がなかったものが,同日後65歳に達する日の前日までの間において,その傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったとき 認定日において前条2項に規定する障害等級に該当する程度の障害がなかったものが,同日後65歳に達する日の前日までの間において,その傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったときは,その者は,その期間内に障害厚生年金の支給を請求することができる。 イ 2項及び3項 〔省略〕(5) 第55条(障害手当金の受給権者)ア 1項障害手当金は,疾病にかかり,又は負傷し,その傷病に係る初診日において被保険者であった者が,当該初診日から起算して5年を経過する日までの間におけるその傷病の治った日において,その傷病により政令で定める程度の障害の状態にある場合に,その者に支給する。 イ 2項 〔省略〕 2 厚生年金保険法施行令(以下「厚年法施行令」という。)(1) 第3条の8(障害等級)厚年法47条2項に規定する障害等級の各級の障害の状態は,1級及び2級についてはそれぞれ国年法施行令別表に定める1級及び2級の障害の状態とし,3級については別表第1に定めるとおりとする。 (2) 第3条の9厚年法55条1項に規定する政令で定める程度の障害の状態は,別表第2 に定めるとおりとする。 (3) 別表第1(第3条の8関係)1号ないし5号 〔省略〕6号一下肢の三大関節のうち,二関節の用を廃したもの7号長管状骨に偽関節を残し,運動機能に著しい障害を残すもの8号及び9号 〔省略〕号一下肢をリスフラン関節以上で失ったもの 11 号両下肢の十趾の用を廃したもの 12 号前各号に掲げるもののほか,身体の機能に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの 13 号 〔省略〕 14 号傷病が治らないで,身体の機能又は精神若しくは神経系統 ,身体の機能に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの 13 号 〔省略〕 14 号傷病が治らないで,身体の機能又は精神若しくは神経系統に,労働が制限を受けるか,又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するものであって,厚生労働大臣が定めるもの(備考)1及び3 〔省略〕 4 趾の用を廃したものとは,第一趾は末節の半分以上,その他の趾は遠位趾節間関節以上を失ったもの又は中足趾節関節若しくは近位趾節間関節(第一趾にあっては趾節間関節)に著しい運動障害を残すものをいう。 (4) 別表第2(第3条の9関係)1号ないし20 号 〔省略〕 21 号前各号に掲げるもののほか,身体の機能に,労働が制限を受けるか,又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの 22 号 〔省略〕(備考) 〔省略〕 【別紙2】障害認定基準第1 一般的事項1ないし4 〔省略〕 5 傷病が治った状態「傷病が治った状態」とは,器質的欠損若しくは変形又は機能障害を残している場合は,医学的に傷病が治ったとき,又は,その症状が安定し,長期にわたってその疾病の固定性が認められ,医療効果が期待し得ない状態で,かつ,残存する症状が自然経過により到達すると認められる最終の状態(症状が固定)に達したときをいう。 6及び7 〔省略〕第2 障害認定に当たっての基本的事項 1 障害の程度障害の程度を認定する場合の基準となるものは,国年法施行令別表並びに厚年法施行令別表第1及び第2に規定されているところであるが,その状態の基本は,次のとおりである。 (1)及び(2) 〔省略〕(3) 3級労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい びに厚年法施行令別表第1及び第2に規定されているところであるが,その状態の基本は,次のとおりである。 (1)及び(2) 〔省略〕(3) 3級労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。 また,「傷病が治らないもの」にあっては,労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものとする。(「傷病が治らないもの」については,第3の第1章に定める障害手当金に該当する程度の障害がある場合であっても3級に該当する。)(4) 障害手当金「傷病が治ったもの」であって,労働が制限を受けるか又は労働に制限を 加えることを必要とする程度のものとする。 2 認定の時期 〔省略〕 3 認定の方法(1) 〔省略〕(2) 障害の程度の認定は,第2の「障害の程度」に定めるところに加え,第3の第1章「障害等級認定基準」に定めるところにより行うものとする。〔以下省略〕(3)ないし(5) 〔省略〕第3 障害認定に当たっての基準第1章障害等級認定基準第1節ないし第6節 〔省略〕第7節肢体の障害肢体の障害による障害の程度は,「上肢の障害」,「下肢の障害」,「体幹・脊柱の機能の障害」及び「肢体の機能の障害」に区分し,次により認定する。 第1ないし第3 〔省略〕第4 肢体の機能の障害 1 認定基準肢体の機能の障害については,次のとおりである。 施行令別表障害の程度障害の状態国年法施行令別表1級〔省略〕2級〔省略〕厚年法別表第13級身体の機能に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの 施行令別表第2障害 〕厚年法別表第13級身体の機能に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの 施行令別表第2障害手当金身体の機能に,労働が制限を受けるか,又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの 2 認定要領(1) 肢体の機能の障害は,原則として,本節「第1 上肢の障害」,「第 2 下肢の障害」及び「第3 体幹・脊柱の機能の障害」に示した認定要領に基づいて認定を行うが,脳卒中等の脳の器質障害,脊髄損傷等の脊髄の器質障害,多発性関節リウマチ,進行性筋ジストロフィー等の多発性障害の場合には,関節個々の機能による認定によらず,関節可動域,筋力,日常生活動作等の身体機能を総合的に認定する。 (2) 肢体の機能の障害の程度は,運動可動域のみでなく,筋力,運動の巧緻性,速度,耐久性及び日常生活動作の状態から総合的に認定を行うが,各等級等に相当すると認められるものを一部例示すると,次のとおりである。 障害の程度障害の状態1級 1 一上肢及び一下肢の用を全く廃したもの 2 四肢の機能に相当程度の障害を残すもの 2級 1 両上肢の機能に相当程度の障害を残すもの 2 両下肢の機能に相当程度の障害を残すもの 3 一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの 4 四肢の機能に障害を残すもの 3級 1 一上肢の機能に相当程度の障害を残すもの 2 一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの 3 両上肢に機能障害を残すもの 4 両下肢に機能障害を残すもの 5 一上肢及び一下肢に機能障害を残すもの障害手当金 1 一上肢に機能障害を残すもの 2 一下肢に機能障害を残すもの(3) 日常生活動作と身体機能と 4 両下肢に機能障害を残すもの 5 一上肢及び一下肢に機能障害を残すもの障害手当金 1 一上肢に機能障害を残すもの 2 一下肢に機能障害を残すもの(3) 日常生活動作と身体機能との関連は,厳密に区別することができないが,おおむね次のとおりである。 ア手指の機能 〔以下省略〕イ上肢の機能 〔以下省略〕ウ下肢の機能(ア) 立ち上がる(イ) 歩く(ウ) 片足で立つ(エ) 階段を登る(オ) 階段を降りる(4) 身体機能の障害の程度と日常生活動作の障害との関係を参考として示すと,次のとおりである。 ア 「用を全く廃したもの」とは,日常生活動作のすべてが「一人で全くできない場合」又はこれに近い状態をいう。 イ 「機能に相当程度の障害を残すもの」とは,日常生活動作の多くが「一人で全くできない場合」又は日常生活動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」をいう。 ウ 「機能障害を残すもの」とは,日常生活動作の一部が「一人で全くできない場合」又はほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」をいう。 (5) 〔省略〕〔第8節以下省略〕

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