平成15(ワ)25825 損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成19年8月24日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-35189.txt

判決文本文52,083 文字)

平成19年8月24日判決言渡平成15年第25825号損害賠償請求事件( )ワ判決主文 被告は,原告Aに対し,83万円及びこれに対する平成15年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,41万5000円及びこれに対する平成15年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Cに対し,41万5000円及びこれに対する平成15年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,これを2分し,その1を被告の負担とし,その余は原告らの負担とする。 この判決の第1項ないし第3項は仮に執行することができる。ただし,被告が原告Aに対し60万円,原告Bに対し30万円,原告Cに対し30万円の各担保を供するときは,各仮執行を免れることができる。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告Aに対し,5137万7196円及びこれに対する平成14年8月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,2502万5914円及びこれに対する平成14年8月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Cに対し,2502万5914円及びこれに対する平成14年8月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 事案の要旨亡訴外Dは,平成13年8月30日から,高血圧及び糖尿病の治療等を目的として,継続的にE大学付属F病院に通院していたところ,平成14年7月に大腸癌が発見されたが,その時には既に肝臓及び肺に転移があり,全身状態も悪化していたため,手術,放射線療法及び化学療法の適応がなく,同年8月20日に死亡した。 本 院していたところ,平成14年7月に大腸癌が発見されたが,その時には既に肝臓及び肺に転移があり,全身状態も悪化していたため,手術,放射線療法及び化学療法の適応がなく,同年8月20日に死亡した。 本件は,亡Dの相続人である原告らが,亡Dが死亡したのは,被告病院の担当医師らが,亡Dの大腸癌を見落とし,適切な治療を怠ったためであるとして,被告に対し,亡Dと被告との診療契約の債務不履行に基づく損害賠償等を求めた事案である。 前提となる事実(証拠が掲記されていない事実は当事者間に争いがない)。 当事者( )ア亡Dは,昭和25年10月8日生まれで,東京都a市bc丁目d番e号所在のE大学付属F病院(以下「被告病院」という)において,平成1。 4年8月20日,大腸癌等(死亡診断書の直接死因は大腸癌腫症とされている)により死亡した女性である。亡Dは,生前,薬剤師及び臨床検査。 技師の資格を有していた(甲B1,原告A。 )原告Aは,亡Dの夫であり,原告B,原告Cは,亡Dの子である。原告らは,平成14年8月20日,亡Dが死亡したことにより同人の有する権利義務を相続した(甲B2。 )イ被告は,被告病院を開設する学校法人である。 被告病院は,平成13年当時から,診療科として,内科・循環器内科のほか,消化器科,外科,女性診療科・産科などを有し,平成15年1月に地域がん診療拠点に指定された総合病院である。また,被告病院の内科・循環器内科は,かねて総合内科として診療が行われたが,平成13年8月 からは循環器内科を併せて標榜するようになった(甲B17,弁論の全趣旨。 ) 診療経過等( )ア亡Dは,平成13年8月30日,高血圧を主訴として,被告病院の内科を受診し,被告との間で診療契約を締結した(以下「本件診療契約」という。乙A1,弁論の全趣 全趣旨。 ) 診療経過等( )ア亡Dは,平成13年8月30日,高血圧を主訴として,被告病院の内科を受診し,被告との間で診療契約を締結した(以下「本件診療契約」という。乙A1,弁論の全趣旨。そして,亡Dは,同日から平成14年6月)24日までの間に,診療及び検査のために被告病院内科・循環器内科に合計14回通院し,また,軟便,肛門の出血等を主訴として,平成14年5月17日に被告病院外科を受診し,同日から平成14年7月15日までの間,被告病院外科に合計6回通院した(甲A1の1,2,乙A1,2。 )イ亡Dは,平成14年7月15日に被告病院で施行された胸部・腹部レントゲン及び腹部エコー検査で,両側肺野及び肝臓に転移性の癌が認められ,全身状態不良もあって緊急入院となった。亡Dの癌は,その時点で既に末期癌の状態であり,その後,同月23日に行われた大腸内視鏡検査で,直腸RS部に原発巣である直腸癌(高分化型腺癌)が発見されたが,肝臓及び肺に転移があり,全身状態も悪化していたため,手術,放射線療法及び化学療法の適応がなく,これらは施行されないまま,同年8月20日,転移性肝癌,直腸癌,肝不全等により51歳で死亡した(乙A2,3。 ) 争点 外来患者に他科受診が必要となった場合にとるべき措置( ) 次の各時点で大腸癌を見落とした過失の有無( )ア平成13年8月30日ないしその直近日イ平成13年10月ウ平成13年11月エ平成14年2月25日オ平成14年3月25日 カ平成14年5月17日 上記各過失と亡Dの死亡との間の因果関係の有無( ) 医療水準に適った適切な医療行為を受ける利益の侵害の有無( ) 損害額( ) 争点についての当事者の主張争点についての当事者の主張は,別紙「主張要約書」記載のと 因果関係の有無( ) 医療水準に適った適切な医療行為を受ける利益の侵害の有無( ) 損害額( ) 争点についての当事者の主張争点についての当事者の主張は,別紙「主張要約書」記載のとおりである。 第3当裁判所の判断 事実認定証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 診療経過等( )ア亡Dは,あまり体調が良くない時でも騒がず,我慢強い性格で,被告病院を訪れる以前から,血圧が高く,家庭用試薬による検査の結果では尿糖が出ている状態であり,亡D自身,高血圧症及び糖尿病の疑いがあることを認識していたものの,特に病院での診療等を受けることもなく生活していたが,平成13年8月中旬ころに血圧を測定したところ,最高血圧が200近くあり,また,その数値を見た原告らから強く説得されたこともあって,被告病院を受診することとなった(甲C4,乙A1,3,原告A,原告B。 )イ亡Dは,平成13年8月30日,高血圧を主訴として被告病院の内科・循環器内科を訪れ,被告病院のG医師の診察を受けた。G医師が,血圧検査,胸部レントゲン検査,心電図検査等を行ったところ,血圧が200/90であり,甲状腺腫大,収縮期心雑音が認められたが,そのほかには特に問題のある所見は認められなかった。そこで,G医師は,亡Dが高血圧の状態であることを考慮して,血液検査を行い,心エコー検査を同年9月3日に予約した(乙A1,5,証人G。 )なお,亡Dは,初診時の問診表に「前回の生理は7月20日~5日間」 と記載した(乙A1。 )ウ亡Dは,平成13年9月3日,被告病院において心エコー検査を受け,その後,同月20日に再びG医師の診察を受けた。同月20日の診察において,G医師は,同年8月30日に行った尿検査で,尿糖が3という数+値であったことから,高血 被告病院において心エコー検査を受け,その後,同月20日に再びG医師の診察を受けた。同月20日の診察において,G医師は,同年8月30日に行った尿検査で,尿糖が3という数+値であったことから,高血圧症の検査とともに,糖尿病に関する検査が必要であると考え,亡Dに24時間血圧計を貸し出すとともに,同年10月2日に75グラムブドウ糖負荷試験,血液検査等を行うこととした(乙。 A1,証人G)また,G医師は,前回の診察時に行った血液検査の結果が,RBC(赤血球数)558×10/μl(基準値:400×10ないし500×1 0μl,Hb(ヘモグロビン)10.0g/dl(基準値:12ないし) 16g/dl,MCV(平均赤血球容積)60.6fl(基準値:89)ないし99fl,MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)17.9pg)(基準値:29ないし35pg)という数値であったことから,亡Dが小球性低色素性貧血であると診断し,更に貧血の原因を判断するため,血液検査の項目にRET(網状赤血球,Fe(血清鉄,UIBC(不飽和鉄))結合能)などの項目をも追加して血液検査を実施することとした(乙A1,5。 )なお,G医師は,検査の結果から,軽度左心室肥大であることのほか,亡DのHbが10.0g/dlで,小球性低色素性貧血であること,血沈が39mm/hrであること,尿検査で尿糖が3であることなどは亡D+の診療に当たって特に注意すべき事項であり,次回の診察の際に忘れることがないようにと考え,赤字でその旨を内科外来診療録に記載した(乙A1,5,証人G。 )また,G医師は,亡Dに対し,上記の検査結果について説明するとともに,少し貧血があり,その原因として,婦人科系の疾患や,胃や腸などの 消化器に問題があるかもしれないので,念のため,婦人科外来と, また,G医師は,亡Dに対し,上記の検査結果について説明するとともに,少し貧血があり,その原因として,婦人科系の疾患や,胃や腸などの 消化器に問題があるかもしれないので,念のため,婦人科外来と,消化器の検査のために消化器科の外来を受診するように勧めたところ,亡Dはこれを了承した(乙A5,7,証人G。 )エ亡Dは,平成13年10月2日,被告病院において,上記血液検査等を受け,同月11日,G医師の診察を受けた。同月11日の診察において,G医師は,同月2日の血液検査の結果では,Hbが10.7g/dlと前回の数値と比べてやや改善が認められたものの,Feが21μg/dl(基準値:65ないし157μg/dl)と低値を示し,UIBCが408μg/dl(基準値:191ないし269μg/dl)と高値を示したことから,亡Dの貧血は鉄欠乏性貧血であると診断し,また,上記血液検査においてHbA1c(グリコヘモグロビン)が10.7%(基準値:4.3ないし5.8%)であったこと及び75グラムブドウ糖負荷試験の結果から,亡Dが重症糖尿病であると診断した。そして,糖尿病に対してオイグルコン(血糖降下剤)を,高血圧に対して,ニューロタン(降圧剤)及びアムロジン(降圧剤)を処方し,高血圧及び糖尿病について経過を観察していくこととした(乙A1,5,証人G。 )その際,G医師が亡Dに対し,婦人科及び消化器科を受診したかどうかを確認したところ,受診していないとの回答であり,同人の貧血の程度は軽度であり,しかも少し改善していることから急いで消化器系の検査等を受けるまでの必要はないものと判断したが,念のために婦人科及び消化器)。 科の外来を受診するよう勧め,亡Dはこれを了承した(乙A5,証人Gオその後,亡Dは,高血圧及び糖尿病の治療のため,平成13年11月1日,22 ないものと判断したが,念のために婦人科及び消化器)。 科の外来を受診するよう勧め,亡Dはこれを了承した(乙A5,証人Gオその後,亡Dは,高血圧及び糖尿病の治療のため,平成13年11月1日,22日,12月20日,平成14年1月17日と被告病院の内科・循環器内科に通院し,血糖・HbA1c・尿の検査を受けるとともに,オイグルコンやアムロジン等の処方を受けるなどして,高血圧及び糖尿病に対する投薬治療等を継続した(乙A1。 ) 亡Dは,G医師に対し,平成13年11月1日の診察の際には,当初はめまい,動悸があったが,最近はなく,気分良好であるなどと述べ,同月22日の診察の際には,薬服用後に寒い感じがあり,手足の寒さ,冷える感覚があるなどと述べた。また,G医師は,亡Dに対し,平成13年11月1日の診察の際に,その後消化器科外来等を受診したかどうかを確認したところ,亡Dは受診していないとのことであったことから,受診しない理由を尋ねたが,同人は曖昧な返事をしたのみであった(乙A5,証人G。 )カG医師は,平成14年2月25日,亡Dを診察した際,亡Dから,処方されたアムロジンを服用すると下痢をするとの訴えがあったことから,アムロジンをアテレックに変更して,整腸剤を処方した。G医師は,アムロジンは平成13年10月11日から処方している薬剤であり,アムロジンで下痢をするということは一般的ではないことから,内科外来診療録には「アムロジン服用すると下痢?」と記載するとともに,下痢が消化器系の疾患,場合によれば癌から生じている可能性をも考えた。 G医師が亡Dに消化器科外来等の受診について再度確認したところ,未だ消化器科等を受診していないとのことであったことから,同人に対し,消化器科を受診するように勧め,他の病院で知っているところがあればそこで診察し に消化器科外来等の受診について再度確認したところ,未だ消化器科等を受診していないとのことであったことから,同人に対し,消化器科を受診するように勧め,他の病院で知っているところがあればそこで診察して頂いても結構ですからなどと言ったところ,亡Dはこれを了承した(乙A1,5,証人G)。 キ亡Dは,平成14年3月25日の診察の際,G医師に対し,薬の変更後は全身状態が改善し,倦怠感も消失し,良くなってきていると述べる一方で,便に血が混じると訴えた。そこで,G医師は,亡Dに対し,便に血が混じるのであれば,消化器科ではなく,外科を受診するように勧めた。 同年4月22日の診察の際にも,亡DはG医師に対し,倦怠感は改善したと述べたが,G医師が亡Dに外科を受診したかどうかを確認したところ 受診していないとのことであったため,G医師は亡Dに対し,少し強い口。 。 調で「何故外科に行かないのですか。今から行くように」などと言ったまた,G医師は,亡Dの状態は良くないと判断されるにもかかわらず,同人は症状等が改善した旨の発言しかしないことから,少し変わったところがあるとの印象をもち,この点を,内科外来診療録には「心因的な影響か」と記載した(乙A1,5,証人G)。 ク亡Dは,平成14年5月17日,軟便,肛門の腫れ,出血を主訴として被告病院外科を受診し,H医師の診察を受けた。亡Dが記載した同日付の問診表には「今回一番気になる症状」との欄に,軟便,肛門の腫れ,出,血などの記載があるほか「症状に○を付けてください」との欄には「下,,痢「血便がでる「便が細い「お腹が張る「体重が減った「良く」,」,」,」,」,眠れない」といった項目にそれぞれ○が付され「食欲はあたっりなかっ,たり」との記載がある。また,同問診表の「紹介してくださった先生 「お腹が張る「体重が減った「良く」,」,」,」,」,眠れない」といった項目にそれぞれ○が付され「食欲はあたっりなかっ,たり」との記載がある。また,同問診表の「紹介してくださった先生又,は病院」の欄には「内科G先生」との記載がある。 ,亡Dは,H医師の問診を受け,平成13年12月から肛門出血,腫れが出現し,アムロジンの副作用で下痢となった旨を述べた。そこで,H医師は,亡Dの主訴から内痔核の存在を疑い,直腸診と直腸鏡による検査を実施したところ,肛門3時のところに内痔核が認められ,その他に出血や腫瘍の所見が認められなかったことから,内痔核が肛門からの出血と腫れの原因であると診断し,その日はネリプロクト(痔疾用剤)を処方して経過観察をすることとし,便潜血反応検査や注腸造影検査は,内痔核の症状が落ち着いてから行うこととした。また,下痢に関しては,過敏性腸炎等の精神的影響に基づく疾患の可能性があると考え,セルシン(精神安定薬)を処方した。 亡Dは,H医師の診察を受けるについて,被告病院内科・循環器内科において鉄欠乏性貧血と診断されていることを告げなかったことから,H医 師は,亡Dに鉄欠乏性貧血の症状があることを知らず,紹介医であるG医師に対し,それまでの検査データ等の照会をすることもなかった(乙A。 2,6,証人H)亡Dは,平成14年5月20日,G医師の診察を受け,同医師に痔で外科受診をして良くなった旨の報告をしたことから,同医師はその旨を内科外来診療録に記載した(乙A1。また,亡Dは,同月31日には,被告)病院の外科の診察を受け,大分楽になり,疼くような感じがなくなってきたと述べた。 (なお,証人Hの証言中には,平成14年5月17日の初診時に,亡Dに便潜血反応検査及び注腸造影検査を勧めたが,同人がこれを拒否したと 察を受け,大分楽になり,疼くような感じがなくなってきたと述べた。 (なお,証人Hの証言中には,平成14年5月17日の初診時に,亡Dに便潜血反応検査及び注腸造影検査を勧めたが,同人がこれを拒否したとする部分があるが,証人Hのこの点に関する証言は曖昧であることのほか,乙A第2号証の外科外来診療録にその旨の記載はなく,同診療録の同日付の欄には「肛門括約筋の訓練,座薬で経過観察し,おちついた所で便潜血→注腸造影を」と記載されているのみであること,同年6月7日の欄には,便潜血反応検査を実施することとした旨の記載があることのほか,亡Dは初診時に直腸診,直腸鏡による検査,その後も胃内視鏡検査を受けているのであって,同人が医師から勧められた便潜血反応検査及び注腸造影検査について,これを拒否し,あるいは,消極的な態度を示す理由は見当たらないことに照らし,採用することができない)。 ケH医師は,平成14年6月7日の診察の際,亡Dから,軟便を良くしたい,ピンク色の便が出るとの訴えがあったことから,再び直腸診と直腸鏡による検査を行ったが,内痔核及び肛門周囲は初診時に診たときより改善しており,出血や腫瘍の所見は認められなかった。 H医師は,上記訴えと初診時にも便潜血反応検査の話をしていたことから,同検査を実施することとした。また,軟便を良くしたいとの希望があったことから,タンナルビン(止瀉剤)及ビオフェルミン(整腸剤)を追 加処方した(乙A2,6,証人H)。 コH医師は,平成14年6月21日の診察に際して,亡Dから軟便が続いている,胃が重い,舌が荒れているとの訴えがあったことから,胃内視鏡検査を勧め,同年7月15日に同検査を行うこととした。また,H医師は,軟便の原因としては,機能性のものが考えられると判断してポリフル(過敏性腸炎治療剤)を追加処方 との訴えがあったことから,胃内視鏡検査を勧め,同年7月15日に同検査を行うこととした。また,H医師は,軟便の原因としては,機能性のものが考えられると判断してポリフル(過敏性腸炎治療剤)を追加処方した(乙A2,6,証人H。 )(なお,乙A第6号証及び証人Hの証言中には,平成14年6月21日の診察の際,亡Dに注腸造影検査を勧めたところ,同人が同検査について消極的な態度をとったことからこれを実施しなかったとする部分があるが,乙A第2号証の外科外来診療録にはその旨の記載はなく,胃内視鏡検査を勧めた旨の記載があるのみであること,亡Dが医師が勧める注腸造影検査について消極的な態度をとるべき理由は見当たらないことに照らし,採用することができない)。 サ亡Dは,平成14年6月24日,高血圧及び糖尿病の治療のためG医師の診察を受けた。同日の内科外来診療録には,亡Dの様子について,顔色は蒼白であり,瞼結膜はひどい貧血である旨の記載がある(乙A1。 )シH医師は,平成14年7月5日の診察において,亡Dは,便についての症状はポリフルで軽快したと述べたものの,貧血と浮腫が気になると訴え,その顔色が青白く,貧血を疑わせる所見が存在したことから,癌を疑い,腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)などの血液検査を行うこととした(乙A2,6,証人H。 )亡Dは,同年7月15日,同年6月21日に予約した胃内視鏡検査のため被告病院を訪れ,同検査を受けたが,食道炎の所見があるのみで明らかな異常所見は認められなかった。しかし,7月5日の診察時に行った血液,生化学,腫瘍マーカー等の検査で,Hbが6.2g/dlと重度の貧血であることが判明し,肝機能障害も認められた上,腫瘍マーカーであるCE A及びCA19-9が,それぞれ500ng/ml以上(基準値0ないし5ng/m 等の検査で,Hbが6.2g/dlと重度の貧血であることが判明し,肝機能障害も認められた上,腫瘍マーカーであるCE A及びCA19-9が,それぞれ500ng/ml以上(基準値0ないし5ng/ml,5000U/ml以上(基準値0ないし37U/ml))と測定上限を超える異常高値を示したことから,急遽腹部エコー検査,胸腹部レントゲン検査を行ったところ,エコー上で多発性,びまん性の肝転移が認められ,レントゲン上においても多発性肺転移及び横隔膜下(モリソン)の腹水貯留が確認された。この検査結果を受け,亡Dは,高度の貧血,肝腫瘍,肺腫瘍の疑いなどで緊急入院となった。 そして,同年7月17日に予約をし,同月23日に行われた大腸内視鏡検査で,直腸RS部に原発巣としての直腸癌(全周性の隆起を伴う癌)の所見が認められ,同月25日には,大腸内視鏡検査の際に実施した生検の結果,高分化型腺癌との診断がされた(乙A2,3,6,証人H)。 ス亡Dは,7月15日の時点で肝臓への多発性・びまん性転移があり,肺への転移も認められた上,全身状態も悪化していたことから,入院時には既に手術及び抗癌剤治療等の適応がなく,保存的,末期治療を行うも,入院後は徐々に全身状態が悪化し,平成14年8月20日,転移性肝癌,直腸癌,肝不全等により死亡した(乙A2,弁論の全趣旨)。 診療経過等に関する補足説明( )本件における診療経過等に関し,①被告病院の内科担当医であるG医師が亡Dに対し,診察の際に消化器科あるいは外科の受診を勧めたか否か,②亡DがG医師に対し,平成14年3月25日の診察の際に血便が出ると訴えたか否かについて当事者間に争いがあることから,これらについて補足して説明する。 ア他科受診の勧めの有無(①)についてア乙A第5号証,第7号証,証人Gの証言によれば, 診察の際に血便が出ると訴えたか否かについて当事者間に争いがあることから,これらについて補足して説明する。 ア他科受診の勧めの有無(①)についてア乙A第5号証,第7号証,証人Gの証言によれば,上記1 で認定した( )( )とおり,G医師は亡Dに対し,平成13年9月20日,10月11日,11月1日の各診察の際には消化器科及び婦人科への受診を勧め,平成 14年2月25日の診察の際には,消化器科への受診を勧め,3月25日,4月22日の各診察においては,外科への受診を勧めたことが認められる。 このことは,①貧血(特に鉄欠乏性貧血)があった場合には,鉄欠乏の原因を調べる必要があり,婦人科系の疾患あるいは胃・大腸などの消化器の悪性腫瘍等の消化器系の疾患に基づく出血を疑い,精査を要すること,特別の理由なしに下痢等の便通異常が継続した場合には大腸等の消化器の精査を要することなどは,医学生においても知っておくべき,医学上の基礎的,基本的知見に属する事項であるといえること(甲B6の1,4,甲B9の1ないし17,甲B10ないし12,22)のほか,②被告病院の内科外来勤務の看護師であり,G医師の担当となることが多かったIは,時期は明確でないものの,G医師が亡Dに対し,消化器系の検査ができる診療科を受診するよう勧めていたのを2回聞いた記憶があると証言していること(乙A8,証人I,③G医師は,平成13)年9月20日の診察の際,同年8月30日の検査の結果のうち,Hbが10.0g/dlで,小球性低色素性貧血であること,血沈が39mm/hrであることなどは亡Dの診療に当たって特に注意すべき事項であるとして,赤字でその旨を内科外来診療録に記載していること(乙A1,5,④亡Dが被告病院外科の問診表(乙A2の2枚目)の「紹介して)くださった先生又は病院 Dの診療に当たって特に注意すべき事項であるとして,赤字でその旨を内科外来診療録に記載していること(乙A1,5,④亡Dが被告病院外科の問診表(乙A2の2枚目)の「紹介して)くださった先生又は病院」の欄に「内科G先生」と記載していること,⑤亡Dは夫である原告Aらに対し,平成14年4月,5月ころ,被告病院の内科担当医(G医師)から下痢は外科で診療を受けるべき症状であると言われたという趣旨の話をしていたこと(ただし,亡Dの上記発言の内容については,乙A第5号証及び証人Gの証言に照らし,亡Dに思い違い等があり,G医師が述べた言葉を正確に表現したものではないと認められる。原告A,原告B,⑥G医師は,平成14年5月20日の) 診察の際,亡Dから,外科を受診して痔と診断され,症状等が改善されたとの報告を受け,その旨を内科外来診療録に記載していること(乙A1)によっても裏付けられるところである。 イこれに対し,原告らは,G医師がカルテ(内科外来診療録)に記載の( )ない会話内容の詳細を日付ごとに3年以上が経過した時点で覚えていること自体不自然であり,証人G及び同Iの各証言については,いずれの証人も,亡Dの顔や身体的な特徴なども覚えておらず,他の患者との識別ができないのであるから,その信用性を肯定することはできず,他にG医師が亡D他科受診を勧めたことを認めるに足りる証拠はないなどとして,G医師が亡Dに対し他科の受診を勧めたことはないと主張する。 確かに,被告病院の内科外来診療録にはG医師が亡Dに対し他科受診を勧めたとする記載はないこと,亡Dが自ら被告病院の外科担当医に鉄欠乏性貧血であることを告げたことはないこと,G医師は亡Dの貧血について再検査等を行っていないこと,被告病院内科外来では多くの患者を診察していること,G医師とI看護師とはい 被告病院の外科担当医に鉄欠乏性貧血であることを告げたことはないこと,G医師は亡Dの貧血について再検査等を行っていないこと,被告病院内科外来では多くの患者を診察していること,G医師とI看護師とはいずれも,平成17年12月に行われた証人尋問期日には,亡Dの顔やその身体的な特徴等は覚えていなかったことも認められるところである(乙A1ないし3,5,6,証人G,同H,同I。 )ウしかし,G医師は,カルテ(内科外来診療録)をみて,亡Dが同医師( )のお願いしたことを聞いてもらえず,その後具合が悪くなったことを覚えていて,同人に関する診療経過等を思い出したと証言し,I看護師は,亡Dについては,顔や身体的な特徴は覚えていないものの,薬剤師と聞いていたことや,その名前の読み方や住所が近くであったこと,G医師から亡Dがアムロジンの服用によって下痢をしたと述べたとの話を聞いたことがあり,G医師と亡Dとの会話で覚えているところがあると証言しているところ,患者の顔や身体的な特徴を覚えていなくとも,特に印 象に残るエピソードがあった場合などにその患者の診療経過等に関する記憶が残っていることは,あり得ないことではないといえる。 また,被告病院では,亡Dの鉄欠乏性貧血の原因を調べることは,G医師が所属する被告病院の内科・循環器内科ではなく,消化器科等の他科領域の疾患の疑いに関する診療行為となることから,G医師が亡Dの貧血について再検査等を行っていないことをもって,G医師が亡Dの鉄欠乏性貧血を重視していなかったなどとはいえないし,カルテ(内科外来診療録)に,G医師が亡Dに対し他科受診を勧めたことに関する記載がないことのみをもって,G医師が他科受診を勧めたことがないということはできない。 さらに,亡Dは,薬剤師の資格を有しており,高血圧や糖尿病の状態を放 師が亡Dに対し他科受診を勧めたことに関する記載がないことのみをもって,G医師が他科受診を勧めたことがないということはできない。 さらに,亡Dは,薬剤師の資格を有しており,高血圧や糖尿病の状態を放置すれば重大な事態となることがあることについて十分に理解していたにもかかわらず,自己に高血圧症及び糖尿病の疑いがあることを認識しながらも,病院での診療等を受けていなかったことのほか,上記認定にかかる診療経過等,原告A及び原告Bの各供述に照らすと,亡Dは,遅くとも平成14年4月22日にはG医師から下痢は外科で診察を受けるべき症状であると告げられていたことになるが,亡Dは,下痢等の便通異常の状態は持続していたにもかかわらず,その後20日以上が経過する同年5月17日に至るまで他科受診をしなかったこと,平成13年11月以降,平成14年4月に至るまで客観的には貧血が進行し,肝臓や肺の転移巣も増大していることから,動悸,倦怠感等といった自覚症状も悪化しているのが通常であるにもかかわらず,医師に対して動悸や倦怠感が改善していると告げていることからすると,亡Dは,医師に対して自覚症状を正確に伝えていなかった可能性があることなどからすると,亡Dは医師の診療を受けることが嫌いであったか,あるいは診療を受けることについて消極的であったといわざるを得ない。 エこれらのほか,前記アで認定した事実をも併せ考慮すると,前記イの( )( )( )ような事情があることをもって,G医師が亡Dに対し他科診療を勧めたかどうかに関する証人G及び同Iの各証言が信用できないということはできないし,亡Dの病院で診療を受けることに対する消極的な態度などからすると,被告病院の内科担当医であるG医師の診療を継続的に受けながらも,同医師から何度も他科(消化器科,外科等)の受診を勧め とはできないし,亡Dの病院で診療を受けることに対する消極的な態度などからすると,被告病院の内科担当医であるG医師の診療を継続的に受けながらも,同医師から何度も他科(消化器科,外科等)の受診を勧められ,同医師に対しては受診する旨の回答をする一方で,他科を受診することについて消極的になり,あるいは躊躇を覚え,平成14年5月17日まで他科を受診しなかったとしても,あながち不自然・不合理とはいえないから,前記イのような事情があることをもって,G医師が亡Dに( )対し他科受診を勧めたとの前記認定を覆すに足りるものとはいえない。 イ血便が出るとの主訴の有無(②)についてア亡Dが,外科の問診表(乙A2の2枚目)に血便が出るとの記載をし,( )入院時問診表(乙A3の26枚目)に平成14年3月に下血があったとの記載をしたこと,実際に平成14年3月から便に血が混じっていることは当事者間に争いがない。 イそして,G医師は,平成14年3月25日の診察の際,亡Dから便に( )血が混じるとの話があり,この血便の主訴があったからこそ,それまで受診を勧めていた消化器科ではなく,外科の受診を勧めた旨証言してい),るところ(乙A5,証人G,亡Dが平成14年3月以降にG医師から亡Dの一部症状が内科・循環器内科ではなく,外科で診療を受けるべきであると告げられていたこと,G医師は,平成14年5月20日の診察の際,亡Dから,痔で外科受診をして良くなった旨の報告を受け,その旨を内科外来診療録に記載していることは前記のとおり明らかであることからすると,前記認定のとおり,亡Dは,G医師に対し,便に血が混じると訴えたものと認めるのが相当である。 ウなお,確かにカルテ(内科外来診療録)には亡Dから便に血が混じる( )との主訴があったとの記載はない(乙A1)が 亡Dは,G医師に対し,便に血が混じると訴えたものと認めるのが相当である。 ウなお,確かにカルテ(内科外来診療録)には亡Dから便に血が混じる( )との主訴があったとの記載はない(乙A1)が,便に血が混じるとの症状は,本来消化器科又は外科の領域の疾患を疑うべきものであって,G医師の担当領域である内科・循環器内科で診療すべき疾患との関係ではさほどの重要性を有するものではないことからすると,その担当する診療科の疾病等に関する事実がカルテに記載されていない場合とは異なり,カルテにその旨の記載がないことのみをもって,G医師の証言の信用性を否定することは相当でないというべきである。 医学的知見証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の医学的知見が認められる。 大腸癌の症状等( )大腸癌は,その発生部位により,盲腸癌,結腸癌(上行結腸癌,横行結腸癌,下行結腸癌,S状結腸癌,直腸癌に区分される(甲B3。大腸癌の主))な症状としては,腫瘍からの出血による下血,血便,貧血,便柱への血液の付着,癌で腸の内径が狭くなることによって生じる便秘,下痢,便柱の狭小,腹痛などがある(甲B14の2,3,6,8,鑑定人J。 ) 大腸癌の発見方法( )大腸癌は,大腸内視鏡検査や注腸造影検査など,大腸を直接調べる検査により発見することができる。間接的な方法としては,便潜血検査や腫瘍マーカーの測定があり,これらの検査をきっかけとして上記の大腸内視鏡検査等が行われ,大腸癌が発見されることもある。さらに,大腸癌が進行している場合には,腹部超音波検査やCT検査で肝転移が発見され,その原因を探索する過程で大腸癌が発見されることもある(鑑定人K,同L,同J。 ) 大腸癌の治療方法及び予後( )大腸癌の治療は,癌の進展状況により,内視鏡治療,外科手術,抗癌剤療 が発見され,その原因を探索する過程で大腸癌が発見されることもある(鑑定人K,同L,同J。 ) 大腸癌の治療方法及び予後( )大腸癌の治療は,癌の進展状況により,内視鏡治療,外科手術,抗癌剤療法(化学療法)などが選択される。癌の進展状況の判断には,Dukes分 類又はステージ分類が使用される。Dukes分類は,DukesAからDukesDに分類されており,各分類の定義は以下のとおりである(甲B14の2。 )DukesA:癌が大腸壁内にとどまるものDukesB:癌が大腸壁を貫くがリンパ節転移のないものDukesC:リンパ節転移のあるものDukesD:腹膜,肝,肺などへの遠隔転移のあるものステージ分類は,ステージ0からステージ4に分類されており,Dukes分類とわずかに異なるが,ステージ0及びステージ1がDukesAに,ステージ2がDukesBに,ステージ3がDukesCに,ステージ4がDukesDに相当するものとされている(甲B14の2)。 アDukesAないしDukesCの場合の治療方法及び予後DukesAで,癌が粘膜にとどまる場合や粘膜下層への浸潤がわずかな場合には,内視鏡治療が選択されるが,それを除けば,外科手術が選択される。外科手術では,癌が存在する部位の大腸の切除及びリンパ節の郭清が行われ,術後には抗癌剤の投与が一定期間継続されることもある。 国立がんセンターの発表によると,大腸癌は,早期癌であれば,ほとんど治癒し,進行癌であっても,各分類ごとの5年生存率は,DukesAが約95%,DukesBが80%,DukesCが70%とされている(甲B6の2,6の3,14の2,72。 )イDukesDの場合の治療方法及び予後外科的切除(ア)大腸癌の血行性転移には肝転移,肺転移,脳転移,骨転移などがあるが,肝転移 70%とされている(甲B6の2,6の3,14の2,72。 )イDukesDの場合の治療方法及び予後外科的切除(ア)大腸癌の血行性転移には肝転移,肺転移,脳転移,骨転移などがあるが,肝転移や肺転移をしている場合であっても,癌細胞のすべてを切除することが可能であれば根治が望め,肝切除後の5年生存率が20%ないし60%,肺切除後の5年生存率が30%ないし60%と長期生存が 期待できることから,切除可能な症例であれば,外科手術が第1選択である(甲B52,61,65,71,72,鑑定人K。 )肝転移,肺転移の手術適応の原則は,①原発巣が制御されていること②転移巣を遺残なく切除できること③多臓器転移がないか又は制御可能なこと④切除臓器機能が十分に保たれていることとされており(甲B71,特に肝臓は,肝硬変が合併していなければ肝臓の約70%を安全)に切除することが可能とされていることから,理論的には多発性であったとしても手術適応の可能性がある(甲B29,71。もっとも,実)際の肝転移の手術適応の判断は,術前診断での転移個数で決定されることが多く,非常に積極的に切除する医療機関においては,条件次第で,転移巣が20個程度であっても切除手術を行うことがあるものの,多くの医療機関では,数個程度で手術適応がないと判断されるのが通常であった(甲B6の3,33,52,104,鑑定人J。 )熱凝固療法(イ)熱凝固療法は,熱によって癌組織を壊死させる治療法で,マイクロ波凝固療法,ラジオ波焼灼療法がある(甲B72,103。マイクロ波)凝固療法及びラジオ波焼灼療法は,原則として,肝癌及び転移性肝癌に対し,肝切除よりも侵襲の低い治療として肝切除の代わりに行われるものであるが(甲B70,鑑定人J,弁論の全趣旨,肝切除と併用され)ることや肝切除不 オ波焼灼療法は,原則として,肝癌及び転移性肝癌に対し,肝切除よりも侵襲の低い治療として肝切除の代わりに行われるものであるが(甲B70,鑑定人J,弁論の全趣旨,肝切除と併用され)ることや肝切除不能の場合に施行されることもある(甲B34,70,72,103。また,ラジオ波焼灼療法を肺転移の症例に対して応用)して効果をあげたとの報告も存在する(甲B91。 )東京大学消化器内科の発表によると,大腸癌肝転移症例に対しラジオ波焼灼療法を施行した36例(H1〔一葉のみ肝転移を認めるもの〕23例,H2〔両葉に少数散在性に肝転移を認めるもの〕10例,H3〔両葉に多数散在性に肝転移を認めるもの〕3例,病変数は,1個14 例,2個10例,3個2例,4個7例,5個以上3例)において,5年生存率は76%であったとされている(甲B70,弁論の全趣旨。 )化学療法(ウ)癌の切除が不能の場合,主に行われる治療は,生存期間の延長を目的とした化学療法である。もっとも,平成14年当時,日本の大腸癌に対する化学療法は,著明な副作用(骨髄抑制,下痢,食欲不振,脱毛等)の出現の問題,奏功率の悪さ等から標準的治療指針ではなく,患者の全身状態を考慮に入れ,医師の判断と患者の希望,生活環境を加味した上で治療が選択されるという状況であった(鑑定人K,同J。 )平成14年当時,大腸癌化学療法で使用されていた主な抗癌剤は5-フルオロウラシル(以下「5-FU」という)である。5-FUは,。 その効果を増強させるためにロイコボリン(以下「LV」という)と。 共に使用されていた(以下,5-FUとLVの投与を「5-FU+LV」という。5-FU+LVの効果については,奏功率21%,治療。)を開始してからの平均生存期間12.5か月との報告があるが,この報告は欧米のもので,5-F 5-FUとLVの投与を「5-FU+LV」という。5-FU+LVの効果については,奏功率21%,治療。)を開始してからの平均生存期間12.5か月との報告があるが,この報告は欧米のもので,5-FUについては,人種間で投与可能な量に差があるとされ,黄色人種では投与量が低く設定されていたため,日本人に対して投与された場合,報告どおりの延命効果が得られたかどうかは明らかではない(鑑定人K。 )なお,奏功率とは,画像上で腫瘍の大きさが2分の1以下になる確率のことであり,必ずしも生存期間の延長とは相関しない(鑑定人K,同J。抗癌剤が奏功したとしても,その後,小さくなった癌が急速に増)殖したり,抗癌剤の副作用が原因で合併症を起こすなどして,結果として生存期間が短縮してしまうこともあり,また,反対に,抗癌剤が奏功しなくても,癌の増殖が長期間停止し,生存期間の延長が得られることもある(鑑定人K,同J。また,奏功率が悪ければ,生存期間の延長) もあまり期待できないとされている(鑑定人K,弁論の全趣旨。 )平成14年当時,大腸癌に対する抗癌剤としては,5-FUに加えて,塩酸イリノテカン(CPT-11(以下「イリノテカン」という)も)。 ,使用可能であり,5-FUとイリノテカンを併用することにより肝転移肺転移を伴う大腸癌に対し,高い治療効果を得られた旨の報告もあるが,当時,イリノテカンについては,どの程度の効果があるか判明しておらず,十分に普及していない状況であり,5-FU+LVによって効果がなければ,他の抗癌剤治療は行わないのが一般であった(甲B64,。 94,102,鑑定人L,同J,同K) 大腸癌の肝転移のダブリングタイム( )ダブリングタイムとは,細胞1個が2個,すなわち倍になるために必要な期間のことで,腫瘍ダブリングタイム B64,。 94,102,鑑定人L,同J,同K) 大腸癌の肝転移のダブリングタイム( )ダブリングタイムとは,細胞1個が2個,すなわち倍になるために必要な期間のことで,腫瘍ダブリングタイムは,腫瘍マーカーダブリングタイム(血中の腫瘍マーカーの数値が2倍になるのに必要な期間)と,強い相関関係があることが報告されている(乙B6,甲B73。そして,金沢大学が)ん研究所外科教室の報告によると,大腸癌肝転移症例のCEAダブリングタイムは10日から112日の間と広範囲に分布し,その平均は57.8日±35.4日(同教室の別報告では68.2日±33.4日)とされており). (甲B51,乙B9,また,癌の組織型が,高分化型腺癌の場合は,772日±36.3日,低分化型腺癌では19.0±7.8日であり,高分化型腺癌と低分化型腺癌で有意差が認められたとされている(乙B9。 ) 大腸癌の肝転移患者の自然予後( )C.B.Woodらが結腸直腸(大腸)癌が原発の肝転移患者113人を対象に行った自然予後に関する調査によると,肝両葉の広範囲に転移した患者をグループ1,肝の1つの区域または葉に限局した転移巣が幾つかある患者をグループ2,肝に孤立した転移巣がある患者をグループ3と分類した場合の各グループの平均生存期間は,グループ1で3.1月,グループ2で10.6月, グループ3で16.7月であるとされている(甲B42,43)。 その他( )ア鉄欠乏性貧血鉄欠乏性貧血とは,生体内でヘモグロビンの合成に必要な鉄が不足し,ヘモグロビンの合成が十分に行われないために生じる貧血で,日常もっとも多く見られる貧血である。そして,成人女性の約10%は鉄欠乏性貧血であるといわれている(甲B6の4,甲B10。 )鉄欠乏性貧血の原因としては,成長期や妊娠時の れないために生じる貧血で,日常もっとも多く見られる貧血である。そして,成人女性の約10%は鉄欠乏性貧血であるといわれている(甲B6の4,甲B10。 )鉄欠乏性貧血の原因としては,成長期や妊娠時の鉄分の需要増大,栄養の偏りによる鉄分の摂取不足又は出血であり,出血の原因としては,生理による出血,子宮筋腫や子宮内膜症による月経過多,消化管の潰瘍や腫瘍による出血,痔疾の出血などが挙げられる(甲B9の1ないし8,甲B11。 )イ過敏性腸症候群(過敏性腸炎),過敏性腸症候群とは,腹痛を主症状とし,慢性的あるいは反復的に便秘下痢あるいは便秘と下痢交代の便通異常を示す機能的疾患であり,診断を下す際には,器質的疾患(腫瘍,潰瘍,炎症性腸疾患等のレントゲンや内視鏡で見つかる形態的な異常)の除外診断を行う必要があるとされている(甲B82,83,証人H。 )争点1 (外来患者に他科受診が必要となった場合にとるべき措置)について ( )一般に,患者は医学的知識に乏しく,どの診療科を受診すべきか判断する能力を欠くのが通常であるから,医師は,診療に訪れた患者が,医師が通常有すべき医学的知見に照らして他科領域における診察ないし検査が必要な状態にあると認められる場合には,当該患者に対し,他科の受診を勧めるべき義務を負うものというべきである。そして,この義務は,診療契約に基づく付随的な義務として契約上の義務の内容となり,これを怠った場合には債務不履行責任が生じると解するのが相当である。 原告らは,医師が患者に他科領域における診察等を要する疾病等の疑いがあると認めた場合,医師は,他科の受診を勧めるだけでは足りず,他科の医師に患者の状態を説明し,必要とされる診療行為の内容等を告知して,その受入先の承諾を得た上で,適切な治療等を受けるべき時期を失しないよ と認めた場合,医師は,他科の受診を勧めるだけでは足りず,他科の医師に患者の状態を説明し,必要とされる診療行為の内容等を告知して,その受入先の承諾を得た上で,適切な治療等を受けるべき時期を失しないよう,適宜の時期に,患者の転医,転科(兼科)措置をとるべき義務を負うと主張する。 しかし,被告病院のように多数の診療科を有する総合病院に勤務する医師が,外来として担当診療科を受診した患者に他科領域における診察等を要する疾病等の疑いがあると認めた場合,医師は患者に対し,他科領域における疾病等の疑いがあり,他科を受診する必要があることを具体的に示して他科の受診を勧めれば,患者はその勧めに従って他科を受診するものと期待することがあながち不合理であるとはいえず,これによって,適切な診療等を受ける機会を失することは回避することができるし,本件のように,患者が医師の勧めあるいは指示に従わないことがあったとしても,それは,患者自身が他科の受診をしないことを決定したもの(他科受診の機会を放棄したもの)といわざるを得ない。 また,医師が患者に他科の受診を勧める場合に,診療情報提供書(院内診察依頼・報告書等)を作成するなど,患者の状態や診療の経過等を他科の医師に伝えるための措置をとることはもとより望ましいことではあるが,それらの事実等は他科領域における問診等の通常の診療手続によって容易に判明することも少なくないことなどからすると,他科の受診を勧める場合には,患者において診療情報提供書等の作成を依頼したなど,特段の事由があるときを除き,医師に診療情報提供書を作成するべき診療契約上の義務があるとまではいうことができない(なお,前記1で認定した事実によれば,本件において特段の事由があったものとは認められない。さらに,医師が患者に他科の受診を勧める。)場合には,自己の 約上の義務があるとまではいうことができない(なお,前記1で認定した事実によれば,本件において特段の事由があったものとは認められない。さらに,医師が患者に他科の受診を勧める。)場合には,自己の専門領域外の疾病等が疑われるからこそ,他科の受診を勧めるのであるから,他科の診療を勧める医師に,他科領域で必要とされる検査や診療内容等を予め判断し,これを他科の医師に伝えるべき義務があるというこ とができないこともまた明らかである。 したがって,多数の診療科を有する総合病院に勤務する医師は,外来患者に他科領域の疾病等の疑いがあると認めた場合には,患者の状態等に照らし緊急に他科の診療を要することが明らかなときなど,特段の事由があるときを除き,他科の受診を勧めれば足り,それ以上に,患者の転医,転科(兼科)措置を講ずるまでの義務はないものと解するのが相当である(なお,前記1で認定した事実によれば,本件において特段の事由があったものとは認められない。 。) 争点2 (大腸癌を見落とした過失の有無)について( ) 平成13年8月30日ないしその直近日について( )ア9月20日より前の時点について前記11 イ及びウのとおり,平成13年9月20日より前の時点では,( )亡Dが同年8月30日に受けた血液検査の結果は出ておらず,高血圧,甲状腺腫大,収縮期心雑音のほかに,特に問題のある所見は認められず,この高血圧の症状等は直ちに治療を開始するのでなければ生死にかかわる程に緊急性のあるものではなかったから,次回の診察日である9月20日より前の時点において,G医師において,上記血液検査を確認し,同検査の結果によって判明する小球性低色素性貧血について治療を開始すべき義務があるとは認められない。また,G医師に,血液検査の結果を確認する義務がない以上 て,G医師において,上記血液検査を確認し,同検査の結果によって判明する小球性低色素性貧血について治療を開始すべき義務があるとは認められない。また,G医師に,血液検査の結果を確認する義務がない以上,小球性低色素性貧血について他科(消化器科等)の診察を受ける必要があることを理由に,亡Dに対して転科(兼科)を勧めるべき義務があるともいうことができない。 イ9月20日について原告らは,前記11 ウのとおり,G医師は,平成13年9月20日の診( )察時には,亡Dが小球性低色素性貧血であることを認識したのであるから,血液検査や,大腸癌を疑い,便潜血検査や大腸内視鏡検査等を行うべきであると主張する。 しかし,原告ら指摘の検査のうち,血液検査については,フェリチンを除き行われている。原告らは,検査項目としてフェリチンを追加すべきと主張するが,前記11 ウ及びエのとおり,G医師は,平成13年9月20( )日の診察の際に,血液検査の項目にRET,Fe,UIBCを追加しており,同年10月11日の診察の際には,同検査の結果によって,亡Dの貧血は鉄欠乏性貧血であると確定診断できている(鑑定人J)ことからすると,血液検査の項目として不足はなく,血液検査にフェリチンを追加すべき注意義務があったとは認めることができない。 また,その他の検査義務に関する主張については,9月20日の時点では,亡Dの小球性低色素性貧血の原因は判明していないのであって,貧血の原因如何によってなすべき措置は異なることから,まずは貧血の原因を調べるための検査を行い,貧血の原因が判明するのを待つこととしたとしても,これをもって不適切な措置であるとはいえない。 さらに,貧血(小球性低色素性貧血あるいは鉄欠乏性貧血)によって疑われる疾患は,他科(婦人科及び消化器科)において診療すべき疾 を待つこととしたとしても,これをもって不適切な措置であるとはいえない。 さらに,貧血(小球性低色素性貧血あるいは鉄欠乏性貧血)によって疑われる疾患は,他科(婦人科及び消化器科)において診療すべき疾患等であることから,内科・循環器内科の担当医であるG医師において原告らの。 。 指摘する検査(血液検査を除く)を実施すべき義務までは認められないなお,G医師が,亡Dに対し,平成13年9月20日の診察の際,前回の血液検査の結果について説明するとともに,少し貧血があることから,婦人科と消化器科を受診するように勧めたことは,前記認定のとおりである。 平成13年10月( )ア10月2日について前記11 エのとおり,亡Dは,平成13年10月2日は,血液検査等を( )受けるために被告病院に来院したのであり,被告病院の医師の診察を受けていないし,G医師が亡Dに対し,同年9月20日,貧血について被告病 院の消化器科等を受診するよう勧めたことは既に認定したとおりであるから,被告病院の医師に注意義務違反があったとは認められない。 イ10月11日について前記11 エのとおり,平成13年10月11日の診察の際には,亡Dの( )貧血は鉄欠乏性貧血と診断されたのであり,鉄欠乏貧血の原因については消化管及び婦人科領域からの出血が強く疑われ,消化管出血の原因としては腫瘍からの出血が挙げられているところである(前記26 ア。これに( ))よれば,亡Dが鉄欠乏性貧血であることを知った医師は,鉄欠乏性貧血は消化管からの出血等,消化器科又は婦人科における診療を要する疾患等を疑うべきである(ただし,Hbが10.0g/dl程度の貧血が,閉経前の女性にとって珍しいものではなく,貧血の程度としては軽いものであり,鉄欠乏性貧血は成人女性の約10%にみられる貧血であ る疾患等を疑うべきである(ただし,Hbが10.0g/dl程度の貧血が,閉経前の女性にとって珍しいものではなく,貧血の程度としては軽いものであり,鉄欠乏性貧血は成人女性の約10%にみられる貧血であり,Hbが10. 0g/dl程度の貧血は,病的貧血でないことも少なくない。また,平成13年9月20日の血液検査の結果は,同年8月30日の血液検査の結果よりも貧血がわずかに改善していた上,亡Dには,9月20日の診察時と同様に,血便や便通異常等の消化器症状が生じていなかった。 。)本件においても,前記11 エのとおり,G医師は,平成13年10月1( )1日の診察の際,亡Dの貧血の程度は軽度であり,しかも少し改善していることから急いで消化器系の検査等を受けるまでの必要はないものと判断したものの,同人が鉄欠乏性貧血であると診断されたことから,亡Dに対し,婦人科及び消化器科を受診したかどうかを確認するとともに,再度,念のために婦人科及び消化器科の外来を受診するよう勧めたことが認められる。したがって,被告病院の医師に注意義務違反があったとは認められない。 平成13年11月について( )上記認定のとおり,G医師は,亡Dに対し,平成13年9月20日,同年 10月11日の各診察の際,貧血があるので婦人科及び消化器科を受診するように勧めたことは前記認定のとおりである。 また,G医師は,亡Dに対し,平成13年11月1日の診察の際に,その後消化器科外来等を受診したかどうかを確認し,亡Dは受診していないとのことであったことから,受診しない理由を尋ねたこと(これに対し,同人は曖昧な返事をしたのみであったこと)は前記11 オのとおりである。 ( )したがって,被告病院の医師に注意義務違反があったとは認められない。 平成14年2月25日について( )前 対し,同人は曖昧な返事をしたのみであったこと)は前記11 オのとおりである。 ( )したがって,被告病院の医師に注意義務違反があったとは認められない。 平成14年2月25日について( )前記11 カのとおり,亡Dは,G医師に対し,平成14年2月25日の診( )察の際,アムロジンを服用すると下痢をするとG医師に訴えている。鉄欠乏性貧血と下痢(便通異常)は大腸癌の症状としても挙げられているところであるから,担当医としては,更に強く消化管疾患を疑うべきである(ただし,前記のとおり,Hbが10.0g/dl程度の貧血は病的な貧血でないことも少なくなく,下痢自体は誰にでも生じうる一般的な症状であり,その原因は癌による狭窄症状を原因とするものもあるが,細菌性のものや内科的要因によるものなど,その原因は様々であり,亡Dの貧血の症状に下痢が付け加わっただけでは,大腸癌を直接疑うべき症状とまでは言い難い。 。)本件において,G医師は,亡Dから,処方されたアムロジンを服用すると下痢をするとの訴えがあったことから,アムロジンをアテレックに変更して整腸剤を処方し,下痢が消化器系の疾患,場合によれば癌から生じている可能性をも考え,亡Dに消化器科外来等の受診について再度確認したところ,未だ消化器科等を受診していないとのことであったことから,同人に対し,消化器科を受診するように勧め,他の病院で知っているところがあればそこで診察して頂いても結構ですからなどと言ったこと(亡Dはこれを了承したこと)は前記認定のとおりである。 なお,鑑定人Lの鑑定意見では,平成14年3月の時点で貧血についての 血液検査を実施し,貧血の経過を確認すべきであったともされている。しかし,同鑑定人自身が,貧血が進行性のものなのか,もともとの貧血なのかを判断するためには,もう一度く 月の時点で貧血についての 血液検査を実施し,貧血の経過を確認すべきであったともされている。しかし,同鑑定人自身が,貧血が進行性のものなのか,もともとの貧血なのかを判断するためには,もう一度くらい貧血の検査をしておいた方がよかったのではないかという趣旨であると述べていることのほか,亡Dが貧血の症状を訴えてはおらず,亡Dの貧血は,貧血の程度としてそれほど重いのものではなく,2回目(平成13年10月2日)の血液検査のHb値が,初診時(同年8月30日)の血液検査のHb値よりも改善していたこと,内科・循環器内科の医師であるG医師としては,亡Dが同医師の勧めに従って消化器科を受診すれば,貧血の経過等を確認するために血液検査が実施されるものと考えても不合理であるといえないことなどからすると,G医師に,貧血についてこの時点で改めて検査する義務があったとまでは認めることができない。 したがって,被告病院の医師に注意義務違反があったとは認められない。 平成14年3月25日について( )G医師がかねて亡Dに消化器科等を受診するよう勧めていたことは前記認定のとおりであるほか,前記11 キ及び2 イのとおり,G医師は,亡Dに対( )( )し,平成14年3月25日の診察の際,亡Dが便に血が混じると訴えたため,亡Dに対し,これまで勧めていた消化器科ではなく,外科を受診するよう勧めたことが認められるから,被告病院の医師に注意義務違反があったと認めることはできない。 平成14年5月17日について( )ア前記11 クのとおり,亡Dは,平成14年5月17日に被告病院の外科( )を受診し,同日付の問診表に,血便,下痢,便柱の狭小,腹部の張り,体重の減少といった症状に○を付するとともに,H医師に対し,軟便,肛門の腫れ,出血を訴えているのであって,同医 被告病院の外科( )を受診し,同日付の問診表に,血便,下痢,便柱の狭小,腹部の張り,体重の減少といった症状に○を付するとともに,H医師に対し,軟便,肛門の腫れ,出血を訴えているのであって,同医師が亡Dにこれらの症状があることを認識していたことは明らかである。これらの症状は,大腸癌の典型的な症状であるから,外科担当医であるH医師には,亡Dに内痔核の存 在を認めたとしても,直ちに大腸癌を疑い,下部消化管の検査を実施(予)。 定)すべき注意義務があったというべきである(鑑定人K,同L,同Jイ被告は,直腸診,直腸鏡による検査で内痔核を認め,その他に出血や腫瘍の所見はなかったのであるから,亡Dの上記症状は,内痔核によるものと考えて矛盾はなく,痔が落ち着いてから検査をすることとしたH医師の判断に誤りはない旨主張している。 しかし,内痔核では便柱狭小という症状が生じることはなく(鑑定人K,下痢や腹部の張りに関しても内痔核によっては説明できないのであ)るから,亡Dの上記症状が内痔核だけでは説明がつかないことは明らかである。また,H医師は,下痢に関しては,ストレス等の影響よる過敏性腸炎と考えることができる旨述べている(証人H)が,過敏性腸炎の診断にあたっては,器質的疾患の除外診断を行う必要があるとされていることは前記26 イのとおりであるから,器質的疾患の除外診断がなされていない( )本件では,過敏性腸炎であると診断することはできず,H医師が,器質的疾患の除外診断をしないまま,下痢を安易に過敏性腸炎であると考えたことには注意義務違反があるというべきである。 以上のとおり,亡Dの症状を内痔核によるものと考えて矛盾はなく,痔が落ち着いてから検査することとしたH医師の判断に誤りはないとする被告の主張は採用することができない。 ウまた,被告は べきである。 以上のとおり,亡Dの症状を内痔核によるものと考えて矛盾はなく,痔が落ち着いてから検査することとしたH医師の判断に誤りはないとする被告の主張は採用することができない。 ウまた,被告は,外科担当医が亡Dの初診時に大腸内視鏡検査や注腸造影検査を予定したとしても,これらの検査を施行するまでには1か月は必要であり,その治療方針を決定し,入院となるまでには更に1か月を要するのであるから,実際に治療が開始されるのは,5月17日から2か月後の7月17日ころとなり,実際の治療開始時期が早くなるわけではなく,結果回避可能性が否定されるとも主張する。 しかし,被告病院においては,もとより検査の混み具合次第であるが, 通常は,消化器系の検査を予約(オーダー)してから1,2週間以内に検査が行われており(証人G,実際にも,亡Dの大腸内視鏡検査は予約)(オーダー)してから約1週間後に行われたことは前記11 シで認定した( )とおりである。加えて,後記のとおり,平成14年5月下旬ないし6月上旬の時点では,亡Dの大腸癌はかなり進行した状態にあり,肝両葉にわたり多発性の肝転移も存在していた可能性が高いところ,そのような状態の患者の治療方針を決定し,入院となるまでに1か月もの時間がかかるとは認められないところである。したがって,遅くとも,平成14年5月17日から2週間を経過した平成14年6月1日ころには,大腸内視鏡検査等を実施することができ,大腸内視鏡検査等が実施できた時点で,大腸癌の診断が可能であり,緊急入院となったと認められるから,この被告の主張も採用できない。 エ以上のとおり,H医師は,平成14年5月17日の時点で,大腸癌の存在を疑い,直ちに注腸造影検査や大腸内視鏡検査等の下部消化管検査を予約(オーダー)すべき注意義務があったにもかかわら 用できない。 エ以上のとおり,H医師は,平成14年5月17日の時点で,大腸癌の存在を疑い,直ちに注腸造影検査や大腸内視鏡検査等の下部消化管検査を予約(オーダー)すべき注意義務があったにもかかわらず,痔が落ち着くまで経過観察することとして,上記検査の予約(オーダー)を行わなかったのであるから,H医師には,上記注意義務を怠った過失があるというべきである。 争点3 (過失と亡Dの死亡との間の因果関係の有無)について( )被告病院のH医師には,平成14年5月17日の診察時に,亡Dについて,大腸癌の存在を疑い,直ちに注腸造影検査や大腸内視鏡検査等の下部消化管検査を実施(予約)すべき注意義務を怠った過失があることから,この過失と亡Dの死亡との間の因果関係の有無について,以下検討する。 平成14年5月17日当時の亡Dの癌の状態( )ア直腸癌の状態前記11 カ及びクのとおり,亡Dは,平成14年2月には下痢の症状を( ) 訴え(なお,入院時の問診表〔乙A3の26枚目〕には,平成13年11月から軟便となっていた旨の記載がある,平成14年5月には血便,便。)柱の狭小といった症状を訴えており,また,前記11 シのとおり,同年7( )月には,大腸内視鏡検査によって直腸のRS部に全周性の隆起を伴う狭窄病変(直腸癌)が発見されている。そして,下痢や血便,便柱の狭小は,大腸癌の典型的な症状であり,これらのことからすると,平成14年2月及び5月の下痢や血便,便柱の狭小といった症状は直腸癌を原因とするものと考えられ,平成14年5月17日当時には,既に半周性ないし全周性の直腸癌が存在していたものと認められる。 イ肝転移の有無等本件では,大腸癌の肝転移状態を裏付け,又は推測することのできる客),観的な画像診断,腫瘍マーカー(CEA,CA に半周性ないし全周性の直腸癌が存在していたものと認められる。 イ肝転移の有無等本件では,大腸癌の肝転移状態を裏付け,又は推測することのできる客),観的な画像診断,腫瘍マーカー(CEA,CA19-9,血液検査等が亡Dが死亡する約1か月半前の平成14年7月まで行われておらず,また,肝転移出現時期やダブリングタイムは,患者の状態等による影響もあり,極めて個人差が大きいことから,平成14年5月17日当時の肝転移の状況を推測することは困難であるが,同年7月16日のCT(乙A14の1,2,乙A15の1,2)において,広範囲にわたり多発性・びまん性の肝転移が認められていること,前記24 のとおり,大腸癌のダブリングタイ( )ムの平均は約2か月とされていること,亡Dの大腸癌は高分化型腺癌であったが,高分化型腺癌は低分化型腺癌に比して発育速度が遅いとされており,ダブリングタイムが10数日といった極端に進行の早いものとは考え難いことなどからすると,平成14年5月17日の時点で,既に肝の両葉に多発性・びまん性の肝転移が存在した可能性が高い。また,前記25 の( )とおり,肝両葉の広範囲に転移した患者の平均生存期間が3.1月であったとの報告があり,亡Dは平成14年8月20日に死亡していることからしても,平成14年8月20日の約3か月前である5月17日には,肝両 葉に広範囲にわたって転移が存在した可能性が高いといえる。 平成14年5月17日に大腸内視鏡検査等を予定した場合の予後( )ア上記のとおり,平成14年5月17日当時,亡Dには,肝の両葉の広範囲にわたり,多発性・びまん性の転移が存在した可能性が高い。これを前提に亡Dの手術適応があった可能性につき検討するに,前記23 イアのと( )( )おり,多発性の肝転移が生じている場合であ 広範囲にわたり,多発性・びまん性の転移が存在した可能性が高い。これを前提に亡Dの手術適応があった可能性につき検討するに,前記23 イアのと( )( )おり,多発性の肝転移が生じている場合であっても,手術適応があるとされる症例もあり,平成14年5月当時の亡Dの肝臓の状況を正確に把握することはできないことから,手術の可能性を完全に否定することはできないけれども,肝の両葉に広範囲にわたって転移が生じている場合には,肝全体を摘出しなければ手術の目的を達することができないことから,一般的には手術の適応がないとされている。また,肝転移の手術適応は,術前診断での転移巣の個数で決定されることが多いとされているところ,平成14年7月16日のCT像からすると,同年5月17日の時点でも,相当数の転移巣があったと考えられ,鑑定人K及び同Lが,亡Dの肝転移は,多数の微少な転移巣が広範囲に散らばって出現するタイプである可能性が高いとの意見を述べていることも併せ考えると,平成14年5月17日の時点において,既に手術の適応がなかった可能性が極めて高いというべきである。 イそして,手術が不可能と判断された場合,根治は望めず,治療方法としては,生存期間の延長を目的とした化学療法のみとなるものと認められる。 前記23 イウのとおり,平成14年当時,大腸癌に対する化学療法とし( )( )て主に施行されていた5-FU+LVの奏功率は21%と低率であるが,日本人の場合には更に奏功率が悪いと予測されていたことに加え,鑑定人Lの意見では,経験的に5-FU+LVによって,亡Dのようなびまん性・多発性の肝転移等がある患者の予後が有意に変化することは期待できないとされていることからしても,5-FU+LVの化学療法によって亡D の生存期間が延長できた可能性は高いとはいえな うなびまん性・多発性の肝転移等がある患者の予後が有意に変化することは期待できないとされていることからしても,5-FU+LVの化学療法によって亡D の生存期間が延長できた可能性は高いとはいえない。 そもそも,前記23 イウのとおり,平成14年当時は,日本では大腸癌( )( )に対する化学療法は標準的治療方法とはなっておらず,亡Dに対しても,化学療法が施行されていなかった可能性もある上,施行された場合にも,抗癌剤の感受性は個人差が大きいことから,亡Dの場合に5-FU+LVによる化学療法が有効であるかどうかは不明である(鑑定人K,同J。 )また,平成14年6月24日の内科・循環器内科の外来診療録には,亡Dの様子について,顔色は蒼白であり,瞼結膜はひどい貧血である旨の記載があり,同年7月15日には抗癌剤治療に耐えられないような全身状態であったことなどからすると,亡Dの全身状態は,同年6月ころから低下しつつあったことが窺われ,同年6月初めに大腸癌を発見することができたとしても,亡Dの全身状態が化学療法に耐えられない状態となっていた可能性も否定できない。さらに,5-FU+LV療法は,通常,単独で1回だけ5-FU+LVを投与すればすぐに効果が生じるというものではなく,数種類の投与方法が存在し,そのうちの一つが統一的に実施されているわけではないが,例えば,週1回の5-FUの投与を6週間継続することを1クールとして,これを何クールか繰り返すなど,効果が現れるまで時間を要するとされているところである(甲B55ないし57,90,10。 4,弁論の全趣旨。 )こうしたことからすると,平成14年6月初めに亡Dの大腸癌を発見することができ,化学療法が実施されていたとしても,亡Dが平成14年8月20日の時点でなお生存していた高度の蓋然性があるとまでは 。 )こうしたことからすると,平成14年6月初めに亡Dの大腸癌を発見することができ,化学療法が実施されていたとしても,亡Dが平成14年8月20日の時点でなお生存していた高度の蓋然性があるとまでは認めることができない。 ウこれに対し,原告らは,肝転移巣が多発性であっても,転移巣が小さければ,ラジオ波焼灼療法等による治療効果が望め,また,末期となった場合でも,PMC療法に,放射線療法や局所ラジオ波焼灼療法を組み合わせ ることによって,長期生存が可能であったと主張する。 しかし,鑑定人K,同L及び同Jの各鑑定意見では,平成14年5月の亡Dの状態では,施行できる可能性のある治療法は化学療法のみであったとされていることのほか,前記23 イイのとおり,ラジオ波焼灼療法は,( )( )原則として,肝切除よりも侵襲の少ない治療方法として,肝切除の代わりに行われるものであり,原告らが証拠として提出した甲B第70号証でも,ラジオ波焼灼療法を施行した大腸癌肝転移症例36例のうち24例は,病変数が1,2個の症例であり,5個以上の病変数がある症例,H3の症例に対して施行されたのはいずれもわずか3例にすぎず,甲B70号証に記載された5年生存率をもって,亡Dの予後を検討する上で考慮することはできない。ラジオ波焼灼療法は,転移巣が手術では完全に切除できない場合に施行される例もあるものの,そのような症例の場合,ラジオ波焼灼療法を行うことによっていかなる効果が得られるのかは,証拠上明らかではない。よって,ラジオ波焼灼療法を行うことによって,亡Dの生存期間の延長を図ることができたとは認めることができない。 エまた,原告らは,甲B第90号証,第93号証,第94号証等を,PMC療法(5-FU+LVを使用)により長期生存が可能であったことの根拠として提出している ることができたとは認めることができない。 エまた,原告らは,甲B第90号証,第93号証,第94号証等を,PMC療法(5-FU+LVを使用)により長期生存が可能であったことの根拠として提出している。これらの証拠に記載されているPMC療法の治療効果に関する統計はいかなる時期の統計であるのかが明らかではないところ,大腸癌に対する化学療法は,平成14年ころ以降平成18年までの間に大きく変化し,抗癌剤の感受性が高くなるとともに,化学療法による奏功率と予後が飛躍的に良くなったとされていること(鑑定人K,鑑定人J,鑑定人K,同L及び同Jの各鑑定意見によれば,平成14年5月の)亡Dの状態では,施行できる可能性のある治療法は化学療法のみであり,これによる生存期間延長の効果はあまり期待できないとされていることに照らすと,上記各証拠をもって,PMC療法により亡Dの長期生存が可能 であったとは認めることができない。 以上のとおりであり,仮にH医師が平成14年5月17日の時点で大腸癌( )を疑い,直ちに大腸内視鏡等の検査を実施(予定)したとしても,亡Dが死亡した平成14年8月20日の時点においてなお生存していた高度の蓋然性があったと認めることはできず,H医師の前記注意義務違反(過失行為)と亡Dの死亡との間に因果関係があるということはできない。 しかしながら,鑑定人Kの鑑定意見では,本件の場合,平成14年5月の段階で,化学療法(5-FU+LV)を実施することによって,生存期間が延長される効果はせいぜい数か月程度であろうが,20%の確率で生存期間が延長できた可能性があるとされ,鑑定人L及び同Jの各鑑定意見においても,化学療法により亡Dの予後が有意に変化した可能性は高くないとしながらも,亡Dの生存期間が延長できた可能性はあったとされている(さらに,平 可能性があるとされ,鑑定人L及び同Jの各鑑定意見においても,化学療法により亡Dの予後が有意に変化した可能性は高くないとしながらも,亡Dの生存期間が延長できた可能性はあったとされている(さらに,平成14年当時は一般的な治療方法ではなかったとはいえ,5-FU+LVに効果がない場合には,イリノテカンを使用した治療をすることも可能な状況であったと認められる。そして,実際にも,大腸癌の多発性肝転移症例。)に対して,化学療法(5-FU+LV)に著効が認められ,生存期間を延長することができたとの症例が報告されているところである(甲B54ないし57。 )そうすると,H医師が平成14年5月17日の時点で大腸癌を疑い,直ちに大腸内視鏡等の検査を実施(予定)していたならば,亡Dが平成14年8月20日の時点においてなお生存していた相当程度の可能性はあったものと認めるのが相当である。 争点5 (損害額)について( )亡Dは,被告病院において適切な治療行為を受けていたならば,その死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性があったにもかかわらず,被告病院において適切な治療行為が行われなかったことによってこれを侵害され たのであるから,被告には,適切な治療行為により生存する相当程度の可能性を侵害したことに基づいて亡Dが被った損害を賠償すべき責任があるというべきである(最高裁平成12年9月22日第二小法廷判決・民集54巻7号2574頁参照。 )そして,本件事案の内容,被告病院における診療の経過,被告病院の担当医師の注意義務違反(過失)の内容と態様,亡Dがその死亡時においてなお生存していた可能性の程度,仮に生存していた場合に予想される生存期間,生活状況と治療状況,日常生活動作(ADL)の状況等,本件訴訟に顕れた一切の事情を考慮すると,亡Dが 亡Dがその死亡時においてなお生存していた可能性の程度,仮に生存していた場合に予想される生存期間,生活状況と治療状況,日常生活動作(ADL)の状況等,本件訴訟に顕れた一切の事情を考慮すると,亡Dがその死亡時点でなお生存していた相当程度の可能性を侵害されたことにより被った損害(精神的苦痛)に対する慰謝料は150万円が相当である。そして,亡Dの死亡により,原告Aは2分の1である75万円,原告B及び原告Cはそれぞれ37万5000円ずつの損害賠償請求権を相続した。 弁護士費用相当分の損害については,本件事案の性質・内容,訴訟の経過,認容額等に照らし,原告Aについて8万円,原告B及び原告Cについてそれぞれ4万円と認めるが相当である。 なお,原告らは,治療費,入院雑費,逸失利益等の損害賠償をも請求しているが,化学療法の効果があったとしても,亡Dが退院できた可能性は非常に低く(むしろ入院期間は長引いた可能性が高い,就業できた可能性はほとんど。)なく,逸失利益はないというべきであるし,治療費,入院雑費は,被告病院の担当医による注意義務違反の有無にかかわらず生じたものであるから,亡Dがその死亡時においてなお生存していた可能性を侵害されたことによって生じた損害とは認めることができない。 また,原告らは,亡Dが死亡した日の翌日からの遅延損害金を請求しているが,本件診療契約の債務不履行に基づく損害賠償債務が遅滞に陥る時期は履行請求(催告)をした日の翌日であり(民法412条3項,本件記録上,原告) らが被告に対し損害賠償を求めたのは訴状送達の日である平成15年11月20日と認められる。したがって,原告らが被告に対し,亡Dが死亡した日の翌日である平成14年8月21日からの遅延損害金の支払を求めることはできないことは明らかである。 結論 以上のとおり 11月20日と認められる。したがって,原告らが被告に対し,亡Dが死亡した日の翌日である平成14年8月21日からの遅延損害金の支払を求めることはできないことは明らかである。 結論 以上のとおりであり,原告らの本件診療契約の債務不履行に基づく損害賠償請求は,原告Aが83万円及びこれに対する平成15年11月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を,原告B及び原告Cがそれぞれ41万5000円及びこれに対する平成15年11月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があり,その余は理由がないというべきであるから,原告らの請求の一部を認容することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条,64条,65条を,仮執行及び仮執行免脱の各宣言について同法259条1項,3項を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官村田渉裁判官金光秀明 裁判官小野本敦 (別紙)主張要約書第1総合病院における診療態勢[注意義務の発生原因](原告らの主張) 診療契約における主体本件診療契約の主体は,亡Dと被告である。 被告病院は,地域がん診療拠点病院に指定されており,内科・循環器内科の他,外科,女性診療科を併設し,同一病院内でのがん治療が可能な病院である。 他科領域に関する検査が必要となった場合にとるべき措置 他科受診を促すこと( )一般に,医師は,自分の専門外の医療分野における診療を要すると判断したとき,又は同一の医療分野内であってもより高度の医療水準を有する医師若しくは医療機関に患者の診療等を求めるべきであると判断したときには,当該医師又は医療機関に患者を転医(転科)させるか,その旨の勧告をすべき義務がある。この転医(転科)義務 度の医療水準を有する医師若しくは医療機関に患者の診療等を求めるべきであると判断したときには,当該医師又は医療機関に患者を転医(転科)させるか,その旨の勧告をすべき義務がある。この転医(転科)義務は,診療契約上の義務の一内容をなすものである。 したがって,上記義務を怠り,患者に悪しき結果をもたらすようなことがあれば,注意義務違反,すなわち,過失があると評価されることはこれを免れない。 したがって,本件の場合においては,仮に被告病院の内科担当医に後記の検査等を実施し亡Dの大腸癌を発見すべき義務がないとしても,被告病院の内科担当医は,亡Dに対し他科受診を強く促すべき義務があったにもかかわらず,これを行わなかったのであり,これは過失と評価されるべきである。 1 以外に自らなすべき措置の有無( )( )医師は,危険防止のため経験上必要とされる最善の注意義務を負っているのであるから,転医(転科)の際には,転医(転科)先に対し,患者の状態を説明し,その求める診療行為の内容等を告知して,その受入先の承諾を得た上で,適切な治療等を受ける時機を失しないよう適宜の時機,方法により患者を転医(転科)させるべき義務を負っていることは当然のことである。 しかし,本件ではこのような事実は一切なく,被告は上記転医(転科)義務を怠っているといわざるを得ない。 まして,被告病院は地域がん診療拠点病院に指定されており,同一病院内の他科への転科は容易に行ない得たはずである。にもかかわらず,上記のような適切な措置をとらず,亡Dが死亡したことについては過失があるといわざるを得ない。 仮に,各時期に被告の担当医が転医(転科)義務を果たしていれば,適切な検査が行なわれ,癌を発見できたのである。そして,適切な治療を受けることにより,亡Dは死亡することはなかったのである。 を得ない。 仮に,各時期に被告の担当医が転医(転科)義務を果たしていれば,適切な検査が行なわれ,癌を発見できたのである。そして,適切な治療を受けることにより,亡Dは死亡することはなかったのである。 (被告の主張) 治療主体について本件診療契約における主体そのものは,原告ら指摘のとおりであるが,被告病院が地域がん診療拠点病院に指定されたのは,平成15年1月のことであり,本件当時はまだ指定されていなかった。 他科領域に関する「診療」が必要となった場合にとるべき処置 外来患者に他科領域に関する診療が必要となった場合に,内科担当医がと( )るべき処置は,他科受診を促すことである。 すなわち,内科疾患の診療を継続する必要があるのだから,このような場合に原告らが主張するような「転科」をさせるべきではないし,外来患者について,当該患者が他科を受診しないのに,医療施設が一方的に「兼科」さ せることもできない。まして,本件において「転医(=医療施設自体の変」更)の必要はない。 したがって,上記のような場合に,内科担当医がとるべき措置は,当該患者に他科受診を促すこと以外にはないのである。なお,担当医が当該患者に他科受診を促す際に,担当医において他科の医師に対し,当該患者の状態を説明し,求める診療行為の内容等を告知すべき義務はない。 本件においても,被告病院の内科担当医は,亡Dに対し,時には語調を強くするなどして,再三にわたり,他科(消化器科あるいは外科)受診を勧めているのである。 患者が他科受診を行った場合,当該他科の医師は,当該領域における専門( )家の立場から,必要な診療を行った上で,検査の要否も含めて改めて検討を行うものである。 すなわち,内科担当医は内科領域以外における「検査」の必要も考えて,他科受診を促すことはあるかもしれ 門( )家の立場から,必要な診療を行った上で,検査の要否も含めて改めて検討を行うものである。 すなわち,内科担当医は内科領域以外における「検査」の必要も考えて,他科受診を促すことはあるかもしれないが,実際に「検査」を行うかを決めるのは当該他科の医師である。 したがって,内科担当医のみが診療している時点において,内科領域以外の「検査」が必要となった場合という問題の立て方をすること自体が誤りである。この時点では,当該「検査」が必要かどうか決まっていないのである。 入院患者であれば収容能力などの問題があることから,症状の説明等を行( )った上で,受入先の承諾を得る必要がある。 しかし,外来患者の場合には,当該他科の医師は,当該患者が受診さえすれば,当然に医師法19条1項に基づく診療義務を負うのであるから,当該他科の医師の承諾を得る必要はない。実際,通常はそのような承諾を得るようなことはされていない。 第2亡Dの大腸癌を発見すべきであったのにこれを看過した過失の有無[注意 義務の存在と過失行為] 平成13年8月30日(内科初診日)ないしその直近日の時点での過失(原告らの主張) 初診時の検査で判明した事実( )小球性低色素性貧血 必要とされる検査等( )十分な問診,腹部の診察,血液検査(網状赤血球,Fe,フェリチン,総鉄結合能含む,便潜血検査,上下内視鏡又は造影検査及び生検,性器不正)出血の確認(細胞診・組織診) 被告病院における実際の処置( )無処置(他科受診の勧めもない)。 上記2 の検査を実施すれば大腸癌が発見できたこと( )( )この時点では,直腸癌はできていたはずであるから,消化管内視鏡又は造影検査をしさえすれば確認可能であった。そして,癌が発見できれば,それに付随する関連検査項目につい が発見できたこと( )( )この時点では,直腸癌はできていたはずであるから,消化管内視鏡又は造影検査をしさえすれば確認可能であった。そして,癌が発見できれば,それに付随する関連検査項目については原告らが主張する必要検査項目は当然に検査されることとなる。 被告病院の内科担当医の過失( )被告病院の内科担当医には,亡Dに対し上記⑵の検査を実施すべき義務があるにもかかわらず,これを実施しなかった過失があり,仮にそうでないとしても,亡Dに対し転医(転科)措置をとるべき義務があるにもかかわらず,これを行わなかった過失がある。 (被告の主張) 8月30日について( )ア診療内容について血圧200/90,収縮期心雑音,甲状腺腫大を認める(貧血・黄疸などの所見はなし。なお,検査としては,胸部レントゲン検査・心電図検) 査・採血・採尿を実施し,心エコー検査は9月3日に行うこととした。 そして,高血圧の経過観察と検査結果の確認のため,亡Dは,次回外来日を予約し,その外来日は9月20日とされた。 イ血液検査結果の確認について外来診療において血液検査結果が出るのは,緊急性がある場合を除き,当該患者の診療が終わってから後のことである(緊急性がある場合には患者を結果が判明するまで,少なくとも帰らせないでおくことになる。そ。)して,その結果を確認する機会は,通常は次回外来の受診時ということになる。 本件においても,亡Dの状態からして緊急性はなく,診療後に結果が判明し,次回外来受診日である9月20日にその結果を確認している。 したがって,初診日である8月30日の採血による血液検査結果を踏まえて,同日における追加検査義務を論じること自体,失当である。 なお「その直近日」とは8月30日の翌日である8月31日を指して,いるのか,次回外来受 日である8月30日の採血による血液検査結果を踏まえて,同日における追加検査義務を論じること自体,失当である。 なお「その直近日」とは8月30日の翌日である8月31日を指して,いるのか,次回外来受診日を指しているのか,要領を得ないが,仮に,前者であるとすれば,同様の批判が当てはまることになる。 9月20日について( )ア診療内容について血液検査結果を確認したところ,小球性低色素性貧血であることなどが認められたほか,尿検査で尿糖が認められ,心エコー検査で軽度左心室肥大が認められた。そのため,まず,尿糖などについては,高血圧とともに内科担当医にて診察していくこととし,24時間血圧計や糖負荷試験を行うこととした。 また,軽度貧血については,この程度のものであれば,亡Dのような年齢の女性では不適切な食事や月経などの婦人科系の問題から日常診療ではよく見られるものである。 もっとも,胃や腸などの消化器疾患を原因として貧血を来すこともあるが,消化器系の検査の実施やその要否に関する判断は内科外来ではできないものである。 そこで,内科担当医は亡Dに対し,少し貧血がある,その原因としては,婦人科系の疾患や症状はないものの,胃や腸などに問題があるためかもしれない,内科外来や婦人科外来では消化器系の検査は行えないので,念のためその検査を行っている消化器科の外来を受診するように勧め,これに対し,亡Dは分かりました,と返事をした。 なお,内科担当医は,次回(10月2日)の血液検査の項目として,RET(網状赤血球,Fe(血清鉄,UIBC(不飽和鉄結合能=総鉄結))合能と血漿鉄との差)などを追加した。 イ原告ら指摘の検査についてア血液検査については,8月30日採血の血液検査結果を踏まえて,次( )回の検査にRET,Fe,UIBCが追加された 結))合能と血漿鉄との差)などを追加した。 イ原告ら指摘の検査についてア血液検査については,8月30日採血の血液検査結果を踏まえて,次( )回の検査にRET,Fe,UIBCが追加された。これらによって貧血の種類は特定し得るのであり,これらに加えて,原告ら指摘の項目まで追加すべきであるとはいえない。 実際,原告らも認めるとおり,Fe減少,UIBC上昇から,貧血の種類は鉄欠乏性貧血であるとの特定がなされており,血液検査項目として不十分なところはなかったものである。 イ前記のとおり,消化器系の検査については内科外来においてできない( )ものであり,内科担当医において,これを実施すべき注意義務はない。 内科担当医としては,他科(この時点では消化器科)受診を勧めれば足りるものというべきである。 そして,患者が他科を受診しさえすれば,当該他科にて消化器系の検査を行うかどうかを判断するのである。消化器を中心とした問診(月経を含め,通常の問診は内科外来にて行われている)や腹部の診察など。 も予断のないところで,他科にて検討すべき事柄である。 ウなお,本件の場合には,仮に,患者が他科(消化器科)を受診したと( )しても,消化器系の検査は行われなかったものと考えられる。 すなわち,まず,この時点で,消化器を中心とした問診や腹部の診察で有意な情報が得られたとはいい難い。 また,何より,軽度の小球性低色素性貧血であったものの,亡Dの症状は先に述べたものにとどまり,病的な原因があって貧血が生じていることを疑わせる症状はないものであり,このような貧血は,非特異的で日常診療の中で亡Dの年齢の女性に多く見られ,不適切な食事,月経等婦人科領域におけるものなどの原因によることが多い。 そのため,この時点では,他科(消化器科)にても,消化器の検査は行 は,非特異的で日常診療の中で亡Dの年齢の女性に多く見られ,不適切な食事,月経等婦人科領域におけるものなどの原因によることが多い。 そのため,この時点では,他科(消化器科)にても,消化器の検査は行わなかったものというべきである。 したがって,他科受診を勧めたかどうかに関する事実と消化器系の検査が実施されなかったこととの間に因果関係はない。 発見可能性について( )この時点における大腸癌の発見可能性について論じることはできない。 被告病院の内科担当医の過失について( )被告病院の内科担当医に原告らの指摘する検査を実施すべき義務はなく,本件では,内科担当医は亡Dに対し他科(消化器科)受診を勧めているから,被告病院の内科担当医に過失はない。 平成13年10月の時点での過失(原告らの主張) 平成13年10月の時点までに判明していた事実( )鉄欠乏性貧血 必要とされる検査等( )前記1の原告らの主張2 と同様である。 ( ) 鉄欠乏性貧血の治療の原則は,鉄剤投与と原因の治療であるとされており,鉄欠乏性貧血の原因を調べることには重要な意味がある。成人女性の場合,鉄欠乏性貧血の原因として最も多い原因は,消化管出血と月経過多であるが,中高年者の場合には,月経量は減少するのが通常であり,また,最近では大腸癌が増加しているのであるから,患者が本件患者のような中高年の女性で,鉄欠乏性貧血を認めた場合には,消化管及び婦人科領域からの出血(疾患)を疑って,必ず便潜血の検査を行い,必要に応じて注腸や内視鏡による大腸の検査を行うことが必要である。 被告病院における実際の処置( )被告病院の内科担当医は,前記のとおり,鉄欠乏性貧血の原因を究明する必要があるにもかかわらず,原因究明を行っておらず,また,転医(転科)措置も怠った。 ある。 被告病院における実際の処置( )被告病院の内科担当医は,前記のとおり,鉄欠乏性貧血の原因を究明する必要があるにもかかわらず,原因究明を行っておらず,また,転医(転科)措置も怠った。 上記⑵の検査を実施すれば大腸癌が発見できたこと( )発見可能であることは,前記1の原告らの主張4 と同様である。 ( ) 被告病院の内科担当医の過失( )前記1の原告らの主張5 と同様である。 ( ) 消化器科の受診を勧めたとする被告の主張に対する反論( )被告は,被告病院の内科担当医師が消化器科の受診を勧めたと主張しているが,カルテに記載のない会話内容の詳細を日付ごとに1年半を経過した時点で覚えていること自体不自然であり,かつ,証拠もなく全く信用できるものではない。他科受診への勧めについては,全て虚偽である。 (被告の主張) 10月2日について( )この日は検査のみを目的として来院したものであり,内科担当医の外来を受診したものではない。したがって,被告病院の内科担当医に検査義務はない。そこで,10月11日について述べる。 10月11日について( )ア診療内容について血液検査結果を確認したところ,亡Dは重症糖尿病であることが判明した。ヘモグロビンは,10.0g/dl(8月30日の検査値)から10. 7g/dl(10月2日の検査値)に改善していた。被告病院の内科担当医は,オイグルコン(血糖降下剤),ニューロタン(降圧剤),アムロジン(降圧剤)を14日分処方した。 また,内科担当医において,亡Dに消化器外来などを受診したかどうかを確認したところ,他科は受診していないという返事であった。内科担当医は,亡Dの貧血の程度は軽度であり,しかも少し改善していることから急いで消化器系の検査を行う必要はないと診断したものの たかどうかを確認したところ,他科は受診していないという返事であった。内科担当医は,亡Dの貧血の程度は軽度であり,しかも少し改善していることから急いで消化器系の検査を行う必要はないと診断したものの,亡Dに念のために消化器科などを受診するよう,再度勧めた。これに対し,亡Dは分かりましたと返事をした。 イ原告ら指摘の検査について原告らは,この時点においても,血液検査,便潜血検査,上下内視鏡又は造影検査及び生検,性器不正出血の確認(細胞診・組織診)を行うべきと主張するが,前記1の被告の主張2 イア,イと同様の理由で,被告病院( )( )( )の内科担当医において原告ら指摘の検査を行うべき注意義務はない。 なお,鉄欠乏性貧血であることは判明したとはいえ,貧血の程度は軽度で前回の検査よりも改善しており,また,亡Dは消化器症状を特に何も訴えていないことから,仮に他科受診をしたとしても,消化器系の検査は行わなかったものというべきである。したがって,因果関係は否定される。 発見可能性について( )前記1の被告の主張3 と同様である。 ( ) 被告病院の内科担当医の過失について( )前記1の被告の主張4 と同様である。 ( ) 平成13年11月の時点での過失(原告らの主張) 平成13年11月の時点までに判明していた事実( )鉄欠乏性貧血(外科外来問診表によればこの頃軟便があったとの記載がある)。 必要とされる検査等( )前記1の原告らの主張2 と同様である。 ( ) 被告病院における実際の処置( )無処置(他科受診の勧めもない)。 上記⑵の検査を実施すれば大腸癌が発見できたこと( )発見可能であることは,前記1の原告らの主張4 と同様である。 ( ) 被告病院の内科担当医の過失( )前記1 受診の勧めもない)。 上記⑵の検査を実施すれば大腸癌が発見できたこと( )発見可能であることは,前記1の原告らの主張4 と同様である。 ( ) 被告病院の内科担当医の過失( )前記1の原告らの主張5 と同様である。 ( )(被告の主張) 診療内容について( )11月1日には,空腹時血糖検査,HbA1c,尿検査を実施した。薬の処方は前回の10月11日と同じ(30日分)である。11月22日には,空腹時血糖検査を実施した。薬の処方はビタミン剤を追加(30日分)したほかは前回の処方と同じとした。なお,11月1日にも,亡Dに対し,他科受診したかどうかについて確認している。 原告ら指摘の検査について( )前記1の被告の主張2 イア,イと同様,内科担当医が原告ら指摘の検査を( )( )( )行う注意義務はない。 なお,仮に,他科受診をしたとしても,亡Dは消化器症状を特に何も訴えていないから,消化器系の検査は行わなかったものというべきである。したがって,因果関係は否定される。 発見可能性について( )前記1の被告の主張3 と同様である。 ( ) 被告病院の内科担当医の過失について( )前記1の被告の主張4 と同様である。 ( ) 平成14年2月25日での過失(原告らの主張) 平成14年2月25日の時点までに判明していた事実( )鉄欠乏性貧血,持続した便通異常 必要とされる検査等( )十分な問診,上下消化管内視鏡または造影及び生検,大腸超音波内視鏡,胸・腹部レントゲン,腹部エコー,胸・腹・骨盤CT又はPET,MRI,糞便検査,血液・尿一般検査,複数の主要腫瘍マーカー,心電図,呼吸数・体温・体重・脈拍・血圧測定,全身の詳細な診察被告病院の内科担当医は,平成13年10月の時点において,亡D T又はPET,MRI,糞便検査,血液・尿一般検査,複数の主要腫瘍マーカー,心電図,呼吸数・体温・体重・脈拍・血圧測定,全身の詳細な診察被告病院の内科担当医は,平成13年10月の時点において,亡Dが鉄欠乏性貧血であることを認識しており,鉄欠乏性貧血である亡Dが,持続した便通異常を訴えたのであるから,内科担当医は,当然,消化管疾患があることを疑い,上記各検査を実施すべきであった。 被告病院における実際の処置( )被告病院の内科担当医は,投与薬を一部変更したのみで,そのほかには何らの処置もしておらず,転科(他科受診)を勧めることも,転科,転医の措置も行っていない。 被告病院の内科担当医の過失( )被告病院の内科担当医には,亡Dに対し上記2 の検査を実施すべき義務が( )あるにもかかわらず,これを実施しなかった過失があり,仮にそうでないとしても,亡Dに対し転医(転科)措置をとるべき義務があるにもかかわらず,これを行わなかった過失がある。 消化器科の受診を勧めたとする被告の主張に対する反論( )被告は,内科担当医が消化器科の受診を勧めたと主張しているが,カルテに記載のない会話内容の詳細を日付ごとに1年半を経過した時点で覚えていること自体不自然である。また,仮に内科担当医が他科受診を何度も勧めていたとするならば,医師の指示に素直に従っている患者がその指示に従わない状態を持続していることになり,さらに,内科担当医の指示を拒否しながら受診を継続していることにもなり,不自然である。加えて,他科受診を勧めたとする証拠もない。 以上のとおり,被告の主張はまったく信用できるものではなく,すべて虚偽である。 (被告の主張) 診療内容について( )空腹時血糖,HbA1cの検査を実施した。アムロジンを服用すると下痢をするとのこ とおり,被告の主張はまったく信用できるものではなく,すべて虚偽である。 (被告の主張) 診療内容について( )空腹時血糖,HbA1cの検査を実施した。アムロジンを服用すると下痢をするとのことであったことから,被告病院の内科担当医は,アムロジンをアテレックに変更し,整腸剤を追加処方(28日分)した。 アムロジンは前年(平成13年)10月11日から処方しているところ,アムロジンで下痢をすることは一般的でないことから,被告病院の内科担当医は,亡Dの下痢は,消化器系の疾患,場合によっては消化器系の癌による可能性があるもの考え,亡Dに改めて確認したところ,未だ消化器科を受診していないとのことであった。 そこで,内科担当医は,亡Dに対し,貧血もあり下痢の原因が腸などの癌であるといけないので,消化器科を受診するように勧めるとともに,他の病院でも知っているところがあれば,そこで診察して頂いても結構ですからとも言った。このときも,亡Dからは,分かりましたとの返事があった。 原告ら指摘の検査について( )前記1の被告の主張2 イア,イと同様,内科担当医が原告ら指摘の検査を( )( )( ) 行う注意義務はない。亡Dの訴えは,アムロジンを服用すると下痢をするというものであり,大腸癌を積極的に疑わせる症状とまではいえない。したがって,この時点においても,内科担当医としては他科受診を勧めれば足りるというべきであって,内科担当医が原告ら指摘の検査を行う注意義務はない。 また,貧血についての検査も,平成13年10月11日の検査結果でヘモグロビンの数値がやや改善傾向にあったことからすれば,さらに積極的に同検査を行うべき必要はない。 さらに,仮に他科を受診したとしても,整腸剤などを投与して経過を見るという内科の判断を維持することになるものと考えられ やや改善傾向にあったことからすれば,さらに積極的に同検査を行うべき必要はない。 さらに,仮に他科を受診したとしても,整腸剤などを投与して経過を見るという内科の判断を維持することになるものと考えられ,消化器系の検査は行わなかったものというべきであり,因果関係は否定される。 被告病院の内科担当医の過失について( )被告病院の内科担当医に原告らの指摘する検査を実施すべき義務はなく,本件では,内科担当医は亡Dに対し他科(消化器科)受診を勧めているから,被告病院の内科担当医に過失はない。 平成14年3月25日の時点での過失(原告らの主張) 平成14年3月25日の時点までに判明していた事実( )鉄欠乏性貧血,持続した便通異常(外科入院時問診表によればこの頃下血があったとの記載がある)。 必要とされる検査等( )前記4の原告らの主張2 と同様である。 ( )既に,平成14年2月25日から1か月も便通異常が続いているのであるから,前回受診日より下部消化管の精密検査の必要性は増しているといえ,被告病院の内科担当医には,消化管疾患を疑って,すぐに下部消化管の精密検査を施行する義務があった。 被告病院における実際の処置( ) 無処置(他科受診の勧めもない)。 被告病院の内科担当医の過失( )前記4の原告らの主張4 と同様である。 ( ) 外科の受診を勧めたとする被告の主張に対する反論( )被告は,亡Dから便に血が混じるとの訴えがあったと主張するが,カルテに記載のない会話内容の詳細を日付ごとに1年半を経過した時点で覚えていること自体不自然であり,また,内科のカルテには「便に血が混じる」との記載は無く,内科担当医は血便を知らないはずである。被告の主張は,本件訴訟提起後に外科カルテを参照した上でのものであり,この ていること自体不自然であり,また,内科のカルテには「便に血が混じる」との記載は無く,内科担当医は血便を知らないはずである。被告の主張は,本件訴訟提起後に外科カルテを参照した上でのものであり,このような主張は信用できない。 被告のその余の主張に対する原告らの反論( )被告は「便に血が混じるなどの訴えがあることから,直腸診,直腸鏡の,検査,さらには,便潜血検査も行うことにもなる。しかし,原告ら指摘の検査まで行う注意義務はない。」と主張する。 しかし,鉄欠乏性貧血が診られる中高年患者が持続した便通異常及び血便を訴えているにもかかわらず,直腸鏡・直腸診,便潜血検査のみしか検査せず,全大腸検査を施行しないことに医学上の合理的理由はない。被告病院は「大学病院」であり,かつ,「地域がん診療拠点病院」の指定を受けているにもかかわらず,その治療内容は極めて杜撰であるとしかいいようがない。 (被告の主張) 診療内容について( )空腹時血糖検査,HbA1c,尿検査を実施した。薬の処方は,前回(平成14年2月25日)と同じ(28日分)である。 亡Dは,被告病院の内科担当医に対し,アムロジンからアテレックに薬を変更した後,全身状態が改善し,倦怠感も消失したが,便に血が混じると述べ,併せて,未だ消化器科を受診していないし,他の医療施設にも行ってい ないと述べた。 そこで,内科担当医は,亡Dに対し,便に血が混じるのであれば消化器科ではなく外科の診察を受けるべきであるので,すぐに外科を受診するよう勧めたのである。 原告ら指摘の検査について( )前記1の被告の主張2 イア,イと同様,被告病院の内科担当医が原告ら指( )( )( )摘の検査を行う注意義務はない。また,この当時,亡Dの訴えによれば,前回の薬の変更によって全身状態が改善し,倦 1の被告の主張2 イア,イと同様,被告病院の内科担当医が原告ら指( )( )( )摘の検査を行う注意義務はない。また,この当時,亡Dの訴えによれば,前回の薬の変更によって全身状態が改善し,倦怠感が消失したとのことであった。したがって,内科担当医に,亡Dに対し外科を受診するように勧める以外に原告らの指摘するような他の検査を行うべき義務はない。 原告らは,カルテに記載がないことを根拠に,この日に,亡Dの便に血が混じるとの訴えを受けて,内科担当医が外科受診を強く勧めたこと自体を否定する。しかし,この日に便に血が混じるとの訴え自体がなかったのであれば,大腸内視鏡検査等を行うべきかどうかを論じる必要性すらないことになるのである。 平成14年5月17日(外科初診日)の時点での過失(原告らの主張) 平成14年5月17日の時点までに判明していた事実( )鉄欠乏性貧血,持続した便通異常,頻脈,両下肢浮腫,体重減少,外科初診時に訴えた症状(長期間の下痢,血便,便柱の狭小,肛門部症状,お腹が張る,体重減少など) 必要とされる検査等( )前記4原告らの主張2 と同じ( )上記1 のとおり,亡Dは,長期間の下痢,血便,便柱の狭小,肛門部症状,( )お腹が張る,体重減少などを訴えており,これらの症状は大腸癌特有の症状である。これだけの症状が出揃っているのであるから,直ちに精密検査を実 施すべきである。 被告病院における実際の処置( )直腸診,直腸鏡を行ったのみ 被告病院の担当医の過失( )( )被告病院の担当医(内科担当医,外科担当医)には,亡Dに対し上記2(前記4原告らの主張2 )の検査を実施すべき義務があるにもかわらず,こ( )れを実施しなかった過失がある。 (被告の主張) 診療内容について( )亡Dは 外科担当医)には,亡Dに対し上記2(前記4原告らの主張2 )の検査を実施すべき義務があるにもかわらず,こ( )れを実施しなかった過失がある。 (被告の主張) 診療内容について( )亡Dは,平成13年12月から肛門の出血と腫れが出現し違和感もあり,アムロジンによると思われる下痢もあると訴えた。そこで,被告病院の外科担当医は,亡Dに対し直腸診と直腸鏡を実施し,内痔核を認めたが,その他に出血や腫瘍の所見はなかった。 亡Dの訴えの内容(症状等)は,痔によるものと考えて矛盾はないことから,その治療を行いつつ,経過を見ることとされた。もっとも,大腸癌なども可能性として否定できないことから,外科担当医は,経過をみて落ち着いたところで,その診断のための便潜血反応検査,注腸造影検査を行うこととし,そのことを亡Dに説明した。 原告ら指摘の検査について( )亡Dの訴えは痔によるものと考えて矛盾はないことから,直ぐに大腸癌を疑って検査を行うことはなく,内痔核が落ち着いたところで便潜血,注腸造影等の検査を順次進めていくこととしたのであって,この点が非難される理由はない。 現実的にも,外科外来初診の時点で,注腸造影や大腸内視鏡検査を行うことは物理的に不可能であり,この点からも初診時に検査を行うべき義務はない。すなわち,仮に消化器系の悪性腫瘍を疑って,大腸内視鏡検査等を予定 したとしても,検査の施行までに1か月は必要であり,そして治療方針を決定し,入院となるまでには更に1か月は必要である。そうすると,実際に治療が開始されるのは,7月17日頃となり,5月17日時点において大腸内視鏡検査等を予定したとしても治療開始時期が早くなるわけではなく,結果回避可能性は明確に否定される。 第3前記過失と亡Dの死亡との間の因果関係の有無[因果関係](原告らの 17日時点において大腸内視鏡検査等を予定したとしても治療開始時期が早くなるわけではなく,結果回避可能性は明確に否定される。 第3前記過失と亡Dの死亡との間の因果関係の有無[因果関係](原告らの主張) 大腸癌についての一般的予後大腸癌の病期分類であるDukes分類ごとの直腸癌の術後5年生存率は以下のとおりである。なお,Dukes分類Aは癌が大腸壁内にとどまるもの,Bはがんが大腸壁を貫くがリンパ節転移のないもの,Cはリンパ節転移のあるもの,Dは腹膜,肝,肺などへの遠隔転移のあるものである。 Dukes分類A完治~95%B85~80%C85~70%D医療機関により70~40%また,女性は男性と比べて予後が明らかに良く,さらに,病理組織像で高分化腺癌は低分化腺癌と比べて予後が良いとされているが,早期の大腸癌は高分化腺癌であることが多い。 以上のとおり,大腸癌の一般的予後は極めて良いとされているのである。 本件における大腸癌の発生時期とその進行状態 発生時期( )本件の直腸癌の発生時期については不明である。しかし,平成13年8月30日の時点においては,通常の大腸癌の進行過程及び大腸癌ダブリングタイムからして,死亡年月日から逆算すれば直腸癌はできており,かつ,発見 可能であった。 進行状態( )平成13年8月30日の時点でできていた直腸癌は徐々に増殖し,平成14年1月ないし2月の便通異常が始まった頃には恐らく直腸(Ra~Rs部)には癌組織が腸管の半周性から全周性に近く増殖していると思われ,そのために便通の形態異常が始まり持続した。そして,平成14年4月ないし5月までに直腸癌領域リンパ節に転移が起こり,そのために両下肢の浮腫が始まり徐々に顕性化した。 外科初診の平成14年5月頃までは体調もまだ良く維持されてい 始まり持続した。そして,平成14年4月ないし5月までに直腸癌領域リンパ節に転移が起こり,そのために両下肢の浮腫が始まり徐々に顕性化した。 外科初診の平成14年5月頃までは体調もまだ良く維持されていたが,その後入院となる同年7月15日までの期間に肝転移を起こし,この肝転移巣が急激に進展・増殖していったと思われる。 その増殖時期は,同年6月から7月にかけてであり,亡Dの全身状態が不良となった時期である。 平成13年8月30日ないしその後の時点において大腸癌が発見された場合の予後 平成13年8月30日,平成13年10月,平成13年11月の時点にお( )いて大腸癌が発見された場合の予後ア速やかに大腸癌が発見され,根治手術が施された場合これらの時期には,亡Dには,大腸癌特有の症状を含め,消化器症状が一切出ておらず,平成13年10月2日の時点で,腫瘍マーカーであるβ-2マイクログロブリンの値が0.98μgと正常であったことからすると,同時期においては,亡Dの癌は早期癌であった可能性が高い。仮に進行癌であったとしても,Dukes分類A~Cとなり,根治手術が行われた場合の救命率は「殆ど完治~70%以上」となる。 従って,亡Dの大腸癌は完治した可能性があるイ直腸癌根治手術の後,平成14年春頃に肝転移が現れた場合 直腸癌の手術後は,定期的に腫瘍マーカー検査等で経過を追うことになるが,好発転移部位である肝臓・肺には,医師も特に気を配るであろうから,転移巣は早期に発見されることになる。この場合の転移巣が孤立性か多発性かは不明であるが,いずれの場合でも転移巣は小さく,多発性でも少数であるから,摘出手術が行われる可能性が高い。そして,広島大外科の発表(甲B29)では,転移性肝癌の肝切除後5年生存率70%と報告されており,亡Dが存命できた可能 でも転移巣は小さく,多発性でも少数であるから,摘出手術が行われる可能性が高い。そして,広島大外科の発表(甲B29)では,転移性肝癌の肝切除後5年生存率70%と報告されており,亡Dが存命できた可能性は高い。 ウ肝切除の後に肺転移が現れた場合肝転移の場合と同様に肺転移も早期に発見されることになる。本件で発見された肺転移巣(初期のもので経1cmないし数mmの大きさでびまん性の転移巣)よりも更に初期の段階で発見された可能性もある。 転移巣が小さいだけに,侵襲の大きい葉切除ではなく,患者の負担の少ない縮小手術が可能であり(甲B87,そして,大腸癌ガイドライン)(甲B65)によれば,1995年~1998年の症例で,肺切除後の5年生存率は30%~60%と記載されており,摘出手術で完治する可能性が大である。 エ上記アないしウの後に再発が起こった場合再発の場合,第1選択は再摘出手術であり,第2選択として化学療法及び放射線療法がある。前者の場合であれば完治する可能性があり,後者の場合であっても,ラジオ波焼却療法やPMC療法(5-FU+LV使用)などにより長期生存が可能になる。転移巣が当初から多発している場合であっても,甲B70号証によれば,ラジオ波焼灼療法を行った患者の5年生存率は76%であり,長期生存が可能とされている。 オ上記アないしエで効果がなく末期癌になった場合癌の切除が不能とされた場合であってもPMC療法などにより長期生存が可能である。 甲B92ないし94号証によれば,切除不能肝転移症例に対し,放射線あるいは局所ラジオ波焼灼療法などを組み合わせたPMC療法を行い,約76%の症例で転移巣縮小がみられ,救命困難なケースでも3年生存率を53%まで改善したとの報告があり,亡Dもこの治療を受けられた可能性があり,末期癌になった場合であっ み合わせたPMC療法を行い,約76%の症例で転移巣縮小がみられ,救命困難なケースでも3年生存率を53%まで改善したとの報告があり,亡Dもこの治療を受けられた可能性があり,末期癌になった場合であっても,相当程度の生存はできたはずである 平成14年2月25日,平成14年3月25日の時点において大腸癌が発( )見された場合の予後便通異常が始まった時期であり,直腸癌は半周性から全周性に近いと考えられる。肝転移巣はまだ初期であるが故に小さく,あるいは少数の転移巣となる。従って,直腸癌摘出及び肝切除が施行される可能性が大であり,その場合の予後は上記1 と同様である。 ( ) 平成14年5月17日の時点において大腸癌が発見された場合の予後( )この時点では,直腸癌は全周性に近く,肝転移巣は末期のCT像の半分以下の大きさであろう。そして,この時点では転移巣は恐らく多発性であろう。 肺転移は確認できるか否かの時期である。この場合であっても,直腸癌摘出手術及び肝切除が行われた場合,完治の可能性がある。予後については,上記1 と同様である。 ( ) 被告の主張に対する原告らの反論( )ア被告は,亡Dに骨転移も存在した旨主張するが,骨転移の確証は得られていない。 イ被告は,「同時性転移とは原発巣が発見された後12ケ月以内に転移が発見されたものとされる。」と主張している。しかし,同時性転移の解釈については通常,癌巣が発見され一連の検査中に,あるいは,手術中に発見されれば同時性とし,それ以降に発見されれば異時性と呼ぶのが一般である。期限12ヶ月以内の転移とは,全く根拠のない主張である。 ウ被告の主張は,大腸癌の一般予後やDukes分類の成績結果を無視した,早期から亡Dの直腸癌を発見できなかったことへの言い逃れである。 (被告の主張) 内の転移とは,全く根拠のない主張である。 ウ被告の主張は,大腸癌の一般予後やDukes分類の成績結果を無視した,早期から亡Dの直腸癌を発見できなかったことへの言い逃れである。 (被告の主張) 大腸癌の一般的予後について本件における具体的な所見,すなわち,亡Dの症状の推移,診断時の癌の部位及び状態,癌の組織所見などから論じれば足りるのであり,大腸癌の一般的な予後を論じる必要はない。 本件における大腸癌の発生時期とその進行状態 発生時期( )本件では,平成13年8月から11月ころについては,大腸癌が発生していたのか,正確なところは明らかではない。本件では,平成14年7月15日に行われた胸腹部レントゲン及び腹部エコーで肝臓・肺に多発性,びまん性の転移が見られ,さらに平成14年7月23日の大腸内視鏡検査で直腸癌が発見されたという結果があるだけで,それ以前の原発癌巣の状態は一切不明である。したがって,平成14年7月の上記結果からいつ直腸癌が発生したのかを逆算するしかないが,それは非常に困難で,正確な発症時期は不明というほかはない。 ただ,平成14年2月25日以降については,消化器症状が認められていることからすると,後方視的に見れば,大腸癌が存在していた可能性が高い。 進行状態( )ア一般的には,原発癌巣が進行するに従って遠隔転移が起こると考えられている。しかし,実際には,原発癌巣自体は進行していなくとも,リンパ節転移あるいは遠隔転移が高度なものとなり,そのため,原発癌巣の症状がないか,あるいは軽度であるにもかかわらず,リンパ転移あるいは遠隔転移が出現することもある。逆に原発癌巣が高度に進行していたとしても転移が軽度あるいは全くみられない場合もしばしばみられる。すなわち, 原発癌巣の進行増大と肝,肺などに遠隔転移 転移あるいは遠隔転移が出現することもある。逆に原発癌巣が高度に進行していたとしても転移が軽度あるいは全くみられない場合もしばしばみられる。すなわち, 原発癌巣の進行増大と肝,肺などに遠隔転移巣が出現する頻度,その増大する発育速度は,症例によって異なり,一定ではない。 本件では,平成13年8月30日の内科初診時から一貫して,原発巣の症状は存在しないか,軽度であって,重篤な下血,通過障害は見られていない。 他方,平成14年7月15日の時点で,肝・肺に多発性,びまん性の転移が認められ,さらには骨転移が認められている。すなわち,この時点で多臓器多発性転移の所見が認められている。 したがって,仮に,平成13年8月から11月までの時点で既に原発癌巣が存在していたとすれば,既に遠隔転移巣が存在していたとしても不思議ではない。平成14年2月25日以降については,後方視的に見れば,遠隔転移が存在していた可能性が高い。 イ日本癌治療学会・癌規約総論のとおり,癌の同時性は1年以内と規定されている。そして,同時性転移は予後不良である。 したがって,平成14年7月15日から遡って1年以内である平成13年8月30日に原発巣が発見されたとしても,本件は同時性多臓器多発性転移に該当し,予後は極めて不良である。 ウ大腸癌の肝転移のリスクファクターは,臨床病理学的には腺癌で結合織性間質に乏しく,占拠部位では左側結腸が有意に高率である。原発癌巣の組織型の多くは高分化型腺癌である。 本件は,これら大腸癌の肝転移のリスクファクターを全て満たすものであり,このことからも,大腸癌が発生した後の早い時期に,肝転移が存在していたものということができる。 平成13年8月30日ないしその後の時点において大腸癌が発見された場合の予後仮に平成13年8月の時点で原発癌巣が存在してい 発生した後の早い時期に,肝転移が存在していたものということができる。 平成13年8月30日ないしその後の時点において大腸癌が発見された場合の予後仮に平成13年8月の時点で原発癌巣が存在していたのであれば,前記のと おり,遠隔転移が存在していたものと考えられる。したがって,亡Dの予後が変わったとはいえない。 また,CEAダブリングタイムからいっても,肝転移していた場合の予後は不良であったといえる。すなわち,本件では,平成14年7月5日にCEA>500ng/mlであることが判明しており,他方,大腸癌のCEAダブリングタイムは平均57.8±35.4日であるとされている。そこで,ダブリングタイムを2か月としてCEA値を遡ると,平成13年9月初めの時点でCEA>15.7ng/mlとなる。そして,一般にCEAの数値と肝転移とはよく相関しているところ,CEA>10ng/mlの場合,肝転移が確認されないものと確認されるものとはそれぞれ半数であり,肝転移が確認される場合には,H2(両葉に少数散在性に転移を認めるもの,H3(両葉に多数散在性)に転移を認めるもの)がほとんどである。本件においては,平成13年9月初めの時点におけるCEA値は少なく見積もっても,10ng/mlを遙かに超えることからすれば,H2,H3であった可能性が高い。そして,H2,H3の場合には,手術適応の可能性はないのであるから,仮に平成13年9月ないし10月ころに大腸癌の診断がついたとしても,化学療法等が施行されるのみである。 しかし,平成14年当時には,大腸癌に対する化学療法としては5-FU+LVがあったが,その抗癌剤の奏功率は文献上でも21%とかなり低かった。 その上,ここでいう奏功率は欧米のものであり,日本人の場合には,奏功率が著しく低率であると推測されていたことに加え は5-FU+LVがあったが,その抗癌剤の奏功率は文献上でも21%とかなり低かった。 その上,ここでいう奏功率は欧米のものであり,日本人の場合には,奏功率が著しく低率であると推測されていたことに加え,本件当時は化学療法を行うには入院が必須で患者が長期間にわたり拘束されることになるので,手術不適例であっても,化学療法を施行しない方が主流であったものである。しかも,上記の奏功率とは癌の容量が小さくなったことが基準であり,これが生命予後に直接作用したとまではいえないのである。 さらに,亡Dの大腸癌の肝転移の特徴は,多発性・びまん性の転移であり, このような特徴を持つ肝転移の場合には,5-FU+LVによる化学療法によって予後が有意に変化したとは考えにくい。 以上のように,本件においては,大腸癌がより早期に発見されていたとしても,その予後は極めて悪いのであって,平成14年8月20日時点で生存していた高度の蓋然性,相当程度の可能性はない。 第4医療水準に適った適切な医療行為を受ける利益の侵害の有無(原告らの主張)仮に,本件において,被告(病院の担当医)の行為と亡Dの死亡という結果との因果関係が明らかにならないとしても,被告病院が地域がん診療病院に指定されており,同一病院内でのがん治療が可能な病院であって,亡Dに対し医療水準にかなった適切な検査,治療等の医療行為を施すことができる設備を有していたこと,亡Dの症状は,医学生が使用する基本的な教科書にも記載されているような大腸癌を疑うべき典型的な症状であったこと,亡Dは被告病院内科に繰り返し通院して診療を受けていたことなどからすれば,亡Dが専門医による医療水準に適った適切な検査,治療等の医療行為を受ける利益を侵害されたことは明らかであり,少なくとも精神的損害に対する賠償は認められるべきである。 ( けていたことなどからすれば,亡Dが専門医による医療水準に適った適切な検査,治療等の医療行為を受ける利益を侵害されたことは明らかであり,少なくとも精神的損害に対する賠償は認められるべきである。 (被告の主張)原告らは,期待利益の侵害ということの内容について「専門医による医療水準に適った適切な検査,治療等の医療行為を受ける利益」としているが,そのような抽象的な単なる期待利益は,法的保護を受けるものではない。このような期待そのものは客観性に乏しく権利性を有するものではないのである。 原告らの主張するような期待そのものを保護しようとすれば,それは過失・注意義務違反そのものにより損害賠償を認めることに等しく,原告らの主張を認めることは,損害賠償請求権の無限の広がりを許すものであり,不法行為に おいて,過失と結果との間に因果関係を要求している民法709条を没却するものである。 以上のように,抽象的な期待利益が侵害されたとの原告らの主張は,法的にも判例上も認められておらず,およそ根拠のない主張であって主張自体失当である。 第5損害額[損害](原告らの主張) 亡Dの損害 治療費64万4142円( ) 入院雑費4万5128円( ) 逸失利益5141万4388円( )亡Dは死亡時満51歳であり,上記年齢に見合う賃金センサスによる年収額677万7000円であることから,生活費控除率を30パーセントとして逸失利益を計算すると,677万7000円×(1-0.3)×就労可能年数16年に見合うライプニッツ係数10.838=5141万4388円となる。 慰謝料2600万円( )亡Dに死亡による慰謝料は2600万円が相当である。 相続( )亡Dの損害額は合計で7810万3658円である。 これを各相続分に応じて,原告A 8円となる。 慰謝料2600万円( )亡Dに死亡による慰謝料は2600万円が相当である。 相続( )亡Dの損害額は合計で7810万3658円である。 これを各相続分に応じて,原告Aが3905万1829円,原告B及び原告Cが各1952万5914円それぞれ相続した。 原告Aの損害 葬儀費用232万5367円( ) 固有の慰謝料500万円( ) 亡Dは,死亡時未だ51歳であり,妻を失い生活の基盤を失った原告Aの精神的損害の慰謝料は500万円が相当である。 ⑶弁護士費用500万円原告らは,原告ら代理人に対し,本件訴訟の提起及び追行を委任するとともに,これに関する弁護士費用として1000万円を支払う旨を約し,その負担額は原告Aが500万円,原告B及び原告Cが各250万円を負担することとされた。 原告B及びCの損害 固有の慰謝料各300万円( )原告B及び原告Cは,亡Dの子であり,母親を失った同原告らの精神的損害の慰謝料は各300万円が相当である。 弁護士費用各250万円( )(被告の主張)争う。

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る