主文 被告人を禁錮1年6月に処する。 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は、令和6年9月18日午後6時42分頃、普通乗用自動車を運転し、神奈川県横須賀市a町b番地先の信号機により交通整理の行われている交差点をc方面からd方面に向かい右折進行するに当たり、同交差点は道路標識により指定方向外進行禁止(右折禁止)と指定されていたのであるから、同交差点を右折進行することは厳に差し控えるべきはもとより、あえて右折進行するのであれば、対向直進してくる車両の有無及び安全を確認して右折進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、同道路標識による規制が及ぶ場所的範囲を誤解し、自車が右折進行できるものと誤信し、かつ、遠方の対向進行車両の前照灯に気を取られて、同車両の前方を先行する対向直進車両はないものと軽信し、対向直進してくる車両の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約20kmで右折進行した過失により、折から対向直進してきたA(当時22歳)運転の普通自動二輪車の前照灯を左方直近に認め、制動措置を講じたが間に合わず、同車及び同人に自車左側部を衝突させて、同自動二輪車もろとも同人を路上に転倒させ、よって、同人に胸部打撲による大動脈損傷の傷害を負わせ、同日午後7時28分頃、同市ef丁目g番地所在のB病院において、同人を前記傷害により死亡させた。 【量刑の理由】 1 主たる量刑因子である結果と過失を検討する。 ⑴ 結果は被害者の死亡という重大なものである。被害者は、日頃と同様の出勤途上に、予期せぬ事故に遭遇したのであって、驚愕と恐怖が多大であったであろうことはいうまでもない。若くして前途を断たれ、家族と友人を残してこの世を去る無念は察するに余りある。被害者の父 と同様の出勤途上に、予期せぬ事故に遭遇したのであって、驚愕と恐怖が多大であったであろうことはいうまでもない。若くして前途を断たれ、家族と友人を残してこの世を去る無念は察するに余りある。被害者の父親は、遺体安置室ではなく病院に駆けつけたか った、家族で声を掛けたかった、息子は長い人生の四分の一ほどしか生きられなかった、息子の将来には辛い経験も困難もあったと思う、それを乗り越えて年を重ねながらの人生を送れたはずなのに、息子の代わりに私が死ねばよかったのにと考えてしまうなどと述べる。被害者の母親は、命を奪われ、自分の思いを語る機会さえ奪われた息子の無念と、遺族がこれからもどれだけの悲しみを背負って生きていかねばならないのかを訴えたいなどと述べる。被害者の父母が、それぞれ被告人の厳しい処罰を希望するのは、当然である。 ⑵ その原因となった被告人の過失を検討する。その前提として、現場付近の道路状況を整理する。衝突地点は、交通量の多い大規模な変形交差点内にある。被告人の視点に立つと、衝突地点手前は緩やかな右カーブになっている。その途中で左側に分岐する道路がある。その分岐点付近に、青い円盤に白色で二股に分かれた上向きの矢印が描かれた道路標識がある。その分岐点付近を起点に、約15m程度を道路沿いに走行した先に衝突地点があり、そこから右側に分岐する道路がある。 その上で、被告人の運転状況を検討する。被告人は、上記道路標識を見て、進路を示すとともに、右折を禁止するものとは理解した。しかしながら、そこからさほど離れていない、しかも交差点内にある衝突地点付近には規制が及んでいないと考え、さらに、上記右側に分岐する道路の入り口にある一方通行の標識も右折を許可するものと誤解して右折を開始した。被告人は、道路標識に注意を向けてはいるが、意味を正しく 点付近には規制が及んでいないと考え、さらに、上記右側に分岐する道路の入り口にある一方通行の標識も右折を許可するものと誤解して右折を開始した。被告人は、道路標識に注意を向けてはいるが、意味を正しく理解していない。その結果、交通量の多い交差点で禁じられた右折をするという、危険に危険を重ねる状況を生じさせている。 また、被告人は右折前に、遠方の対向車の前照灯は確認した。しかしながら、このような状況では、光線が交錯し、手前にいる二輪車等の見落としが生じやすいことは、車両の運転者であれば当然に知っておくべき事柄である。被告人は、それにもかかわらず、より慎重な確認をせず、被害者が運転する自動二輪車を見落とし、その接近に気づいた際には、適切な回避行動はとれない状態であった。このように、道路状況に応じた必要な注意を払うこともできていない。 以上に照らせば、被告人の過失は危険で大きなものといわねばならない。 他方、被害者の運転状況は、他車のドライブレコーダー映像及び防犯カメラ映像等の客観的証拠によれば、以下のとおり認定できる。被害者が運転する自動二輪車は、第二通行帯を走行し、衝突地点の相当手前で並走車を追い抜くと、車間距離が開いていき、また、衝突直前の速度は時速約58kmであった。周囲の交通の流れを上回り、かつ、現場道路の指定最高速度も超える速度で走行していたといえる。 しかしながら、既にみた被告人の過失の内容及び程度と対比すれば、被害者の運転状況が、被告人の責任を大きく減少させる事情とはいえない。 2 さらに、その他の量刑因子を検討する。被告人が運転していた乗用車には任意保険が付されているものの、対人賠償の上限額は3000万円である。法律上加入が義務付けられている保険と併せても、死亡事故の場合などには不足が懸念される。 そのよう 。被告人が運転していた乗用車には任意保険が付されているものの、対人賠償の上限額は3000万円である。法律上加入が義務付けられている保険と併せても、死亡事故の場合などには不足が懸念される。 そのような場合でも、本件では、最終的には、相当と認められる補填を公金から行う制度が存することは弁護人が主張するとおりである。しかしながら、被告人は、自動車を運転するのであれば、交通事故を起こしても自己の責任において十分な賠償ができるよう、任意保険の加入状況にも配慮することが期待される立場にあった。 この点は、被告人が上記乗用車の事実上の共有者というべき立場にあったことにも照らせば一層明確である。被告人は、自動車の運転に伴う責任の理解が十分ではなかったといわざるを得ない。 その他、被告人が事実関係と自己の過失を素直に認め、被害者とその家族に真摯に謝罪していること、交通違反歴を含む前科前歴がないことなどの事情も存する。 3 以上を踏まえ、主たる量刑因子である結果と過失の内容と程度を中心に、同種事案との刑の均衡を考慮した上で、その他の量刑因子もみて、刑を量定した。 令和7年5月27日横浜地方裁判所横須賀支部裁判官片多康
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