主文 1 原判決中,控訴人ら敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人国(1) 原判決中,控訴人国敗訴部分を取り消す。 (2) 被控訴人の控訴人国に対する請求を棄却する。 (3) 訴訟費用のうち,控訴人国と被控訴人との間に生じた部分は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 2 控訴人東京都(1) 原判決中,控訴人東京都敗訴部分を取り消す。 (2) 被控訴人の控訴人東京都に対する請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 3 被控訴人(1) 本件控訴をいずれも棄却する。 (2) 控訴費用は,控訴人らの負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,被控訴人が,控訴人国に対して納付した所得税のうち56万6900円及び控訴人東京都に対して納付した事業税のうち5万8500円が不当利得であると主張して,納付した日の翌日であると主張する平成11年3月26日から支払済みに至るまで国税通則法58条1項所定の年7.3パーセントの割合による還付加算金を付して返還するよう求めた事案である。 被控訴人は,弁護士であり,その妻P1は税理士であるところ,平成7年から平成9年までの間,同人との間で,顧問税理士契約を締結し税理士報酬等を支払ったため,上記各年分に係る被控訴人の税務申告の際,同報酬を弁護士報酬を得るための必要経費として申告した。これに対し,足立税務署長は,被控訴人が訴外P1に支払った報酬は,所得税法56条の規定する「生計を一にする配偶者」に対して支払ったも 申告の際,同報酬を弁護士報酬を得るための必要経費として申告した。これに対し,足立税務署長は,被控訴人が訴外P1に支払った報酬は,所得税法56条の規定する「生計を一にする配偶者」に対して支払ったものに該当するから,必要経費として認められないこと等を理由として各更正の決定(以下「本件各更正処分」という。)をした。そこで,被控訴人は,これを不服として審査請求をした上,これに対する裁決により一部取り消された後の処分は違憲又は違法であるとして,控訴人国に対し,訴外P1に支払った報酬を被控訴人の必要経費として認められないことにより,被控訴人が負担させられた金額について誤納金として返還するよう請求するとともに,控訴人東京都に対し,同様の理由により,平成7年分から平成9年分の事業所得に係る個人事業税賦課決定処分により被控訴人が負担させられた税額の一部について,誤納金として返還するよう請求しているものである。 2 原判決は,被控訴人の請求中,控訴人国に対する請求を38万3000円及びこれに対する還付加算金の限度で,控訴人東京都に対する請求を3万8300円及びこれに対する還付加算金の限度で,それぞれ認容し,その余の請求を棄却した。これに対し,控訴人らが不服を申し立てたものである。 3 所得税法56条及び個人事業税に関する地方税法の規定は,次のとおりである。なお,所得税法56条の改正経緯については,原判決別紙1記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 現行所得税法(以下「法」という。)56条は,「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には,その対価に相当する金額は,その居住者の当該事業に係る不動産所得の の居住者の営む不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には,その対価に相当する金額は,その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額,事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上,必要経費に算入しないものとし,かつ,その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は,その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額,事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上,必要経費に算入する。この場合において,その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は,当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。」と規定している。 (2) 地方税法72条の50第1項本文は,「個人の行う事業に対し事業税を課する場合においては,第4項に規定する場合を除き,道府県知事は,当該個人の当該年度の初日の属する年の前年中の所得税の課税標準である所得のうち第72条の17第1項においてその計算の例によるものとされる所得税法第26条及び第27条に規定する不動産所得及び事業所得について当該個人が税務官署に申告し,若しくは修正申告し,又は税務官署が更正し,若しくは決定した課税標準を基準として,事業税を課するものとする。」と規定している(なお,同法1条3項により,「道府県知事」とあるのは「都知事」と読み替える。)。 4 前提となる事実は,次のとおりである。なお,括弧内に認定証拠を掲げた事実のほかは,当事者間に争いのない事実又は弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実である。 (1) 被控訴人は弁護士であり,被控訴人の妻である訴外P1は税理士であって,それぞれ平成6年4月以降,独立の事務所を開設して業務を行っている。 より容易に認定することができる事実である。 (1) 被控訴人は弁護士であり,被控訴人の妻である訴外P1は税理士であって,それぞれ平成6年4月以降,独立の事務所を開設して業務を行っている。 (2) 被控訴人は,P2弁護士と共にP3法律事務所を経営しているところ,平成6年4月7日,P2弁護士と共に,訴外P1との間で,被控訴人及びP2弁護士の弁護士業務に係る所得税等の税務代理及び税務相談,会計業務についての顧問及び記帳代行を委嘱内容とする顧問契約を締結し(甲1),同契約に基づき,平成7年から平成9年にかけて,訴外P1に対し,同人による税理士業務に対する対価として,以下の顧問税理士報酬及び税務申告手数料(以下「本件税理士報酬等」という。)を支払った。 ア平成7年分 72万1000円イ平成8年分 113万3500円ウ平成9年分 105万9000円(3) 被控訴人は,上記(2)アないしウの本件税理士報酬等を,被控訴人の各年分の所得税の申告の際,弁護士報酬を受けるための必要経費に算入して申告した(以下「本件各申告」という。甲2)。 (4) 足立税務署長は,平成11年2月26日付けで,被控訴人に対し,被控訴人が訴外P1に対して支払った本件税理士報酬等は,法56条に規定する「生計を一にする配偶者」に対して支払われたものであり必要経費に算入することができないとして,平成7年分ないし平成9年分の各申告につき本件各更正処分をするとともに,各過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分と本件各賦課決定処分とを併せて「本件各処分」という。)をした(甲2)。 (5) 被控訴人は,平成11年3月25日,控訴人国に対し,本件各処分により新たに負担させられ といい,本件各更正処分と本件各賦課決定処分とを併せて「本件各処分」という。)をした(甲2)。 (5) 被控訴人は,平成11年3月25日,控訴人国に対し,本件各処分により新たに負担させられた税額(延滞税を含む。)を支払った。 (6) 被控訴人は,平成11年4月8日付けで,国税不服審判所長に対し,本件各処分を不服として審査請求を行った(甲3)ところ,国税不服審判所長は,平成12年5月15日付けで,被控訴人の所得についての必要経費を算定するに当たっては,被控訴人と生計を一にする訴外P1が対価として得た収入のために要した費用の限度で,被控訴人の所得についての必要経費に算入されるべきであるとして,本件各処分のうち,平成7年分及び平成8年分の各処分につきその一部を,平成9年分の各処分につきその全部を取り消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし(甲7),被控訴人は,そのころ通知を受けた。 (7) 控訴人国は,上記裁決に従い,被控訴人に対し,本件各更正処分により新たに納付された額及び過少申告加算税額のうち取り消された部分(延滞税を含む。)を還付した。 (8) 控訴人東京都の足立都税事務所長は,平成11年8月10日,被控訴人に対し,被控訴人に係る平成8年度ないし平成10年度の個人事業税につき,各増額賦課決定処分(以下「本件各事業税増額決定処分」という。)をした(乙5,11,17)。 (9) 被控訴人は,平成11年8月31日,控訴人東京都に対し,本件各事業税増額決定処分に基づき,差引不足額を納付した(乙6,12,18)。 (10) 足立都税事務所長は,平成12年6月28日,被控訴人に対し,平成8年度ないし平成10年度の個人事業税減額賦課決定処分(以下「本件各事業税減額賦課決定処分」という。)を行い,同年8月 (10) 足立都税事務所長は,平成12年6月28日,被控訴人に対し,平成8年度ないし平成10年度の個人事業税減額賦課決定処分(以下「本件各事業税減額賦課決定処分」という。)を行い,同年8月7日,被控訴人に対し,誤納額を還付した(乙7,8,13,14,19,20)。 (11) 被控訴人は,本件裁決があったことを知った日から行政事件訴訟法14条1項及び4項所定の3箇月以内に,足立税務署長がした本件各処分(本件裁決により一部取り消された後のもの。)の取消訴訟を提起せず,また,足立都税事務所長の本件各事業税増額決定処分又は本件各事業税減額賦課決定処分があったことを知った日から同法14条1項所定の3箇月以内にその取消訴訟を提起せず,本件訴訟を平成13年12月28日に提起した。 5 当事者双方の原審における主張は,原判決の事実及び理由の「第2 事案の概要」の「3 争点及び争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。 6 控訴人らの当審における主張は別紙1,被控訴人の当審における主張は別紙2のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,被控訴人の控訴人らに対する請求は,いずれも理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 2 本件各処分及び本件各事業税増額決定処分が当然無効であるとの被控訴人の主張について(1) 被控訴人は,本件各処分及び本件各事業税増額決定処分(以下「本件各処分等」という。)が,取消訴訟により取り消されるまでもなく当然無効であるとの前提に立って,被控訴人の主張する誤納金について法律上の原因を欠くものとして本件不当利得返還請求訴訟を提起しているので,本件各処分等が当然無効となるかについて判断する。 (2) 一般に,課税処分が課税庁と 被控訴人の主張する誤納金について法律上の原因を欠くものとして本件不当利得返還請求訴訟を提起しているので,本件各処分等が当然無効となるかについて判断する。 (2) 一般に,課税処分が課税庁と被課税者との間にのみ存するもので,処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要のないこと等を勘案すれば,当該処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであって,徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお,不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが,著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には,前記の過誤による瑕疵は,当該処分を当然無効ならしめるものと解するのが相当である(最判昭和48年4月26日・民集27巻3号629頁)。 (3) しかしながら,本件において,本件各処分等を当然無効ならしめる前記例外的な事情があるものと解することは困難である。その理由は,以下のとおりである。 ア課税要件の根幹についての内容上の過誤の該当性について前記最判昭和48年4月26日は,当該不動産を所有したことがなく,その真の譲渡人ではない者に,譲渡所得があるものとしてされた課税処分について,課税要件の根幹についての重大な過誤を犯した瑕疵を帯有すると判断したものである。また,最判平成9年11月11日(裁判所時報1207号3頁,判例時報1624号74頁)は,公課禁止規定に違反してされた課税処分について,前記例外的な事情のある場合に該当すると判断したものである。 これらに対し,本件は,被控訴人に事業所得があるものとして所得税及び個人事業税に関する課税処分がされたこと自体には何ら問題がなく,ただ,事業所得の金額が争われているにすぎ である。 これらに対し,本件は,被控訴人に事業所得があるものとして所得税及び個人事業税に関する課税処分がされたこと自体には何ら問題がなく,ただ,事業所得の金額が争われているにすぎない。その理由として,本件税理士報酬等の支払に法56条の規定を適用することの可否が争われているものの,そのゆえをもって,前記課税要件の根幹についての問題があると認めることは,以下の点からしても困難である。 (ア) 本件各処分について足立税務署長による本件各処分は,法56条の適用による支払手数料否認のみを理由とするものではなく,収入金額の計上漏れも理由とされており,さらに,平成8年分の各処分については,外注費追認も理由とされている(甲2)。 このような事業所得の金額の認定に関する不服の主張は,原則どおり,課税処分に対する審査請求及び取消訴訟を通じてされるべきものである。現に,被控訴人も本件各処分に対する審査請求によって,その全部又は一部を取り消すとの本件裁決を受けているところである。 (イ) 本件各事業税増額決定処分について足立都税事務所長の本件各事業税増額決定処分は,前記地方税法72条の50第1項本文及び東京都都税条例(乙1)25条以下の規定に基づき,被控訴人の事業所得について足立税務署長がした本件各更正処分による課税標準を基準として,事業税を課する処分をしたものであり,その点について何ら過誤はない。 イ不服申立期間の徒過についてそして,被控訴人が,本件裁決の通知を受けた後も,行政事件訴訟法が規定する出訴期間内に本件各処分等の取消訴訟を提起しなかったことは,前記前提となる事実のとおりである。被控訴人が,弁護士であり,審査請求を行っているこ ,本件裁決の通知を受けた後も,行政事件訴訟法が規定する出訴期間内に本件各処分等の取消訴訟を提起しなかったことは,前記前提となる事実のとおりである。被控訴人が,弁護士であり,審査請求を行っていることからすれば,被控訴人は,本件各処分の全部又は一部を取り消すとの本件裁決を受けて,いったんは本件各処分等の効力を争うことを断念したものと推認される。 そうすると,本件は,徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお,不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが,著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には該当し得ないというほかない。 (4) なお,一般に,行政処分は,重大かつ明白な違法がある場合には当然無効となるものと解される(最大判昭和31年7月18日・民集10巻7号890頁)が,上記及び後記判示からも明らかなとおり,本件各処分等に重大かつ明白な違法があるとは到底いうことができない。 3 法56条の規定自体又はこれに基づく本件各処分等が違憲であるとの被控訴人の主張について(1) 被控訴人は,法56条の規定自体又はこれに基づく本件各処分等が違憲であるとの主張等もしているので,以下,被控訴人が主張する違憲違法事由が認められるかどうかについて,検討する。 (2) 法56条の規定の解釈適用についてア本件においては,まず,法56条の「事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」との要件の解釈適用が争われているので,以下検討する。 (ア) この点について,被控訴人は,「事業に従事したこと」とは,雇用契約に基づいて労務を提供する場合をいい,「その他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」とは,契約自 る。 (ア) この点について,被控訴人は,「事業に従事したこと」とは,雇用契約に基づいて労務を提供する場合をいい,「その他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」とは,契約自体からは明らかでないものの実態関係からして「従事した」と評価することができる場合をいうから,全体として雇用又はそれに準ずる法律関係による労務の提供に対する対価のみが必要経費性を否認されるのであって,訴外P1のように独立した事業を営む配偶者との間の契約関係に基づく役務の提供に対する対価については,法56条の適用はなく,必要経費として認められるべきであると主張する。 これに対して,控訴人らは,事業者が生計を一にする親族に対して支払った対価に相当する金額は一律に必要経費に算入されない趣旨であると主張する。 (イ) そこで,まず,法56条の立法経緯及び立法趣旨について,以下検討する(甲9ないし13,丙1,丙2の1ないし6,丙3,丙5ないし8及び弁論の全趣旨)。 a 我が国では,近代所得税制の創設以来,世帯単位課税制度(同居する家族の所得をすべて合算し,これに累進税率を適用する課税方法)が採用されており,同制度は,戦後「家」制度の廃止に伴い,税法から「戸主」や「家族」等の用語が削除された後も,「同居親族」(配偶者及び三親等内の親族)の所得合算制度が創設されたことにより,実質的に維持されていた。 しかしながら,昭和24年8月のシャウプ勧告を受けて,昭和25年改正の際には,原則として所得合算制度が廃止され,個人単位課税制度が採用されるとともに,法56条の前身である旧所得税法(昭和40年改正前のもの。以下「旧法」という。)11条の2が制定された。 そし 得合算制度が廃止され,個人単位課税制度が採用されるとともに,法56条の前身である旧所得税法(昭和40年改正前のもの。以下「旧法」という。)11条の2が制定された。 そして,旧法11条の2は,その後,昭和27年改正,昭和32年改正,昭和36年改正を経て,昭和40年には法の全文が改正され,現行の法56条が制定されるに至った(各改正の経過については,原判決別紙1参照)。 b 以上の同条の立法ないし改正経緯にかんがみれば,法56条のように「従事したことその他の事由により」との文言が取り入れられたのは,昭和40年改正によるものと認められるところ,昭和40年における法の全文改正の際の資料を検討しても,同条の改正の趣旨が具体的に記載され検討された形跡は見当たらない(丙3)。かえって,当時の改正資料によれば,昭和40年改正の大要は,①税法の体系的な整備,②表現の平明化,③規定の整備合理化の3点であることが明らかであり,このうち①及び②の趣旨に基づき改正された条文については,その法条の実質的内容に変更が加えられることなく,同一の立法趣旨を維持したままで,文言上の整備が行われたにすぎないものと解されるのである。そして,③の規定の整備合理化の趣旨で改正された条文については,改正に関する資料の中に,その整備理由や経緯についての言及が残っているところ(丙3),旧法11条の2第1項(昭和36年改正後のもの)について,何らかの検討及び説明がされた旨の形跡は認めることができない。 そうすると,旧法11条の2第1項については,①ないし②の趣旨から,その立法趣旨や内容に変更が加えられることはなく,文言上のみの改正が加えられて,法56条として規定されるに至ったものと解するのが相当である。 の2第1項については,①ないし②の趣旨から,その立法趣旨や内容に変更が加えられることはなく,文言上のみの改正が加えられて,法56条として規定されるに至ったものと解するのが相当である。 c そこで,法56条にいう「事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」の解釈をするに当たっては,同条の文言のみならず,これと同趣旨の規定である旧法11条の2の立法趣旨及び改正経緯を検討する必要がある。 ところで,前記のとおり,旧法11条の2が立法された昭和25年の旧法改正では,昭和24年のシャウプ勧告に基づき,所得合算課税が原則廃止されるに至っているが,当時の立法資料からは,同改正の趣旨について以下の事実が認められる。 (a) シャウプ勧告(甲9ないし13,丙1)は,昭和24年8月,所得合算課税について,「所得額を合算すると同一の生活水準,同一担税力水準にある納税者に適用される税率よりも高い税率で課税されることになる。それが税負担の不公平な分配であることは広くみとめられているところである。納税者は不満を感じ納税道徳は悪化する」等の問題点を指摘した上,「同居親族の所得合算は,これを廃止して各納税者が独立の申告書を提出し,他の所得と合算することなく各人の所得額に対する税額を別々に納めさせるように勧告する。」とする一方,「しかし,この個別申告制にある程度の制限を設けておかないと,要領のよい納税者は,配偶者又は子供に財産及びこれから生ずる所得を譲渡することによって税負担を軽減しようとするから,相当の問題の起ることが予想される。同様にして,彼らは,妻子を同族の事業に雇傭して,これに賃銀を支払うという抜け道を講ずるであろう。納税者と同居する配偶者及び未成年者の資産所得 軽減しようとするから,相当の問題の起ることが予想される。同様にして,彼らは,妻子を同族の事業に雇傭して,これに賃銀を支払うという抜け道を講ずるであろう。納税者と同居する配偶者及び未成年者の資産所得はいかなる場合にも納税者の申告書に記載させ合算して課税することによってこの種の問題は避けられるのであるが,これは個人申告の原則を大して犠牲にするものとはいえまい。同様にして,納税者の経営する事業に雇傭されている配偶者及び未成年者の給与所得は,納税者の所得に合算させるようにすべきである。」旨を勧告して,世帯単位での所得合算課税を廃止する一方で,個人単位課税を貫いた場合の弊害を避けるため,個人単位課税にも例外を設けるべき場合があることを指摘していた。 (b) 昭和25年2月24日の衆議院大蔵委員会における会議録(丙5)によれば,旧法11条の2を含む所得税の一部を改正する法律案の提案理由について,当時の池田勇人大蔵大臣が「シャウプ税制使節団の勧告は,御承知の通り税制全般にわたる画期的改正を提案いたしておるのでありまして,政府といたしましては,おおむねシャウプ勧告の基本原則に即応し,さらにわが国現下の財政経済諸事情に適合するよう,これに適切と認められる調整を加えて,現行税制の全般にわたり改正を行わんとするものであります。」と述べた上,所得税制度の合理化を図るべき方途の第2として,「所得合算制の縮小であります。すなわち原則として同居親族の所得合算制はこれを廃止し,各所得者ごとに課税することといたしました。・・・(中略)・・・なお,納税義務者と生計を一にする配偶者その他の親族が,当該納税義務者の経営する事業から所得を受ける場合には,当該所得をその納税義務者の所得として課税することといたしました。」と述べていることが認められ,同年3 者と生計を一にする配偶者その他の親族が,当該納税義務者の経営する事業から所得を受ける場合には,当該所得をその納税義務者の所得として課税することといたしました。」と述べていることが認められ,同年3月15日の衆議院会議録によれば,同日所得税法の一部を改正する法律案が可決されたことが認められる(丙6)。 d このようにして昭和25年改正により設けられた旧法11条の2は,原判決別紙1記載のとおり,「納税義務者と生計を一にする配偶者その他の親族が,当該納税義務者の経営する事業から所得を受ける場合においては,当該所得は,これを当該納税義務者の有する事業所得とみなす。この場合においては,第8条第1項の規定の適用については,当該親族は,当該納税義務者の経営する事業から所得を受けていないものとみなす。」と規定している。 上記「当該納税義務者の経営する事業から所得を受ける場合」との文言は,「所得」の範囲を全く限定していないものであることが明らかである。また,その制定後間もない昭和28年当時の東京国税局直税部長が編集した旧法の注釈書には,同条の趣旨について,納税義務者と生計を一にする親族が,その納税義務者の経営する事業に労務又は役務を提供している場合に,それに対して支払われる金額は,「名義の如何にかかわらず」,原則としてその納税義務者の事業所得の計算上必要経費に算入しない旨を規定したものであるとの記載がされている(甲20)。 以上によると,旧法11条の2は,シャウプ勧告のいう「要領のよい納税者」の行う租税回避的な行為を封ずるものであるが,それにとどまらず,本来必要経費と認めるべき労務の対価等についても,一律に経費に算入しないこととしたものであって,シャウプ勧告の内容とは異なるものを含 者」の行う租税回避的な行為を封ずるものであるが,それにとどまらず,本来必要経費と認めるべき労務の対価等についても,一律に経費に算入しないこととしたものであって,シャウプ勧告の内容とは異なるものを含むものである。 (ウ) 以上を踏まえて,法56条にいう「事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」の解釈を明らかにする。 a まず,旧法11条の2の「当該納税義務者の経営する事業から所得を受ける場合」との文言は,「所得」の範囲を全く限定していないものであることが明らかである。このことは,前記池田勇人大蔵大臣の提案理由説明及び前記注釈書の記載からも明白である。なお,旧法11条の2に関する注釈書や通達の中に,同条が適用される典型的場合として,家族労働や共同経営の場合を念頭に置いた説明をしている例が見られるとしても,同条の規定について当初から何らかの限定解釈がされていたとは認められない。むしろ,弁論の全趣旨によれば,同条の規定及びこれを引き継いだ法56条の規定は,課税実務上,一貫して何らの限定解釈もされることなく適用されてきたものと認められる。 b 法56条は,前記のとおり,昭和40年改正に際し,旧法11条の2第1項について,その立法趣旨や内容に変更が加えられることなく,文言上のみの改正が加えられて,規定されるに至ったものである。 そうである以上,法56条の「事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」との文言についても,その範囲を全く限定していないものであることが明らかであって,これは,以下の点からも裏付けられる。 (a) 法56条には,対価の内容に関して何らかの限定をすることをうかがわせ の範囲を全く限定していないものであることが明らかであって,これは,以下の点からも裏付けられる。 (a) 法56条には,対価の内容に関して何らかの限定をすることをうかがわせる文言が全く見当たらない。かえって,「その親族のその対価に係る各種所得の金額」にいう「各種所得」は,法2条1項21号で定義されているとおり,「利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得,一時所得及び雑所得」のすべてを含むものであるところ,これを給与所得等に限定するとか,あるいは,事業所得を除外するとかの規定は存しない。 (b) 確かに,法令において「Aその他のB」という表現が用いられている場合のうちには,Bの部分の意味内容がそれ自体から明確でないため,その例示であるAの部分の意味内容に照らしてBの部分のそれを解釈するほかなく,その限度でBの内容がAの内容によって限定されたものとなる場合もある。しかし,以上の検討からすれば,法56条の「その他の事由」については,特段の限定を付する趣旨を読み取ることはできない。 なお,法56条の「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族」も,まさに「Aその他のB」という表現の一例であるが,ここでいう「親族」は,民法725条の規定による親族を意味するものであり,「その他の」との文言に「配偶者」に準じる親族に限定する趣旨は含まれないことが明白である。同一条文中の「事業に従事したことその他の事由」の解釈も,これと同様である。 c なお,青色事業専従者の給与の必要経費算入を認める法57条の規定は,青色申告の普及育成という政策的目的によるものであると認められるから,同条の存在及び解釈は,法56条の上記解釈に影響を及ぼ c なお,青色事業専従者の給与の必要経費算入を認める法57条の規定は,青色申告の普及育成という政策的目的によるものであると認められるから,同条の存在及び解釈は,法56条の上記解釈に影響を及ぼすものではない。 (エ) 以上の検討によれば,法56条の「事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」とは,親族が,事業自体に何らかの形で従たる立場で参加する場合,事業者に雇用されて従業員としてあくまでも従属的な立場で労務又は役務の提供を行う場合及びこれらに準ずるような場合のみを指すものと解することはできず,親族が,独立の事業者として,その事業の一環として納税者たる事業者との取引に基づき役務を提供して対価の支払を受ける場合も,上記要件に該当するものというべきである。上記事業の形態がいかなるものか,事業から対価の支払を受ける親族がその事業に従属的に従事しているか否か,対価の支払はどのような事由によりされたか,対価の額が妥当なものであるか否かなどといった個別の事情によって,同条の適用が左右されるものとは解されない。 なお,被控訴人の主張の中には,「事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には,」との文言が,「その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は,その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額,事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上,必要経費に算入する。」との部分にはかからないとの前提に立って解釈論を展開している部分があるが,そのような前提は条文の誤読によるものであることが明らかであり,独自の見解であって採用することができない。 (オ) したがって,訴外P1が被控訴人から本件税理士報酬等の支払を受けるこ そのような前提は条文の誤読によるものであることが明らかであり,独自の見解であって採用することができない。 (オ) したがって,訴外P1が被控訴人から本件税理士報酬等の支払を受けることは,法56条所定の,被控訴人の営む事業所得を生ずべき事業に「従事したことその他の事由により」当該事業から対価の支払を受ける場合に該当するものである。 イ次に,本件においては,法56条の「生計を一にする」との要件の解釈適用も争われているので,以下検討する。 (ア) 法に規定する「生計を一にする」とは,必ずしも親族が同一の家屋に起居している場合に限られるものではないが,上記場合には,明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き,これに該当するものと解される。 (イ) これを本件についてみるに,前記前提となる事実のとおり,訴外P1は被控訴人と婚姻の届出をした妻であり,証拠(甲18,19)及び弁論の全趣旨によれば,訴外P1と被控訴人とは,被控訴人の肩書住所地の自宅で同居し,食事も共にしており,食費,長男及び二男の学費並びに旅行の費用等の家計は,その都度話し合って,おおよそ訴外P1が4,被控訴人が6の割合で負担している事実が認められる。よって,訴外P1は,被控訴人と生計を一にする配偶者であり,法56条所定の「居住者と生計を一にする配偶者」に該当するものである。 (ウ) 被控訴人は,訴外P1は,被控訴人と同居しているものの,住所地においてP4税理士事務所を経営しており,被控訴人とは独立に仕事をし,独立して生計を維持するに足りる程度の収入があること,被控訴人の住宅は,区分所有形態となっているところ,P4税理士事務所部分は,訴外P1の単独名義であり,建築費に関するローン,水道光熱費,コンピ ,独立して生計を維持するに足りる程度の収入があること,被控訴人の住宅は,区分所有形態となっているところ,P4税理士事務所部分は,訴外P1の単独名義であり,建築費に関するローン,水道光熱費,コンピューターのリース代等の経費は,訴外P1名義の銀行預金口座から自動引き落としにより支払われていること,現況も,自宅の玄関とP4税理士事務所の玄関とは全く別になっていることなどを理由に,被控訴人と「生計を一にする」場合には該当しないと主張している。しかし,そのような事情があるとしても,それらは,被控訴人が営む事業と訴外P1の事業とが区分されていること,あるいは,訴外P1の事業と家計とが区別されているというにすぎず,いずれも消費生活における区分を述べるものではないから,「生計を一にする」との要件を満たすとの前記判断は左右されない。また,家計費を一定の割合で負担している事実は,「生計を一にする」との要件の充足を否定する方向に働くものとはいえず,むしろ逆にこれを裏付けるものである。 ウ以上によれば,訴外P1が被控訴人から本件税理士報酬等の支払を受けたことは,法56条の適用要件に該当するものである。 (3) 法56条の規定の憲法適合性についてア被控訴人は,法56条が違憲であるとの主張をしているので,以下検討する。 イ租税は,国家が,その課税権に基づき,特別の給付に対する反対給付としてでなく,その経費に充てるための資金を調達する目的をもつて,一定の要件に該当するすべての者に課する金銭給付であるが,およそ民主主義国家にあつては,国家の維持及び活動に必要な経費は,主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきものであり,我が国の憲法も,かかる見地の下に,国民がその総意を反映する租税立法に基づ 国家の維持及び活動に必要な経費は,主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきものであり,我が国の憲法も,かかる見地の下に,国民がその総意を反映する租税立法に基づいて納税の義務を負うことを定め(30条),新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには,法律又は法律の定める条件によることを必要としている(84条)。それゆえ,課税要件及び租税の賦課徴収の手続は,法律で明確に定めることが必要であるが,憲法自体は,その内容について特に定めることをせず,これを法律の定めるところにゆだねているのである。思うに,租税は,今日では,国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え,所得の再分配,資源の適正配分,景気の調整等の諸機能をも有しており,国民の租税負担を定めるについて,財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく,課税要件等を定めるについて,極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。したがつて,租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断にゆだねるほかはなく,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうであるとすれば,租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は,その立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り,その合理性を否定することができず,これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当である(最大判昭和60年3月27日・民集39巻2号247頁)。 ウそして,法56条が憲法13条,14条 これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当である(最大判昭和60年3月27日・民集39巻2号247頁)。 ウそして,法56条が憲法13条,14条に違反しないことは,上記最大判昭和60年3月27日の趣旨に徴して明らかである(最判平成10年6月16日・税務訴訟資料232号630頁,最決平成9年4月23日・税務訴訟資料224号1137頁)。その理由は,次のとおりである。 (ア) 法56条は,対価の支払を受けた者が,「生計を一にする配偶者その他の親族」に該当する場合には必要経費算入を認めないこととして,そうでない場合と区別している。これは,前記のとおり,「要領のよい納税者」の行う租税回避的な行為を封ずる目的にとどまらず,同条がなければ必要経費と認めるべき対価についても,一律に必要経費に算入しないこととしたものである。 (イ) 法56条は,同条所定の対価の支払がある場合には,a 支払をした者については,その対価(X)は必要経費に算入しないが,支払を受けた者のその対価に係る必要経費(Y)を必要経費に算入し,b 支払を受けた者については,その対価(X)及びその対価に係る必要経費(Y)は,ないものとみなす,との趣旨の規定である。 これは,要するに,法56条の規定が存しなければ,支払を受けた者が(X-Y)の額について同人の所得に対応する累進税率で課税されたはずであるところ,法56条の規定が適用されることによって,支払をした者が(X-Y)の額について同人の所得に対応する累進税率で課税されることになるものである。 (ウ) 法56条の立法目的は,まさにここにあるものとみるほかない。す ことによって,支払をした者が(X-Y)の額について同人の所得に対応する累進税率で課税されることになるものである。 (ウ) 法56条の立法目的は,まさにここにあるものとみるほかない。すなわち,累進税率を採用する所得税制のもとで,同条が規定するような生計を一にする親族間で支払われる対価に相当する金額については,支払を受けた者ではなく,支払をした者の所得に対応する累進税率によって所得税を課税すべき担税力を認めたものと理解される。その立法目的は,上記累進税率を適用することにより,憲法30条,84条が要請する租税の公平な分担を実現するというものと解されるから,正当なものと認められる。 確かに,法は,所得税について個人単位課税制度を採用しているものであるが,他方において,世帯を単位とした担税力を考慮することにもなお一定の合理性があることにかんがみ,「生計を一にする」者を対象として,配偶者控除(法83条1項)及び扶養控除(法84条1項)をはじめとする各種所得控除制度も設けており,個人単位を貫徹しているわけではない。 そして,生計を一にする親族間で支払われる対価は,家計から逸出しておらず,生計を一にする親族内で留保されているとみることもできることからすれば,対価の支払がないものとして,前記(X-Y)の額について,支払をした者の所得に対応する累進税率によって所得税を課税すべき担税力を認めたことについて,直ちに合理性を否定することはできない。 また,法56条が,適用対象を生計を一にする親族間の対価に限定していることからすれば,親族間で家計の一環として所得税の負担を調整することも可能であるから,前記のように一律に必要経費に算入せず,支払をした者に課税することをもって,上記立法目的 族間の対価に限定していることからすれば,親族間で家計の一環として所得税の負担を調整することも可能であるから,前記のように一律に必要経費に算入せず,支払をした者に課税することをもって,上記立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかとはいえない。 エ前記のように租税法の定立については立法府の裁量的判断を尊重せざるを得ないことからすれば,法56条の規定は,何らかの限定解釈をするまでもなく,憲法14条1項の規定に違反するものということはできない。また,このように,法56条の規定は,それ自体極めて明確な規定であるから,課税要件を明確に定めるべき要請に反する点もない。 オもっとも,一般に,ある法律の規定について,制定当時においては合理的理由があったが,その後の時の経過とともに対象とする事柄をめぐる諸事情が変化し,その合理性が疑問とされる事態の生じることは,あり得るところである。このような事態に対処するには当該法規を改廃し,あるいは新法を制定するなど,国会の立法作用によるのが本来の姿であり,また,それが望ましいことである。例えば,法56条とは趣旨が異なるものの,法96条ないし101条に規定されていた資産所得の合算課税制度は,昭和63年の改正により廃止されている。 被控訴人は,本件のような場合にまで法56条が適用されるのは不合理であると主張し,被控訴人が当審で提出した論文等(甲22ないし32)に見られるように,そのような見解を支持する論者も少なくないが,それは,上記のような諸事情の変化を反映しているものとも考えられる。確かに,法56条の規定が設けられてから今日に至るまでの間に,家族関係の在り方,社会の経済構造,個人の権利意識の高揚に伴う個人事業の実態及び税務当局の徴税体制の充実等の事情に変化が生じ 考えられる。確かに,法56条の規定が設けられてから今日に至るまでの間に,家族関係の在り方,社会の経済構造,個人の権利意識の高揚に伴う個人事業の実態及び税務当局の徴税体制の充実等の事情に変化が生じてきていることは,否定することができない。しかしながら,法56条について,現時点で,著しく不合理であることが明らかとはいえないことは,前記のとおりである。したがって,上記のような諸事情の変化により,法56条について,その合理性が失われたとして改廃をするかどうか,また,改正するとしても,どのような内容の改正をするかについては,立法府の判断をまつべきものといわざるを得ない。 (4) 本件各処分等の適用違憲についてア被控訴人は,法56条自体が合憲であるとしても,本件各処分等は適用違憲であると主張しているので,以下検討する。 イ確かに,本件税理士報酬等の支払は,夫婦とはいえ,独立した事業者である弁護士と税理士との間でされたものであり,本件税理士報酬等の金額が不当に高額であるといった事情はうかがわれず,同一の顧問契約(甲1)に基づくP2弁護士の税理士報酬等の支払については必要経費算入を認められることと対比すると,違和感を抱かれることも理解することができなくはない。 しかしながら,本件においても,法56条の適用の有無による差異は,本件税理士報酬等のうちこれに対応する必要経費を控除した部分について,同条の規定がなければ,訴外P1に対し,同人の所得に対応する累進税率に従って課税されるべきところ,同条の適用により,被控訴人に対し,被控訴人の所得に対応する累進税率に従って課税されることとなったものにすぎない(甲7)。そして,前記認定のとおり,被控訴人と訴外P1とが生計を一にしており,家計内で所得税の負担の調整を図 人に対し,被控訴人の所得に対応する累進税率に従って課税されることとなったものにすぎない(甲7)。そして,前記認定のとおり,被控訴人と訴外P1とが生計を一にしており,家計内で所得税の負担の調整を図ることが十分可能であることからすれば,本件について法56条を適用することが違憲であると判断することはできない。 4 結論以上によれば,被控訴人の控訴人らに対する本件不当利得返還請求は,いずれも理由がないものである。 よって,原判決中,控訴人ら敗訴部分を取り消し,被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第23民事部 裁判長裁判官原田和德 裁判官北澤章功 裁判官竹内浩史別紙1(控訴人らの当審における主張)以下の項目のうち,第1は,控訴人国の第1準備書面の第1記載の主張を,第2ないし第4は,控訴人国の控訴理由書の第2ないし第4記載の主張を整理したものであり,控訴人東京都は,控訴人国の主張を援用したものである。 第1 法56条の合憲性について 1 法56条の合憲性に関する控訴人らの主張(1) 本件における区別被控訴人は,「(法56条の)適用によって所得税の申告において,税理士に対して支払った金員が経費となる者と,本件のように経費にならない者という差が生じており,この差が合理的区別であることを主張,立証しなければ控訴自体が失当である」と主張して,所得の計算における必要経費の算入について,事業者が生計を一にする親族以外の者に支払った対価であれば当該事業者の所得金額の計算上必要経費算入を認められるのに対し,生計を一にする親族に支払った対価であれば必要経費算入を認められない(なお,当該事業者の所得の金額の計算上,当該親族の当該対価に係る所得の計算において必要経費に算入されるべき金額は必要経費に算入されるから,厳密には,当該事業者の所得の金額の計算上,必要経費算入が認められないのは,上記の対価の一部である。)ことをもって,憲法14条1項に違反する差別であると主張するようである。 (2) 法56条の合憲性控訴人らは,再三にわたり,法56条の憲法適合性について論じてきたところであり,その をもって,憲法14条1項に違反する差別であると主張するようである。 (2) 法56条の合憲性控訴人らは,再三にわたり,法56条の憲法適合性について論じてきたところであり,その主張は,本件と同種事案に係る裁判例(丙第14,15号証)において是認されているところである。 すなわち,租税法の分野における課税上の取扱いの区別について憲法14条1項の適合性を判断する場合には,その立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り,憲法14条1項に違反することはないところ,「法56条は,事業者が当該事業から自己と生計を一にする配偶者等に対価を支払うことによって所得を分散し税負担を軽減するという事態が生ずることを一般的に防止するという目的,及び上記目的のみにとどまらず,事業者の総収入から,配偶者や家族に対して支払がされている部分であっても,実質的に全体をみれば事業者にとって担税力の認められる部分については課税することにより,憲法30条,84条が要請する租税の公平な分担を実現するという目的を有していると解すべきである。このような目的は,租税公平主義等の観点から正当性を有するものというべきである。」(東京地裁平成15年6月27日判決・丙第14号証18及び19頁,なお,その控訴審である東京高裁平成15年10月15日判決・丙第15号証11頁においても原判決が引用されている。)。 そして,①親族間取引における所得分散の容易さ,②生計を一にする親族という消費単位による担税力測定が公平の要請に沿うこと,③所得金額の計算における相互調整の存在(法56条後段参照),④独立した事業者以外にあっても法57条が適用されない場合があるこ 計を一にする親族という消費単位による担税力測定が公平の要請に沿うこと,③所得金額の計算における相互調整の存在(法56条後段参照),④独立した事業者以外にあっても法57条が適用されない場合があることからすれば,「法56条の採用する消費単位課税の方式が,同条の目的に照らし,その手段として著しく不合理であることが明らかであるとはいえないから,その合理性を否定することはできないというべきである。」(丙第14号証19及び20頁,なお,丙第15号証11頁においても原判決が引用されている。)。 このように,所得の計算における必要経費の算入について,事業者が生計を一にする親族以外の者に支払った対価であれば当該事業者の所得金額の計算上必要経費算入を認められるのに対し,生計を一にする親族に支払った対価であれば必要経費算入を認められないという差異ないし区別は,著しく不合理であることが明らかとは到底いえないものであり,法56条は憲法14条1項の規定に違反するものではない。 2 最高裁判所昭和60年3月27日大法廷判決に関する主張に対する反論(1) 被控訴人の主張の要旨被控訴人は,控訴人らの上記1の主張に対し,るる論難する。その主張は,要するに,被控訴人が,原審において,「弁護士が税理士に対して,業務を依頼し,報酬を支払った場合に全額経費として弁護士の所得から控除されるのに,夫である弁護士が妻である税理士に対して業務を依頼し,報酬を支払った場合には経費としないという区別」によって生ずる差,換言すれば,法56条を適用した場合と適用しない場合の租税負担の差の程度が著しいことを主張したにもかかわらず,この点について控訴人らが何ら主張しないのは,「控訴人らが具体的な差について検討するとその合理性を説明できないと考えたからで」あ 用しない場合の租税負担の差の程度が著しいことを主張したにもかかわらず,この点について控訴人らが何ら主張しないのは,「控訴人らが具体的な差について検討するとその合理性を説明できないと考えたからで」あるというものである。 そして,このように「具体的な差について検討」すべきことの根拠として,被控訴人は,「控訴人らが法56条の合憲性の根拠として引用するいわゆる大島判決は,租税法の定立について控訴人らの主張と同様な国の裁量権を認めながら,その差についての具体的な判断をしている。このような具体的な判断を最高裁判所が行ったのは,その差が合理的か否かについて判断したことを示すものであり,このことが事業所得者の経費を実額で控除し,給与所得者の経費を概算控除するという法の妥当性をこの差の程度によって判断するという姿勢を示しているのである」と主張する。 (2) 大島判決の判示について確かに,最高裁判所昭和60年3月27日大法廷判決(民集39巻2号247頁,以下「大島判決」という。)は,「給与所得者の職務上必要な諸設備,備品等に係る経費は,使用者が負担するのが通例であり,また,職務に関し必要な旅行や通勤の費用に充てるための金銭給付,職務の性質上欠くことのできない現物給付などがおおむね非課税所得として扱われていることを考慮すれば,本件訴訟における全資料に徴しても,給与所得者において自ら負担する必要経費の額が一般に旧法所定の前記給与所得控除の額を明らかに上回るものと認めることは困難であつて,右給与所得控除の額は給与所得に係る必要経費の額との対比において相当性を欠くことが明らかであるということはできないものとせざるを得ない。」として,給与所得控除の額が,給与所得に係る必要経費の額との対比において相当性を有するかどうかを検討した上 との対比において相当性を欠くことが明らかであるということはできないものとせざるを得ない。」として,給与所得控除の額が,給与所得に係る必要経費の額との対比において相当性を有するかどうかを検討した上で,旧法が必要経費の控除について事業所得者等と給与所得者との間に設けた区別は,合理的なものであり,憲法14条1項の規定に違反するものではないと結論づけている。 (3) 大島判決と本件では問題とされる区別の内容が異なることしかしながら,大島判決が,同事案において,概算控除の額と実額控除の額とを比較したのは,「憲法14条1項の規定の適用上,事業所得等に係る必要経費につき実額控除が認められていることとの対比において,給与所得に係る必要経費の控除のあり方が均衡のとれたものであるか否かを判断」(民集39巻2号260,261頁)したからである。すなわち,大島判決の事案においては,旧法が,所得金額の算定において必要経費を控除することを前提としつつ,給与所得とそれ以外の所得とにおける必要経費の控除方法を区別しているという,その区別の憲法適合性が問題になったものであり,これを判断する上で,それぞれの控除のあり方(実額控除と概算控除)の均衡を,控除額を比較することによって検討する必要があったのである。 これに対し,本件において問題とされている区別は,必要経費の算入方法の差異ではない。法上,生計を一にする親族等ではない者に対して支払われた対価は必要経費に算入されるのに対し,法56条の規定により,生計を一にする親族等に対して支払われた対価はそもそも必要経費に算入されないものとされており,このように生計を一にするか否かによって必要経費への算入の有無自体を異にすることが,立法目的との関係で著しく相当性を欠くことが明らかであるか否かが問題 そもそも必要経費に算入されないものとされており,このように生計を一にするか否かによって必要経費への算入の有無自体を異にすることが,立法目的との関係で著しく相当性を欠くことが明らかであるか否かが問題とされているのである。それゆえ,上記の区別についての相当性を判断するためには,生計を一にする親族等に対して支払われた対価を必要経費に算入しないとした立法者の選択,換言すれば,その限度において個人単位課税を採らず消費単位課税を採用したことが,上記1(2)に述べた法56条の立法目的との関係で,著しく相当性を欠くことが明らかであるか否かという観点で検討すべきなのである。 (4) 法56条の適用による所得金額の計算構造控訴人らは,原審において,上記(3)に述べた観点から法56条の相当性について詳細に検討を加えたところであるが,この点を法56条の適用による所得金額の計算構造の観点からふえんすると,次のとおりである。 ア法56条は,「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には,①その対価に相当する金額は,その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額,事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上,必要経費に算入しないものとし,かつ,②その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は,その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額,事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上,必要経費に算入する。この場合において,③その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は,当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。」と規定している。 この場合において,③その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は,当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。」と規定している。 イこれを整理すると,次のとおりである。 ① 事業者(これをAとする)が親族等(これをBとする)に支払った対価(これを100とする)は,Aの所得金額の計算上必要経費に算入しない② Bがその対価(100)を得るための必要経費(これを70とする)は,Aの所得金額の計算上必要経費に算入する③ Bの所得金額の計算上,対価(100)及びこれに要した経費(70)の双方ともないものとみなすしたがって,この設例の場合には,Aの所得金額の計算上必要経費に算入される金額は70であり,他方,Bの所得金額は0となる。 なお,仮に,BがAと生計一にしていない場合には,Aの所得金額の計算上必要経費に算入される金額は100であり,他方,Bの所得金額は30(=100-70)となって,この30が所得税の課税対象となる。 ウ上記設例において,AがBに支払った対価の額が100ではなく,これを超え,あるいは,これ未満の場合にあっても,Aの所得金額の計算上必要経費に算入される金額は常に70であり,他方,Bの所得金額は常に0となる。 また,上記設例において,AがBに何ら対価を支払わなかったとしても,課税実務上は,70をAの所得金額の計算上必要経費に算入し,他方,Bの所得金額は0とされる(所得税基本通達56-1)。 エそして,法56条が適用された上記イの設例の場合,100から70を控除した残余の30については,生計を一にする親族という経済的基本単位 所得金額は0とされる(所得税基本通達56-1)。 エそして,法56条が適用された上記イの設例の場合,100から70を控除した残余の30については,生計を一にする親族という経済的基本単位の中に留保されているのであって(この生計を一にする親族という経済的基本単位の中に留保されている部分を,以下「生計同一親族内留保部分」という。),控訴理由書第2・5(23ないし25頁)において主張したとおり,生計同一親族内留保部分は,担税力を有するのである。 オ本件においても,上記で説明した法56条の適用による所得金額の計算構造が作用している(甲第7号証「裁決書」16頁)。 カ弁護士が生計を一にする親族以外である税理士に対して報酬を支払った場合には,その報酬は生計を一にする親族という経済的基本単位の中から流出する支払であるのに対し,本件の場合(弁護士が生計を一にする妻に税理士報酬を支払った場合)には,その支払われた金銭の一部は,生計を一にする親族という経済的基本単位の中に留保(すなわち,生計同一親族内留保)されるものであるから,これを必要経費として認めなかったとしても,上記1(2)に述べた法56条の立法目的との関係で,著しく相当性を欠くことが明らかであるとは到底いえないのである。 (5) 法における担税力の測定について上記(4)で述べたように,法56条は,生計同一親族内留保部分に担税力を認めるものであるが,このように担税力を「生計を一にする」親族単位で把握することが法の基盤となっていることも,控訴人らが従前再三述べたところであるが,以下,念のためこの点についてふえんしておく。 立法者は,担税力を推定させるような物・行為又は事実をとらえて課税の対象とする。何が個別の租税の課税物件であるかは,個 述べたところであるが,以下,念のためこの点についてふえんしておく。 立法者は,担税力を推定させるような物・行為又は事実をとらえて課税の対象とする。何が個別の租税の課税物件であるかは,個別租税法がこれを定めている。 法は,非永住者以外の居住者(被控訴人もこれに該当する。)については,すべての所得について所得税を課する(法7条1項1号)とし,その課税標準を総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額としている(法22条1項)。 もっとも,純粋に課税の対象を所得とし,個人単位課税を貫徹するのであれば,課税標準である総所得金額等に税率を乗じて所得税額を算出すれば足りることであるが(ちなみに,同じ収得税である法人税については,課税標準である各事業年度の所得の金額に税率を乗じて法人税額を算出する構造となっている。法人税法5条,21条,66条参照),法においては,単純に課税標準である総所得金額等に税率を乗じて所得税額を算出する構造とはなっていない。すなわち,総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額から各種所得控除(法72条ないし86条)を控除した課税総所得金額,課税退職所得金額及び課税山林所得金額に税率を乗じて所得税額を算出する構造となっているのである(法21条1項及び89条)。 このように,個人の所得に係る法においては,同じ収得税である法人税とは異なり所得控除が認められているのであるが,このような所得控除は主として担税力の有無ないし強弱に由来するものである(金子宏・租税法(第9版)191ないし193頁参照)。 そして,注目すべき点は,次のとおり,各種所得控除のうち多くのものに「生計を一にする」という字句が用いられていることである。 ・雑損控除(法72条1項) 照)。 そして,注目すべき点は,次のとおり,各種所得控除のうち多くのものに「生計を一にする」という字句が用いられていることである。 ・雑損控除(法72条1項)・医療費控除(法73条1項)・社会保険料控除(法74条1項)・損害保険料控除(法77条1項)・寡婦(寡夫)控除(法81条1項)の適用における「寡婦」(法2条1項31号イ)及び「寡夫」(同項31号の2)・配偶者控除(法83条1項)の適用における「控除対象配偶者」(法2条1項33号)・配偶者特別控除(法83条の2第1項)・扶養者控除(法84条1項)の適用における「扶養親族」(法2条1項34号)。 これらの規定は,個人単位課税を貫徹することなく,個人の担税力の強弱をその者の日常生活の糧を共通するものを含む生活共同体の単位で把握しようとする趣旨のものであり,このように,担税力を「生計を一にする」親族単位で把握することは,法の基盤であるということができるのである。 (6) 小括以上のとおり,法56条が適用された場合と適用されない場合のそれぞれについて必要経費算入額を計算し,両者を単純に比較したとしても,そのことから直ちに同条の定める区別の態様が立法目的との関係で著しく相当性を欠くことが明らかであるか否かということを判断できるものではない。 被控訴人の上記主張は,大島判決において問題とされた「区別」と本件において問題としている「区別」との性質上の差異を看過し,両者を混同して大島判決の判断手法を機械的に本件に当てはめようとするものであって,失当といわなければな 判決において問題とされた「区別」と本件において問題としている「区別」との性質上の差異を看過し,両者を混同して大島判決の判断手法を機械的に本件に当てはめようとするものであって,失当といわなければならない。 第2 原判決の法56条の解釈適用の誤り 1 原判決の判示原判決は,法56条の「従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」の解釈について,事由のいかんを問わず対価の支払を受ける場合のすべてを含むとする控訴人らの主張を排斥し,「親族が,事業自体に何らかの形で従たる立場で参加するか,又は事業者に雇用され,従業員としてあくまでも従属的な立場で労務又は役務の提供を行う場合や,これに準ずるような場合を指(す)」(原判決31頁)と判示する。 しかしながら,以下に述べるとおり,原判決による法56条の上記限定解釈は誤りである。 2 法56条の文理上,限定解釈が予定されていないこと(1) 法56条の文理法56条は,「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には,その対価に相当する金額は,その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額,事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上,必要経費に算入しないものとし,かつ,その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は,その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額,事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上,必要経費に算入する。この場合において,その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は,当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。」と規定し に算入する。この場合において,その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は,当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。」と規定している。 (2) 法56条の文理は限定解釈を予定していないこと法56条の文言から明らかなとおり,法56条は,居住者と生計を一にする親族等が居住者の営む事業から対価を受け取る場合について,単に「当該事業から対価の支払を受ける場合」と規定しており,その対価がいかなる事由に基づくものであるかを問わず,当該対価に相当する金額は必要経費に算入しないとされている。すなわち,法56条の文言に忠実に即してみれば,事業の形態がいかなるものか,事業から対価の支払を受ける事業者の親族がその事業に従属的に従事しているか否か,対価の支払はどのような事由によりされたのか,対価の額が妥当なものであるのか否かなどといった個別の事情によって,同条の適用が左右されることをうかがわせる文言は全く存在しない。 それどころか,法56条中の,「その親族のその対価に係る各種所得の金額」にいう「各種所得」は,「第二編第二章第二節第一款(所得の種類及び各種所得の金額)に規定する利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得,一時所得及び雑所得」(法2条1項21号)をいうのであり,ここでも何らの限定もされていない。 また,法の各条の見出しは当該各条と一体となるものであるが,同法56条の見出しは,「事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例」として,当該事業に従属的に「従事」することないしこれに準ずることをうかがわせるような語句は使用されていない。 このように,法56条の文言上は,同条において必要経費に の必要経費の特例」として,当該事業に従属的に「従事」することないしこれに準ずることをうかがわせるような語句は使用されていない。 このように,法56条の文言上は,同条において必要経費に算入される対価について,その性質等により限定することの手掛かりとなるような文言は全く存在しない。 (3) 改正の経緯からも限定解釈をすべき必然性は見当たらないこと旧法11条の2第1項は,「納税義務者と生計を一にする配偶者その他の親族が,当該納税義務者の経営する事業で不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべきものから所得を受ける場合においては,当該所得の収入金額に相当する金額は,当該納税義務者の不動産所得,事業所得又は山林所得の金額の計算上これを必要な経費に算入せず,当該親族の当該所得の金額の計算上必要な経費に算入すべき金額は,当該納税義務者の不動産所得,事業所得又は山林所得の金額の計算上必要な経費に算入するものとする。この場合において,当該親族の所得の金額の計算については,当該事業から受けた所得の収入金額及び当該所得の金額の計算上必要な経費に算入すべき金額は,いずれもないものとみなす。」と規定していた。 そして,この旧法11条の2第1項の規定上,事業の形態がいかなるものか,事業から所得を受ける事業者の親族がその事業に従属的に従事しているか否か,対価の支払はどのような事由によりされたのか,対価の額が妥当なものであるのか否かなどといった個別の事情によって,同条の適用が左右されることをうかがわせる文言は全く存在しない。 上記旧法11条の2第1項における「当該納税義務者の経営する事業で不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべきものから所得を受ける場合」との規定が,昭和40年の全文改正により,現行法56条の「居 上記旧法11条の2第1項における「当該納税義務者の経営する事業で不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべきものから所得を受ける場合」との規定が,昭和40年の全文改正により,現行法56条の「居住者の営む不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」との文言に改正されたのであるが,この改正は,旧法11条の2第1項の実質的内容に変更を加えることなく,同一の立法趣旨を維持したままで,文言上の整備を行ったものにすぎない(原判決27頁)。 このような改正の経緯からすれば,「事業に従事したことその他の事由」の文言に,原判決の指摘するような特別な意義を見出す必然性もない。 (4) 規定の一部を適用除外する場合に通常用いられる文言が用いられていないことそもそも,国民の納税義務を規定する租税法規は,課税要件を明確にすることが要請されるから,条文に規定された事項の一部について,その規定の適用を除外又は制限する場合には,その除外又は制限するものを条文中に明定するのが通例である。 例えば,資産損失に関して規定する法51条は,その4項において「居住者の不動産所得若しくは雑所得を生ずべき業務の用に供され又はこれらの所得の基因となる資産(山林及び第62条第1項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する資産を除く。)の損失の金額・・・」と規定し,上記規定の括弧書きにより,同項の規定の適用から除外する資産を明確にしている。また,同法157条は,同族会社の行為又は計算でこれを容認した場合には居住者等の税負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,その行為又は計算にかかわらず税務署長が税額等を計算することができる旨規定しているところ, 為又は計算でこれを容認した場合には居住者等の税負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,その行為又は計算にかかわらず税務署長が税額等を計算することができる旨規定しているところ,この規定においては「不当に減少」との制限が付されているのであり,同族会社の行為又は計算のすべてについて,税務署長が税額等を計算することができるわけではないことを明確にしている。 そうすると,仮に,法56条の文理上,生計を一にする配偶者その他の親族に対する支払のうち,独立して事業を営む者に対する対価の支払について,同条の規定を適用しないというならば,条文中にその旨(例えば,「事業者から独立して自ら事業を営む者を除く」(除外)とか「従属的立場で労務又は役務の提供を行う場合に限る」(制限)など)が定められるはずであるが,法56条は,単に「事業に従事したことその他の事由により」とされ,上記のような除外又は制限的語句が一切規定されていないのである。 (5) 小括以上のとおり,法56条の文理はもとより,他の法上の規定との関係,同条の改正の経緯等には,原判決のような限定解釈をする手掛かりは何ら存しないところである。 3 限定解釈をしないことに実質的な合理性があること以上のように,法56条の文言上,同条を限定解釈すべき根拠は存せず,その上,以下に述べるとおり,同条を限定解釈しないこと(すなわち,控訴人らが原審において述べてきた解釈)に実質的な合理性が存するのである。 (1) 所得分割への対処の必要性の観点からみた実質的合理性超過累進税率が採用されている所得税においては,納税者の所得を分割し,家族構成員に帰属させることによって,高い累進税率の適用を回避し,もって税負担の減少を図る試みがしばしばなされる。この所得分 超過累進税率が採用されている所得税においては,納税者の所得を分割し,家族構成員に帰属させることによって,高い累進税率の適用を回避し,もって税負担の減少を図る試みがしばしばなされる。この所得分割(incomesplitting)の代表的方法は,資産所得の場合,その名義を家族構成員に分散させることが典型的な手段であり,事業所得等の場合は,家族構成員を事業に関与させ,必要経費となる対価を当該家族構成員に支払うことによって所得分割が達成される。 このような所得分割を放置しておくことは,資産所得や事業所得等を有する納税者には税負担軽減の道を開いておく一方で,純粋に給与所得のみを得ている納税者はこのような税負担の軽減ができないため,不公平感情を募らせる結果となる。そのため,個人単位課税主義を採用している各国の所得税制の下では,このような所得分割に対処するため,多かれ少なかれ個人単位課税主義を修正し,世帯単位で所得計算を行う例外的措置ないし折衷的措置がとられていることが少なくない(金子宏・租税法(第9版)187頁参照)。 法56条は,このような,個人単位課税主義を採用する累進税率所得税の下で必然的に生じる現象である所得分割に対処することによって,事業所得者等と給与所得者等との税負担のバランスをとりつつ,租税負担の公平を目指し,租税制度に対する信頼性を維持しようとしているものである。これを端的にいえば,法56条は,家族構成員の間に所得を分割して税負担の軽減を図ることを防止することを目的としているのである(金子・前掲246頁)。 上記の所得分割は,典型的な形態としては,納税者の事業に家族構成員を雇用し,それに対し給与を支払う一方で,支払給与の金額を事業所得の必要経費に計上するという方法によって行われる(それ故,シ 上記の所得分割は,典型的な形態としては,納税者の事業に家族構成員を雇用し,それに対し給与を支払う一方で,支払給与の金額を事業所得の必要経費に計上するという方法によって行われる(それ故,シャウプ勧告においても同様の事例が挙げられている。)が,決してそのような方法にとどまるものではない。すなわち,給与名目であると否とにかかわらず,基本的に納税者の事業所得の必要経費に算入できる金員を家族構成員に支払えば,納税者の事業所得において支払った金額の必要経費控除を受けるとともに,家族構成員の側では,当該金額の経済的利益を享受することができるからである。 法56条は,このような状況を考慮に入れ,居住者と生計を一にする親族という特殊の関係に基づく所得分割による租税負担回避を防止するため,配偶者又は親族たる家族構成員が納税者の事業に雇用されている場合に限定することなく,対価の支払を受ける場合に同条の適用があるものとしているのであって,控訴人らのように同条を限定解釈しないこと自体,合理性が認められるのである。 ちなみに,実務上,事業者に金銭その他の資産を貸し付け,利子又は家賃の支払を受ける場合など,親族たる家族構成員が納税者の事業に雇用されている場合ではない場合についても法56条を適用して処理されていることは,後記4に述べる注釈書や通達からも明らかであるが,上記のような場合に法56条を適用した裁判例として,東京地裁平成2年11月28日判決・税務訴訟資料181号417頁,その控訴審である東京高裁平成3年5月22日判決・税務訴訟資料183号799頁,名古屋高裁平成5年10月25日判決・税務訴訟資料224号1179頁がある。また,学説上も,同条の適用される場合として,「親族が,納税者の事業に雇傭され,または納税者に金銭その他の資産 号799頁,名古屋高裁平成5年10月25日判決・税務訴訟資料224号1179頁がある。また,学説上も,同条の適用される場合として,「親族が,納税者の事業に雇傭され,または納税者に金銭その他の資産を貸し付けた場合に支払を受ける給与または利子・賃料が,これに当たる。」(金子・前掲246頁)とされている。 このように,法56条を,包括的かつ一律に広く適用することは,広く認められているところである。 (2) 租税実務の観点からみた実質的合理性さらに,租税実務の観点からみた場合,法56条を原判決のように限定解釈することにより,次のような支障が生じることを指摘しなければならない。 すなわち,原判決(31頁)は,「親族が,事業自体に何らかの形で従たる立場で参加」した場合に,法56条の適用があるとするが,ここにいう「何らかの形」,「従たる立場」,「参加」なるものがいかなる場合を指すのか極めてあいまいであり,大量かつ迅速な処理が要求される租税実務における基準としては到底受けいれ難い。 また,原判決(同頁)は,「親族が,独立の事業者として,その事業の一環として納税者たる事業者との取引に基づき役務を提供して対価の支払を受ける場合」には同条の要件に該当しないとするところ,同基準は一見すると明確なように見えるが,原判決は,別のところで,「納税者たる事業者の親族が,従たる立場で共同で事業を行う場合や,形式的には独立の事業者かのような外観を作出しつつ実質的には納税者たる事業者に雇用されて当該事業に従事した場合には,その受ける対価については同条の適用がある」(33頁)とも判示しているのであり,単に独立の事業者として,その事業の一環としての取引により対価の支払を受けた場合であっても,同条が適用される場合があり得ることを認め,かつ, ては同条の適用がある」(33頁)とも判示しているのであり,単に独立の事業者として,その事業の一環としての取引により対価の支払を受けた場合であっても,同条が適用される場合があり得ることを認め,かつ,その差異を共同事業における主従関係とか,「実質的」といった,それ自体意味が不明であるか,あいまいな基準によって決しようとするものであって,やはり租税実務における基準とは到底なり得ないものである。 このような租税実務の観点からしても,原判決のような限定解釈を採ることはできず,控訴人らの主張する解釈が正当であることは明らかである。 4 原判決が「旧法下の所管官庁の理解」を誤解していること(1) 原判決の判示について原判決は,その24ないし31頁において,法56条の要件である「その他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」の意義について検討し,最終的に,その意義について,「親族が,事業自体に何らかの形で従たる立場で参加するか,又は事業者に雇用され,従業員としてあくまで従属的な立場で労務又は役務の提供を行う場合や,これらに準ずるような場合を指し,親族が,独立の事業者として,その事業の一環として納税者たる事業者との取引に基づき役務を提供して対価の支払を受ける場合については,同条の上記要件に該当しない」(原判決31頁)と結論づけている。 ところで,原判決は,一方では,旧法11条の2の文言からは「所得」の範囲を限定していないようにも読みとれること,旧法の制定後間もない昭和28年に東京国税局直税部長により編集された同法の注釈書(甲第20号証,以下「旧法注釈書」という。)には,同条の趣旨について,親族が,その納税義務者の経営する事業に労務又は役務を提供している場合に,それに対して支払われる金額は,「名義の如何にかか 釈書(甲第20号証,以下「旧法注釈書」という。)には,同条の趣旨について,親族が,その納税義務者の経営する事業に労務又は役務を提供している場合に,それに対して支払われる金額は,「名義の如何にかかわらず」原則としてその納税義務者の事業所得の計算上必要経費に算入しない旨を規定した趣旨であるとの記載があることも指摘しているのであって(原判決29頁),それにもかかわらず,法56条を限定解釈する実質的根拠というのは,旧法注釈書の記載や通達の規定内容から推知される所管官庁の理解からすると,旧法11条の2は限定的に解されるべきであり,これを受け継いだ法56条も同様に解すべきであるということにほぼ尽きるものである。 しかしながら,以下に順次検討するように,原判決が引用する旧法注釈書や通達は,いずれも旧法11条の2ないし法56条を限定解釈する根拠とはおよそなり得ないものであり,この点に関する原判決の判示は明らかに誤解に基づくものであるし,その他限定解釈を導くために原判決が依拠する根拠についても,正しく検討すればいずれも限定解釈の根拠とはなり得ないものである。 (2) 原判決が引用する注釈書についてア原判決は,昭和28年当時の東京国税局直税部長が編集した旧法注釈書の記載上,「家族労働の対価」を納税義務者の事業所得の計算上必要経費としない理由が記載されていることと,旧法注釈書における旧法11条の2の見出しが「親族たる従業者が事業から所得を受ける場合の事業所得の計算の特例」とされていることを殊更指摘し(原判決29,30頁。なお,後記(2)の通達も類似の見出しであるとする。),旧法注釈書は「全体として『事業者が家族労働の対価として親族に支払った金額は名義の如何にかかわらず』原則として必要経費に算入しないという趣旨に理解できるところであり も類似の見出しであるとする。),旧法注釈書は「全体として『事業者が家族労働の対価として親族に支払った金額は名義の如何にかかわらず』原則として必要経費に算入しないという趣旨に理解できるところであり,その限度で親族等が受ける所得の範囲を限定的にとらえているものということができる。」(原判決30頁)と判示する。 イしかしながら,旧法注釈書は,その該当部分の第1段落において,「本条は,納税義務者と生計を一にする親族が,その納税義務者の経営する事業に労務または役務を提供している場合に,それに対して支払われる金額は,給与,利益の分配,賃貸料,貸金利子等その他名義の如何にかかわらず,原則としてその納税義務者の事業所得の計算上必要経費に算入しない旨を規定したものである。」と述べている。 ここで重要なのは,旧法注釈書は,「家族労働」としての人的役務の提供に対する対価に限らず,「賃貸料,貸金利子等」すなわち物的役務の提供に対する対価も必要経費に算入されない旨を明確にしているのである。このような物的役務の提供に対する対価について,「家族労働の対価」を観念することはできない。 したがって,このような記載を「全体として」みたとしても,親族等が受ける所得の範囲が「事業者が家族労働の対価として親族に支払った金額」に限定してとらえられていると解することは不可能なはずである。 ウまた,原判決の上記判示による理解は,旧法11条の2には,現行法56条の前身である規定のみならず,同法57条の前身である規定も含まれていることを看過する点で,短絡的といわなければならない。 すなわち,昭和27年の法律改正により,法57条の前身である旧法11条の2第2項において,親族に対する給与の必要経費算入が認められることとなった。このような制度 といわなければならない。 すなわち,昭和27年の法律改正により,法57条の前身である旧法11条の2第2項において,親族に対する給与の必要経費算入が認められることとなった。このような制度はその当時としては画期的であったことから(世帯単位課税制度を採用していたシャウプ勧告前の所得税制においてはもとより,この改正前は,親族に対する給与は必要経費不算入とされていた。),昭和28年2月1日に発行され,市販された旧法注釈書においては,これを強調し,かつ,旧法11条の2第1項と同条2項を統一的・端的に説明する目的で,その見出しの中に「従業者」,本文中に「家族労働の対価」なる字句を用いたものと解される。殊に,同注釈書の第2段落と第3段落は「然し,この制度は」と接続されているところから明らかなように,両段落を一体として読むことを予定して記述されたものであるところ,その性質上,必然的に「家族労働の対価」が問題とされる,いわゆる青色専従者の給与を必要経費に算入する制度に関する記述(第3段落)と,注釈書の第1段落の記載内容からすれば,必ずしも「家族労働の対価」に限定されない必要経費不算入の原則の理由に関する記述(第2段落)とを一体として内容上の一貫性を持たせた上で,両者に矛盾をきたさないようにする配慮として,第2段落の説明において,あえて「家族労働の対価」と記載することにも合理性があるのである(なお,旧法注釈書の第1段落において,「名義の如何にかかわらず」としていながら,その直後に「原則として」との留保文言が含まれるのも,旧法11条の2第2項の規定の存在を意識したからであり,このような記載ぶりをも併せみれば,旧法注釈書において,同条1項と2項の両者を網羅しつつ簡潔に説明することに腐心していることがうかがわれるところである。)。 したが を意識したからであり,このような記載ぶりをも併せみれば,旧法注釈書において,同条1項と2項の両者を網羅しつつ簡潔に説明することに腐心していることがうかがわれるところである。)。 したがって,旧法注釈書において原判決の指摘するような記載があり,又は見出しを付けたとしても,何ら異とするには当たらないのであって,原判決の上記判示は,旧法注釈書の記載の趣旨を曲解するものである。 なお,注釈書(及び通達)における見出し(法条自体の見出しではない。)が法自体の内容をなすものでないことは,原判決自身が認めるところである(原判決29頁)が,他方,法自体の内容をなす現行法56条の見出しが,「事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例」として,何ら限定を予定していない文言となっていることは,前記2において述べたとおりである。 エそうすると,旧法注釈書の記載上,親族等が受ける所得の範囲が「家族労働の対価」に限定されてとらえられているとは到底いえないのであって,旧法注釈書の記載が,原判決のするような法56条の限定解釈を正当化するものではない。 なお,上述した「賃貸料,貸金利子」が,性質上一般的に「家族労働の対価」といえないことについては,後記(3)においてさらに詳述する。 (3) 原判決が引用する通達についてア原判決が指摘する旧法に関する通達(なお,原判決は,当該通達を「昭和26・1・1直所1-1・第11条の2関係・324」と摘示しているが,昭和27年直所1-66(15)の誤りと思われる。)は,その見出しを「納税義務者の所得とみなされる親族従業者の所得の範囲」とし,その内容を「法第11条の2第1項の規定は,給与所得の形式により受ける場合又は共同経営による利益の分配の形式により受ける場合の外,建物等 「納税義務者の所得とみなされる親族従業者の所得の範囲」とし,その内容を「法第11条の2第1項の規定は,給与所得の形式により受ける場合又は共同経営による利益の分配の形式により受ける場合の外,建物等の借入料,借入金の利子等の形式により受ける場合においても適用があるものとすること。」とする(丙第12号証)ところ,原判決は,上記通達の記載から,「経費に算入しない金額の意義を納税者たる事業者の親族が,当該事業に雇用又は共同経営の形で労務を提供した場合や生産手段又は資本を提供した場合等当該事業自体に参加したことによって得た対価と理解しているものと認められる(仮に,親族等が事業から支払われる金額は一切経費とは認めないと考えているならば,通達においては,その旨端的に表現するのが通達の性質にかなうものである。)。」(原判決30頁)と判示した上で,このような「所管官庁の理解からしても親族等が事業自体に参加又は雇用されて得た対価に限定されるものと解すべきである」(原判決31頁)として,上記通達をもって法56条を限定解釈することの根拠とする。 イしかしながら,上記通達は,法56条の限定解釈を否定する根拠とはなり得ても,限定解釈をする根拠とはなり得ない。 すなわち,同通達の文言上,上記通達にいう建物の賃貸借や金銭消費貸借といった行為には何らの留保も付されていないから,例えば,不動産貸付業者である妻が弁護士業を営む夫に対して自己の所有する建物を事務所用に賃貸する場合や,金融業を営む夫が美容院経営者である妻に運転資金を貸し付ける場合のような,居住者の事業とは独立の性質をもって行われる場合も,同通達の適用場面に含まれるはずである。そうすると,これらの場合には,少なくとも当該事業者に対して従属的な立場で労務又は役務の提供を行っているということはで 事業とは独立の性質をもって行われる場合も,同通達の適用場面に含まれるはずである。そうすると,これらの場合には,少なくとも当該事業者に対して従属的な立場で労務又は役務の提供を行っているということはできないのであるから,同通達は,旧法11条の2の適用を,従業員や従属的な立場で労務又は役務の提供を行う場合に限定したととらえることは誤りであり,何ら限定解釈の根拠となるものではないのである。 むしろ,同通達の文言を素直に読めば,同通達は,旧法11条の2の適用が,「給与所得の形式により受ける場合又は共同経営による利益の分配の形式により受ける場合」に限定されないことを明らかにしたものと解されるのであるから,限定解釈を否定する根拠になるというべきであるし,また,旧法11条の2に対する当時の所管官庁の理解についても,納税義務者と生計を一にする配偶者その他の親族が当該納税義務者から所得を受ける場合には,当該納税義務者の所得金額の計算上,一律に必要経費算入を認めないというものであったと解されるのである。 さらにいえば,同通達の定めるような貸借行為による対価を法56条の適用対象としつつ,本件のような弁護士たる居住者の事業とは独立の性質を有する税理士たる事業の遂行行為による対価を同条の適用対象から除外するのであれば,その理論的整合性が問題となるが,原判決はこの点について合理的な説明をしていない。 ウ(ア) この点,原判決は,建物の賃貸借や金銭消費貸借のような取引行為は「事業に参加」するものであるが,上記のように居住者の事業とは独立の性質を有する場合は「従たる立場で参加する」(原判決31頁)ものではないから,矛盾がないと考えているのかもしれない(もっとも,そうであれば,上記イで述べた例のように,貸借行為が居住者の事業とは独立の性質を する場合は「従たる立場で参加する」(原判決31頁)ものではないから,矛盾がないと考えているのかもしれない(もっとも,そうであれば,上記イで述べた例のように,貸借行為が居住者の事業とは独立の性質をもって行われているにもかかわらず,「従たる立場で参加する」場合というのがあり得るのか疑問であるが,それはひとまずおく。)。 (イ) しかしながら,そもそも原判決のいう「当該事業自体に参加したことによって得た対価」の意味からして不明といわざるを得ない。 ここに「事業に参加」というのは,原判決の言葉どおりであれば,生産手段や資本の提供ということになり,事業への主体的参加の方法としての出資行為を指すことになろうが,これによって得る対価というのは共同経営による利益の分配の形式により受ける所得と区別できないはずである。そうであれば,あえて「共同経営」と区別して「事業に参加」という言葉を用いる必要はない。 また,そうではなくて,単なる建物の賃貸借や金銭消費貸借のような取引行為をもって「事業に参加」というのであれば,それは「事業に参加」という言葉の通常の意味に反するものといわざるを得ない(事業所として使用しているビルのオーナーや事業資金を借りている貸金業者をもって文字どおり「事業の参加者」と理解している事業経営者がどれほどいるであろうか。)。 (ウ) また,用語の問題はおくとしても,上記(ア)のような理解に立った場合には,上記通達が,原判決がいうところの「事業に参加」する形態について主従を問題としていないこととの整合性が問題となる。すなわち,上記通達は,事業とのかかわり合いについて何ら限定を付することなく,単に「建物等の借入料,借入金の利子等の形式により受ける場合」でありさえすれば,旧法11条の2の適用が 合性が問題となる。すなわち,上記通達は,事業とのかかわり合いについて何ら限定を付することなく,単に「建物等の借入料,借入金の利子等の形式により受ける場合」でありさえすれば,旧法11条の2の適用があるとしているのであるから,上記通達により推知されるところの「当時の所管官庁の理解」からすれば,「親族が,事業自体に何らかの形で従たる立場で参加する・・・場合や,これらに準ずるような場合」にのみ法56条の適用がある(原判決31頁)とは直ちに帰結し得ないはずであるが,原判決はこの点についても合理的な説明をしていない。 (エ) 結局のところ,原判決があえて「事業に参加」という言葉を用いるのは,本質的に居住者の事業とは独立の性質を有する行為である建物の賃貸借や金銭消費貸借行為による対価を法56条の適用対象としながら,弁護士たる居住者の事業とは独立の性質を有する税理士たる事業の遂行行為による対価を同条の適用対象から除外する矛盾を顕在化しないようにするため,前者の行為を「事業に参加」する行為と恣意的に言い換え,あたかも独立性がない行為であるかのようにして,その整合性を取り繕ったものにすぎないと思われる。 しかしながら,このような言い換えをしたとしても,法56条の「その他の事由により(中略)対価の支払を受ける場合」を,親族が,事業自体に何らかの形で従たる立場で参加する場合などに限定して解釈すること(原判決31頁)と,本質的に居住者の事業からは独立の性質を有する建物の賃貸借や金銭消費貸借といった行為に対しても法56条が適用されること(上記通達参照)との矛盾を糊塗することはできないのであって,原判決の論理はこの点において既に破綻しているといわざるを得ない。 エ以上のとおり,原判決が引用する上記通達は,原判決の帰結する法56条 達参照)との矛盾を糊塗することはできないのであって,原判決の論理はこの点において既に破綻しているといわざるを得ない。 エ以上のとおり,原判決が引用する上記通達は,原判決の帰結する法56条の限定解釈を根拠付けるものではない。 (4) 限定解釈を導くその他の論拠についてア原判決は,旧法11条の2は,シャウプ勧告のいう「要領のよい納税者」の行う租税回避的な行為を封ずるものであるが,それにとどまらない旨(原判決30頁)を述べるとともに,「同条のうちシャウプ勧告と異なる部分については」当時の所管官庁の理解からしても限定解釈されるべきである旨判示する(原判決31頁)。 原判決の上記論理によれば,シャウプ勧告が阻止しようとした「要領のよい納税者」による租税回避行為の可能性がある場合には,同条の適用を排除する理由はなく,限定解釈もあり得ないということになろう。 そこで,原判決が,限定解釈の結果,法56条の適用がないとした独立事業者間において対価を支払う場合についてみると,このような場合であっても,シャウプ勧告が阻止しようとした「要領のよい納税者」による租税回避行為の可能性があることは明らかである。すなわち,例えば,不相当に高額な対価を支払ったり,また,相当な対価であっても,対価を支払うことによって,高い税率の区分に属する所得を低い税率区分に移転させて,夫婦合計の税負担を引き下げ,結果として,夫婦の可処分所得を増やすことができるのであるから,独立の事業者であったとしても,親族である以上は,要領よく租税回避を行うことは容易に可能である。 そうすると,原判決が独立事業者について限定解釈をすること自体,論理的な一貫性を欠くものといわざるを得ない。 イまた,原判決は,「納税者たる事業者の家事関連 は容易に可能である。 そうすると,原判決が独立事業者について限定解釈をすること自体,論理的な一貫性を欠くものといわざるを得ない。 イまた,原判決は,「納税者たる事業者の家事関連費との区別が困難であるという事情もない」から,法56条の適用はないとも判示する(原判決31頁)。 しかしながら,支払の相手方が親族である場合,独立した営業主体同士の交渉によって成立する適正な対価ではなく,馴れ合い的に恣意的にその対価が決せられる場合もあり得る。そして,この場合,適正な対価を超える部分は,家事関連費の範ちゅうに属するものとみるほかないが,適正な対価であるか否かの判定は容易でないから,結局,独立した事業者たる親族に支払う対価が常に家事関連費と区別が容易であるなどと結論づけることはできない。 また,生計を一にするということは,一つの消費単位として所得をプールし,シェアする関係にあることを意味するのであるから,事業者から対価の支払を受ける親族等が事業者と生計を一にしている限り,その生活費は,双方が稼得した収入をプールしたものの中から支出されることになる。 そうすると,当該親族等が独立した事業を営んでいるからといって,事業費と家事関連費との区別が明確になるとはいえないのであるから,原判決の上記判示もまた,誤解に基づくものといわざるを得ない。 (5) 小括以上のとおり,原判決が,法56条を限定解釈するに当たり,その主要な論拠としたところの限定解釈を肯定するような「当時の所管官庁の理解」(原判決31頁)なるものは存在せず,かえって,所管官庁の旧法11条の2及び現行法56条についての理解は,本件訴訟において控訴人らが従前述べてきたとおりなのであって,この点に関する原判決の判示は完全なる誤解に基づく なるものは存在せず,かえって,所管官庁の旧法11条の2及び現行法56条についての理解は,本件訴訟において控訴人らが従前述べてきたとおりなのであって,この点に関する原判決の判示は完全なる誤解に基づくものである。 したがって,法56条を限定解釈する根拠はないというべきである。 5 原判決のその他の誤りについて(1) 配偶者等に対する対価の支払と租税負担の公平についてア原判決は,「事業者が同様の支出をその親族以外の者に支出した場合にその経費性を肯定する以上,親族等への支払についても経費性を肯定することが租税負担の公平にかなうところであり,不十分な根拠によって両者の取扱いを異にする被告らの主張こそが租税負担の公平を損なうものといわざるを得ない。」(原判決33頁)と判示する。 しかしながら,原判決の上記判示は,生計を一にする親族という経済的基本単位の特殊性を看過する点で誤りといわなければならない。すなわち,事業者の配偶者等に対する対価の支払は,生計を一にする親族という経済的基本単位の外部へ流出しないものであり,担税力を有するのである。 イこれをふえんすると,そもそも,自然人が生産主体であると同時に消費主体であることは多言を要しないところ,夫婦ないし同一生計の家族(すなわち,「生計を一にする親族」)は経済生活の基本単位であり,それは一個の消費単位としてその構成員の所得をプールしシェアしているのが常態であって,このプールしシェアされている中から生計を維持するための費用である生計維持費用が拠出される。そして,この生計維持費用は,生存の前提となる衣食住を満たす最低限の費用や消費支出のみを意味するものではなく,余暇におけるレクリエーション等に係るサービスの対価,将来への備えとしての貯蓄や保険をも意味する。このよう 維持費用は,生存の前提となる衣食住を満たす最低限の費用や消費支出のみを意味するものではなく,余暇におけるレクリエーション等に係るサービスの対価,将来への備えとしての貯蓄や保険をも意味する。このように,親族が生計を一にする場合,その構成員は共同で生計を営み,それぞれの所得から生計を維持するための費用を分担するとともに,その生計からの支出によって共同の消費生活を営んでいるのであり,この関係は各構成員が一つの財布を持つ関係になぞらえることができる(ちなみに,このような関係は,夫婦ないし同一生計の家族が対外的に独立の事業活動を行うことや,夫婦が内部的に個別の財産を保有する夫婦別産制とは矛盾するものではなく,これらとは区別されるべき経済的事実関係というべきものである。)。 このような観点からすると,所得は,基本的には生計を一にする親族という経済的基本単位の外部から流入するものであり(贈与は,当該親族間で多々行われるが,これは法9条1項15号により非課税所得とされ,所得税の課税対象とはなっていない。),これを獲得するため必要経費を支出し,その残余が生計維持費用として支出されることとなる。 法においては,各種所得の金額の計算上,必要経費の控除が認められているが,これは,原資を維持しつつ拡大再生産を図るという資本主義経済の要請に基づき,投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避けるためにほかならない。すなわち,総収入金額のうち投下資本の回収に相当する部分は担税力を生じないのである。これを逆にいえば,事業者の配偶者等に対する対価の支払は,生計を一にする親族という経済的基本単位の外部へ流出しないものであり,生計維持費用の分担としての性質を有するのであるから,担税力を観念できるのである。 ウそして,仮に,当該支払金額を必要経 生計を一にする親族という経済的基本単位の外部へ流出しないものであり,生計維持費用の分担としての性質を有するのであるから,担税力を観念できるのである。 ウそして,仮に,当該支払金額を必要経費に算入して,事業所得の金額の計算上総収入金額から控除するものとすれば,そのような方法を採用する余地のない給与所得者との間に著しい租税負担の不公平を生ずることに留意すべきである(法56条の存在目的に関して当時の立法担当者の一人は,所得者間の租税負担の公平という観点から「生計を一にする親族という経済的基本単位内の取引において対価の支払は行わないという事業者でない者を含めた社会の実態を踏まえ,事業者だからといって対価の支払があるとして必要経費に算入することはバランスを失する」旨述べているところである(丙第13号証「税務事例Vol.10 №2」9頁))。 (2) 法56条中の「各種所得」の解釈についてア原審において,控訴人らは,法56条における「各種所得」との文言に関し,要旨次のとおり主張した。 (ア) 法56条の「事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」というのが,同条の定める従属的に事業に従事したことにより対価の支払を受ける場合又はこれに準ずる事由により対価の支払を受ける場合のみに限定され,独立した事業を営み,その事業活動の対価として支払を受けた場合を含まないと解するのであれば,同条がその金額の計算方法を規定する「その親族のその対価に係る各種所得」の中に,事業所得は含まれないことになるはずである。 (イ) しかしながら,法上,「各種所得」とは,第二編第二章第二節第一款に掲げる利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得,一時所得及び雑 る。 (イ) しかしながら,法上,「各種所得」とは,第二編第二章第二節第一款に掲げる利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得,一時所得及び雑所得の10種類の所得をいうものと定義されているのであって(法2条1項21号),同法56条の「各種所得」の解釈に限って事業所得を除外すべき理由はない。 (ウ) そうすると,法56条は,その文理上も,親族が居住者から支払を受けた対価に係る所得の種類について何ら限定してないことを意味し,したがって,法56条の定める「事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」につき何らかの限定が付されることも予定されていないといわざるを得ない。 (エ) このように,法56条に規定する「その他の事由」についても事業に従属的に従事したこと又はこれに準ずるような事由に限定されると解することはできず,居住者が生計を一にする親族に対し支払った対価に相当する金額は一律に必要経費に算入されないと解すべきである。 イこれに対して,原判決は,法56条を「限定的に解釈しても,納税者たる事業者の親族が,従たる立場で共同で事業を行う場合や,形式的には独立の事業者かのような外観を作出しつつ実質的には納税者たる事業者に雇用されて当該事業に従事した場合には,その受ける対価については同条の適用があることとなり,これらの者の所得は少なくとも形式上は事業所得といわざるを得ない場合が生ずる余地もあることから,同条はこのような場合を想定して『各種所得』との用語を用いているとみるのが相当である。したがって,被告らの主張は,上記のような限定的な解釈を採ると,法56条にいう『各種所得』に事業所得が含まれなくなるとしている点に誤りがあり,採用で 所得』との用語を用いているとみるのが相当である。したがって,被告らの主張は,上記のような限定的な解釈を採ると,法56条にいう『各種所得』に事業所得が含まれなくなるとしている点に誤りがあり,採用できない。」(原判決33頁)として,排斥した。 ウしかしながら,上記のような解釈が,条文の通常の読み方からかけ離れたものであることは多言を要しないところである。「各種所得」の意味を上記のように限定する根拠は全くなく,余りにも恣意的な解釈というほかない。 しかも,原判決の指摘する点は,以下に述べるとおり,意味不明であるか,前提を誤るものである。 (ア) 「従たる立場で共同で事業を行う場合」とは,意味不明である。 すなわち,複数の者が「共同で事業を行う」ことは理解できるが,ある者が別の者に対して「従たる立場」で「共同」で「事業を行う場合」がいかなる場合を想定しているのか理解に苦しむ。仮にこれを元請と下請のような関係であると善解したとしても,この場合は,それぞれが独立した事業者であり,原判決が述べる「従たる立場」にはなく,「共同」で「事業を行う場合」にも該当しない。 この「従たる立場で共同で事業を行う場合」とは,意味のない語句の羅列に過ぎず,現実には存在しないケースをことさら記載したものとしか考えられない。 (イ) 「形式的には独立の事業者かのような外観を作出しつつ実質的には納税者たる事業者に雇用されて当該事業に従事した場合」とは,実質を仮装した形式の存在を想定するものであるが,法の適用に当たっては,当然,このような仮装された形式を排除することとなるので,「雇用されて当該事業に従事した」者の所得は,原判決が述べる「形式上は事業所得」にはならず,給与所得になるのである。 適用に当たっては,当然,このような仮装された形式を排除することとなるので,「雇用されて当該事業に従事した」者の所得は,原判決が述べる「形式上は事業所得」にはならず,給与所得になるのである。 そうすると,法56条が「このような場合を想定して『各種所得』との用語を用いているとみるのが相当である。」とする判断は,「このような場合」がないこととなり,その前提を欠くこととなる。 エしたがって,控訴人らの上記アの主張には,何ら誤りはないのである。 (3) 原判決の「従事」「Aその他のB」の説示部分についてア(ア) まず,原判決は,法56条の「居住者の営む不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したこと」の意義に関し,「『従事する』との用語は,法律用語として定まった意義を有するものではないこと,国語的にも『仕事に従う』『仕事にたずさわる』『仕事としてその事に関係する』等やや漠然とした意義に解されているものの,自ら事業の中心となって行う活動には用いないと考えられること,旧法11条の2第2項及び法57条がいわゆる青色事業専従者の活動を指す用語として用いていることからすると,事業の一員として参加し又は事業に雇用される等従たる立場で当該事業に関係していることを指すと解すべきである。」(原判決24頁)と判示する。 (イ) しかしながら,「従事する」との用語が「自ら事業の中心となって行う活動には用いない」との前提自体,根拠が薄弱である。「従事する」という言葉は主体的に仕事を行うことを意味するのであって,決して「従たる立場」で事業に関係する場合に限られるものではない。例えば,新明解国語辞典(第4版)・570頁は,「従事」について,「その仕事に関係し,それを中心の仕事としていること。」と定義しており,事 「従たる立場」で事業に関係する場合に限られるものではない。例えば,新明解国語辞典(第4版)・570頁は,「従事」について,「その仕事に関係し,それを中心の仕事としていること。」と定義しており,事業における主従の関係は何ら問題とされていないし,広辞苑(第5版)・1259頁は,「従事」について,「仕事に従うこと。仕事にたずさわること。」とした上で,「建設作業に従事している」との文例を挙げており,ここでも事業との関係は全く問題とされていない。また,自営業者である弁護士が仕事を行うことを,「弁護士業務に従事する」ということは,国語の用法として全く不自然ではない。さらに,「従事する」との言葉が「従たる立場」を直ちに意味しないことを端的に示すのが共同事業の場合であり,共同事業者は,当該事業に従事しつつも,なお事業者としての主体的地位を失わないのであって,従事することによって従たる立場になるわけではない。 (ウ) 続いて,原判決が,上記のとおり,法57条等が「従事」との文言を青色事業専従者の活動を指す用語として用いているとの点については,その趣旨自体不明といわなければならない。同法56条の「従事」という文言自体が「従たる立場」を直ちに意味しないことは既に述べたとおりであり,それにもかかわらず,同法57条の「従事」についてのみ特別に解すべき合理的理由は存しない。確かに,同法57条の必要経費の特例の適用を受ける者は,同法56条の掲げる事業に従たる立場で関係する者に限られるのであるが,これは,同条の適用される場合が,青色事業専従者のうち,当該事業から「給与の支払を受けた場合」に限定されているからであって,当該事業に「従事」したことによるものではない(給与所得が非独立的労働ないし従属的労働の対価として観念されることにつき,最高裁昭和56年4月 「給与の支払を受けた場合」に限定されているからであって,当該事業に「従事」したことによるものではない(給与所得が非独立的労働ないし従属的労働の対価として観念されることにつき,最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁参照)。原判決はこの点を混同したものと解され,そうであるとすれば,原判決の上記判示は,この意味でも前提を誤っているといわざるを得ない。 イ(ア) 原判決は,法56条の「事業に従事したことその他の事由」との文言について,法令上,「Aその他のB」という表現を用いた場合,法令用語に関する文献は,Aがより広い意味を有するBに包含される関係にあるとする一方,AがBの例示であることも一致して認めるところである(原判決25頁)としつつ,「要件の後半部分の『その他の事由』については,被告らが主張するように全く無限定のものと解することは法令用語の常識にも反するものであ(る)」(原判決26頁)と判示するが,このような判示は趣旨が不明といわざるを得ない。 (イ) まず,原判決がいう「Aその他のB」という文言についての「法令用語の常識」なるものが,上述の「Aがより広い意味を有するBに包含される関係にあること」及び「AがBの例示であること」を指すのであれば,そのような法令用語の常識は,法56条の解釈に関する控訴人らの主張(法56条は,居住者と生計を一にする親族等が居住者の営む事業から対価を受け取る場合,その対価がいかなる事由に基づくものであるかを問わず,当該対価に相当する金額を必要経費に算入しないことを定めたものであるとの主張)とは全く矛盾しない。すなわち,控訴人らの主張は,対価が発生するような事由一般として「B」を理解し,そのような対価が発生する事由の一つとしての「事業に従事したこと」を上記の「A」と解する るとの主張)とは全く矛盾しない。すなわち,控訴人らの主張は,対価が発生するような事由一般として「B」を理解し,そのような対価が発生する事由の一つとしての「事業に従事したこと」を上記の「A」と解するものであるから,「Aがより広い意味を有するBに包含される関係にあること」は明らかであるし,「AがBの例示であること」とも何ら矛盾しないのである。 (ウ) あるいは,原判決は,「Aその他のB」との文言を含む規定の中には,地方税法の規定のように,Aという例示内容によってBの内容が解釈上限定される場合も存することから,これと異なる結論にある控訴人らの上記解釈が「法令用語の常識にも反する」というのかもしれない。しかしながら,控訴人らの主張においても,「A」「B」ともに対価が発生するような事由であることを要するのであって,その意味では無限定ではない。また,原判決の挙げるような地方税法の解釈が存したとしても,それは,同規定における「B」の法令解釈がそうだというにすぎず,「Aその他のB」との文言を含む規定において「B」をいかに解すべきかということは,当該規定の解釈問題である。それにもかかわらず,地方税法の規定に係る解釈が原判決の挙げるようなものであるからといって,それ以外の同種文言を含む規定において「B」を同様に解さなければならず,控訴人らのするような解釈は許されないとするならば,それこそ「法令用語の常識にも反する」ものであるといわなければならない。 (エ) さらにいえば,控訴人らの上記解釈は,法56条が「Aその他のB」との立法形式を採っていることのみを根拠とするものではなく,同条の他の文言や,改正の経緯,立法者の意思,シャウプ勧告などを検討した上で,それらを総合して上記結論に至っているのであるから,このような観点からも,控訴人らの同 ることのみを根拠とするものではなく,同条の他の文言や,改正の経緯,立法者の意思,シャウプ勧告などを検討した上で,それらを総合して上記結論に至っているのであるから,このような観点からも,控訴人らの同条の解釈が「法令用語の常識にも反する」などと論難されるいわれは全くない。 6 小括以上述べたとおり,法56条の規定を前提として,原判決のような限定解釈をとるには無理があるというほかなく,原判決は,同条に関する法令解釈を誤ったものというべきであり,原判決の上記限定解釈は,法文の解釈を超えた立法行為というべきであって,到底容認できない。 なお,法56条の適用について,原判決のような限定が付されると解した場合,課税庁は,親族等が,事業に「従たる立場」で参加したか否か,「あくまでも従属的な立場」で労務又は役務の提供を行ったか否か等を判断すべきことになるが,実務上,このような実質的判断を行うことは極めて困難であって,その意味においても,個別の事情のいかんにかかわりなく,同条が適用されると解すべきであり,原判決の限定解釈は容認し難い。 第3 本件各処分に重大かつ明白な瑕疵が存在しないこと 1 行政処分の無効事由について無効な行政行為である更正処分等に基づく誤納金については,納税者は,直ちに不当利得としてその返還を請求することができる(最高裁昭和52年3月31日第一小法廷判決・訟務月報23巻4号802頁)のに対し,更正処分等の違法性が無効ではなく,取り消し得べき瑕疵にとどまる限り,それは公定力のある有効な行政行為に基づき納付又は徴収された税額(過納金)であるから,基礎となっている行政行為が取り消され,公定力が排除されない限り,納税者は,不当利得としてその還付を求めることはできない(金子・前掲606頁)。したがって,無効な行 された税額(過納金)であるから,基礎となっている行政行為が取り消され,公定力が排除されない限り,納税者は,不当利得としてその還付を求めることはできない(金子・前掲606頁)。したがって,無効な行政行為と取り消し得べき瑕疵のある行政行為との区別が重要になるが,行政法の解釈上,行政行為に重大かつ明白な瑕疵のある場合に限り当該行政行為は無効となると解されている(田中二郎・行政法〈上〉138頁,原田尚彦・行政法要論〈全訂第3版〉154頁)。 この点,最高裁判所判例も,「国家機関の公法的行為(行政処分)はそれが当該国家機関の権限に属する処分としての外観的形式を具備する限り,仮にその処分に関し違法な点があったとしても,その違法が重大且つ明白である場合の外は,これを法律上当然無効となすべきではない」(最高裁昭和31年7月18日大法廷判決・民集10巻7号890頁)と判示し,行政行為の違法性が「重大かつ明白」な場合にのみ無効となることを繰り返し述べている(最高裁昭和43年10月31日第一小法廷判決・民集22巻10号2312頁)。また,ここにいう「重大かつ明白な瑕疵」は,「処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大・明白な瑕疵がある場合」を指すものと解されている(最高裁昭和36年3月7日第三小法廷判決・民集15巻3号381頁)。 2 本件各処分に重大な瑕疵は存在しないこと原判決は,本件各処分には,「現行法の根幹をなす個人単位課税の原則を採用する法の解釈適用を誤ったという点で重大な瑕疵が認められるというべきであり,課税処分については,更正についての期間制限等が規定されていること,徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお,不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として,その不利益を納税者に甘受させることは著しく不当 いての期間制限等が規定されていること,徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお,不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として,その不利益を納税者に甘受させることは著しく不当と解されるから,上記各処分は,いずれも当然に無効なものというべきであり,原告は,上記各処分の取消しを求めることなく,各処分の無効を主張して直ちに誤納金の返還を求めることができるものと解される。」(原判決35頁)と判示するところ,原判決は,個人単位課税の原則は租税法における極めて重要な原則であると理解しているようである。 しかしながら,法上,「生計を一にする」との文言が各所で用いられているところからも明らかなとおり,現行法は,個人単位課税を原則としつつも,個人のみならず当該個人と「生計を一にする親族」というファクターを含めて担税力を考慮することをも基盤としているのであって,換言すれば,生計を一にする親族という概念を用いて,租税負担の公平という観点から担税力を測定する上で消費単位に着目し,世帯単位課税を考慮することで個人単位課税の原則から生ずる不都合等を補完しているのであり,現行法上,個人単位課税の原則が解釈上も例外が許容されない絶対的なものであるというものではない。 そうすると,仮に本件において法56条の解釈に誤りがあったとしても,そのことから直ちに本件各処分が「重大な瑕疵」に当たると解することはできないのであって,原判決は行政処分の無効事由に関する法令の解釈適用を誤るものといわなければならない。 3 本件各処分に明白な瑕疵は存在しないこと行政行為の違法性の重大明白性の概念は,①主体に関する瑕疵,②手続に関する瑕疵,③形式に関する瑕疵,④内容に関する瑕疵,の4種類に分けて判断されるところ(田中・前掲143頁,原田・前掲157頁) 行政行為の違法性の重大明白性の概念は,①主体に関する瑕疵,②手続に関する瑕疵,③形式に関する瑕疵,④内容に関する瑕疵,の4種類に分けて判断されるところ(田中・前掲143頁,原田・前掲157頁),本件では,被控訴人に対する法56条の適用が問題とされていることからみて,④の行政行為の内容に関する瑕疵が争われていると解することができる。 内容に関する瑕疵については,従来,明白な信義則違反(最高裁昭和40年8月17日第三小法廷判決・民集19巻6号1412頁)や明白な事実誤認に基づく行政行為が無効とされてきたのであって,本件のように法解釈が関係する場合,一義的に明確な法解釈が存在し,一方の法解釈がそれに反していると判断される場合はともかく,一方当事者の法解釈が外見上一見して明白な瑕疵を帯びるなどということはほとんど考え難い。本件は,正に法56条の法解釈が争われているのであって,控訴人らの採用した法解釈の違法性が外見上一見して明白であるということはできない。 特に,従来の裁判例が,法56条は日本国憲法に違反しないと繰り返し判示している(最高裁平成10年6月16日第三小法廷判決・税務訴訟資料232号630頁,最高裁平成9年4月23日第一小法廷判決・税務訴訟資料224号1137頁,福島地裁平成4年10月19日判決・税務訴訟資料193号78頁,旧法11条の2につき名古屋地裁昭和46年8月30日判決・税務訴訟資料63号374頁)ことや,後記第4のとおり,本件に極めて類似する事案について被告課税庁の法56条に関する法解釈を是認した裁判例が存在することなどにかんがみても,本件のような課税庁の法解釈が,外見上一見して明白に違憲又は違法であるということはできない。 4 瑕疵の明白性の要件を不要と解すべき例外的事情が存在しないこと(1) 課税 などにかんがみても,本件のような課税庁の法解釈が,外見上一見して明白に違憲又は違法であるということはできない。 4 瑕疵の明白性の要件を不要と解すべき例外的事情が存在しないこと(1) 課税処分の違法性については,「当該処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであって,徴税行政の安定とその円滑な運営を斟酌してもなお,不服申立期間の徒過等による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが,著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には,前記の過誤による瑕疵は,当該処分を当然無効ならしめるものと解するのが相当である(最高裁昭和48年4月26日第一小法廷判決・民集27巻3号629頁,最高裁平成9年11月11日第三小法廷判決・裁判所時報1207号3頁)として,課税処分について,例外的事情がある場合には,明白性の要件を満たさなくても無効となる余地があるとも解されている。 (2) この点,原判決は,本件各処分には,現行法の根幹をなす個人単位課税の原則を採用する法の解釈適用を誤ったという点で重大な瑕疵が認められると判示する(原判決35頁)ところからすると,本件各処分につき,上記の例外的事情があると解しているようでもあるが,かかる判示は趣旨が不明といわざるを得ない。 すなわち,現行法は,個人単位課税の原則を採用しつつ,所得控除や事業所得の金額については,世帯単位課税を考慮することで個人単位課税の原則から生ずる不都合等を補完しているのであり,現行法上,個人単位課税の原則が絶対的であるというものではないから,世帯単位課税に関する法56条の解釈を誤ったということはできないし,また,誤ることが直ちに「現行法の根幹をなす個人単位課税の原則を採用する法の解釈適用を誤った」ことになるものではな ものではないから,世帯単位課税に関する法56条の解釈を誤ったということはできないし,また,誤ることが直ちに「現行法の根幹をなす個人単位課税の原則を採用する法の解釈適用を誤った」ことになるものではない(上記2参照)。 (3) また,足立税務署長は,本件各処分に当たり,更正通知書にその処分の理由を根拠条文を示して具体的に記載しており,現に,被控訴人はこれを不服として国税不服審判所長に対し審査請求をしている。そして,被控訴人には,当該審査請求に係る裁決書謄本の送達を受けた後,所定の出訴期間内に抗告訴訟を提起することによって,その適法性について裁判所の判断を求める方法が認められており,裁決を経た被控訴人にとって,本件各処分の取消訴訟を提起することに何ら支障がなかったのである。これらのことからしても,本件においては,「徴税行政の安定とその円滑な運営を斟酌してもなお,不服申立期間の徒過等による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが,著しく不当と認められるような例外的な事情」は存在しないというべきである。 5 小括以上のとおり,原判決には,本件各処分が無効とされる余地はないにもかかわらず,これを無効として誤納金の返還請求を認容した点で,看過できない違法があるというべきである。 第4 同種事案の裁判例において控訴人らの主張が是認されていることなお,本件と同種の事案として,弁護士業を営む納税者が同人とは独立して弁護士業を営む妻に支払った弁護士報酬の額が,納税者の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるか否か,すなわち,法56条の適用が争われた事件(東京地裁平成14年(行ウ)第82号)がある。 同事件は,東京地方裁判所民事第38部に係属していたところ,平成15年6月27日に判決 とができるか否か,すなわち,法56条の適用が争われた事件(東京地裁平成14年(行ウ)第82号)がある。 同事件は,東京地方裁判所民事第38部に係属していたところ,平成15年6月27日に判決言渡しがあり,法56条の解釈について,以下のように判示し,法56条の解釈に関する被告課税庁の主張を是認した。 「法56条が適用される要件は,同条の規定によると,①支払の対象者が『居住者と生計を一にする配偶者その他の親族』であること及び②支払の事由が『その居住者の営む不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合』であることの二つであることが,その文理上一義的に明らかである。その者の営む事業の形態がいかなるものか,事業から対価の支払を受けるその者の親族がその事業に従属的に従事しているか否か,対価の支払はどのような事由によりされたのか,対価の額が妥当なものであるのか否かなどといった個別の事情によって,同条の適用が左右されることをうかがわせる定めは,同条及び同法の他の条項に全く存在しない。したがって,前記の二つの要件が備わっている限り,このような個別の事情のいかんにかかわりなく,同条が適用されると解すべきである。そうすると,(中略)原告とP5(引用者注:原告の配偶者)が別個に独立した事業主であり,P5が原告の事業に従属的に従事しておらず,かつ,仮にP5の労務の対価として適正な額の本件弁護士報酬が支払われたものであって,恣意的な所得の分散がされているものではないとしても,原告の各年分の事業所得の金額の計算上,本件弁護士報酬の支払には,法56条が適用され,これを必要経費に算入することはできないというべきである。」(丙第14号証16,17頁)(以上)別紙2(被控訴人の当審における 業所得の金額の計算上,本件弁護士報酬の支払には,法56条が適用され,これを必要経費に算入することはできないというべきである。」(丙第14号証16,17頁)(以上)別紙2(被控訴人の当審における主張)以下の項目のうち,第1は,平成15年11月27日付け準備書面の1ないし3記載の主張を,第2の1ないし4は,答弁書の「控訴の理由に対する認否及び反論」第2記載の主張を,第2の5及び6は,平成16年2月9日付け準備書面記載の主張を,第2の7は,平成15年11月27日付け準備書面の4記載の主張を,第3は,答弁書の「控訴の理由に対する認否及び反論」第3記載の主張を,第4は,平成15年11月27日付け準備書面の5記載の主張を,それぞれ整理したものである。 第1 法56条の憲法14条1項違反 1 はじめに法56条の適用によって,所得税の申告において,税理士に対して支払った金員が経費となる者と,本件のように経費にならない者という差が生じており,この差は合理的区別であることを主張,立証しなければ控訴自体が失当である。 2 控訴人らの主張の問題点(1) 控訴人らは,弁護士が税理士に対して,業務を依頼し,報酬を支払った場合に全額が必要経費として弁護士の所得から控除されるのに,夫である弁護士が妻である税理士に対して業務を依頼し,報酬を支払った場合には必要経費としないという区別が存在していることを当然の前提としながら,その区別の程度が著しい差を生じているか否かについて全く主張をしていない。 (2) 控訴人らが法56条の合憲性の根拠として引用するいわゆる大島判決は,租税法の定立について控訴人らの主張と同様に国の裁量権を認めながら,その差についての具体的な判断をしている。このような具体的な判断を最高裁が行ったのは,その差が合理的か否かについて判 る大島判決は,租税法の定立について控訴人らの主張と同様に国の裁量権を認めながら,その差についての具体的な判断をしている。このような具体的な判断を最高裁が行ったのは,その差が合理的か否かについて判断したことを示すものであり,事業所得者の経費を実額で控除し,給与所得者の経費を概算控除するという法の規定の妥当性をこの差の程度によって判断するという姿勢を示しているのである。 第2 法56条の解釈について 1 法56条の文理上,限定解釈が予定されていないという主張について(1) 控訴人らは,次の根拠を挙げて上記の主張の根拠とする。 アすなわち,法56条の見出しが,「事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例」となっていることから,当該事業に従属的に「従事」すること又はこれに準ずることをうかがわせるような語句は使用されていない。そして,同条の文言上も,対価の性質により限定することの手掛かりとなるような文言は全く存在していない(この主張が成り立つためには条文の見出しは条文の内容をすべて言い尽くしているということが必要であるが,控訴人らはこの点について何ら言及していない。)。 イまた,旧法11条の2の改正の経緯からしても,限定解釈をすべき必然性は見当たらない。 ウそして,規定の一部適用除外をする場合に通常用いられている文言が用いられていないとした上で,国民の納税義務を規定する租税法規は,課税要件を明確にすることが要請されるから,条文に規定された事項の一部について,その規定の適用を除外又は制限する場合には,その除外又は制限するものを条文中に明確にするのが通例である。 (2) 控訴人らの主張の無内容性についてア控訴人らの主張は,法56条をはじめとする各規定の形式的文理解釈を行った結果,そのように解釈すべきで ものを条文中に明確にするのが通例である。 (2) 控訴人らの主張の無内容性についてア控訴人らの主張は,法56条をはじめとする各規定の形式的文理解釈を行った結果,そのように解釈すべきであるという主張にすぎず,原判決が判断の前提とした立法目的,立法時の大蔵省担当者の解釈等を全く無視するものであり,そもそも法解釈の基本的姿勢に誤りがある。すなわち,法を形式的に適用した結果,当初予定していない本件事例等のような不合理な現象が生じた場合には,その結果を回避するために立法目的と規制手段との関係等に思いを致すのが法を解釈運用する者の基本姿勢であることは明らかであり,控訴人らはこの姿勢を忘れている。 イこのような控訴人らの法適用についての誤った態度は,控訴人らが租税法規には明確性が必要であり,法56条には原判決のような解釈をする文言がないという主張にもよく現れている。 すなわち,租税法規の明確性が要求されるのは,そもそも租税法規が国民の権利を制限し,義務を課すという性格を有するためその課税要件は明確でなければならないという謙抑的姿勢の現れである。また,この明確性の原則が守られなければ課税基準が判然とせず,不明確な基準で課税することは要件の明確性を求めた租税法律主義の原則に反するということを意味するのである。そうすると,本件事例のように明らかに不合理な差別が生じている場合には,その差別を解消するために明文の規定がなくても限定解釈をすることは,国民に対する不当な課税を回避する手段として合理的である。 2 限定解釈をしないことに合理的理由があるという主張について(1) 控訴人らは,次の根拠を挙げて上記の主張の根拠とする。 ア所得分割への対処の必要性の観点からみた実質的合理性として(ア) 超過累進税率が採用さ 理由があるという主張について(1) 控訴人らは,次の根拠を挙げて上記の主張の根拠とする。 ア所得分割への対処の必要性の観点からみた実質的合理性として(ア) 超過累進税率が採用される場合には,納税者の所得を分割し,家族構成員に帰属させることによって,高い累進税率の適用を回避し,税負担の減少を図ることがしばしばみられるとし,その代表例は法56条が規定する資産所得等の分散である。 (イ) そして,シャウプ勧告では納税者の事業に家族構成員を雇用し,それに対し給与を支払う方法で,支給額を必要経費に算入することが行われているという事例を挙げている。 (ウ) さらに,実務上,事業者に金銭その他の資産を貸し付け,利子又は家賃の支払を受ける場合等,親族たる家族構成員が納税者の事業に雇用されていないときでも法56条を適用して処理している。 イ租税実務の観点からみた実質的合理性として(ア) 原判決が,「親族が,事業自体に何らかの形で従たる立場で参加」した場合に,法56条の適用があるというのは,基準が不明確であり大量的かつ迅速な処理が要求される租税実務における基準としては到底受け入れられない。 (イ) また,原判決は,「親族が,独立の事業者として,その事業の一環として納税者たる事業者との取引に基づき役務を提供して対価の支払を受ける場合」に法56条の適用がないとするが,別のところで「納税者たる事業者の親族が,従たる立場で共同で事業を行う場合や,形式的には独立の事業者かのような外観を作出しつつ実質的には納税者たる事業者に雇用されて当該事業に従事した場合には」,法56条の適用があるとも判示しており,実質的という基準が曖昧で租税実務における基準とはなり得ない。 (2) 控訴人らの法解釈における姿勢の問題点 事業者に雇用されて当該事業に従事した場合には」,法56条の適用があるとも判示しており,実質的という基準が曖昧で租税実務における基準とはなり得ない。 (2) 控訴人らの法解釈における姿勢の問題点ア控訴人らの主張は,法56条の立法理由については,自らの都合のよい部分のみを抽出して,他の立法目的や弊害があるとされた事例等との関連を無視して主張しているにすぎず,また,原判決の問題点として控訴人らが指摘した部分は,単に控訴人らが原判決を正確に理解しようとしないことから生じた誤解である。以下,控訴人らの主張の問題点を明らかにする。 イ所得分散への対応の必要性があることは,被控訴人も認めるところである。しかし,そもそも法56条が予定していた場合を越えて,本件事例について合算課税したことに問題があると主張しているのである。したがって,控訴人らの主張によっても,所得分散の代表的事例以外に法56条を適用することは,この「所得分散に対応する」という立法目的との関係で適用が許されるかということを検討しなければならない。ところが,控訴人らは,この点について全く検討していない。また,この点について,金子宏教授の文献を引用して,個人単位課税主義を採用している各国の所得税制の下では,このような所得分割に対処するために,多かれ少なかれ個人単位課税主義を修正し,世帯単位で所得計算を行う例外的措置ないしは折衷的措置がとられていることが少なくないとしている。そして,法56条は,このような個人単位課税主義を採用する累進税率所得の下で必然的に生じる現象である所得分割に対処することによって,事業所得者等と給与所得者等との税負担のバランスをとりつつ,租税負担の公平を目指し,租税制度に対する信頼性を維持しようとしているものであるという。 そもそも法56条 に対処することによって,事業所得者等と給与所得者等との税負担のバランスをとりつつ,租税負担の公平を目指し,租税制度に対する信頼性を維持しようとしているものであるという。 そもそも法56条は,個別課税主義を採用し,所得分割に対処するために,例外的に合算課税を採用したことは争いのないところであろう。そうすると,例外規定が当初の目的を越えた事例に適用されることは厳に慎まなければならないのであり,本件事例に法56条が適用されることの合理性について控訴人らは積極的に述べるべきであるのに,この点については何ら触れていない。 また,控訴人らは,過去において家賃収入等についても法56条が適用されていることを,法56条の適用は事業に雇用されることを要件としていない根拠とする。しかし,このような事例が所得分割の一つ一つのパターンと理解されることを意味するにすぎず,本件事例との関係ではこのような引用は無意味である。 ウ原判決の法56条の適用がある場合の基準が不明確で,大量的かつ迅速な処理を要する租税実務における基準となり得ないという点については,まず,控訴人らが,法56条が例外規定であり,その要件については原則と異なる適用を主張する控訴人らが要件の存在を明確にしなければならないということを失念したために,このような批判を行っているにすぎない。そもそもこの「何らかの形で従たる立場で参加」という要件は,「事業者から独立して自ら事業を営む者」との比較で検討されなければならない要件であり,このような独立性がない場合を表したものであって,独立性についての実質的判断を行うべきことを想定したものである。 なお,仮に大量かつ迅速な処理を行うために,要件を明確にする必要があるというのであれば,独立性を認める場合を事前に明確に規定すれば済む話であり,この ての実質的判断を行うべきことを想定したものである。 なお,仮に大量かつ迅速な処理を行うために,要件を明確にする必要があるというのであれば,独立性を認める場合を事前に明確に規定すれば済む話であり,この大量かつ迅速な処理の名の下に不平等な取扱いが許されるものでないことは明らかである。 3 原判決が「旧法下の所管官庁の理解」を誤解しているという主張について(1) 控訴人らの主張は,要するに,原判決は,引用する所管官庁の見解の解釈を誤ったものであるというものである。原判決は,旧法11条の2の文言から「所得」の範囲を限定していないようにも読み取れること,旧法の制定後間もない昭和28年の東京国税局直税部長により編集された同法の注釈書には,同条の趣旨について,親族が,その納税義務者の経営する事業に労務又は役務を提供している場合には,経費に算入しないという記載があることを指摘し,法56条を限定的に解釈する根拠としているが,それは誤りであるというのである。 (2) そして,その根拠として旧法の注釈書は納税義務者の経営する事業に労働又は役務を提供する場合のほかに,賃貸料,貸金利息等の名義の如何にかかわらずという趣旨が示されていることを挙げる。しかし,このような賃料等を経費としないことが立法経過から妥当かという控訴人らの判断は全くなく,そのような規定があることのみを根拠とする空疎な議論である。 (3) 限定解釈を認めるその他の根拠について控訴人らは,シャウプ勧告について独自の見解を述べるものであり,原判決についての批判とはならない。また,法56条が個別課税の例外を定めていることからすると,生計を一にするということから法56条が個別課税の原則を越えて,プールとシェアという概念によってこの個別課税主義を変更していると解釈することはできず,こ が個別課税の例外を定めていることからすると,生計を一にするということから法56条が個別課税の原則を越えて,プールとシェアという概念によってこの個別課税主義を変更していると解釈することはできず,このような立法政策を持ち出すこと自体,控訴人らの主張に根拠がないことを如実に示すものである。 4 原判決のその他の誤りについて(1) 控訴人らは,ここでも立法政策論を持ち出した上で種々述べているが,端的に言って,本件事案で控訴人らの主張するような課税をすることが具体的に妥当かということについては何ら触れられていない。法56条が「要領のよい納税者」の出現を防止する趣旨であるから,「要領のよい納税者」と認定される場合があることを被控訴人も争うものではない。しかし,本件事案で法56条が適用されることがいかに不合理であるかは多言を要しないことである。 (2) 法56条の「各種所得」は,その規定との関係で解釈上限定が付されなければならないことについては,その立法経緯から明らかであり,この規定を法2条1項21号と同一の解釈をとる必要性があるというのは,控訴人らの独自の見解にすぎない。 5 法56条の「その他の事由により」の解釈について(1) 控訴人らは,「その他の事由」とは,その前に規定されている「その居住者の営む不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したこと」という「従事したこと」という要件とは無関係に,事由のいかんを問わずすべての場合を意味すると主張している。 (2) この点について,被控訴人は,そもそも合算課税が例外的規定である以上,その例外の範囲は具体的に挙げられた不動産所得等の事業に従事したことと同一視することができるものでなければ,「要領のよい納税者の出現防止」という本条の趣旨を逸脱して,例外規定によって政策判断 以上,その例外の範囲は具体的に挙げられた不動産所得等の事業に従事したことと同一視することができるものでなければ,「要領のよい納税者の出現防止」という本条の趣旨を逸脱して,例外規定によって政策判断により個別課税主義を採用した原則の趣旨を没却するものとなり,控訴人らが主張する無限定な解釈は許されないと主張している。 (3) この被控訴人の解釈が正当であり,控訴人らの解釈が誤りであることは,法56条全体の構造からも明らかとなる。 すなわち,法56条は,各事業に従事している者の所得をその居住者の所得に合算課税することで生じる不都合を回避するため,合算課税の規定に続けて「その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は,その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額,事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上,必要経費に算入する。」と規定している。この規定には,「その他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」という文言が存在しない。このことを控訴人らの主張に基づいて解釈すれば,従事したという要件がなく,配偶者等の事業性が高い場合には,その配偶者等の経費とされるべきものが算入されないというかえって不合理な結果を招くことになる。そもそも法56条の例外規定性を無視して,従事しているという要件を外した場合に,より合算課税されることで不利益を被る度合いが大きくなるということは法56条の規定上不都合であることは明白である。そうであるにもかかわらず,このような規定になったのは,「その他の事由」とは,従事していることという要件を満たしているのと同様な関係であることという限定的な場合を想定していたからであると解さざるを得ない。したがって,「その他の事由」の場合もこの規定の適用によって経費とすることができることを前提とし を満たしているのと同様な関係であることという限定的な場合を想定していたからであると解さざるを得ない。したがって,「その他の事由」の場合もこの規定の適用によって経費とすることができることを前提としているといえる。 6「居住者と生計を一にする」文言の担税力について控訴人らは,「居住者と生計を一にする」という規定は,担税力を表すものとして,その他の規定でも多用されており,この基準によって合算課税することが認められるとする。しかし,課税単位についてどのような基準を採用するかという政策的判断において,国は個別課税主義を採用しているのであり,この原則を「居住者と生計を一にする」という文言で無視してはならないことは,法56条が例外規定であることから,明らかである。 また,控訴人らが挙げた,その他の「居住者と生計を一にする」という要件が定められているのは,原則として経費控除を認めるという納税者に有利な結果を導くための規定であり,法56条の適用とは異なることに注意しなければならない。したがって,法56条とその他の規定を同列に論じることはできないのであり,その他の規定で担税力を示すものとして作用しても,逆の効果,すなわち課税強化を生じる場合には,担税力を示すということが納税者に不利に作用するのであり,このことを合理的とする別の根拠が必要となるのであって,控訴人らの主張は,この点についての正当性について何ら論証していない不完全な主張である。 7 専修大学法学部教授増田英敏法学博士は,月刊「税務事例」平成15年12月号掲載論文(甲22)で本件事例について意見を述べており,その内容は原判決を正確に理解し,また,その理由を補強する意味があるので,以下引用する。 (1) 法56条の立法目的とその適正な解釈この立法目的については,主要な学説 て意見を述べており,その内容は原判決を正確に理解し,また,その理由を補強する意味があるので,以下引用する。 (1) 法56条の立法目的とその適正な解釈この立法目的については,主要な学説も同様の見解を示している。例えば,金子宏教授は,「親族が,納税者の事業に雇傭され,または納税者に金銭その他の資産を貸し付けた場合に支払を受ける給与または利子・賃料が,これに当たる。これは,家族構成員の間に所得を分割して税負担の軽減を図ることを防止することを目的をする制度である。」と述べておられる。 ここで本件の争点との関係で注意を要する点は,シャウプ勧告が,同居親族の資産所得は,「どのような場合にも納税者の申告書に記載させ,合算して課税する」とし,次いで,「納税者の経営する事業に雇用されている配偶者および未成年者の給与所得は,かれの所得に合算させるようにするべきであろう。」としていると述べている点である。 すなわち,同居親族の資産所得はいかなる場合にも合算課税することを,そして,資産所得以外の所得のうち「納税者との雇用関係にある親族への給与所得」についてのみ,納税者との合算課税を勧告しているのである。同勧告は,親族の資産所得及び給与所得に限定して,この個人単位課税制度の例外を設けるとしているのである。この点を十分理解された上で,金子宏教授も,「納税者の事業に雇用される場合に」受ける給与などがこれに当たる,と述べておられるのである。 シャウプ勧告は,いかなる場合にも同居親族の所得は合算課税されるべきであると勧告しているのではなく,個人単位課税を利用した「要領のよい納税者」の租税回避的な行為を排除する目的のために,例外としての合算課税を認めると勧告しているのである。まさに納税者の事業に雇用されている親族への給 いるのではなく,個人単位課税を利用した「要領のよい納税者」の租税回避的な行為を排除する目的のために,例外としての合算課税を認めると勧告しているのである。まさに納税者の事業に雇用されている親族への給与支払は,所得分散を利用した租税回避を招きやすいとの前提で,個人単位課税制度の例外的措置が必要であると指摘しているのである。同勧告のこの真意を踏まえて,先の金子宏教授は,同法が納税者の事業に雇用されている親族への給与支払及び資産貸付の対価支払を利用した租税回避的行為を防止するための例外措置であると理解されておられるのである。 そうすると,いかなる事由による所得も法56条の適用範囲に含められるとの控訴人らの立論は,立法目的を無視したものであり,同法の規定の意義を拡張した解釈といえるのではなかろうか。 同条の「事業所得等を生ずべき事業に従事したこと」との文言を素直に文理解釈すると,この立法目的に対応する適用範囲が導出される。すなわち,事業に従事したことによる所得は,一般的には給与所得を意味するといえるのである。 (2) 個人単位課税の例外的措置としての法56条の適用範囲の射程立法の経緯をシャウプ勧告にさかのぼると,世帯単位課税から個人単位課税への移行に伴い,個人単位課税が招く恐れのある弊害を防止するために,旧法11条の2は個人単位課税制度の例外的措置として制定されたものと理解するのが妥当であろう。旧法11条の2の立法目的は,同法を継承する法56条の立法目的でもある。 法56条の立法目的は,資産所得及び給与所得による親族への所得分散を利用した租税回避的行為を防止することであることを,ここに確認すべきである。 木村弘之亮教授は,「この規定は,親族が個人単位課税制度を濫用することを防止することをその目 よる親族への所得分散を利用した租税回避的行為を防止することであることを,ここに確認すべきである。 木村弘之亮教授は,「この規定は,親族が個人単位課税制度を濫用することを防止することをその目的とする。この目的論から同規定を解釈すれば,妻Bが実父母から相続した店舗又は預貯金を,その夫である事業者Aに賃貸し又は融資する場合には,租税回避又は仮装行為がここにみられないので,同法56条は適用されるべきではないであろう。・・・(中略)・・・。その貸借契約の存在,契約の実施,賃借料の相当性及び賃借料の現実の支払が立証される限り,同条規定は適用されるべきではないであろう。なぜなら,法56条の規定は,家族構成員の間に所得を分割して税負担の軽減を図ることの防止すなわち租税回避又は仮装行為の防止を目的としている限りにおいて正当化されるのであって,その目的を逸脱して,個人の尊厳を基礎にする個人単位課税制度を侵害すべきではないからである。」と述べておられるが,立法目的を踏まえた租税法の解釈がいかにあるべきかを明示した有益な見解であるといえる。 この見解のエッセンスは,法56条が個人単位課税を原則とする現行法における例外的規定であることを前提にして,租税回避の防止という同法の目的を踏まえ,給与所得ばかりか親族間の資産所得の移転さえも,そこに租税回避や仮装行為が認定できなければ,法56条の適用はない,とされる点にある。さらに,立法目的を逸脱するような同法の解釈,適用は,個人単位課税が個人の尊厳を基礎に構成されたものであるところから禁じられるべきである,とされる。 法56条の立法目的が租税回避行為の防止にある以上,同法の適用範囲は,租税回避若しくは仮装行為であると認定される事例に限定される,と主張されるのである。この見解に賛同する。 な る。 法56条の立法目的が租税回避行為の防止にある以上,同法の適用範囲は,租税回避若しくは仮装行為であると認定される事例に限定される,と主張されるのである。この見解に賛同する。 なぜならば,現行所得税制度の例外的措置と位置づけられる法56条の適用範囲は,例外的措置であるゆえに厳格に解されねばならないことは当然であり,例外規定の適用範囲を,その立法目的を考慮することなく,拡張して解することは,所得税制度そのものに歪みをもたらす結果を招くからである。したがって,本件のように租税回避目的が認定されず,さらには独立性を有する税理士である妻への税理士報酬支払にまで法56条の適用があるとする控訴人らの主張は,立法目的を無視した不当な主張であるといわざるを得ず,到底受け入れられない。 (3)「その他の事由の」解釈と租税法律主義原判決が示した「Aその他のB」の解釈に賛成する。 控訴人らは,一般に法令において「Aその他のB」という表現を用いる場合は,Aはより広い意味を有するBに包含される関係にある旨を示し,BがAに準じるものに限定されることを意味しないと主張する。しかし,裁判所は,その解釈も成り立つことを示したうえで,「AがBの例示であることもまた上記文献が一致して認めるところである。そうである以上,Bの部分の意味内容がそれ自体から明確でない場合には,その例示であるAの部分の意味内容に照らしてBの部分のそれを解釈するほかなく,その限度でBの内容がAの内容によって限定されたものとなることは避けられない」と判断を示した。 Bに相当する「その他の事由」の意味が解釈により明確にできない場合に限り,Aに相当する「事業所得等から生ずべき事業に従事した」という文言を「その他の事由」の例示として解することが妥当であるとしているの に相当する「その他の事由」の意味が解釈により明確にできない場合に限り,Aに相当する「事業所得等から生ずべき事業に従事した」という文言を「その他の事由」の例示として解することが妥当であるとしているのである。まさに妥当な解釈といえよう。この裁判所の見解に批判の余地はない。 租税特別措置法61条の4の交際費課税に関する規定の解釈をめぐり,松沢智教授は,「『その他の費用』とは『その他費用』と異なって,交際費以下の文言は例示ではあるが,その後に受けるその他の費用は,例示された費用と部分対全体の関係で同質のものの費用に限られる」と述べておられるが,本件裁判所の見解と同趣旨の解釈論を示されている。「Aその他のB」と規定する場合には,AとBは部分対全体の関係にあり,両者は同質のものに限定して解釈がなされるべきで,Bの範囲はAの例示により限定されるものである,と述べておられる。 そう解釈すべき理由は,まさに租税法律主義の要請に求められる。もし,当該規定を控訴人らが主張するように解釈すると,「その他の事由」の範囲は無限定になり,あえてその前の部分で具体的に「事業所得等を生ずべき事業に従事したこと」と具体的に対価の支払事由を明示した意義はなくなるのである。控訴人らの解釈をとるのであれば,法が前半部分で,あえて具体的な対価支払事由を明示する必要性はなくなる。対価支払を受ける場合にはその事由は問わず,すべて法56条の規定が適用されることになる。 これはすなわち,控訴人ら主張の解釈を採用すると,「その他の事由」を解釈により一義的に明確にすることができず,課税要件明確主義を要請する租税法律主義に抵触する。まさに,「その他の事由」が不確定概念と評価されることになる。 第3 本件各処分に重大かつ明白な瑕疵が存在することについて控訴人らの課税処 ず,課税要件明確主義を要請する租税法律主義に抵触する。まさに,「その他の事由」が不確定概念と評価されることになる。 第3 本件各処分に重大かつ明白な瑕疵が存在することについて控訴人らの課税処分は,法56条の解釈を誤るか,又は適用違憲ないしは法令違憲となるべき事例であり,重大かつ明白な瑕疵が存在することは明らかである。 また,控訴人らは法56条が憲法に違反しないことは最高裁判決で言及されているとする。被控訴人の請求が棄却されるためには,控訴人らは法56条が本件事案に適用されることを明らかにすることだけでは足りず,そのような適用の結果が憲法違反とならないということを主張立証しなければならない。 被控訴人は,本件事案に法56条を適用することが憲法14条1項に違反することについて,原審で詳細に主張している。この点について,控訴人らは法56条を合憲とした判例を引用しているのみであり,法56条を適用した結果生じる差について具体的主張を行っていない。そもそも,控訴人らが引用した判例は,いずれも法56条の適用事例としては問題のないものであったため,最高裁もその具体的内容について検討しなかったにすぎない。いわゆる大島判決において,最高裁は実額控除と概算控除の差について詳細に検討していることからしても,本件でも被控訴人の主張を前提としてもこの差が合理的なものであることを詳細に検討しなければならないことは明らかである。 第4 弁護士が妻である弁護士に対して報酬を支払った事例との差について1(1) 前記増田博士は,この点についても前記論文で次のようにコメントしているので,本件との違いを明らかにするために,以下引用する。 本判決と前後して下された法56条の適用の可否をめぐる事案において,東京地裁平成15年6月27日(民事第38部)判決は,弁護 トしているので,本件との違いを明らかにするために,以下引用する。 本判決と前後して下された法56条の適用の可否をめぐる事案において,東京地裁平成15年6月27日(民事第38部)判決は,弁護士である夫が,夫とは別に事務所を有し,生計を一にする妻である弁護士に支払った報酬に法56条の適用があるとの判断を示している(以下では,この判決と本件検討事案判決とを区別する必要性から,6月27日判決を民事38部判決とし,本件検討事案判決を民事3部判決とする。)。 同裁判所は,「法56条が適用される要件は,同条の規定によると,①支払の対象者が『居住者と生計を一にする配偶者その他の親族』であること及び②支払の事由が『その居住者の営む不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合』であることの二つであることが,その文理上一義的に明らかである。」として,同法の適用要件を確認したうえで,当該要件の適用に際しては,「その者の営む事業の形態がいかなるものか,事業から対価の支払を受けるその者の親族がその事業に従属的に従事しているか否か,対価の支払はどのような事由によりされたのか,対価の額が妥当なものであるのか否かなどといった個別の事情によって,同条の適用が左右されることをうかがわせる定めは,同条及び同法の他の条項に全く存在しない。したがって,前記の二つの要件が備わっている限り,このような個別の事情のいかんにかかわりなく,同条が適用されると解すべきである」との判断を示した。この判断を不服とした原告の控訴を,東京高裁も原審の判断を支持して退けた。 法56条の適用の可否をめぐる従来の裁判例では,居住者から報酬を得た親族の独立性が希薄であり,さらに親族以外の他人を使用する事業者との間に不 告の控訴を,東京高裁も原審の判断を支持して退けた。 法56条の適用の可否をめぐる従来の裁判例では,居住者から報酬を得た親族の独立性が希薄であり,さらに親族以外の他人を使用する事業者との間に不合理な差別をもたらし,憲法14条1項に違反するといった違憲性を争点とした事案のためか,納税者の主張はほとんど退けられてきた。 この民事38部判決も,従来の裁判所の判断を踏襲したものと位置づけることができる。 ところで,法56条の適用要件の該当性を吟味する際に,その対価支払の個別事情を考慮して判断せよとの文言が条文にない以上,個別事情を吟味することなく機械的に判断せよとの民事38部の判断は,説得力のある見解といえるのであろうか。筆者は,この判断に対して,とりわけ次の2点の疑間をここに提起しておきたい。 その第1は,民事第38部判決は,先に確認した法56条の立法目的を全く無視した判断であるといわざるを得ない。法56条は,個人単位課税制度を原則とする現行所得税制度の例外的措置を規定したものであるから,その適用範囲は厳格に確定されるべきである。この判断のように,立法目的を無視した規定の解釈・適用は,当該規定の適用範囲を拡大する結果を招く。 租税法の解釈・適用は,「課税の対象たる担税力ある所得とはもともと経済上の観念であるから,それは,税法の解釈に際しても,法文の文言だけにとらわれることなく,法の目的なり意思なりを探求し,税負担の公平を図るため,経済的意義および実質に則して判断し課税するという考え方に立つ」ことの重要性を確認すべきである。 立法目的を無視した形式的な租税法の解釈によっては適正な解釈を導き出すことは困難である。とりわけ本条のように複雑で難解とされる規定の解釈に際しては,立法目的を踏まえた慎重な解釈がな である。 立法目的を無視した形式的な租税法の解釈によっては適正な解釈を導き出すことは困難である。とりわけ本条のように複雑で難解とされる規定の解釈に際しては,立法目的を踏まえた慎重な解釈がなされるべきである。 その第2は,法上の必要経費の判断は,次の二つの基準により個別的に判断されるにもかかわらず,法56条による必要経費除外規定の適用については支出の個別事情は考慮されないと,なぜ解すことができるのか不明である。 すなわち,わが国の法は,不動産所得・事業所得・山林所得及び雑所得の金額の計算上は必要経費の控除が認められている。 それらの所得金額の計算上,控除が認められる必要経費の該当性は次の二つの基準により実質的に判断される。すなわち,ある支出が必要経費に該当するか否かは,①「支出の事業活動との関連性」と②「支出の事業遂行上の必要性」の二つの基準を充足した場合に認められるものであることを原則としている。必要経費に該当するか否かは,この①と②の二つの基準を用いて,個別的に支出金額の相当性や支出状況を実質的に判断していくのである。 ところが,必要経費の適用除外を規定する法56条の適用に際しては,文理解釈からすると個別的事情を考慮せよとの規定が存在しないと述べるのみで,なぜ,事業の形態やその支出金額の相当性といった,個別的事情の吟味が不要とされると解することができるのか,その解釈の合理性について全く説明がされていない。 特に,要件事実の認定の観点からも,弁護士が,弁護士である妻に,弁護士業務に対する弁護士報酬を支払った点,また,その報酬額が毎年定額であった点などを考慮すると,当該報酬の支払が弁護士業務に従事した妻への給与と認定できるのか否か,といった論点が十分に議論されるべきであろう。 (2) 本件事 払った点,また,その報酬額が毎年定額であった点などを考慮すると,当該報酬の支払が弁護士業務に従事した妻への給与と認定できるのか否か,といった論点が十分に議論されるべきであろう。 (2) 本件事案と夫である弁護士が妻である弁護士に対して経費を支払った事例(丙第14号証)との違いについて丙第14号証の事例の詳細は不明であるが,夫である弁護士は妻に依頼したどのような仕事の対価として手数料を支払ったのかという点についての主張が十分にされたのか不明である。この点について,夫の妻に対する支払が平成9年から平成11年までの3年間毎年金595万円と定額であること,この夫の妻に対する支払が妻の平成9年から平成11年までの総収入の4分の1を占めていたことからすると次のように考えられる。 妻の総収入は,平成9年から平成11年までの間,約2400万円程度あり,妻は夫と独立して,事務所を持ち,事務員,事務所諸設備,購入図書等にかかる経費を支払っていたというのであるから,弁護士の経費率が3割であると仮定すれば妻の総所得は金1680万円となり,経費率を4割と仮定すれば総所得は金1440万円となる(実際の課税所得はこれより低額となる。)。このことは,弁護士である夫が弁護士である妻に依頼した仕事の内容と,妻が夫から支払を受けた報酬が対価性を有する限り,本件事例と同一である。しかし,万一,その弁護士である夫が妻に依頼した仕事の内容と夫が妻に支払った報酬が対価性を欠くとすれば,妻に対価を支払うことで夫に対する最高税率の適用をその金595万円の限度で回避している可能性が残り,課税回避行為が存在すると解される余地がある。少なくとも,この点について十分に第1審で主張しておらず,課税回避行為の存在という疑念を払拭できないまま判決が下されたのではないかと思われる 可能性が残り,課税回避行為が存在すると解される余地がある。少なくとも,この点について十分に第1審で主張しておらず,課税回避行為の存在という疑念を払拭できないまま判決が下されたのではないかと思われる。 2 本件では,被控訴人は訴外P1と顧問契約を締結し,仕事の内容に応じた支払をしているのである。この税理士に対する支払は妻である訴外P1に対する支払でなければ,弁護士の経費として認められているのに,妻である訴外P1に対して支払った場合になぜ経費として認められないのかという素朴な疑問からこの訴訟が始まっている。また,訴外P1に対する対価の支払は訴外P1の所得を増加させるのであり,被控訴人がこのような支払をすることで,税理士報酬を受領した税理士であれば誰にその支払をしても起こる現象を生じさせており,何ら課税回避行為は存在していない。 (以上)
▼ クリックして全文を表示