主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,4584万8550円及びこれに対する平成25年12月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,2292万4275円及びこれに対する平成25年12月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告Cに対し,2292万4275円及びこれに対する平成25年12月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,平成25年12月1日富士山頂付近から下山中のDらが滑落した事故で,要請を受けてヘリコプターで救助に向かった静岡市消防航空隊が,Dに救助器具を装着し吊り上げ同機内に収容しようとしたが果たさず,同人を落下させ,同月2日同人が胸部及び頭部損傷兼寒冷死によって死亡するに至ったことに関し,同人の相続人である原告らが,同航空隊の救助活動に,①救助器具の選択を誤った過失,②救助器具の使用方法を誤った過失,③収容の際支障となる事態の確認を怠った等の過失,④適切な再救助をしなかった過失,⑤落下位置情報を適切に静岡県警察地上隊に伝達しなかった過失があるとして,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,逸失利益や慰謝料等の損害賠償及びこれに対する不法行為の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実(争いのない事実等) Dは,昭和33年11月26日生まれの男性であり,原告Aの夫である。 原告B及び原告Cは,同人らの子である。 滑落事故ア Dは,平成25年11月30 事実(争いのない事実等) Dは,昭和33年11月26日生まれの男性であり,原告Aの夫である。 原告B及び原告Cは,同人らの子である。 滑落事故ア Dは,平成25年11月30日6名でパーティーを組んで富士山行を企図し,同年12月1日午前10時ころ(以下,時刻のみの表示は同日のものである。)8合目(標高約3400m)に達し,体調不良で下山した者を除いて同所から4名で山頂を目指した。 イ Dらは,午前11時ころ9.5合目(標高約3600m)付近に達したが,天候不良等のため,登頂を断念し下山を始めた。その際,4名は,アンザイレン(2人以上が相互の安全確保のためにザイル(ロープ)で結び合うこと)をしていた。 ウザイルでつながれた1人が,午前11時10分ころ滑落したため,Dを含む3名もこれに引き込まれ,そのまま約250m斜面を滑落した(以下「本件滑落事故」という。)。同滑落後の現場(以下「滑落現場」という。)は,標高約3469mの地点であった。 Dらの救助ア滑落後,別の登山グループが,Dに付き添い,救助隊の到着を待ったが,天候の不安からこれらの者も,Dらを救助隊に任せて下山せざるを得なくなった。 イ静岡県警察航空隊(以下「県警航空隊」という。)は,連絡を受けて,Dらの救助のためにヘリコプターを出動させ,午後3時28分に本件滑落事故の現場に到着し,午後4時1分1名をヘリコプターの機内に収容したが,Dらそのほかの者を残した。 ウ静岡市消防航空隊は,静岡県の応援要請を受け,午後3時29分,3名からなる救助隊を滑落現場に派遣した。その構成は,ヘリコプター機長E,活動指揮者兼オペレーターF及び救助員Gであった(以下,それぞれ「E」,「F」,「G」といい,同人らを併せて「被告救助隊員」という。)。被告救 を滑落現場に派遣した。その構成は,ヘリコプター機長E,活動指揮者兼オペレーターF及び救助員Gであった(以下,それぞれ「E」,「F」,「G」といい,同人らを併せて「被告救助隊員」という。)。被告救助隊員は,午後4時2分Dの救助活動を開始した。 エ Gは,ホイストワイヤーに繋がれて午後4時7分Dの元に降下し,午後4時10分,Dに吊上げ用救助器具のデラックス・サバイバー・スリング(以下「DSV」という。)を装着し,Fは,Dに装着したDSVと救助員の装着したフルボディハーネス(安全帯)が連結するホイストワイヤーを巻き上げて2名を吊り上げ,Eはヘリコプターを現場から移動させ,斜面から遠ざかり,地表面から約200mの高度を保った。 オ被告救助隊員は,Dをヘリコプターの高さまで吊り上げたものの,通常の手順どおりヘリコプター内にDを引き込むことができず,引込みを繰り返すうち,Dの身体がDSVから抜け,Dは落下しかかった。被告救助隊員は,Dの落下を防ぎながらヘリコプターを下降させたが,午後4時13分ころ,Dは数m下の地表に落下した(以下,同落下地点を「落下現場」という。)。 カ被告救助隊員は,午後4時14分ころDを救助すべく,再度Gが地表に降りたが,DにDSVを装着することができないまま,気流の影響でヘリコプターのホバリング(空中で停止すること)が維持できなくなり,同日の救助を断念した。 Dは,平成25年12月2日午前9時ころ,静岡県警察地上隊により発見され,収容されたが,すでに胸部及び頭部損傷兼寒冷死により死亡していた(甲3)。 3 争点及び当事者の主張 救助器具としてDSVを選択したことが過失に当たるか(争点1)。 ア原告らの主張DSVについて,静岡市消防局航空消防活動要領 た(甲3)。 3 争点及び当事者の主張 救助器具としてDSVを選択したことが過失に当たるか(争点1)。 ア原告らの主張DSVについて,静岡市消防局航空消防活動要領には,①要救助者が体力を消耗しているときなどは,股下シートを要救助者の股に通して吊上げを行う必要があること,②吊上げの際,要救助者にDSV側面の取っ手を掴ませることなどが定められている。 本件で,①当時Dは,本件滑落等により体力を消耗していたから,DSVを使用するのであれば,股下シートを装着して落下防止を図る必要があったが,Dは下半身をブリザードパック(寝袋型の保温用具)に包まれ,股下シートを装着できないとGは判断しており,②当時Dの左手には包帯様のものが巻かれており,取っ手を掴むことができなかった。以上の状況においては,被告救助隊員は,救助器具として,DSVではなく,当時救助ヘリコプターに積載していたエバックハーネス等の水平吊救助資機材を選択すべきであった。しかし,被告救助隊員は,前記のとおり本件では不適切なDSVを選択した。 イ被告の主張 静岡市消防航空隊のヘリコプターは,最大全備荷重の状態でホバリングできる最高高度が3109mであり,富士山9.5合目付近での救助活動には,人員ないし装備を減らす必要があった。また,現場の酸素濃度は通常の65%で,被告救助隊員は出動からわずか30分で標高3500m付近に達しているもので,いつ高山病の症状がでてもおかしくない状況下にあった。また,当時の現場は,気温が-12℃で,ヘリコプターの直下ではローター(回転翼)による強風(ダウンウォッシュ)を受け,体感温度は-34℃を下回るものであった。 救助員は,救助のためヘリコプターから地表に降りるに際し, ℃で,ヘリコプターの直下ではローター(回転翼)による強風(ダウンウォッシュ)を受け,体感温度は-34℃を下回るものであった。 救助員は,救助のためヘリコプターから地表に降りるに際し,その装着するフルボディハーネスのカラビナ(開閉口のある金属リング)をホイスト(巻上げ機)のフックに取り付け,ヘリコプターと接続した状態で,ホイストワイヤーが繰り出されることによって降下する。エバックハーネスを使用する場合,救助員は,前記カラビナからホイストフックを外す必要がある。これをホイストカットといい(あるいはフックカットという。),これにより救助員はヘリコプターと切り離される。 エバックハーネスは,その装着等に相当の時間を要する上,袋状の形 状をしているためヘリコプターのダウンウォッシュの影響下では,開披,装着が困難になる。このため,エバックハーネスの使用に当たっては,ヘリコプターが一時救助現場から離れ,要救助者にエバックハーネスを装着した後,収容のため改めて戻ってきたヘリコプターのホイストフックを救助員と要救助者のそれぞれのカラビナに繋がなければならない。 ヘリコプターが一時救助現場を離れた後,気流変動等が生じると,ヘリコプターの再進入ができなくなり,地上に救助員及び要救助者が取り残される危険がある。またヘリコプターが戻ってこられても,十分降下できないときは,救助員は長く繰り出されて空中で揺れるホイストワイヤーを取るという困難な動作を強いられる。 エバックハーネスを使用した場合,どんなに気流が良好であったとしても,救助員降下から要救助者吊上げ開始までの間に縛着作業以外にさらに少なくとも5分程度を要するし,その間気流の状態が悪ければ,幾度もの再進入を余儀なくされ,救助に30分以上を要する 好であったとしても,救助員降下から要救助者吊上げ開始までの間に縛着作業以外にさらに少なくとも5分程度を要するし,その間気流の状態が悪ければ,幾度もの再進入を余儀なくされ,救助に30分以上を要する場合もあるが,Dの救助当時,日没が迫っていた上,いつ気流が変動してもおかしくない状況であり,救助に使用できる時間は短かった。そして,エバックハーネスの使用に際しても,股下ベルトを通す必要があったが,いずれにせよブリザードパックのためDは当時これができなかった。これらの点から,本件では,Dの救助にDSV以外の救助器具を選択しうる余地はなく,被告救助隊員は,DSV以外の救助器具を選択すべき義務を負っていなかった。 本件で,県警航空隊が1名を救助した際,エバックハーネスを使用したが,救助に約30分を要した。県警航空隊の救助員は,エバックハーネスの使用に際してヘリコプターから切り離された後,ヘリコプターが現場に戻れなくなっても,ビバーク(緊急野営)技術等を有しており,自力で下山できるから,救助員及び要救助者が取り残されても一応対処 することができた。静岡県警察にとっては,ホイストカットの必要等が救助器具選択の支障にはならなかったのに対し,被告救助隊員はビバーク技術を有しておらず,ヘリコプターから切り離され現場に残ることは二次遭難を意味した。 被告救助隊員は,Dの救助に向かうに当たって,当時の天候,気温,日没時刻等を総合して,ホイストカットしないで救助活動する方針を全員で確認していた。 DSVの装着時,GがDにした胸バンドの縛着が不十分であったなどの過失があったか。またDに股下シートを使用すべきであったか(争点2)。 ア原告らの主張 DSVの胸バンドの縛着が緩いと,要救助者が落下する た胸バンドの縛着が不十分であったなどの過失があったか。またDに股下シートを使用すべきであったか(争点2)。 ア原告らの主張 DSVの胸バンドの縛着が緩いと,要救助者が落下する危険があるから,Gは,DにDSVを装着するに当たって,緩まないよう胸バンドを締める義務があった。しかし,Gは,同義務を怠り,胸バンドの締付けを十分にしないまま,FにDの吊上げを開始させた。その上,Gは,Dの吊上げ中に,胸バンドが緩みやすい状態を作ってはならないのに,Dの胸部周辺のフリースウェアを同人から外し,DSVの胸バンドがより外れやすい状態にした。 要救助者がDSVの取っ手をつかむことができない状態にある場合,股下シートを装着していないと要救助者がDSVから抜け落ちる危険がある。また要救助者が体力を消耗した状態にある場合は,要救助者に脇を締めることを期待できないから股下シートを装着すべきであるとされている。 当時Dの下半身を覆っていたブリザードパックは,縦長の袋状のもので,上部の口ひもは締めずに緩められた状態にあったから,G1名でも容易に取り外すことができた。現に本件救助活動の最中に自然に外れており,被告のいうようにしっかり施されていたとはいえない。 したがって,Gとしては,DSVの取っ手をつかむことができず体力を消耗していたDにDSVを装着する際,下半身のブリザードパックを取り外して股下シートを装着すべきであった。しかし,Gはこれを怠り,Dに対し,ブリザードパックの取り外しを試みもせず,股下シートを使用しなかった。 そして,Gは,Dの体がDSVから抜け落ちないように,Dに両手でDSVの取っ手をつかませ,又は体の前で両手を組ませるべき義務を負っていたのに,これらを試みることもなく, ートを使用しなかった。 そして,Gは,Dの体がDSVから抜け落ちないように,Dに両手でDSVの取っ手をつかませ,又は体の前で両手を組ませるべき義務を負っていたのに,これらを試みることもなく,Dの吊上げをFに指示した。 イ被告の主張 本件で,Dに装着されたDSVの胸バンドに緩みはなかった。 本件当時,Dのブリザードパックはしっかりと施されていたため取り外すことができなかった上,DSVの股下シートは,救助員が要救助者の身体を保持するなどの他の措置をとり得るのであれば必ず使用しなければならないようなものではなかった。地表で仰臥位の状態で自ら動くことのできない成人男性であるDに装着されたブリザードパックを,救助員一人が短時間のうちに取り外すことは極めて困難であった。したがって,当時Gに,救助の際,ブリザードパックを外しDにDSVの股下シートを装着すべき義務があったとはいえない。 午後4時14分ころに,Dのブリザードパックが外れ,現場付近で宙を舞っていたのは,ヘリコプターの強烈なダウンウォッシュにさらされたからであり,このことから,Gが救助当時Dのブリザードパックを容易に取り外すことができたということはできない。 DがDSVの取っ手をつかむことができなかったとしても,Gは,Dの上腕を包むように両腕で同人の体を保持していたのであるから,当時Gに,DにDSVの取っ手を掴ませるべき義務等があったとはいえない。 Gは,Dの胸元から飛び出していたフリースウェアを認めて,ヘリコ プターのローターに引っかかったり,エンジンの吸気口に詰まったりすることをおそれ,これを除去した。同フリースウェアの除去自体はヘリコプターの安全確保のため必要な行為であった。そして,もともとGは プターのローターに引っかかったり,エンジンの吸気口に詰まったりすることをおそれ,これを除去した。同フリースウェアの除去自体はヘリコプターの安全確保のため必要な行為であった。そして,もともとGはフリースウェアの上から胸バンドを装着したものではなく,フリースウェアを取り除いたことで,胸バンドが緩み,落下の危険が生じたことはない。 Dの体を機内に収容する際,その支障となる原因,事態を確認し除去し,収容動作中Dの腕が挙上することを防止し,引込みに当たってDSVのみを上に引っ張るような動作を避けるなど,的確な収容行動をとるべき義務を怠ったか(争点3)。 ア原告らの主張Dをホイストで吊り上げ,同人を機内に収容しようとした際,Dの足か何かがヘリコプターのスキッドかどこかに引っかかっており,通常の手順通り,Fが引き込み,Gが押し込むという単純な動作では収容できなかった。また通常の救助時と同様に要救助者を吊り上げたにもかかわらず,Dの体(腰,臀部)の位置はヘリコプターのフロアの高さからみて,やや低いところにあった。そして,Dはすでに疲労して体力が尽きていた上,身体正面のDSVの取っ手を握持して脇を締めることができず,両腕が上がるとDSVから抜け落ちる危険が大きくなっていた。 以上の事情の下では,被告救助隊員としては,Dの体を機内に収容する際,同人の体勢や引っかかりの原因を確認し除去する,収容動作中Dの腕が挙上するようであればこれを防止する措置をとる,そのほか引込動作に当たってはDに装着したDSVのみを上に引っ張るような動作を避けて,適切に収容すべき義務を負っていた。被告救助隊員はこれらを怠り,引っかかりの原因を確認し,これを解消しようとせず,漫然と同じ引込み(Gからは押込み)動作を繰り返した上,Dの両腕 ような動作を避けて,適切に収容すべき義務を負っていた。被告救助隊員はこれらを怠り,引っかかりの原因を確認し,これを解消しようとせず,漫然と同じ引込み(Gからは押込み)動作を繰り返した上,Dの両腕が上がってしまったのに落 下を防ぐ措置を講じることなく,Dの体を機内に引き込もうとし,最終的に,Fは,Dの体が通常より低い位置にあるにもかかわらず,高い位置からDSVの背部取っ手を持って強引に引き上げようとした。このためDの体がDSVから外れ,Dは落下した。 イ被告の主張Gは,Dを機内に収容しようとしたが,同人の体がどこかに引っかかった様子であり,引っかかりを外そうと試みるも,Dの下半身がブリザードパックで覆われ,パックの端が余ってだらりと垂れており,足元の確認ができなかった。同ブリザードパックを容易に外すことができなかったことFから,Dの足元は死角に入っており,引っかかり部分を確認することはできなかった。Gは,Dと向かい合って両手,両足で抱えており,同じホイストフックでつながっていたから,Dの足元は見えず,姿勢を変えることも視点を下げることもできなかった。 Fは,吊り上がってきたDの位置が,ヘリコプターのフロアに対してやや低いと感じたが,ホイストワイヤーは残り4cmまで巻き上げており,吊り上げに不足があったわけでなく,他の救助や訓練の場合と比べて高さに支障はなかった。 FがDの背後から両腕をDの両脇に差し入れて引き込み,同時にGが左手にヘリコプターの取っ手を持ち,右手でDの体を押し込む動作を開始したところ,前記のとおりDの体の何かが引っ掛かり,収容することができず,同じ収容動作を3回繰り返した後,FがDのDSVの取っ手を持って,Dの体を手前に引き込んだところ,DがDSVから抜けたのであ したところ,前記のとおりDの体の何かが引っ掛かり,収容することができず,同じ収容動作を3回繰り返した後,FがDのDSVの取っ手を持って,Dの体を手前に引き込んだところ,DがDSVから抜けたのであるが,DSV背部の取っ手は本来機内に収容するために要救助者を引き込むためにあるのであって,Fは本来の用途に従って取っ手をつかみ引込動作をした。同人は,同取っ手を引っ張り上げておらず,手前ないし横に引いた。 再救助時の過失の有無(争点4) ア原告らの主張被告救助隊員は,Dの一度目の救助の際に,DSVを選択したがDを落下させるに至ったのであるから,再救助にはエバックハーネス等の別の救助器具を選択すべきであったにもかかわらず,被告救助隊員は,再救助にもDSVを用いた上装着に失敗し,わずか数分で再救助を中止して現場を離脱した。再救助の際,Dの体からはブリザードパックが外れていたのであるから,エバックハーネスは装着可能であった。 被告救助隊員は,D再救助の際,Gの疲労を考慮して,救助員とオペレーターとの任務を交代させて救助を試みるべきであったが,漫然と疲労した救助員に地上降下させ再救助を試みた。 イ被告の主張 再救助に際しDSV以外の救助器具を選択する余地がなかったのは,前記イと同じである。 救助現場付近の地表は,凍結した緩やかな斜面で足に踏ん張りが利かず,酸素濃度は通常の65%しかなく,長時間の作業は急速に体力を消耗させるものであって,また被告救助隊員は出動からわずか30分で標高3500m付近に達しており,いわゆる高山病の症状がいつ出てもおかしくない状況であった。Gは,一度目の救助の際,体感温度-34℃を下回るダウンウォッシュにさらされ,低酸素状態での吊上げ時のDの保持 3500m付近に達しており,いわゆる高山病の症状がいつ出てもおかしくない状況であった。Gは,一度目の救助の際,体感温度-34℃を下回るダウンウォッシュにさらされ,低酸素状態での吊上げ時のDの保持,ヘリコプターへの収容動作を経て,疲労と低酸素のため,体力を消耗し,判断力も十全ではなく,再救助時Dに適切にDSVを装着することができなかった。さらに,再救助を試みたころ,ヘリコプターが気流の変化で揺れ始め,ヘリコプターのスキッドが3回ほど斜面に当たるなどし,機体の安定を保つことが困難になっており,Dの完全な縛着をする時間的猶予がなくなっていた。E及びFは,Gを収容する間もなく,宙づりの状態でいったん離脱した。 Gは,オペレーターとしての救助活動の実績がなく,また,救助失敗後であり,精神的に動揺しており,体力も消耗していた。そのような中で,機体の側方や後方の安全を確認し,ホイストワイヤーの繰り出しや巻き上げをするオペレーターを担当することは不可能であったため,Fと任務を交代することはできなかった。 落下位置情報を静岡県警察地上隊等に伝達すべき義務を怠ったか(争点5)。 ア原告らの主張被告救助隊員は,Dを最初の救助現場から約650m離れた地点に落下させたのであるから,同人の救助のため,静岡県警察地上隊に同人の位置情報を正確かつ確実に伝達すべき義務を負っていたが,これを怠り,静岡県警察地上隊にDの落下位置情報を速やかに伝達しなかった。Dが,午後7時30分頃より静岡県警察地上隊による救命活動を受けていれば,Dは救命された。 イ被告の主張静岡市消防航空隊は,Dの位置情報を正確に記録し,この情報を県警航空隊へ速やかに電話連絡し,救助活動の状況やDの位置を地図に落とし込むな れば,Dは救命された。 イ被告の主張静岡市消防航空隊は,Dの位置情報を正確に記録し,この情報を県警航空隊へ速やかに電話連絡し,救助活動の状況やDの位置を地図に落とし込むなどした。静岡市消防航空隊が,これに加えて静岡県警察地上隊に連絡をすべき義務までは負っていなかった。 上記各過失と損害との因果関係並びに損害の有無及び範囲(争点6)ア原告らの主張Dは,前記被告の注意義務違反により,落下現場に取り残され,死亡するに至った。これにより,D及び原告らは,各自以下の損害を受けた。原告らは,法定相続分に従い,Dの損害賠償請求権を各自相続した。 D 合計7736万1000円a 逸失利益 5186万1000円(百円未満切捨て)基礎収入(平成24年度源泉徴収票支払金額)788万6647円 生活費控除率 30%就労可能年数 13年(死亡時55歳,ライプニッツ係数は9.394)b 慰謝料 2400万円c 葬儀費用 150万円 原告A 合計4584万8550円aDの損害賠償請求権の相続分 3868万0500円b 近親者固有慰謝料 300万円c 弁護士費用相当額 416万8050円 原告B 合計2292万4275円aDの損害賠償請求権の相続分 1934万0250円b 近親者固有慰謝料 150万円c 弁護士費用相当額 208万4025円 原告C イ被告の主張原告らの損害の発生は否認する。 なお,Dの勤務先は定年が60歳であるから,61歳から67歳までの基礎収入は賃金センサスの平成25年男子 原告C イ被告の主張原告らの損害の発生は否認する。 なお,Dの勤務先は定年が60歳であるから,61歳から67歳までの基礎収入は賃金センサスの平成25年男子大学卒平均賃金を採用すべきであるし,生活費控除率は5割とすべきである。 また,静岡市消防航空隊ヘリコプターには,東京海上日動火災保険株式会社の航空保険が付保されており,同保険に基づき,原告らに対して,搭乗者傷害保険金として総額2750万円が支払われたから,損益相殺としてこれを控除すべきである。 過失相殺事由の有無等(争点7)ア被告の主張 Dの死亡について滑落による受傷の寄与度 Dの死因は,胸部及び頭部損傷兼寒冷死とされ,H医師の解剖所見には「頭部,顔部,体幹部,四肢の諸処で挫裂創と皮下出血を伴う暗紫色皮フ変色多数。胸部では左肋骨群に多発骨折。左胸腔内には約12mLの血液。前頭蓋窩では亀裂状骨折。外表の皮フは鵞皮様を呈する。左右心臓血に著明な色調差。胃粘膜に点状出血多数」と記載されている。 Dの直接の死因は寒冷死であるが,胸部の損傷も外傷性の呼吸不全を生じ,直接の死因となり得るものであり,頭部の損傷は,頭蓋内の著明な出血や脳挫傷等の粗大な所見を明らかには指摘できないが,骨折を伴っており死因となる可能性があるとされている。 前記のとおり,東京海上日動火災保険株式会社は,原告らに対し保険金2750万円を支払ったが,同金額は保険金額5000万円の55%に当たる。すなわち,要救助者側の利益優先の見地から滑落による外傷の寄与度を45%とみたものである。 しかし,滑落による傷害と寒冷曝露ではいずれも直接の死因となり得るため,死亡に各々同程度の寄与があったもの 救助者側の利益優先の見地から滑落による外傷の寄与度を45%とみたものである。 しかし,滑落による傷害と寒冷曝露ではいずれも直接の死因となり得るため,死亡に各々同程度の寄与があったものと考えるべきであるから,滑落による外傷の死亡結果に対する寄与度は50%を下回るものではない。 過失相殺等Dらの滑落事故について,以下の点が要因となった。 ① 救助隊山行が,救助活動を中心としたものから離れ,参加基準,条件等が曖昧になっていた。もとは搬出技術等向上目的であったのがその目的が曖昧になり,隊員はそれぞれの所属会では行けないところへ行けるということで,より困難なルートへ行きたい人がその目的で集まり,その中で参加者の登山歴,力量を正確に判断することができず,甘い判断で参加を認めたりしていた。 ② 準備やトレーニング,計画段階での綿密な打合せが行われなかっ た。特に氷化した雪面で使用する装備(アイゼン,ピッケル,ロープ等)につきパーティーとして統一した基準や認識がほとんどなく,また相互に点検もしなかった。打合せは,メール・電話で済ませ,トレーニングで話した程度であり,アイゼントレーニングも全体で1回(参加者個人がほかに1回)しただけで,参加者個人としてもパーティーとしても,ウインドクラスト(強風で表面が固く凍結した雪面)や氷化した富士山の想定に甘さがあった。 ③ パーティーとしての基本的な行動規範(行動中は基本的にはパーティを分けない等)が遵守されなかった。パーティーでは,登山途中体調不良者が出たとしても,その者を残してパーティーを分け,登山を続行することはない。本件では1名の力量不足を3名のベテランで補うことが想定されていたのに,ベテラン2名がリタイヤし では,登山途中体調不良者が出たとしても,その者を残してパーティーを分け,登山を続行することはない。本件では1名の力量不足を3名のベテランで補うことが想定されていたのに,ベテラン2名がリタイヤした後も中止しなかった。 ④ 本件で致命的であったのは,4人がアンザイレンしたことである。 アンザイレンする場合,1人が滑落しそうになった場合,他の者がこれを確保できる技量がなければならない。4人のうち,十分な登山経験があったのは1人だけでDを含む他の3人は,全員でアンザイレンすることの危険を認識しておらず,しかもアンザイレンしながら十分な確保をしなかった。 そのほか,Dらは,ヘルメットを装着しない等装備においても安全登山の観点から重大な過誤があり,冬の富士登山においてかならずなすべき準備を怠り自ら滑落の危険を招来したのであって,これら要救助者側の過失を損害賠償額の算定に当たって斟酌すべきである。 イ原告らの主張 滑落による傷害の寄与度H医師の解剖所見には「各事象の死亡への寄与度は推定の域内である が,寒冷曝露5割以上程度,胸部損傷5割以下程度,頭部損傷1割以下程度」とあり,寒冷曝露による死亡結果への寄与度が50%以上である。 Dに生じた頭部,胸部損傷は,滑落事故だけによるものでなく,救助活動時,ヘリコプターに収容できず斜面に落下したことによって生じたものも半分程度は寄与している。したがって,滑落事故による傷害の死亡への寄与度は約2割である。 過失相殺被告の不法行為は,静岡市消防航空隊がDをヘリコプターに収容する際,過失により同人を地上に落下させたことである。被告救助隊の救助活動に際し,Dが落下につながるような不適切な行動をとったことはない。D 告の不法行為は,静岡市消防航空隊がDをヘリコプターに収容する際,過失により同人を地上に落下させたことである。被告救助隊の救助活動に際し,Dが落下につながるような不適切な行動をとったことはない。Dらの登山方法が不適切であったことは本件不法行為とは無関係である。 Dの外傷を理由に寄与度減責をした上,登山方法の不適切を理由に過失相殺することは実質的に同じ事柄で二重に賠償額を減額するもので不当である。本件で仮に賠償額を減じるとしても,滑落時の外傷による寄与度減責にとどめるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提事実,証拠(証人F及びGほか後掲)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。 富士山及び高高度における特性ア富士山は,標高3776mであり,山脈等に属しないいわゆる独立峰である(乙6)。 イ富士山頂の平成25年12月の日最高気温の月平均値は-13.9℃,日最低気温の月平均値は-19.8℃であった(乙8)。また,富士山頂の同月1日午後4時の気温は-14.7℃であり,気圧は632hPaであった(乙9)。ミスナール改良計算式によると,ダウンウォッシュの風 速を毎秒10mとした場合,同外気温における直下の体感温度は-34. 4℃となり,その風速を毎秒25mとした場合-39.6℃となる(乙2・59頁)。 ウ冬の富士山頂付近では,西高東低の気圧配置が強まると,風速毎秒30mを超え40mに達することが珍しくない。富士山の平均風速は,平成14年12月に毎秒20.7mを計測し,平成15年12月には毎秒13. 9mを計測した(乙7)。さらに山頂付近では,猛烈な突風が吹くだけでなく,東側では乱気流で風の向きが変化する(乙5・9頁)。 年12月に毎秒20.7mを計測し,平成15年12月には毎秒13. 9mを計測した(乙7)。さらに山頂付近では,猛烈な突風が吹くだけでなく,東側では乱気流で風の向きが変化する(乙5・9頁)。 エ人は,短時間で高高度に達すると高山病を発症する危険がある。高山病の主な症状は,頭痛,吐き気,めまいであるが,運動失調,睡眠障害が現れることもあり,重症の場合には,脳浮腫や肺水腫を起こして死亡することがある(乙5・11頁)。 標高3500m付近では,計算上0.62気圧となり,そのような環境下で活動をする者は,気圧低下に伴う低酸素症を警戒しなければならない(SpO₂(経皮的酸素飽和度)でいうと,85%になるといわれている。)。 高度1万ないし1万5000フィート(約3000ないし4500m)では,有効意識時間は1時間以内とされるが,急激に高度が上がった場合や激しい運動を伴う場合,短時間であっても意識に影響を及ぼす可能性がある。また,低温下では,筋繊維の伝導速度や酵素活性の低下から,筋力や筋収縮速度が低下する。高度5000mの急性の低圧・低酸素環境下では,安静時であっても集中維持機能が低下するといった実験結果があるが,より低い高度であっても救助などの激しい労作を伴う悪条件下では同様なことが起きる可能性がある(乙1・21,22頁,2・58,59頁)。 オ気圧が下がると,ヘリコプターは揚力を得にくくなり,ホバリングで機体の安定を保つことが難しい(乙1・139頁)。 静岡市消防航空隊 ア静岡市消防航空隊がDの救助に使用したヘリコプター(Bell(ベル)412EP型)は,最大全備重量時の国際標準大気(ISA)におけるホバリング可能な最高高度(IGE)は3109mであった。また,最大全備重量時のホバリング 助に使用したヘリコプター(Bell(ベル)412EP型)は,最大全備重量時の国際標準大気(ISA)におけるホバリング可能な最高高度(IGE)は3109mであった。また,最大全備重量時のホバリング時横・背風限界は,地上610mで毎秒18m,地上1829mで毎秒15.43mである(乙1・5頁,4)。 イ本件救助当時,静岡市消防航空隊は,救助資機材として,サバイバースリング(SV),DSV,デラックスエバックハーネス,レスキュースリング(RS),ピタゴールを積載していた(乙1・7頁,13頁,14頁)。 救助器具ア垂直吊救助資機材垂直吊救助資機材は,主に要救助者が軽症の場合,又は救出に要する時間がない場合に使用される救助器具である。被告のヘリコプターが積載していた救助器具のうち,DSV(SV)及びRSが垂直吊救助資機材に当たる(乙A2・263頁)。 DSV(SV)(乙A2・87ないし94頁)DSVは,長さ約200cm,幅約15cm,重量約1.6kgの帯状のものであり,スリング本体,ワンタッチ着脱方式胸縛帯,落下防止用股下シート,Vリング(吊上げ金具),スリング本体外側取っ手からなる救助器具である。両端にVリングがついた帯状のスリングの内側に胸縛帯が付属しており,スリング中央外側の股下シート収納袋に同シートが収納されている。また,同スリングの中央,両端・中央間の両真ん中付近の各外側計3か所に,取っ手が付いている。 DSVの使用方法は以下のとおりである。スリング両端のVリングにカラビナを装着し,胸縛帯を輪の状態にして,要救助者の頭上から被せ,胸縛帯を胸元付近に位置させ,胸縛帯を締め付けて(以下「縛着」という。),要救助者を固定する。要救助者の吊上げに当たっては,救助員が 要救助者 帯を輪の状態にして,要救助者の頭上から被せ,胸縛帯を胸元付近に位置させ,胸縛帯を締め付けて(以下「縛着」という。),要救助者を固定する。要救助者の吊上げに当たっては,救助員が 要救助者に正対した状態で同人の頭を抱え込み,両足で同人の下腿足部を挟む(乙2・265頁)。 DSVの取扱説明書には,要救助者が体力を消耗しているときや子供の場合には,必要に応じて股下シートを取り出し,要救助者の股を通して,シート先端のカラビナをDSVのVリングに引っ掛けることが記載されている。 RSRSは,主に水難救助の際に使用される救助器具で,両端に連結カラビナがついた帯状のスリングであり,その内側にすり抜け防止用胸部ベルトがある。スリングを要救助者の両脇下に通し,胸部ベルトを締め付け,スリング外側中央に付いているカラビナにホイストフックを結合して吊り上げる(乙2・265頁)。 イ水平吊救助資機材水平吊救助資機材は,主に要救助者が重症の場合に使用し,また軽症であっても高齢者,子供,女性等の場合は恐怖心を和らげ安全に救出するために使用する救助器具である。ただし,垂直吊救助資機材に比しダウンウォッシュを受けやすく振れ回るおそれが大きいため,必要に応じ誘導ロープ等で振れ回り防止策を講じることとされている。被告救助隊員が積載していた救助器具のうち,デラックスエバックハーネス(エバックハーネス),ピタゴールが水平吊救助資機材に当たる(乙2・263頁)。 エバックハーネスエバックハーネスは,形状が袋状で,頸椎パッド,外側取っ手,左右D環,足部ベルト及び同ベルト先にあるO環,ストリングの両端にカラビナが付いたエクスプレスからなる。 エバックハーネスの使用方法は以下のとおりである。同ハーネ 椎パッド,外側取っ手,左右D環,足部ベルト及び同ベルト先にあるO環,ストリングの両端にカラビナが付いたエクスプレスからなる。 エバックハーネスの使用方法は以下のとおりである。同ハーネスを広げた上で,要救助者に上着のように腕を通させて羽織らせ,足部ベルト を股下に通して,左右D環及びO環をエクスプレスの片方のカラビナにいずれも連結し,エクスプレスのもう片方のカラビナをホイストフックに結合して吊り上げる。必要に応じて,頸椎パッドの取っ手に誘導ロープを取り付け,吊り上げ時の回転防止策を講じる(乙A2・266,267頁)。 ハーネスを広げる作業は,ヘリコプターのダウンウォッシュの強風下では困難であるため,エバックハーネスを使用するには,一旦ヘリコプターのホイストワイヤーから救助員のカラビナを外し(ホイストカット),救助員とヘリコプターの接続を断ち,装着が完了するまでヘリコプターを現場から離脱させる必要がある(弁論の全趣旨)。 ピタゴールピタゴールの形状は,逆三角形であり,左右上部に腕を通す輪が,下部先端には,股を通すベルト及びベルトの先の連結部がある(弁論の全趣旨)。ピタゴールは,ホイストカットをしないでも装着することができるが,展開するときその形状からダウンウォッシュの影響を強く受ける上,使用に際し,要救助者をピタゴール底辺部分に膝を立てさせて着座させる必要がある。 滑落事故の発生ア Dは,平成25年11月30日6名でパーティーを組んで富士山への登頂を開始し,同年12月1日午前10時ころ(以下,時刻のみの表示は同日のものである。)8合目(標高約3400m)に達したが,体調不良で2名が下山したため,I,Jほか1名とともに,同所から山頂を目指した。 年12月1日午前10時ころ(以下,時刻のみの表示は同日のものである。)8合目(標高約3400m)に達したが,体調不良で2名が下山したため,I,Jほか1名とともに,同所から山頂を目指した。 イ Dらは,午前11時ころ9.5合目(標高約3600m)付近に到達したが,天候不良等のため,登頂を断念し,下山し始めた。その際,同4名は,アンザイレンをしていた。 ウ午前11時10分ころ,Jが座り込む格好になって尻から斜面を滑り出 し,ザイルでつながれていたDらはこれに引き込まれ,そのまま約250m斜面を滑落した。滑落現場は,標高約3469m,山頂からみて南東方向の地点であった(乙2・3頁)。 滑落後,J及びDは意識があるものの歩行はできず,Iは意識がなかった(後に既に心肺停止していたことが確認された。)。事故を知った別の登山グループが,Dらに付き添って同所で救助隊の到着を待ち,Dの保温のためその下半身にブリザードパックを腹部付近まで装着したが,天候の不安からこの登山グループの者も,Dらを救助隊に任せて下山せざるを得なくなった(乙2・41ないし45頁)。 救助活動ア静岡県警察の救助等(乙1・10,11頁) 本件滑落事故後,午前11時14分,御殿場口9.5合目付近から4人が滑落し,男性一人は意識不明である旨の110番通報があった。県警航空隊は,遭難者救助のため,午後0時5分ヘリコプターで静浜基地を離陸した。 県警航空隊は,午後0時30分に現場に到着し,上空から遭難者を確認したが,午後1時7分,現場上空の気流の悪化と燃料補給のため,帰隊した。その直前の午後1時,富士宮署及び御殿場署の山岳遭難救助隊が,富士宮口5合目を出発した。 県警航空隊は,午後3時5分, が,午後1時7分,現場上空の気流の悪化と燃料補給のため,帰隊した。その直前の午後1時,富士宮署及び御殿場署の山岳遭難救助隊が,富士宮口5合目を出発した。 県警航空隊は,午後3時5分,燃料補給を終え,再度静浜基地を離陸し,午後3時28分に現場に到着した。そして,午後3時45分特務係を降下させ,Jにエバックハーネスを装着し,午後4時1分にJを機内に収容した。 イ静岡市消防航空隊の救助(乙1・13,14,18ないし20,305頁) 静岡市消防航空隊は,午前11時30分,本件滑落事故が発生したこ と及び出動要請の可能性がある旨情報提供を受け,午後3時14分,静岡県内航空消防相互応援協定に基づく正式の救助出動要請を受け,被告救助隊員を現場に派遣することとした。被告救助隊員及び静岡市消防航空隊は,現場付近の状況及び日没まで時間があまりなかったことから,救助員のホイストカット無しで救助活動をすることを決め,ヘリコプターから不要な救助器具などを降ろして荷重を軽くし,午後3時29分静岡ヘリポートを離陸し,午後3時45分滑落現場付近の上空に到着した。 滑落現場は,斜面が急ではなく平地に近い場所であり,積雪はあったが,一部地面が見えているところもあった(甲6,乙2・53頁)。 前記のとおり,県警航空隊は,午後4時1分Jを収容し,現場から去ったが,去り際に,静岡市消防航空隊に対し,無線で,現場は時折下降気流が発生するため注意が必要であると伝えた(乙2・48頁)。 被告救助隊員は,県警航空隊の救出完了及び滑落現場付近のヘリコプターの乱流がとれるのを午後4時2分まで待った後,滑落現場上空に接近した。接近時滑落現場上空は西の風約20ノット(風速約10m/秒)であったが,極端な乱流等はなかっ 出完了及び滑落現場付近のヘリコプターの乱流がとれるのを午後4時2分まで待った後,滑落現場上空に接近した。接近時滑落現場上空は西の風約20ノット(風速約10m/秒)であったが,極端な乱流等はなかった。被告救助隊員は,救助隊員の滑落等の二次災害や不意な乱気流等のおそれ等の気象状況を考慮して,DSVを使用してのホイストカットなしで救助活動をする方針を確認した。 午後4時7分,Gは,DSVを持ってホイストワイヤーにより降下し,午後4時8分滑落現場に到着した。GがDに声を掛けたとき,Dは頷き開眼していた。Dは,当時,仰向けで膝を曲げた状態であり(乙2・43頁),腹部から足部までブリザードパックに覆われ,額から流血し,左手に包帯を巻いていた。同ブリザードパックの大きさは,口周囲が約160cm,長さ210cmであり,Dの足先から85cm程度余った状態であった(甲5,乙1・68,69,103頁)。 Gは,DにDSVを装着する際,胸ベルトを締め付けた後,股下シー トを取り出して装着しようとしたが,Dの足部がブリザードパックで覆われていたため,股下シートをDの両膝下に回してホイストフックのカラビナに接続した。 Gは縛着完了の合図を送り,Fはホイストワイヤーの巻上げを開始した。Gは,Dと向かい合いその両腕を抱えるようにし,両足で腰付近を挟んでDを保持しながら吊り上げられた。一方Eは,斜面の反対方向にヘリコプターを水平に微速で前進させ,次第に斜面からの高度が増し200mに達した(乙2・21,49頁)。Gは,上がって体がヘリコプターのスキッドを通過した際,Dの胸付近でフリースウェアが風にばたついていたため,外れてローター等に巻き込まれることをおそれ,フリースウェアをつかみ,Fに手渡した(同・53頁)。Fはホ 体がヘリコプターのスキッドを通過した際,Dの胸付近でフリースウェアが風にばたついていたため,外れてローター等に巻き込まれることをおそれ,フリースウェアをつかみ,Fに手渡した(同・53頁)。Fはホイストワイヤーが残り4cmとなったところで巻上げを停止し,吊上げが完了した。Fは,その際,他の救助の機会や訓練時の吊上げに比して,ややDの位置が低いように感じたが,収容に支障があるとは判断しなかった。 被告救助隊員は,Fが,Dの背後から両腕をDの両脇に差し込んで引き込む動作を,Gが,左手でヘリコプターの取っ手をつかみ,右手でDの体を押し込む動作を,呼吸を合わせて同時にすることでDをヘリコプターに収容しようとした。ところがDの足背部がスキッドに引っかかっていたため,Dの体をヘリコプター内に引き入れることができず,同じ動作を繰り返したものの同様であった。そのとき,F及びGとも,Dの体を引き込めない原因がわからなかったが,二人の位置,姿勢からは,Dの足元を見ることができず,その原因を知ることができなかった。FはGが要救助者を押し込む時力が入らないためであろうと判断し,両腕をDの両脇から引き抜きDSVの背部の取っ手をもってヘリコプター内に引き込もうとした際,Dが両腕を挙上するに至り,DからDSVが外れた。Dの体は,Gの方へ倒れかかるようにして落下しかかった(乙1・ 116頁)。 Fは,スキッド上に立ち前屈状態で落下しようとするDの後ろ襟を両手でつかみ,またGは,両足でDの脇の下を挟んでDの保持し,落下を防いだ。DがDSVから外れたことの連絡を受けたEは,ヘリコプターをただちにスライド降下させ,安全にDを降ろせる場所を探しながら移動したが,午後4時12分ころ,ヘリコプターの機体が地上高約4m付近をホバリングして Vから外れたことの連絡を受けたEは,ヘリコプターをただちにスライド降下させ,安全にDを降ろせる場所を探しながら移動したが,午後4時12分ころ,ヘリコプターの機体が地上高約4m付近をホバリングしていたとき,Dが斜面に落下した(乙2・57ないし62頁)。Dが落下した地点(落下現場)は,溶岩石で滑りやすく,若干の傾斜があった(乙2・54頁)。 被告救助隊員は,Gを一旦機内へ収容し,状況の確認及び再救助の方法を検討した。その際,Gは,DからDSVが外れた理由について,胸ベルトの締付けが緩かったかもしれないこと,股下ベルトを通すことができなかったことを述べた(乙2・52頁)。被告救助隊員は,再救助において,ホイストカット無しのDSVによる再救助を選択し,午後4時14分,再度Gを落下現場へ降下させ,DSV縛着による再救助を開始した。そのころまでに,Dが装着していたブリザードパックは外れた。 GがDにDSVを装着しようとしたとき,Dは目をつむって顔をしかめており,DSV装着のためにDの上半身を起こそうとすると,顔をしかめて痛がった。しかし,Gは,それまでの疲労と低酸素のため,効率的に行動することができず,救助作業は奏功しなかった。Fは,GがDSVをDに縛着することができない模様を見ていたが,救助活動が続く中,気流の乱れが発生し,機体が左右に振れ右スキッド後部が三度ほど地面に触れるなど,機体の安定を保つことが困難になってきたため,退避を決断し,なお救助活動を続けるGにホイストカットを指示し,Gを残して,いったん機体が安定するまで退避しようとした。しかし,Gは,同指示を解さないまま,DにDSVを装着できない旨のサインを送り,E 及びFは,その機会における救助を断念し,Gを巻き上げながら上昇したが,午後4時19分,日没まで時間 た。しかし,Gは,同指示を解さないまま,DにDSVを装着できない旨のサインを送り,E 及びFは,その機会における救助を断念し,Gを巻き上げながら上昇したが,午後4時19分,日没まで時間がないこと及びGが疲弊していたことなどを考慮して,落下現場を離脱した(乙2・22,49,52,54頁)。 救助後の連絡状況静岡市消防航空隊は,午後5時30分ころ,県警航空隊へ現在のDの位置を連絡し,当該Dの位置情報は,平成27年12月1日ないし2日,県警航空隊から静岡県警察山岳遭難救助隊に伝達された(乙3)。 同山岳遭難救助隊は,午後7時30分ころ,滑落現場付近に到着し,心肺停止状態のIを発見したが,Dを発見することはできなかった(甲7)。同山岳遭難救助隊は,平成27年12月2日午前8時45分,心肺停止状態のDを発見し,K病院に搬送したが,死亡が確認された。 2 山岳遭難者の救助に際し,救助隊員らに課される義務山岳遭難者にあっては,現在地の状況ないし身体状態の悪化によって自力で下山が困難な状況にあり,早急に救助活動を実施する必要があるが,山岳遭難者に係る救助方法を決定するに当たっては,現場の状況,気象状況,救助に見込まれる時間,日没時間,要救助者の身体状態,救助隊員の人数・身体状態・携行する装備・応援の有無及び二次遭難に遭うおそれといった種々の事情を考慮しなければならず,かつ,これらの事情のうちには刻一刻変化するものがあるから,種々の制約があるだけでなく,変化するこれらの事情に応じてその都度臨機に対応しなければならないものであって,適切な救助方法の選択に当たっては,実際に救助に当たる救助隊員の合理的な判断に委ねるのが相当である。 また,前記認定事実のとおり,本件のような極めて高高度における山岳救助においては ないものであって,適切な救助方法の選択に当たっては,実際に救助に当たる救助隊員の合理的な判断に委ねるのが相当である。 また,前記認定事実のとおり,本件のような極めて高高度における山岳救助においては,救助現場の外気温・気圧が低く,また高高度への急上昇が必要となるから,これら外的要因が,救助隊員の身体能力や,思考・判断能力に大きな影響を及ぼす可能性は否定できない。これらの事情を考慮すれば,本件のよう な高高度における救助隊員の救助活動については,救助時の救助隊員及び要救助者が置かれた具体的状況に照らし,救助隊員が,救助に際して明らかに合理的と認められない方法をとった場合は,職務上の注意義務を欠いた違法なものとなるが,そうでない場合は,救助方法の選択等は救助隊員の合理的裁量に属し,違法とならないと解すべきである。 3 救助器具としてDSVを選択したことが過失に当たるか(争点1)。 被告救助隊員がDの救助を開始したのは午後4時2分であり,日没まで30分程度の時間しかなかった。エバックハーネスはヘリコプターのダウンウォッシュ下では装着が困難であるため,いったんホイストカットして,Gを現場に残して離れる必要があるが,被告救助隊員によるDの救助活動の際,不意の乱気流が生じる可能性があり,そうなるとヘリコプターは現場に戻られず,要救助者はもとよりビバークの技術を持たないGも二次遭難に至るおそれがあった。また,ピタゴールについても,ダウンウォッシュの影響を強く受ける上,展開したピタゴール底辺部に要救助者を膝を立たせて着座させて装着しなければならず(乙2・267頁),負傷したDに用いるには不適当であった。以上の事情の下では,本件救助活動当時エバックハーネスやピタゴール等の救助器具を使用すべき義務が被告救助隊員にあったということはできな らず(乙2・267頁),負傷したDに用いるには不適当であった。以上の事情の下では,本件救助活動当時エバックハーネスやピタゴール等の救助器具を使用すべき義務が被告救助隊員にあったということはできない。被告救助隊員が,ホイストカット無しでダウンウォッシュ下でも迅速な救助が可能な救助器具(DSV)を選択したことに過失はない。 原告らは,Dが当時体力を消耗しているもののブリザードパックを装着しており股下シートを使用できない状態にあったこと,またDがDSVの取っ手を両手でつかむことができない状態にあったことを踏まえると,その救助にDSVを選択すべきではなかったと主張する。 しかし,エバックハーネスやピタゴール等の水平吊救助資機材を使用することができなかったのは前記のとおりである。当時Dには意識があり,そうである以上,取っ手を両手でつかむことができなかったからといってDの救 助に,DSVを使用するのが不適切であったとはいえない。そのほか,原告らの各主張を検討しても,被告救助隊員がDの救助にDSVを選択したことが合理性を欠くものとはいえない。 4 DSVの装着時,GがDにした胸バンドの縛着が不十分であったなどの過失があったか。またDに股下シートを使用すべきであったか(争点2)。 Dに装着されたDSVの胸バンドの締付けが弱かったことを推認させる的確な証拠はない。本件救助中のDの落下について調査をした事故調査委員会の報告書(乙1・117ないし124頁)によれば,DSVについて,股下シートを使用しない場合には,通常程度の強さで胸バンドを縛着したとしても,要救助者からDSVが外れることがあるのであって,本件でDからDSVが外れたことをもって,GがしたDのDSV胸バンドの締付けが甘かったということはできない。 原告らは,D 縛着したとしても,要救助者からDSVが外れることがあるのであって,本件でDからDSVが外れたことをもって,GがしたDのDSV胸バンドの締付けが甘かったということはできない。 原告らは,DSV縛着後,GがDの胸付近からフリースウェアを取り外したため,胸バンドが緩んでしまった旨主張する。しかし,Gは,Dの胸付近にあったフリースウェアを保持し,Fに手渡したにすぎず,これによってDのDSV胸バンドの縛着が緩まったというのは証拠を伴わない推測にすぎない。GのDへの胸バンドの締付け方法に過失があったと認めるに足りる証拠はない。 原告らは,Dを吊り上げる際のDの姿勢について,取っ手をつかませたり,腕を組ませたりする必要があったと主張する。しかし,証拠(乙1・137頁,乙2・264,265頁)及び弁論の全趣旨によれば,要救助者がDSVから抜けないようにするには,要救助者が両脇を締めることが重要なのであって,取っ手をつかむことは単に要救助者がカラビナ等に指を挟まないようにするための措置にすぎないことが認められる。救助員は,DSV使用に際し,要救助者が自分で脇を締められることを確認する必要があるが,両手で取っ手をつかませる注意義務があるわけではない。本件で,Dが自分で脇 を締めることができたことは,実際にDを現場から吊り上げることができたこと,被告救助隊員がヘリコプターにDを収容する動作を開始するまでDがその姿勢を保持していたと認められることから明らかである。 ア股下シートについて,Dが当時体力を消耗した状態にあったことを踏まえると,Gとしては,Dの落下を防ぐためには股下シートを装着することがより適切であったということができる(それゆえGも一度は装着を試みた。)。 イしかし,前記認定のとおり,Dの救助開始時点で えると,Gとしては,Dの落下を防ぐためには股下シートを装着することがより適切であったということができる(それゆえGも一度は装着を試みた。)。 イしかし,前記認定のとおり,Dの救助開始時点ですでに日没まであまり時間がなかったのであり,気圧が低く,しかも現場は,突風が吹き,突然気流の乱れが起こり得る富士山頂東側であったから,低い位置でヘリコプターのホバリングを継続すること自体が,困難,墜落の危険を伴うものであった。被告救助隊員は,いつ乱気流,突風に見舞われ,機体が安定を保てなくなるのか全く見通しのない中で,一刻を争う救助活動が要求されたのである。現に,前記認定のとおり,県警航空隊のヘリコプターは午後0時30分に現場に至ったが気流の悪化等のため現場に進入することができず,また,Jを収容し現場を去る際,被告救助隊員に気流につき注意を喚起した。さらに,被告救助隊員の再度の救助の際,乱気流の中,ヘリコプターは,安定を保つことができず,Eは地上に降りたGにホイストカットを指示し,同人を残して一時現場離脱するという決断までした。最初の救助時,再度の救助の際にEが認識したような機体の不安定が生じたことを認めるに足りる証拠はない。しかし,それは回顧的にいえることであって,最初の救助時に,被告救助隊員が向後数分ないし十数分間風が安定していると予測し得たわけではない。 ウ Dのブリザードパックは,足部から腹部まで施されており,仰臥位で自ら動くことができず膝を曲げた状態にあるDについて,ダウンウォッシュの影響下においてG一人で短時間のうちに取り外すことは困難であったと 推認することができる。 原告らは,ブリザードパックが,最初の救助時,空中で自然に外れたことから,容易に外すことができたはずであると主張する。しかし,滑落事故 は困難であったと 推認することができる。 原告らは,ブリザードパックが,最初の救助時,空中で自然に外れたことから,容易に外すことができたはずであると主張する。しかし,滑落事故で身体の各所を受傷し,地面に足を曲げて横になっているDのブリザードパックを,素早く,Dに侵襲を与えることなく外すことが容易であったと認めることはできない。 エ DSVは,股下シートのないSVの落下事故を受け,改良製品として開発されたものであったが,股下シート自体は補助的なものとされ,必ず使用すべきものとされるわけではない救助器具であり(乙2・65頁以下,74頁以下),股下シートを通さなければ,要救助者を吊り上げることができず,容易に要救助者を落下させてしまうような器具ではない。 オ少なくとも,ヘリコプターの安定を保つことが困難な当時の状況下で,Gは,股下シートの装着に時間をかけるより,意識のある状態のDをDSVで一刻も早く吊り上げ,現場を離脱することを優先し,それがDの状態から可能であると判断したものであり,現に吊上げ自体は成功したことからすると,Gの判断は,前記気象状況下,要救助者の心身の状態に照らすと救助員としての合理的な裁量の範囲であったと認めることができる。 カ以上のとおりであって,GがDに股下シートを装着させなかったことにつき,過失があったと認めることはできない。 5 Dの体を機内に収容する際,その支障となる原因,事態を確認し除去し,収容動作中Dの腕が挙上することを防止し,引込みに当たってDSVのみを上に引っ張るような動作を避けるなど,的確な収容行動をとるべき義務を怠ったか(争点3)。 最初の救助時,ヘリコプターへの収容の際,Dの足背部がスキッドに引っかかっていたものであり,Fが,DSVの取っ手を引っ張っ 作を避けるなど,的確な収容行動をとるべき義務を怠ったか(争点3)。 最初の救助時,ヘリコプターへの収容の際,Dの足背部がスキッドに引っかかっていたものであり,Fが,DSVの取っ手を引っ張ってDを引き込もうとした直後,Dの体はDSVから抜けるようにして落下し始めた。しかし, Dの下半身は,ブリザードパックで覆われており,そのブリザードパックは,Dの足先85cmほど余った状態であった。そして,スキッドより上まで吊り上げた後のDの足元はダウンウォッシュの影響も受けていたと考えられるから,F及びGが,Dの足元を視認して,同人の足の位置及び状況を確認することは極めて困難であったと認められる。これに加えて,Fの位置,GがDと同じフックにつながっていたこと,収容動作を開始してからDがDSVから抜けるまで約10秒にすぎなかったこと(F証人,G証人)からすると,収容の際,Dの足をスキッドから外して,引き込むべきであったということはできない。 原告らは,GらがDの体を機内に収容しようとする際,漫然と同じ引込動作を繰り返し,Dの両腕が上がりDSVから抜け出してしまうのを防がなかったと主張する。しかし,Gらが,引込みに支障を感じたからといって,同じ動作を10秒位の間に2回,3回と繰り返したことが漫然と時間と機会を空費したことになるということはできない。腕が上がって抜けたことについても,ホイストワイヤーを巻き上げてヘリコプターの高さに吊り上げるまでDは腕が上がることなく,GもDの両腕を抑えていたが,収容動作に当たっては,Gは片手でヘリコプターの取っ手をつかみ,片手でDの体を押さなければならないのであって,同人の姿勢でDの腕の挙上を防ぐのは困難である。 またFにしても,背後から両手をDの両脇を差し込んで引き込む動作を繰り返したが,奏功 ーの取っ手をつかみ,片手でDの体を押さなければならないのであって,同人の姿勢でDの腕の挙上を防ぐのは困難である。 またFにしても,背後から両手をDの両脇を差し込んで引き込む動作を繰り返したが,奏功しなかったためDSV背部の取っ手を引いたのであって,これも収容行動として首肯し得る行為であったということができる。Dの腕が挙上したことが落下の原因となったが,被告救助隊員がこれを回避することは困難であったというべきである。 原告らは,FがDSVの背部中央の取っ手をもって上方に引き込んだことが脱落の原因になったと主張するが,同取っ手自体は引込みのために使用されるものであり(乙2・89頁),また,Fが上方に引き上げたことを認め るに足りる的確な証拠はない。 6 再救助時の過失の有無(争点4)再救助の際においても,前記3がって,被告救助隊員が,Dの再救助において,救助器具にDSVを選択したことには合理性が認められる。 また,原告らは,再救助の際,GとFとが役割を交代すべきであったと主張するが,当時,Gは,訓練以外でオペレーターを担当したことがなく,冬の富士山頂での救助も初めての経験であったから(G証人),この時機体の安全等を確認すべきオペレーターの役割を担うことは困難であったと認められる。Dの再度の救助時,GとFが役割を交代すべきであったということはできない。 7 落下位置情報を静岡県警察地上隊等に伝達すべき義務を怠ったか(争点5)。 原告らは,静岡市消防航空隊は,静岡県警察地上隊に,再救助の際のDの落下位置を伝達すべき義務を怠った旨主張するが,前記認定事実のとおり,静岡市消防航空隊は,落下現場の位置を県警航空隊に伝えたのであって,静岡市消防航空隊に,さらに静岡県警察地上隊に落下場所を伝えるべき義務があったと き義務を怠った旨主張するが,前記認定事実のとおり,静岡市消防航空隊は,落下現場の位置を県警航空隊に伝えたのであって,静岡市消防航空隊に,さらに静岡県警察地上隊に落下場所を伝えるべき義務があったとはいえない。 8 以上によれば,被告の行為はいずれも国家賠償法上違法とはいえず,その余の点について判断するまでもなく,原告らの本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 京都地方裁判所第1民事部 裁判長裁判官三木昌之 裁判官東尾栄子 裁判官守屋尚志
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