【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する。 理 由 被告人A弁護人佐藤正三上告趣意第一点は、「原判決は理由不備の違法があつて、 破毀すべきものと信ずる。原判決は其の理由に於
主 文 本件上告を棄却する。 理 由 被告人A弁護人佐藤正三上告趣意第一点は、「原判決は理由不備の違法があつて、 破毀すべきものと信ずる。原判決は其の理由に於て『被告人Aは昭和二十一年六月 頃食糧管理法違反で、居村a村駐在巡査B(当三十一年)の取調べを受け該事件の 為め同年八月若松区裁判所で罰金二千円に処せられた関係もあり、なお同巡査が酒 好きでよく村民の酒を飲み歩くといふので予てから同巡査に対し心中含むところが あつた。折柄昭和二十二年二月二十六日猟友仲間四名で懇親会を開き狩猟免許下附 で世話になつた同巡査を招待することになるや、同被告人はこの際同巡査に暴行を 加へて日頃の鬱憤をはらそうと考へ其の前日二十五日頃同村の青年Cに対し右酒宴 後同巡査を連れ出すから被告人Dと一緒に酒のいやしい同巡査を殴れと語らい、被 告人Dにもその旨伝へさせて同人等の賛成を得た。かくて……Aは手拳を以て同巡 査の頭部等を殴る等の暴行を加へ、因つて、同巡査に対し頭頂部挫裂創等の治療約 三週間を要する傷害を負わせたものである』との事実を第一審第一回公判調書中の 判示同趣旨の供述記載及以下四項目の証拠によつて犯罪事実を認定してゐる。刑事 訴訟法第三百六十条第一項には有罪の言渡を為すには罪となるべき事実及証拠に依 つて之を認めた理由を説明し法令の適用を示すべしと云ふことが規定されてゐるが、 此の規定の法意は、有罪判決を受ける被告人をして一面其の非行を認識反省させる とともに、刑罰の当然よつて来た理由を説明して、裁判の公正と威信とを維持する ことにあると信ずる。新憲法によつて、国民の自由権は一段と強化され、従来不当 な取扱を受け勝ちであつた被告人の地位が一段と保障されるに至り、刑事訴訟法の 精神は之と相侯つて一種の変更を受けるに至つた。日本国憲法の施行に伴う刑事訴 によつて、国民の自由権は一段と強化され、従来不当 な取扱を受け勝ちであつた被告人の地位が一段と保障されるに至り、刑事訴訟法の 精神は之と相侯つて一種の変更を受けるに至つた。日本国憲法の施行に伴う刑事訴 訟法の応急的措置に関する法律第二条は此のことを規定してゐるのであり、従つて - 1 - 刑事訴訟法第三百六十条第一項の規定の精神は新憲法の実施によつて、被告人の利 益の為めに一種の変更を受けたものと観るべきであると信ずる。 其処で原判決が左様な立場で為されたものであるか否かを検討すると、原判決は 其の理由の冒頭で『被告人Aは昭和二十一年六月頃食糧管理法違反で、居村a村駐 在巡査B(当三十一年)の取調べを受け罰金二千円に処せられた関係もあり……予 てから同巡査に対し心中含むところがあつた……』との事実を第一審第一回公判調 書中Aの判示同趣旨の供述記載によつて認めてゐるが、原審の援用した被告人Aの 第一審第一回公判調書記載の同人の供述を検討すると、予てからB巡査に対し、心 良からず思つてゐた原因は、被告人Aが同巡査の為めに処罰を受けるに至つたこと を原因としてゐるものではなく、同巡査が、酒の饗応を強制し職権乱用的行為の悪 癖あるのに公憤を感じたとの陳述があるのみであつて、判示の認定事実に照応する 証拠は存在しないのである。更に此点を検討すると、第一審第一回公判調書(第一 四四丁の冒頭)に、問、尚同巡査から右オート三輪車のウインドウガラスを毀され たこともある相ではないか 答、左様私の知らぬ間に、同巡査が私と一緒に働いて 居る者に私のオート三輪車を乗出させてウインドーガラスを毀させて来たのに私に 默つて匿して居ることがありました。問、以上の様なことから被告人は同巡査に対 し心中面白からざる思ひを抱いて居る相ではないか、答、左様なこともありました し又酒の只呑みをして歩いたりします 来たのに私に 默つて匿して居ることがありました。問、以上の様なことから被告人は同巡査に対 し心中面白からざる思ひを抱いて居る相ではないか、答、左様なこともありました し又酒の只呑みをして歩いたりしますので余り良い感じは持つてるませんでした。 とあつて如何にB巡査なるものが村民の嫌悪の的となつてゐたかが髣髴するのであ る。原審第一回公判調書(一九八丁)に依れば、問、同巡査の評判は如何であつた か 答、B巡査の評判は一般に悪いのです。それは同人が、酒好きで村内を歩き廻 り農家にも立寄つては酒があるかと酒を要求すると云ふので評判が悪いのです。問、 そうではなく同巡査の取締りが厳重だと云ふので、村民が嫌つたのではないか、答、 そうではありません、尚原審公判調書(二〇七丁)に依れば、問、同巡査に暴行し - 2 - たのは、結局のところは闇取引を摘発された恨の為めではないか、答、そう云ふ訳 ではありません、問、外に殴る理由は無いではないか、被告人は答へない、問、其 の晩酒席で同巡査に喧嘩を吹掛けた相ではないか、答、それはEの婆さんが病気で 寝てゐるので時刻も遅くなつたから巡査に帰らうではないかというと、同人がドロ ドロ云ひ出した丈で喧嘩ではありませんでした。云々とあり闇取引取調べの怨恨か らB巡査に暴行したのではないと云ふことが、第二審に於ては更に強調反覆されて おる。何れにしても、原審が其の判決の理由中被告人Aの犯罪行為の動機、原因を 説明した以上の判定事実は証拠に基かない判断であつて承服致し難いのである。然 し本件に於て問擬された刑法第二〇四条の傷害罪は目的罪でないから被告人の犯罪 の動機及び其の犯行の行はれた当時の情況は判示の必要がない、故に判示事実が証 拠に基かなくとも之は違法と云ふことが出来ないと云ふ論議もあり得ると思ふので、 以下此点に就いて検討する。旧憲法下に於ては、犯情 動機及び其の犯行の行はれた当時の情況は判示の必要がない、故に判示事実が証 拠に基かなくとも之は違法と云ふことが出来ないと云ふ論議もあり得ると思ふので、 以下此点に就いて検討する。旧憲法下に於ては、犯情の軽重を認定した理由は判示 を要せず(昭和七年(れ)第一六九二号)犯罪の動機は罪となるべき事実に非れば 必ずしも判示を要せず(昭和九年(れ)第一二七三号)と云ふ判例があるけれども、 是は旧憲法下に於て是認され得る議論であつて、新憲法の下に在つては其是非が更 に論定されなければならないと信ずる。犯情の軽重を極度に左右する特種な事情が ある様な場合には、この特殊な事由を判決の理由に説示することが新憲法の要請で あると信ずる。旧憲法下に於ても或種の事件で動機が実際上重大な意味を持つ様な ときは之を理由の中で説示するのが慣しとなつてゐた。本件は特にA被告人の動機、 即ち当時の客観的事情と被害者B巡査の行動に対する非難に出た行為であるか否か が犯罪の情状を決定すると信ずる。第一審及び原審公判調書に見られるA被告人の 前述の供述、被告人Dの同趣旨の供述証人Cの原審での同趣旨の供述は異口同音B 巡査の官吏としての行き過ぎた行動を指摘してゐる。公務員の職権濫用行為は新憲 法下法の厳禁するところである。之に反省を促すことは国民に与へられた権利であ - 3 - る。請願法が施行せられる前に本件の生じたこと、村民の憤りを憤りとして止むを 得ずして為されたこと等、斯様な特殊な事情に対する被告人の認識と動機に対する 判断は是非為さるべきである。仮令動機を判決理由に示す必要がないとしても、判 決理由に動機が説示されてゐる場合にはこれを認定する基礎となつた証拠は是非共 説示する必要があるものと信ずる。然るに原判決理由によれば『被告人Aは昭和二 十一年六月頃食糧管理法違反で、居村a村駐在巡査B(当三十一年)の 示されてゐる場合にはこれを認定する基礎となつた証拠は是非共 説示する必要があるものと信ずる。然るに原判決理由によれば『被告人Aは昭和二 十一年六月頃食糧管理法違反で、居村a村駐在巡査B(当三十一年)の取調べを受 け……罰金二千円に処せられた関係もあり……予てより心中含むところがあつた』 と判示し、動機を認定してゐるが此点に付いては何等証拠を説示してゐない。此点 に於て理由不備の違法があると信ずる。」というにある。しかし、およそ裁判に当 つては、犯罪の実体、態様、原因、動機、決意の強弱、実行の有無、結果の発生、 犯罪後の情況、被告人の性格、年齢、境遇その他の主観的客観的の一切の事情に亘 り詳細に審理判断することは望ましいことであるが、これらの事実を尽く判決書に 表示し且つこれを認めた証拠上及び法律上の理由を逐一説明することは、煩に堪え ないところであつて実際問題として到底なし得べきことではない。それ故、刑訴第 三六〇条第一項は「有罪ノ言渡ヲ為スニハ、罪ト為ルベキ事実及証拠ニ依リ之ヲ認 メタル理由ヲ説明シ、法令ノ適用ヲ示スベシ」と規定し、判決主文の因つて生ずる 理由の要点のみを説示するをもつて足るものとし一般に原則として犯罪の原因、動 機その他の罪となるべき事実に属しない事項については、事案の性質、軽重その他 の情況に応じて適宜これを説示するか否かを裁判官の自由裁量に一任したものと言 うべきである。そして判決理由の説示は必ずしも常に被告人の利益となるものでな いから、新憲法が施行せられ被告人の権利が保障されたからといつて、前記法条の 趣旨に所論のような変更を来すべき理由はない。それ故、所論の原因、動機につい て証拠を示さず、又はその証拠に瑕疵があるとしても、これをもつて判決に違法が あると言うことはできない。しかのみならず本件においては所論第一審第一回公判 - 4 - 調書を通 故、所論の原因、動機につい て証拠を示さず、又はその証拠に瑕疵があるとしても、これをもつて判決に違法が あると言うことはできない。しかのみならず本件においては所論第一審第一回公判 - 4 - 調書を通読すれば「以上の様なことから同巡査に対し心中面白からざる思いを抱い て居たようなこともあり云々」と被告人の供述として判示原因、動機を肯認するに 足る趣旨の記載もあるのであつて、原判決には所論のような違法はない。 同第二点は「原判決は判断遺脱の違法があつた点で破毀されるべきであると信ず る。原審公判調書によると(記録二〇四丁)其の晩一番酔つてゐたのはFGでB巡 査は大酒呑みだけに酩酊と云ふ程度酔はなかつたと思ひます、私も常に余り呑まな いのですが其の時は相当酔払ひました、とある。亦原審の認定事実によれば酒宴は 二月二十六日午後六時頃から十時頃まで約三時間余り催され被告人A等によつて行 はれた暴行行為は酒宴の帰途酩酊した同人等によつて為されたことも明かになつて ある。 以上によつて明かな点は被告人Aは酩酊の状態で右の犯行に及んだこと、このこ とを原審公判廷で主張したことの二点である。尚当夜相当酔つてゐたとしてもどの 程度酔つてゐたかが問題であるが、本件の様な暴力犯にあつては特に酩酊の事実が ある以上其の程度如何にかかはらずこれが犯罪の情状に重大な影響を与へるものと 信ずる。刑事訴訟法第三百六十条第二項は法律上犯罪の成立を阻却すべき原由又は 刑の加重減免の原由たる事実上の主張ありたるときは之に対する判断を示すべしと 規定してゐる。然るに事茲に出でない原判決は判断を遺脱した違法あるものとして 破毀すべきであると信ずる。」というにある。 しかし、所論の酩酊をもつて、直ちに心神喪失若しくは心神耗弱その他法律上犯 罪の成立を阻却し又は刑を減免する原由たる事実とは認め難いばかりでなく、原 として 破毀すべきであると信ずる。」というにある。 しかし、所論の酩酊をもつて、直ちに心神喪失若しくは心神耗弱その他法律上犯 罪の成立を阻却し又は刑を減免する原由たる事実とは認め難いばかりでなく、原審 においてかかる事由が主張せられた形跡は全然認めることができない。従つて原判 決には所論のような判断遺脱の違法はないのである。 同第三点は「原判決は判断遺脱の違法があつて此点で破毀されるべきであると信 ずる。原審公判調書(一九八丁)に依れば、問 同巡査の評判は如何であつたか、 - 5 - 答、B巡査の評判は一般に悪いのです。それは同人が酒好きで村内を歩き廻り農家 にも立寄つては酒があるかと酒を要求すると云ふので評判が悪いのです。尚同調書 (二〇七丁)に依れば 問、同巡査に暴行したのは結局のところ闇取引を摘発され た恨の為めではないか、答、そう云ふ訳ではありません、とある。更に原判決に於 て援用された第一審第一回公判調書中被告人Aの供述の一部を摘示すると、問、以 上の様なことから被告人は同巡査に対し心中面白からざる思ひを抱いて居る相では ないか、答左様なこともあり又酒の只呑みをして歩いたりしますので余り良い感じ は持つてゐませんでした、とあり、更に相被告人D、証人Cの原審公判調書記載の 供述によつてB巡査が赴任以来a村の農家を訪れ酒を強要する事実、農村の老若共 に是を憎悪してゐた事実、被告人Aは素性実直であるが村の為に同巡査の職権濫用 的行為に反省を促さざるを得ない様な機会に遭遇したことが明かに認められる。B 巡査が公僕であるべき官吏の義務に違反したことは勿論、其職権濫用行為によつて a村といふ地方自治体の秩序を乱したことは明かであつて此様な侵害に対して村民 各自は正当防衛の権利を持つてゐる。被告人Aの前述の第一審第一回公判調書並に 原審公判調書記載の供述は、B巡査の権限逸脱 つて a村といふ地方自治体の秩序を乱したことは明かであつて此様な侵害に対して村民 各自は正当防衛の権利を持つてゐる。被告人Aの前述の第一審第一回公判調書並に 原審公判調書記載の供述は、B巡査の権限逸脱の不法行為に対するa村農民全体の 公憤に依る反撃行為であり、猶此旨の事実上の主張であると信ずる。然るに刑事訴 訟法第三百六十条第二項は法律上犯罪の成立を阻却すべき原由又は刑の加重減免の 原由たる事実上の主張ありたるときは之に対する判断を示すべしと規定してゐる。 事茲に出でない原判決は判断遺脱の違法によつて此点で破毀を免れないと信ずる。」 というにある。 しかし、原審の公判調書を調べてみると、被告人又は弁護人が、原審において所 論の正当防衛の主張をしたことは、これを認めることができない。従つて原判決が、 この点について判断をしなかつたからといつて、所論のように違法があると言うこ とはできない。 - 6 - よつて、刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。 この判決は、裁判官全員の一致した意見である。 検察官橋本乾三関与 昭和二十三年三月十八日 最高裁判所第一小法廷 裁判長裁判官 斎 藤 悠 輔 裁判官 沢 田 竹 治 郎 裁判官 真 野 毅 裁判官 岩 松 三 郎 - 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