令和4(ワ)18830 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年1月31日 東京地方裁判所
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判決文本文26,761 文字)

令和6年1月31日判決言渡同日原本交付裁判所書記官令和4年(ワ)第18830号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和5年10月17日判決 原告株式会社空スペース 同訴訟代理人弁護士泊昌之 同小野沢庸 被告トヨタ自動車株式会社(以下「被告トヨタ」という。) 被告株式会社ジェイテクト(以下「被告ジェイテクト」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士田中昌利 同東崎賢治 同田島弘基 同鐙由暢 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、別紙被告製品目録記載の製品を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸出し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。 2 被告らは、別紙被告製品目録記載の製品を廃棄せよ。 3 被告らは、原告に対し、連帯して1億円及びこれに対する令和4年8月25日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、被告らに対し、被告ジェイテクトによる別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)の製造及び被告トヨタによる被告製品の使用及び譲渡が、原告が有する特許権(以下「本件特許権」という。)を侵害し、原告はこれにより損害を被ったと主張して、差止請求権及び廃棄請求権(特許法100条1項及び2項)に基づき、被告製品の製造、使用及び譲渡等の差止め並びに被告製品の廃棄を求めるとともに、共同不法行為による損害 り損害を被ったと主張して、差止請求権及び廃棄請求権(特許法100条1 項及び2項)に基づき、被告製品の製造、使用及び譲渡等の差止め並びに被告製品の廃棄を求めるとともに、共同不法行為による損害賠償請求権(民法719条、709条、特許法102条3項)に基づき、損害の一部として1億円及びこれに対する不法行為より後の日である令和4年8月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実等。証拠等は括弧で付記した。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。また、西暦で表記されている場合も含めすべて和暦で記載する。以下同じ。)⑴ 当事者(乙8、裁判所に顕著な事実)原告は、機械装置の設計、製作、施工、販売、修理及び輸出入を目的とする株 式会社である。 被告ジェイテクト(旧商号は光洋精工株式会社)は、各種ベアリング及びその部品の製造販売等を目的とする株式会社である。 被告トヨタは、自動車等の製造、販売等を目的とする株式会社である。 ⑵ 原告が保有する特許権について(甲1、2、33) 原告は、以下の特許権(以下「本件特許権」という。)を有する。 ア登録番号第3964926号イ発明の名称転がり装置、及びその製造方法ウ優先日平成17年11月30日(以下「本件優先日」という。)エ出願日平成18年10月17日オ登録日平成19年6月1日 ⑶ 特許請求の範囲について(甲2)本件特許権に係る特許(以下「本件特許」といい、本件特許の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)の請求項1及び請求項4の特許請求の範囲 ⑶ 特許請求の範囲について(甲2)本件特許権に係る特許(以下「本件特許」といい、本件特許の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)の請求項1及び請求項4の特許請求の範囲は、以下のとおりである(以下、訴訟経過に照らし、同請求項4に記載された発明を「本件発明1」、同請求項1に記載された発明を「本 件発明2」といい、これらを併せて「本件各発明」という。)。 ア請求項1「少なくとも1対の転送溝により構成される転送路と、転送路の間に転動自在に介挿させた複数の転動体により構成され、前記転動体は球体、もしくは両端に3次元曲面の角部を有する円柱、または円錐、またはたる形、または これらの複合曲面で形成されている転がり装置であって、片側の転送溝の少なくとも一部について転動体との間に作用する摩擦力を、対向する転送溝の転動体との間に作用する摩擦力に対し大きくすると共に、摩擦力を大きくした部分について転送溝の転送方向と直角方向の断面を、球体である転動体、もしくは球体以外の転動体の3次元曲面の角部と2点接触する形状とし、そ の接触角を転送路の他の部分に対し大きくした接触角変化路を形成したことを特徴とする転がり装置。」イ請求項4「少なくとも1対の転送溝により構成される転送路と、転送路の間に転動自在に介挿させた複数の転動体により構成され、前記転動体は球体、もしくは 両端に3次元曲面の角部を有する円柱、または円錐、またはたる形、または これらの複合曲面で形成されている転がり装置であって、転送路の一部に転動体が一方の転送溝のみに当接する無負荷領域を生成し、かかる一方の転送溝の転送方向と直角方向の断面を、球体である転動体、もしくは球体以外の転動体の3次元曲面の角部、と2点接触する形状とし、その接 転動体が一方の転送溝のみに当接する無負荷領域を生成し、かかる一方の転送溝の転送方向と直角方向の断面を、球体である転動体、もしくは球体以外の転動体の3次元曲面の角部、と2点接触する形状とし、その接触角を転送路の他の部分に対し大きくした接触角変化路を形成したことを特徴とする転が り装置。」⑷ 本件各発明の分説について本件各発明を分説すると、以下のとおりとなる(以下、各構成を分説後の符号に従い、「構成要件1-A」などという。)。 ア本件発明1について 1-A 少なくとも1対の転送溝により構成される転送路と、転送路の間に転動自在に介挿させた複数の転動体により構成され、1-B 前記転動体は球体、もしくは両端に3次元曲面の角部を有する円柱、または円錐、またはたる形、またはこれらの複合曲面で形成されている転がり装置であって、 1-C 転送路の一部に転動体が一方の転送溝のみに当接する無負荷領域を生成し、1-D かかる一方の転送溝の転送方向と直角方向の断面を、球体である転動体、もしくは球体以外の転動体の3次元曲面の角部、と2点接触する形状とし、 1-E その接触角を転送路の他の部分に対し大きくした接触角変化路を形成したこと1-F を特徴とする転がり装置イ本件発明2について2-A 少なくとも1対の転送溝により構成される転送路と、転送路の間に 転動自在に介挿させた複数の転動体により構成され、 2-B 前記転動体は球体、もしくは両端に3次元曲面の角部を有する円柱、または円錐、またはたる形、またはこれらの複合曲面で形成されている転がり装置であって、2-C 片側の転送溝の少なくとも一部について転動体との間に作用する摩擦力を、対向する転送溝の転動体との間に作用する摩擦力に対し大き 形、またはこれらの複合曲面で形成されている転がり装置であって、2-C 片側の転送溝の少なくとも一部について転動体との間に作用する摩擦力を、対向する転送溝の転動体との間に作用する摩擦力に対し大き くすると共に、2-D 摩擦力を大きくした部分について転送溝の転送方向と直角方向の断面を、球体である転動体、もしくは球体以外の転動体の3次元曲面の角部と2点接触する形状とし、2-E その接触角を転送路の他の部分に対し大きくした接触角変化路を形 成したこと2-F を特徴とする転がり装置⑸ 被告らの行為について被告ジェイテクトは、被告製品を製造し、訴外株式会社IHIターボ(以下「訴外IHIターボ」という。)に譲渡し、訴外IHIターボは、被告製品を組 み付けたターボチャージャー(エンジンからの排気の圧力を利用して空気を圧縮し、圧縮した空気をエンジンに送り込む装置)ユニットを製造して訴外株式会社IHI(以下「訴外IHI」という。)を通じて被告トヨタに譲渡し、被告トヨタは、当該ターボチャージャーユニットを組み付けた型番G16E-GTSのエンジンを搭載した「GRヤリス」と称される自動車(以下「被告自動車」 という。)を販売している。 ⑹ 被告製品について(甲5、弁論の全趣旨)被告製品は、外輪、内輪、転動体である複数の玉及びその玉の保持器から構成され、玉が転がる外輪と内輪とで構成される軌道輪(なお、本件各発明の特許請求の範囲の記載では「転送路」と表現されている。)を形成しているアン ギュラ玉軸受と呼ばれる軸受(ベアリング)である(なお、「軸受」には、滑り 軸受と転がり軸受とがあるとされる(乙4)が、以下、「軸受」というときは、転がり軸受を指すものとする。)。被告製品がターボチャージャーユニットに ベアリング)である(なお、「軸受」には、滑り 軸受と転がり軸受とがあるとされる(乙4)が、以下、「軸受」というときは、転がり軸受を指すものとする。)。被告製品がターボチャージャーユニットに組み付けされた状態は、下記図のとおりであり、この状態においては、ターボチャージャーの2つのタービンが両端に固定されたタービン軸に、2個の被告製品のうちの各内輪が固定されて、タービンの回転に伴って回転し、2個の被 告製品のうちの各外輪は、支持ケース内に固定され、支持ケースとの間におかれたスペーサを介して、軸受間に設けられた圧縮バネによりタービン軸と並行に内輪及び外輪に予圧(軸受を押し付け合うように組み付けることでベアリングの内輪、転動体、外輪の接触部に弾性変形をあらかじめ与えておいて使用することをいう(乙1、2)。)がかけられている。この状態においては、転動体 である玉は、軌道輪内に配置されて部分的に囲まれて穴にはめ込まれる形で保持器によって、玉同士の間隔を常に一定に保持されたまま、外輪と内輪にはさまれており、玉と軌道輪の間には隙間がない状態になっている(以下、被告製品にこのような予圧がかけられている状態を、「予圧状態」ということがある。)。 なお、被告製品が本件発明1の構成要件1-B及び構成要件1-F並びに本 件発明2の構成要件2-B及び構成要件2-Fを充足することに当事者間に争いはない。 図 2 争点 ⑴ 被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか(争点1)ア構成要件1-Aの充足性(争点1-1)イ構成要件1-Cの充足性(争点1-2)ウ構成要件1-Dの充足性(争点1-3)エ構成要件1-Eの充足性(争点1-4) ⑵ 被告製品が本件発明2の技術的範囲に属するか(争点2) イ構成要件1-Cの充足性(争点1-2)ウ構成要件1-Dの充足性(争点1-3)エ構成要件1-Eの充足性(争点1-4) ⑵ 被告製品が本件発明2の技術的範囲に属するか(争点2)ア構成要件2-Aの充足性(争点2-1)イ構成要件2-Cの充足性(争点2-2)ウ構成要件2-Dの充足性(争点2-3)エ構成要件2-Eの充足性(争点2-4) ⑶ 無効理由の有無(争点3)ア本件各発明が、公然実施された発明と同一であるか(争点3-1)イ被告ジェイテクトは、先使用に基づく通常実施権を有しているか(争点3-2)ウ本件各発明が、発明の詳細な説明に記載したものではないか(争点3-3) エ本件発明2が、発明の詳細な説明に記載したものではないか(争点3-4)⑷ 原告の損害額等(争点4) 3 争点に対する当事者の主張⑴ 争点1(被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか)についてア争点1-1(構成要件1-Aの充足性)について (原告の主張)被告製品は、外輪、内輪及び複数の玉からなっており、外輪と内輪の間には転送路が形成されており、その転送路を玉が自在に転がることができる構造になっているから、構成要件1-Aを充足する。 被告は、本件発明1における軸受の構成は、「転動体同士の間隔を常に一 定に保つ保持器を備えない」ものに限定される旨主張するが、構成要件1- Aには、「保持器を備えないものに限定する」といった趣旨の文言は存せず、またそれをうかがわせるような文言も存しないし、本件明細書には「以上のとおり本発明によれば、意図した領域において転動体同士、またはそれらの間に装着する保持器やスペーサーボールとの接触を防げることにより、この接触に起因する競い合い、摩擦 ないし、本件明細書には「以上のとおり本発明によれば、意図した領域において転動体同士、またはそれらの間に装着する保持器やスペーサーボールとの接触を防げることにより、この接触に起因する競い合い、摩擦抵抗の増大、接触面の圧力上昇に伴う潤滑不 良、寿命低下、騒音振動の発生が改善される。」(【0028】)との記載もあり、転動体同士の間に保持器が配置されることを念頭に置いている。加えて、被告ジェイテクトが公表した論文でも「(保持器付き軸受を回転させた場合、)保持器の回転速度と玉の公転速度に差があることが分かる。これは、玉の保持器に対する進み遅れが発生していることを意味する。」等と指摘しており、 保持器付き軸受であっても、実際に当該軸受を回転させた場合には、転動体の公転速度は変化するから、同軸受について本件発明1の作用効果を奏することは明らかである。 これらから、構成要件1-Aにおける軸受の構成は、保持器を備えないものに限定されるものではない。 (被告らの主張)構成要件の解釈に当たっては、発明の作用効果が参酌されるべきである(特許法70条2項)。本件明細書では、転動体が負荷を受ける領域において個々の転動体の公転速度の微少な相違に起因した転動体同士の接触(以下、このような現象を「競い合い」という。)による問題を防ぐことを目的とす る従来技術として、転動体同士の間隔を常に一定に保つ保持器を備える軸受が存在するが、保持器は、摩擦抵抗を無くすものではなく、また、保持器の装着自体が、負荷ボール数の減少、生産性低下、耐環境性能の制約等の要因となるという欠点が指摘されている。その上で、各転動体の公転速度を調整し、転動体同士の間隔を変えることによって、上記作用効果を奏するという のが、本件発明1の技術的意義である。 等の要因となるという欠点が指摘されている。その上で、各転動体の公転速度を調整し、転動体同士の間隔を変えることによって、上記作用効果を奏するという のが、本件発明1の技術的意義である。 被告製品の転動体である玉は、保持器に保持されて、玉同士の間隔は常に一定に保たれ、これにより、玉が公転する際に、玉同士が接触することを防いでいる。このような保持器を備えた軸受において、転動体の公転速度を意図的に減速させたり、加速させたりして、転動体同士の間隔を変えようとしても、転動体は保持器に保持されているため、各転動体の公転速度や転動体 同士の間隔は常に一定であり、変わることはないから、各転動体の公転速度を調整し、転動体同士の間隔を変えることは、転動体同士の間隔を常に一定に保つ保持器を備える軸受では、実現不可能である。また、保持器によって、転動体同士の間隔は常に一定に保たれており、転動体同士が接触することはあり得ないから、「競い合い」という現象自体、転動体同士の間隔を常に一 定に保つ保持器を備える軸受では、生じ得ない。さらに、もし仮に、転動体同士の間隔を常に一定に保つ保持器を備える軸受において、何らかの方法によって、保持器にはめ込んでいる転動体の公転速度を意図的に減速させたり、加速させたりしようとするのであれば、保持器の転動体を囲っている部分の中で転動体を動かすことになるため、転動体と保持器との接触がかえって助 長されることになり、「摩擦抵抗の増大、接触面の圧力上昇に伴う潤滑不良、寿命低下、騒音振動の発生」という課題が逆に生じてしまうことも考えられ、競い合いの発生という課題を解決するという本件発明1の作用効果を奏しないことは明らかである。 加えて、本件明細書における実施例において、転動体同士の間隔を常に一 じてしまうことも考えられ、競い合いの発生という課題を解決するという本件発明1の作用効果を奏しないことは明らかである。 加えて、本件明細書における実施例において、転動体同士の間隔を常に一 定に保つ保持器を備えない軸受のみが開示されており、転動体同士の間隔を常に一定に保つ保持器を備える軸受については、記載も示唆もされていない。 したがって、構成要件1-Aでは、本件発明1における軸受の構成は、「転動体同士の間隔を常に一定に保つ保持器を備えない」ものに限定されるべきである。被告製品は、転動体同士の間隔を常に一定に保つ保持器を備えてい るため、構成要件1-Aを充足しない。 イ争点1-2(構成要件1-Cの充足性)について(原告の主張)被告製品は、外輪及び内輪の溝底径の差の2分の1である外輪と内輪との間の距離と、玉の直径を比較した場合、玉の直径の方が小さく、外輪転送溝は玉の公転軌跡を外側から囲む構造となっていることから、玉が公転すると、 玉は遠心力によって外輪側に押され、内輪側から離れる方向に動く。これは、転送路中に、転動体が一方の転送溝のみに接触するような無負荷領域が生成されているということであるから、被告製品は、構成要件1-Cを充足する。 なお、そもそもアンギュラ玉軸受であるからといって当然に予圧をかけるものではないが、その点をおくとしても、本件発明1は「物の発明」であり 「方法の発明」ではなく、構成要件該当性の判断にあたって、当該製品の使用者がどのように使用しているかどうかは考慮されないから、被告トヨタが予圧状態で被告製品を使用しているとしても、そのことで構成要件1-Cを充足しないとはいえない。 また、被告が行った解析についてみても、遠心力の有無を一切考慮してい ないという点に誤 ヨタが予圧状態で被告製品を使用しているとしても、そのことで構成要件1-Cを充足しないとはいえない。 また、被告が行った解析についてみても、遠心力の有無を一切考慮してい ないという点に誤りがあり、解析結果において前提とされている数値を基に当該遠心力を計算したところ、その遠心力の接触方向分力の値は約8.4Nであり、予圧によって内輪から球が受ける荷重である●(省略)●より大きいから、結局内輪と玉は接触しておらず、予圧状態においても無負荷領域が生じている。 (被告らの主張)原告は、被告製品に「無負荷領域」が生じていることについて何ら立証しておらず、被告製品が構成要件1-Cを充足するとはいえない。 なお、原告は、外輪の溝底と内輪の溝底との間の距離と玉の直径を比較して、玉の直径の方が小さいから、外輪及び内輪の溝底と玉との間に隙間があ り、したがって、玉が公転すると、玉が遠心力によって外輪側に押され、内 輪側から離れる方向に動き、玉が外輪側のみに接触する(隙間は内輪側のみになる。)ので、その部分に「転送路の一部に転動体が一方の転送溝のみに当接する無負荷領域を生成」していると主張しているものと解される。しかし、アンギュラ玉軸受である被告製品は、予圧状態にして、玉と内輪、玉と外輪とを弾性変形させて、内輪軌道溝及び外輪軌道溝と玉とのガタ(隙間) をなくした状態で使用されるのであって、被告製品の使用時には、玉と外輪軌道溝との接触点から玉と内輪軌道溝との接触点までの線は、軸受の断面の中心軸に対して傾き、接触角をもって、玉が外輪及び内輪と接触している。 原告が指摘する、外輪の溝底と内輪の溝底との間の距離と玉の直径を比較することは、無負荷領域の生成の有無とは全く関係がない。 むしろ、アンギュラ玉軸受であ 、玉が外輪及び内輪と接触している。 原告が指摘する、外輪の溝底と内輪の溝底との間の距離と玉の直径を比較することは、無負荷領域の生成の有無とは全く関係がない。 むしろ、アンギュラ玉軸受である被告製品は予圧状態で使用するものであり、玉と内輪、玉と外輪とが弾性変形して接触している以上、「転送路の一部に転動体が一方の転送溝のみに当接する」ものではなく、「無負荷領域」を生成しない。第三者機関に依頼して、被告製品を用いた本件自動車向けのターボチャージャーユニットの実際の使用条件に基づき、0回転及び軸受と して回転させた状態における玉と軌道溝との接触状態や負荷荷重について解析した結果をみても、常に内輪及び外輪が玉と弾性変形して接触しており、内輪及び外輪から、玉に対して、十分な荷重が負荷されている状態であって、「転送路の一部に転動体が一方の転送溝のみに当接する無負荷領域を生成しない」ものであった。 なお、本件発明の構成要件1-Cは、「転送路の一部に転動体が一方の転送溝のみに当接する無負荷領域を生成し、」というものであり、転がり装置が「生成し、」という文言の性質からして、「無負荷領域を生成」するような構成であるか否かは、軸受として機能する場合、すなわち軸受として使用される場合において、「無負荷領域を生成」するか否かが判断されなければな らない。被告製品は、予圧をかけなければ、外輪や内輪、玉及び保持器がバ ラバラになり、軸受として機能しないことは明らかである。 したがって、被告製品は、「転送路の一部に転動体が一方の転送溝のみに当接する無負荷領域を生成」しないため、構成要件1-Cを充足しない。 ウ争点1-3(構成要件1-Dの充足性)について(原告の主張) 軌道溝(特許請求の範囲の記載では「転送溝 送溝のみに当接する無負荷領域を生成」しないため、構成要件1-Cを充足しない。 ウ争点1-3(構成要件1-Dの充足性)について(原告の主張) 軌道溝(特許請求の範囲の記載では「転送溝」と表現されているもの)を円弧と仮定し、その円の半径が玉の半径より大きいときは、その箇所で1点接触が生じるが、軌道溝を円弧と仮定し、その円の半径が球の半径より小さいときは、軌道溝の中央部では接触が生じず、その両脇で2点接触が生じることになる。 オークションサイトに出品されていたターボチャージャーユニット中の被告製品の外輪の軌道溝について、軸方向の輪郭形状を軸受接触角-1.5deg~31.5deg の範囲で測定し、その軸(X)方向、及び半径(Z)方向で得た合計835個の座標値を11の部分に分割し(-1.5deg~31.5degの範囲につき、3deg 刻みで分割している。)、各部分を円弧と仮定した上で、 最小二乗法によって、その円の半径を測定した。その結果、「位相0」「位相1」「位相2」「位相3」とした外輪の4箇所のいずれにおいても、分割した11の部分のうち28.5deg~31.5deg を除く部分の複数箇所において、円の半径が玉の半径(本件では1.389mm)より小さく、言い換えれば2点接触する箇所があった。 なお、原告は、測定された円の半径(例えば1.354mmや1.361mmなど。)と、球の半径(1.389mm)との差異が0.001mm以上である場合に、当該位相において2点接触が生じていると判断しているのであり、当該差異が小数点第4位以下の値である場合は問題としていないので、原告の使用した測定機器の測定誤差が0.001mmであることは、その判 断に影響しない。 したがって、当該位相(位相0 異が小数点第4位以下の値である場合は問題としていないので、原告の使用した測定機器の測定誤差が0.001mmであることは、その判 断に影響しない。 したがって、当該位相(位相0ないし3)における、玉の進行方向と直角方向の断面が、2点接触する形状になっており、被告製品は、構成要件1-Dを充足する。 (被告らの主張)被告製品の転送溝の断面は全周にわたって単一の円弧であり、かつ、当該 円弧の半径(曲率半径)が玉の半径より大きいことから、幾何学上当然に、被告製品には本件発明1における2点接触が生じる形状は存在しない。被告製品の外輪は、「R1.472●(省略)●」と設計され、被告製品の外輪軌道溝は、単一円弧であり、その曲率半径は、1.472mmであり、その公差(許容される製造誤差の範囲)は●(省略)●であって、製造誤差が最も大 きい場合であっても、市場に出回る被告製品の外輪軌道溝の曲率半径は、●(省略)●(1.472mm●(省略)●)であり、玉の半径(1.389mm)より小さくなることはない。 原告が測定に使用した機器の測定誤差は、0.001mm以下とされ、小数点第5位までの値が記載されている原告の測定データの座標について小数 点第3位以下の値は保証されていない値であり、測定誤差が含まれる可能性がある。そして、これが原因の一つとなって、原告が行った測定結果のデータのうち、評価範囲とされている798個の座標を用いて原告の計算手法と同じ手法で求められる近似円と実際の計測データとの差分である「測定データのノイズ」が生じているが、原告の計算方法が評価範囲のデータのうち3 度という局所的な範囲のデータを用いて円の最小二乗法という近似計算している結果、「測定データのノイズ」は、原告の計算方法によって求め 」が生じているが、原告の計算方法が評価範囲のデータのうち3 度という局所的な範囲のデータを用いて円の最小二乗法という近似計算している結果、「測定データのノイズ」は、原告の計算方法によって求められる円の半径の値に大きな影響を及ぼしており、「測定データのノイズ」が含まれる原告の測定データに基づき、原告の計算方法により求めた円の半径の値は、玉の半径との比較対象として不正確なものであり、また、原告の計算方 法は円の半径の値が誤って小さく算出されるものである。したがって、原告 の測定結果は信用できない。 また、仮に原告の測定結果を前提としても、公転する玉同士の間隔を調整することができ、玉同士の接触(競い合い)を防ぐという本件発明1の作用効果は、軸受が動作する際(玉が公転する際)に奏するものであるから、被告製品は予圧状態で本件発明1の構成要件を充足するかを判断する必要があ るが、原告の測定結果は、予圧状態での測定結果ではない。 その上、「転送溝を単一の円弧と仮定」した場合であっても、前者の半径が小さい場合に2点接触するかは「2点接触」との文言が評価を含む概念である以上、定かではない。例えば、両者の半径の差がごくわずかの場合には1点しか接触していないと解すべきものも当然に含まれる。本件発明1におけ る「2点接触」(本件発明1の作用効果を奏する2点の接触、ひいては本件発明1における「無負荷領域」を生成していること)に該当するか否かは、「転送溝を(単一の)円弧と仮定」した場合の円の半径と玉の半径との単純比較で定まるものではない。 以上から、被告製品の軌道溝は、全ての位相において1点接触が生じる形 状であり、本件発明1における2点接触が生じる形状は存在しないから、構成要件1-Dを充足しない。 エ争点1 はない。 以上から、被告製品の軌道溝は、全ての位相において1点接触が生じる形 状であり、本件発明1における2点接触が生じる形状は存在しないから、構成要件1-Dを充足しない。 エ争点1-4(構成要件1-Eの充足性)について(原告の主張)一般に、外輪の形状が1点接触の生じる形状であるときはその球接触角は 0度であるのに対し、2点接触している場合における球接触角は0度より大きくなる。したがって、外輪の形状が、例えば1点接触が生じる形状(球接触角0度)、2点接触が生じる形状(球接触角は0度より大きい)、1点接触が生じる形状(球接触角0度)の順に変化する場合には、接触角変化路が形成されており、かつ2点接触の箇所でその接触角が大きくなっているといえ る。 被告製品の測定結果をみると、例えば軸受接触角3deg の箇所における溝円弧半径は、位相0において1.313mm、位相1において1.505mm、位相2において1.484mm、位相3において1.403mmと変化している。これは、軸受接触角3deg に該当する箇所につき、軸受の全体を考えると、その外輪の形状は、2点接触が生じる形状(位相0)、1点接触が生 じる形状(位相1ないし3)、2点接触が生じる形状(位相0)の順に変化していることになる。 したがって、被告製品の外輪には、接触角変化路が形成されており、かつ2点接触の箇所でその接触角が大きくなっているといえ、構成要件1-Eを充足する。 (被告らの主張)前記ウの被告の主張のとおり、被告製品の軌道溝は、全ての位相において1点接触が生じる形状であり、本件発明における2点接触が生じる形状は存在せず、「接触角変化路」は存在しないから、構成要件1-Eを充足しない。 ⑵ 争点2(被告製品が本 の軌道溝は、全ての位相において1点接触が生じる形状であり、本件発明における2点接触が生じる形状は存在せず、「接触角変化路」は存在しないから、構成要件1-Eを充足しない。 ⑵ 争点2(被告製品が本件発明2の技術的範囲に属するか)について ア争点2-1(構成要件2-Aの充足性)について各当事者の主張は、⑴アと同じ(ただし、「本件発明1」は「本件発明2」に読み替える)。 イ争点2-2(構成要件2-Cの充足性)について(原告の主張) 被告製品は、外輪と内輪との間の距離と、玉の直径を比較した場合、玉の直径の方が小さい。そして、外輪転送溝は玉の公転軌跡を外側から囲む構造となっていることから、玉が公転すると、玉は遠心力によって外輪側に押され、内輪側から離れる方向に動く。その場合、外輪側にかかる玉の摩擦力は内輪側にかかる玉の摩擦力に比べて大きくなる。これは、片側の転送溝(外 輪転送溝)の一部と玉との間に作用する摩擦力が、対向する転送溝(内輪転 送溝)と玉との間に作用する摩擦力より大きくなっているということであるから、被告製品は、構成要件2-Cを充足する。 被告トヨタが被告製品に予圧をかけて使用しているとしても、そのことで構成要件2-Cを充足しないとはいえないこと及び予圧をかけている状態においても無負荷領域が生じていることについては、⑴イの(原告の主張)と 同様である。 (被告らの主張)原告は、被告製品において、外輪側にかかる玉の摩擦力が内輪側にかかる玉の摩擦力に比べて大きくなることについて、何らの証拠の裏付けもなく主張しており、被告製品が構成要件2-Cを充足するとはいえない。 原告は、「玉が公転する際に、その遠心力により、玉が「内輪側から離れる方向に動く」ことは基本的な物理法則 証拠の裏付けもなく主張しており、被告製品が構成要件2-Cを充足するとはいえない。 原告は、「玉が公転する際に、その遠心力により、玉が「内輪側から離れる方向に動く」ことは基本的な物理法則である」ことを唯一の根拠として、玉が外輪側のみに接し、内輪側から離れることになる以上、外輪側にかかる玉の摩擦力が、内輪側にかかる玉の摩擦力に比べて大きくなることは当然であると主張している。しかし、⑴イの(被告らの主張)のとおり、アンギュラ玉 軸受である被告製品は、内輪及び外輪に互いの反対方向の予圧をかけて、玉と内輪、玉と外輪とを弾性変形させて、内輪軌道溝及び外輪軌道溝と玉とのガタ(隙間)をなくした状態で使用されるから、被告製品では、玉が公転する際に「内輪側から離れる方向に動く」ことはない。なお、原告も認めているように、構成要件2-Cも玉が公転する際の玉の状態を問題とするもので ある以上、被告製品の使用時における状態(予圧をかけた状態)が構成要件2-Cの充足性の判断の基礎となる。 したがって、被告製品は、構成要件2-Cを充足しない。 ウ争点2-3(構成要件2-Dの充足性の充足性)について各当事者の主張は、⑴ウと同じ(ただし、「本件発明1」は「本件発明2」 に読み替える)。 エ争点2-4(構成要件2-Eの充足性)について各当事者の主張は、⑴エと同じ(ただし、「本件発明1」は「本件発明2」に読み替える)。 ⑶ 争点3(無効理由の有無)についてア争点3-1(本件各発明が、公然実施された発明と同一であるか)につい て(被告らの主張)被告ジェイテクト(平成18年1月1日より前の商号は光洋精工株式会社)は、平成13年から現在に至るまで訴外IHIターボ(平成19年7月1日より前の商号は石川 につい て(被告らの主張)被告ジェイテクト(平成18年1月1日より前の商号は光洋精工株式会社)は、平成13年から現在に至るまで訴外IHIターボ(平成19年7月1日より前の商号は石川島汎用機械株式会社。)に対して被告製品を継続的に販 売していた。すなわち、被告ジェイテクトは、本件特許の優先日(平成17年11月30日)より前である平成16年3月17日に、訴外IHIターボから、材料(部品)コード「NH452703」、図面番号「4NH452703」の軸受の注文を受け、同年4月2日に納入し、また、同月、9日に、訴外IHIターボから、上記軸受の注文を受け、同月19日に納入し、さらに、 平成17年3月10日に、訴外IHIターボから、上記軸受の注文を受け、同月17日に納入している。 被告製品は、訴外IHI(平成19年7月1日より前の商号は株式会社石川島播磨重工業)が設計し、訴外IHIターボが製造するターボチャージャーに組み付ける軸受として、平成13年に、訴外IHIの要求仕様に基づき 仕様が確定されたものであるが、被告製品の仕様を確定するに当たり、訴外IHIからの要求仕様である図面が、訴外IHIにおける図面番号「4NH452703」であり、本件訴訟外で被告らが原告に交付した被告製品の図面(甲28)はこの図面番号「4NH452703」に基づき作成された図面である。そして、人命に関わる乗り物を構成する部品として用いられる軸 受において、品番等や図番等が同じであるにもかかわらず、勝手にその仕様 が変更されることはあり得ず、仕様変更されたことを疑わせる事情もないから、平成13年当時に仕様が確定した被告製品と原告が測定したとされる令和4年当時の被告製品の構成は同一である。 以上のように、被告ジェイテクトは あり得ず、仕様変更されたことを疑わせる事情もないから、平成13年当時に仕様が確定した被告製品と原告が測定したとされる令和4年当時の被告製品の構成は同一である。 以上のように、被告ジェイテクトは、平成13年から現在に至るまで訴外株式会社IHIターボに対して被告製品を継続的に販売していたのであり、 仮に、被告製品が本件各発明の構成要件を充足するのであれば、本件優先日より前から被告ジェイテクトは本件各発明をしていたことになる。 そして、購入者が販売者からその発明の内容に関しその分析等の試験を行うことを禁じられているなど特段の事情がない限り、購入者は商品を自由に分解・分析してその発明の内容を知ることができるから、商品が販売された ことにより、その商品に関する発明は不特定多数の者が知り得る状況におかれたことになるが、この被告ジェイテクトと訴外株式会社IHIターボとの間の被告製品に関する取引関係において、訴外株式会社IHIターボは、秘密保持義務を負っておらず、前記特段の事情もないから、本件各発明は、公然知られるおそれのある状況で実施されていた。 したがって、仮に、被告製品が本件各発明の構成要件を充足する場合、本件各発明に係る特許は特許法29条1項2号に違反してされたものであるから、特許無効審判により無効にされるべきものである。 (原告の主張)被告らは、平成13年頃から販売されていた製品が本件各発明のそれぞれ の構成要件全てを満たしていた旨主張するが、平成13年頃から販売されていた製品について、原告と同様の調査をしておらず、図面(甲28)についても、単純な納入用の図面にすぎず、ほぼ全ての数値等が黒塗りとされており、当該製品の詳細な設計仕様を感得することは困難であり、本件各発明の各構成要件を充足していた旨の主 おらず、図面(甲28)についても、単純な納入用の図面にすぎず、ほぼ全ての数値等が黒塗りとされており、当該製品の詳細な設計仕様を感得することは困難であり、本件各発明の各構成要件を充足していた旨の主張立証は全くしていない。 また、「公然」とは、「不特定の者に公然知られる状況又は公然知られるお それのある状況で発明を実施すること」をいい、実施品を外から見たり入手したりしても、当該発明の内容を知り得ない場合には、公然実施に該当しないと解さる。被告製品は軸受であり、本件各発明の内容を知得するためには特別な調査が必要であり、当該製品を外から見たり入手したりしても、本件各発明の内容を知ることは全く不可能であるから、「公然」にも当たらない。 したがって、本件各発明は公然実施された発明であるといえない。 イ争点3-2(被告ジェイテクトは、先使用に基づく通常実施権を有しているか)について(被告らの主張)被告製品の図面(甲28)の最新の改訂日付は、平成13年8月23日で あり、被告ジェイテクトは、遅くとも同日までには、本件各発明を完成させており、本件特許の優先日である平成17年11月30日よりも4年以上も前に、自ら本件各発明を実施していた。また、被告ジェイテクトが原告代表者から本件各発明を知得したといった事実もないから、被告ジェイテクトは、本件各発明の内容を知らないで、自らその発明をしていたといえる。 そして、前記アの(被告らの主張)のとおり、被告ジェイテクトは、本件特許の優先日より前に訴外IHIターボに販売して実施しており、その後も、同様に実施している。 そうすると、仮に被告製品が本件各発明の構成要件を充足するのであれば、被告ジェイテクトは、本件特許の優先日である平成17年11月30日時点 売して実施しており、その後も、同様に実施している。 そうすると、仮に被告製品が本件各発明の構成要件を充足するのであれば、被告ジェイテクトは、本件特許の優先日である平成17年11月30日時点 で、本件各発明に係る特許権について先使用に基づく通常実施権を取得したことになる。 そして、本件訴訟で対象とされている実施行為は、被告ジェイテクトが継続的に行っていた実施行為と同じであるから、本件訴訟で対象とされている実施行為は、前記で述べた被告ジェイテクトが実施していた発明及び事業の 目的の範囲内である。 したがって、被告ジェイテクトは、被告製品の譲渡について、先使用に基づく通常実施権を有しているから、原告が主張する被告ジェイテクトによる本件各発明の実施は、本件特許権の侵害とはならない。 また、被告トヨタは、被告ジェイテクトが販売した被告製品が組み付けられたターボチャージャーユニットをIHIターボ及びIHIを経て購入して いる。先使用に基づく通常実施権を有する者が販売した物の取得者に対する特許権侵害の成否に関しては、通常実施権者の販売行為によって、特許の実施品が適法に流通に置かれていることから、特許権は消尽していると解され、仮にそうでなくても、通常実施権者が販売した物の取得者は、通常実施権を援用することができると解されるから、いずれにしても特許権侵害は成立し ない。したがって、被告トヨタによる本件各発明の実施も、本件特許権の侵害とはならない。 (原告の主張)前記ア(原告の主張)と同様、被告ジェイテクトが平成13年頃から販売されていた製品について、原告と同様の調査をしておらず、本件各発明の各 構成要件を充足していた旨の主張立証は全くしておらず、先使用による通常実施権を取得したとはいえない が平成13年頃から販売されていた製品について、原告と同様の調査をしておらず、本件各発明の各 構成要件を充足していた旨の主張立証は全くしておらず、先使用による通常実施権を取得したとはいえない。 ウ争点3-3(本件各発明が、発明の詳細な説明に記載したものではないか)について(被告らの主張) 構成要件1-A及び構成要件2-Aにおける軸受の構成が、「転動体同士の間隔を常に一定に保つ保持器を備える」ものも含むと解釈される場合、本件各発明の請求項に記載されている事項として、転動体同士の間隔を常に一定に保つ保持器を備える軸受が含まれるが、転動体同士の間隔を常に一定に保つ保持器の装着は、本件各発明の解決しようとする課題に挙げられており、 本件各発明の効果として保持器を不用とすることにより当該課題を解決する とされている。また、本件明細書における実施例において、転動体同士の間隔を常に一定に保つ保持器を備えない軸受のみが開示されており、転動体同士の間隔を常に一定に保つ保持器を備える軸受については、記載も示唆もされていない。 そうすると、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比す ると、特許請求の範囲に記載された本件各発明には、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明以外のものが含まれ、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲外のものが含まれることになるから、本件各発明に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (原告の主張)本件明細書中の「発明の効果」の【0028】には、明らかに、転動体と転動体の間に保持器が装着されていることを念頭に置く表現が記載されているから、保持器を備えた軸受についても、当該発明によって従前 本件明細書中の「発明の効果」の【0028】には、明らかに、転動体と転動体の間に保持器が装着されていることを念頭に置く表現が記載されているから、保持器を備えた軸受についても、当該発明によって従前の課題を解決できると当業者が認識できることは明らかであり、サポート要件違反はない。 エ争点3-4(本件発明2が、発明の詳細な説明に記載したものではないか)について(被告らの主張)本件特許の特許請求の範囲の請求項1に従属する同請求項2の転がり装置は、請求項1の転がり装置に、転動体が転送溝に僅かに侠持されるとい う無負荷領域を接触角変化路に生成する構成を加えたものである。そうすると、請求項1は、無負荷領域又は転動体が転送溝に僅かに侠持される状態となる無負荷に相当する領域を生成しない構成も含む点に意義がある。 しかし、本件明細書では13の実施例が開示されているが、無負荷領域又は無負荷に相当する領域を生成しない構成の転がり装置は一切開示され ていない。 したがって、請求項1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えたものであって、本件発明2には、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明以外のものが含まれ、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲外のものが含まれることになる。 また、本件発明2は、「接触角変化路の転動体が作動すべりを起こすこ とにより一旦減速した後に加速する」ことにより、「接触角変化路から排出される転動体の間に間隔が生成され、転送路の不特定個所での転動体の競い合いを無くすことができる」点に発明の効果がある(【0018】)。 この点に関して、本件明細書中の実施例1では、転動体の公転速度を減少させ、転動体の公転速度を減速・加速させる構成として、「接触角変化路 aで殆ど荷 きる」点に発明の効果がある(【0018】)。 この点に関して、本件明細書中の実施例1では、転動体の公転速度を減少させ、転動体の公転速度を減速・加速させる構成として、「接触角変化路 aで殆ど荷重を受け」ないことが挙げられているが、これは、「逃げ31部でレールが撓むことにより、接触角変化路aでは殆ど荷重を受けず、ボール3は転送溝に僅かに侠持される無負荷領域14が形成される」ことを根拠としているものの、これに相当する構成は請求項1には記載がない。 加えて、本件明細書の【0040】では、「無負荷領域を設けない構成も 可能である」として、「負荷荷重が非常に小さい場合、作動すべりによる摩擦を直動案内の減衰性を高める目的で利用する場合、作動すべり領域に十分な潤滑剤を供給できる場合」など、無負荷に相当する領域を生成することが挙げられているが、これに相当する構成も請求項1には記載されていない。 したがって、請求項1には、上記の作用効果を奏しない、無負荷領域又は無負荷に相当する領域を生成しない構成の転がり装置が含まれていて、当業者は、本件明細書によって、当該転がり装置が本件発明2の課題を解決できるとは認識できない。 (原告の主張) 請求項1において被告らが問題としている構成要件2-Cは、「片側の転 送溝の少なくとも一部について転動体との間に作用する摩擦力を、対抗する転送溝の転動体との間に作用する摩擦力に対し大きくすると共に、」というものである。そして本件明細書中の実施例1の【0031】では、「さらに両側の接触変化路aに囲まれた範囲では面粗さを転送溝2に比べて粗く加工することにより転動体との滑り摩擦係数を高く設定している」等と記載されて おり、構成要件2-Cの趣旨が的確に説明されている。したがって、サポ 路aに囲まれた範囲では面粗さを転送溝2に比べて粗く加工することにより転動体との滑り摩擦係数を高く設定している」等と記載されて おり、構成要件2-Cの趣旨が的確に説明されている。したがって、サポート要件違反はない。 ⑷ 争点4(原告の損害額等)について(原告の主張)被告自動車のうち、被告製品が使用されているグレードは、RS、RZ及び RZHighperformanceの三種類であるところ、被告自動車は世界ラリー選手権に参戦することを目的として生産された車種であり、その認証を得るためには、ベース車となるモデルが連続した12か月間に2500台以上、車両全体で2万5000台以上という生産台数が必要である。そして、令和3年に国内で販売された被告自動車の販売台数は7460台であり、販売 から約2年が経過していることからすると、国内のみでもすでに1万数千台が販売されているものと推認できる。これらの事情からすれば、被告製品が使用された本件自動車の国内外の販売台数が2万5000台を超えていることは確実である。 また、RSグレードの販売価格は265万円、RZグレードの販売価格は3 96万円及びRZHighperformanceグレードが456万円であるから、その平均価格は431万3000円である。 そして、本件特許の実施料相当額は車両価格の8%を下らないから、以下の計算式により、被告らの行為により原告が被った損害は86億2600万円に上る。 (計算式)431万3000円×2万5000台×8%=86億2600万円 (被告らの主張)いずれも争う。 第3 当裁判所の判断 1 本件各発明及びその意義について⑴ 本件明細書には、以下の記載等がある。 ア発明の詳細な説明技術分 (被告らの主張)いずれも争う。 第3 当裁判所の判断 1 本件各発明及びその意義について⑴ 本件明細書には、以下の記載等がある。 ア発明の詳細な説明技術分野【0001】本発明は転がり装置の改良に関するものである。 背景技術【0002】1対の転送溝と転送溝間に介挿した複数の転動体により構成 される転がり装置は転動体が転送溝との間で転がり接触することにより、滑り接触によるものと比べ摩擦抵抗が小さい利点があるが、個々の転動体は同一方向に自転することより隣接する転動体表面の動作方向は逆向きとなるため、転動体同士の接触による滑り摩擦が発生した。 【0003】特に、転動体が負荷を受ける領域において個々の転動体の公 転速度の微小な相違に起因した転動体同士の接触(以下、これを「競い合い」と呼ぶ)が発生する時、摩擦抵抗の増大や、接触面の圧力上昇に伴う潤滑不良、寿命低下、騒音振動の発生、等の原因となることが知られており無負荷領域において転送溝と転動体との間に隙間を設ける提案がなされている。(例えば、特許文献1参照) なお公転速度の微小な相違は、転動体の真球度、個々の転動体接触部での溝形状誤差、個々の転動体への不均一な荷重や摩擦、さらにボールねじの場合はリード方向にねじれて転送することによる作動すべり、等により発生する。また競い合い現象による問題を防ぐために、保持器やスペーサーボールを転動体の間に介挿することが従来より広く行われている。 (例え ば、特許文献2、3参照) さらに無負荷領域において転動体に摩擦を付与することによって、負荷領域に進入する転動体に間隔を設ける発明がなされている。 (特許文献4参照)【特許文献1】特開2003-227515号公報 さらに無負荷領域において転動体に摩擦を付与することによって、負荷領域に進入する転動体に間隔を設ける発明がなされている。 (特許文献4参照)【特許文献1】特開2003-227515号公報【特許文献2】特開2000-120825号公報 【特許文献3】特開2000-291770号公報【特許文献4】WO2004/055416 A2号公報イ発明の開示発明が解決しようとする課題【0004】しかしながら特許文献1の発明は負荷領域において競い合い が発生したボールに対し、無負荷領域を設けて競い合いを解消する提案であり、負荷領域での競い合い自体を解消するものではない。(以下略)【0005】さらに特許文献3に開示のスペーサーボールは転動体同士の接触を転がり接触に変えて摩擦抵抗を減らせるが、その接触点の面積が小さいことより圧接応力を緩和することは出来ない。なお保持器やスペーサ ーボールの装着は、負荷ボール数の減少、生産性低下、材質の制約による耐環境性能(温度、真空蒸気圧、等)の制約、等の要因でもある。 【0006】一方、特許文献4に開示の方法によれば、転動体の公転速度を落とすことにより無負荷領域に転動体を集積させ、間接的に負荷領域内の転動体は全体として間隔が空くことが想達されるが、負荷領域に進入す る転動体同士の間隔を空ける直接的な手段ではないことにより、数個のボールが密接して負荷領域に進入することを確実に防ぐ作用を持つものではない。 【0007】本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、転送路の特定領域において転動体との接触角を増大、減少させることにより、接触角を増大 させた部分において転動体の公転速度を低下させて転動体同士を当接、も しくは近接させた後、接触角を減少させた部分に において転動体との接触角を増大、減少させることにより、接触角を増大 させた部分において転動体の公転速度を低下させて転動体同士を当接、も しくは近接させた後、接触角を減少させた部分にいて転動体の公転速度を増加させて転動体の間に間隔を生成させることにより、負荷領域での競い合いの無い転がり装置を提供することを目的としている。 【0008】本発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴は次の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、より完全に明らかになるであろう。 ただし、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の記述的範囲を限定するものではない。 課題を解決するための手段【0009】上記目的を達成するために本発明の請求項1では、少なくとも1対の転送溝により構成される転送路と、転送路の間に転動自在に介挿 させた複数の転動体により構成され、前記転動体は球体、もしくは両端に3次元曲面の角部を有する円柱、または円錐、またはたる形、またはこれらの複合曲面で形成されている転がり装置であって、片側の転送溝の少なくとも一部について転動体との間に作用する摩擦力を、対向する転送溝の転動体との間に作用する摩擦力に対し大きくすると共に、摩擦力を大きく した部分について転送溝の転送方向と直角方向の断面を、球体である転動体、もしくは球体以外の転動体の3次元曲面の角部と2点接触する形状とし、その接触角を転送路の他の部分に対し大きくした接触角変化路を形成した転がり装置を構成している。 【0012】また請求項4に記載の通り、少なくとも1対の転送溝により 構成される転送路と、転送路の間に転動自在に介挿させた複数の転動体により構成され、前記転動体は球体、もしくは両端に3次元曲面の角部を有する円柱、または円錐、またはたる形、 1対の転送溝により 構成される転送路と、転送路の間に転動自在に介挿させた複数の転動体により構成され、前記転動体は球体、もしくは両端に3次元曲面の角部を有する円柱、または円錐、またはたる形、またはこれらの複合曲面で形成されている転がり装置であって、転送路の一部に転動体が一方の転送溝のみに当接する無負荷領域を生成し、かかる一方の転送溝の転送方向と直角方 向の断面を、球体である転動体、もしくは球体以外の転動体の3次元曲面 の角部、と2点接触する形状とし、その接触角を転送路の他の部分に対し大きくした接触角変化路を形成した転がり装置を構成している。 発明の効果【0018】(1)[請求項1]の構成において、接触角変化路の転動体が作動すべりを起こすことにより一旦減速した後に加速する。これにより接 触角変化路から排出される転動体の間に間隔が生成され、転送路の不特定個所での転動体の競い合いを無くすことができる。 【0021】(4)[請求項4]の構成においては、片側転送溝内の接触角変化路で、転動体が一旦減速した後に加速することにより、接触角変化路から排出される転動体の間に間隔が生成され、転動体の競い合いを無くす ことができる。 【0028】以上の通り本発明によれば、意図した領域において転動体同士、またはそれらの間に装着する保持器やスペーサーボールとの接触を防げることより、この接触に起因する競い合い、摩擦抵抗の増大、接触面の圧力上昇に伴う潤滑不良、寿命低下、騒音振動の発生が改善される。さら に、保持器やスペーサーボールを不用に出来ることにより、負荷ボール数の増加による負荷容量増大、生産性向上、耐環境性能(温度、真空蒸気圧、等)向上、等の効果が得られる。 ⑵ 本件各発明の技術的意義本件明細書によれば ールを不用に出来ることにより、負荷ボール数の増加による負荷容量増大、生産性向上、耐環境性能(温度、真空蒸気圧、等)向上、等の効果が得られる。 ⑵ 本件各発明の技術的意義本件明細書によれば、本件各発明の技術的意義は、次のとおりであると認め られる。 ア本件各発明は、転がり装置の改良に関するものである【0001】。 イ 1対の転送溝と転送溝間に介挿した複数の転動体により構成される転がり装置である軸受においては、個々の転動体が同一方向に自転することにより隣接する転動体表面の動作方向は逆向きとなるため、転動体同士の接触によ る滑り摩擦が発生した。特に、転動体が負荷を受ける領域においては、転動 体の真球度、個々の転動体接触部での溝形状誤差、個々の転動体への不均一な荷重や摩擦、さらにボールねじの場合はリード方向にねじれて転送することによる作動すべり、などから、個々の転動体の公転速度の微小な相違に起因した転動体同士の接触である「競い合い」が発生し、摩擦抵抗の増大や、接触面の圧力上昇に伴う潤滑不良、寿命低下、騒音振動の発生等の原因とな ることが知られていた(【0002】、【0003】)。このような競い合いの課題を解決する方法について、従来から、保持器やスペーサーボールを転動体の間に介挿することが広く行われ、また、無負荷領域において転動体に摩擦を付与する発明がされていた。しかし、後者の発明は、負荷領域自体での競い合いを解消するものではなく、前者の方法については、保持器やスペーサ ーボールの装着が、負荷ボール数の減少、生産性低下、材質の制約による耐環境性能(温度、真空蒸気圧、等)の制約等の要因でもあった。(【0003】~【0005】)。 ウ従前の技術には、以上のような欠点があったところ、本件各発明は、少な 、生産性低下、材質の制約による耐環境性能(温度、真空蒸気圧、等)の制約等の要因でもあった。(【0003】~【0005】)。 ウ従前の技術には、以上のような欠点があったところ、本件各発明は、少なくとも以上のような「競い合い」、すなわち転動体同士の接触を避けるために、 転送路の特定領域において転動体との接触角を増大、減少させることにより、接触角を増大させた部分において転動体の公転速度を低下させて転動体同士を当接、もしくは近接させた後、接触角を減少させた部分において転動体の公転速度を増加させて転動体の間に間隔を生成させることにより、負荷領域での競い合いの無い転がり装置を提供することを目的とするものであり(【0 007】)、本件各発明の構成をとることによって、上記の効果を奏する装置(【0018】、【0021】)を提供することができる。 2 争点1-1(構成要件1-Aの充足性)について前記1⑵のとおり、本件発明1は、負荷領域において転動体同士の接触を避けるために、転送路を公転する転動体の公転速度について、意図的に加減する ことにより、転動体同士の間隔を調整し、その接触を防ぐことを解決手段とす るものである。 本件明細書には、本件発明1の構成をとることによって、「(4)[請求項4]の構成においては、片側転送溝内の接触角変化路で、転動体が一旦減速した後に加速することにより、接触角変化路から排出される転動体の間に間隔が生成され、転動体の競い合いを無くすことができる。」(【0021】)という効果を奏すると記載されている。すなわち、本件発明1の構 成においては、個々の転動体に対して速度の加減が行われ、それに基づき転動体と転動体との間に間隔が生成され、それにより、転動体の「競い合い」がないという効果を奏する。 なわち、本件発明1の構 成においては、個々の転動体に対して速度の加減が行われ、それに基づき転動体と転動体との間に間隔が生成され、それにより、転動体の「競い合い」がないという効果を奏する。 以上に照らすと、本件発明1においては、転動体に対して公転速度の加減を行って転動体同士の間隔を調整し、本件発明1の効果を奏しているのであるか ら、本件発明1は、個々の転動体に対して公転速度の加減を行うことができ、その速度の加減に基づき転動体同士の間隔を調整できてその「競い合い」を防ぐ構成を前提としているといえる。したがって、構成要件1-Aの「転送路の間に転動自在に介挿させた複数の転動体により構成され」に該当する構成は、個々の転動体に対して公転速度の加減を行うことができ、それに基づき転動体 同士の間隔を調整できる構成のものであると認められる。 ここで、軸受には、転動体同士の間隔を一定に保持する保持器を有するものがあるところ、このような構成の軸受では、転動体同士の間隔は保持器によって保持されているのであるから、本件発明1と異なり、複数の転動体に対する公転速度の加減を行った上で、それに基づき転動体同士の間隔を調整するとい うことはできない。本件明細書にも、転動体同士の間隔を一定に保持する保持器を有する軸受について、本件発明1の構成をとることによって、上記のような本件発明1の効果を奏することとなることについては、記載も示唆もない。 したがって、転動体同士の間隔を一定に保持する保持器を有する軸受は、構成要件1-Aにおける「転送路の間に転動自在に介挿させた複数の転動体により 構成され」との構成に該当しないというのが相当である。 これに対し、原告は、特許請求の範囲の記載に転動体同士の間隔を一定に保持する保持器を有する軸受 挿させた複数の転動体により 構成され」との構成に該当しないというのが相当である。 これに対し、原告は、特許請求の範囲の記載に転動体同士の間隔を一定に保持する保持器を有する軸受を除く旨の記載がないこと、本件明細書の【0028】の記載や被告ジェイテクトによる論文を指摘して、転動体同士の間隔を一定に保持する保持器を有するものがある装置も、構成要件1-Aに当たる旨主張する。 本件明細書の【0028】には、「以上の通り本発明によれば、意図した領域において転動体同士、またはそれらの間に装着する保持器やスペーサーボールとの接触を防げることより、この接触に起因する競い合い、摩擦抵抗の増大、接触面の圧力上昇に伴う潤滑不良、寿命低下、騒音振動の発生が改善される。さらに、保持器やスペーサーボールを不用に出来ることにより、負荷ボー ル数の増加による負荷容量増大、生産性向上、耐環境性能(温度、真空蒸気圧、等)向上、等の効果が得られる。」との記載がある。もっとも、前記で述べたとおりの本件発明1の意義や解決手段からすれば、少なくとも、転動体同士の間隔を一定に保持する保持器を有する軸受が、本件発明1の構成をとることに基づいてその発明の効果を奏することがないことは明らかである。上記段 落においても、転動体同士の間隔を一定に保持するという保持器を有する軸受につき、本件発明1の効果を奏することが記載されているわけではなく(【0094】には、非循環型のボールねじについて、間隔を一定に保つためではなく脱落防止のための保持器を付加することができる旨の記載があり、このような保持器を有する軸受においては、本件発明1の効果を奏する。)、原告指摘の 記載は、前記の判断を左右するものではない。 そして、上記段落も含めて本件明細書の記載を る旨の記載があり、このような保持器を有する軸受においては、本件発明1の効果を奏する。)、原告指摘の 記載は、前記の判断を左右するものではない。 そして、上記段落も含めて本件明細書の記載を考慮し、本件発明1の技術的意義を検討すると、前記のとおり、特許請求の範囲には転動体同士の間隔を一定に保持する保持器を有する軸受を除く旨の記載がなくとも、前記のとおり構成要件1-Aを解釈するのが相当である。 また、被告ジェイテクトが公表した論文(甲29)中には「保持器の回転速度と玉の公転速度に差があることが分かる。これは、玉の保持器に対する進み遅れが発生していることを意味する。」との記載がある。これは、保持器に保持され、間隔が一定に保たれた中で、玉の速度と保持器の公転速度とに差があることについて言及されたものにすぎない。そして、本件発明1は、軌道路上 に負荷領域と無負荷領域を設けて速度を加減することで、その転動体の公転内での公転速度の調整を目的としているのであり、保持器と転動体との速度の差について調整することは目的としていない。むしろ、転動体が保持器内にある場合、軌道路上に負荷領域と無負荷領域があることを前提とする本件発明1においては、無負荷領域部分にある転動体について減速される場合、それと同時 に負荷領域にある転動体については加速されることになり、それぞれの転動体の速度が異なる結果、各転動体が相反する方向で移動する結果、保持器への接触が増加することになり、本件発明1の課題を解決しないこととなる。したがって、前記論文の存在も、前記の判断を左右するものではない。 以上のとおり、転動体の間隔を一定に保持する保持器を有する軸受は、構成 要件1-Aにおける「転送路の間に転動自在に介挿させた複数の転動体により の存在も、前記の判断を左右するものではない。 以上のとおり、転動体の間隔を一定に保持する保持器を有する軸受は、構成 要件1-Aにおける「転送路の間に転動自在に介挿させた複数の転動体により構成され」との構成を充足しないところ、被告製品は、前記第2の1⑹のとおり、転動体である玉は、部分的に囲まれて穴にはめ込まれる形で保持器に収まっており、その保持器によって玉同士の間隔を常に一定に保持されている。そうすると、被告製品は、構成要件1-Aを充足しない。 3 争点2-1(構成要件2-Aの充足性)について構成要件2-Aは、構成要件1-Aと同一であり、本件発明2の構成要件2-Aについても前記2と同様に解釈される。したがって、前記2と同様の理由により、被告製品は、構成要件2-Aを充足しない。 第4 結論 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由が ないから、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官柴田義明 裁判官杉田時基 裁判官仲田憲史 (別紙)被告製品目録(省略)以上

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