平成28(行ウ)26 健康保険被扶養者を外す処分の取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成30年9月11日 札幌地方裁判所
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判決文本文13,459 文字)

平成30年9月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成28年(行ウ)第26号健康保険被扶養者を外す処分の取消請求事件口頭弁論終結日平成30年5月15日判決 主文 1 被告が原告に対し平成27年2月9日付けでしたAを原告の被扶養者から外した処分を取り消す。 2 訴訟費用は,参加によって生じた費用は参加人の負担とし,その余は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,原告が,被告が平成27年2月9日付けでした,原告及び参加人の子 であるAを原告の被扶養者(健康保険法3条7項に定める被扶養者をいう。以下同じ。)から外す処分(以下「本件処分」という。)が違法であるとして,被告に対し,その取消しを求める事案である。 2 関係法令等の定め⑴ 健康保険法 アこの法律は,労働者又はその被扶養者の業務災害以外の疾病,負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い,もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。(1条)イ被扶養者とは,以下に掲げる者をいう。(3条7項)被保険者の直系尊属,配偶者,子,孫及び兄弟姉妹であって,主として その被保険者により生計を維持するもの(1号) 被保険者の3親等内の親族でに掲げる者以外のものであって,その被保険者と同一の世帯に属し,主としてその被保険者により生計を維持するもの(2号)被保険者の配偶者で届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあるものの父母及び子であって,その被保険者と同一の世帯に属し,主 としてその被保険者により生計を維持するもの(3号) の配偶者の死亡後におけるその父母及び子であっ 上婚姻関係と同様の事情にあるものの父母及び子であって,その被保険者と同一の世帯に属し,主 としてその被保険者により生計を維持するもの(3号) の配偶者の死亡後におけるその父母及び子であって,引き続きその被保険者と同一の世帯に属し,主としてその被保険者により生計を維持するもの(4号)ウ被保険者の被扶養者が保険医療機関等のうち自己の選定するものから療 養を受けたときは,被保険者に対し,その療養に要した費用について,家族療養費を支給する。(110条1項)エ被保険者の被扶養者が指定訪問看護事業者から指定訪問看護を受けたときは,被保険者に対し,その指定訪問看護に要した費用について,家族訪問看護療養費を支給する。(111条1項) オ被保険者の被扶養者が家族療養費に係る療養を受けるため,病院又は診療所に移送されたときは,被保険者に対し,家族移送費を支給する。(112条1項)カ被保険者の被扶養者が死亡したときは,被保険者に対し,家族埋葬料を支給する。(113条) キ被保険者の被扶養者が出産したときは,被保険者に対し,家族出産育児一時金を支給する。(114条)ク療養の給付について支払われた一部負担金の額又は療養に要した費用の額からその療養に要した費用につき保険外併用療養費等として支給される額に相当する額を控除した額が著しく高額であるときは,その療養の給付又 はその保険外併用療養費等の支給を受けた者に対し,高額療養費を支給する。 (115条1項)⑵ 健康保険法施行規則ア被保険者は,被扶養者を有するとき又は被扶養者を有するに至ったときは,5日以内に,被扶養者届を,事業主を経由して厚生労働大臣又は健康保険組合に提出しなければならない。(38条1項) イ上記アの被扶養 ,被扶養者を有するとき又は被扶養者を有するに至ったときは,5日以内に,被扶養者届を,事業主を経由して厚生労働大臣又は健康保険組合に提出しなければならない。(38条1項) イ上記アの被扶養者届の受理は,被告が行うものとする。(158条の3第14号)⑶ 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下「配偶者暴力防止法」という。)ア国及び地方公共団体は,配偶者からの暴力(配偶者からの暴力等を受けた 後にその者が離婚した場合にあっては,当該配偶者であった者から引き続き受ける暴力等を含む。以下「DV」という。)を防止するとともに,被害者の自立を支援することを含め,その適切な保護を図る責務を有する。(2条)イ内閣総理大臣,国家公安委員会,法務大臣及び厚生労働大臣は,DVの防止及び被害者の保護のための施策に関する基本的な方針を定めなければな らない。(2条の2第1項)⑷ 「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等のための施策に関する基本的な方針」(平成25年内閣府,国家公安委員会,法務省,厚生労働省告示第1号。乙1。以下「基本方針」という。)配偶者暴力相談支援センターは,DVの被害者から,医療保険に関する相談 があった場合,以下について,事案に応じた情報提供等を行うことが必要である。また,国においては,以下の事項について,市町村等関係機関に対して周知に努める。(第2の7⑹)ア健康保険においては,被扶養者は被保険者と生計維持関係にあることが必要であり,生計維持関係がなければ被扶養者から外れること。 イ国民健康保険組合の行う国民健康保険においては,組合員の世帯に属して いなければ,その対象から外れること。 ウ被害者は,婦人相談所等が発行する証明書(子ども等の家族を同 と。 イ国民健康保険組合の行う国民健康保険においては,組合員の世帯に属して いなければ,その対象から外れること。 ウ被害者は,婦人相談所等が発行する証明書(子ども等の家族を同伴している場合には,その同伴者に係る証明書を含む。)を持って被害者が保険者へ申し出ることにより被扶養者又は組合員の世帯に属する者から外れること。 ⑸ 平成20年2月5日付け厚生労働省保険局保険課長通知「配偶者からの暴力 を受けた被扶養者の取扱い等について」(保保発第0205001号。平成26年保保発0929第1号・年管管発0929第1号による改正後のもの。乙2。以下「保険課長通知」という。)ア被扶養者である被害者から,婦人相談所が発行するDVを理由として保護した旨の証明書(以下「保護証明書」ということがある。)を添付して被扶養 者から外れる旨の申出がされた場合には,被扶養者から外れることができる。 保護証明書において,当該被害者の同伴者についても同様の証明がされている場合においては,当該同伴者についても被扶養者から外れることができる。 イ保護証明書は,DVを理由として保護したことを証明するものであって,DVがあった事実を証明するものではない。 ウ保険者は,上記アの申出がされた場合,被保険者に対し,一定の期間を設けた上で,当該被害者を被扶養者から外す届出を事業主を経由して行うよう指導する。一定の期間内に当該届出がされない場合には,当該被害者を被扶養者から外した上で,その旨を事業主及び当該被保険者に通知する。 ⑹ 平成20年4月25日付け社会保険庁運営部医療保険課長通知「配偶者から の暴力を受けた被扶養者の取扱い等について」(庁保険発第0425001号。 乙3。以下「平成20年通知」という。)ア DVの被害者が 月25日付け社会保険庁運営部医療保険課長通知「配偶者から の暴力を受けた被扶養者の取扱い等について」(庁保険発第0425001号。 乙3。以下「平成20年通知」という。)ア DVの被害者が,被扶養者から外れたい旨の申出を行おうとする場合には,書面によりその旨の申告をさせるとともに,保護証明書の写しの提出を求める。 イ上記アの申出がされた場合,被保険者に対し,当該被害者を被扶養者から 外す届出の提出を促す文書を作成し,送付する。当該文書に記載した提出期限までに,当該届出が提出されなかった場合,速やかに被害者を被扶養者から外す処理を行う。 ⑺ 平成16年6月17日付け社会保険庁運営部医療保険課長通知「政府管掌健康保険における夫婦共同扶養の場合の被扶養者の認定に係る取扱いについて」 (庁保険発第0617001号。乙11。以下「平成16年通知」という。)ア夫婦が共同して扶養している場合における被扶養者の認定に当たっては,被扶養者とすべき者の員数にかかわらず,年間収入の多い方の被扶養者とすることを原則とし,夫婦双方の年間収入が同程度である場合は,被扶養者の地位の安定を図るため,届出により,主として生計を維持する者の被扶養者 とする。 イ夫婦いずれの被扶養者とするかについては,画一的に年間収入の多い方の被扶養者とするということではなく,年間収入の多少を認定に当たっての判断材料として,当該家計の実態,社会通念等を総合的に勘案して行うものとする。したがって,年間収入の少ない方の被扶養者とする旨の届出があった 場合でも,当該届出の趣旨も踏まえ,当該家計の実態等に照らし,主として年間収入の少ない方により生計を維持している者と認められるときは,年間収入の少ない方の被扶養者として差し支えない。 3 前提 場合でも,当該届出の趣旨も踏まえ,当該家計の実態等に照らし,主として年間収入の少ない方により生計を維持している者と認められるときは,年間収入の少ない方の被扶養者として差し支えない。 3 前提事実以下の事実は,後掲各証拠及び弁論の全趣旨等によって容易に認められる事実 である。 ⑴ 当事者等ア原告及び参加人は,元夫婦である。A(平成23年8月25日生)は,原告及び参加人の子である。(甲4の1,2)イ原告と参加人は,平成24年3月28日,裁判上の和解により離婚した。 この際,原告と参加人は,Aの親権者を参加人とし,原告が参加人に支払う べきAの養育費を月額23万円と定めた。(甲4の1,2,甲6)ウ原告と参加人の離婚に伴い,Aは原告の被扶養者から外されたものの,平成26年3月1日付けで,Aは再び原告の被扶養者とされた。(甲5の1,2,弁論の全趣旨)エ原告と参加人が離婚した後,本件処分に至るまでの間,参加人はAを監護 養育し,原告は毎月23万円の養育費の支払を継続した。(甲6,7,弁論の全趣旨)オ原告の平成27年の年収は,3520万8002円であった。一方,参加人の平成26年の年収は,105万3684円であった。(甲18,丙11,12) ⑵ 本件処分ア参加人は,平成27年1月13日付けで,B市市民まちづくり局市民生活部男女共同参画室から保護証明書(以下「本件証明書」という。)の発行を受け,同月22日,被告に対し,Aを原告の被扶養者から外すよう申し出た(以下「本件申出」という。)。(甲10,乙15の1,2) 本件証明書には,参加人及びその同伴者であるAについて,DVを理由として保護(相談対応)したことを証明する旨が記載されていた。(乙15の1)イ C年 )。(甲10,乙15の1,2) 本件証明書には,参加人及びその同伴者であるAについて,DVを理由として保護(相談対応)したことを証明する旨が記載されていた。(乙15の1)イ C年金事務所は,平成27年1月27日付け文書をもって,原告に対し,Aについては原告により生計を維持されていないことが確認されたため扶 養から外れることになる旨を通知し,併せて,被扶養者(異動)届を提出するよう依頼した。(甲9,弁論の全趣旨)ウ被告は,平成27年2月9日付けで,Aを原告の被扶養者から外す処分(本件処分)をした。(弁論の全趣旨)⑶ 本件訴訟に至る経緯 ア原告は,平成27年4月10日付けで,本件処分の取消しを求める異議申 立て(以下「本件異議申立て」という。)をした。本件異議申立ては,平成28年1月5日付けで棄却され,原告は,同月8日に,本件異議申立てが棄却されたことを知った。(弁論の全趣旨)イ原告は,平成28年7月6日,Dを相手方として,本件訴えを提起した。 (顕著な事実) ウ原告は,平成28年10月7日,相手方をDから被告に変更することの許可を求める申立てを行い(当庁平成28年(行ク)第14号),当裁判所は,同月13日,行政事件訴訟法15条1項に基づき,相手方を被告に変更することを許可した。(顕著な事実) 4 争点 ⑴ 原告適格の有無⑵ 本件処分の適法性 5 当事者の主張⑴ 争点⑴(原告適格の有無)について(原告の主張) 健康保険法施行規則が被扶養者を有する被保険者に被扶養者届の提出を義務付けていること,運用上も誰を被扶養者として届け出るかは被保険者の判断に委ねられていることなどからすれば,被保険者は,被扶養者の届出を行う義務及び権利を有するというべきで 者に被扶養者届の提出を義務付けていること,運用上も誰を被扶養者として届け出るかは被保険者の判断に委ねられていることなどからすれば,被保険者は,被扶養者の届出を行う義務及び権利を有するというべきである。そうであるとすると,これと表裏一体をなすものとして,被保険者には,自己の親族等が被扶養者として認められな かった場合や被扶養者から外された場合に,当該処分を争う権利も留保されていると解すべきである。 また,被保険者は,自己の子が被扶養者から外されることにより,高額医療費の払戻しの算定時の合算の対象が減り,家族埋葬料や家族出産育児一時金等を受領できないなどの不利益を受け,又はそのおそれがある。この不利益は, 経済的な不利益であり,自己の権利又は法律上保護された利益の侵害に当たる。 加えて,平成30年2月に医療費控除に関する制度が一部変更となり,医療費控除の申告の際に,被扶養者の入通院に係る医療費の領収証を提出しなくても,被扶養者でありさえすれば,被扶養者の医療費について医療費控除が受けられることになった。 以上によれば,原告には,原告適格が認められる。 (被告の主張)Aについて,高額療養費等の保険給付を行うべき事由が生じた事実は確認できない。また,今後保険給付を行うべき事由が生じたとしても,その保険給付は,実際に同事由によって生じた費用を支払うこととなる参加人が受給すべきものである。 以上によれば,原告には,原告適格は認められない。 ⑵ 争点⑵(本件処分の適法性)について(被告の主張)ア主位的主張基本方針,保険課長通知及び平成20年通知は,DVの被害者が保護証明 書を添付して被扶養者から外れる旨の申出をした場合,当該申出をした者及びその保護下にある子等の安心・安全の確保が 的主張基本方針,保険課長通知及び平成20年通知は,DVの被害者が保護証明 書を添付して被扶養者から外れる旨の申出をした場合,当該申出をした者及びその保護下にある子等の安心・安全の確保が最優先であることから,家計の実態にかかわらず,被保険者の被扶養者から外すことを認めている。被告には,DVの有無を調査・判断する権限も機能もない。したがって,参加人が本件証明書を添付して本件申出をした以上,本件処分は適法である。 イ予備的主張離婚した元夫婦の子を父母のどちらの被扶養者とするかを判断するに当たっては,親権をどちらが有しているか,子と同居し同一の家庭生活を営んでいるのはどちらかなどといった点が,社会通念上,極めて重要な判断要素となる。原告と参加人は離婚しており,Aの親権は参加人が持ち,参加人の 保護下において同一の家庭で日常生活を営んでいることを踏まえると,収入 の多少及び養育費支払の事実をもってAを原告の被扶養者とすることは,社会通念に照らしても理解されるものではなく,著しく実態とかい離する。よって,社会通念等に照らし,Aを原告の被扶養者から外した本件処分は適法である。 (参加人の主張) ア主位的主張DVの被害者が保護証明書を添付して被扶養者から外れる旨の申出をした場合,その迅速な保護の観点からは,画一的に当該申出があったことをもって,被保険者の被扶養者から外すことが必要不可欠かつ適切である。 仮に,事案に応じた判断が必要であるとしても,参加人は,婚姻期間中, 原告から暴言を吐かれたり,交友関係を制限されるなどの精神的暴力を受けており,原告とAの面会交流時にも,婚姻期間中の暴言を想起させられるような原告の言動にしばしば触れていた。また,参加人は,原告から医療費の領収書の引渡調 ,交友関係を制限されるなどの精神的暴力を受けており,原告とAの面会交流時にも,婚姻期間中の暴言を想起させられるような原告の言動にしばしば触れていた。また,参加人は,原告から医療費の領収書の引渡調停を起こされるなど,Aが原告の被扶養者であることによる不利益を受けていた。したがって,本件処分がされた当時,参加人の安全確 保の緊急性・必要性が否定されるような状況にはなく,被害者である参加人の意思が尊重されるべき状況にあった。また,参加人は,原告から嫌がらせ行為を受けるのではないかとの不安を抱いており,現在,Aと共に,原告に知られている住居から転居し,転居先を秘匿している。仮に,Aが原告の被扶養者となれば,Aが診療を受けた医療機関が原告に通知されることになり, A,ひいては参加人の転居先が原告に知られる契機になりかねない。したがって,本件処分に違法性はない。 イ予備的主張Aが主に原告により生計を維持されている関係にあるか否かについては,平成16年通知の趣旨を踏まえて判断されるべきところ,平成16年通知に おいては,収入の多少は飽くまで参考事項として,家計の実態,社会通念を 総合的に勘案して,生計維持関係についての認定を行うべきとされている。 特に,原告と参加人のように,同一世帯に属さない元夫婦の場合には,それぞれの元夫婦によって事情が異なることが一般的であることから,実態に適った認定を行うためにも,家計の実態,社会通念の検討要素により一層比重を置くべきである。参加人の平成26年の年間収入額は105万3684 円,原告からAへの養育費の支払額は年間276万円であり,後者の方が額が多いものの,この事情は参考事項にとどめるべきである。 家計の実態の検討においては,単に養育の原資の多募の比較のみならず, 円,原告からAへの養育費の支払額は年間276万円であり,後者の方が額が多いものの,この事情は参考事項にとどめるべきである。 家計の実態の検討においては,単に養育の原資の多募の比較のみならず,Aに関する経済活動を誰が担っているかという点も考慮する必要がある。原告とAとの関わりは2か月に1度の面会交流のみであるのに対し,参加人は, Aに関し,いかなる項目に幾らの金額を支出するか,幾ら消費に充て,幾ら貯蓄に充てるかなどを決定し,実際に取引を行い,Aが公共サービスの給付を受けるための必要な手続等全てを担っている。すなわち,Aの家計は,参加人に委ねられているという状況である。 また,平成26年当時,参加人の収入は全てAと参加人の家計の支出に充 てられていたのに対し,原告から支払われていた養育費については,毎月10万円のみが家計の支出に充てられていたものであり,残りの13万円は手つかずの状態であった。すなわち,養育の原資の多募を比較しても,参加人の収入からAの生活のために充てられていた額と,原告の養育費からAの生活のために充てられていた額には,大差がない状況であった。 そして,Aの親権者は参加人であり,Aを原告の被扶養者から削除したとしても,社会通念上,何ら妥当性を欠くところはない。むしろ,未成年者が親権者以外の者によって扶養されているとすることは特異であり,社会通念上妥当でないことも多い。また,健康保険被保険者証は,親子関係を示す証明書として用いられることも多いため,被保険者氏名欄に,親権者と異なる 原告の氏名が記載されることにより,Aにとって種々の不都合が発生し得る。 以上の事情を勘案すると,Aと原告の生計維持関係を認めることは相当ではなく,Aは原告の被扶養者ではない。 (原告の主張)ア れることにより,Aにとって種々の不都合が発生し得る。 以上の事情を勘案すると,Aと原告の生計維持関係を認めることは相当ではなく,Aは原告の被扶養者ではない。 (原告の主張)ア被告及び参加人の主位的主張について基本方針,保険課長通知及び平成20年通知は法律ではないから,これら に従って本件処分をしたとしても,そのことから直ちに本件処分が適法になるわけではない。 仮に,基本方針,保険課長通知及び平成20年通知が,DVの事実の有無を判断する権限・機能,換言すれば,DVの有無・程度や扶養の実態等について考慮した上で被扶養者の該当性を判断する権限・機能を保険者に対して 一切与えず,保護証明書を持参していれば必ず被扶養者から外す処分をしなければならないことを定めているとすれば,基本方針,保険課長通知及び平成20年通知は,法律によって保険者に与えられた被扶養者の該当性の判断という権限・権能を正当な理由なく剥奪又は制限するものであり,違法である。 イ被告及び参加人の予備的主張について被告は,参加人が主張するDVの有無,原告によるAの扶養状況等について,少なくとも容易に知り得る事情を考慮した上で,Aが原告の被扶養者に当たるか否かを判断すべきであった。しかし,被告は,本件処分をするに当たり,原告が参加人に対しAの養育費として毎月23万円を支払っているこ とや,原告が参加人に対しDVを行う機会が存在しないことなどを考慮していないから,本件処分は,裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものとして,違法である。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(原告適格の有無)について ⑴ 行政事件訴訟法9条1項にいう「法律上の利益を有する者」とは,当該処分 により自己の権利若しくは法律上保護された利益を 当裁判所の判断 1 争点⑴(原告適格の有無)について ⑴ 行政事件訴訟法9条1項にいう「法律上の利益を有する者」とは,当該処分 により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう(最高裁昭和53年3月14日第三小法廷判決・民集32巻2号211頁参照)。 本件処分は原告を名宛人としてされたものであり,実際にも原告は,本件処分により,Aが被扶養者であるとすれば受けられたはずの家族療養費,家族訪 問看護療養費,家族移送費,家族出産育児一時金,高額療養費といった健康保険法上の各種給付の支給(同法110条1項,111条1項,112条1項,114条,115条1項)を受ける法的地位を失ったのであるから,原告は,本件処分により法律上保護された利益が侵害されたと認められる。 ⑵ これに対し,被告は,Aに関して保険給付を行うべき事由が生じた事実は確 認できず,原告には法律上保護されるべき利益に当たる保険給付の受給権が発生していないと主張する。しかし,原告適格を肯定するためには,上記の各種給付の支給を受ける法的地位が侵害されていれば足り,具体的受給権が現に発生していることまで要するとは解されないから,被告の上記主張は失当である。 ⑶ したがって,原告は,本件処分の取消しを求める原告適格を有する。 2 争点⑵(本件処分の適法性)について⑴ 本件申出があったことのみをもって本件処分が適法といえるかア被告及び参加人は,基本方針,保険課長通知及び平成20年通知が保護証明書を添付して被扶養者から外れる旨の申出がされた場合に被扶養者から外す旨の扱いを定めていることからすれば,参加人から本件申出があった以 上はAを原告の被扶養者から外した本件処分は適法であると主張する 付して被扶養者から外れる旨の申出がされた場合に被扶養者から外す旨の扱いを定めていることからすれば,参加人から本件申出があった以 上はAを原告の被扶養者から外した本件処分は適法であると主張する。 イ確かに,DVの被害者がDVを理由として保護を求め,その結果保護証明書が発行された場合には,当該被害者の安全を確保すべき緊急性・必要性が高いと考えられるから,上記申出がされた時点で一旦被扶養者から外すという運用は,配偶者暴力防止法の趣旨に沿うものであるといえる。そして,D Vの被害者が被保険者である加害者から避難した場合には,被保険者と被扶 養者との間で生計維持関係が解消されていることが少なくないと考えられることからすれば,上記運用は,健康保険法3条7項各号にいう「被扶養者」の解釈という面からも,一定の合理性を有するものであるといえる。 しかし,ある者が被扶養者に当たるか否かは,健康保険法3条7項各号の解釈の問題であり,配偶者暴力防止法において被扶養者から外す手続の特則 が定められているわけではないことも考慮すると,行政機関が定めた基本方針や通知が健康保険法に優先するものではないことは明らかである(基本方針は配偶者暴力防止法2条の2に基づき定められたものではあるが,同条が被扶養者から外す手続の特則について基本方針に委任したものではないことは,同条の文言から明らかである。)。そして,健康保険法には,被扶養者 資格の認定,取消しに当たり,生計維持関係以外の事情を考慮することついて保険者に裁量を認めていることをうかがわせる規定は存しない。 そうすると,上記申出がされたために一旦は被扶養者から外す処分がされたものの,実際には生計維持関係が解消されていないことが後の取消訴訟で判明した場合には,当該処分が取消しを わせる規定は存しない。 そうすると,上記申出がされたために一旦は被扶養者から外す処分がされたものの,実際には生計維持関係が解消されていないことが後の取消訴訟で判明した場合には,当該処分が取消しを免れないことは明らかである(この 点,基本方針においても,被保険者との生計維持関係がなければ被扶養者から外れる旨(第2の7⑹ア)を明記した上で,上記申出があれば被扶養者から外れる旨(同ウ)を記載していることからすれば,基本方針が生計維持関係の有無を問うことなく当該処分を適法と扱う趣旨であるとは解されない。)。 ウしたがって,本件申出がされたことのみをもって本件処分が適法になるものではなく,本件処分が適法であるといえるためには,本件処分がされた当時,Aが健康保険法3条7項各号のいずれにも該当しないことを要するものというべきである。 そして,原告は,本件処分がされた当時Aが原告の被扶養者であったと主 張するところ,前記前提事実⑴アのとおり,Aは原告の子であるから,原告 はAが健康保険法3条7項1号に該当することをいうものと解される。 そこで,以下,本件処分がされた当時,Aが主として原告により生計を維持するものであったか否かをみることとする。 ⑵ 本件処分がされた当時原告とAとの間に生計維持関係があったかア健康保険法3条7項1号の解釈について 健康保険法は,労働者又はその被扶養者の業務災害以外の疾病,負傷若しくは死亡又は出産(以下,併せて「保険事故」という。)に関して,保険給付を行い,もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的として(1条),被保険者のみならず,その被扶養者の保険事故についても,被保険者に対し,家族療養費,家族訪問看護療養費,家族移送費,家 族埋葬料及び家族出産 定と福祉の向上に寄与することを目的として(1条),被保険者のみならず,その被扶養者の保険事故についても,被保険者に対し,家族療養費,家族訪問看護療養費,家族移送費,家 族埋葬料及び家族出産育児一時金を支給するものとしている(110条1項,111条1項,112条1項,113条,114条)。その趣旨は,被保険者によって生計が維持されている者に保険事故が生じた場合には,被保険者も予期せぬ出費を余儀なくされることから,この場合にも被保険者に保険給付を行うこととして,その経済的負担の軽減を図ることにあると 解される。 そして,健康保険法3条7項1号は,「被扶養者」の意義につき,被保険者と一定の親族関係がある者のうち,「主としてその被保険者により生計を維持するもの」と定めるのみであって,生計維持関係のほかに考慮すべき要素を何ら規定していない。 そうすると,元夫婦である父母がその子の養育費を共に負担している場合に当該子がいずれの被扶養者に該当するのかを判断するに当たっては,家計の実態や社会通念等を踏まえ,主として当該子の生活を経済的に支えているのが父母のいずれであるのかを専ら考慮すべきものであると解される。 これに対し,被告及び参加人は,生計維持関係の有無は,父母のどちら が子の親権を有し子と同居しているのか,子に関する経済活動の意思決定や必要な手続等を行っているのは父母のどちらであるのか,DV被害の発生のおそれその他の種々の不都合が生じるか否か等の諸事情を考慮した上,社会通念に照らして判断すべきである旨主張する。 しかし,健康保険法3条7項1号は,被保険者が被扶養者の親権を有し ていることを要件としておらず,また,同項2号から4号までとは異なり,被扶養者が被保険者と同一の世帯に属することを要件 する。 しかし,健康保険法3条7項1号は,被保険者が被扶養者の親権を有し ていることを要件としておらず,また,同項2号から4号までとは異なり,被扶養者が被保険者と同一の世帯に属することを要件とはしていないのであるから,親権や同居の有無は,それ自体では生計維持関係の有無を判断するに当たって重要な考慮要素となるものではない。また,被保険者からのDVによって,被扶養者が避難し,被保険者との生計維持関係が解消 された場合は格別,単にDV被害のおそれがあることや種々の不都合が生じるというのみでは,生計維持関係を否定することはできないというべきである。さらに,父母の一方が子に関する経済活動の意思決定等を専ら行っているとしても,それを主として経済的に支えているのが被保険者であるとすれば,その子は被保険者の被扶養者であるというべきである。 イ検討そこで,以上の観点を踏まえ,本件処分がされた当時,主としてAの生活を経済的に支えていたのが原告であるか否かをみると,前記前提事実⑴イ,エ,オのとおり,①原告と参加人は,離婚するに当たり,原告がAの養育費として月額23万円を支払うことを合意し,以後,原告は,本件処分に至る まで毎月上記養育費の支払を継続していたこと,②参加人の平成26年の年間収入額は105万3684円(1か月当たり8万7807円)であったことが認められる。そうすると,原告が負担していた養育費の金額が,参加人の上記収入からAの養育に充てられた金額よりも多かったことは明らかである。そして,ほかに主として参加人がAの生活を経済的に支えていたと認 めるべき事情は見当たらない。 そうすると,本件処分がされた当時,主としてAの生活を経済的に支えていたのは原告であったというべきである。 ウ参加人の主 経済的に支えていたと認 めるべき事情は見当たらない。 そうすると,本件処分がされた当時,主としてAの生活を経済的に支えていたのは原告であったというべきである。 ウ参加人の主張についてこれに対し,参加人は,原告から支払われている養育費については,毎月10万円のみが家計の支出に充てられていたものであり,残りの13万円に ついては手つかずの状態であったとして,家計の実態としては,参加人の収入からAの生活のために充てられていた額と,原告の養育費からAの生活のために充てられていた額には大差がない状況であったと主張する。 しかし,金銭は特定物ではないから,参加人が原告から支払われていた養育費の中から毎月13万円を費消せずに貯蓄していたとしても,その貯蓄は, 原告が支払っていた養育費と参加人の収入の双方が相まって形成されたものというべきである。そうすると,上記貯蓄があるからといって,主としてAの生活を経済的に支えていたのが原告ではなかったということはできない。 エ小括 以上によれば,本件処分がされた当時,Aは,主として原告により生計を維持していたのであるから,健康保険法3条7項1号により,原告の被扶養者であったというべきである。 ⑶ まとめそうすると,Aを原告の被扶養者から外した本件処分は違法である。 第4 結論したがって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官武藤貴明 裁判官青野卓也 裁判官岩竹 遼 裁判官青野卓也 裁判官岩竹 遼

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