主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求東京都杉並区長が原告に対し平成20年10月16日付けでした情報非公開決定を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が,杉並区情報公開条例(昭和61年杉並区条例第38号。以下「本件条例」という)に基づいて,東京都杉並区長(以下「杉並区長」とい。 う)に対し,情報の公開を請求したところ,これを非公開とする決定を受けた。 ため,その決定の取消しを求めた事案である。 関係法令の定め等(1) 本件条例は,次のとおり規定している。 ア1条(目的)この条例は,情報の公開を求める区民の権利と,区が区政に関し区民に説明する責務とを明らかにするとともに,情報の公開に関し必要な事項を定めることにより,区民の知る権利を保障し,もって区民の区政への参加を推進し,地方自治の本旨に即した,公正で開かれた区政の進展を図ることを目的とする。 イ5条(請求権者)何人も,この条例に定めるところにより,実施機関に対し,情報の公開 を請求することができる。 ウ6条(情報の原則公開)(ア) 1項実施機関の管理する情報は,原則公開とする。ただし,実施機関は,次の各号のいずれかに該当する情報については,当該情報の公開をしないことができる。 1から4まで(略) 区の内部又は区と国若しくは他の地方公共団体との間における審議,検討等の意思形成過程における情報であって,公開することにより公正又は適正な意思形成に著しい支障を生ずるおそれのあるもの(イ) 2項(略)(2) 東京都は,都市計画法12条の5第3項に基づき再開発等促進区を都市計画に定めることにつき,その望ましい運用についての原則的な考え方等を示した「再開発等促進区を定める地区計画運用基準(以下「本件運用 東京都は,都市計画法12条の5第3項に基づき再開発等促進区を都市計画に定めることにつき,その望ましい運用についての原則的な考え方等を示した「再開発等促進区を定める地区計画運用基準(以下「本件運用基準」」という)を定めている(甲4)。 。 ア本件運用基準の第5(計画手続と運用システム)は,次のとおり定めている。 (ア) 1項(関係地権者,住民等による地区計画の提案,企画提案書の作成と提出)関係地権者,住民等が,東京都に対して地区計画に関する企画の提案及び都市計画手続きの依頼を行うときは,企画提案書等の資料を提出するものとする。 資料の提出に当たっては,提案者全員の氏名又は名称,住所を記載した書面を添付し,原則として,区を経由するものとする(以下略)。 (イ) 3項(計画手続の流れ)再開発等促進区を定める地区計画は,当該区域における将来めざすべき市街地像の実現に向けて,関係地権者等の合意形成,関係機関との調整,企画提案,都市計画決定,建築基準法の申請などの諸手続,開発行為及び建築行為による開発,整備までの幾つかの段階を踏まえて進めて行く計画である。 具体的には,次の手続を踏んで進めることが望ましい。 第1段階から第3段階まで(略)第4段階(都市計画決定段階)都市計画決定手続直近段階の具体的開発事項についての合意形成と都市計画に関する手続①都市機能の増進に対する寄与度や周辺市街地環境の整備,改善,向上に対する貢献度の確認②周辺住民に対する説明会の開催など開発,整備の内容についての周知,合意形成,協力③計画,整備内容について,関係地権者間の最終的な合意形成④関係機関と,計画内容についての再確認⑤企画提案書の提出,都市計画手続きの依頼⑥計画についての説明会の開催⑦一連の都市計画手続 ⑧再開発等促進区 て,関係地権者間の最終的な合意形成④関係機関と,計画内容についての再確認⑤企画提案書の提出,都市計画手続きの依頼⑥計画についての説明会の開催⑦一連の都市計画手続 ⑧再開発等促進区を定める地区計画の都市計画決定第5段階から第7段階まで(略)イまた,本件運用基準の第5の末尾には,前記ア(イ)の第1段階から第5段階までの計画手続のおおむねの流れを示すものとして,別紙1の「再開発等促進区を定める地区計画の流れ」と題する図表の記載がある。 (3) 東京都は,本件運用基準を施行するに当たっての必要な事項として「再開発等促進区を定める地区計画運用基準実施細目(以下「本件実施細目」と」いう)を定めている(乙2)。 。 ア本件実施細目の第2(企画提案)は,次のとおり定めている。 (ア) 1項(企画提案書の提出)再開発,開発整備を行おうとする区域の関係地権者,住民等が,東京都に対して「再開発等促進区を定める地区計画」に関する再開発,開,発整備などについての企画提案を行うに当たっては,当該提案の内容などを記載した企画提案書を提出すること(イ) 2項(企画提案書の標準的内容)企画提案書は,提案する計画が,基本計画等及び「東京都再開発等促進区を定める運用基準」などに適合したものであるとともに,東京都が,提案された計画に対する評価を行い「再開発等促進区を定める地区計,画」に関する都市計画の原案を策定するために必要かつ十分な内容を備えていなければならない。 企画提案書が備えるべき標準的内容は,表-1(略)のとおりとする。 イ本件実施細目の第5(様式)の1項(企画提案書の提出)は,提出すべ き企画提案書の様式として,別紙2のとおり定めている。 前提事実本件の前提となる事実は,次のとおりである。証拠及び弁論の全趣旨により容易に認 5(様式)の1項(企画提案書の提出)は,提出すべ き企画提案書の様式として,別紙2のとおり定めている。 前提事実本件の前提となる事実は,次のとおりである。証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実等は,その旨付記した。その余の事実は,当事者間に争いがない。 (1) 別紙3物件目録記載の土地に所在し,同物件目録記載の建物によって構成される集合住宅(以下「A住宅」という)は,昭和33年に分譲された集。 合住宅であるところ,建物が老朽化したことから,平成18年3月21日,建替え事業を行うため,関係地権者及び住民等によってA住宅建替え組合(以下「本件建替え組合」という)が設立され,同組合によって建替え計。 画(以下「本件建替え計画」という)が進められている(甲6,弁論の全。 。 趣旨)本件建替え組合は,平成20年2月15日,被告に対し,本件運用基準及び本件実施細目に基づいて作成した企画提案書として,本件建替え計画に係る企画提案書(以下「本件企画提案書」といい,本件企画提案書に記載された情報を「本件情報」という)を提出した。なお,本件建替え組合は,同。 年10月29日,被告に対し,再度,本件建替え計画に係る企画提案書を提出している。 (2) 原告は,平成20年10月6日,杉並区長に対し,本件条例9条に基づき,「2008年2月15日にA住宅建替え組合より杉並区に提出された再開発等促進区を定めるための「企画提案書」の公開を請求した(甲2)」。 (3) 杉並区長は,平成20年10月16日付けで,前記(2)の公開請求に係る 情報を非公開とする決定(20情第○○号。以下「本件非公開決定」という)をし,同月17日,これを原告に通知した。 。 本件非公開決定の通知書には,非公開の理由として,本件企画提案書(本件情報)が被告と東京都と 開とする決定(20情第○○号。以下「本件非公開決定」という)をし,同月17日,これを原告に通知した。 。 本件非公開決定の通知書には,非公開の理由として,本件企画提案書(本件情報)が被告と東京都との相互間における審議,検討等に関する情報であって,今後,東京都及び被告の都市計画審議会の審議に付される内容であるところ「このような情報を公開すると,区の内部および都との間における,審議,検討等に公正かつ適正な意思形成に著しい支障を生ずるおそれがある。 また,未成熟な情報が確定した情報と誤解されるなど区民の間に混乱を生じさせるおそれもあ」るから,本件情報は,本件条例6条1項5号に該当するためと記載されている(甲3,弁論の全趣旨)。 (4) 原告は,平成20年10月30日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕。 著な事実) 争点及び当事者の主張本件の争点は,本件情報が本件条例6条1項5号所定の非公開情報に該当するかどうかであり,争点に対する当事者の主張は次のとおりである。 (原告の主張)(1) 本件条例6条1項5号の趣旨は,行政内部の意思形成過程が公開されると,外部から圧力や干渉等の影響を受けるなどして,行政内部の自由な意見交換が妨げられ,その結果,最終的な意思決定の質が低下する場合もあり得ること等を考慮し,そのような弊害を防止することにある。このような趣旨からすれば,同号が非公開情報として規定する意思形成過程情報とは,なお変更や修正の可能性のある最終的な意思決定前の未確定な意見や判断等の情報と いうべきである。 本件運用基準の第5の3項の第4段階の定めによれば「企画提案書の提,出(⑤)の前に「計画,整備内容について,関係地権者間の最終的な合意」,形成(③)という手続があるから,企画提案書の内容については,既に関」係地権者間で最終的 定めによれば「企画提案書の提,出(⑤)の前に「計画,整備内容について,関係地権者間の最終的な合意」,形成(③)という手続があるから,企画提案書の内容については,既に関」係地権者間で最終的な合意形成がされたことを前提としている。そうすると,本件企画提案書は,基本的に変更や修正の加えられることを想定していない,本件建替え組合の確定した合意を内容とするものであり,本件情報は,意思形成過程情報とはいえない。 (2) 企画提案書は,本来,区の内部又は区と東京都との間における審議,検討等による公正かつ適正な意思形成がされた後に提出されるものであるから,その提出後の段階においては,もはや意思形成に著しい支障を生ずるおそれがないことは明らかである。また,企画提案書の提出に当たっては,関係地権者間の最終的な合意形成だけでなく「周辺住民に対する説明会の開催な,ど開発,整備の内容についての周知,合意形成,協力(本件運用基準の第」5の3項の第4段階の②)等の民主的な手続を経ているから,それを公開することにより区民の間に混乱を生じさせるおそれはない。企画提案書については,地権者のみならず周辺住民等も多大な利害関係を有するものであり,本件情報は当然に民主的コントロールを受けるべき情報であるから,それを市民に対し積極的に公開していくことこそがむしろ公正かつ適正な意思形成に資するというべきである。 (被告の主張)本件運用基準及び本件実施細目に基づいて作成されて提出された企画提案書 は,都市計画手続の中で都市計画審議会において審議する際の基礎資料であるから,同審議会委員の率直な意見交換や意思決定の中立性を確保するため,都市計画の決定及び告示までは非公開として取り扱われるべきものである。また,東京都においても,企画提案書については,同様に,都市計画の決 同審議会委員の率直な意見交換や意思決定の中立性を確保するため,都市計画の決定及び告示までは非公開として取り扱われるべきものである。また,東京都においても,企画提案書については,同様に,都市計画の決定及び告示までは非公開としており,被告に対し,本件企画提案書についても非公開とするよう要請している。 また,本件企画提案書については,平成20年2月28日,東京都,被告及び本件建替え組合による協議において,東京都から,未整理な部分があり,また,東京都,被告及び関係機関との事前協議が不十分な状態で作成されており,本件実施細目が求めている内容を満たしていないとして,口頭指導がされた。 その後,被告は,東京都と協議及び調整をしながら,本件運用基準や本件実施細目に従って,本件企画提案書の記載内容の精査等を進めていたものであり,多岐にわたる点について修正し,又は調整した上,同年10月29日,改めて本件建替え組合から企画提案書の提出を受け,これを東京都に提出した。再度提出された企画提案書は,本件企画提案書と比較すると,提案の主旨は同一であるものの,記載内容に多くの変更がされている。 以上によれば,本件情報を公開することは,関係者に無用の誤解や混乱を生じさせ,ひいては,本件情報を基礎として決定される都市計画についての公正かつ適正な意思形成に著しい支障を生じさせるおそれがあるのであるから,本件情報は本件条例6条1項5号所定の非公開情報に該当するというべきである。 第3当裁判所の判断 本件条例は,情報の公開を求める区民の権利と,区が区政に関し区民に説明 する責務とを明らかにするとともに,情報の公開に関し必要な事項を定めることにより,区民の知る権利を保障し,もって区民の区政への参加を推進し,地方自治の本旨に即した,公正で開かれた区政の進展を図ることを目的とし を明らかにするとともに,情報の公開に関し必要な事項を定めることにより,区民の知る権利を保障し,もって区民の区政への参加を推進し,地方自治の本旨に即した,公正で開かれた区政の進展を図ることを目的としているのであるから(1条,このような目的に照らせば,本来,行政における内)部的な意思形成過程における情報についても,可能な限り開示されることが望ましいということができる。しかし,個々の事務事業において行政機関内部又は他の行政機関との間において行われる審議及び検討等に係る情報の中には,当該審議及び検討等が行政における内部的な意思形成の途中で行われるため,いまだ十分な検討又は協議が尽くされていないものや,検討,協議等を通じて内容が変更されることが予定されているものなどが含まれている場合があり,これらが公開されることにより,区民等に誤解や混乱を与えたり,行政機関内部又は他の行政機関との間における自由率直な意見交換が妨げられたりするおそれがあるので,そのような弊害を避けるため,本件条例6条1項5号は,当該事務又は将来の同種の事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるものは公開しないことができると規定したものと解される。 。 , 前記第2の2の前提事実(以下「前提事実」という)のとおり,東京都は都市計画法12条の5第3項所定の再開発等促進区を都市計画に定めるにつき,その望ましい運用についての原則的な考え方等を示した本件運用基準及び本件実施細目を定めているところ,本件企画提案書は,本件運用基準及び本件実施細目に基づいて作成された企画提案書であり,A住宅の立替え事業を計画する本件建替え組合が,被告を経由して,東京都に対し,都市計画法12条の5に規定する地区計画の決定の提案として,提出した資料である。 本件運用基準によれば,住民 であり,A住宅の立替え事業を計画する本件建替え組合が,被告を経由して,東京都に対し,都市計画法12条の5に規定する地区計画の決定の提案として,提出した資料である。 本件運用基準によれば,住民等から提出された企画提案書については,東京都において,都市計画区域の整備,開発及び保全の方針(都市計画法6条の2,都市再開発方針等(同法7条の2)並びに区市町村の都市計画に関する)基本的な方針(同法18条の2)等の都市計画に適合すること,その他本件運用基準との適合性を満たすかどうかなどについての評価を行い,適当と判断された場合に地区計画に関する都市計画の原案を作成することが予定されており,その後,同法16条2項に基づく関係地権者による意見提出の手続のほか,周辺市街地の住民への説明会,意見聴取等の手続を経て,都市計画の案が作成されることが予定されている。さらに,上記都市計画の案については,公衆への縦覧等の手続を終えた後,東京都の都市計画審議会に付議され,同審議会の議を経て,都市計画決定がされることとされている(同法17条及び18条。 )そして,本件については,被告は,本件企画提案書の提出を受け,都市計画決定権者である東京都と本件建替え組合との間で協議し,又は調整するなどした上で,東京都において都市計画の案を作成し,東京都の都市計画審議会に付議するなどの都市計画法上の手続を進めていたものであり(甲5,6,弁論の全趣旨,前提事実のとおり,本件非公開決定後,本件建替え組合から本件建)替え計画に係る企画提案書が改めて提出されていることからすれば,本件非公開決定時においては,本件建替え計画に係る都市計画の案はいまだ作成されていなかったと認めることができる。 以上によれば,本件運用基準上は,住民から企画提案書が提出された後に,行政機関内部での検討や関 開決定時においては,本件建替え計画に係る都市計画の案はいまだ作成されていなかったと認めることができる。 以上によれば,本件運用基準上は,住民から企画提案書が提出された後に,行政機関内部での検討や関係地権者による意見提出等の手続を経て,都市計画の案が作成されるのであって,企画提案書と東京都が作成する都市計画の案と が一致することが予定されているということはできず,本件非公開決定の時点においては,本件企画提案書の内容とは異なる内容の都市計画の案が作成される可能性があったといわざるを得ない。そうすると,そのような段階において本件情報が公開された場合には,A住宅の付近住民等に誤解や混乱を与えたり,東京都や本件建替え組合との協議及び調整並びに東京都における都市計画の案の作成等に著しい支障を生ずるおそれがあり,さらに,都市計画審議会の委員の自由率直な意見交換等が妨げられるおそれがあるものといわざるを得ない。 したがって,本件情報は,本件条例6条1項5号に規定する意思形成過程情報に該当するというべきである。 この点について,原告は,①本件企画提案書は,関係地権者間の最終的な合意形成がされた上で提出されているから,意思形成過程情報には該当しない,,,②企画提案書の提出に当たっては「周辺住民に対する説明会の開催など開発整備の内容についての周知,合意形成,協力」等の手続を経ており,区民の間に混乱を生じさせるおそれはない旨を主張する。 確かに,本件運用基準及び本件実施細目によれば,企画提案書は,関係地権者による協議を経て提出されることが予定されており,東京都においては,一般的には,関係地権者間の最終的な合意が形成されていることが望ましいものとして運用されていることがうかがわれる。しかし,前記2のとおり,企画提案書の提出後,都市計画法16条2項に基 都においては,一般的には,関係地権者間の最終的な合意が形成されていることが望ましいものとして運用されていることがうかがわれる。しかし,前記2のとおり,企画提案書の提出後,都市計画法16条2項に基づく関係地権者による意見提出の手続のほか,周辺市街地の住民への説明会,意見聴取等の手続を経て,都市計画の案が作成されることが予定されており,企画提案書について,必ずしも関係地権者間の最終的な合意が形成され,又は周辺住民との調整がされた上で提出 されることが予定されているとまでいうことはできない。また,本件企画提案書に関しては,前提事実のとおり,その提出後に本件建替え組合から改めて本件建替え計画に係る企画提案書が提出されており,むしろ,関係地権者間の最終的な合意形成に基づく確定的なものではなかったことがうかがわれるのである。さらに,仮に,企画提案書が関係地権者間の最終的な合意に基づく確定的なものであったとしても,これがそのまま都市計画となるものではなく,被告及び東京都の内部における手続を経て最終的な決定に至るものである。 そうすると,原告の前記主張は採用することができないというべきである。 以上のとおりであるから,本件情報が本件条例6条1項5号に定める非公開情報に該当するとしてその全部を非公開とした本件非公開決定は適法である。 第4 結論 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部裁判長裁判官杉原則彦裁判官波多江真史 裁判官家原尚秀 江真史 裁判官家原尚秀
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