1令和3年(た)第3号決 定主 文本件再審請求を棄却する。 理 由第1 確定判決の概要及びその証拠構造等1 判決確定に至るまでの経緯等A(以下「事件本人」という。)は、平成11年9月29日、福岡地方裁判所において、死体遺棄、略取誘拐、殺人被告事件について、死刑に処する旨の有罪判決を受けた。事件本人はこれを不服として控訴したが、平成13年10月10日、福岡高等裁判所において控訴棄却の判決を受け、さらに上告したが、平成18年9月8日、最高裁判所において上告棄却の判決を受けて、上記第1審判決が確定した(以下、同判決を「確定判決」という。)。事件本人については、平成20年10月28日、その刑が執行された。 2 確定判決が認定した罪となるべき事実の要旨事件本人は、平成4年2月20日午前8時30分頃から午前8時50分頃までの間、福岡県飯塚市ab 番地のc 付近路上において、小学校に登校中のB及びC(以下、Bと併せて「被害者両名」という。)を認め、被害者両名が未成年者であることを知りながら、自己の運転する普通乗用自動車(マツダステーションワゴン・ウエストコースト。以下「事件本人車」という。)に乗車させ、通学路外に連れ出して、被害者両名を略取又は誘拐し、同日午前8時30分頃から午前9時頃までの間、同市内又はその近郊において、殺意をもって、被害者両名の頸部を手で締め付け圧迫し、被害者両名をいずれも窒息により死亡させて殺害し、同日午前11時頃、同県甘木市de 番地のf から国道g 号線をh 町方向に約1.4km進行した地点(通称i 峠第5カーブ付近)において、その南方山中に、被害者両名の死体を投げ捨てて遺棄した。 2なお、確定控訴審判決は、その理由中において、拐取の犯行時刻は、同日午 に約1.4km進行した地点(通称i 峠第5カーブ付近)において、その南方山中に、被害者両名の死体を投げ捨てて遺棄した。 2なお、確定控訴審判決は、その理由中において、拐取の犯行時刻は、同日午前8時30分過ぎ頃であり、各殺害の犯行時刻はその後同日午前9時30分前後頃までの間と認定するのが相当である旨判示している。 3 確定判決の証拠構造等確定判決は、本件において事件本人と犯行との結び付きを証明する直接証拠は存在せず、個々の情況事実は、いずれも単独では事件本人を犯人と断定することができないものであるとした上で、主として以下のような情況事実を根拠とし、諸情況を総合すれば、事件本人が犯人であることは、合理的な疑いを超えて認定することができるとした(確定判決194頁ないし198頁)。 ⑴ D、E及びFらの供述によれば、本件犯行の犯人が使用したと疑われる車両は、マツダ製の後輪ダブルタイヤの紺色ワゴンタイプの車両で、リアウインドーにフィルムが張ってあるなどの特徴を有しており、犯人は被害者両名の失踪場所等についての土地鑑を有する者であると推測されるところ、事件本人は、前記車両と特徴を同じくする車両(事件本人車)を所有し、かつ、前記失踪場所等に土地鑑を有すること⑵ 被害者両名の着衣から発見された、被害者両名が犯人が使用した車両に乗せられた機会に付着したと認められる繊維片は、事件本人車と同型のマツダステーションワゴン・ウエストコーストに使用されている座席シートの繊維片である可能性が高いこと⑶ 事件本人車の後部座席シートからBと同じ血液型であるO型の血痕と人尿の尿痕が検出されているところ、被害者両名ともに殺害されたときに失禁と出血が生じたと認められ、事件本人が犯人であるとすれば、前記血痕及び尿痕の付着を合理的に説明できること⑷ 警察庁 の血痕と人尿の尿痕が検出されているところ、被害者両名ともに殺害されたときに失禁と出血が生じたと認められ、事件本人が犯人であるとすれば、前記血痕及び尿痕の付着を合理的に説明できること⑷ 警察庁科学警察研究所(以下「科警研」という。)が実施した血液型鑑定及びDNA型鑑定によれば、Cの遺体付近の木の枝に付着していた血痕並びに被害者両名の膣内容及び膣周辺から採取した血液の中に、犯人に由来すると3認められる血痕ないし血液が混在しており、仮に犯人が1人であるとした場合には、その犯人の血液型はz1 型、MCT118型はm1-m2 型であり、いずれも事件本人の型と一致していること⑸ 事件本人は、本件当時、亀頭包皮炎に罹患しており、外部からの刺激により亀頭から容易に出血する状態にあったから、事件本人が犯人であるとすれば、被害者両名の膣内容等に犯人に由来すると認められる血液等が混在していたことを合理的に説明できること⑹ 被害者両名が失踪した時間帯及び失踪現場は、事件本人が妻を勤務先に事件本人車で送った後、事件本人方に帰る途中の時間帯及び通路に当たっていた可能性があり、他方で、事件本人にはアリバイが成立しないこと4 本件再審請求に至るまでの経緯⑴ 事件本人の妻である請求人は、平成21年10月28日、福岡地方裁判所に対し、確定判決について再審請求(以下「第1次再審請求」という。)をした。第1次再審請求において、弁護人は、主要な新証拠として、科警研が実施した前記血液型鑑定及びDNA型鑑定の証拠能力ないし信用性を否定するため、①G1教授作成の鑑定書等、②いわゆる足利事件の再審判決並びにそれに関する最高検察庁作成の報告書、G2教授作成の意見書及びG3教授作成の意見書を提出し、Dの目撃供述の信用性を否定するため、③G4教授作成の鑑定書(以下「 等、②いわゆる足利事件の再審判決並びにそれに関する最高検察庁作成の報告書、G2教授作成の意見書及びG3教授作成の意見書を提出し、Dの目撃供述の信用性を否定するため、③G4教授作成の鑑定書(以下「G4第2次鑑定書」という。)、司法警察員H1、同H2作成の報告書(以下「H1報告書」という。)及び同H3作成の報告書(以下「H3報告書」という。)を提出した。 ⑵ これに対し、福岡地方裁判所は、平成26年3月31日、概要、以下のとおり説示し、第1次再審請求を棄却した。 ア Dの目撃供述についてDは、確定審において、事件当日の午前11時頃、i 峠の遺留品発見現場付近路上において、事件本人車と同様の特徴を有する不審車両が停車し4ているのを目撃したと証言している。G4教授は、Dの目撃再現実験を実施したが、その実験条件は、重要な点においてなおDの目撃条件とは異なっており、同実験に基づくG4第2次鑑定書の内容を踏まえても、Dがその目撃条件からしてあり得ない詳細な供述をしているとはいえない。また、同鑑定書は、確定控訴審が指摘しているD供述の信用性を肯定する事情について十分な検討がなされているものとも認め難い。したがって、G4第2次鑑定書に明白性は認められない。 また、H1報告書及びH3報告書の各記載からは、Dの警察官調書を作成したH1警察官が、それに先立って事件本人車の車種や特徴を把握していた可能性は相当高い。しかし、H3報告書によれば、さらにその以前から、Dが、目撃車両の特徴について、紺色、後輪ダブルタイヤで、ガラスに何かを貼付していたことを述べていたと認められ、また、Dは、それ以前に、知人に対しても、目撃車両の特徴について、紺色ダブルタイヤのワゴン車である旨述べていた事実も認められる。これらを踏まえると、H1警察官がDに対して供述を誘導 いたと認められ、また、Dは、それ以前に、知人に対しても、目撃車両の特徴について、紺色ダブルタイヤのワゴン車である旨述べていた事実も認められる。これらを踏まえると、H1警察官がDに対して供述を誘導したことが明らかになったということはできず、H1報告書及びH3報告書にも明白性は認められない。 イ 科警研が実施した鑑定についてまず、科警研が実施した血液型鑑定について、G1教授は種々の指摘をしてその信用性に疑問を呈しているが、これらの指摘はいずれも採用できない。 科警研が実施したMCT118型鑑定(DNA型鑑定)についても、G1教授による指摘の多くは採用できない。もっとも、G1教授の鑑定書等によれば、塩基配列の反復回数の測定方法が改善された結果、事件本人の正確なMCT118型がm3-m4 型であることが明らかになった一方、犯人由来と思われる血液の正確なMCT118型はm3-m5 型、m3-m4 型又はm3-m6 型のいずれかに当たり得るとしかいえず、両者が一致するか否5かを確定することはできない。そうすると、現段階において、科警研のMCT118型鑑定が、事件本人と犯人由来と思われる血液のMCT118型が一致しているとしたことをもって、単純に事件本人に対する有罪認定の根拠とすることはできない状況が生じているということができる。 また、足利事件の再審判決は、同事件当時の科警研によるDNA型鑑定の信頼性を一般的に判示したものでないことは明らかであり、同判決に関する最高検察庁作成の報告書やG3教授、G2教授の各意見書も、本件の科警研の鑑定を検討した上での意見を述べるものではないから、これらの書面によって、本件の科警研の鑑定の証拠能力が否定されることにはならない。 ウ 新旧全証拠による総合評価について確定判決が認定した情況事実から、 した上での意見を述べるものではないから、これらの書面によって、本件の科警研の鑑定の証拠能力が否定されることにはならない。 ウ 新旧全証拠による総合評価について確定判決が認定した情況事実から、犯人と事件本人のMCT118型が一致したことを除いたその余の情況事実を総合した場合であっても、事件本人が犯人であることについて合理的な疑いを超えた高度の立証がなされていることに変わりはない。本件では、犯人と事件本人のMCT118型が一致したとする科警研の鑑定の証明力について、確定判決の段階より慎重に評価すべき状況が生じているといえるが、G1教授の鑑定書等の内容を考慮しても、科警研のMCT118型鑑定によって、犯人と事件本人のMCT118型が一致したと認めることはできないが、他方で、これが一致しないと認めることもできないのであり、両者の可能性があるということにとどまり、事件本人以外の者が犯人である可能性に関する評価に影響を及ぼすものではない。したがって、弁護人が提出した証拠はいずれも明白性が認められない。 ⑶ これに対し、請求人は即時抗告したが、福岡高等裁判所は、平成30年2月6日、即時抗告を棄却し、最高裁判所は、令和3年4月21日、請求人の特別抗告を棄却した。 6第2 再審請求の趣旨及び理由等1 本件再審請求の趣旨及び理由は、弁護人作成の再審請求書(令和3年7月9日付け)、再審請求理由補充書(令和5年2月17日付け)、再審請求理由補充書(同年7月4日付け)、再審請求事由補充書(同年12月8日付け)、再審理由総括書面(令和6年1月31日付け)、飯塚事件第2次再審請求における請求人の主張の総括(同年2月15日付け)、飯塚事件第二次再審請求における請求人の主張の総括(同年3月1日付け)、意見書(同年3月19日付け)に、それぞれ記載され )、飯塚事件第2次再審請求における請求人の主張の総括(同年2月15日付け)、飯塚事件第二次再審請求における請求人の主張の総括(同年3月1日付け)、意見書(同年3月19日付け)に、それぞれ記載されたとおりである。 弁護人は、本件再審請求において、当初、Iの供述書(令和2年1月23日付け、当審弁1)及びJの供述録取書(平成30年5月16日付け、当審弁2)の2つを主要な新証拠として提出した。 まず、Iの供述書(当審弁1)は、同人が、事件当日、被害者両名と似た女の子2名が乗っている不審車両を目撃しており、同車両運転手という、事件本人とは別の人物が犯人である可能性があることを立証しようとするものである。 次に、Jの供述録取書(当審弁2)は、確定判決が有罪認定の根拠とした、自身の供述調書(確定第1審甲39)の内容を否定するものであり、同調書の信用性が否定されることを立証しようとするものである。 その後、当審においてI及びJの証人尋問が実施されたことを受けて、弁護人は、I及びJの各証言を主要な新証拠に据え、弁護人が提出した新証拠によれば、確定判決が有罪認定の根拠として挙げた情況証拠のうち、繊維鑑定を除き、犯行使用車両に関する事実を立証する証拠の信用性は否定されることになり、これを踏まえて事件本人が犯人ではないことを示す旧証拠を再評価すれば、その余の情況事実を総合しても、事件本人を犯人と認めることはできないから、これらの証拠は、事件本人に対して無罪を言い渡すべきことが明らかな証拠(刑訴法435条6号)に該当するので、再審を開始すべきである旨主張して7いる。 2 これに対する検察官の主張は、意見書(令和4年3月31日付け)、意見書(令和6年2月13日付け)にそれぞれ記載されたとおりであり、その要旨は、弁護人が提出した前記各証拠は、いずれも いる。 2 これに対する検察官の主張は、意見書(令和4年3月31日付け)、意見書(令和6年2月13日付け)にそれぞれ記載されたとおりであり、その要旨は、弁護人が提出した前記各証拠は、いずれも、事件本人に対して無罪を言い渡すべきことが明らかな証拠に該当しないので、本件再審請求は棄却されるべきであるというものである。 第3 当裁判所の判断1 序言本件再審請求において、弁護人が新証拠として提出した当審弁1、2、18ないし32、I及びJの各証言は、いずれも裁判所による実質的な証拠価値の判断を経たものではないから、証拠の新規性は認められる。 証拠の明白性に関して、弁護人は、上記のとおりJ及びIの各証言を主要な新証拠に据えているため、以下、これらの信用性を中心に検討し、その結果、弁護人が提出した新証拠が、関連する他の証拠の証明力に影響を及ぼすのか、ひいては確定判決における事実認定について合理的な疑いが生じ得るのか否かを検討する。なお、J及びIの各証言以外にも、弁護人は多数の証拠を新証拠として提出しているが、その多くは、J及びIの各証言の信用性を支えるものとして、補助的に位置づけることができるから、J及びIの各証言を主軸とする検討の中で、必要に応じて言及する。 2 J証言について⑴ 確定審におけるJの供述調書の概要ア 確定審で取り調べられたJの供述調書は2通あり、そのうち、確定判決の事実認定の基礎とされたのは、Jの平成6年10月22日付け検察官調書(確定第1審甲39。以下「本件検察官調書」という。)である。本件検察官調書は、確定第1 審において、検察官から「被害児童両名の登校状況」を立証趣旨として請求され、弁護人の同意の意見を受けて採用され、取り8調べられている。確定判決は、本件検察官調書等に基づいて、事件当日、被害者 審において、検察官から「被害児童両名の登校状況」を立証趣旨として請求され、弁護人の同意の意見を受けて採用され、取り8調べられている。確定判決は、本件検察官調書等に基づいて、事件当日、被害者両名を最後に目撃したのはJであると認定し、犯行現場を特定している。 これとは別に、確定控訴審では、検察官から、「供述経過」を立証趣旨として、Jの平成4年3月2日付け警察官調書(確定控訴審甲9。以下「本件警察官調書」という。)が請求され、弁護人の異議なしの意見を受けて採用され、取り調べられている。なお、本件警察官調書については、弁護人から、「Jが被害者らを目撃した場所に到着した時刻及び被害者らを目撃した時刻」を立証趣旨として請求され、検察官の同意の意見を受けて採用され、取り調べられている(確定控訴審弁13。以下、本件警察官調書と本件検察官調書を併せて「本件各調書」という。)。 イ 本件警察官調書の概要は以下のとおりである。 事件当日の平成4年2月20日当時、j に勤務しており、午前8時10分頃、車で自宅を出た。普段の通勤経路のとおり、バス通りを南下し、Kの角を右折して、裏道を西に進んだ。その道路の先は、L方前で概ね南北に枝分かれする三叉路となっているところ、当時、その少し手前の地点で車を停めて車内で化粧をするのが日課になっていたので、その日も同じように車を停めた。それが午前8時20分頃のことだった。化粧を始めてから何分か経った頃に、同三叉路北方の坂道から小学校低学年の女の子がやってくるのを見かけ、学校が始まっている時間なのに、まだこの辺を歩いている、遅刻するのにと思った。その少し後、別の小学校低学年の女の子がL方三叉路付近に立っているのを見かけ、2人が一緒に学校に行っているのだと思った。午前8時30分少し前に、化粧を終えて車を発進させる いる、遅刻するのにと思った。その少し後、別の小学校低学年の女の子がL方三叉路付近に立っているのを見かけ、2人が一緒に学校に行っているのだと思った。午前8時30分少し前に、化粧を終えて車を発進させると、先ほどの女の子2人組がまだL方三叉路付近を並んで歩いていた。女の子は2人とも身長が120cmくらいで、うち1人は黄色のジャンパーを着ていて、ランドセルの色が赤だった。2人が左側によけてくれたので9その横を通過し、L方三叉路を南方に進行すると、道路右側のM方前に3台の車が駐車されていた。それらの車は、白っぽいボンゴ車、白っぽい普通乗用車、ボンゴ車だったと思うが、順番ははっきりしない。さらに、その先の東西に走るj が面している通りに突き当たる手前で、グレーのボンゴ車と離合した。午前8時30分頃、勤務先駐車場に車を停め、3分から5分くらい助手席に置いていた化粧品を片付けるなどしていたところ、同僚のNが駐車場に入ってきた。その日の午後4時頃、刑事が勤務先に来たため、以上の目撃内容を話した。 ウ 本件検察官調書も、本件警察官調書と概ね同内容の目撃状況を述べるものである。もっとも、各時刻の表現ぶりに若干の違いがあるほか、2人の女の子を最初に目撃した際に、それぞれ別の子だと認識した理由や女の子達がJの車をよけた方向、L方三叉路先ですれ違った計4台の車両の特徴等については、記憶がはっきりしないとした一方、最後に離合した車の運転手の特徴を付け加えるなど、本件警察官調書とは異なる内容を述べる部分もある。 ⑵ J証言の要旨事件当日の昼前くらいに、警察官ではなく消防隊員が勤務先に来て、行方不明になっている小学校1年生の女の子2人を見かけなかったか聞かれた。 隣の席のNに女の子なら見たことがあるよねという話をし、消防隊員もそれを聞いていたと思うが、事 はなく消防隊員が勤務先に来て、行方不明になっている小学校1年生の女の子2人を見かけなかったか聞かれた。 隣の席のNに女の子なら見たことがあるよねという話をし、消防隊員もそれを聞いていたと思うが、事件当日の朝に見たという話はしていない。事件当日とは別の日に、L方三叉路よりもずっと東側手前(K寄りのO方前)で、L方三叉路に向かって歩く女の子2人組を追い越したことはあった。女の子は2人とも、黄色のレインコートを着ていて、赤いランドセルを背負っていた。女の子を追い越した先に車が駐車されているということはなく、対向車と離合するということもなかった。 被害者の遺体が発見された翌日の夕方、警察官が職場を訪ねてきて、女の10子2人を目撃した状況を聞かれ、同年3月2日にも別の警察官が職場を訪ねてきて、本件警察官調書が作成された。本件警察官調書には、女の子2人を目撃したのが事件当日であったこと、L方三叉路において、女の子1人を先に見かけ、後からもう1人が追いつく場面を目撃した後、女の子2人を追い越したこと、その先に車3台が停まっていて、その先でもう1台の車と離合したことが記載されているが、いずれも記憶と異なる内容である。警察官にもその旨を伝えたが、自分が若かったこともあり、警察官に押し切られて署名してしまった。最初の事情聴取時、警察官から車のカタログを見せられて、紺色のワゴン車を見たことがないか聞かれ、女の子を目撃した日とは別の日に黒いボンゴの車を追い越したことがあると話した。警察官からは、その車にラインが入っていなかったかも聞かれ、分からないと答えたが、これらの話は供述調書には記載されなかった。 その2年後、k に住んでいた時に警察から連絡を受け、一度断ったが、この機に自分の記憶とは異なる内容の本件警察官調書を使わないように求めるため、再度の これらの話は供述調書には記載されなかった。 その2年後、k に住んでいた時に警察から連絡を受け、一度断ったが、この機に自分の記憶とは異なる内容の本件警察官調書を使わないように求めるため、再度の事情聴取に応じることにし、福岡まで赴いた。田川市にある喫茶店で、検察官ではなく警察官から事情聴取を受けたが、すでに出来上がった本件検察官調書が用意されており、記憶と違う点があると指摘したが、聞き入れてもらえず、結局署名、押印をしてしまい、同調書添付図面の作成にも応じてしまった。 ⑶ J証言の信用性ア J証言は、本件各調書の内容を正面から否定し、大きく分けて、①女の子2名の目撃日時、②目撃位置、内容、③目撃時における周辺の駐車車両の有無の3点につき、本件各調書の内容を正すことを主眼とするものである。Jは、このような供述の変遷が生じた理由について、当初から、捜査機関に対し、当審において証言した内容を記憶どおりに話し、本件各調書の内容が自身の記憶とは異なるものであることを伝えたものの、捜査官に11押し切られ、本件各調書が作成されてしまった旨述べる。そこで、まずJが述べるとおり、捜査機関が無理やりJの記憶とは異なる供述調書を作成した可能性があるのかという観点から検討を進める。 まず、本件警察官調書が作成されたのは、事件発生から約10日後の平成4年3月2日であり、捜査初期で、客観的証拠や他の目撃者の存否を含め未だ捜査が流動的な状況下において、警察官が、曖昧さの残る供述を断定的な表現に改めるだけならまだしも、目撃日時、場所から内容に至るまで、その供述全般についてJの記憶とは異なる調書を無理やり作成するというのは、捜査機関にとって、必要性に欠けるばかりか、事後にこれと矛盾する証拠や目撃者が明らかになる可能性を考えれば有害としかいいようがない。 全般についてJの記憶とは異なる調書を無理やり作成するというのは、捜査機関にとって、必要性に欠けるばかりか、事後にこれと矛盾する証拠や目撃者が明らかになる可能性を考えれば有害としかいいようがない。そもそも、行方不明の女の子が捜索されているという状況において、Jが、別の日に登校途中の女の子を見かけたことがあるという、事件とは無関係な話をし、それに警察官が関心を持って事情聴取をした上、無理やりJの記憶と異なる調書作成にまで至るという事実経過自体、あまりにも不自然といわざるを得ず、警察官がこのような捏造を行うというのは考え難い。これに対し、弁護人は、折に触れて、本件では、捜査初期から事件本人を犯人視した見込捜査が行われていた可能性を主張する。しかし、Jの本件各調書の内容を見ても、事件本人が本件に関わっていることをうかがわせるものはない。関係証拠によれば、EやFらが、事件当日、L方三叉路付近において、事件本人車と同様の特徴を有する車両を目撃したと供述しているが、同人らがそのような供述をし始めたのは、平成4年の夏頃になってからであると認められ、それ以前に、L方三叉路と事件本人とを結び付ける証拠はなかったのであるから、捜査機関が、本件警察官調書作成時において、L方三叉路を犯行現場に仕立て上げる動機を有していたとは考えられない。 また、本件警察官調書は、その内容としても、目撃時における女の子ら12の動作や様子等について、J自身の心情を交えながら、詳細に述べるものである。いつものように車を止めて化粧をしていると、1人の女の子を見かけ、化粧を続けてまた前方を見ると、別の女の子が立っていたとするなど、具体性に富む内容となっており、Jの積極的な供述なしに、警察官が作り上げることのできるものとは考え難い。確かに、弁護人の指摘するとおり、被害者両名が 前方を見ると、別の女の子が立っていたとするなど、具体性に富む内容となっており、Jの積極的な供述なしに、警察官が作り上げることのできるものとは考え難い。確かに、弁護人の指摘するとおり、被害者両名が学校に行きたくない様子であり、Cが、Bの後ろを付いて歩いていたこと、事件当日、L方三叉路付近に複数の車両が駐車されていたことなどは、すでに捜査機関において入手済みの情報であった可能性があり、警察官が、これらの情報に基づいてJを誘導し、本件警察官調書を作成することが不可能であったとまではいい難い。しかし、本件警察官調書によれば、M方前路上に3台の駐車車両があり、その先にもさらにもう1台の車両が停車していたというのであるが、これは、駐車車両の台数の点で、NやE等の供述内容と明らかに整合しない(確定判決37、38頁参照。)。警察官が、L方三叉路付近に駐車車両はなかった旨のJの供述を捻じ曲げ、事前に入手した情報に基づいて、JがM方前路上において複数の駐車車両と離合した旨の調書を強引に作成したのであれば、駐車車両の台数も含めてNやEらの供述と整合するような内容にするのが自然である。そうすると、このような齟齬は、Jの記憶違いを示すものである反面、裏を返せば、本件警察官調書がJの記憶に基づいて作成されたものであることを裏付けるものでもあり、弁護人の指摘を踏まえても、やはり警察官の手で創作されたとは考えられない。 さらに、本件検察官調書については、本件警察官調書と概ね同内容のものであるが、記憶がはっきりしなくなっているとして、本件警察官調書と比較すると曖昧な供述にとどまる部分が散見される。このように、本件検察官調書の記載内容からは、事件発生から2年以上の時間が経過したことに伴う記憶の減退が反映されたことが見受けられ、Jが証言するように、13Jから改 にとどまる部分が散見される。このように、本件検察官調書の記載内容からは、事件発生から2年以上の時間が経過したことに伴う記憶の減退が反映されたことが見受けられ、Jが証言するように、13Jから改めて事情を聞くことなく、予め捜査官が調書を用意していたとは考えにくい。 以上のとおり、本件警察官調書作成時において、捜査機関が無理にJの記憶に反する調書を作成する動機、必要性が見出せないことに加え、本件各調書の内容としても、捜査機関がJの供述内容を歪めて作成したとは考えにくいものであることも踏まえると、捜査機関が、無理やりJの記憶とは異なる供述調書を作成したとは考えられない。 イ また、J証言については、弁護人が当審の当初に新証拠として提出した弁護人作成のJの供述録取書(平成30年5月16日付け、当審弁2)と比較しても、女の子2名の目撃供述に関し、その重要部分に変遷が見受けられる。すなわち、同供述録取書においては、①目撃日時に関して、女の子らを目撃したのが、事件当日であったか、その何日か前であったかがはっきりしないと述べるにとどまっていたにもかかわらず、令和5年11月28日に実施された証人尋問においては、明確に事件当日ではないと否定している点、②目撃場所に関して、女の子らの横を通り過ぎたのが、本件警察官調書のとおりL方三叉路であったと述べていたにもかかわらず、証言においては、L方三叉路よりもずっと東側手前であったと述べている点の2点について、変遷している。これらの変遷は、いつ、どこで女の子らを目撃したのかという、目撃供述の根幹を成す部分について生じているものであり、Jが事件当時から一貫した記憶に基づいて供述しているというのであれば、同供述録取書を作成してから証言するまでの間にこのような変遷を辿るとは考え難い。 この点、Jは、同供述録取 じているものであり、Jが事件当時から一貫した記憶に基づいて供述しているというのであれば、同供述録取書を作成してから証言するまでの間にこのような変遷を辿るとは考え難い。 この点、Jは、同供述録取書作成時に、弁護人に対して、当審における証言と同内容の説明をしたつもりであったと証言し、弁護人もこれに沿う形で、J証言と同供述録取書の内容に相違が生じた原因につき、①目撃日時については、Jの記憶内容とJの警察官に対する供述内容とを弁護人が14混同したためであり、②目撃場所については、Jが、本件再審請求に協力するにあたって、強い不安を感じ、気が動転していたためであると主張する。しかしながら、①目撃日時、②場所のいずれについても、目撃供述の根幹部分に関するものであり、Jの本件各調書の内容を否定し、再審請求のための新証拠を作成しようという局面なのであるから、J及び弁護人においては、目撃日時、場所に関する記憶や書面の内容を丁寧に確認するのが通常である。それにもかかわらず、上記供述録取書には、根幹部分に複数個所誤りがあり、それが単純な混同や気の動転によるというのは合理的な説明とはいい難い。また、②目撃場所に関し、Jは、同供述録取書において、女の子らを目撃する直前に、自身が化粧をしていた地点については、L方三叉路よりもずっと東側手前であったと述べて本件警察官調書の内容を訂正しているにもかかわらず、肝心の女の子らを追い越した地点については、本件警察官調書と同内容の供述をしているのである。車中で化粧を終えてから車を発進させ、女の子らを追い越したという一連の事実経過につき、前者については訂正を加えることができているのに、後者についてのみ適切に本件警察官調書を訂正することができなかったというのは、気が動転していたというだけでは、合理的な説明にならない。 経過につき、前者については訂正を加えることができているのに、後者についてのみ適切に本件警察官調書を訂正することができなかったというのは、気が動転していたというだけでは、合理的な説明にならない。 以上のとおり、Jは弁護人作成の供述録取書からも、合理的な理由を提示することなく、核心部分について供述を変遷させており、一貫した記憶に基づいて証言しているとは考えられない。付言すると、Jは、事件当日に女の子らの目撃情報を話したのは消防隊員であり、警察官とは話していないと証言するが、本件警察官調書には、事件当日に刑事に対して目撃情報を話した旨記載されており、この点について警察官が捏造するとは考え難いことに加え、Nも事件当日Jと警察官が話しているのを聞いた旨証言していることも併せると、Jが事件当日に警察官と話していることは明らかであり、Jは、事件当日の聴取状況についても記憶が曖昧になっている15のではないかと感じられる。その上で、上記のとおり弁護人作成の供述録取書からでさえ、供述が変遷していることを考えると、事件発生から30年以上もの長い年月が流れ、事件当時の記憶が相当程度風化し、不確かなものとなってしまっていると考えざるを得ない。 なお、Jは、警察官から紺色ワゴン車に関する質問もされた旨証言するが、かかる供述は、当審弁2の供述録取書に記載されていないばかりか、証人尋問の約1か月半前に弁護人が作成した供述録取書(令和5年10月13日付け、当審弁30)にも記載されていないものである。Jは、証人尋問の1週間程前、そのような質問をされたことなどを不意に思い出した旨述べるが、供述経過に不自然な感が否めず、この点も容易く信用することはできない。 ウ ここまで述べたような検討を踏まえると、Jが述べるように、捜査機関が、目撃状況に関する供述を歪曲させ い出した旨述べるが、供述経過に不自然な感が否めず、この点も容易く信用することはできない。 ウ ここまで述べたような検討を踏まえると、Jが述べるように、捜査機関が、目撃状況に関する供述を歪曲させてまで、Jの記憶とは異なる供述調書を無理やり作成したとは考え難く、Jが本件各調書の内容を否定するにあたって前提としている事実関係には疑問が残る上、弁護人作成の供述録取書からの変遷は、Jの現在の記憶自体、一貫性のない不確かなものである可能性が高いことを示しているから、当審におけるJ証言は信用できない。 弁護人は、Jが本件各調書の内容を否定するに至ったのは、自らの記憶と異なる供述調書を作成されたことが、事件本人に対する死刑判決に影響を与えてしまったのではないかという自責の念を動機とするものであり、このようなJの真摯な姿勢からすれば、J証言は十分に信用できるとも主張するが、そのことは前記判断に影響しない。弁護人は、J証言を信用できる理由について、その他にも様々主張するが、これらを踏まえても、J証言を信用することができないという前記結論は左右されない。 ⑷ 現場再現実験報告書(当審弁26)について16ア 弁護人は、J証言のほか、本件各調書の信用性を弾劾する新証拠として、弁護人作成の現場再現実験報告書(当審弁26。以下「本件報告書」という。)も提出しているから、その内容についてここで検討を加えておく。 本件報告書は、弁護人が、確定判決の事実認定に従って、被害者両名や関係車両の移動状況を再現実験(以下「本件再現実験」という。)すると、関係者の目撃状況等に矛盾が生じるなどと報告するものである。本件再現実験の具体的内容としては、以下の2つの場面を再現するものである。 ① JがL方三叉路において女の子2名をよけ、M方前路上に駐車された、P及びFの 等に矛盾が生じるなどと報告するものである。本件再現実験の具体的内容としては、以下の2つの場面を再現するものである。 ① JがL方三叉路において女の子2名をよけ、M方前路上に駐車された、P及びFの各使用車両2台(L方三叉路に近い方からP車、F車の順)の横を通過し、その後方で停止していたE車と離合した後、Eが車を発進させ、L方三叉路が見え始める地点(本件報告書によれば、EがF車の脇を通過した地点)まで移動した場面② EがF車の横を通過した後、P車の後ろに停車して、L方三叉路から進行してきたN車と離合した場面本件報告書は、①の場面につき、Jが女の子らをよけた時点(以下「基準時」という。)からEがL方三叉路が見える地点に到達するまでの時間を測定し、被害者両名の平均移動速度を踏まえると、Eは同地点において女の子らを目撃可能であったから、JとEの供述は矛盾しているとする。また、②の場面については、基準時からNがL方三叉路及びその北方の道路を見通せる地点に到達するまでの時間を測定し、被害者両名の平均移動速度を踏まえると、Nは同地点において女の子らを目撃可能であったから、JとNの供述は矛盾しているとした上、さらに基準時からNがJが女の子らをよけた地点を通過するまでの時間も測定し(本件報告書によれば21秒)、Jが女の子らを目撃してから約3分後にNが同じ道を通ったとする確定判決の認定は誤っていると指摘する。 イ しかしながら、以下の理由から、本件再現実験から本件報告書の結論を17導くことはできないというべきである。 本件再現実験は、秒単位で関係者の供述内容を再現して視認可能かどうかを検証するものであるが、関係者の供述する時刻、時間、位置はそのような検証が可能なほど精度が高いものではない。 まず、被害者両名については、2地点での目撃時刻か の供述内容を再現して視認可能かどうかを検証するものであるが、関係者の供述する時刻、時間、位置はそのような検証が可能なほど精度が高いものではない。 まず、被害者両名については、2地点での目撃時刻から平均移動速度(秒速約0.75m)を算出した上で、Jが目撃した後のL方三叉路付近における被害者両名の移動速度がこの平均移動速度のとおりであったと仮定している。このうち、l バス停付近での目撃時刻は後日表示が正確であると確認された車の時計を見たというので正確であるといえるが、L方三叉路付近におけるJの目撃時刻はおおよそのものにすぎない。前述したように、本件各調書の記載にも微妙な違いがある。また、被害者両名が、それぞれの自宅からL方三叉路に至るまで、普段よりも時間を要していたことは明らかである一方、L方三叉路付近でJに目撃された後の被害者両名の行動は不明である。そうすると、被害者両名の平均移動速度を算出してそれをJが目撃した後の被害者両名の移動速度に当てはめることに合理性があるとはいえない。 また、本件再現実験においては、EがP車の後ろに停車すると同時に、N車と離合した、すなわち、Eが停車した時点でN車が直近に迫っていたものとされ、そこから逆算して、関係車両の移動状況や各経過時間が算定されている。しかし、その前提が正しいのかについても疑問がある。Nは、L方三叉路付近まで来た時、右側に3台の自動車が縦に並んで駐車していた旨供述しており、車が動いていたとは供述していない。また、E、P及びFの証言等からすると、Eはいったん自車をP車の後ろに車間距離を詰めて道路左端に寄せて止めたものの、Fから通行の支障になる旨言われ、対向してきたN車と離合した後、自車を前方に移動させているが、Eも、自車をP車の後方に止める際に既にN車が接近していたとは供述していな て道路左端に寄せて止めたものの、Fから通行の支障になる旨言われ、対向してきたN車と離合した後、自車を前方に移動させているが、Eも、自車をP車の後方に止める際に既にN車が接近していたとは供述していな18い。これらのことからすると、少なくともEがP車の後ろに自車を停車させた時点でN車が本件再現実験で想定している位置まで接近していたとは考えられない。 なお、確定判決は、「Eがトヨタタウンエースを、一旦P車の直ぐ後ろに停車させた直後、Qがホンダトゥデイを運転して通りかかり、離合しにくい様子だった」と説示している(確定判決37~38頁。なお、QはNが改姓したもの。)が、関係者の証言内容に加え、上記説示は、J供述のうち、M方前路上において3台の駐車車両と離合したという点はJの記憶違いであることを論証する部分であることからすると、上記説示での「直後」という文言は、Eが一旦P車の後ろに停車してから再度車を移動させるまでの間に、離合した対向車はN車の1台のみであり、J車が同所においてE車と離合するタイミングはなかったことを示す趣旨で用いられているにすぎないと解される。 さらに、自動車の動きについても、当時の道路状況を再現して実際に3回自動車を走行させてその時間を測定したものであるが、おおよその時間は把握できても、当時の実際の関係者の移動に要した時間と秒単位で同じということまではできない。 ウ 以上のとおり、本件再現実験から本件報告書記載の結論を導くことはできないから、本件報告書をもって、本件各調書の内容が不合理であるということはできず、J証言を信用できるということもできない。 ⑸ 本件各調書の信用性への影響以上の検討を踏まえると、本件各調書の内容を否定するJ証言は信用できるものではなく、また、本件各調書の不合理性を指摘する本件報告書も当 できるということもできない。 ⑸ 本件各調書の信用性への影響以上の検討を踏まえると、本件各調書の内容を否定するJ証言は信用できるものではなく、また、本件各調書の不合理性を指摘する本件報告書も当を得ないものであるから、これらによって本件各調書の信用性が減殺されることはない。したがって、確定判決の事実認定の用に供された本件検察官調書について、その供述内容を基本的に信用できるとした確定判決の認定は揺ら19がない。 3 I証言について⑴ I証言の要旨事件当日の平成4年2月20日、n 町にある取引先に集金に行き、その帰り道、r バイパスを飯塚市方面から福岡市方面に通行中、o インター先の片側2車線になった辺りで、時速40km未満でゆっくり走る白のライトバンを右方から追い越した。時刻ははっきり覚えていないが、午前9時40分過ぎか午前10時40分過ぎだと思う。追い越す際、後部座席で、赤いランドセルを背負い、おかっぱ頭をした小学校1年生の女の子が、真横を向いて自分のことを見ているのが目に入った。その女の子の表情は、見たこともないくらいこわばっていて、おびえているようであった。また、後部座席には、もう1人別の女の子が横たわっていて、その横にはランドセルが置かれていた。 白のライトバンの運転手は、坊主頭で、色白の小柄な男であり、年齢は35歳前後に見えた。 その日の夕方、本件の報道を知って、自分が目撃した女の子が誘拐された女の子なのではないかと思い、翌日、飯塚警察署に電話した。何日か経ってから警察官が訪ねてきて、目撃内容を全て説明したが、警察官は、目撃した車両が紺色のワンボックスカーではなかったかなどの質問をして帰っていった。 後日、本件の公判を傍聴し、事件本人の外見を確認したが、自分が目撃した白のライトバンの運転手とは違う人だった。 、目撃した車両が紺色のワンボックスカーではなかったかなどの質問をして帰っていった。 後日、本件の公判を傍聴し、事件本人の外見を確認したが、自分が目撃した白のライトバンの運転手とは違う人だった。また、平成30年に、R新聞の記者から被害者両名の写真を見せてもらったことがあったが、被害者両名は、自分が目撃した女の子と似ていると感じた。 ⑵ I証言の信用性ア Iは、事件当日、女の子2名が乗った不審車両を目撃し、しかもその女の子2人は間違いなく被害者両名と同じ小学校1年生で、顔も被害者両名20と似ていたと証言する。しかし、目撃した女の子2名の特徴については、2人とも髪型がおかっぱ頭で、赤いランドセルを所持していたという特異的でない内容を述べるにとどまり、目撃した女の子2名と被害者両名のどこが似ていたのかという質問に対しても、全体の雰囲気が似ていたと繰り返すばかりで、両者を似ていると判断した具体的根拠を全く示すことができていない。そもそも、Iは、不審車両を追い越す1~2秒の間に、同車内の女の子2名を目撃したというにすぎず、Iの方を向いていた女の子でさえ、その顔貌を子細に観察し、記憶する余裕があったとは考え難い。もう1人の女の子にいたっては同車内で横たわっていたというのであり、その顔貌を目撃できたのか疑問が残るし、仮に目撃できたとしても、その女の子の特徴を的確に把握することができたとは思えない。 なお、Iは、目撃した女の子2名の特徴として、小学校1年生であったことを挙げるものの、その根拠については、地域のコミュニティで小学生と接触しており、学年が1つ違えばはっきりわかる旨供述するにとどまり、説得力のある説明はできていない。当然のことながら、同じ小学校1年生といっても、成長の程度は人によって区々であり、ましてや、Iは並走する車内から 学年が1つ違えばはっきりわかる旨供述するにとどまり、説得力のある説明はできていない。当然のことながら、同じ小学校1年生といっても、成長の程度は人によって区々であり、ましてや、Iは並走する車内から窓越しに女の子らを短時間目撃しただけで、女の子らの全身を見たわけでもなく、直接会話などをしたわけでもないのであるから、そのような断定をする根拠は甚だ薄弱である。 また、Iが目撃した女の子2名が被害者両名にそれぞれ似ているというのであれば、被害者両名の相違についても相応の供述ができてしかるべきであるが、I供述にはそのような内容はない。顔貌のみならず、髪形、服装等被害者両名には当然のことながら相違点があるが、その指摘はない。 Iは、被害者両名のランドセルの色について、2人とも赤だと思ったが、後から被害者両名の実際のランドセルの写真を見せてもらったら、1人はピンクで記憶違いだったとも供述しているが、なぜそのような記憶違いを21したのか、ランドセルの色という一見して明らかなものについて記憶違いをしていながら、なぜ顔貌については似ているといえるのかについて、首肯しうる説明はない。 さらに、I証言は、ほかの目撃供述と対比しても不自然である。すなわち、被害者両名は、事件当日、Jを含む複数の者に目撃されているところ、面識がない被害者について、その顔の特徴を明確に記憶し、供述するものはなく、大まかな年齢や服装、所持品等の特徴に言及するものがあるにとどまる。このように、年齢や服装などといった概括的で目につきやすい特徴は記憶に残りやすい一方、面識のない相手の顔貌の特徴を正確に把握して記憶することは比較的難しいと思われる。それにもかかわらず、Iは、逆に目撃した女の子らの服装などについてはほとんど言及せず、被害者両名と顔が似ていたと述べることに終始している。目 徴を正確に把握して記憶することは比較的難しいと思われる。それにもかかわらず、Iは、逆に目撃した女の子らの服装などについてはほとんど言及せず、被害者両名と顔が似ていたと述べることに終始している。目撃した女の子らの目につきやすい特徴については記憶がないのに、本件から26年以上が経った今でも、車で追い越しざまに目撃した面識のない女の子2名の顔をはっきり覚えているという供述内容自体、不自然な感が否めない。 以上によれば、女の子2名の目撃内容に関するIの供述は信用性に乏しく、特に、顔貌が被害者両名に似ているなどと述べる詳細部分は到底信用し難い。 イ 加えて、Iは、女の子らを目撃した時刻についても、事件当日の午前9時40分頃か午前10時40分頃であったと思うが、記憶がはっきりせず、午前中であったことは間違いないと述べ、曖昧な供述をするにとどまっている。しかも、目撃時刻については、令和2年1月23日付けの供述書(当審弁1)では、午前11時前後と述べていたのに、証人尋問(令和5年5月31日実施)の約3週間前の令和5年5月6日付けの供述録取書(当審弁28)では、午前10時30分前後であった旨供述するに至り、証人尋問では、前記のとおり午前9時40分頃か午前10時40分頃であったと22思うと述べ、目撃時刻が次第に早まっている。一度目の変遷については、n 町にある取引先に、自宅(p 市)から会社(q 市)を経由して向かったと勘違いしていたが、後から考えると、自宅から直接向かったことを思い出したという理由を一応述べるが、二度目の変遷については、特に理由を説明することもできず、年月の経過に伴い、記憶が曖昧になっていることを自認するに至っている。以上によれば、Iの供述は、目撃時刻に関しても、容易く信用できない。 ウ これに対し、弁護人は、Iが取引先か 明することもできず、年月の経過に伴い、記憶が曖昧になっていることを自認するに至っている。以上によれば、Iの供述は、目撃時刻に関しても、容易く信用できない。 ウ これに対し、弁護人は、Iが取引先から集金できなかったため、ゆっくり走行していた軽自動車を追い越す際に、イライラしながら運転手を注視したことや、女の子の表情が極めて印象的で、強い記銘力が働いたこと、目撃内容を明確にし、記憶を維持する機会が反復、継続していたことなどを指摘し、I証言は信用できると主張する。しかし、仮に弁護人が指摘するような事情によって、Iが目撃した女の子らの顔貌を明確に記憶し、その後もその記憶を維持していたのであれば、少なからず女の子らの顔の特徴等を指摘できてしかるべきであるのに、上記のとおりIは曖昧な供述に終始している上、前述したような変遷も生じているのであって、弁護人の指摘を踏まえても、I証言の信用性判断に変わりはない。 以上のとおり、I証言は、目撃内容についても目撃時刻についても信用できない。 エ また、Iが目撃した女の子2名が被害者両名であるとすると、確定審が認定した被害者両名の死亡時刻と抵触する上、犯人は被害者両名を略取又は誘拐した後、いったんr バイパスを通って福岡市方面に向かいながら、その後進路を逆に変えて飯塚市方面に戻りi 峠方面に向かったことが想定されるが、犯人の行動として不自然な感を否めない。 ⑶ 以上のとおりであり、I証言は信用できず、女の子2名を目撃したことを前提としたとしても、被害者両名であるという合理的な疑いは生じないとい23うべきであって、事件本人が犯人であると認定した確定判決の認定判断に影響しない。 4 小括ここまで、J及びIの各証言を中心に、本件再審請求において提出された新証拠について検討してきたが、J証言や本件報 あって、事件本人が犯人であると認定した確定判決の認定判断に影響しない。 4 小括ここまで、J及びIの各証言を中心に、本件再審請求において提出された新証拠について検討してきたが、J証言や本件報告書によって本件各調書の信用性が減殺されることはなく、I証言を踏まえても、事件本人とは別の人物が犯人である合理的疑いは生じない。弁護人はその他縷々主張するが、これを踏まえて検討しても、本件再審請求において提出された新証拠が、確定審及び第1次再審請求審において取り調べられた他の証拠の証明力に影響することはなく、情況事実の総合評価の結論を左右することもない。したがって、事件本人が犯人であることについて合理的な疑いを超えた高度の立証がなされているという結論は揺らがず、本件再審請求において提出された新証拠は、いずれも明白性が認められない。 5 結論以上のとおり、弁護人が提出した証拠はいずれも明白性が認められないから、本件再審請求には刑訴法435条6号の再審事由があるとはいえない。 よって、本件再審請求は理由がないから、刑訴法447条1項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。 令和6年6月5日福岡地方裁判所第4刑事部 裁判長裁判官 鈴 嶋 晋 一 裁判官 田 野 井 蔵 人 裁判官 中 元 隆 太
▼ クリックして全文を表示