令和5(わ)460 業務上過失致死被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年7月4日 静岡地方裁判所
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判決文本文20,187 文字)

令和6年7月4日宣告令和5年(わ)第460号判決 主文 1 被告人Aを禁錮1年4か月に、被告人Bを 禁錮1年に処する。 2 被告人Bに対し、この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 【犯罪事実】 被告人A(以下「被告人A」という。)は、静岡県牧之原市ab番地c所在の学校法人C幼保連携型認定こども園D幼稚園(以下「本件幼稚園」という。)の園長として、保育施設における園児の安全に関する事項について計画を策定し、これを実施するなどの本件幼稚園の業務を統括管理するとともに、保育従事者として、園児の保育及び安全管理等を行いながら、本件幼稚園が園児送迎用に運行する送迎バ スを運転して本件幼稚園に園児を送り届ける等の業務に従事していた。被告人Aは、本件幼稚園における送迎バスの運行に当たり、目的地到着後、乗車する園児が自発的に降車しなかった場合、同園児が送迎バス内に取り残されて死亡するに至る危険があったのであるから、本件幼稚園の園長として、送迎バスにおける園児の安全を確保するため、送迎バスを運行する際には園児の乗降車時に座席や人数の確認を行 うこと等を内容とする園児の安全に関する事項について計画を策定した上、これに基づき送迎バスの運転手及び園児の乗降車を手伝う送迎バス補助員を指導し、確実にその計画を実施させるべき業務上の注意義務がある。また、被告人Aは、令和4年9月5日(以下「本件当日」という。)朝、本件幼稚園の送迎バスであるEバス(以下「本件バス」という。)を自ら運転し、送迎バス補助員であるF(以下「F」 という。)を同乗させて園児を送迎し、本件幼稚園に送り届けるに当たり、その頃、 屋外の最高気温が摂氏30度 下「本件バス」という。)を自ら運転し、送迎バス補助員であるF(以下「F」 という。)を同乗させて園児を送迎し、本件幼稚園に送り届けるに当たり、その頃、 屋外の最高気温が摂氏30度前後となる日が続いており、本件当日の同市内における天候は晴天で最高気温が同程度の高温となることが予測できた上、ドアを施錠して窓を閉め切った本件バス内に自力で脱出することが困難な園児が取り残された場合、直射日光等による本件バス内の温度上昇により熱射病にり患して死亡するに至る危険があったのであるから、本件バスを運転して園児を本件幼稚園に送り届ける 際に、あらかじめFに対し、園児の乗降車時に座席や人数の確認を行うよう指導するとともに、自らもこれを行うなどして、本件バスに乗車させた園児全員を確実に降車させてその安全を確保すべき業務上の注意義務がある。ところが、被告人Aは、これらの注意義務をいずれも怠り、本件当日までに前記の園児の安全に関する事項についての計画を策定せず、それに基づく前記補助員らへの指導を行わず、かつ、 本件当日、本件バスを運転して園児を本件幼稚園に送り届ける際に、あらかじめFに対する前記指導も行わないまま、本件当日午前8時51分頃、G(当時3歳。以下「被害児童」という。)を含む園児6名を順次乗車させた本件バスを本件幼稚園前路上に停車させて同園児らを順次降車させるに当たり、Fに降車時の人数確認等を実施させず、自らもこれを実施せず、本件バス内に降車せずに取り残された被害 児童に気付かないまま、本件当日午前8時58分頃、本件バスを同市ad番地e所在の本件幼稚園の駐車場(以下「本件駐車場」という。)まで移動させ、本件バスから降車するに際し、本件バス内に取り残されている園児の有無等を確認せず、被害児童が本件バス内に取り残されてい ad番地e所在の本件幼稚園の駐車場(以下「本件駐車場」という。)まで移動させ、本件バスから降車するに際し、本件バス内に取り残されている園児の有無等を確認せず、被害児童が本件バス内に取り残されていることに気付かないまま、本件バスのドアを施錠して本件バスから降車し、窓を閉め切った本件バス内に被害児童を取り残した 過失がある。 被告人B(以下「被告人B」という。)は、本件幼稚園の保育教諭であり、本件幼稚園を利用していた被害児童が在籍する学級の担任として、被害児童を含む同学級在籍の園児の保育及び安全管理等の業務に従事していた。被告人Bは、本件当日午前9時10分頃、本件幼稚園において、本件バスにより登園予定であり、これま で事前の連絡なしに欠席や遅刻をしたことがなく、本件当日も欠席や遅刻の事前連 絡がなかった被害児童が登園していないことを認識した際、被害児童が本件バスに乗車した後に所在不明となったのであれば、その頃、屋外の最高気温が摂氏30度前後となる日が続いており、本件当日の同市内における天候は晴天で最高気温が同程度の高温となることが予測できた上、ドアを施錠して窓を閉め切った本件バス内に自力で脱出することが困難な被害児童が取り残された場合、直射日光等による本 件バス内の温度上昇により熱射病にり患して死亡するに至る危険があったのであるから、被害児童が在籍する学級の担任として、速やかに被害児童の保護者に連絡を取るなどして被害児童の所在を確認し、その安全を確保すべき業務上の注意義務がある。ところが、被告人Bは、この注意義務を怠り、被害児童が事前の連絡なしに遅刻し又は欠席したものと軽信し、速やかに被害児童の保護者に連絡を取るなどし て被害児童の所在を確認しなかった過失がある。 これら被告人両名の各過失の競合によ 怠り、被害児童が事前の連絡なしに遅刻し又は欠席したものと軽信し、速やかに被害児童の保護者に連絡を取るなどし て被害児童の所在を確認しなかった過失がある。 これら被告人両名の各過失の競合により、被害児童は、本件当日午前9時10分頃から午後2時07分頃までの間、本件バス内に放置された結果、直射日光等による本件バス内の温度上昇により熱射病にり患し、よって、その間に、本件バス内において、熱射病により死亡した。 【証拠の標目】省略【法令の適用】(被告人両名共通) 1 主刑⑴ 構成要件及び法定刑を示す規定 被告人両名の前記各行為は、いずれも刑法211条前段に該当する。 ⑵ 刑種の選択後記量刑の理由によりいずれも禁錮刑を選択する。 ⑶ 宣告刑の決定後記量刑の理由により、いずれも法定の刑期の範囲内で、被告人Aを禁錮1年 4か月、被告人Bを禁錮1年に処する。 2 刑の執行猶予後記量刑の理由により、被告人Bに対し、刑法25条1項を適用して、この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 3 訴訟費用の不負担訴訟費用は、刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人Bに負担させない。 【量刑の理由】第1 事案の概要本件は、被告人Aが、①本件幼稚園の園長として、送迎バスを運行する際の園児の安全に関する事項について計画を策定した上、確実にその計画を実施させるべき業務上の注意義務及び②送迎バスの運転手として、本件バスを運転して園児を本件 幼稚園に送り届ける際、本件バスに乗車させた園児全員を確実に降車させてその安全を確保すべき業務上の注意義務があったのに、これらをいずれも怠って、被害児童が本件バス内に取り残されていることに気付かないまま、本件バスのドアを施 件バスに乗車させた園児全員を確実に降車させてその安全を確保すべき業務上の注意義務があったのに、これらをいずれも怠って、被害児童が本件バス内に取り残されていることに気付かないまま、本件バスのドアを施錠して本件バスから降車し、窓を閉め切った本件バス内に被害児童を放置した過失並びに③本件幼稚園の保育教諭であり、被害児童が在籍する学級の担任であった被告 人Bが、被害児童の所在を確認し、その安全を確保すべき業務上の注意義務があったのに、これを怠り、被害児童の所在を確認しなかった過失という被告人両名の各過失の競合により、本件バス内に放置された被害児童が熱射病により死亡したという業務上過失致死の事案である。 第2 量刑判断の前提となる事実 1 被告人両名と被害児童の関係等⑴ 本件幼稚園本件幼稚園は、昭和37年に被告人Aの父親によって設立され、その後、学校法人Cによって運営され、平成27年に静岡県から幼保連携型認定こども園として認可されている。認定こども園は、「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な 提供の推進に関する法律」(以下「認定こども園法」という。)に基づく認定子ども 園制度により設置される施設であり、幼保連携型認定こども園は、満3歳以上の幼児に対する教育及び保育を必要とする乳児・幼児に対する保育を一体的に行う、幼稚園と保育所の機能を併せ持つ施設である。 本件幼稚園は、乳児部及び幼児部の合計9つの学級があり、基本的には各学級ごとに担任及び担任補助各1名が配置され、園児の教育及び保育に当たっていた。 本件幼稚園では、園児の登降園の際に3台の送迎バスを運行しており、各バスに運転手1名とシルバー人材センターから派遣した補助員1名を乗車させていた。本件バスは、定員が大人4人、幼児18人の普通乗 本件幼稚園では、園児の登降園の際に3台の送迎バスを運行しており、各バスに運転手1名とシルバー人材センターから派遣した補助員1名を乗車させていた。本件バスは、定員が大人4人、幼児18人の普通乗用自動車である。 ⑵ 被告人両名の立場被告人Aは、昭和53年に本件幼稚園に就職し、平成11年に幼稚園教諭二種免 許を取得し、平成14年から本件当時まで、学校法人C理事長兼本件幼稚園園長の立場にあり、本件幼稚園全体の業務を統括管理するとともに、園児の保育及び安全管理等を行う業務に従事していた。また、本件幼稚園で雇用されている運転手の都合がつかない場合には、被告人Aが送迎バスの運転手として園児を送迎する業務を行うことがあった。 被告人Bは、平成8年に幼稚園教諭二種免許及び保育士資格を取得して本件幼稚園に就職し、その後一旦退職したものの、平成18年にパート職員として復職し、平成27年から本件幼稚園の正規職員となり、令和4年4月から本件当時まで、被害児童ら19名が在籍する「H組」の担任として、園児の保育、教育、安全管理等の業務に従事し、学級に在籍する園児の出欠及び登降園の状況を確認し、園児の所 在を確実に把握すべき立場にあった。 ⑶ 被害児童被害児童は、本件幼稚園に通っていた本件当時3歳の園児であり、H組に在籍していた。被害児童は、本件バスを利用して本件幼稚園への登降園を行っていたが、これまで事前の連絡なしに欠席や遅刻をしたことはなく、車内ではとても静かで、 降車する際には、職員らの指示に従って最後に降車していた。 2 本件に至る経緯⑴ 令和3年8月の安全管理を徹底する通知令和3年8月25日、厚生労働省子ども家庭局総務課少子化総合対策室等の連名で各都道府県・市町村保育主管課等に対し「保育所 2 本件に至る経緯⑴ 令和3年8月の安全管理を徹底する通知令和3年8月25日、厚生労働省子ども家庭局総務課少子化総合対策室等の連名で各都道府県・市町村保育主管課等に対し「保育所、幼稚園、認定こども園及び特別支援学校幼稚部における安全管理の徹底について」という事務連絡(以下「本件 事務連絡」という。)が発せられた。 本件事務連絡は、令和3年に福岡県内で保育所の送迎バス内に園児が置き去りにされて死亡する事故(以下「福岡事件」という。)が発生したことを受けて、各市区町村の保育所、幼稚園、認定こども園等に対して安全管理を徹底するように周知を依頼する内容であった。すなわち、本件事務連絡は、①子どもの欠席連絡等の出欠 状況に関する情報について、保護者への速やかな確認及び職員間における情報共有を徹底すること、②登園時や散歩等の園外活動の前後等、場面の切り替わりにおける子どもの人数確認について、ダブルチェックの体制をとる等して徹底すること、③送迎バスを運行する場合においては、事故防止に努める観点から、運転を担当する職員のほかに子どもの対応ができる職員の同乗を求めることが望ましいこと、子 どもの乗車時及び降車時に座席や人数の確認を実施し、その内容を職員間で共有すること等に留意すること、④各幼稚園等においては、「学校安全計画」「危機管理マニュアル」について、適宜見直し、必要に応じて改定することという内容であった。 牧之原市子ども子育て課は、令和3年9月2日、本件事務連絡を本件幼稚園に電子メールで送信した。被告人Aは、同日から同月14日までI総合病院に入院して おり、本件幼稚園に出勤していなかったが、本件幼稚園の事務を担当する職員が本件事務連絡を紙に印刷して机上に配布する等して、被告人Aが本件事務連絡の内容を認識 月14日までI総合病院に入院して おり、本件幼稚園に出勤していなかったが、本件幼稚園の事務を担当する職員が本件事務連絡を紙に印刷して机上に配布する等して、被告人Aが本件事務連絡の内容を認識できる状態にしていた。 しかし、被告人Aは、本件幼稚園について、本件事務連絡の内容に沿った園児の安全管理の措置をとることはなかった。 ⑵ 令和3年11月の本件幼稚園に対する指導監査静岡県は、令和3年11月18日、認定こども園法19条に基づき、本件幼稚園に対する指導監査を実施し、指導監査の担当者は、指導監査を実施する前に、被告人Aに対し、福岡事件が発生し、本件事務連絡も発出されているため、確認して事故防止に努めるように口頭で指導した。 しかし、被告人Aは、指導監査の担当者に対し、「分かりました。長くバスを運行しているので大丈夫です。」と答えたものの、本件幼稚園について、本件事務連絡の内容に沿った園児の安全管理の措置をとることはなかった。 ⑶ 令和4年6月の「スクールバスに関する安全チェックシート」の送付J協会は、令和4年6月13日、本件幼稚園に宛てて、「スクールバスに関する安 全チェックシートの活用について」と題する電子メールを送信した。そのメールは、スクールバスの運行において事件・事故が多発していることを受け、日頃の安全管理体制が整っていれば、未然に防ぐこともできたであろう事件・事故に対し、加盟園が、より高い安全意識をもって対応できるように、K委員会が作成した安全管理に関するチェックシートを共有するという内容のものであり、同安全チェックシー トには、送迎バスの運転士用と添乗者用のいずれにも、「送迎完了後確認」の「降車時確認」欄に、「車両の先頭から最後尾まで歩いて忘れ物や寝ている園児がいない う内容のものであり、同安全チェックシー トには、送迎バスの運転士用と添乗者用のいずれにも、「送迎完了後確認」の「降車時確認」欄に、「車両の先頭から最後尾まで歩いて忘れ物や寝ている園児がいないか確認すること。」という記載があり、チェック欄が設けられている。 しかし、被告人Aは、上記メールを開封してその内容を確認したが、本件幼稚園について、上記安全チェックシートを活用することはなかった。 ⑷ 園児の登降園に関する業務ア登降園及び出欠の管理等本件幼稚園では、令和元年10月頃から、登降園管理・メール配信システムである「L」と呼ばれるアプリ(以下「L」という。)を利用して園児の登降園の管理を行っていた。Lでは、各園児に配布したQRコードを園が管理するタブレットに読 み込ませることで登降園の時刻を登録することができ、また、保護者がLにスマー トフォン等からアクセスし、欠席、遅刻、送迎バスを利用しないこと等の連絡をすることができる。Lの登録内容は、本件幼稚園の職員室にあるタブレット又はパソコンにより確認できるようになっていた。 本件幼稚園では、保護者は、登園当日の午前9時までにLを利用して欠席、遅刻等の連絡を行い、午前9時以降は、保育時間が開始する午前9時30分頃までに電 話により欠席、遅刻等の連絡をすることとなっていた。また、送迎バスを利用する園児の保護者は、送迎バスが本件幼稚園を出発する時刻の15分前までに欠席又は送迎バスを利用しない旨の連絡をすることとなっていた。 園児が送迎バスを利用して登園する場合は、送迎バスに同乗する補助員が一括してLに登降園の時刻の登録を行うこととなっており、同補助員は、乗車した園児の 欄に丸を付けた乗車名簿を確認して登録をするよう指導を受けていた。 被害児童の は、送迎バスに同乗する補助員が一括してLに登降園の時刻の登録を行うこととなっており、同補助員は、乗車した園児の 欄に丸を付けた乗車名簿を確認して登録をするよう指導を受けていた。 被害児童の保護者は、本件バスが本件幼稚園を出発する15分前である午前7時45分頃までに上記の連絡をすることになっていたが、被害児童が欠席する場合は必ず遅れることなくLでその旨を連絡しており、無断欠席をすることはなかった。 また、被害児童が送迎バスを利用せずに登園することはほとんどなかった。 しかし、被告人Aは、園児の人数確認等についてのマニュアルを作成していなかったため、本件幼稚園では、本件当時、どの職員がいつの時点でLを確認するのか、保護者から欠席や遅刻の連絡がなく園児が登園してこない場合に、どの職員がいつの時点で保護者に連絡をするかなどについてルールはなく、その対応について被告人Aから職員に指導がされることもなかった。なお、各学級の担任は、保護者から 欠席や遅刻の連絡がなく園児が登園してこない場合には、自主的に保護者に対して連絡を行うことがあった。 イ園児の出欠確認等の業務本件幼稚園では、園児の出欠等を把握するため、職員室のホワイトボードに園児の名前、クラス、利用する送迎バスの一覧を貼っていた。職員は、毎朝午前7時3 0分頃にLを確認し、欠席、遅刻、送迎バスを利用しない旨の連絡があれば、ホワ イトボードの各園児の名前の横にその旨を記載し、その後もLや電話により上記の連絡があれば、その都度各園児の名前の横にその旨を記載していた。本件幼稚園では、保護者が園児を連れて登園する場合は、午前9時頃までに登園するように依頼しており、おおむね午前9時30分頃までには特定の園児を除いて全ての園児が登園していた。また、被害児童が乗 た。本件幼稚園では、保護者が園児を連れて登園する場合は、午前9時頃までに登園するように依頼しており、おおむね午前9時30分頃までには特定の園児を除いて全ての園児が登園していた。また、被害児童が乗車していた本件バスは、おおむね午前9時前頃に 本件幼稚園に到着していた。 被告人Bは、朝礼が行われる午前8時10分頃までには出勤し、朝礼の前後に、職員室のホワイトボードから欠席、遅刻等の連絡のあったH組の園児を確認し、午前8時15分頃から登園する園児の受入れを行っていた。H組の教諭補助であったM(以下「M」という。)は、午前8時45分頃に出勤し、午前9時頃にLとホワイ トボードから欠席等の連絡があった園児を確認し、給食室にその日必要となる給食とおやつの数を伝達した後、午前9時15分頃、被告人Bに欠席等の連絡のあったH組の園児について報告していた。 しかし、被告人BやMは、ほぼ全ての園児が登園する午前9時30分以降、Lを改めて確認することはしていなかった。 ⑸ 送迎バスの運行に関する業務ア送迎バスの運行業務体制本件バスの運行にあたっては、通常は運転手のN(以下「N」という。)と補助員のFが乗車し、次のとおり運行業務が行われていた。すなわち、Fは、本件バスが本件幼稚園を出発する前に、Lとホワイトボードからその日の園児の出欠状況を確 認して乗車名簿に記載し、Nに対し、欠席及び遅刻の園児について伝達する。Nは、本件幼稚園を出発し、各園児の自宅前で園児を乗車させた後、本件幼稚園の正面入口前の路上に本件バスを停車させる。Fは、補助が必要な2歳の園児を先に降車させ、その園児の手を引いて本件幼稚園の教室まで行き、担任の先生に引き渡す。Fはその後に本件バスに戻ることはなく、他の園児の降車確認はしない。Nは、残っ て 、補助が必要な2歳の園児を先に降車させ、その園児の手を引いて本件幼稚園の教室まで行き、担任の先生に引き渡す。Fはその後に本件バスに戻ることはなく、他の園児の降車確認はしない。Nは、残っ ている園児に声をかけ、スライドドア付近で園児がバスから降りる補助をし、最後 の園児が降りたら一緒に本件幼稚園の入口に行き、園児が園内に入ったら園の入口の扉を閉める。Nは、本件バスに戻り、園児が残っていないかを確認しながら座席の清掃を行い、本件幼稚園から南西方向に約192メートル離れた本件駐車場まで本件バスを移動させて施錠を行う。 イ職員らに対する指導等 本件幼稚園では、本件当時、運転手及び補助員が園児の乗降車時に人数や座席の確認を実施することやその手順や方法を定めた安全計画は策定されておらず、送迎バスの運転手や補助員に対して、園児の乗降車時の座席及び人数の確認、運転手や補助員の役割分担等についての指導も行われていなかった。 被告人Aは、本件幼稚園の担任等に対して、令和3年7月に福岡事件が発生した ため気を付けるように話したことがあったが、業務の内容について具体的な指示を行うことはなく、運転手や補助員に対して福岡事件の関係で説明を行うこともなかった。 3 本件当日の状況⑴ 気象状況 令和4年8月1日から本件当日にかけて、本件幼稚園から10キロメートル以内の気象観測所や消防署では、最高気温が30度前後と記録される日が続いていた。 本件当日午前11時頃から午後2時頃までに本件駐車場に駐車されていた本件バス内の気温は40度前後であった。 ⑵ 本件バスの運行 被告人Aは、本件当日に送迎バスの運転手1人が午前中休みを取ることとなったため、令和4年9月2日夕方頃、本件当日の朝は被告人Aが本件バスを運転し、 0度前後であった。 ⑵ 本件バスの運行 被告人Aは、本件当日に送迎バスの運転手1人が午前中休みを取ることとなったため、令和4年9月2日夕方頃、本件当日の朝は被告人Aが本件バスを運転し、Nには別のバスを運転してもらうこととした。被告人Aは、本件当日にO総合病院で被告人Aの叔母の今後の介護等についての話合いを予定しており、本件バスを運転した後にすぐに同病院に行かなければならないと考えたが、他の職員にはそのこと を伝えていなかった。 被告人Aは、本件当日午前7時45分頃(以下、時刻のみを記載する場合は本件当日である。)、本件駐車場から本件バスを運転して本件幼稚園まで移動した。Fは、Lと職員室のホワイトボードから欠席、遅刻等の連絡が来ている園児を乗車名簿に記載し、本件バスに乗車して被告人Aに乗車する予定の6名の園児について伝えた。 被告人Aは、運転手や補助員が乗降車時の園児の人数確認や座席の確認をどのよう に行っているかを知らなかったが、これをFに確認したり、Fに対して乗降車時の園児の人数確認や座席の確認を行うように指導したりすることはなかった。 被告人Aは、午前8時頃に本件バスを発車させて出発し、5名の園児を乗車させた後、午前8時47分頃に最後の園児である被害児童を乗車させて、午前8時51分頃、本件幼稚園の正面入口前の道路に本件バスを停車させた。被害児童は、運転 席側の6列の座席の後方から2番目の座席に着席していた。 Fは、園児に降りるよう声をかけてスライドドアを開け、自分で荷物を持つことができない2歳の園児1名の降車を補助し、同園児を連れて本件幼稚園の園内に入り、同園児を担任に引き渡し、引き続き、4名の園児が降車した。Fは、園児の降車時の人数や座席の確認は通常どおり運転手である被告人Aが行うも の園児1名の降車を補助し、同園児を連れて本件幼稚園の園内に入り、同園児を担任に引き渡し、引き続き、4名の園児が降車した。Fは、園児の降車時の人数や座席の確認は通常どおり運転手である被告人Aが行うものと考え、上 記の確認を行わなかった。被告人Aは、Fがスライドドアを開けた際に運転席に座ったまま首だけを左後方に向けてスライドドアの方を見たが、その後、バスの運行記録を付け始め、園児の座っていた後部座席を確認したり、降車している園児の様子を確認することはなかった。Fは、午前8時52分頃、本件バスのスライドドアがまだ開いたままになっており、被告人Aが運転席に座っているのが見えたため、 既に全ての園児が降車し終わったものと考え、運転席に座っていた被告人Aに対し、「ドア閉めます」と聞くと、被告人Aが、Fの方を振り向きながら「はい、閉めて」と答えたため、スライドドアを閉めた。被告人Aは、その際、Fが園児の降車確認を行ってスライドドアを閉めたものと考え、園児の降車確認はしなかった。しかし、被害児童は、乗車時の席に座ったまま本件バスから降車しておらず、Fと被告人A の上記の会話中に、「あっ、Pバスだ」と発言したが、Fと被告人Aは気付かなかっ た。 Fは、乗車名簿とホワイトボードを確認し、午前8時56分頃、Lで被害児童を含む乗車した園児らの出席の登録をした。 被告人Aは、再び本件バスを発車させ、本件駐車場まで移動し、運転日報を記載し、午前8時58分頃、本件バスのエンジンを停止し、ドアをロックして降車した。 被告人Aは、O総合病院に早く行かなければならないと考え、その間、後ろを振り返ったりバックミラーを確認したりするなどして後部座席の確認をすることはなく、後部座席の点検や掃除もしないまま降車した。 ⑶ 園内での業務 院に早く行かなければならないと考え、その間、後ろを振り返ったりバックミラーを確認したりするなどして後部座席の確認をすることはなく、後部座席の点検や掃除もしないまま降車した。 ⑶ 園内での業務本件当日、早番を担当するQ副園長は、午前7時30分頃までに出勤し、その時 点で欠席連絡があった園児をホワイトボードに記載した。被害児童の保護者から、欠席又は遅刻をするという連絡や送迎バスを利用しない旨の連絡は来ていなかったため、ホワイトボードの被害児童の氏名の記載の横に、欠席や遅刻の記載をしなかった。 被告人Bは、午前8時05分頃に出勤して、ホワイトボードを確認し、午前8時 15分頃から、H組の教室で、登園してきた園児の受入れや本件当日に園児が行う絵の具の制作の準備等を行った。 H組の教諭補助であるMは、午前8時45分頃に出勤し、午前9時少し前に、本件バスで登園するはずの被害児童を含むH組の園児2名について登園の登録がないが、Lを通じた保護者からの連絡は来ておらず、ホワイトボードにも記載がないこ とを確認した。Mは、本件バスが到着していないために登園の登録が未了であると考え、上記2名は出席するものとして給食室に必要な給食の数を伝達した。 Mは、午前9時10分頃から午前9時15分頃までに、被告人Bに、被害児童についてLに登園の登録がされていない状態となっていることを報告した。被告人Bは、本件バスで登園予定の園児1名は登園しているため、様子を見ようと考え、本 件幼稚園内で被害児童の所在を確認したり保護者に連絡したりすることはなかった。 Mは、保護者に対する連絡等の対応は通常どおり担任である被告人Bが行うものと考え、それ以上の対応はしなかった。 その後、ほぼ全ての園児が登園する午前9時30分を過ぎても、 かった。 Mは、保護者に対する連絡等の対応は通常どおり担任である被告人Bが行うものと考え、それ以上の対応はしなかった。 その後、ほぼ全ての園児が登園する午前9時30分を過ぎても、被害児童が遅れて登園したり、被害児童の保護者から連絡が来ることはなかったが、被告人Bは、その日に予定されていた園児の身体測定や絵の具の制作活動等を遅れることなく進 めなくてはならないと考えて、午前11時頃までそれらの活動を実施し、被害児童の所在確認をしたり、保護者に対して連絡したりすることはしなかった。また、被告人Bは、給食の支度を始める午前11時30分頃には、被害児童は欠席するものと考え、園児が帰宅した後に欠席の理由を確認しようと考えて、午後2時を過ぎても、被害児童の所在確認をしたり、保護者に対して連絡をすることはしなかった。 ⑷ 被害児童の死亡Nは、午後2時05分頃、園児の帰りの送迎のために、本件バスに乗車したところ、本件バス内に取り残されていた被害児童を発見し、午後2時14分頃、消防に通報した。発見当時、被害児童は衣服を脱いだ状態であり、登園の際に母親が麦茶をいっぱいに入れていた水筒は空の状態で発見された。 医師による鑑定の結果、被害児童は、午後0時前後、重度の熱中症である熱射病により死亡したものと推定され、血液検査からの検討では早くとも午前10時40分頃、体温からの検討では遅くとも午後1時頃が死亡時刻と考えられた。 4 本件後の状況本件後、被告人Aは、学校法人C理事長及び本件幼稚園の園長を退任した。静岡 県は、令和4年9月9日から同年10月13日までに本件幼稚園に対して特別指導監査を実施し、本件幼稚園では、①安全管理に関するルール作りを行っておらず、職務分担上、安全管理を担うべき園長は、副園長に対し は、令和4年9月9日から同年10月13日までに本件幼稚園に対して特別指導監査を実施し、本件幼稚園では、①安全管理に関するルール作りを行っておらず、職務分担上、安全管理を担うべき園長は、副園長に対して明確な指示もしていないことから、園児の安全確保のための組織的な取組の責務を果たしているとはいえないこと、②送迎バスの運行に係るマニュアルを整備しておらず、運転手と乗務員の 役割や、降車時確認の実施者が定められていない上、乗降車時の人数確認や利用者 名簿との突合などの手順や方法が職員に示されていないなど、バス利用園児の安全が確保されていないこと、③登降園管理に係るルールが文書等で明確にされておらず、職員への周知もされていないことから、組織として統一した登降園管理の仕組みが構築されていないこと、④欠席連絡がなく登園していない園児について、いつ、誰が保護者に連絡、確認するかというルールが明確に定められておらず、保護者と の連絡の有無に係るチェックもされていないことを、認定こども園法及び同法10条1項の規定に基づき定められた幼保連携型認定こども園教育・保育要領等に抵触する事実として指摘し、①安全管理に関する役割を明確にした組織体制の構築、②安全な送迎バス運行体制の確保、③登降園に係るルールの作成と職員への周知徹底、④保護者との連絡体制の再構築等を行うように勧告した。 本件幼稚園は、上記勧告を受けて、安全計画を策定し、園児の登降園時の出欠確認や点呼の手法について定めたマニュアル及び送迎バスを利用する園外保育での点呼の手法や乗降車時の確認について定めたマニュアルを作成した。 第3 被告人両名の量刑の検討 1 大まかな量刑傾向 業務上過失致死罪の大まかな量刑傾向をみると、被害者が多数の事案や、被害者が少数で 車時の確認について定めたマニュアルを作成した。 第3 被告人両名の量刑の検討 1 大まかな量刑傾向 業務上過失致死罪の大まかな量刑傾向をみると、被害者が多数の事案や、被害者が少数であっても過失行為自体が被害者の命を奪う危険性の高い事案では実刑を含む重い量刑がなされる一方、過失行為自体の危険性が高いとはいえない事案では、おおむね禁錮1年から2年の幅で、刑の執行猶予を含む軽い量刑がなされる傾向がみられる。 2 重要な犯情被告人両名の量刑判断の中心となる重要な犯情について検討する。 ⑴ 結果の重大性まず、被告人両名に共通する犯情として、本件の結果の重大性を指摘しなければならない。本件により、被害児童は、わずか3歳11か月という幼さで生きる権利 を奪われ、その未来を断たれている。被害児童は、職員らの指示を守って降車する 順番が来るまで座席で待機していたにもかかわらず、被告人Aらから降車を促されることもなく、炎天下の中で高温の車内に一人取り残され、衣服を脱ぎ、水分を取るなどして懸命に生きようとしたが、誰からの助けを得られることなく亡くなったのであり、その苦しみは想像を絶する。本件幼稚園を信頼して被害児童を預けた両親が、公判において、慈しみ育ててきた大切な我が子を突如奪われた喪失感や絶望 感、被告人両名に対する強烈な怒りと恨みを露わにし、被告人両名に重い処罰を望む心情は十分理解できる。本件の結果は重大である。 ⑵ 被告人Aの犯情次に、被告人Aの犯情について検討する。 ア本件幼稚園の園長として園児の安全を確保すべき義務 就学前の児童は、基本的に未熟で幼いため、一人で生きていく能力が低く、また、経験が乏しいため、危険を回避する能力も低い。したがって、保育者、つまり、認定こど して園児の安全を確保すべき義務 就学前の児童は、基本的に未熟で幼いため、一人で生きていく能力が低く、また、経験が乏しいため、危険を回避する能力も低い。したがって、保育者、つまり、認定こども園などで児童を預かり育てる職員は、子供の命を預かる専門職といえる。 そして、被告人Aは、平成14年から本件当時に至るまで、就学前の児童を預かる本件幼稚園の園長として、本件幼稚園における園児の安全に関する事項について 計画を策定し、これを実施するなどの本件幼稚園の業務を統括管理する権限を有していたから、送迎バスの運行に当たっては、送迎場所から安全かつ確実に本件幼稚園まで園児を送り届けるため、運転手及び補助員が園児の乗降車時に人数や座席の確認を実施すること及びその手順や方法を定めた安全計画を策定した上、運転手及び補助員がこれを確実に実施するよう適切な指導、監督を行い、送迎バスに放置さ れて園児が死亡するという結果の発生を防止しうる具体的な地位にあった。 しかも、本件の約1年前には、福岡事件が発生したことを受けて国から本件事務連絡が発出され、地方公共団体を通じて、本件幼稚園に対しても、送迎バスの運行において、子どもの乗降車時に座席や人数の確認を実施すること等の安全管理を徹底するよう周知され、続けて、被告人A立会いによる静岡県による指導監査を経て、 本件の約3か月前には、J協会からも、送迎終了時の車内の確認項目を含む安全チ ェックシートが配信されていたから、被告人Aは、被害児童を含む本件幼稚園の園児が送迎バスに取り残されるなどして死亡に至る危険性を具体的に予見することができた。 そうすると、被告人Aは、本件幼稚園の園長として、送迎バスにおける園児の安全を確保するため、送迎バスを運行する際には園児の乗降車時に座席や人 どして死亡に至る危険性を具体的に予見することができた。 そうすると、被告人Aは、本件幼稚園の園長として、送迎バスにおける園児の安全を確保するため、送迎バスを運行する際には園児の乗降車時に座席や人数の確認 を行うこと等を内容とする園児の安全に関する事項についての計画を策定した上、これに基づき送迎バスの運転手及び園児の乗降車を手伝う補助員を指導し、確実に実施させ、被害児童を含む園児の死亡という結果を回避すべき具体的な注意義務があったといえる。 それにもかかわらず、被告人Aは、送迎バスの中を確認することは当たり前のこ ととして運転手や補助員が行うだろうと安易に考えて、本件幼稚園の園長としての自らの責任を放棄し、送迎バスの運転手や補助員がどのように乗降車時の人数及び座席の確認を実施しているかを確認することもないまま、園児の乗降車時の人数及び座席の確認について手順や方法を定めることはせず、その実施について運転手及び補助員に対し何らの指導も行うこともないまま放置し続けた。この点、被告人A は、公判において、いずれは安全計画を策定しようと考えていたなどと述べるが、本件に至るまで具体的な安全管理の措置をとった事実は認められない。 以上によれば、本件幼稚園の園長として、被害児童を含む園児の安全を確保するという基本的な注意義務を怠った被告人Aの過失の程度は著しいものがある。 イ本件バスの運転手として送迎中の園児の安全を確保すべき義務 被告人Aは、本件当日に被害児童を乗車させた本件バスの運転手として本件幼稚園の送迎業務に従事していたから、園児の乗降車時に人数や座席の確認を自ら実施したり、補助員に対してその実施を指導したりするなどして、乗車した園児を確実に降車させて本件幼稚園まで送り届け、園児が本件バスに放置されて死亡す ていたから、園児の乗降車時に人数や座席の確認を自ら実施したり、補助員に対してその実施を指導したりするなどして、乗車した園児を確実に降車させて本件幼稚園まで送り届け、園児が本件バスに放置されて死亡するという結果の発生を防止しうる具体的な地位にあった。 しかも、被告人Aは、前記アで指摘した事情に加え、本件幼稚園の園長として、 本件幼稚園の送迎業務を統括し、運転手や補助員を指導する者として、園児の乗降車時の人数及び座席の確認の必要性を認識していたのであるから、被害児童を含む本件幼稚園の園児が本件バスに取り残されるなどして死亡に至る危険性を具体的に予見することができた。 そうすると、被告人Aは、本件当時、本件バスの運転手として、園児の乗降車時 に人数や座席の確認を自ら実施したり、補助員に対してその実施を指導したりするなどして、乗車した園児を確実に降車させて園まで送り届け、園児が本件バスに放置されて死亡するという結果を回避すべき具体的な注意義務があったといえる。 それにもかかわらず、被告人Aは、運転手や補助員が乗降車時の園児の人数確認や座席の確認をどのように行っているかさえ知らず、本件当日に本件バスを運転す る際も、これを補助員に確認したり、補助員に対して乗降車時の園児の人数確認や座席の確認を行うように指導したりすることもなく、補助員において園児が全て降車したことの確認を行うものと思い込み、降車する園児の人数を確認したり、園児の降車後に後部座席を確認したりもせずに、本件バス内に取り残された被害児童に気付かないまま、本件駐車場まで本件バスを移動させ、自らの個人的な予定が迫っ ているなどという理由で運転日報の記載に集中し、本件バスから降車するに際し、本件バス内に取り残されている園児の有無等を確認せず、被害児童 駐車場まで本件バスを移動させ、自らの個人的な予定が迫っ ているなどという理由で運転日報の記載に集中し、本件バスから降車するに際し、本件バス内に取り残されている園児の有無等を確認せず、被害児童が本件バス内に取り残されていることに気付かないまま、本件バスのドアを施錠して本件バスから降車し、窓を閉め切った本件バス内に被害児童を放置した。 以上によれば、本件バスの運転手として、送迎中の園児の安全を確保するという 基本的な注意義務を怠った被告人Aの過失の程度は著しいものがある。 ウ過失の競合における評価本件は、被告人Aの①本件幼稚園の園長として園児の安全を確保すべき義務の違反及び②本件バスの運転手として送迎中の園児の安全を確保すべき義務の違反並びに③被告人Bの学級担任として被害児童の所在を確認し、その安全を確保すべき義 務の違反の3つの過失の競合によって、被害児童の死亡という重大な結果が発生し ている。そこで、過失の競合における被告人Aの過失の程度について検討する。 まず、①本件幼稚園の園長として園児の安全を確保すべき義務に違反した過失についてみると、このような被告人Aの過失によって、本件幼稚園では福岡事件と同様の事故がいつ発生してもおかしくない杜撰な安全管理体制が長期にわたって継続し、気温の高い時期に限られるとはいえ、本件幼稚園の送迎バスを利用する多数の 園児の命が日常的に危険にさらされるとともに、何らかの事情で園児の命に現実的な危険が生じた場合に他の職員らがその危険に気付いてその園児の命を救うことをも困難にさせてしまったといえる。本件に至るまで園児が送迎バス内に長時間取り残される事故が発生していなかったのは、被告人A以外の一部の運転手や補助員が、福岡事件を受けて乗降車時の人数及び座席の確認を も困難にさせてしまったといえる。本件に至るまで園児が送迎バス内に長時間取り残される事故が発生していなかったのは、被告人A以外の一部の運転手や補助員が、福岡事件を受けて乗降車時の人数及び座席の確認を自主的に行うなどしていたため にすぎない。そうすると、被告人Aの本件幼稚園の園長として園児の安全を確保すべき義務に違反した過失は、被害児童の死亡という結果の間接的な原因とはいえ、被害児童を含む多数の園児の命を日常的に危険にさらすとともに、現実に命の危険が迫った園児を救うことをも困難にさせる非常に重大なものと評価できる。 次に、②被告人Aの本件バスの運転手として送迎中の園児の安全を確保すべき義 務に違反した過失についてみると、後記のように、被告人Bの過失がなければ被害児童の死亡という結果を回避できた可能性は否定できないものの、このような被告人Aの過失によって被害児童の死亡という結果が直接的に引き起こされ、福岡事件と同様の園児の死亡という危険が現実化したといえる。そうすると、被告人Aの本件バスの運転手として送迎中の園児の安全を確保すべき義務に違反した過失は、被 告人Bの過失を踏まえても、被害児童の命を奪う危険性が極めて高い最も重大なものといえる。このように、本件は、被告人Aの園長としての過失によって被害児童を含む多数の園児の命が危険にさらされ、被告人Aの運転手としての過失によってその危険が現実化され、被告人Aの園長としての過失によって被害児童の命の危険を回避できなかったものであり、被害児童の死亡に至る危険の現実化の過程は、被 告人Aによって支配されていたものと評価できる。 以上によれば、被告人Aにおいては、保護者から託された園児の安全確保に対する意識の欠如は甚だしく、園児の命を預かる保育者として厳しい非難を Aによって支配されていたものと評価できる。 以上によれば、被告人Aにおいては、保護者から託された園児の安全確保に対する意識の欠如は甚だしく、園児の命を預かる保育者として厳しい非難を免れない。 したがって、被告人Aの犯情は、これまでの同種事案と比べても非常に重い部類に属するといえ、業務上過失致死罪における量刑傾向を踏まえて量刑の公平性の観点から検討しても、その刑の執行を猶予する余地は認められない。 ⑶ 被告人Bの犯情続いて、被告人Bの犯情について検討する。 被告人Bは、被害児童の在籍する学級の担任として、学級に在籍する園児の出欠及び登降園の状況を確認し、被害児童の所在を確実に把握すべき立場にあったから、被害児童を本件バスに放置した被告人Aの過失を前提としても、所在不明であった 被害児童の出欠及び登園の状況を確認し、その所在を把握して、被害児童の死亡という結果の発生を回避しうる具体的な地位にあった。 しかも、被告人Bは、本件当日の気象状況等に加え、被害児童が、これまでに保護者からの事前連絡なく欠席又は遅刻をしたり、本件バスを利用せずに登園することがほとんどなく、本件当日も被害児童の保護者から欠席、遅刻や本件バスを利用 しないことの連絡がなかったのに、被害児童が利用していた本件バスが本件幼稚園に到着した後も被害児童が登園していないことを認識していたのであるから、所在不明の被害児童が本件バスに取り残されるなどして死亡に至る危険性を具体的に予見することができた。 そうすると、被告人Bは、本件当時、速やかに被害児童の保護者に対する連絡や 送迎バスの補助員に対する確認をするなどして被害児童の所在を確認し、被害児童の死亡という結果を回避すべき具体的な注意義務があったといえる。 それにもかかわらず、被告 童の保護者に対する連絡や 送迎バスの補助員に対する確認をするなどして被害児童の所在を確認し、被害児童の死亡という結果を回避すべき具体的な注意義務があったといえる。 それにもかかわらず、被告人Bは、被害児童が登園していないということは被害児童が本件バスに乗車していなかったのだろうなどと安易に考え、ほぼ全ての園児が登園する時刻を大幅に経過した後も、被害児童がいないことを認識しながら他の 業務を優先させ、長時間にわたって被害児童の所在が不明な状態を放置し続けた。 以上によれば、被害児童の学級の担任として、被害児童の安全を確保するという基本的な注意義務を怠った被告人Bの過失の程度は重いものがある。 もっとも、過失の競合における被告人Bの過失の程度について検討すると、被告人Bの過失の背景には本件幼稚園における杜撰な安全管理体制があったことは否定できず、被告人Bの過失行為自体は、被害児童の死亡との間の因果関係は認められ るものの、被害児童の命を奪う危険性が特に高いものとまではいえない。すなわち、本来、被告人Aが、本件幼稚園の園長として、園児の所在を確実に把握するため、職員らが園児の登降園をどの時点で確認するか、欠席の連絡がないが登園していない園児についていつ誰が保護者に連絡を行うかを明確に定め、被告人Bを含む職員らがこれを確実に実施するように適切に指導、監督すべきであったところ、本件幼 稚園においてこれらに関するルールは定められておらず、職員らに対する指導、監督も行われず、園児の登降園の確認や保護者への連絡は、事実上、各学級の担任等が個別に自主的な対応をしており、各学級間でこれらの業務に関する運用の統一もされていなかった。そうすると、被告人Bが、他の業務に追われる中で、被害児童の所在確認が必要であることを冷 、各学級の担任等が個別に自主的な対応をしており、各学級間でこれらの業務に関する運用の統一もされていなかった。そうすると、被告人Bが、他の業務に追われる中で、被害児童の所在確認が必要であることを冷静に判断して適確に必要な行動を選択し、実践で きなかったことは、このような本件幼稚園の杜撰な安全管理体制が大きく影響したものといえる。 以上によれば、被告人Bの過失は、子供の命を預かる保育者として到底軽視できるものではないが、先行する被告人Aの過失によって危険が現実化された偶発的なものと評価できる。 したがって、同種事案における量刑傾向を踏まえて量刑の公平性の観点から検討すると、被告人Bに対しては直ちに実刑を科すべきとまではいえない。 3 一般情状その上で、刑を調整する要素である一般情状について検討する。 本件幼稚園が加入していた対人賠償無制限の保険により遺族らに対して相応の被 害弁償が見込まれることは、被告人両名の刑を軽くする方向に働く一般情状である。 被告人Aについてみると、学校法人の理事長と本件幼稚園の園長をいずれも辞した上、公判において罪を認めて反省の弁を述べていること、本件後ではあるが、本件幼稚園において同種の事故を防止するために安全計画や園児の登降園に関するマニュアルが策定されたこと、被告人Aに前科がないことなどは、被告人Aの刑を軽くする方向に働く一般情状といえる。 被告人Bについてみると、本件幼稚園の保育教諭を辞した上、公判において罪を認めて反省の態度を示していること、前科がないことなどは、被告人Bの刑を軽くする方向に働く一般情状といえる。 第4 結論そこで、量刑の公平性の観点から同種事案における量刑傾向を踏まえ、以上の本 件の重要な犯情を基礎にして一般情状を調整的に考 、被告人Bの刑を軽くする方向に働く一般情状といえる。 第4 結論そこで、量刑の公平性の観点から同種事案における量刑傾向を踏まえ、以上の本 件の重要な犯情を基礎にして一般情状を調整的に考慮し、被告人Aに対しては、その有利な事情を最大限考慮しても、園児の安全に対する最終責任者としての立場に応じた過失の重大性や、被害児童の死亡という結果発生の直接の原因となった過失の重大性に鑑みると、主文の刑期の実刑を科すのが相当であり、他方、被告人Bに対しては、本件結果の発生に寄与した過失の程度を踏まえ、主文のとおりの禁錮刑 に処してその責任を明らかにした上で、その刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。 (検察官の求刑被告人Aにつき禁錮2年6か月、被告Bにつき禁錮1年)(被告人Aの弁護人の量刑意見寛大な判決)(被告人Bの弁護人の量刑意見執行猶予付きの判決) 令和6年7月8日静岡地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官國井恒志 裁判官谷田部峻 裁判官牧野芙美

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