主文 被告人を死刑に処する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,秋田県内で出生し,A海員養成所本科機関科を卒業した後,昭和32年4月から昭和47年ころまで,途中トラック運転手の仕事を挟みながら,船員として外航船に乗り組んだ。その後,自動車部品工場等の勤務を経て,昭和55年からB生命の外務員として勤務し始めた。この間,昭和50年にCと婚姻するとともに,その実母であるDと養子縁組をし,その後,Cとの間に2人の娘をもうけた。 被告人は,昭和57年ころから勤務先の女性と不倫関係となり,その交際費用を賄うため消費者金融からの借入れを始め,不倫関係を続けたり営業実績を上げる費用等に充てるため借入れを続けたことから,昭和58年の初めには借金の返済に行き詰まり,妻と養母に対し,不倫等の借金の原因を伏せたまま,しかも借入金額を過少に告げ,当座の返済資金を工面させた。そのうち,不倫が妻に露見してその関係は打ち切ったものの,それ以降,妻との関係が冷ややかになったこともあって,飲酒等の遊興を重ね更に借金を増大させ,Cの実姉であるE(義姉)にも無心するようになっていった。 被告人は,平成元年春ころ,収入が思うように上がらず,借金の返済資金を得ることができなくなって退職を考えていた折,ガソリンスタンドの経営権の譲渡を希望する者がいるとの話を聞きつけ,これを買収する口実で,妻と義姉の共有名義であった自宅土地と養母の名義であった自宅建物(以下,この土地建物を併せて「自宅不動産」という。)を担保に借入れをし,B生命を退職した。もっとも,ガソリンスタンドを経営する予定は当初からなく,借入金は一部を自己の借金の返済に充てるなどし,残額を将来の返済資金として手元に残した。 被告人は,平成元年11月ころから福島県内で働き始め,間もなくかつて勤めていた自動車部品会社の神奈川 なく,借入金は一部を自己の借金の返済に充てるなどし,残額を将来の返済資金として手元に残した。 被告人は,平成元年11月ころから福島県内で働き始め,間もなくかつて勤めていた自動車部品会社の神奈川県内の工場に再就職し,1年ほどで秋田県内の工場に転勤させてもらい自宅から通勤するようになった。自己の給料から月々の返済額を捻出していたものの,すぐに立ちゆかなくなり,妻に助力を求めても断られ,返済のための借金を重ねる状況に陥っていたところ,平成3年5月ころ,会社の業績が芳しくなく解雇されてしまった。 被告人は,平成3年6月ころ,ぱちんこ店に就職し,自己の給料等から借金の返済を続けたものの,同時に返済目的の借金も続けていたことから,次第に借金の総額が増加していった。平成7年7月ころ,ぱちんこ店を退職し,その後,建築会社の運転手となったものの給料不払いのためこれも辞め,借金の返済に窮して返済目的の借金を繰り返したほか,妻に妻名義で消費者金融から借り入れさせたり,義姉に無心するなどしていた。そればかりか,平成8年ころ,自宅不動産の所有名義人を勝手に被告人に変更し,これを担保に銀行から自宅のリフォーム資金として850万円を借り入れるなどし,その一部を借金の返済に流用していた。 被告人は,平成8年8月ころ,タクシー会社に運転手として就職したけれども,その収入では月々の借金の返済額に不足したことから,返済目的の借入れを続けた。平成10年ころに次女の進学資金という名目で合計300万円を借り入れその一部を自己の借金の返済に充てたほか,平成11年4月ころには長女に無心して100万円を借り受け,同年9月ころには義姉を連帯保証人にさせて消費者金融から430万円を借り入れ,平成12年6月ころには次女に頼み込んで消費者金融から次女名義で30万円を借り入れさせ,更に翌7月 て100万円を借り受け,同年9月ころには義姉を連帯保証人にさせて消費者金融から430万円を借り入れ,平成12年6月ころには次女に頼み込んで消費者金融から次女名義で30万円を借り入れさせ,更に翌7月ころにも次女等を連帯保証人にさせて消費者金融から借入れをするなどし,いずれも自己の借金の返済に費消した。被告人は,このころまでには,妻から性交渉を拒否されるようになっており,妻に対して不満を抱くようになった。 平成12年9月ころ,妻が入院したことから,被告人方に一時的に寄寓していた義姉が家事を手伝うため同居を続けることとなった。被告人は,このころも借金の返済に追われて,義姉や養母からの借金を重ねたほか,自己の年金を担保に148万円余りを借り入れるなどしたものの,必要額には到底足りず,義姉や養母から預金の払戻しを依頼されることに乗じ,頼まれた額以上の現金を無断で払い戻し着服するなどして返済資金を調達していた。平成13年8月ころ,タクシー会社を退職して無職無収入となった後も,義姉の預金から無断で多額の現金を払い戻し借金の返済に充てていたほか,平成14年3月には再び自己の年金を担保に246万円余りを借り入れた。 被告人は,平成14年7月ころには年金を担保に借り入れた資金も借金の返済等に使い果たし,再度次女等に頼み込み連帯保証をさせて消費者金融から借入れをしたもののその月の返済分等に使い果たしてしまい,翌8月ころには借入れの申込みや連帯保証を頼む当てもなくなっていた。同月には,社会福祉事業団の関係を除く被告人名義による借入れの返済金及び被告人名義の保険料として1か月合計74万8675円を支払っており,同月末時点において,被告人名義による借入金の総額は1700万円を超えていた。このような状況下,同月末ころ,B生命の従業員から,妻を契約者及び被保険者とし て1か月合計74万8675円を支払っており,同月末時点において,被告人名義による借入金の総額は1700万円を超えていた。このような状況下,同月末ころ,B生命の従業員から,妻を契約者及び被保険者とし,長女を受取人とする定期付終身生命保険契約の定期特約期間が平成14年11月30日に満了するとの連絡を受けた。この生命保険契約は,被告人がB生命に勤務していた当時,昭和61年12月1日付けで妻に締結させたものであり,その保障内容は,平成14年11月30日までの定期特約期間内における死亡保険金約641万円等というものであった。 被告人は,B生命の従業員から連絡を受け,定期特約期間内に妻が死亡すれば,保険金の受取人である長女に頼んで死亡保険金を使わせてもらい,借金の返済に充てられてどれだけ楽になるだろうなどと考えるうち,借金の返済を続ける当てもなく,さりとて返済を怠れば自宅不動産の担保権が実行され一家離散となるのが確実であり,何としてもそれは回避したかったことに加え,既に妻には当てにできる財産がない上,日々自己を責め立てる妻を疎ましく感じ,性交渉にも応じてくれないことからもう利用価値がないという思いもあって,保険金目的による妻の殺害を考え始めた。そして,可能な限り多額の金銭を入手するため,自動車保険のうちの搭乗者傷害保険金を得ることも考え,妻をドライブに誘い出し自動車事故を装って殺害することを決意し,その際,併せて養母も殺害すれば2人分の搭乗者傷害保険金を得られることに思い至り,同時に養母も殺害することとした。なお,被告人の使用する乗用車(本件車両)には,株式会社Fとの間で搭乗者傷害1名につき1000万円等という保障内容の自動車保険契約が締結されていた。 被告人は,G漁港で転落事故を装い本件車両を海中に転落させ,被告人だけが逃げ出す方法により妻と養 式会社Fとの間で搭乗者傷害1名につき1000万円等という保障内容の自動車保険契約が締結されていた。 被告人は,G漁港で転落事故を装い本件車両を海中に転落させ,被告人だけが逃げ出す方法により妻と養母を殺害することとし,これを借金の返済資金が枯渇する平成14年10月15日までには決行することを決め,妻と養母をドライブに誘い出す機会をうかがっていた。同月9日,妻から秋田県由利郡H町へ行きたいとの話を持ちかけられ,また,かねて妻と養母に同郡I町へ行きたいという話をされていたことから,この機会を捉え,同月13日に妻と養母をH町やI町へドライブに連れて行く約束を取り付けた。同日,本件車両に妻と養母を乗せてドライブに出掛け,計画していたH町等を見て回った後,既に日が暮れて薄暗くなったころ,G漁港に到着した。本件車両を海中に転落させる場所を探して走行した後,漁港内の西側の埠頭に本件車両の前部を海へ向けて停車させると,スモールランプのみを点灯させた状態にし,運転席,助手席及び後部座席左右の窓を開け,シートベルトを外すなどの準備を整えながら,実行に及ぶ機会を計っていた。 (罪となるべき事実)被告人は,平成14年10月13日午後5時40分ころ,秋田県由利郡G町G漁港において,殺意をもって,妻C(当時59歳)及び養母D(当時84歳)を乗せた本件車両を運転し,前進させて海中に転落させようとしたところ,たまたま前方に設置されていた係船柱に自車右前部が衝突して停止したことから,自車をいったん後進させた後,再度,係船柱を避けながら前進させて海中に転落させ,よって,同日午後6時59分ころ,同県J市K町字L町M番地N病院においてCを,同日午後7時33分ころ,同市O字PQ番地R病院においてDを,それぞれ溺死させて殺害したものである。 (事実認定の補足説明)第1 はじめに 時59分ころ,同県J市K町字L町M番地N病院においてCを,同日午後7時33分ころ,同市O字PQ番地R病院においてDを,それぞれ溺死させて殺害したものである。 (事実認定の補足説明)第1 はじめに弁護人は,本件車両の海中への転落は被告人が運転操作を誤ったことによる事故であって,被告人には殺意はもとより保険金を取得する目的も認められないから,無罪である旨主張し,被告人も,第2回公判以降,これに沿う供述をする。 結論から先に述べれば,当裁判所は,捜査段階における被告人の自白が第2回公判以降に翻されたという本件の訴訟進行の状況にかんがみ,まず,被告人の自白以外の関係証拠に基づき殺意の有無を検討し,本件車両が海中に転落した際の進行状況,本件車両の変速装置の種類,海中への転落時の視認状況等の諸事情から,本件車両に同乗していたC及びDに対する殺意の存在を認定した。次いで,保険金目的による殺意を認めた捜査段階における被告人の自白を検討したところその信用性は十分であり,第2回公判以降の被告人の供述は信用できないことから,保険金目的による殺意を認定できるとの判断に至った。その詳細は,以下に説示するとおりである。 第2 被告人の自白以外の関係証拠に基づく殺意の有無の検討 1 本件車両が海中に転落した際の進行状況,本件車両の変速装置の種類,海中への転落時の視認状況等の諸事情について(1) 前掲の関係証拠によれば,本件車両が海中へ転落した際の状況等について,以下の事実が認められ,特に反対証拠もなく,弁護人もこれを争わない。 ア被告人は,昭和32年3月15日にA海員養成所本科機関科を卒業した後,同年4月から昭和47年ころまで,途中トラック運転手となっていた期間を挟みながら,十数年にわたり船員として外航船に乗り組んでいた。海員養成所時代に水泳訓練を受けており 養成所本科機関科を卒業した後,同年4月から昭和47年ころまで,途中トラック運転手となっていた期間を挟みながら,十数年にわたり船員として外航船に乗り組んでいた。海員養成所時代に水泳訓練を受けており,長時間の立ち泳ぎができるなど水泳能力が高かった。 イ平成14年10月13日における秋田県地方の日の入り時刻は,午後5時5分であった。 ウ本件車両が海中へ転落した場所(本件転落場所)は,秋田県由利郡G町に所在するG漁港内のS漁業協同組合から約150メートル,G小学校から約300メートルの地点に位置する幅員約25メートル,長さ約95メートルの埠頭の東側の繋船場所となっている岸壁であり,その北側にS漁業協同組合貯氷庫が設置されていた。この岸壁は,東端から約9.56メートルの間をコンクリートで舗装されており,その上には東端から約1.25メートル離れた位置に,約6.5メートルおきに高さ0.45メートルの係船柱が設置され,上記貯氷庫から約49.8メートルの位置にもこれらの係船柱のうちの1つ(以下「本件係船柱」という。)が設置されていた。この埠頭上に照明灯は設置されておらず,埠頭の東側の入り江を挟んだ対岸に水銀灯等の照明設備が設けられていた。 係船柱とは,通常,岸壁の端から約1メートル程度の位置に設置され,船を係留する際に係留ロープを繋ぐ柱のことであり,通称ビットとも呼ばれている。このことは,海員学校を卒業し,実際の乗船経験のある者であれば,当然に知悉している事柄である。 エ被告人は,本件車両を運転し,平成14年10月13日夕方の日が暮れて薄暗くなったころ,本件転落場所付近に到着し停止した。その際,停止した位置が岸壁の端から約3メートル手前の地点であることを承知していた。運転席の窓をほぼ全開にし煙草を吸うなどした後,その位置から前進を始め,本件係船柱 本件転落場所付近に到着し停止した。その際,停止した位置が岸壁の端から約3メートル手前の地点であることを承知していた。運転席の窓をほぼ全開にし煙草を吸うなどした後,その位置から前進を始め,本件係船柱に右前部バンパーを衝突させて停車した。この当時,本件転落場所のある埠頭の東側の入り江を挟んだ対岸に設置された水銀灯等は点灯しており,その光が海面に反射している状況であった。 オ本件当時,Cは,腎臓の疾患を抱え1週間に3回の人工透析を受けなければならない病状にあり,Dは,高齢で足腰が悪く杖をついてようやく歩行が可能な身体状態であった。また,Cは泳ぎができず,Dも泳げるような身体状態にはなく,両者とも転落した本件車両から脱出する能力を有していなかった。被告人は,これらの事実を了解していた。 カ本件転落場所付近の海中から引き上げられた本件車両の底部の状況は,ローフロア下のほぼ中心を,前部から後部まで排気管が通り,その両側にフロアメインバーがそれぞれ1本ずつ通っていた。このうち,運転席側のフロアメインバーには,フロントバンパーの先端から後方へ1.60メートルの位置を始点に後方へ向けて,長さ0.30メートル,幅0.05メートルの傷があり,この損傷は車底部から室内に向かって押し曲げられていた。また,助手席側のフロアメインバーには,フロントバンパーの先端から後方へ1.55メートルの位置を始点に後方へ向けて,長さ0.25メートル,幅0.05メートルの擦過傷が印象されていた。本件車両は,変速装置がマニュアルトランスミッションのものであり,海中から引き上げられた当時,シフトレバーがローに入れられていた。 (2) 係船柱に衝突した後,海中に転落するまでの本件車両の進行状況ア Tの供述内容Tは,その検察官調書において,本件係船柱に衝突し停止した後の本件車両の ,シフトレバーがローに入れられていた。 (2) 係船柱に衝突した後,海中に転落するまでの本件車両の進行状況ア Tの供述内容Tは,その検察官調書において,本件係船柱に衝突し停止した後の本件車両の進行状況に関し,概ね次のとおり供述している。 平成14年10月13日午後5時5分ころ,G漁港に到着し,本件転落場所付近の岸壁の南側にある灯台の下辺りに自車を駐車し,同乗していたUを車中に残して防波堤へ行き,周辺を見てから自車の方向へ戻っていった。すると,間もなく自車に着くという辺りで,突然,前方からガシャという音を聞き,そちらの方向を見ると,岸壁近くに停止していた車両が見えた。その車両は,岸壁にある船のロープを繋ぐコンクリートのような物に車両の右前部を衝突させているように見えた。その車両を見ながら歩いていると,その車両はバックし始め,止まった途端に今度は前進を始めた。その車両は,人が歩くよりも少し早い程度の速度で進み出し,真っ直ぐ海に向かって進み,どうしようと思っているうちに岸壁から海に転落した。 イ客観的事実から推認される本件車両の進行状況海中から引き上げられた本件車両の車底部には擦過傷等が残っていた(上記(1),カ)。損害保険会社系列の調査会社に勤務し,自動車損害保険に関わる調査を担当しているVは,H警察署の依頼を受け,これらの擦過傷等を基礎に転落時の本件車両の進行状況の分析調査を行った。Vは,調査結果を報告書にまとめ,これに基づき,その警察官調書において,概ね次のとおり供述している。 もしも障害物を回り込むように低速度で右にハンドルを切っていたとすれば,先に助手席側の左前輪が海面側に落ちて脱輪し,車両の底部を岸壁に接したまま停止してしまうと思われるし,また,本件車両が前輪駆動車であることから,仮にハンドルを右に切った状態で走行し ていたとすれば,先に助手席側の左前輪が海面側に落ちて脱輪し,車両の底部を岸壁に接したまま停止してしまうと思われるし,また,本件車両が前輪駆動車であることから,仮にハンドルを右に切った状態で走行していたとすれば,残った駆動輪の右前輪と接地部の左前下部が支点となり,弧を描くような状態で右に旋回しながら左後輪も脱輪することになり,左側面から海面に転落することが容易に推定され,その場合だと,助手席側だけに車体前後のラインに対し垂直に近い状態で弧を描く状態の擦過傷が残され,運転席側には擦過傷がほとんど残されない状態になるはずであるのに,本件車両には車体前後のラインに対し垂直に近い状態の弧を描くような擦過傷が存在しないから,ハンドルを右に切った状態で走行し海に転落したとは考えられない。本件車両の車底部の擦過傷が,先に助手席側,次に運転席側の順に発生していて,初めに左側の前輪,次に右側の前輪が落ちたものであり,本件車両が,転落の際,車体が岸壁に対し,右斜め方向に進行していたと考えられる。しかし,車底の擦過傷が車体と平行であり,ハンドルは直進状態であったと考えられる。 Vは,昭和60年4月以来,自動車損害保険に係わる調査に従事し豊富な実務経験を有しているのみならず,その調査や供述は,その推論過程も含め内容的に格別不合理な点は見当たらないから,信用性が十分と認められる。 ウ T供述の信用性本件車両がいったん後退した後,海中に転落するまでの進行状況に関するT供述の内容は,本件車両の車底部に印象された擦過傷等という客観的な事実から合理的に推認される本件車両の進行状況と矛盾していない。 Tは,本件当時まで被告人とは何ら面識がなく,たまたま本件転落場所に居合わせたことから本件車両の転落状況を目撃し,しかも自ら海中に飛び込んで被告人を救助したものであり, 進行状況と矛盾していない。 Tは,本件当時まで被告人とは何ら面識がなく,たまたま本件転落場所に居合わせたことから本件車両の転落状況を目撃し,しかも自ら海中に飛び込んで被告人を救助したものであり,危険を冒してまで救助した被告人に殊更に不利な供述をすべき理由はない。 T供述は目撃から約11か月後にされたものではあるけれども,車両の海中への転落を目撃し,しかも自ら海中に飛び込んで人を救助したという体験は,特異な印象深いものとして強く記憶に残るはずであるから,約11か月の経過により記憶が変容しているとは考え難い。 そうすると,上記アに摘示したT供述の信用性は十分である。 エ小括これらによれば,係船柱に衝突した後の本件車両の進行状況については,本件係船柱に衝突して停止した後,後進を始めていったん停止し,すぐさま前進し海へ向かって直進し,岸壁から海中に転落したという事実を認めることができる。 (3) 本件車両が転落した当時の本件転落場所の視認状況ア T及びUの供述内容(ア) Tは,その検察官調書において,本件車両が転落する様子を目撃した際の状況につき,概ね次のとおり供述している。 薄暗い状態だったけれども,漁港辺りの街灯の明かりで水面が照らされて,岸壁近くに停止していた車両が見えた。運転席側が見え,男の人が運転しているのが見えた。しかし,車両の窓が開いていたかどうかまでは,自分から見える運転席側や運転席側の後部席についても分からなかった。その車両は,白っぽい色の車両で,形から日産のパルサーかサニーに見えた。よく見ると,岸壁にある船のロープを繋ぐコンクリートのような物に車両の右前部を衝突させているように見えた。当時,懐中電灯なしでも岸壁の端は見える程度の明るさだった。車両転落後,自分が先頭になって走り,車両が海中に転落した岸壁に向かっ ぐコンクリートのような物に車両の右前部を衝突させているように見えた。当時,懐中電灯なしでも岸壁の端は見える程度の明るさだった。車両転落後,自分が先頭になって走り,車両が海中に転落した岸壁に向かった。走っている間,海に落ちた車両を見ていた。海面と岸壁とは区別して見えた。その車両は,海面に浮かびながら時計と逆回りの状態で旋回を始め,助手席側の側面が岸壁に対して真横になりかけた時,その後部に人を見て,運転手を含めて2人は乗っていると分かった。しかし,見えた人の男女の別は分からなかった。車両は,前部から泡を出しながら沈み出した。 ところで,本件の翌日,本件現場において,Tの指示説明に基づき地点を特定して計測した(Tは,上記検察官調書においても,この際の指示説明に即して地点を特定し供述している。)ところ,Tが海面に転落する本件車両の状況を目撃した際の本件車両との距離は約45.3メートルであった。 (イ) Uは,その検察官調書において,本件車両が転落した直後に目撃した際の状況につき,概ね次のとおり供述している。 平成14年10月13日,Tと一緒にドライブをし,自分が途中で眠ってしまったところ,気が付いたらG漁港に着いていた。Tが1人で車から降り,自分が助手席のシートで休んでいると,突然,車外からドシャという音が聞こえた。体を起こしたところ,Tが車が落ちたと叫んできたので,すぐに車から降り岸壁のほうを見ると,海面に白っぽい色の車両が浮いていた。周囲は薄暗い状態だったけれども,岸壁と海面とは,漁港辺りの街灯の明かりで区別できる状態で見えた。自分が車両から降りてすぐに,Tが駆け出したので,その後を追いかけた。岸壁にある船を繋ぐ柱のようなところまで行くと,海中に転落した白っぽい色の車両が時計と逆回りに回転しながら海面に浮いていた。助手席か助手席の後ろ りてすぐに,Tが駆け出したので,その後を追いかけた。岸壁にある船を繋ぐ柱のようなところまで行くと,海中に転落した白っぽい色の車両が時計と逆回りに回転しながら海面に浮いていた。助手席か助手席の後ろから女の人の声で助けを求めて叫ぶ声が聞こえ,よく見ると窓から手が出ていた。車両は,前部を岸壁のほうへ向けて,前部からブクブク沈み出した。 ところで,本件の翌日,本件現場において,Uの指示説明に基づき地点を特定して計測した(Uは,上記検察官調書においても,この際の指示説明に即して地点を特定し供述している。)ところ,Uが海面に本件車両が浮上している状況を目撃した際の本件車両との距離は約37メートルであり,Uが海面に浮上している本件車両の窓から人の手が出ている状況を視認した際の本件車両との距離は約11メートルであったイ T及びU供述の信用性薄暗かったものの漁港辺りの街灯の明かりがあった旨述べる点は,平成14年10月13日における秋田県地方の日の入り時刻が午後5時5分であり(上記(1),イ),本件現場の埠頭上に街灯はなかったものの埠頭の東側の海を挟んだ対岸に水銀灯が設置されていた(上記(1),ウ)事実と矛盾していない。 両者の供述内容は,転落後の本件車両の目撃状況についてよく符合し相互に信用性を高め合っている。 Tは,本件車両が本件係船柱に衝突し停止した後の目撃状況について,窓の開閉状態や,転落後の本件車両の後部座席に見えた人物の男女の別は分からないと述べ,Uも,助けを求める声がした位置などあいまいな点については区別して述べるなど,両者とも,見えた点と見えなかった点を具体的に区別して供述しており,供述態度が真摯である。 Tは,被告人に殊更に不利な供述をすべき立場になく,約11か月の経過によりその記憶が変容していると考え難いことは,既に上記( と見えなかった点を具体的に区別して供述しており,供述態度が真摯である。 Tは,被告人に殊更に不利な供述をすべき立場になく,約11か月の経過によりその記憶が変容していると考え難いことは,既に上記(2),ウで説示したとおりであり,この理は,Uもまた同様である。なお,Uは,海中に飛び込んで救助するという体験はしていないものの,車両が海中に転落し,恋人が海中に飛び込んで救助するという状況を目の当たりにしており,やはり本件体験が特異な印象深いものとして強く記憶に残っていると認められる。 そうすると,T及びU供述の信用性は十分というべきである。 ウ小括これらによれば,本件車両が転落した際,Tは,約45.3メートル離れた地点から本件車両が海面に転落する状況を目撃するのが,Uも,約37メートル離れた地点から本件車両が浮上している状況を目撃し,約11メートル離れた地点において海面に浮上している本件車両の窓から人の手が出ている状況を視認するのがそれぞれ可能であり,両者とも,岸壁と海面を区別して視認するのが十分に可能であったことが認められる。 そうすると,被告人においても,本件係船柱に衝突して停止した後,後進を始めていったん停止しすぐさま前進を開始した際,数メートル先が岸壁の端であり,その先が海面となっているのを視認することが十分に可能であったと認められる。 (4) 被告人の係船柱に関する知識係船柱は,一般的には岸壁の端から約1メートル手前に設置されているものであり,このことは,海員学校を卒業し船舶の乗組員を経験している者にとっては当然知悉している事柄である(上記(1),ウ)。被告人は,海員養成所を卒業し,その後,十数年にわたり船員として外航船に乗り組んだ経験を有していること(上記(1),ア)からすると,係船柱が一般的には岸壁の端から約1メート である(上記(1),ウ)。被告人は,海員養成所を卒業し,その後,十数年にわたり船員として外航船に乗り組んだ経験を有していること(上記(1),ア)からすると,係船柱が一般的には岸壁の端から約1メートル手前に設置されているものであることを熟知していたと認めるのが相当である。 2 上記1に認定した諸事情から推認し得る事実a本件車両は,岸壁の端から約3メートル手前の位置に前部を海へ向けて停車していたところ,その位置から前進を始めてすぐに岸壁の端から約1.25メートル手前の埠頭上に設置されていた本件係船柱に衝突して停止し,その後,若干の後進をしていったん停止し,すぐさま前進し海へ向かって直進し,岸壁から海中に転落している(上記1,(2),エ)。 このような転落時の本件車両の進行状況に加えて,b本件車両は変速装置がマニュアルトランスミッションであり(上記1,(1),カ),後進した本件車両を前進させるためにはクラッチペダルを踏み込んでシフトレバーを入れ替えるという意識的な操作が必要である事実,c被告人は,本件転落場所付近に到着し本件車両を停止した位置が,岸壁の端から約3メートル手前の地点であることを承知していた事実(上記1,(1),エ),d本件係船柱に衝突して停止した後,後進を始めていったん停止しすぐさま前進を開始した際,数メートル先が岸壁の端であり,その先が海面となっているのを視認することが十分に可能であった事実(上記1,(3),ウ),e係船柱が一般的には岸壁の端から約1メートル手前に設置されているものであることを熟知していた事実(上記1,(4)),f長時間の立ち泳ぎができるなど水泳能力が高かった(上記1,(1),ア)上,本件転落場所付近に到着し本件車両を停止した後,運転席の窓をほぼ全開にして煙草を吸うなどしている(上記1,(1),エ)事実を併 長時間の立ち泳ぎができるなど水泳能力が高かった(上記1,(1),ア)上,本件転落場所付近に到着し本件車両を停止した後,運転席の窓をほぼ全開にして煙草を吸うなどしている(上記1,(1),エ)事実を併せ考えると,特段の事情がない限り,被告人は,本件車両を意図的に海中に転落させたものと推認するのが相当である。そして,被告人は,第2回公判以降,海中への転落は過失による事故である旨供述しているところ,後に説示するとおり,この供述は,不自然,不合理であって信用できず(下記第4),本件証拠上,他に特段の事情は存在しないから,被告人は,本件車両を意図的に海中に転落させたものと認められる。 さらに,g被告人は,Cが泳ぎができず,Dも泳げるような身体状態にはなく,両者とも転落した本件車両から脱出する能力を有していないことを了解していた事実(上記1,(1),オ)をも総合して勘案すると,被告人は,本件車両に同乗していたC及びDを溺死させて殺害する意思により,本件車両を意図的に海中に転落させたと認定するのが相当である。 3 被告人の事後の言動既に検討した(上記1,(2),ウ及び1,(3),イ)ように信用性の高いT及びUの供述によれば,a被告人は,本件転落直後,海中に沈みかけていた本件車両から脱出し海面に浮かび上がると,本件車両の転落を目撃し海中に飛び込んできたTにすぐに救助されて岸壁へ運ばれ,埠頭にいたUから背中をさすってもらったりして介抱されていたこと,bこの間,Uに誰か乗っているかと問われて,妻が乗っていると答えただけで,それ以上に助けを求めようとはせず,Tに対しては,救助してくれたことへのお礼の言葉を述べたのみで,本件車両内にCとDが取り残されていることを全く話しておらず,その救助も求めていないことが認められ,被告人も,上記bについて,動転していて気 しては,救助してくれたことへのお礼の言葉を述べたのみで,本件車両内にCとDが取り残されていることを全く話しておらず,その救助も求めていないことが認められ,被告人も,上記bについて,動転していて気が回らなかった旨留保を付しつつも,T及びUに対し妻らの救助を求めなかったことを自認している。 このような本件転落後の被告人の言動は,被告人がC及びDに本件車両からの脱出能力がないことを了解していたことも併せ考えれば,C及びDに対する殺意と符合する事情といえ,上記2に認定した殺意の存在は,被告人の事後の言動によっても裏付けられている。 4 小括以上に詳論したように,被告人の自白以外の関係証拠に基づく検討によっても,被告人が,本件車両に同乗していたC及びDを溺死させて殺害する意思により,本件車両を意図的に海中に転落させた事実を認定することができる。 第3 保険金目的による殺意を認めた捜査段階における被告人の自白の信用性について 1 被告人は,捜査段階において保険金目的による殺意を認め自白しているところ,既に上記第2で検討したように,被告人の自白以外の関係証拠に基づく検討によってもC及びDに対する殺意を認定し得るから,上記自白のうち殺意を認める部分の信用性に疑問の余地はない。しかし,犯行の動機が保険金を取得することにあったと認定し得るか否かは,捜査段階における被告人の自白の信用性いかんにかかっている上,保険金目的を明確に認めた自白は,下記2,(4)及び(5)のみであるから,その信用性を更に慎重に検討することとする。 2 被告人の供述の内容殺意を自白していた捜査段階及びこの自白を翻す前の第1回公判期日における被告人の供述の内容は,調書等の日付順にみると,以下のとおりである。 (1) 平成15年9月1日付け検察官調書妻と母を殺した。妻 白していた捜査段階及びこの自白を翻す前の第1回公判期日における被告人の供述の内容は,調書等の日付順にみると,以下のとおりである。 (1) 平成15年9月1日付け検察官調書妻と母を殺した。妻に対する憤懣やるかたなく,母を道連れにして殺してしまった。 (2) 平成15年9月1日付け検察官調書妻を殺し,母もその道連れにしてしまうために,わざと車を海中に転落させて,妻と母を溺死させた。 事件当日の警察からの事情聴取に対しては,真実を話す勇気がなく,帰宅しようと車を前進させて係船柱に車を接触させたため,いったん車を後退させ係船柱の向こう側を転回して帰路につこうとしたところ,誤って,海中に転落してしまったという嘘の説明をした。その後,後悔の気持ちが深まり,次第に当初警察で嘘をついたことのほうが本当だったのだと思いたい気持ちも出てきた。8月30日に警察に呼ばれた時は,自分が殺したのではないと思いたい気持ちのほか,未婚の娘らの将来を思い,父親が母と祖母を殺したという話をする気持ちにはなれなかったことから,事件当日と同様の説明をした。この日,警察官は,私の借金の返済状況を綿密に分析しており,私の日記の記載も踏まえて10月初旬には返済の見通しも立たない状況であったのを看破されてしまったことから,帰宅後,義姉と次女に借金の全貌を正直に話した。この時,殺意も話すしかないとも思ったものの,次女から,私を信じている,警察の人の中には殺したものと断定できるほどではないと言っている人もいたと聞いたため,なかなか正直に話すことができなかった。初めて検察官の取調べを受けた際,事実が間違いないと答えたものの,娘らのことを思い事件当日と同様の説明をしかけたけれども,やはりありのまま話をしなくてはならないと思い返して正直に話した。 (3) 平成15年9月2日 調べを受けた際,事実が間違いないと答えたものの,娘らのことを思い事件当日と同様の説明をしかけたけれども,やはりありのまま話をしなくてはならないと思い返して正直に話した。 (3) 平成15年9月2日付け勾留質問調書被疑事実(勾留状添付の被疑事実には,保険金目的との記載はない《当裁判所に職務上顕著なる事実である。》。)は,そのとおり間違いない。 (4) 平成15年9月21日付け検察官調書平成14年8月末ころにB生命から妻を契約者・被保険者としていた生命保険契約の満期が同年11月30日に到来するとの連絡を受け,満期後には受取金額が減少してしまうことから,満期までに妻が死んでくれたらどれだけ楽になるだろうと思った。そして,9月末には借金の返済を続けていく当てが全くなくなり,かといって,借金の返済を滞らせることで抵当に入れた自宅が人手に渡り一家離散する事態を何としても避けたいと思っていたことから,満期までに妻が死んでくれたらどんなに楽だろうという思いが,次第に,満期までに妻を殺したらどんなに楽になるだろうという思いに変化していった。妻に掛けられた保険がずっと以前に加入したものであることや,形式的には私が受取人になっていないことから保険金殺人と疑われる可能性が低いと思った。妻が死んでもすぐに保険金が出ないだろうけれども,一方で多少延滞しても直ちに自宅が処分されることはないだろうし,もうすぐ保険金が出ると言えば,延滞先も処分を待ってくれるはずだとも思った。保険金が出れば借金の返済に負われなくなると思うと,妻を殺して保険金を手にすることしか考えられなくなった。なお,妻に対し,疎ましさや憎しみを抱いていたことは事実だけれども,家族以外の者がいるところでは最後まで自分を立ててくれていたので,憎しみから殺したいと思った訳ではない。しかし,妻に憎 なくなった。なお,妻に対し,疎ましさや憎しみを抱いていたことは事実だけれども,家族以外の者がいるところでは最後まで自分を立ててくれていたので,憎しみから殺したいと思った訳ではない。しかし,妻に憎しみを抱き,当てにできる財産もなく,性生活の面でも愛情はなくなっていたから,保険金を手にするために何の利用価値もない妻を殺しても構わないと思った。そして,殺す以上はできる限り多額の金を手に入れようと思い,自動車保険を思いついた。この時,事故を装って養母も殺せば搭乗者保険が更に手に入るかもしれないと思い,養母も殺そうと思った。また,これまで妻とドライブに行く際,養母の体調が悪くないのに置いていったことは一度もなく,養母を残してドライブに行くことは不可能であったから,ドライブに行き転落事故を装って妻を殺すと決めた以上,養母も殺すことはほぼ必然だった。さらに,養母が残っていれば,妻を死なせたことを罵られるのが嫌だったとか,養母1人を残すのが不憫だったという気持ちもないではなかった。義姉は財産があるなどまだ利用価値があると思っていたし,次女は家族の中で一番大切に思っていた愛娘であったので,いずれも殺すことは全く考えなかった。平成14年10月15日ころには借金の返済資金が枯渇することが分かっていたため,そのころに妻と養母が事故で死んだことになれば厳しい取立てにも遭わずに済むと思ったことから,そのころまでに殺害を決行することにした。私と妻と母の中で自分だけが泳げたことから,海中への転落事故を装おうと考えた。平成10年ころG漁港に立ち寄り夕日を見てきたことがあったので,殺害を実行した後,その場所へ行った説明がつくと考え場所をG漁港にすることにした。夕日を見たという説明をする必要があったことや,白昼にやれば海に飛び込むところを見られて見破られるかもしれず,ま ので,殺害を実行した後,その場所へ行った説明がつくと考え場所をG漁港にすることにした。夕日を見たという説明をする必要があったことや,白昼にやれば海に飛び込むところを見られて見破られるかもしれず,また,見ていた人が妻と母を助けてしまうかもしれないことから決行の時刻を夕方と決めた。10月9日,新聞でHの記事を見た妻からそこへ行きたいと言われたため,この機会を捉え妻と母を13日の日曜日にドライブに行こうと誘った。これは,日曜日であれば次女が絶対についてこないと思ったことや,日曜日くらいしか晴れないという天気予報だったからである。12日の夜は次の日の計画のことを考えてなかなか寝付かれず,特に迷ったのがどのようにして海中に転落したと説明するかであった。これについては,岸壁の端のほうで海に向かって前進し,Uターンしようとしたところ間違って海に落ちたという程度のことしか思いつかなかった。当日まで妻が義姉を誘っていたけれども,義姉を殺害する意図はなかったからついてこられては困るし,どうやってついてこないようにしようかと思っていた。しかし,義姉は妻の誘いを断り続け,当日の朝も妻の誘いを断ってくれたので安心した。当日,G漁港に着いてからは,漁港に出たところで飛び込もうとも思ったものの,大型漁船が何隻も停泊していて船と船の間にもやいロープが張り巡らされており,飛び込もうにもロープに引っかかりそうだったので諦めた。そこで,飛び込む場所を探し本件現場を見付けたけれども,近くに人の乗った車が二,三台あったためそのときは飛び込むのはやめ,先に行った。すると岸壁に突き当たり,四,五人の釣り人がいたため飛び込むのをやめて戻ったところ,本件現場から止まっていた車が全部いなくなっていたので,車を乗り入れ岸壁の縁まで三,四メートルの所に海へ前を向けて止めた。ヘッドライトを ,四,五人の釣り人がいたため飛び込むのをやめて戻ったところ,本件現場から止まっていた車が全部いなくなっていたので,車を乗り入れ岸壁の縁まで三,四メートルの所に海へ前を向けて止めた。ヘッドライトをスモールランプだけが点灯した状態にし,ギアをニュートラルに入れてサイドブレーキを引き,運転席と助手席の窓を全開にしてシートベルトを外してから,車の窓を全部開けておいたほうが早く沈むのではないかと思い後部座席の左右の窓を開けたけれども,どの程度開いたかは確認しなかった。これから殺してしまう2人の顔を見るのが怖くて努めて後ろを見ないようにしていた。そして,落ちた時の状況を説明する際,ライトを点けていなかったので前がよく見えなかったと弁解するためスモールランプのみを点けて飛び込むことにし,車を前進させたところ,車の右前が何かにぶつかったことが分かった。運転席の窓から右前を確認すると係船柱があり,そこに車の右前の角がぶつかっているのがちらっと見えた。このときとっさに,係船柱にぶつかって慌てたため海中に転落してしまったと説明すればよいとひらめき,はっきり覚悟を決め,いったん車を後退させ,係船柱に当たらないようにして今度こそ海に飛び込もうとした。その瞬間,妻がなじるように怒鳴りつけてきたため,この野郎と思って妻には何も答えず,ギアをバックに入れハンドルを少し右に切りながら後退し,すぐにまたギアをローに入れアクセルを少しずつ踏み込み,係船柱を避けて海に向かい前進し転落した。岸壁の端を乗り越えるときは,車体の下で強い衝撃と大きな音がして車全体が海に突っ込んだ。 (5) 平成15年9月21日付け検察官調書借金の返済に窮し,生命保険と自動車保険の保険金を手に入れ借金の返済に充てるために,泳げない妻と母を乗せてわざと車を海中に転落させ,妻と母を溺死させた。妻に対し 平成15年9月21日付け検察官調書借金の返済に窮し,生命保険と自動車保険の保険金を手に入れ借金の返済に充てるために,泳げない妻と母を乗せてわざと車を海中に転落させ,妻と母を溺死させた。妻に対しては,日々被告人を責め立てるようなことを言っていたので疎ましく思っており,それが保険金を手にするためには妻を殺しても構わないと思った原因ではあった。 逮捕後初めてh弁護士が接見に来たとき,介護疲れによる殺害との報道があるけれども,どういった介護をしていたのかと尋ねられ,妻が人工透析を受ける際の送迎,母が老人ホームの送迎車に乗れなかったときの送迎くらいであると答えた。妻や母の介護疲れということは全くないし,これまでだれに対しても介護疲れが殺害の理由であると述べたことはない。 (6) 平成15年9月21日付け検察官調書今,一番辛いのは,妻と母を殺したと表現するときである。私は,妻と母を溺れて死なせるためにわざと車を海に落とした。これが殺す以外の何ものでもないことはそのとおりだと思う。実際,平成14年8月ころからずっと,母と妻を殺そうと考えていた。しかし,逮捕後自分のしてきたことを振り返れば振り返るほど後悔するばかりで,殺してしまった妻と母に申し訳ない気持ちが深まるばかりである。殺すと言う度にいかにむごいことをしたかを実感して辛い気持ちになる。検事に対しても,時に死なせてしまったとあいまいな言い方をしてしまったのは,このためである。しかし,これは殺すということを少しでも柔らかく表現したかっただけである。 (7) 第1回公判期日における罪状認否公訴事実(保険金目的との記載はない。)はそのとおり間違いない。 3 自白の信用性の判断(1) 客観的事実との整合性ア本件転落当時の被告人の借財状況,Cを契約者兼被保険者とする生命保険契約及 公訴事実(保険金目的との記載はない。)はそのとおり間違いない。 3 自白の信用性の判断(1) 客観的事実との整合性ア本件転落当時の被告人の借財状況,Cを契約者兼被保険者とする生命保険契約及び本件車両に係る自動車保険契約の状況,本件転落後の上記生命保険及び自動車保険に関する被告人の言動,被告人が捜査照会に応じないよう依頼していた状況について,以下の事実が認められる。 (ア) 被告人が多額の借金を負っていた事実被告人は,平成14年8月当時,被告人名義によるものだけでも,社会福祉医療事業団を除くW信用金庫ほか15社の金融機関又は信販会社に対し債務を負っており,これらに対する返済及び被告人名義の保険料として同月には1か月合計で74万8675円を,翌9月には1か月合計で66万5094円をそれぞれ支払っていた。被告人は,このほかにもCや次女名義による消費者金融からの借入債務や保険料の支払債務を負っており,また,社会福祉医療事業団から被告人の厚生年金を担保に借り入れていた約246万円余りの返済金を2か月おきに受給する年金額から天引きされていた。なお,同年8月末時点において,被告人名義の借入金の総額は1700万円を超えていた。 (イ) Cを契約者兼被保険者とする生命保険契約の状況被告人は,昭和63年12月1日付けで,契約者及び被保険者をCとし,死亡受取人を長女とするB生命の定期付終身保険に加入する契約をCにさせていた。この保険による保障の内容は,上記保険契約日から保険料の支払の満期である平成14年11月30日までの定期特約期間内における被保険者の死亡時の保険金1000万円,特別死亡保険金500万円,終身死亡保険金200万円とするものであったところ,B生命が平成13年4月2日に会社更生計画の認可を受けたことから,この更生計画に従い,定期特約 死亡時の保険金1000万円,特別死亡保険金500万円,終身死亡保険金200万円とするものであったところ,B生命が平成13年4月2日に会社更生計画の認可を受けたことから,この更生計画に従い,定期特約期間内の死亡保険金約641万円,災害時死亡付加金100万円,終身死亡保険金約128万円に変更されていた。 被告人は,平成14年8月末ころ,B生命の従業員から,電話により,上記生命保険契約の定期特約期間の満了日が平成14年11月30日であることを案内されていた。 (ウ) 本件車両に掛けられていた自動車保険契約の状況被告人は,平成14年3月25日付けで,本件車両につき,株式会社Fとの間で自動車保険契約を締結しており,その保障内容は,保険期間を平成14年4月28日午後4時から平成15年4月28日午後4時までの1年間とし,人身傷害1名につき3000万円,搭乗者傷害1名につき1000万円などとするものであった。 (エ) 生命保険又は自動車保険に関する本件転落後の被告人の言動a 被告人は,平成14年10月22日,B生命の外務員の訪問を受け,たまたま帰省していた長女に保険金等請求書を作成させ,その際,長女に対し,保険金の振込先口座について,被告人が下ろしやすいように秋田の金融機関に口座を開いてほしいと求めた。しかし,長女がこれを断ったため,X銀行の長女名義の銀行口座が保険金の振込先口座として指定された。 b 被告人は,平成14年12月26日,長女に対し,B生命からCの死亡保険金が下りたら返すなどと話して100万円の借入れを申し込み,長女に応じさせた。翌27日,長女から100万円を受け取った際,借金の内訳を問いつめられて,保険金ですべて返済でき,約700万円の保険金が支払われるはずなので100万円を長女に渡し,残額を借金の返済に充てるなどと説明した。さ 長女から100万円を受け取った際,借金の内訳を問いつめられて,保険金ですべて返済でき,約700万円の保険金が支払われるはずなので100万円を長女に渡し,残額を借金の返済に充てるなどと説明した。さらに,このとき,自動車保険についても,搭乗者保険が1000万円支払われるはずであり,娘2人の結婚費用に取っておき余ったら借金の返済に充てるなどとも説明した。 (オ) 被告人が捜査照会に応じないよう依頼していた状況被告人は,平成15年6月から7月ころ,かねて借入れをしていた株式会社Yの代表者から,H警察署に被告人の取引状況の照会を受けたので回答してもよいかと問い合わせを受け,回答しないでほしい旨依頼した。同じころ,それまで借入れをしていた株式会社Z,株式会社a,株式会社b,株式会社c及びd株式会社のうちのeの各従業員に対しても,交通事故の関係で近いうちに警察から照会があるかもしれないけれども,被告人の借金の存否については警察に伝えないでほしい旨依頼し,さらに,それまで借入れをしていた株式会社fの従業員に対し,警察から被告人の借金の存否について照会を受けていないか,また警察から照会を受けた場合の対処について確認する電話をかけた。 イ上記2,(4)及び(5)の各供述中,保険金目的による殺意を抱いた経緯に関する部分は,上記ア,(ア)から(ウ)までに認定した被告人の借財状況,生命保険契約及び自動車保険契約の状況と,保険金目的により犯行に及んだとの点は,上記ア,(エ)及び(オ)に認定した,本件転落後,被告人が保険金の請求手続に積極的に関与し,借金の返済原資として保険金を当てにする態度を示していた状況や,消費者金融機関に対し,一連の捜査照会に回答しないよう依頼していた状況とそれぞれよく符合している。このように,上記2,(4)及び(5)の各供述中,動機 して保険金を当てにする態度を示していた状況や,消費者金融機関に対し,一連の捜査照会に回答しないよう依頼していた状況とそれぞれよく符合している。このように,上記2,(4)及び(5)の各供述中,動機が保険金を取得することにあったとの点は,客観的事実と整合している。 (2) 捜査段階における被告人の供述経過及び供述内容ア被告人は,平成15年9月1日の検察官の取調べに対し,逮捕前に否認を続けていたのに同年8月31日に警察官に自白するに至った心境を,自白するかしまいか逡巡した理由も交え具体的に述べている。その後,同年9月1日の取調べから勾留質問を交え第1回公判期日における罪状認否に至るまで,殺意に関する限り終始一貫して認める供述を維持した。 イ上記2の各供述をみると,上記2,(1)から(3)まで及び(7)の各供述は,殺意に関する限りすべて概括的な自白にとどまっている。 しかし,被告人は,上記2,(4)に示したとおり,平成15年9月21日の検察官の取調べに対し,C及びDに対して保険金目的による殺意を抱いた経緯,犯行の方法,場所及び時期を定めた具体的理由について,被告人しか知り得ない当時の心境や,殺害の対象に考えていなかった義姉がドライブに同道しそうになったもののこれを回避したことなどの具体的なエピソードを交え詳細に供述しており,その供述内容に格別,不自然,不合理な点は見当たらない。 ウ被告人は,平成15年9月21日の検察官の取調べに対し,Dに対する殺害の動機について,事故を装ったとしてもCを死なせたことについてDから罵られるのが嫌だったとか,Dだけを残してCを殺害すればDが不憫であるという気持ちもあったとかなどとも供述しており,検察官の具体的疑問を提示した取調べに対しても自己の主張を崩していない(上記2,(4))。さらに,同じ日の検察官の取 を残してCを殺害すればDが不憫であるという気持ちもあったとかなどとも供述しており,検察官の具体的疑問を提示した取調べに対しても自己の主張を崩していない(上記2,(4))。さらに,同じ日の検察官の取調べに対し,捜査段階の弁護人との接見時の状況を踏まえ,介護疲れ等による犯行ではない旨明言し,認める点と自己の主張を崩さない点とを明確に分けつつ供述している(上記2,(5))のみならず,取調べ中に「殺す」という言葉を用いるのを躊躇しこの言葉を避けて供述したこともあった事実を,その際の心境も吐露しながら具体的に供述する(上記2,(6))などしている。これらに照らすと,取調べは被告人の供述する限度で無理なく行われ,被告人も,検察官に迎合したり,検察官から誘導されたりなどすることなく,自らの意思に基づき有り体に供述していることがうかがわれる。 (3) 小括ここまでの検討によれば,保険金目的による殺意を認めた捜査段階における被告人の自白の信用性は十分というべきである。 4 自白の信用性に関する弁護人の主張について(1) 弁護人の主張弁護人は,上記2の各供述の信用性を争い次のように主張し,被告人も,第2回公判以降,同旨の供述をする。 被告人は,平成15年8月30日及び翌31日の警察における種々の取調べの結果,a被害者らを死亡させた結果について自責の念を抱き,b平成15年8月31日の取調べで警察官から首を回される暴行を受け,その恫喝的な取調べ態度に畏怖し,c警察官らに殺意を裏付ける科学的データがあると言われ,d同月30日の取調べが午後10時までかかり帰宅後も借金について家族に話をしたため睡眠時間が充分にとれず,その状態で翌31日に午前零時ころまで取調べを受けたことから,自白せざるを得なくなって虚偽の自白をした。eその後は,一度認めたものである以上 も借金について家族に話をしたため睡眠時間が充分にとれず,その状態で翌31日に午前零時ころまで取調べを受けたことから,自白せざるを得なくなって虚偽の自白をした。eその後は,一度認めたものである以上,いずれの場面においても認め続けなければならないと考え,第1回公判期日における罪状認否まで虚偽の自白を続けた。 (2) 主張に対する判断ア弁護人が虚偽の自白をした理由として挙げる上記aについてみると,そもそも死亡させた結果に対する自責の念から殺意がなかったのに殺意を認めたという心境自体が不自然であるばかりか,被告人は,その自白後の供述において,妻に対する憤懣やるかたなく,母を道連れにして殺してしまったとか(上記2,(1)),性生活の面でも愛情はなくなっていたから,保険金を手にするために何の利用価値もない妻を殺しても構わないと思ったとか(上記2,(4))供述しており,自責の念から虚偽の自白をしたというのであれば,このように妻を悪し様に言うのは不合理である。 イ上記bについてみると,恫喝的取調べと主張する具体的内容は,ⅰ平成15年8月31日の取調べ中に,被告人が係船柱に衝突した後二,三メートル後退したと供述すると,それほど後退した後に海中に転落するというのはわざと転落したということではないのかと追及され,後退したのは少しであると訂正したいと申し出たところ,警察官から,被告人が言った係船柱を見てみろと言われて顔を両手で挟まれ,二,三回首を回された,ⅱノートで机の上をばんばん叩かれ,大声を出され,始終怒鳴られていた,ⅲかなり圧迫されるような言葉があった,ⅳ煙草をトイレで吸おうとして怒られた,ⅴ挑発的な取調べを受けたというものである。 しかし,首を回されたという点については,取調べのいつごろの出来事であるかの記憶も不明確で,その供述自体あいまいで 煙草をトイレで吸おうとして怒られた,ⅴ挑発的な取調べを受けたというものである。 しかし,首を回されたという点については,取調べのいつごろの出来事であるかの記憶も不明確で,その供述自体あいまいである。ノートで机を叩かれ大声を出され,怒鳴られていたという点についても,供述自体が抽象的である。挑発的取調べという点も,その主張するところは,頭から決めつけられて言い分を聞いてもらえなかったということや,嘘を言っても2人で見聞きしているのだから分かるぞと言われたという程度のものである。しかも,紳士的であったと被告人も自認するその後の検察官の取調べにおいても,警察官に対してした殺意を認める供述を翻さなかったことからすれば,挑発的取調べが虚偽の自白の原因となったというのは不自然である。 結局,上記bに関しては,それに沿う被告人の供述が,あいまいであったり,それ自体不自然であったりして信用できず,恫喝的取調べが原因で虚偽の自白をしたという事実は認められない。 ウ上記cについてみると,科学的データありと言われたと主張する具体的内容は,落ちた角度,アクセルを踏んだ強さ,転落時のスピードといったデータが分かりすべて取りそろえているから,嘘をついても無駄であり白状するように言われ,そういうデータが出ていることだし,殺したと取られてもやむを得ないのかなと思いだし,殺したのかなという気持ちになって自白したというものである。 しかし,転落角度,転落時の速度,アクセルを踏んだ強さが分かっても,それが必ずしも殺意に直接つながるものではないから,殺意もないのに,これらのデータが取りそろえられているという話を聞き殺したと取られてもやむを得ないと考えること自体が,不合理である。 エ上記dについて検討する。 (ア) 捜査主任官であった証人gは,次のとおり供述する。 平 ータが取りそろえられているという話を聞き殺したと取られてもやむを得ないと考えること自体が,不合理である。 エ上記dについて検討する。 (ア) 捜査主任官であった証人gは,次のとおり供述する。 平成15年8月31日午後3時25分ころになって,被告人が故意に転落させたことを認めたけれども,殺意があいまいであるとの報告を受け,夕食後の午後8時20分ころ,殺意を認めたとの報告があった。午後9時20分ころ,動機について憎しみと道連れということを供述したとの報告を受けたため供述調書の作成を指示し,午後10時ころ,通常逮捕する方針を決めて令状請求の準備に取り掛かった。午後10時15分ころ,被告人の自白調書が完成し,午後11時15分ころ,逮捕状請求の準備が整った。当日は日曜でj簡裁では令状請求の取扱いをしていなかったため,秋田地裁に請求し,翌9月1日午前零時30分ころ受理された。そして,午前1時20分ころ,逮捕状の発付を得たので,秋田市山王にある機動捜査隊の事務室からG警察署へ逮捕令状をファックス送信し,緊急執行した。 (イ) 被告人は,次のとおり供述する。 事実を認めると,取調べ担当警察官が取調室から退室し,その途端入れ替わりに顔見知りの刑事が入ってきた。それからまもなくして逮捕状がファックスで届き,逮捕すると言われた。午前零時過ぎまで取り調べられていたはずである。 (ウ) g供述は,被告人を本件公訴事実に係る被疑事実により逮捕することを許可した本件逮捕状に記載されたその執行時刻が平成15年9月1日午前1時30分であることや,本件逮捕状に添付されている逮捕状請求書に記載された当庁における逮捕状請求の受理時刻が同日午前零時20分であること(いずれも,当裁判所に職務上顕著なる事実である。)と符合している上,内容も具体的で特に不自然な点もなく,反対尋 捕状請求書に記載された当庁における逮捕状請求の受理時刻が同日午前零時20分であること(いずれも,当裁判所に職務上顕著なる事実である。)と符合している上,内容も具体的で特に不自然な点もなく,反対尋問にも動揺していないのであって,その信用性は十分である。 これに対し,被告人の上記供述どおりだとすると,本件逮捕状の請求受理時刻からして,平成15年9月1日午前零時過ぎに自白を得てからわずか二,三十分の間に,逮捕状請求の準備をし,H警察署から秋田地方裁判所へ赴き逮捕状の請求をしたこととなり(本件逮捕状に添付された逮捕状請求書には,疎明資料として被告人の供述調書が記載されており《当裁判所に職務上顕著なる事実である。》,自白調書の作成後に逮捕状請求がされたことは明らかである。),そのようなことはおよそ実現し難い(H警察署の所在する秋田県由利郡H町内から秋田地方裁判所の所在する秋田市内までの移動に車で30分を優に超える時間を要することは,公知の事実である。)から,被告人の上記供述は,逮捕状請求の受理時刻という客観的な事実と矛盾しているのみならず,その供述内容もあいまいであって,信用できない。 そうするとg供述どおりの取調べ経過が認められ,被告人は,平成15年8月31日午後8時20分ころには殺意を自白していたこととなるから,取調べが深夜にわたったがゆえに虚偽の自白したとの主張は,事実に反し失当である。 オ弁護人が虚偽の自白を続けた理由として挙げる上記eについてみると,被告人は,一方でこれに沿う公判供述をしてはいるものの,他方で,検察官の取調べの最中,再三にわたり,事実ではないことを認めてはならないし,警察官に対し供述した内容にこだわる必要もないことを注意され,捜査段階の弁護人からも,接見時に事実と違うことは違うとはっきり述べなければならず記憶と 三にわたり,事実ではないことを認めてはならないし,警察官に対し供述した内容にこだわる必要もないことを注意され,捜査段階の弁護人からも,接見時に事実と違うことは違うとはっきり述べなければならず記憶と異なる内容の供述調書に署名する必要はないなどと注意を受けていたことを自認しており,それにもかかわらず,一度自白してしまったらこれを覆してはならないと思い込み虚偽の自白を続けたというのは不合理である。 また,被告人は,本件公訴事実が重罪である(このことは被告人も自認している。)のに,第1回公判前の公判段階の弁護人との接見の際,捜査段階における自白が虚偽であることを全く告げておらず,第1回公判期日においても,黙秘権を告げられ,かつ,その供述内容が被告人に有利にも不利にも証拠になることを注意された上で罪状認否をし,公訴事実を認めている。被告人のこのような態度からすると,仮に被告人が一度した自白は覆してはならないと思い込んでいたのだとすれば,その思い込みは極めて強度であったはずである。しかし,被告人は,第1回公判後に極めて強度の思い込みが解消され虚偽の自白を翻し真実を述べようと思い立った経緯について,初公判から1週間夜も寝ないで考えた結果,事実と違うことを認めるわけにはいかないと思い立ったからであるなどと述べるのみで,何ら合理的な説明をしていない。 以上,要するに,虚偽の自白を続けた理由に関する被告人の公判供述は,不合理であって,信用できない。 カこれらによれば,被告人の自白の信用性に関する弁護人の主張はいずれも理由がない。 5 小括以上の検討によれば,保険金目的による殺意を認めた捜査段階における被告人の自白の信用性は十分であり,これにより犯行の動機が保険金を取得することにあったと認定することができる。 なお,弁護人は,a被告人から積極的に ば,保険金目的による殺意を認めた捜査段階における被告人の自白の信用性は十分であり,これにより犯行の動機が保険金を取得することにあったと認定することができる。 なお,弁護人は,a被告人から積極的にCを被保険者とする生命保険契約の定期特約期間の満期を問い合わせた訳ではなく,その受取人も被告人ではなく長女であること,b被告人には自己破産の途が残っていたことからすると,保険金目的によりC及びDの殺害を意欲する事情はなかった旨主張する。しかし,上記aについては,被告人が,積極的に問い合わせたのではなく,保険会社からの連絡により定期特約期間が満了する日を知った(上記3,(1),ア,(イ))という事実は,保険会社から満期の連絡を受けて保険金を取得するという殺害の動機を抱くに至った旨の被告人の自白の信用性を妨げるものではなく,保険金の受取人が長女である事実も,被告人が当該生命保険契約の保険金の振込先口座を自己に都合がよい秋田県の金融機関に指定しようとしたり,その使途についても自らの借金の返済に充てるのを当然の前提として振る舞ったりしている(上記3,(1),ア,(エ),a及びb)ことからすれば,やはり被告人の自白の信用性を妨げるものではないというべきである。上記bについては,被告人は,一方でそれに沿う公判供述をしてはいるものの,他方で自分の面子から借金のことをできる限り家族に隠していた事実を自認しているのみならず,現に,本件転落から約2か月半後,長女に頼み込んで100万円を借りた際,長女から問い質されて初めて借金の総額等を話したものの,それが実際よりも少額であったことからすると,自己破産も視野に入れていた旨の被告人の公判供述は信用できない。弁護人の上記主張は理由がない。 第4 第2回公判以降の被告人の供述の信用性について 1 供述の内容被告人は ったことからすると,自己破産も視野に入れていた旨の被告人の公判供述は信用できない。弁護人の上記主張は理由がない。 第4 第2回公判以降の被告人の供述の信用性について 1 供述の内容被告人は,第2回公判以降,概ね次のとおり供述している。 本件事故日より前に,妻がHのカラー写真を新聞で見てそこへ行きたいというのを聞き,妻が病院に通院する生活でほかに出かける機会もなかったため,その希望に応じたいと考えた。また,養母も少しでも歩ける状態のうちに連れて歩こうと考え誘った。当日は,H等を観光した。その後,以前にG漁港に行った際に夕日が非常にきれいだったことがあったので,そこへ寄ってみたいという話も出てG漁港へ行くこととなり,日が暮れてかなり暗くなったときに着いた。夕日を見る時刻ではなかったものの,ここまで来たのでちょっと寄ってみようということだった。車を岸壁の端から二,三メートル前後の位置で前を海に向けて止めた。車からは1回も降りず,車に乗ったまま海を見ていた。煙草を吸ったけれども,妻と養母が煙草を非常に嫌がる人だったので運転席の窓を全開にし,助手席の窓を半分くらい開けた。煙草を吸い終わった後,岸壁の縁を回って海を見ながら帰ろうと思い,車を発進させた。発進するときは,回れると判断して車を前進させた。このときまでは平常どおりの運転をしていたし,目の前が海でありどの辺りが岸壁かということも分かっていた。落ちないように走るために発進した。すると,すぐに何かにぶつかったので窓から顔を出したところ,係留柱にぶつかっていた。その後,車を降りずにすぐに少し後退し,左にハンドルを切り,それで離れようと思いアクセルを踏んだ途端に海中に転落した。離れたい一心でアクセルを踏んだものだから,あっという間の出来事であり,ブレーキを踏むなどの操作は一切しなかった。係 ,左にハンドルを切り,それで離れようと思いアクセルを踏んだ途端に海中に転落した。離れたい一心でアクセルを踏んだものだから,あっという間の出来事であり,ブレーキを踏むなどの操作は一切しなかった。係留柱にぶつかったときのショックが結構あったから慌ててしまい,海があるということは眼中になかった。係留柱にぶつかったとき,辺りはかなり暗かった。 2 供述の信用性の判断被告人は,発進した際の心境について,「車を岸壁の端から二,三メートル前後の位置で前を海に向けて止めた。その後,岸壁の縁を回って海を見ながら帰ろうと思い,車を発進させた。発進するときは,回れると判断して車を前進させた。この時までは平常どおりの運転をしていたし,目の前が海でありどの辺りが岸壁かということも分かっていた。」旨供述している。しかし,被告人は,運転歴が長くタクシー運転手等の職業運転手の経験もあり,車の運転に習熟しているはずである(現に,被告人は,自己の運転技術に自信を持っており,日ごろ,長女の運転技術を馬鹿にする発言をしていた。)から,岸壁の端まで3メートル程度の距離しかないところを回り込もうと考えたのは,不自然というほかない。被告人は,この点を問われても,回り込めると判断したことが間違いだったのであり,そう判断した根拠といわれても判断したから回ったとしか言いようがない,あるいは,落ちるために発進させたものではなく落ちないように走るために発進したなどと述べるのみであって,何ら合理的な説明をしていない。 被告人は,本件係船柱に衝突した後のことについて,「車を降りずにすぐに少し後退し,左にハンドルを切り,それで離れようと思いアクセルを踏んだ途端に海中に転落した。離れたい一心でアクセルを踏んだ。係留柱にぶつかったときのショックが結構あったから慌ててしまい,海があるということは眼 ,左にハンドルを切り,それで離れようと思いアクセルを踏んだ途端に海中に転落した。離れたい一心でアクセルを踏んだ。係留柱にぶつかったときのショックが結構あったから慌ててしまい,海があるということは眼中になかった。」旨供述する。しかし,本件車両は変速装置がマニュアルトランスミッションのものであり,後進から前進に移るためにはクラッチペダルを踏み込んでシフトレバーを入れ替えるという意識的な操作が必要であるから,後進後に左にハンドルを切りアクセルペダルを踏み込んだだけで前進することはあり得ないし,係船柱に衝突して海があるということが眼中になくなるほど慌て,離れたい一心でアクセルペダルを踏んだのならば,そのような状態にありながらアクセルペダルを踏む前にクラッチペダルを踏み込んでシフトレバーを入れ替えるという意識的な操作をあえてしたのは不自然である。また,係船柱に衝突しただけで海があるということが眼中になくなるほど慌てたというのも,さらに,係船柱にぶつかったときのショックが結構あったというのならば通常は車から降りて車体の損傷状況を確認するはずであり,車から降りずにそのまま運転を続けたというのも,いずれも不自然である。 これらによれば,第2回公判以降の被告人の供述は,不自然,不合理であって,信用できないというべきである。 第5 結論以上の検討に前掲の関係証拠を併せ勘案すると,判示の事実を優に認めることができる。弁護人の主張は採用できない。 (法令の適用)被告人の判示所為のうちC及びDに対する各殺人の点は,いずれも刑法199条に該当するところ,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪とし,犯情が被害者ごとに異ならないのでその一を選ぶことをせずに殺人罪の法定刑により処断することとし,所定刑中死刑を選択 の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪とし,犯情が被害者ごとに異ならないのでその一を選ぶことをせずに殺人罪の法定刑により処断することとし,所定刑中死刑を選択し,被告人を死刑に処し,訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の事情)本件は,被告人が,自己の借金の返済に行き詰まったため,妻に掛けていた生命保険の死亡保険金とともに自動車保険からも妻と養母についての搭乗者傷害保険金を得ようと企て,過失による転落事故に見せかけて,妻らが同乗した本件車両を運転して海中に転落させ,妻と養母を溺死させて殺害した事案である。 判示の経緯のとおり,被告人は,そもそもその享楽的な生活を続ける費用を得るため借金を重ねたことが発端となって多額の借金の返済に苦しむようになり,借金の全貌を明らかにすることで家族から様々な非難を受けることを嫌い,借金の実態を隠したまま家族に無心し,あるいは連帯保証人にさせるなどして当座の返済資金を確保し,その場を凌ぐ状況を繰り返してきた。その挙げ句,返済資金の調達が不可能となったことから,たまたま妻を契約者及び被保険者として契約させていた生命保険の定期特約期間の満了が迫っていると知ったことを契機に,既に妻には当てにできる財産がない上,それまでの被告人の行状からすれば当然のこととはいえ,日々その生活態度を責めたてられ性交渉にも応じてもらえなくなり,疎ましく感じ憎しみすら覚えていたこともあって,ついには妻にもはや利用価値がないなどと考えて保険金目的による殺害を企図し,更に受領可能な自動車保険金の増額を期待して養母の殺害をも決意し,本件犯行に及んでいる。このように,長年にわたる自堕落な生活態度やそれにより家族が被った迷惑を顧みることもなく,金銭欲に支配され 図し,更に受領可能な自動車保険金の増額を期待して養母の殺害をも決意し,本件犯行に及んでいる。このように,長年にわたる自堕落な生活態度やそれにより家族が被った迷惑を顧みることもなく,金銭欲に支配されたまま人の生命の尊厳を踏みにじる犯行を敢行しているのであって,その身勝手かつ自己中心的で冷酷極まりない動機に酌量の余地は微塵も認められない。 犯行の態様をみると,妻の殺害を思い立った後,自己の水泳能力の高さを踏まえて海中への自動車転落事故を装った殺害方法を考案するとともに,養母をも同様に殺害することを決め,被告人のみが助かった後の弁解に役立てるため,かつて行ったことのあるG漁港を犯行場所に定め,実行する時間帯を夕方に定めるなどして被害者らを連れ出す機会をうかがい,たまたま妻がドライブを希望した機会を巧みに捉えて妻と一緒に養母も連れ出すなどしており,計画的である。G漁港に到着した後は,計画していた海中への転落を実行するのに適した場所を探し,当初の計画に従って犯行の実行に移り,海中へ転落しようとした際に本件係船柱に自車を衝突させてしまうや,すぐさまこれをあらかじめ考えていた弁解に取り入れることを思い立ちそのまま犯行を実行し,その後は約10か月にわたりこの弁解を弄して捜査機関の追及を逃れていたのであって,想定外の事態が生じても動じることなく犯行を敢行し,その事態を犯行後の弁解内容に取り入れるなど大胆かつ狡猾な側面も持ち合わせている。その殺害方法は,車内から脱出する能力がなく自力で助かる術を持たない被害者らを乗せた本件車両を,何のためらいもなく海中に転落させるや,すぐさま被告人のみが海中に沈みつつある車内から脱出し,意識のある被害者らを生きながらにして車内に取り残し沈むに任せ溺死させたというものであり,冷酷かつ残忍,非道悪質である。なお,一面で,被告 や,すぐさま被告人のみが海中に沈みつつある車内から脱出し,意識のある被害者らを生きながらにして車内に取り残し沈むに任せ溺死させたというものであり,冷酷かつ残忍,非道悪質である。なお,一面で,被告人は,犯行を企図した当初から養母を殺害の対象としていたとまではいえず,また,あらかじめ下見等もせずに被害者らを伴って犯行現場に赴き,その場で本件車両を転落させる場所を探し回っており,犯行後も一部の消費者金融機関から警察の照会があったことを伝えられ初めて他の金融機関に対する口止めに着手するなど,用意周到に計画を立案しこれに従い犯行を遂行した事案と比して計画の緻密さに欠ける面が認められる。しかし,既に指摘したように,被告人は,予想外の事態にも動ぜず当初の計画どおり妻と養母の殺害を実行し,犯行後も,約10か月にわたり当初のものに修正を施した弁解を弄していたことからすると,犯行計画に緻密さを欠く面がある点を量刑上有利に斟酌することには限界があるというべきである。 本件犯行の結果,被害者2人のかけがえのない生命が失われ,残された遺族らに量り知れない衝撃を与えており,生じた結果は重大かつ深刻である。被害者らは,被告人のこれまでの放埒な生活態度にさんざん苦しめられ,もとより殺害されるような落ち度は全く見当たらないにもかかわらず,ささやかな楽しみであったドライブの最中,突如としてその生活の安寧を脅かし続けた被告人の手により車ごと海中に沈められたのであり,理不尽な死と直面した被害者らの驚愕や恐怖,海中に沈む車中に取り残され呼吸ができず意識を失うまでひたすら苦しみ続けたであろう間の肉体的苦痛や絶望感には筆舌に尽くし難いものがある。これまで被告人に苦しめられ晩年には病も得てしまった生活の中で,ようやく娘2人の成人を見届けるに至り,今後社会人として娘らが幸福な生活を送 あろう間の肉体的苦痛や絶望感には筆舌に尽くし難いものがある。これまで被告人に苦しめられ晩年には病も得てしまった生活の中で,ようやく娘2人の成人を見届けるに至り,今後社会人として娘らが幸福な生活を送るのを見守ることを楽しみにしていたであろうにこれをも奪われたC,84歳という齢を重ね,孫の生活を見守りながら余生を静かに送ることを望んでいたであろうにそれすら叶わなかったDのそれぞれ無念の心情は,いずれも察するに余りある。 遺族らの被告人に対する処罰感情は,いずれも峻厳である。殊に,実の母と妹を殺害されることとなった義姉は,被告人に対する峻烈な怒りの感情を露わにしており,被告人の娘らの気持ちを考えると複雑な思いであると留保を付しながらも自分としては極刑を求める旨述べている。また,被告人の娘らは,被告人が実父であることから極刑を求めると明言まではしていないものの,実父の手によって実母と祖母の生命を一挙に奪われたことによる深い悲しみと,これまでの被告人の生活態度を踏まえた厳しい処罰感情を吐露しており,それぞれの心情には誠に無理からぬものがある。しかるに,被告人から慰謝の措置は何ら取られておらず,今後も取られる見込みは乏しいといわざるを得ない状況にある。 本件は,保険金目的により妻と養母を殺害した事件として大きく報道され社会に衝撃を与えており,その社会的影響は多大である。また,本件は,人の生命を代価とすることによって一挙に高額の金銭を取得し得る模倣性の高い犯罪類型でもあることから,その禁圧の必要性が高度であり,この点も量刑上考慮せざるを得ない。なお,本件は,当初企図した保険金の取得にまでは至らぬうちに被告人が検挙された事案であって,保険金の取得をも達成した事案とはおのずからその罪責についての評価を異にする面がないではないものの,そもそもこの種の保険 当初企図した保険金の取得にまでは至らぬうちに被告人が検挙された事案であって,保険金の取得をも達成した事案とはおのずからその罪責についての評価を異にする面がないではないものの,そもそもこの種の保険金目的による殺人の事案においては保険金の取得に成功したか否かが量刑上本質的な要素になるとはいい難い上,本件では,所轄警察署が本件転落の原因に疑念を抱き事故証明書を出さなかったため保険金を取得できなかったにすぎないから,保険金の取得に至らなかったことを量刑上過大に考慮することはできない。 被告人の反省の状況をみると,逮捕前に自白してから第1回公判期日までは殺意を認め続け,本件起訴当日の検察官の取調べでは動機が保険金取得にあったことも認めていたほか,捜査段階の検察官の取調べに対し,本件犯行の重大性に対する畏れと後悔の念や被害者らに対する謝罪の心情を率直に打ち明け,今後は被害者らの冥福を祈りつつその責任を全うしなければならず甘んじて極刑に処せられる覚悟はできていると述べていた。 少なくともこの時期は被告人が真摯な反省の情を持ちかけていたと評価する余地が残っており,被告人の犯罪性向の矯正が不可能であるとする検察官の主張にはにわかに賛同し難いところがある。しかし,被告人は,本件犯行後,約10か月間にわたり当初のものに修正を加えた弁解を弄するなどして捜査機関の追及を免れていたことに加え,第2回公判以降,自白を翻し再び殺意を否認して保身のための不自然,不合理な弁解に終始しており,現時点においては,遺憾ながら,自己の犯行の重大性,被害者らと遺族らに与えた苦痛や悲しみに真摯に向き合う姿勢を失っているというほかなく,反省の情を認め難い状況にある。 他方,被告人は,これまで前科前歴がなく,良き父親としての役割を担っていた時期もないではない上,現時点においては65歳と 摯に向き合う姿勢を失っているというほかなく,反省の情を認め難い状況にある。 他方,被告人は,これまで前科前歴がなく,良き父親としての役割を担っていた時期もないではない上,現時点においては65歳という老年に差しかかりつつある境涯にあり,これらは,被告人の量刑に当たり有利に斟酌し得る事情と認められる。 以上諸般の事情を総合して考慮するに,保険金目的による殺人という本件の罪質,身勝手かつ自己中心的で冷酷極まりない動機に酌量の余地は微塵もないこと,計画的で大胆かつ狡猾な側面も併せ持ち,冷酷かつ残忍,非道悪質な犯行の態様,何の落ち度もない被害者2名を殺害したという結果の重大性,遺族らの処罰感情の峻厳さ,犯行の社会的影響の大きさ,被告人の現在の供述態度も含めた犯行後の情状等に照らすと,被告人の刑事責任は誠に重大であり,既に指摘したとおり過大に評価できないとはいえ本件が当初企図した保険金取得を達成していない事案であり,犯行の計画性に緻密さを欠く面があることに加え,前科前歴がなく,良き父親であった時期もないではない上,老年に差しかかりつつあることなど証拠上認められる被告人に有利に斟酌し得る事情を最大限考慮し,さらには死刑が人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり,誠にやむを得ない場合における究極の刑罰であってその適用が慎重に行われなければならないこと(最高裁判所昭和56年あ第1505号同58年7月8日第2小法廷判決刑集37巻6号609頁参照)を踏まえてもなお,罪刑の均衡及び一般予防の双方の見地に照らし,被告人に対しては死刑をもって臨むことがやむを得ないものと判断し,主文の刑を選択しこれを科することとした。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑死刑)秋田地方裁判所刑事部裁判長裁判官田村眞裁判官 ことがやむを得ないものと判断し,主文の刑を選択しこれを科することとした。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑死刑)秋田地方裁判所刑事部裁判長裁判官田村眞裁判官山本由美子裁判官石田寿一
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