主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件公訴事実(令和5年12月18日付け起訴状)の要旨本件公訴事実の要旨は、「被告人は、みだりに、令和5年4月13日、大阪市 a区内の路上に停車中のパトカー内において、大麻である液体約3.113グラムを所持した。」というものである。 第2 当裁判所の判断 1 争点等関係証拠によれば、被告人が、令和5年4月13日午後4時55分頃から、 第1の場所でA警察官らによる職務質問を受けていた際に右手に把持していたカートリッジ入り液体5本(各液体の量は最大が0.758グラムで最小0. 333グラムからなり、その合計量は約3.113グラムである。以下併せて「本件液体」という。)に大麻が含有していたことが認められ、争いもない。しかし、弁護人は、本件液体はCBD(カンナビジオール)だと思っていたとい う被告人の公判供述に従い、被告人には大麻所持の故意は認められないから、被告人は無罪である旨主張する。 当裁判所は、以下のとおり、被告人には、本件当時における本件液体が大麻等の違法薬物が入っているかもしれないとの認識(以下「本件故意」という。)を推認、認定するには合理的な疑いが残り、被告人の弁解を排斥できないと判 断した。 2 本件液体所持の事実自体に関して検察官が主張する判断枠組みについてまず、検察官は、カートリッジ入り5本で合計約3.113グラムといった相当数量からなる大麻である本件液体を所持していた事実のみを見ても、特段の事情がない限り、被告人がそれを大麻であると認識していたことが推認され ると主張する。確かに、覚醒剤等の自己使用の事案で覚醒剤等の故意が争われ る事案では、このような推認(も 、特段の事情がない限り、被告人がそれを大麻であると認識していたことが推認され ると主張する。確かに、覚醒剤等の自己使用の事案で覚醒剤等の故意が争われ る事案では、このような推認(もっとも、この推論も被告人側に立証責任までを転換したものではない。)が成り立ちうるといえるが、本件は所持の際の故意が問題となっているのであり、そもそも違法薬物を体内に摂取した時の故意の有無が問題となる事案ではない。加えて、本件で問題となる違法薬物は大麻であり、しかも、植物片ではなく液体状のものであり、本件当時も、合法とされ るCBDが流通し、違法な大麻と同じように、カートリッジに液体状で入れられた上で、保管・所持され、使用されることがあるのは否定できず、そのことは、本件における上記のカートリッジの本数や液体の量の場合でも変わらない。 本件において、検察官が主張する上記の判断枠組みは採用し難い。 3 職務質問時の被告人の言動について ⑴ 次に、検察官は、要旨、被告人が、午後4時55分頃からの職務質問時、①警察官から声を掛けられて逃走しようとした上、職務質問に応じる際、本件液体を右手で握り込んで尻付近に当てた状態でパトカーに乗車し、その直後の所持品検査においても、ほかの物は直ちに出したが、本件液体については警察官に指摘されるまで提出しなかった、②本件液体の入手状況について、 当初虚偽を述べた上で供述を変遷させた、といった被告人の言動が本件故意を裏付けたり、その存在の推認力を強めると主張する。 ⑵ まず、A警察官の公判での証言及びパトカーの車載カメラ(もっとも、同カメラは、パトカー前方を映しているもので、専ら、車内の被告人や警察官の音声が録音されているものである。)によれば、被告人が自転車を運転中、 並走していた びパトカーの車載カメラ(もっとも、同カメラは、パトカー前方を映しているもので、専ら、車内の被告人や警察官の音声が録音されているものである。)によれば、被告人が自転車を運転中、 並走していたパトカー内のA警察官に声を掛けられ、左折した後、サイレンを鳴らしたパトカーに先に回られ、停止し、職務質問に応じ、パトカー内に入ったこと、被告人が所持品検査で財布や携帯電話等を出した後に、A警察官及びもう一名の警察官から求められる形で、本件液体を提出したこと、本件液体の入手先について、被告人が、友達から買った旨述べた後、知らない 人からbの路上で買ったと説明を変えたこと、以上の事実関係が認められる (以上の基本的事実関係については争いがない。)。 ⑶ しかし、そもそも、被告人は、本件当時、他人の自転車を無断で運転・走行させていたというのであり(なお、この件については、その後、微罪処分となっている。)、また、A警察官が供述するように被告人が自転車のスピードを上げたということがあったとしても、その後間もなく、職務質問を受け ることになった際には、速やかにパトカー内に入ることに応じている。また、まずは財布や携帯電話等を差し出したこと自体、所持品検査を受けた者の対応として不自然・不合理ではないし、車載カメラの音源によれば、財布や鍵を提出した後、A警察官らから、「右手の方も出そ。」といわれて、速やかに、提示・提出している。このような本件液体提出の客観的経過自体からは、被 告人が殊更に本件液体を隠したり、執拗に提出を拒絶したものとまではいえない。 ⑷ なお、被告人は、パトカー内で、A警察官らに対して、本件液体が見られたくないものだった趣旨の発言をしたほか、本件液体の入手先について、友達から買った旨述べた後、bの路上で知らない いえない。 ⑷ なお、被告人は、パトカー内で、A警察官らに対して、本件液体が見られたくないものだった趣旨の発言をしたほか、本件液体の入手先について、友達から買った旨述べた後、bの路上で知らない人から買った旨述べるに至っ ている。 この点、弁護人は、弁論で、要旨、「CBDは合法であるものの、大麻にも含まれる成分でありアウトローなイメージが付いて回る商品であり、アダルトグッズのような物品であり、面識のない他人、とりわけ警察官に見せたいと思う物品ではない。被告人は、職務質問を通して、再三、大麻の認識を否 定していたのであり、その中で半ば言わされるような形で出てきた片言節句を鬼の首を獲ったかのように持ち上げれば、推認力を過大評価してしまうおそれがある。」などと主張する。 まず、CBDがアダルトグッズのような物品かどうかはともかく、CBD自体、弁護人が指摘するように、合法とされるものの大麻由来の成分である 以上(A警察官も同様の認識を有していた。)、違法ともなる薬物由来の成分 を嗜好したり関心を抱いていることを、他人、とりわけ警察官に見せたくないと考える者がいることは否定できない。被告人自身も、警察署に移動中のパトカー内で、A警察官らに、見られたくない理由として、「世間の認識よくない。」とも述べており、公判では、CBDであっても見つかれば、警察署に連れて行かれる可能性があることを噂やSNSで聞いていた旨述べている。 このような主観面(心境)に関する被告人の供述・説明自体が不自然・不合理なものとまではいえない。 ⑸ そして、検察官が指摘する入手先の説明の変容も、A警察官らからの執拗・威圧的な追及の中で出てきたものである。すなわち、車載カメラの音源を紐解けば、パトカー内でのA警察官らの被告人に対する職務質 ⑸ そして、検察官が指摘する入手先の説明の変容も、A警察官らからの執拗・威圧的な追及の中で出てきたものである。すなわち、車載カメラの音源を紐解けば、パトカー内でのA警察官らの被告人に対する職務質問の状況は、概 ね次のとおりである。 アまず、被告人に震えているなどと言って、車内で所持品検査を進める際、本件液体を見るや、「これなんや。」と聞いて、被告人が、「CBDです。」と回答した際、すぐさま、「ちゃうやろ。」、「ほんまのこと言い。」などと言って、被告人の説明を即座に根拠もなく否定している。 イ次に、被告人が友人から購入したとの説明をする場面では、被告人が震えているなどと言った上(なお、被告人は震えてないと回答している。)、「あんなん持っているから、ちょっと徹底的にいくで。」と職務質問を受ける者に対して威圧的といえる言葉を用いた後、本件液体がCBDで友達から買った旨答えた被告人に対して、「声掛けた瞬間震えだして右手でこそこ そしとったやろ。」「わしらにばれたらあかんものやと思っていたから右手で必死で隠していたんやろ。」「正直にいい。なんや。」と追及した(これに対して、被告人は、「ほんまにCBDです」と答えている。)。 そして、「友達だれや。調べるで。友達に迷惑かかるで。ほんまに知らん人から買うたんやったら、知らん人から買うたといい。こうなったら、わ しら全部調べなあかん。どっちや。」などと言っている。本当に合法なCB Dを友人から買っただけなら、その友人にどのような迷惑がかかるか判然としない状況・段階であったにもかかわらず、友人から買ったという説明を合理的根拠を示さず、否定したばかりか、その友人にも迷惑をかけるとした上で、知らない人から買ったのではないかといった追及をしている。 状況・段階であったにもかかわらず、友人から買ったという説明を合理的根拠を示さず、否定したばかりか、その友人にも迷惑をかけるとした上で、知らない人から買ったのではないかといった追及をしている。 ウそして、知らない人から買ったが、CBDだと言われて買ったというに 至った被告人に対しては、「CBDちゃうやろ。」などと言い、売人とやり取りしてないか見ると言って、携帯電話のデータや財布の中身を確認しながら、「正直にいい。これ何。」と聞き、被告人は、「CBDです。」と答えたところ、さらに「色で分かるやろ。市販ちゃうやろ。売人から買うたやろ。」など言って追及している(なお、その後のやり取りの中でも、違法な 大麻とCBDとの間の色の違いについてA警察官らが被告人に説明した様子は窺われない。)。 続けて、「知らんやつから買うたんやろ。」と聞いたら、被告人が、「はい」と答えるや、「自分の中で変なもんやなという認識あるやろ。」と言ったり、その後、再び、「手震えている。」(なお、これに対して、被告人は、震え てない、初めてこう(職務質問)され、恐かったからであるなどとも言っている。)、「正直にいいな。そっちのが早いで。」、「怖いのはやましいもの持っているから。」、「必死に隠しとったやろ。」、などと違法薬物所持の認識を認める回答を促す方向での追及を進めた後、被告人が、bの路上で購入した旨述べるに至っている。 その後、「bの路上で買うなら、こんなん普通のCBDちゃうがな。」などと追及するもの、「CBDと言われた。」と答える被告人に対し、「でも自分の中ではCBDちゃうかもしれないなと思って買うてんやろ。」と被告人の認識を決めつけたかのようにも映るような追及を続けたが、被告人は、「そんなことない。」などと答えている。 それ でも自分の中ではCBDちゃうかもしれないなと思って買うてんやろ。」と被告人の認識を決めつけたかのようにも映るような追及を続けたが、被告人は、「そんなことない。」などと答えている。 それでも、「正直にいいときな。CBDかもしれないけど、別の物かもし れんなともあったやろ。」などと追及した後、大麻リキッドは知っているという被告人に対して、「大麻リキッドを吸ったことあるやろ。」などと根拠もなく違法な大麻吸引の経験があることを前提としたかのような問いかけをして(なお、被告人には、当時、違法薬物関係を含めて前科前歴はない。)、本件液体が多分CBDであると被告人がいうと、「確信持ってい えへんやろ、路上で売っているやつだからな。」、「これがほんまにCBDかも分からんやろ。」「商品で正式にCBDと書いてるもんでもないんやからCBDじゃない可能性もいっぱいあるやんか。」などと追及している。 そして、安いにこしたことないという被告人に対しては、「安くても多少大麻リキッドかもしれんけれども安かったらそれでええやん話やな」、B などで売っているメーカーの保証がついているCBDだと値段が高いという被告人に対しては、「安さだけ求めてでも、正直、CBDじゃない違法なもん入っている可能性もあるやで。それは認識の上で買うたんやな。 ほんなら。」などと再三、被告人の認識を決めつけるかのような表現を用いたりして追及を重ねている(ただし、被告人は、「ストリートでCBD で売ってたから俺は買ったんです。」などと言って、大麻リキッドである認識は否定している。)。 エこのようなやり取りの後、再度、震えたことや右手で握りしめて背中向けてパトカーに乗り、本件液体を最後に震えながら出したことを挙げながら、「あなたの態度で全部出てる。」、「それ している。)。 エこのようなやり取りの後、再度、震えたことや右手で握りしめて背中向けてパトカーに乗り、本件液体を最後に震えながら出したことを挙げながら、「あなたの態度で全部出てる。」、「それだけでくさいもん持ってるもの だと自分で言うてるもんやろ。」と追及した際、「あやしかったかもしれないですね。」と被告人が答えたところ、「自分の中で正直ちょっと見られたくないとこあったんやろ。」と追及した際、被告人が、「見られたくはなかったですけど、でもCBDやって・・・」と言っているところに、A警察官が、「じゃあ、何で見られたくなかったんや。」と声をかぶせて、「普通の 店で買うたもんやったら、見せてええやんか。レシートだってみせてくれ たらええやん。」などと追及を続けている。 オその後、パトカーが警察署に向かうことになった段階でも、本件液体の提出を求める際には、「CBDなんやろ。自信あるやろ。」、「警察にはCBDだと胸はって出せるやろ。」などと、あたかも最終的に本件液体の成分が科学的に違法な大麻かCBDであるかについての被告人の認識を問うよう にして追及している(なお、これに対して、被告人は、「CBDだと言ってたから買った。」と言っている。)。 また、安いから買ったという被告人に対して、「ただ単に安いからCBDの保証はないけど正直あやしいかもしれない認識はあったけれども安いからええわと買ったんなや。」、「絶対にCBDですと言いきれんな。路上の売 人から買ったしな。」などと追及した後(なお、これらに対して、被告人は、「あやしいものだとの認識はなかった。」、「CBDだと思って買った。」と返答している。)、「自分の中で見られたくないもんてことは警察官にバレたらあかんものの認識はあったということやろ。」などと 、「あやしいものだとの認識はなかった。」、「CBDだと思って買った。」と返答している。)、「自分の中で見られたくないもんてことは警察官にバレたらあかんものの認識はあったということやろ。」などと追及したところ、被告人からは、「誘導尋問ですよ。違います、と言うてます。」などと回答さ れている。 そして、最終的には、「大麻の認識があったとかそんなんじゃなくて、警察官に見られるのが嫌だったから最後に出した。」と追及すると、被告人が「そうです。」と答えると、A警察官は、「それだけでいいわ。」と言っている。 ⑹ A警察官らは、被告人のプライバシーも考えたなどというが、以上の職務質問時のやり取りによれば、A警察官らは、パトカー内で、被告人が「逃げた」、「震えた」、「最後まで本件液体を出さなかった」などといった主観的にも評価が異なりうる職務質問・所持品検査の際に見せたという被告人の表情・動作に関する言動を再三挙げて、被告人に大麻の認識があったのではな いかといった追及を執拗に行っているもので、その過程の中には、CBDで あるとの被告人の回答を即座に否定した上で、「あんなん持っているから、ちょっと徹底的にいくで。」と威圧的な言葉を用いたり、当初の友人から購入したという被告人の説明については、合理的な根拠を示さずに友人に迷惑を掛けるなどと言って、友人からの購入に関する具体的な説明を更に求めることなく、「正直にいいな。そっちのが早いで。」などと言って追及を続けている。 そして、入手先の説明を変容させたもののCBDであるという被告人に対しては、「でも自分の中ではCBDちゃうかもしれないなと思って買うてんやろ。」、「安さだけ求めてでも、正直、CBDじゃない違法なもん入っている可能性もあるやで。それは認識の上で あるという被告人に対しては、「でも自分の中ではCBDちゃうかもしれないなと思って買うてんやろ。」、「安さだけ求めてでも、正直、CBDじゃない違法なもん入っている可能性もあるやで。それは認識の上で買うたんやな。」などと繰り返し被告人の認識を決めつけるかのような表現を用いたり、また、根拠もなく違法な大麻 リキッド吸引経験があることを前提とするかのような質問も投げかけた。それだけでなく、本件故意を有していたかの嫌疑にもかかわってくるような、「見られたくないものだった。」という趣旨の被告人の言葉についても、その言葉だけでは被告人の話(発言)が終わったとはいえないところで(被告人は、上記のとおり、「見られたくないことはあったんだけど。それもCBD・・・」 と話を続けている。)、「何で見られたくなかったんや。」などと言って、被告人の声にかぶせて(被告人の話をさえぎり)追及を続けている。そして、最終的に、「大麻の認識があったとかそんなんじゃなくて、警察官に見られるのが嫌だったから最後に出した。」という、大麻の認識の有無は関係しないかのような前提を示した上での追及に対して、被告人が「そうです」と回答をす ると、「それだけでいいわ。」と言っている。 このような一連のやり取りは、A警察官らにとっては、上記の被告人の言動に不審感・嫌疑を抱かせる点は複数あったにせよ、パトカー内という密室的な空間で、複数の警察官から、被告人に対して、本件液体が違法なものであるかもしれないという未必的な認識を抱いていたことを認めさせる(未必 的な認識を抱いていたことを示す言葉を被告人から引き出す)といった一貫 した目的のための執拗な追及が続けられたものといわざるを得ない。被告人は、パトカー内で、職務質問を受けることになり、恐かったなどと 抱いていたことを示す言葉を被告人から引き出す)といった一貫 した目的のための執拗な追及が続けられたものといわざるを得ない。被告人は、パトカー内で、職務質問を受けることになり、恐かったなどと述べているが、このような初めての経験で、(最初の入手先の説明内容である)友人から買ったという言葉もパニックになって出てしまったというものであり(被告人質問)、このような被告人の供述は、上記で検討した本件の職務質問時の 状況に照らして不自然・不合理なものでもない。そうすると、一連の被告人の入手先の説明は、このような威圧的ともいえる執拗なA警察官らの言動から咄嗟になされたものと見ることも否定できない。 そして、音声データによれば、被告人は、A警察官らによる服装チェック、携帯電話のデータや財布の中身の確認には素直に応じていることが窺われる。 加えて、職務質問中、A警察官らが、このような服装チェック、携帯電話及び財布等の所持品検査を行ったものの、そこから被告人が述べたような入手状況に関する情報に接した事実も窺われない。 ⑺ 以上によれば、検察官が指摘する上記①の被告人の言動及び上記②の入手状況についての説明の変容を併せた職務質問時の被告人の一連の言動を総合 して検討しても、これが本件故意を裏付けるものとはいえず、また、間接事実として、本件故意を有していたことの推認させる力は、ないか、弱いものといわざるを得ない。 4 入手状況に関する被告人の供述について⑴ 被告人は、捜査段階及び公判において、本件液体の入手状況につき、職務 質問を受けた当日の早朝、bの路上で、知らない人から、CBDと言われて、本件液体を購入した旨供述する。 ⑵ 検察官は、正規品のCBDの購入経験がある被告人が、このような方法でパッケージも成分表 質問を受けた当日の早朝、bの路上で、知らない人から、CBDと言われて、本件液体を購入した旨供述する。 ⑵ 検察官は、正規品のCBDの購入経験がある被告人が、このような方法でパッケージも成分表示等もない本件液体を入手したこと自体、本件故意を推認させるものだと主張する。 ⑶ この点、検察官は、上記⑴の供述は被告人に不利益な事実を承認するなど するもので信用できるというが、そもそも、被告人の上記⑴の供述自体、公判でも供述されているとはいえ、客観的証拠関係による裏付けや第三者供述による信用性の支えは何ら見当たらない。むしろ、上記⑴の供述は、上記3のような威圧的・執拗といえる職務質問の経過の中で得られた内容を引き継ぐかのようなものである。また、上記職務質問はもとより、捜査段階及び公 判供述において、被告人が上記⑴のような入手状況を述べる一方で、本件故意を否定・否認する趣旨の被告人の説明・供述も一貫して述べている。本件故意を否定する被告人の発言・供述部分を除外して、上記⑴の供述部分のみの事実が積極的に存在するものとして事実認定の基礎にして、これを被告人に不利な間接事実として捉えることには慎重な姿勢が求められる。 ⑷ そして、仮に、上記⑴の供述内容の入手状況だったとしても以下のとおりいえる。まず、検察官は、このような入手状況自体、正規店でもなく、路上の知らない人物から、正規品とも分からない液体を購入するという、通常の入手方法とは全く異なる方法により入手すること自体、相手方が「CBD」であると述べて販売したとしても、それが真に合法なCBDであるか否かを 確かめる方法もなく、合法なCBDであることの確信が得られないのであるから、このような入手状況は本件故意の推認を強める旨主張する。 この点、被告人の令和 が真に合法なCBDであるか否かを 確かめる方法もなく、合法なCBDであることの確信が得られないのであるから、このような入手状況は本件故意の推認を強める旨主張する。 この点、被告人の令和5年12月7日付け検察官調書(乙5)には、「見知らぬ怪しい男が相手ですし、男が売ると言っているリキッドが、本物の合法なCBDかどうか分かった物ではないし、値段も安すぎるので、CBD以外 のなにか違法な薬物のリキッドかもしれないとも思った。」、「男が売ると言ってきたリキッドが安すぎましたし、CBDではなく、大麻を含む違法な薬物かもしれないと思いつつ、リキッド5本を購入した。」などといった本件故意を認めるかのような趣旨の供述がある。 しかし、この二つの供述部分の間には、「私は、男のリキッドが大麻リキッ ドであると思って購入したわけではありません。」といった供述も明確に存在 している。上記検察官調書には問答体で作成されている部分もあるが、その取調べ状況の録音録画媒体は証拠として請求・提出されておらず、また、当時、被告人には弁護人が選任されておらず、被告人において、大麻所持の嫌疑に関する故意がどのような内容・程度で問題となるかといった要件に関する知識があったことも認められない。そして、本件は、令和5年4月13日 の出来事であり、それから約8か月以上経過といった大麻の単純所持の事案としては比較的長期間を経て本件起訴がされているところ(大麻の鑑定結果も7月5日には出ている。)、上記検察官調書も本件から8か月近く経過してから作成されている。そして、被告人は、本件当日の職務質問で、CBDを路上で買ったのは安かったからであるとして、あくまで購入したのはCBD であると説明していたのであり、その姿勢は、上記検察官調書においても いる。そして、被告人は、本件当日の職務質問で、CBDを路上で買ったのは安かったからであるとして、あくまで購入したのはCBD であると説明していたのであり、その姿勢は、上記検察官調書においても一貫している。上記検察官調書には、「リキッド5本を購入したが、内心、違法な薬物かもしれないと思っており、警察官にリキッド5本を見つかると逮捕されるかもしれない、『終わった』と思いました。」との供述部分もあるが、職務質問では一貫してこのような認識を否定していたにもかかわらず、この ように検察官に対する取調べでは変遷したことについて、上記検察官調書からは、合理的な理由は見い出せない。 加えて、被告人は、要旨、上記検察官調書において、「『合法なCBD、売ってるで』と声を掛けられた。」、「クラブなどで酒を飲んだ帰りであり、酒が入って気が大きくなっていたことから、安くリキッドが手に入るという誘惑 に負けてしまった。」、公判でも、「友人と飲みに行って、泥酔状態だった。自転車で走っているときに、『CBD売ってんで、安くでって』と言われた。」などと供述するところ、この供述を否定する事情もない。 ⑸ そして、合法とされるCBDが、違法な大麻の場合と同じように、カートリッジに入れられ、保管・所持され、使用されることがあること自体は否定 できず、法律上は違法とされないCBDだからといって、必ずしも事実上も、 検察官が指摘するような正規の店舗や販売網を通じて、正規の商品としてパッケージされているものばかりが流通しているとまではいえない。 なお、被告人の携帯電話のアプリケーションには、「C」などのツイートやカートリッジ画像などが確認されている。しかし、その内容を検討しても、被告人が大麻に対する関心を有していたこと自体はあったとはいえても 、被告人の携帯電話のアプリケーションには、「C」などのツイートやカートリッジ画像などが確認されている。しかし、その内容を検討しても、被告人が大麻に対する関心を有していたこと自体はあったとはいえても、こ れらの一連のデータから、被告人が違法な大麻の入手に及んでいたことはもとより、本件液体の入手に関係するものとも認められない。そして、上記のとおり、本件起訴が本件の事案に照らして、本件から比較的長期間後にされているが、ほかに、関係証拠によっても、被告人と大麻等の違法薬物とのつながりを窺わせる物品や第三者の存在は何ら窺えない。 ⑹ このような上記⑷の被告人の上記検察官調書や公判供述の内容の検討、上記⑸の事情に照らせば、仮に、本件液体の入手状況が上記⑴のとおりだったとしても、その内容自体は、その売主との関係性、取引の場面・価格などから違和感・不自然さを感じさせ得るものだとして、本件故意を推認させる間接事実の一つといえるが、名目上は違法とされないCBDの取引といいなが ら、売買当事者間では実質は大麻の違法成分を含むかもしれない取引であるという了解があったなどと捉えて、本件故意をそう強く推認させるものとはいえない。また、被告人の上記検察官調書の供述内容からは、本件故意を認めるかのような供述部分だけを切り取り、後から振り返ってからではなく、本件当時に本件故意があったことを認める自白調書としての信用性を認める ことはできないし、上記検察官調書の供述内容が本件故意の推認力を強めるものでもない。 ⑺ その他、検察官は、「被告人が述べる入手状況は、少なくとも未必の故意を否定するような、間違いなく適法なCBDであると信じる状況では全くない。」、「被告人が公式でないものと思ったことを自認するところ、正規品でな い物であれば、そ 手状況は、少なくとも未必の故意を否定するような、間違いなく適法なCBDであると信じる状況では全くない。」、「被告人が公式でないものと思ったことを自認するところ、正規品でな い物であれば、それが合法なのか違法なのかの確信も持てない物であるから、 その供述自体、未必的故意を自認するものである。」などとも主張する。 しかし、このような主張自体、当裁判所が採用し難い上記2の判断枠組みに立脚したかのようなものであるとともに、故意犯の成立においていわゆる未必的な故意が要件として問題となる場面での意思決定に対する責任非難の前提となる行為者の認識の有無・程度と、過失犯の成立において要件とされ る予見可能性や注意義務違反の有無・程度の前提として問題となる場面での行為者の認識(主観面)との間にある区別や限界を、混同ないし曖昧にさせるかのような内容にも映る。 そして、既に論じたとおり、仮に、本件液体の入手状況が上記⑴のとおりだったとしても、本件故意を推認させる力はそう強くなく、また、上記検察 官調書に本件故意の推認を強める力があったり、本件故意を認める自白調書としての信用性も認められない以上、このような検察官の主張を検討しても、被告人に対しては、売主との間ではCBDの売買であっても、そこに違法な成分が含まれているかもしれないことについての危惧感を抱かせるような側面があることや売主の言葉に安易に乗って購入した際に注意を払わないとい う軽率な側面があったことは否定できないとしても、それを超えて、入手時や本件の職務質問時に未必的にせよ本件液体が大麻等の違法薬物であるかもしれないといった本件故意が積極的にあったと合理的疑いがなく認めるには、立証が足りていないといわざるを得ない。 5 結論 以上によれば、職務質 本件液体が大麻等の違法薬物であるかもしれないといった本件故意が積極的にあったと合理的疑いがなく認めるには、立証が足りていないといわざるを得ない。 5 結論 以上によれば、職務質問時の言動や被告人が述べた本件液体の入手状況、これらに関する被告人の捜査段階及び公判供述を含めた本件で現れた関係証拠を総合的に検討しても、本件故意を推認、認定するには合理的疑いが残るといわざるを得ず、被告人の弁解を排斥できない。 したがって、被告人に対する本件公訴事実についてはその証明が不十分であ って、犯罪の証明がないことに帰するから、刑事訴訟法336条により無罪の 言渡しをする(求刑:懲役1年、大阪地方検察庁で保管中の大麻液体5本(令和5年領第12266号符号1ないし5)の没収)。 令和6年12月11日大阪地方裁判所第8刑事部 裁判官角田康洋
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