平成16年9月1日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成15年(ワ)第2922号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成16年6月28日判決 主文 1 被告株式会社丁銀行は,原告乙1に対し450万円,同乙2に対し90万円,同乙3に対し90万円,同乙4に対し90万円,同乙5に対し90万円及び同乙6に対し90万円並びにこれらに対する平成15年11月18日から支払済みまで年6分の割合による金員をそれぞれ支払え。 2 原告らの被告株式会社丁銀行に対するその余の請求及び被告株式会社丙銀行に対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告乙1,同乙2,同乙3,同乙4,同乙5及び同乙6に生じた費用の17分の9と被告株式会社丁銀行に生じた費用の16分の9を被告株式会社丁銀行の負担とし,原告乙1,同乙2,同乙3,同乙4,同乙5及び同乙6に生じたその余の費用,原告有限会社甲に生じた費用,被告株式会社丁銀行に生じたその余の費用,被告株式会社丙銀行に生じた費用をいずれも原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告株式会社丙銀行(以下「被告丙銀行」という。)は,原告有限会社甲(以下「原告会社」という。)に対し,3000万円及びこれに対する平成15年11月19日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 被告丙銀行は,原告乙1に対し400万円,同乙2に対し80万円,同乙3に対し80万円,同乙4に対し80万円,同乙5に対し80万円及び同乙6に対し80万円並びにこれらに対する平成15年11月8日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 被告株式会社丁銀行(以下「被告丁銀行」とい 対し80万円,同乙5に対し80万円及び同乙6に対し80万円並びにこれらに対する平成15年11月8日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 被告株式会社丁銀行(以下「被告丁銀行」という。)は,原告会社に対し,700万円及びこれに対する平成15年11月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 4 被告丁銀行は,原告乙1に対し450万円,同乙2に対し90万円,同乙3に対し90万円,同乙4に対し90万円,同乙5に対し90万円及び同乙6に対し90万円並びにこれらに対する平成15年11月8日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,預金通帳窃取の被害に遭った原告会社並びに亡鹿谷○男(以下「亡○男」という。)の承継人である原告乙1,同乙2,同乙3,同乙4,同乙5及び同乙6(以下,亡○男の承継人を「原告乙1ら」という。)が,銀行である被告らに対し,預金契約に基づき,預金残高のうち,被告らが無権限者に払い戻した金額についての払戻し及び上記金額に対する原告らの払戻請求の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めたところ,被告らが,上記無権限者への払戻しは,債権の準占有者に対する弁済として有効ないし免責約款により被告らは免責されると主張して争った事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがない,ないしは弁論の全趣旨により認められる。)(1)当事者ア原告会社は会計処理受託業務等を業とする有限会社である。 イ原告乙1は亡○男(平成16年5月22日没。)の配偶者であり,原告乙2は亡○男の長女,原告乙3は亡○男の長男,原告乙4は亡○男の二男,原告乙5は亡○男の三男亡太郎(仮名)(平成12年11月29日没)の子,原告乙6は亡○男の四男である。 。)の配偶者であり,原告乙2は亡○男の長女,原告乙3は亡○男の長男,原告乙4は亡○男の二男,原告乙5は亡○男の三男亡太郎(仮名)(平成12年11月29日没)の子,原告乙6は亡○男の四男である。 ウ被告丙銀行及び被告丁銀行はいずれも預金又は定期積金の受入れ,資金の貸付け又は手形の割引並びに為替取引等を業とする株式会社である。 (2)預金契約の存在ア原告会社と被告らとの間には下記預金契約が存在する。 記被告丙銀行 △△支店扱普通預金口座口座番号××××××(以下「口座A」という。)被告丁銀行 ○○支店扱普通預金口座口座番号××××××(以下「口座B」という。)イ亡○男と被告らとの間には下記預金契約が存在した(なお,○男死亡後は,原告乙1らが亡○男を承継している)。 記被告丙銀行 △△支店扱普通預金口座口座番号××××××(以下「口座C」という。)被告丁銀行 ○○支店扱普通預金口座口座番号××××××(以下「口座D」という。)ウ免責約款の存在預金者たる原告らと銀行である被告らとの間の各預金契約には,預金の払戻しに関して,被告らが払戻請求書・諸届その他の書類に使用された印影を届出の印鑑と相当の注意をもって照合し,相違ないものと認めて取り扱った場合には,それらの書類につき偽造・変造その他の事故があってもそのために生じた損害について被告らは責任を負わない旨のいわゆる免責約款(以下「免責約款」という。)が存在する。 (3)預金払戻請求権の存在ア原告会社原告会社は 事故があってもそのために生じた損害について被告らは責任を負わない旨のいわゆる免責約款(以下「免責約款」という。)が存在する。 (3)預金払戻請求権の存在ア原告会社原告会社は,原告会社と被告らとの間の上記各預金契約に基づき,平成15年6月2日当時,被告丙銀行に対し,3020万9393円の預金払戻請求権(口座A)を,被告丁銀行に対し,734万1999円の預金払戻請求権(口座B)を,それぞれ有していた。 イ亡○男亡○男は,亡○男と被告らとの間の上記各預金契約に基づき,平成15年6月2日当時,被告丙銀行に対し,818万4156円の預金払戻請求権(口座C)を,被告丁銀行に対し,930万9235円の預金払戻請求権(口座D)を,それぞれ有していた。 (4)被告らの無権限者への払戻しア被告丙銀行被告丙銀行は,平成15年6月2日午前9時10分ころ,同銀行×◇支店において,口座Aの預金のうち3000万円を口座Aの預金通帳及び払戻請求書を持参した無権限者に払い戻し,同月3日午前9時3分ころ,同銀行×○支店において,口座Cの預金のうち800万円を口座Cの預金通帳及び払戻請求書を持参した無権限者に払い戻した。 イ被告丁銀行被告丁銀行は,平成15年6月2日午前9時27分ころ,同銀行×△支店において,口座Bの預金のうち700万円を口座Bの預金通帳及び払戻請求書を持参した無権限者に払い戻し,同月3日午前9時25分ころ,同銀行×□支店において,口座Dの預金のうち900万円を口座Dの預金通帳及び払戻請求書を持参した無権限者に払い戻した。 (以下,上記各払戻請求書を「本件各払戻請求書」といい,それぞれの請求書を「口座A(ないしD)の払戻請求書」という。)ウ本件各払戻請求書には 戻請求書を持参した無権限者に払い戻した。 (以下,上記各払戻請求書を「本件各払戻請求書」といい,それぞれの請求書を「口座A(ないしD)の払戻請求書」という。)ウ本件各払戻請求書には,「鹿谷」との印影が押捺されている。 (5)原告らによる預金払戻請求ア原告会社原告会社は,被告丙銀行に対して,平成15年11月18日,上記口座Aの預金のうち3000万円の払戻しを,被告丁銀行に対して,同月17日,上記口座Bの預金のうち700万円の払戻しを求めた。 イ亡○男亡○男は,被告丙銀行に対して,平成15年11月18日,上記口座Cの預金うち800万円の払戻しを,被告丁銀行に対して,同月18日,上記口座Dの預金のうち900万円の払戻しを求めた(裁判所に顕著な事実。原告乙1らは,同月8日,本件弁論準備期日において払戻しを求めたと主張するが,同月18日の誤りである。)。 2 争点(1)預金の払戻しにおける銀行の注意義務(2)印鑑照合における過失の有無(3)本人確認手続上の過失の有無(4)副印鑑制度のない通帳に作り直しを指導する義務の有無 3 当事者の主張(被告丙銀行)(1)預金の払戻しにおける銀行の注意義務について預金者たる原告らと被告丙銀行との間の前記各預金契約には,預金の払戻しに関して前記の免責約款が存在し,銀行としては,払戻請求者に,受領権限に疑いを抱く契機がなければ,印鑑照合以上の調査をしなくとも免責される。 被告丙銀行は,以下のとおり,払戻請求書に使用された印影を届出の印鑑と相当の注意をもって照合し,相違ないものと認めて取り扱ったのであり,払戻請求者の受領権限に疑義を抱かせる特段の事情が存在しなかったから,被告丙銀行としては印鑑照合以上の調査をしなくとも免責 の印鑑と相当の注意をもって照合し,相違ないものと認めて取り扱ったのであり,払戻請求者の受領権限に疑義を抱かせる特段の事情が存在しなかったから,被告丙銀行としては印鑑照合以上の調査をしなくとも免責約款によって免責されるものである。 (2)印鑑照合についてア口座A(原告会社名義)について被告丙銀行×◇支店の預金払出しの窓口担当者(以下「テラー」という。)であるWは,口座Aの払戻請求書に押捺されていた印影と通帳に押捺された副印鑑の印影とを平面照合すると一致すると判断された。これらの印影には,原告主張のような明確な相違点はないし,押印の仕方や朱肉の付き具合などの点も考慮すると,同一印鑑によるものと考えられた。 現実には,副印鑑と一致する印鑑票の印影(顧客の届出印が押捺してあるもの)と口座Aの払戻請求書を対照すると,「鹿」の「比」の部分,特に左側の「上」の縦線がつながっているかいないかの差異があるが,これとても,本件が発覚したあとに両者を拡大するなどの方法により調査して判明したことであり,現物の比較では朱肉の種類や押し具合の差も考慮すると,基本的に差異はなく,同一印鑑による押捺だと認定するのが自然である。肉眼により相違点を発見することは不可能若しくは非常に困難であった。 本件が発覚したあと,口座Aの払戻請求書の印影と印鑑票の印影とを,被告丙銀行×◇支店,×○支店及び△△支店の各支店次長が対比をしたが,差異を発見することができなかった。 したがって,経験豊富な銀行員が相当の注意をもって照合したにも拘わらず,差異を発見できなかったのであるから被告丙銀行に過失はない。 イ口座C(亡○男名義)について被告丙銀行×○支店のテラーであるXは,口座Cについて払戻請求書に押捺されていた印影と ,差異を発見できなかったのであるから被告丙銀行に過失はない。 イ口座C(亡○男名義)について被告丙銀行×○支店のテラーであるXは,口座Cについて払戻請求書に押捺されていた印影と通帳に押捺された副印鑑の印影とを平面照合及び折り曲げ照合により対比すると,一致していると判断された。 これらの印影についても,上記3支店の各支店次長もその対比を行ったが,差異を発見することはできなかった。 なお,現実には,(ア)と同様の差異があるが,上記のとおり,肉眼により相違点を発見することは不可能若しくは非常に困難であった。 したがって,被告丙銀行に過失はない。 (3)本人確認について本件では,以下のとおり,払戻請求者について不審な点はなく,同人の受領権限に疑義を抱かせる特段の事情は存在しなかった。よって,銀行としては印鑑照合以上の調査をしなくとも免責される。 ア口座A(原告会社名義)について×◇支店に来店した人物は,50歳台後半の男性で頭髪がやや薄く,スーツネクタイ姿でバックを所持しており,紳士然としていて特に強い印象を残す人物でなかったことが推測される。 テラーのWは,不審事由がなくとも,高額の払戻請求時には,住所について照合を行うよう指示するとの内規に基づき,その面前で払戻請求書に住所の記載を求めると,来店者は,その場で即時記載し,Wがその住所についてオンライン照会を行ったところ,届出住所と同一であることが判明した。Wは,オンラインで照合しつつ,多少の会話を交わし同人の様子を観察したが,自然であって疑念を抱かせるものはなかった。 イ口座C(亡○男名義)について払戻しに来店した人物は,×◇支店に来店した人物と同一人物と推測され,テラーのXの印象では,感じ したが,自然であって疑念を抱かせるものはなかった。 イ口座C(亡○男名義)について払戻しに来店した人物は,×◇支店に来店した人物と同一人物と推測され,テラーのXの印象では,感じのよい初老の男性で不審な様子はなかった。Xは,払戻請求書にすでに記載されていた住所をオンラインで照会すると,届出住所と同一であることが判明した。挙動に不審な点はなかった。 したがって,被告丙銀行に過失はない。 ウ原告らの主張について原告らは,口座開設支店外の取引及び多額の払戻等を上記の特段の事情として主張するが,被告丙銀行は,福岡市内に支店が少なく,繁華街に近い×◇支店,博多駅に近く交通が便利な×○支店において僚店(口座開設支店以外の支店)払戻しがされることが多く,原告ら主張の点は特異な事実ではない。 また,預金者の資金使途は多種多様であり,現在の日常的な銀行取引においては預金額,払戻額も多額に及んでいるのであるから,この点は,原告ら主張のように特異事例と見ることはできない。 (4)副印鑑のない通帳に作り直しを指導する義務の有無について副印鑑制度は,銀行だけでなく,預金者にとっても便宜な制度として,一般に金融機関で採用されているのであり,原告らの主張は理由がない。 (被告丁銀行)(1)預金の払戻しにおける銀行の注意義務について預金者たる原告らと被告丁銀行との間の各預金契約には,預金の払戻しに関して前記の免責約款が存在する。したがって,預金払戻しにおける銀行の注意義務は,基本的には適切な印鑑照合に尽きるものであり,払戻請求書・諸届その他の書類に使用された印影を届出の印鑑と相当の注意をもって照合し,相違いないものと認めて取り扱ったのであれば,上記免責約款によって免責される。そして,払戻請求者が正当 のであり,払戻請求書・諸届その他の書類に使用された印影を届出の印鑑と相当の注意をもって照合し,相違いないものと認めて取り扱ったのであれば,上記免責約款によって免責される。そして,払戻請求者が正当な権利者でないことを疑わせるような特段の事情が認められる場合に,印鑑照合も平面照合だけでは足りない場合があり,また,印鑑照合だけでは,払戻しにおける注意義務を果たしたことにならない場合がありうるにすぎない。 (2)印鑑照合について印鑑照合については,特段の事情がない限り,肉眼による平面照合の方法で足りるというべきであり,また,担当者は,銀行の印鑑照合を担当する者として,社会通念上一般に期待される業務上の相当の注意をもって照合を行うことが要求され,そのような事務に習熟している銀行員が,通常の事務処理の過程で,限られた時間内にではあるが,相当の注意を払って照合するならば,肉眼をもって別異の印章による印影であることが発見し得るのに,そのような印影の相違を看過した場合に過失があるとされると解すべきである。 たしかに,印鑑票の印影(被告丁銀行では,窓口において,印鑑照合機のモノクロモニターに表示される印鑑票の印影と払戻請求書の印影を照合している。)と口座B及び口座Dの各払戻請求書の印影を相違があるという意識で子細に検討すれば,「鹿」の字の9画と10画が,印鑑票の印影では接着しているのに対し,口座B及びDの払戻請求書の印影では接着していないとの相違がある。 しかし,これは,印章の使い込みによる印章の変化,紙の状態,押印する力の強弱により生じ得る相違の範囲内であって,このことは以前に亡○男から徴求した印鑑票では「比」の部分を中心に非顕出部分があることから明らかである。 そして,印鑑票の印影と口座B及びDの各払戻請求書の印影は,印影の大 じ得る相違の範囲内であって,このことは以前に亡○男から徴求した印鑑票では「比」の部分を中心に非顕出部分があることから明らかである。 そして,印鑑票の印影と口座B及びDの各払戻請求書の印影は,印影の大きさ,形状,字体,配置,枠と文字との接し方等が一致し,全体の印象はきわめて類似しており,印鑑照合事務に習熟している銀行員が相当の注意を払って慎重に照合したとしても,別異の印章によるものであるということを容易に発見しがたいものであった。 本件における印鑑照合は,以下のとおりであって,被告丁銀行に過失はない。 ア口座B(原告会社名義)について被告丁銀行×△支店のテラーであるYは,印鑑照合機のモノクロモニターに表示される印鑑票の印影と,口座Bの払戻請求書押捺の印影とを平面照合して同一性を確認し,さらに同支店のテラーであるUにおいても同様の照合を行い,同一性を確認した。 現金払戻しの現場においては,大量の事務処理を迅速に行わなければならず,時間的にきわめて制約された環境で印鑑照合が行われており,口座Bの払戻請求があった日にYは153件を処理しており,1件あたりの処理時間は平均約2分であった。 イ口座D(亡○男名義)について被告丁銀行×□支店のテラーであるZは,印鑑照合機のモノクロモニターに表示される印鑑票の印影と,口座Dの払戻請求書押捺の印影とを平面照合して同一性を確認し,さらに同支店のVにおいても同様の照合を行い,同一性を確認した。 また,口座Dの払戻請求があった日にZは109件を処理しており,1件あたりの平均処理時間は約3分であった。 (3)本人確認について本件では,払戻請求者が正当な権利者でないことを疑わせるような特段の事情は存在しないから,本人確認等を行う義務がそもそも 1件あたりの平均処理時間は約3分であった。 (3)本人確認について本件では,払戻請求者が正当な権利者でないことを疑わせるような特段の事情は存在しないから,本人確認等を行う義務がそもそも存在しない。 仮に本人確認義務があると認められるとしても,以下のように被告丁銀行は,本人確認義務を尽くしており,同義務違反はない。 ア口座B(原告会社名義)についてテラーであるYは,口座Bの預金の払戻請求に対し,被告丁銀行の内規(銀行に一般的に課される義務ではない。)に従って,本人確認ができる身分証明書の提示を求めると,来店者は,健康保険被保険者証(以下「健康保険証」という。)を提示した。Yは,さらに,写真付きの身分証明書を持参していないか訪ねると,顔写真が添付された障害者手帳を提示した。Yは,同手帳の写真と来店者の顔を比較し,同一であることを確認し,同手帳のコピーを取らせてもらいたい旨申し述べたところ,来店者から強い不快感を示され,断られた。そこで,Yは来店者から示されていた健康保険証をコピーした。 なお,原告らは,預金者が法人であることから,その代表者である亡○男も社会保険に加入しているはずと疑念を抱いてしかるべきであり,提示された国民健康保険証が偽造であることに気づくべきであったと主張するが,銀行窓口のテラーは健康保険の適用について十分な法律知識を有しているわけではなく,そこまで要求することはできない。また,原告会社が常時従業員を雇用している事業所(健康保険法に基づく強制適用事業者)であるかは,口座開設支店のテラーでないYには知る由もない。 イ口座D(亡○男名義)についてテラーであるZは,口座Dの預金の払戻請求に対し,内規に従い本人確認できる身分証明書の提示を求めると,来店者が国民健康 ラーでないYには知る由もない。 イ口座D(亡○男名義)についてテラーであるZは,口座Dの預金の払戻請求に対し,内規に従い本人確認できる身分証明書の提示を求めると,来店者が国民健康保険証を提示したので,これをもって本人確認を行い,当該保険証の番号を払戻請求書の備考欄に記載し,もって本人確認の徴ひょうとした。 また,口座Dの預金の払戻しにおいては,その全額が振込送金されているところ,盗犯者が,盗んだ預金通帳を用いて振込送金するとは一般には考え難く,振込送金自体が払戻権限を疑う事情とは結びつかない。 なお,原告らは,国民健康保険証の氏名が「○男」,ふりがなが「シカヤ」となっているのに対し,払戻請求書と同時に提示された振込依頼書には,それぞれ「○場」「シカタニ」となっていることを指摘するが,振込依頼は,便宜上払戻請求と併せて処理されるが,全く異なる取引であり,論理的に払戻しが先行し,払戻後,振込依頼をするのであって,払戻手続における本人確認の場面で,別の手続である振込手続のための書類の記載と本人確認資料の記載との比較を注意義務として課すことはできない。口座Dの預金の払戻請求において,Zは,既に同保険証の原本を見て本人であると確認していたものであり,来店者が誤記を認めて書き直しをしたのであれば,本人であることについて疑念が湧くが,来店者は,氏名の書き直しに応じていないし,当て字,通称を用いられる場合もあるから,漢字の相違は,重大な不審事由とはならない。したがって,上記特段の事情には該当しない。 ウ原告らの主張についてなお,原告らは,通常取引のあった口座開設支店が至近距離にあるにも拘わらず,開店間もない他支店で,預入額のほぼ全額の払戻請求をしていることなどを特段の事情としてあげるが,今日の取 についてなお,原告らは,通常取引のあった口座開設支店が至近距離にあるにも拘わらず,開店間もない他支店で,預入額のほぼ全額の払戻請求をしていることなどを特段の事情としてあげるが,今日の取引において,口座開設支店以外でも払戻しできることが預金者に多大な便益をあげており,ことに資金使途の関係で当該資金を利用する場所近くの支店で払い戻すという例は珍しいことではない。同様に開店後間もない時間の払戻しも珍しいものではない。また,預金者の資金使途は多種多様であり,取引履歴に照らして突出した引出額となることも特に異常とはいえない。 (4)副印鑑のない通帳に作り直しを指導する義務の有無について被告丁銀行では,本件当時,既に副印鑑制度を廃止していた。そして,顧客が預金通帳により払戻請求等をしてきた際に,副印鑑票を剥がしていたところ,本件では,本件各払戻請求前の1年間に数回通帳による払戻請求がなされており,副印鑑票は剥がされていた。 よってこの点について,被告丁銀行に過失はない。 (原告ら)(1)預金の払戻しにおける銀行の注意義務について被告らは,印鑑照合の際,特段の事情がない限り折り重ねによる照合や拡大鏡等による照合をするまでの必要はなく,平面照合をすれば足りると主張するが,偽造もしくは真正の印鑑及び盗難通帳を用いて第三者が預貯金の払戻しを受けてしまういわゆる預貯金過誤払事件は,平成10年以降多発し,平成12年度にピークに達し,警視庁の生活安全課は,平成11年に,大手都市銀行及び各種金融機関協会に対し「盗難通帳を用いた被害が多発しているため窓口対応を強化するように」との指導を行い,全国銀行協会(以下「全銀協」という。)も,平成15年9月16日,印鑑の偽造を防ぐため,通帳に届出印を押す「副印鑑制度」の廃止を申し 被害が多発しているため窓口対応を強化するように」との指導を行い,全国銀行協会(以下「全銀協」という。)も,平成15年9月16日,印鑑の偽造を防ぐため,通帳に届出印を押す「副印鑑制度」の廃止を申し合わせている。さらに,現在では,スキャナーを用いる手法によりコンピューターに映像を取り込み,簡易に偽造印影を作り出したり,印章そのものの偽造ができる。また,その形状上,偽造が容易な健康保険証や運転免許証を提示して,金融機関に対する不正払戻請求を成功させる事例が後を絶たない。 かような偽造技術の発達等に照らせば,被告らの主張は,現代に通用する妥当な見解とはいえない。 そして,金融機関が預金者の信頼の上に成り立つ公益的機関たる性格をもつことに鑑みても金融機関側の過失の存否は,不正払戻請求行為の前後を通じた全事情を総合的に斟酌して判断すべきであり,印鑑照合はその際の主たる手段の一つにすぎない。 また,被告らは免責約款によって免責されると主張するが免責約款によって免責されるためには,被告らが「相当の注意」を尽くしている必要がある。この「相当の注意」とは,被告らの善意・無過失を意味するが,以下述べるとおり,被告らには過失があり,「相当の注意」を尽くしたといえない。 (2)印鑑照合について本件の偽造の印影と真正な印影との間には次のとおり数か所相違点があり,特に「鹿」の字の「比」の部分の2画と3画が接していない相違は,行員が肉眼で容易に判別できる程度の大きな相違であった。しかし,被告らはこれらの印影の差異を見逃した点で過失がある。 ア口座Aの払戻請求書の印影(ア)「鹿」の字の「比」の部分の2画と3画が接していない。 (イ)「鹿」の字の「比」の下部と「谷」の上部の間が広く,その間の縦線が完全に欠落している。 ( 口座Aの払戻請求書の印影(ア)「鹿」の字の「比」の部分の2画と3画が接していない。 (イ)「鹿」の字の「比」の下部と「谷」の上部の間が広く,その間の縦線が完全に欠落している。 (ウ)「鹿」の字の「比」の4画,5画の部分が右上がりになっている。 (エ)「谷」の字の「口」の3画の両端が突き抜けていない。 (オ)「鹿」の字の垂れのはねとつくりの左端が離れている。 イ口座BないしDの払戻請求書の印影ア(ア)ないし(エ)と同じ。 ウ被告らの主張についてなお,被告丁銀行は,一件あたりの処理時間を問題とするが,口座Bの払戻請求時には,Yの証言によっても来店客は10名程度しかおらず,払出窓口は3か所あるから,それほど多くはなかった。また,口座Dの払戻請求時には,来店者は1人しかいなかった。 (3)本人確認について本人確認手続においては,①普段から窓口利用があり,当該支店での取引が過去にあるか否か,②引出額が残高のほぼ全額に及ぶような高額のものではないか,③過去の取引履歴比で引出額が突出していないか,④住所や氏名等の記載に誤記がないかなどの取引態様や払戻請求書の客観的諸事情に着目して,当該払戻請求者が正当なる受領権限者か否かを判断する必要がある。そしてこれらの点につき疑義がある場合には,さらに筆跡照合,暗証番号確認,預金者が法人等の団体であれば電話による確認,個人の場合には写真付身分証明書の確認,払戻請求者が本人であれば個人情報を尋ねるなどによって,正当な受領権限を有しているかを確認する義務がある。 しかし,本件一連の払戻手続は,口座開設支店外でかつ短期に,預け入れ額ほぼ全額について払戻請求がなされるという異常事態であったにもかかわらず,以下のように被告らの行員が慎重な調査 務がある。 しかし,本件一連の払戻手続は,口座開設支店外でかつ短期に,預け入れ額ほぼ全額について払戻請求がなされるという異常事態であったにもかかわらず,以下のように被告らの行員が慎重な調査をせずに払戻請求に応じたことは,善管注意義務に違反した著しい過失がある。 ちなみに平成15年1月に施行された本人確認法でも,払戻後に現金を預金者に交付した場合と払戻後直ちに指定口座への送金をし,現金授受がなかった場合とを区別することなく,本人確認義務づけの対象を「金200万円以上の取引」すべてとしている。 ア被告丙銀行(ア)口座A(原告会社名義)について原告会社は,その直近に口座を開設した被告丙銀行△△支店があるにも拘わらず,口座Aの払戻しは,中央区a所在の×◇支店窓口でなされている。 そして,公共料金や業務上の経費の自動振替口座として使用されていた普通預金口座で,預金残高が2800万円ないし3000万円で推移していた口座から,そのほぼ全額に相当する3000万円が一時に引き下ろされており,その引出額は,過去の取引履歴に照らしても突出し,不自然である。しかも,開店間もない午前9時10分に手続がなされている。 被告丙銀行×◇支店のテラーであるWには,本人確認作業自体を怠った過失がある。 (イ)口座C(亡○男名義)について亡○男の勤務先には,直近に口座を開設した被告丙銀行△△支店があるにも拘わらず,口座Cの払戻しは,c所在の×◇支店でなされており,公共料金や厚生年金の自動振替口座として使用されていた普通預金口座で,預金残高が700万円ないし800万円で推移していた口座から,そのほぼ全額に相当する800万円が一時に引き下ろされており,その引出額は,過去の取引履歴に照らしても突出し,不自然 いた普通預金口座で,預金残高が700万円ないし800万円で推移していた口座から,そのほぼ全額に相当する800万円が一時に引き下ろされており,その引出額は,過去の取引履歴に照らしても突出し,不自然である。しかも,開店間もない午前9時3分に手続がなされている。 よって,被告丙銀行の×○市店のテラーであるXには,本人確認手続上の過失がある。 (ウ)被告丙銀行の主張についてなお,被告丙銀行は,住所の確認をしたことを挙げるが,このような形式的な照合で銀行を無過失ということはできない。今や大口払戻しでは,払戻請求書に住所を記載をさせられることは予想でき,ピッキング窃盗犯は,当然住所を暗記してから窓口手続に着手するのであり,したがって,正当な受領権者かを判断する手段としては不十分である。 当時,○男はd病院に入院し,外出許可さえ取れない状態であり,被告丙銀行が確認の電話さえしていれば,銀行に来た者が亡○男本人ではなく,窃盗犯人ないしはその一味であることが即座に判明していた。また,本人確認の書類の提示を求めていれば,偽造の健康保険証が提示され,オンラインの照会画面で生年月日等を照合し,不正払戻請求を未然に防ぐことができた。 イ被告丁銀行(ア)口座B(原告会社名義)について口座Bの払戻しは,直近に口座の開設された○○支店があるにも拘わらず,中央区b所在の×△支店窓口で払戻請求がされており,しかも,預金のほぼ全額の払戻しがなされている。 被告丁銀行×△支店のテラーであるYは,偽造された国民健康保険証によって本人確認を行っているが,事業者たる原告会社の場合,その代表者は,社会保険に加入しているはずであり,また,同保険証の有効期間は2年となっているが,国民健康保険証の有効期間 れた国民健康保険証によって本人確認を行っているが,事業者たる原告会社の場合,その代表者は,社会保険に加入しているはずであり,また,同保険証の有効期間は2年となっているが,国民健康保険証の有効期間は1年であることからして同保険証が偽造であることは明らかであった。しかし,Yはこの保険証が偽造であることすら疑わず,機械的に本人確認に用いた。不正な払戻しが多発している社会情勢下においては,保険証の真正も確認すべきである。 その後,来店者は,偽造された写真の添付された障害者手帳を示したが,コピーを取りたいとの要請に対し,強い不快感を示したもので,コピーに不快感を示すことは,疑いを抱くべき事情に該当する。 被告丁銀行には本人確認手続上の過失がある。 (イ)口座D(亡○男名義)について被告丁銀行×□支店のテラーであるZは,上記Yと同じく,偽造された健康保険証を本人確認に用いた上,同保険証の氏名のふりがなが「シカヤ」であるのに対し,窓口に提出された振込依頼書のふりがなは「シカタニ」と記載されていた。Zは,振込みの操作がカタカナ入力であったにも拘わらず,同保険証のふりがなを確認していない。さらに,同振込依頼書の氏名が「○男」ではなく「○場」と誤記されており,Zは,そのことを指摘しながらも,書き直しを拒否された後は,それ以上,本人確認手続を行わなかった。 よって,被告丁銀行には重大な過失がある。 (ウ)被告丁銀行の主張について被告丁銀行は,払戻しと振込みは,手続が異なるというが,払戻請求と振込依頼は一緒に行われ,Zは一旦すべての書類を確認している。振込依頼書の間違いや不自然さを見抜けなかったことも無権限者への支払に過失があったか否かの判断材料にすべきである。 (4)副印鑑のない通帳に 頼は一緒に行われ,Zは一旦すべての書類を確認している。振込依頼書の間違いや不自然さを見抜けなかったことも無権限者への支払に過失があったか否かの判断材料にすべきである。 (4)副印鑑のない通帳に作り直しを指導する義務の有無についていわゆるピッキングによる通帳盗難,預金払戻しによる被害事件が多発している現在,銀行には,通帳に押捺された印影(いわゆる副印鑑)のない通帳への作り直しを指導すべき義務があったが,被告らから原告らに対しこのような注意喚起がなされたことはない。 よって,被告らには,副印鑑のない通帳に作り直すように注意する義務を怠った過失がある。 第3 当裁判所の判断 1 当事者間に争いのない事実並びに証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1)盗難事故平成15年5月29日夜から同年6月3日早朝にかけて口座AないしDの預金通帳(被告らの銀行に対する「鹿谷」名下の届出印は盗まれていない。)が盗まれた。 (2)盗難の連絡等原告会社の経理担当者で,亡○男名義の預金通帳も保管していた原告乙6は,同年6月3日午前9時30分頃,通帳の盗難に気付き,同日午前10時ころ,被告丙銀行△△支店及び被告丁銀行○○支店にその旨連絡した。ところが,すでに次のとおり何者かによって預金が引き出され,第三者名義の口座宛に送金されていた。 以下の引き出し・振込送金については,同日,福岡県西警察署に被害届がなされ,捜査が進められている。 (3)口座AないしDの払戻状況ア口座Aについて(ア)平成15年6月2日午前9時すぎに,被告丙銀行×◇支店に来店し,窓口で口座Aの預金通帳と3000万円の払戻請求書,振込依頼書3通を提出し,払戻請求等を行った人物がいた。この人物は,50代後半から60 平成15年6月2日午前9時すぎに,被告丙銀行×◇支店に来店し,窓口で口座Aの預金通帳と3000万円の払戻請求書,振込依頼書3通を提出し,払戻請求等を行った人物がいた。この人物は,50代後半から60歳くらいの人物で,髪の毛が薄く,黒っぽいスーツに眼鏡を掛けていて黒いバッグを持っていた。窓口で応対したWは,受け答えからも紳士的で感じのよい人物であり,特に不審を抱かせる人物ではないと思った。この時点で,払戻請求書等の所定欄は,すべて記入がなされ,押印もなされていた。Wが,内規に従い,払戻請求書に住所の記載を求めると,来店者はその場で即時に住所を記載した。Wが端末を操作し,照会したところ,この住所は,モニター上に表示された届出住所と一致していた。 なお,上記各振込依頼書に記載された電話番号は,上記モニターに映し出された原告会社の電話番号と異なっていたが,Wはこれを照合していない。 当時,口座Aの預金残高は,3020万9393円であり,平成15年2月から上記払戻請求まで,預金残高は約2800万円から約3060万円の間で推移していた。 (イ)Wは,口座Aの通帳に押捺された印影(いわゆる副印鑑)と口座Aの払戻請求書に押捺された印影とを平面照合により比較したところ,同一印鑑によるものと考えられた。 Wは窓口業務について約4年の経験がある。 (ウ)そこで,Wは,上記払戻請求書及び振込依頼書の記載に従い口座Aから3000万円の払戻手続をし,そのうち1500万円を同日午前10時8分にα名義の口座(β銀行γ支店,普通預金口座,口座番号×××××××)宛に,うち400万円を同日午前10時10分にδ名義口座(ε銀行ζ支店,普通預金口座,口座番号×××××××)宛に,うち1000万円を同日午前10時11分にη名義の口座 座,口座番号×××××××)宛に,うち400万円を同日午前10時10分にδ名義口座(ε銀行ζ支店,普通預金口座,口座番号×××××××)宛に,うち1000万円を同日午前10時11分にη名義の口座(θ銀行ι支店),普通預金口座,口座番号×××××××)宛にそれぞれ送金処理をした。 (エ)なお,被告丙銀行×◇支店は,福岡市の中心部に近い場所に位置する。 イ口座Bについて(ア)同日午前9時20分ころ,被告丁銀行×△支店に来店し,窓口で,預金通帳,700万円の払戻請求書及び振込依頼書1通を提出し,口座Bの払戻請求等をした者がいた。その者は,60代くらいのスーツを着た男性で,少し髪の毛が薄く,額の上のほうにしみがたくさんあり,身なりのいい男性であった。 Yは,特に不審を抱かせる人物とは思わなかった。 (イ)同支店のテラーであるYは,「ご本人様を確認できる資料を出してください。」といったところ,その者は,国民健康保険証を提示した。Yは,本人確認資料としては,顔写真付きのものの方が良いと思い「顔写真のついているような運転免許証などがあったら一緒にお預かりできますか。」と尋ねたところ,その者は障害者手帳を提示した。Yは,同手帳の顔写真と同一人であることを確認し,同手帳も預からせてほしいと述べたところ,その者は,障害者用の手帳なので,あまり人に見せたくないというようなことを述べ,手帳をすぐに鞄の中に仕舞った。そこで,Yは上記保険証をコピーした。 同保険証は,偽造されたものであり,亡○男は,国民健康保険ではなく社会保険であり,有効期限が2年になっていること(真正なものは1年),フリガナが「シカヤ」となっていること(真正なものは「シカタニ」)などが,真正な健康保険証と異なっていたが,形式面において,偽造を疑うべき点は他に見 効期限が2年になっていること(真正なものは1年),フリガナが「シカヤ」となっていること(真正なものは「シカタニ」)などが,真正な健康保険証と異なっていたが,形式面において,偽造を疑うべき点は他に見あたらず,Yは偽造に気付かなかった。 当時,口座Bの預金残高は,734万1999円であり,平成15年3月から上記払戻請求まで,取引残高は約680万円から約735万円の間で推移していた。 (ウ)Yは,印鑑照合機のモノクロモニターに表示される印鑑票の印影と請求書の印影との同一性を平面照合によって確認し,さらに同支店のテラーであるUにおいても同様の照合を行い,同一性を確認した。 モニターに映し出された原告会社の電話番号と振込依頼書に記載された電話番号は異なっていたが,Yはこれを照合していない。 なお,Yは窓口業務について約5か月の,Uは約10年5か月の経験がそれぞれある。 (エ)印鑑照合の結果,Y,Uの両者は,印影が一致しているという結論に達したため,Yは,払戻請求書及び振込依頼書の記載に従い,口座Bから金700万円を払戻し,同日午前9時27分にκ名義口座(β銀行γ支店,普通預金口座,口座番号××××××)宛に700万円全額を送金する手続をした。 (オ)なお,被告丁銀行×△支店は,福岡市の中心部に近い場所に位置する。 ウ口座Cについて(ア)翌6月3日午前9時すぎに,被告丙銀行×○支店に来店し,窓口に,口座Cの通帳,800万円の払戻請求書及び振込依頼書1通を提出し,口座Cの払戻請求等を行った人物がいた。この人物は,50歳代後半くらいの人物で,ブルーのスーツにネクタイをしており,窓口で対応したXは,特に,不審を抱かなかった。 (イ)Xは,払戻請求書にすでに記載されていた住所をオンライン いた。この人物は,50歳代後半くらいの人物で,ブルーのスーツにネクタイをしており,窓口で対応したXは,特に,不審を抱かなかった。 (イ)Xは,払戻請求書にすでに記載されていた住所をオンラインで照会した。その結果,届出住所と一致していた。 なお,モニターに映し出された亡○男の電話番号と振込依頼書に記載された電話番号とは異なっていたが,Xはこれを照合していない。 当時,口座Cの預金残高は,818万4156円であり,平成15年2月から上記払戻請求まで,預金残高は約670万円から約890万円の間で推移していた。 (ウ)Xは,払戻請求書の印影と通帳に押捺された印影(副印鑑)とを平面照合及び折り曲げ照合により対比し,一致すると判断した。 なお,Xは窓口業務について約3年の経験がある。 (エ)Xは,払戻請求書及び振込依頼書の記載に従い,口座Cから800万円を払い戻し,同日午前9時6分にα名義口座(β銀行γ支店,普通預金口座,口座番号×××××××)宛に800万円全額を送金する手続をした。 (オ)なお,被告丙銀行×○支店は,博多駅近くに位置する。 エ口座Dについて(ア)同日午前9時20分ころ,被告丁銀行の×□支店の窓口に,頭髪が薄く,頭にしみがたくさんあり,すらっとした60代から70代の人物が来店し,口座Dの通帳,900万円の払戻請求書,振込依頼書1通を渡し,口座Dの払戻請求等をした。 (イ)同支店のテラーであるZは,身分証明書の提示を求めたところ,来店者は,健康保険証を提示した。同保険証の氏名が「鹿谷○男」だったこと,同保険証に記載された生年月日(昭和12年)と請求者の年格好が一致していることから,Zは,来店者を○男本人と考えた。そこで,同保険証の番号を払戻請求書 した。同保険証の氏名が「鹿谷○男」だったこと,同保険証に記載された生年月日(昭和12年)と請求者の年格好が一致していることから,Zは,来店者を○男本人と考えた。そこで,同保険証の番号を払戻請求書に控えて,同保険証を返却した。なお,この健康保険証は,偽造されたものであったが,Zは偽造に気付かなかった。 また,この健康保険証においては,本人の苗字に「シカヤ」とフリガナが付されているのに対し,振込依頼書(甲10)では,「シカタニ」と異なったフリガナがつけられていたが,Zはこのことに気付かなかった。 当時,口座Dの預金残高は,930万9235円であり,平成15年3月から上記払戻請求まで約850万円から約950万円の間で推移していた。 (ウ)Zは,印鑑照合機のモノクロモニターに表示される印鑑票の印影と払戻請求書の印影の同一性の確認を平面照合で行い,さらに同じテラーであるVにおいて同様の照合をして,同一性の確認を行った。Z及びVは,両印鑑が同一のものであると判断した。 印鑑照合機のモノクロモニターには,印鑑票の印影の外,印鑑票の署名も表示されているが,この署名と払戻請求書の署名とは,「谷」の字の1画と2画がハの字型か,逆ハの字型かという点で違いがあったが,Zはこれらの違いに気づかなかった。 なお,Zは,窓口業務について約15年の,Vは約5年の経験がそれぞれあった。 (エ)印鑑照合を終えたZは,振込依頼書の氏名欄が「○男」ではなく「○場」と記載されていることに気付き,来店者にに漢字の誤りを指摘し,訂正を促したところ,同人は,もう急いでいる,いつもこうやって書いている,急いでくれと述べた。Zは,保険証で本人確認をしたため,来店者を○男本人であると思っており,それ以上,書き直しを要求したり,本人確 促したところ,同人は,もう急いでいる,いつもこうやって書いている,急いでくれと述べた。Zは,保険証で本人確認をしたため,来店者を○男本人であると思っており,それ以上,書き直しを要求したり,本人確認をし直すといったことはしなかった。 (オ)そこで,Zは,払戻請求書及び振込依頼書の記載に従い,口座Dから900万円を払い戻し,同日午前9時25分にη名義の口座(θ銀行ι支店,普通預金口座,口座番号×××××××)宛に900万円全額を送金した。 2 争点1(預金の払戻しにおける銀行の注意義務)について銀行が通帳と払戻請求書の提出により預金の払戻請求を受けた場合,正当な払戻請求でないことを窺わせる特段の事情がない限り,当該預金口座の届出印の印影と払戻請求書に押捺された印影との照合により正当な払戻請求であると判断されて払戻しがされた場合には,仮にその払戻請求書に押捺された印影が偽造印(届出印でない印章)により顕出されたものであるとしても銀行は免責されるというのが相当である。そして,銀行が,払戻請求書に使用された印影と届出印の印影とを照合するにあたっては,銀行の照合事務担当者に対して社会通念上一般に期待されている業務上相当の注意をもって慎重に行うことを要し,同事務に習熟している銀行員が上記のような注意を払って熟視するならば肉眼をもって別異の印章による印影であることを発見しうるのに,そのような印影の相違を見過ごし,預金が払い戻されたときは,その払戻しによる不利益を預金者に帰せしめることは許されない。なお,銀行の照合事務担当者が,上記照合を行うに当たっては,特段の事情がない限り,折り重ねによる照合や拡大鏡による照合までの必要はなく,肉眼による平面照合の方法をもってすれば足りる。 しかし,他方で,何らかの契機により,銀行の窓口で預金の払 たっては,特段の事情がない限り,折り重ねによる照合や拡大鏡による照合までの必要はなく,肉眼による平面照合の方法をもってすれば足りる。 しかし,他方で,何らかの契機により,銀行の窓口で預金の払戻請求をしているものが,正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情(以下「不審事由」という。)が存在した場合には,住所等の個人情報を尋ね,場合によっては身分証明書の提示等を求めるなどして,窓口に来店している請求者が正当な受領権限を有することを確認しなければならない。 3 争点2(印鑑照合における過失の有無)について(1)印影の相違についてア口座A(被告丙銀行の原告会社名義の口座)の払戻請求書の印影上記認定のとおり,口座Aの払戻手続においては,口座Aの預金通帳に押捺されたいわゆる副印鑑と口座Aの払戻請求書の「鹿谷」の印影の照合がなされているところ,口座Aの預金通帳は窃取されて存在しないので,本件においては,口座Aの払戻請求書の印影と副印鑑の印影を顕出した印章と同じ印章から顕出された印影(以下「真正な印影」という。証拠上複数あるが,拡大したものを主として対比に用いる。以下同じ。)を対比し,補充的に,上記副印鑑と同時期に押捺されたと認められる印鑑票の印影(以下「口座Aの印鑑票の印影」という。以下,口座BないしDについても同様に表記する。)と対比する。 証拠(略)によれば,上記各印影の違いについて次の事実が認められる。 (ア)「鹿」の字の「比」の部分の2画と3画払戻請求書の印影においては,細い線で接続しているに過ぎないのに対し,真正な印影においては太い線で接続している。しかし,口座Aの印鑑票の印影及び一部の真正な印影には,接続部分に楔型の切れ目が入っている。 (イ)「鹿」の字の「比」の下 しているに過ぎないのに対し,真正な印影においては太い線で接続している。しかし,口座Aの印鑑票の印影及び一部の真正な印影には,接続部分に楔型の切れ目が入っている。 (イ)「鹿」の字の「比」の下部と「谷」の上部の間払戻請求書の印影においては,真正な印影と比較して,「比」の5画の下部分及び「谷」の1画の上部分が細くなっており,「比」の下部と「谷」の上部の間隔が広くなっている。 「比」の下部と「谷」の上部の間の縦線部分について,払戻請求書の印影には空洞が見られるが,真正な印影にはこのような空洞は見られない。 (ウ)「鹿」の字の「比」の4画,5画の部分差異は見られない。 (エ)「谷」の字の「口」の3画の両端払戻請求書の印影においては,「口」の3画部分と印影の外周部分の接続部分がやや太くなっているに過ぎないが,真正な印影においては,その接続部分が,太く,3画の両端が1画及び2画の縦線から突き抜けているようになっている。 (オ)「鹿」の字の垂れのはね(3画)とつくりの左端(7画)の接続部分払戻請求書の印影では,細い線で接続しているが,真正な印影では太い線で接続している。 (カ)その他上記のうち(ア)及び(オ)の差異は,印影を肉眼で見ても明確に判明する。なお,払戻請求書の印影は,全体として細く,上記のように所々空洞部分,細い線及び切れた部分が見られるが,いずれの印影も,その大きさ,形状,各文字の配置が,よく類似している。 イ口座B(被告丁銀行の原告会社名義の口座)の払戻請求書の印影上記認定のとおり,口座Bの払戻手続においては,印鑑照合機のモノクロモニターに映し出された印鑑票の印影と口座Aの払戻請求書の「鹿谷」の印影とを照合しているの 名義の口座)の払戻請求書の印影上記認定のとおり,口座Bの払戻手続においては,印鑑照合機のモノクロモニターに映し出された印鑑票の印影と口座Aの払戻請求書の「鹿谷」の印影とを照合しているので,以下,印鑑票の印影と払戻請求書の印影を比較対照し,補充的に真正な印影と対比する。 証拠(略)によれば,上記各印影の違いについて次の事実が認められる。 (ア)「鹿」の字の「比」の部分の2画と3画払戻請求書の印影においては断絶しているに対し,印鑑票の印影においては太い線で接続している。しかし,一部の真正な印影には,接続部分に楔型の切れ目が入っている。 (イ)「鹿」の字の「比」の下部と「谷」の上部の間差異は見られない。 (ウ)「鹿」の字の「比」の4画,5画の部分差異は見られない。 (エ)「谷」の字の「口」の3画の両端払戻請求書の印影においては,「口」の3画部分と印影の外周部分の接続部分がやや太くなっているに過ぎないが,真正な印影においては,その接続部分が,太く,3画の両端が1画及び2画の縦線から突き抜けているようになっている。 (オ)その他上記の(ア)の差異は,印影を肉眼で見ても明確に判明する。 また,払戻請求書の印影は,全体としてやや細いが,両印影は,その大きさ,形状,各文字の配置が,よく類似している。 ウ口座C(被告丙銀行の亡○男名義の口座)の払戻請求書の印影上記アと同様,口座Cの払戻請求書の「鹿谷」の印影と真正な印影を対比し,補充的に印鑑票の印影と対比する。 証拠(略)によれば,上記各印影の違いについて次の事実が認められる。 (ア)「鹿」の字の「比」の部分の2画と3画払戻請求書の ,補充的に印鑑票の印影と対比する。 証拠(略)によれば,上記各印影の違いについて次の事実が認められる。 (ア)「鹿」の字の「比」の部分の2画と3画払戻請求書の印影においては,断絶しているのに対し,真正な印影においては,太い線で接続している。他方,印鑑票の印影は,細い線で接続しており,一部の真正な印影には,接続部分に楔型の切れ目が入っている。 (イ)「鹿」の字の「比」の下部と「谷」の上部の間の縦線払戻請求書の印影においては,真正な印影と比較して,「比」の3画及び5画の下部分,「谷」の1画及び2画の上部分がそれぞれ細くなっており,「比」の下部と「谷」の上部の間隔が広くなっている。 縦線部分について差異はみられない。 (ウ)「鹿」の字の「比」の4画,5画の部分差異は見られない。 (エ)「谷」の字の「口」の3画の両端払戻請求書の印影においては,「口」の3画部分と印影の外周部分の接続部分がやや太くなっているに過ぎないが,真正な印影においては,その接続部分が,太く,3画の両端が1画及び2画の縦線から突き抜けているようになっている。 (オ)その他上記(ア)の差異は,肉眼で見ても明確に判明する。 また,払戻請求書の印影は,下部分(「谷」の部分)が細くなっているが,いずれの印影も,その大きさ,形状,各文字の配置が,よく類似している。 エ口座D(被告丁銀行の亡○男名義の口座)の払戻請求書の印影上記イと同様,口座Dの払戻請求書の「鹿谷」の印影と口座Dの印鑑票の印影を対比し,補充的に真正な印影と対比する。 証拠(略)によれば,上記各印影の違いについて次の事実が認められる。 (ア)「鹿」の ,口座Dの払戻請求書の「鹿谷」の印影と口座Dの印鑑票の印影を対比し,補充的に真正な印影と対比する。 証拠(略)によれば,上記各印影の違いについて次の事実が認められる。 (ア)「鹿」の字の「比」の部分の2画と3画払戻請求書の印影においては断絶しているに対し,印鑑票の印影においては太い線で接続している。しかし,一部の真正な印影には,接続部分に楔型の切れ目が入っている。 (イ)「鹿」の字の「比」の下部と「谷」の上部の間の縦線払戻請求書の印影においては,真正な印影と比較して,「比」の3画及び5画の下部分,「谷」の1画及び2画の上部分がそれぞれやや細くなっており,「比」の下部と「谷」の上部の間隔が広くなっている。 縦線部分について差異はみられない。 (ウ)「鹿」の字の「比」の4画,5画の部分差異は見られない。 (エ)「谷」の字の「口」の3画の両端払戻請求書の印影においては,「口」の3画部分右側と印影の外周部分の接続部分がやや太くなっているに過ぎないが,印鑑票の印影においては,両接続部分が太く,3画の両端が1画及び2画の縦線から突き抜けているようになっている。 (オ)その他上記(ア)の差異は,肉眼で印影を見ても明確に判明する。両印影は,その大きさ,形状,各文字の配置が,よく類似している。 (2)印影照合における被告らの過失の有無上記のとおり,本件各払戻請求書の印影,印鑑票の印影,真正な印影とは,①真正の印影及び印鑑票の印影が「鹿」の字の「比」の2画及び3画の部分が接続しているのに対し,本件各払戻請求書の印影は接続していない,ないしは,細い線で接続している,②真正の印影ないし印鑑票の印影では,「谷」の下の「口」の3画部分の両端が1 比」の2画及び3画の部分が接続しているのに対し,本件各払戻請求書の印影は接続していない,ないしは,細い線で接続している,②真正の印影ないし印鑑票の印影では,「谷」の下の「口」の3画部分の両端が1画及び2画の縦線から突き抜けているのに対し,本件各払戻請求書の印影では,突き抜けていない,③真正な印影では,「鹿」の字の垂れのはね(3画)とつくりの左端(7画)が接続しているが,口座Aの払戻請求書の印影では接続していない,④口座A,C,Dの各払戻請求書の印影では,真正の印影ないし印鑑票の印影と比して,「鹿」の字の「比」の下部と「谷」の上部の間隔が広くなっているなどの差異が認められるが,肉眼による平面照合で明確に判明するのは,①と③にすぎない。 しかも,①については,真正の印影においても楔形の切れ目が入っていること,その余についても,AないしC口座の各払戻請求書の印影は細いこと,真正な印影ないし印鑑票の印影,本件各払戻請求書の印影は,いずれもその大きさ,形状,各文字の配置がよく類似していることからして,上記の各差異は,印章の使い込み・欠損・変形等の印章自体の変化や,朱肉の種類又はその付き具合,押捺の仕方,押印台の状態等の押印条件の差異等によって生じる相違と見る余地が多分にある。 上記認定の印影の類似状況からみて,別個の印章による印影であることを発見し難いといえるから,被告らの担当者の行った印鑑照合事務に関しては,いずれも過失は認められないというのが相当である。 4 争点3(本人確認手続上の過失の有無)について(1)正当な受領権限を疑わしめる特段の事情の有無ア口座A(原告会社名義の被告丙銀行の口座)の払戻しについて前記認定のとおり,被告丙銀行×◇支店のテラーであるWは,被告丙銀行内部における内規に従って,口座 しめる特段の事情の有無ア口座A(原告会社名義の被告丙銀行の口座)の払戻しについて前記認定のとおり,被告丙銀行×◇支店のテラーであるWは,被告丙銀行内部における内規に従って,口座Aの預金通帳と払戻請求書等の提出を受けてオンラインによる住所確認を行った上で,印鑑照合を行い,払戻請求者の言動に特に不審な点が見受けられなかったことから,口座Aから3000万円を払い戻し,指示のとおりに送金した。 上記Wは,4年の窓口業務の経験を有しているところ,払戻請求者に関する容姿,髪型,眼鏡の使用,服装等を記憶しており,それらからは,特段の不審事由は窺われない。 また,上記払戻請求が行われた際にWは,内規に従い,印鑑照合のみならず,請求者に住所の記載をさせており,請求者は即座に住所を記載し,その記載された住所は,銀行に登録されている住所と同一であったことが認められる。 一方で,モニターに写し出された原告会社の電話番号と振込依頼書に記載された電話番号とは異なっているが,Wはこれらを照合していない。しかし,その相違は,払戻請求書のものではなく,また,振込依頼書の電話番号の違いは,連絡先の変更等により住所の変更よりも容易に生じうるものであるから,不審事由にあたるとまではいえない。 なお,前記認定のとおり,口座Aの払戻請求は,開店直後の午前9時10分に行われていること,また,上記払戻請求は3000万円という口座Aにおいて過去約3か月間の取引でなされていないほどの高額な払い戻しを,口座開設支店以外の支店(僚店)において請求するものであった。しかし,被告丙銀行×◇支店は,福岡市中心部に近い場所に位置し,僚店支払であることをもって不審事由とすることはできないし,口座Aの払戻しは,通常取引されていなかったほどの高額 請求するものであった。しかし,被告丙銀行×◇支店は,福岡市中心部に近い場所に位置し,僚店支払であることをもって不審事由とすることはできないし,口座Aの払戻しは,通常取引されていなかったほどの高額の払い戻しであるが,その金額の大半を振込送金しており,盗犯者が窃取した預金通帳を用いて振込送金をするとは一般には考えがたいところからすれば,このような高額の取引であっても,不審事由にあたるとまではいえない。 以上を総合考慮すると,払戻請求者が正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情が存在したということはできず,上記Wの行った払戻手続は,同請求者の受領権限につき相当な確認手続を経て行われたということができ,過失は認められない。 イ口座B(亡○男名義の被告丁銀行の口座)の払戻しについて前記認定のとおり,被告丁銀行×△支店のテラーであるYは,本件預金通帳及び払戻請求書等の提出を受け,同支店のUとともに印鑑照合を行い,請求者の言動に特に不審な点が見受けられなかったことから,口座Bから700万円を引き出し,送金した。また,Yは,写真付きの身分証明書である障害者手帳及び健康保険証で本人確認を行ったことが認められる。 Yは,5か月ほどしか経験のないテラーであったが,請求者の体型,髪型,服装,年齢等を記憶しており,それらからは特段の不審事由は窺われない。 そして,上記払戻請求が開店直後の9時27分ころに行われていること及び口座Bに関する取引履歴に関しては,口座Aの払戻しに関して述べたものと同様であるが,被告丁銀行×△支店の位置,口座Bの払戻金額のすべてが振込送金されていることに照らせば,不審事由があるとまではいえない。 なお,上記認定のとおり,本人確認に用いられた健康保険証が偽造であったことが 行×△支店の位置,口座Bの払戻金額のすべてが振込送金されていることに照らせば,不審事由があるとまではいえない。 なお,上記認定のとおり,本人確認に用いられた健康保険証が偽造であったことが認められるが,本件偽造保険証は真正な健康保険証と形式面が似通っており,その内容の正誤は,一般に銀行の窓口担当者が有する知識,資料から直ちに判明するものではなく,本件の偽造の健康保険証の使用が不審事由にあたるとまではいえない。 また,払戻請求者は,障害者手帳のコピーを取ることを拒んでいるが,それが障害者手帳であること及び健康保険証のコピーは取らせたことに照らせば,それが不審事由に当たるとまではいえない。 以上を総合考慮しても,いまだ払戻請求者が正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情が存在したということはできず,上記Yの行った払戻手続は,同請求者の受領権限につき相当な確認手続を経て行われたということができ,過失は認められない。 ウ口座C(原告会社名義の被告丙銀行の口座)の払戻しについて前記認定のとおり,被告丙銀行×○支店のテラーであるXは,本件預金通帳及び払戻請求書等の提出を受け,払戻請求書に記載のあった住所について,オンラインによる住所確認を行ったところ,誤りがなく,平面照合のみならず折り曲げ照合も用いて印鑑照合を行い,請求者の言動に特に不審な点が見受けられなかったことから,口座Cから800万円を引出し,送金した。 Xは3年の窓口業務の経験を有しているところ,同請求者の言動に特段の不審事由はなかった旨判断している。 上記払戻しは開店直後の午前9時6分ころに行われており,また,口座Cに関する取引履歴に関しても,口座Aの払戻しに関して述べたとおりであるが,被告丙銀行×○支店の位置, った旨判断している。 上記払戻しは開店直後の午前9時6分ころに行われており,また,口座Cに関する取引履歴に関しても,口座Aの払戻しに関して述べたとおりであるが,被告丙銀行×○支店の位置,口座Cの払戻金のすべてが振込送金されていることに照らせば,不審事由があるとまではいえない。 また,払戻請求者は,払戻請求書に住所欄がないにも拘わらず,あらかじめ住所を記載して提出しているが,当該住所が届出住所と同一であったことからすれば,これが不審事由に当たるとまでいうことはできない。 以上を総合考慮しても,いまだ払戻請求者が正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情が存在したということはできず,上記Xの行った払戻手続は,同請求者の受領権限につき相当な確認手続を経て行われたということができ,過失は認められない。 エ口座D(亡○男名義の被告丁銀行の口座)の払戻しについて前記認定のとおり,被告丁銀行×□支店のテラーであるZは,本件預金通帳,払戻請求書及び振込依頼書の提出を受け,健康保険証の提示も受け,同じテラーであるVとともに払戻請求書の印鑑照合を行い,請求者の言動に特に不審な点が見受けられないとして,口座Cから900万円を引出し,振込送金した。 その際,Zは,払戻依頼書の氏名欄が「○男」ではなく「○場」と誤記されていることに気付いたが,健康保険証で本人確認をしていたことから,訂正を促しただけで,もう急いでいる,いつもこうやって書いている,急いでくれといわれるや,そのまま払戻手続を行ったことが認められる。この「男」と「場」とでは誤記の程度は非常に大きく,当て字や通称と当然にいえるものではなく,この点は,払戻請求者が正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情が存在していたといえる。 る。この「男」と「場」とでは誤記の程度は非常に大きく,当て字や通称と当然にいえるものではなく,この点は,払戻請求者が正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情が存在していたといえる。 そして,提示された身分証明書である健康保険証は,写真付きの身分証明書でもなく,結果的には,偽造のものであった。さらに,その健康保険証においては,本人の苗字に「シカヤ」とフリガナがなされているのに対し,振込依頼書では,「シカタニ」と異なったフリガナがつけられていたが,Zは気付いていなかった。 しかも,印鑑照合機のモノクロモニターに表示された印鑑票の署名と払戻請求書の署名とを比較すると「谷」の字の1画及び2画が書き方において違っていたが,Zは気づいていなかった。 以上の事実を総合すれば,被告丁銀行×□支店の窓口業務担当者のZには,払戻請求者が正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情が存在したにもかかわらず,払戻請求者の受領権限を他に確認する方法をとらずに払戻手続及び送金手続を行った点において,過失が認められる。 (2)本人確認手続における被告らの過失の有無口座Dの払戻しについては被告丁銀行に過失が認められるが,その他の払戻手続については被告らに過失を認めることはできない。 5 争点4(副印鑑のない通帳に作り直しを指導する義務の有無)について届出印鑑の印影を預金通帳に押捺しておく副印鑑制度は,印鑑票が保管されている取引店以外の支店においても払戻しができるという点で,預金者にとって便利な制度であるが,一方では通帳のみが盗まれた場合でも,通帳に添付されている副印鑑から印章ないし印影を偽造され,預金の払戻しをされる可能性があるため,無権限者に対する払戻しの危険を有する制度であることは原告の主張のとお 方では通帳のみが盗まれた場合でも,通帳に添付されている副印鑑から印章ないし印影を偽造され,預金の払戻しをされる可能性があるため,無権限者に対する払戻しの危険を有する制度であることは原告の主張のとおりである。 他方で,争いのない事実並びに証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,全銀協は,平成15年9月16日に副印鑑制度の廃止を申しあわせ,この時点で全銀協加盟銀行の6割が副印鑑制度を廃止し,被告丙銀行は,その前である平成15年9月1日より副印鑑制度を廃止したこと,被告丁銀行においては平成14年6月1日より副印鑑制度を廃止し,来店した顧客に対し個別に説明して,順次通帳に添付した副印鑑を削除していたことが認められる。 そうすると,上記認定の副印鑑制度の廃止状況に照らせば,平成15年6月当時,被告丙銀行において副印鑑制度を廃止し,又は,被告丁銀行において副印鑑制度の廃止をすべての顧客に周知し,通帳の作り直しを指導する義務までは認められない。 6 結論したがって,原告らの被告らに対する請求は,被告丁銀行に対する請求のうち,原告乙1に450万円,同乙2,同乙3,同乙4,同乙5及び同乙6に対しそれぞれ90万円の各預金払戻し及び亡○男の代理人が被告丁銀行に対し,預金払戻請求をした平成15年11月18日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による金員を支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから,これをいずれも棄却することとし,仮執行宣言は相当でないのでこれを付さないこととし,よって,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第3民事部裁判官松葉佐隆之 福岡地方裁判所第3民事部裁判官松葉佐隆之
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