平成19(行コ)137 原爆症認定申請却下処分取消等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成15年(行ウ)第320号,第341号,第343号から第356号,第520号から第523号,平成16年(行ウ)第38号から第43号,第145号,第146号,第304号,第305号)

裁判年月日・裁判所
平成21年5月28日 東京高等裁判所 その他
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判決文本文330,912 文字)

- 1 -主文 原判決主文第1項中承継前1審原告Z1,同Z2,1審原告Z3,同Z4,同Z5,同Z6,同Z7,同Z8,同Z9,承継前1審原告Z10,1審原告Z11,同Z12,同Z13,同Z14,同Z15及び承継前1審原告Z16に関する部分並びに原判決主文第2項中1審原告Z17,同Z18(ただし,申請疾病を胃がんとする部分に限る,同Z19,同Z。)20,同Z21,同Z22,同Z23,同Z24及び同Z25の却下処分取消請求に関する部分を取り消す。 前項の取消しに係る1審原告ら及び1審原告承継人らの訴えを却下する。 1審原告Z26の控訴に基づき,原判決主文第2項中,同1審原告の1審被告厚生労働大臣に対する却下処分取消請求に関する部分を取り消す。 1審被告厚生労働大臣が,1審原告Z26に対し,平成14年8月22日付けでした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づく原爆症認定却下処分を取り消す。 1審原告Z18の控訴に基づき,原判決主文第2項中,同1審原告の1審被告厚生労働大臣に対する却下処分取消請求に関する部分(ただし,申請疾病を直腸がんとする部分に限る)を取り消す。 。 1審被告厚生労働大臣が,1審原告Z18に対し,平成14年9月9日付けでした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づく原爆症認定却下処分のうち,申請疾病を直腸がんとする部分を取り消す。 1審原告Z27の控訴に基づき,原判決主文第2項中,同1審原告の1審被告厚生労働大臣に対する却下処分取消請求に関する部分を取り消す。 1審被告厚生労働大臣が,1審原告Z27に対し,平成15年12月25日付けでした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づく原爆症認定却下処分を取り消す。 - 2 - 1審原告Z26,同Z1 厚生労働大臣が,1審原告Z27に対し,平成15年12月25日付けでした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づく原爆症認定却下処分を取り消す。 - 2 - 1審原告Z26,同Z18及び同Z27のその余の控訴並びにその余の1審原告ら及び1審原告承継人らの控訴(ただし,第1項及び第2項に関する部分を除く)を棄却する。 。 1審被告厚生労働大臣の控訴(ただし,第1項及び第2項に関する部分を除く)を棄却する。 。 訴訟費用は,第1,2審を通じ,1審原告Z28と1審被告厚生労働大臣との間に生じた分は全部同1審原告の負担とし,その余の1審原告ら及び1審原告承継人らと同1審被告との間に生じた分は同1審被告の負担とし,1審原告ら及び1審原告承継人らと1審被告国との間に生じた分は全部1審原告ら及び1審原告承継人らの負担とする。 事実 及び理由第1章控訴の趣旨等(,「」第11審原告ら及び1審原告承継人ら以下1審原告承継人を便宜1審原告ということがある)の控訴の趣旨。 (1)原判決中,1審原告ら敗訴部分を取り消す。 (2)1審被告厚生労働大臣が1審原告Z17同Z26同Z18承継前,,,,1審原告Z29,同Z23,同Z28,同Z24,同Z25及び,承継前1審原告Z27に対し,原判決別紙一覧表の「却下処分日」欄の日付けでした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の認定申請に対する各却下処分を取り消す。 ,,,,,,(3)1審被告国は1審原告Z30同Z31同Z32同Z3同Z17同Z7,同Z26,同Z8,同Z18,同Z33,同Z9,同Z34,同Z23,同Z35,同Z36,同Z37,同Z28,同Z11,同Z24,同Z12,同Z25,同Z13,同Z27,同Z14及び同Z15に 同Z7,同Z26,同Z8,同Z18,同Z33,同Z9,同Z34,同Z23,同Z35,同Z36,同Z37,同Z28,同Z11,同Z24,同Z12,同Z25,同Z13,同Z27,同Z14及び同Z15に対し,それぞれ300万円及びこれらに対する,1審原告Z30,同Z31,同Z32,同Z3,同Z17,同Z7,同Z26,同Z8,同Z18,同Z33,- 3 -同Z9,同Z34,同Z23及び同Z35については平成15年6月13日から,同Z36,同Z37及び同Z28については同年9月23日から,同Z11,同Z24,同Z12,同Z25及び同Z13については平成16年3月9日から,同Z27,同Z14及び同Z15については同年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4)1審被告国は1審原告Z4に対し150万円同Z5及び同Z6に対,,,し,それぞれ75万円及びこれらに対する平成15年6月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (5)1審被告国は1審原告Z19に対し150万円同Z20同Z21,,,,及び同Z22に対し,それぞれ50万円及びこれらに対する平成15年6月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (6)1審被告国は1審原告Z38及び同Z39に対しそれぞれ150万円,,及びこれらに対する平成15年9月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (7)1審被告国は1審原告Z40に対し233万3333円同Z41に,,,対し,33万3333円,同Z42及び同Z43に対し,それぞれ16万6666円及びこれらに対する平成16年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (8)1審被告国は1審原告Z44及び同Z45に対しそれぞれ15 及び同Z43に対し,それぞれ16万6666円及びこれらに対する平成16年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (8)1審被告国は1審原告Z44及び同Z45に対しそれぞれ150万円,,及びこれらに対する平成16年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (9)訴訟費用は,第1,2審とも1審被告らの負担とする。 第21審被告厚生労働大臣の本案前の申立て本件訴えのうち,1審被告厚生労働大臣が,承継前1審原告Z1,同Z2,1審原告Z3,同Z17,承継前1審原告Z46,1審原告Z7,承継前1審原告Z47,1審原告Z18(申請疾病が胃がんの部分に限る,同Z9,承。)- 4 -継前1審原告Z29(申請疾病が悪性リンパ腫の部分に限る,1審原告Z2。)3,承継前1審原告Z10,1審原告Z11,同Z24,同Z12(申請疾病が子宮体がんの部分に限る,同Z25,同Z13,承継前1審原告Z48,。)1審原告Z15及び承継前1審原告Z16に対し,原判決別紙一覧表の「却下処分日」欄の日付けでした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の認定申請に対する各却下処分の取消しを求める部分を却下する。 第31審被告厚生労働大臣の控訴の趣旨(1)原判決中,1審被告厚生労働大臣敗訴部分を取り消す。 (2)上記取消しに係る1審原告らの請求を棄却する。 (3)訴訟費用は,第1,2審とも1審原告らの負担とする。 第4本案前の申立てに対する1審原告らの答弁承継前1審原告Z46,同Z10及び1審原告Z12については,申請疾病の一部についての原爆症認定が未了であるが,同人らが死亡したので,現時点において取消請求について訴えの利益がないことについては争わない。 第2章事案の概要第1事案の要旨本件は,被爆者であ 疾病の一部についての原爆症認定が未了であるが,同人らが死亡したので,現時点において取消請求について訴えの利益がないことについては争わない。 第2章事案の概要第1事案の要旨本件は,被爆者である1審原告ら又は承継前1審原告らが,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成6年法律第117号,以下「被爆者援護法」という)11条1項の規定に基づく認定(以下「原爆症認定」という)の申。 。 請をしたところ,いずれも却下処分を受けたため,1審被告厚生労働大臣に対し,各却下処分の取消しを求めるとともに,1審被告国に対し,各却下処分の違法を理由として,国家賠償法1条1項の規定に基づき,慰謝料(申請者1名につき各200万円)及び弁護士費用(申請者1名につき各100万円)並びにこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。 原判決は,1審原告(死亡者については承継前1審原告。なお,以下,承継- 5 -前1審原告について1審原告ということがあるの30名のうち21名「」。),に対する却下処分を違法として取り消し,その余の9名に対する却下処分は適法であるとして請求を棄却した上,国家賠償請求についてはいずれも理由がないとして棄却した。1審原告ら及び1審被告厚生労働大臣は,それぞれ敗訴部分を不服として控訴をした。 なお,当審の訴訟係属中に,1審原告(死亡者は承継前1審原告)らのうち20名について,却下処分が取り消され,原爆症の認定がされた(申請に係る疾病の一部について認定された者も含む。 。)第2法令の定め 被爆者援護法は,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(昭和32年法律第41号以下原爆医療法という及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に。 「」。)関す む。 。)第2法令の定め 被爆者援護法は,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(昭和32年法律第41号以下原爆医療法という及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に。 「」。)関する法律昭和43年法律第53号以下原爆特別措置法というを一(。 「」。)元化して平成6年に制定された法律であり,原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ,国の責任において,高齢化の進行している被爆者に対する保健,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ,併せて,国として原子爆弾による死没者の尊い犠牲を銘記するために制定されたものである(前文。 ) 被爆者援護法における被爆者とは,次のいずれかに該当する者であって,被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(同法1条。 )(1)原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令で定めるこれらに隣接する区域内に在った者(以下「直接被爆者」という)。 (2)原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間内に上記(1)に規定する区域のうちで政令で定める区域内に在った者(以下「入市被爆者」という)。 (3)上記(1)及び(2)に掲げる者のほか原子爆弾が投下された際又はその後に,おいて,身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者- 6 -(以下「救護被爆者」という)。 (4)上記(1),(2)及び(3)に掲げる者が当該各号に規定する事由に該当した当時その者の胎児であった者(以下「胎児被爆者」という)。 被爆者援護法は被爆者一般に対する健康管理7条から9条健康保険等,(),の自己負担分についての一般疾病医療費(18条)と別に,1審被告厚生労働大臣の認定(1 胎児被爆者」という)。 被爆者援護法は被爆者一般に対する健康管理7条から9条健康保険等,(),の自己負担分についての一般疾病医療費(18条)と別に,1審被告厚生労働大臣の認定(11条)を受けた被爆者に対し,医療の給付(10条)及び医療特別手当又は特別手当の支給(24条,25条)をするなどの援護措置を定めている。 第3前提事実 アメリカ合衆国は,昭和20年8月6日午前8時15分広島に,同月9日午前11時2分長崎に,それぞれ原子爆弾を投下した。 1審原告ら及び承継前1審原告らは,いずれも被爆者援護法1条の定める被爆者である。 1審原告ら又は承継前1審原告らは,被爆者援護法11条1項の規定に基づ,(,く原爆症認定申請をしたが1審被告厚生労働大臣1審原告Z2については厚生大臣)はこれらを却下した。これらの各認定申請の日,各処分の日,本件,,。 各訴訟提起の日訴状送達の日は本判決別紙一覧表1に記載のとおりである,,,。 なお当初の1審原告のうち次の者について訴訟係属中に訴訟承継があった(被承継人1審原告氏名)(承継人1審原告氏名)Z1Z30Z2Z31Z46Z4,Z5,Z6Z47Z8Z49Z33Z29Z19,Z20,Z21,Z22Z50Z35- 7 -Z10Z38,Z39Z48Z14Z51Z40,Z41,Z42,Z43Z16Z44,Z45 原爆症認定の要件は,①(ア)申請に係る負傷又は疾病が,原子爆弾の放射線当該負傷又は疾病が放射線以外の原子爆弾の傷害作に起因すること,又は(イ)申請者の治癒能力が放射線の影響を受けているこ用に起因するものであって,と放射線起因性及び②申請者が現に医療を要する状態にあること要医療(),(性)である(同法10条1 と,又は(イ)申請者の治癒能力が放射線の影響を受けているこ用に起因するものであって,と放射線起因性及び②申請者が現に医療を要する状態にあること要医療(),(性)である(同法10条1項。 ) 被爆者援護法11条2項の規定により1審被告厚生労働大臣がその意見を聴取するものとされている疾病・障害認定審査会原子爆弾被爆者医療分科会(以下「医療分科会」という)は,平成13年5月25日「原爆症認定に関する。 ,」(「」「」。 )。 審査の方針以下審査の方針又は13年方針という乙1を定めた審査の方針では,申請疾病の放射線起因性の判断に当たっては,原因確率及び。 (,)閾値を目安とするとした一定の疾病白血病がん及び副甲状腺機能亢進症について被爆者の性別,被曝時年齢,被曝線量ごとに原因確率を定め,原因確率が50パーセント以上である場合には放射線起因性が高いと推定し,これが10パーセント未満の場合には放射線起因性が低いと推定した上,申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案して判断するとした。被爆者の被曝線量は,①爆心地から2.5キロメートルまでの範囲で定めた初期放射線による被曝線量,②爆発後72時間の範囲で爆心地から広島700メートル,長崎600メートルの範囲内に立ち入った場合の残留放射線による被曝線量,③爆弾投下直後に己斐・高須地区及び西山地区等に滞在した場合の放射性降下物による被曝線量の合計値によるものとして,その数値が示されている。閾値が定められたのは放射線白内障のみであった。原因確率又は閾値が定められていない疾病については,肯定的な科学的知見が立証されていないことに留意しつつ- 8 -個別に判断するとした。 医療分科会は,平成20年3月17日「新しい審査の方針(以下「新審査,」 められていない疾病については,肯定的な科学的知見が立証されていないことに留意しつつ- 8 -個別に判断するとした。 医療分科会は,平成20年3月17日「新しい審査の方針(以下「新審査,」」「」。 )。 ,の方針又は20年方針という乙225を定めた新審査の方針では原因確率を基準から排除し,積極的に認定する範囲を,①被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者,②原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者,③原爆投下より約100時間経過後から,原爆投下より約2週間以内の期間に,爆心地から約2キロメートル以内の地点に1週間程度以上滞在した者とし,一定の疾病(①悪性腫瘍(固形がんなど②白血病③副甲状腺機能亢進症④放射線白内障加齢性白内障),,,(を除く,⑤放射線起因性が認められる心筋梗塞)については,反対すべき事。)由がない限り,放射線起因性を認めることとし,上記の積極的認定以外の申請については,申請者の被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を総合的に判断するとした。 1審被告厚生労働大臣は,新審査の方針が定められた後,1審原告ら又は承継前1審原告らのうち20名に係る申請について,先に行った却下処分を取り消し,改めて原爆症の認定を行った。その認定を受けた申請者,認定の日及び認定対象疾病は本判決別紙一覧表2に記載のとおりである。 第4 争点 放射線起因性の判断基準について(争点(1))本件のうち取消請求は,受益処分である原爆症認定の申請についてされた却下処分の取消しを求めるものであり,1審原告らは,各申請について認定要件(放射線起因性及び要医療性)が充足されているにもかかわらず申請を却下した点が違法であると主張する 症認定の申請についてされた却下処分の取消しを求めるものであり,1審原告らは,各申請について認定要件(放射線起因性及び要医療性)が充足されているにもかかわらず申請を却下した点が違法であると主張するものであるから,各1審原告について,その認定要件の有無の判断を要する。 ところで,医療分科会においては,原爆症認定の要件である放射線起因性等,,について審査の方針を定めていたが1審原告らは審査の方針の内容を批判し- 9 -あるべき判断基準を主張し,1審被告らは審査の方針の正当性を主張して対立するので,まず,審査の方針における放射線起因性の判断基準の当否について検討する。なお,前記のとおり,現時点では新審査の方針が定められ,これによる認定実務が行われているが,1審被告らの主張に則り,従前の審査の方針の相当性について判断する。 各1審原告の原爆症認定要件の充足性について(争点(2))争点(1)を前提として各1審原告に関する原爆症認定申請時点には後記の,(とおり,医療特別手当,特別手当が申請の日の属する月の翌月から支給されることに照らすと原則として申請時に認定要件を充足する必要があるにお,,。)。 ,,ける放射線起因性及び要医療性の充足性について判断する争点は被爆地点急性症状,病歴等の事実認定に関するもの,申請疾病の放射線起因性一般に関する知見に関するもの,要医療性に関するものなど,各1審原告によって多様である。 国家賠償請求について(争点(3))却下処分の違法を理由とする国家賠償請求について,さらに,国家賠償法上の違法性の有無を中心に判断する。 第5争点に関する当事者の主張についての原判決の引用争点(1)に関し1審原告らの主張として原判決260頁冒頭から322頁1,7行目までを引用し,1審被告らの主張として原 の有無を中心に判断する。 第5争点に関する当事者の主張についての原判決の引用争点(1)に関し1審原告らの主張として原判決260頁冒頭から322頁1,7行目までを引用し,1審被告らの主張として原判決413頁冒頭から477。 ,「」「」頁2行目までを引用するただし原判決307頁1行目の添うを沿うに,同317頁15行目の「その他の新生物」を「その他の悪性新生物」に,「。」「,」,「」同322頁5行目のないをないに同454頁4行目の前記1(3)を「前記2(3)」にそれぞれ改める。 第6争点に関する1審原告らの当審における主張別紙第1に記載のとおりである。 第7争点に関する1審被告らの当審における主張- 10 -別紙第2に記載のとおりである。 第3章当裁判所の判断第1本案前の判断 前記前提事実7記載のとおり,1審原告らの原爆症認定申請の却下処分のうち,その一部の却下処分が取り消され,原爆症認定の処分がされた。認定処分を受けた1審原告の氏名,申請に係る疾病名,認定処分に係る疾病名を再掲すると次のとおりである。 (1審原告名)(申請疾病)(認定疾病) Z1胃がん胃癌 Z2左腎がん腎ガン Z3左腎がん肺転移腎癌肺転移 Z17大腸腫瘍大腸腫瘍 Z46肝細胞がん肝細胞ガン肝硬変 Z7直腸がん直腸ガン胃がん胃ガン Z47卵巣腫瘍卵巣腫瘍 Z18胃がん胃ガン直腸がん Z9原発性肝がん原発性肝癌 Z29悪性リンパ腫悪性リンパ腫脳腫瘍 Z23胃がん胃ガン Z10肝硬変症(C型)肝腫瘍肝腫瘍 Z11悪性黒色腫悪性黒色腫- 11 - Z24肺がん肺ガン Z12子宮体がん パ腫脳腫瘍 Z23胃がん胃ガン Z10肝硬変症(C型)肝腫瘍肝腫瘍 Z11悪性黒色腫悪性黒色腫- 11 - Z24肺がん肺ガン Z12子宮体がん子宮体ガンC型肝炎肝硬変 Z25肺がん肺ガン Z13前立腺がん前立腺ガン Z48胃がん胃ガン Z15胃がん胃ガン Z16甲状腺濾胞がんの肺転移甲状腺がん,,,,,,, 上記のうち1審原告Z1同Z2同Z3同Z17同Z7同Z47同Z9,同Z23,同Z11,同Z24,同Z25,同Z13,同Z48及び同Z15については,申請疾病と認定疾病との間にそごはない。同1審原告らについては,その請求に係る取り消すべき行政処分が撤回され,新たに原爆症,。 の認定処分がされたことによって訴訟上取り消すべき行政処分がなくなったそして,被爆者援護法24条1項の規定に基づく医療特別手当及び同法25条1項の規定に基づく特別手当は,認定申請の日の属する月の翌月から支給され同法24条4項25条4項この点について上記1審原告らに不利益は残(,),らず,その他当初の却下処分を本件訴訟において取り消すことによって得る法的利益を肯定する根拠は見当たらない。したがって,上記1審原告ら14名に係る本件請求のうち,原爆症認定申請に対する却下処分の取消しを求める部分に係る訴えは,取消しを求める法律上の利益がないものとして不適法であり,却下を免れない。 新たに原爆症の認定を受けた1審原告らのうち(1)1審原告Z46について,は,申請疾病①肝細胞がん,②肝硬変のうち①肝細胞ガンの認定がされたが,,,,②肝硬変の認定がされず(2)1審原告Z18については申請疾病①胃がん②直腸がんのうち①胃がん 46について,は,申請疾病①肝細胞がん,②肝硬変のうち①肝細胞ガンの認定がされたが,,,,②肝硬変の認定がされず(2)1審原告Z18については申請疾病①胃がん②直腸がんのうち①胃がんの認定がされたが②直腸がんの認定がされず(3),,- 12 -1審原告Z29については,申請疾病①悪性リンパ腫,②脳腫瘍のうち①悪性リンパ腫の認定がされたが②脳腫瘍の認定がされず(4)1審原告Z10につ,,いては申請疾病①肝硬変症C型②肝腫瘍のうち②肝腫瘍の認定がされた,(),が①肝硬変症C型の認定がされず(5)1審原告Z12については申請,(),,疾病①子宮体がん,②C型肝炎,③肝硬変のうち①子宮体ガンの認定がされた,,,,が②C型肝炎③肝硬変の各認定がされず(6)1審原告Z16については申請疾病甲状腺濾胞がんの肺転移に対して疾病名甲状腺がんによる認定がされた。 被爆者援護法11条の規定による原爆症の認定処分は,被爆者の申請に基づいて行うこととされ,認定の対象は「負傷又は疾病」とされているのであるか,。 ら同条の申請及び認定は特定の負傷又は疾病についてされなければならない被爆者援護法施行規則12条1項2号が被爆者援護法11条1項の申請に係る申請書に「負傷又は疾病の名称」の記載を要求していること,同規則12条2項が申請書に添付を求める医師の意見書の書式に「負傷又は疾病の名称」の記載欄があることも,このことを裏付けている。また,原爆症の認定がされた場合に支給される医療特別手当の支給の終期は,原爆症認定の要件に該当しなくなった日の属する月とされているから被爆者援護法24条4項例えば認(),,定対象の疾病について要医療性がなくなった時は,認定対象外の疾病について治療を受け ,原爆症認定の要件に該当しなくなった日の属する月とされているから被爆者援護法24条4項例えば認(),,定対象の疾病について要医療性がなくなった時は,認定対象外の疾病について治療を受けていたとしても,その日の属する月で医療特別手当の支給は終了する。このように,原爆症認定の申請及び認定処分は,個別の負傷又は疾病ごとに行われなければならないから,申請に係る疾病の一部について却下処分を取り消して改めて認定処分が行われたとしても,残部についての却下処分が残っており,その取消しを求める利益はなお存在すると解すべきである。 しかし,負傷又は疾病の同一性の範囲には,必ずしも截然としたものといいがたいところがあることも否めない。この場合には,医学的な見地や被爆者援護法の趣旨,目的を総合的に考慮して,その同一性を判断するほかはない。 - 13 -上記の申請疾病と認定疾病にそごがあるものは(1)肝硬変肝がんを申請疾,,病とする申請に対して肝がんのみが認定されたもの(1審原告Z46,同Z10,(2)胃がん,直腸がんを申請疾病とする申請に対して胃がんのみが認定さ)れたもの(1審原告Z18,(3)悪性リンパ腫,脳腫瘍を申請疾病とする申請)に対して悪性リンパ腫のみが認定されたもの(1審原告Z29,(4)子宮体が)ん,C型肝炎,肝硬変を申請疾病とする申請に対して子宮体がんのみが認定されたもの(1審原告Z12,(5)甲状腺濾胞がんの肺転移を申請疾病とする申)()。 請に対して甲状腺がんのみが認定されたもの1審原告Z16に区分できる(4)の子宮体がんとその余のC型肝炎肝硬変が別個の疾病と見るべきである,ことは疑う余地がない(2)の胃がん直腸がんは異時多重がんでありそれ。 ,,,ぞれ原発性のものであるから甲1011の7 体がんとその余のC型肝炎肝硬変が別個の疾病と見るべきである,ことは疑う余地がない(2)の胃がん直腸がんは異時多重がんでありそれ。 ,,,ぞれ原発性のものであるから甲1011の7部位の異なるがんとしてそ(),,の間に疾病の同一性を認めることはできず,別個の疾病と見るべきである。 (3)の悪性リンパ腫脳腫瘍は悪性リンパ腫が脳に転移したものであり甲,,(1014の3この場合一つの疾病が拡がったものとして同一性を肯定する),,ことができると解する余地がある。しかし,本件においては,この点については,後記のとおり判断を要しないので,最終的判断はしないこととする。このことは(5)の甲状腺濾胞がんの肺転移について甲状腺がんの認定をしたものに,ついても,同肺がんが転移性のものであるから同様の問題が生ずるが,これについても後記のとおり判断を要しないこととなる。 (1)の肝硬変肝がんについては1審原告Z46はHBs抗体が陽性でB,,,型肝炎の疑いがあり,昭和57年ころから肝障害が認められ,平成3年6月に肝がんが発見されたものであり甲1007の1肝炎の持続により肝硬変(),,から肝がんに至ることが通常であることに照らせば,肝硬変と肝がんを一つの。 ,,,疾病と考える余地がないではないしかし本件訴訟において1審被告らは原爆放射線が肝がん発症に影響を与えることがあっても,肝炎又は肝硬変に影響を与えることがないとの主張をしていることに照らせば,肝がんについて放- 14 -射線起因性が認められるならば当然肝硬変についても放射線起因性が肯定される関係にあるとの医学的定説があるとはいえないから,疾病の同一性を認めることは困難である。なお,後記のとおり,この点についての判断を要しないことになる らば当然肝硬変についても放射線起因性が肯定される関係にあるとの医学的定説があるとはいえないから,疾病の同一性を認めることは困難である。なお,後記のとおり,この点についての判断を要しないことになる。 ,(,), 次に 証拠 甲1007の2甲1014の2及び弁論の全趣旨によれば前記3記載の6名のうち,1審原告Z46,同Z29,同Z10,同Z12及び同Z16は,当審口頭弁論終結時までに死亡していることが認められる。同1審原告らについては,改めて原爆症の認定処分があったが,申請疾病と認定疾病にそごがあり,申請の一部の却下処分が残っているので(前記のとおり転移性のがんについて同一性が肯定される者も含まれている,これらの者につ。)いて,なお,処分取消しについて法律上の利益があるかどうかを検討する。 被爆者援護法は,被爆者に対して,健康管理,医療及び手当の給付等の援護措置を講ずるものであるが,同法11条の規定に基づく原爆症認定処分は,同法10条の規定による医療の給付並びに同法24条の規定による医療特別手当及び同法25条の規定による特別手当の各支給の要件となっている。医療の給付については,同法18条に一般疾病医療費の支給の規定があり,被爆者であれば原爆症の認定がなくても医療費の自己負担をしなくても医療を受けることができるから,原爆症認定の利益は医療特別手当及び特別手当の受給利益に絞られる。前記のとおり,医療特別手当及び特別手当は,認定申請の日の属する月の翌月から認定の要件がなくなった日の属する月まで支給されるから,すでにされた原爆症の認定処分による上記1審原告らの上記各手当の支給額は,原爆症認定申請の日の属する月の翌月から死亡の日の属する月までと確定しており,残存する却下処分を取り消してその疾病についての認定処分を受ける利益はな 処分による上記1審原告らの上記各手当の支給額は,原爆症認定申請の日の属する月の翌月から死亡の日の属する月までと確定しており,残存する却下処分を取り消してその疾病についての認定処分を受ける利益はないというべきである。 したがって,上記1審原告ら5名に係る本件請求のうち,原爆症認定申請に対する却下処分の取消しを求める部分に係る訴えは,取消しを求める法律上の- 15 -利益がないものとして不適法であり,却下を免れない。 なお,1審原告Z18については,申請疾病のうち胃がんに係る原爆症認定申請部分の却下処分が取り消されて原爆症の認定処分がされたが,申請疾病のうち直腸がんに係る却下処分は残存しており,上記各疾病は転移性のものではなく,それぞれ原発性のものであって別個の疾病であるから,1審原告Z18の原爆症認定申請に対する却下処分の取消しを求める請求のうち,胃がんに係る部分は取消しを求める法律上の利益がなく訴えが不適法であり,却下を免れないが,直腸がんに係る部分の請求の当否は,なお判断を要する。 第2原子爆弾の被害 広島の原子爆弾(甲7,25の1,48,49,82,乙9,原審における証人Z52)広島に投下された原子爆弾以下原爆というは高濃縮のウラン23(「」。),5を砲弾状の塊とリング状の標的の2つに分け,砲弾状の塊を爆薬の力でリング状の標的に衝突合体させ,その衝撃で中性子発生装置を起動させ,連鎖反応を開始させるタイプのもの(砲身式)である。広島原爆は,昭和20年8月6日午前8時15分,広島市内の原爆ドーム付近のZ53病院の上空約580メートルで爆発した。爆弾に使用された高濃縮ウラン235は約60キログラムであるが,そのうち約0.7キログラムが核分裂反応を起こし,その余のウラン235は環境中に放出された。原爆の出力 上空約580メートルで爆発した。爆弾に使用された高濃縮ウラン235は約60キログラムであるが,そのうち約0.7キログラムが核分裂反応を起こし,その余のウラン235は環境中に放出された。原爆の出力は,TNT火薬約15キロトンに相当するものであり,そのエネルギー分布は,爆風50パーセント,熱線35パーセント,放射線15パーセントといわれている。爆発当時の気象は,気温. ,,(. )。 8度湿度80パーセント西風風速毎秒12メートルであった爆発の過程は次のとおりである。中性子発生装置から飛び出した中性子が,ウラン235の原子にぶつかり,原子が2つに分裂するとともに,新たな中性子を発生させ,その中性子が新たなウラン原子を分裂させる過程を繰り返し,核分裂の度にエネルギーと様々な放射線を発生させた。連鎖反応の開始から約- 16 -,。 100万分の1秒後には爆弾内部の温度は250万度に達し爆弾が炸裂した炸裂後,火球が出現して急速に膨張し,連鎖反応開始から約0.2秒後,火球,,は直径約310メートルに膨張しこのときから地上での熱線の影響が出始めこの時間帯から大量のガンマ線が放出された。火球によって加熱された周りの空気が急激に膨張し,衝撃波を発生させた。火球は,約0.51秒後から小さくなり始め,約1.7秒後,キノコ雲が形成された。キノコ雲は,火球に含まれていた①核分裂生成物質,②誘導放射化された原爆の器材物質と大気中の原子核,③核分裂しなかった核分裂性物質をほとんどそのまま含んで上昇し,雲頂は,30分後に高度約1万2000メートルに達し,1時間後には高さ,半径ともに十数キロメートルに達したと推定される。爆心地に近いところでは上昇気流が支配的であり,爆心地から離れるに従い下降気流が支配的となった。 (,,,, ートルに達し,1時間後には高さ,半径ともに十数キロメートルに達したと推定される。爆心地に近いところでは上昇気流が支配的であり,爆心地から離れるに従い下降気流が支配的となった。 (,,,,,) 長崎の原子爆弾甲7 乙9原審における証人Z52長崎に投下された原爆は,球状の爆弾の中心に中性子発生装置を置き,その回りを臨界量以下のプルトニウム239で取り巻き,さらにその周囲を天然ウランで球状に囲み,その外側に高性能火薬を取り付け,火薬に点火させること,,により中心のプルトニウム239が圧縮され密度が高まって臨界状態となり連鎖反応を開始させるタイプのもの(爆縮式)である。長崎原爆は,昭和20年8月9日午前11時2分,長崎市内の競技場の北東約300メートルの上空約500メートルで爆発した。爆弾に使用されたプルトニウム239は約8キログラムであるが,そのうち約1キログラムから1.1キログラムが核分裂反応を起こし,その余は環境中に放出された。原爆の出力は,TNT火薬約22。 ,,. ,キロトンに相当するものであった爆発当時の気象は快晴気温288度湿度71パーセント,南西の風(風速毎秒3メートル)であった。原爆炸裂後発生したキノコ雲は,午前11時40分時点で,雲底1200~1300メートル,雲頂4000~5000メートルで,雲底部分は広く広がり,その先端は,爆心地の南方約25キロメートルの野母崎の先端付近まで広がり,北方に- 17 -も同程度の広がりがあった。 原爆の物理的影響(甲7,25,27,137,乙9,18,118,120)(1)衝撃波及び爆風(乙9)原爆の爆発によって形成された火球の膨張によって数十万気圧の超高圧が作られ,まわりの空気が大膨張して爆風となり,爆心地付近では風速毎秒 7,乙9,18,118,120)(1)衝撃波及び爆風(乙9)原爆の爆発によって形成された火球の膨張によって数十万気圧の超高圧が作られ,まわりの空気が大膨張して爆風となり,爆心地付近では風速毎秒280メートル,3.2キロメートル地点でも毎秒28メートルであった。爆風の先端は衝撃波として進行し,爆発の約10秒後には爆発地点から約3. 7キロメートルに,30秒後には約11キロメートル地点に達した。 (2)熱線(乙9)原爆の爆発で生じた火球は,爆発の瞬間に温度が最高で数百万度に達し,0.3秒後には火球表面温度が約7000度,爆発後3秒以内に火球から放射された熱線の99パーセントが地上に影響を与えた。熱線による木材などの黒こげは爆心地から約3キロメートルまで及び,爆心地から約1.2キロメートル以内で無遮蔽の人は致命的な熱線熱傷を受け,死者の20~30パーセントが熱線によるものと推定される。 (3)放射線ア放射線の種類(甲25,27,137)放射線には,X線やガンマ線などの光と同じ性質を持つ電磁波と,アルファ線,ベータ線,中性子などの粒子線とがあるが,いずれも人体細胞を含む物質を通過する能力があり,それらが通過する物質にエネルギーを与えるとともに,その電離作用によって様々な傷を作る。また,放射線は,電離放射線(放射線が照射されたことにより,原子の周囲から弾き出された(電離)電子が,さらに周囲の原子から電子をはぎ取って二次的な電離を起こす場合)と非電離放射線とに分けられ,電離放射線には,アルファ,,,,,,線ベータ線ガンマ線中性子線等があり非電離放射線には紫外線可視光線,赤外線,電波などがある。原子爆弾の爆発に際しては,非電離- 18 -放射線も発生するが,これまで広島原爆,長崎原爆について具体的な評価はなされ 性子線等があり非電離放射線には紫外線可視光線,赤外線,電波などがある。原子爆弾の爆発に際しては,非電離- 18 -放射線も発生するが,これまで広島原爆,長崎原爆について具体的な評価はなされていない。 アルファ線,中性子線のように高い密度で電離作用を行って短い距離の間に多くのエネルギーを与える放射線を高LET放射線と呼び,これに対し,低LET放射線は,ガンマ線のように,低い密度で電離作用を行って細胞にまばらにエネルギーを与えるものをいう。低LET放射線であるガンマ線が細胞にほぼ均一に損傷を作るのに対し,中性子線やアルファ線のような高LET放射線の場合には,同じ線量でも細胞の局所に損傷が不均一に生じ修復が難しい。各放射線の危険度を表す指標として生物学的効果比があり,国際放射線防護委員会(ICRP)の平成2(1990)年勧告によれば,その値は,ガンマ線を1として,ベータ線は1,中性子線はエネルギーに応じて5~20,陽子線は5,アルファ線は20とされている。 イ放射線の単位(乙118,120),(),放射線の量の単位は(ア)放射線を出す側に着目した単位ベクレル等(イ)放射線を受ける側に着目した単位グレイ(ウ)人体に対する影響を(),加味した単位(シーベルト)などがある。 (ア)ベクレル等ベクレル(Bq)は,放射線源に含まれる放射性同位元素の量を表す単位であり,1ベクレルは,1秒間に1個の原子が崩壊するときの放射能の強さである。以前に使われたキューリー(Ci)1単位は,370億ベクレルに相当する。他に,放射線源の強さを表すカウント,1本の放射線が持つエネルギーを表すエレクトロンボルト(ev)などの単位がある。 (イ)グレイ(吸収線量)1グレイ(Gy)は物質1キログラム当たり1ジュール(J)のエネルギーを吸収した時の ント,1本の放射線が持つエネルギーを表すエレクトロンボルト(ev)などの単位がある。 (イ)グレイ(吸収線量)1グレイ(Gy)は物質1キログラム当たり1ジュール(J)のエネルギーを吸収した時の量である従来用いられたラド(rad)は1グレイ=100。 ,- 19 -ラドで換算される。 (ウ)シーベルト(等価線量, Sv)人体の場合には,吸収線量が等しくても,放射線の種類やエネルギーの強さにより影響が異なるため,放射線防護学等の分野では,吸収線量に放射線の違いによる放射線荷重係数(生物学的効果比)を乗じて算出する。医療用に用いられる荷重係数はほとんどが1なので普通は吸収線量と等価線量は同じであるが,アルファ粒子は係数20,中性子は係数5から20(エネルギーの強さにより異なる)である。 ウ初期放射線と残留放射線(甲7,41の14,乙9,18,原審における証人Z52)(ア)初期放射線原爆爆発後1分以内に空中から放射された放射線を初期放射線と呼ぶ。その主要成分は,ガンマ線と中性子線である。ガンマ線のうち核分裂の連鎖反応が起こっている100万分の1秒以内に放出されるものを即発ガンマ線と呼び,爆発1分以内に核分裂生成物や誘導放射化された原子核から放出されたものを遅発ガンマ線と呼ぶ。遅発ガンマ線には,大気中の主として窒素と水素の原子核及び地上の物質の原子核が中性子を吸収して誘導放射化して放出するガンマ線も含まれる。中性子のうち核分裂の連鎖反応の瞬間に核分裂で放出されるものを即発中性子と呼び,核分裂で生じた核分裂生成物からやや遅れて放出された中性子を遅発中性子と呼ぶ。また,原爆の器材物質の原子核がガンマ線を吸収して放射核となって中性子を放出するものがある。核分裂によって生じたエネルギーの約15パーセントが,初期放射線として放出され た中性子を遅発中性子と呼ぶ。また,原爆の器材物質の原子核がガンマ線を吸収して放射核となって中性子を放出するものがある。核分裂によって生じたエネルギーの約15パーセントが,初期放射線として放出されたとされている。 (イ)残留放射線残留放射線は,爆発後1分より後の長時間にわたって放射されるもの- 20 -であり,2種類に大別される。1つは,放射性降下物で,核分裂生成物(),()及び分裂しなかったウラン235広島プルトニウム239長崎が空中に飛散し,爆発1分以後のガンマ線,ベータ線及びアルファ線の放射線源となったものである。もう1つは,地上に降り注いだ初期放射線が土壌や建築物資材の原子核に衝突して原子核反応を起こし,それによって放射線を誘導する誘導放射能である。核分裂によって生じたエネルギーの約10パーセント(初期放射線のエネルギーの約2倍)が,残留放射線として放出されたとされている。誘導放射線は,初期放射線に比べると線量は小さいものの,長時間にわたり残存し,遠距離被爆者及び入市被爆者に影響を与えたとされている。 原爆による被害(1)死亡者(乙5,9)原爆による死亡者数は正確に把握されていないが,広島市では全人口34万人から35万人のうち9万人から16万6000人が死亡し,長崎市では全人。 口25万人から27万人のうち6万人から8万人が死亡したといわれている,,,また広島市調査課によれば昭和21年8月10日現在の広島の死者は軍人,広島で作業をしていた朝鮮半島の人々を除いて11万8661人であり,このうち約11.4万人が,昭和20年12月までのいわゆる急性期に死亡したと考えられている。急性期の死亡者のうち,爆心地から2キロメートル以内の死亡総数を100パーセントとしたとき,初めの2週間の死亡者は88.7 4万人が,昭和20年12月までのいわゆる急性期に死亡したと考えられている。急性期の死亡者のうち,爆心地から2キロメートル以内の死亡総数を100パーセントとしたとき,初めの2週間の死亡者は88.7パーセント,第3週から第8週までの死亡者が11.3パーセントであったとされている。 (2)爆風,衝撃波による被害(甲7,9)爆風,衝撃波は,建物等の建築物を倒壊させ,倒壊した建物からは火災が発生し,大災害を生じさせた。建物被害は地形が大きく影響し,広島では,被爆前の建物の約91.9パーセントが半壊・半焼・大破以上の被害を受け- 21 -たのに対し,山が多い長崎では,これが36.1パーセントであった。しかし,その被害は甚大であり,爆風及び火災によって灰燼に帰した面積は,広島で13平方キロメートル,長崎で6.7平方キロメートルに及んだ。 (3)熱線による被害(乙9)原爆による熱線により,爆心地は摂氏3000度にも達し,瓦,岩石を溶融させ,人体を炭化させた。露出した皮膚に第1次熱傷(爆発による熱線が直接引き起こす熱傷火災等による熱傷を第2次熱傷というが生じた範囲。 。),. ,. 。 は広島で半径35キロメートル長崎で同40キロメートルであった(,,,,,(4)放射線による人体に対する被害甲2541の25乙9535566,119,120)放射線の人体への影響は,急性障害と後障害に分けられる。急性障害は,昭和20年12月末までに生じた障害をいい,後障害はそれより後に生じた障害をいう。 ア放射線の急性障害(ア)急性障害(急性症状)としては,高度な放射線を浴びた者は,火傷等の外傷が軽い場合であっても,被曝直後から,全身の不快な脱力感,吐き気,嘔吐などの症状が現れ,2,3日から数日の間に発熱,下痢,喀血,吐血,下 (急性症状)としては,高度な放射線を浴びた者は,火傷等の外傷が軽い場合であっても,被曝直後から,全身の不快な脱力感,吐き気,嘔吐などの症状が現れ,2,3日から数日の間に発熱,下痢,喀血,吐血,下血,血尿を起こし,全身が衰弱して被曝から10日前後で死亡した。 (),,(イ)第3週から第5週までの時期亜急性症状の主な症状は吐き気嘔吐,下痢,脱毛,脱力感,倦怠,吐血,下血,血尿,鼻出血,歯齦出血,生殖器出血,皮下出血,発熱,咽頭痛,口内炎,白血球減少,赤血球減少,無精子症,月経異常などであった。 病理学的に最も著明な変化は,放射線による骨髄,リンパ節,脾臓などの組織の破壊で,その結果,血球,特に顆粒球及び血小板の減少が生じた。この時期の死因の多くは敗血症であった。そのほか死因との直接- 22 -の関係は少ないが,下垂体,甲状腺,副腎などの内分泌腺に放射線による萎縮性障害像がみられた。 (ウ)第6週から第8週(合併症状)には,比較的軽微な症状であった者は回復に向かい始めたが,一部には肺炎,膿胸,重症大腸炎などの症状を発し,いったん好転しかけていたものが再び容態が悪化した例がかなりみられた。これらの発現は,放射線による人の抵抗力の減弱によるものと考えられている。 (エ)第3月から第4月の終わりまで(回復症状)は,外傷,熱傷,放射線による血液や内臓諸臓器の機能障害も回復傾向を示したが,生殖器への放射線の影響はなお続いており,男性の精子数減少,女性の月経異常もみられた。 イ放射線の後障害一般に,昭和21年以降に発生した放射線に起因すると考えられる人体影響を,放射線の後障害と呼び,このうち,被曝後長年月の潜伏期を経て現れてくるものを特に晩発障害と呼び,急性障害に引き続いて起きる障害を慢性障害と呼ぶ場合もある。個々の症例を観察する 考えられる人体影響を,放射線の後障害と呼び,このうち,被曝後長年月の潜伏期を経て現れてくるものを特に晩発障害と呼び,急性障害に引き続いて起きる障害を慢性障害と呼ぶ場合もある。個々の症例を観察する限り,一般にみられる疾病と同様の症状をもっており,放射線に起因するかどうかの見極めは不可能であるが,被曝集団として考えると,集団中に発生する疾病の頻度が高い場合があり,そのような疾病は放射線に起因している可能性が高いと判断される。 ウ放射線被害の確定的影響と確率的影響(ア)放射線の確定的影響放射線は,直接的に遺伝子のDNAやタンパク質分子を傷つける。同時に間接的に放射線により体内で生成されたフリーラジカル(遊離基)が,タンパク質分子や遺伝子を傷つける。タンパク質分子や遺伝子は修復作用を持つが,一定線量以上の放射線を浴びて大量のタンパク質分子- 23 -や遺伝子が同時に傷つけられ,修復作用が働かなくなって多数の細胞死が起こる場合や,多数の遺伝子が傷つけられて多くの細胞分裂が正常に行われなくなる場合には,放射線症状が現れる。このような機能喪失に基づいて症状が出現するものを放射線の確定的影響という。その典型が()。 ,急性原爆症放射線症である特定臓器障害の確定的影響については症状出現のための線量(しきい値)が存在すると考えられる。この確定的影響の場合,被曝線量がしきい値を超えれば,症状が出現し,線量の増加に伴って症状が出現する者の割合が増えるとともに,症状が重篤になる。 国際放射線防護委員会(ICRP)は,昭和52(1977)年の報告書で「しきい線量」の例を報告し,次いで,同専門委員会1の課題グループの昭和59(1984)年の報告書である「電離放射線の非確率的影響ではしきい線量をある特定の影響が被曝した人々の少な」,「 「しきい線量」の例を報告し,次いで,同専門委員会1の課題グループの昭和59(1984)年の報告書である「電離放射線の非確率的影響ではしきい線量をある特定の影響が被曝した人々の少な」,「」,くとも1~5パーセントに生ずるのに必要な放射線の量を表すのに用い,線量限度(及び被曝線量)の概念を構築してきた。 しきい値は,過去に起こった放射線障害の事例を調査して推定されるものであり,歴史的には1920年代,30年代,50年代と進むにしたがって,職業被曝における職業人の線量限度は概して低い方向に改訂されてきた。 (イ)放射線の確率的影響これに対して,タンパク質分子や遺伝子の修復によりいったん急性症状が治まっても,誤った修復作用が行われることがあり,誤った修復作,。 用の起こる確率は被爆者の浴びた放射線量に比例するといわれている遺伝子が誤って修復された場合に,長年の後に,がん等の放射線後障害を引き起こすことがある。この放射線後障害は,被曝線量にほぼ比例して確率的に発症するので,確率的影響といわれる。このように,確率的- 24 -影響は,極少量の線量であっても生じる可能性があると考えられ,しきい値はなく,症状の重篤性は線量と直接的な相関関係がない。 ,,,急性症状は被曝後短期に現われる確定的影響であり短期に出現しかつその症状がかなり特異であるため原爆放射線の因果関係や影響は把握しやすい。これに対して確率的影響による後障害にはこのような特徴がない。遺伝子が不完全に修復されるとしても,その点はすぐには症状に現われない。しかも,確率的影響による場合,悪性腫瘍等の疾病が出現するまでに多くは10年以上の歳月を要する。そして,例えば悪性腫瘍では,がん抑制遺伝子等,多くの遺伝子が関与しているとされるが,遺伝子障害の機序で明らかになっ 影響による場合,悪性腫瘍等の疾病が出現するまでに多くは10年以上の歳月を要する。そして,例えば悪性腫瘍では,がん抑制遺伝子等,多くの遺伝子が関与しているとされるが,遺伝子障害の機序で明らかになったものは少なく,ほとんどは現在も未解明のままである。同じ疾病であっても,放射線に起因するとされる場合と,他原因による場合(非被爆者)とで,病理所見は一般的には区別できないとされている。 白血病以外の全部位のがん死亡率は,同一の死亡時年齢では,被曝時年齢が若いほど相対リスクも絶対リスクも大きくなっている。若年期は体細胞の分裂が盛んな時期であり,その時期に被曝すると放射線の影響は大きい。 (ウ)放射線の影響としきい値の適用範囲について上記の(ア),(イ)に整理したように,放射線の影響のうち,確定的影響についてはしきい値があるが,確率的影響についてはしきい値がないとする見解,そして,この確率的影響に関する分野には,遺伝子の突然変異あるいは染色体異常などが原因となって生じる体細胞に起きる変異(がん,白血病)及び生殖細胞に起きる変異(遺伝的影響)が含まれているとの理解が科学上主流の見解とされて現在に至っている。 国際放射線防護委員会(ICRP)は,人が放射線を浴びた場合(被曝とは,放射線あるいは放射性物質にさらされる過程を表す包括的な意- 25 -味である。したがって,被曝線量の意味は,照射線量のそれとは全く異なるものであるには低い程度のものであっても人体への影響があり。),得るという考えに立っている(この立場を,しきい値のない直線反応関係LNT:Linear-NonthresholdDose-Responseという国際的に()。)。 はこれを支持する平成21990年のICRP報告書同17 ,(),(005) :Linear-NonthresholdDose-Responseという国際的に()。)。 はこれを支持する平成21990年のICRP報告書同17 ,(),(005)年のBEIR委員会(放射線の生物学的影響に関する米国科学アカデミー委員会の第7報告書その後に発表された世界保健機構W),(HO)附属組織の国際がん研究機関(IARC)の報告書があり,反対するものに平成17(2005)年のフランス科学アカデミーの報告書がある。この対立の原因は,主として,広島・長崎の被爆者の疫学的データを基にしているところ,上記の対立に関する領域のデータが不十分であるためと指摘されている。 第3被爆者援護法と原爆症認定基準 被爆者援護法について(1)原爆医療法の制定とその内容原爆医療法(原子爆弾被爆者の医療等に関する法律,昭和32年法律第41号は広島市及び長崎市に投下された原子爆弾の被爆者が今なお置かれ),「ている健康上の特別の状態にかんがみ,国が被爆者に対し健康診断及び医療を行うことにより,その健康の保持及び向上をはかることを目的と」して制定された(1条。 )同法は,被爆者援護法と同様,被爆者健康手帳の交付を受けた者を被爆者と定義し(2条「厚生大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又),は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対し,必要な医療の給付を行う。ただし,当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは,その者の治ゆ能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る(7条1項)と規定して,放射。」- 26 -線起因性が認められる負傷又は疾病に対して医療の給付を行うこととした。 医療の給付を受けるためには,厚生大臣による原爆症の認定を る状態にある場合に限る(7条1項)と規定して,放射。」- 26 -線起因性が認められる負傷又は疾病に対して医療の給付を行うこととした。 医療の給付を受けるためには,厚生大臣による原爆症の認定を受けることを要し,厚生大臣が認定に当たって原子爆弾被爆者医療審議会(以下「医療審議会というの意見を聴くことを要するのは被爆者援護法と同様である」。),(8条。 )その後,原爆医療法の改正(昭和35年法律第136号)により,一般疾病医療費の制度(14条の2。原子爆弾の放射線を多量に浴びた被爆者(特別被爆者)に限定されていたが,その後その制限がなくなった,医療手当。)の制度(14条の8。医療の給付を受けている期間につき月額2000円)が追加された。 (2)原爆特別措置法の制定とその内容原爆特別措置法(原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律,昭和43年法律第53号は広島市及び長崎市に投下された原子爆弾の被爆者で),「あつて,原子爆弾の傷害作用の影響を受け,今なお特別の状態にあるものに対し,特別手当の支給等の措置を講ずることにより,その福祉を図ることを目的と」して制定された(1条。 )同法は,原爆症の認定を受けた被爆者に対する特別手当(2条,当初月額1万円),原爆医療法14条の2が定める特別被爆者に対する健康管理手当5条当初月額3000円同法7条1項の医療の給付を受けている者に(,),対する医療手当7条特別被爆者で介護を要する者に対する介護手当 (),(条)の各制度を規定した。各手当については,一定の所得制限があった。 その後,原子爆弾小頭症手当(4条の2,保健手当(5条の2,葬祭料))の支給(9条の2)等が追加され,原爆医療法上の前記医療手当が原爆特別措置法の特別手当に統合されて医療特別手当の 限があった。 その後,原子爆弾小頭症手当(4条の2,保健手当(5条の2,葬祭料))の支給(9条の2)等が追加され,原爆医療法上の前記医療手当が原爆特別措置法の特別手当に統合されて医療特別手当の制度となった。 (3)被爆者援護法の制定とその内容ア原爆投下後50年を迎え,平成6年に,原爆医療法及び原爆特別措置法- 27 -を一元化するものとして,被爆者援護法(原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律,平成6年法律第117号)が制定され(平成7年7月1日施行,上記2法は廃止された。 )イ被爆者援護法は前文を設け,次のとおり定める。 「昭和二十年八月,広島市及び長崎市に投下された原子爆弾という比類のない破壊兵器は,幾多の尊い生命を一瞬にして奪ったのみならず,たとい一命をとりとめた被爆者にも,生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を残し,不安の中での生活をもたらした。 このような原子爆弾の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉を図るため,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律を制定し,医療の給付,医療特別手当等の支給をはじめとする各般の施策を講じてきた。また,我らは,再びこのような惨禍が繰り返されることがないようにとの固い決意の下,世界唯一の原子爆弾の被爆国として,核兵器の究極的廃絶と世界の恒久平和の確立を全世界に訴え続けてきた。 ここに,被爆後五十年のときを迎えるに当たり,我らは,核兵器の究極的廃絶に向けての決意を新たにし,原子爆弾の惨禍が繰り返されることのないよう,恒久の平和を念願するとともに,国の責任において,原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ,高齢化の進行している被爆者に対する保健 の平和を念願するとともに,国の責任において,原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ,高齢化の進行している被爆者に対する保健,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ,あわせて,国として原子爆弾による死没者の尊い犠牲を銘記するため,この法律を制定する」。 ,,,,ウ被爆者援護法が定める被爆者は直接被爆者入市被爆者救護被爆者胎児被爆者で被爆者健康手帳(2条)の交付を受けたものとしており(1条,この点は原爆医療法と同様である。 )- 28 -エ被爆者援護法が定める被爆者に対する援護措置は次のとおりである。 (ア)健康管理都道府県知事は,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところにより健康診断を行い7条健康診断に関する記録を作成・保存し,(),(8条,必要な指導を行う(9条。 ))(イ)医療の給付厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対し,必要な医療の給付を行う。ただし,当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは,その者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る(10条1項。 )(ウ)一般疾病医療費の支給厚生労働大臣は,被爆者が,上記(イ)の医療給付を受けることができる負傷又は疾病以外の負傷又は疾病について医療を受けたときは,当該医療に要した費用を限度として,一般疾病医療費の支給をすることができる(18条1項。 )(エ)医療特別手当の支給都道府県知事は,11条1項の認定(原爆症認定)を受けた者であって,当該認定に係る負傷又は疾病の状態にあるものに対し,医療特別手当を支給する(24条1項。月額 1項。 )(エ)医療特別手当の支給都道府県知事は,11条1項の認定(原爆症認定)を受けた者であって,当該認定に係る負傷又は疾病の状態にあるものに対し,医療特別手当を支給する(24条1項。月額13万5400円(同条3項。 ))(オ)特別手当の支給都道府県知事は,11条1項の認定(原爆症認定)を受けた者(医療。),()特別手当の支給を受けている者を除くに対し特別手当月額5万円を支給する(25条。 )(カ)原子爆弾小頭症手当の支給都道府県知事は,被爆者であって,原子爆弾の放射能の影響による小- 29 -頭症の患者であるものに対し,原子爆弾小頭症手当(月額4万6600円)を支給する(26条。 )(キ)健康管理手当の支給都道府県知事は,被爆者であって,造血機能障害,肝臓機能障害その他厚生労働省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除くにかかっているもの医。)(療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当の支給を受けている者を除。),()()。 くに対し健康管理手当月額3万3300円を支給する27条(ク)保健手当の支給都道府県知事は,被爆者のうち,原子爆弾が投下された際爆心地から2キロメートルの区域内に在った者又はその当時その者の胎児であった者(医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当,健康管理手当の支給を受けている者を除くに対し保健手当月額1万6700円を。),()支給する。ただし,厚生労働省令で定める身体上の障害(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除くがある者。)等については3万3300円とする(28条。 )(ケ)その他介護手当(31条,葬祭料(32条,特別葬祭給付金(33条)の)) 影響によるものでないことが明らかであるものを除くがある者。)等については3万3300円とする(28条。 )(ケ)その他介護手当(31条,葬祭料(32条,特別葬祭給付金(33条)の))支給の制度が定められている。 (4)原爆症認定の要件と手続被爆者援護法による原爆症認定制度の概要は次のとおりである。 ア認定要件について被爆者援護法による援護措置のうち医療の給付10条1項医療特,(),(),(),別手当の給付24条特別手当25条の給付を受けるについてはあらかじめ,当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の厚生労働大臣の認定(原爆症認定)を受けなければならないとしている(11- 30 -条1項。 )これらの規定によれば,法11条1項に基づく認定をするには,被爆者が現に医療を要する状態にあること(要医療性)のほか,現に医療を要する負傷又は疾病が原子爆弾の放射線に起因するものであるか,又は右負傷又は疾病が放射線以外の原子爆弾の傷害作用に起因するものであって,その者の治ゆ能力が原子爆弾の放射線の影響を受けているため右状態にあること(放射線起因性)を要すると解される(最高裁平成10年(行ツ)第43号同12年7月18日第三小法廷判決参照。 )イ申請手続について原爆症の認定を受けようとする者は,都道府県知事を経由して,厚生労働大臣に,負傷又は疾病の名称,被爆時の状況(入市の状況を含む,被。)爆直後の症状及びその後の健康状態の概要等を記載した認定申請書(様式第5号)に,医師の意見書(様式第6号)及び当該負傷又は疾病に係る検査成績を記載した書類を添えて提出しなければならないものとされ,上記医師の意見書には,①疾病等の名称,②被爆者健康手帳の番号,③被爆者の氏名及び生年月日,④既往症,⑤現 及び当該負傷又は疾病に係る検査成績を記載した書類を添えて提出しなければならないものとされ,上記医師の意見書には,①疾病等の名称,②被爆者健康手帳の番号,③被爆者の氏名及び生年月日,④既往症,⑤現症所見,⑥当該疾病等が原子爆弾の放射能に起因する旨,原子爆弾の傷害作用に起因するも放射能に起因するものでない場合においては,その者の治ゆ能力が原子爆弾の放射能の影響を受けている旨の医師の意見,⑦必要な医療の内容及び期間を記載すべき(,)。 ものとされている被爆者援護法施行令8条1項同法施行規則12条ウ審議会等の意見聴取被爆者援護法は,厚生労働大臣は,原爆症認定を行うに当たって,審議会等国家行政組織法8条に規定する機関をいうで政令で定めるものの(。)意見を聴かなければならないとし11条2項同法施行令9条において(),その審議会等は疾病・障害認定審査会とされた。 そして,同審査会は,委員30人以内で組織し,特別の事項を審査させ- 31 -るため必要があるときは,臨時委員を置くことができ,これら委員及び臨時委員は,学識経験のある者のうちから,厚生労働大臣が任命するものと((),されている疾病・障害認定審査会令平成12年政令第287号1条2条また同審査会に被爆者援護法の規定に基づき認定審査会の権限)。 ,,に属させられた事項を処理する分科会として,原子爆弾被爆者医療分科会(医療分科会)を置くものとされ,同分科会に属すべき委員及び臨時委員等は,厚生労働大臣が指名するものとされている(同令5条。 ),,,なお原爆医療法当時は厚生大臣が原爆症の認定を行うに当たっては医療審議会の意見を聴くものとされていた(同法8条2項。 )エ認定書の交付厚生労働大臣は,原爆症認定の申請書を提出した者につき原爆症の認定を 医療法当時は厚生大臣が原爆症の認定を行うに当たっては医療審議会の意見を聴くものとされていた(同法8条2項。 )エ認定書の交付厚生労働大臣は,原爆症認定の申請書を提出した者につき原爆症の認定をしたときは,その者の居住地の都道府県知事を経由して,認定書を交付する(被爆者援護法施行令8条2項。 )(5)原爆医療法に関する最高裁昭和53年判決最高裁昭和50年(行ツ)第98号同53年3月30日第一小法廷判決(民集32巻2号435頁)は,大韓民国国籍を有する被上告人が昭和46年10月5日上告人福岡県知事に対して原爆医療法3条の規定に基づき被爆者健康手帳の交付を申請したところ,被上告人が不法入国した者でわが国に正規の居住関係を有しないとの理由で却下されたため,その取消しを求めた事案である。上告人が,上告理由において,原審福岡高等裁判所が,原爆医療法は社会保障法の性格を有すると同時に,被爆者に対する国家補償法的性格をも有する一種特別の立法であるから,社会保障法であることを理由に居住関係の存在が要件であると解することはできないと判示した点を非難し,同法が社会保障立法であり,国家補償法的性格を有するものではないと主張したのに対し第一小法廷は原爆医療法は被爆者の健康面に着目して公費に,,「,より必要な医療の給付をすることを中心とするものであって,その点からみ- 32 -ると,いわゆる社会保障法としての他の公的医療給付立法と同様の性格をもつものであるということができる。しかしながら,被爆者のみを対象として特に右立法がされた所以を理解するについては,原子爆弾の被爆による健康上の障害がかつて例をみない特異かつ深刻なものであることと並んで,かかる障害が遡れば戦争という国の行為によってもたらされたものであり,しかも,被爆者の多くが今なお生活 ては,原子爆弾の被爆による健康上の障害がかつて例をみない特異かつ深刻なものであることと並んで,かかる障害が遡れば戦争という国の行為によってもたらされたものであり,しかも,被爆者の多くが今なお生活上一般の戦争被害者よりも不安定な状態に置かれているという事実を見逃すことはできない。原爆医療法は,このような特殊の戦争被害について戦争遂行主体であった国が自らの責任によりその救済をはかるという一面をも有するものであり,その点では実質的に国家補償的配慮が制度の根底にあることは,これを否定することができないのである」と判示するなどして,上告を退けた。 。 上記の第一小法廷の説示は,原爆医療法に関するものであるが,原爆医療法を継受した被爆者援護法にも当てはまるものである。 (6)原爆被爆者対策基本問題懇談会の昭和55年報告(乙46)厚生大臣は,昭和54年6月,被爆者対策についての検討のため有識者7名に委嘱して,原爆被爆者対策基本問題懇談会を組織し,昭和55年12月,「」11日同懇談会の原爆被爆者対策の基本理念及び基本的在り方についてと題する報告書を得た。 同報告書はⅠ原爆被爆者対策の基本理念の項の中で今次の戦争,「」,「(による国民の犠牲の中で広島及び長崎における原爆投下による被爆者の犠),牲がきわめて特殊性の強いものであることは,何人も否定しがたいところである「無警告の無差別的奇襲攻撃により(中略)人間の想像を絶した地。」,,獄を現出したそしてこれが戦争終結への直接的契機ともなった等の事。 ,。」,,「,実を記述し上記最高裁昭和53年判決を引用した上で原爆被爆者対策は原爆被害という特殊性の強い戦争損害に着目した一種の戦争損害救済制度と,。 ()解すべきでありこれを単なる社会保障制度と考えるの を記述し上記最高裁昭和53年判決を引用した上で原爆被爆者対策は原爆被害という特殊性の強い戦争損害に着目した一種の戦争損害救済制度と,。 ()解すべきでありこれを単なる社会保障制度と考えるのは適当でない中略- 33 -国は原爆被爆者に対し,広い意味における国家補償の見地に立って被害の実。」。 ,態に即応する適切妥当な措置対策を講ずべきものと考えるとしたそして①国の完全な賠償責任を認めるものではなく「相当の補償」を認めるべきであること,②国民の租税負担によって賄われることやほとんどすべての国民が何らかの戦争被害を受けていることに照らせば,被爆者対策は国民の合意を得ることのできる公正妥当な範囲にとどまらなければならないこと,③地方公共団体の被爆者対策への協力が強く要請されることの3点を補足し,旧軍人軍属等に対する援護策と均衡のとれたものとすべきという声には,心情論として理解できるが,法律論としては採用しがたいと付記した。 「Ⅱ原爆被爆者対策の基本的在り方」の項では,①被爆者の放射線被曝の程度は人によって差があり画一的な対策に流れず公平の原則は考慮,,「」しながらも「必要の原則」を重視すべきこと,②被爆死に対する弔慰金及び遺族年金の要求については,国民的合意が得ることはむずかしいこと,③被爆地の拡大は,科学的・合理的根拠に基づいて行うべきであることが指摘されている。 「Ⅲ原爆被爆者対策の内容の改善」の項では,当時の健康診断,医療の給付,諸手当の支給等の対策は,他の戦争被害者に対する救済措置と対比して,それ相応の配慮といえるとし,原爆投下以来35年を経て,被爆者対策の対象者が37万人を超えるが,晩発障害の発生等を考慮しても,対策の真の対象は漸減していくのが筋であるとした上で,被爆による放射線障害の実態に即し いえるとし,原爆投下以来35年を経て,被爆者対策の対象者が37万人を超えるが,晩発障害の発生等を考慮しても,対策の真の対象は漸減していくのが筋であるとした上で,被爆による放射線障害の実態に即し必要の原則に従って適切妥当な救済措置を講ずべきであるとす,「」る。そして,原爆放射線の身体的影響について,多くの事実が明らかにされているが,なお解明されていない分野があるとして,さらに研究体制の整備充実を計らうことにより問題を逐次解明することが,被爆者に対する国の重大な責務であるとともに,国際社会の平和発展に貢献する道といえるとしている。 - 34 - 審査の方針について(1)審査の方針制定前の認定基準等ア治療指針について(甲15)原爆医療法の施行(昭和32年4月1日)の後,同年5月14日衛発第385号「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律による診療方針等について各都道府県知事広島・長崎市長あて公衆衛生局長通知があった」(,,)がこれに代わるものとして昭和33年8月13日原子爆弾後障害症,,,「治療指針について衛発第726号各都道府県知事・広島・長崎市長あて」(厚生省公衆衛生局長通知)が発せられた。 この通知は,原爆医療法7条の医療の給付に係る医療が適切に行われるよう,原爆の傷害作用に起因する負傷又は疾病(原子爆弾後障害症)の特徴及び患者の治療に当たり考慮されるべき事項を定めたものである。総論では,原子爆弾後障害症の特徴として,①原子爆弾投下時に被った熱線又は爆風等による外傷の治癒異常と②投下時における直接照射の放射能及び核爆発の結果生じた放射性物質に由来する放射能の影響との二者に大別され,①は原子爆弾熱傷の瘢痕異常で代表され,これを含め原爆投下時の外傷が一般のものとはその治癒経過その他に相違が 接照射の放射能及び核爆発の結果生じた放射性物質に由来する放射能の影響との二者に大別され,①は原子爆弾熱傷の瘢痕異常で代表され,これを含め原爆投下時の外傷が一般のものとはその治癒経過その他に相違が認められる,②は造血機能障害,内分泌機能障害,白内障等によって代表され,被爆後10年以上を経た今日でもいまだに発病者をみている状態であり,これらの後障害に関しては,従来幾多の臨床的及び病理学的研究が重ねられた結果,その成因についても次第に明瞭となり,治療面でも改善が加えられつつあるが,今日いまだ決して十分とはいいがたいとする。さらに,治療上の一般的注意として次のとおり記載する。 「(1)いかなる疾患又は症候についても一応被爆との関係を考え,その経過及び予防について特別の考慮がはらわれなければならず,原子爆弾後障害症が直接間接に核爆発による放射能に関連するものである以上,被爆者の受けた放射能特- 35 -にγ線及び中性子の量によってその影響の異なることは当然想像されるが,被爆者の受けた放射能線量を正確に算出することはもとより困難である。この点については被爆者個々の発症素因を考慮する必要もあり,また当初の被爆状況等を推測して状況を判断しなければならないが,治療を行うに当たっては,特に次の諸点について考慮する必要がある。 イ被爆距離,,この場合被爆地が爆心地からおおむね2キロメートル以内のときは高度の2キロメートルから4キロメートルまでのときは中等度の,4キロメートルをこえるときは軽度の放射能を受けたと考えて処置してさしつかえない。 ロ被爆後における急性症状の有無及びその状況,被爆後における脱毛,発熱,粘膜出血,その他の症状をは握することにより,その当時どの程度放射能の影響を受けていたか判断することのできる場合がある。 ,,,(2 おける急性症状の有無及びその状況,被爆後における脱毛,発熱,粘膜出血,その他の症状をは握することにより,その当時どの程度放射能の影響を受けていたか判断することのできる場合がある。 ,,,(2)原子爆弾後障害症として比較的明瞭なものは瘢痕治癒異常造血機能障害内分泌機能障害,白内障等であるが,この外,肝機能障害,各種腫瘍等種々の続発症の生ずる可能性も考慮しなければならない。 (3)原子爆弾後障害症においては,その症状が一進一退することが多いので,治療を加えた結果一応軽快をみても,その後における健康状態には絶えず注意を払う必要がある。 (4)原子爆弾被爆者の中には,自身の健康に関して絶えず不安を抱き神経症状を現わすものも少なくないので,心理的面をも加味して治療を行う必要がある場合もある。 (5)原子爆弾後障害症については,全身的な補強が,肉体的にはもちろん精神的にも好影響をもたらす場合が少なくない。 特に全身衰弱の認められるものには,量的及び質的に十分な栄養の補給,強壮剤の投与を行うとともに,各種のストレスに対する予備能力の低下傾向に注意する必要がある」。 - 36 -上記通知は,原爆医療法8条1項が定める原爆症認定の基準を定めるものではなく,同法11条1項の健康保険の診療方針に関して特に留意すべき事項を,同法9条の指定医療機関に周知させる目的で発せられたものであるが,原爆症認定の審査を担当していた医療審議会の意見聴取を経ており,原爆症についての当時の起因性判断の考え方を推認させるものといえる。特に,原爆による放射線の線量評価システムが存在しない時期に,被爆者ごとの被曝線量の推定についての一応の目安が示されているところは注目する必要がある。 イ実施要領について(甲254)治療指針と日を同じくして原子爆弾被爆者の医療等 テムが存在しない時期に,被爆者ごとの被曝線量の推定についての一応の目安が示されているところは注目する必要がある。 イ実施要領について(甲254)治療指針と日を同じくして原子爆弾被爆者の医療等に関する法律によ,「り行う健康診断の実施要領について衛発第727号各都道府県知事・広」(島・長崎市長あて厚生省公衆衛生局長通知)が発せられた。 この通知は,被爆者の健康診断(原爆医療法4条)の健康診断を行うに当たって考慮すべき事項を定めたものであるが,被爆者の障害の放射性起因性に関する記述として,次のような記載がある。 「いうまでもなく放射能による障害の有無を決定することは,はなはだ困難で,,,あるためただ単に医学的検査の結果のみならず被爆距離被爆当時の状況被爆後の行動等をできるだけ精細には握して,当時受けた放射能の多寡を推定するとともに,被爆後における急性症状の有無及びその程度等から間接的に当該疾病又は症状が原子爆弾に基づくか否かを決定せざるを得ない場合が少なくない」。 「被爆者の健康診断を行うに当つて特に考慮すべき点は,次のとおりである。 (一)被爆者の受けたと思われる放射能の量原子爆弾の放射能に基づく疾病である限り,被爆者の個々の発症素因,生活条件等は別として,被爆者の受けた放射能の量が問題になることはいうまでもない。 - 37 -しかし,現在において被爆当時にうけた放射能の量をは握することはもとより困難であるが,おおむね次の事項は当時受けた放射能の量の多寡を推定するうえにきわめて参考となりうる。 被爆距離被爆した場所の爆心地からの距離が2キロメートル以内のときは高度の,2キロメートルから3キロメートルのときは中等度の,4キロメートル以上のときは軽度の放射能を受けたと考えてさしつかえない。 被爆場所の状況 所の爆心地からの距離が2キロメートル以内のときは高度の,2キロメートルから3キロメートルのときは中等度の,4キロメートル以上のときは軽度の放射能を受けたと考えてさしつかえない。 被爆場所の状況原子爆弾後障害症に関し,問題となる放射能は,主としてγ線及び中性子線であるので,被爆当時におけるしやへい物の関係はかなり重大な問。 ,,題であるこのうち特に問題となるのは開放被爆としやへい被爆の別後者の場合には,しやへい物等の構造並びにしやへい状況等に関し,十分詳細に調査する必要がある。 被爆後の行動原子爆弾後障害症に影響したと思われる放射能の作用は,主として体外照射であるが,これ以外に,じんあい,食品,飲料水等を通じて放射能。 ,物質が体内に入つた場合のいわゆる体内照射が問題となり得る従つて被爆後も比較的爆心地の近くにとどまつていたか,直ちに他に移動したか等,被爆後の行動及びその期間が照射量を推定する上で参考となる場合が多い。 (二)被爆後における健康状況,,前述の被爆者の受けたと思われる放射能の量に加えて被爆後数日ないし数週に現われた被爆者の健康状態の異常が,被爆者の身体に対する放射能の影響の程度を想像させる場合が多い。すなわち,この期間における健康状態の異常のうちで脱毛,発熱,口内出血,下痢等の諸症状は原子爆弾による障害の急性症状を意味する場合が多く,特にこのような症状の顕著で- 38 -あつた例では,当時受けた放射能の量が比較的多く,従つて原子爆弾後障害症が割合容易に発現しうると考えることができる。 (三)臨床医学的探索臨床医学的探索にあたつては,原子爆弾後障害症として最も発現率の高い造血機能障害の検査に主体をおくほか,肝機能検査,内分泌機能検査等もあわせて行う必要のある場合がある。 また,異常について 学的探索臨床医学的探索にあたつては,原子爆弾後障害症として最も発現率の高い造血機能障害の検査に主体をおくほか,肝機能検査,内分泌機能検査等もあわせて行う必要のある場合がある。 また,異常については,この異常が放射能以外の原因に基づくものであるか否かについては,詳細に検討を加えたうえ,一応考えられる他の原因を除外した後においてはじめて放射能に基づくものと認めるべきであり,従つて,この鑑別診断を行うにあたつては,尿検査,糞便検査,X線検査その他必要ある検査はもちろん十分に行わなければならない。 (四)経過の観察原子爆弾後障害症,例えば,軽度の貧血や白血球減少症のようなもの一部のでは,所見が一進一退する場合が往々にしてみられるので,被爆者の健康について十分に経過を観察する必要がある」。 ウ認定基準(内規)について(甲7,253)医療審議会は平成6年9月19日認定基準内規以下6年認,,「()」(「定基準(内規」ということもある)を定めた。同基準は,線量評価につ)。 いて,爆心地からの距離に応じて申請者の被爆地点における被曝線量を評価し,さらに遮蔽条件により係数を乗ずるとして,広島及び長崎のそれぞれにつき,爆心地から1200メートルから2500メートルまでについて参考表1遮蔽を考慮した線量評価の目安radを掲げ例え,「()()」(ば広島で遮蔽なし1200メートルの場合170ラド残留放射線に,,),よる被曝を考慮するとして,広島及び長崎のそれぞれにつき,滞在開始時点2時間後から64時間後までについて「参考表2)誘導放射能による,(被曝線量8時間滞在時:radを掲げ例えば広島2時間後 ()」(,,,- 39 -メートルの場合25ラド放射性降下物による被曝 でについて「参考表2)誘導放射能による,(被曝線量8時間滞在時:radを掲げ例えば広島2時間後 ()」(,,,- 39 -メートルの場合25ラド放射性降下物による被曝線量として参考表),,「( 放射性降下物による被曝線量組織吸収線量を掲げている己斐-)()」(高須地区(広島)は0.6~2ラド,西山地区(長崎)は12~24ラドとする。 。)影響評価については,確率的影響によるものとして,①原爆放射線に起因性があると考えられるもの(白血病,前白血病状態,甲状腺がん,乳がん肺がんにつき5ラド原爆放射線に起因性があるとみなせるもの胃,),(ガン,結腸がん,卵巣がん,多発性骨髄腫)につき10ラド,放射線起因性は明確でないが確率的影響の特徴を考慮すべきもの(食道がん,膀胱が,,,,),ん皮膚がん肝臓がん神経系腫瘍悪性リンパ腫等につき25ラド放射線起因性は疫学的に否定されているが確率的影響の特徴を考慮すべきもの(膵臓がん,胆嚢がん,直腸がん,子宮がん,骨肉腫,ホジキン病,慢性リンパ性白血病,ウィルスマーカー陽性の肝臓がん)につき50ラドとし,さらに,確定的影響によるものとして,原爆放射線に起因性がある(,,,とみなせるもの放射線白内障甲状腺機能低下症副甲状腺機能亢進症恒久的な造血機能障害)につき10ラド,高線量の場合には原爆放射線に起因性があるとみなせるもののうちウィルスマーカー陰性の慢性肝炎,肝硬変につき100ラド,同じくウィルスマーカー陽性の慢性肝炎,肝硬変につき1000ラドとしているほか,胎児被爆,乳幼児被爆の場合,外傷,。 ,,異物熱傷瘢痕等について定めている要医療性については原則としてほぼ毎月,保健医療を受療している状態であることとし,受 につき1000ラドとしているほか,胎児被爆,乳幼児被爆の場合,外傷,。 ,,異物熱傷瘢痕等について定めている要医療性については原則としてほぼ毎月,保健医療を受療している状態であることとし,受療頻度が少な,()。 い場合でもがんの再発管理のための経過観察術後5年などを定める(2)審査の方針の制定とその内容(甲1)医療分科会では,平成13年5月25日,審査の方針(13年方針)を決定し,その基準を目安として原爆症の認定審査を行うこととした。審査の方針の全文は次のとおりである。 - 40 -「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成6年法律第117号)第11条1項の認定に係る審査に当たっては,それぞれ,以下に定める方針を目安として,これを行うものとする。 第1原爆放射線起因性の判断 判断に当たっての基本的な考え方1)申請に係る負傷又は疾病(以下「疾病等」という)における原爆放射線起。 因性の判断に当たっては,原因確率(疾病等の発生が,原爆放射線の影響を受けている蓋然性があると考えられる確率をいう。以下同じ)及び閾値(一。 ,。 定の被曝線量以上の放射線を曝露しなければ疾病等が発生しない値をいう以下同じ)を目安として,当該申請に係る疾病等の原爆放射線起因性に係る。 「高度の蓋然性」の有無を判断する。 2)この場合にあっては,当該申請に係る疾病等に関する原因確率が,①おおむね50パーセント以上である場合には,当該申請に係る疾病の発生に関して原爆放射線による一定の健康影響の可能性があることを推定②おおむね10パーセント未満である場合には,当該可能性が低いものと推定する。 3)ただし,当該判断に当たっては,これらを機械的に適用して判断するもので,,,,はなく当該申請者の既往歴環境因子生活歴等も総合 未満である場合には,当該可能性が低いものと推定する。 3)ただし,当該判断に当たっては,これらを機械的に適用して判断するもので,,,,はなく当該申請者の既往歴環境因子生活歴等も総合的に勘案した上で判断を行うものとする。 4)また,原因確率等が設けられていない疾病等に係る審査に当たっては,当該疾病等には,原爆放射線起因性に係る肯定的な科学的知見が立証されていないことに留意しつつ,当該申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を判断するものとする。 原因確率の算定原因確率は,次の表の申請に係る疾病等,申請者の性別の区分に応じ,それぞれ定める別表に定める率とする。 - 41 -申請に係る疾病名申請者の性別別表白血病男別表1-1女別表1-2胃がん男別表2-1女別表2-2大腸がん男別表3-1女別表3-2甲状腺がん男別表4-1女別表4-2乳がん女別表5肺がん男別表6-1女別表6-2肝臓がん皮膚がん(悪性黒色腫を除く)男別表7-1卵巣がん尿路系がん(膀胱がんを含む)女別表7-2食道がんその他の悪性新生物男女別表2-1副甲状腺機能亢進症男女別表8 閾値放射線白内障の閾値は,1.75シーベルトとする。 原爆放射線の被曝線量の算定申請者の被曝線量の算定は,1)の値に,2)及び3)の値を加えて得た値とする。 1)初期放射線による被曝線量初期放射線による被曝線量は,申請者の被爆地及び爆心地からの距離の区分に応じて定めるものとし,その値は別表9に定めるとおりとする。 2)残留放射線による被曝線量残留放射線による被曝線量は,申請者の被爆地,爆心地からの距離及び爆発後の経過時間の区分に応じて定めるものとし,そ 定めるものとし,その値は別表9に定めるとおりとする。 2)残留放射線による被曝線量残留放射線による被曝線量は,申請者の被爆地,爆心地からの距離及び爆発後の経過時間の区分に応じて定めるものとし,その値は別表10に定めるとおりとする。 3)放射性降下物による被曝線量放射性降下物による被曝線量は,原爆投下の直後に特定の地域に滞在し,又いて定めるはその後,長期間に渡って当該特定の地域に居住していた場合につ- 42 -こととし,その値は次のとおりとする。 特定の地域放射性降下物による被曝線量己斐又は高須(広島)0.6~2センチグレイ西山3,4丁目又は木場(長崎)12~24センチグレイ その他1)2に規定する「その他の悪性新生物」に係る別表については,疫学調査では放射線起因性がある旨の明確な証拠はないが,その関係が完全には否定できないものであることにかんがみ,放射線被曝線量との原因確率が最も低い悪性新生物に係る別表2-1を準用したものである。 2)3に規定する放射線白内障の閾値は,95パーセント信頼区間が1.31~2.21シーベルトである。 第2要医療性の判断,,。 要医療性については当該疾病等の状況に基づき個別に判断するものとする第3方針の見直しこの方針は,新しい科学的知見の集積等の状況を踏まえて必要な見直しを行うものとする」。 なお,審査の方針の別表は次頁以下のとおりである。 (3)審査の方針の制定経過及び関連事項甲120乙69原審における証(,,人Z54)審査の方針(13年方針)は,確率的影響に属する疾病については,申請者の原爆放射線被曝線量(原爆線量)を確定し,疾病ごとの別表の被曝線量,性別,被爆時年齢区分に表された原因確率を適用し,これが50パーセント以上の場合には健康影響の可能性が する疾病については,申請者の原爆放射線被曝線量(原爆線量)を確定し,疾病ごとの別表の被曝線量,性別,被爆時年齢区分に表された原因確率を適用し,これが50パーセント以上の場合には健康影響の可能性があり,10パーセント未満の場合にはこれが低いとの前提の下に,申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案した上で起因性を判断するものとしている。 - 43 -被曝線量を確定することについては,それ以前の6年認定基準(内規)も同様であり,DS86(原爆線量再評価,DOSIMETORYSYSTEM 1986,乙21,24)に依拠して行われていた。被曝線量を初期放射線量による被曝線量,残留放射線による被曝線量及び放射性降下物による被曝線量の値を加算したものとする点も,審査の方針と6年認定基準(内規)と同じであって,被曝(放射線あるいは放射性物質にさらされる過程を表す包括的なもの)の結果もたらされる線量により人体への健康影響を被爆者ごとに数値で求めようとする方法論に依拠しているものである。初期放射線量は別表9に示されているが,広島について爆心地からの距離100メートル(1万5010センチグレイ)から2500メートル(1センチグレイ)の間50メートルごとに線量が示され,長崎についても爆心地からの距離100メートル(3万1000センチグレイ)から2500メートル(2センチグレイ)の間の50メートルごとの線量が示されている。被爆時に(別表1-1から同10まで添付省略)遮蔽があった場合の初期放射線量は,同表の値に被爆状況によって0.5から1を乗じた値とすることとした。残留放射線量は別表10に示されているが,広島及び長崎それぞれについて,爆発後72時間までの間,爆心地からの距離700メートルまでの範囲(長崎は600メートルまで)について数値が示され こととした。残留放射線量は別表10に示されているが,広島及び長崎それぞれについて,爆発後72時間までの間,爆心地からの距離700メートルまでの範囲(長崎は600メートルまで)について数値が示されている。 審査の方針では,原因確率を被爆者ごとの原爆症認定の審査基準として導入した点に特徴がある。原因確率は,Z54広島大学医学部保健学科健康科学教授を主任研究者とする「放射線の人体への健康影響評価に関する研究平成12年度厚生科学研究費補助金厚生科学特別研究事業の総括」()研究報告書(乙2)に基づくものである。医療分科会では,この研究を基礎として検討を加えて,医療分科会長が,疾病・障害認定審査会運営規程9条に基づき平成13年5月25日審査の方針原爆症認定に関する,,(「- 44 -審査の方針)を決定した。 」審査の方針の別表1から8は,年齢区分を持つものについては0歳から30歳としており,原因確率の最小値(被曝時年齢30歳で被曝線量が最),()も少ないもの最大値被曝時年齢が0歳で被曝線量が最も大きいものを摘記すると次の表のとおりとなる(原因確率の後の括弧内は被曝線量であり,単位はセンチグレイである。 。)最小最大別表1-1(白血病男)2.5%(2)88.8%(100)別表1-2(白血病女)1.7%(0.5)76.1%(15)別表2-1(胃がん男)0.8%(30)59.0%(1000)別表2-2(胃がん女)1.3%(3)70.5%(100)別表3-1(大腸がん男)0.6%(3)75.5%(100)別表3-2(大腸がん女)1.1%(2)89.3%(100)別表4-1(甲状腺がん男)0.8%(1)90.1%(50)別表4-2(甲状腺がん女)1.4%(2)88.3%(50)別表5( )別表3-2(大腸がん女)1.1%(2)89.3%(100)別表4-1(甲状腺がん男)0.8%(1)90.1%(50)別表4-2(甲状腺がん女)1.4%(2)88.3%(50)別表5(乳がん)2.4%(2)66.2%(50)別表6-1(肺がん男)3.1%(10)39.2%(200)年齢の区別なし別表6-2(肺がん女)4.5%(5)58.7%(150)年齢の区別なし別表7-1(肝臓がん等男)2.3%(5)50.5%(150)別表7-2(肝臓がん等女)2.7%(5)54.9%(150)別表8(副甲状腺機能亢進症)1.5%(1)92.4%(50)性別の区別なしなお,Z54論文では,肝硬変及び子宮筋腫の原因確率が示されているが,その最小値及び最大値は以下のとおりである。審査の方針では採用されなかった。 最小最大(肝硬変)3.5%(20)35.1%(300)(子宮筋腫)2.2%(5)40.8%(150)- 45 -審査の方針並びにそれが依拠したDS86及び寄与リスクの問題点は,後に検討することとする。 (,,,(4)審査の方針の下における医療分科会の審査の実情甲1617125268の1,乙17)前記のとおり,厚生労働大臣は,原爆症認定の許否の判断にあっては,医療分科会の意見を聴かなければならないが(平成11年法律第102号による被爆者援護法の改正前は,医療審議会であった,その審査の実情は次の。)とおりであった。なお,本件の1審原告中,却下処分の取消請求に係る訴えの全部を却下された者を除いた数は11名であり,その却下処分は平成14()()年3月8日1審原告Z32から平成16年5月16日1審原告Z51の間にされている。 昭和47年に医療審議会委員になり,平成10年3月から会長を務め 11名であり,その却下処分は平成14()()年3月8日1審原告Z32から平成16年5月16日1審原告Z51の間にされている。 昭和47年に医療審議会委員になり,平成10年3月から会長を務めたZ55の平成11年ころの経験では,医療審議会の開催は年5回,1回当たり約5時間で70~80件の申請及び異議申立ての審査を行っていた。都道府県を経由して厚生省(現厚生労働省)に届いた申請書等の書類は,担当部局の医系技官を含む担当官が点検し,不足資料があれば取り寄せをし,疾患の分野別に担当委員が検討を行った上で,医療審議会の審査にかけられる。医療審議会の審査の場では,問題があるケースについては,1件につき20~30分の議論が行われる場合もあり,中には結論が出ないために審査を続行するものもあった。医療審議会の審査前の準備過程において,相当の検討が行われており,問題のあるケースについては,委員の間における議論も必要なだけ行われていた。 平成15年2月から2年間にわたり医療分科会委員を務めたZ56は,平成18年にZ57新聞の取材を受け,審査においては,被爆距離(被爆時の爆心地からの距離)で機械的に処理され,被爆状況についての被爆者の訴えは,明らかに認定されるもの及び明らかに認定されないものに関しては,申- 46 -請書類を見ることもなかったと批判的に述べている。しかし,同氏は,昼休みや次の審査までの間に読むようにしていたとも述べている。 審査の方針を採用した平成13年5月から平成17年までの間に審査した件数は3655件であり,そのうち910件が原爆症と認定された。平成14年ころの医療分科会は医師17名で構成され,同年中に886件の審査を行い,171件を原爆症と認定したが,当時の審査も1回約5時間で60~80件について審査が行われていた。 ちなみに された。平成14年ころの医療分科会は医師17名で構成され,同年中に886件の審査を行い,171件を原爆症と認定したが,当時の審査も1回約5時間で60~80件について審査が行われていた。 ちなみに,昭和32年の原爆医療法の制定から昭和35年までの同法に基づく医療審議会への諮問件数は毎年1000件を超え,その大半が認定を受。 ,,けていたその後の諮問件数は昭和40年ころには毎年数十件となったが昭和55年ころから漸増して毎年200~300件程度となった,平成13年から増加し,平成14年には年間915件の諮問があった。諮問件数のうち原爆症の認定がされた件数の比率(認定率)は,昭和32年当初は95パーセントを超えていたが,その後漸減し,昭和51年以降は50パーセントを下回り,平成13年,同14年,同15年,同16年は,それぞれ26パーセント,19パーセント,24パーセント,25パーセントとなった。平成16年末における被爆者健康手帳の所持者数は26万人強であるところ,同年末における原爆症認定者数は2232人である。 原爆症認定に関する訴訟等の動きと新審査の方針の決定(1)原爆症認定申請却下処分の取消しを求める訴訟の状況原爆症認定申請却下処分の取消しを求める訴訟が次のとおり係属し,判決があった(アからウまでは,最終審の判決を基準に記載する。 。)()ア最高裁判所第三小法廷平成12年▲月▲日判決平成▲年(行ツ)第▲号(),控訴審・福岡高等裁判所平成9年▲月▲日判決平成▲年(行コ)第▲号第1審・長崎地方裁判所平成5年▲月▲日判決(昭和▲年(行ウ)第▲号)いわゆる「Z58訴訟」といわれているものであり,右半身不全片麻痺- 47 -及び頭部外傷を申請疾病とする原爆症認定申請(原爆医療法8条1項)却下処分に対する取消訴訟について, 年(行ウ)第▲号)いわゆる「Z58訴訟」といわれているものであり,右半身不全片麻痺- 47 -及び頭部外傷を申請疾病とする原爆症認定申請(原爆医療法8条1項)却下処分に対する取消訴訟について,最高裁判所は,請求を認容する判断をした原判決を維持した。なお,原判決では,放射線起因性について「相当程度の蓋然性」の立証で足りるとの法律解釈を前提に判断したが,第三小法廷は放射線起因性の立証は通常の民事訴訟における場合と異なるもの,「ではなく一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが経験則」,「,に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とすると解すべきである」と説示した。 イ大阪高等裁判所平成12年▲月▲日判決(平成▲年(行コ)第▲号)第1審・京都地方裁判所平成10年▲月▲日判決(平成▲年(行ウ)第▲号等)いわゆる「Z59訴訟」といわれているものであり,肝機能障害及び白血球減少症を申請疾病とする原爆症認定申請(原爆医療法8条1項)却下処分に対する取消訴訟について,控訴審裁判所は,放射線起因性,要医療性を認めて取消請求を認容した原判決を維持した。なお,原判決が認容した国家賠償等の金銭請求については,原判決が取り消されて請求が棄却された。上告がなく確定した。 ウ東京高等裁判所平成17年▲月▲日判決(平成▲年(行コ)第▲号)第1審・東京地方裁判所平成16年▲月▲日判決(平成▲年(行ウ)第▲号)いわゆる「Z60訴訟」といわれているものであり,肝機能障害を申請疾病とする原爆症認定申請(原爆医療法8条1項によるものであるが,処分時は被爆者援護法による却下処分に対する 成▲年(行ウ)第▲号)いわゆる「Z60訴訟」といわれているものであり,肝機能障害を申請疾病とする原爆症認定申請(原爆医療法8条1項によるものであるが,処分時は被爆者援護法による却下処分に対する取消訴訟について控訴審。),裁判所は,放射線起因性を認めて取消請求を認容した原判決を維持した。 上告がなく確定した。 エ大阪地方裁判所平成18年▲月▲日判決(平成▲年(行ウ)第▲号,第▲- 48 -号,第▲号から第▲号)申請者9名が,原爆症認定申請却下処分の取消し及び国家賠償を求めた事案であり,裁判所は,9名全員について却下処分の取消請求を認容し,国家賠償請求を棄却した。原告ら及び被告厚生労働大臣が控訴をした。 オ広島地方裁判所平成18年▲月▲日判決(平成▲年(行ウ)第▲号,第▲号,第▲号,平成▲年(行ウ)第▲号)申請者40名が,原爆症認定申請却下処分の取消し及び国家賠償を求めた事案であり,裁判所は,40名全員について却下処分の取消請求を認容し,国家賠償請求を棄却した。 カ名古屋地方裁判所平成19年▲月▲日判決(平成▲年(行ウ)第▲号,平成▲年(行ウ)第▲号)裁判所は,申請者4名の原爆症認定申請却下処分の取消請求につき,2名の請求を認容し,他の2名の請求を棄却し,各国家賠償請求につき,すべて請求を棄却した。 キ仙台地方裁判所平成19年▲月▲日判決(平成▲年(行ウ)第▲号)裁判所は,申請者2名の原爆症認定申請却下処分の取消請求をいずれも認容し,各国家賠償請求をすべて棄却した。 ク東京地方裁判所平成19年▲月▲日判決(本件訴訟の原判決)既述のとおり,裁判所は,申請者30名の原爆症認定申請却下処分の取消請求につき,21名の請求を認容し,他の9名の請求を棄却し,各国家賠償請求をすべて棄却した。 ケ熊本地方裁判所平成19年▲月▲日(平 述のとおり,裁判所は,申請者30名の原爆症認定申請却下処分の取消請求につき,21名の請求を認容し,他の9名の請求を棄却し,各国家賠償請求をすべて棄却した。 ケ熊本地方裁判所平成19年▲月▲日(平成▲年(行ウ)第▲号,第▲号,,,,,,第▲号平成▲年(行ウ)第▲号第▲号第▲号平成▲年(行ウ)第▲号第▲号,第▲号,第▲号,第▲号)裁判所は,申請者21名の原爆症認定申請却下処分の取消請求につき,17名の請求を認容し,他の4名の請求を棄却し,各国家賠償請求をすべ- 49 -て棄却した。 コ仙台高等裁判所平成20年▲月▲日(平成▲年(行コ)第▲号)上記キの控訴審である。控訴審裁判所は,敗訴当事者からの各控訴を棄却した。上告がなく確定した。 サ大阪高等裁判所平成20年▲月▲日判決(平成▲年(行コ)▲号)。 ,。 上記エの控訴審である裁判所は敗訴当事者からの各控訴を棄却した上告がなく確定した。 シ長崎地方裁判所平成20年▲月▲日判決(平成▲年(行ウ)第▲号,第▲号,第▲号,第▲号,平成▲年(行ウ)第▲号,第▲号,第▲号,平成▲年(行ウ)第▲号)裁判所は,申請者27名の原爆症認定申請却下処分の取消請求につき,20名の請求を認容し,他の7名の請求を棄却し,各国家賠償請求をすべて棄却した。 ス大阪地方裁判所平成20年▲月▲日(平成▲年(行ウ)第▲号から▲号,平成▲年(行ウ)第▲号,第▲号から▲号)裁判所は,申請者11名の原爆症認定申請却下処分の取消請求につき,6名の訴えを却下しうち1名は一部の申請疾病につき訴え却下4名の(),請求を認容し,1名の請求を棄却し,各国家賠償請求をすべて棄却した。 セ札幌地方裁判所平成20年▲月▲日判決(平成▲年(行ウ)第▲号,平成▲年(行ウ)第▲号(平成▲年(行ウ)第▲号(平成▲年( ),請求を認容し,1名の請求を棄却し,各国家賠償請求をすべて棄却した。 セ札幌地方裁判所平成20年▲月▲日判決(平成▲年(行ウ)第▲号,平成▲年(行ウ)第▲号(平成▲年(行ウ)第▲号(平成▲年(行ウ)第▲号)))裁判所は,3件の訴訟の合計7名の申請者の原爆症認定申請却下処分の取消請求につき,3名の訴えを却下し,4名の請求を認容し(うち1名については,申請疾病の一部を認め,一部を要医療性がないとして認めなかった,各国家賠償請求をすべて棄却した。 。)ソ千葉地方裁判所平成20年▲月▲日判決(平成▲年(行ウ)第▲号,第▲号,平成▲年(行ウ)第▲号,平成▲年(行ウ)第▲号)- 50 -裁判所は,申請者4名の原爆症認定申請却下処分の取消請求につき,2名分の訴えを却下し,2名分を認容し(うち1名については,申請疾病の一部を認め,一部を放射線起因性がないとして認めなかった,各国家賠。)償請求につき,すべて棄却した。 上記各判決のうちエからソまでのものは,いずれも審査の方針の制定後に却下処分があったものであり,各訴訟において,審査の方針の合理性・相当性が争点となった。各判決はその表現等に差違があるものの,いずれの判決においても,審査の方針が定める放射線被曝線量の評価及び原因確率による判定について疑問点があり,審査の方針上,原因確率が10パーセント未満のものについて,特段の審査及び検討をせずに,放射線起因性がないものと判断することは許されないとの判断がされている。また,上記各判決の中には,審査の方針に原因確率又はしきい値(閾値)が示されていない肝炎,肝硬変,甲状腺機能低下症等の疾病についても,原爆症認定を相当とする判断がされているものもある。 (2)原爆症認定の在り方に関する検討会の報告(乙217,弁論の全趣旨)このような判決が続 い肝炎,肝硬変,甲状腺機能低下症等の疾病についても,原爆症認定を相当とする判断がされているものもある。 (2)原爆症認定の在り方に関する検討会の報告(乙217,弁論の全趣旨)このような判決が続く中平成19年8月上記熊本地裁判決の後安部,(),晋三内閣総理大臣(当時)から原爆症認定の在り方についての見直しを行う,,,(。)よう指示があり厚生労働省では同年9月8名の専門家法律家を含むから構成される原爆症認定の在り方に関する検討会(以下「在り方検討会」というを発足させ同検討会は検討を重ね同年12月17日報告書を。),,,とりまとめた。その概要は,①DS86に替えてDS02を導入し,残留放射線(誘導放射線及び放射性降下物)について移動経路,滞在時間等による線量計算を導入する,②がん,白血病及び副甲状腺機能亢進症については,線量評価及び原因確率による評価をするとともに,急性症状等も考慮し,,て総合的に判断する③心筋梗塞についてはしきい値の設定などを検討しその他の疾病については,知見の集積に務める,④審査の迅速化のため審- 51 -査の仕方及び態勢を整備する,⑤原因確率が10パーセント未満の場合においても,過去の資料等に基づき急性症状を考慮に入れるなど,総合判断をの対象とする,⑥経験則も踏まえた個別の認定を充実することができるように,分科会の審査体制を整備するなどというものである。 (3)与党プロジェクトチームの提案(乙223)(),与党自民党及び公明党原爆被爆者対策に関するプロジェクトチームは,,平成19年8月から原爆症認定問題について検討を重ね同年12月19日「原爆認定問題のとりまとめ」を公表し,この中で,原爆症認定行政について裁判例世論より厳しい批判がされてきたことを踏 ームは,,平成19年8月から原爆症認定問題について検討を重ね同年12月19日「原爆認定問題のとりまとめ」を公表し,この中で,原爆症認定行政について裁判例世論より厳しい批判がされてきたことを踏まえ審査の方針1,,,(3年方針)における今の「原因確率論」を改め,政治的判断による現実的救済措置を実現するため,新しい認定基準を提案した。その基準は,対象疾病として造血機能障害につき白血病骨髄異形成症候群MDS細胞増殖,,(),機能障害につき悪性新生物がん内分泌腺機能障害につき副甲状腺機能亢(),進症など,水晶体混濁による視機能障害につき老人性を除く白内障を挙げ,小頭症,熱症・外傷については医療を受けている場合には対象となり得る,その他,心筋梗塞など放射線起因性が認められるものがあるとしている。そして,上記の対象疾病については,被曝地点が爆心地より約3.5キロメートル以内の被爆者,爆心地から約2キロメートルの区域に約100時間以内に入市した被爆者,その後であっても,比較的直ちに約1週間程度滞留した者については,格段の反対すべき事由がなければ,合理的推定による積極的かつ迅速に認定を行うものとするとしている。 (4)新審査の方針の制定とその内容(乙225)厚生労働省の在り方検討会の報告及び与党プロジェクトチームの提言が出された状況の下に,医療分科会では審査の方針の見直しを検討し,同分科会長は,平成20年3月17日,新審査の方針(20年方針)を決定した。その全文は次のとおりである。 - 52 -「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成6年法律第117号)第11条第1項の認定に係る審査に当たっては,被爆者援護法の精神に則り,より被爆者救済の立場に立ち,原因確率を改め,被爆の実態に一層即したものとするため,以下 護に関する法律(平成6年法律第117号)第11条第1項の認定に係る審査に当たっては,被爆者援護法の精神に則り,より被爆者救済の立場に立ち,原因確率を改め,被爆の実態に一層即したものとするため,以下の定める方針を目安として,これを行うものとする。 第1放射線起因性の判断 積極的に認定する範囲①被爆地点が爆心地より約3.5㎞以内である者②原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2㎞以内に入市した者,,③原爆投下より約100時間経過後から原爆投下より約2週間以内の期間に爆心地から約2㎞以内の地点に1週間程度以上滞在した者から,放射線起因性が推認される以下の疾病についての申請がある場合については,格段に反対すべき事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を積極的に認定するものとする。 ①悪性腫瘍(固形がんなど)②白血病③副甲状腺機能亢進症④放射線白内障(加齢性白内障を除く)⑤放射線起因性が認められる心筋梗塞この場合,認定判断に当たっては,積極的に認定を行うため,申請者から可,,能な限り客観的な資料を求めることとするが客観的な資料が無い場合にも申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する。 1に該当する場合以外の申請について1に該当する場合以外の申請についても,申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を総合的に判断するものとする。 第2要医療性の判断- 53 -要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断するものとする。 第3方針の見直しこの方針は,新しい科学的知見の集積等の状況を踏まえて随時必要な見直しを行うものとする」。 (5)新審査の方針の下における医療分科会の審査の実情,,,医療分科会は新審査の方針を定めた 直しこの方針は,新しい科学的知見の集積等の状況を踏まえて随時必要な見直しを行うものとする」。 (5)新審査の方針の下における医療分科会の審査の実情,,,医療分科会は新審査の方針を定めた同日疾病・障害認定審査会令6条同審査会運営規程7条の規定に基づき,4つの審査部会を設け,審査の迅速化を図り,平成20年4月から同年10月までの間に合計1066件の申請認容の結論を出し,医療分科会を経ずに原爆症認定がされた125件を加えると,1191件の新たな原爆症認定がされた(平成20年10月20日第90会分科会資料1厚生労働省ホームページから平成13年度から平成,)。 17年度までの認定件数が964件であることに対比して,格段の迅速化が図られたといえるが,他方,未処理の申請が数千件滞留している状況もあり(公知の事実,新審査の方針によって問題が解決したわけではない。 )第4争点及び問題点の確認 前述第2章事案の概要第4争点のとおり本件の争点は(1)原爆症認定(),,,,における放射線起因性の判断基準(2)各1審原告の原爆症認定要件の充足性(3)国家賠償請求の当否であるが,争点(1)の判断を進める上で,前記第2章第5から第7の当事者の主張を踏まえて,問題点を確認する。 1審被告らは,新審査の方針(20年方針)を定めた後においても,なお,従前の審査の方針(13年方針)の正当性を主張し,これを根拠に各1審原告の原爆症認定要件の不存在を主張している。新審査の方針の下に却下処分が取り消され,原爆症認定がされたため訴えを却下された以外の1審原告については,入市被爆者であったり,申請疾病が審査の方針に掲げられていないため,原因確率が示されておらず,原因確率が算定できない。その意味では,算定された原因確率をどのように評価する 以外の1審原告については,入市被爆者であったり,申請疾病が審査の方針に掲げられていないため,原因確率が示されておらず,原因確率が算定できない。その意味では,算定された原因確率をどのように評価するかという問題が生じないが,1審被告らの- 54 -主張の基本には,原因確率又はしきい値(閾値)の判断ができない1審原告については,およそ,放射線起因性を問題とする余地がないという考えがあるので(もちろん,主張はそれだけではない,なお,原因確率の考え方について。)も検討をする。また,新審査の方針において,爆心地から約3.5キロメートル以内での被爆者については,被爆の事実を前提として,積極認定が行われることとなったが,現在の行政実務においても積極認定の対象とならない疾病の総合認定においては,被曝線量の評価は避けられない問題でもあるし,本件訴訟においても,個別の1審原告の起因性判断においては重要な点である。 審査の方針の検討に当たっては,その基礎となる①DS86による原爆被曝の線量評価の相当性,②疫学に基づく寄与リスク(原因確率)やしきい値(閾値)を用いた起因性判断の相当性が問題となるのは当然として,これまでの当事者の主張(特に当審における主張)に照らせば,①の線量評価については,残留放射線の評価,内部被曝の問題,②の原因確率については,審査の方針に挙げられていない疾病について起因性を肯定するだけの科学的知見があるとい。 ,,えるかどうかが重要な問題点として顕在化しているといえるまた原判決が急性症状に着目した判断をしているところから,当事者の当審における主張立証の力点がその点にあるので,詳しく検討する必要がある。 第5線量評価について DS86について(甲7,18,48,118,乙5,16,18,21,23,39)(1)DS8 審における主張立証の力点がその点にあるので,詳しく検討する必要がある。 第5線量評価について DS86について(甲7,18,48,118,乙5,16,18,21,23,39)(1)DS86策定の経緯米国大統領トルーマンは,広島・長崎の被爆者の長期追跡調査をすることの重要性にかんがみ,大統領指令(1946年11月26日)をもって,NAS(米国学士院,theUSNationalAcademySciences,全米科学アカデミーに対してその方策の立案を命じNASの勧告に基づいて昭和221),,( 年3月にABCCAtomicBombCasualtyCommission原爆傷害調)(,- 55 -査委員会)が広島(昭和22年)及び長崎(昭和23年)に設立された。ABCCは米国政府によって運営され,日本側も厚生省国立予防衛生研究所広島・長崎支所を設立して,これに協力する態勢であったところ,その研究内容は,昭和50(1975)年に設立された財団法人放射線影響研究所(RERF。以下「放影研」という)に引き継がれ,日米の共同研究体制とな,。 った。 他方,原爆放射線の効果を研究するため,昭和31(1936)年,オークリッジ国立研究所を中心として核実験を行い1957年暫定線量T5,「(7Dが作成されさらに1965年暫定線量T65Dが作成され)」,,「()」た。T65Dは,DS86が作成されるまで,ABCC及び放影研の調査研究に用いられていたが,1970年代に入って,T65Dの問題点や矛盾が指摘され,昭和56年から日米共同で研究活動が開始され,昭和61年に放影研から「1986年放射線量評価システム(DS86」が発表された。 )(2)DS86の内容DS86は,広島・長崎の被爆 盾が指摘され,昭和56年から日米共同で研究活動が開始され,昭和61年に放影研から「1986年放射線量評価システム(DS86」が発表された。 )(2)DS86の内容DS86は,広島・長崎の被爆者データを放射線防護の基準の考察に用いるために開発された被爆者ごとの被曝線量の正確な評価を行なう「線量評価システム」である。これは,現代核物理学の理論に基づいてコンピューターにより計算された多数のデータベースとコンピュータープログラムとから構成されており,これらに基づいて被曝線量を計算する体系である。DS86作成当時は,原爆実験が条約によりすることができなかったために,コンピューターによる計算で線量評価をするほかなかった。DS86は,T65Dと比較し,空気中中性子線カーマが,長崎原爆で約2分の1~3分の1に,広島原爆で約10分の1に減少している。長崎原爆については,大気中の水蒸気成分による影響であり,広島原爆については,大気中の水蒸気成分による影響に加え,爆弾の起爆装置及び殻の厚さの相違により,広島の中性子スペクトルが長崎の中性子スペクトルより軟らかいためであるとされている。 - 56 -DS86については,不確定性(誤差)解析に関する部分を除き報告書が作成されているが,その概要は次のとおりである。 ア爆弾の出力,,,長崎原爆は同型の原爆を使用した核実験の結果等から21キロトン誤差は±2キロトンの範囲にある。広島原爆は,同型の原爆による核実験が行われておらず,専ら理論計算によったため,出力の推定は長崎の場合より誤差が大きく,種々の推定値から,15キロトン,誤差は±3キロトンの範囲にある。爆弾の出力の判定は,核分裂の連鎖反応の程度を推定するために必要な判断である。 イソースタームの計算と検証ソースタームとは,爆弾から放出される粒子 ,15キロトン,誤差は±3キロトンの範囲にある。爆弾の出力の判定は,核分裂の連鎖反応の程度を推定するために必要な判断である。 イソースタームの計算と検証ソースタームとは,爆弾から放出される粒子や量子の個数及びそのエネルギーや方向の分布であり,大気中に放出された放射線の種類,量,方向を確定する作業である。モンテカルロ法によるソース計算では,中性子やガンマ線の粒子及びそれらの二次生成物が放出され,吸収されるかあるいはシステムから脱出するまで追跡された。広島原爆については,放出放射線の角度分布とエネルギー分布が,長崎原爆については,エネルギー分布が計算された。これらの計算の検証は,広島原爆のレプリカ(砲身を短くし,核分裂物質を減らした臨界実験装置)等によりなされた。爆弾が爆発すると即発中性子と即発ガンマ線が放出されるが,爆弾の構造に応じて,放出放射線の角度分布とエネルギー分布が計算された。 ウ放射線の空中輸送,空気中カーマの決定初期放射線が爆弾の線源から空気中を経て線量推定の対象となる地域に伝播していくことを放射線の輸送という。コンピューターによる大規模な計算により,爆心地から2.5キロメートルまでの各距離における空気中カーマ(カーマとは物質に放出される運動エネルギーの意味であるが,空気中カーマとはある場所における遮蔽前の線量で,単位はグレイで表され- 57 -る)が決定された。 。 エ熱ルミネッセンス法によるガンマ線の計算値の検証上記のとおり計算された空気中カーマのうち,ガンマ線カーマについては,広島大学理工学部校舎,長崎市家野町民家の塀等から収集された試料につき,熱ルミネッセンス線量測定法による測定結果と比較された。広島においては1000メートル以上の地点で測定値は計算値より大きく,近い地点は逆に小さくなっている。長崎にお の塀等から収集された試料につき,熱ルミネッセンス線量測定法による測定結果と比較された。広島においては1000メートル以上の地点で測定値は計算値より大きく,近い地点は逆に小さくなっている。長崎においてはこの関係は逆である。1000メートル以上の地点で測定値の平均値とよい一致を得るためには,計算値は広島で約18パーセント大きくなり,長崎で約10パーセント小さくなる必要があるとされた。 オ中性子に関する検証中性子線量の検証には,中性子により特定の物質中に誘導された特定の放射性物質の放射能を測定し,この測定値に対応する計算値と比較する方法をとった。DS86開発当時に得られていた放射能の測定値には,速中性子により誘導されたリン32,熱中性子によって誘導されたコバルト60,ユーロピウム152がある。リン32は,爆弾投下の数日後に測定したデータに再検討が加えられ,DS86の計算値との間に差は見られず,コバルト60は,T65Dの決定の際の測定に加え,新たな試料の測定も行われたところ,計算値が,地上距離260メートルにおいて,測定値の1~1.5倍,1180メートルにおいて測定値の3分の1倍と,系統的な差を示した。ユーロピウム152は,当時新しい測定であったが,正確な評価を行うにはデータのばらつきが大きいとされた。被爆者の被曝線量の推定に関しては,比較的高いエネルギー(約0.5メガエレクトロンボルトMev以上の中性子の影響が主となりそれ以下のエネルギーの中()),性子の影響はあまりないとされ,速中性子によるリン32のデータを中心に検討が行われたなお計算された中性子カーマ値が間違っているとい。 ,「- 58 -う可能性はまだ残っている。中性子の測定についてのこの章の結論は,中性子線量がさらに研究が進展するまでは疑わしいというこ われたなお計算された中性子カーマ値が間違っているとい。 ,「- 58 -う可能性はまだ残っている。中性子の測定についてのこの章の結論は,中性子線量がさらに研究が進展するまでは疑わしいということでなければならない」との記述がある。 。 カ残留放射能の放射線量報告書自体,誘導放射能及び放射性降下物による被曝線量の測定の正確性に影響する多くの要素がよく知られておらず,被曝線量推定はおおまかな近似にならざるを得ないとし,爆発後の広島・長崎の台風等の風雨の影響を補正することなく測定データを使用したと断っている。 報告書の結論は,放射性降下物の影響については,爆発の1時間後から無限時間まで地上1メートルの位置で計算した結果が,西山地区(長崎)において20~40ラド,己斐・高須地区(広島)において1~3ラドとするものである。 内部放射線の被曝は,残留放射能中の放射性核種の吸入摂取を含め若干の可能性があるとして,西山地区住民の測定結果に基づき,昭和20年から昭和60年までの40年間に男性で10ミリラド,女性で8ミリラドと推定した。 誘導放射能による影響については,爆心地での最大被曝量を広島について約80レントゲン約50ラド長崎について30~40レントゲン約(),(18~24ラド)とし,1日後にはその約3分の1,1週間後には数パーセントとなると推定した。 キ家屋及び地形による遮蔽各種の日本家屋のモデルによりコンピューター計算を行い,放射線透過率を求めた。T65Dに比べると透過率は低いものとなった。平均家屋透過係数は次の表のとおりである。 ガンマ線中性子- 59 -広島0.460.36長崎0.480.41ク臓器線量昭和20年当時の典型的日本人のコンピューターモデルを作成し,被爆者の特定の臓器での中性子及びガンマ線の ンマ線中性子- 59 -広島0.460.36長崎0.480.41ク臓器線量昭和20年当時の典型的日本人のコンピューターモデルを作成し,被爆者の特定の臓器での中性子及びガンマ線のエネルギー及び角度別のフルエンスを得,臓器線量を計算した。 ケ線量評価体系の作成以上の計算を統合すると,特定の被爆者に関するデータを入力し,自由空間データベース,家屋遮蔽データベース及び臓器遮蔽データベースを組み合わせて,各種の線量を出力することができる。しかし,これによって被曝線量を計算できるのは,爆心地より2.5キロメートル以内で被爆した遮蔽記録のある被爆者である。これが,DS86の体系である。 コ補遺なお,推定線量に対する不確定性(誤差)の推定は,予備的な値としては,空気中カーマに対して広島で16パーセント,長崎で13パーセントとなり,臓器線量に対しては25~35パーセントとなっているが,報告書は別途出版予定とされた。 DS02について(乙10,40,143の1,2)(1)DS02の策定の経緯DS86における中性子線量に関する計算値と測定値との不一致等を踏まえ,平成14(2002)年に新しい原爆放射線線量の評価システム(DS02)が作成された。日米実務研究者会議が平成13年3月から開催され,ここで策定されたDS02(新線量評価方式)が原爆放射線量評価検討会によって平成15年に承認され,平成18年,日本語訳が放影研から出版された。なお,DS02には改訂部分のみが記載されており,それ以外の部分は今後ともDS86を参照するものとされた。 - 60 -(2)DS02の特徴DS86からDS02への大きな変更は,広島における爆弾の出力を15キロトン±3キロトンから16キロトン±4キロトンに,爆発高度を580メートルから600メー - 60 -(2)DS02の特徴DS86からDS02への大きな変更は,広島における爆弾の出力を15キロトン±3キロトンから16キロトン±4キロトンに,爆発高度を580メートルから600メートルに修正したことである。爆弾の出力の増加は,爆心からの距離に関係なく空中線量を6.7パーセント増加させることになる。爆発高度を上げることは線量を減少させる方向に働くが,爆心地近くでないとその影響は小さい。DS02による空中線量(ガンマ線と中性子線の総和)をDS86と比較すると,爆心地付近の生存者のほとんどいない範囲を除けば,5パーセントから10パーセントの増加と要約できる。広島に関しては,ガンマ線量は,爆心地から遠くなるに従ってDS02の線量の方が高くなり,約10パーセント以内で横ばいとなる。他方,中性子線量は,爆心地付近では,DS02線量の方がDS86線量よりも低いが,500メートル付近で逆転して1000メートル付近ではDS02線量がDS86線量より10パーセント程度高くなり,再びその比率が小さくなって2000メートル近くで同程度になり,それ以遠ではDS02線量がDS86線量よりも低くなる。長崎に関して,DS02ガンマ線量はDS86ガンマ線量の約10パーセントの増加となっているが,DS02中性子線量はDS86中性子線量より低く,最大で約30パーセントの減少となった。 DS02の体系は,DS86と実質的に異なるものではなく,①ソースタームの計算,②空中輸送計算,③地上構造物による遮蔽率の計算,④人体における臓器線量の計算が改めて行われ,計算値と実測値の比較検討も詳細に行われた。 DS86,DS02の初期放射線に関する問題点の指摘(1)DS86自体が指摘するものすでに述べたとおり(1(2) ,DS86は,初期放射線の計算値と広島・) 値の比較検討も詳細に行われた。 DS86,DS02の初期放射線に関する問題点の指摘(1)DS86自体が指摘するものすでに述べたとおり(1(2) ,DS86は,初期放射線の計算値と広島・)長崎で採取された試料に基づく放射線の実測値との間の乖離があり,広島に- 61 -おけるガンマ線については,爆心地から1000メートル以遠では測定値が計算値よりも大きく,それよりも爆心地に近い範囲では逆に計算値が測定値よりも大きかった。また,中性子の検証として行われたコバルト60の測定値との比較でも同様の傾向が生じた。DS86自体が,一定の前提の下にコンピューターによる計算を行ったものであり,誤差についても相当程度あることを前提としており,臓器線量において25~35パーセントとしているところである。 (2)Z62・Z63「新原爆線量評価システム(DS86)とその後の問題」広島大学原爆放射能医学研究年報第32号創立30年周年記念平成31()(991)年(甲23)爆心地から1909メートルの地点で測定したガンマ線線量の2つの実測値は,それぞれDS86推定線量の2.0倍及び2.1倍であったとする。 (3)Z64・Z62・Z65の報告ア「広島の爆心地から2.05㎞における測定ガンマ線量とDS86の評価値との比較」広島大学原爆放射能医学研究年報第33号平成4(1992)年(甲35の1,2)Z64らは,広島原爆の爆心地から地上距離2.05キロメートルにおけるガンマ線線量を熱ルミネッセンス法によって瓦のサンプルから測定したところ,5枚の瓦についての測定値の平均は129±23ミリグレイであり,この値は対応したDS86の推定値の2.2倍大きく,これらの結果と文献における結果は,爆心地から2.05キロメートルにおける測定値に対し,DS86の推定 測定値の平均は129±23ミリグレイであり,この値は対応したDS86の推定値の2.2倍大きく,これらの結果と文献における結果は,爆心地から2.05キロメートルにおける測定値に対し,DS86の推定値が50パーセントあるいはそれ以下であることを示している旨報告する。 イ「爆心地から1.59㎞から1.63㎞の間の広島原爆のガンマ線量の熱ルミネッセンス法の線量評価ヘルスフィジックス69巻4号平成71」(995)年(甲43の1,2)- 62 -Z64らは,広島原爆の爆心地から1591~1635メートルの建物(郵便貯金局)の屋根の5箇所から収集した瓦の標本を用い,熱ルミネッセンス法(TL)によって,広島原爆からのガンマ線カーマを測定した。 それによれば,組織カーマの結果は,DS86の評価より平均して21パーセント(標準誤差は4.3~7.3パーセント)多かった。現在のデータと,報告されているTLの結果は,測定されたガンマ線カーマがDS86の値を約1.3キロメートルで超過し始め,この不一致が距離とともに増加することを示唆している。この不一致は,DS86の中性子のソース・スペクトルに誤りがある(遠距離に到達できる高いエネルギーの中性子の成分が過小評価されている)ことに原因があり,これまでの中性子放射化の測定によって支持されているとした。 (4)Z66らのユーロピウム152及びコバルト60の測定アZ66・Z67・Z62・Z68外7名「広島原爆の中性子に被爆した鉄の標本中の残留コバルト60放射能」ヘルスフィジックス72巻3号平成10(1998)年(甲34の1,2)広島の爆心地付近から遠距離まで広範囲にわたって数多くの測定を行い,測定値と計算値との間には明らかに相違があり(爆心から1793±22メートルでは,DS86の計算値が実測値の0.01 34の1,2)広島の爆心地付近から遠距離まで広範囲にわたって数多くの測定を行い,測定値と計算値との間には明らかに相違があり(爆心から1793±22メートルでは,DS86の計算値が実測値の0.014±0.006倍計算における何らかの間違い例えば広島爆弾の線源の間違いの可),,,能性を示唆した。 イZ66外11名「長崎における原爆中性子によって誘導された残留コバルト60の測定と環境注視線によるバックグランドへの寄与」ラディエーションリサーチ43,平成14(2002)年(甲32の1,2)長崎原爆の中性子によって誘導された5個の鉄鋼サンプル中の残留コバルト60の放射性を測定したところ,その計算値と実測値の比率は,長崎(,及び広島における計算値とZ69らの実測値の比Z69らの実測値とは- 63 -DS86の最終報告において引用されていた同人らによるコバルト60の測定値であり,同報告において,計算値と測定値との間に系統的な不一致が見られる例として紹介されていたものである)と同様の傾向を示した。 が,現在のデータは爆心から約1000メートルでの計算値と概ね一致しており,爆心から1100メートルを超えるデータがないため計算値と実測値との乖離はいまだ明らかではないとした。 (5)Z62広島原爆の被曝線量評価の問題点放射線科学第69号平成12「」(2000)年(乙10の参考資料1)広島大学放射能医学研究所のZ62は,広島原爆の系統的なずれの問題の解決の試案として,2つのウランの衝突の際,原爆の底が抜けたように割れたと仮定し,連鎖反応の終わりの時期に裸の核分裂中性子が放出されたと考え,さらに,中性子が発生した高度を90メートル引き上げた計算モデルによれば,1キロメートル以内では計算値と測定値が一致すること,水平方向に90 反応の終わりの時期に裸の核分裂中性子が放出されたと考え,さらに,中性子が発生した高度を90メートル引き上げた計算モデルによれば,1キロメートル以内では計算値と測定値が一致すること,水平方向に90度の角度でクラックが入ったモデルを用いると,さらに,遠距離まで計算値と測定値が一致することを提案した。 (6)Z70・Z71外5名線量評価体系DS86から線量評価体系DS02「へ」厚生労働科学特別研究事業「原子爆弾の放射線に関する研究」平成14年度総括・分担研究報告書平成15(2003)年(乙10)Z70らは,DS86作成後,測定値の数が増加するとともに,熱中性子誘導放射能(ユーロピウム152,コバルト60,塩素36)の測定値とDS86の計算値との間の系統的なズレが,広島においては顕著なものとなっ。 ,,てきた爆心地から1000メートル付近を境に近距離では計算値が高く遠距離では測定値が高くなっており,2キロメートルを越すと測定値が計算値の10倍,100倍となっていく。長崎においては,系統的なズレを示さない測定データと,広島と同様のズレを示すデータの両者があったとする。 Z70らの上記研究は,DS02が策定された状況下において,実務研究- 64 -班が取り組んできた測定及び計算について,特に,日本側の役割分担である測定を中心に,その結果を計算値との比較をも含めて報告し,また,新しく構築された線量評価体系DS02とこれまで使用されてきた線量評価体系DS86との相違点についても報告することを目的としたものであり,結論部分において日・米・独によるガンマ線熱ルミネッセンスおよび中性子,「()(放射化による残留放射能)に関する測定値は,爆心地から少なくとも1. 2㎞の地点までは,DS02の測定値と全般的に極めて良く一致している。 爆心地 ンマ線熱ルミネッセンスおよび中性子,「()(放射化による残留放射能)に関する測定値は,爆心地から少なくとも1. 2㎞の地点までは,DS02の測定値と全般的に極めて良く一致している。 爆心地から1.2-1.5㎞以遠での中性子の測定値と計算値の相違については,線量の絶対値が小さくバックグランドとの区別が困難なことなど測定値の不確実性によるものと判断されている」との記述がある。 。 (7)Z72広島・長崎における原爆の被曝線量評価に関する意見書平成1「」6(2004)年11月24日(乙39「新たな原爆線量評価システムD),S02に関する意見書」平成16年12月9日(乙40,61,62)DS86及びDS02策定時の日米線量再評価委員会委員を務めていた東京大学原子力研究総合センター助教授Z72は,国際放射線防護委員会(ICRP)の委員でもあるが,爆心地から1000メートル以上離れた地点で,,はユーロピウム152の測定値とDS86計算値との間に差が見られたがDS02の検討においてはバックグラウンドの引き方に問題があったとさ,,,れDS86には根本的な問題はないことが確認されその問題はDS86DS02において解決された。DS86システムは,広島・長崎の被爆者データを放射線防護の基準の考察に用いるために開発された線量評価体系であって,DS86,DS02ともに線量評価方式の方法論としては正当なものとして現在に至り,これらは被爆生存者の放射線影響解析や被爆生存者の認定等に使用されるには充分な精度を持っているので有効であると考えられるが,少しずつDS02システムに移行していくことが適切であろうとしている。 - 65 -(8)Z52意見書平成91997年5月12日甲22最近の原「」()(),「爆放射 が,少しずつDS02システムに移行していくことが適切であろうとしている。 - 65 -(8)Z52意見書平成91997年5月12日甲22最近の原「」()(),「爆放射線実測結果にもとづくDS86の評価甲26意見書平成17」(),「」(2005)年1月17日(甲48)元名古屋大学物理学部教授Z52は,遠距離に到達できた中性子は,近距離では高速中性子であったもので,途中で大気中の原子核と衝突を繰り返してエネルギーを失い熱中性子になったものであるから,遠距離における熱中性子線の過小評価は,近距離あるいはソースタームの中性子線の高エネルギー成分とりわけ数メガエレクトロンボルトMev以上の高エネルギー成分,()の過小評価が原因であると推測され,遠距離における熱中性子線量の過小評価を是正するためにソースタームあるいは近距離の高エネルギー中性子線量を増加させると,高エネルギー中性子ほど大気中の原子核と衝突する頻度は小さくなるので,遠距離に到達する高エネルギー中性子線量も増加することになると指摘している。 また,Z52は,DS86あるいはDS02の計算値と実測値の不一致の原因として,①原爆の爆発点から放出された中性子線のエネルギー分布,すなわちソース・タームの計算の問題,②中性子の伝播に重要な影響を与える湿度の高度変化,③ボルツマン輸送方程式に基づくコンピューター計算における区分の設定を挙げ,このうち①が最も可能性が高いとする。すなわち,①広島原爆のガンマ線及び熱中性子線の実測値に比べDS86の推定線量が遠距離で過小評価となっていること,広島原爆の構造と形状に似せた模擬原子炉からのソース・タームの測定値とDS86に用いられたソース・タームが一致したこと等から,DS86に用いられた中性子のソース・ 遠距離で過小評価となっていること,広島原爆の構造と形状に似せた模擬原子炉からのソース・タームの測定値とDS86に用いられたソース・タームが一致したこと等から,DS86に用いられた中性子のソース・タームの高エネルギー成分が実際の広島原爆のソース・タームと異なって過小評価になっていることが示唆されること,②DS86では,長崎の原爆爆発時の湿度として,海に近い海洋気象台の記録値(71パーセント)をそのまま採用し,,,ているが長崎では爆心地付近は海からやや離れ河川の影響も小さいから- 66 -もし海面近くと上空とで湿度が異なり,上方になるにつれ湿度が小さくなっていたとすれば,大気中の水蒸気に含まれる水素の原子核による中性子線の吸収が減少し,DS86の計算値よりもずっと多くの中性子線が遠方に到達すること,③上空の空気中の原子核で反射して地上に到達した中性子の寄与が遠距離で増大することなどを挙げている。 さらに,速中性子に関するニッケルの測定値については,特に,上記の実測値と計算値の大小関係は,従来のリン32を測定した速中性子線量や誘導放射化の測定による熱中性子線量の不一致と同じ傾向を示している旨,そもそも爆心地からの距離1880メートルの実測値をそのままバックグラウンドに採用して,この距離より近距離の実測値から差し引いているが,爆心地から1880メートルの地点にはDS02の計算値によってもかなりの量の速中性子が到達しているから,爆心地から1880メートルの中性子線量が0であると始めから仮定するのでは,実測値と計算値との比較が無意味になる旨批判している。 残留放射線に関する問題点の指摘(1)残留放射線の問題点前記1(2)カに記載したとおりDS86誘導放射能及び放射性降下物によ,る被曝線量はおおまかな近似にならざるを得ないとし 判している。 残留放射線に関する問題点の指摘(1)残留放射線の問題点前記1(2)カに記載したとおりDS86誘導放射能及び放射性降下物によ,る被曝線量はおおまかな近似にならざるを得ないとしつつ,放射性降下物及び誘導放射線の一応の数値を提示しているところであるが,以下のとおり,いわゆる「黒い雨」を巡る問題や残留放射線の評価の試みが行われている。 (2)Z73・Z74・Z75気象関係の広島原子爆弾被害調査報告学術研「(究会議原子爆弾被害調査委員会第一分科C班広島管区気象台」昭和28(1)953)年(甲166)広島管区気象台気象技師Z73らが,昭和20年8月から同年12月までに収集した資料住民からの聞き取りを含むに基づいて広島原爆の当日(。),の降雨について検討し,原爆投下後20分から1時間後に降雨があり,降雨- 67 -は午後3時から4時ころまでに及び,その範囲は,爆心地付近から北西方向に長径29キロメートル短径15キロメートルであり,継続時間1時間以上の大雨域は長径19キロメートル短径11キロメートルの楕円形ないし長卵型の区域であったとした。 (3)Z76広島原爆後の黒い雨はどこまで降ったか日本気象学会機関「“”」誌「天気」平成元(1989)年2月号(甲167,乙14)元気象研究所予報研究部のZ76が上記(2)の原資料のほかアンケート,,調査,現地の聞き取り調査等をもとに雨域,降雨開始時刻,降雨継続時間,推定降水量の分布等を調べた結果降雨域は上記(2)以外にもありその降雨,,域は約4倍に拡がる旨を報告した。これは,昭和62年5月,日本気象学会において発表されたものであり,平成元年2月同学会機関誌「天気」に掲載された。 (4)黒い雨に関する専門家会議黒い雨に関する専門家会議報 倍に拡がる旨を報告した。これは,昭和62年5月,日本気象学会において発表されたものであり,平成元年2月同学会機関誌「天気」に掲載された。 (4)黒い雨に関する専門家会議黒い雨に関する専門家会議報告書平成31「」(991)年(乙14)厚生省が昭和51年上記(2)に基づき大雨地域を健康診断特例区域とし,,て取り扱っていたところ上記(3)のZ76雨域が契機となって被爆地域の拡,大を求める声が起こり,広島県・広島市は,昭和63年8月,黒い雨に関する専門家会議(座長Z77放影研理事長)を設置して検討を開始し,平成3年5月に報告書を発表した。その内容は,次のとおりである。 ア残留放射能昭和51・53年度に国(厚生省)が行った,爆心地から半径30キロメートルの範囲の107地点(爆心地から2キロメートルごとの同心円と爆心地から放射状に8方向に引いた線と交わった地点)の土壌中の残留放射能(セシウム137)調査データの再検討,上記土壌試料の一部についてのウラン235及びウラン238の測定,屋根瓦中のセシウム137の検討,柿木及び栗木の年輪区分によるストロンチウム90の測定のいずれ- 68 -も,黒い雨との関連について有意な結論は得られなかった。 イ気象シミュレーション法による降下放射線量の推定気象シミュレーション法によれば,原爆雲(火の玉によって生じた)の乾燥大粒子の大部分は北西9~22キロメートル付近にわたって降下し,雨となって降下した場合には大部分が北西5~9キロメートル付近に落下した可能性が大きいことが分かり,また,衝撃雲(衝撃波によって巻き上げられた土壌などで形成された)や火災雲(火災煙による)による雨(いわゆる黒い雨)の大部分は,北北西3~9キロメートル付近にわたって降下した可能性が大きいと判断された。 また,気象シミ よって巻き上げられた土壌などで形成された)や火災雲(火災煙による)による雨(いわゆる黒い雨)の大部分は,北北西3~9キロメートル付近にわたって降下した可能性が大きいと判断された。 また,気象シミュレーション法によって得られた放射性降下物量,その地上での分布データ並びにネバダ核実験値を用いて,広島原爆の残留放射能による照射線量率を,炸裂12時間後で約5R/hr(最大積算線量:無限時間照射され続けたと仮定した場合は約25ラド)と推定した。 ウ体細胞突然変異及び染色体異常による放射線被曝の人体影響体細胞変異及び染色体異常について,己斐町,古田町,庚午町,祗園町など(降雨地域)に当時在住し黒い雨にさらされた者と,宇品町,翠町,皆実町,東雲町,出汐町,旭町など(対象区域)に当時在住し黒い雨にさらされなかった者とについて検討したが,有意差が認められなかった。 (5)Z78広島及び長崎被爆生存者に関する放射線測定ABCC業績報告「」書昭和35(1960)年(乙154)この中には次の記載がある。原爆の一時放射線を除けば,広島及び長崎の被爆生存者が有意線量を受けたという証左はほとんどない。中性子に誘発された放射能は事実存在したが,これは恐らく被爆者が受けた総線量にほとんど影響しなかったものと思われる。1954年のビキニ核実験にマーシャル群島住民及び日本漁船福龍丸が受けた種類及び程度の降下物の局地的効果は,両市にはなかった。日本における放射性降下物が少量であったのは2つ- 69 -の因子による。日本に投下された爆弾がキロトン級のもので,ビキニのメガトン級の1000分の1であったこと,ビキニにおける降下物は主として大気に吸い込まれた土及び破壊物で,それが中性子によって放射能を持つようになり,地上に降下したが,広島及び長崎の場合は空中で爆発し トン級の1000分の1であったこと,ビキニにおける降下物は主として大気に吸い込まれた土及び破壊物で,それが中性子によって放射能を持つようになり,地上に降下したが,広島及び長崎の場合は空中で爆発したので火球が大地に接しなかったので,そのような事態にはならなかったことの2つである。 (6)Z78広島および長崎における残留放射能ABCC業績報告書昭和3「」7(1962)年(乙11)広島の己斐-高須地区及び長崎の西山地区では降下物が認められたが,爆心地区ではその量は無視して差し支えない程度であった。両市の爆心地区における放射線は主として中性子によって誘発された放射性同位元素から発生したものといえる。降下物による最大照射線量は,広島では数ラド,長崎で。 ,はほぼ3ラドであったと考えられる爆発後1時間から無限時に至るまでに広島の爆心地区における中性子誘発放射能によって受けると考えられる最大照射線量は,計算方法によって異なるが,183ラドから24ラドの範囲にわたるものと推定される。発生した同位元素の半減期が短かったため,爆発後24時間で放射能はその70パーセントが消滅した。 (7)Z69・Z79・Z80・Z81・Z82広島・長崎における中性子誘「」()導放射能からのガンマ線量の推定ABCC業績報告書昭和451970年(乙157)。 ,要約として次の記載がある原爆投下後1日目に広島の爆心地付近に入りそこに8時間滞在したものの推定被曝線量は3ラドである。広島の爆心地から500メートル及び1000メートルの距離における線量は,それぞれ爆心地の線量の18パーセント及び0.07パーセントであった。爆発直後から無限時までの累積ガンマ線量は,広島では爆心地で約80ラド,長崎では同じく約30ラドであると推定された。 - 70 -(8 爆心地の線量の18パーセント及び0.07パーセントであった。爆発直後から無限時までの累積ガンマ線量は,広島では爆心地で約80ラド,長崎では同じく約30ラドであると推定された。 - 70 -(8)Z66・Z67・Z83・Z62・Z84・Z85広島原爆の早期調査「での土壌サンプル中のセシウム137濃度と放射性降下物の累積線量評価」ヘルスフィジックス71巻3号平成8(1996)年(甲169の1,2)Z66らは,世界的な核実験による降下物にさらされる前に採取された広島の土壌試料22のセシウム137の濃度を調査し,Z73雨域,Z76雨域との関連を検討した。Z73雨域外の地点の土壌にセシウム137が検出されたものがあり,土壌サンプルの中にはセシウム137が検出されなかったものもあり,Z73雨域よりも降雨地域は広いことを裏付けるとする。 (9)Z68DS02に基づく誘導放射線量の評価広島・長崎原爆放射線量「」新評価システムDS02に関する専門研究会報告書平成16(2004)年(乙76)DS02では残留放射能の検討はなされていないが,京都大学原子炉実験所のZ68は,DS86報告書における計算結果に,DS86とDS02の地表1メートルの位置でのコバルト60放射化量の比をそのまま誘導放射線量の比として適用し,誘導放射能による地上1メートルでの外部被曝線量を求めると,爆心地での爆発直後から無限時間までの積算線量は広島120センチグレイ,長崎57センチグレイであり,爆心から1000メートルでは広島0.39センチグレイ,長崎0.14センチグレイ,爆心から1500メートルでは広島0.01センチグレイ,長崎0.005センチグレイとなり,爆心地に爆発1日後に入ってそれからずっと滞在した場合の線量は,広島で19センチグレイ,長崎で5.5センチグレイ から1500メートルでは広島0.01センチグレイ,長崎0.005センチグレイとなり,爆心地に爆発1日後に入ってそれからずっと滞在した場合の線量は,広島で19センチグレイ,長崎で5.5センチグレイ,1週間後に爆心地に入,. ,. ってずっと滞在した場合の積算線量は広島094センチグレイ長崎14センチグレイとなると報告した。 Z68は,誘導放射能の体内取り込みに伴う内部被曝の正確な評価は,外部被曝以上に困難であるが,大雑把な仮定を基に,焼跡の片づけに従事した人々の空気中の塵埃吸入を想定して内部被曝評価を試みると,吸入の対象と- 71 -なる放射能を土壌中のナトリウム24とスカンジウム46とし,放射化生成量はDS02検証計算で得られたMCNPによる地上1メートル中性子束を用いて1キロメートル以内の平均値を計算し,塵埃濃度を2mg/m と想定 し,原爆当日に広島で8時間の片づけ作業に従事したとして内部被曝を評価すると,0.06マイクロシーベルトという値になったと報告した。 以上に基づき,Z68は,個人線量の正確な評価は困難であるものの,誘導放射能による被曝が問題となるのは,爆心地から1キロメートル以内に1週間以内に入った人々であるといってよいであろう,また,焼跡の片付け作業に従事した人々の塵埃吸入に伴う内部被曝は,外部被曝に比べ無視できるレベルであると主張している。 内部被曝に関する問題点の指摘(1)内部被曝の問題点前記1(2)カに記載のとおりDS86は内部被曝について西山地区住民,,の測定結果に基づき,その被曝線量を昭和20年から昭和60年までの40年間で男性につき10ミリラド,女性につき8ミリラドとしている。内部被曝とは,放射線核種が飲食物,呼気等により,また皮膚,外傷部位から体内に侵入し,体内から継続的に放射線を から昭和60年までの40年間で男性につき10ミリラド,女性につき8ミリラドとしている。内部被曝とは,放射線核種が飲食物,呼気等により,また皮膚,外傷部位から体内に侵入し,体内から継続的に放射線を照射したという問題であり,外部被爆において問題とならなかったアルファ線,ベータ線が関与する点など困難な問題があり,その機序,線量評価については,次のような文献等がある。 (2)Z86「意見書」平成17(2005)年11月10日(甲75)埼玉大学名誉教授Z86は,上記意見書において,次のとおり指摘する。 アガンマ線の場合には,その線量は線源からの距離に反比例する。したがって,等量の同一核種であっても,体外に存在する場合に受ける線量と比べて,体内に入った場合に受ける線量が格段に大きくなる。例えば,ガンマ線を放出する核種の一定量が生殖腺から5メートル離れた点に存在する場合と,当量の同一核種が生殖腺から5センチメートルの部位に沈着した- 72 -場合とを比較すると,後者の場合に生殖腺が受ける線量は前者の場合の1万倍になる。 イベータ線やアルファ線を放出する核種が体内に入ってくると,飛程距離が短いこれら放射線のエネルギーのほとんど全てが吸収され,体内からの被曝が桁違いに大きくなる。ことに,アルファ線の生物効果は大きく,1グレイで10~20シーベルトにもなる。 ウ人工放射性核種には生体内で著しく濃縮されるものが多いが,例えば,放射性ヨウ素なら甲状腺,放射性ストロンチウムなら骨組織,放射性セシウムなら筋肉と生殖腺というように,放射性核種によって濃縮される組織や器官が決まっているため,特定の体内部位が集中的な内部被曝を受けることになる。 エ体内への取り込みがあって,その核種が体内に沈着,濃縮されたとすると,その核種の寿命に応じて内部被曝が続くことに や器官が決まっているため,特定の体内部位が集中的な内部被曝を受けることになる。 エ体内への取り込みがあって,その核種が体内に沈着,濃縮されたとすると,その核種の寿命に応じて内部被曝が続くことになる。例えば,放射能半減期が28年のストロンチウム90が骨組織に沈着すると,ベータ崩壊を繰り返し,またストロンチウム90が崩壊して生じるイットリウム90もベータ線を放出するため,長年にわたってその周辺のベータ線の内部被曝が続く。 (3)Z87米国上院での証言のための陳述書平成101996年甲「」()(129)Z87は,この陳述書において,DNAの分子結合を破壊するエネルギーはおおよそ10エレクトンボルトeV1個のプルトニウム原子が1回の原(),子の変化で放出するエネルギーは5メガエレクトロンボルト(MeV ,1個の)ラジウム原子が1回変化して出すエネルギーもだいたい同量であり,セシウム137とストロンチウム90のエネルギーは約0.5メガエレクトロンボルトであり,放射線核種中の1個のうちの最小の粒子がDNAの化学的結合を破壊する能力について疑いの余地はないこと,その破壊が被害を受けた染- 73 -色体の遺伝情報に不安定を起こす確率はほんの少し100パーセントを下回ること死ぬ細胞がいくつかあるので生き残った細胞ががんを起こしやす(),くすること等を記述している。 (4)Z88内部被曝に関する意見書平成162004年9月14日乙「」()(94)放射線医学総合研究所放射線安全研究センター防護体系構築研究グループのZ88は,次のとおり指摘する。長期間の内部被曝の評価上着目すべきはストロンチウム90及びセシウム137であり,爆発30分後に西山地区に黒い雨が降り,核分裂生成物が浦上川を汚染した可能性があ ープのZ88は,次のとおり指摘する。長期間の内部被曝の評価上着目すべきはストロンチウム90及びセシウム137であり,爆発30分後に西山地区に黒い雨が降り,核分裂生成物が浦上川を汚染した可能性がある。セシウム137及びストロンチウム90の降下量は1平方センチメートル当たり,それぞれ3.3ベクレム以下と考えられ,これを前提に検討すると,自然放射線に匹敵する被爆を受ける可能性はない。また,セシウム137及びストロンチウム90の半減期は,それぞれ約30年及び約29年であるが,体内に取り込まれた放射性核種は,放射性壊変以外に代謝により体外に排出されるから,これをも考慮すれば,晩発的に肝臓に障害を与えることはない。 (5)Z68DS02に基づく誘導放射線量の評価広島・長崎原爆放射線量「」新評価システムDS02に関する専門研究会報告書平成16(2004)年(乙76)前記4(9)記載のとおりZ68は誘導放射能の体内取り込みに伴う内部,,被曝の正確な評価は,外部被曝以上に困難であるが,大雑把な仮定を基に,焼跡の片づけに従事した人々の空気中の塵埃吸入を想定して内部被曝評価を試みると,吸入の対象となる放射能を土壌中のナトリウム24とスカンジウム46とし,放射化生成量はDS02検証計算で得られたMCNPによる地上1メートル中性子束を用いて1キロメートル以内の平均値を計算し,塵埃濃度を2mg/mと想定し原爆当日に広島で8時間の片づけ作業に従事した, として内部被曝を評価すると,0.06マイクロシーベルトという値になっ- 74 -たと報告した。 (6)Z89原爆症訴訟意見書平成162004年9月10日甲13「」()(7),。 放射線防護学を専門とするZ90大学教授Z89は次のとおり指摘する原爆被災において, た。 (6)Z89原爆症訴訟意見書平成162004年9月10日甲13「」()(7),。 放射線防護学を専門とするZ90大学教授Z89は次のとおり指摘する原爆被災において,体の外部から浴びた放射線以外に,放射性核分裂生成物や未分裂の核物質の体内への取り込みに起因する内部被曝もあったことを軽視してはならない。内部被曝は,その被曝線量を算出すること自体が非常に困難である。なぜならば,体内に取り込まれた放射性物質の種類と量や体内での沈着部位を時系列的に正確に把握することが不可能だからである。自らの経験でも,原爆投下後約1か月半後から翌年春ころまで長崎に駐屯した米国海兵隊員に発生した多発性骨髄腫に関して内部被曝線量の評価を試みたが,非常に困難な作業であった。内部被曝の影響は,外部被曝とは違った機序で人体に作用する可能性が示唆されている。外部被曝が総じて体外からの一時的な被曝であるのに対し,内部被曝の場合は体内に入り込んだ放射性物質が放出する放射線によって局所的な被曝が継続するという特徴を持つからである。 (7)Z91「意見書」平成16(2004)年12月19日(甲238)琉球大学理学部教授Z91は,上記意見書において次のとおり指摘する。 極めて小さい放射性物質は呼吸や飲食等によって人の身体内部に取り込まれ,親和性のある組織に沈着・滞留し,飛程の短いアルファー線とベータ線が放出時に有していたすべてのエネルギーが周囲の細胞組織を形成している原子の電離等に費やされ,ホット・スポットが形成され,その内部では,均,。 ,一的な対外被曝と異なり高密度電離が行われている可能性があるそして高密度電離を行うアルファー線などは,DNAの二重鎖切断を引き起こし,,,,誤った修復がされる確率が高くなりその結果誤った遺伝情報を伝えた 被曝と異なり高密度電離が行われている可能性があるそして高密度電離を行うアルファー線などは,DNAの二重鎖切断を引き起こし,,,,誤った修復がされる確率が高くなりその結果誤った遺伝情報を伝えたり異常細胞を生成・成長する。内部被曝線量を測定する方法であるホールボデ- 75 -ィーカウンターでは,放射線のうち飛程の長いガンマ線しか測定できないから,内部被曝線量を正確に測定することはできない。 (8)Z52「意見書」平成17(2005)年1月17日(甲48)Z52は,上記意見書において次のとおり指摘する。 放射性物質を人の体内に取り込んだとき,水溶性や油溶性の場合は,放射性物質が原子又は分子のレベルで体内に広がり,元素の種類によって特定の器官に集中して滞留することが起こる。ヨードが甲状腺に集まるとか,リンやコバルトが骨髄に集まるなどである。こうした場合は尿などの排泄物などから取り込んだ放射性物質の量を推定することができる。ところが,水溶性や油溶性でない放射性微粒子が取り込まれ,微粒子がある程度の大きさを保ったまま固着すると,その周辺の細胞が集中して被曝する。この場合は,沈着した部位でかなり持続的に強い放射線を出し続けるような場合を除き,特定することは困難で,排泄物から推定することもできない。このような放射性微粒子による影響は,微粒子の大きさ,微粒子に含まれる放射性元素と放出される放射線の種類に大きく依存する。この影響を生物学的効果比のように単純な因子で表現することも困難である。 内部被曝によって局所的に国際放射線防護委員会(ICRP)の設定した年間許容被曝線量0.001シーベルトをはるかに超える被曝を受ける。ホット・スポットができる部位によって疾病が変わってくる。放射性降下物の大部分は,半減期の短いベータ線やガンマ線の強い放射線を放 た年間許容被曝線量0.001シーベルトをはるかに超える被曝を受ける。ホット・スポットができる部位によって疾病が変わってくる。放射性降下物の大部分は,半減期の短いベータ線やガンマ線の強い放射線を放出するものがほとんどで,これらの放射性微粒子のかなりの量を体内に取り込んで,遠距離被爆者の間に急性症状が起こったと考えられる。 検討(1)DS86は原爆放射線の人の健康に対する影響という効果を研究するた,めのT57D,T65Dの後継モデルとして日米の研究者が広島・長崎の被爆者データを基にして共同で開発した被爆者ごとの原爆線量の評価システム- 76 -であり,核物理学理論に基づいてコンピューターにより計算されたデータベース及びコンピュータープログラムの体系である。DS86自体において,その計算値が広島・長崎の被爆試料からの実測値によって検証され,初期放射線(ガンマ線)量について,広島においては1000メートル以遠では実測値が計算値より大きく,それ以内では逆に実測値が計算値よりも小さくなるといった問題があることが指摘されており,中性子線量についても同様の傾向があって,広島・長崎の原爆による放射線の有様を忠実に再現しているとまではいえない。臓器線量において,誤差が25パーセントから35パーセントあるとされている。DS02が更に開発されたのも,DS86が完全なものではなかったからといえ,その基礎にある広島・長崎の被爆者データも現在の科学レベルからみればデータ収集それ自体の不十分さを否めないという限界によるものであるといわれている。 (2)昭和61年の公表以来前記3記載のようにDS86に対する評価及び検,討が専門家によって行われ,従前の線量評価システム(T65D)の問題が解決し実測値と合致するようになったことの指摘もあれば3(6)( 1年の公表以来前記3記載のようにDS86に対する評価及び検,討が専門家によって行われ,従前の線量評価システム(T65D)の問題が解決し実測値と合致するようになったことの指摘もあれば3(6)(7)実,(),(),,測値との不一致を指摘するもの3(2)(3)(4)DS86のソース・ターム空中輸送計算の誤りを指摘するもの(3(8))等がある。 (3)初期放射線の計算過程の当否につき純粋に学問的科学的な見地からこ,,れに立ち入ることは困難であり,司法判断をなすべき当裁判所の職責であるとも必ずしもいえない。原爆による放射線(初期放射線)がどのような線量であったかを知る手だてとしては,DS86,DS02の他に替わるものがない。放影研の疫学調査等における線量評価については,これを利用しなければ,代替手段がなく,放影研の疫学調査による研究自体が成り立たなくなるのであって,その存在自体はその意味では評価され,かつ尊重されなければならない。 (4)次に,残留放射線についてみると,前記4(1)記載のようにDS86自体- 77 -が,被爆線量の推定はおおまかな近似にならざるを得ないし,台風等の影響,。 を補正しなかったとしているのでありその精度は低いといわざるを得ない(5)誘導放射線については,前記4(7)(Z69ら)が爆発直後から無限時までの累積ガンマ線量を広島爆心地約80ラド,長崎爆心地約30ラドとし,前記4(9) Z68が爆発直後から無限時までの被曝線量を広島爆心地12()0センチグレイ,長崎爆心地57センチグレイとしている(DS86の誘導放射線による最大被曝量は,広島爆心地約50ラド,長崎爆心地約18~24ラドである。前記1(2)カ。本件記録中には,誘導放射線による被曝線量)を推定計算した他の資料は見当 している(DS86の誘導放射線による最大被曝量は,広島爆心地約50ラド,長崎爆心地約18~24ラドである。前記1(2)カ。本件記録中には,誘導放射線による被曝線量)を推定計算した他の資料は見当たらず,上記各文献の推定値が明確に誤りであるとする格別の事情もうかがえない。ただ,残留放射線を発生させる物質がいかなるものであり,どのような条件下であればその影響が大きいかについては精密には本件記録上明らかであるとはいいがたく,むしろ不明であるというべきであり,爆発からの時間と爆心地からの距離とが判明すれば直ちに正確に誘導放射線による被曝線量を算定できるのかどうかについてなお疑問なしとはしがたい。 (6)放射性降下物による影響についてDS86は結論として爆発の1時,,,間後から無限時間までの地上1メートルの位置での線量を,広島己斐ー高須,。 地区について1~3ラド長崎西山地区について20~40ラドとしている前記4に掲げた文献中(3)Z76(8)Z66らなどによれば(2)Z(),(),(73らの雨域が正確であるか疑問でありまた(4)黒い雨に関する専門),,(家会議報告書)によって,放射線降下物に関する問題が解決済みであるとするには疑問がある。特に,後記の遠距離被爆者についての急性症状に関する報告例等に照らすと,その疑問は大きいが,その点は後に検討する。 (7)内部被曝に関する前記5に掲げた文献を見ると,(4)(Z88)が,西山地区の浦上川の汚染を前提に試算をして,体内被曝の影響はほとんどない趣旨の意見を述べ(5)Z68が内部被曝の正確な評価は困難であるとし,(),- 78 -ながらも,原爆当日に広島で8時間の片づけ作業に従事した者について,内部被曝線量を0.06マイクロシ 意見を述べ(5)Z68が内部被曝の正確な評価は困難であるとし,(),- 78 -ながらも,原爆当日に広島で8時間の片づけ作業に従事した者について,内部被曝線量を0.06マイクロシーベルトと試算し,その影響が極めて小さいことを述べる他方(6)Z89(7)Z52(8)Z91は被。 ,(),(),(),爆者における内部被曝の可能性とその人体影響の重大性を強調しており,確たる決め手に欠けるように見受けられる。ホットパーティクル(放射能の高い放射性物質からなる不溶性粒子)の人体影響について否定的な見解があることは証拠上認められるが乙80 なおホットスポットによる内(,),,部被曝が被爆者についてなかったとして上記の見解を排除するだけの確立した科学的知見があるとまでは本件記録を精査しても認めがたい。 (8)以上を要約すると次のとおりである被爆者ごとの線量評価に関する問,。 題については,DS86(あるいはその後継モデルであるDS02)について,その存在意義自体を否定することはできないし,初期放射線の被曝線量評価については他に手段はなく,これに誤差があることを考慮しつつ原爆症認定にあたって利用することは相当であるといえるが,残留放射線(誘導放射線,放射性降下物)についての影響の程度について,審査の方針が定めたような方式により被爆者ごとに機械的に線量評価をしてよいかどうかについては疑問があり,被爆者の内部被曝の影響の程度については,専門家の間で意見が分かれるところであって,内部被曝の影響が無視し得るものであることを前提とした原爆症認定審査については相当とは考えられない。なお,被爆者の急性症状の問題は項を改めて検討し,審査の方針の採る算定方式による被曝線量評価に基づき,放射線起 響が無視し得るものであることを前提とした原爆症認定審査については相当とは考えられない。なお,被爆者の急性症状の問題は項を改めて検討し,審査の方針の採る算定方式による被曝線量評価に基づき,放射線起因性の有無を決定することの相当性を改めて検討する。 第6急性症状について 問題の所在すでに平成12年最高裁判決において,DS86による被曝線量評価と急性症状に関するしきい値では説明できない脱毛,嘔吐,下痢等の急性症状が被爆- 79 -者に認められたことの指摘がされていたところである。1審被告らは,DS86の線量評価において被曝が認められない遠距離被爆者や入市被爆者について見られた症状が放射線による急性症状ではないと主張し,平成12年最高裁判決の指摘は失当であることが明らかとなった旨主張している。この点について検討する。 急性症状等に関する調査結果以下,証拠中にある急性症状に関する報告例を摘記する。文献の目的は,それぞれ多様であるが,被曝距離別や入市時期別に症状の発現率を知ることができる調査結果を中心に整理した。 (1)マンハッタン調査団報告書(乙68)これは,放影研が,ホームページにおいて,平成9年11月25日付けZ92新聞が機密解除となった米軍マンハッタン調査団の調査報告書の内容を報道したことについて,コメントを付したものである。放影研のコメントの内容は,記事の内容は放影研が入手した調査報告書に合致するが,報告書の内容自体が他の調査結果に比べて脱毛,皮下出血の出現頻度が高いのは,調,,査対象が入院患者であり症状が放射線のみによるものでない可能性がありDS86の見直しには直結しないというものである。 Z92新聞の記事によれば,昭和20年9月10日から10月6日まで長崎で,同月3日から7日まで広島で,入院中の被爆者ら計900 ものでない可能性がありDS86の見直しには直結しないというものである。 Z92新聞の記事によれば,昭和20年9月10日から10月6日まで長崎で,同月3日から7日まで広島で,入院中の被爆者ら計900人(少なくみて合計644人)を調査したところ,①爆心地から2.25~4.25キロメートルで被爆した46人中8人(17パーセント)に脱毛がみられた,②2.25~3.25キロメートルで被爆した41人中14人(34パーセント)に皮下出血があったという。 (2)陸軍軍医学校原子爆弾による広島戦災医学的調査報告日本学術会議原「」子爆弾災害調査報告書,昭和20(1945)年11月30日(甲248の2,乙146)- 80 -昭和20年8月8日以降の陸軍軍医学校職員の現地調査の結果,同月24日以降のZ93病院分院(Z94)における診療実績等を踏まえ,原子爆弾症(放射線,ガンマ線に基づく障害)の発現の特色として,①障害因子が人体内部まで深く作用し,為に各組織ないし器官に同時に障害を与え,したがって,これに基づく種々の症状が複雑な関係をもって出現したこと,②爆心からの距離,遮蔽物件の相違により線量に多寡を生じたが,条件のほぼ相等しい場合には,個人差に基づく特殊の例外を除き,近似した臨床症状を呈したこと,換言すれば一患者の症状から容易に同一条件下の他患者の症状を推論できること,③条件の異なる際は臨床像は時期的に甚だしい変化を示し,宛然別疾患であるような観を呈したこと,④爆心からの距離が大きくなるに従い臨床症状は軽症となったことであると指摘する。 また,同報告によれば,受傷後数日で下痢患者が多発し,8月13日ころから細菌性赤痢様患者が多発したことから,8月16日に約200名について糞便の細菌検査を行ったところ,1名に赤痢菌を証明しただけであり,同様に8 よれば,受傷後数日で下痢患者が多発し,8月13日ころから細菌性赤痢様患者が多発したことから,8月16日に約200名について糞便の細菌検査を行ったところ,1名に赤痢菌を証明しただけであり,同様に8月30日に160名,9月4日17名,9月23日100名,10月7日5名をそれぞれ検査し,いずれも赤痢菌は検出されなかったという。 なお,同報告書には,Z93病院Z94分院の入院患者194名,外来患者110名,広島内外救護所等の患者29名の合計243名の脱毛について調査したところ,脱毛患者発生地域が爆心地から1.03キロメートルの範囲内であった旨の記載がある。 ()(,)(3)日米合同調査団報告書昭和261951年甲1961の13広島6882名,長崎6621名について調査が行われた。その結果は次頁及び次々頁の表のとおりである。 (4)東京帝国大学医学部の調査結果昭和28(1953)年アZ95「広島市における原子爆弾被爆者の脱毛に関する統計」日本学術会議原子爆弾災害調査報告書(甲61の9)- 81 -東京帝国大学医学部診療班は,米記憶原子爆弾災害調査団に同行し,昭和20年10月中旬から同年11月にかけて,広島の爆心地から5キロメートル圏内の住民5120名の調査を行った。同診療班によって放射能症と診断された人数は909例であり(同調査では,脱毛,皮膚溢血斑及び壊疽性ないし出血性口内炎症のうちいずれか一つ以上の症状を具備したものを放射線症と扱っている,さらに,そのうち脱毛があったものが70。)7例あった。なお,被曝距離別に脱毛症数,放射線症数を示すと99頁の表のとおりである。なお,上記調査は被爆後3~4か月目に行われたもの(日米合同調査団報告書の表の添付省略)であり,一部の脱毛はすでに回復しており,多数の調査表の中に 症数,放射線症数を示すと99頁の表のとおりである。なお,上記調査は被爆後3~4か月目に行われたもの(日米合同調査団報告書の表の添付省略)であり,一部の脱毛はすでに回復しており,多数の調査表の中には記載上の誤りも含まれている可能性があるが,脱毛調査としては多数例であり,脱毛が放射線生物学的にみて人間の受けた放射線量を忠実に表示する1つの標準となり得るとの記載がある。 距離㎞被検人員脱毛症数(比率%)放射線症数(比率%)0~0.5 21(77.8)22(81.5)0.6~1.0 211(70.3)230(76.7)1.1~1.5 257(27.1)324(34.2)1.6~2.01474134(9.1)207(14.0)2.1~2.5115675(6.5)108(9.3)2.6~3.0 9(1.8)18(3.6)計0~3.04406707(16.0)909(20.6)計0~5.05120707(13.8)909(17.8)イZ96外2名「広島における原子爆弾傷者の精液所見(甲233)」広島の被爆者の精液・精子について,昭和20年10月下旬から11月- 82 -中旬にかけて124例を対象に調査が行われ,その結果,精液1立方ミリメートル当たりの精子数を5000未満不妊5000以上1万未満比(),(較的不妊1万以上で分類した場合被曝距離が30キロメートルに至),,. るまで,被曝距離にほぼ比例して,近距離であるほど精子数の減少が顕著であり,3キロ以上はほとんど1万以上であった。距離と精子数(対数)の相関図表から,3キロメートルから精子減少の影響が現れ,2キロメートル以内ではそれを免れないことが読み取れたとする。 ウZ97外6名「広島市で原子爆弾が んど1万以上であった。距離と精子数(対数)の相関図表から,3キロメートルから精子減少の影響が現れ,2キロメートル以内ではそれを免れないことが読み取れたとする。 ウZ97外6名「広島市で原子爆弾が女性性機能に及ぼした影響」日本学術会議原子爆弾災害調査報告書(甲234)東京帝国大学医学部診療班は,昭和20年11月までに広島の女性被爆者について調査した結果によれば,被曝前に月経が順調であった504人コンクリート建物内にいた者を除くのうち被曝後月経異常を来した者(。)の頻度は,被曝距離が3.5キロメートルまでの者についてみると,被曝距離に比例して近距離であるほど顕著であった。 (5)Z98原爆残留放射能障碍の統計的観察日本事新報1746号昭和「」醫32(1957)年(甲20)医師Z98は,昭和32年1月から7月まで,広島市内の爆心地から2. 0~7.0キロメートルの一定の地域に住む全生存被爆者3946名について,個別に調査員を派遣して被爆条件,急性症状の有無・程度,被爆後3か月間の行動等を各人ごとに調査し,これらの人が原爆直後から3か月以内に爆心地から1.0キロ以内に出入りしたかどうかに従って区分し,また,原爆の瞬間には広島市内にいなかった非被爆者で原爆直後入市した者629名についても同様に,原爆中心地への出入りの有無に従って区分し,急性症状同様の症状を惹起したかどうかを調べた。 その結果,①原爆直後中心地に入らなかった屋内被爆者1878名中,有症者は380名(有症率20.2パーセント)であり,被爆距離が短いほど- 83 -高率であったが,②原爆直後中心地に出入りした屋内被爆者1018名中,有症者は372名(有症率36.5パーセント)であり,被爆距離別の有症率が被爆距離の延長に従って低率を示さなかった。③原爆直後中心地 率であったが,②原爆直後中心地に出入りした屋内被爆者1018名中,有症者は372名(有症率36.5パーセント)であり,被爆距離別の有症率が被爆距離の延長に従って低率を示さなかった。③原爆直後中心地に入らなかった屋外被爆者652名中,有症者は287名(有症率44.0パーセント)であり,被爆距離別有症率は①同様被爆距離に反比例して低下しているのに対し,④原爆直後中心地に出入りした屋外被爆者の場合,398名中有症者は203名あり,有症率は51パーセントであり,被爆距離別有症率がその距離に反比例して低率を示さなかった。また,⑤原爆直後入市し中心地に入らなかった非被爆者では有症者はなかったが,⑥原爆直後入市し中心地に出入りした非被爆者525名中,有症者は230名(有症率43.8パーセント)であった。また,⑥の該当者中,原爆直後から20日以内に中心地に出入りした人達に有症率が高かったが,1か月後に中心地に入った人々の有症率は極めて低かった。中心地滞在時間が4時間以下の場合は有症者が少ないが,10時間以上の場合は有症率が高い。⑥には,広島県安佐郡安佐町消防団員120名が含まれていたところ,作業中に広島の河川の水を飲用する者はなかったものの,帰村して1~5日後に発熱,下痢,粘血便,皮膚,。 ,粘膜の出血全身衰弱等を来たし臥床するに至った者が多数あったしかしその家族(広島市内に入らぬ人)には同様の症状に罹った者はなかった。 これらの調査結果から,Z98は,広島原爆の直接被爆者又は非被爆者のうち原爆の直後爆心地から1.0キロメートル以内の地域に入り,10時間以上滞在した人々にはたやすく急性症状を起こしており,これは原爆の残留放射能によると思われること,原爆1か月後中心地付近に出入りした非被爆者にはその後急性症状を発したものはほとんどなかったこと,残 以上滞在した人々にはたやすく急性症状を起こしており,これは原爆の残留放射能によると思われること,原爆1か月後中心地付近に出入りした非被爆者にはその後急性症状を発したものはほとんどなかったこと,残留放射能が人体に障害を与えた期間はおおよそ1か月以内であり,この事実は原爆で二次的にできた各種の同位元素が極めて半減期の短いものであったことを物語っていること等を論じた。 - 84 -Z98の上記報告書中に掲げられた表1から4を整理すると次頁の表のとおりである。 (6)厚生省公衆衛生局原子爆弾被爆者実態調査健康調査および生活調査の「概要」昭和42(1967)年11月1日(甲276の資料30)厚生省公衆衛生局が昭和40年11月に実施した健康調査の結果をまとめたものであり,その4頁表Ⅱ-2(症状・被爆地別にみた被爆後2か月以内の身体異常発現率は次々頁の表のとおりである被爆後2か月以内の身体)。「異常の発現率をみると近距離で被曝した者ほど,各種の身体異常の発現率が高く,爆心地からの距離との間に密接な関係がみられる」としている。 。 - 85 -(7)Z99原爆被爆者における白血病日本血液学会雑誌31巻5号昭和4「」3(1967)年(甲78の資料16)広島大学原爆放射能医学研究所のZ99は,昭和43年に,昭和21年から昭和32年までの広島原爆被爆者の白血病の発現を調査し,10万人当たりの発病者が,原爆爆発後3日以内(8月6日~9日)の入市者で9.69,4日から7日まで(8月10日~13日)の入市者で4.04であり,いずれも非被爆者の発生率2.33,日本全国例2.32より高率であったと報告した。 「長崎ニ於ケル原子爆弾災害ノ統計的観察」(甲20)表1から表4までから作成距離(km)有症率脱毛有症率 発生率2.33,日本全国例2.32より高率であったと報告した。 「長崎ニ於ケル原子爆弾災害ノ統計的観察」(甲20)表1から表4までから作成距離(km)有症率脱毛有症率脱毛有症率脱毛有症率脱毛0.5100%100%62.5%50.0%--100%100% 65.0%48.3%80.7%68.0%82.3%52.9%100%56.2%1.546.7%16.7%44.5%17.8%75.5%24.4%71.4%14.2% 30.3%2.1%43.5%12.9%67.4%18.7%72.3%24.6%2.527.6%5.4%41.1%6.8%67.0%10.9%55.0%7.5% 19.0%2.9%40.8%8.6%60.8%12.0%50.6%12.2%3.515.7%0.9%27.9%4.0%28.4%0.1%46.1%7.6% 8.0%3.0%18.9%1.8%12.8%2.8%28.8%7.6%4.51.9%0%23.5%2.5%2.7%0%28.1%9.3%5.0以上6.8%0.8%35.5%5.2%6.0%4.0%30.9%2.3%A群は原爆直後,中心地に入らなかった者B群は原爆直後,中心地に入った者表6 原爆直後入市し中心地に出入した非被爆者の場合表7 中心地滞在時間入市月日対象数有症率下痢出血脱毛滞在時間有症率8月6日84人45.7%33.3%10.7%8.3%1時間11.7%8月7日214人53.7%39.3%7.4%3.2% 出血脱毛滞在時間有症率8月6日84人45.7%33.3%10.7%8.3%1時間11.7%8月7日214人53.7%39.3%7.4%3.2%4時間28.6%8月8日78人52.5%35.8%15.3%3.8%1日間42.5%8月9日17人29.4%29.4%11.7%5.8%2日間50.0%8月10日17人35.2%17.6%5.8%11.7%3日間53.4%8月11日6人52.0%33.3%33.3%0.0%4日間70.0%8月12日16人18.7%0.0%18.7%6.2%7日間61.1%8月13日7人14.2%0.0%0.0%0.0%10日間66.6%8月15日31人32.2%25.8%3.2%3.2%15日間78.1%8月20日まで26人19.2%11.5%3.8%3.8%20日間66.6%9月5日まで28人3.5%0.0%3.5%0.0%30日間超37.5%10月5日まで1人0.0%0.0%0.0%0.0%合計43.8%(上記文献の表1)(同表2)(同表3)A群(1878人)B群(1018人)A群(652人)B群(398人)(同表4)屋内被爆者屋外被爆者Z98- 86 -(厚生省公衆衛生局「原子爆弾被害者実態調査の表の添付省略)(8)残留放射能による障害調査概要広島市役所編集発行に係る広島原爆「」「戦災誌第1巻総説」136頁以下,昭和46(1971)年(甲41の資料7)広島原爆投下当日もしくは翌日以 省略)(8)残留放射能による障害調査概要広島市役所編集発行に係る広島原爆「」「戦災誌第1巻総説」136頁以下,昭和46(1971)年(甲41の資料7)広島原爆投下当日もしくは翌日以降に入市して,救護活動を行った将兵400名(暁部隊)を対象に昭和44年実施された広島市の調査では,233名から回答があり,このうち,安芸郡江田島幸の浦基地(爆心地から約12キロメートル)の部隊(201人)は,6日夜から7日早朝にかけて中央部,,,,(,へ進出主として大手町紙屋町相生橋付近元安川甲8の1によれば爆心地から500メートル以内の地域が含まれる。なお,以下に示す距離はいずれも甲8の1によるで活動し 13日まで活動して基地に帰。),,,。 (),還した豊田郡忠海基地爆心地から約50キロメートルの部隊32人は7日朝から市周辺(Z237(爆心地から2キロメートル弱~3キロメートル,大河,宇品(いずれも爆心地から3~4キロメートル,その他主要道))路沿いなど)の負傷者の多数集結場所で救援活動を行った。 出動中の症状として,2日目(8日)ころから下痢患者が多数続出し,基地帰投直後の症状として,白血球3000以下がほとんど全員に及んだ(軍医診断また回答者のうち復員後に経験した症状として120人 )。 ,,,(1.5パーセント)が白血球減少,80人(34.3パーセント)が脱毛を挙げた。 (9)Z100・Z101長崎ニ於ケル原子爆弾災害ノ統計的観察医師の「」(「証言・長崎の原爆体験」昭和57(1982)年所収(甲41の資料4))長崎医科大学外科第1教室教授Z100らは,昭和20年10月から同年12月に調査をした結果中の脱毛に関する部分は次頁の表のとおりである。 (10)NH 和57(1982)年所収(甲41の資料4)長崎医科大学外科第1教室教授Z100らは,昭和20年10月から同年12月に調査をした結果中の脱毛に関する部分は次頁の表のとおりである。 (10)NHKヒロシマ局・原爆プロジェクトチーム「ヒロシマ・残留放射能の四十二年」昭和63(1988)年(乙22)- 87 -広島地区第14特設警備隊(通称賀北部隊)の隊員の一部99名(工月中0~1㎞1~1.51.5~22~3計出血(+),脱毛(+) 出血(+),脱毛(-) 出血(-),脱毛(+) 計 0~1㎞1~1.51.5~22~3計出血(+),脱毛(+) 出血(+),脱毛(-) 出血(-),脱毛(+) 計 0~1㎞1~1.51.5~22~3計出血(+),脱毛(+) 出血(+),脱毛(-) 出血(-),脱毛(+) 計 距離(㎞)調査数例数%調査数例数%調査数例数%0~1 33.2 28.5 31.11~1.5 23.4 27.51401 25.81.5~2 9.4 8.5 8.92~3 3.3 3.11739 3.23~4 1.2 2.41079 1.8計2452 11.83068 11.85520 主文 理由 事実 争点 判断 3.3 3.11739 3.23~4 1.2 2.41079 1.8計2452 11.83068 11.85520 11.84㎞外 1.2 0.9距離(㎞)調査数例数%調査数例数%調査数例数%0~1 24.2 30.1 27.11~1.5 40.0 35.0 37.11.5~2 21.4 8.3 15.42~3 14.3 33.3 20.0計 29.1男女合計・死亡者例距離別脱毛の頻度ら「長崎ニ於ケル原子爆弾災害ノ統計的観察」(甲41の資料4)出血と脱毛の合併男・死亡者例女・死亡者例死亡者例男女計生存者例男女計Z100-88-隊)は,広島原爆炸裂後の8月7日から13日まで,入市して負傷者の救護や死体の処理に当たっていた。このうち第1小隊の本隊は,8月7日午前7時30分ころ海田市駅で列車を降り,徒歩で午前10時ころ,Z237に到着し,一部救護活動をし,正午ころZ253に入り,以後,同所付近(爆心地から約250メートルから1050メートル)で作業をした。その先発隊は,早い者で7日午前零時ころZ253に着いていた。土壌試料の測定結果及びDS86のデータから推計した誘導放射能による被曝線量(ガンマ線による全身線量)は,7日未明に入市した先発隊7名については,最大11.8ラド,最小2.1ラド,平均5.1ラドであり,先発隊を含めた全隊員平均で1.3ラドと推計された。99名のうち,昭和62年5月 よる全身線量)は,7日未明に入市した先発隊7名については,最大11. 8ラド,最小2.1ラド,平均5.1ラドであり,先発隊を含めた全隊員平均で1.3ラドと推計された。 99名のうち,昭和62年5月までの42年間の死亡者は27名(27. 3パーセントがんで死亡したと判断された者6名死亡者に占めるがん死),(亡の割合22.2パーセント)であり,日本全国の死亡統計に基づき同年齢の者について算定した死亡確率26.7パーセント,がん死亡の割合28. 7パーセントと比較して,顕著な差は認められなかった。生存者につき,面接又は電話による応答で急性放射線症状があったと答えた者は32名であり,症状の重傷度や経過期間などによりほぼ確実な急性放射線症状があったと思われるものは脱毛6名うち3分の2以上頭髪が抜けた者が3名歯齦(),出血5名,口内炎1名,白血球減少症のみられた者2名であり,このうち2名は脱毛と歯齦出血の両症状が現れていた(この点につき,放影研のZ102,Z103は,留保付きながら,低線量被爆者に急性症状が認められたことの意味を指摘する。 。)また,頻回のレントゲン線照射を受けていない隊員10名について,末消血リンパ球の染色体異常から,T65Dを利用した線量推定式を用いて推計,(,,,,),した線量は5名は6ラド以上 6ラドであり5名は有意な被曝線量として計算されなかった(この点につき,広島大学原- 89 -爆放射能医学研究所のZ104は,同じく留保付きながら,染色体異常率からの被曝線量の観察値が有する客観的資料としての意味を指摘する。 。)(11)Z105・Z106・Z54・Z71「原爆被爆者における脱毛と爆心」()()地からの距離との関係長崎医学会雑誌73巻特集号平成1 有する客観的資料としての意味を指摘する。 。)(11)Z105・Z106・Z54・Z71「原爆被爆者における脱毛と爆心」()()地からの距離との関係長崎医学会雑誌73巻特集号平成101998年(乙87)放影研統計部のZ105らは,寿命調査対象者について脱毛と爆心地からの距離との関係を検討したその結果寿命調査集団において脱毛の陽性原。 ,(爆後60日以内に起こったと報告された脱毛)の被爆者数は,広島の対象者5万8500人につき3857人うち重度1120人長崎の対象者2万(),8132人につき1349人(うち重度287人)であり,脱毛と爆心地からの距離の関係は,爆心地から2キロメートル以内での脱毛の頻度は,爆心地に近いほど高く,爆心地からの距離とともに急速に減少し,2キロメートルから3キロメートルにかけて緩やかに減少し3パーセント前後3キロ(),メートル以遠でも少しは症状が認められている(約1パーセント)が,ほとんど距離とは独立であり,また,脱毛の程度は,遠距離にみられる脱毛はほとんどすべてが軽度(1/4未満)であったが,2キロメートル以内では重()。 ,,度2/3以上の脱毛の割合が高かったとしているなお上記文献には以上のようなパターンを総合すると,3キロメートル以遠の脱毛が放射線以外の要因,例えば,被爆によるストレスや食糧事情などを反映しているのかもしれず,特に低線量域では,脱毛と放射線との関係について論ずる場合や脱毛のデータから原爆被曝線量の妥当性について論ずる場合には注意を要すると思われる旨記載されている。 (12)Z107・Z108外4名被爆状況別の急性症状に関する研究廣島「」(學53巻3号)平成12(2000)年(甲106)醫長崎大学医学部のZ107らは,平成12年, 旨記載されている。 (12)Z107・Z108外4名被爆状況別の急性症状に関する研究廣島「」(學53巻3号)平成12(2000)年(甲106)醫長崎大学医学部のZ107らは,平成12年,長崎原爆の被曝距離が4キロメートル未満の被爆者1万2905人を対象として,遮蔽状況を考慮した- 90 -急性症状,特に脱毛について,昭和35年以降の約10年間に被爆者本人の記憶による調査票に基づき,発症頻度・時期・程度等を調べた。急性症状発現者は4685人であり(内訳:下痢21.8パーセント,発熱14.6パーセント,脱毛10.5パーセント,歯肉出血8.1パーセント,嘔吐8. 5パーセント,皮下出血5.6パーセント,口内炎5.6パーセント,鼻出. ,. ),,,血41パーセントその他31パーセントそのうち脱毛について被曝距離別に発現頻度をみると次の表のとおりであった。なお,この発現頻度は日米合同調査団報告書の報告結果前記(3)とおおむね一致している,()(甲107。 )被曝距離遮蔽なし遮蔽あり1.0~1.4km41.8%26.6%1.5~1.9km18.4%8.9%2.0~2.4km12.5%5.5%2.5~2.9km8.6%2.8%(13)Z109原爆被害者調査の結果に関する分析データ集平成172「『』」(005)年(甲70の2)一橋大学大学院教授Z109は,被団協が昭和60年に実施した「被爆40年・原爆被害者調査」の際に回収した調査票1万3168枚のうち有効回答6744枚について分析を行った。被爆態様,被爆距離別の急性症状様の症状(吐き気,下痢,食欲不振,口が渇く,口喉の腫れ痛み,発熱,脱毛,血を吐く,下血,鼻血,歯茎の出血,皮膚の斑点,めまい,頭痛,ひどいだるさ,生理 分析を行った。被爆態様,被爆距離別の急性症状様の症状(吐き気,下痢,食欲不振,口が渇く,口喉の腫れ痛み,発熱,脱毛,血を吐く,下血,鼻血,歯茎の出血,皮膚の斑点,めまい,頭痛,ひどいだるさ,生理異常の16症状)の発現頻度は,次頁の表のとおりである。 (14)Z110・Z111「Z238高等女学校の入市被爆者についての調査報告書」平成18(2006)年(甲187)原爆被害者相談員の会所属の相談員が,平成16年4月以降,広島市の本- 91 -川国民学校(爆心地から約350メートル)に昭和20年8月19日かZ109「原爆被害者調査』の結果に関する分析データ集(甲70の2)『」該当者数あったなかったわからない脱毛直接被爆(全体) 4863(100%) 2924(60.1%) 960(19.7%) 983(20.2%) 1058(36.2%)(内)1㎞以内407(100%)337(82.8%)36( 8.8%)34( 8.4%)207(61.4%)2㎞以内2111(100%) 1483(70.3%) 322(15.3%) 306(14.5%)574(38.7%)3㎞以内1077(100%)582(54.0%) 241(22.4%) 254(23.6%)156(26.8%)3㎞超1251(100%)507(40.5%) 357(28.5%) 387(30.9%)116(22.9%)入市被爆1414(100%)548(38.8%) 441(31.2%) 425(30.1%)112(20.4%)救護被爆199(100%)57(28.6%)63(31.7%)79(39.7%)4( 7.0%)ら25日まで派遣されたZ238高等女学校の生徒20数名のうち,氏名等が判明した23名(生存者10名,死没者13名 0%)57(28.6%)63(31.7%)79(39.7%)4( 7.0%)ら25日まで派遣されたZ238高等女学校の生徒20数名のうち,氏名等が判明した23名(生存者10名,死没者13名)について,対象者本人又はその遺族に聴き取り調査をしたものである。生存者10名に対する調査で,,,,は調査未了となっている3名を除く7名中6名は急性症状として脱毛下痢,倦怠感等を回答し,1名は覚えていないと回答している。死因が判明した死没者11名のうち,7名ががん(白血病2名,卵巣がん,肝臓がん2名,胃がん,膵臓がん)であった。 (15)Z112原子爆弾症長崎の病理学的研究報告中の遠距離被曝事「『()』例」平成18(2006)年(甲276の資料35),,「()」これはZ112がZ113原子爆弾症長崎の病理学的研究報告(甲276の資料36)が病理解剖を行った13例のうち被曝距離が2キロ()メートル及び3キロメートルの3例他10例は1キロメートル以内の被爆について検討したものである。初期放射線の被曝線量が2キロメートルの2例については6.1センチグレイ,3キロメートルの1例は0センチグレイにもかかわらず,骨髄,脾臓,副腎,卵巣に放射線影響による病変が認められたとして,DS86の初期放射線量から判断して放射線の影響がないと説- 92 -明することは不可能であり,遠距離における放射線被曝の影響は,個々の被爆者の実情に即して考慮せざるを得ないとする。 (16)Z114「意見書ー『原子爆弾症(長崎)の病理学的研究報告』における病理組織学的所見とその病因について」平成19(2007)年11月6日(乙195)Z112の前記(15)の見解に対する反論として提出されたものであり,Z115大学教授Z114は 研究報告』における病理組織学的所見とその病因について」平成19(2007)年11月6日(乙195)Z112の前記(15)の見解に対する反論として提出されたものであり,Z115大学教授Z114は,結語として,①病理解剖によって骨髄障害の病因を診断するには限界があること,②13例中のわずか4例(その中で3例は爆心地からの距離が遠い)における骨髄障害を観察したのみで,観察された骨髄障害が放射線障害に基づくと結論することは妥当ではないこと,③骨髄以外の病理解剖所見にも病因を特定できるものが認められないこと,④第,,5例では左腕の外傷からの感染が原因で死亡した可能性が最も考えられる本報告書の遠距離で被爆した3例の骨髄の組織所見が放射線障害によるものと診断することは妥当ではないことから,これらの症例における骨髄障害が原爆放射線により発症したか否かは不明であるとする。そして,補足意見として,被爆例における放射線障害を医学的及び科学的に考察することを目的とするならば,本報告書(Z113報告)を引用することは適切ではないと考えると付記している。 急性症状に関する知見(1)Z116の意見書(乙218)及び同人の証人尋問放射線医学研究所緊急被ばく医療研究センター被ばく医療部部長兼障害臨床研究室長のZ116の意見書及び同人の証人尋問(平成20年3月27日及び同年5月20日)によって知り得る放射線医学上の急性症状に関する知見は次のとおりである。 ア放射線には,エックス線,ガンマ線,中性子線のように電荷を持たない,,放射線とアルファ線ベータ線のように電荷を持つ放射線に大別されるが- 93 -電荷を持つ放射線は物質通過中に急速にエネルギーを失うため物質透過力が小さく,電荷を持たない放射線は物質透過力が大きい。外部被曝による急性障害は生体や に電荷を持つ放射線に大別されるが- 93 -電荷を持つ放射線は物質通過中に急速にエネルギーを失うため物質透過力が小さく,電荷を持たない放射線は物質透過力が大きい。外部被曝による急性障害は生体や物質への透過性の高いエックス線,ガンマ線,中性子線によって起こる。 イ放射線による急性障害の症状は,特徴的な経過をたどることが知られている一方で,さまざまな疾病に現れる症状に似ている非特異的な症状が多い。 ウ急性放射線障害には,全身被曝と局所被曝とを区別する。 エ放射線による急性障害は確定的影響に属する。確定的影響が現れる最小の線量をしきい線量(しきい値)といい,しきい線量を超えない場合には症状は生じない。しきい線量を超えて被曝した場合には,確定的影響が現れ,線量が増加するとともに影響の発生頻度と重篤度が増加する。しきい線量以下の被曝では,放射線により損失する細胞の数が少ないので,組織・臓器の機能が損なわれたことが検出できる程の障害を生じない。 オ各臓器・組織の確定的影響のしきい線量は,放射線治療を受けた患者等の放射線被曝事例を中心にして求められており国際放射線防護委員会I,(CRP)では,被曝した人の1~5パーセント(集団の中で比較的感受性の高い人)に症状が出現する線量をしきい値としている。なお,同じ線量であっても何回かに分ける分割照射あるいは長時間をかける遷延照射の場合には,急性被曝に比べてしきい線量の値が高くなる。組織ごとのしきい線量は次頁の表のとおりである。 カ全身被曝後数週間以内に起こる臨床症状の総称を急性放射線症といい,その病態は多くの組織や臓器の複合障害と位置付けられる。一般に急性放射線症は,約1グレイ以上の線量を体幹など主要な部分に被曝すると起きる。臨床症状から血液・骨髄障害,中枢神経・循環器障害,皮膚障害に分類 態は多くの組織や臓器の複合障害と位置付けられる。一般に急性放射線症は,約1グレイ以上の線量を体幹など主要な部分に被曝すると起きる。臨床症状から血液・骨髄障害,中枢神経・循環器障害,皮膚障害に分類することが多い。 - 94 -キ急性放射線障害の時間的経過から前駆期潜伏期発症期回復期又,,,,(は死亡)に分けられる。前駆期は,被爆後数時間以内に現れ,食欲低下・しきい線量(ミリシーベルト)組織及び影響骨髄造血能低下(リンパ球の減少) 悪心・嘔吐1000精巣一時的不妊 永久不妊3500-6000卵巣不妊2500-6000水晶体検知可能の白濁500-2000視力障害(白内障)5000胎児奇形 重度精神発達遅滞120-200悪心・嘔吐・下痢が主な症状である。線量が高いほど現れる時間は短く,症状が重い。このことがおおまかな被曝線量推定に役立つことが多い。1時間以内の嘔吐は,少なくとも6グレイ以上の被曝を推定させる。なお,意識障害は50グレイを超える被曝で現れるとされているが,平成11年のZ236臨界事故では,より低い線量でも出ている。前駆症状について国際原子力機関IAEAがまとめたものは次頁の表のとおりであるセ()(ーフティレポートシリーズ2,1998年。甲282の1,2,乙220の1から3。 )ク前駆期を過ぎると,一時的に前駆期の症状が消え,潜伏期に入る。潜伏期の長さは線量に依存し,8グレイを超えるとほとんどみられないとされていたが,Z236事故ではより高い線量被曝でも潜伏期がみられた。 - 95 -セーフティレポートシリーズ2線量1-2Gy2-4Gy4-6Gy6-8Gy>8Gy嘔吐(時期)2時間以降1-2時間1時間以内30分以内10分 も潜伏期がみられた。 - 95 -セーフティレポートシリーズ2線量1-2Gy2-4Gy4-6Gy6-8Gy>8Gy嘔吐(時期)2時間以降1-2時間1時間以内30分以内10分以内(%)10-5070-90 下痢中等度重度重度(時期)--3-8時間1-3時間1時間以内(%)--<10>10 頭痛非常に軽い軽い中等度重度重度--4-24時間3-4時間1-2時間(時期)-- 80~90(%)意識影響なし影響なし影響なし影響あり意識喪失のことあり(時期)----数秒/数分(%)----100(50Gy以上)体温正常微熱発熱高熱高熱(時期)-1-3時間1-2時間<1時間<1時間(%)-10-8080-100 ケ潜伏期後には多彩な症状が現れる発症期に入り,急性放射線症に典型的な病状が発症する。その後,治療が成功すれば回復期に入るが,線量が高いと死亡する。 コ症状は非特異的なものであり,単にこれらの症状がみられたというだけで原因が放射線であると判断することはできず,放射線計測や染色体異常の頻度,リンパ球数の減少速度等の結果を総合的に判断しなければならない。リンパ球数は被曝後早期に減少するため(しきい値は0.5グレイと考えられている,初期の線量評価には有効であるが,被曝直後には変動。)も大きく正確な評価は被曝後数日後の結果が必要である。 - 96 -サ放射線皮膚障害の初発症状は発赤(初期紅斑)でり,通常は一過性である。およそ2グレイの被曝から現れる。これに引き続き,組織の腫脹から生ずる掻痒感,硬直等が生ずる。発赤や浮腫は,障害を受けた細胞が血管 放射線皮膚障害の初発症状は発赤(初期紅斑)でり,通常は一過性である。およそ2グレイの被曝から現れる。これに引き続き,組織の腫脹から生ずる掻痒感,硬直等が生ずる。発赤や浮腫は,障害を受けた細胞が血管を拡張させ,その結果透過性を亢進させる物質を放出することにより生ずる。これらの初期症状が皮膚や血管系の変化の前兆となる。線量によって異なるが,時間の経過とともに脱毛,色素沈着,落屑,水疱,細胞死や表皮の細胞増殖障害によって生ずる疼痛性の掻痒が現れる。国際放射線防護委員会(ICRP)が示した放射線皮膚障害のしきい線量,症状の出現時間をまとめたものは次の表のとおりである。 (放射線皮膚障害の症状)皮膚障害しきい線量(グレイ)障害の出現時間初期一時的紅斑 数時間一時的脱毛 3週主紅斑 10日永久脱毛 3週乾性落屑 4週侵襲性線維症 皮膚萎縮 14週以降毛細血管拡張 52週以降湿性落屑 4週晩発性紅斑 6~10週皮膚壊死 10週以降二次性潰瘍 6週以降シ前駆症状としての下痢のしきい線量は4から5グレイであり,高線量の放射線により血管の透過性が亢進し,腸管内に水が出てくるために生ずるものである。主症状としての下痢は,腸管の組織の欠損,血管の破綻等から血性の重篤な下痢であり,8から10グレイの高線量によって生ずる。 ス放射線による脱毛は,毛母細胞が障害されるため生ずるが,3グレイ程度の場合には,毛母細胞が再生可能であり,一過性の脱毛に止まる。存在する毛髪が直ちに抜けることはなく,被爆後3週間から1か月で抜けるよ- 97 -うになり,2,3か月後には再び発毛が見られる。 セ放射線基礎医学第10版(乙118)330頁図19-2に示された被爆者の重度脱毛の事例(Str なく,被爆後3週間から1か月で抜けるよ- 97 -うになり,2,3か月後には再び発毛が見られる。 セ放射線基礎医学第10版(乙118)330頁図19-2に示された被爆者の重度脱毛の事例(Stram-Mizuno)は,2グレイ以下の被曝においても20パーセント程度の脱毛が生じているが,医学的な常識に反する。これらの重症脱毛は熱風と熱傷等他の要因により生じたものと考えるのが合理的である。 ソなお,上記知見と同旨の文献等としては,Z117・Z118・Z116・Z119・Z120「電離放射線障害に関する最近の医学的知見の検討(平成13年度委託研究報告書,平成14年,甲119,Z121の」)平成19年2月28日付け放射線被曝による脱毛に関する意見書(乙145)等がある。 「」()(2)Z121放射線被曝による脱毛に関する意見書平成192007年2月28日付け(乙145)徳島大学医学部医科学教育部医学研究科教授Z121は,上記意見書で次の所見を述べる。 ア放射線科学の領域においては,被曝の人体への影響についての多くの研究成果が積み重ねられており,教科書的には,放射線の1回の照射後に一過性脱毛を引き起こすには最低でも350ラド(3.5グレイ)程度の線量(しきい線量)が必要である。 イ脱毛とは,毛組織に障害が発生し,発毛の機能が一時的又は永久的に失われることにより生ずる現象である。 ウ日本人の頭髪は約10万本あり,その90パーセントは成長期毛で残り10パーセントが休止期毛である。成長期毛包の放射線感受性が休止期毛包よりもはるかに高いため,比較的低線量(3~4グレイ)の放射線を照射した場合,一過性脱毛が成長期毛で起こる。これは照射後1週間後から出現し,2~3週間続く。その後,毛包が修復され8~12週後には発毛- 98 に高いため,比較的低線量(3~4グレイ)の放射線を照射した場合,一過性脱毛が成長期毛で起こる。これは照射後1週間後から出現し,2~3週間続く。その後,毛包が修復され8~12週後には発毛- 98 -が見られる。かつて,頭部白癬に放射線治療が行われ,1回当たり3~4グレイで,1箇所には4.5~8.5グレイが治療照射されていたが,上記と同様の経過をたどった。 エ一度に20~30グレイの高線量の放射線が照射された場合には,より短期間に全毛包で脱毛が起こり永久脱毛となるが,これほどの高線量の放射線を浴びるのは被曝事故以外には考えられない。 ,,,オ後天的脱毛症のうち皮膚病変を伴わず後に瘢痕を残さない脱毛には①円形脱毛症②男性型脱毛症壮年性脱毛症③粃糠性脱毛症④症候,(),,性脱毛症(栄養障害や代謝障害によるもの,急性熱性疾患等によるもの,内分泌異常に伴うもの,機械的脱毛症,薬物による脱毛症)がある。 カ被爆者の脱毛については,広島地裁及び名古屋地裁判決で,内部被曝によって生じたとの判断がされているが,低線量放射性物質が体内に取り込まれて脱毛が生ずるには,その放射性物質が毛包に高濃度に集積し,一定時間止まり,毛母細胞を障害しなければならない。毛包に特異的に集積する放射性物質は今のところ知られていない。線量推定値が余りにも低い場合,脱毛が起こるとは考えにくい。また,他の症状が出ないような場合にも,脱毛だけが特異的に生ずることは考えにくい。また,脱毛の時期や抜け方が放射線による脱毛とは異なるものがある。被爆直後の脱毛や昭和21年に入ってからの脱毛,脱毛が繰り返し生じたというのは,放射線によるものとはいえない。 (3)Z112の意見書(甲274)及び同人の証人尋問総合病院Z122病院名誉院長のZ112が,上記Z116の見 に入ってからの脱毛,脱毛が繰り返し生じたというのは,放射線によるものとはいえない。 (3)Z112の意見書(甲274)及び同人の証人尋問総合病院Z122病院名誉院長のZ112が,上記Z116の見解(Z121の意見書も含むについて平成19年10月9日付け意見書及び証人。),尋問(平成20年3月27日及び同年5月20日)で述べる指摘は次のとおりである。なお,同人は,昭和52年以来,広島において被爆者の臨床に携わっていた。 - 99 -アZ116意見書,Z121意見書にあるしきい線量は,急性放射線障害に際して見られる臨床症状であって,広島・長崎原爆被害の実態をもとに決められたものではない。急性放射線症のしきい線量は1970年代にすでに確立していたが,当時はDS86はなく,T65Dの時代である。 イ放射線治療や被爆事故の場合と原爆の場合とは被曝状況が異なる。原爆の場合には,初期放射線(ガンマ線,中性子線)のほかに,一定時間地面に伏し,地面からの誘導放射線(ガンマ線)を浴び,放射性を持った粉塵やほこりをかぶりベータ線による外部被曝や内部被曝(ベータ線,アルファ線)があった。医療用単一線源からの瞬間照射の状況とは異なり,原爆における脱毛という急性症状発症の機序は単純ではない。 ウZ121意見書は,脱毛等の症状が自己申告であり信用性がないとするが,被爆者の調査において,被曝距離と諸症状の発現頻度の相関が明らかにされ,これらは自己申告によるものであるが,被爆者が爆心地からの距離を知っていたわけではないし,上記の相関関係が偶然に生じたとは考えられない。 エ原爆被曝における脱毛の時期,態様が医療用被曝などと異なることも,被曝態様が異なるからである。原爆における脱毛には,1週間以内に生じたもの,1か月を経過して生じたもの,頭髪全体に生じた れない。 エ原爆被曝における脱毛の時期,態様が医療用被曝などと異なることも,被曝態様が異なるからである。原爆における脱毛には,1週間以内に生じたもの,1か月を経過して生じたもの,頭髪全体に生じたもの,頭髪の一部に生じたものなど,時期及び態様に多様性があるが,被爆状況が多様であるために起こるものである。 オ脱毛のしきい線量が3.5グレイとすれば,初期放射線としては,爆心地から1キロメートルの範囲内に相当するが,諸調査の結果では,1キロメートルを超えて脱毛がみられ,それは爆心地からの距離に相関した発現頻度がみられているのであり,1キロメートルの範囲外の脱毛を放射線以外の原因であるとすることはできない。 カZ121意見書において,放射線以外の後天的脱毛原因を挙げるが,被- 100 -爆者には当てはまらない。被爆者について円形脱毛症が増えたという報告はない。男性型脱毛症,粃糠性脱毛症についても,男女,老若の別に生じた脱毛の説明にならない。栄養障害・代謝障害,急性熱性疾患,内分泌異常,薬物による脱毛,機械的脱毛症も,被曝距離に相関する脱毛を説明することができない。 キ毛母細胞に放射性物質が特異的に集積するという科学的知見はないが,,()抗がん剤の投与により脱毛が生ずるがごとく血液を介しての影響被曝が考えられないではない。 検討(),(1)DS86に基づき定められた審査の方針13年方針の別表9によれば爆心地から2キロメートルの地点における初期放射線の線量は,広島7セン,,。 チグレイ長崎13センチグレイであり誘導放射線はいずれもゼロである,,それにもかかわらず爆心地から2キロメートルの以遠で被曝した者に脱毛紫斑,下痢等の急性症状がみられた調査結果があり,1審原告らは,これが放射線被曝による急性症状であって,遠 ずれもゼロである,,それにもかかわらず爆心地から2キロメートルの以遠で被曝した者に脱毛紫斑,下痢等の急性症状がみられた調査結果があり,1審原告らは,これが放射線被曝による急性症状であって,遠距離被爆者であっても,急性症状がみられた者については,相当量の放射線被曝があったものである旨主張し,1審被告らは,これらの症状は放射線被曝によるものではなく,放射線被曝があったことの根拠とはならない旨主張するので,以下検討する。 (2)前記2に掲げた文献等を整理すると次のとおりである。 ア資料のうち,被爆距離2キロメートルを超える被爆者の脱毛の発現率について記載があるものを拾うと次のとおりとなる。 (資料名)(発現率)(備考)(1)マンハッタン調査団17%1.25~4.25㎞長崎(2)日米合同調査団7.2%2.1~2.5㎞長崎(4)東京帝国大学医学部6.5%2.1~2.5㎞広島(5)Z9818.7%2㎞,屋外,入市なし- 101 -(6)厚生省公衆衛生局14%2.1~3㎞入市なし(9)Z100ら3.2%2~3㎞生存者,死亡者の場合は20%(11)Z105ら3%2~3㎞(12)Z107ら12.5%2~2.4㎞,遮蔽なし(13)Z10926.8%2~3㎞イ上記のいずれの資料においても,脱毛の発現率は,被爆距離が大きくなるに従い逓減しており,また,遮蔽の有無を区別したものでは,遮蔽がない場合が遮蔽がある場合に比べて高率の発現率を示しており,被爆後に爆心地付近に入市した場合は,入市をしなかった場合に比べて高率の発現率を示している。また,脱毛以外の紫斑,下痢等の症状についても,被爆距離との相関関係が強く認められる。このことは,上記の調査結果に現れた脱毛等の症状が原爆放射線によって引き起こされたものである 発現率を示している。また,脱毛以外の紫斑,下痢等の症状についても,被爆距離との相関関係が強く認められる。このことは,上記の調査結果に現れた脱毛等の症状が原爆放射線によって引き起こされたものであることを強く推認させるものである。 上記資料の脱毛発現率については,数値にばらつきがあるが,これは調査時期,調査方法,調査対象の違いによって生ずるものと推測され,被爆者における脱毛が原爆放射線に起因するという関係を推認するについて妨げとなる事情とまではいえない。 ウ遠距離の被爆者についてみると上記2(5)Z98の調査結果は被爆距,,離4キロメートル(入市なし)において2.8パーセントの脱毛率,被爆距離5キロメートルにおいて4パーセントの脱毛率を同(6)厚生省公衆衛,生局の調査結果は,4.1キロメートル以上(入市なし)において3.1パーセントの脱毛率をそれぞれが認めているが(5)Z98の調査結果中の,被爆距離3.5キロメートル(入市なし)では脱毛率が0.1パーセントであるなど連続性がなく,これらの資料から,被爆後入市をしなかった者(初期放射線以外の影響がないと推定される者)について,原爆放射線がどの範囲まで影響を及ぼしたのかを判定することは困難である。 - 102 -なお上記2(2)陸軍軍医学校の調査結果中には脱毛患者発生地域が爆,,心地から1.03キロメートルの範囲内であったとの記載があるが,調査対象が,Z93病院Z94分院の入院患者,外来患者,救護所等の患者243名と限定されており,1.03キロメートル以遠では脱毛がなかったことを一般に裏付ける資料価値はない。 エ入市による影響については,上記2(5)Z98,同(6)厚生省公衆衛生局の調査結果において,被爆後,爆心地付近に入市した場合について,入市をしなかった場合に比べて 一般に裏付ける資料価値はない。 エ入市による影響については,上記2(5)Z98,同(6)厚生省公衆衛生局の調査結果において,被爆後,爆心地付近に入市した場合について,入市をしなかった場合に比べて高率であるという結果があるほか同(5)Z98,の調査結果中には,入市した非被爆者の脱毛率があり,入市時期との関連は強固とはいえないが,滞在時間が把握できなかったこと,強壮の消防団員のグループがあったことが理由として挙げられている。これらは,入市により放射線の影響を受けたことをうかがわせる資料といえる。また,同調査結果には爆心地付近の滞在時間と何らかの症状があった者の比率(有症率)が掲げられているが,滞在15日までにおいて,滞在時間が長い方がより高率の有症率を表している。さらに,同(10)NHKヒロシマ局による賀北部隊の調査結果,同(14)のZ238高等女学校の調査結果も,原爆放射線影響が入市者に対して及んだことをうかがわせる資料といえる。 オ上記2(15)Z112によるZ113報告の検討結果は,長崎爆心地から2キロメートル及び3キロメートルで被爆し,翌月に死亡した3例の病理解剖結果を検討し,骨髄,脾臓,副腎,卵巣に病変が認められ,亜急性放射線症による死亡であったとする。 これに対して,同2(16)Z114の意見書は,病理解剖によって骨髄障害の病因を診断するには限界があること,観察された骨髄障害が放射線障害に基づくと結論することは妥当でないこと,骨髄以外の病理解剖所見にも病因を特定できるものが認められないこと,第5例は,左腕外傷からの感染で死亡した可能性があることを指摘して反論する。 - 103 -たしかに,昭和20年9月ころの病理解剖と現在の病理解剖とでその水準が異なるし,解剖をした場所は長崎市の国民学校に設けられた長崎市Z123病院内 可能性があることを指摘して反論する。 - 103 -たしかに,昭和20年9月ころの病理解剖と現在の病理解剖とでその水準が異なるし,解剖をした場所は長崎市の国民学校に設けられた長崎市Z123病院内であって,その病理解剖の資料価値が現時点の水準に達していないことはあるかもしれない。しかし,解剖の対象は同Z123病院内において死亡した13人の屍体であって,各屍体に係る病状経過資料は九州帝国大学治療班,Z240専門学校治療班,海兵団治療班から引き継ぐなどした上で,Z240専門学校教授Z113医師が病理解剖を行い,その当時,13例について亜急性原子爆弾症による死亡例であると判断したものであるこのことはその研究報告書原子爆弾症長崎の病理学。 ,(「()的研究報告」原子爆弾災害調査報告書。甲276の資料36)から明らかであって,その判断が誤りであったとするだけの根拠は見出せず,Z114意見においても,第5例について感染症の可能性も考えられると指摘するだけであって,それ以上の意見ではない。したがって,被爆地点が2キロメートル又は3キロメートルの被爆者について,死亡に至る重大な放射線被曝を受けた事例があったとする資料としての価値が同報告書にはあるといえる。 (3)Z116は緊急被ばく医療研究センター被ばく医療部長兼臨床研究室長,の地位にあり,Z236被曝事故患者の治療に当たるなど,被曝医療の専門家であり,その分野における知見については十分信頼をおけるものと考えられる。したがって,同人が示すICRPの組織別のしきい線量や皮膚障害のしきい線量,IAEAの急性放射線障害の前駆症状と被曝線量の関係のまとめなども,誤りがあるとは考えられない。Z112意見書も上記の知見を誤りとするものではない。しかし,Z116意見書(乙218)においても 線量,IAEAの急性放射線障害の前駆症状と被曝線量の関係のまとめなども,誤りがあるとは考えられない。Z112意見書も上記の知見を誤りとするものではない。しかし,Z116意見書(乙218)においても,Z236事故における患者において,意識障害が生ずる被曝線量である50グレイに達していない患者に意識障害がみられたこと,8グレイを超えると潜伏期がみられないといわれていたが,Z236事故の患者には潜伏期がみ- 104 -られたなど,Z116の知見とは異なる症状の経過があったことが紹介されており,重大被曝事故が日常的に発生するものではなく症例が少ないことや人に個体差があることから医学的知見にも例外はあることが分かる。また,放射線急性障害の症状には,特徴的な経過をたどることが知られているが,非特異的な症状が多く,放射線計測や染色体異常の頻度,リンパ球数の減少速度等の結果を把握しなければならないことも指摘がされている。 (4)ところでZ116意見書では2グレイ以下の被爆者にみられた脱毛放,,(射線基礎医学第10版330頁,乙118)について,放射線被曝による脱毛の特徴が認められるかどうか確認ができないし,2グレイ以下の放射線被曝によって脱毛が生ずることはあり得ないから,被爆者に認められた重症脱毛は熱風と熱傷等の他の要因により生じたものと考える方が合理的であるとする。 被爆者の急性症状があったのは,すでに60年以上前のことであり,前記の各調査結果は,それぞれ調査時期を異にしており,調査方法が明らかでないものもあり,大量のデータについてはアンケート方式(調査員の派遣,書面回答など)によるものもあるから,その精度は科学的厳密さの観点からすれば当然問題がある。しかし,大量の社会的事実の把握方法としては許されないものではなく,その結果を軽視するこ 式(調査員の派遣,書面回答など)によるものもあるから,その精度は科学的厳密さの観点からすれば当然問題がある。しかし,大量の社会的事実の把握方法としては許されないものではなく,その結果を軽視することは相当ではない。Z116意見書の被曝治療に係る知見については,我が国有数の医療施設の責任者の意見として傾聴でき,被曝治療の世界における確立した知見と被爆者の被爆直後の症状に不一致があるという意見の限度では理解できるが,同人は被爆者の実態に即した研究・検討に携わってきたわけではなく,同人の専門的知見がどの範囲まで通用性を有するかについては疑問がないとはいえない。被爆者に生じた急性症状を説明できる十分な理由がない限り,放射線と身体症状が無縁であると断定する意見の部分は採用できないのであって,同人の証言や本件記録の他の証拠から,被爆者に生じた症状を的確に説明する資料を見出- 105 -すことはできない。 (5)1審被告らはZ107・Z108・Z124原爆急性症状の情報の確,「かさに関する研究(乙144,Z107・Z125・Z108・Z126」)・Z124「長崎原爆被爆者の急性症状に関する情報の確かさ」長崎医学会雑誌81巻特集号平成18(2006)年(乙265)を引用して,被爆者の記憶が不確かであるとする。しかし,乙265の表1によれば,症状ごとの一致率(直後調査と15-20年後の調査)は71.9パーセントから90.9パーセントの範囲にあり,これを低いとみるかどうかは評価の問題であって,初期放射線の線量評価におけるDS86からDS02へのモデルチェンジにおいて部分的には線量評価が約30パーセント変更されたこと中,(性子線量)の例を考慮しても,その程度の不確かさが調査結果の意義を没却するものとまではいえない。 また,1審被告らは, ルチェンジにおいて部分的には線量評価が約30パーセント変更されたこと中,(性子線量)の例を考慮しても,その程度の不確かさが調査結果の意義を没却するものとまではいえない。 また,1審被告らは,自然災害,東京大空襲においても被曝の影響ではないことが明白な嘔吐,下痢,出血,脱毛,口内炎,倦怠感,不眠といった身体症状の発症が確認されており,身体症状の存在から放射線被曝の急性症状と判断することはできず,特にZ236事故においては,事故現場からの距離と体調不良の発現率とに相関関係がある旨主張する。たしかに,乙248によれば,東京大空襲の被災者の中に脱毛を生じた者があったことが認められ乙147は大きな禿と表現しており文脈からみて被爆地におけ(,「」,,る脱毛と同様のものと認めがたい,被災による心身の負担から脱毛等の身。)体症状が生ずることは否定できないところであるが,そのことは,爆心地からの距離に相関した発現率により,また,遮蔽の有無,入市の時期,滞在時間と相関した発現率により,脱毛等の放射線被曝による急性症状様の症状が認められることを説明する根拠とはならない。また,乙249中には,Z236事故の後,事故現場からの距離に相関して体調不良を訴える者があったことを示す資料があるが,同資料は,体調不良として脱毛等の放射線被曝と- 106 -同様の事例を扱うものではなく,施設の存在の不快感,不安感を示す資料とはいえるものの,前記の各調査結果にみられる被爆地における急性症状を放射線被曝の影響ではないことを説明する資料とはいえない。 (6)Z121意見書乙145の要旨はZ116意見書と同様にしきい(),,線量を超えない放射線被曝によって脱毛等の急性症状が生ずることはないから,被爆者の調査結果に現れた脱毛が放射線 6)Z121意見書乙145の要旨はZ116意見書と同様にしきい(),,線量を超えない放射線被曝によって脱毛等の急性症状が生ずることはないから,被爆者の調査結果に現れた脱毛が放射線の影響とは考えにくいというものであり,Z116意見書について説示したところに加えるところはない。 ()。 ,(7)Z112意見書甲274について一応検討するZ112意見書は被爆者の放射線被曝が,医療被曝や被曝事故の場合のような瞬間的被曝だけではなく地表からの誘導放射線ガンマ線放射性の粉塵やほこり等から,(),のベータ線,内部被曝におけるベータ線,アルファ線等多様であり,血流を介しての被曝の可能性もある旨意見を述べる。しかし,地表からの誘導放射,,,,線内部被曝としてのベータ線アルファ線の可能性があることはZ89Z91も述べるところであって前記第5線量評価について参照そ(「」),の可能性自体は否定しがたいところであるが,これを数量的に被曝線量として評価することは困難であることはZ89,Z91も認めるところであり,事柄の性質上,実証的な研究の蓄積等もなく,個々の被爆者に現れた急性症。 ,,,状の説明としては可能性の程度で理解するほかはないなお後記第83(13)にみるとおり,原爆被曝の後障害(肝機能障害)に関する「Z127論文2006」において,急性被曝と慢性被曝の人体に与える影響が異なる可能性があるとする知見があることも考慮すると,被爆者の急性症状の現れ方について,初期放射線の影響だけで説明することが困難であるという点については説得力があると理解できる。 ,,,,(8)以上検討したところによれば調査結果が示す被曝距離遮蔽の有無入市の有無及びその時期,滞在時間と相関する発現率によ 困難であるという点については説得力があると理解できる。 ,,,,(8)以上検討したところによれば調査結果が示す被曝距離遮蔽の有無入市の有無及びその時期,滞在時間と相関する発現率によって急性症状が現れたことの事実は,初期放射線による被曝線量が少ないかほとんどゼロと評- 107 -価される者について生じている症状の発症機序が明らかではないとしても,集団的な観察としては,調査結果が示す脱毛等の症状が原爆放射線の影響によるものと推認することができ,これらが原爆の放射線被曝によるものではなく,他の原因によるものであるとする1審被告らの主張は採用しがたい。 「」,(9)前記第5線量評価についてで検討したところの当裁判所の見解は①DS86に基づいて定められた審査の方針(13年方針)の被曝線量の評価基準について,初期放射線の評価については,爆心地から1000メートルを超える部分についての誤差が大きい難点(過小評価)があるものの,DS86全体の存在意義を否定する科学的知見はないこと,②誘導放射線については,DS86と異なる知見が見当たらないこと,③放射性降下物については,審査の方針に定められた地域に限定されるかについてはなお疑問があること,④内部被曝については,科学的知見としては無視してもよいとする審査の方針は相当ではないこと,⑤そうであるとしても,被爆者ごとに原爆の各種放射線による合計した被曝線量を正確に評価することは困難であり,およそ基準化することは至難というべきであること,以上のとおり要約することができる。 爆心地から1000メートルを超える初期放射線のDS86による計算上の線量値に誤差があるとしても,その誤差は大きいものではなく,DS86を前提にすると,Z116意見書等によって認められる放射線被曝治療における急 00メートルを超える初期放射線のDS86による計算上の線量値に誤差があるとしても,その誤差は大きいものではなく,DS86を前提にすると,Z116意見書等によって認められる放射線被曝治療における急性放射線障害のしきい値に関する知見と被爆者の急性症状の調査結果には相容れない矛盾があるとするほかはない。そして,前記のとおり,被爆者の急性症状の調査結果について,原爆放射線以外の原因であると説明することも当を得ているといえないし,DS86に誤りがあると断定することも困難である。このような場合,原爆症の認定過程においては,これをあるがままの前提として判断していくほかはないものと考える。すなわち,原爆症認定における放射線起因性の判断は,放射線や負傷又は疾病に関する科学的- 108 -知見に基づく法律判断であって,科学的知見が日々発展していく性質が有するものであるから,あくまでもその時点における科学的知見という限定を常に伴うものである性格に照らすと,その時点における科学的知見に基づいて。 ,,,法的判断を行うことになる本件においては①DS86放射線被曝治療放射線防護学等の科学的知見が被爆者の初期症状をすべて説明し尽くしていないこと,②被爆者調査における被爆者の初期症状が原爆放射線の影響によるものであると考えることが最も合理的であること,③しかし,個々の被爆者に被爆直後に放射線の急性症状類似の症状が現れたとしても,そのことだけで直ちに当該被爆者に相当程度の放射線被曝があったと断定することはできないこと,以上を念頭において判断するのが相当である。 (10)上記の見地に立って,原爆症認定の放射線起因性判断における急性症状の問題についていえば,まず,前に列挙した被爆者調査の結果からみると,審査の方針(13年方針)が定める線量評価の手法は,特に残留 0)上記の見地に立って,原爆症認定の放射線起因性判断における急性症状の問題についていえば,まず,前に列挙した被爆者調査の結果からみると,審査の方針(13年方針)が定める線量評価の手法は,特に残留放射線(誘導放射線及び放射性降下物)及び内部被曝の問題についての点で過小評価に陥る危険があり,これをそのまま是認することはできず,審査の方針の基準に基づいた被曝線量を誤りのないものであることを前提に判断することはできないということがいえる。この場合,正確な線量評価ができないことになるが,60年以上前の目に見えない放射線の量を評定することが困難であることは,決して特異なことではない。 次に,原爆症認定の申請をした被爆者に急性症状が認められる場合には,その具体的症状により,原爆放射線の影響を受けたことの根拠の1つとして考慮することが相当である。この点は,元来,13年方針の第1の1,4)の「既往歴」には被爆者の急性症状を含むと解されることのほか,前記在り方検討会の報告でも急性症状についても考慮すべき分野及び手法を具体的に指摘したことを受けて,再び新審査の方針(20年方針)の第1の2(総合認定)中に「被曝線量」と並んで「既往歴」を明記するなど急性症状の認定- 109 -及びその意義が有する比重が増していることが認められる。 ,,,,したがってその急性症状の具体的内容発症時期継続期間等を把握し放射線被曝治療に係る急性症状の知見を参考としつつ検討するのが相当である。 第7原因確率について 問題の所在審査の方針(13年方針)が,DS86に基づく被爆者の被曝線量の評価を行い,これを前提として,疫学的知見によって得た原因確率(寄与リスク)を算定し,被爆者に当てはまる原因確率を目安に原爆症における放射線起因性の判断を行うとしたこと白内障につい 者の被曝線量の評価を行い,これを前提として,疫学的知見によって得た原因確率(寄与リスク)を算定し,被爆者に当てはまる原因確率を目安に原爆症における放射線起因性の判断を行うとしたこと白内障については閾値を目安とするは前記のと(,。),おりである。 被爆者の被曝線量の評価の問題はこれまで検討したところであるが,次に,確率的影響に属する疾病に適用される原因確率について検討する。本件1審原告らについて,前記のとおり,新審査の方針(20年方針)に基づく原爆症の認定が行われ,個別の原告について原因確率を問題とする余地がなくなっており,当審における当事者の主張もこの点に重点が置かれていないが,以下,審査の方針における原因確率の考え方及びその合理性について検討することとし,その順序としては,原因確率の基礎となったZ54広島大学医学部保健学科健康科学教授を主任研究者とし,分担研究者Z128外5名,研究協力者4名による放射線の人体への健康影響評価に関する研究平成12年度厚生科「」(学研究費補助金厚生科学特別研究事業)の総括研究報告書(乙2,以下「Z54論文というの内容Z54論文の基礎資料となった放影研の被爆者に関」。),する原爆の健康影響調査の概要,これら研究の方法である疫学の考え方等について事実を確定し,当事者の主張に照らして検討を進めることとする。 Z54論文の概要(乙2,69)(1)研究の目的- 110 -,「」この研究は原爆放射線が被爆者においてがんあるいはがん以外の疾患の死亡や罹患(発生)に及ぼす後影響のリスクをまとめ,そのうち特に「がん及び一部のがん以外の疾患」について寄与リスクを算出することを目的としたものである。なお,Z54は「寄与リスク(ATR」を疾病・障害認,)定審査会原子爆弾被 のリスクをまとめ,そのうち特に「がん及び一部のがん以外の疾患」について寄与リスクを算出することを目的としたものである。なお,Z54は「寄与リスク(ATR」を疾病・障害認,)定審査会原子爆弾被爆者医療審査会においては「原因確率」と称していると指摘する。 (2)研究の方法アリスク評価の指標放射線の人体への健康影響に関するリスク評価の指標として,①相対リ(),スク非曝露群に対する曝露群の疾患発生あるいは死亡の比を示すもの②絶対リスク(曝露群と非曝露群における疾患発生あるいは死亡の差を示すもの③寄与リスク曝露者中におけるその曝露に起因する疾病などの),(帰結の割合を示すもの。例えば,曝露群におけるがん死亡者〈罹患者〉の〈〉。)うち原爆放射線が原因と考えられるがん死亡者罹患者の割合を示すの3種類の評価指標があるが,寄与リスクは,絶対リスクの相対的大きさで表され,大きさが0から100パーセントに数値化されるものであり,種々の疾患に対する放射線リスクの評価が同じ枠内の数値として統一的に考えられることから,放射線が占める割合としてのリスク評価の指標としては,寄与リスクが最適と考えられる(なお,寄与リスクの値は,過剰相対リスクを過剰相対リスクに1を加えたもので除して算定される。 。)イ寄与リスクを求めた疾患寄与リスクの算出の対象となった疾患は,寿命調査及び成人健康調査で放射線被曝と疾病の死亡・発生率(有病率)についての関係が論文発表されているものである。固形がんについては,寄与リスクを求めるに当たって,次の3群に分けた。 (ア)部位別に寄与リスクを求めたがん(寿命調査集団を使った過去の死- 111 -,,亡率・発生率の報告で放射線との有意な関係が一貫して認められかつ部位別に寄与リスクを求めても比較的信頼性 (ア)部位別に寄与リスクを求めたがん(寿命調査集団を使った過去の死- 111 -,,亡率・発生率の報告で放射線との有意な関係が一貫して認められかつ部位別に寄与リスクを求めても比較的信頼性に足りると考えられる部位のがん~胃がん,大腸がん,肺がん,女性乳がん,甲状腺がん)及び白血病(イ)原爆放射線に起因性があると思われるが,個別に寄与リスクを求めると信頼区間が大きくなると考えられるがん(肝臓がん,皮膚がん〈悪性黒色腫を除く,卵巣がん,尿路系〈膀胱を含む〉がん,食道がん)〉(ウ)現在までの報告では,部位別に過剰相対リスクを求めると統計的には有意ではないが,原爆放射線被曝との関連が否定できないもの((ア)(イ)以外のがんすべて)寄与リスクを求めなかった疾患は,骨髄異形成症候群(最近,被曝との関連が学会で発表されているが,まだ論文発表されていない,放射線白。)内障(しきい値が求められている,甲状腺機能低下症(論文発表されて。)いるデータから寄与リスクを算出することができない,過去に論文発表。)がない疾患(造血機能障害など)である。 ,,. なお放射線白内障における安全領域のしきい値は眼の臓器線量で1(. . )75シーベルト95パーセント信頼区間131~221シーベルトである。 ウ寄与リスクを求めた基となった資料白血病,胃がん,大腸がん及び肺がんについては,放影研が公開している死亡率調査1950~1990年甲状腺がんと乳がんは発生率調(),,査(1958~1987年,臓器線量からカーマ線量に変換)のデータを使用した。 副甲状腺機能亢進症は,有病率調査結果から寄与リスクを推定し,線量は論文で使われている甲状腺線量で求めた。 肝硬変については,がん以外の疾患の死亡率調査から算出し,線量は論- データを使用した。 副甲状腺機能亢進症は,有病率調査結果から寄与リスクを推定し,線量は論文で使われている甲状腺線量で求めた。 肝硬変については,がん以外の疾患の死亡率調査から算出し,線量は論- 112 -文で使われている結腸線量を使った。 子宮筋腫は成人健康調査集団を対象にした発生率調査から求めた。 エ寄与リスクを求める際の被爆時年齢及び被爆からの経過年数白血病及び固形がんの放射線に対する過剰死亡及び過剰発生は,性,被爆時年齢,被爆後の経過年数の影響を受ける。特に白血病については,被爆後10年をピークにして,その後被曝後年数の経過とともに急激に過剰相対リスクは低下しており,1981年から1990年のデータに基づき。 ,。 算出した固形がんについては寄与リスクは観察期間の平均を使用した性差,被爆時年齢による過剰相対リスクに有意差があるがんについては,性別,被爆時年齢別に寄与リスクを求めた。 (3)研究の結果ア白血病,胃がん,大腸がんの死亡,甲状腺がんの発生について,性別,被爆時年齢,線量別の寄与リスクを求めた(審査の方針の別表1~4の各1・2と同内容。 )イ乳がんについて,被爆時年齢,線量別の寄与リスクを求めた(審査の方針の別表5と同内容。 )ウ肺がんの死亡について,被爆時年齢の影響を受けなかったので,性別,被曝線量別の寄与リスクを求めた(審査の方針の別表6の1・2と同内容。 )エ肝臓がん皮膚がん悪性黒色腫を除く卵巣がん尿路系膀胱を含,(),,(む)がん,食道がんについて,この5疾患をまとめて寄与リスクを求めた(審査の方針の別表7の1・2と同内容。 )オ副甲状腺機能亢進症の有病率調査では,被曝の影響に性差は認められなかったので,被爆時年齢と甲状腺臓器線量別に寄与リスクを求めた(審査の方針の別 求めた(審査の方針の別表7の1・2と同内容。 )オ副甲状腺機能亢進症の有病率調査では,被曝の影響に性差は認められなかったので,被爆時年齢と甲状腺臓器線量別に寄与リスクを求めた(審査の方針の別表8と同内容。 )カ肝硬変による死亡については,被曝の影響に性差,被爆時年齢による差- 113 -は認められなかったので,被曝線量ごとの寄与リスクを求めた(最小20センチグレイの場合に3.5パーセント,最大300センチグレイの場合に35.1パーセント。ただし審査の方針には採用されなかった。 )キ子宮筋腫の有病率については,放射線の影響に被爆時年齢による差は認められなかったので,被曝線量ごとの寄与リスクを求めた(最小5センチ. ,. グレイの場合に22パーセント最大150センチグレイの場合に408パーセント。ただし,審査の方針には採用されなかった。 ) 放影研の疫学調査の手法(放影研「要覧」平成11(1999)年,乙5)(1)調査集団昭和22年にABCCが設置され,昭和50年に日米が共同で運営する放。 ,影研がその業務を引き継いだことはすでに述べたとおりであるABCCは昭和30(1955)年のフランシス委員会の勧告を受けて,昭和25(1950)年の国勢調査時に行われた被爆者調査から約28万人の日本人被爆者が確認され,このうちの約20万人(昭和25(1950)年当時広島・長崎のいずれかに居住していた者)を基本群として,以後の被爆者調査は,この基本群から選ばれた副次集団について行われた。寿命調査(LifeSpanStudyLSSでは厚生省・法務省の公式許可を得て国内である限りは,),,死亡した地域にかかわりなく死因に関する書類を入手し,がんの罹患率に関しては,地域の腫瘍・組織登録からの情報により調査が行われた。成 厚生省・法務省の公式許可を得て国内である限りは,),,死亡した地域にかかわりなく死因に関する書類を入手し,がんの罹患率に関しては,地域の腫瘍・組織登録からの情報により調査が行われた。成人健康調査(AdultHealthStudy,AHS)については,疾患の発生と健康状態に関する追加情報もある。 (2)寿命調査当初のLSS集団は,基本群のうち,本籍が広島か長崎にあり,昭和25(1950)年に両市のどちらかに在住し,効果的な追跡調査を可能にするために設けられた基準を満たす者の中から選ばれ,次の4群に分類される。 ①爆心地から2000メートル以内で被爆した中心グループ(近距離被爆- 114 -者②爆心地から2000ないし2500メートルで被爆した者③中心グ),,ループと年齢・性が一致するように選ばれた,爆心地から2500ないし10000メートルで被爆した者遠距離被爆者④中心グループと年齢・性(),が一致するように選ばれた,1950年代前半に広島・長崎に在住していたが原爆投下時は市内にいなかった者(市内不在者。 )当初9万9393人から編成されていたLSS集団は,順次拡大され,今日では12万0311人となっている。この集団には,爆心地から10000メートル以内で被爆した9万3741人と原爆時市内不在者2万6580人が含まれている。これらの人々のうち,8万6632人については被曝線量推定値が得られているが,7109人については,建物や地形による遮蔽計算の複雑さや不十分な遮蔽データのため線量計算はできていない。現在,LSS集団には,基本群に入っている2500メートル以内の被爆者がほほ全員含まれるが,1950年代後半までに転出した被爆者,国勢調査に無回答の被爆者,原爆時に両市に駐屯中の日本軍部隊及び外国人は除外さ SS集団には,基本群に入っている2500メートル以内の被爆者がほほ全員含まれるが,1950年代後半までに転出した被爆者,国勢調査に無回答の被爆者,原爆時に両市に駐屯中の日本軍部隊及び外国人は除外されている。 (3)成人健康調査この集団は,2年に1度の健康診断を通じて疾病の発生率と健康上の情報を収集することを目的として設定された。成人健康調査によって,すべての疾患と生理的疾病を診断し,がんやその他の疾患の発生と被曝線量との関係を研究し,LSS集団の死亡率やがんの発生率についての追跡調査では得られない臨床上あるいは疫学上の情報を入手できる。昭和32(1957)年の設立当時,AHS集団は当初のLSS集団から選ばれた1万9961人から成り,中心グループは,昭和25(1950)年当時生存していた,爆心地から2000メートル以内で被爆し,急性放射線症状を示した4993人全員で構成された。このほかに,都市・年齢・性をこの中心グループと一致()。 させた次の3つのグループいずれも中心グループとほぼ同数が含まれる- 115 -①爆心地から2000メートル以内で被爆し,急性症状を示さなかった者,②広島では爆心地から3000ないし3500メートル,長崎では3000ないし4000メートルの距離で被爆した者,③原爆時にいずれの都市にもいなかった者。 昭和52(1977)年に,高線量被爆者の減少を懸念して,新たに次の3つのグループを加えAHS集団を拡大し,合計2万3418人とした。①LSS集団のうち,昭和40(1965)年暫定推定放射線量が1グレイ以上である2436人の被爆者全員,②これらの人と年齢及び性を一致させた同数の遠距離被爆者,③胎内被爆者1021人AHS集団設定後40年を経た平成11(1999)年現在5000人以上が生存しており,その70 2436人の被爆者全員,②これらの人と年齢及び性を一致させた同数の遠距離被爆者,③胎内被爆者1021人AHS集団設定後40年を経た平成11(1999)年現在5000人以上が生存しており,その70パーセント以上の人々が今も成人健康調査プログラムに参加している。 放影研等による調査結果の概要(1)Z129・Z130外1名予研-ABCC寿命調査広島・長崎第3「,報1950年10月-1966年9月の死亡率ABCC業績報告書昭」()和38(1963)年(乙29)LSSの全サンプル99,393を解析の対象として,昭和25(1950)年から35(1960)年の間の死亡率を検討したものである。 まとめとして,以下の記載がある。最も多い死因は中枢神経系の血管損傷と悪性新生物である。原爆時市内にいなかった者はどの距離区間の被爆者よ。 ,りも低率な死亡比を観察した爆心地から1399メートル以内の被爆者はこれより遠距離の被爆者より全死因全病死因結核広島男子白血病,,,(),とその他の悪性新生物の標準化死亡比が高率であることが分かった。自然死による死亡者あるいは白血病を除く悪性新生物で死亡したものが受けたと考えられるT57線量は最近の戸籍照合で生存していた被爆者の受けた線量より有意に高率であると分かった。被爆者の地図上の座標別に標準化死亡比を- 116 -見ると,死亡比の大小の一部に少なくともその地域の社会階級の影響を受けていることが分かった。それにもかかわらず,広島では爆心地を含む地域で被爆した者の標準化死亡比は常に高く,放射線の影響が疑われる。 (2)Z102外2名予研-ABCC寿命調査広島・長崎第5報 「,0年10月-1966年9月の死亡率と線量との関係」(ABCC業績報告書)昭和45(1 く,放射線の影響が疑われる。 (2)Z102外2名予研-ABCC寿命調査広島・長崎第5報 「,0年10月-1966年9月の死亡率と線量との関係」(ABCC業績報告書)昭和45(1970)年(乙12)T65Dの策定によってその推定線量による再検討,各種疾患の死亡率などの解析が行われた。180ラド以上の被曝を受けた群において,悪性新生物(白血病を除く)の罹病率が特に昭和37(1962)年から41(1966)年の期間に増加がみられたとし,暫定的に,遅発性の全般的な発がん効果が現れ始めたとの結論を出している。調査期間(16年間)の全期間を通じて最も多量の放射線を受けた群の白血病死亡率は著しく高いが,明らかに減少の傾向があるとしている。 また,早期入市者,後期入市者及び市内にいた者との比較が行われ,被爆者と原爆時に市内にいなかった者との間では,白血病及びその他の悪性新生物による死亡率の差が最も著しく,特に広島において顕著であり,遠距離被爆者と原爆時に市内にいなかった者との比較では,がん死亡率は余り差がなく,広島の早期入市者の死亡率は後期入市者のそれより少なく,早期に市内に入ったために死亡率が増加したという形跡はほとんどないとされている。 (3)Z102外1名予研-ABCC寿命調査第6報原爆被爆者における「死亡率1950-70年ABCC業績報告書昭和461971年乙」()()(26)T65D線量を用いた解析が行われており,以下のような指摘がされている。 ア高線量被曝群における疾病による死亡率は,低線量被曝群及び市内にいなかった群のそれよりも高い。 - 117 -イ死亡率の増加は,白血病について特に顕著であって,放射線の影響は推定線量が10-49ラドであった者にも存在しているようであった。 ウ白血病を除く いなかった群のそれよりも高い。 - 117 -イ死亡率の増加は,白血病について特に顕著であって,放射線の影響は推定線量が10-49ラドであった者にも存在しているようであった。 ウ白血病を除くがんによる死亡率も高線量被曝群において上昇を示したが,確実に上昇の認められたのは200ラドを越える線量を受けた群のみ。 ,であった新生物以外の死因による死亡率には軽微な増加が観察されたが全体としては,脳卒中,循環器系の疾患及び結核を含むその他の死因に対しては,放射線の影響はほとんどみられず,死亡率に対する放射線の影響は,主として白血病と悪性腫瘍及び良性又は性質不詳の新生物などに限定されているようである。なお,乳房,子宮頚,子宮体のがんの相対的危険度は有意に高くはなかった。 エ被爆時年齢が10歳未満であった小児は,白血病及びその他のがんにつ,。 いてそれよりも高い年齢で被爆した者に比較して強い影響を受けているオ高線量群における白血病の死亡率は,観察した20年間にわたって一貫して減少してはいるが,最後の期間である昭和40(1965)年から昭()。 和451970年においてもなお一般の水準までには下降していないしかし,その他のがんの頻度は,この観察期間中上昇し,最後の期間である昭和40年から昭和45年においてはその上昇が顕著で,白血病を除くがんの誘発に必要な潜伏期は,被爆者が受けた放射線量の範囲内ではおおよそ20年以上であろうと思われる。 カ原爆後30日以内に入市した「早期入市群」の死亡率が極端に低い値を。 ,。 示した早期入市者はこの20年間一貫して低い死亡率を維持してきたこの傾向の例外は,白血病を除く悪性新生物による死亡率であり,早期入市者のがん死亡率は昭和35(1960)年までに後期入市者のそれに達し,昭和35(1960)年 年間一貫して低い死亡率を維持してきたこの傾向の例外は,白血病を除く悪性新生物による死亡率であり,早期入市者のがん死亡率は昭和35(1960)年までに後期入市者のそれに達し,昭和35(1960)年から昭和45(1970)年の期間にはがんの死亡率に関しては市内にいなかった群と低線量被曝者群との間に差異はみられなかった。 - 118 -「,(4)Z102外1名予研ABCC寿命調査第7報原爆被爆者の死亡率1970-72年および1950-72年ABCC業績報告書昭和48」()(1973)年(乙27)追加観察期間においては,重要な新しい所見は認められず,以前の所見を補強するものであった。白血病による死亡率は急速に下降しているが,現在でも高い値を示しており,胃がんを除く消化器のがんによる死亡率が高線量被曝群に高いなどとしている。 (5)Z102外2名寿命調査第8報原爆被爆者における死亡率 「,0-74年(放影研業績報告書)昭和53(1978)年(乙28)」がん以外の疾患では放射線の死亡に及ぼす後影響がみられるという証拠はなく,電離放射線はすべての疾患による死亡率を高めるものであるとする加齢促進の仮説には疑問が投げかけられた。また,それまでに調査報告で認められた影響に胃がん,食道がん,泌尿器がん及びリンパ腫も追加すべきであるとの示唆が得られ,また,大腸,肝臓及び他の器官にも放射線の発がん効果がみられる可能性が指摘されている。 白血病誘発効果は昭和45(1970)年から昭和49(1974)年の調査でもまだ認められ白血病以外の悪性新生物全体について昭和461,,(971)年から昭和49(1974)年の調査では,100万人年ラド当たりの過剰死亡数は4.2にまで達したことが紹介されている。 また,一般に全観察 病以外の悪性新生物全体について昭和461,,(971)年から昭和49(1974)年の調査では,100万人年ラド当たりの過剰死亡数は4.2にまで達したことが紹介されている。 また,一般に全観察期間を通じて平均した絶対危険度は原爆時年齢と共に増加し,原爆時年齢は,発がんに重要な役割を演ずるが,このことは対象集団の最少年齢が主ながんの発生する年齢に達するまでは完全には解明できないとされている。 前報に続き,早期入市者の白血病死亡率が高いことの確認はされず,早期入市者及び後期入市者の死亡率に重要な差異があるともいえないとされている。 - 119 -(6)Z102外3名寿命調査第9報第2部原爆被爆者における癌以外「の死因による死亡率1950-78年放影研業績報告書昭和56 ,」()(981)年(乙33)上記報告書には以下の指摘がある。 アがん以外の死因による累積死亡率は,両市,男女及び5つの被爆時年齢群のいずれにおいても,放射線量に伴う増加は認められなかった。したが,。 って現在までのところ放射線による非特異的な加齢促進は認められないイ昭和25(1950)年以前の死亡の除外による偏りの大ききを求めるために,三つの補足的死亡率調査を使用して,寿命調査の調査開始(昭和25(1950)年)以前の死亡率を再解析した結果,この偏りが1950年以後に調査対象に認められた放射線影響の解釈に重大な影響を及ぼすとは考えられない。 ウ極めて少ない量の誘導放射線を受けたと思われる早期入市者においては,後期入市者及び0ラド被爆群よりも死亡率が引き続き低い。この調査対象期間中の早期入市者には,白血病又はその他の悪性腫瘍による死亡の増加は認められていない。 (7)Z102外3名原爆被爆者の死亡率調査 1950-78年の死亡 死亡率が引き続き低い。この調査対象期間中の早期入市者には,白血病又はその他の悪性腫瘍による死亡の増加は認められていない。 (7)Z102外3名原爆被爆者の死亡率調査 1950-78年の死亡「. 率:第2部.癌以外の死因による死亡率及び早期入市者の死亡率」廣島醫學36巻2号昭和58(1983)年(乙13)がん以外の死因による死亡率の増加があるか否か,あるいは放射線による非特異的な加齢促進が起こるか否かを調べたものであり,以下のように要約されている。 アがん以外の死因による累積死亡率は,両市,男女及び5つの被爆時年齢群のいずれにおいても,放射線量に伴う増加は認められなかった。 イがん以外の特定死因で,原爆被爆との有意な関係を示すものはみられない。したがって,この集団では,現在まで放射線による非特異的な加齢促進は認められ- 120 -ない。 (),ウ昭和251950年以前の死亡の除外による偏りの大きさを求めるために3つの補足的死亡率調査を使用して,寿命調査の調査開始(1950年)以前の死亡率を再解析した。この偏りは,昭和25(1950)年以後に調査対象と認められた放射線影響の解釈に重大な影響を及ぼすとは思われない。 エこの調査対象中の早期入市者には,白血病又はその他の悪性腫瘍による死亡の増加は認められない。 この報告では,早期入市者の死亡数が全国の平均死亡率から計算した同性・同年齢の者の期待値よりかなり少なかったとされ,直接被爆者とは対照的に誘導放射線によるがんの顕著な増加はあり得ないと思われるとされている一方で,白血病以外のがんについて,慎重に長期観察を継続することが重要であると指摘されている。 (8)Z102・Z71外2名寿命調査第10報第1部広島・長崎の原「爆被爆者における癌死亡1950-82年放影 がんについて,慎重に長期観察を継続することが重要であると指摘されている。 (8)Z102・Z71外2名寿命調査第10報第1部広島・長崎の原「爆被爆者における癌死亡1950-82年放影研業績報告書昭和61,」()(1986)年(乙7)白血病,肺がん,女性乳がん,胃がん,結腸がん,食道がん,膀胱がん及び多発性骨髄腫について有意な線量反応が認められたほか,肝臓及び肝内胆管,卵巣及びその他子宮附属器のがんについては,有意な放射線影響が示唆されたが,胆嚢及び前立腺のがんにおける正の線量反応は有意ではなかった。しかし,診断上の困難性及び放射線影響の薄弱性から肝臓及び卵巣のがんに対する放射線影響は明白な根拠によるものとはいえない。この解析の基となった死亡診断書における肝臓,胆嚢及び胆管のがんの診断は極めて不正確である。以上の指摘がある。 なお,前立腺がんによる死亡例は比較的少なく,この報告に係る51例の場合,100ラドにおける平均相対危険度が1.27で,放射線量との関連性は統計的に有意でないとされた(p=0.08。なお,p値は,事象が偶然に起こりえる確率であり,通常0.05,つまり5パーセント以下を有意とする場合が多い。 。)- 121 -(9)Z131・Z102外1名寿命調査第11報第2部新線量DS「( における1950-85年の癌死亡率放影研業績報告書昭和63)」()(1988)年(乙34)本報告から,これまでのT65Dによる線量推定から,D86による線量推定に変更された。放射線量の増加と共に死亡率が有意に高くなるのは,従前の調査結果と同様に白血病,食道がん,胃がん,結腸がん,肺がん,乳がん,卵巣がん,膀胱がん及び多発性骨髄腫であり,有意の上昇がみられないのは,直腸がん,胆嚢がん,膵臓がん が有意に高くなるのは,従前の調査結果と同様に白血病,食道がん,胃がん,結腸がん,肺がん,乳がん,卵巣がん,膀胱がん及び多発性骨髄腫であり,有意の上昇がみられないのは,直腸がん,胆嚢がん,膵臓がん,子宮がん,前立腺がん及び悪性リンパ腫であるとされ,さらに骨がん,咽頭がん,鼻がん,喉頭がん及び黒色腫以外の皮膚がんと放射線との関係も調べられているが,いずれも有意な上昇は認められなかったとされている。また,脳腫瘍以外の中枢神経系の腫瘍については上昇傾向を示したが,脳腫瘍については,その傾向は観察されなか,,ったとした上で放射線誘発がんの経年変化のパターンを明らかにするには更に調査が必要であろうとしている。 また,低線量域(0.50グレイ以下)の線量反応関係の検討もされているが,白血病を除いて低線量域と高線量域での回帰係数には有意な差は認められず,白血病では,0.5グレイ未満での回帰係数は0.5グレイ以上でのそれよりも低かったとされている。 (10)Z131・Z102外2名「寿命調査第11報第3部改訂被曝線(),」量DS86に基づく癌以外の死因による死亡率1950-1985年(放影研業績報告書)平成5(1993)年2月(甲41の資料29,乙57),,()この報告では限られた根拠しかないが高線量域2又は3グレイ以上においてがん以外の疾患による死亡リスクの過剰があるように思われ,統計学的にみると,二次モデル又は線形-閾値モデル(推定閾値線量1.4グレイ 6-28グレイの方が単純な線形又は線形-二次モデルより[. . ]),- 122 -もよく当てはまり,がん以外の疾患による死亡率のこのような増加は,一般的に昭和40(1965)年以降で若年被爆群(被爆時年齢40歳以下)において認められ,若年被爆者の感 . ]),- 122 -もよく当てはまり,がん以外の疾患による死亡率のこのような増加は,一般的に昭和40(1965)年以降で若年被爆群(被爆時年齢40歳以下)において認められ,若年被爆者の感受性が高いことを示唆しているとされている。 死因別にみると,循環器及び消化器系疾患について,高線量域(2グレイ以上)で相対リスクの過剰が認められるが,この相対リスクはがんの場合よりもはるかに小さい。 (11)Z132・Z133・Z134・Z54・Z135・Z136・Z137「成人健康調査第7報原爆被爆者における癌以外の疾患の発生率 958-86年(第1-14診察周期(放影研業績報告書)平成6(19)」94)年(甲41の資料30,乙59。以下「Z132論文」ともいう)。 Z54論文の基礎資料となった報告書である。 成人健康調査(AHS)コホートの長期データを用いて悪性腫瘍を除く19の疾患の発生率と電離放射線被曝との関係が初めて調査された。 子宮筋腫,慢性肝炎及び肝硬変,また甲状腺がんを除く甲状腺所見が1つ以上あることという大まかな定義に基づく甲状腺性疾患に,統計的に有意な過剰リスクを認めている。 子宮筋腫についての所見は,良性腫瘍が放射線被曝により発生する可能性を示す新たな証拠となるものであり,肝臓の放射線感受性を示す今回の結果は,重度被曝群において肝硬変による死亡が増加するという最近の寿命調査の報告を裏付けるものであるとされている。甲状腺の非悪性疾患に被爆時年齢の影響が認められ,被爆時年齢が20歳以下でリスクは上昇し,20歳以上ではリスクの上昇は認められていない。 心臓血管系の疾患については,いずれにも有意な線量反応関係は認められなかったが,近年,若年被爆者では心筋梗塞の発生が増加しているとされ,成人健康調査において心筋梗塞と確認さ 上昇は認められていない。 心臓血管系の疾患については,いずれにも有意な線量反応関係は認められなかったが,近年,若年被爆者では心筋梗塞の発生が増加しているとされ,成人健康調査において心筋梗塞と確認された症例は77例に限られ,この中- 123 -には致死症例は含まれておらず,今回有意な結果が得られなかったのは症例数の不足のためかもしれないことが指摘されている。 また,この調査は,昭和33(1958)年から昭和61(1986)年にAHS受診者の白内障の新たな発生が放射線量に伴って増加していないことを示唆しているとされている。 (12)Z138・Z106外9名「原爆被爆者における癌発生率。第2部:充,」()()実性腫瘍1958-1987年放影研業績報告書平成71995年(乙4。以下「Z138論文」ともいう)。 Z54論文の基礎資料となった報告書である。 この報告では,死亡に関するこれまでのLSS所見と同様に,全充実性腫瘍について統計学的に有意な過剰リスクが立証されたとしている。 胃,結腸,肺,乳房,卵巣,膀胱及び甲状腺のがんにおいて,放射線と有意な関連性が認められ,20歳以下で被爆した群において,神経組織(脳を除く)腫瘍の増加傾向があったとされている。今回初めて寿命調査集団で放射線と肝臓及び黒色腫を除く皮膚のがん罹患との関連性がみられ,唾液腺腫瘍への原爆放射線の影響のこれまでの所見を一層裏付けたと報告されている。 ,,,,,,,,,口腔及び咽頭食道直腸胆嚢膵臓喉頭子宮頚子宮体前立腺腎臓及び腎盂のがんには放射線の有意な影響はみられず,被爆時年齢の増加とともに相対リスクが減少することが示されている。 (13)Z139・Z131外3名「原爆被爆者の死亡率調査第12報,第1部癌:1950-1990 には放射線の有意な影響はみられず,被爆時年齢の増加とともに相対リスクが減少することが示されている。 (13)Z139・Z131外3名「原爆被爆者の死亡率調査第12報,第1部癌:1950-1990年放影研業績報告書平成81996年乙」()()(3。以下「Z139論文」ともいう)。 Z54論文の基礎資料となった報告書である。 この調査結果では,部位・性別リスク推定値で,胃,結腸,肺,乳房,卵巣,膀胱及び甲状腺に加えて肝臓がんに有意な過剰相対リスクが認められて- 124 -いる。 (14)Z131・Z139外2名「原爆被爆者の死亡率調査第12報,第2部がん以外の死亡率:1950-1990年放影研業績報告書平成1」()1(1999)年(甲41の資料18,乙58。以下「Z131論文」ともいう)。 Z54論文の基礎資料となった報告書である。 放射線量とともにがん以外の疾患の死亡率が統計的に有意に増加するという前回の解析結果を強化するもので,有意な増加は,循環器疾患(心臓病,脳卒中消化器疾患肝硬変が含まれている呼吸器疾患及び造血器系疾),(。),。 ,患に観察されている1シーベルトの放射線に被曝した人の死亡率の増加は約10パーセントで,がんと比べるとかなり小さいものとなっている。 また,有意な線量反応関係は,血液疾患による死亡にも認められ,過剰相対リスクは固形がんの数倍であったという。 (15)Z105・Z131外3名「原爆被爆者の死亡率調査第13報固形がんおよびがん以外の疾患による死亡率:1950-1997年放影研業」(績報告書)平成15(2003)年(甲41の資料19,乙56。以下「Z105論文」ともいう)。 Z54論文発表後のものである。この報告の概要は以下のとおりである。 ア固形がん全体, 影研業」(績報告書)平成15(2003)年(甲41の資料19,乙56。以下「Z105論文」ともいう)。 Z54論文発表後のものである。この報告の概要は以下のとおりである。 ア固形がん全体,食道がん,胃がん,結腸がん,肝臓がん,胆嚢がん,肺がん,乳がん,卵巣がん,膀胱がん及びその他の固形がんに有意な過剰リスクが認められた。直腸がん,膵臓がん,子宮がん,前立腺がんは,ERR推定値(シーベルト当たり)は正の値を示すが,その90パーセント信頼区間の一部が負の値にかかっている。 イ放射線に関連した固形がんの過剰率は調査期間中を通して増加したが,新しい所見として,相対リスクは到達年齢と共に減少することが認められた。子供の時に被爆した人において相対リスクは最も高い。典型的なリス- 125 -ク値としては,被爆時年齢が30歳の人の固形がんリスクは,70歳で1シーベルト当たり47パーセント上昇した。 ウがん以外の疾患の死亡率が過去30年間の追跡期間中,1シーベルト当たり約14パーセントの割合でリスクが増加しており,依然として統計的に確かな証拠が示された。心臓疾患,脳卒中,消化器官及び呼吸器官の疾患に関して,統計的に有意な増加がみられた。 エ被爆者において,大動脈弓石灰化,収縮期高血圧,並びにコレステロール及び血圧の年齢に伴う変動など,がん以外の疾患のいくつかの前駆症状について長期にわたるわずかな放射線との関連が報告されている。最近の調査では,被爆者に持続性の免疫学的不均衡及び無症状性炎症と放射線との関連が認められた。これらはがん以外の広範な疾患に対する放射線影響,の機序と関連するものかもしれない。,()オ原爆後数年間は近距離被爆者爆心地から3キロメートル以内で被爆のがん以外の疾患の基準(ゼロ線量)死亡率は遠距離被爆者の場合より 対する放射線影響,の機序と関連するものかもしれない。,()オ原爆後数年間は近距離被爆者爆心地から3キロメートル以内で被爆のがん以外の疾患の基準(ゼロ線量)死亡率は遠距離被爆者の場合よりも著しく低かった。この差は追跡調査の最初の20年間で着実に減少し,この20年間の終わりにはおおむね消失した。このパターンからLSS集団における近距離被爆者は被爆後も生き残り,LSS対象者に選択されているので,一般集団よりも健康であったことが示唆される。特に,LSSにおけるがん以外の疾患による死亡データの解析は,昭和25(1950)年における近距離被爆者の基準死亡率が遠距離被爆者より15パーセント低かったことを示している。この差は1960年代後半には約2パーセントまで減少した。この小さいが統計学的に有意な差はそれ以後も持続しており,追跡調査の初期に認められた原爆に関連した選択影響よりも,都市と地方の差のような,原爆に無関係な人口統計的影響を反映している可能性が高い。 (16)Z133・Z132・Z140・Z141・Z142「成人健康調査第- 126 -,」8報原爆被爆者におけるがん以外の疾患の発生率1958-1998年(放影研業績報告書№17-03)平成16(2004)年(甲41の資料31,乙60。以下「Z133論文」ともいう)。 以前にも統計的に有意な正の線形線量反応が認められた甲状腺疾患,慢性肝炎及び肝硬変,子宮筋腫に加えて,新たに白内障,高血圧症,40歳未満で被爆した人の心筋梗塞,男性の腎・尿管結石の3疾患の有意な増加が認められている。喫煙や飲酒で調整しても上記の結果は変わらなかった。 心筋梗塞を含めた他の心臓血管疾患では放射線の有意な影響は認められなかったが,被爆時40歳未満であった被爆者における昭和43(1968)年から る。喫煙や飲酒で調整しても上記の結果は変わらなかった。 心筋梗塞を含めた他の心臓血管疾患では放射線の有意な影響は認められなかったが,被爆時40歳未満であった被爆者における昭和43(1968)年から平成10(1998)年のMI(心筋梗塞)発生率は,有意な曲線状の線量反応関係を示している。 (17)放影研統計部「LSSにおける放射線に関連した死亡率予測」放影研Update14巻平成15(2003)年(甲41の資料21)この文献は,昭和25年から平成9年までの寿命調査(LSS)の結果について,以下のようにまとめている「放影研の寿命調査(LSS)報告書は,原爆放射線被曝ががんおよびがん以外の疾患による死亡率に有意で継続的な影響を与えていることを明確に示している。放影研のLSS集団の半数をやや超える人数が1990年代後半までに死亡していることは一般によく知られている。しかし,LSS集団における放射線に関連する死亡(過剰死亡)の多くがこれから発生することはあまり知られていない(中略)。 昭和42(1950)年から平成9(1997)年までの間にLSS集団に生じた過剰死亡数は固形がんによるものが約450,白血病によるものが約100,がん以外の疾患によるものが約250であったと推定される。これらの数字は,今後固形がんでは1000,がん以外の疾患では500をかなり超えるまで増加すると予想されるが,放射線に関連した白血病による死- 127 -亡はほとんど増加しないと思われる。固形がんによる予測死亡数の増加が大きいのは,小児期や若年で被爆した人において過剰リスクが最も高いという観察結果に基づいており,集団の約半分が25歳未満で被爆しているためである中略がん以外の疾患の低線量リスクおよび年齢-時間パターンの特。()徴はよく分かっていないので,放射 クが最も高いという観察結果に基づいており,集団の約半分が25歳未満で被爆しているためである中略がん以外の疾患の低線量リスクおよび年齢-時間パターンの特。()徴はよく分かっていないので,放射線に関連したがん以外の疾患による推定死亡数はがんや白血病に比べると正確性がかなり劣る中略がん以外の,。()疾患に関しては,被爆時年齢による変動は現在のところがんの場合ほど明瞭ではなく,ここでの計算には一切使用していない。今後の追跡調査により,固形がんおよびがん以外の疾患による死亡率に関して,放射線に関連したリスクの極めて重要な年齢-時間パターンがより明らかになるものと期待され。 (),,る中略がん以外の疾患による死亡率に関しては今後の追跡調査により現在あまり明確ではない約0.5Sv[シーベルト]未満のリスクについて更に重要な情報が得られると思われる」。 (18)Z143・Z144・Z145・Z142・Z146「原爆放射線が免疫系に及ぼす長期的影響:半世紀を超えて放影研Update15巻平成162」(004)年(甲87)この文献には,被爆者の免疫系には放射線被曝の顕著な影響がリンパ系細胞の構成や機能に観察されることCD4ヘルパーT細胞集団の減少被爆(),者では白血球数その他の炎症バイオマーカーと放射線量との間に統計的に有意な関連性があることが報告されていること,被爆者において心筋梗塞の有病率はCD4ヘルパーT細胞の比率が低下した人で有意に高かったことなどから,放影研では,①原爆放射線がT細胞ホメオスタシス(均衡)を撹乱することにより,免疫学的加齢を促進させた,②原爆放射線が長期にわたる炎症を誘発し,それが疾患の発生につながった,などの仮説を立てて,これらの仮説を検証するための調査をする予定であることが報告さ 乱することにより,免疫学的加齢を促進させた,②原爆放射線が長期にわたる炎症を誘発し,それが疾患の発生につながった,などの仮説を立てて,これらの仮説を検証するための調査をする予定であることが報告されている。 (19)Z147放影研理事長に対するインタビュー(甲295の10)- 128 -Z147放影研理事長は,平成18年8月,Z92新聞のインタビューに対して次のように述べている(同月6日付け記事。 )ア放影研の被爆者調査によって,被爆後の比較的早い時期に起きる健康影響はほぼ明らかになった。 イ後障害で最も代表的な白血病の死亡リスクは,被爆から7年から8年後をピークに減少している。 ,。 ウ20年を過ぎるころから白血病以外のがん死亡リスクが上昇を始めた最も顕著なものが乳がんである。多くの被爆者ががん年齢に達した現在,主ながんのリスクはじわじわ高まっている。 エごく最近,がん以外の循環器疾患や消化器疾患の死亡リスクの増加が認められた。統計学的には有意だが,本当に放射線が原因なのかは突き止められていない。他の要因についての検討が必要だ。 オ晩発影響で分かっているのは,まだ5パーセント程度かもしれない。最終的な答がでるのは,いま約4割の人が生存されている対象集団の追跡調査がすべて終了する時点だろう。 カ放影研の調査結果は,12万人という対象集団の大きさ,追跡期間の長さ,追跡率の高さ,精度の点で世界に比類を見ない。被爆者や市民の協力がなければできなかった。大勢の人が関与して築き上げてきた人類史上貴重な財産である。 疫学について(甲74,乙31,32)疫学について,次のような知見が証拠上認められる。 ,,,(1)疫学とは人間集団に出現する疾病など健康関連の事象について頻度分布及び要因を明らかにし,有効な対策の樹立に役 ,乙31,32)疫学について,次のような知見が証拠上認められる。 ,,,(1)疫学とは人間集団に出現する疾病など健康関連の事象について頻度分布及び要因を明らかにし,有効な対策の樹立に役立てる医学の一分野と定義付けられる。 (2)コホート研究とは疫学的研究方法の1つであり仮説として原因と考え,,られる因子(要因)に曝露している集団と曝露していない集団について,研- 129 -究対象とする疾患の罹患率(又は死亡率)を観察し,比較するもので,特定の因子が特定の疾病の頻度を規定しているかどうか,すなわち,ある集団におけるある疾病の罹患率又は死亡率が多いことにその因子が原因として働いているかどうかを明らかにするものである。 (3)コホート研究においては曝露群と非曝露群の罹患率等の差や比を指標と,して,要因への曝露によって生じた効果(過剰リスク)の大きさを表す指標。 ,を分析対象として要因と疾病の関連の有無を評価する曝露群の罹患率をX非曝露群の罹患率をCとすると次のような指標がある。 ア絶対リスク(リスク差,RD)=X-C曝露の絶対効果の指標である。曝露群の罹患率を絶対リスク(AR)といい,非曝露群との罹患率の差を過剰絶対リスク(EAR)ということもある。 イ相対リスク(RR)=X/C要因の効果を非曝露群の罹患率等に対する相対的な値として,非曝露群の罹患率に対する比で示す。曝露と疾病への罹患等との関連の強さを示す指標である。相対リスクから1を引いた数値を過剰相対リスク(ERR)という。 ウ寄与リスク(AR)=(X-C)/X絶対リスクが曝露群の罹患率のうち,どれだけの割合を占めるかを示す指標である。曝露群の罹患率のうち曝露によって増加した部分の割合(曝露をなくすことによって防止できる部分でもある)と解釈される。 X絶対リスクが曝露群の罹患率のうち,どれだけの割合を占めるかを示す指標である。曝露群の罹患率のうち曝露によって増加した部分の割合(曝露をなくすことによって防止できる部分でもある)と解釈される。 。 上記の式はX-C/X=1-C/X=1-1/RR=ER,()()()R/(1+ERR)で表すこともできる。 ,(,(4)コホート研究における解析の手法として調査集団を外部集団対照群コントロール群)と比較する外部比較法と,調査集団内部で曝露要因の程度によって分けられたグループを比較する内部比較法がある。ポアソン回帰分- 130 -析は,内部比較法の1つであり,対照群を設定せず,回帰分析を用いて要因曝露に応じた線量反応関係を求める方法として承認されているものである。 1審原告らの主張前記引用に係る原審における1審原告らの原因確率に関する主張の骨子は次のとおりである。 (1)DS86の線量評価が特に残留放射線や内部被曝をほとんど考慮してい,ないことが問題であるが,Z54論文では,DS86による初期放射線のみで線量評価を行い,DS86が示す誘導放射線,放射性降下物については一切考慮していない。この場合,遠距離被爆者が被爆後爆心地付近に立ち入ったとしてもゼロ線量と扱われ,このような被爆者が死亡してもバックグラウンドの死亡率が上昇し,その結果,寄与リスクが見かけ上低く算定される。 (2)高線量域では放射線抵抗力の強い者が生き残り放射線感受性が高い者,,が多数死亡しているから,高線量域のデータを基礎に低線量域の影響評価をするには問題がある。 (3)原爆の放射線影響は長期間経過後に様々な複合要因で現れるものである,から,放射線だけの影響を切り離すということ自体が問題である。 (4)Z54論文乙2の表 評価をするには問題がある。 (3)原爆の放射線影響は長期間経過後に様々な複合要因で現れるものである,から,放射線だけの影響を切り離すということ自体が問題である。 (4)Z54論文乙2の表1を見ても固形がん全体の死亡率調査の過剰相(),. ,. 対リスクが1シーベルト当たり040であるのに対し発生率調査では063と1.5倍となっているなど,発生率の過剰相対リスクのほうが高値である。原爆症認定は生存者に対するものであるが,死亡調査を中心に据えている放影研の疫学調査は問題である。 (5)審査の方針における原因確率は寄与リスクの値によって被爆者の中で放,射線によって発症した者の比率を知ることができ,それが個人の原因確率を表すとの前提に立っている。しかし,仮に放射線起因性があることの確率が分かったとしても,それを原爆症認定の決め手とすることは許されない。すなわち,過剰リスクは,曝露群の疾病発症者が非曝露群よりも多い部分であ- 131 -るが,その余のバックグランドリスク部分は放射線の作用によらない発症であるとするのは誤りであって,曝露群の発症者全員について放射線が関与していると考えることができる。とりわけ,発症を促進した場合にも放射線起因性は肯定されるべきであるところ,このような場合にとりわけ不都合が生ずることは,Z148の研究(甲127の1,2)が指摘しているところであるZ117電離放射線症外に関する最近の医学的知見の検討甲11。 「」(9)においても,Z148の上記指摘に注目して,原因確率の手法を採用しないとの結論を出している。 1審被告らの主張これに対し,1審被告らは,同様に次のとおり主張する。 (1)原因確率は個々人に発症した疾病とそれをもたらしたかもしれない原因,との関係を定量的に評価するた 論を出している。 1審被告らの主張これに対し,1審被告らは,同様に次のとおり主張する。 (1)原因確率は個々人に発症した疾病とそれをもたらしたかもしれない原因,との関係を定量的に評価するための尺度である。リスクが集団における発生確率を予測しているのに対し,原因確率は,個別の案件における一定の結果があって,遡及的にある要因がその結果を引き起こしたと考えられる割合を意味する概念である。米国公衆衛生院国立がん研究所においても,被曝補償を行うためのリスク評価法として使用されており乙104英国原子力産(),業労働者の補償計画でも原因確率が使用されている(乙74の1,2。 )(2)審査の方針は原因確率において示された数値を参考に申請者に係る既,,往歴,環境因子,生活歴等を総合考慮して個別的に検討判断するものとしている。原因確率のみによって判断しているものではない。なお,いかに申請者が脱毛等の急性症状の既往歴を訴えたとしても,被曝線量からみて,それが放射線に起因するものと認めることができない場合には,これを考慮することはできない。 (3)審査の方針が原因確率10パーセント未満の場合に放射線起因性が低いものと推定することは,あくまで目安であるとともに,これは,放射線起因性の立証の程度として必要な「高度の蓋然性」を緩和しているものというべき- 132 -である。 (4)Z54論文は甲状腺がんと乳がんのみについて発生率調査のデータを用,い,その余については死亡率調査のデータを用いている。予後が良好で致死的ではない甲状腺がんと乳がんについては,成人健康調査集団のデータを用い,その余の疾病については,同データよりも格段に母集団の数が多く,疫学的に信頼性がある寿命調査調査のデータを用いたことには合理性がある。 (5)1審原告らは ついては,成人健康調査集団のデータを用い,その余の疾病については,同データよりも格段に母集団の数が多く,疫学的に信頼性がある寿命調査調査のデータを用いたことには合理性がある。 (5)1審原告らはZ54論文の疫学調査データには被爆後5年間のデータ,,,,,がなく放射線耐性が低く早期に死亡した者のデータが反映されておらず調査結果をゆがめている旨主張するが,1審原告らも,被爆後5年を経過して生存した者であり,上記のデータによって原因確率を算定することに問題はない。 (6)1審原告らは疫学に基づく原因確率を個別申請者の原爆症認定の判断基,準に用いることが誤りである旨主張するが,医学的機序が完全に判明していないが,放射線による被曝が影響を及ぼす可能性があると認められる疾病について,疫学研究による統計的解析を否定することはできないし,個人のリスク評価において疫学的手法を用いることは,国際放射線防護委員会(ICRP)が,より良いデータがないので,この係数は個々の患者の放射線被曝によって起こり得る影響を判断するための半定量的な根拠として用いることができる旨説明されているところであり乙103審査の方針に不当なと(),ころはない。 検討(1)前記4記載の放影研等の調査結果の経緯から次のことが分かる。 ア被爆当時から年月を経過するに従い,放射線被曝との関連を有する疾患の種類が増えてきている。 がんについてみると,寿命調査第3報(前記4(1),昭和38年,1950-1966年)では,爆心地から1399メートル以内の被爆者とそ- 133 -れ以遠の被爆者を比較し前者において結核広島男子白血病とその,,(),他の悪性新生物の標準化死亡比が高率であるとのおおまかな総括をしているがその後の調査寿命調査第5報第6 -れ以遠の被爆者を比較し前者において結核広島男子白血病とその,,(),他の悪性新生物の標準化死亡比が高率であるとのおおまかな総括をしているがその後の調査寿命調査第5報第6報においては悪性新生物,(,),についても部位ごとに分析がされた。寿命調査第7報(4(4),昭和48年,1950-72年)では,白血病,乳がん及び肺がんの放射線影響が統計的に有意とされ,胃がんは示唆的,子宮がんは統計的な有意差は認められないとされ,寿命調査第8報(4(5),昭和53年,1950-74年)では,これに胃がん,食道がん,泌尿器がん及びリンパ腫も追加すべきであるとの示唆が得られ,また,大腸,肝臓及び他の器官にも放射線の発がん効果がみられる可能性が指摘された。寿命調査第10報(4(8),昭和61年,1950年-1982年)では,悪性腫瘍疾患で放射線被曝による有意な増加があるとされたのは,白血病,肺がん,女性乳がん,胃がん,結腸がん,食道がん,膀胱がん及び多発性骨髄腫であり,示唆的とされたのは肝臓及び肝内胆管,卵巣及びその他子宮附属器のがんであったが,胆嚢及び前立腺のがんについては正の線量反応は有意ではないとされた。寿命調査第11報(4(9),昭和63年,1950-85年)では,放射線と有意な関係が認められたがんは従前と同様であり,直腸がん,胆嚢がん,膵臓がん,子宮がん,前立腺がん及び悪性リンパ腫,骨がん,咽頭がん,鼻がん,喉頭がん及び黒色腫以外の皮膚がんには放射線と有意な関係がみられなかったとされたさらに寿命調査第12報第1部 。 ,,((13),平成11年,1950-1990年)では,過剰相対リスクが認められるものとして肝臓がんが追加され,最新の寿命調査第13報(4(1,,),,,5)平 第1部 。 ,,((13),平成11年,1950-1990年)では,過剰相対リスクが認められるものとして肝臓がんが追加され,最新の寿命調査第13報(4(1,,),,,5)平成15年1950-1997年では固形がん全体食道がん胃がん,結腸がん,肝臓がん,胆嚢がん,肺がん,乳がん,卵巣がん,膀胱がん及びその他の固形がんに有意な過剰リスクが認められるとされた。 イ上記のことは,がん以外の疾患についてもあてはまる。 - 134 -寿命調査第9報(前記4(6),昭和56年,1950-78年)では,がん以外の死因による累積死亡率について,放射線量に伴う増加は認められなかったとされていたが,寿命調査第11報第3部(4(10),平成5,),()年1950-1985年では初めて高線量域2又は3グレイ以上においてがん以外の疾患による死亡リスクの過剰があるように思われるとされ,循環器及び消化器系疾患について,高線量域(2グレイ以上)で相。 (,対リスクの過剰のあることが指摘された成人健康調査第7報4(11)平成6年,1958-86年)では,子宮筋腫,慢性肝炎及び肝硬変,甲状腺性疾患に統計的に有意な過剰リスクが認められ,寿命調査第12報第2部(4(14),平成11年,1950-1990年)でも,放射線量とともにがん以外の疾患の死亡率が統計的に有意に増加するという解析結果((,),(。),循環器疾患心臓病脳卒中消化器疾患肝硬変が含まれている呼吸器疾患及び造血器系疾患があったまた成人健康調査第8報 )。 ,((16),平成16年,1958-1998年)でも,甲状腺疾患,慢性肝炎及び肝硬変,子宮筋腫に加えて,新たに白内障,高血圧症,40歳未満で被爆した人の心筋梗塞,男性の 調査第8報 )。 ,((16),平成16年,1958-1998年)でも,甲状腺疾患,慢性肝炎及び肝硬変,子宮筋腫に加えて,新たに白内障,高血圧症,40歳未満で被爆した人の心筋梗塞,男性の腎・尿管結石の3疾患に有意な線量反応関係が認められた。 ウ上記の研究の経緯については,放影研統計部「LSSにおける放射線に関連した死亡率予測(前記4(17),平成15年)が「LSS集団におけ」,る放射線に関連する死亡(過剰死亡)の多くがこれから発生する」と記述していることからも,今後の時日の経過により,放射線起因の疾病の過剰リスクが増えることを推測される。そして,Z143ほか「原爆放射線が免疫系に及ぼす長期的影響:半世紀を超えて4(18)平成16年にあ」(,)るように,放影研の研究が,放射線被曝が被爆者の免疫系への影響を突き止めようとするなど,その研究は当初のものに比べ,格段の発展を見せている。Z147放影研理事長のZ92新聞のインタビュー記事(4(19),- 135 -平成18年では被爆者の晩発障害について分かっていることはまだ),「,5パーセント程度かもしれないとの発言があり現時点における原爆症。」,認定における放射線起因性判断のための科学的知見が完全とは到底いえない状態であること及び今後さらに研究が進展して新たな知見が得られる可能性が高いことがうかがわれる。 (2)まず各疾病の原因確率を決定する基礎となったZ54論文の寄与リスク,は,放影研の寿命調査及び成人健康調査に基づいて算定されている。この場合,寿命調査及び成人健康調査に用いられた線量評価はDS86に基づくものであり,初期放射線以外の残留放射線及び内部被曝は考慮していない(原審証人Z54 7頁そしてDS86はすでに検討したように 命調査及び成人健康調査に用いられた線量評価はDS86に基づくものであり,初期放射線以外の残留放射線及び内部被曝は考慮していない(原審証人Z54 7頁そしてDS86はすでに検討したように誘,)。 ,,,導放射線及び放射性降下物の残留放射線の評価が低すぎるのではないか,内部被曝の問題を無視することができないのではないかという点に問題がある。Z54論文における寄与リスクは,ポアソン回帰分析の手法を用いて行われているが,この手法は,調査集団におけるデータの被曝線量が正確に評価されていなければ,正確な放射線被曝によるリスクの算定ができないことは明らかである。特に,遠距離被爆者についての線量評価が実際よりも低い場合には,上記手法によって算出された放射線被曝のリスクは低いものとなると考えられる。証人Z54は,原審における証人尋問において,残留放射線及び内部被曝は無視し得るものと考えて研究を行った旨述べるが,その前提は必ずしも正当であるとは思われない。したがって,審査の方針に掲げられた表に従って算定された原因確率は,被爆者相互間のリスクを相対的に比較することに用いることができたとしても,線量ゼロの者と比較する場合においては,リスク評価として統計上正確であるかどうかはなお疑問が残るものというべきである。したがって,審査の方針によって算定された原因確率が10パーセントを下回る場合,申請者の疾病の放射線起因性がある可能性が低いものと判定することが正当であると評価することはできない。 - 136 -(3)次に1審原告らは放影研における寿命調査及び成人健康調査のコホー,,ト(調査対象集団)が昭和25年に生存している被爆者に限定されており,それ以前に死亡した者(放射線感受性が高い者)を除外していることから,,,過剰リスクが低く 査及び成人健康調査のコホー,,ト(調査対象集団)が昭和25年に生存している被爆者に限定されており,それ以前に死亡した者(放射線感受性が高い者)を除外していることから,,,過剰リスクが低く算定されていることが不当である旨主張し1審被告らは1審原告はいずれも昭和25年に生存していた者であるから,昭和25年より前に死亡した者を加えないことは相当である旨主張する。 これは,過剰リスクをどの範囲で算定するかの問題である。放影研の寿命調査及び成人健康調査においては調査集団が設定された当初からの累積データを用いて解析されているところであるが,期間を区切ってその期間ごとの過剰リスクを算定することも可能であり,それはそれで意味があろう。そして,前記の放影研の調査結果によると,過剰リスクが今後も上昇するという指摘もあることを考えると,仮に昭和25年以前のデータを含めて過剰リスクを求めたとしても(実際にできることではない,個々の疾病の過剰リス。)クが上がるとは限らないとも考えられる。したがって,この点の1審原告の指摘は,放影研の寿命調査及び成人健康調査の欠点であるとまでは必ずしもいえない。 (4)1審原告らは原爆の放射線影響は長期間経過後に様々な複合要因で現,,れるものであるから,放射線だけの影響を切り離すということ自体が問題である旨主張する。 主張の趣旨が不明確であるが,原爆の放射線影響が他の要因(PTSD,外傷,感染症,貧困等)との複合的被害ととらえるべきであるという前提での主張と思われるところ,原爆症認定における放射線起因性とは,原爆放射線の影響がある疾病かどうかを判断することであるから,放射線以外の要因と峻別して放射線という要因による過剰リスクを算定することは当然必要である。他の要因との競合があることについては,原因が競合する 線の影響がある疾病かどうかを判断することであるから,放射線以外の要因と峻別して放射線という要因による過剰リスクを算定することは当然必要である。他の要因との競合があることについては,原因が競合する場合について法的因果関係を是認するかどうかの問題であって,これの基準化を求める- 137 -ことは至難なことといわなければならない。 1審原告らの主張が,科学的な因果関係と法的因果関係とを峻別して考えるべきであるという理念的な議論であれば,その限度で首肯できないものではないすなわち最高裁平成12年判決Z58訴訟判決が訴訟上の。 ,(),「因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであ」るとするところは,裁判上の因果関係の判断は,科学的因果関係の確定を目的とするものではないことを説示しているものと解すべきであって,原爆症認定における放射線起因性も,科学的知見を踏まえた上で法的因果関係を判断することであり,科学的に因果関係が証明されているかどうかが最終的な問題ではないということである。審査の方針(13年方針)を前提にしていえば,原因確率50パーセント以上の場合に放射線起因性がある可能性が高いとし,原因確率10パーセント未満の場合に放射線起因性がある可能性が低いとみることの相当性の議論に結びつくものと思われる。 (5)1審原告らは死亡率寿命調査と発生率成人健康調査では過剰相,()()対リスクが後者において高いから,主として死亡率調査に基づいてZ54論文が寄与リスクを算定したことが不当である旨主張する。 乙2によれば,Z54論文では,甲状腺がん及び乳がんについて発生率調査を )対リスクが後者において高いから,主として死亡率調査に基づいてZ54論文が寄与リスクを算定したことが不当である旨主張する。 乙2によれば,Z54論文では,甲状腺がん及び乳がんについて発生率調査を利用し,白血病,胃,大腸,肺がんについて死亡率調査を利用している,. こと固形がん全体の死亡率調査の過剰相対リスクが1シーベルト当たり040であるのに対し,発生率調査では0.63とされていることが認められ。 ,(),()る1審被告らは死亡率調査寿命調査は発生率調査成人健康調査に比べて調査集団が大きく,疫学的精度が高いから,甲状腺がん及び乳がん以外のがんについて死亡率調査を用いることは合理的である旨主張する。証人Z54は,原審における尋問において,甲状腺がん及び乳がんを除くと,- 138 -死亡率調査による過剰リスクと発生率調査による過剰リスクの差は小さい旨述べる。 乙2(Z54論文)の表1を見ると,死亡率調査による1シーベルト当た,(. りの過剰相対リスクと発生率調査によるものとを比較すると胃Stomach,. ),(. ,. ),(. , 結腸Colon 肝臓Liver . ),(. ,. ), 胆嚢・胆管Gallbladderandbileducts 乳がんFemalebreast などとなっており甲状腺がんに(. ,. )(ついて死亡率調査の結果は掲げられていない,Z54証言にいうように甲。)状腺がんや乳がんが,死亡率調査と発生率調査による過剰リスクの差を作り出しており,これらを除けばその差が小さくなるという関係にあるとは認められない。胃がんにおいても,死亡率調査と発生率調査で 。)状腺がんや乳がんが,死亡率調査と発生率調査による過剰リスクの差を作り出しており,これらを除けばその差が小さくなるという関係にあるとは認められない。胃がんにおいても,死亡率調査と発生率調査で相当程度の差があるのであるから,これが原因確率の数値に影響しないものとは考えがたい。 がんの発生と死亡とが相関関係にあることは首肯できるとしても,その発症と死亡との相関関係はがんの発症部位によって異なることも上記乙2によってうかがわれるところであり,そのような差がありながら,死亡率調査を利用した寄与リスク(原因確率)と発生率調査を利用した寄与リスク(原因確率)を基準として掲げ,一律にその10パーセントあるいは50パーセントを基準として,放射線起因性の高低を評価している審査の方針の在り方については疑問がある。これは,Z54論文の科学的知見としての意味を否定するものではなく,同論文は,原爆症認定審査の手続において参考としてこれを用いようとする場合には,その前提にある厖大なデータ群の有する意味その他を十全に検討し尽くした上で,同論文の知見を慎重に用いなければ過誤が生ずる可能性が存するというものである。この意味において,Z54論文は放射線起因性の判断に係る上記の一律かつ単純化した目安基準の定立について軽便には用いにくい複雑さを有する知見であるというべきである。 (6)1審原告らは寄与リスク原因確率は被爆者の中で放射線によって,(),- 139 -疾病を発症した者の比率であるが,これは,バックグランドリスク部分の発症者について放射線起因性がないことを意味するものではなく,放射線が疾病の発症の促進をした場合を想定すると,曝露群の疾病発症者全部について放射線起因性が認められるべきである旨主張する。 原爆放射線が疾病の発症を促進した場合につ いことを意味するものではなく,放射線が疾病の発症の促進をした場合を想定すると,曝露群の疾病発症者全部について放射線起因性が認められるべきである旨主張する。 原爆放射線が疾病の発症を促進した場合について放射線起因性を認めるかどうかは,医療過誤訴訟における医師の注意義務と死亡との因果関係に関する最高裁判例(平成8年(オ)第2043号同11年2月25日第一小法廷判決・民集53巻2号235頁)を想起するまでもなく,原爆症認定の放射線起因性の判断における法律問題である(この点は,後記の肝機能障害の放射線起因性において検討する。 。)原爆による晩発障害については,その多くが非特異的なものであり,放射線と疾病との間の因果関係の解明について,個別の臨床症状から証明することは不可能であり,疫学による放射線と疾病との関連性の有無が重要な証明手段となること自体は,1審原告らも否定しないものと思われる。乙74の1,2,乙104によれば,米国及び英国において,被曝補償の審査手続において,原因確率(ProbabilityofCausation,割当成分AS:AssignedShareと数値は同じ)が用いられていることが認められ,他に替わる手段がない,。 ことを考慮すれば放射線被害の補償等に活用することは何ら不当ではないもちろん,原因確率を用いて放射線と疾病の因果関係を判断するについて,根拠となる法令が異なれば,法的判断における原因確率の位置づけは異なる,,。 であろうし原因確率を用いる場合には当然正しい線量評価が前提となる(7)以上整理すると次のとおりである審査の方針13年方針の採用する。 ()原因確率については,①基礎資料である放影研の疫学調査に用いられた線量評価では,DS86の初期放射線以外の線量が考慮されておらず,ポアソン回帰 である審査の方針13年方針の採用する。 ()原因確率については,①基礎資料である放影研の疫学調査に用いられた線量評価では,DS86の初期放射線以外の線量が考慮されておらず,ポアソン回帰分析の手法による解析結果から得られた過剰リスクが低いものとなっている可能性がある,②死亡率調査と発生率調査における過剰リスクには相当- 140 -差があり,死亡率調査によれば,発生率調査よりも低い過剰リスクとなる可能性があり,③死亡率調査及び発生率調査による結果を一律に10パーセント及び50パーセントの数値を基準に評価することに問題があるという3点において,その正確性に問題があるといわざるを得ない。 放影研の疫学調査が,被爆者の晩発障害と放射線との関連性を探求してきた功績は高く評価されるべきである。被爆者医療に当たる医療従事者が,被爆者に発現率が高いと感じられる疾病について,疫学的に放射線との関係があるといえるかどうかの裏付けを行ったものであり,また,現在では,遺伝子レベルでの疫学調査も進み,人体の免疫機能への影響の検討にまで至っている。これらが,疾病の発症機序の解明に貢献するであろうことは疑いがない。 しかし,疫学調査の結果が,原爆症認定の放射線起因性の有無の判断についていかなる程度において認定作業上の貢献ができるかは,別途の諸点から検討を要する。まず,そもそも疫学調査の結果から,原爆放射線と被爆者ごとの疾病との関連性がないということがいい得る資料は,検討する視点によるものではあるが,必ずしも多くはないと思われる。次に,寿命調査,成人健康調査において,線量反応関係が認められる疾病が,がん及びそれ以外の疾病について次第に明らかになった経緯は,長年月の経過及びこの間の多くの科学者等の長期にわたる学的営為の蓄積の後に,当初は気づかれなかった健 いて,線量反応関係が認められる疾病が,がん及びそれ以外の疾病について次第に明らかになった経緯は,長年月の経過及びこの間の多くの科学者等の長期にわたる学的営為の蓄積の後に,当初は気づかれなかった健康上の影響が判明され,その疾病の複雑多様さが確認されるようになったことは前示のとおりである。これら諸活動の中心的な立場にある放影研の上記調査は,原爆放射線と疾病との因果関係の不存在を証明してきたのではないことはいうまでもない。そうであれば,放影研の疫学調査の結果,有意な線量反応関係が認められない部分については,それゆえに放射線起因性の認定判断を遮断すべきであると論決すべきではなく,疫学調査の結果以外の学問的な成果をも考慮に入れて上記起因性の有無につき審査すべきであるとす- 141 -る考慮も求められる。たしかに,原因確率が審査の公平性のために有用であるとの考え方もあり得るが,13年方針が採用した原因確率と称する方式が完全でないとすれば,他の事実からアプローチする道を閉ざすこともまた公平性を失わせるものといえる。 第8肝機能障害と原爆放射線との関連性について 問題の所在以上のとおり,審査の方針(13年方針)の基礎となる放射線の線量評価の問題と原因確率の問題を検討してきたが,審査の方針に対する評価・判断の前に,審査の方針に原因確率が掲げられていない疾病と原爆放射線との関連性について,肝機能障害(本項)及び甲状腺機能低下症(次項)に限って検討することとする。本件における1審原告らの個別の放射性起因性判断において,肝機能障害及び甲状腺機能低下症については判断を要するところであり,当審において当事者が1つの争点としたところでもある。 肝機能障害に関する知見(甲292の1の資料1,乙109から111,166)(),(1)肝細胞が傷害さ ては判断を要するところであり,当審において当事者が1つの争点としたところでもある。 肝機能障害に関する知見(甲292の1の資料1,乙109から111,166)(),(1)肝細胞が傷害されることによって肝細胞に含まれているASTGOTALT(GPT)が血清中に逸脱するので,これらの検査結果に異常がある場合に肝機能障害と診断される。 (2)肝機能障害の原因としては①ウイルス感染②アルコール③薬物④,,,,自己免疫⑤代謝肥満・蛋白欠乏⑥先天性代謝異常などがあり最も頻,(),,度が多いものは,肝炎ウイルスである。 (3)慢性肝炎は,慢性肝疾患の1つであり,わが国では「6か月以上の肝機,能検査値の異常とウイルス感染が持続している病態」と定義される。慢性肝炎は,持続性の炎症性病変としての肝門脈域を中心とした端核球浸潤と線維増生がその基本である。上記病態の原因はウイルス感染以外にもあるが,薬物による場合は薬物性肝炎,自己免疫による場合は自己免疫性肝炎と呼ばれ- 142 -ているので,わが国の場合は肝炎ウイルスが原因の慢性肝炎を「慢性肝炎」と称している。 (),(4)わが国の慢性肝炎の4分の3はC型肝炎ウイルスHCVが原因でありHCVに感染した場合,急性肝炎を発症後,60パーセントから80パーセントが慢性肝炎に移行する。HCV陽性の慢性肝炎における肝障害に関わっ,,ていることはインターフェロン投与によってHCV駆除がされた患者では肝硬変に至っている場合でも肝障害が消失し,線維が徐々に減少することからも分かる。 (5)HCV慢性感染の自然治癒はほとんどなく病変は緩徐に進行し20年,,から30年以上をかけて慢性肝炎から肝硬変へと進展する。 ,,,(6)肝臓がんは原発性肝がんと転 らも分かる。 (5)HCV慢性感染の自然治癒はほとんどなく病変は緩徐に進行し20年,,から30年以上をかけて慢性肝炎から肝硬変へと進展する。 ,,,(6)肝臓がんは原発性肝がんと転移性肝がんに大別され原発性肝がんは肝細胞がんと胆管がんが95パーセントを占める。成人の肝臓がんの90パーセントは肝細胞がんである。肝臓がんの罹患率は,男性が女性の約3倍である。男女とも1935年前後に生まれた者に罹患率が高い。日本では,肝細胞がんの80パーセントがHCVの持続的感染,15パーセントHBVの持続的感染によるものとされている。肝がんは,HCV,HBVが正常肝細胞に作用して突然変異を起こさせて発症するものと推定されている。肝がんは,ウイルス感染による肝炎・肝硬変と同時に存在することが普通である。 肝機能障害と放射線被曝の関連性に関する知見本件証拠上認められる文献上,肝機能障害と放射線被曝の関連性に関する知見を列挙すると次のとおりである。 (1)国際放射線防護委員会ICRP専門委員会1の課題グループ報告書電()「離放射線の非確率的影響」社団法人日本アイソトープ協会昭和62(1987)年(乙108)国際放射線防護委員会(ICRP)専門委員会1がまとめ,昭和59(1984)年に主委員会で採択された報告の資料によると,肝臓に機能障害を- 143 -生じさせる放射線のしきい値(1パーセントから5パーセントの者に影響を生ずる線量)を35グレイとしている。 (2)放射線被爆者医療国際協力推進協議会編「原爆放射線の人体影響1992」平成4(1992)年(甲292の1の資料14,乙9)これには次の記載がある。 ア昭和34年開催の原爆後障害研究会第1回シンポジウムにおいて,Z149は,呉,大竹在住の被爆者について調査したところ,肝機 (1992)年(甲292の1の資料14,乙9)これには次の記載がある。 ア昭和34年開催の原爆後障害研究会第1回シンポジウムにおいて,Z149は,呉,大竹在住の被爆者について調査したところ,肝機能障害の比率は被爆者,非被爆者に差がなく,原爆に起因すると思われる肝機能障害は認めないと報告した(廣島學昭和34(1959)年12:955醫-7Z150Z151らの原爆病院入院患者調査では肝疾患が第2)。 ,,位の頻度を占め,被爆者における大きな医学的問題であることが明らかとなった(廣島學昭和34(1959)年12:955-1002,長醫崎医学会雑誌昭和35(1960)年36:589-95。 )イZ152外2名が昭和37年に広島市の原爆医療認定申請書を用いて行った統計的調査でも,被爆者の肝疾患の頻度は国民健康調査と比べて3倍近く高率であり,近距離被爆者で特に高い傾向が認められた(廣島學昭醫和37(1962)年15:1007-12。 )ウZ153外1名は,寿命調査集団の143例の肝硬変剖検例で電離放射線と肝硬変の間に有意の関係を認めた(ABCC業績報告書ABCCTR17-69。 )エZ154は,原爆病院の外来患者の肝疾患有病率について2.0キロメートル未満の近距離被爆者で高率にみられたとした廣島學昭和451((醫970)年23:1089-103。 )オZ102らは,昭和50年から2年間に,成人健康調査対象中の1グレイ以上の高線量被爆者全員と,その対照群として性,年齢,受診年月日を一致させた0から0.9グレイ線量群の同数を選び,その総計2566人- 144 -についてHBs抗原及び抗体の測定を行った。これによると,HBウイルスの蔓延度又は感染の機会を示すと考えられるHBs抗体の陽性率は,2 .9グレイ線量群の同数を選び,その総計2566人- 144 -についてHBs抗原及び抗体の測定を行った。これによると,HBウイルスの蔓延度又は感染の機会を示すと考えられるHBs抗体の陽性率は,2つの比較群の間に差はみられなかったが,HBs抗原の陽性率は,1グレ(. . イ以上の高線量群の方が対照群よりも有意に高く34パーセント対20パーセントその傾向は年齢別にみると被爆当時20歳以下の若年),,,の者により明らかであった。この所見は,高線量被曝群での免疫能の低下を示唆するものではないかと考えられた(放影研業績報告書RERFTR13-80。 )カZ155らは,寿命調査拡大集団の昭和36年から昭和50年の剖検例における原発性肝がん及び肝硬変の病理学的検討を行い,肝硬変の有病率は広島5.8パーセント,長崎7.2パーセントと長崎がやや高かったが有意差はなく,両市とも放射線量と肝硬変の有病率の間に示唆的な関係が認められた。一方,原発性肝がんの発生率は,長崎が2倍高かったが,両市とも放射線との関連はみられなかった(放影研業績報告書RERFTR9-81。 )(3)Z132論文成人健康調査第7報原爆被爆者における癌以外の疾患「の発生率1958-86年(第1-14診察周期(放影研業績報告書))」平成4年承認,平成6(1994)年(甲41の資料29,乙59)これには次の記述がある。 ア成人健康調査(AHS)コホートの長期データを用いて悪性腫瘍を除く19の疾患の発生率と電離放射線被曝との関係を調査したところ,放射線被曝との有意な正の関連性(p<0.05)が慢性肝疾患及び肝硬変にあることが判明した。慢性肝疾患及び肝硬変の1グレイでの推定相対リスクは1.14(P値0.006,95パーセント信頼区間は1.04~1. の有意な正の関連性(p<0.05)が慢性肝疾患及び肝硬変にあることが判明した。慢性肝疾患及び肝硬変の1グレイでの推定相対リスクは1.14(P値0.006,95パーセント信頼区間は1.04~1. 寄与リスクは81パーセント95パーセント信頼区間は2 ),. (. ~14.6パーセント)であった。 - 145 -イ慢性肝疾患及び肝硬変について,大きくはないが,有意な放射線影響が成人健康調査集団で初めて観察された。肝臓が放射線に敏感であるかどうかについては議論がある。しかし,最近のLSS報告(Z138論文「原。 ,」,爆被爆者における癌発生率第2部:充実性腫瘍1958-1987年乙4によれば肝がん発生率には線量反応が認められる最近の調査Z),。 (131ら「寿命調査第11報第3部,改訂被曝線量(DS86)に基づく癌以外の死因による死亡率1950-85年乙57は肝硬変に,」(),よる死亡率が高線量群で増加していることを示しており,これは,発生率における我々の所見と一致する。動物実験も肝障害が放射線被曝により誘発されることを示している。最新の証拠は,現在得ている結果を被曝の直接的影響によって説明できるかもしれないことを示唆している。 ウ日本では,ウイルス感染とアルコールの過剰摂取が慢性肝炎と肝硬変の主要原因として知られている。これらの要因を調べることにより,肝疾患の病因における放射線の役割を明らかにしていく上で役立つ情報を得ることができるかもしれない。成人健康調査(AHS)集団におけるB型肝炎(HB)抗原と抗体の定量的調査は,抗原の正の度合が重度被爆者では有意に増加していることを示しており,これは免疫能力の低下がウイルス感染の原因であり得ることを示唆している。最近可能となったHCV抗体定量の観測 と抗体の定量的調査は,抗原の正の度合が重度被爆者では有意に増加していることを示しており,これは免疫能力の低下がウイルス感染の原因であり得ることを示唆している。最近可能となったHCV抗体定量の観測は,この目的に有益である。アルコール摂取に関する情報など成人健康調査対象者の栄養状態に関する情報は,放射線被曝と慢性肝炎及び肝硬変発生との関連におけるアルコール摂取の相互的作用の役割について手がかりを与えてくれるであろう。 (4)Z138論文原爆被爆者における癌発生率第2部:充実性腫瘍 「。 ,58-1987年(放影研業績報告書)平成4年4月承認(乙4)」前記(3)イに引用された文献であり初めて寿命調査集団において放射線と,肝臓のがん罹患との関連性がみられたとしている(1シーベルト当たりの過- 146 -剰相対リスクは0.49,95パーセント信頼区間0.16~0.92。 )(5)Z139論文原爆被爆者の死亡率調査第12報第1部癌:195「,0-1990年(放影研業績報告書)平成8年(乙3)」肝臓がん原発性・転移性の区別がないものも含むについてのリスク推(。)定値として,男性の過剰相対リスク1シーベルト当たり0.52(90パーセント信頼区間022~0 女性の過剰相対リスク1 . . ),. (パーセント信頼区間-0.08~0.59)を掲げている。 (6)Z156・Z157・Z158・Z106・Z159原爆被爆者におけ「る肝細胞がんにおけるp53突然変異の頻度放影研業績報告書平成91」()(997)年(乙236の1,2。以下「Z156論文」という)。 これには以下の記述がある。 ア肝がんの一種である肝細胞がん(HCC)細胞では,がん抑制遺伝子p53(TP53)が欠失してい )(997)年(乙236の1,2。以下「Z156論文」という)。 これには以下の記述がある。 ア肝がんの一種である肝細胞がん(HCC)細胞では,がん抑制遺伝子p53(TP53)が欠失していることが知られている。原爆によるHCCリスク増加を説明する一助として,被爆者120人のHCC組織試料のp53遺伝子を解析した。 イ非腫瘍組織とは対照的に,腫瘍組織にp53点突然変異を有するHCC試料の割合には,統計的に有意な線量反応関係があった。点突然変異には線量反応関係があるが,電離放射線により起こる主要なDNA損傷の型と考えられている欠失には反応関係がなかったことは特筆すべきである。1つ考えられるのは,欠失を持つ細胞が早期に死んで,欠失型損傷の負の選択が起きたのかもしれない。 ウ腫瘍におけるp53突然変異細胞の線量に依存する増加は,恐らくp53突然変異を持つ細胞の増殖と規制されない増殖を導く他の遺伝子の突然変異により起きるのであろう。 エ放射線の直接の標的は,放射線誘発突然変異によって突然変異誘発因子へと変化する遺伝子である可能性が高い。突然変異誘発遺伝子の誘発は線- 147 -量に伴い増加すると考えられ,これにより単一の細胞またはその子孫が,正常細胞からがん細胞への変換に必要な複数の突然変異を蓄積すると思われる。 オ腫瘍p53突然変異の増加が線量に依存することと非腫瘍組織のp53突然変異が線量に依存せずに存在することは,前もって突然変異を有していた非がん細胞の照射によってがんへの進行の可能性が高まったことも示唆する。これは恐らく,突然変異誘発遺伝子の発生に関して上述した機序と類似する機序によるものと思われる。 カp53突然変異と細胞死・再生・損傷の慢性周期を導くB型およびC型肝炎ウイルス感染の関連についてさらに被爆者集団を用 変異誘発遺伝子の発生に関して上述した機序と類似する機序によるものと思われる。 カp53突然変異と細胞死・再生・損傷の慢性周期を導くB型およびC型肝炎ウイルス感染の関連についてさらに被爆者集団を用いて調査することにより,放射線が誘発するヒト肝がんの病因についてより明確な手がかりが得られるであろう。 (7)Z131論文原爆被爆者の死亡率調査第12報第2部がん以外の「,死亡率:1950-1990年」平成11年(乙58)これには以下の記述がある。 ア寿命調査集団のうち被曝線量が推定されている8万6572人について,昭和25(1950)年10月1日から平成2(1990)年12月31日までの期間のがん以外の疾患による死亡者(2万7000人以上)について解析したところ,肝硬変(死亡数920)の1シーベル当たりの過剰相対リスクは0.18(P値90パーセント信頼区間0.00~0. 40)と推定された。 イZ132論文(成人健康調査第7報原爆被爆者における癌以外の疾患の発生率1958-86年)では,慢性肝疾患に統計的に有意な線量反応も確認されている。このような影響に関する機序が解明されていないからといって,機序が存在しないという意味ではないと考える。0.5~1シーベルトの線量域の全身被曝は,骨髄及び他の器官に主要な急性障害- 148 -を引き起こし,完全に修復されなかった場合は,長期的健康影響を引き起こすかもしれない。一つの興味深い機序として免疫能不全が考えられる。 (8)Z140・Z160・Z161・Z141・Z54・Z162原爆被爆「者におけるC型肝炎抗体陽性率および慢性肝疾患の有病率放影研業績報告」(書)平成12(2000)年(乙171の1,2,乙172。以下「Z140論文」という)。 これには以下の記述がある。 「者におけるC型肝炎抗体陽性率および慢性肝疾患の有病率放影研業績報告」(書)平成12(2000)年(乙171の1,2,乙172。以下「Z140論文」という)。 これには以下の記述がある。 ア原爆放射線被曝がC型肝炎ウイルス(HCV)感染陽性率を変化させるかどうか,あるいはHCV感染後に慢性肝炎への進行を促進するかどうかを検討するため,平成5(1993)年から平成7(1995)年に広島か長崎で健康診断を受けた成人健康調査対象者6121人(抗HCV抗体検査結果が得られなかった53人を除くについて血清抗HCV抗体陽。),性率を調査したところ,抗HCV抗体陽性率は,実際の原爆放射線量と関係がなく,線量0の人に比べて線量を持つ人の方が陽性率は低かった(相対有病率0.84,P値0.022。 )イ慢性肝疾患(主として慢性肝炎又は肝硬変)の有病率は,抗HCV抗体陽性の対象者と陰性の対象者の両方について,放射線量と共に増加した。 線量反応関係を示す曲線は,抗HCV抗体陽性の対象者において20倍近く高い勾配を示したが(抗HCV抗体陰性の対象者の0.16/グレイに比べ,相対リスクの増加は3.04/グレイであった,これはかろうじ。)て有意な差異であったP値0 抗HCV抗体陽性群は人数が少(. )。 なく多様性に富んでいたが,特にこれは高線量域において顕著であった。 ウこの所見は放射線被曝がHCV感染後の肝炎の進行を促進した可能性を示唆している。この仮説を明らかにするため,更なる研究が必要である。 なお放影研はZ140論文の日本語全訳版についてかろうじて有,,,「意な差異であった」を「有意に近いが有意ではなかった」と訂正するとと- 149 -もにただし英語版については訂正はない慢性肝疾患に対する放射(, 全訳版についてかろうじて有,,,「意な差異であった」を「有意に近いが有意ではなかった」と訂正するとと- 149 -もにただし英語版については訂正はない慢性肝疾患に対する放射(,。),「線量反応の増加が認められたとの要約部分を慢性肝疾患に対する放射。」「線量反応の増加の可能性が示唆された」と訂正する正誤表を配布した。 。 (9)Z54論文放射線の人体への健康影響評価に関する研究厚生科学研究「」費補助金厚生科学特別研究事業平成12年度(乙2)肝硬変による死亡は,被曝の影響に性差,被爆時年齢による差は認められなかったので,被曝線量と寄与リスクの関係を示すとして,線量20センチグレイ(寄与リスク3.5パーセント)から線量300センチグレイ(寄与リスク35.1)までの表を掲げた。 (10)Z105論文「原爆被爆者の死亡率調査第13報固形がんおよびがん以外の疾患による死亡率:1950-1997年」平成15年(乙56)寿命調査集団について昭和25(1950)年から平成9(1997)年までの期間のがん及びがん以外の疾患による死亡率を検討したところ,肝臓がんについて,①被爆時年齢30歳の男性の場合,1シーベルト当たりの過剰相対リスクが0 90パーセント信頼区間011~0 推. (. . ),定線量が0.005シーベルト以上の被爆者における寄与リスクが8.4パーセント(90パーセント信頼区間4.2~14パーセント)と推定されること,②被爆時年齢30歳の女性の場合,1シーベルト当たりの過剰相対リスクは0 90パーセント信頼区間007~0 推定線量が. (. . ),0.005シーベルト以上の被爆者における寄与リスクは6.2パーセント(90パーセント信頼区間1.3~12パーセント) 90パーセント信頼区間007~0 推定線量が. (. . ),0.005シーベルト以上の被爆者における寄与リスクは6.2パーセント(90パーセント信頼区間1.3~12パーセント)と推定されることが記述されている。 また,肝硬変について,1シーベルト当たりの過剰相対リスクを0.19(90パーセント信頼区間:-0.05~0.5)とした(表13。 )(11)Z133論文「成人健康調査第8報原爆被爆者におけるがん以外の疾患の発生率,1958-1998年」平成16年(甲77の資料16,乙- 150 -60)これには以下の記述がある。 ア昭和33(1958)年から平成10(1998)年の成人健康調査受診者から成る約1万人の長期データを用いて,がん以外の疾患の発生率と原爆放射線被曝線量との関係を調査したところ,以前にも統計的に有意な正の線形線量反応が認められた慢性肝疾患及び肝硬変に有意な正の線量反応を認めた。 イ慢性肝疾患及び肝硬変についての1シーベルト当たりの相対リスクは. (. ,. . ) P値0 95パーセント信頼区間106~1 であった。 ウ昭和61(1986)年以降に発生した脂肪肝単独と他のすべての慢性肝疾患での放射線影響を調べたところ,すべての肝疾患で有意な線形線量反応があった(1シーベルト当たりの相対リスク1.14,P=0.05 95パーセント信頼区間10~1 脂肪肝のみでは線形線,. . )。 ,量反応が考えられたが,他の慢性肝疾患では放射線の影響は有意ではなかった。 エ成人健康調査での放射線量に伴う慢性肝疾患及び肝硬変の発生率の有意な上昇は寿命調査での知見前記(7)Z131論文と一致している日,()。 本での慢性肝炎及び肝硬変の主因はH った。 エ成人健康調査での放射線量に伴う慢性肝疾患及び肝硬変の発生率の有意な上昇は寿命調査での知見前記(7)Z131論文と一致している日,()。 本での慢性肝炎及び肝硬変の主因はHCV又はHBV感染症,そして過度のアルコール摂取である。抗HBV表面抗原陽性率は,昭和50(1975)年から昭和52(1977)年の高線量被曝をした成人健康調査での被験者において上昇した。平成5(1993)年から平成7(1995)(),年の抗HCV抗体陽性率に関する成人健康調査前記(8)Z140論文は線量反応を示さなかったが,慢性肝疾患での放射線量と関連した上昇の可能性が,抗HCV抗体陽性の者にみられた。放影研の研究における慢性肝疾患及び肝硬変の線量に関係した発生率の上昇は,高線量の被爆者でのH- 151 -BV持続感染,又は活性化したHCV感染の促進により,部分的には説明されるかもしれない。一方,昭和29(1954)年から昭和52(1977)年に死亡した約1100人に関する病理学的検討に基づく肝硬変のリスク因子の分析では,原爆被曝による肝硬変のリスクの上昇はみられなかった。HCV-RNA測定を含む更なる研究で,線量に関する慢性肝疾患及び肝硬変の増加の原因が明らかになるであろう。今回の報告で示された昭和61(1986)年以降の脂肪肝に関する線量反応は,コリンエステラーゼ等の実験的測定を含めたより包括的な将来の研究で確証されるべきであろう。 (12)Z127・Z157・Z161・Z163・Z140・Z158・Z106「原爆被爆者における肝細胞癌:C型肝炎ウイルス感染と放射線の有意な相互作用」平成14(2002)年10月受理(乙237。以下「Z127論文2003」という)。 昭和29年(1954)から昭和53年(1988)までの期間に 癌:C型肝炎ウイルス感染と放射線の有意な相互作用」平成14(2002)年10月受理(乙237。以下「Z127論文2003」という)。 昭和29年(1954)から昭和53年(1988)までの期間に剖検を受けた対象者のうち,病理学的に確認されたHCC(肝細胞がん)症例238件と肝がん以外の疾患により死亡した対照例894件について保存組織試料を解析したものである。これには次の記述がある。 アHCCの発生における原爆放射線とHCVの間に統計的に有意な,かつ超相乗的な相互作用が観察された。 イHCV陰性の非被爆対象者と比較すると,HCV陽性対象者のHCCに関するオッズ比は,被曝線量がゼロでない対象者の三分位の第二区分(>0.018-0.186シーベルト,p=0.04)および第三区分(>0.186シーベルト,p=0.05)では,肝臓の放射線被曝について統計的に有意な,相乗的増加よりも高い増加を示したが,これは第一区分(>0-0.018シーベルト,p-0.86)ではみられなかった。 ウ肝硬変を伴わない対象者に限って解析すると,HCVに感染した対象者- 152 -では被曝線量1シーベルト当たりnoHCCリスクが58.0倍に増加し(95パーセント信頼区間:1.99-無限大(p=0.017,放射))線とHCVの間に,肝硬変を伴う対象者では観察されなかった超相乗的相互作用がみられた(p=0.67。 )エ肝硬変の有無にかかわらず,HCC発生におけるHBV感染と放射線被曝との相互作用を示す証拠はみられなかった(p=0.58。 )オ結論として,広島および長崎の被爆者のうちHCV陽性で被曝線量がゼロでない対象者では,肝硬変を伴わないHCCのリスクが有意にかつ超相乗的に増加した。 (13)Z127・Z157・Z164・Z158「電離放射線被曝と肝 び長崎の被爆者のうちHCV陽性で被曝線量がゼロでない対象者では,肝硬変を伴わないHCCのリスクが有意にかつ超相乗的に増加した。 (13)Z127・Z157・Z164・Z158「電離放射線被曝と肝硬変との間に関連性はない」平成18(2006)年2月承認(乙235,甲275の資料5。以下「Z127論文2006」という)。 これには要約として以下の記述がある。 ア目的広島・長崎の被爆者に関する以前の調査には,急性放射線被曝による肝硬変リスクの有意な増加を示したものと,慢性肝疾患リスクの有意な増加を示したものがあるが,これらの調査ではB型肝炎ウイルス(HBV)感染が考慮されていなかった。HBV感染は原爆放射線と肝硬変の両方に関連しているので,HBV感染,併発する原発肝がん(PLC)およびその他の交絡因子を調整した上で,電離放射線急性被曝と肝硬変との関係を検討することが今回の我々の目標であった。 イ材料および方法横断的研究デザインの下に日本人原爆被爆者コホートに関する病理学的検討を行った結果,PLCに罹患した335人のうち213人(63.6パーセント)に,またPLCに罹患しなかった776人のうち55人(7.1パーセント)に肝硬変が認められた。 ウ結果原爆放射線急性被曝と肝硬変との間に関連性は認められなかった。肝臓被曝線量1シーベルト当たりの肝硬変の調整オッズ比は0.59- 153 -(95パーセント信頼区間:0.27-1.27)であった。放射線量の最も高い三分位(平均線量0.7シーベルト)の肝硬変リスクも,PLCの有無にかかわらず上昇しなかった。 エ 結論 PLCの有無にかかわらず,肝臓の放射線急性被曝によって肝硬変リスクは増加しない。 (14)主任研究者Z165,研究協力者6名「肝機能障害の放射線起因性に関する研究」平成17 なかった。 エ 結論 PLCの有無にかかわらず,肝臓の放射線急性被曝によって肝硬変リスクは増加しない。 (14)主任研究者Z165,研究協力者6名「肝機能障害の放射線起因性に関する研究」平成17年度厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業研究報告書平成18(2006)年3月(乙141の1から3。以下「Z165論文」という)。 これは,財団法人Z166病院のZ165が,協力研究員Z167らと協力して,被爆が慢性肝障害の原因となり得るか,ウイルス性慢性肝障害(慢性肝炎,肝硬変)の発症,進展に関わっているかについて,過去の研究によってどこまで解明されたかを明らかにすることを目的に,それまで公刊された研究報告を検討したものである。同報告書について,海外の専門家による,,()。 査読が行われその結果を踏まえ要約部分乙141の3が修正された同部分の概要(乙141の1,3)は,次のとおりである。 ア被爆者において,現在の診断技術をもってしても,原因が明らかにできない肝障害をみた場合,原爆放射線曝露による肝障害の可能性は完全に否定できない。被爆の慢性肝障害への関わりについては,肝炎ウイルス等による慢性肝障害の交絡因子としての放射線という観点からも検討すべきである。 イ平成5(1993)年から平成7(1995)年の2年間の成人健康調査受診者において,被爆者にHCV持続感染者の比率が多いという知見は得られず,むしろ有意に低率であり,HCV持続感染成立に対する被曝の促進的な効果については否定的な結果であった(前記(8)Z140論文。 )また,前記Z140論文によると,HCVが持続感染していると考えられ- 154 -るHCV抗体高力価陽性者において,慢性肝障害有病率について有意の線量反応はみられず,HCV感染者において被爆が )また,前記Z140論文によると,HCVが持続感染していると考えられ- 154 -るHCV抗体高力価陽性者において,慢性肝障害有病率について有意の線量反応はみられず,HCV感染者において被爆が肝障害発現を促進する可能性を示す知見は得られなかった。したがって,C型慢性肝炎成立には被爆は関わっていないと考えられる。 ウZ153らは,昭和36(1961)年から昭和42(1967)年に行なわれた寿命調査集団の143例の剖検例において放射線量と肝硬変有(。 ),病率の間に有意の線量反応を認めたが前記(2)ウABCC業績報告書より多数例を解析したZ155らは,寿命調査拡大集団の昭和36(1961)年から昭和50(1975)年の剖検例において病理学的検討を加え,有意の線量反応を認めなかった(前記(2)カ。放影研業績報告書。以)上によれば,剖検例からの解析では肝硬変への進展について放射線が関与しているかどうかについては,明確な結論が得られなかった。 エZ131・Z102外2名寿命調査第11報第3部改訂被曝線(「,量DS86に基づく癌以外の死因による死亡率1950-85年放(),」()。 。 ),()影研業績報告書前記(3)イで引用乙57では昭和251950年から昭和60(1985)年における被爆時年齢40歳未満の肝硬変死例の解析からは,肝硬変過剰相対リスクは有意の線量反応を認め,また,Z131・Z139外2名は,昭和25(1950)年から平成2(1990)年の寿命調査集団(肝硬変死920例)における肝硬変の線量反応に関する研究(放影研業績報告書「原爆被爆者の死亡率調査第12報,第,」。 ,2部がん以外の死亡率:1950-1990年前記(7)Z131論文乙58)において,線形-2次線量反応モデ 線量反応に関する研究(放影研業績報告書「原爆被爆者の死亡率調査第12報,第,」。 ,2部がん以外の死亡率:1950-1990年前記(7)Z131論文乙58)において,線形-2次線量反応モデルにより肝硬変の過剰相対リスクを推定し,有意の線量反応を認めた。一方,Z105らは「健康な生存者効果」を排除するため,昭和43(1968)年以降の症例を用いて線形線量反応モデルにより過剰相対リスクを推定したがZ105論文原(「爆被爆者の死亡率調査第13報,固形がんおよびがん以外の疾患による- 155 -死亡率:1950-1997年。前記(10),乙56,過剰相対リスクに」)有意の線量反応を認めなかった。 オB型,C型肝炎ウイルス感染,飲酒,喫煙状況を考慮に入れ,組織診断によって診断確定した肝硬変症例を対象としたZ127外6名の研究(前記(12)Z127論文2003)では,被爆者の肝硬変進展において有意の線量反応は認められなかった。一方,HBVあるいはHCV感染は有意に肝硬変のオッズ比を上昇させた。したがって,被爆者の肝硬変進展にかかわるのは肝炎ウイルス感染であり,被爆ではないと結論された。以上,肝障害発症に関わる様々な交絡因子を考慮に入れた研究では,被爆の肝硬変進展への関与については否定的な結論であった。 カZ132論文成人健康調査第7報原爆被爆者における癌以外の疾(「,患の発生率1958-86年第1-14診察周期前記(3)及びZ,()」。 )133論文成人健康調査第8報原爆被爆者におけるがん以外の疾患(「,の発生率1958-1998年前記(11)乙60のいずれにおいて,」。 ,)も,慢性肝疾患相対リスクは有意の線量反応を示した。これらの論文において,慢性肝疾患の種類,進展度,活動性 ,の発生率1958-1998年前記(11)乙60のいずれにおいて,」。 ,)も,慢性肝疾患相対リスクは有意の線量反応を示した。これらの論文において,慢性肝疾患の種類,進展度,活動性,成因も検討することなく,解,。 ,析がされており研究の評価は極めて困難であるZ133論文によれば昭和61(1986)年以降肝疾患患者の増加がみられたが,これは腹部超音波検査の導入によるものであり,症例の69パーセントが非アルコール性脂肪肝であった。 1審被告らの主張1審原告らが,慢性肝炎又は肝硬変に関するZ132論文,Z140論文,Z133論文や肝がんに関するZ138論文,Z139論文,Z105論文等の文献を根拠として,慢性肝炎及び肝硬変について,原爆放射線との関連性があり,これらの疾患について放射線起因性を認めるべきである旨主張するのに対し,1審被告らは,慢性肝炎及び肝硬変について放射線起因性は認められな- 156 -いとして,要旨次のとおり主張する。 ,()(1)Z132論文及びZ133論文は放射線曝露と健康障害C型慢性肝炎との関連性を見ることを目的としてデザインされていないから,C型慢性肝炎に放射線起因性があることの根拠とすることができない。慢性肝疾患に占めるC型慢性肝炎の占める割合は定説がないから,慢性肝疾患の大部分がC型慢性肝炎であるとすることはできない。Z133論文において,昭和61(1986)年以降の慢性肝疾患の69パーセントが脂肪肝であり,両論文は,ウイルス性慢性肝疾患に着目すれば,放射線の影響がみられなかったというものである。 . ()(2)Z132論文が指摘した相対リスクは114寄与リスク8パーセントであり,相対リスクが2以上でなければ,因果関係を認めることはできないから,同論文を放射線起因性の いうものである。 . ()(2)Z132論文が指摘した相対リスクは114寄与リスク8パーセントであり,相対リスクが2以上でなければ,因果関係を認めることはできないから,同論文を放射線起因性の根拠とすることができない。 (3)Z140論文が指摘するC型肝炎ウイルス感染者において肝疾患の発症・進行を促進するとの結果は,そのP値が0.55であり,P値は0.05以下とすることが疫学・統計学の常識であるから,Z140論文の結論は採用することができない。また,Z140論文における95パーセント信頼区間は,マイナス領域を含めその幅が大きく,線量反応関係があると評価できない。 (4)Z165論文中のZ167の報告乙141の1の資料3Z167原(。 「爆による放射線被曝と慢性肝疾患発症との関連性以下Z167論文と」。 「」いうによればHCV感染非被爆者とHCV感染被爆者のオッズ比事象。),(が発生する確率と発生しない確率との比)に差がみられず,放射線被曝の有無にかかわらず,C型慢性肝疾患の発症・進行リスクに変わりがないことが明らかとなった。したがって,Z140論文は,C型慢性肝炎の発症・進行に放射線が影響を与えていると読むことができない。 (5)Z127論文2006がC型慢性肝疾患に放射線との関連性がないとし,- 157 -ている。これによって,Z140論文やZ131論文の結論は否定された。 (6)肝がんと放射線の関連性に関する疫学調査結果はC型慢性疾患の放射線,起因性の判断資料とはなり得ない。Z156論文によれば,p53の突然変異率が放射線との線量反応関係があり,放射線がC型肝炎ウイルスの活動とは別に直接がん抑制遺伝子を障害する結果,発がんリスクを高めているのであるから,放射線が慢性肝炎,肝硬変という一 ,p53の突然変異率が放射線との線量反応関係があり,放射線がC型肝炎ウイルスの活動とは別に直接がん抑制遺伝子を障害する結果,発がんリスクを高めているのであるから,放射線が慢性肝炎,肝硬変という一連の疾病の発症,進展に寄与しているとは認められない。 (7)Z127論文2003の表ⅢではC型肝炎ウイルス感染被爆者で肝硬変,に罹患していない者は,感染非被爆者と比べて58倍肝がんを発症するリスクが大きいという結果があり,これからすれば,放射線は,C型肝炎ウイルス感染被爆者が,慢性肝炎,肝硬変,肝がんという通常の進行経過をたどらずに,直接肝がんを発症するというリスクを高める可能性があり得るとしても,C型慢性肝疾患の発症や進展に寄与するという結論は導かれない。 1審原告らの主張上記の1審被告らの主張に対し1審原告らは主としてZ112意見書甲,,(275,292の1)に依拠しつつ,次のとおり主張する。 (1)Z132論文Z133論文はC型慢性肝疾患と放射線の関係の調査と,,して有意義な論文である。たしかに,Z132論文の検討対象はC型慢性肝疾患に限定していないが,慢性肝疾患に占めるC型慢性肝疾患の比率がわが国では高いことを前提とすれば,資料的意義がある。1審被告らの指摘には誤りがある。 (2)1審被告らは相対リスクが2以上でなければならない旨主張するが1,,審被告らが放射線起因性を認めている肝がんにおいても,その相対リスクは Z138論文 Z161・Z158・Z168・Z16. (),. (3・Z106の論文(以下「Z161論文」という,ラディエーションリ。)サーチ152巻,平成11(1999)年承認。甲292の1の資料17)- 158 -である。 (3)Z140論文は明確に放射線被曝が 文(以下「Z161論文」という,ラディエーションリ。)サーチ152巻,平成11(1999)年承認。甲292の1の資料17)- 158 -である。 (3)Z140論文は明確に放射線被曝がC型肝炎感染に関連した慢性肝疾,,患の進行を促進する可能性があるとしているのであって,その解析のP値が0.097であることから「かろうじて有意(marginallysignificant 」,)と表現をしている。有意水準を0.05とすることは,疫学上一般であるとしても,それが唯一絶対のものではなく,便宜的なものであって,放影研においては,P値が0.05から0.1までの場合に「かろうじて有意(marginallysignificant 」と表現をしている。 )(4)1審被告らはZ156論文を根拠に放射線は直接肝がんを発症させるも,のであり,C型慢性肝疾患の発症,進展に影響を与えるものではない旨主張する。しかし,同論文がそのような結論を明示していることはなく,ウイルス性肝炎という要素と放射線被曝という要素の共同成因(相互作用)の解明が必要であるとしているものである。C型慢性肝疾患の炎症性サイトカイン等の肝がん発症への機序を考慮して,Z156論文を読めば,1審被告らの主張のような結論は出ない。 (5)Z127論文2003は1審被告らの主張とは逆に被曝因子とウイル,,ス因子という両因子間に相互作用が存在していること,放射線被曝がC型慢。 性肝炎の促進に動いていることを疫学的手法からも明らかにしたものである(6)Z127論文2006はB型肝炎ウイルスC型肝炎ウイルスを補正し,,た場合統計学的にウイルスの影響を排除した場合放射線独自では肝硬(),,変の組織形成に対して影響を与えないとするものであって,C型慢性肝 B型肝炎ウイルスC型肝炎ウイルスを補正し,,た場合統計学的にウイルスの影響を排除した場合放射線独自では肝硬(),,変の組織形成に対して影響を与えないとするものであって,C型慢性肝疾患の放射線関連性を否定していない。放射線独自では肝硬変組織形成のリスクを示さなかったとしても,放射線は肝硬変死を助長する様々な因子(炎症,感染,血管障害など)に感受性を持ち,そのことによって被爆者において肝硬変死亡リスクを高めていると理解できる。同論文は,Z131論文によって示された肝硬変死亡リスクを否定していない。また,Z127論文200- 159 -6は電離放射線への慢性被曝が肝硬変のリスクを増加させるかもしれないとしている。 検討(1)前記3に掲げた文献を整理すると次のとおりである。 ア「原爆放射線の人体影響1992」に紹介された肝機能障害に関する昭和34年以降の研究結果としては被爆者に肝疾患が大きな割合を占め3,((2)ア,国民健康調査と比べても3倍の出現頻度があるとし(3(2)イ,))また,近距離被爆者において高率の有病率を示し(3(2)エ,被曝線量別)(),・被爆時年齢別で観察しても放射線の影響がうかがわれるとし3(2)オ剖検例においても放射線と肝硬変との有意な関係又は示唆的な関係が関係が認められた(3(2)ウ,カ)というものである。 「」「」,イ前記第7原因確率 放影研の疫学調査の概要でみたように,,放影研の疫学調査により原爆による被爆から長い年月を経過するに従い被爆との関連を有する疾患が増えてきており,これは,がんに属する疾患においても,がん以外の疾患においても同様である。肝機能障害について,,(),みると上記ア記載の研究に続いて①Z132論文平成4年承認が が増えてきており,これは,がんに属する疾患においても,がん以外の疾患においても同様である。肝機能障害について,,(),みると上記ア記載の研究に続いて①Z132論文平成4年承認が慢性肝疾患及び肝硬変に原爆放射線被曝との有意な正の関連性を認め(1. ),(),グレイ当たりの相対リスク1 ②Z131論文平成11年が. 。 肝硬変について1シーベルト当たりの過剰相対リスク018を検出した③Z140論文(平成12年)は,C型肝炎ウイルス感染陽性率については原爆放射線被曝と関係が認められなかったが(逆に被爆者の方が陽性率が低かった,慢性肝疾患について線量反応関係が認められ,特に,C型。)肝炎陽性の対象者における勾配が,陰性の対象者の20倍という結果がみられた。④Z54論文(平成12年)においても,肝硬変について線量反応関係があるものとして,寄与リスクを算定した。⑤Z133論文(平成16年)は,慢性肝疾患及び肝硬変について,1シーベルト当たりの相対- 160 -リスク1.15を検出した。 ウまたZ138論文平成4年4月承認Z139論文平成8年及,(),()びZ105論文(平成15年)が,肝がんの原爆放射線被曝との関連について,いずれも線量反応関係を認めた。1シーベルト当たりの過剰相対リスクは,Z138論文0.49,Z139論文男性0.52,女性1.08,Z105論文男性0.39,女性0.35であった。 エZ156論文(平成9年)は,腫瘍組織におけるp53突然変異が放射線の線量に依存すること,非腫瘍組織におけるp53突然変異が線量に依存しないことを突き止め,放射線の直接の標的が放射線誘発突然変異によって突然変異誘発因子へと変化する遺伝子である可能性が高いとした。 オZ127論文200 非腫瘍組織におけるp53突然変異が線量に依存しないことを突き止め,放射線の直接の標的が放射線誘発突然変異によって突然変異誘発因子へと変化する遺伝子である可能性が高いとした。 オZ127論文2003(平成14年)は,肝細胞がん(HCC)発生においては,原爆放射線とC型肝炎ウイルス(HCV)との間に統計的に有意かつ超相乗的な相互作用が認められたとし,Z127論文2006(平成18年2月承認)は,原発肝がん(PLC)の有無にかかわらず,放射線急性被曝によって肝硬変リスクは増加しないとした。 カZ165論文(平成18年3月)は,過去の研究報告の検討を行ったものであり,原爆放射線曝露による肝障害の可能性は否定できないとした上で,Z140論文について,慢性肝障害有病率について有意の線量反応はみられないとしZ153らの前記3(2)ウの剖検例の検討結果電離放射,(線と肝硬変の間の有意の関係をZ155らの前記3(2)カの剖検例の検討)結果を根拠に否定し,Z105論文(肝硬変)についても,有意な線量反応がないとした。Z132論文及びZ133論文についても,有意な線量反応があるとしているが,慢性肝疾患の種類,進展度,活動性,成因の検討がされておらず,研究の評価が困難であるとした。 (2)1審被告らはZ132論文及びZ133論文について放射線曝露とC,,型慢性肝炎との関連性をみることを目的としてデザインされていないから,- 161 -C型慢性肝炎に放射線起因性があることの根拠とすることができない旨主張する。 しかし前記2(4)のとおり我が国における慢性肝炎の4分の3がC型肝,,炎ウイルスが原因であり,この割合と異なる割合を示す証拠が記録中にあるが(例えば,乙216の証人Z140の平成15年4月14日証言調書84項では5割という認 おける慢性肝炎の4分の3がC型肝,,炎ウイルスが原因であり,この割合と異なる割合を示す証拠が記録中にあるが(例えば,乙216の証人Z140の平成15年4月14日証言調書84項では5割という認識が示されている,いずれにしても,半数以上の慢性。)肝炎の原因がC型肝炎であるという知見は動かないものであって,Z132論文及びZ133論文がC型慢性肝炎に限定しない調査結果であったとしても,そのことを理由にして,これらの論文をC型慢性肝炎の放射線関連性を判断する科学的知見として法律判断の前提とすることができない性質のものであるとはいいがたい。1審被告らは,Z133論文の中で,調査集団における1986年(昭和61年)から1998年(平成10年)の慢性肝疾患の69パーセントが脂肪肝であったとする部分を指摘するが,Z112意見書(甲292の1の33頁)が指摘するように,ウイルスクリーニングが徹底されるようになったためにC型肝炎発症が減少したものと考える余地が十分あり,慢性肝炎の4分の3がC型肝炎ウイルスが原因であるという知見を覆すものとは考えられない。Z165論文において,Z132論文及びZ133論文の慢性肝疾患の相対リスクの有意な線量反応を示したとする点について,慢性肝疾患の種類,進展度,活動性,成因が検討されていないから研究の評価が極めて困難であるとしているが,科学研究上における厳密さからの学問的な指摘であって,原爆症認定の放射線起因性判断の資料としての適格性自体を全く否定すべく問題視しているものとまでは解しがたい。 (3)1審被告らは相対リスクが2以上寄与リスク50パーセント以上な,()ければ因果関係を認めることはできないから,Z132論文に示された相対リスクが1.14(寄与リスク8パーセント)であり,同論文を放射線起因 スクが2以上寄与リスク50パーセント以上な,()ければ因果関係を認めることはできないから,Z132論文に示された相対リスクが1.14(寄与リスク8パーセント)であり,同論文を放射線起因性の根拠とすることができない旨主張する。 - 162 -たしかに,相対リスクの数値をどのように評価すべきかは,それ自体難しい問題である。しかし,1審原告らが指摘するとおり,肝臓がんについては審査の方針においても放射線関連性があることを前提に原因確率が示されて(,),,. (,おり別表7の1 肝臓がんの相対リスクは Z138論文),. (,),. ,乙4 Z161論文甲292の1の資料17男性1 女性1.08(Z139論文,乙3)とされているのであるから,1審被告らの相対リスクが2を超えなければならない旨の主張は,主張としての一貫性を欠くといわれてもやむを得ない。 (4)1審被告らはZ140論文が慢性肝疾患について線量反応関係が認め,,られ,特に,C型肝炎陽性の対象者における勾配が,陰性の対象者の20倍であるという結果がみられたとする解析結果のP値が0.097であり,P値は0.05以下とすることが疫学・統計学の常識であるから,Z140論文の上記結論は採用できない旨主張する。 乙238(疫学マニュアル」平成15年6版)によれば,疫学上「差が「,あるとの主張を検定するために差がないという仮説帰無仮説を設」,「」()定し,この仮説の下で実際に観察された結果が出現する確率を求め,この確率が小さい場合(通常は0.05=5パーセント以下)に,帰無仮説を棄却し「差がある」という対立仮説を採用し「有意差がある」という結論とす,,ることが認められるしかし甲292の8臨 ,この確率が小さい場合(通常は0.05=5パーセント以下)に,帰無仮説を棄却し「差がある」という対立仮説を採用し「有意差がある」という結論とす,,ることが認められるしかし甲292の8臨床のための疫学昭和61。 ,(「」年)には,P値を「0.05に決めるのは全く便宜的なものだということを記憶しておくことは重要である。理論的な人は,より高い値を認容するかもしれないし,もっと低い値を主張するかもしれないが,それぞれの置かれた状況における擬陽性の結論の重要性によって決めているようであるとの記。」載があり甲292の10数学いらずの医科統計学平成9年にはP,(「」),値が通常0.05とされている理由は明確ではなく,0.1に設定する場合もある旨の記載がある。一般に「確からしさ」というものは,あるかないか- 163 -の二者択一ではなく,元来,連続性をもった概念であり,これを有意であるか否かに切り分ける場合に科学の有する基本的な目的などから一定の基準を設ける必要があり,P値を設定したものであると解される。したがって,Z140論文の解析結果については,P値が0.097という検定結果であったということ,疫学上,通常はP値を0.05としてこれ以下のものを「有意である」としていることを,科学上の厳密な争いが存するがゆえに全て捨象するのではなく,一定水準にある学問成果として肯認されたものについてはあるがままの学的状況を科学の到達点(水準)として,原爆症認定における放射線起因性有無の法律判断の前提となり得る資料として採用することは否定されるべきではない。なお,放影研では,P値が0.05から0.1までをかろうじて有意marginallysignificantと表現していること乙「()」(216の25 ことは否定されるべきではない。なお,放影研では,P値が0.05から0.1までをかろうじて有意marginallysignificantと表現していること乙「()」(216の255項放影研の業績報告書においてP値を01として記述),,. を行うこともあること(甲292の9)を参考とする必要がある。 (5)1審被告らはZ165論文中のZ167論文によればHCV感染非被,,爆者とHCV感染被爆者のオッズ比に差がみられないから,C型慢性肝疾患の発症・進行リスクに変わりがないことが明らかであり,したがって,Z140論文は,C型慢性肝炎の発症・進行に放射線が影響を与えていると読むことができないと主張する。 たしかに,乙141の1の資料3(Z167論文)には,Z140論文で用いられたのと同じデータセットHBV感染者を除くを用いてHCV感(。)染の有無と被爆の有無により4群に分け,HCV感染がある非被爆者とHCV感染がある被爆者のそれぞれのHCV感染がなく被爆がない者に対するオッズ比を求めたところ,15.057と15.056であって差が見られなかった旨の記載がある。Z140論文においても,HCV感染に対する放射線被曝の関連性が認められなかったというのであるから,Z167論文における上記のオッズ比の結論とHCV感染の原爆放射線が影響していないとい- 164 -う結論が一致することは理解できるが,1審被告らが主張する放射線がC型慢性肝炎の発症・進行に影響しないという主張に結びつくことは理解しにくい。Z167論文が肝障害発現についての線量閾値の設定が可能かどうかについて検討したというのであるからから,Z140論文と同じデータセットというものが慢性肝炎罹患者の集団でありHCV感染があるを慢性肝,「」「炎 発現についての線量閾値の設定が可能かどうかについて検討したというのであるからから,Z140論文と同じデータセットというものが慢性肝炎罹患者の集団でありHCV感染があるを慢性肝,「」「炎の原因がHCVであるとHCV感染がないを慢性肝炎の原因がH」,「」「CV以外である」と読み替えれば,一応理解できないではない(しかし,その場合でもこの際HBV感染者は除いたの意味が理解できないこの「。」。)。 疑問を暫く措くとしても,Z167論文には上記のオッズ比について何らのコメントがなく,解析結果の意味付けが論文自体から不明である。また,Z165論文の6頁,7頁のZ167論文を引用して記述している部分でも,1審被告らが主張するようなコメントは一切記載がなく,Z167論文中のオッズ比の結果を1審被告ら主張のように読むべきであるとする根拠は証拠上不明といわなければならない。 (6)1審被告らはZ127論文2006がC型慢性肝疾患に放射線との関連,がないとしたことによって,Z140論文の結論は否定された旨主張する。 これに対して,1審原告らは,Z127論文2006は,Z140論文の解析からHBV,HCVを交絡因子として補正した場合,放射線独自では肝硬変の組織形成に影響を与えないというものであり,放射線が他の要素を介して肝硬変リスクとなっているというZ140論文の結論は変わらない旨主張する。 たしかにZ127論文2006の要約の結論部分はPLC原発性肝,,「(がん)の有無にかかわらず,肝臓の放射線急性被爆によって肝硬変リスクは増加しないとなっているしかしZ112意見書甲292の1の20。」。 ,(頁以下はZ127論文2006は放射線が肝硬変の独立したリスク因),,「子であるか」否かを リスクは増加しないとなっているしかしZ112意見書甲292の1の20。」。 ,(頁以下はZ127論文2006は放射線が肝硬変の独立したリスク因),,「子であるか」否かを調べるとして,交絡因子としてのHBV,HCV等を疫- 165 -学的に補正して検討したものであり,Z140論文の結論に影響しない趣旨として理解しているZ127論文2006乙235の9頁では本調。 (),「査の所見は,原爆被爆者集団の以前の調査で得られた牽連があるとする所見と異なるとしてZ132論文等のデータ処理に問題があることなどを指。」,摘しており,1審被告らの指摘も当たっているようにも思えるが,上記Z112意見書の見解も否定できず,Z127論文2006をどのように読むかは,証拠上明確であるとまでいえない。Z127論文2006において指摘するZ132論文等のデータ処理上の問題があるとしても,その知見の価値が原爆症認定における放射線起因性の法律判断の前提となり得る資料として採用できることは前示のとおりであり,後記のZ127論文2003の趣旨も併せてみると,Z112意見書のような理解も不当とはいえないものと考える。 (7)1審被告らはZ156論文によれば放射線がC型肝炎ウイルスの活動,,とは別に直接がん抑制遺伝子を障害する結果発がんリスクを高めているのであって,放射線が慢性肝炎,肝硬変という一連の疾病の発症,進行に寄与しているとは認められない旨主張する。 たしかにZ156論文は放射線の直接の標的は放射線誘発突然変異,,「,によって突然変異誘発因子へと変化する遺伝子である可能性が高いとして。」おり,肝がん発症について,放射線ががん抑制遺伝子p53へ影響を与える。 ,,という機序があることを示唆して ,「,によって突然変異誘発因子へと変化する遺伝子である可能性が高いとして。」おり,肝がん発症について,放射線ががん抑制遺伝子p53へ影響を与える。 ,,という機序があることを示唆していることは理解できるしかし同論文はそのことと,放射線が肝炎,肝硬変の発症・進行に影響を与えるということとが両立し得ないことを論証しているものではなく,Z156論文の存在によって,Z132論文,Z140論文,Z133論文の結論を否定し去る根拠とすることはできない。 ,,()(8)1審被告らはZ127論文2003にはC型肝炎ウイルスHCV感染被爆者で肝硬変に罹患していない者は感染非被爆者と比べて肝がんを発- 166 -症するリスクが58倍大きいという結果が示されており,これからすれば,放射線は,C型肝炎ウイルス感染被爆者が,慢性肝炎,肝硬変,肝がんという通常の進行経過をたどらずに,直接肝がんを発症するというリスクを高める可能性があり得るとしても,C型慢性肝疾患の発症や進展に寄与するという結論は導かれない旨主張する。 しかし,Z127論文2003は,肝細胞がん(HCC)の発生における原爆放射線とHCVの間に統計的に有意な,かつ超相乗的な相互作用が観察されたという意味に読むべきであって,1審被告らの主張する同論文の評価は,同論文がそうした内容を明示しているものでないことはもちろん,具体的裏付けもなく,牽強付会の印象がぬぐえない。 (9)前記(1)で整理した各文献と当事者の主張についての上記判断を踏まえて,検討すると次のとおりである。 (),ア慢性肝疾患慢性肝機能障害と放射線との関連に関する科学的知見は昭和30年代,40年代には,一部に被爆者と非被爆者との間の肝機能障害の比率に差がないという報告があるものの,被爆者に肝機能障害 ,ア慢性肝疾患慢性肝機能障害と放射線との関連に関する科学的知見は昭和30年代,40年代には,一部に被爆者と非被爆者との間の肝機能障害の比率に差がないという報告があるものの,被爆者に肝機能障害が多いこと,特に近距離被爆者に顕著にその傾向がみられることが報告され,昭和50年代に入ると高線量被爆者1グレイ以上にHBs抗原の陽性率が,()有意に高く,若年者に明らかであるとの報告や肝硬変有病率と放射線との関係が示唆されるようになった。その後,Z132論文(平成4年)において,慢性肝疾患及び肝硬変の線量反応関係が確認され,以後,Z140論文,Z133論文でC型慢性肝疾患について同様の傾向が確認され,Z156論文,Z127論文2003,同2006において,放射線の肝臓疾患に与える機序を考慮した研究へと発展しているのが現状であると把握できる。したがって,不動の科学的知見が確立しているとはいえず,今後の研究によって,放射線の肝臓疾患の機序への関わりを含めて解明が進むものと思われるが,現時点においては,Z132論文,Z140論文,Z- 167 -133論文が示す慢性肝疾患C型慢性肝疾患における線量反応関係Z,,(132論文における相対リスクは1.18)は,現在の科学上の水準として,これを否定すべきであると認めるべき学的状況にはないと思料する。 イ慢性肝疾患のうちC型肝炎ウイルス感染に由来するものに関しては,C型肝炎ウイルスの存在が不可欠であり(放射線のみによってC型肝炎は発症しない,Z140論文において,C型肝炎ウイルス感染には線量反応。)関係がみられず,C型慢性肝炎について線量反応関係がみられ,C型慢性肝炎の発症・進行に放射線の影響があるとされている。C型慢性肝炎については,C型肝炎ウイルスと放射線が共同して発症・進行 反応。)関係がみられず,C型慢性肝炎について線量反応関係がみられ,C型慢性肝炎の発症・進行に放射線の影響があるとされている。C型慢性肝炎については,C型肝炎ウイルスと放射線が共同して発症・進行の原因となっているということになる。 かかる場合においては,放射線起因性を認められるかどうかについて,さらに,被爆者援護法の規定から法的な検討を要する。 被爆者援護法10条1項は厚生労働大臣は原子爆弾の傷害作用に起,「,因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対し,必要な医療の給付を行う。ただし,当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは,その者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限ると定。」める。認定の対象となる負傷又は疾病はあくまで,原子爆弾の傷害作用に起因するものに限定されており,同項ただし書の放射線の治癒能力が原爆放射線により影響を受けている場合に関する定めも,放射線以外の原子爆弾の傷害作用によって生じた負傷又は疾病に限定される。C型慢性肝疾患は,原爆の放射線以外の傷害作用によって生じた疾病とはいえないから,C型慢性肝疾患に同項ただし書の適用はあり得ない。しかし,Z156論文にあるように,放射線ががん抑制遺伝子を障害している状態において,放射線以外のがん発症因子によって肝がんが発症した場合,放射線によって肝がんが発症したと考えるものであり,放射線起因性が否定されること- 168 -はないというべきである。これと同様に考えれば,C型慢性肝疾患の発症・進行について放射線の関与があるとすれば,これについて放射線起因性を否定する理由もないものと考える。 ウ肝硬変に関する寄与リスクがZ54論文に掲げられてありながら,審査(),の方針1 発症・進行について放射線の関与があるとすれば,これについて放射線起因性を否定する理由もないものと考える。 ウ肝硬変に関する寄与リスクがZ54論文に掲げられてありながら,審査(),の方針13年方針においてこれが取り上げられなかった経緯について原審における証人Z54に対する平成18年1月26日の尋問においても明らかでないが,当時(平成13年3月)の放影研の研究の進展状況に照らしてもZ140論文まで肝硬変について原因確率あるいは閾値を(),,設定しなかったのは相当とは考えられない。1審原告らの本件処分時についてみても,慢性肝疾患について,放射線起因性を否定する確実な知見があったわけではなく,1審原告らに対する申請却下処分の通知書記載の理由をみても,C型慢性肝炎,肝硬変について,審査の方針の原因確率又は閾値が示されていない疾患として検討した形跡が必ずしも明らかではない。 エ本件において,C型慢性肝疾患について放射線起因性が一般的に認められないとする1審被告らの主張は採用しがたく,C型慢性肝疾患については,放射線起因性があり得るものとして,原爆症認定においては審査に当たるのが相当である。その起因性判断の基準については,後に検討することとする。 第9甲状腺機能低下症と原爆放射線との関連性について 甲状腺機能低下症に関する知見(甲293の文献14,文献16,乙176から179)甲状腺機能低下症は,疾患名ではなく,狭義には甲状腺組織でのホルモン産生・分泌障害に基づく血中甲状腺ホルモンの低下による病態であるが,より広義には,末梢組織に対する甲状腺ホルモンの作用不足による病態ともいえる。 成人の一般的症状は,全身倦怠感,無力感,うつ状態,寒がり,発汗減少,便- 169 -秘,関節痛等であり,最終的には典型的な粘液水腫性昏睡 組織に対する甲状腺ホルモンの作用不足による病態ともいえる。 成人の一般的症状は,全身倦怠感,無力感,うつ状態,寒がり,発汗減少,便- 169 -秘,関節痛等であり,最終的には典型的な粘液水腫性昏睡の状態となり,しばしば致死的となる。 病因的には,種々の原因があるが,甲状腺自体に障害があり,ホルモン分泌・合成障害を来すものを原発性甲状腺機能低下症と呼ぶ(上位の下垂体や視床下部の異常に基づくものを中枢性甲状腺機能低下症という。これには,後天。)的に甲状腺が自己免疫機序によって破壊されるものや放射線によって破壊されるもの,ヨード欠亡・ヨード過剰など外因性の機能抑制によるものとがある。 甲状腺機能低下症の大部分は慢性甲状腺炎(甲状腺に対する自己免疫機序によって生じる慢性炎症性甲状腺疾患自己免疫性甲状腺炎であり大正121〈〉,(912)年に九州大学の橋本策博士により最初に報告されたため,橋本病と呼ばれている)である。 。 甲状腺機能検査ではTSH測定が最も有用であり,原発性甲状腺機能低下症ではTSHが必ず上昇する。総T4,遊離型T4の低下は甲状腺機能低下症全,。 ,。 般にみられるがT3は正常のことがあるまた貧血が高頻度に認められる甲状腺機能低下症の治療は甲状腺ホルモンの補充療法であり,甲状腺機能低下症患者の血中ホルモン濃度を正常域に保つことを目的とする。通常,生涯服用を続ける必要がある。 甲状腺機能低下症と放射線被曝に関する知見以下の各文献にそれぞれ次に記載する記述がみられる。 (1)放射線基礎医学第10版(乙118)甲状腺上皮は組織の中でも,細胞分裂頻度が低く,放射線感受性がかなり。 ,。 低い方に分類されているしたがって放射線に抵抗性があると考えてよいしかし,障害を受けた細胞が除去されるにつれて,甲状腺刺激ホルモンは 組織の中でも,細胞分裂頻度が低く,放射線感受性がかなり。 ,。 低い方に分類されているしたがって放射線に抵抗性があると考えてよいしかし,障害を受けた細胞が除去されるにつれて,甲状腺刺激ホルモンは増加する。細胞の生存率が低いと10~20年後でさえ,機能低下を伴う甲状腺の萎縮を起こすことがある(238頁,253頁。 )(2)放射線被爆者医療国際協力推進協議会編「原爆放射線の人体影響199- 170 -2(甲292の文献1,文献5)」(()アZ155外3名らの研究報告放影研業績報告書昭和531978),()年RERFTR15-78は放影研における昭和291954年から49(1974)年)までの剖検症例155例に橋本病の存在を確認したものの,発生率あるいは被曝時年齢と放射線との関係は認めていない。 イZ169外6名の被曝時年齢20歳以下を対象とした調査(放影研業績報告書昭和61(1986)年RERFTR20-85)では,100ラド以上被爆群(477人)と対照群=0ラド被爆群(501人)について検討した結果,結節性甲状腺腫は,被爆群では13例,対照群では3例と被爆群に有意に高率であった。 ウZ169外6名の上掲調査では,100ラド被爆群と0ラド被爆群との間に血清TSH及びサイログロブリンは差がなかったと報告している。 エZ170外3名原爆降下物質による人体への長期影響日本内科学会「」(誌昭和63(1988)年77-229)により,長崎原爆の甲状腺への影響が検討された結果,甲状腺結節は,被曝線量が高いほど増加し,被曝時年齢が20歳以下の群に有意に多く,長崎市西山地区住民の調査により,放射性降下物による被爆においても結節性甲状腺腫の発生が高くなるとする。 オZ171「原爆被爆者の甲状腺機能に関す 増加し,被曝時年齢が20歳以下の群に有意に多く,長崎市西山地区住民の調査により,放射性降下物による被爆においても結節性甲状腺腫の発生が高くなるとする。 オZ171「原爆被爆者の甲状腺機能に関する検討」第26回原子爆弾後障害研究会シンポジウム昭和60(1985)年(甲293の文献5。 以下Z171論文という後記(5)は広島の原爆で15キロメー「」。 ),. トル以内の直接被爆者6112人と3キロメートル以遠の直接被爆者3047人について検討を行い,甲状腺機能低下症の頻度は,男性で1.5キロメートル以内群1.22パーセント,対照群0.35パーセント,女性ではそれぞれ7.08パーセント及び1.18パーセントであり,また,- 171 -被曝線量の増加とともに機能低下症が高率となり,さらに,機能低下症症例のマイクロゾーム抗体陽性率は1.5キロメートル以内群は対照群に比して男女ともいずれも著明に低率であったと報告している。 カZ172・Z170甲状腺疾患と放射線綜合臨床昭和61 「」((86)年35:2264-8)によれば,西山地区は原爆放射能降下物で汚染された地域であり,原爆投下後40年での土壌のセシウム137は対照地の約2倍で,農作物のセシウム137は約10倍という。西山地区住民における甲状腺機能は,freeT4は正常範囲内ではあるが,対照群に比して有意に低下しており,この差は被曝時年齢20歳以下の集団で顕著であったという。 キZ170・Z173・Z174・Z136・Z175「原爆被爆の人体に及ぼす長期影響について日本内科学会誌平成元(1989)年7」(8:261及び後記(4)のZ175論文は長崎における原爆の甲状腺へ),の影響を検討し,甲状腺機能低下症は低線量群に有意に高く,10歳 影響について日本内科学会誌平成元(1989)年7」(8:261及び後記(4)のZ175論文は長崎における原爆の甲状腺へ),の影響を検討し,甲状腺機能低下症は低線量群に有意に高く,10歳代から30歳代時に被爆した群に特に高く,特に女性に多かったという。 ク1960年代の水爆実験によるマーシャル群島住民の被曝者群においても甲状腺機能低下症の発生率の上昇が認められているが,調査が古い線量基準によって行われたため,線量の信頼性に問題があり,精度に欠ける点がある(甲292の文献1。 )(3)Z151・Z176・Z177・Z178・Z179原爆被爆者にみら「れた甲状腺障碍について長崎医学会雑誌36巻11・12号昭和361」(961)年(甲293の文献4。以下「Z151論文」という)。 昭和33年5月下旬のZ180病院開設以来,昭和35年10月までの54人の甲状腺疾患患者を臨床的・統計的に観察した結果,甲状腺機能低下症は僅か3例にすぎないが,うち2例は2キロメートル内で被爆し,また機能亢進症に対する頻度も高い等,原爆放射能の関係が深いように思われた。 - 172 -(4)Z175・Z181・Z136・Z173・Z174・Z170長崎原「爆被爆者における甲状腺疾患の調査第3報長崎医学会雑誌63巻昭和()」63(1988)年(甲293の文献7。以下「Z175論文」という)。 昭和59(1984)年10月から,長崎成人健康調査集団の対象者のうち1745人について,DS86に基づく被曝線量により,0ラド群(974人1~49ラド群279人50~99ラド群208人 ),(),(),ラド以上群(284人)の4群に分けた上,甲状腺超音波断層装置による甲状腺体積測定等により,すべての甲状腺疾患の発生頻度に ド群279人50~99ラド群208人 ),(),(),ラド以上群(284人)の4群に分けた上,甲状腺超音波断層装置による甲状腺体積測定等により,すべての甲状腺疾患の発生頻度について調査を行ったところ,甲状腺機能低下症の発生頻度は,0ラド群において2.5パーセント,被爆者全体において4.5パーセントであり,被爆者において有意な増加が見られ,被曝線量別では,1~49ラド群(6.1パーセント)のみにおいて,0ラド群に比して,有意な増加が見られた。また,原因別では橋本病による甲状腺機能低下症の発生頻度が,0ラド群において0.6パーセント,被爆者全体において2.2パーセントであり,被爆者において有意の増加がみられ,これを線量別でみた場合も,1~49ラド群(3.6パーセント)のみにおいて,0ラド群に比して,有意差がみられた。 ,,被爆者において橋本病による甲状腺機能低下症の発生頻度が高いことは今回の調査で初めて明らかになった。Z182らによれば,原爆放射線被曝により,自己免疫性甲状腺炎の発症頻度については,有意な増加がみられるが,甲状腺機能低下症の発生頻度については,発生頻度の増加が認められていない。しかし,一方では,被爆者の血中TSHは有意に増加しているとの報告もあり,これは原爆放射線被曝が甲状腺機能低下症の進展に関与していることを示唆しているとも考えられる。さらに,甲状腺機能低下症が結節性甲状腺腫と違い,1~49ラドの低線量被曝群のみに発生頻度の増加が認められたことは,原爆放射線被曝による免疫系異常の発生と発がんは,違った機序によることを示唆しているものとも考えられる。 - 173 -(5)Z171論文原爆被爆者の甲状腺機能に関する検討昭和60年甲2「」(93の文献5)広島における1.5キロメートル 機序によることを示唆しているものとも考えられる。 - 173 -(5)Z171論文原爆被爆者の甲状腺機能に関する検討昭和60年甲2「」(93の文献5)広島における1.5キロメートル以内の直接被爆者6112人と3キロメートル以遠の直接被爆者3047人(対照群)について検討を行った。 甲状腺機能低下症の頻度は,男性で1.5キロメートル以内群1.22パーセント,対照群0.35パーセント,女性ではそれぞれ7.08パーセント及び1.18パーセントと1.5キロメートル以内群で男女とも有意な高率を示しており,被曝線量別でみた場合,男性200ラド以上群3.67パーセント1~99ラド群1.03パーセント,女性200ラド以上群7.26パーセント,1~99ラド群6.23パーセントと男性で有意に高率となっている。 マイクロゾーム抗体(慢性甲状腺炎を推定させる)陽性率は1.5キロメートル以内群は対照群に比して男女ともいずれも著明に低率であった。 一般的に後天性の原発性甲状腺機能低下症の多くは慢性甲状腺炎による甲。 ()状腺組織の傷害によるとされている血中の甲状腺抗体マクロゾーム抗体。 ,が陽性の場合には慢性甲状腺炎があるものと考えられる上記の結果からは近距離被爆者の甲状腺機能低下症の発症機序は,慢性甲状腺炎による甲状腺組織の傷害によって招来する症例よりもその他の異なる機序が推測させる。 (6)Z132論文成人健康調査第7報平成41992年承認甲2「」()(93の文献9,乙59)昭和33(1958)年から昭和61(1986)年の成人健康調査コホートの長期データを用いた調査において,甲状腺疾患(非中毒性甲状腺腫結節,び慢性甲状腺腫,甲状腺中毒症,慢性リンパ球性甲状腺炎,甲状腺機能低下症の障害が一つ以上存在することをいう 成人健康調査コホートの長期データを用いた調査において,甲状腺疾患(非中毒性甲状腺腫結節,び慢性甲状腺腫,甲状腺中毒症,慢性リンパ球性甲状腺炎,甲状腺機能低下症の障害が一つ以上存在することをいうの発生率に有意な正の線量反。)応が認められた(相対リスク1.30,p=0.001 。被曝放射線量が0.001グ)レイ以上の人たちにおいて被爆に起因する症例の割合は16パーセントであ- 174 -り,女性が疾患にかかる確率は男性より3倍高く,性,市,被爆からの期間,,のどれも相対リスクの有意な修飾因子とならず被爆時年齢の影響は有意で主に若い時に被爆した人たちでリスクが増加し,被爆時年齢20歳以下の人と20歳を超える人についてそれぞれ解析を行ったところ,線量効果は若いグループのみにみられた。 (7)Z170・Z124・Z175・Z172・Z174・Z136長崎原「爆被爆者における甲状腺疾患」アメリカ医師会雑誌(JAMA)平成6(1994)年12月号(甲41の文献33,甲293の文献3。以下「Z170論文」という)。 昭和59(1984)年10月から昭和62(1987)年4月にかけて2年に1度の定期検診を受けた長崎成人健康調査の対象者(2856人)を対象に甲状腺疾患の有病率と甲状腺被曝線量(DS86線量推定方式によ),,る性及び年齢との関係をロジスティックモデルを用いて解析したところ抗体陽性特発性甲状腺機能低下症(自己免疫性甲状腺機能低下症)においては有意な線量反応関係が認められたが,他の型の甲状腺機能低下症では認められず,自己免疫性甲状腺機能低下症の有病率は0.7±0.2シーベルトで最大レベルに達する上に凸の線量反応を示した。被爆者における自己免疫。 ,疾患の有意な増加が認められたのは初めてである上に凸の線量反応関係は比 甲状腺機能低下症の有病率は0.7±0.2シーベルトで最大レベルに達する上に凸の線量反応を示した。被爆者における自己免疫。 ,疾患の有意な増加が認められたのは初めてである上に凸の線量反応関係は比較的低線量の放射線が甲状腺に及ぼす影響を更に研究する必要のあることを示している。マーシャル群島の核実験で被曝した子どもにおいては10年以内に甲状腺機能低下症がみられ,その多くは自己免疫型ではなかったが,マーシャル群島の住民においては,甲状腺の被曝は主として内部放射線(放射性ヨード)によるもので,推定された甲状腺線量は甲状腺機能低下症のある被爆者における原爆からの直接の外部放射線による甲状腺線量よりも高い。 「」(,(8)Z133論文成人健康調査第8報平成16年甲41の文献31- 175 -甲77の資料16,甲293の資料12,乙60)昭和33(1958)年から平成10(1998)年の成人健康調査受診者から成る長期データを用いてがん以外の疾患の発生率と原爆放射線被曝線量との関係を調査したところ,甲状腺疾患に対する1シーベルトでの全相対リスクは1.33,被爆時年齢10歳の相対リスクは1.64,25歳の相対リスクは1.15であり,放射線のリスクはより低年齢で被爆した被験者及びより低年齢で調査を受けた被験者においてより高く,被爆時年齢が最も,,顕著な効果修飾因子として含まれ調査時年齢はそれほどには有意ではなく被爆時年齢がより強力な要因であることを示唆しており,実際,放射線のリスクは20歳未満で被爆した者で顕著に増大したが,より高齢で被爆した者では顕著ではなかった。統一した診断基準を適用した最近の長崎における成,,人健康調査での甲状腺疾患の発生率研究は特に若年で被爆した人において女性の固い小結節との有意な線量反応,自己免疫 爆した者では顕著ではなかった。統一した診断基準を適用した最近の長崎における成,,人健康調査での甲状腺疾患の発生率研究は特に若年で被爆した人において女性の固い小結節との有意な線量反応,自己免疫性甲状腺機能低下症への凹型の線量反応を示したが,他の甲状腺疾患では有意な放射線の危険性は認められなかった。甲状腺機能低下症又は甲状腺炎の発生率は,放射線療法を受けた患者において増加していたものの,比較的低い線量の外部放射線被曝の影響は不明瞭である。 (9)Z183・Z184・Z170外16名被爆55-58年後の広島・長「崎の被爆者における甲状腺結節と自己免疫性甲状腺疾患の放射線量反応関」()()(,係アメリカ医師会雑誌JAMA平成172005年乙181甲293の文献13。以下「Z183論文」という)。 数多くの放影研調査で被爆者における甲状腺の異常が評価されてきたが,これら調査には,良性結節及び自己免疫性甲状腺疾患など様々な甲状腺疾患を同定できないという制約があった。そこで,平成12(2000)年3月から平成15(2003)年2月の間の被爆者検診受診者(不同意者,胎内被爆者市内不在者及び放射線量不明者を除く3185人男性1023,。)(- 176 -人,女性2162人)の甲状腺刺激ホルモン等の測定を行い,各甲状腺疾患の線量反応を解析した。 解析の結果,甲状腺自己抗体陽性率と甲状腺自己抗体陽性甲状腺機能低下症のいずれについても有意な放射線量反応関係は認められなかった。この結果は,ハンフォード原子力発電所からのヨウ素131に若年で被曝した人々に関する最近の報告結果等と一致するが前記(7)のZ170論文の調査結果,とは一致しない。 この違いは,本調査では調査集団を拡大し,広島・長崎の被爆者の両方を対象と ウ素131に若年で被曝した人々に関する最近の報告結果等と一致するが前記(7)のZ170論文の調査結果,とは一致しない。 この違いは,本調査では調査集団を拡大し,広島・長崎の被爆者の両方を対象としたこと,甲状腺抗体と甲状腺刺激ホルモンの測定に異なる診断技法が用いられたこと,時間の経過に伴い対象者の線量分布が変化したことに起因するかもしれない(なお,本調査には,以前に結節性甲状腺疾患の診断を受けた人がそれにより調査に参加する意向を持ったかもしれない点で調査における特定の偏りが生じる可能性があること,昭和33年当初の集団に比べて,高線量被曝等による早期死亡者が本調査から除外された可能性があること,原爆被爆後55年から58年経過後に実施した横断調査であるため,甲状腺結節形成への放射線の早期の影響や,被爆後どの位の期間影響が持続したのかを明らかにすることができなかったことなどの限界がある。 。)(10)Z185班長外3名(班員Z186・研究協力者Z187・Z183)「最近10年間の甲状腺疾患と放射線との関連についての文献レビュー」平成18年度厚生労働省委託事業「原爆症調査研究事業報告書」Ⅳ原爆症に関する調査研究共同研究課題3(平成19(2007)年,乙182。以下「Z185論文」という)。 長崎大学医学歯薬学総合研究科原爆後障害医療研究施設教授Z185らは,4つの被爆様式の違いに応じて,甲状腺被曝線量の正当性に注目して文献レビューをし併せて診断の精確さを考慮した結論として医療用放射線,,「による高線量の頭頚部被爆は甲状腺機能低下症の原因となるが,線量の閾値- 177 -は不明である。放射線災害では線量との関係を検討した報告は少ないが,現在のところ,甲状腺自己抗体(自己免疫性甲状腺炎)に関しては線量との有意な関係を認めた結果 因となるが,線量の閾値- 177 -は不明である。放射線災害では線量との関係を検討した報告は少ないが,現在のところ,甲状腺自己抗体(自己免疫性甲状腺炎)に関しては線量との有意な関係を認めた結果とそうでない結果があり,今後の長期的追跡調査が不可欠である。一方,自己免疫性甲状腺機能低下症と甲状腺機能低下症に関しては線量との関係は否定的な結果がある。原爆に関しては,自己免疫性甲状腺機能低下症において線量との有意な関係を認めた初期の結果は,その後の再調査により否定的であり,甲状腺自己抗体陽性率と甲状腺機能低下症(自己抗体の有無を問わない)では,甲状腺被曝線量との関連性は現在認められていない」とする。 。 (11)Z188・Z189慢性甲状腺炎自然発症マウスNOD-H2において電「h4離放射線は甲状腺炎を増悪させる」廣島學61巻平成20(2008)醫年(甲302の1。以下「Z188論文」という)。 長崎大学大学院医学歯薬学総合研究科のZ188らは,自己免疫甲状腺疾患のうちバセドウ病では低線量放射線の影響について報告したが,次に,慢性甲状腺炎(橋本病)について低線量放射線の甲状腺自己免疫反応に及ぼす影響を検討しその考察としてヨード負荷にて高頻度に甲状腺炎を発症す,,「。 るNOD-H2 マウスを用いて低線量放射線と甲状腺自己免疫の関連を検討したh4種々の異なる条件で照射したところ,ヨード投与前の0.5グレイ単独放射線全身照射のみが甲状腺自己免疫(甲状腺炎と抗サイログロブリン抗体価)を有意に増悪させた。他の照射法は無効であったことから,放射線量・照射のタイミング・照射範囲が重要な条件であることが示唆される。照射量と照射範囲に関しては,動物での急性効果との比較は困難であるが,長崎の被爆者での自己免疫性甲状腺疾患の頻度のピ とから,放射線量・照射のタイミング・照射範囲が重要な条件であることが示唆される。照射量と照射範囲に関しては,動物での急性効果との比較は困難であるが,長崎の被爆者での自己免疫性甲状腺疾患の頻度のピークが0.7シーベルト外照射にみられたこととほぼ一致する」とした上で,その結論として「甲状腺炎自然。 ,発症マウスNOD-H2 において05グレイ単独放射線全身照射で甲状腺炎のh4,. 程度と抗サイログロブリン抗体価の上昇が認められた。低線量放射線は,甲- 178 -状腺自己免疫を増悪させる可能性が示唆される」とする。 。 1審原告らの主張(1)前記2(2)から(7)の文献等をみれば甲状腺機能低下症の機序が未だ解明,途上にあり,高線量被爆者の死亡による調査対象の偏りや早期の影響の把握の困難等の事情がある中でも,自己免疫性か否かを問わず,被爆者の甲状腺機能低下症が原爆放射線に起因することを強く疑わせる所見が複数存在するということができる。 (2)Z183論文2(9)はZ170論文2(7)と一見食い違っている(),()ようにみえるが,Z183論文自体が,Z170論文との違いを,時間の経過に伴い対象者の線量分布が異なっていることに原因があるとしており,Z183論文自体,調査対象の偏り(調査方法によるもの,重傷者の死亡に伴,)。 ,うもの調査時期からくるものがあり得ることを認めているしたがってZ183論文は,Z170論文を否定するものではない。Z170論文は,長崎の被爆者について昭和59年10月から昭和62年4月まで,Z183論文は,広島・長崎の被爆者について平成12年10月から平成15年2月までをそれぞれ調査対象者及び調査期間としている。 (3)Z185論文2(10)は4件の論文を検討したに過ぎず ,Z183論文は,広島・長崎の被爆者について平成12年10月から平成15年2月までをそれぞれ調査対象者及び調査期間としている。 (3)Z185論文2(10)は4件の論文を検討したに過ぎずZ132論(),,文やZ171論文について言及されておらず,不十分である。Z170論文がZ183論文により否定されたとしているが,この評価が必ずしも当を得ないことは(2)でみたとおりである。 (4)Z188論文2(11)はZ170論文の知見を裏付けるものとなって(),いる。 (5)Z170論文には被爆者において有意な増加がみられたのは自己免疫性,甲状腺機能低下症だけで,他の型の甲状腺機能低下症には有意な増加は認められなかったとしているが,この点に関しては,被爆者には,①被爆直後の10年くらいの間に近距離の高線量被爆者の多くが死亡し,十分な調査が行- 179 -われていないこと,②甲状腺が内部被曝の感受性が高い臓器であるにもかかわらず寿命調査LSS成人健康調査AHSの影響調査では内部,(),(),被曝線量の情報が乏しいため,遠距離被爆者のように外部被爆よりも内部被曝による影響が大きい場合には,疫学的解析が不十分とならざるを得ないという制約がうかがわれる。 1審被告らの主張(1)Z171論文(前記2(5))は,男性の場合と異なり,女性については,甲状腺機能低下症の放射線関連性が認められなかったのであり,放射線起因性の根拠となる文献とはいえない。 (2)Z132論文(2(6))は,非中毒性甲状腺腫結節,びまん性甲状腺腫,甲状腺中毒症,慢性リンパ球性甲状腺炎,甲状腺機能低下症の5種類の疾患を甲状腺疾患としてひとまとめにして疫学調査を行ったものであり,これからは,個別の疾患の疫学的な因果関係を 節,びまん性甲状腺腫,甲状腺中毒症,慢性リンパ球性甲状腺炎,甲状腺機能低下症の5種類の疾患を甲状腺疾患としてひとまとめにして疫学調査を行ったものであり,これからは,個別の疾患の疫学的な因果関係を導くことができない。 (3)Z183論文(2(9))は,甲状腺自己抗体陽性率及び甲状腺自己抗体率陽性の甲状腺機能低下症について有意な線量反応関係が認められなかったことを明らかにし,それ以前に甲状腺機能低下症と原爆放射線との関連性があることをうかがわせる調査結果(Z171論文,Z170論文)を否定している。Z183論文においては,調査対象を広げて疫学調査の精度を増し,甲状腺自己抗体や甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定方法を高度なものとするなど,その信ぴょう性は高い。 (4)Z185論文2(10)は放射線被曝によるがん以外の甲状腺疾患特(),,に甲状腺機能低下症と甲状腺自己抗体,自己免疫性甲状腺炎についての関連性を最近の調査研究により解明する目的で,平成4(1992)年から平成18(2006)年までの15年間に査読のある医学雑誌に掲載された論文のうち,医療被爆,職業被爆,放射線災害,原爆の各分野で報告された国内外の研究報告を分析したものである。Z185論文は,Z183論文の正確- 180 -性を是認し,Z171論文,Z170論文を否定したものである。 検討(1)前記2の文献を通覧すると,昭和30年代には,Z151論文(前記2(3) が甲状腺機能低下症の症例は少ないが機能亢進症に対する頻度も高い),等,原爆放射線の関係が深いという知見の程度であったが,その後,昭和50年代中ころからZ169外6名2(2)イウZ170外3名2(2),(,),(エ,Z170外4名(2(2)キ,Z172ら(2(2)カ)の という知見の程度であったが,その後,昭和50年代中ころからZ169外6名2(2)イウZ170外3名2(2),(,),(エ,Z170外4名(2(2)キ,Z172ら(2(2)カ)の知見,Z175))論文,Z171論文が公表され,平成4年にはZ132論文(成人健康調査第7報)によって,甲状腺疾患という広いカテゴリーで線量反応関係が確認され,Z170論文やZ133論文(成人健康調査第8報)により甲状腺機能低下症の線量反応関係が報告された。その後,平成17年のZ183論文が,Z170論文とは異なり自己免疫性甲状腺機能低下症について線量反応関係が認められないという結果を報告し,Z185論文が文献の検討をした上,Z183論文がZ170論文を否定したものとして,甲状腺機能低下症自己抗体の有無を問わないでは原爆放射線との関連性が認められな(。)いとした。 (2)1審被告らが主張するとおり概括的にみればZ132論文は甲状腺機,,能低下症だけでなく,包括的に甲状腺疾患の線量反応関係を検討したものであり,甲状腺機能低下症だけの解析をした場合に異なる結果が出る余地があることは当然であり,また,疫学的調査の手法は,Z171論文,Z170論文のものに比べてZ183論文のものがより精度が高いものといえ,Z185論文が文献上の検討だけであっても,Z183論文とZ170論文とが両立し得ないものと捉え,Z183論文が現在の知見であると評定していることに照らすと,原爆放射線と甲状腺機能低下症との間に関連性が認められ,。 ないというのが現時点における科学的知見の有力説であるようにみられる(3)しかし1審原告らが指摘するとおりZ183論文は調査対象がZ1,,,- 181 -70論文の昭和59年10月から昭和62年4月 時点における科学的知見の有力説であるようにみられる(3)しかし1審原告らが指摘するとおりZ183論文は調査対象がZ1,,,- 181 -70論文の昭和59年10月から昭和62年4月までのものとは異なり,平,,成12年10月から平成15年2月までのものでありZ183論文自体が①以前に結節性甲状腺疾患の診断を受けた人はそれにより調査に参加する意向をもったかもしれず,調査における特定の偏りが生じた可能性がある,②本調査には生存による偏りが明らかに存在する,すなわち,寿命の中央値は放射線量に伴い1グレイ当たり約1.3年の割合で減少するので,昭和33(1958)年当初の集団に比べて本調査では高線量に被爆した被爆者の割合が減少している,③この調査は原爆被爆後55年から58年を経過した後に実施した横断調査であるため,甲状腺結節形成への放射線の早期の影響や被爆後どれくらいの期間影響が持続したのかを明らかにすることができなかったと述べており,Z170論文の結果を明示的に否定していない。したがって,前記2に掲げた各文献から読みとれる甲状腺機能低下症(これを含む甲状腺疾患)の放射線との関連性に関する知見がすべて否定し去られたと理解することは困難である。 (4)Z185論文前記2(10) の文献レビューの原爆放射線に関する部分1()(1頁)は,Z183論文がZ170論文より調査の対象数が多く,診断法,線量評価法が変わったということは読みとれるが自己免疫性甲状腺機能低,「下症において線量との有意な関係を認めた初期の結果は,その後の再調査により否定的であり,甲状腺自己抗体陽性率と甲状腺機能低下症(自己抗体の),。」有無を問わないでは甲状腺被曝線量との関連性は現在認められていないとの結論に結びつく過程が,上記の報告記載部分 査により否定的であり,甲状腺自己抗体陽性率と甲状腺機能低下症(自己抗体の),。」有無を問わないでは甲状腺被曝線量との関連性は現在認められていないとの結論に結びつく過程が,上記の報告記載部分だけからでは理解しにくいものがある。 (5)さらにZ188論文前記2(11)の動物実験の結果では放射線照射,(),がマウスの甲状腺炎の一部についてではあるが,有意に増悪させるという結果が得られており,放射線の甲状腺に対する影響については,更なる研究が進むものと考えられるし,この実験結果に照らすと,Z183論文をZ18- 182 -5論文の文献レビューのように読むことが正当であるとすることを直ちには承認しがたいところがある。 (6)そうすると上記のような研究結果の下において甲状腺機能低下症の原,,爆放射線関連性を検討することになる。甲状腺は細胞分裂頻度が低く,放射線感受性が低い臓器に分類されているが,細胞が障害を受け,その生存率が低いと甲状腺の萎縮を起こすことがあるとされている。自己免疫性甲状腺機,(),能低下症については初期のころの研究に属するZ151論文昭和36年Z169外6名昭和61年Z172ら昭和61年やZ170外4(),(),(),(),名平成元年の論文その後の研究に属するZ171論文昭和60年Z175論文(昭和63年,Z170論文(平成6年,Z133論文(平))成16年)が放射線との線量反応関係を認めており,特に0.7グレイの被曝線量においてピークを示す結果となっている。甲状腺機能低下症に限定し,()ない甲状腺疾患としては平成4年のZ132論文成人健康調査第7報. ,()が相対リスク130平成16年のZ133論文成人健康調査第8報が相対リスク る。甲状腺機能低下症に限定し,()ない甲状腺疾患としては平成4年のZ132論文成人健康調査第7報. ,()が相対リスク130平成16年のZ133論文成人健康調査第8報が相対リスク1.33の結果を報告している。平成18年のZ183論文が上記と異なり,甲状腺機能低下症(自己免疫性か否かを問わず)と原爆放射線との関連が認められない結果を出しているが,なお,それ以前の研究結果は否定されているとはいえない。 科学的知見の分野における厳密な学問的な意味における真偽の判定とは異なり,原爆症認定における放射線起因性の認定判断は法律判断である。その判断は,その時点における一定の水準にある科学的知見に係る客観的な状況を前提として社会通念に従って行われることが是認されるべきものであると解されるのであるから,この意味において,従来の科学的知見に変更があった場合には当然見直しがされなければならないが,現実に動いている原爆症認定の実務に反映されるためには,それまで積み重ねられた科学的知見が変更されたものとみるのかどうかについては十分に検討し尽くされることが必- 183 -要とされる。前記認定の多くの科学的知見を通覧したところ,Z183論文の存在を前提としても,なお自己免疫性甲状腺機能低下症が原爆放射線と関連性があるものと考えて,原爆症認定における放射線起因性の認定判断に当たるのが相当である。 (7)ところで,自己免疫性甲状腺機能低下症については前記のとおりであるが,自己免疫性ではない甲状腺機能低下症について,原爆放射線との線量反応関係を認めた研究結果は現れていない。しかし,甲状腺機能低下症の機序について,前記のとおり,その大部分が慢性甲状腺炎(橋本病)が原因であり,他に放射線治療によるもの,手術によるもの,亜急性甲状腺炎によるもの,外因性 果は現れていない。しかし,甲状腺機能低下症の機序について,前記のとおり,その大部分が慢性甲状腺炎(橋本病)が原因であり,他に放射線治療によるもの,手術によるもの,亜急性甲状腺炎によるもの,外因性の機能抑制によるものがあるとされている(今日の診断基準5版(平成17(2005)年,乙177。なぜ,自己免疫性甲状腺機能低下))症が線量反応関係を示して,自己免疫性でない甲状腺機能低下症が線量反応関係を示さないのかの理由を説明した文献は本件記録上見当たらない。そして,Z170論文中には,マーシャル群島の核実験被曝の子どもには10年以内に甲状腺機能低下症が認められ,その多くが自己免疫型ではなかったこと,その甲状腺の被曝が外部被曝よりも内部被曝であるとされている。そして,その内部被曝線量は,甲状腺機能低下症にある被爆者における原爆からの直接の外部被曝線量よりも高いとされている。ところで,被爆者における被曝線量はDS86によって評価されていたが,内部被曝についてはこれをゼロとしていたこと,被爆者に内部被曝がなかったとすることについて疑問があることは前示のとおりである。このことを併せ考えると,DS86による線量評価を前提とした研究結果の場合,内部被曝を無視しているために甲状腺に関する線量反応関係が正しく解析されていないというおそれも否定で,,きないのであるから相対リスクがどの程度であるかは判然としないものの自己免疫性でない甲状腺機能低下症についても,原爆放射線との関連性があるものとして,原爆症認定における放射線起因性の認定判断を行うのが相当- 184 -である。 第10放射線起因性の判断基準についての検討(争点(1)) 本項のテーマこれまでの検討に基づいて,争点(1)について判断する。争点(1)は,原爆症認定の認定要件の判断基準であ 4 -である。 第10放射線起因性の判断基準についての検討(争点(1)) 本項のテーマこれまでの検討に基づいて,争点(1)について判断する。争点(1)は,原爆症認定の認定要件の判断基準であり,本件訴訟においては,1審原告ら(取消請求に係る訴えが却下された者を除くに対する却下処分の違法性を判断する前。)提として,1審被告らが,医療分科会における審査の判断基準である審査の方針(13年方針。乙1)が正当であり,これに基づいてされた各却下処分に違法な点はないと主張し,1審原告らが,審査の方針の判断基準自体が不当であると主張しているので,審査の方針が合理的で,判断の基準として相当かどうかを判断する。ここでは,原爆症認定の要件のうち放射線起因性について限定して判断する。 そして,上記の点について,審査の方針を審査の判断基準とすることが相当でないと判断した場合に,本件訴訟における原爆放射性起因性の判断基準について検討を要することになる。 なお,前記のとおり,医療分科会は,平成20年3月17日,新審査の方針(20年方針。乙225)を定め,以後,これに基づき,第1から第4審査部会において原爆症認定の審査を行っている。ところで,当事者双方の主張を精査しても,いずれも20年方針の評価について争点として熟していないので,本件においては,これについて判断を加えることは差し控えることとする。 判断の基本(1)最高裁平成12年判決前記第3の1(4)のとおり原爆症認定の要件は放射線起因性及び要医療性,であるところ,最高裁平成12年判決は,その要件の立証の程度について次のように説示する。 「行政処分の要件として因果関係の存在が必要とされる場合に,その拒否- 185 -処分の取消訴訟において被処分者がすべき因果関係の立証の程度は,特別の定めがない 程度について次のように説示する。 「行政処分の要件として因果関係の存在が必要とされる場合に,その拒否- 185 -処分の取消訴訟において被処分者がすべき因果関係の立証の程度は,特別の定めがない限り,通常の民事訴訟における場合と異なるものではない。そして,訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るもので,(,)あることを必要とすると解すべきであるから法八条一項注原爆医療法の認定の要件とされている放射線起因性についても,要証事実につき「相当程度の蓋然性」さえ立証すれば足りるとすることはできない」。 上記説示部分は,原爆医療法8条1項の認定(原爆症の認定)において,放射線起因性の立証責任は被処分者にあること,その立証の程度は通常の民事訴訟における場合と異なるものではなく高度の蓋然性を証明すること,「」であり相当程度の蓋然性の立証では足りないとするものである当裁判,「」。 所も,被爆者援護法における原爆症認定の要件については,上記判決の説示に従って判断するのが相当と考える。 なお,上記説示中「訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信」,を持ち得るものであることを必要とすると解すべきであるとするところはいわゆるルンバール事件判決(最高裁昭和48年(オ)第517号同50年10月24日第二小 いを差し挟まない程度に真実性の確信」,を持ち得るものであることを必要とすると解すべきであるとするところはいわゆるルンバール事件判決(最高裁昭和48年(オ)第517号同50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁)が説示したところであり,すでに裁判実務上定着した法原則である。 ルンバール事件判決では,最高裁第二小法廷は,化膿性髄膜炎に罹患した3歳の幼児について,治療としてルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリンの髄腔内注入)を実施した後15分から20分を経過して嘔吐,け- 186 -いれんの発作等を起こし,これに続いて右半身けいれん性不全麻痺,知能障害及び運動障害等の病変を生じたという事案につき,原判決が,幼児の発作及び病変の原因がルンバールの施行による脳出血によるものか化膿性髄膜炎又はこれに随伴する脳実質の病変の再燃によるか判定しがたく,発作及び病変の原因がルンバール施行にあると断定しがたいと判示した点を不当とし,その因果関係を認めるのが相当であるとして,原判決を破棄し,医師らの過失につき審理を遂げさせるため,事件を原審に差し戻した。 最高裁平成12年判決では,同第三小法廷は,上記説示に基づき,原判決の認定事実を前提とし放射線起因性があるとの認定を導くことも可能であ,「,」,ってそれが経験則上許されないものとまで断ずることはできないとして放射線起因性を是認した原判決の結論を相当とした。 (2)科学的知見について原爆症認定における放射線起因性は,原爆放射線と疾病(本件では主として晩発障害)の因果関係を判定するものであるから,その判断には,放射線及び疾病に関する科学的知見を必要とし,具体的には放影研における原爆放射線と後障害に関する寿命調査,成人健康調査の成果が不可欠である。 これまでみてきたところ するものであるから,その判断には,放射線及び疾病に関する科学的知見を必要とし,具体的には放影研における原爆放射線と後障害に関する寿命調査,成人健康調査の成果が不可欠である。 これまでみてきたところによれば,原爆医療法により原爆症認定の制度がとられた昭和32年当時の原爆放射線,後障害及びその両者の関連性に関する科学的知見は,現在の水準に比べると未熟なものであり,その後の研究は進歩を遂げ,高度なものとなっており,現在なお発展過程にある。 弁論主義,当事者主義が採られている民事訴訟の手続において,これらの科学的知見の現状を的確に把握することは容易なことではない。もちろん,科学的知見を正確に把握する必要がある事件は,本件に限らず,医療過誤訴訟,交通事故による人身損害賠償事件,労災保険に関する事件等枚挙にいと,。 まがないところであり科学的知見の正確な把握は裁判上重要な課題である当裁判所は,本件に必要とされる科学的知見について,確立した知見であ- 187 -るかどうかという観点から検討を加えてきたが,それが司法裁判所の訴訟上の審理目標であるとともに裁判手続上の限界でもある。対立する科学的知見について,厳密な学問的な意味における真偽を見極めることは裁判手続において必ずしもよくなし得るところではなく,厳密な意味では訴訟上の課題であるともいいがたい。裁判手続の課題としては,一定水準にある学問成果として是認されたものについては,そのあるがままの学的状態において法律判断の前提としての科学的知見を把握することで足りるものというべきである。なお,この意味において科学的知見の意味内容の把握の正確さを期すること自体についても相当の困難性が伴うものであるが,この点についても,証拠の有無という民事訴訟の一般原則をもって対処せざるを得ないところである。 (3) 科学的知見の意味内容の把握の正確さを期すること自体についても相当の困難性が伴うものであるが,この点についても,証拠の有無という民事訴訟の一般原則をもって対処せざるを得ないところである。 (3)法律判断について放射線起因性とは,原爆放射線と疾病(後障害)との因果関係の判断である。一般に因果関係の判断が法的に極めて評価的な判断であることは周知のところである。労働者災害補償保険法における業務起因性に関する累次の行政通達をみても容易にうかがえるところであるし,不法行為法上の因果関係と定額給付を前提とした労災給付,損害保険における因果関係とが同じ理念のもとに判断されているわけではない原因確率の検討第7の8(6)で引。 ()用した最高裁第一小法廷平成11年2月25日の判決(医師の過失と死亡との因果関係)に現れているように,裁判上現れる因果関係に関する法律問題については当該事件ごとに決着を付けていかなければならない。 前記の最高裁平成12年判決の説示が由来するとされるルンバール事件判決の要点はその事案に即してみると訴訟上の因果関係の立証は一点の,,「,疑義も許されない自然科学的証明ではない」との点にある。つまり,民事訴訟においては,科学的な因果関係の有無を確定しようとするのが目的ではなく,法律要件としての因果関係という要証事実の立証があるかどうかを確定- 188 -することが目的である。科学的知見が不動のものであれば,これに反することは違法であるが,科学的知見の通説に対して異説がある場合は,通説的知見がどの程度の確かさであるのかを見極め,両説ある場合においては両説あるものとして訴訟手続上の前提とせざるを得ない。科学的知見によって決着が付けられない場合であっても裁判所は経験則に照らして全証拠を総合,,「検討し,特定 を見極め,両説ある場合においては両説あるものとして訴訟手続上の前提とせざるを得ない。科学的知見によって決着が付けられない場合であっても裁判所は経験則に照らして全証拠を総合,,「検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性の証明の有無を判定すべきでありその場合の判定の基準は通常人」,,「が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とする」というのが,確立した判例の法理である。 したがって,本件において,DS86(あるいはDS02)を超える科学水準の線量評価システムでなければ,DS86による線量評価以上の線量評価の立証が全く許されないわけではなく,審査の方針における原因確率以上の科学的水準の過剰リスク判断の手法でなければ,疾病の放射線起因性の立証が許されないわけではない。 (4)被爆者援護法の立法趣旨について被爆者援護法はその前文において国の責任において原子爆弾の投下,,「,の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特,,殊の被害であることにかんがみ高齢化の進行している被爆者に対する保健医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講」ずるとしており,同法の援護措置が,単なる社会保障的観点に基づくものではなく,戦争遂行主体であった国の国家補償的措置として行われるものであることを明らかにしている。 このことは,最高裁昭和53年判決が明らかにしたところであり(前記第3の1(5) ,原爆被爆者対策基本問題懇談会の昭和55年報告もこれを明記し)ているところである(同(6) 。 )国家補償的観点による立法であるということが,放射線起因性の立証の程度を「相当程度の蓋然性」に減縮させるものでないことは,最高裁平成12- 189 -年判決が説示す ところである(同(6) 。 )国家補償的観点による立法であるということが,放射線起因性の立証の程度を「相当程度の蓋然性」に減縮させるものでないことは,最高裁平成12- 189 -年判決が説示するところであり,因果関係の具体的な判断における法的枠組みを考えるに当たっても同様である。また,放射線起因性の判断は,原子爆弾の被爆がなければこのような病気にならなかったという条件関係の有無の判断である。疾病の発症においては,一般に,複数の要素が複合的に関与す,,,るから他の発症要因と共同関係があったとしても特段の事情がなければ放射線起因性は否定されることはなく,原爆の放射線によって疾病の発症が促進されたと判断される場合も放射線起因性を肯定するのが相当である。さらに,訴訟における立証過程においても,立証上の当事者の衡平という問題が常に生ずるのであり,留意が必要なところである。 被爆者援護法前文が,平成6年時点において,被爆者の高齢化を指摘しているが,それからすでに15年を経過している現在,この点は何よりも重視されなければならない。科学的知見は日々発展進歩するものであるから,将来において原爆放射線と後障害の関係が解明されるかもしれないが(前記第7の4(19)Z147放影研理事長の発言これを待ち将来の解明後に認定),,すべきであるといえないことは,同法の立法趣旨に照らして明らかである。 審査の方針についてこれまで,審査の方針(13年方針)の基礎となる科学的知見であるDS86線量評価体系及び後障害の寄与リスクを算定したZ54論文,急性症状の調査結果の評価並びに慢性肝障害及び甲状腺機能低下症と原爆放射線の関連性について検討をしてきたが,これらを踏まえて,審査の方針について検討する。 (1)審査の方針の内容ア審査の方針(13年方針)は 査結果の評価並びに慢性肝障害及び甲状腺機能低下症と原爆放射線の関連性について検討をしてきたが,これらを踏まえて,審査の方針について検討する。 (1)審査の方針の内容ア審査の方針(13年方針)は,前記第3の2(2)で認定したとおり「第, 原爆放射線起因性の判断「第2要医療性の判断「第3方針の」,」,見直し」の3つの柱からなり,これを要約すると次のとおりである。 (ア)原爆症認定の審査に当たっては,審査の方針を目安に行う。 (イ)放射線起因性の判断に当たっての基本的な考えは,原因確率及び閾- 190 -値を目安として,その「高度の蓋然性」の有無を判断する。 (ウ)前項の場合,原因確率がおおむね50パーセント以上の場合には健康影響の可能性があることを推定し,10パーセント未満である場合にはその可能性が低いものと推定する。 (エ)前項の推定基準に従った放射線起因性の判断に当たっては,その推定基準を機械的に適用して判断すべきではない。 (オ)前項の定めに従い上記判断をするに当たり,原因確率等が設けられていない疾病等については,放射線起因性に係る肯定的な科学的知見が立証されていないことに留意しつつ,当該申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を判断する。 (カ)原因確率が設けられている疾病は,白血病,胃がん,大腸がん,甲,,,,(。),状腺がん乳がん肺がん肝臓がん皮膚がん悪性黒色腫を除く卵巣がん,尿路系がん(膀胱がんを含む,食道がん,その他の悪性新。)生物,副甲状腺機能亢進症である。 ,. 。 (キ)閾値としては放射線白内障について175シーベルトと定める(ク)申請者の被曝線量の算定方法は,初期放射線,残留放射線,放射性降下物の被曝線量の合計値 副甲状腺機能亢進症である。 ,. 。 (キ)閾値としては放射線白内障について175シーベルトと定める(ク)申請者の被曝線量の算定方法は,初期放射線,残留放射線,放射性降下物の被曝線量の合計値とし,それぞれについて,爆心地からの距離等により被曝線量を定めた別表等を設ける。 (ケ)要医療性については「当該疾病等の状況に基づき,個別に判断す,る」としている。 。 (コ)方針の見直しについては新しい科学的知見の集積等の状況を踏ま,「えて必要な見直しを行う」としている。 イ審査の方針の適用過程における特徴は,次のとおりである。 (ア)放射線起因性判断の考え方は,原因確率及び閾値を目安とした推定基準を適用して,高度の蓋然性の有無を決めるが,推定規定による判定- 191 -を機械的にすべきではないとする。 (イ)この個別判断をする場合,原因確率等が設けられていない疾病等については,放射線起因性にかかる肯定的な科学的知見が立証されていないことに留意すること,総合的に判断する場合も,被曝線量(爆心地からの距離)を勘案することとされている。 (ウ)機械的ではない個別判断をする場合に「高度の蓋然性」を要する起因性を肯認し得る事由に具体的に触れた規定はなく,個別の総合的判断の具体的内容は明らかでない。 (エ)なお,高度の蓋然性を審査の方針の文辞上あえて括弧書きとした理由は必ずしも明らかではない。 (2)被曝線量の評価についてDS86及び審査の方針の線量評価について検討したところは次のとおり要約できる。 DS86(あるいはその後継モデルであるDS02)について,その存在意義自体を否定することはできないし,初期放射線の被曝線量評価については他に手段はなく,これに誤差があることを考慮しつつ原爆症認定に当たって利用することは相当であるとい DS02)について,その存在意義自体を否定することはできないし,初期放射線の被曝線量評価については他に手段はなく,これに誤差があることを考慮しつつ原爆症認定に当たって利用することは相当であるといえるが,残留放射線(誘導放射線,放射性降下物)についての影響の程度について,審査の方針が定めたように機械的に線量評価をしてよいかどうかについては疑問があり,被爆者の内部被曝の影響の程度については,専門家の間で意見が分かれるところであり,内部被曝の影響が無視し得るものであることを前提とした原爆症認定審査は相当とは考えられない。そして,急性症状に関する検討も加えると,被爆者に現れた急性症状に関する調査の結果からみると,審査の方針が定める線量評価の手法は,特に残留放射線(誘導放射線及び放射性降下物)及び内部被曝の問題に関する点で過小評価に陥る危険があり,これをそのまま是認することはできない。以上によれば,審査の方針の基準に基づいた被曝線量を誤りのな- 192 -いものであることを前提に判断することはできないという結論に達する。なお,これに抵触するとみえる証人Z116の意見書及び証言に基づく放射線被曝の治療における急性放射線障害に関する知見は,被爆者の被爆後における急性症状等を説明する他の科学的知見を排斥するものとしての通用性があるとまでは未だいえない(証人Z116はその専門領域における学問上の所見を供述したものである。 。)したがって,放射線起因性の判断において放射線被曝の存在は不可欠な要素であり,その定量的な判定が望ましいとはいえるが,定量的な判断ができるという前提で判断基準を組み立てることには無理があるというべきであり,この点において審査の方針が採用した被曝線量の評価方式の全部が精密な意味においてすべて正しいといえるかについては疑問を残 ができるという前提で判断基準を組み立てることには無理があるというべきであり,この点において審査の方針が採用した被曝線量の評価方式の全部が精密な意味においてすべて正しいといえるかについては疑問を残すものがあるといわざるを得ない。 (3)原因確率について原因確率について検討したところは次のとおり要約できる。 審査の方針が採用した原因確率の方式は(1)基礎資料である放影研の疫学,調査に用いられた線量評価では,DS86の初期放射線以外の線量が考慮されておらず,ポアソン回帰分析の手法による解析結果から得られた過剰リスクが低いものとなっている可能性があること(2)死亡率調査と発生率調査に,おける過剰リスクには相当差があり,死亡率調査によれば,発生率調査よりも低い過剰リスクとなる可能性があること(3)死亡率調査及び発生率調査に,よる結果を一律に10パーセント及び50パーセントの数値を基準に評価判定することに問題があること,以上の3点において,その正確性にはなお問題を残すものがあるといわざるを得ない。 上記の原因確率の方式に係る問題点は,証拠上認められるZ54論文における寄与リスク算定における学術的な問題に由来するものであるが,これ以外にも,Z54論文において算定された過剰相対リスクに係る数値を原爆症- 193 -認定判断の目安基準として用いるに当たっては,より広い観点からも検討すべき課題があるすなわち前記第7の8(4)でも触れたところであるが科。 ,,学的な因果関係と法的因果関係との峻別である。1審被告らも,審査の方針が単に科学的知見のみの判断であって法的観点は全く別個に考えて処分をしていたとは主張していないほか,審査及び処分の実際も1審被告厚生労働大臣の判断の前提として総合的に判断していたものと認められるので,この前提の下 のみの判断であって法的観点は全く別個に考えて処分をしていたとは主張していないほか,審査及び処分の実際も1審被告厚生労働大臣の判断の前提として総合的に判断していたものと認められるので,この前提の下に以下検討する。 審査の方針において,原因確率50パーセントと10パーセントの判断基準を設けた経緯は,本件全証拠によるも,明らかではないことに照らして,,,十分な根拠が存したか否かは疑わしともみ得るがこの点は暫く措くとして審査の方針が定める原因確率,その基底をなすZ54論文,さらには,放影研の疫学調査の性格の検討が必要であると思われる。放影研の寿命調査,成人健康調査をみる限り,公正な科学的な探求の現れであることはいうまでもないとしても,後障害の線量反応関係が認められるかどうかの解析が意欲的に行われていたのであって,積極的に線量反応関係がないことを研究目的としていたものとはうかがえず,疫学調査上「有意な差が認められない」ということが,P値を0.05とした検定の結果であり,線量反応関係が積極的にないことを有意に認めた研究結果は少ないと認められる。そうであるとするならば,被爆者医療における統計的報告など過去の水準の研究蓄積といえども新知見の水準から捨象しすぎないか,あるいは捨象することの正当性の検証は適正かについても配慮を必要とするが,もとより,前記認定に係る多,,,数の文献意見書及び証言に現れた見解はいずれも専門の学問に立脚してその立場から先行業績の評価・検討・批判を節度ある表現の下に行っていることは前示のとおりである。こうした意味で,Z54論文の有する科学的知見としての精密かつ複雑さを行政執務上の審査方針として整理したものに定式化した場合,原爆症認定の可否を決する選別作用を担うその定めそれ自体- 194 -を,社会通念上も間違いの 文の有する科学的知見としての精密かつ複雑さを行政執務上の審査方針として整理したものに定式化した場合,原爆症認定の可否を決する選別作用を担うその定めそれ自体- 194 -を,社会通念上も間違いのない正常なものとして機能し得るのものであるかを究明しなければならない。 審査の方針第1の1の3)では「原因確率等による判断基準)を機械的に,(適用して判断するものではなく,当該申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案した上で判断を行うものとすると規定しているが線量,。」,評価がゼロの者について個別判断に入る余地はなく,原因確率10パーセント以下の者であっても具体的な考慮事由の定めも皆無であるから,審査において,原因確率から離れて,他の資料に基づき検討することは事実上極めて難しい規定となっている。現に,平成13年度から平成17年度まで審査の方針を適用して審査した件数は3655件であり,このうち認定されたものは910件であるが,原因確率10パーセント未満で認定されたものは2件に止まる(甲295の1。 )以上のように,審査の方針が定める原因確率の方式は,その算定数値自体の正確性に問題があり,また,これをほぼ絶対の基準として定めたところに欠陥があり,運用ではなく,判断基準それ自体に合理性を欠くものがあると指摘できる。 (4)基準外の疾病について審査の方針第1の1の4)では原因確率等が設けられていない疾病等に係,「る審査に当たっては,当該疾病等には,放射線起因性に係る肯定的な科学的知見が立証されていないことに留意しつつ,当該申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を判断するものとする」と定めている。 。 慢性肝機能障害及び甲状腺機能低下症については,前示した次第から,原爆放射 者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を判断するものとする」と定めている。 。 慢性肝機能障害及び甲状腺機能低下症については,前示した次第から,原爆放射線と関連性が認められるものとして,原爆症の認定において検討すべきであると判断する。平成13年3月当時においても,慢性肝機能障害については,Z54論文においても線量反応関係を是認して寄与リスクを算定し- 195 -ていたものであり,医療分科会がこれを採用しなかった経緯は証拠上不明であるが,この点においても審査の方針は,その基底をなすZ54論文の科学的知見をなにゆえに捨象したかは問題である。 (5)新審査の方針についてア前記第3の3(4)のとおり医療分科会長は平成20年3月17日新,,,審査の方針を定め,医療分科会は,現在,これに基づく原爆症認定の審査を行っている。なお,これに先立つ平成19年12月に在り方検討会の報告書は前記第3の3(2)のとおり6点の改善を求めていた。 イ前記第3の3(5)のとおり新審査の方針20年方針では爆心地か,(),ら3.5キロメートル以内での被爆者等について,一定の疾病(白血病,悪性腫瘍,副甲状腺機能亢進症,放射線白内障,心筋梗塞)については積極的に認定するとし,これに該当しない申請については,申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を総合的に判断するとし,線量評価及び原因確率を基準上から除外した。 ところで,1審被告らは,20年方針は,行政上の判断から被爆者の援護範囲を可及的に拡大する政策が新たに採用され,一定の者については,科学的知見にこだわらず積極的かつ迅速に認定することとされたことによるものである旨主張する加えて1審被告らは確 から被爆者の援護範囲を可及的に拡大する政策が新たに採用され,一定の者については,科学的知見にこだわらず積極的かつ迅速に認定することとされたことによるものである旨主張する加えて1審被告らは確率的影響とされるが。 ,,「んについては,被爆地点が爆心地から3.5キロメートル前後であることなど一定の形式要件により,積極的に認定することとしたが,もとより,これは,科学的知見のみに基づき,上記要件を満たせばこれらの疾病の放射線起因性が肯定されるとしたものではない。したがって,新しい審査の方針は,被爆者援護法11条1項の解釈を変更したものでないことはもちろんのこと,これを策定したのは,従前の審査の方針やこれが前提としている科学的知見,さらには従前の審査の方針に基づいてされた原爆症認定- 196 -申請却下処分に誤りがあったためではないと主張する1審被告らが1。」。 3年方針の正当性を主張する趣旨が,20年方針を違法視し,これに基づく原爆症認定の行政実務が違法である旨をいうものとは解し得ないことはいうまでもないが,その論旨は無理があるといわざるを得ず,1審被告らの上記主張は採用できない。 本件訴訟における判断基準(1)以上のとおり審査の方針13年方針は原爆症認定の判断基準として,()相当とはいえないので,改めて,本件の1審原告ら(取消請求に係る訴えを却下された者を除くの放射線起因性を判断するに当たっての判断基準につ。)いて検討する。その際,13年方針が改められ,その一部はすでに20年方針により原爆症認定が行なわれている段階にあることを念頭に置いて考察する。 (2)判断の前提としての科学的知見は,これまで検討したところを前提とする。 ア1審原告らの被曝の有無及び程度については「第5線量評価につい,て」 る段階にあることを念頭に置いて考察する。 (2)判断の前提としての科学的知見は,これまで検討したところを前提とする。 ア1審原告らの被曝の有無及び程度については「第5線量評価につい,て」及び「第6急性症状について」において検討したところによる。すなわち,DS86による初期線量の評価について尊重し,定量的判断は困難であるものの,誘導放射線,放射性降下物による放射線,内部被曝の存在について配慮して,被曝の有無及び程度を判断するという基本的考え方になる。 イ疾病の原爆放射線との関連性については「第7原因確率について,,」「第8肝機能障害と原爆放射線との関連について」及び「第9甲状腺機能低下症と原爆放射線との関連性について」において検討したところを考慮し,さらに,個別の1審原告に必要な知見を証拠上認定しつつ判断をする。 (3)個別1審原告の事情としては,次の事情を考慮することになる。 - 197 -ア原爆被爆の状況被爆地点,被爆時の遮蔽状況等が被曝の程度の判断の基本である。 イ被爆後の行動被爆後どのような行動をとったかは,誘導放射線の影響,内部被曝の影響を判断する上で必要な事項である。 ウ被爆後現れた急性症状放射線被曝の有無及び程度の1つの指標として必要な事項である。 エ被爆前の健康状態,生活状況1審原告らの生活及び健康状態を知ることは,その後の経緯を検討する上での基本である。 オ被爆後の健康状態,生活状況被爆後の身体の状況がどのようであったかは,放射線被曝の影響があったかどうかについての1つの判断資料となりうるものであり,その前提としては,生活状況を知る必要がある。 カ申請疾病の内容,発症の経過等申請疾病がどのようなものであり,どのような経緯をたどったのかは重要な事情である。 (4)判断の基準 りうるものであり,その前提としては,生活状況を知る必要がある。 カ申請疾病の内容,発症の経過等申請疾病がどのようなものであり,どのような経緯をたどったのかは重要な事情である。 (4)判断の基準としては最高裁平成12年判決に従い原爆放射線被曝の事,,実が1審原告らの疾病の発生を招来した関係を是認できる高度の蓋然性が認められるか否かである。 (5)特に前提となる事実の認定については申請疾病に係る客観資料につい,,てはあまり問題がないものの,被爆状況,被爆後の行動については,60年以上前の事実であり,原爆投下の後という客観証拠が少ない特殊な状況にあったのであるから,1審原告らの供述に依存する比重が大きくならざるを得。 ,。 ないその供述は他の証拠との対比においても慎重に検討する必要があるまた,被爆前後の生活状況,健康状況についても,古い事実については客観資料が得がたく,これも同様慎重に検討する必要がある。 (6)前にも述べたが,判断基準としては「原爆被爆がなければこのような病,気にならなかった」ということに通常人が疑いを差し挟まないかどうかであり,被爆者援護法の精神に則って慎重に判断すべきところである。 - 198 -第11個別1審原告についての検討(争点(2)) 1審原告Z32(原告番号4)について(1)争点等1審原告Z32は,平成13年4月30日,申請疾病を前立腺がんとして原爆症認定の申請をしたところ,平成14年3月8日,却下処分を受けた。 原審は,原爆症認定要件を充足するものとして,同却下処分を取り消した。 1審被告らは,①1審原告Z32の被爆地点が爆心地から約6キロメートル離れた金輪島であり,その後の行動に照らしても,放射線被曝がほとんどない,②ABCCの記録(乙1004の7)によれば,同1審原告にはそ 被告らは,①1審原告Z32の被爆地点が爆心地から約6キロメートル離れた金輪島であり,その後の行動に照らしても,放射線被曝がほとんどない,②ABCCの記録(乙1004の7)によれば,同1審原告にはその主張する被爆後の身体症状はなく,仮にあったとしても放射線被曝による急性症状ではない,③同1審原告の前立腺がんの発症経緯は一般人の高齢者に見られるものと変わらないとして,申請疾病の放射線起因性を争う。 (2)被爆状況被爆後の行動等甲1004の1乙1004の1原審及び,(,,当審における1審原告Z32)ア1審原告Z32は,被爆(広島)当時,17歳の男子であり,広島県高田郡α1で両親及び妹1人と暮らし,広島市金輪町の陸軍第2船舶司令部造船課に軍属として勤務するかたわら,Z241高校に通学していた。健康状態に問題はなかった。 イ1審原告Z32は,昭和20年8月6日,自宅から金輪町に通勤する途上,爆心地(広島)から約2キロメートルの広島市千田町3丁目の広電車庫付近の電車内で被爆した。電車内は混雑しており,同1審原告は車内の中央付近にいた。 ウ1審原告Z32は,被爆後,御幸橋を渡り,宇品線の線路伝いに北上して,午後3時ころ矢賀駅に至り,救援列車で自宅に帰った。 エ1審原告Z32は,翌7日,家族の反対を押し切って,勤務先の金輪町に赴き,同年9月20日ころまで,途中2日くらい自宅に戻った以外は,- 199 -勤務先において被災者(患者)の救援に当たった。金輪町には,被災者が2000人余りいたが,同1審原告は,約20人の患者を担当し,患者を背負って手洗いに連れていったり,化膿した傷口からウジを採る作業などに従事し,屍体を焼却する作業の手伝いをした。 ,(,,,,(3)被爆後の健康状態病歴等甲1004の1 乙 背負って手洗いに連れていったり,化膿した傷口からウジを採る作業などに従事し,屍体を焼却する作業の手伝いをした。 ,(,,,,(3)被爆後の健康状態病歴等甲1004の1 乙1004の1原審及び当審における1審原告Z32)ア1審原告Z32は,昭和20年9月20日ころ自宅に戻ったころから倦怠感を覚え,食欲不振,嘔吐,下痢,鼻血,脱毛などの症状が出た。脱毛は,地肌が見える程度のもので,同年10月ころまで続き,倦怠感は同年末ころまで続いた。同1審原告は,昭和21年になって家業の農業を手伝ったが,以前のように働くことはできなかった。 イ1審原告Z32は,昭和23年からZ250に勤務し,いったん自宅に戻った後,昭和28年ころから広島市のZ190に勤務して運転業務に就き,昭和34年,35年ころ,東京に出た。 ウ1審原告Z32は,東京に出た後の30歳のころ腹部痛で受診し,盲腸炎の診断の下に手術を受けたが,医師から,盲腸は手術を要するほど化膿しておらず,紫色に腫れていると言われた。 エ1審原告Z32は,32歳のころ中耳炎の手術を受けたが,その後も風邪を引いたときなどに耳だれがでるなど,中耳炎の治癒が長引いた。 オ1審原告Z32は,平成12年9月,健康診断で尿に潜血があり,翌1,。 ,0月東京都立Z191病院で前立腺がんの診断を受けた同1審原告は前立腺がんに対するホルモン治療を受けた後,平成13年12月5日,前立腺の摘出手術を受けた。原爆症認定申請の時点においては,ホルモン療法を継続する必要があった。 (4)事実認定の補足説明乙1004の7(ABCC記録)には,1審原告Z32に関する記述とし- 200 -て被爆時の所在地としてカナワ島工場鉄骨建物爆心地からの距離,「」,として6160姿勢として 明乙1004の7(ABCC記録)には,1審原告Z32に関する記述とし- 200 -て被爆時の所在地としてカナワ島工場鉄骨建物爆心地からの距離,「」,として6160姿勢として立位との記載があり身体症状に関する「」,「」,記述として,発熱,倦怠感,嘔吐,悪心,食欲不振,下痢(血性,非血性)等すべての項目について「なし」の欄にチェックがされており,一般的な健康状態として異常なし28年2月~3月大腸炎との記載がある同記,「」。 録は昭和28年6月10日○○という担当者が本人から聴取した結果,,「」であると記載されている。 1審原告Z32は,当審における本人尋問において,上記ABCC記録に相当する調査に応じた事実はないと述べているが,手首に1箇所傷があり,3日くらいで治癒したが,瘢痕があるとの同記録の記載は同原告の身体特徴に合致し,また,記載内容に照らして,調査をせずにねつ造されたものであるとか替え玉による調査である可能性は乏しいと考えられる。しかし,証拠(甲296の3から5)によれば,戦後のABCCの調査に対して,調査をするが治療をしないことや米国の調査機関であることから,被爆者の間ではABCCに対する不信感や反感,又は協力したくないという気持があり,また,社会における被爆者に対する差別扱い(結婚,就職等において)から,被爆者には被爆という体験について秘匿したいという気持が強かったことが認められる。したがって,被爆者が被爆による被害を特にABCCの調査に対しては,被爆による被害が大きくなかったように述べる傾向があったと考えられ,その意味でABCC記録の上記記載部分は必ずしも信ぴょう性の高いものとは考えられない。 1審原告Z32の原審及び当審における被爆状況に関する供述,被爆地の かったように述べる傾向があったと考えられ,その意味でABCC記録の上記記載部分は必ずしも信ぴょう性の高いものとは考えられない。 1審原告Z32の原審及び当審における被爆状況に関する供述,被爆地の有様に関する供述は具体的かつ迫真性があり,通勤経路,被爆後の行動についての供述内容についても特に矛盾はなく(1審被告らは,当審準備書面(14)で,通勤経路が不自然である,被爆翌日に金輪島に出勤することはできない等主張するが,いずれも決定的な矛盾とは認められない,同供述によっ。)- 201 -て,同1審原告が爆心地から約2キロメートル地点の広電の電車内で被爆した事実を認めることができる。 (5)放射線起因性に関する意見等1審原告Z32の原爆症認定申請書添付の医師意見書(乙1004の2,東京都立Z191病院には放射線起因性に関する医師の意見として原),,「爆との因果関係は不明(否定もできない」と記載されている。 )(6)放射線起因性についての判断1審原告Z32の被爆地点は,爆心地(広島)から2キロメートルの広電の車両内であるから,審査の方針が示す初期放射線の被曝4.9(7×0. 7)センチグレイであり,また,被爆後,市内を徒歩で通過して自宅まで戻り,翌日再び市内を通過して勤務先に出かけ,被災した被爆者の看護に当たるなどしていた同1審原告の行動に照らせば,初期放射線のほかに残留放射線による被爆を相当程度受けていたものと推認される。同1審原告に放射線被曝によると目される食欲不振,嘔吐,下痢,鼻血,脱毛,倦怠感がみられたこともこれを裏付ける。 1審原告Z32の申請疾病である前立腺がんについては,前記第7の4に掲げた放影研の疫学調査のとおり,寿命調査第10報(昭和61年)以降,P値は0.05を上回るものの1.27の相対リスクが検出さ る。 1審原告Z32の申請疾病である前立腺がんについては,前記第7の4に掲げた放影研の疫学調査のとおり,寿命調査第10報(昭和61年)以降,P値は0.05を上回るものの1.27の相対リスクが検出されており,審査の方針においても疫学調査では放射線起因性がある旨の明確な証拠はな,「いが,その関係が完全には否定できないものであることにかんがみ,放射線(,)被曝線量との原因確率が最も低い悪性新生物に係る別表2-1胃がん男を準用したものであるという取扱いをし新審査の方針においては悪性。」,,腫瘍一般を積極認定の対象となる疾病とした。 したがって,1審原告Z32については,申請疾病について放射線起因性を否定すべき特段の事情も見出せないから,原爆症認定における放射線起因性を認めるのが相当である。 - 202 -(7)要医療性についての判断乙1004の2,3によれば,1審原告Z32については,平成13年4月30日の申請時点及び平成14年3月8日の却下処分時点で,ホルモン療法を受けており,これを生涯続ける必要があり,申請疾病の前立腺がんについて要医療性があると認めることができる。 (8) 結論 以上によれば,1審原告Z32の申請疾病である前立腺がんについては,申請時及び処分時において,原爆症認定の要件を充足していたものであるから,その申請を却下した処分は違法であり,取消しを免れない。 1審原告Z26(原告番号9)について(1)争点等1審原告Z26は,平成14年5月20日,申請疾病を前立腺がんとして,,。 原爆症認定の申請をしたところ平成14年8月22日却下処分を受けた原審は,昭和20年8月8日ころ入市したとの1審原告Z26の主張を認めず,同月18日ころであると認定した上,放射線起因性を否定して,同1審原告の却下処分 たところ平成14年8月22日却下処分を受けた原審は,昭和20年8月8日ころ入市したとの1審原告Z26の主張を認めず,同月18日ころであると認定した上,放射線起因性を否定して,同1審原告の却下処分取消請求を棄却した。 1審被告らは,同1審原告の入市時期を同月18日であるとし,放射線による急性症状と見られる症状はなく,申請疾病の発症も特異的な状況がないと主張する。 (2)被爆状況被爆後の行動等甲1009の6の1から50甲1009の,(,,,,,) 8の1 甲1009の10から18原審における1審原告Z26ア1審原告Z26は,被爆(広島)当時,25歳の男子であり,徴兵検査に甲種合格した後,昭和15年12月15日,歩兵第157連隊に入営し,,,て中国を転戦し昭和18年8月15日船舶司令部への転属を命じられ同月17日,広島市宇品に到着し,同司令部付整備教育隊に配属されて,宇品から船で10分離れた鯛尾において,小型肉弾型の船艇の研究・制作- 203 -を担当する下士官(軍曹)であった。同1審原告は,Z251に勤務していた者であり,健康状態に問題はなかった。 イ1審原告Z26は,昭和20年8月6日,爆心地(広島)から約7キロメートル離れた鯛尾の屋外で被爆した。朝の点呼の時点であり,広島市方,,向を向いていた同1審原告は広島市上空で原爆が爆発する様子を目撃し直後に爆発音と爆風を受けた。 ウ1審原告Z26は,部下に退避を命じ,自らも防空壕に避難した。部隊は,爆風が収まった後,広島市内へ被災者の救援に向かい,大型上陸用舟艇で多くの被災者(被爆者)を収容し,同1審原告も指揮官として関与した。 エ1審原告Z26は,昭和20年8月8日及び同月9日,上官の許可を受け,知人及び中隊長の消息を確認するため,鯛尾から 陸用舟艇で多くの被災者(被爆者)を収容し,同1審原告も指揮官として関与した。 エ1審原告Z26は,昭和20年8月8日及び同月9日,上官の許可を受け,知人及び中隊長の消息を確認するため,鯛尾から連絡船で広島市に渡り,広島駅付近から爆心地を通過して己斐駅付近まで市内を歩き回った。 ,,,()オ1審原告Z26は昭和20年9月6日復員命令を受け帰郷東京した。 (3)被爆後の健康状態病歴等甲1009の7 乙100,(,,,,9の2,3,原審における1審原告Z26)ア1審原告Z26は,帰郷に当たり,強い倦怠感を覚え,帰郷後も倦怠感が続いたことからZ192病院で検査を受け,白血球数が2万4000台であると告げられたが,通院せずにいたところ,3年後にも強い倦怠感を覚え,都立Z193病院を受診し,白血球数が1500と言われた。 イ1審原告Z26は,個人タクシーの免許を受けて稼働していたが,昭和36年ころ,変形性脊椎症に罹り,現在まで治療を受けている。 ウ1審原告Z26は,平成10年12月,東京都板橋区に所在するZ194病院で前立腺がんであるとの診断を受け,以後ホルモン療法を継続している。 - 204 -エ1審原告Z26は,平成16年12月に血尿が出,また体重が約10キログラム減少するなど,体調の不良に不安を抱いている。また,同1審原告は,認知症が進行している。 (4)事実認定の補足説明1審被告らは,1審原告Z26の入市時期は,昭和20年8月18日であると主張し,原判決もこれを採用しているところである。たしかに,乙1009の1の2(同1審原告作成の申述書)には,入市時期を18日及び19日としており,入市目的を知人(広島市内の住職の家族)を探すためとしているから,被災者の救援・救護にあわた ある。たしかに,乙1009の1の2(同1審原告作成の申述書)には,入市時期を18日及び19日としており,入市目的を知人(広島市内の住職の家族)を探すためとしているから,被災者の救援・救護にあわただしい被爆3日後に職務を離れることの許可を得ることができたのが不自然であるとみる余地も皆無ではない。 しかし,1審原告Z26が,昭和37年2月21日,東京都知事に提出した被爆者健康手帳交付申請書(甲1009の16)には,入市の時期を昭和20年8月7日から同月15日とし,入市目的を「救急及整地」としており,上記申述書の記載が誤りのない記憶に基づいているものとはいえない可能性。 ,,があるそして1審原告の原審における尋問内容に顕れた市内の目撃状況平成7年3月20日発行の「平和への祈りを次代へ(中野区民戦争体験記録集第三集」に収められた同1審原告の体験記(甲1009の11,同1審))原告が平成10年ころ作成した被爆地の絵甲1009の6の各証甲10(),09の13から15によって認められる被爆直後の広島市内の状況,1審原告Z26に認知症が認められることを総合考慮すると,同1審原告が述べ,又は描画する市内の被災状況は,被爆から10日以上経過した同月18日ではなく,被爆に近接した8日又は9日ころとするのが自然である。また,1審原告Z26の印象に強く残っている「兵隊さん私何もべたくないの,こ喰の弁当お母さんが今朝作ってくれたの,きっとおいしいからべて」と弁当喰を差し出してくれた瀕死の少女の絵(甲1009の6の47)の「患者収容兵舎にてとの記載が鯛尾の兵舎を意味し3日前の弁当からその日が」,「」,- 205 -同月9日であるとしても,同1審原告が同日に広島市内へ外出したことを否定する根拠としては不十分であり,上記の認定 載が鯛尾の兵舎を意味し3日前の弁当からその日が」,「」,- 205 -同月9日であるとしても,同1審原告が同日に広島市内へ外出したことを否定する根拠としては不十分であり,上記の認定を左右しない。 (5)放射線起因性に関する意見等1審原告Z26の原爆症認定申請書添付の医師意見書(乙1009の2,Z194病院には放射線起因性に関する医師の意見として原爆との因),,「果関係を否定できない」と記載されている。 (6)放射線起因性についての判断1審原告Z26の被爆地点は,爆心地(広島)から7キロメートルの鯛尾であり,初期放射線の被曝はほとんどないといってよい,しかし,被爆の翌日及び翌々日に爆心地付近に立ち入っており,初期放射線のほかに残留放射線による被爆を相当程度受けていたものと推認される。同1審原告に放射線被曝によると目される強い倦怠感がみられたことも併せ考慮すると,相当程度の原爆放射線の被曝を受けたと認めることができる。新審査の方針においては,原爆投下後100時間以内の爆心地から2キロメートル以内への入市者については積極認定の対象とされている。 1審原告Z26の申請疾病である前立腺がんについては,前記第7の4に掲げた放影研の疫学調査のとおり,寿命調査第10報(昭和61年)以降,P値は0.05を上回るものの1.27の相対リスクが検出されており,審査の方針においても疫学調査では放射線起因性がある旨の明確な証拠はな,「いが,その関係が完全には否定できないものであることにかんがみ,放射線(,)被曝線量との原因確率が最も低い悪性新生物に係る別表2-1胃がん男を準用したものであるという取扱いをし新審査の方針においては悪性。」,,腫瘍一般を積極認定の対象となる疾病としている。 したがって,1審原告Z2 最も低い悪性新生物に係る別表2-1胃がん男を準用したものであるという取扱いをし新審査の方針においては悪性。」,,腫瘍一般を積極認定の対象となる疾病としている。 したがって,1審原告Z26については,申請疾病について放射線起因性を否定すべき特段の事情も見出せないから,原爆症認定における放射線起因性を認めるのが相当である。 - 206 -(7)要医療性についての判断乙1009の2,3によれば,1審原告Z26については,平成14年5月20日の申請時点及び同年8月22日の却下処分時点で,ホルモン療法を受けており,これを生涯続ける必要があり,申請疾病の前立腺がんについて要医療性があると認めることができる。 (8) 結論 以上によれば,1審原告Z26の申請疾病である前立腺がんについては,申請時及び処分時において,原爆症認定の要件を充足していたものであるから,その申請を却下した処分は違法であり,取消しを免れない。 1審原告Z18(原告番号11)について(1)争点等1審原告Z18は,平成14年4月19日,申請疾病を①胃がん,②直腸がんとして,原爆症認定の申請をしたところ,同年9月9日,却下処分を受けた。原審は,同1審原告の被爆状況,被爆後の健康状態等から被曝線量が大きくないものとして,申請疾病の放射線起因性を否定し,同1審原告の処分取消請求を棄却した。 同1審原告については,平成20年4月22日,申請疾病のうち胃がんについて原爆症認定処分がされ,1審被告らは,当審において,同1審原告については,直腸がんについて,放射線起因性は争わず,要医療性を争う。 そこで,当裁判所は,直腸がんについての放射線起因性の要件は充足するものとして,同疾病の要医療性の有無についてのみ判断する。 (2) 証拠 甲1011の8乙1011の2 によ 医療性を争う。 そこで,当裁判所は,直腸がんについての放射線起因性の要件は充足するものとして,同疾病の要医療性の有無についてのみ判断する。 (2) 証拠 甲1011の8乙1011の2 によれば次の事実が(,,,),認められる。 ,,,ア1審原告Z18は平成5年11月の検診の際に直腸がんが発見され平成6年2月14日,Z195病院において直腸切除手術を受けた。同1審原告の直腸がんは,高分化腺がんでリンパ節への転移も認められなかっ- 207 -た。 イ1審原告Z18は,直腸切除後,Z195病院に約6年間通院して,半年に1回程度の経過観察を受けていた。 ,,,ウ1審原告Z18は平成12年1月12日Z196病院を受診したが担当医師に,Z195病院で高血圧のための薬が6年間同じであるがそれでよいだろうかと相談した。同1審原告は,Z196病院で降圧剤等の投与を受けた。 エ1審原告Z18は,平成13年6月,胃がんのため胃粘膜切除術(内視鏡)を受け,同年12月,胃がんのため胃切除術を受けた。 オ1審原告Z18は,胃切除術を受ける前の平成13年11月22日,下部消化管内視鏡検査を受け,直腸切除術の吻合部を含め異常がないことが確認された。 カ1審原告Z18は,平成17年3月30日,食道部分の生体検査のためにZ196病院に入院したが,その後,当該部分についての障害があった形跡はない。 キ1審原告Z18は,平成17年11月10日,下部消化管内視鏡検査のため,Z196病院に入院したが,検査の結果から異常は認められなかった。 ク1審原告Z18の担当医は,平成20年12月10日付け意見書で,早期の大腸がんであっても,切除術後5年間程度は数パーセントの再発・転移の可能性は否定できず,年1回程度の検査を行うことが普通であ ク1審原告Z18の担当医は,平成20年12月10日付け意見書で,早期の大腸がんであっても,切除術後5年間程度は数パーセントの再発・転移の可能性は否定できず,年1回程度の検査を行うことが普通である,同1審原告については,直腸がんの後に胃がんが発症しており,両疾病に関連性はないが,新たな大腸がんの発症の有無の検査を定期的に行うことは一般的である,同1審原告は,胃がんと大腸がんの経過観察のため,現在でも月1回来院し,外科医による問診,便潜血検査,内視鏡検査,腫瘍マーカー検査を行っていると述べている。 - 208 -(3)1審原告Z18の担当医が述べるように一般的にがんの摘出手術後 ,,年程度の再発・転移の経過観察を行うため通院することは,当該疾病に対する積極的治療行為ではないとしても,健康な者が一般的な健康診断として行う検査とは異なり,臨床医療上必要な医療行為であるといえる。その経過観察の期間がどの程度必要かについては事案ごとに異なると思われる。本件においては,直腸がんの切除後7年にして胃がんを発症していることに照らせば,本件申請時及び本件処分時に行われていた経過観察が胃がん切除後のものか直腸がん切除後のものかを詮索する意味はほとんどなく,両疾病に関する切除後の経過観察としての医療行為であると認めて差支えはない。なお,1審原告Z18の担当医の意見に照らすと,がん切除後5年を経過し,がんの転移・再発もなく,その他特段の問題もない事案について,経過観察をしているというだけで,原爆症認定上,要医療性が認められるわけでないということになる。 (4)したがって1審原告Z18の申請疾病である直腸がんについて申請時,,及び処分時において,要医療性があると認められ,原爆症認定の要件を充足していたものであるから,1審原告Z18の原爆症 (4)したがって1審原告Z18の申請疾病である直腸がんについて申請時,,及び処分時において,要医療性があると認められ,原爆症認定の要件を充足していたものであるから,1審原告Z18の原爆症認定申請のうち直腸がんについての却下処分は違法であり,その取消しを求める同1審原告の請求は理由がある。 1審原告Z49(原告番号12)について(1)争点等,,()1審原告Z49は平成14年7月9日申請疾病を直腸がん人工肛門として,原爆症認定の申請をしたところ,同年10月15日,却下処分を受けた。原審は,原爆症認定要件を充足するものとして,同却下処分を取り消した。 1審被告らは,ABCC記録によれば,1審原告Z49の入市時期は9月中旬であり,放射線にほとんど被曝しておらず,同1審原告主張の身体症状- 209 -も放射線被曝の急性症状とは認められない上,申請疾病の直腸がんは一般人にみられる直腸がんの発症経過と特段変わるところはないとして,申請疾病の放射線起因性を争う。 (2)被爆状況被爆後の行動等甲1012の12から16原審における1,(,審原告Z49,当審における証人Z197)ア1審原告Z49は,原爆(広島)投下当時,4歳の女子であり,広島市(. . ),α2の自宅爆心地から14から15キロメートルに両親と姉1人妹1人と暮らし,幼稚園に通っていて,健康状態に問題はなかった。 イ1審原告Z49は,原爆投下の前日,疎開の依頼のために,爆心地(広島)から7,8キロメートル離れた広島県安佐郡落合村の親戚を訪問していた母に同行していたため,直接の被爆を免れた。 ウ1審原告Z49は,昭和20年8月11日,母に連れられて姉Z198とともに,α2の自宅に戻り,同月16日まで広島市内に滞在した。妹Z199は落合 いた母に同行していたため,直接の被爆を免れた。 ウ1審原告Z49は,昭和20年8月11日,母に連れられて姉Z198とともに,α2の自宅に戻り,同月16日まで広島市内に滞在した。妹Z199は落合村の親戚に残された。当時,広島市民は,原子爆弾による被災であることは知らされていなかったし,放射線被曝の危険性を知る由もなかった。 エ1審原告Z49は,列車が広島駅の隣の矢賀駅までしか通じなかったので,同駅から線路伝いに自宅まで歩き,焼け落ちた自宅では,母が自宅の庭に埋めた食糧入りの瓶を掘り出したり,自宅のがれきの中の貴重品を探すのを手伝い,泥だらけ,ほこりだらけになった。 オ1審原告Z49は,自宅にいる間は,地中に埋めた瓶の中の米,麦,豆等の食糧を食べ,付近の水道から出る水を飲んでいた。 カ1審原告Z49は,昭和20年8月12日以降,母がその姉やその家族を捜すのに同行し,市内中心部の中國新聞社屋や八丁堀(爆心地から900メートル)付近まで歩き回った。 (3)被爆後の健康状態病歴等甲1012の2 乙1,(,,,,,- 210 -012の1の2,乙1012の2,3,ア1審原告Z49は,入市2週間後ころから,下痢,発熱が暫く続いた。 姉Z198にも同様の症状があったが,同1審原告よりは軽かった。入市をしなかった妹Z199にはそのような症状はなかった。同1審原告は,5歳のころ,高熱が続き命が危ぶまれたことがあった。 イ1審原告Z49は,被爆後,病弱となり,幼稚園も休みがちであり,小学校低学年では,登校しても疲れやすく,体育の授業を休むことが多かった。小学校高学年になってからは,徐々に体調が回復したが,食が細く,体重が増えず,平成16年ころでも,身長156センチメートル,体重43キログラム程度である。 やすく,体育の授業を休むことが多かった。小学校高学年になってからは,徐々に体調が回復したが,食が細く,体重が増えず,平成16年ころでも,身長156センチメートル,体重43キログラム程度である。 ウ1審原告Z49は,18歳のころに盲腸炎の手術をした後は,大病を患うことはなかったが,昭和54年ころ,白血球減少症と診断され,平成6年ころ,変形性腰椎症の診断を受けた。同1審原告は,短大を卒業後,洋裁店に就職したものの,徹夜仕事ができないなど,疲れやすい体質であると自覚していた。 エ1審原告Z49は,平成11年12月に腹痛と下血があり,平成12年1月59歳直腸がんと診断され同年2月20日手術経仙骨式加直(),,(腸前方切除側端吻合術リンパ腺の切除を含むを受けたが平成14年,。),4月5日,吻合部にがんの再発が認められたため,直腸切断術,人工肛門造設術の手術を受けた。 オ1審原告Z49は,原爆症認定申請却下処分後の平成15年5月,骨盤腔内に腫瘤が認められ,制がん剤及び放射線治療を併用したが,制がん剤が身体に合わないため中止された。その後,腸閉塞の症状が現れ,平成16年4月5日,その改善のための手術が行われるなどの医療措置がされたが,同1審原告は,平成▲年▲月▲日,死亡した。 (4)事実認定の補足説明- 211 -乙1012の6(ABCC記録)には,1審原告Z49に関する昭和35年2月12日の調査結果として,入市年月日「中旬Sep 45 ,住所歴「Jun」e45からJune47 ソ開」との記載があり,情報の根拠は父のZ200であると。 ,()しているまた乙1012の7被爆者健康手帳交付申請書及び添付書類,,,,,,には入市の月日として8月11日から8月16日とし父母姉妹と矢賀駅ま Z200であると。 ,()しているまた乙1012の7被爆者健康手帳交付申請書及び添付書類,,,,,,には入市の月日として8月11日から8月16日とし父母姉妹と矢賀駅まで汽車で,その後は徒歩でα2の自宅まで行った旨の記載がある。 1審被告らは,上記の記載を根拠として,1審原告Z49の入市時期に関する主張は真実に反し,また,同1審原告及び証人Z197の証言は信用できない旨主張する。 ABCC記録については,調査の当時,被爆者には,検査されるだけで治療を受けられないという不信感がABCCに対してあり,また,被爆の事実が結婚,就職等に不利益に扱われるということから,これを秘匿しようという意識があったためその調査の信ぴょう性には問題があることは前記1(4),のとおりであり,上記乙1012の6が現在の1審原告Z49の供述や証人Z197の証言の決定的な弾劾証拠となるとはいいがたい。また,被爆者健康手帳交付申請書及び添付書類(乙1012の7)については,証人Z197の証言によれば,父Z200や妹Z199も被爆者健康手帳の交付を受けやすくすることを考えて,その点について真実に反する記載をしたというのであり,同1審原告が入市したことについては現在の証言と食い違うわけではない。したがって,上記のABCC記録や被爆者健康手帳交付申請書の添付書類の記載内容は,前記の認定を左右するものではない。 (5)放射線起因性に関する意見等(,ア1審原告Z49の原爆症認定申請書添付の医師意見書乙1012の2),,「,Z196病院には放射線起因性に関する医師の意見として①父母祖父母,入市していない妹に癌発症なく,本人は,タバコ,アルコールをたしなまず,食生活にもかたよりがないので,一般的にいって癌発症のリ- 212 -ス 放射線起因性に関する医師の意見として①父母祖父母,入市していない妹に癌発症なく,本人は,タバコ,アルコールをたしなまず,食生活にもかたよりがないので,一般的にいって癌発症のリ- 212 -スクはひくいと考えられる。②爆心地への入市は,三姉妹のうち,本人と姉が行い行動を共にした。そして,二人とも,入市後半月目に,発熱,下痢などの急性原爆症状を発症した。とくに本人の発熱,下痢は6才まで2年間以上つづいたことから,被爆による影響がつよかったと考えられる。 また,行動を共にした姉は60才で腎臓癌を発症した。③以上のように,家族歴,入市後の急性期症状がつよかったこと,姉の発がんなどにより,この患者の発癌には,原爆被爆の影響がつよく関与していると考えられる」との記載がある。 。 イ医師Z201ほか作成の平成18年2月4日付け意見書(甲1012の),,,1には放射線感受性の極めて高い4歳時の被爆であること急性症状その後の全身倦怠感があること,直腸がんについて過剰相対リスクが正であることを理由に同1審原告の直腸がんへの放射線被曝の影響を否定できない旨の記載がある。 ウ当審における証人Z201は,上記意見書と同趣旨の証言をした。 (6)放射線起因性についての判断1審原告Z49は,原爆(広島)投下時には,爆心地から7,8キロメートル離れた落合村にいて直接の被爆を免れたが,昭和20年8月11日から同月16日の間爆心地から1.4から1.5キロメートルのα2の自宅跡に滞在し,その間,爆心地近くまで立ち入り,さらに,庭に埋めておいた食料を食べ,近くの水道の水を飲んで過ごしていたものであり,崩壊した自宅から貴重品を探す手伝いのために泥だらけ,ほこりだらけになるなどした事情を総合すれば,相当量の残留放射線による被曝及び内部被曝を受けたと推認。 , 道の水を飲んで過ごしていたものであり,崩壊した自宅から貴重品を探す手伝いのために泥だらけ,ほこりだらけになるなどした事情を総合すれば,相当量の残留放射線による被曝及び内部被曝を受けたと推認。 ,することができる同1審原告に放射線被曝による急性症状と目される下痢発熱等の身体症状があり,就職した後においても倦怠感があったことなどもこれを裏付ける事情といえる。なお,新審査の方針において,入市被曝については,原爆投下後100時間以内の爆心地から2キロメートル以内の入市- 213 -及び100時間以後2週間の期間に爆心地から2キロメートル以内に1週間程度以上滞在した者について積極認定の対象としているが,同1審原告については,爆心地付近までの立ち入りがあること,自宅の庭に埋めてあった食,,料を摂取していること急性症状が認められることなどの事情を考慮すれば新審査の方針の積極認定に匹敵する入市者と認めるのが相当である。 1審原告Z49の申請疾病である直腸がんについては,審査の方針において,結腸等とともに大腸がんとして,別表3-2に原因確率が示されており(被曝時4歳の女子については10.4パーセント(2センチグレイ)から85.2パーセント(100センチグレイ,Z54論文(乙2)において))も,大腸がんは,放射線との有意な関係が一貫して認められた疾患であるとしている。 したがって,1審原告Z49については,申請疾病である直腸がん(人工),。 肛門について原爆症認定における放射線起因性を認めるのが相当である(7)要医療性についての判断乙1012の2,3によれば,1審原告Z49については,平成14年7月9日の申請時点及び同年10月15日の却下処分時点で,同年4月5日に発見された直腸がんの再発に対して,直腸切断術,人工肛門造設術後の経過観 の2,3によれば,1審原告Z49については,平成14年7月9日の申請時点及び同年10月15日の却下処分時点で,同年4月5日に発見された直腸がんの再発に対して,直腸切断術,人工肛門造設術後の経過観察をしており,申請疾病の直腸がん(人工肛門)について要医療性があると認めることができる。 (8) 結論 以上によれば,1審原告Z49の申請疾病である直腸がん(人工肛門)については,申請時及び処分時において,原爆症認定の要件を充足していたものであるから,その申請を却下した処分は違法であり,取消しを免れない。 1審原告Z34(原告番号15)について(1)争点等1審原告Z34は,平成14年9月6日,申請疾病を①下咽頭がん,②食- 214 -道がんとして,原爆症認定の申請をしたところ,同年12月20日,却下処分を受けた。原審は,原爆症認定要件を充足するものとして,同却下処分を取り消した。 1審被告らは,1審原告Z34の被曝線量は新審査の方針の積極認定の要件を満たさないからほとんどなかったと認められ,被爆後の身体症状も放射,,線被曝によるものとはその態様を異にしており申請疾病である下咽頭がん食道がんについても,被爆をしていない一般人の発症経過と異なるものではないとして,放射線起因性が認められない旨主張する。 (2)被爆状況被爆後の行動等甲1015の12の1から6 甲10,(,,,15の4,乙1015の1の2,原審における1審原告Z34)ア1審原告Z34は,被爆(広島)当時,25歳の男子であり,昭和14年12月1日,補充兵役に編入され,昭和19年7月1日,召集により広島市比治山町暁16710部隊船舶通信隊補充隊第3中隊に入隊し,同年10月宇品の陸軍船舶練習部教導連隊第6中隊に通信工手として転属した。被爆前には健康上の問 入され,昭和19年7月1日,召集により広島市比治山町暁16710部隊船舶通信隊補充隊第3中隊に入隊し,同年10月宇品の陸軍船舶練習部教導連隊第6中隊に通信工手として転属した。被爆前には健康上の問題はなかった。 イ1審原告Z34は,昭和20年8月6日,爆心地(広島)から約4.2キロメートルの仁保国民学校の木造2階建て校舎の1階教室内で被爆した。窓はすべて開放されていた。同1審原告は,突然強い閃光をを感じ,爆撃であると思い,作業台の下に毛布をかぶって伏せ,その後,轟音とともに爆風にさらされ,一時意識を失った。 ウしばらくすると,被災者(被爆者)が次々に運び込まれ,仁保国民学校は臨時の野戦病院となり,約400人の被爆者が収容された。1審原告Z34は,これら被災者の救護,看護,遺体の搬出等の作業に従事した。 エまた,1審原告Z34は,上官の命令により,被爆後の広島市内,爆心地周辺の警備勤務,救護勤務,片づけ作業等に従事した。 オ1審原告Z34は,終戦後も仁保国民学校に残り,部隊の機材,兵器の- 215 -片づけ,隊員の復員準備等の作業に従事し,昭和20年9月中旬ころ,実家の神奈川県に戻った。 (3)被爆後の健康状態病歴等甲1015の12の1乙1015の1の,(,,2,乙1015の2,3,原審における1審原告Z34)ア1審原告Z34は,昭和20年8月15日,宇品の船舶司令部で玉音放送を聴いた当日,貧血で倒れ,仁保国民学校まで戸板に乗せられて運ばれた。 イ1審原告Z34は,被爆の際に負傷した右肘部分の傷口からの出血が約10日止まらなかったほか,被爆後数日して貧血,下痢症状が始まり,二の腕に紫斑が現れた。また,神奈川県の実家に復員後,手ぐしをすると髪の毛が抜け落ちるといった脱毛症状が始まり,歯茎からの出血も見られるよ 止まらなかったほか,被爆後数日して貧血,下痢症状が始まり,二の腕に紫斑が現れた。また,神奈川県の実家に復員後,手ぐしをすると髪の毛が抜け落ちるといった脱毛症状が始まり,歯茎からの出血も見られるようになり,翌年春ころまで続いた。 ウ1審原告Z34は,昭和50年ころ,高血圧症と診断され,昭和54年,,。 7月31日被爆者健康手帳の交付申請を行い同日手帳の交付を受けたエ1審原告Z34は,平成2年8月,結腸がんと診断され,切除手術を受けた。 オ1審原告Z34は,平成12年8月食道がんと診断され,化学療法,放射線療法の上,同年10月,食道全摘及び胃管再建術を受けた。 カ1審原告Z34は,平成14年2月,右下咽頭がんと診断を受け,同月から同年4月まで放射線治療を受け,その後経過観察のため,医師の管理下にある。 (4)放射線起因性に関する意見等(,ア1審原告Z34の原爆症認定申請書添付の医師意見書乙1015の2国立病院Z202には放射線起因性に関する医師の意見として異時),,「多重癌である。原爆の影響がある可能性は高いが,その判断のためには,コントロール群との比較を行い,統計学的に判断するべきである。患者個- 216 -人としては原爆症と認定されるべき病態と被爆状況を経験しているとの。」記載がある。 イ医師Z201ほか作成の平成18年1月22日付け意見書(甲1015の3)には,被爆地点が爆心地から4キロメートルであり,その後近距離に入市したこと,急性症状の発症したことからみて,相当量の放射線を浴びているみられ,結腸がんに罹患していることを併せ考慮すると,申請疾病についての放射線起因性を否定できない旨の記載がある。 ウ当審における証人Z201は,上記意見書と同趣旨の証言をした。 (5)放射線起因性についての判 んに罹患していることを併せ考慮すると,申請疾病についての放射線起因性を否定できない旨の記載がある。 ウ当審における証人Z201は,上記意見書と同趣旨の証言をした。 (5)放射線起因性についての判断1審原告Z34の被爆地点は,爆心地(広島)から4.2キロメートルの仁保国民学校の木造校舎内であり,初期放射線の被曝は大きいものではないと推測される。しかし,同1審原告は,上記国民学校の収容された約400名の被爆者の救護,看護,遺体搬出等の業務に従事したほか,上官に命じられて,市内爆心地周辺の警備,救護,片づけの勤務に就いたもので,残留放射線による被曝が相当程度あったと推認することができる。なお,爆心地への立入りの時期は必ずしも判然としないが,警備,救護の必要性は,被爆直後が最も高いから,原爆投下後100時間以内には爆心地から2キロメートル以内に立ち入ったものと推認するのが相当である。同1審原告に放射線被曝によると目される下痢,紫斑,脱毛等がみられたことも,相当程度の放射線被曝を裏付けるものである。 1審原告Z34の申請疾病である食道がん及び下咽頭がんのうち,食道が,,(,んについては審査の方針において原因確率が示されており別表7-1被曝時年齢25歳男子については,2.4パーセント(5センチグレイ)から42.8パーセント(150センチグレイ,下咽頭がんについても,そ))の他の悪性腫瘍として,別表2ー1に従うものとされていた。 また,1審原告Z34は,平成2年8月に結腸がんと診断されて切除手術- 217 -を受けており,申請疾病である食道がん,下咽頭がんも併せて異時多重がんであるところ,被爆者に多重がんが多いことは文献上も認められ(甲41文献27 甲290同1審原告に多重がんが認められることはその,,),,申請 がん,下咽頭がんも併せて異時多重がんであるところ,被爆者に多重がんが多いことは文献上も認められ(甲41文献27 甲290同1審原告に多重がんが認められることはその,,),,申請疾病が放射線に起因することを推認させる事情といえる。 ,,以上検討したところによれば1審原告Z34の申請疾病である食道がん下咽頭がんについては,原爆症認定における放射線起因性を認めるのが相当である。 (6)要医療性についての判断乙1015の2,3によれば,1審原告Z34は,前記のとおり,平成12年10月,食道がんについて食道全摘及び胃管再建術を受け,平成14年2月から同年4月まで,下咽頭がんについて放射線治療を受け,平成14年9月6日の申請時点及び同年12月20日の却下処分時点では,術後の経過観察を要する状態にあったもので,申請疾病の食道がん及び下咽頭がんについて要医療性があると認めることができる。 (7) 結論 以上によれば,1審原告Z34の申請疾病である食道がん及び下咽頭がんについては,申請時及び処分時において,原爆症認定の要件を充足していた,,。 ものであるからその申請を却下した処分は違法であり取消しを免れない 1審原告Z50(原告番号17)について(1)争点等1審原告Z50は,平成13年3月31日,申請疾病を肝硬変として,原爆症認定の申請をしたところ,平成15年5月12日,却下処分を受けた。 原審は,原爆症認定要件を充足するものとして,同却下処分を取り消した。 1審被告らは,最新の科学的知見によれば,肝硬変については,原爆放射線との関連性が否定されているとし,1審原告Z50の肝硬変は肝炎発症から肝硬変移行まで30年を経過しているから,通常よりも進行が遅く,放射- 218 -線起因性を認めることはできないと争う。 ,( の関連性が否定されているとし,1審原告Z50の肝硬変は肝炎発症から肝硬変移行まで30年を経過しているから,通常よりも進行が遅く,放射- 218 -線起因性を認めることはできないと争う。 ,(,,(2)被爆状況被爆後の行動等甲1017の1から4乙1017の1の2乙1017の2,3,5,原審における1審原告Z50)ア1審原告Z50は,被爆(広島)当時,14歳の男子であり,自宅で写真館を営む父母及び妹と暮らしていた。健康状態に問題はなかった。 イ1審原告Z50は,昭和20年8月6日,爆心地(広島)から約1.1キロメートルの広島市α3の自宅1階で学徒動員に行くため着替えをしている最中に被爆した。自宅建物は,爆風等により倒壊し,同1審原告は建,,,物の板や柱の下敷きになったが外に逃れることができたもののその際多くの刺し傷,擦過傷,火傷を負った。2階に居た母親は,上半身に重度の火傷を負い,顔面の骨まで見える状態であった。妹は,建物の梁の下になっていてほとんど無傷であった。 ウ1審原告Z50は,Z253に避難しようとしたが,途中の袋町国民学()「。」,校付近爆心地から600メートルでZ253がやられたと聞き自宅に引き返し,その途中に負傷した女学生を助け,Z203病院に負傷した母と女学生を連れて行き,応急の措置を受けた。 エ1審原告Z50は,疎開先の川内村へ向かうこととし,Z203病院から自宅前を通り,明治橋,住吉橋を渡り,産業奨励館(原爆ドーム)付近を経由して横川駅を過ぎ,可部線の線路伝いに古市駅まで歩き,同駅から列車で川内村の疎開先に到着した。 オ1審原告Z50は,疎開先では,母の看病や食糧の調達に追われ,8月12日には,現金の引出しと父の探索のため入市し,郵便局で50円を引き出した。α3の自宅は全焼し 列車で川内村の疎開先に到着した。 オ1審原告Z50は,疎開先では,母の看病や食糧の調達に追われ,8月12日には,現金の引出しと父の探索のため入市し,郵便局で50円を引き出した。α3の自宅は全焼しており,父親の行方は分からなかった。 ,(,,(3)被爆後の健康状態病歴等甲1017の1から4乙1017の1の2乙1017の2,3,5,原審における1審原告Z50)ア1審原告Z50は,被爆の翌日から発熱,嘔吐があり,昭和20年8月- 219 -15日ころから脱毛,下痢,倦怠感が生じた。脱毛は約半年間無毛状態が続いた。 ,。 イ1審原告Z50の倦怠感はその後も続き学業・仕事にも支障が生じたウ1審原告Z50は,昭和28年ころ,高熱,腹痛が生じて都立Z204病院に入院し開腹手術をうけたが原因が判明せず,その半年後,Z192病院で腎臓結石の手術を受けた。 エ1審原告Z50は,精液に血液が混じっていることで検査を受けたが,医師から睾丸の発育が遅れていると説明を受け,2回の手術を受けた。 オ1審原告Z50は,昭和31年結婚し,昭和50年ころからは,公設市場経営に携わった。 ,,,「。」,カ1審原告Z50は昭和42年43年ころ顔色が悪いと言われ,,その後の検診で肝臓が悪いとの診断を受けたが自覚症状がなかったので特段治療を受けなかった。 キ1審原告Z50は,平成4年ころ,肝機能が低下し,約3週間入院してインターフェロンの投与を受けた。 ク1審原告Z50は,平成5年ころ,再び腎臓結石が発見された。 ケ1審原告Z50は,肝硬変が悪化したため食道静脈瘤が多数でき,平成13年,内視鏡の下で結束措置をとられた。 コ1審原告Z50の平成4年ころから平成17年までの白血球数は,3000台から6000台を推移していた。 サ 変が悪化したため食道静脈瘤が多数でき,平成13年,内視鏡の下で結束措置をとられた。 コ1審原告Z50の平成4年ころから平成17年までの白血球数は,3000台から6000台を推移していた。 サ1審原告Z50は,原爆症認定申請の後である平成16年7月,肝臓がんを発症し手術を受けたが,平成▲年▲月▲日,死亡した。 (4)放射線起因性に関する意見等1審原告Z50の原爆症認定申請書添付の医師意見書(乙1017の2,Z205診療所には放射線起因性に関する医師の意見としてC型肝炎),,「と「被爆」の関係については不明である」との記載がある。 。 - 220 -(5)放射線起因性についての判断1審原告Z50の被爆地点は,爆心地(広島)から1.1キロメートルの木造家屋内であるから,審査の方針が示す初期放射線の被曝線量は186. 9(267×0.7)センチグレイであり,また,被爆後の同1審原告の行動に照らせば,初期放射線のほかに残留放射線による被爆を相当程度受けていると推認される。同1審原告に放射線被曝によると目される発熱,嘔吐,下痢,脱毛,倦怠感がみられたことは,その裏付けとなる。 肝硬変を含む慢性肝機能障害と原爆放射線との関連性一般については,検討したとおり,これを肯定するべきであり,Z54論文(乙2)が示す肝硬変の寄与リスク3.5パーセント(20センチグレイ)から35.1パーセント(300センチグレイ)を参考にすることができる(なお,被爆時年齢に有意差がない。 。)1審被告らは,1審原告Z50の白血球数が正常であり,骨髄障害や免疫機能の低下が認められないこと,肝硬変の発症が昭和42年,43年のC型肝炎発症から約30年後であって,被爆者でない一般人の発症経過と異ならないことを挙げて,放射線起因性を争うが,原爆放射線の肝機能障害に の低下が認められないこと,肝硬変の発症が昭和42年,43年のC型肝炎発症から約30年後であって,被爆者でない一般人の発症経過と異ならないことを挙げて,放射線起因性を争うが,原爆放射線の肝機能障害に及ぼす影響の機序は解明されておらず,骨髄障害や免疫機能低下の徴候がない被爆者については放射線起因性を否定することが相当であるとの医学的知見が確立しているとは認めがたく,また,C型肝炎と肝硬変が別異の疾病ではなく,一個の疾病の病態の程度の差であることを考慮すると,肝炎発症から肝硬変に至るまでの期間が長期間であるというだけで放射線起因性を否定することは相当ではない。 以上検討したところによれば,1審原告Z50の申請疾病である肝硬変について,放射線起因性を認めるのが相当である。 (6)要医療性についての判断乙1017の2によれば,1審原告Z50については,平成13年3月3- 221 -1日の申請時点及び平成15年5月12日の却下処分時点で,Z205診療所において,現に肝硬変の治療を受けていたものであり,申請疾病の肝硬変について要医療性があると認めることができる。 (7) 結論 以上によれば,1審原告Z50の申請疾病である肝硬変については,申請時及び処分時において,原爆症認定の要件を充足していたものであるから,その申請を却下した処分は違法であり,取消しを免れない。 1審原告Z36(原告番号18)について(1)争点等1審原告Z36は,平成14年7月9日,申請疾病を頸部有痛性瘢痕として,原爆症認定の申請をしたところ,同年11月8日,却下処分を受けた。 原審は,原爆症認定要件を充足するものとして,同却下処分を取り消した。 1審被告らは,同1審原告の申請疾病である頸部有痛性瘢痕は治癒しているといえるし,原爆被曝によらない頸部創の通常の治癒経過と異なる 原審は,原爆症認定要件を充足するものとして,同却下処分を取り消した。 1審被告らは,同1審原告の申請疾病である頸部有痛性瘢痕は治癒しているといえるし,原爆被曝によらない頸部創の通常の治癒経過と異なることがないから放射線起因性を認めることはできないなどとして争う。 (2)被爆状況被爆後の行動等甲1018の1から6乙1018の1原,(,,審における1審原告Z36)ア1審原告Z36は被爆(長崎当時14歳の女子であり昭和20年,),,3月,長崎県α4の尋常高等小学校卒業後,長崎市内のZ252で魚雷の仕上工として働いていた。健康状態に問題はなかった。 イ1審原告Z36は,昭和20年8月9日,爆心地(長崎)から約1キロメートルのZ206病院Z207分院(木造2階建)の1階待合室において被爆した。1審原告Z36は,同待合室のガラス窓を背にして座っていたところ,閃光を感じ爆撃と思って玄関に向けて走り出したが,建物が崩壊してうつ伏せ状態で建材の下敷きになった。1審原告Z36は,人に押,,,されて外に出たが無数のガラス片・木片等が全身に刺さり左手の示指- 222 -中指が潰され,腰部痛のため動くことができなかったが,救助され,トラックの荷台に乗せられて浦上駅前の防空壕(爆心地から約0.8キロメートル)に4,5日間寝かされ,その間防空壕の中に溜まった泥水をすすって渇きをしのいでいた。 ウ1審原告Z36は,その後伊良林国民学校に移され,昭和20年8月13日ころ,父親に連れられてZ208病院に入院した。 (3)被爆後の健康状態病歴等甲1018の1から6乙1018の1から,(,3,6,原審における1審原告Z36)ア1審原告Z36は,被爆直後から歯茎からの出血があり,3日間のうちに約10本の歯が抜け落ち 状態病歴等甲1018の1から6乙1018の1から,(,3,6,原審における1審原告Z36)ア1審原告Z36は,被爆直後から歯茎からの出血があり,3日間のうちに約10本の歯が抜け落ち,Z208病院入院直後からは高熱が約1週間,,,,,,。 続き嘔吐吐血下痢下血が続いてさらに全部の歯が抜け落ちたまた,同1審原告は,2回にわたり頭髪が全部抜け,頭髪が生えそろったのは被爆から約5年後であった。14歳で初潮があったが,被爆後17歳ころまで生理が止まった。 イ1審原告Z36は,被爆から3年間の間に3回身体のガラス片を摘出す,,,る手術を受けその間全身の至るところからガラス片が自然に排出され傷口が化膿して治癒しない状態が続いた。また,同1審原告は,被爆から昭和50年(44歳)ころまで倦怠感が続き,仕事に出られず(昭和50年ころ軽易な仕事に就いたことはある,婚姻後も家事が十分こなせなか。)った。 ウ1審原告Z36は,26歳のときに結婚したが,流産を2回,死産を2回繰り返したが,32歳までに2子に恵まれた。 エ1審原告Z36は,二男を出産した年に卵巣破裂により手術を受けた。 オ1審原告Z36の腰部は複雑骨折をしていたが,特に治療をせずに癒着し,腰部の痛みが現在も続いている。 ,(),カ1審原告Z36は昭和50年44歳ころから膝関節の変形が生じ- 223 -歩行が困難となり,平成16年に両膝の手術をした後,杖を使って歩行ができるようになった。 キ1審原告Z36は,平成9年ころ及び平成16年ころに白内障の手術を受けた。 ク1審原告Z36の父は,昭和20年8月10日ころ,息子ら(同一審原告の兄)と爆心地付近に立ち入ったが,吐血,下血があって同1審原告と,,。,一緒に入院し59歳で胃が 内障の手術を受けた。 ク1審原告Z36の父は,昭和20年8月10日ころ,息子ら(同一審原告の兄)と爆心地付近に立ち入ったが,吐血,下血があって同1審原告と,,。,一緒に入院し59歳で胃がんで死亡し兄たちも胃がんで死亡した母長兄,次兄にはがんの発症はみられない。 ケ1審原告Z36の申請疾病である頸部の有痛性瘢痕(傷の長さ約2センチメートル,硬結の直径約5ミリメートル)は,被爆後5年間にガラス片を摘出した手術の跡であり,その後傷口が化膿し直らない状態が続いた。 傷口は,化膿しなくなった後も痛みを伴う瘢痕となり,現在でも触るとキリキリと痛み,触らなくてもツクッツクッと痛み,常時頭が重い状態で,痛み止めの薬(消炎鎮痛剤)を服用している。 コ1審原告Z36の原爆症認定申請書添付の健康診断個人票(乙1018の3)の「現症(理学的検査」欄には「左頸部に径5㎜の硬結を触れ,),圧痛あり。触診上はガラス片と思われたが,同部のレ線では発見出来ず。 CT検査を行ったところ添付肥厚せるガラス片排出後の瘢痕と思われ(),る皮下の所見が得られた。背部にもガラス片はレ線上みられず治癒したと思われる。創も薄く残る程度である」との記載がある。 。 (4)放射線起因性に関する意見等(,ア1審原告Z36の原爆症認定申請書添付の医師意見書乙1018の2Z180病院の放射線起因性に関する医師の意見として爆風および建),「築物の下敷になり,近距離被爆で,創治療はおくれたものと推測される。 急性放射線障害として下痢,脱毛,出血傾向があったが,現在は消失。左頸部の有痛性瘢痕(ガラス片址)は摘出は可能である。肝炎は近医で加療- 224 -中,膝関節症で歩行困難」との記載がある。 イ医師Z201ほか作成の平成18年2月4日付け意見書(甲1018の6) 頸部の有痛性瘢痕(ガラス片址)は摘出は可能である。肝炎は近医で加療- 224 -中,膝関節症で歩行困難」との記載がある。 イ医師Z201ほか作成の平成18年2月4日付け意見書(甲1018の6)には,被爆距離,その後の行動に照らして,初期放射線のほか残留放射線による被曝,内部被曝を受け,急性放射線症状の出現があり,放射線被曝は明らかであり,放射線被曝が外傷治癒に影響を与え,良好な治癒が妨げられ瘢痕形成に至ることは十分考えられるところであって(甲83,85の6,放射線起因性及び要医療性が認められる旨の記載がある。 )(5)放射線起因性についての判断1審原告Z36の被爆地点は,爆心地(長崎)から1キロメートルの木造建物建物内であり,審査の方針の初期放射線線量によっても557.9センチグレイ(797×0.7)であり,被爆後の同1審原告の行動を考慮すると,初期放射線のほかに残留放射線による被曝,内部被爆を相当程度受けているものと推認できる。被爆後の前記した身体症状は放射線被曝による症状であり,これによっても原爆放射線被曝の事実は裏付けられる。 申請疾病である頸部有痛性瘢痕について,1審被告らは,治癒したものである旨主張するが,前記のとおり上記瘢痕は疼痛を伴うものであり,常時頭が重いなどの身体の健全な状態を妨げる状態にあって,上記原爆症認定申請書添付の医師意見書にあるとおり,瘢痕の除去の余地も残されているのであって,疾病として治癒しているとは認められない。 さらに,前記(7)イのZ201医師らの意見書及び同意見書に引用の甲83,85の6によれば,放射線被曝が外傷治癒に影響を与え,良好な治癒が妨げられ瘢痕形成に至ることが認められ,1審原告Z36の瘢痕もこれに当てはまるものであって,原爆の放射線以外の傷害作用による疾病について放射線の影響によ 射線被曝が外傷治癒に影響を与え,良好な治癒が妨げられ瘢痕形成に至ることが認められ,1審原告Z36の瘢痕もこれに当てはまるものであって,原爆の放射線以外の傷害作用による疾病について放射線の影響により治療を要する状態にあるものとして,放射線起因性を認めるのが相当である。 (6)要医療性についての判断- 225 -前記のとおり,1審原告Z36は,消炎鎮痛剤を常用しており,本人が希望すれば瘢痕の摘出手術をする余地があり,平成14年7月9日の申請時及び同年11月8日の処分時において,要医療性があったと認めることができる。 (7) 結論 以上によれば,1審原告Z36の申請疾病である頸部有痛性瘢痕については,申請時及び処分時において,原爆症認定の要件を充足していたものであるから,その申請を却下した処分は違法であり,取消しを免れない。 1審原告Z37(原告番号19)について(1)争点等1審原告Z37は,平成14年8月23日,申請疾病を甲状腺機能低下症として,原爆症認定の申請をしたところ,平成15年1月28日,却下処分を受けた。原審は,原爆症認定要件を充足するものとして,同却下処分を取り消した。 1審被告らは,甲状腺機能低下症について,Z183論文,Z185論文において,自己免疫性であるものを含めて放射線との関連性が否定されているところ,1審原告Z37の申請疾病は自己免疫性でない甲状腺機能低下症であり,しかも一般の甲状腺機能低下症と症状等に異なるところはなく,同1審原告の被爆後の身体症状も放射線の急性症状とは認められず,同1審原告に認められる白血球数の減少も2000台を下回ることはなく,骨髄機能が障害を受けていると認められないから,放射線起因性を肯定できないと争う。 (2)被爆状況被爆後の行動等甲1019の1から12乙1019の1の 球数の減少も2000台を下回ることはなく,骨髄機能が障害を受けていると認められないから,放射線起因性を肯定できないと争う。 (2)被爆状況被爆後の行動等甲1019の1から12乙1019の1の,(2,原審における1審原告Z37)ア1審原告Z37は,被爆(長崎)当時,7歳の女子であり,長崎市α5の母の勤務先の社宅に父母及び姉妹3人とともに暮らしていた。健康状態- 226 -に問題はなかった。 イ1審原告Z37は,昭和20年8月9日,爆心地(長崎)から約3.8キロメートルの当時寝泊まりしていた活水女子短期大学の崖下の共同防空壕付近で被爆した。 ウ1審原告Z37は,昭和20年8月10日から同月12日にかけて,浜口町(爆心地から数百メートル圏内)に住んでいた父の姉を捜すため,連日,両親に連れられて,爆心地付近を捜索した。 エ1審原告Z37は,父母が長崎市内に住むことを断念し,昭和20年8月13日,家族とともに天草に向けて船で出航し,北高来郡田結港に寄港中に終戦を迎えた。その後も,長崎市内での生活は無理と判断して天草で暮らした。 (3)被爆後の健康状態病歴等甲1019の1から12乙1019の1の,(,2,乙1019の2,3,原審における1審原告Z37)ア1審原告Z37は,天草に着く前の船中で,昭和20年8月15日ころから,両手肘から手の平などに皮疹が出て化膿し,治癒に長期間を要したことを始め,被爆後,外傷により化膿しやすく治癒しにくい状態となり,その状態は現在も続いている。 イ1審原告Z37は,昭和31年ころ,体調が悪いので医師の診察を受け,,たところ肋膜の病気であるから空気のよいところで静養するよう言われ4,5年間天草で療養生活をした。 ,,,ウ1審原告Z37は昭和42年9月4日被爆者健康手帳の交 いので医師の診察を受け,,たところ肋膜の病気であるから空気のよいところで静養するよう言われ4,5年間天草で療養生活をした。 ,,,ウ1審原告Z37は昭和42年9月4日被爆者健康手帳の交付を受け昭和50年代から定期的に健康診断を受けるようになったが,昭和61年以降,白血球数が2000台となり,治療を受けると3000台で推移するという状態になり,白血球減少症と診断された。 エ1審原告Z37は,昭和55年ころから,偏頭痛,低血圧,体重の急激な減少,精神的うつ状態などの症状があり,仕事に行けず,昭和58年に- 227 -は2か月程度入院をした。 オ1審原告Z37は,昭和60年,甲状腺機能低下症との診断を受けた。 カ1審原告Z37は,数年前から白内障が進行している。 キ1審原告Z37と被爆時に行動を共にしていた母親は,被爆後脱毛と衰弱状態を経験している。 (4)放射線起因性に関する意見等(,ア1審原告Z37の原爆症認定申請書添付の医師意見書乙1019の2Z209診療所の放射線起因性に関する医師の意見として甲状腺機能),「低下症が原子爆弾の放射能に起因している可能性がある」との記載があ。 る。 イ医師Z201ほか作成の平成18年2月4日付け意見書(甲1019の12)には,1審原告Z37の被爆年齢が7歳で放射線感受性が高かったこと,行動をともにした母親に脱毛,衰弱状態の症状があったこと,同1審原告が被爆後急にさまざまな疾病,症状に悩まされるようになったことから相当程度の放射線被曝が推測され,甲状腺機能低下症が原爆放射線に起因することを否定できない旨の記載がある。 ウ当審における証人Z201は,上記意見書と同趣旨の証言をした。 (5)放射線起因性についての判断1審原告Z37の被爆地点は,爆心地(長崎)から3.8キ 起因することを否定できない旨の記載がある。 ウ当審における証人Z201は,上記意見書と同趣旨の証言をした。 (5)放射線起因性についての判断1審原告Z37の被爆地点は,爆心地(長崎)から3.8キロメートルの屋外であるから,審査の方針には初期放射線の被曝線量が示されていない(2.5キロメートルで2センチグレイまでである。DS86の線量評価。)が遠距離において誤差が大きいことは見たとおりであり,新審査の方針においては,爆心地から約3.5キロメートル以内の被爆者については,遮蔽の有無を問わず,積極認定の対象となるとしているから,3.8キロメートルの無遮蔽で被爆した同1審原告について,初期放射線の影響が全くなかったと断ずることは相当ではない。さらに,1審原告Z37は,被爆の翌日から- 228 -3日間にわたり,連日爆心地から1キロメートル以内に入市しており,これによる残留放射線被曝の影響は無視することができない(新審査の方針による積極認定被曝に該当する。 )1審原告Z37には,被爆後1週間程度から,皮疹が現れ,化膿しやすい体質となったことや白血球数が2000台から3000台と低値であることなど,免疫機能の低下がうかがわれることを併せて考えると,原爆放射線に相当程度の被曝をしたものと推認することができる。 原爆放射線と甲状腺機能低下症の関連性については,前に検討したとおりであり,Z183論文が,甲状腺機能低下症について放射線との関連性が認められないという疫学調査結果を報告しているが乙181その評価特(),,にそれ以前のZ132論文,Z171論文,Z170論文,Z133論文との関係について明確ではなく,マーシャル諸島における自己免疫性でない甲状腺低下症の発症状況等も併せ考えると,自己免疫性でない甲状腺機能低下症について,原 ,Z171論文,Z170論文,Z133論文との関係について明確ではなく,マーシャル諸島における自己免疫性でない甲状腺低下症の発症状況等も併せ考えると,自己免疫性でない甲状腺機能低下症について,原爆放射線との関連性があるものと考えるのが相当である。 したがって,1審原告Z37の申請疾病である甲状腺機能低下症については,放射線起因性を認めるのが相当である。 (6)要医療性についての判断乙1019の2,3によれば,1審原告Z37の甲状腺機能低下症については,平成14年8月23日の申請時点及び平成15年1月28日の処分時点において,甲状腺ホルモン剤の投与が継続して行われ,これが生涯必要であることが認められるから,要医療性があることは明らかである。 (7) 結論 以上によれば,1審原告Z37の申請疾病である甲状腺機能低下症については,申請時及び処分時において,原爆症認定の要件を充足していたものであるから,その申請を却下した処分は違法であり,取消しを免れない。 1審原告Z28(原告番号20)について- 229 -(1)争点等1審原告Z28は,平成14年12月9日,申請疾病を胃がんとして,原爆症認定の申請をしたところ,平成15年6月25日,却下処分を受けた。 ,,原審は同1審原告の申請疾病について放射線起因性が認められないとして同1審原告の処分取消請求を棄却した。 1審被告らは,同1審原告は8月19日に入市した者であり,原爆放射線にほとんど被曝しておらず,同1審原告の入市後の身体症状は放射線被曝による急性症状と認められず,申請疾病の胃がんは一般に罹患率が高いものであり,同1審原告の症状経過も被曝による特異な症状,経過が認められないとして,放射線起因性を争う。 ,(,,(2)被爆状況被爆後の行動等甲1020の1 乙1020 罹患率が高いものであり,同1審原告の症状経過も被曝による特異な症状,経過が認められないとして,放射線起因性を争う。 ,(,,(2)被爆状況被爆後の行動等甲1020の1 乙1020の1の2乙1020の2,3,原審における1審原告Z28)ア1審原告Z28は被爆(広島当時20歳の男子であり滋賀県坂田,),,郡α6の農家に生まれ,昭和17年にZ246工業学校を卒業後,日吉の軍需工場で魚雷の設計等の業務に従事していたが,その後,海軍予備生徒として,広島県佐伯郡大竹町(現在の大竹市)のZ247海軍潜水学校に所属し,次いで,山口県熊毛郡平生町(その後,現在の平生町となる。その北東側に柳井駅は位置するの同Z248分校に移って訓練を受けてい。)た。健康状態に問題はなかった。 イ1審原告Z28は,昭和20年8月6日の原爆投下時には,爆心地(広島)から約55キロメートル離れた上記のZ247海軍潜水学校Z248分校の校庭にいた。 ウ1審原告Z28は,終戦後の昭和20年8月18日,実家に戻るため,柳井駅から無蓋車に乗車して出発したが,同日午後4時か5時ころ,広島駅の手前の横川駅を過ぎた所で下車させられ,線路伝いに広島駅まで徒歩で向かい,広島駅に着いて,いったん荷物を置き,再び下車地点まで戻っ- 230 -て残りの荷物を持って広島駅に着いた。横川駅は,爆心地から約1.75キロメートルの地点であり,線路伝いに広島駅に向かったとすると,爆心地から約1.5キロメートルの地点まで近づいたことになる。広島駅は,爆心地から約2キロメートルの地点である。 エ1審原告Z28は,広島駅から東へ向かう列車に乗れず,2晩広島駅プラットホームで野宿をし,持参した茶を飲み,乾パンを食べ,同月20日午前10時ころ,列車に乗車して,昭和20年 トルの地点である。 エ1審原告Z28は,広島駅から東へ向かう列車に乗れず,2晩広島駅プラットホームで野宿をし,持参した茶を飲み,乾パンを食べ,同月20日午前10時ころ,列車に乗車して,昭和20年8月25日ころ郷里に戻った。 ,(,,(3)被爆後の健康状態病歴等甲1020の1 乙1020の1の2乙1020の2,3,原審における1審原告Z28)ア1審原告Z28は,昭和20年8月25日帰郷したころから,右顔面の頬から首にかけて化膿して皮膚が剥け,Z210病院で治療を受けたが原因が判明しなかった。また,腹部から背部に帯状に痛がゆい発疹が現れ,発熱し,食欲がなく,吐き気が生じた。 イ1審原告Z28は,就職した後の25歳のころ慢性気管支炎を,32歳のころ黄疸を,48歳のころ急性肺炎を,その後肺気腫を患った(症状等の詳細は証拠上不明。 )ウ1審原告Z28は,平成12年,健康診断で胃がんが発見され,同年8月30日,胃全摘術を受け,その後経過観察を受けている。 エ1審原告中Z28は,平成14年8月23日,総胆管結石の手術を受けた。 (4)放射線起因性に関する意見等(,ア1審原告Z28の原爆症認定申請書添付の医師意見書乙1020の2Z211病院の放射線起因性に関する医師の意見として因果関係につ),「いては不明」との記載がある。 イ医師Z201ほか作成の平成18年1月28日付け意見書(甲1020- 231 -の6)には,広島駅プラットホームで2泊したことにより,残留放射線による被曝を受けたものと考えられ,1審原告Z28の胃がんについて放射線起因性が否定できない旨の記載がある。 (5)放射線起因性についての判断1審原告Z28は,原爆(広島)投下時に爆心地から約55キロメートル離れたZ248分校にいたものである の胃がんについて放射線起因性が否定できない旨の記載がある。 (5)放射線起因性についての判断1審原告Z28は,原爆(広島)投下時に爆心地から約55キロメートル離れたZ248分校にいたものであるから,初期放射線による被曝をした可能性はない。同1審原告は,昭和20年8月18日午後4時ころから,同月20日午前10時ころまで,広島駅(爆心地から約2キロメートル)に約42時間滞在したものである。 新審査の方針における入市被爆者の積極認定の範囲は,原爆投下後100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者及び原爆投下から約2週間の期間に爆心地から約2キロメートル以内の地点に1週間程度滞在した者としている。1審原告Z28の場合は,新審査の方針の入市被爆者の積極認定の場合に該当しないし,その滞在時期が約2週間の期間の最後の時期であり,入市範囲も約2キロメートルの地点で,一時的に約1.5キロメートルの地点に達したことがあるというものである。したがって,原爆放射線の影響が全くないとはいえないとしても,その程度は低いと考えざるを得ない。 また,1審原告Z28は,携行した食料,水を飲食していたものであり,放射線により汚染された飲食物を摂取した可能性も低い。また,鉄道線路沿いを徒歩で歩いたとはいえ,高線量被曝者との接触や土壌・塵埃等により汚染された可能性も少ない。 Z98原爆残留放射能障碍の統計的観察甲20には昭和20年8「」(),月16日から同月20日までに広島の爆心地から1キロメートル以内に入市した26人のうち5人(19.2パーセント)に急性原爆症の症状が現れたとの報告があり同論文表6この発症率は原爆直後中心地1キロメー(),,(- 232 -トル以内)に入らなかった屋内被爆者で被爆距離が3キロメートルの者の )に急性原爆症の症状が現れたとの報告があり同論文表6この発症率は原爆直後中心地1キロメー(),,(- 232 -トル以内)に入らなかった屋内被爆者で被爆距離が3キロメートルの者の有症率19.0パーセント(表1)に匹敵するものであり,この報告を前提とすると,原爆投下から11日目から14日目の間に爆心地から1キロメートル以内に入市した場合には,3キロメートル地点での屋内直接被爆と同程度の放射線に被爆したのではないかとの推論ができないではない。しかし,DS86による初期放射線の距離別線量を見ると審査の方針別表9爆心地(),(広島)から1キロメートル地点の初期放射線量は416センチグレイであるのに比べて,2キロメートル地点のそれは7センチグレイであり,初期放射線の影響は大きく異なり,仮に爆心地から2キロメートルの範囲の入市者について統計をとった場合には上記のような結果が出てくるとは考えられない。また,Z98の上記入市者についての報告は,全数26と少なく,滞在,。 ,時間の長短も不明であって統計的意味が高いとはいいがたいしたがってZ98の上記報告から1審原告Z28の被曝線量を推測することは困難である。 1審原告Z28には,被爆後,右顔面の化膿,腹部・背部の発疹,発熱,食欲不振,吐き気の症状が現れており,その発症時期が入市から約1週間のころであるから,広島市への入市による放射線の影響があったものと疑う余地はある。 1審原告Z28は,25歳のころ慢性気管支炎を,32歳ころ黄疸を,48歳のころ肺気腫を患ったが,これが放射線関連の疾患であると認めるに足りる証拠はない。 1審原告Z28は平成12年60歳胃がんが発見され同年8月3,(),,0日,胃全摘術を受けた。胃がんについては,審査の方針においても放射線関 疾患であると認めるに足りる証拠はない。 1審原告Z28は平成12年60歳胃がんが発見され同年8月3,(),,0日,胃全摘術を受けた。胃がんについては,審査の方針においても放射線関連性が是認され,原因確率が別表2に示されている。 以上検討したところを総合すると,たしかに,1審原告Z28が昭和20年8月18日から20日にかけて広島市に入市したことにより,原爆の残留- 233 -放射線に被曝したことは否定できないが,その程度は低いと評価せざるを得ず,被爆後生じた身体症状も放射線の影響である可能性は否定できないものの,原爆放射線による急性症状は,前示したように,放射線事故に伴う放射線急性症状のように明確なしきい値を持ったものであるとの研究結果も見出せず,身体症状から被曝線量を的確に評定することができない。そして,その後の病歴,健康状態をみても,放射線の影響を印象づけるものは見当たらない。申請疾病である胃がんが原爆放射線との関連性が承認されている疾病であるが,晩発性疾患については一般的に非特異的なものであって,放射線による胃がんであるという臨床上の証拠を得ることができないものである。 したがって,本件に顕れた事情を総合すると,1審原告Z28の申請疾病については広島に入市しなければ原爆放射線に被曝しなければ胃がんに,(),ならなかったであろうという条件関係を是認するには足りないというほかない。 (6) 結論 1審原告Z28の申請疾病について,放射線起因性を認めることができないから,同1審原告の原爆症認定の申請を却下した処分は適法であり,同処分の取消しを求める同1審原告の請求は理由がなく,却下処分が違法であることを前提とする同1審原告の国家賠償請求も理由がない。 1審原告Z27(原告番号27)について(1) 争点 法であり,同処分の取消しを求める同1審原告の請求は理由がなく,却下処分が違法であることを前提とする同1審原告の国家賠償請求も理由がない。 1審原告Z27(原告番号27)について(1)争点等1審原告Z27は,平成15年3月6日,申請疾病を甲状腺機能低下症として,原爆症認定の申請をしたところ,平成15年12月25日,却下処分を受けた。原審は,放射線起因性の立証がないとして,同1審原告の却下処分取消請求を棄却した。 1審被告らは,1審原告Z27の甲状腺機能低下症は,バセドー病のため,,のアイソトープ治療によるものであり原爆放射線被曝によるものではなく- 234 -同1審原告は,認定申請の時点では記憶がないとしながら,その後供述を変遷させていることから信ぴょう性がなく,また,その述べるところの身体症状も放射線被曝による急性症状の特徴を備えていないとして,放射線起因性を争う。 ,(,,(2)被爆状況被爆後の行動等甲1027の1から3乙1027の1の2原審における1審原告Z27)ア1審原告Z27は被爆(長崎当時22歳の女子であり夫と京都に,),,居住していたが,被爆の半年前に夫の郷里である長崎市に移転し,α7で夫及び義父と暮らしていた。妊娠9か月であったが,健康状態に問題はなかった。 イ1審原告Z27は,昭和20年8月9日,爆心地(長崎)から約2.2キロメートルのα7の自宅(木造平家)で被爆した。同1審原告は,1人で自宅の居間の開いた窓から空を見上げている時に被爆し,原爆の閃光が目に入って,その時から左目が見えなくなった。 ウ1審原告Z27は,自宅が倒壊したため,被爆後7日間,徒歩5分くらいの防空壕で寝起きし,配給されたおにぎりを食べ,1日1升の配給された水を飲み,近くの畑からかぼちゃを採って食べ 見えなくなった。 ウ1審原告Z27は,自宅が倒壊したため,被爆後7日間,徒歩5分くらいの防空壕で寝起きし,配給されたおにぎりを食べ,1日1升の配給された水を飲み,近くの畑からかぼちゃを採って食べていた。夫が死亡したこ,,。 とは後日知人から聞き義父については行方が分からないままであったエ1審原告Z27は,夫の親戚方に身を寄せることもできず,列車と船を乗り継いで実家の徳島に着いたが,実家に受け入れてもらえず,高松の木賃宿に泊まって,昭和▲年▲月▲日,そこで長男を出産した。 オ1審原告Z27は,所持金がなかったので,高松の木賃宿を逃げ出し,大阪,京都,神戸を転々とし,子どもが小学校3年になるころには,東京の飲み屋で働いていた。同1審原告は,昭和33年ころ,α8駅東口で飲み屋の屋台を始め,初めて2畳間の部屋を間借りして,子どもと暮らすことができるようになった。 - 235 -,(,,(3)被爆後の健康状態病歴等甲1027の1から5乙1027の1の2乙1027の2,3,8,原審における1審原告Z27)ア1審原告Z27は,被爆時の閃光のため左目が見えなくなり,その状態は昭和63年ころに手術を受けるまで続いた。 イ1審原告Z27は,防空壕で寝起きしているときから,下痢,脱毛があり,子どもを出産した後も倦怠感があったが。 ウ1審原告Z27は,昭和33年に,α9のZ212病院で胃潰瘍の手術(胃3分の1切除)を受けた。 エ1審原告Z27は,昭和35年ころ,原因不明の心臓病でZ212病院に入院した。 オ1審原告Z27は,昭和36年ころ,被爆者健康手帳の交付を受けた。 カ1審原告Z27は,昭和40年ころ,東京のZ213病院で子宮筋腫の手術を受け,昭和58年ころ,関節リウマチに罹患した。 ,,,キ1審原告Z27は昭和60年 ,被爆者健康手帳の交付を受けた。 カ1審原告Z27は,昭和40年ころ,東京のZ213病院で子宮筋腫の手術を受け,昭和58年ころ,関節リウマチに罹患した。 ,,,キ1審原告Z27は昭和60年ころZ196病院で左目の手術を受けいったん視力を回復したが,再び見えなくなったので,Z214病院を紹介されて,同病院で手術を受け,視力を回復した。 ク1審原告Z27は,昭和61年に高血圧症の診断を受け,昭和63年に慢性膵炎に罹患した。 ケ1審原告Z27は,平成元年8月,脾臓原発のリンパ腫のため,脾臓摘出手術を受けた。 コ1審原告Z27は,平成3年にC型肝炎の診断を受けた。 サ1審原告Z27は,平成13年,左顎下腺腫摘出の手術を受けた。 シ1審原告Z27は,平成15年から,嘔吐,下痢,下血が生じ,治療を受けるようになった。 (4)放射線起因性に関する意見等(,ア1審原告Z27の原爆症認定申請書添付の医師意見書乙1027の2- 236 -Z196病院)には,放射線起因性に関する医師の意見として,甲状腺機能低下をきたす疾患・原因は考えにくく,原爆放射線被曝が原因と考えられる,昭和39年代から多数の疾患に罹患しており,これら一連のものと併せて放射線被曝が原因となっていると考えられる,左眼の失明は,頭頸部への線量が多かったと想像される旨の記載がある。 イ医師Z201ほか作成の平成18年1月22日付け意見書(甲1027の3)には,爆心地から2.2キロメートルで被爆したこと,その後の行動経過などから残留放射線を相当量被曝しているとみられること,被爆時の年齢などからすると,1審原告Z27の甲状腺機能低下症は,放射線の影響を否定できない旨記載されている。 ウ当審における証人Z201は,上記意見書と同趣旨の証言をした。 (5)放射線起因性につ 時の年齢などからすると,1審原告Z27の甲状腺機能低下症は,放射線の影響を否定できない旨記載されている。 ウ当審における証人Z201は,上記意見書と同趣旨の証言をした。 (5)放射線起因性についての判断1審原告Z27の被爆地点は,爆心地(長崎)から2.2キロメートルの,.(. 屋内であるから審査の方針による初期放射線の被曝線量は426×07)センチグレイとなる。DS86の線量評価が爆心地から1000メートルを超えると過少評価の傾向にあり,2000メートル付近では実測値の2分の1程度の線量評価となっているとの指摘があるところであり,爆心地から約3.5キロメートル以内の被爆者については,遮蔽の有無を問わず,積極認定の対象となるとしているから,2.2キロメートルで被爆した1審原,。 告Z27についても相当程度の放射線被曝があったとみるのが相当である特に,被爆後も約1週間自宅付近の防空壕に滞在し,支給された食料,水を飲み,付近の畑から採った食物を食べていることからすれば,初期放射線のほかに,残留放射線被曝及び内部被曝の影響があったことも考慮すべきである。 1審原告Z27には,下痢,脱毛の原爆放射線の急性症状と目される身体症状がある。子どもを出産した後の倦怠感については,証拠上も具体性がな- 237 -く,妊娠,出産その他生活苦から生ずる疲労感と異なるものかどうか不明であり,有力な根拠としがたいが,上記の被爆状況及び被爆後の行動から相当程度の放射線被曝を受けていることを否定するものではない。 1審原告Z27の病歴をみると,原爆放射線に関連する悪性腫瘍(脾臓原発のリンパ腫及び左顎下腺腫)を含んでおり,放射線被曝に遭ったことと矛盾しない。また,甲状腺機能亢進症(バセドー病)に罹患し,これに対するアイソトープ治療をしたかどうかについては る悪性腫瘍(脾臓原発のリンパ腫及び左顎下腺腫)を含んでおり,放射線被曝に遭ったことと矛盾しない。また,甲状腺機能亢進症(バセドー病)に罹患し,これに対するアイソトープ治療をしたかどうかについては,乙1027の8(Z196病院診療録)に「?」を付されて記述があるのみであり,その記述の情報源は,。 ,1審原告Z27の供述と推測されるからその事実を確定しにくいしかし(),,仮に甲状腺機能亢進症バセドー病があったとしても同疾病についてはZ132論文において甲状腺疾患一般について線量反応関係が認められていること相対リスク130/シーベルトZ183論文においてもバセ(. ),,ドー病有病率と放射線量の関連が示唆された(P=0・1)と報告されており,原爆放射線との関連性を否定できない。このようなバセドー病に対してアイソトープ治療による放射線が影響して甲状腺機能低下症となった場合には,原爆症認定における放射線起因性の判断としては,アイソトープ治療を行うべきでなかったことの明確な証明がない限り,放射線被曝と甲状腺機能低下症との因果関係を認めるべきである。本件においては,バセドー病及びこれに対するアイソトープ治療の存在を積極的に認定しがたいので,これは考慮しないままで判断する。 原爆放射線と甲状腺機能低下症の関連性については,前に検討したとおりであり,Z183論文が,甲状腺機能低下症について放射線との関連性が認められないという疫学調査結果を報告しているが,その評価,特にそれ以前のZ132論文,Z171論文,Z170論文,Z133論文との関係について明確ではなく,マーシャル諸島における自己免疫性でない甲状腺機能低下症の発症状況等も併せ考えると,自己免疫性でない甲状腺機能低下症につ- 238 -いて,原爆放射線との関連性がある の関係について明確ではなく,マーシャル諸島における自己免疫性でない甲状腺機能低下症の発症状況等も併せ考えると,自己免疫性でない甲状腺機能低下症につ- 238 -いて,原爆放射線との関連性があるものと考えるのが相当である。 したがって,1審原告Z27の申請疾病である甲状腺機能低下症については,放射線起因性を認めるのが相当である。 (6)要医療性についての判断乙1027の2,3によれば,1審原告Z27の甲状腺機能低下症については,平成15年3月6日の申請時点及び同年12月25日の却下処分時点において,甲状腺末の内服治療が継続して行われ,これが終生必要であることが認められるから,要医療性があることは明らかである。 (7) 結論 以上によれば,1審原告Z27の申請疾病である甲状腺機能低下症については,申請時及び処分時において,原爆症認定の要件を充足していたものであるから,その申請を却下した処分は違法であり,取消しを免れない。 1審原告Z51(原告番号30)について(1)争点等,,,1審原告Z51は平成14年12月9日申請疾病を肝細胞がんとして原爆症認定の申請をしたところ,平成16年5月12,却下処分を受けた。 原審は,原爆症認定要件を充足するものとして,同却下処分を取り消した。 1審被告らは,1審原告Z51の被爆地点は爆心地から5キロメートル以上離れた自宅であり,その後の行動に照らしても原爆放射線にほとんど被曝していないし,被爆後の身体症状についても放射線被曝以外の原因で生じ得るものであり,申請疾病の肝細胞がんの発症経過をみても一般の症状経過と異なるところはないとして,放射線起因性を争う。 (2)被爆状況被爆後の行動等甲1030の8乙1030の1の2乙1,(,,030の7から12,原審における1審原告Z51) 状経過と異なるところはないとして,放射線起因性を争う。 (2)被爆状況被爆後の行動等甲1030の8乙1030の1の2乙1,(,,030の7から12,原審における1審原告Z51)ア1審原告Z51は被爆(広島当時13歳の女子であり広島市α1,),,0の自宅で父母,2人の弟,4人の妹とともに住み,尋常高等小学校2年- 239 -に在学していた。健康状態に問題はなかった。 イ1審原告Z51は,昭和20年8月6日,爆心地(広島)から約5キロメートル離れた自宅の爆心地方向に開放され玄関に近い座敷で被爆した。 爆心から自宅までの間に遮蔽物がなかったことから,爆風が直接自宅建物を襲い,玄関戸や天井が傾き,1審原告Z51は,飛散したガラス片で左腕の3箇所を負傷した。 ウ1審原告Z51は,被爆後,弟妹を自宅から北西方向2キロメートルにある竹藪に避難させ,自宅と竹藪との行き来をするうちに,自宅前で黒い雨に遭った。 エ1審原告Z51は,被爆当日,広島市内から避難してきた被爆者の手当・看護に当たった。 オ1審原告Z51の父が,被爆当時,勤労奉仕のため広島市内に出かけた母を捜しに船で出かけ,午後11時ころ,全身に火傷を負った母を連れ帰り,1審原告Z51は,母の治療に当たったが,母は翌日午前4時ころ死亡した。 ,(,,(3)被爆後の健康状態病歴等甲1030の6から8乙1030の1の2乙1030の2,3,5,6,原審における1審原告Z51)ア1審原告Z51は,昭和20年8月15日ころから,倦怠感を覚えるようになり,また発熱が続いた。さらに,左腕の傷が化膿してなかなか直らず,被爆の3か月後には左乳房の下に大きなおできができて約2週間化膿した。また,歯茎からの出血や鼻血,下痢,発疹などの身体症状もみられた。 イ 発熱が続いた。さらに,左腕の傷が化膿してなかなか直らず,被爆の3か月後には左乳房の下に大きなおできができて約2週間化膿した。また,歯茎からの出血や鼻血,下痢,発疹などの身体症状もみられた。 イ1審原告Z51自身には脱毛の症状はなかったが,被爆時に自宅の外にいた妹には,被爆の年の11月ころから1,2か月程度高熱が続き,毛髪が全部抜け落ちる症状がみられた。 ,,,ウ1審原告Z51は強い倦怠感が長期にわたり風邪を引きやすくなり- 240 -22歳,23歳ころから,眼球に水が溜まったり,米粒大の斑点ができ,30歳から40歳のころ手術で除去した。 エ1審原告Z51は,24歳,25歳ころから,季節的に貧血気味になったり,体調不良をたびたび起こすようになった。 オ1審原告Z51は,東京のZ215病院でB型肝炎の治療を受けていたが,昭和60年(53歳)ころ肝硬変との診断を受け,平成7年5月(62歳)ころ肝細胞癌が発見され,その後肝動脈塞栓術を7回受けた。 カ1審原告Z51は,平成▲年▲月▲日,死亡した。 (4)事実認定の補足説明ア1審原告Z51の被爆地点である広島市α10の自宅の爆心地からの距離について,1審原告らは,原審以来,爆心地(広島)から4.1キロメートルであると主張し,1審被告らもこれを前提に主張をしていた(原審)。 ,,における一審被告ら準備書面(16)84頁以下ところが1審被告らは当審における準備書面(14)(平成20年12月16日付け)において,1審原告Z51の自宅が爆心地から5キロメートルを超える旨主張した。これに対し,1審原告らは,上記一審被告らの主張は,弁論終結を予定した2日前にされたもので信義に反し,時機に遅れた攻撃防御方法であると主張する。 イたしかに,当審における終局間際に被爆地点の爆心地から に対し,1審原告らは,上記一審被告らの主張は,弁論終結を予定した2日前にされたもので信義に反し,時機に遅れた攻撃防御方法であると主張する。 イたしかに,当審における終局間際に被爆地点の爆心地からの距離につい,,,,て従前と異なる主張をすることは爆心地からの距離が初期放射線量残留放射線量(誘導放射線量)の判断に重要な事項であり,特に,これによる線量評価が原因確率に直結し,放射線起因性の判断ができるとする1審被告らの主張に照らせば,決定的事項ともいえる。したがって,弁論終結の直前になって,突如主張を変えることは問題がないとはいえない。しかし,当該事実は,主要事実として訴訟上の自白が成立する事実でないことはもとより,爆心地からの1審原告Z51の自宅までの距離という極め- 241 -て客観的な事実であって,広島市在住者であれば公知の事実に属することがらであるから,訴訟を準備する当事者としては,十分な検討を要することであり,単に被爆者健康手帳に4.1キロメートルと記載があるということだけで,何ら点検しておかなかったことに問題があり,信義則に反する主張としてこれを排斥することも,時機に後れた攻撃防御方法として申請証拠を却下することも相当ではない。当裁判所としては,前記のとおり認定して判断を進めることとする。 (5)放射線起因性に関する意見等(,ア1審原告Z51の原爆症認定申請書添付の医師意見書乙1030の2Z216病院には放射線起因性に関する医師の意見として原爆放射),,「線による可能性は否定できない」との記載がある。 。 イ医師Z201ほか作成の平成18年2月4日付け意見書(甲1030の7)には,被爆時年齢が13歳であること,黒い雨に曝露され,被爆者を介護したことから相当量の放射線被曝が推認され,B型肝炎から 。 イ医師Z201ほか作成の平成18年2月4日付け意見書(甲1030の7)には,被爆時年齢が13歳であること,黒い雨に曝露され,被爆者を介護したことから相当量の放射線被曝が推認され,B型肝炎から発症した肝細胞がんは放射線起因性が否定できないとの記載がある。 ウ当審における証人Z201は,上記意見書と同趣旨の証言をした。 (6)放射線起因性についての判断1審原告Z51の被爆地点は,爆心地(広島)から約5キロメートル離れた自宅座敷であるから,審査の方針においては初期放射線の被曝線量が示されていない 5キロメートルにおいて1センチグレイしかしDS8(. )。 ,6の初期放射線の線量評価が遠距離では過少であることはみたとおりであり,新審査の方針においては,爆心地から約3.5キロメートル以内の被爆者について,遮蔽の有無を問わずに積極認定の対象となる被爆者としていることに照らしても,1審原告Z51について初期放射線の被曝が皆無であるとしてよいかどうか疑問である。しかし,初期放射線の影響が低いものであることは間違いない。 - 242 -1審原告Z51は,被爆後,爆心地付近に入市したことはないが,被爆当日黒い雨に打たれており,その程度は正確に把握ができないが,これによる外部被曝や創傷部位を通じての体内への放射性物質の取り込み等については,その危険性を否定することはできない。そして,高線量被曝者との接触(特に全身火傷を負った母の看護)等による被曝の可能性も否定できず,被爆後の身体症状,病歴等を勘案して判断する必要がある。 1審原告Z51は,被爆後約1週間で倦怠感を覚え,発熱が続き,左腕の創傷の化膿・治癒遅延があり,これらが原爆放射線の影響による可能性はあり同1審原告に初期放射線以外に残留放射線放射性降下物等内部被曝,(), 爆後約1週間で倦怠感を覚え,発熱が続き,左腕の創傷の化膿・治癒遅延があり,これらが原爆放射線の影響による可能性はあり同1審原告に初期放射線以外に残留放射線放射性降下物等内部被曝,(),があったことを推認させる。特に,自宅に同居し,戸外で被爆した妹に脱毛が生じたことは,妹が同じ生活環境にあったことに照らして,同1審原告にも原爆放射線による影響があったことを推認させる事情といえ,これらの事,。 情をしん酌すると同1審原告の被曝線量が決して少なくなかったといえる,,,B型肝炎これに由来する肝硬変その後の肝細胞がんの発症については検討したように,そのいずれの疾病も放射線との関連性が肯定されるものであって,1審原告Z51の申請疾病である肝細胞がんについて,放射線起因性を認めるのが相当である。1審被告らは,同1審原告の肝炎,肝硬変,肝細胞がんの発症経緯が被爆者でない一般の者の症状経過と異なるところがないから放射線起因性を認めるべきではないと主張するが,原爆放射線による晩発性障害が一般に特異性がないものであるから,それだけの理由で放射線起因性を否定することは相当ではない。 (7)要医療性についての判断乙1030の2,3,5によれば,1審原告Z51の肝細胞がんについては,平成14年12月9日の申請時点及び平成16年5月12日の却下処分時点において,平成14年9月に行われた肝動脈塞栓術後の経過観察中であり,要医療性があることが認められる。 - 243 -(8) 結論 以上によれば,1審原告Z51の申請疾病である肝細胞がんについては,申請時及び処分時において,原爆症認定の要件を充足していたものであるから,その申請を却下した処分は違法であり,取消しを免れない。 第12国家賠償請求について(争点(3)) この点に関する1審原告ら 請時及び処分時において,原爆症認定の要件を充足していたものであるから,その申請を却下した処分は違法であり,取消しを免れない。 第12国家賠償請求について(争点(3)) この点に関する1審原告らの主張の骨子は,1審被告厚生労働大臣(1審原告Z2については,厚生大臣)には,確立した司法判断を尊重すべき義務があり,①1審原告らの原爆症認定の申請に対して,重大な欠陥があることが明らかであった審査の方針(13年方針)を,その欠陥を知り又は知り得べきであったのに機械的に適用して,申請を却下したこと,②行政手続法5条1項が規定する審査基準を定めなかったこと,③同法8条1項が規定する却下処分の理由付記をしなかったことが違法であるとして,却下処分によって1審原告らが被った精神的苦痛に対する慰謝料及び訴え提起を余儀なくされたことにより生じた弁護士費用の損害を賠償する義務があるとするものである。 前記のとおり1審原告Z32同Z26同Z18申請疾病の一部同,,,(),Z49,同Z34,同Z50,同Z36,同Z37,同Z27及び同Z51の,,原爆症認定申請に対する各却下処分は違法であり取消しを免れないと判断し1審原告Z28の原爆症認定申請に対する却下処分は違法ではなく,同人の取消請求は理由がないと判断した。 1審原告Z1,同Z2,同Z3,同Z17,同Z46,同Z7,同Z47,同Z9,同Z29,同Z23,同Z10,同Z11,同Z24,同Z12,同Z25,同Z13,同Z48,同Z15及び同Z16について,各申請却下処分が取り消され,原爆症認定処分がされた。これらの却下処分の適法性について当裁判所は判断をしないが,その理由については前示のとおりであり,同1審原告らに対して原爆症の認定処分がされたのは,医療分科会における審査の(), 処分がされた。これらの却下処分の適法性について当裁判所は判断をしないが,その理由については前示のとおりであり,同1審原告らに対して原爆症の認定処分がされたのは,医療分科会における審査の(),()目安である審査の方針13年方針を改訂して新審査の方針20年方針- 244 -を付加したものによることは明らかである。1審被告厚生労働大臣において,被爆者援護法11条1項の原爆症認定の実体要件中の放射線起因性についての法律解釈そのものを変更するものではないとしても,また,審査の方針が必要な見直しを行うことを予定されていたとしても,具体的事案に適用するについての実質的な審査基準を変更したことは間違いがない。そして,各却下処分から認定処分までの間に,却下処分当時の判断は適法であり,その後の事情の変更によって事後的に却下処分が違法となるとする事情の変更があったとは認められないから,上記各1審原告に係る申請却下処分は,その当時,違法であったと推認できる。 しかし,行政処分が違法であったとしても,直ちに当該行政処分を行った公務員の行為が国家賠償法上違法であるとはいえないので,更に検討する。 本件各却下処分は,最も早いものが平成12年7月19日であり,最も遅いものが平成16年5月12日であるところ,1審原告らは,各却下処分の違法性を主張する前提として,1審被告厚生労働大臣には,Z58訴訟(平成12),()年▲月▲日最高裁判決Z59訴訟平成12年▲月▲日大阪高等裁判所判決で確定した司法判断に従う義務がある旨主張する。 しかし,上記2つの訴訟の確定判決は,いずれも審査の方針(13年方針)が定められた前の却下処分に関するものであり,各判決の理由中で,1審被告国が主張の根拠に据えたDS86による被曝線量の評価及びしきい値理論の機械的適 訟の確定判決は,いずれも審査の方針(13年方針)が定められた前の却下処分に関するものであり,各判決の理由中で,1審被告国が主張の根拠に据えたDS86による被曝線量の評価及びしきい値理論の機械的適用が相当でない旨を説示しているところがあるが,いずれも,個別具体的事件における事例判決と理解されるべき事案であり,原爆症認定の在り方一般についてその適用過程に係る手法等を説示するものではない。また,上記2判決は,放射線起因性の判断について,通常の因果関係と異なることはなく,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することが必要であるとしてそれぞれ相当程度の立証など因果関係の,,「」,立証の程度を緩和できる趣旨の判示をした原審の判断を是正した側面もある。 - 245 -以上によれば,上記2判決によって,放射線起因性の判断に係る重要な点を明らかにしたものではあるが,明確なあるべき審査基準が示されたわけではないのであるから,1審被告厚生労働大臣が従うべき確立した司法判断があったとは認められない。したがって,これに従う義務があったとする1審原告らの主張も前提を欠き,採用できない。 次に,審査の方針(13年方針)の機械的適用により各1審原告の申請を却下した点について検討する。 審査の方針に対する当裁判所の判断は,前示のとおり,同方針が確立した科学的知見に裏付けられた完璧なものであるとはいいがたいとするものである。 また,被爆者援護法の趣旨に合致したものとはいえない点があることも,既に検討したとおりである。 しかし,前に検討したところにかんがみれば,審査の方針については,その科学的裏付けとして,それぞれ完璧とはいえないものの,線量評価に関するDS86等の体系及び寄与リスクに関するZ54論文(とこれを支える諸論 前に検討したところにかんがみれば,審査の方針については,その科学的裏付けとして,それぞれ完璧とはいえないものの,線量評価に関するDS86等の体系及び寄与リスクに関するZ54論文(とこれを支える諸論文)があり,前者については,いまもこれに優る線量評価体系が存在せず,後者については,放影研の長年にわたる研究の積み重ねの上に立脚したものである。 したがって,審査の方針の策定過程それ自体について科学の発達に伴い問題点を指摘することができ,また,方針として条項化されたものが審査基準としては欠陥があるとみるべき箇所があるとしても,直ちに国家賠償法上も違法であるということはできない。 さらに,1審原告らは,その具体的適用が機械的であると主張する。 医療分科会における審査の実情については前記第3の2(4)で認定したとお,,,りであり平成13年度から平成17年度までの審査総件数3655件のうち原因確率10パーセント未満のもので認定されたのが2件にとどまることも前記第10の3(3)で触れたとおりである。 医療分科会では,放射線医学等の専門家が関与し,事務局(厚生労働省の医- 246 -系技官及び事務官)において準備された申請書,添付資料,追加資料等に基づき,疾病についての専門の委員が事前に検討した上,医療分科会の審議にかけられた上判断されていたものであって,医療分科会における審議時間の長短だけでその審査内容の当否が評価されるものではなく,本件全証拠によっても,医療分科会における審査が審査の方針の機械的適用であったと認めることはできない。 したがって本件1審原告ら同Z28を除くの原爆症認定の申請につい,(。)て,医療分科会が審査の方針の機械的適用によって却下相当の答申をしたと認めることはできない。 1審原告らは,行政手続法5条1項が 1審原告ら同Z28を除くの原爆症認定の申請につい,(。)て,医療分科会が審査の方針の機械的適用によって却下相当の答申をしたと認めることはできない。 1審原告らは,行政手続法5条1項が規定する審査基準を定めなかったことを国家賠償法1条1項の違法行為の根拠として主張する。 (1)1審被告らは同項所定の審査基準は存在せず審査の方針もこれに当た,,らないことを認めている。 (2)行政手続法5条1項が行政庁に対して申請に対する処分の審査基準を設定することを義務付けている趣旨は,一般に許認可等の要件等に関する法令の定めは抽象的である場合が多いことから,行政庁による行政処分を公正,適正なものとし,その判断過程の透明性の向上を図り,また被処分者にとっても,処分を受けることができるかどうかの予測を容易にして便宜を図るところにあると解される。しかし,当該許認可等の性質上,個々の申請について個別具体的な判断をせざるを得ないものであって,法令の定め以上に具体的な基準を定めることが困難である場合には,同条1項所定の審査基準を定めることを要しないと解すべきである。 (3)原爆症認定における放射線起因性及び要医療性についての判断は医学的,知見,疫学的知見等を踏まえた高度に科学的及び専門的なものであって,その性質上,個々の申請について個別具体的な判断をせざるを得ないものであって,被爆者援護法10条1項の規定以上に具体的な基準を定めるこは困難- 247 -であるというべきであり,行政手続法5条1項所定の審査基準を定めることを要しないと解するのが相当である。 (4)したがって本件各処分に行政手続法5条1項違反があるということはで,きず,同項違反があることを前提とした1審原告らの主張は採用できない。 1審原告らは,行政手続法8条1項が規定 である。 (4)したがって本件各処分に行政手続法5条1項違反があるということはで,きず,同項違反があることを前提とした1審原告らの主張は採用できない。 1審原告らは,行政手続法8条1項が規定する拒否処分の理由付記をしなかったことを国家賠償法1条1項の違法行為の根拠として主張する。 (1)行政手続法8条1項は行政庁において申請により求められた許認可等を,拒否する処分をする場合に,当該処分の理由を申請者に示すことを義務付けているが,その趣旨は,行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を申請者に知らせることによって,その不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。 (2)本件における却下処分の通知書に記載された処分理由は被爆者援護法1,0条1項に定められた放射線起因性の要件を示した上先般疾病・障害認,「,定審査会において,申請書類に基づき,貴殿の被爆状況が検討され,その上で貴殿の申請に係る疾病の原因確率(疾病等の発生が,原爆放射線の影響を。 。)。 受けている蓋然性があると考えられる確率をいう以下同じを求めましたそこで,この原因確率を目安としつつ,これまでに得られた通常の医学的知,,,見に照らし総合的に審議されましたが貴殿の申請に係る疾病については原子爆弾の放射線に起因しておらず,また,治癒能力が原子爆弾の放射線の影響を受けてはいないものと判断されました(乙1001の4,1審原告。」),「,,Z1のものと記載されているもの先般疾病・障害認定審査会において申請書類に基づき,貴殿の被爆状況が検討され,これまでに得られた通常の医学的知見に照らし,総合的に審議されましたが,貴殿の申請に係る疾病については,原子爆弾の放射線に起因しておらず,また治癒能力が原子爆弾の 基づき,貴殿の被爆状況が検討され,これまでに得られた通常の医学的知見に照らし,総合的に審議されましたが,貴殿の申請に係る疾病については,原子爆弾の放射線に起因しておらず,また治癒能力が原子爆弾の放射線の影響を受けていないものと判断されました(乙1019の4,1。」審原告Z37のもの)と記されているものであり,他の1審原告らについて- 248 -もほぼ同様の理由記載である。 上記の記載から,①医療分科会において,被爆状況,医学的知見を踏まえて検討がされたこと,②放射線起因性の要件が認められないと判断されたこと,③1審被告厚生労働大臣が,医療分科会の答申を受けて却下処分を行ったことを知ることができるから,上記の程度の理由記載があれば,行政手続法8条1項に違反するということはできない。 (3)したがって同項違反があることを前提とした1審原告らの主張は採用で,きない。 よって,1審原告らの国家賠償請求は,いずれも理由がない。 第13まとめ 1審原告らの請求についての判断を整理すると次のとおりである。 (1)却下処分取消請求についてア1審原告Z1,同Z2,同Z3,同Z17,同Z46,同Z7,同Z47,同Z18(申請疾病胃がんの部分に限る,同Z9,同Z29,同Z。)23,同Z10,同Z11,同Z24,同Z12,同Z25,同Z13,同Z48,同Z15及び同Z16の原爆症認定申請に対する却下処分を求める請求に係る訴えは,いずれも取消しを求める法律上の利益がなく不適法である。 イ1審原告Z32,同Z26,同Z18(申請疾病直腸がんの部分に限る,同Z49,同Z34,同Z50,同Z36,同Z37,同Z27及。)び同Z51の原爆症認定申請に対する却下処分は違法であり,各却下処分の取消しを求める請求は理由がある。 ウ1審原告Z 分に限る,同Z49,同Z34,同Z50,同Z36,同Z37,同Z27及。)び同Z51の原爆症認定申請に対する却下処分は違法であり,各却下処分の取消しを求める請求は理由がある。 ウ1審原告Z28の原爆症認定申請に対する却下処分に違法はなく,同却下処分の取消しを求める請求は理由がない。 (2)国家賠償請求について1審原告らの各請求はいずれも理由がない。 - 249 - 原判決の変更等(1)1(1)アに係る請求について原判決は実体判断をしているので,同部分を取り消して,取り消した部分の請求に係る訴えを却下する(主文第1項及び第2項。 ),,(。)(2)原判決は1審原告Z26同Z18申請疾病直腸がんの部分に限る及び同Z27の却下処分取消請求を棄却しているので,同部分を取り消し,請求を認容する(主文第3項から第8項。 )(3)1審原告Z28の却下処分取消請求及び1審原告らの国家賠償請求を棄却した原判決は相当であるから,同部分の控訴を棄却する(主文第9項。 )(4)1審被告厚生労働大臣の控訴に係る部分の原判決の判断は相当であるか,(,。)ら同1審被告の控訴ただし主文第1項及び第2項に関する部分を除くを棄却する(主文第10項。 ) よって,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第4民事部裁判長裁判官稲田龍樹裁判官浅香紀久雄- 250 -裁判官内堀宏達- 251 -別紙1争点に関する1審原告らの当審における主張第1被爆の実相と原爆症認定 原爆の実相1945年8月6日広島,同月9日長崎に,アメリカ合衆国によって原子爆弾が投下された。原子爆弾の核分裂による連鎖反応により炸裂の中心に数百万度,数百万気圧にも達する高温高圧状態のプラズマ(火球)が形成され,1秒後,この火球は, 日長崎に,アメリカ合衆国によって原子爆弾が投下された。原子爆弾の核分裂による連鎖反応により炸裂の中心に数百万度,数百万気圧にも達する高温高圧状態のプラズマ(火球)が形成され,1秒後,この火球は,半径約150メートル,表面温度約5000度に至り,音速をはるかに超えて伝わる衝撃波を生み出し,瞬時に建物を破壊し,さらに猛烈な爆風を発生させ,その結果,広島と長崎の街はわずか10秒で壊滅した。超高温の熱線は,人々の皮膚の奥まで焼き,皮膚を肉体から剥離させ,強烈な衝撃波と爆風が,眼球を眼窩から押し出し,人々を木の葉のように吹き飛ばし,地面に叩きつけた。人々は,血と体液をしたたらせ,皮膚を垂れ下げ,ある者は眼球を垂れ下げながら,幽霊のように歩き彷徨い,広島と長崎の川は,無数の死体で埋めつくされた。まさに地獄絵図である。熱線によって発生した火災は,破壊された建物に生きたまま下敷きになった人々を生きたまま焼き,人は逃げるために,子が親を捨て,親が子を見捨てることさえ起った。さらに,原爆は,街を壊滅させ,焼き尽くしただけではなく,火球の中心部から放出された大量の中性子線やガンマ線等の放射線で人々の身体を射抜き,街を放射能に変え,放射能に充ちた巨大のなキノコ雲で街を覆い,黒い雨や放射性微粒子を人々の上に降り注いだ。被爆時に傷つかなかった人々は,何も知らないまま,,,,焼かれ傷ついた人々を救うために放射能に汚染された街に入りその人々も放射線に被曝し,その後身体に異変が発生した。人々はそれを「ガス」と呼んだ。 このように原爆は,人々を無差別かつ大量に殺し,そして終戦後も被爆者を苦しめ続け,ケロイド,白血病,白内障,がんなど様々な病気が63年という- 252 -長期にわたって被爆者の身体を繰り返し襲い,恋愛,結婚,妊娠,出産,そして学業,就職と,人生 て終戦後も被爆者を苦しめ続け,ケロイド,白血病,白内障,がんなど様々な病気が63年という- 252 -長期にわたって被爆者の身体を繰り返し襲い,恋愛,結婚,妊娠,出産,そして学業,就職と,人生のあらゆる場面で原爆が被爆者の心と体に影を落とし続け,被爆者を苦しめ,殺し続け,未曾有の被害をもたらした。原爆放射線は,距離的制限も時間的制限もない。 科学的未解明性1審被告らは,原爆症の放射線起因性の判断は,DS86によって算出された被曝線量及び疫学調査結果に基づく原因確率又はしきい値にもっぱら依拠した判断基準である旧審査の方針によって判断されるべきであり,この基準は科学的に確立したものであると主張する。 しかし,1審被告らの主張する線量評価は,初期放射線について不明瞭なところがあり,残留放射線についても不十分な前提に立っている。結果としての原爆症についても,放射線に特異的な症状ではなく,一般に見られる疾病と全く同様の症状であって,症状自体から放射線起因性を見極めることは不可能である。放射線障害のDNAレベルでの研究や放影研の疫学調査が進められ,疾病の線量反応関係が一定明らかにされつつあるとはいえ,原爆による放射線被曝が,医療による被爆等と異なり全身被爆であり,残留放射線被曝や内部被曝を伴うこと,低線量被爆による影響が深刻な結果をもたらすとの指摘があることなど,原爆症のメカニズムについては基本的に不明であるといわざるを得ない。 1審原告らが認定を求める疾病である悪性腫瘍,非がん疾患はいずれも原爆放射線被曝から長期間を経て発症するものであり,これが原爆放射線影響の解明を困難にしている。さらに,原爆症の発症については他の原因と分離ができないという特色がある。 第2原爆放射線被曝について 原爆による放射線影響について(1)1審被告ら が原爆放射線影響の解明を困難にしている。さらに,原爆症の発症については他の原因と分離ができないという特色がある。 第2原爆放射線被曝について 原爆による放射線影響について(1)1審被告らの主張の不合理性- 253 -医療分科会は,平成20年4月から新審査の方針により,爆心から3.5キロメートル以内で原爆の直爆を受けた者,100時間以内に爆心から2キロ以内に入市した者,10日~2週間後以内に入市して爆心から2キロ以内に1週間以上滞在した者が,がんなどの疾病に罹患している場合には放射線起因性を認めるとした。1審被告らは,新基準に従った認定がされるようになった後においても,訴訟上,旧審査の方針は誤りではないとして従前の主張を繰り返している。その主張は,Z116,Z117の証言等に基づくものであるが,同人らの議論は,DS86による線量評価を誤りのないものとした上で,放射線防護学を中心に形成された急性症状概念が正しいという前提に立つものであり,被曝実態を無視した立論によるものである。このような1審被告らの主張は,後述するとおり,自らが採用している新審査の方針と矛盾することが明らかであり,それ自体不合理な主張であることはもちろん,被爆者らが身をもって示した被爆の実態,さらに日本の学者が被爆者の調査を行ってきた蓄積を否定するものであり,科学的合理性を欠く。 (2)遠距離被爆について1審被告らは,DS86,DS02で示されている被曝線量評価は,実際の測定結果からも裏付けられており,科学的に定まったものであって,1審原告ら被爆者の被曝線量は放射線障害を生じさせるほど大きいものではなく,1審原告らに現れている被爆後の症状も放射線に起因するものではない旨主張するが,次のとおり誤りである。 ア放射性降下物について(ア)原爆本体由来の放射 線障害を生じさせるほど大きいものではなく,1審原告らに現れている被爆後の症状も放射線に起因するものではない旨主張するが,次のとおり誤りである。 ア放射性降下物について(ア)原爆本体由来の放射性降下物原爆の爆発時の火球の内部には,①原爆のウラン235/プルトニウム239の核分裂によってつくられた核分裂生成物の原子核が3兆の1兆倍個あるいは5兆の1兆倍個,②核分裂しなかったウラン235の原子核が150兆の1兆倍個/核分裂しなかったプルトニウム239の原- 254 -子核が20兆の1兆倍個,③中性子を吸収して誘導放射化された原爆機材・容器の原子核が2~5兆の1兆倍個存在していたと推定される(甲271「Z52意見書」5~6頁。 )火球は,熱によって急速に膨張するが,火球の膨張によって火球表面にショックフロントと呼ばれる大気の超高圧の層が形成され,衝撃波が発生して火球から離れ,爆風が発生した時点では,原爆の核分裂によって発生した大量の放射性物質はショックフロントを通り抜けて火球外へ出ることができず,火球の内部に留まっていた。上記の大量の放射性物質は,原爆炸裂後約10秒間に衝撃波と爆風が広島・長崎の街を破壊したときにもなお上空の火球内部に留まっていたものであって,決して,1審被告の主張するように爆風によって上空の高層大気に吹き飛ばされることはなかった(甲271・6頁,甲278・8頁。 )ところで,広島原爆の場合,ウランは約40通りに分裂し,その結果約80種類の放射性核種(核分裂破片)を生じたが,ウランの原子核が核分裂した後も,それによって生じた核分裂生成原子は直ちに安定するとは限らず,その約80種類の放射性核種は,さらにその多くが,一連の崩壊(逐次崩壊)によって,平均4種の放射性核種が生成される。この逐次崩壊の過程では,ほとんどの じた核分裂生成原子は直ちに安定するとは限らず,その約80種類の放射性核種は,さらにその多くが,一連の崩壊(逐次崩壊)によって,平均4種の放射性核種が生成される。この逐次崩壊の過程では,ほとんどの核分裂してできた原子(核分裂生成原子)はベータ線を放出して別の原子になり,次々とベータ線を出す崩壊系列を作る(崩壊過程でガンマ線を出す場合もある。ほとんどの核。)分裂生成原子は,1回のベータ崩壊では安定した原子にはならず,次々とベータ崩壊を繰り返すので,現実に展開した広島・長崎での放射能環境は,従来考えられていた「短い半減期の原子がたった1回ベータ崩壊をする」と仮定した放射線量よりも,遥かに放射線は多く,実効的半減期も桁違いに長いものとなっていたのが実際の状況であって(甲278・21頁半減期の短い放射性核種を無視してよいとする1審被告らの),- 255 -主張は誤りである。 (イ)放射性降下物の降下した範囲火球は,その後,上昇して冷却し,火球内部の放射性原子核は電子を捉えてプラズマ状態が解消し放射性原子となり,大気中の酸素や窒素として分子となり,さらにこれが合体して放射性微粒子となる。この微粒子を核として大気中の水蒸気が水滴を作り,原子雲を形成し,放射性微粒子がいわゆる「黒い雨」となり,又は下降気流に乗って水滴を蒸発させ放射性微粒子となって,原子雲の下に降り注いだ(甲271・7~8頁甲278・9~10頁原子雲は広島では爆心から約15キロメ,)。 ,ートルの広がりがあり甲271・図3長崎では爆心から約20キロ(),メートルの広がりがあった(甲271・図4。 )イ誘導放射化物質について火球と衝撃波の外にあって原爆から放射された中性子線により誘導放射化した地上の誘導放射化物質(誘導放射能)は,衝撃波と爆風により爆 ルの広がりがあった(甲271・図4。 )イ誘導放射化物質について火球と衝撃波の外にあって原爆から放射された中性子線により誘導放射化した地上の誘導放射化物質(誘導放射能)は,衝撃波と爆風により爆心地から粉砕・飛散したものと考えられ,これが残留放射能として影響を与えたことは否定できない。このような誘導放射化物質は,原爆炸裂後に発生した火災により,広い範囲で降下したと考えられる。 ウ残留放射線の測定例について(ア)台風後の測定残留放射線に関する1審被告らの根拠として,原爆投下後の放射線直接測定あるいは土壌中のセシウム137の測定のデータが,己斐・高須地区広島西山地区長崎以外では低い値を示しているという点(),(),がある。しかし,これら放射線測定については,その多くは,昭和20年9月17日の枕崎台風,さらには同年10月9日の台風の後に測定されたデータであり,土壌中の放射性物質はその多くが既に洗い流されており,データの正確性には多大な疑問がある。このことは,DS86自- 256 -体が測定の正確性に関する多くの要素は爆弾投下後40年たっても,「,良く知られておらず,したがって被曝の推定線量はおおまかな近似にならざるを得ない(乙16・210頁)と認めている。 。」(イ)Z217試料とZ66論文なお台風の影響については1審被告らは8月9日に採取された,,,「土壌サンプル(Z217試料)についてのZ66教授の分析結果が,台風後の直接測定結果と一致すると反論するしかし上記のZ66ら。」。 ,の分析でも,被爆後3日採取の資料では,西大橋東詰(観音本町)の測定値(番号7)が高須地区(番号12)の20倍以上となっており(甲169の1,2・図1表2(甲271・Z52意見書9頁参照,これ) の分析でも,被爆後3日採取の資料では,西大橋東詰(観音本町)の測定値(番号7)が高須地区(番号12)の20倍以上となっており(甲169の1,2・図1表2(甲271・Z52意見書9頁参照,これ))から見れば,台風後の測定では,洪水に見舞われた観音本町ではもはや高い放射能は検出されず,山の手の高須地区では,流出を免れてZ66らの測定と変化のない結果が出たと考えられるのであって,Z217資料は台風の影響を明確に示すものとなっているのである。 エ具体的事例について実際に爆心から2キロメートルを超える遠距離で被爆していながら,放射線被曝の影響があったとしか考えられない次の事例が存在することからみても,DS86,DS02が原爆による放射線被曝の実態にそぐわないことが明らかである。 (ア)広島・古田町の女性の多重がんの事例広島の爆心地から約4キロメートル地点において29歳で被爆した女性で,48歳で卵巣のう腫,82歳で胃がん,85歳で大腸がんの各手術を受けた多重がんの事例であるが,がんに対する化学療法・放射線療法が行われていないにもかかわらず,染色体異常率が正常値の2.6倍を示していた(甲299「第49回原子爆弾後障害研究会」36頁・第 これは特に放射性降下物による残留放射線の影響と考えるほか)。 ,- 257 -ない。 (イ)長崎の11歳の少女の剖検例について長崎の爆心地から3キロメートルの地点において11歳で被爆した女性であるが,剖検の結果,卵巣の編成,リンパ瀘胞の減少,大腿骨の骨髄特に造血作用の行われる骨端部の造血組織の死滅がみられた原()(「子爆弾症長崎の病理学的研究報告・甲276・資料36原子爆弾()」「」,)。 ,災害調査報告書1244頁以降剖検例第6例これらの生殖組織造血組織 みられた原()(「子爆弾症長崎の病理学的研究報告・甲276・資料36原子爆弾()」「」,)。 ,災害調査報告書1244頁以降剖検例第6例これらの生殖組織造血組織骨髄リンパ組織の変化は放射線の影響でしか説明ができ(),,ないものである。 (3)入市被爆について1審被告らは,誘導放射線及び放射性降下物とそれによる残留放射線の影響を低いものと主張しているが,新審査の方針が約100時間以内の入市被爆者及び約2週間以内の入市滞在者について放射線起因性を積極的に認定するとしたのは,放射性降下物及び残留放射線の影響を考慮したとしなければ説明が付かず(DS86では,原爆投下後72時間で残留放射線はほぼゼロになるとしている,上記主張は新しい審査基準である新審査の方針と矛盾。)する。 ア入市被爆者への残留放射線影響(ア)誘導放射化物質1審被告らは,「放射化された地上の物質等の元素もごく限られている「炭素などはほとんど放射化されない」等と主張する。 」しかし,1審被告らの主張の根拠は,土壌中の物質の誘導放射化が中心であり,生活の場であった広島・長崎両市のあらゆる物質の検討をしておらず不当であり,炭素のように,核断面積が小さく放射化しにくい物質であっても,総量が大量にあれば大量の放射性物質が生じるのである。結局,初期放射線により誘導放射化された放射性物質の量も看過し- 258 -,,,得ない多量のものであり誘導放射化された土壌からの土埃建築資材家屋の木材が焼けた煤などは,原爆による衝撃波や火災の影響もあって大量に上空に舞い上がり,原爆本体由来の放射性微粒子とともに,単に地上から外部被曝をするだけではなく,皮膚に付着しあるいは体内に取り込んで影響を与えることがある。 また,誘導放射化物質全 響もあって大量に上空に舞い上がり,原爆本体由来の放射性微粒子とともに,単に地上から外部被曝をするだけではなく,皮膚に付着しあるいは体内に取り込んで影響を与えることがある。 また,誘導放射化物質全てが極短半減期とは言えず(乙76「広島・長崎原爆放射線量新評価システムDS02に関する専門研究会」報告書DS02に基づく誘導放射線量の評価Z682頁表1乙16D「」,,「S86第6章」220頁表6,甲270「Z104講演録」添付資料9枚目地上の誘導放射化物質により持続的に被曝した場合には大き),,な影響を受けることがあり得る。 (イ)放射性降下物入市被爆者についても,放射性降下物が影響を与えたと考えられる。 すなわち,新しい審査の基準がひとつの目安としている原爆投下後100時間の時点では,ベータ崩壊系列の途中であり,ベータ線が放射し続けられている。 ベータ崩壊中の放射線の強度は,最初に出される放射線の強さと比較して,減衰しないどころか,かえって増強することもあるとされる。たとえば,親原子の放射性半減期が娘原子の半減期より長い場合には,崩壊後の娘原子の崩壊は短い半減期を持つにも拘わらず,親原子の半減期に従う(これを「放射平衡を形成する場合」という。そして,崩壊前,)の親原子の放出する放射線と,崩壊後の娘原子の放出する放射線は,最初の崩壊の場合だけの強度の2倍以上の値に近づいていく。なお,これは,崩壊系列が2つの崩壊プロセスだけであると仮定しての試算であるが,広島原爆の場合,平均4回の崩壊を起こしており,仮に放射平衡を形成する放射系列が4回続くとすると,放射線強度は最初だけの放射の- 259 -場合の4倍以上となる場合もある甲278Z91意見書21~2。(「」2頁。 )他方,第1の崩壊半減期の方が 成する放射系列が4回続くとすると,放射線強度は最初だけの放射の- 259 -場合の4倍以上となる場合もある甲278Z91意見書21~2。(「」2頁。 )他方,第1の崩壊半減期の方が短い場合は放射平衡を形成せず,第1の原子の放射線が減衰しきっていない時間内は,最初から第2の半減期の崩壊が行われたと仮定した場合の放射線強度より僅かに高い放射線強度を示し,その後第2の長い方の半減期に従う放射線強度となる(甲278・22~23頁。 )放射平衡を形成する場合も放射平衡を形成しない場合も,放射系列の最長半減期に従う崩壊(放射線放射)が起こるものであり,放射平衡を,。 ,形成する場合は特に初期の放射線強度を上回る強度を示すすなわち核分裂で生まれた最初の原子の半減期が短いことは殆ど関係なく,系列の最長半減期が重大な意味を持つのである。放射系列の最長半減期の分布を見ると,100日以下の半減期を持つ場合は僅か全体の3分の1程度しかなく,100日目では未だ強烈な放射能が残存している(甲278・24頁・表2。崩壊系列の最長半減期が1週間以上となるものは,)核分裂生成原子の崩壊系列で62%を占めるから,原爆投下後100時間あるいは1週間の時点では,放射線強度は投下直後に比べてさほど減少していない(甲278・23頁。 )イ入市被爆者の具体的事例残留放射能によるとしか考えられない次のような入市被爆者の事例が存在している。 (ア)Z218証言(甲36の1「Z218証言調書(大阪地裁))」被爆後,広島市北方の戸坂村で診療に当たっていたZ218医師は,入市被爆者であっても,軍隊,警察官,消防等の人達が死亡した経験を証言している。その中には1週間後に広島に入り,夫を捜して1週間街を歩いて,Z218医師を訪ねてきて死亡した婦人の体験も含 8医師は,入市被爆者であっても,軍隊,警察官,消防等の人達が死亡した経験を証言している。その中には1週間後に広島に入り,夫を捜して1週間街を歩いて,Z218医師を訪ねてきて死亡した婦人の体験も含まれてい- 260 -る。また,Z218医師は,その後,核実験の被曝者,原発事故の被曝者などの診療を通じてぶらぶら病を共通の放射線被曝による影響であると考えるようになった。 (イ)Z219の例広島地裁原告の一人であるZ219は,昭和20年8月19日の夕方から同月25日まで広島県三次市のZ238高等女学校の「○○」の一員として,広島の爆心地から約350メートルの本川国民学校で被爆者。 ,,の救援に当たったZ219は被爆前は健康であったにもかかわらず三次に広島から帰宅した直後から,全身の倦怠感,吐き気,嘔吐,食欲不振,激しい下痢,下血,脱毛にみまわれ,それがかなり長期間続いたため,9月から始まった学校は1か月程度休学した。Z219は,昭和40年(37歳)に乳がんと診断されて乳房切除術を受け,そのころから白血球減少症を指摘され,昭和55年に胃がんと肝機能障害を指摘され,平成9年に卵巣がんの手術を受け,同年8月には子宮摘出手術を受け,平成13年7月,腸閉塞の手術を受けた。 Z219と共に本川国民学校に派遣され,救護活動に当たった当時のZ238高女の生徒らに対する調査結果によれば,救護活動に参加したと判明した23名のうちの多くの者に急性症状がみられ,放射線の影響を強く推認させる疾患(肝機能障害,流産,甲状腺腫瘍,がん,白内障等)に罹患していた。この事実を心理的影響とだけ見るのは不可能である。 (ウ)Z220の経験例病理学の専門家であるZ220(長崎大学元学長)は,偶然,長崎での原爆被爆を免れ,昭和20年8月10日午後5時頃,医師の兄と二 事実を心理的影響とだけ見るのは不可能である。 (ウ)Z220の経験例病理学の専門家であるZ220(長崎大学元学長)は,偶然,長崎での原爆被爆を免れ,昭和20年8月10日午後5時頃,医師の兄と二人で佐賀から長崎市道ノ駅にたどり着き,廃墟の長崎で10日ほど救援活動に当たった兄について次のように述べている問題の異変はその後。 。「- 261 -に起こった。兄だけの身の上であったが,急に脱力や嘔吐,脱毛,鼻出血や皮下出血の症状が現われ,一時は生命さえ危ぶまれたが幸いにも回復することができた。ずっと後年になって筆者がさる高名な物理学者にこの件を残留放射能に基づくものではないかと尋ねてみたことがある。 ところが答えは否定的であった。残留放射線の線量は大して問題とするにたりないようだ,との説明だった。ならばあの兄の症状は一体何によるものだったのか,と納得がいかないまま筆者の胸には長年のつかえとして残っていた。転機は思わぬ方向から訪れた。原爆症認定を不服として集団訴訟に踏み切った被団協に対し,06年の大阪地裁判決以来,6つの裁判がいずれも入市被爆を含めて原告勝訴の判決を下した(甲2。」86の1。 )(エ)賀北部隊ヒロシマ・残留放射能の四十二年甲276・資料38には広「」(),島地区第十四特設警備隊(いわゆる賀北部隊)の工月中隊に所属した隊員99名に対するアンケート等の調査結果が記載されている。これらの隊員は,原爆投下後の昭和20年8月6日深夜から同月7日昼ころにか,,,,けてZ253に到着し同日ころからZ93Z221病院大本営跡Z253東側,第11連隊跡付近で作業に従事したにもかかわらず,以下のような急性症状を発症した者が32名もいたのである。急性症状の,,,,,内訳は出血が14人脱毛が18人 病院大本営跡Z253東側,第11連隊跡付近で作業に従事したにもかかわらず,以下のような急性症状を発症した者が32名もいたのである。急性症状の,,,,,内訳は出血が14人脱毛が18人皮下出血が1人口内炎が4人白血球減少症が11人であった同186頁・図17このうち放影()。 ,研の担当者は,脱毛6人,歯齦出血5人,口内炎1人,白血球減少症2人についてほぼ確実な放射線による急性症状があったとしている(同230頁。 )(4)原爆放射線被曝の複雑さ前記のとおり,原爆放射線被曝は,初期放射線のほかに放射性降下物や誘- 262 -導放射線といった残留放射線の影響を考慮しなければならず,初期放射線にはガンマ線と中性子線があり,中性子線の比較生物学的効果比(RBE)も大きく揺れ動いているなど複雑であって,医療被爆はもちろん,チェルノブイリ,ゴイアニア,Z236等の放射線事故とも異なる。また,原爆被爆者は,残留放射線の影響を知らないままに放射性降下物や誘導放射化物質で汚染された空気を吸引し,水を飲み,食物を摂取した。外傷・火傷を負った被爆者は傷害部位からの放射性物質の侵入も加わった。さらに,原爆の被曝態様の特徴として,汚染の除去が適切に行われなかったことから,持続的な被曝にさらされていたことが挙げられる。 (5)原爆被爆者の急性症状についてア1審被告らの主張1審被告らは,Z116証言あるいはZ117証言を根拠に,被爆によ,,,,,る急性症状は人種性別その時々の健康状態栄養状態放射線感受性被曝態様の違いにもかかわらず,共通したしきい線量,発症する症状の内容,発症時期,程度,回復時期に明確な特徴があるとの知見が確立しているのであり,この知見からすると,1審原告らの症状の中でこの知見に該当しない症 にもかかわらず,共通したしきい線量,発症する症状の内容,発症時期,程度,回復時期に明確な特徴があるとの知見が確立しているのであり,この知見からすると,1審原告らの症状の中でこの知見に該当しない症状は放射線による急性症状ではないとし,被爆直後の各種調査にある急性症状も放射線によるものではないと主張する。 イしきい線量と症状経過についてZ116証言が依拠するIAEAレポート(甲282の2の急性放射)「線症」は,透過性の放射線による外部被曝のうちの全身被曝の場合を中心に構成されたものであり,血液・骨髄障害の治療を念頭に構成された概念である。また,被曝態様に即応した急性放射線症の統一的な知見が確立されているというわけではなく,急性放射線症概念自体,未確定な概念であり,これを原爆被爆者にそのまま当てはめることには無理がある。 放射線防護学の教科書でも被ばく線量により前駆症状の種類や出現時,「- 263 -期が異なる。線量が高いほど,前駆症状の発症頻度は高まり,発症までの時間は早まり症状の程度も重くなるとされており乙206緊急被,。」(「ばく医療テキスト・79頁右欄の前駆症状から推測する被ばく線量参」「」照当然のことながら個人毎の感受性の相違も存在するさらに被爆),,。 ,者は様々な要因の複合状況の中で様々な放射線を被曝し,自らが被曝していることを知らないままに行動し,外部からそして内部から様々な核種による被曝をしているのであり,単純に症状経過だけから放射線の影響ではないと否定することができない。 前記乙206には,放射線の関与が不明な場合,初期の前駆症状や局所の所見はいずれも非特異的なものであり,被曝という情報なしで急性放射線症候群と判断されることはないと記載されているのであって(78~7 乙206には,放射線の関与が不明な場合,初期の前駆症状や局所の所見はいずれも非特異的なものであり,被曝という情報なしで急性放射線症候群と判断されることはないと記載されているのであって(78~79頁急性放射線症候群という概念すらなかった原爆被曝の場合厳密に),,急性症状に注目することは困難である。被爆後の調査については,個々の状況を見るのではなく,後述するように,全体として何が起こったかを探っていくことが重要である。 ウ各種調査結果について,(),()1審被告らは日米合同調査報告甲61の13Z98論文甲20には,急性症状でないことが明らかな身体症状が含まれていると主張し,その根拠として,①これらの資料で示した身体症状相互の発症率を比較すると,発症率が低いはずの下痢の発症率が最も高いこと,②紫斑(2グレイ)は脱毛(3グレイ)よりもしきい値が低いので,脱毛を発症する場合には紫斑が発症しているはずであること,③日米合同調査団報告では,1600メートル以遠では,脱毛と紫斑と両方発症している人は0.8パーセントであるが,誤差の範囲であり,被曝しているとはいえないこと,④Z98論文(第5表)では,原爆投下直後から1か月以内に爆心地から1キロメートル以遠に入市した95名及び1か月後から3か月以内に1キロ- 264 -メートル以遠に入市した9名について急性症状がゼロであることをあげる。 しかし,後述するように,脱毛,下痢,紫斑の相違から見ると,脱毛については,毛根に一番近い部分でベータ線被曝をすれば,当然に脱毛が生ずる(ちなみに,治療が必要な放射線皮膚障害は,局所に12~15グレイとされる乙206号証83頁左欄下から3行目また下痢の現れ方。 ),,の相違は,放射性物質を体内に取り込んでそれが腸の細胞に影響を与えれば が必要な放射線皮膚障害は,局所に12~15グレイとされる乙206号証83頁左欄下から3行目また下痢の現れ方。 ),,の相違は,放射性物質を体内に取り込んでそれが腸の細胞に影響を与えれば,下痢が起こることは何ら不自然ではない。 ,。 1審被告らの主張は前記の原爆被曝の複雑さ・多様性を無視している日米合同調査団の調査(甲61の13)を含めて,一致して被告の主張では放射線の影響がないはずの距離で明確に脱毛が認められ心身症診断・,「治療のガイドライン乙247の心身症の表2同3頁やZ236事」()()故の報告(乙249)の症状には記載されていない紫斑が,脱毛と極めて類似した距離との相関を示しており(甲271「Z52意見書」17~18頁これらを放射線以外で説明することは不可能である日米合同調査),。 団の調査結果中の脱毛の方がしきい値の低い紫斑よりも発現率が高い点も,そのしきい値が,あくまで外部被曝を基準としたものであり,被曝態様の複雑な原爆被曝にはそのまま当てはまるといえない。 エ脱毛について1審被告らは,脱毛について,しきい値が3グレイであること,原爆被爆者の脱毛の態様が急性放射線症でいうところの脱毛の症状(ほとんど毛のない状態になる,大体2~3ヶ月後には生えてくる)とは異なることなどを根拠に,入市・遠距離被爆者の脱毛は放射線によるものではないと主張する。 既に述べたように,IAEAレポートの急性放射線症概念や臨床上のしきい値は,透過性の放射線,すなわちガンマ線や中性子線による傷害を伴- 265 -う臨床症状を基礎に構築されたものであり,原爆被曝に直接あてはまるものではない。原爆被爆者の脱毛の場合,黒い雨や黒い煤として広島,長崎市内に降り注いだ放射性降下物や市内に充満していた誘導放射化物質が被爆者 状を基礎に構築されたものであり,原爆被曝に直接あてはまるものではない。原爆被爆者の脱毛の場合,黒い雨や黒い煤として広島,長崎市内に降り注いだ放射性降下物や市内に充満していた誘導放射化物質が被爆者の毛髪などに長時間付着し,そこから放出された放射線により毛母細,,,胞が持続的に被曝し脱毛が生じることは当然にあり得ることであり23か月経過しても発毛がないことも当然にあり得る。 1審被告らの主張は,被爆者の調査・医療に取り組んできた日本の医師の蓄積を否定するばかりではなく,被爆者の調査を行ってきた放影研の立場とも異なる。1審被告らの主張は,被爆者を見ず,一般基準を1審被告らの放射線評価が正しいとしてこれを被爆者に当てはめることの誤りがある。次の文献を指摘しておく。 (ア)「原爆放射線の人体影響1992(乙9)」放射線被曝による主要な急性症状は脱毛・・・・及び白血球減少「,,症である脱毛・・・の発生率は・・・総線量50rad代理人注:。 ,(0.5グレイ)における5~10%から約300radにおける50~80%までほとんど直線的に増加し,それ以上の線量においては,しだいに横ばいになっていた10頁の下から9行目~下から5行目との」()記載がある。 (イ)東京帝国大学医学部医療班の「原子爆弾災害報告書」の「Z222・Z223報告(甲276・資料7・554頁第22表)」放射能症例909例中,脱毛は707例に認められており,しかも,その内,1.1キロメートル以遠は475名(67.2%)に及ぶ。脱毛のしきい値3グレイを前提にすると,DS86でいえば,広島1050メートル内の地点であり,1100メートル(2.37グレイ)以遠では脱毛は生じないこととなる。 (ウ)「Z224・Z157論文(甲288の1,2)」- 266 - DS86でいえば,広島1050メートル内の地点であり,1100メートル(2.37グレイ)以遠では脱毛は生じないこととなる。 (ウ)「Z224・Z157論文(甲288の1,2)」- 266 -この論文は,放影研のLSS集団の調査で3分の2以上の重度脱毛についてDS86による線量相関を調べ,DS86とT65Dの比較生物()。 ,「. 学的効果比RBEを調査しようとするものであるその結果は 75Gyの傾斜あたりにおける著明な増加及び2.5Gy付近の水平への移行と,最終的な反応の減少から非線形を示す」とされる(甲288の2,1頁本文9~10行。そして「本論文の後半において,モデル),構築の努力をDS86全体の内のほぼ0.75から2Gyの線量の範囲に集中する。そこでの線量モデルが線形(代理人注:正比例の意味)である部分がとても適切であると思われる(甲288の2,4頁27~。」29行)としている。加えて,放影研では,この内容を動物により補充する実験を行っているのであり(甲78・資料4の1,2のZ146論文,なお「Z116反対尋問調書」20~21頁参照,放影研が少な,)くとも被爆者の脱毛が初期放射線3グレイをしきい値と考えていないことは明らかである。 オ下痢についてZ116証人は,急性放射線症としての下痢は,4ないし5グレイで生じる前駆期としての下痢と,8ないし10グレイで生じる主症状としての下痢がありZ116主尋問9~10頁かつ主症状としての下痢が見ら(),れる場合,回復の見込みはなく,原爆被爆者に見られる下痢はかかる症状に該当しないから放射線の影響によるものではないと証言する(Z116主尋問10~11頁。 )このZ116証言が,前述の原爆被曝の態様の複雑さを全く無視した議論であることは,脱毛について述べ る症状に該当しないから放射線の影響によるものではないと証言する(Z116主尋問10~11頁。 )このZ116証言が,前述の原爆被曝の態様の複雑さを全く無視した議論であることは,脱毛について述べたところと同様であり,放射性物質が胃腸管を通過すれば,直接胃腸管粘膜の細胞に影響を与え,下痢を起こすことは当然に考えられることである。また,様々な被曝形式によりホルモンの異常を来し,これに伴う自律神経の変化により下痢が生じる可能性も- 267 -(「」,「」ある甲258Z112意見書・11頁甲276Z112意見書・19頁。 )このような点で下痢がどのように起こったかを端的に示しているのが,Z112医師が直接に聞き取りに当たったZ225の例である(甲276資料16。 )カ白血球減少について1審被告らは,白血球数は3000でも正常値であり,3000以下になったからといってそれが放射線の影響があったとはいえず,また,白血球の減少は長期間継続することはないなどと主張する(1審被告ら準備書面(12)15~16頁)。 しかし,白血球数3000以下で異常ではない人がいるという問題と,構成員の多数の白血球数が3000以下になるということは全く異なったことである。 暁部隊の被爆者について調査結果がある(甲41文献番号7「広島原爆戦災誌。同部隊は,原爆投下時に爆心地から12キロメートル及び約5」)0キロメートルの地点にあり,初期放射線の影響はなく,純粋に残留放射線による被曝が問題となる。年齢は,主に当時18歳~21歳の健康な男子青年であり,原爆投下の当日又は翌日に救援のために入市し,負傷者の収容,遺体の収容,火葬,道路,建物の清掃などの作業に従事した。回答者は233人である。 ,,,救援活動中の症状としては8月8日ころから り,原爆投下の当日又は翌日に救援のために入市し,負傷者の収容,遺体の収容,火葬,道路,建物の清掃などの作業に従事した。回答者は233人である。 ,,,救援活動中の症状としては8月8日ころから下痢患者が多数続出し食欲不振を訴えた。また,救援終了後に基地に帰ってからは,軍医により「ほとんど全員が白血球3000以下」と診断され,下痢患者も引き続き,,,。 ,,あり発熱点状出血脱毛の症状が少数ながらあったそして復員後経験した症状は,倦怠感168名,白血球減少症120名,脱毛80名,嘔吐55名下痢24名であった233名回答これらの症状は放射,()。 ,- 268 -線の急性期障害と符合しており,入市被爆者がかなりの量の放射線を浴びたことが裏付けられる。 このように,233人中,120人が白血球数3000以下となり,かつ,軍医が異常を認めた入市被爆者の白血球減少と診断し,注目したという事実は重要であり,全体を見れば,放射線の影響があったことは明らかである。 1審被告らは,白血球減少が長期間継続することはないと主張するが,1審原告の中に,白血球の減少が継続している者がおり(1審原告Z49や1審原告Z51さらにT細胞の異常等白血球の構成の異常は現在),,,までも残存していることが明らかになっている(乙5「放影研要覧」26頁。なお,甲285のZ60について,Z116証人も,好酸球の増多が見られこれは放射線被曝の影響の可能性がある旨証言している。Z116反対尋問41頁。 )キ他原因論(心理的,精神的影響論)について1審被告らは,控訴審になって1審原告らが放射線による急性症状と主張する症状を心身症ないし心理的影響から説明が可能であると主張する(1審被告ら準備書面(12)11頁以下。そして,Z236 )について1審被告らは,控訴審になって1審原告らが放射線による急性症状と主張する症状を心身症ないし心理的影響から説明が可能であると主張する(1審被告ら準備書面(12)11頁以下。そして,Z236の事故におい)て,身体症状を発症するような放射線被曝はしていないにもかかわらず,事故後2年以上経過しても様々な身体症状を発症している事実を指摘する。 しかし,本当にZ236の事故について放射線の影響ではないと断定することができるのか,その断定は現時点では未だ困難であるばかりではなく仮に心理的ないし精神的影響であるとしても先にも述べたように心,,,「身症診断・治療ガイドライン乙247の心身症の表2同3頁やZ」()()「236臨界事故・生活影響調査報告会乙249のZ236事故の報告」()の症状には記載されていない紫斑が,脱毛と極めて類似した距離との相関- 269 -を示しており甲271Z52意見書17~18頁これらを見る限(「」),り,脱毛と紫斑とについて,系統的な発症が認められる限り,この範囲まで放射線の影響があったものというべきである。 なお,1審被告らは,Z89証言を根拠に,脱毛の発生を心理的影響で説明しようとする。確かに,Z89証人が述べるように,東京大空襲で脱,,毛が絶無ではなかったことは事実かも知れないがその数は極めて少なく空襲による心理的影響を示すものとして報告されていない。これに対し,原爆においては,再三繰り返すように,放射線の影響としか考えられない事例(入市被曝者の脱毛,紫斑と同様の発症等)が多数存在しており,心理的影響により被爆者に起きた脱毛として説明することは不可能である。 さらに加えて,精神科医であるZ226が指摘するように,被爆後,体調が変化した,化膿しやすくなった,風邪 等)が多数存在しており,心理的影響により被爆者に起きた脱毛として説明することは不可能である。 さらに加えて,精神科医であるZ226が指摘するように,被爆後,体調が変化した,化膿しやすくなった,風邪を引きやすい,気力がない,ブラブラ病状態となったといったいわゆる「ぶらぶら病」状態を1審被告らは,精神的影響であるとするが,むしろ,Z227やZ228といった神経科医師がブラブラ病の本体を放射線の影響と判断していたこと(甲245の1)にも十分に留意する必要がある。 (6)内部被曝論アホットパーティクル論について1審被告らは,ホットパーティクル論(わずかな放射性物質でも体内に,)摂取された場合アルファ線等による高線量の被曝をもたらすとするものについて,専門家の間では一切通用しない異説に過ぎない,あるいはロッキーフラットの軍事工場の事故でホットパーティクル理論の提唱者から全員肺がんとなると予想されていたところ,結局その後も発症しなかったことから否定された等と主張する。 ,,1審原告らはアルファ線のみに依拠して議論をしているわけではなく同じく体内で被曝した場合に大きな影響を及ぼすベータ線,ガンマ線の影- 270 -響も主張しているものである。そして,一定範囲で直接被曝していない細胞の周囲に遺伝的不安定性をもたらすバイスタンダー効果や,遺伝的不安定性にむしろ注目が集まりつつあることを考慮すべきである。 ,(),内部被曝が問題となるのは放射性物質の排除除洗が非常に困難で体内で持続的に被曝を受けるという点である。とりわけ,原爆の場合,短半減期で線量率(つまり単位時間あたりの被曝線量)が高い放射性物質が様々産み出され,そしてそれが体内で放射線を照射し続ける。これらを無視して,外部被曝と内部被曝が同じというのは,あまりにも実態を無視し 減期で線量率(つまり単位時間あたりの被曝線量)が高い放射性物質が様々産み出され,そしてそれが体内で放射線を照射し続ける。これらを無視して,外部被曝と内部被曝が同じというのは,あまりにも実態を無視した議論と言わなければならない。 イ低線量被曝の影響さらに,低線量被曝の問題がある。低線量被曝の人体影響については,現在においても未解明な部分が多くを占めている。これは,低線量被曝の人体影響を疫学的に証明するためには,1000万人規模の疫学調査が必,。 ,要となり疫学的側面からの裏付けが事実上不可能だからであるしかし細胞レベルや動物実験レベルにおける研究においては,逆線量率効果,バイスタンダー効果,ゲノム不安定性等の現象が報告されており,これらの現象は低線量被曝の危険性を示唆するものである。 これらの現象については,内閣府が管轄する原子力安全委員会・放射線障害防止基本専門部会・低線量放射線影響分科会が平成16年3月にまとめた低線量放射線リスクの科学的基盤-現状と課題-(案)甲261の「」(1)において議論状況が整理されている。 ウZ86氏のムラサキツユクサの雄しべの突然変異の研究について1審被告らは,Z86が,ムラサキツユクサの雄蕊毛(ゆうずいもう)に突然変異が起こるとピンク色の細胞が現れることに着目し,微量放射線. (. ),. (. である025ラド 0025グレイのX線や 01ラド 0001グレイ)の中性子線でも突然変異率と線量との間に関係があるこ- 271 -とを確認した研究(甲76の1「ムラサキツユクサによる微量放射線の検出ほかについてZ86氏はムラサキツユクサの雄しべの突然変異」),「,がすべて放射線の影響であるという仮定で研究を進めていたのであるが・,・・原子力安全研究協会 よる微量放射線の検出ほかについてZ86氏はムラサキツユクサの雄しべの突然変異」),「,がすべて放射線の影響であるという仮定で研究を進めていたのであるが・,・・原子力安全研究協会の3年間におよぶ研究で明らかになり,Z86の研究の仮定そのものに誤りがあることが判明している」などと主張する。 しかしまずZ86はムラサキツユクサの雄しべの突然変異がすべ,,,「て放射線の影響であるという仮定」などしていない。突然変異率の調査にあたっては,放射線の影響を検証すべき対象とは別に,比較対象として,気温等の条件は同じでかつ放射線の影響が及ばない「対照区」を設定し,これとの比較において,原発放射線の影響を解析したのである。 また原子力安全研究協会の3年間におよぶ研究においてこの原因が,「,主に気温変化によることが明らかになり」というのも事実に反する。原子力安全委員会は,実験結果を発表する際に,原子力発電所のある方角から「」(),吹いてくる卓越風との関係をを隠蔽して発表するなど甲76の4原子力発電所の安全性を強弁するために事実を歪めている疑いが濃厚である。 そして,Z86の実験結果は植物についてのものではあるが,Z86氏を指導したZ229博士は1972(昭和47)年に植物とほ乳類の突然変異の機序は類似していると報告しており(甲76の2添付資料①「低線量のエックス線と中性子線によるムラサキツユクサにおける突然変異の誘発:線量反応関係曲線の分析,1975(昭和50)年にはヒトなどの」)哺乳動物の細胞の放射線感受性とムラサキツユクサ雄蘂毛の細胞の放射線感受性や突然変異率が同程度であると報告している(甲255「遺伝学と核時代」142~143頁,甲256「ムラサキツユクサのいくつかの種及び交配種の花弁の色に関す ムラサキツユクサ雄蘂毛の細胞の放射線感受性や突然変異率が同程度であると報告している(甲255「遺伝学と核時代」142~143頁,甲256「ムラサキツユクサのいくつかの種及び交配種の花弁の色に関する体細胞突然変異の頻度。したがって,上」)記の報告結果からすると,人体においても低線量被曝だからといって影響- 272 -を無視しうるものではないことは明らかである。 エチェルノブイリ事故についてまた,1審被告らは,チェルノブイリでは事故後10年くらいから甲状腺がんの有意な増加,特に小児甲状腺がんが多発した。したがって,チェルノブイリの場合は,ミルク摂取によりヨウ素131が体内に入った事による内部被曝が主因であり,広島・長崎においては,チェルノブイリのように特定の臓器にがんが多発したという傾向は全く見られないのであり,したがってこのことは,内部被曝の影響が無視しうる程度のものであったことの証左であるなどと主張している。 しかし,チェルノブイリ事故の問題の一つは,放射線影響の範囲が広範囲に及んだことから,その線量評価の困難性にあり,そのため,どの範囲に影響があったかについて様々な議論が行われている点にある。例えば,トルコの黒海沿岸では,がんの死亡率が他の地域に比較して上昇したという議論や,チェルノブイリ原発事故以後に,非がん疾患の発症率が増加しているといった報告等があり,チェルノブイリ事故の現在の評価だけで被爆者における内部被曝影響を否定することはできない。さらに原爆においてもがんについて,放射線影響が認められるようになったのは,かなり年月が経過した後のことであり,線量評価の困難性(特に対照群設定)を考えると,有意な相関を示さないことが放射線影響を否定する論拠とはならない。 判決から見た放射線被曝の認定1審被告らは一貫して放 経過した後のことであり,線量評価の困難性(特に対照群設定)を考えると,有意な相関を示さないことが放射線影響を否定する論拠とはならない。 判決から見た放射線被曝の認定1審被告らは一貫して放射線による急性症状は最低でも1グレイ程度,,「,以上,脱毛は頭部に3グレイ程度以上,下痢は腹部に5グレイ程度以上,被曝しなければ発症しないこの点は今日における放射線医学の常識であると。 ,。」主張し,新しい審査の方針採用後も,放射線影響の範囲に関する主張を変更しないそしてDS86ないしDS02による線量評価を基礎にして 。 ,,「. - 273 -キロメートルないし2キロメートル以遠で認められた『急性症状』も,原爆の初期放射線に起因するものとはいえない」と主張している。 しかし,集団訴訟における各地の判決は,これとは全く異なる判示をしてお,,,りこのような判決を受けて行政と司法との乖離をなくそうという意図から与党PT提言(乙223)がなされるに至ったのである。一審被告らは,在り方検討会の議論(乙217)こそが科学的であると主張するが,むしろ,判決の積み重ねを無視して,従来の議論を維持しようとしたものが,在り方検討会の結論なのである。 各地の判決は,①DS86の初期放射線の線量評価の問題を指摘するのみな,,らず②遠距離・入市被爆者に見られた症状から残留放射線の影響があるとしさらに,③内部被曝の影響等を十分考慮するものとして,1審被告らが放射線の影響によるものではないと主張する遠距離,入市被爆者について放射線起因性を肯定してきた。 これらの集団訴訟における各地の判決を十分しん酌すべきである。 第3「新しい審査の方針」 はじめに原審から当審に移行する過程で,従前のDS86・DS02と原因確率を柱とする 性を肯定してきた。 これらの集団訴訟における各地の判決を十分しん酌すべきである。 第3「新しい審査の方針」 はじめに原審から当審に移行する過程で,従前のDS86・DS02と原因確率を柱とする旧審査の方針(乙1)が廃止され,新審査の方針(乙225)が策定され,放射線起因性判断の基本が転換された。この転換は,旧審査の方針の下で原爆症認定申請を却下された1審原告らの放射線起因性の判断にも大きな影響を及ぼさずにはいられない。なお,新審査の方針は,積み重ねられた司法判断を十分には反映しておらず,転換が不徹底なものとなっており,それが原因となって本訴を含む全国の原爆症認定訴訟は全面解決に至っていない。 新審査の方針の採用の経過平成19年秋,安倍元内閣総理大臣の指示を受けて,原爆症認定の在り方の見直しが行われ,同年12月17日に,厚生労働省が設置した原爆症認定の在- 274 -り方検討会の報告(乙217)が出された。一方与党両党も,原爆被爆者対策に関するプロジェクトチームを作って,同年12月19日に提言(乙223)を発表した。検討会報告の特徴は,①個人ごとに線量を割り付けて原因確率によって判断するという旧審査の方針の枠組を基本的に承認していること,②DS02と原因確率を起因性判断に用いることを肯定していることの2点に集約。 ,,,できる一方与党PT提言はこの間に積み重ねられた司法判断をベースに典型疾病カテゴリー疾病という概念を立て典型疾病については特段の「()」,反証がない限り原爆症と認定するという判断手法を導入した。厚生労働省は,当時,検討会報告と与党PT提言は「アプローチは違いますが,その射程とするところは同じであると考えています」などと述べていたが,誰が見ても水と油,相容れない内容である。そして,翌年1月17日 省は,当時,検討会報告と与党PT提言は「アプローチは違いますが,その射程とするところは同じであると考えています」などと述べていたが,誰が見ても水と油,相容れない内容である。そして,翌年1月17日に厚生労働省が発表した「新しい審査のイメージ」(乙224)は,検討会報告を排斥し,大筋で与党PT提言に従った原爆症認定の在り方の見直しを選択した。 新審査の方針の内容平成20年3月17日の厚生労働省疾病・障害認定審査会原爆医療分科会において,新審査の方針が策定され,本年4月より,これによる原爆症認定が実施されるようになった。 ,,,新審査の方針は原因確率を改め被爆の実態に一層即したものとするため①被曝地点が爆心から約3.5キロメートル以内である者,②原爆投下時より約100時間以内に爆心から約2キロメートル以内に入市した者,③原爆投下より約100時間経過後であって原爆投下より約2週間以内の期間に,爆心地から約2キロメートル以内の地点に1週間程度滞在した者上記①から③を積(「極認定対象被曝」という)が,①悪性腫瘍(固形ガンなど,②白血病,③副。 )甲状腺機能亢進症④放射線白内障⑤放射線起因性が認められる心筋梗塞上,,(記①から⑤の疾病を積極認定対象疾病というに罹患した場合には格段「」。),の反対すべき事由がない限り放射線起因性については積極的に認定する積,(「- 275 -極認定」という)としている。 。 また,積極認定に該当しない場合でも。申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその放射線起因性を総合的に判断する(以下「総合認定」という)こととしている(乙225。 。 ) 旧審査の方針からの大転換旧審査の方針には,積極認定対象被曝も積極認定対象疾病もなかった。1審 別にその放射線起因性を総合的に判断する(以下「総合認定」という)こととしている(乙225。 。 ) 旧審査の方針からの大転換旧審査の方針には,積極認定対象被曝も積極認定対象疾病もなかった。1審被告らの主張によれば被曝線量を個別具体的に検討することなく申請疾病,「,の放射線起因性を判断することは,客観的かつ公正な原爆症認定を不可能とするものであり,被爆者援護法の予定するところではない」はずであった。そして,割り付けられる初期放射線量は爆心地から2.5キロ以遠ではほとんどゼロであり,入市者の被曝放射線量も爆心地から500メートル以遠ではほとんどゼロと評価されていた。放射線量ゼロなら原因確率はもちろんゼロである。 そこには,3.5キロメートル地点で被曝した者や100時間入市をした者が原爆症認定を受ける余地など全くなかったのである。新審査の方針が「原因確率を改め」と宣言したのも当然のことである。 新審査の方針から導かれるものこのように,原審以来,1審被告らはその正当性を,1審原告らはその誤りを,互いに総力をあげて主張立証してきた肝心のDS86,DS02,原因確率が審査基準からなくなってしまったのであるから,この大転換が本訴訟に大きな影響を与えるのは当然である。それは以下の4点に整理される。 ①被爆者援護法の放射線起因性について,厳密な意味での科学的立証にこだわって救済を拒否するのではなく,むしろ被爆者を広く救済するべきであることが,一致した被爆者援護法の解釈となったこと。 ②少なくとも,3.5キロメートル地点以内の被爆や100時間以内の入市の場合に当該被爆者が放射線影響を受けたこと,残留放射線・放射性降下物による放射線影響があること,また積極認定対象疾病は放射線の影響によっ- 276 -て一般的に発症する可能性のある疾病で の入市の場合に当該被爆者が放射線影響を受けたこと,残留放射線・放射性降下物による放射線影響があること,また積極認定対象疾病は放射線の影響によっ- 276 -て一般的に発症する可能性のある疾病であることが争いのない事実となったこと。 ③被爆者援護法の放射線起因性について,一定の事実があった場合に当該負傷又は疾病が放射線の影響によるものと推定するという判断手法をとることができることが,一致した解釈となったこと。 ④新審査の方針の採用は,DS86,DS02と原因確率・閾値を軸とする旧審査の方針の誤りを自認するものであること。 以下その点を詳述する。 原爆症認定のおける科学的知見の位置づけ1審被告らは,繰り返し,放射線起因性の判断に当たっては,確立した科学的知見に基づいて行われなければならないと主張してきた。放射線起因性に関する確立した知見があることを前提とし,それから離れてはならないとしているのである。これに対し,1審原告らは,原爆症認定において科学的知見の尊重を当然の前提としつつ,むしろ原爆被害が今日なお未解明であることが重要であり,科学的知見にこだわらず被曝実態を重視して判断すべきであることを強調してきた。 Z58訴訟最高裁判決は,放射線起因性の判断には民事訴訟における因果関,,係の立証に関する一般論が適用されるして高度の蓋然性の立証が必要でありまたこれをもって足りるとした。そして,数々の調査で示された被爆実態をあげた上で被上告人の脳損傷は中略原子爆弾の放射線を相当程度浴びた,「,(),ために重篤化し,又は右放射線により治ゆ能力が低下したために重症化した結果,現に医療を要する状態にある,すなわち,放射線起因性があるとの認定を導くことも可能であって,それが経験則上許されないとまで断ずることはできないと判示した り治ゆ能力が低下したために重症化した結果,現に医療を要する状態にある,すなわち,放射線起因性があるとの認定を導くことも可能であって,それが経験則上許されないとまで断ずることはできないと判示したこの判断基準はDS86DS02や原因確率いき値。」。 ,,,といった科学的知見を絶対視するのではなく,被爆実態を直視することを重視したものであり,現実を説明できない科学的知見を安易に適用することを強く- 277 -戒めたものである。その後のZ60訴訟東京高裁判決や一連の原爆症認定集団訴訟の判決がこの最高裁の判断基準に従ってきたものであることを疑いがない。 1審被告らは熟慮を重ねた結果科学的知見に必ずしもこだわらずに被,「」,「爆者の救済を可及的に行うとの行政上の政策判断から新審査の方針を定めた」,というこれは前述の原爆症認定は当然こうした科学的知見に基づいて。 ,()「行われなければならず,これらの知見から離れて行いうるものではない」との主張とは相容れないものであり,明らかに被爆者援護法11条1項の放射線起因性に関する解釈・適用基準における科学的知見の位置づけを変更したものである。1審被告らも,これまで最高裁を起点に原爆症認定集団訴訟で積み上げられてきた司法判断を受け容れざるをえなかったのである。 その結果,原爆症認定に当たっては,厳密な意味での科学的知見,厳密な立証にこだわって救済を拒否するのではなく,むしろ被爆の実態を直視して被爆者を広く救済するべきであることが,一致した被爆者援護法の解釈となったのである。それを具体化したのが,最高裁が示した「放射線起因性があるとの認定を導くことも可能かどうかそれが経験則上許されないとまで断ずることが」「できるかどうか」という判断基準である。 積極認定対 。それを具体化したのが,最高裁が示した「放射線起因性があるとの認定を導くことも可能かどうかそれが経験則上許されないとまで断ずることが」「できるかどうか」という判断基準である。 積極認定対象被曝の意義についていうまでもなく,原爆症認定は,当該負傷又は疾病の原爆放射線起因性を認定するものであるから,当該被爆者が「放射線の影響を受けたこと」は必須の要件である。いかに「科学的知見に必ずしもこだわらずに被爆者の救済を可及的に行う」と言っても,およそ放射線の影響を受けていない者に対して原爆症認定をする余地はない。積極認定対象被曝というカテゴリーを設けるということは,その範囲では無条件に,積極認定対象疾病の発症に影響を与える程度の。 ,,放射線の影響を受けていることを認めるものであるこれまで一審被告らはDS86,DS02から算定される初期放射線被曝線量のみが被爆者が受けた- 278 -放射線であり,放射性降下物や残留放射線は無視することができると主張してきたが,積極認定対象被曝は,放射性降下物や残留放射線の影響を認めなければ説明できない。1審被告らは,1審原告らは被爆者ではないとまで言ったのであるが,新審査の方針の下では,こうした主張はする余地がなくなった。 そうすると,積極認定対象被曝の被爆者が積極認定対象疾病以外の負傷又は疾病にかかったケースについては,放射線の影響を受けていることは争いがないのであるから,問題は,その放射線影響が,認定申請にかかる負傷又は疾病の発症に影響を与えたと認められるかどうかだけになる。例えば,1.1キロメートルで被曝した1審原告Z50(原告番号17)については,原爆放射線が肝硬変の発症に関与するかどうかだけが,2.2キロメートルで被曝した1審原告Z27(原告番号27)については,原爆放射線が甲状腺機能低 で被曝した1審原告Z50(原告番号17)については,原爆放射線が肝硬変の発症に関与するかどうかだけが,2.2キロメートルで被曝した1審原告Z27(原告番号27)については,原爆放射線が甲状腺機能低下症に関与するかどうかだけが争点となる。 一方,積極認定対象被爆以外の被爆者が,積極認定対象疾病に罹患したケースについては,どうして積極認定対象被曝からはずれると放射線影響がなくなるのかが争点となる。すなわち,新審査の方針がした線引きの合理的根拠の有無が論点である例えば食道がん・下咽頭がんに罹患した1審原告Z34原。 ,(告番号15)については,被曝した4.0キロメートルではどうして放射線の,(),影響が消滅するのか大腸がんに罹患した1審原告Z49原告番号12は昭和20年8月11日に広島に入市するとどうして放射線影響が消滅するのかが争点となる。 なお,新審査の方針では,積極認定対象被曝の範囲では急性症状の有無を問うていない。このことは,急性症状の発現には個人差があり,また急性症状自体の認識や記憶にも差があることを承認し,急性症状の存在が証明されなくても放射線影響を否定しえないことを意味する。急性症状が認定できる場合に,それを放射線影響を示す間接事実とすることは正当であるが,逆に急性症状が認定できないことを過大に評価して放射線影響を否定することは,新審査の方- 279 -針の考え方からも大きく逸脱することになる。この点,急性症状を認定できなかったことを放射線起因性否定の大きな根拠とした原判決の判断は見直されなければならない。 放射線影響の推定積極認定は積極認定対象被曝・積極認定対象疾病が認められる時は格段,,「の反対すべき事由がない限り,放射線起因性については積極的に認定する」としている。これは,積極認定対象被曝の場合に の推定積極認定は積極認定対象被曝・積極認定対象疾病が認められる時は格段,,「の反対すべき事由がない限り,放射線起因性については積極的に認定する」としている。これは,積極認定対象被曝の場合には積極認定対象疾病の放射線起因性を推定し,挙証責任の転換がはかられたものである。この考え方は,司法判断においても参照されるべき考え方で,起因性の解釈・判断に取り入れることができる。 第1審以来,1審原告らは,原爆症認定の要証事実は,①申請人が広島又は長崎に投下された原爆の放射線影響を受けたこと,②申請人の負傷又は疾病が一般的に原爆放射線によって発生する可能性のある負傷又は疾病であること,の2点に尽きる,と主張してきた。そして,原爆症認定に関する医師団意見書(甲40)を根拠に,①の放射線影響を推定させる事実として,初期放射線被曝・放射性降下物被曝など7点を挙げ,②の一般的に原爆放射線によって発生する可能性のある負傷又は疾病として悪性腫瘍・白内障など5疾病を挙げ,これらについては,放射線起因性が推定できると主張した。新審査の方針は,その一部を取り入れたものである。つまり,一定の事実が認められる場合に放射線起因性を推定するという判断方法を厚生労働省も認めたのであり,被爆者援護法の放射線起因性の解釈として,かような判断手法をとることができることが当事者の一致した解釈となったのである。当審が原爆症認定の判断基準を立てるに当たっても,この点を踏まえ,厚生労働省も認めた推定の手法を取り入れるべきである。 旧審査の方針の誤りの自認,,,既に述べたように新審査の方針は旧審査の方針の土台であったDS86- 280 -DS02,原因確率論・いき値論を放棄したものである。そして,従来考慮の必要性はないとしていた残留放射線や内部被曝の影響を考慮しているこ 審査の方針は旧審査の方針の土台であったDS86- 280 -DS02,原因確率論・いき値論を放棄したものである。そして,従来考慮の必要性はないとしていた残留放射線や内部被曝の影響を考慮していることも明らかである。 1審被告らは,新審査の方針の策定は新たな政策が採用されたからで,被爆者援護法の解釈を変えたものでも,旧審査の方針に誤りがあったためでもないと強弁するが,前記のように,科学的知見の位置づけにおいても,又推定という判断方法の導入という点においても,被爆者援護法11条の解釈に変更があったことは明らかである。また,原処分を取り消して新たに認定したのは,本来放射線起因性を認めるべきケースについて,旧審査の方針に基づいて放射線起因性を否定してきたからであって,本来認定すべきものを認定しないとの結果を導く基準であったという点において,旧審査の方針に誤りがあり,認定すべき申請を却下した処分に違法性があったことは疑いがない。 新審査の方針の問題点新審査の方針は,従来の解釈・適用基準を大転換したものであるが,依然として放射線起因性の解釈として問題を残している。 第1に,がん・白血病についてさえ時間や距離の線引きがなされ,積極認定されない場合があることである与党PTの提言乙223ではがん白血。 (),「,,,病に関しては放射線起因性が極めて高いことからすべてのケースにおいて最大限の配慮を行うものとする」とされていたが,この点は新審査の方針に反映していない。 第2に,積極認定対象疾病が5つの疾病に限定されており,判決で放射線起()因性が認められることが確立している疾病甲状腺機能障害や肝機能障害などが積極認定の対象とされていないことである。現在,大量の認定申請が滞留を起こしているが,積極認定対象疾病が限定されていること )因性が認められることが確立している疾病甲状腺機能障害や肝機能障害などが積極認定の対象とされていないことである。現在,大量の認定申請が滞留を起こしているが,積極認定対象疾病が限定されていることはその原因となっている。かねてより司法判断と行政の乖離が問題とされ,与党PT提言によってそれが縮められたことは前述の通りであるが,積極認定対象疾病の範囲に関し- 281 -ては全く不十分というべきである。 第3に,総合認定のあり方が不明確のままであることである。現在,総合認定は月間20件程度しか審査が進んでいない。これでは7500件と言われる申請に対して処分が出されるのがいつになるか見当もつかない状況である。総合認定の在り方については,大阪高裁や仙台高裁を含む多くの裁判例で述べられた基準も十分には取り入れられていない。 当審が,こうした新審査の方針の不十分な点にも目を向け,明確にその点を指摘して,あるべき認定基準を示されることを求めるものである。 第4各1審原告の原爆症認定要件の検討 1審原告Z32(原告番号4)(1)被爆状況及びその後の健康状態1審原告Z32の被爆状況に関する原審の認定事実は,基本的に1審原告らの主張のとおりであるが,より具体的に示すと以下のとおりである。 1審原告Z32は,被爆当時17歳で,広島市金輪島で軍属として勤務していた。そして,広島県高田郡α1の自宅から職場に向かうため広島駅から紙屋町経由の市電に乗り宇品港へ行く途中,御幸橋の手前の千田町三丁目付近(爆心地から約2キロメートル)の市電の中で被爆した。 原爆が炸裂した瞬間には,電車の中程,進行方向向かって左側の窓に向かって,つり革につかまった外を見ており,電車内の混雑具合については,乗客で満員で,つり革をもっていた1審原告Z32の前にも人が立っていたほどであっ 間には,電車の中程,進行方向向かって左側の窓に向かって,つり革につかまった外を見ており,電車内の混雑具合については,乗客で満員で,つり革をもっていた1審原告Z32の前にも人が立っていたほどであった。原爆の炸裂の瞬間,青白い閃光が走り,顔に熱を感じた。その,,,瞬間窓の外の建物の向こう側で板塀とかいろんなものが噴きあがるのが映画のスローモーションを見るように目に入った。その後,失神して気を失った。その後,気がついた後に外へ出たが,周囲は,煤塵,埃によって暗かった。煤塵やいろんなものが目に入っため,御幸橋のたもとまできて目が痛くて開けられなくなった。そこで,1審原告Z32は,我に返り,川へ降り- 282 -て眼を洗った。その後,御幸橋を渡り,皆実町の専売公社の前から広陵中学の前を通り,左に曲がって,翠町,丹那を通り,宇品線の線路を北上し,東段原の鉄橋を渡り,南蟹町から広島駅付近を通過して,午後3時すぎまでに。 ,,。 矢賀町に到達したそして午後4時すぎの救援列車に乗り自宅へ戻った1審原告Z32は,8月7日に金輪島に渡り,同月20日ころまで金輪島に送られてきた被爆者20名程度の世話をした。多くは重篤な火傷をしており,外見からは男女さえ見分けがつかない状態であった。これらの患者をおんぶしたり,だきかかえたりしながら,トイレの世話,食事の世話を含む看護をした。また,化膿した傷に産み付けられて孵化したウジをとる作業をしたりした。また,死体償却作業にも従事した。その後,8月20日ころ,いったん自宅に帰った後,再び金輪島に渡り,9月20日すぎに軍が解散するまで金輪島にいた。 1審原告Z32は,被爆後,風邪が治りにくい傾向があり,30歳ころに虫垂炎切除術,32歳ころに中耳炎となった。そして,平成12年10月に前立腺がんの診断を受けた。 軍が解散するまで金輪島にいた。 1審原告Z32は,被爆後,風邪が治りにくい傾向があり,30歳ころに虫垂炎切除術,32歳ころに中耳炎となった。そして,平成12年10月に前立腺がんの診断を受けた。 (2)1審被告らの主張に対する反論1審被告らは,ABCC調査記録(乙1004の7)の記載を根拠に,1審原告Z32が被爆したのは金輪島であると主張する。しかし,1審原告Z32は,原審,控訴審を通じて,一貫して広島市千田町3丁目付近の市電車内で被爆したと供述しており,市電の経路に関する1審原告Z32の供述に不合理な点は見られず,信ぴょう性に問題はない。1審原告Z32は,ABCCの調査を受けた事実を記憶していないが,ABCC調査の性格上,被爆者に対して屈辱的で苦痛を強いるものであったため,多くの被爆者が調査に協力的ではなく,1審原告Z32も同様の感情を抱いていたもので,ABCC調査記録の内容は必ずしも事実を反映したものではない。したがって,ABCC調査記録の記載内容のみをもって,原判決も認定した同1審原告の被- 283 -爆場所を覆すことは許されない。 また,1審被告らは,ABCC調査記録に急性症状の記載がないことをもって1審原告Z32に急性症状がなかったと主張する。しかし,原判決も認めるとおり,同1審原告の生じた脱毛は,被爆状況や発症時期,他に有力な原因が考えられないことなどからみて放射線の影響によるものと考えるのが合理的であり,倦怠感等の体調不良は,救援作業終了から3か月ほど続き,通常の疲労や感染症とは考え難いことや,被爆前が健康体であったことからすれば,これらも放射線の影響によるものであった可能性がある(原判決142頁ABCC調査記録乙1004の7に急性症状の記載がない点に)。 ()ついても,前述の被爆場所に関する記載と同様, すれば,これらも放射線の影響によるものであった可能性がある(原判決142頁ABCC調査記録乙1004の7に急性症状の記載がない点に)。 ()ついても,前述の被爆場所に関する記載と同様,ABCC調査記録は事実を正確に反映していない可能性がある。 (3)申請疾病(前立腺がん)の放射線起因性1審原告Z32は,爆心地から約2キロの地点で直爆に遭った後,さらに翌日から被爆者の救護にあたるなどしたために大量の放射線に被爆した結果,倦怠感や脱毛,下痢に苦しめられ,その後も体調不良が継続する中,ついに,申請疾病を発症させたものであり,1審原告Z32の申請疾病が放射線に起因することは明らかである。 (4)申請疾病の要医療性1審原告Z32は,前立腺全摘手術を受けており,その後医学管理を要する状態にあり(甲1004の3「医師個別意見書,また,現在でも検診の」)都度潜血があり精密検査を要するとされている,したがって,1審原告Z32の要医療性は明らかである。 1審原告Z26(原告番号9)(1)被爆状況及びその後の健康状態1審原告Z26は,被爆当時25歳の男性である。被爆前は健康であり,軍隊にも甲種合格した。1審原告Z26は,宇品市営桟橋から連絡船で10- 284 -分ほどの鯛尾(爆心地から約7キロメートル)において,宇品船舶司令部付整備教育隊の下士官として,屋外で朝の点呼をしていたが,突如,真正面から原爆の光線を浴び,次の瞬間,猛烈な爆発音とともに爆風に襲われた。 8月6日,7日は,鯛尾で,被爆者の救護活動の指揮を執り,その際,重傷の被爆者を支えるなどした。8月8日は,知人の捜索と被爆状況の確認のために,宇品港から広島市内に入り,市電の線路づたいに爆心地付近を通っ,。 ,て己斐駅付近まで出掛け翌9日にも広島市内に入った1審原告 者を支えるなどした。8月8日は,知人の捜索と被爆状況の確認のために,宇品港から広島市内に入り,市電の線路づたいに爆心地付近を通っ,。 ,て己斐駅付近まで出掛け翌9日にも広島市内に入った1審原告Z26はこの入市の際に,原爆ドームの近くで仰向けになった馬と緑色の腸が飛び出した人間の死体を見た。また,5,6人が相談事をしているのかと思い,声をかけたり押したりしてみたが,実際には防火用水の中に頭を突っ込んだ形で死亡している人々であることが分かった。さらに,市内の救護所の様子,紙屋町付近で土地を守る人,練兵場で弁当箱が並んでいる様子,遺骨判別のための名前や特徴の一覧表などを見た。 1審原告Z26は,9月6日に復員命令を受けて帰京したが,帰京の際,歩くのもつらいほどだるかった。帰京後も,ひどい倦怠感が続いたため,帰京の2か月余り後,検査を受けたところ白血球が2万4000に増加していたが,入院をしている状況ではなく働かざるを得なかった。3年後,再度強い倦怠感があったため再度検査を受けると,白血球数は1500に減少し,特に治療は受けなかったが倦怠感は続いた。 その後個人タクシーの免許を取得して働いたものの,昭和36年変形性脊椎症に罹り,1か月間入院した(その後も現在まで痛みはとれず,通院治療を受けている。 。)平成10年12月10日,前立腺がんと告知され,それ以降体調が悪い状態が続いており,現在もホルモン治療を受けている。平成16年1月には帯状疱疹であることが判明し,入院治療を受けた。同年12月19日に血尿が出た。平成15年から平成16年にかけて体重が10キログラム減少し,現- 285 -在は55キログラムである。 (2)入市時期に関する主張原判決は1審原告Z26の入市日につき8月18日宇品港から広島市,「,内に入り,市電の線路づ が10キログラム減少し,現- 285 -在は55キログラムである。 (2)入市時期に関する主張原判決は1審原告Z26の入市日につき8月18日宇品港から広島市,「,内に入り,市電の線路づたいに爆心地付近を通って己斐駅付近まで出掛け,19日にも広島市内に入った154頁との事実認定を行い入市時期。」(),「も被曝から10日以上経過した8月18日以降ということになるから,残留放射線等の影響もそれほど大きいものではなかったと考えざるを得ないと。」する156頁しかし1審原告Z26の入市時期は8月8日もしくは9()。 ,日であって,原判決の上記事実認定は誤りである。 (3)申請疾病(前立腺がん)の放射線起因性,,1審原告Z26は爆心地から約7キロメートルの鯛尾で被爆したものの8月8日,9日には広島市内に入市して,爆心地(現在の原爆ドーム付近)にも立ち寄っている。また,急性症状を発症し,その後も長い間倦怠感が続いたほか,現在に至るまで様々な体調不良が継続している。したがって,1審原告Z26が相当量の原爆放射線に被曝していることは明らかであり,この点において原判決の認定は誤りである。1審原告Z26の前立腺がんについて,原爆放射能による起因性を肯定すべきである。 (4)申請疾病の要医療性1審原告Z26は,前立腺がんの治療として,申請時もホルモン療法を行っていたのであるから,治療を要する状態であることは明らかである。 1審原告Z18(原告番号11)1審原告Z18に関する唯一の争点は要医療性である。 (1)治療の経緯1審原告Z18は,平成6年2月14日,Z195病院において直腸がんの切除手術を受け,その後約6年間,同病院に通院し,年1回程度の頻度で経過観察を受けていたものである。 - 286 -1審原告Z 1審原告Z18は,平成6年2月14日,Z195病院において直腸がんの切除手術を受け,その後約6年間,同病院に通院し,年1回程度の頻度で経過観察を受けていたものである。 - 286 -1審原告Z18のような早期の大腸がん(直腸がん)であっても,切除術後5年間程度は数%の再発・転移の可能性は否定できず,この間は年1回程度フォローの検査を行うことが通常である。また,大腸ポリープ・癌の既往を持つ患者は,その再発の頻度が高いため,定期的な大腸検査をその後も継続して行い経過観察を行うことが一般的である。 これに加え,1審原告Z18は,平成6年に直腸切除術を受けているが平成13年に胃癌も発見された。大腸癌と胃癌は直接の関係はないとはいえ,上記の判断とあわせて,認定申請時(平成14年4月19日)以降も新たな大腸癌の発症有無を調べる検査を定期的に行うことは,臨床医として一般的に行うことだと考えられる。 1審原告Z18は,平成12年1月13日にZ196病院に外来初診し,平成13年9月及び12月に当院にて胃癌の手術をうけた。この術後から現在に至るまで,月1回毎に同院外来を受診し,胃癌と大腸癌の経過観察を受けている。そして,その都度外科医による問診,診察と適宜の便潜血検査及び胃と大腸内視鏡検査及び腫瘍マーカー検査等が施行されている。しかも,大腸ファイバースコープ検査を平成13年11月13日,平成17年11月10日に施行している。いずれも特別の所見はなかったが,今後とも,3~4年毎の検査を行っていく予定とされている。 (2)要医療性の判断定期検査又は健診自体は,申請疾病に対する積極的な治療行為ではないにしても,早期発見,早期治療の機会を確保し,再発した場合であっても,疾,,病の重篤化を防止し早期回復を図る方法として必要不可欠なものであって積極的治療 申請疾病に対する積極的な治療行為ではないにしても,早期発見,早期治療の機会を確保し,再発した場合であっても,疾,,病の重篤化を防止し早期回復を図る方法として必要不可欠なものであって積極的治療行為にも匹敵するものというべきである。そして,1審原告Z18は,前述のとおり大腸がん(直腸がん)及び胃がんを発症し,再発の頻度が高く,そのため,認定申請時(平成14年4月19日)にいたるまで,Z195病院では年1回Z196病院においては月1回経過観察定期検査又は,(「- 287 -健診」とほぼ同義であり,具体的には前述のとおり便潜血検査,内視鏡検査等を行っている)を受けているものである。これはまさに,1審原告Z18は,再発の頻度が高いことから,早期発見,早期治療のため,積極的治療行為にも匹敵する定期検査又は健診を受けているものであり,要医療性が認められることは明らかである。 (3)1審被告らの主張に対する反論なお1審被告らは1審原告Z18の要医療性についての結論として上,,「記手術後は,経過観察以上の積極的な医療行為はされておらず,今日に至るまで直腸がんの再発や転移はない・・・必要な医療の内容としては再発を。 ,チェックするための通院しか指摘しておらず・・・以上のような客観的な状,況等にかんがみると,同原告に係る直腸がんに関しては,医療を要する状態にないというべきである」と主張する。 。 しかし,この主張は,要医療性が認められるためには,あたかも「がんの再発や転移が必要」とするかのごとき主張であり,1審被告らも認める「定期検査又は健診が積極的治療行為にも匹敵するものであり,要医療性が認められるとの考え方」に反するものである。しかも,前述の1審原告Z18の経過観察(定期検査又は健診)の経緯からすれば,具体的な事情に照らして 健診が積極的治療行為にも匹敵するものであり,要医療性が認められるとの考え方」に反するものである。しかも,前述の1審原告Z18の経過観察(定期検査又は健診)の経緯からすれば,具体的な事情に照らしてみても,要医療性が認められるべきものである。 (4) 結論 以上により,1審原告Z18の申請疾病(直腸がん)の要医療性の存在は明らかであるから,1審被告厚生労働大臣が積極認定を行わなかったことは不当である。 1審原告Z49(原告番号12)(1)被爆状況及びその後の健康状態1審原告Z49の主張する被爆状況及びその後の健康状態は,原判決が認定するとおりであり,その内容は次のとおりである。これらの事実は,原審- 288 -における証拠及び当審における証人Z197の証言等によって十分裏付けられており,1審被告らが当審で提出するABCC記録や原爆手帳交付申請書添付資料等の内容は不確実なものであって,原判決の事実認定を覆すものではない。 ア被爆状況について1審原告Z49は,昭和▲年▲月▲日生まれの女性であり,被爆当時は4歳で健康上問題はなく,幼稚園に元気に通っていた。 1審原告Z49は,昭和20年8月6日の原爆爆発時,広島県安佐郡落合村の国鉄芸備線玖村駅付近(爆心地から7,8キロメートル)にいた。 1審原告Z49は,8月11日,姉と共に母に連れられて,広島市α2の自宅跡(爆心地から1.4ないし1.5キロメートル)に戻った。妹は安佐郡の親戚の家に預けられ入市はしていない。1審原告Z49らは,矢賀駅まで列車で行き,矢賀駅から広島駅まで線路づたいに歩き,広島駅から電車通りを歩いて自宅に戻った。自宅は焼けており,ガラス瓶が溶けてくっついたものなどが散乱していた。 ,,,,自宅跡に戻ってから1審原告Z49は姉と共に薄着で素手のまま,,。 母が から電車通りを歩いて自宅に戻った。自宅は焼けており,ガラス瓶が溶けてくっついたものなどが散乱していた。 ,,,,自宅跡に戻ってから1審原告Z49は姉と共に薄着で素手のまま,,。 母が自宅の瓦礫を掘り返すのを手伝い全身泥まみれ埃まみれとなった1審原告Z49らは,母が自宅庭の隅に豆,麦,米,缶詰などを入れて埋めていた甕を掘り出し,中身に異常がないように見えたのでその豆などを食べ,破裂した水道管から水を飲んでいた。 1審原告Z49らは,8月12日から,伯母の家族を捜すため,中国新聞や八丁堀のあたり(爆心地から約900メートル)まで歩いた。 1審原告Z49らは,8月16日まで自宅跡に留まって,自宅の瓦礫を掘り出したり,市内を歩き回ったりした。その後は安佐郡の親戚方に戻ったが,昭和21年春ころまでには自宅跡での生活を始めた。 イ急性症状等について- 289 -,,,。 1審原告Z49は入市から2週間後くらいから下痢発熱が続いた1審原告Z49は,約2年間,発熱や下痢を繰り返し,いったん症状が出るとなかなか治らず,幼稚園も休みがちであった。薬草を煎じたり漢方薬を飲んだりした。5歳ころには,命が危ぶまれるほどの高熱が続き,医師を呼ぶなどした。姉も下痢,発熱を続けていたが,入市しなかった妹には頻繁な下痢や発熱といった症状はでなかった。 1審原告Z49は,小学校3年生ころまでは病弱で体調を崩すことが多かった。小学校に登校しても,疲れやすく,体がだるく体育の授業を見学することが多かった。このころは,医師による投薬治療を受けることもあった。姉にも体がだるいという症状はあったが,妹にはそのような症状はなかった。 ウ晩発性障害等について1審原告Z49は,その後,18歳のときに盲腸炎になったほかは,大きな病気になることはなかったが,徹夜で も体がだるいという症状はあったが,妹にはそのような症状はなかった。 ウ晩発性障害等について1審原告Z49は,その後,18歳のときに盲腸炎になったほかは,大きな病気になることはなかったが,徹夜で洋裁をしようと思っても,身体が思うように動かず徹夜ができない,疲れやすい,といった傾向がみられた。 ,,。 1審原告Z49はたばこや酒をたしなまず食生活に偏りもなかった1審原告Z49は,昭和54年に白血球減少症との診断を受け,その後も同症状が続き,平成14年5月30日現在で3700である。 1審原告Z49は,平成13年1月(満59歳)に直腸がんの診断を受け,同年2月に手術を受けたが,平成14年4月に再発し,同年5月に再手術を受けた。1審原告Z49は,平成15年5月(満62歳)に骨盤内にがんが転移し,化学療法と放射線治療を受け,さらに平成16年に腸閉塞を併発した。 姉は昭和60年に腎臓がんを発症したが,両親,祖父母,妹らでがんに罹患した者はいない。 - 290 -(2)申請疾病(直腸がん)の放射線起因性1審原告Z49の自宅跡やその周辺は,誘導放射化した土壌や瓦礫からのガンマ線・ベータ線照射が持続し,また,目に見えない微小な誘導放射性物質(塵埃等)も存在している環境である。その結果,ガンマ線・ベータ線の外部照射による外部被曝のみならず,経口・経鼻・経皮を通じ,放射能汚染,。 ,物質・微粒子が体内へ侵入し蓄積するという内部被曝を受けたその結果承継前1審原告Z49には,典型的な急性症状である下痢,発熱が生じ,そ。 ,,れは同じく入市した姉にも生じているまた全身倦怠感は成人しても続き白血球の減少も見られる。これらは,残留放射線による内部被曝を強く推測させる事実である。 よって,承継前1審原告Z49の申請疾病が放射線に起因することは明ら 生じているまた全身倦怠感は成人しても続き白血球の減少も見られる。これらは,残留放射線による内部被曝を強く推測させる事実である。 よって,承継前1審原告Z49の申請疾病が放射線に起因することは明らかであり,新審査の方針においても総合認定がなされるべきである。 (3)申請疾病の要医療性1審原告Z49は,本件申請時において継続して医療が必要な状態にあったのであるから,要医療性が認められることは明らかである。 1審原告Z34(原告番号15)(1)被爆状況及びその後の健康状態1審原告Z34の被爆状況及びその後の健康状態に関する原審の認定事実は,基本的に1審原告らの主張のとおりであるが,より具体的に示すと次のとおりである。 1審原告Z34は,25歳の時,広島の陸軍船舶練習部教導連帯第6中隊(高柳隊)に配属されており,その駐屯地であった仁保国民学校(爆心地より約4キロメートル)にて被爆した。教室の北向きの開け放しのドアの近くに立っていたところ,突然強い閃光を顔の正面方向から受け,次の瞬間爆風を受け轟音が聞こえ,身体に木材などがぶつかってきて,意識を失った。その後建物外へ避難したときに,大きなキノコ雲とそこからちらちらと何かが- 291 -。 ,。 落下してくるのを目撃したなお仁保国民学校は黒い雨の降雨地域であるその後2,3日は,臨時の野戦病院になった同校にて,負傷者の介護や死亡者の搬送作業を行った。8,9日ころには比治山の南側の船舶通信補充隊爆心地より約25キロメートルに出かけさらに数日後には万代橋爆(. ),(心地より約900メートル)まで行った。9月中旬頃まで広島市内に留まった。 1審原告Z34は,被爆前は健康に特別の問題はなかったが,8月20日ころ,皮膚下に紫斑が出現し,血性下痢が始まった。8月末ころに歯茎から 0メートル)まで行った。9月中旬頃まで広島市内に留まった。 1審原告Z34は,被爆前は健康に特別の問題はなかったが,8月20日ころ,皮膚下に紫斑が出現し,血性下痢が始まった。8月末ころに歯茎からの出血と右肘の傷の化膿も現れた。 その後,1975(昭和50)年ころ高血圧症,1986(昭和61)年ころから下痢,1990(平成2)年に結腸がんなどの疾病を重ね,2000(平成12)年に食道がん,2002(平成14)年に右下咽頭がんと診断された。 (2)申請疾病(下咽頭がん,食道がん)の放射線起因性下咽頭がん及び食道がんは,新しい審査の方針における積極認定対象疾病,。 ,であり放射線起因性の認められる疾病であることは明らかであるそして1審原告Z34は,爆心地より約4キロメートルの地点で被爆したのみならず,その後も同所にて,被爆した負傷者らの介護,死亡者の搬送などを行い複数の被爆者と接触した。負傷者や死亡者らは,放射性物質を衣服や皮膚に付着させ,また,自ら放射化されていたのであり,1審原告Z34は,これらからも被爆している。また,被爆2日後の8月8日あたりからは,広島市内で復旧・片付け作業や状況調査を行うため,より爆心地に近い場所に出向いている。裁判所の認定事実は前述のとおりであるが,実際の行動については,例えば作業の途中で道具を取りに行く,水を探しに行くなどでより爆心地近くに入った可能性もあり,プラスマイナス500メートル程度は誤差の範囲であるし,放射性降下物や誘導放射化された物質は相当量存在していた- 292 -はずであるから,この行動により内部被爆や残留放射線による外部被爆した。 ,,ものと考えられるさらに1審原告Z34が相当線量被爆していることは前述したその後の症状や健康状態からも明らかであるうえ,申請疾病の他にS状結腸が り内部被爆や残留放射線による外部被爆した。 ,,ものと考えられるさらに1審原告Z34が相当線量被爆していることは前述したその後の症状や健康状態からも明らかであるうえ,申請疾病の他にS状結腸がんにも罹患しており,これは多重がんである。多重がんは被爆者()。 ,,に特徴的に現れる甲290またがんは一般的には遺伝的要素が強いが1審原告Z34の父母・兄弟8人の中でがんに罹患したものは本人の他にいない。 これらの事情にかんがみれば,1審原告Z34の申請疾病が放射線に起因することは明らかであり,新審査の方針においても総合認定がなされるべきである。 (3)申請疾病の要医療性原判決も判示するように,1審原告Z34の要医療性に問題はない。 1審原告Z50(原告番号17番)(1)被爆状況及びその後の健康状態1審原告Z50の被爆状況及びその後の健康状態に関する原審の認定事実は,基本的に1審原告らの主張のとおりであるが,より具体的に示すと次のとおりである。 1審原告Z50は,14歳の時に広島市α3×番地の自宅内(爆心地から約1.1キロメートル)で被爆した。被爆後,自宅からZ253に向かって歩いたが,袋町小学校(爆心地から約600メートル)付近で引き返し,自宅の近所にあったZ203病院に向かった。夕方ころ,Z203病院から鷹野橋,明治橋,住吉橋を渡り,途中で産業奨励館(現在の原爆ドーム)付近を通過し,川内村にある疎開先まで戻った。 翌日から発熱,嘔吐があり,8月15日ころから脱毛,倦怠感,下痢が生じた。倦怠感は長く続き,学業・仕事に支障が生じる状態であった。1953(昭和28)年に腎臓結石があり,平成4年以降肝機能が悪化した。平成- 293 -5年ころには再び腎臓結石が発見され,その後C型肝炎,肝硬変の診断を受け,平成16年7月には肝 態であった。1953(昭和28)年に腎臓結石があり,平成4年以降肝機能が悪化した。平成- 293 -5年ころには再び腎臓結石が発見され,その後C型肝炎,肝硬変の診断を受け,平成16年7月には肝臓がんを発症した。 (2)申請疾病(肝硬変)の放射線起因性1審被告らは,C型肝炎,肝硬変については,その発症,進行について,そもそも放射線との関連性を認めることができない疾病であること,仮に,C型肝炎,肝硬変の発症,進行について放射線との関連性が否定できないとしても,1審原告Z50について,診療録等の医学的証拠により明らかになったC型肝炎及び肝硬変の経過は,非被爆者に見られる一般的な経過と何ら異なることがないこと等を主張する。 1審被告らのこれらの主張が誤りであり,一般に,C型肝炎,肝硬変に放射線起因性が認められ,C型肝炎の症状が一般的な経過と何ら異ならないことは放射線起因性を否定する根拠にならない。この点,Z60訴訟において勝訴した原告Z60は爆心地から1.3キロメートルの地点で被爆したが,1審原告Z50は爆心地から1.1キロメートルの地点で被爆しており,より近距離である。しかも,その後間もない時間に爆心地から約600メートルの地点まで近づいている。なお,Z60のC型肝炎の経過も一般的経過と何ら異なることはない。 したがって,1審原告Z50の申請疾病が放射線に起因することは明らかであり,新審査の方針においても総合認定がなされるべきである。 (3)申請疾病の要医療性1審原告Z50は,本件申請時に申請疾病である肝硬変の治療を受けており,申請時に要医療性が認められることは明らかである。 1審原告Z36(原告番号18番)(1)被爆状況及びその後の健康状態1審原告Z36の被爆状況及びその後の健康状態に関する原審の認定事実は,基本的に1審原 療性が認められることは明らかである。 1審原告Z36(原告番号18番)(1)被爆状況及びその後の健康状態1審原告Z36の被爆状況及びその後の健康状態に関する原審の認定事実は,基本的に1審原告らの主張のとおりであるが,より具体的に示すと以下- 294 -のとおりである。 1審原告Z36は,14歳の時に長崎市目覚町所在の木造2階建てのZ206病院Z207分院(爆心地から約1.0キロメートル)内で被爆した。 建材やガラス片により頸部等を受傷し,その後爆心地から約0.8キロメートルにある防空壕内で,泥水をすすりながら,8月12日もしくは13日の朝まで寝たままで過ごした。 ,,,,,,,被爆直後から歯茎から出血が生じ歯が抜け高熱嘔吐吐血下痢下血,紫斑,脱毛などの症状が現れた。その後,3回にわたるガラス片摘出手術を受けたが,ガラス片を摘出した痕の傷口が化膿して,傷がいつまで経っても治癒しない状態が続いた。さらに,1975(昭和50)年ころまで全身倦怠感が続き,流産を2回,死産を2回繰り返した後の1963(昭和38)年(当時32歳)には月経が止まり,その年の夏ころ大量の不正出血を起こした。1995(平成7)年ころと2000(平成12)年ころに白内障の手術を受けるなど放射線起因性が疑われる多数の疾病に罹患してきた。なお,2008(平成20)年1月には肝がんと診断された。 1審原告Z36の原爆症認定申請に係る頭の左後ろの有痛性瘢痕(傷の長さ約2センチメートル,硬結の直径約5ミリメートル)は,ガラス片を摘出した手術の痕である。手術後も傷口が化膿し,傷が治らないという状況が続いたが,傷口が化膿しなくなった後も,痛みを伴う瘢痕となり,現在でも触るとキリキリと痛み,四六時中頭が重たい状態となったものである。 (2)申請疾病(頸 後も傷口が化膿し,傷が治らないという状況が続いたが,傷口が化膿しなくなった後も,痛みを伴う瘢痕となり,現在でも触るとキリキリと痛み,四六時中頭が重たい状態となったものである。 (2)申請疾病(頸部有痛性瘢痕)の放射線起因性ア1審原告Z36の申請疾病である頸部有痛性瘢痕の放射線起因性は,原判決が認容した説示のとおりである。 イ1審被告らは,1審原告Z36の症状について,既にX線撮影及びCT検査で十分に精査され,硬結内にガラス片の残存がないことが確認されており,自発痛を生じていないことからも分かるように患部周辺に重篤な病- 295 -変が広がっているものでもなく,これを60年以上前の原爆の放射線によるものであるなどということは,余りに素人的な判断であると主張する。 しかし1審原告Z36はいつも痛みは感じていますと供述してお,,「」り,自発痛がないとの主張は,殊更に事実をねじ曲げようとするものであって失当である。また,放射線被曝そのものが外傷治癒に影響を与えたことは,当時の調査からも知られているものであり,1審被告らの主張は,1審原告Z36に生じた障害について,何らの根拠もなく一般的な外傷や異物侵入に伴う頸部皮下の変化と断ずるものに過ぎない。 ウ1審被告らは,1審原告Z36の頸部有痛性瘢痕と外傷との因果関係の存在自体に疑問を呈している。 しかし,放射線被曝そのものが外傷治癒に影響を与えること,放射線被曝は創傷治癒の阻害因子であることは一般に知られている。また,そもそも1審原告Z36は,原審において,その頸部受傷部からガラス片がすでに排出されていることを前提にして,放射線起因性の存在を主張,立証しているところ,原判決は,かかる前提の下に,1審原告Z36の申請疾病である頸部有痛性瘢痕の放射線起因性を認定しているのであって,1 に排出されていることを前提にして,放射線起因性の存在を主張,立証しているところ,原判決は,かかる前提の下に,1審原告Z36の申請疾病である頸部有痛性瘢痕の放射線起因性を認定しているのであって,1審被告らの主張は的外れというほかない。 エさらに,1審被告らは,治癒の経過について,通常の創傷の治癒の経過と異なることはないこと,1審原告Z36の血液検査による白血球数は,昭和63年10月4日時点で4500,平成5年2月24日時点において4600であり,正常範囲内であるから,創傷治癒過程に免疫力の異常が関与していたとは考え難いと主張する。 しかし,原爆放射線の影響によって免疫力の異常が見られ,それが1審原告Z36の頸部受傷部の創傷治癒過程に関与したのは被爆直後からのことであるところ,被爆後38年以上が経過した昭和63年当時,および被爆後47年が経過した平成5年当時の白血球数をもって「創傷治癒過程に- 296 -免疫力の異常が関与していたとは考え難い」と断ずることなどおよそできるものではない。 オしたがって,1審原告Z36の申請疾病が放射線に起因することは明らかであり,新審査の方針においても総合認定がなされるべきである。 (3)申請疾病の要医療性ア1審原告Z36の申請疾病について要医療性が認められることは,原判決が説示するとおりである。 イ1審被告らは,1審原告Z36の申請疾病が自発痛も生じていない程度のもので,同1審原告が消炎鎮痛剤を内服していると認めるに足りる客観的な証拠がないとし,希望すれば摘出可能という程度のごく小さな瘢痕について,要医療性を認め,原爆症認定することは,被爆者援護法の予定するところではないと主張する。 しかし,1審被告らの自発痛がないとの主張は,殊更に事実をねじ曲げようとするものである上,要医療性はその疾患の 要医療性を認め,原爆症認定することは,被爆者援護法の予定するところではないと主張する。 しかし,1審被告らの自発痛がないとの主張は,殊更に事実をねじ曲げようとするものである上,要医療性はその疾患の重篤性によって判断されるものではない。現に自発痛及び圧痛があり,原爆症認定申請当時の主治医も治療を要すると判断している以上,1審原告Z36の申請疾病の要医療性は認められるべきである。 ウ1審被告らは,1審原告Z36の消炎鎮痛剤の日常的内服の立証がないと主張する。 しかし,少なくとも鎮痛剤クリノリルが処方されていたこと自体は事実であり1審原告Z36は痛み止めの薬を服用していることを明確に,,「」述べている。上述したとおり,原爆症認定申請時において主治医が治療を要すると判断しているのであるから,1審原告Z36の申請疾病の要医療性は認められなければならない。 1審原告Z37(原告番号19番)について(1)被爆状況及びその後の健康状態- 297 -1審原告Z37の被爆状況及びその後の健康状態に関する原審の認定事実は,基本的に1審原告らの主張のとおりであるが,より具体的に示すと次のとおりである。 1審原告Z37は,7歳の時に,長崎市内活水短大そばの屋外(爆心地から約3.8キロメートル)で被爆した。その後,爆心地付近から避難してきた多数の被爆者と間近に接したほか,父とともに近くの高台に登り,その日の夜は,救助隊を組織して爆心地付近に行って帰ってきた人々や,爆心地付近から避難してきた被爆者とともに共用防空壕内で夜を過ごした。8月10日から12日にかけて,浜口町(爆心地から数百メートル圏内)に住んでいた親族の安否を確かめるため,連日両親に連れられて,防空壕から浜口町まで歩いて行き,爆心地付近の焦土の中を捜索に同行した。 そして,8月1 2日にかけて,浜口町(爆心地から数百メートル圏内)に住んでいた親族の安否を確かめるため,連日両親に連れられて,防空壕から浜口町まで歩いて行き,爆心地付近の焦土の中を捜索に同行した。 そして,8月15日ころより,両手肘から手の平,指と指の間に至るまで原因不明の皮疹が出て化膿し,長期にわたって治らなかった。また,怪我をすると化膿しやすく治癒しにくい体質となった。さらに,1956(昭和31)年ころより体調不良となり,その後も様々な症状が起こる中,1985(昭和60)年に甲状腺機能低下症との診断を受けた。なお,放射線との関連が指摘されている腺腫様甲状腺腫にも罹患している。 (2)申請疾病(甲状腺機能低下症)の放射線起因性1審被告らは,甲状腺機能低下症は,被爆者であろうがなかろうが,女性の間に加齢とともに広く認められる一般的な疾病であり,同疾病と放射線被曝の間に因果関係が存在するとの知見は存在しない等と主張する。 しかし,この主張は,認定制度を創設した法の趣旨と甲状腺機能低下症についての医学的知見をことさらに無視する誤った議論である。 まず,原爆放射線が被爆者にひきおこす疾病は,一部の例外を除いて非特異的であり,被爆者でなくとも罹患する疾病でり,また,およそ疾病はさまざまな要因が複合して発症するのであって,原爆症も原爆放射線が他の要因- 298 -とともに共同して発症させるものである。これらの点は,新審査の方針で積極認定の対象とされるがんや白血病等においても同様である。 ,,甲状腺機能低下症の放射線起因性については医学的知見に裏付けがあり集団訴訟の各判決でも放射線起因性が認められ,旧審査の方針,新審査の方針のもとでも多数の認定例が存在する。 1審被告らは,自己免疫性と認められないことを問題にしているようであるが,これが放射線起因性を否定する 各判決でも放射線起因性が認められ,旧審査の方針,新審査の方針のもとでも多数の認定例が存在する。 1審被告らは,自己免疫性と認められないことを問題にしているようであるが,これが放射線起因性を否定する理由とならないことは,これまでの裁判例が説示しているところである。厚生労働省は,神奈川原告のZ230らについて,自己免疫性である可能性があるにもかかわらず,この点を特に問わずに総合認定において原爆症と認定しているのである。 したがって,1審原告Z37の申請疾病が放射線に起因することは明らかであって,新審査の方針においても総合認定がなされるべきである。 (3)申請疾病の要医療性1審原告Z37の甲状腺機能低下症について,申請の時点で要医療性が存在したことは問題なく,1審被告らもこれを争わない。 1審原告Z28(原告番号20番)(1)被爆状況及びその後の健康状態1審原告Z28は,被爆当時20歳で,健康であった。 1審原告Z28は,広島の爆心地から約55キロメートルの地点の山口県柳井におり,8月18日ころ柳井駅から無蓋の貨車に乗って広島に向かい,午後4時から5時ころ,横川駅を過ぎたあたりで列車を降り,線路上を片道約1時間ほど広島駅まで歩き,いったん広島駅に到着した後,再度横川付近まで荷物を取りに戻って,また広島駅まで歩いた。 1審原告Z28は,広島駅の屋根の吹き飛んだプラットホームで待機のため2泊し,8月20日ころの午前10時ころ広島駅を出発した。 1審原告Z28は,8月25日ころから,右顔面頬から首にかけての部分- 299 -が化膿し,9月末ころまで治療を受けた。さらに,腹から背中を一周するような帯状のぶつぶつ,発熱,食欲不振,吐き気があり,発熱は8月末ころまで続いた。 1審原告Z28は,平成12年,健康診断で胃体上部にがんが発見され,同年 治療を受けた。さらに,腹から背中を一周するような帯状のぶつぶつ,発熱,食欲不振,吐き気があり,発熱は8月末ころまで続いた。 1審原告Z28は,平成12年,健康診断で胃体上部にがんが発見され,同年8月30日に全摘手術を受けた。平成14年ころ,胆石のため胆嚢の手術を受けた。平成17年に肺にたまった水を抜く手術を受けている。 (2)申請疾病(胃がん)の放射線起因性ア1審原告Z28は,無蓋車に乗って広島市内に入り,徒歩で線路伝い横川駅付近と広島駅との間を3時間程度かけて往復している。その際,爆心地に1番近づいた距離は,1.5キロメートル前後である。更に屋根や壁のない広島駅のプラットホームで2泊している。このような行動の結果,1審原告Z28は,当時残存していた放射性物質(放射性降下物と誘導放射能)を浴びている。 イ1審原告Z28は,被爆後,右顔面頬から首にかけての部分が化膿し,9月末ころまで治療を受けた。さらに,腹から背中を一周するような帯状のぶつぶつ,発熱,食欲不振,吐き気があり,発熱は8月末ころまで続いた。時期的や症状から見て,原爆放射線による急性症状と認められる。そして,このことは,相当の放射線を浴びたことを推定させる。 ,,ウ1審原告Z28の認定申請疾病は胃がんであって積極認定疾病であり放射線起因性のある疾患であることは明らかである。 (3)1審原告Z28の要医療性,,1審原告Z28は胃癌のため平成14年8月に胃全摘手術を受けており引き続き経過観察を受けているのであり,要医療性が認められることは明らかである。 (4)原判決が放射腺起因性を否定した理由及びこれに対する反論ア原判決は,上記のような事情があるにもかかわらず,①1審原告Z28- 300 -の被爆場所が,爆心地から50キロメートル以上離れた場所であり,初期 放射腺起因性を否定した理由及びこれに対する反論ア原判決は,上記のような事情があるにもかかわらず,①1審原告Z28- 300 -の被爆場所が,爆心地から50キロメートル以上離れた場所であり,初期放射線による被曝はほとんど考えがたいこと,②1審原告Z28が入市し,,,たのは原爆投下から13日経過した時点に1泊のみであり行動範囲は爆心地から2キロメートル程離れた場所で,掘削等の高線量被曝をもたらす行為をしていないこと,③1審原告Z28の8月25日以降のぶつぶつ等の症状は,一般的に放射線の急性症状として挙げられている症状ではなく,その他の症状も,熱中症,疲労,衛生環境の悪さ等による感染症等の可能性を否定できず,症状の点から高度の被曝を推認することもできないこと,④1審原告Z28の胃がんが低分化型腺がんであったとしても,低分化型腺がんが被爆者独自のものであるとはいえないから,そのことのみから原告Z28が健康状態に影響を生じるような線量の被曝をしたともいえないことの理由を挙げて,1審原告Z28の放射線起因性を否定した。 イ1審原告Z28は,広島で2泊したものであり,これを1泊とする原判決は事実を誤認している。また,1審原告Z28の広島での行動範囲を爆心地から概ね2キロメートルを超えた地域であるとしているが,証拠上その範囲は,爆心地から1.5キロメートルないし2キロメートルの地点であり,また,線路ないし道床の物質が誘導放射のために,放射線を強く発していた可能性も否定できないし,また,この間,放射性降下物により,被曝した可能性もあるから,単に被爆後12日~13日を経過して入市したからといって放射線起因性を否定するのは妥当ではない。 ウ原判決は,原告に認められた症状について,放射線の影響ではないと判示するが,1審原告Z28に見られたぶつ 爆後12日~13日を経過して入市したからといって放射線起因性を否定するのは妥当ではない。 ウ原判決は,原告に認められた症状について,放射線の影響ではないと判示するが,1審原告Z28に見られたぶつぶつについては,被爆者の多く,,,になかなか治らない化膿があったするものもおりこれと発熱食欲不振吐き気を考えれば,放射線の影響を否定できない。 エ新審査の方針によれば,悪性腫瘍については,種類を問わず,放射線の影響が認められれば,広く起因性が認められるようになった。このような- 301 -新しい審査の方針の意義を考えれば,がんについては,放射線の影響が否定できない以上,原爆症と認定されるべきである。 (5)1審原告Z28の申請疾病に要医療性が認められることは明らかなのである。 1審原告Z27(原告番号27番)(1)被爆状況及びその後の健康状態1審原告Z27は,当時22歳で妊娠9か月であり,長崎市α7の平屋建の自宅(爆心地から約2.2キロメートル)の居間で窓を開けた状態で被爆した。原爆の閃光が目に入り,左目が見えなくなった。自宅は大破した。 ,,。 1審原告Z27は被爆直後から7日間近くの高台の防空壕に避難したこの間,配給のおにぎりは腐って食べられず,畑で採ったなまのカボチャをそのまま食べ,一日一升瓶一本配給される水を5人で飲むなどしていた。 同居していた夫と養父が爆心地付近で死亡したため,1審原告Z27は,その後,着の身着のままの状態で,防空壕から爆心地の方向にある駅へ向かって歩き,貨物列車や船を乗り継いで四国の実家に行った。ところが,1審原告Z27は,養女に出ていたため実家に入れてもらえず,高松の木賃宿で▲月▲日に難産のうえ長男を出産したが,支払うお金がなく,出産の翌日木賃宿を逃げ出し,大阪,京都を転々とした。 1審原 ろが,1審原告Z27は,養女に出ていたため実家に入れてもらえず,高松の木賃宿で▲月▲日に難産のうえ長男を出産したが,支払うお金がなく,出産の翌日木賃宿を逃げ出し,大阪,京都を転々とした。 1審原告Z27は,被爆後,血性の下痢,脱毛,体のだるさ等の症状が発症した。さらに,昭和21年になってから歯茎の出血が続いた。 1審原告Z27は,昭和33年ころ胃腫瘍の手術を受け,そのころ甲状腺機能低下を指摘された。1審原告Z27は,昭和35年ころ,心臓病で入院治療を受け,3年間寝たきりの状態となった。 1審原告Z27は,このほか,昭和40年ころ子宮筋腫の手術を受け,昭和50年ころ左眼の視力回復のための手術を受けた。昭和58年には慢性関節リウマチを患い,昭和61年には高血圧症,昭和63年には慢性膵炎を発- 302 -症した。 平成元年には脾臓の悪性リンパ腫のため脾臓を摘出し,平成3年にはC型慢性肝炎,肝硬変及び腎盂炎の診断を受けた。さらに,1審原告Z27は,平成13年には左顎下腺腫瘍の手術を受け,平成15年に嘔気,下痢及び下血(鮮血)で診察を受けた。原判決も一部を除いてほぼ同様の認定をしている。 (2)申請疾病(甲状腺機能低下症)の放射線起因性について1審原告Z27の甲状腺機能低下症の原爆放射線起因性は認められるべきである。被爆したときの状況,被爆後の行動,そして被爆後急性症状,更には体調変化等を積み重ね,これらを総合して放射線起因性を認定している全国の判決に照らすならば,1審原告Z27のような被爆者こそ,原爆症と認定されるのにふさわしいと言うべきである。 1審原告Z27は,爆心地より約2.2キロメートルの地点で被爆し,その後約1週間近くの防空壕で生活し,その後下痢や脱毛などの急性症状から始まり子宮筋腫,慢性肝炎,肝硬変など様々な疾病に罹患している 1審原告Z27は,爆心地より約2.2キロメートルの地点で被爆し,その後約1週間近くの防空壕で生活し,その後下痢や脱毛などの急性症状から始まり子宮筋腫,慢性肝炎,肝硬変など様々な疾病に罹患している。 1審原告Z27の戦後の人生は,原爆,とりわけ原爆放射線の影響により翻弄されてきた。1審原告Z27の様な被爆者について,原爆症認定を行う場合には,現在治療を行っている甲状腺機能低下症と原爆放射線との起因性を1対1の対応としてだけ見るのではなく,被爆後の健康状態全体の中で放射線の甲状腺への影響を捉え,そしてそこから放射線起因性を判断すべきある。 したがって,1審原告Z27が相当量の原爆放射線に被曝していることは明らかであり,1審原告Z27の甲状腺機能低下症について,原爆放射能による起因性を肯定すべきである。 (3)要医療性について1審原告Z27は,甲状腺末を常時内服しており,継続して治療を受ける- 303 -ことが必要な状態にあって,要医療性は明らかである。 1審原告Z51(1審原告番号30番)(1)被爆状況及びその後の健康状態1審原告Z51の被爆状況及びその後の健康状態に関する原審の認定事実は,基本的に1審原告らの主張のとおりであるが,より具体的に示すと次のとおりである。 1審原告Z51は,13歳の時に,広島県α10×-4の自宅(爆心地の西南西約4.1キロメートル)にいたときに,弟妹と一緒に被爆した。爆心地に向いた玄関奧の部屋で被爆し,遮蔽する物がなく,飛散したガラス片で左腕3箇所を負傷した。被爆後,弟妹を2キロほど離れた山手の竹藪にいっ,,。 たん避難させ自宅と竹藪との間を行き来する際自宅前で黒い雨に遭ったその後,市内からひどい状況で続々と避難してくる被爆者の手当や介護を行った。 被爆当日夜11時ころ,父親が,小網町(爆 っ,,。 たん避難させ自宅と竹藪との間を行き来する際自宅前で黒い雨に遭ったその後,市内からひどい状況で続々と避難してくる被爆者の手当や介護を行った。 被爆当日夜11時ころ,父親が,小網町(爆心地から約1キロ)で被爆した母親を自宅に連れ帰った。1審原告Z51は,母親の皮膚等に直接触れて治療したが,母親は翌朝午前4時ころに死亡した。その後も1週間くらい,竹藪に避難させた弟,妹に食事を届けたり,被災者たちの手当をした。 8月15日ころから倦怠感に悩まされ,左腕の傷が化膿してなかなか治らず,また被爆の3か月後くらいに左乳房の下に大きなおできが出て痛み,2週間ほど化膿した。強い倦怠感は終生続き,風邪を引きやすくなり,さまざまな病気に悩まされた。そして,昭和60年に肝硬変を患い,平成7年に肝細胞がんと診断された。 なお,1審被告らは結審直前の進行協議期日で,承継前1審原告Z51の被爆地点の爆心地からの距離は4.1キロ以遠であるとの主張をすると予告してきた。被爆地点は変わらないが距離が変わるという主張と思われるが,実際の主張を目にするのは結審の前々日となる。4.1キロという被爆距離- 304 -は,認定した被爆地点に基づいて,都道府県知事が定めたものである。それを高裁の結審直前になって違うなどと主張するのは信義にも反するし,時期に遅れた攻撃防御方法というべきである。当審にあっては,1審被告らの当該主張は無視し,4.1キロという前提で判断されたい。 (2)申請疾病(肝細胞がん)の放射線起因性1審原告Z51は,爆心地より約4.1キロメートルで被爆し,初期放射線に被爆した他,屋外で黒い雨にうたれずぶ濡れになることで,放射性降下物にさらされ,さらに,爆心地から約1キロメートルで被爆した母親,その他複数の被爆者の介護にあたっていたのであるから,誘導 期放射線に被爆した他,屋外で黒い雨にうたれずぶ濡れになることで,放射性降下物にさらされ,さらに,爆心地から約1キロメートルで被爆した母親,その他複数の被爆者の介護にあたっていたのであるから,誘導放射化した人体からも被爆しており,相当線量の被爆をしていたと考えられる。そして,被爆後激しい倦怠感等に悩まされ,様々な病気を発症する中で,ついには申請疾病を発症させたものである。原爆被爆者の肝臓がんの発生に放射線が有意の相関関係をもって影響していることは確立した知見であるから,1審原告Z51の申請疾病が放射線に起因することは明らかであり,新審査の方針においても総合認定がなされるべきである。 (3)申請疾病の要医療性1審原告Z51は,申請疾病である肝細胞がんでの入院中死亡しており,申請時に要医療性が認められることは明らかである。 第5国家賠償について 1審被告厚生労働大臣に課せられた義務(1)被爆者援護法の趣旨・目的の重視被爆者援護法前文は,まず原爆が「生涯いやすことのできない傷跡と後遺,」,「」症を残し不安の中での生活をもたらしたことから国の責任において「被爆者に対する保険,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ」るとし国家補償の精神を明らかにしているさらに同法は原子爆弾の投,。 ,,「下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる- 305 -特殊の被害であることにかんがみ,高齢化の進行している被爆者に保険,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ」ると宣言することで,国は,原爆症の特殊性とその科学的な未解明性及び被爆者の高齢化を充分に考慮,。 し速やかに被爆者の救済を行わなければならないことも明らかにしている上記の被爆者援護法の趣旨・目的からすると,原爆症認定行政にお 症の特殊性とその科学的な未解明性及び被爆者の高齢化を充分に考慮,。 し速やかに被爆者の救済を行わなければならないことも明らかにしている上記の被爆者援護法の趣旨・目的からすると,原爆症認定行政において,1審被告厚生労働大臣は,原爆症の特殊性とその科学的な未解明性を充分に考慮して放射線起因性を判断し,放射線の被曝に苦しみ,高齢化の進む被爆者を速やかに原爆症と認定して救済を図らなければならない。 (2)確立した司法判断の尊重原爆症認定を巡っては,本件のいわゆる集団訴訟の前に,Z58訴訟,Z59訴訟,Z60訴訟があり,旧審査の方針策定前である平成12年▲月▲日にはZ58訴訟の最高裁判決が,同年▲月▲日にはZ59訴訟の大阪高裁,,,判決がそれぞれ出され国側の敗訴が確定していたところこれらの判決はDS86や一定線量以上の放射線を浴びないと人体に影響がないという,しきい値理論に基づく原爆症認定行政が非科学的かつ不合理であり,厚生労働大臣は,被爆者の身体に生じた実際の症状等の具体的事実を重視して放射線起因性等の判断を行わなければならないことを明示していたのである。被爆,,「」者らは1審被告厚生労働大臣に対してDS86の線量評価としきい値論の機械的適用を排して,最高裁判所が示した認定基準に直ちに改めることを再三にわたり申し入れていた。司法判断に従うべき1審被告厚生労働大臣としては,DS86や閾値理論に基づく原爆症認定行政が正当なものといえるか否かを改めて検討し,その正当性が疑問とされざるを得ないものであることを当然に認識して,これを最高裁判所が示した認定基準へと改善するべきであった。つまり,原爆症認定行政において,1審被告厚生労働大臣は,平成13年5月の旧審査の方針策定時,上記の確立した司法判断に従って,DS86や閾値理論に基づく 所が示した認定基準へと改善するべきであった。つまり,原爆症認定行政において,1審被告厚生労働大臣は,平成13年5月の旧審査の方針策定時,上記の確立した司法判断に従って,DS86や閾値理論に基づく従来の原爆症認定を抜本的に改めなければなら- 306 -ない義務を負っていたことは明らかである。 (3)上記義務の違反が国家賠償法1条1項の違法に該当すること現代の法治主義の下では,行政行為は法律に適合することを必要とされているが,違法又は不当な行政行為が行われることもあることから,その過誤を事後的に裁判所等により是正させることによって法治主義を貫徹している。行政が司法判断に従わなければならないことは当然の義務であり,上記の1審被告厚生労働大臣の義務もこれに当たる。そして,このような法治主義国家の根本ともいえる義務は「その職務上通常尽くすべき注意義務」に該,,当し1審被告厚生労働大臣が上記義務を尽くすことなく却下処分を行えば国家賠償法1条1項の違法性があるといえる。 1審被告厚生労働大臣の義務違反(1)旧審査の方針とは何か旧審査の方針の中核をなすのは,アメリカの核実験データを元にした線量推計システムであるDS86と放射線影響研究所による疫学調査結果を組み合わせた原因確率論である。1審被告厚生労働大臣が平成13年から適用してきた旧審査の方針は,認定申請をした被爆者の被爆線量について,DS86の推定するガンマ線と中性子線の吸収線量を単純に加えて求め,ついで,この吸収線量を疾病の種類,被爆時の年齢及び性別ごとに作られた表に当てはめて原因確率を算出し,この原因確率が50%以上であれば申請した疾病が放射線に起因した可能性が高いとして認定し,原因確率が10%以下であれば,ほとんどそのまま起因した蓋然性は低いとして,申請を却下するというも を算出し,この原因確率が50%以上であれば申請した疾病が放射線に起因した可能性が高いとして認定し,原因確率が10%以下であれば,ほとんどそのまま起因した蓋然性は低いとして,申請を却下するというものである。 以下に述べるように,厚生労働大臣は,旧審査の方針の重大な欠陥を認識又は認識し得たのに,旧審査の方針を策定した上,具体的審査において,これを機械的に適用して,被爆者の申請を切り捨てたのであり,前述の司法判断により課せられた義務に違反してきたのである。 - 307 -(2)旧審査の方針には重大な欠陥があることアDS86を用いていることの誤りそもそも原因確率の算出の基礎にDS86を用いるが,DS86は,①2キロ以遠の線量値は実測値との誤差が大きい,②残留放射線による線量をほぼ欠落している,③内部被曝を無視してしまっている,の3点において既に科学性が失われており,放射線起因性判断の基準とはなし得ない。 遠距離被爆者や入市被爆者の認定申請がことごとく却下され,その却下処分が裁判所によって取り消されてきたという経緯からしても,DS86を用いた原因確立を放射線起因性判断の基準とはなし得ないことは明らかである。 イ放影研の調査報告(疫学的基礎データ)における対照者群(非暴露群)選定の誤り原因確率の算出は,疫学調査に基づいており,非被爆者群(非暴露群)と被爆者群(暴露群)を比較し,放射線を浴びた程度毎に,特定の疾病について,非被爆者よりもどの程度の増加したかを示す過剰相対リスクを基礎にしている。その際に最も重要な点は,被爆者群(暴露群)と比較する対象者群としての非被爆者群(非暴露群)をどのように選定するか(バイアスの排除)にある。ところが,原因確率算出の基礎となっている放影研の疫学統計では,線量別被爆者群,非被爆者群の設定にDS86を用い 対象者群としての非被爆者群(非暴露群)をどのように選定するか(バイアスの排除)にある。ところが,原因確率算出の基礎となっている放影研の疫学統計では,線量別被爆者群,非被爆者群の設定にDS86を用いている。その結果,遠距離被爆者や入市被爆者は,対照者群(非暴露群)の,,()設定の際には真実は被爆者であるにもかかわらず非被爆者非暴露群として扱われていることがある。原因確率は,基礎データとなった放影研の調査報告における対照者群(非暴露群)の選定の誤りをそのまま受け継いでいるのである。 ウ認定申請者についてのDS86の適用の誤りこの対照者群設定の際の被曝線量評価の誤りは,認定申請者の被曝線量- 308 -の評価にもDS86が基礎とされることによって,修復不能なところまで拡大する。 エ直曝線量以外の要素の軽視原因確率論では,被曝線量の算出に,前述した黒い雨・黒いすすという放射性降下物と誘導放射能による体外および体内被曝が実質的に無視されてしまっている。そのため,入市被爆者のように直接被爆がない者に急性症状が多数出ていることを全く説明できず,起因性はないと切り捨てる結果となっている。 オ生物学的効果比を無視した誤り(),ガンマ線と中性子線では人体に対する影響生物学的効果比において遥かに後者のほうが大きいから,放射線の人体影響は,このような中性子線の生物学的効果比を考慮に入れてた線量当量によるべきである。放影研の基礎データは,この線量当量により算定されているが,原因確率の算出に当たっては,認定申請者についてこのようなガンマ線と中性子線の影響力を無視し,ガンマ線と中性子線の吸収線量を単純に加算した吸収線量を用いてしまっている。 (3)旧審査の方針策定時にその欠陥は明らかであったこと上記のような旧審査の方針の欠陥は現在にな 子線の影響力を無視し,ガンマ線と中性子線の吸収線量を単純に加算した吸収線量を用いてしまっている。 (3)旧審査の方針策定時にその欠陥は明らかであったこと上記のような旧審査の方針の欠陥は現在になって明らかになったものではなく,前述のように,Z58訴訟最高裁判決,Z59訴訟大阪高裁判決において,DS86や一定線量以上の放射線を浴びないと人体に影響がないというしきい値理論に基づく原爆症認定行政が非科学的かつ不合理であり,かかる原爆症認定行政の正当性が疑問であるとの司法判断はすでに確立していたこと,被爆者らは,DS86の線量評価としきい値の機械的適用を排して,最高裁判所が示した認定基準に直ちに改めることを厚生大臣に再三にわたり申し入れていたことからすると,1審被告厚生労働大臣にとって,旧審査の方針策定時である平成13年5月には,DS86による線量評価やしきい値- 309 -理論を相変わらず金科玉条とする旧審査の方針が重大な欠陥を抱えていることについて知り又は知り得たのであった。 (4)旧審査の方針が機械的に適用されてきたこと1審被告厚生労働大臣は,旧審査の方針に上記のような重大な欠陥があることを知り又は知り得たのに,それを機械的に適用することで,被爆者の原爆症認定申請を切り捨ててきた。 ,,旧審査の方針では原因確率ないししきい値を機械的に適用して判断せず既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案し,原因確率等が設けられていない疾病等でも,被曝線量等を総合的に勘案して,個別に判断するとし,原因確率等を機械的にあてはめないことが明記されている。しかし,医療分科会における審査は一人当たり平均して5分弱の時間しかかけていないのであり甲16このような短時間の審査で既往歴環境因子生活歴等も総(),,,,合的に勘案し,個別に しかし,医療分科会における審査は一人当たり平均して5分弱の時間しかかけていないのであり甲16このような短時間の審査で既往歴環境因子生活歴等も総(),,,,合的に勘案し,個別に審査することができるはずない。また,分科会の委員を勤めたことのあるZ56Z231医師会長が,平成19年4月18日のZ232新聞のインタビューにおいて「申請書には,家族を失ったことや,脱毛や下痢に苦しんだ当時の出来事,その後の生活や思いが細かく書かれている中略でも審査委員はそういうことに関係なく被曝線量と疾病名だけ。(),を根拠に機械的に振り分ける。振り落とされた人を何とかしようと,一人で粘ったりしてみましたが,早ければ1分,結果的に認定される人でも5分で審査せざるをえない状態が非常につらかった(甲268の2)と答えてい。」ることからも裏付けられている。 さらに,医療分科会では,平成13年に旧審査の方針を採用して以降,平成17年までの間,3655件の審査をし,そのうちの910件を原爆症と認定したが,その認定数910件のうち,原因確率が10パーセント未満で認定したものはわずかに2件に過ぎず甲295の1この数字からして,(),も,旧審査の方針を機械的に適用し,原因確率10パーセントに達しないケ- 310 -ースを切り捨てていたことは歴然としている。 (5)旧審査の方針策定及びその機械的適用の意図1審被告厚生労働大臣が旧審査の方針を策定し,それを機械的に適用して被爆者の申請を切り捨ててきたことは,三権分立の原則の下,司法判断に服するべきとされる行政としては,絶対に許されてはならない。そのような異常な行政の根底には,①財政的考慮に基づく認定被爆者の人数制限,②使用後60年以上経過しても人類に不可逆的な傷害を与え続ける核兵 するべきとされる行政としては,絶対に許されてはならない。そのような異常な行政の根底には,①財政的考慮に基づく認定被爆者の人数制限,②使用後60年以上経過しても人類に不可逆的な傷害を与え続ける核兵器の残虐性を認めず,否定したいという米国の意向,③原発,その放射性廃棄物の処理などの対策の強化を余儀なくされることを回避しようとする動機があったと考えないと説明がつかない。 行政手続法5条1項違反について,,行政手続法5条1項は行政運営における公正の確保と透明性の向上を図りもって国民の権利利益の保護に資することを目的として制定されたものであ,,,り処分庁の判断の客観性・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに申請をなす国民が審査基準を知ることによって必要な準備をし,不測の理由で却下されないことを保障する趣旨である。 1審被告厚生労働大臣が原爆症認定処分に必要な行政手続法5条の審査基準を定めていないことは,1審被告らが自認するところである(原審1審被告ら被告準備書面(1)7頁。ところが,原判決は,旧審査の方針は,原爆症認定の)特殊性に照らし,数値化できる部分は具体的に数値を挙げるとともに,総合判断をするための項目を列挙するなどしている点で,同条項の趣旨に合致しており,違反していないとの判断を示したが,誤りである。 行政手続法5条1項の審査基準を定めることなく,行政庁が処分を行ったときには,その処分は原則として違法である。 行政手続法8条1項違反について行政手続法8条1項は,申請による許認可等の拒否処分には理由を付するこ- 311 -とを求めているが,その趣旨は,行政庁の判断の慎重・合理性を担保し,申請者の訴訟提起の便宜を図ることにある。とすれば,拒否処分に付すべき理由としては,いかなる事実関係に基づき,いかなる判断経過を -とを求めているが,その趣旨は,行政庁の判断の慎重・合理性を担保し,申請者の訴訟提起の便宜を図ることにある。とすれば,拒否処分に付すべき理由としては,いかなる事実関係に基づき,いかなる判断経過をたどって原爆認定が,,拒否されたかを申請者がその記載自体から了知できるものでなければならず単に抽象的・一般的に審査結果のみを記載するだけでは,不十分である。 しかし,1審原告らへの却下決定通知には,審査会の審議の結果,原爆症とは認定しないという結論のみしか記載されておらず,審査会においていかなる事実を前提にいかなる審議がなされ,認定却下という処分に至ったかについて等の実質的理由は全く記載されておらず,1審原告らの拒否処分の当否につい,,て争う権利が著しく害されるし手続保障の観点からも極めて不当であるから1審被告厚生労働大臣が具体的な処分理由を全く明示することなくして行われた本件1審原告らに対する却下処分は,行政手続法8条1項に違反している。 拒否処分の理由の明示の重要性及び被告の違反の程度にかんがみれば,被告の行政手続法8条1項の違反は,国家賠償法上の違法となる。 1審原告らの被った損害について被爆者は原爆投下によって蒙った物質・人的な被害に加え,被爆後63年にわたって,多かれ少なかれさまざまな健康被害に悩まされ続けてきた。そのために,結婚や就職に支障をきたすなど,経済的・精神的にも苦しい生活を余儀なくされたものが少なくない。原爆投下によって,家屋を破壊され,肉親を失ったために,悲惨な生活を強いられたばかりか,一般の戦災者と異なり,原爆放射線の影響によって被爆後,急性症状にとどまらず,ほとんどの被爆者が長年にわたって倦怠感や疲労感に苛まれ,ときどき原因不明の病気に見舞われるなど,健康を害され続けた。健康を害された被爆者にとって,安定 線の影響によって被爆後,急性症状にとどまらず,ほとんどの被爆者が長年にわたって倦怠感や疲労感に苛まれ,ときどき原因不明の病気に見舞われるなど,健康を害され続けた。健康を害された被爆者にとって,安定した職に就くことがいかに困難であったかは容易に理解されるところであるが,就職できたとしても,ひとたび病気が発症した場合には,退職したり,転職を余儀なくされたもの少なくない。被爆者の中には,結婚できないまま一生を過ごしたも- 312 -のも数多く存在することは,公知の事実である。 そうした背景の中で高齢化を迎えて,被爆者の平均年収は,現在,約200万円ほどに過ぎず,生活保護受給者も数多く存在する。そうした被爆者に対して,国の責任として何をなすべきかを定めたのが被爆者援護法である。原爆症認定制度は,被爆者が原子爆弾の障害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対して,厚生労働大臣が必要な医療の給付を行うというものであるが,その運用は上記の被爆者が置かれた状況をふまえ,被爆者援護法の趣旨・目的に沿って行われなければならないことは当然である。 被爆者健康手帳の交付を受けたものは,援護法1条のいずれかに該当するものであるが,原爆放射線の影響を受けた恐れがあることから,その影響が自分の身体にどのような影響を及ぼし,いつ,いかなる病気となって現れるか,常に不安と恐れを抱いて生きてきたものであるといって過言ではない。その被爆者が,ある日,一定の病気を発症し,それを診察した医師が放射線に起因すると考えられるという判断を下したときに受けるショックは,多くの被爆者の悲惨な闘病生活や死を身近に見てきただけに想像を超えるものがあるいよい,。「よ自分にも来たか」という原爆症に対する恐れと不安の強さは,まるで地獄の底に突き落とさ けるショックは,多くの被爆者の悲惨な闘病生活や死を身近に見てきただけに想像を超えるものがあるいよい,。「よ自分にも来たか」という原爆症に対する恐れと不安の強さは,まるで地獄の底に突き落とされたように感じたと表現する被爆者がいるほどであることを,この制度を運用するものは,まず初めに理解する必要がある。 その被爆者が,病気に苦しみ,精神的にも打撃を受けながら,専門の医師が自分の病気を原爆症に起因すると認めて意見書を書いてくれた以上,原爆症の認定を申請すれば,厚生労働大臣は必ずや援護法の前文に書かれていることを誠実に実行してくれると信じて,国が自分の病気を原爆症と認め,特別医療手当て支給してくれるものと期待するのは当然である。被爆者にとって自分の病気が国によって原爆症と認められることは,医療特別手当の支給という金銭的なものを超えた,いわば被爆者としての証であり,病気と闘うための最後の救- 313 -いであることも,合わせて理解する必要がある。 そうした被爆者の確信と期待が踏みにじられ,1片の書面によって却下通知,,を受けたときの被爆者の落胆と怒りそれによる精神的・肉体的なダメージは病気を宣告されたときと同じか,それ以上である。却下処分を受けた多くの被爆者が,それは被爆者として苦しい中,生きてきた自分の一生をまるで否定されたように感じであったと,そのときの思いを語っていることからも,却下処分がいかに被爆者に強烈な精神的苦痛を与えたかが分かる。その上,支給されるはずの医療特別手当が支給されないことによる経済的な打撃は,健康を害し。 ,て働けないことが多いだけにより深刻である精神的な怒りや経済的な不安が肉体にも影響を及ぼすことは言うまでもない。そのために病気を悪化させ,寿命を縮めるものもあり,その損害は,13万何がしの医療特別手当を けないことが多いだけにより深刻である精神的な怒りや経済的な不安が肉体にも影響を及ぼすことは言うまでもない。そのために病気を悪化させ,寿命を縮めるものもあり,その損害は,13万何がしの医療特別手当を過去に遡って支給されれば回復されるというものではない。ましてや,原告らはそうした精神的・経済的・肉体的な障害を乗り越えて,却下処分が間違っていたとしてその取消しを求めて,長い時間をかけて裁判を闘ってきたものであるが,裁判所で却下処分が取り消され,医療特別手当を過去に遡って支給されたからといって,その間に蒙った損害が補償されるものでは決してないことを理解すべきである。 1審被告厚生労働大臣が,裁判の過程で,審査の方針を変更し,一旦は却下処分をしたものに対して,新たに原爆症と認定し,申請時に遡って医療特別手当を支給したからといって,却下処分によって蒙った上記のような被爆者の精神的・肉体的・物質的な損害が償えるものではないことは,これまた同じである。むしろ,当該1審原告にとっては,それであれば,なぜ一旦却下処分をしたのか,その違法・不当性を訴えているのに,1審被告厚生労働大臣は却下処分をしたときの旧審査の方針はいまでも科学的・合理的であり,却下処分は間違いではなかったとして,裁判では「原告はほとんど被爆していない」などと決め付けて,長いこと裁判で原告を痛め続けてきたことによる精神的・物質的- 314 -な損害はよりいっそう大きく,新たに原爆症と認定し,申請時に遡って医療特別手当を支給したからといって,厚生労働大臣の却下処分によって原告らの蒙った損害が解消される訳では決してない。 この間,Z58最高裁判決を始め,多くの裁判所で却下処分の間違いが指摘され,敗訴を繰り返しながら,司法判断を無視し,なんら反省することなく,同じような主張に固執し,無駄な 消される訳では決してない。 この間,Z58最高裁判決を始め,多くの裁判所で却下処分の間違いが指摘され,敗訴を繰り返しながら,司法判断を無視し,なんら反省することなく,同じような主張に固執し,無駄な訴訟活動をすること自体,法治主義国家の基本をないがしろにするものであるが,国の指定代理人らによる1審原告らの被爆状況や病状に対する理不尽な攻撃には,人道上も許されないような目に余るものがあり,そのことによる原告らの精神的苦痛も計り知れないものがある。 裁判所は,そうした国ないしは厚生労働大臣の不正義と司法判断の無視を正すためにも,勇気をもって1審原告らの国家賠償請求を認容すべきである。 以上- 315 -別紙2争点に関する1審被告らの当審における主張第11審被告らの主張の概要 1審被告厚生労働大臣は,申請疾病の放射線起因性の有無につき,医師等の専門家により構成される医療分科会の意見を聴いてこれに基づき判断をしているところ,医療分科会においては,申請疾病と原爆放射線との因果関係の判断を医学・放射線学等の科学的知見や大規模な疫学調査の結果等に裏付けられた原爆症認定に関する審査の方針乙1を目安として個々の判断を行ってき「」()た。この判断手法は科学的かつ十分な合理性を有するものであり,このような旧審査の方針を前提とする医療分科会の意見を尊重してされた本件各却下処分はいずれも適法である。 最高裁判所平成12年7月18日第三小法廷判決・判例時報1724号29頁以下最高裁平成12年判決というは原爆症の認定の要件である放(「」。),射線起因性については,原告側において被爆者の負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因することを是認し得る高度の蓋然性を証明すべきであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の 。),射線起因性については,原告側において被爆者の負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因することを是認し得る高度の蓋然性を証明すべきであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とする旨判示している。 しかし原判決の具体的な判示の内容を見ると初期放射線による被曝線量,,「が過小評価されている可能性「放射性降下物による外部被曝,内部被曝の可」,能性「他の被爆者の衣服や身体に付着した放射性降下物や,誘導放射能に起」,因する被曝等が生じた可能性136頁といった抽象的な指摘を根拠に1審」()原告らの申請疾病の放射線起因性を肯定している。これは,因果関係についての高度の蓋然性が立証されていないにもかかわらず放射線起因性を認めたもので,上記最高裁判決に反する。 原判決は,被爆後種々の身体症状が被爆者に見られたことを根拠に,1審被告らが主張する線量評価に看過し難い誤りがあるかのように判示し,さらに,個別の1審原告らにそのような身体症状が見られたことが相当量の原爆放射線- 316 -に被曝し健康影響を受けたことを示すものであるなどとして,1審原告らの申請疾病の放射線起因性を認めた。 しかし,当審においてABCC調査記録を取り寄せた結果,被爆後の身体症状に関する1審原告らの現在の供述は不確かなものであることが明らかになっており,実際にそのような身体症状が見られたかについては疑問がある。この点をおくとしても,遠距離・入市被爆者が申告する被爆後の身体症状は,放射線被曝による急性症状の特徴を備えておらず,放射線被曝による急性症状と評価することはできないものであるZ116証言等したがって被爆後に1()。 ,審原告らの身体症状が見られたことを根拠に1審被告らが主張する線量評価の 備えておらず,放射線被曝による急性症状と評価することはできないものであるZ116証言等したがって被爆後に1()。 ,審原告らの身体症状が見られたことを根拠に1審被告らが主張する線量評価の合理性を否定することはできず,また,1審原告らの申請疾病の放射線起因性を認めることはできない。 そして,がんを申請疾病とする1審原告らについては,いずれも原爆の放射線にほとんど被曝していない者であり,原因確率を考慮するまでもなく申請疾病であるがんの放射線起因性を認めることはできない。がん以外の疾病を申請疾病とする1審原告らについては,そもそも原爆放射線と疾病との関連性を認める知見はない。 さらに,1審原告らの申請疾病の症状・経過を個別に見ると,1審原告らの申請疾病は,非被爆者に通常見られるものと特段変わるところはなく,また,他の原因によるものであることが明らかであるものであって,放射線起因性を認めることはできない。 第2原爆症認定制度の概要と審査の在り方 被爆者援護法は原爆の放射線との関連の程度に応じた援護を予定していること(1)被爆者援護法1条各号の要件を満たした者については具体的な被曝線量,等を問わないで,被爆者健康手帳が交付されることにより被爆者とされ,被爆者に対しては,がん検診を含む年4回の健康診断(被爆者援護法7条)を- 317 -無料で行い,先天性疾病,遺伝性疾病,被爆以前から罹患している精神疾患及び軽い虫歯等を除く一般疾病医療費の自己負担分のすべてを支給する(同法18条)こととされている(平成20年3月末現在,被爆者健康手帳の交付を受けている者の数は,約24万人である。 。)そして,爆心地から2km以内での直接被爆者には,保健手当が無条件に支給され同法28条一定の疾病に罹患した被爆者についてはその疾 健康手帳の交付を受けている者の数は,約24万人である。 。)そして,爆心地から2km以内での直接被爆者には,保健手当が無条件に支給され同法28条一定の疾病に罹患した被爆者についてはその疾病(),,が原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除いて健康管理手当月額3万3800円が支給される同法27条平成,()()(20年3月末現在,この保健手当又は健康管理手当の支給を受けている者の数は全被爆者の9割に当たる約22万人であるこれらの手当は一度認,)。 ,定されれば,原則として生涯にわたって支給される取扱いとなっている。 被爆者であれば,その罹患した疾病に対しては,具体的な放射線の被曝線量や疾病と放射線の関係を被爆者において立証することなく,医療費の無料化と手当の支給という手厚い援護措置が講じられている。その上で,被爆者が原爆放射線の被曝に起因すると認められる疾病に罹患し,それが現に医療を要する場合に該当することが積極的に認められた場合には,原爆症認定がされ同法11条健康管理手当に比し格段に高額な医療特別手当月額1(),(3万7430円。同法24条)が支給される仕組みとなっている。 ,,,このように被爆者援護法が空襲被災者などの他の戦争犠牲者と異なり被爆者に対して手厚い援護を行っている理由は,昭和55年の原爆被爆者対策基本問題懇談会報告(乙46)が指摘するように,原爆放射線による被爆者の健康障害が他の戦争損害とは一線を画する「特別の犠牲」であるからに。 ,「,,ほかならない同報告は被爆者に対しては…放射線障害の実態に即し…適切妥当な対策を講ずべきである。例えば,多量の放射線を被曝したと推定される近距離被爆者に対しては各種手当の支給等に引き続き努力を ほかならない同報告は被爆者に対しては…放射線障害の実態に即し…適切妥当な対策を講ずべきである。例えば,多量の放射線を被曝したと推定される近距離被爆者に対しては各種手当の支給等に引き続き努力を傾注すべきである」としており(12頁),被爆者援護法は,正にこのような被曝に- 318 -よる健康被害の特殊性に着眼し,個々の被爆者と具体的な放射線の関連の程度に応じた特段の援護を行い,原爆の放射線との関連が明らかになるほど当該被爆者に手厚い施策を受けさせることとしているのである。 (2)そして本件で問題となっている原爆症認定制度について見るとこの認,,定によって受けることのできる実体的な利益とは,すでに受けている健康管理手当(月額3万3800円)の支給に換えて医療特別手当(月額13万7430円)の支給という手厚い援護を受けられることである。それゆえ,原爆症認定がされるためには,被爆者に対してすでに医療費の無料化や健康管理手当等の施策を講じている中で,更にこのような特段の援護措置を講じる必要性を裏付けるだけの事情,すなわち,被爆者が罹患した当該疾病について原爆放射線の被曝に起因すると認められるものであること,それが現に医療を要する状態にあることについて立証される必要があるのである原爆の。 「放射線が関連している可能性がある」とか「可能性が否定できない」といった程度の証明があっただけで,加齢や生活習慣等により生じる疾患について原爆症の認定をして,国民が負担する租税財源により,上記のような趣旨に基づいて策定された手厚い医療特別手当を支給することは,他の戦争犠牲者に対する施策等と比較して著しい不均衡を生じることにもなり,およそ同法の予定するところではない(乙46・6頁参照。 ) 旧審査の方針は科学的知見を集積したものであること( ことは,他の戦争犠牲者に対する施策等と比較して著しい不均衡を生じることにもなり,およそ同法の予定するところではない(乙46・6頁参照。 ) 旧審査の方針は科学的知見を集積したものであること(1)申請疾病の放射線起因性を判断するため旧審査の方針では日米の放射,,線学の第一人者が開発した広島及び長崎における原爆放射線の線量評価システム(DS86)に基づいて作成された広島・長崎原爆の初期放射線による被曝線量(別表9)に,実測値に基づいて算出された誘導放射線による被曝()(),線量別表10及び放射性降下物による被曝線量第1の43)を加算しこのように科学的・合理的に得られた外部被曝線量を前提として,申請疾病を,①確率的影響に係る疾病,②確定的影響に係る疾病,③原爆放射線起因- 319 -性に係る肯定的な科学的知見が立証されていない疾病に分けて,放射線起因性の判断を行うこととしていた。この審査の方針は,原爆症認定の目安となる方針であって,長年にわたる医学や放射線物理学等の様々な分野において蓄積された科学的知見を集積したものであり,前記1で述べたような制度の趣旨に沿った認定を行うために定められたものである。 ア確率的影響に係る疾病確率的影響に係る疾病の場合は,原因確率を用いて判断する。原因確率とは疾病等の発生が原爆放射線の影響を受けている蓋然性があると考,「,えられる確率」をいう。原因確率は,申請疾病,申請者の性別の区分に応じて適用される旧審査の方針別表1ないし8に定められている。そして,同別表1ないし8に基づき求められた原因確率がおおむね50%を超える場合は,当該申請について原爆放射線による一定の健康影響の可能性があると推定する一方,原因確率がおおむね10%未満である場合には,当該可能性が低いものと推定 められた原因確率がおおむね50%を超える場合は,当該申請について原爆放射線による一定の健康影響の可能性があると推定する一方,原因確率がおおむね10%未満である場合には,当該可能性が低いものと推定することとした上で,これらを機械的に適用して判断するのではなく,高度に専門的な見地から,更に当該申請者に係る既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案した上で判断を行うものとしていた。 イ確定的影響に係る疾病確定的影響に係る疾病の場合は,しきい値を目安として判断する。しきい値とは一定の被曝線量以上の放射線を曝露しなければ疾病等が発生,「,しない値」をいう。旧審査の方針では,しきい値のことを閾値と呼称していきちおり,放射線白内障につき,1.75シーベルトと定めていた。 ウ原爆放射線起因性に係る肯定的な科学的知見が立証されていない疾病原爆放射線起因性に係る肯定的な科学的知見が立証されていない疾病の場合は,原因確率やしきい値が設けられておらず,文字どおり,原爆放射線起因性に係る肯定的な科学的知見が立証されていないものである。この- 320 -ような疾病に係る審査に当たっては,当該疾病等には,原爆放射線起因性に係る肯定的な科学的知見が立証されていないことに留意しつつ,当該申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を判断するものとしていた。 (2) なお,平成20年3月17日,審査の方針に代わるものとして,新審査の方針が策定された乙225この策定の経緯等については新審査の方針()。 ,が策定されたのは,従来の審査の方針が科学的,法的に誤っていたためではなく,飽くまでも,行政上の判断から被爆者の援護範囲を可及的に拡大する政策が新たに採用され,一定の者については,科学的知見にこだわらず積極的 のは,従来の審査の方針が科学的,法的に誤っていたためではなく,飽くまでも,行政上の判断から被爆者の援護範囲を可及的に拡大する政策が新たに採用され,一定の者については,科学的知見にこだわらず積極的かつ迅速に認定することとされたことによるものである。特に確率的影響とされるがんについては,被爆地点が爆心地から3.5キロメートル前後であることなど一定の形式要件により,積極的に認定することとしたが,もとより,これは,科学的知見のみに基づき,上記要件を満たせばこれらの疾病の放射線起因性が肯定されるとしたものではない。 したがって,新しい審査の方針は,被爆者援護法11条1項の解釈を変更したものでないことはもちろんのこと,これを策定したのは,従前の審査の方針やこれが前提としている科学的知見,さらには従前の審査の方針に基づいてされた原爆症認定申請却下処分に誤りがあったためではない。 第3放射線起因性についての司法審査の在り方 放射線起因性は高度の蓋然性をもって立証されなければならず,その立証責任は1審原告が負うこと(1)最高裁平成12年判決は現行の被爆者援護法11条1項に相当する原爆,医療法8条1項所定の放射線起因性の判断について求められる立証の程度について行政処分の要件として因果関係の存在が必要とされる場合にその,「,拒否処分の取消訴訟において被処分者がすべき因果関係の立証の程度は,特別の定めがない限り,通常の民事訴訟における場合と異なるものではない。 - 321 -そして,訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るも いが,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とすると解すべきであるから,法8条1項の認定の要件,『』とされている放射線起因性についても要証事実につき相当程度の蓋然性さえ立証すれば足りるとすることはできない」と判示している。 。 そして,最高裁平成12年判決は,爆風により飛来した屋根がわらにより頭蓋骨陥没骨折,一部欠損の重傷を負い,それによる脳損傷の放射線起因性が立証の対象となった当該事案において,高度の蓋然性を基礎づける事実関係として物理的打撃のみでは説明しきれないほどの被上告人の脳損傷の拡,「大の事実を重視しているすなわち高速度で飛んできた小物体による頭」。 ,「部外傷の場合には,脳実質への影響は,受傷した局所では高度であるが,局,,限性で脳全体に与える影響は少ないのが通常であるのに被上告人の場合は脳実質にこれを超える広範な損傷がある。このように広範な脳孔症は,頭部外傷の合併症というだけでは説明することができないようなまれな状態であり,このことは,かわらの打撃以外の要因も加味していることを強く推認させると判示し被上告人の傷害が通常の頭部外傷による脳損傷とは大き。」,,く異なることを指摘している。すなわち,上記最高裁判決は,被上告人の申請疾病が非特異的なものであることから,それが被曝によるものであることを認めるためには,被曝によらない同種の負傷・疾病の通常の症状・経過とは異なる特異な症状・経過が必要であるとしているものと解されるのである。 そうすると,非特異的な疾患が問題となる本件においても,申請疾病の放射線起因性が認められるた の負傷・疾病の通常の症状・経過とは異なる特異な症状・経過が必要であるとしているものと解されるのである。 そうすると,非特異的な疾患が問題となる本件においても,申請疾病の放射線起因性が認められるためには,このような同種の疾病の通常の症状・経過と異なる特異な症状・経過が認められるかなどを慎重に検討した上,通常- 322 -人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得る程度すなわち高度の蓋然性が1審原告らによって立証されなければならないことは明らかである。 (2)しかしながら,原判決は「このように行政処分の要件として因果関係の,存在が必要とされる場合に,その拒否処分の取消訴訟において被処分者がすべき因果関係の立証の程度は,特別の定めがない限り,通常の民事訴訟における場合と異なるものではない。そして,訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とすると解すべきであるから,放射性起因性についても同様の判定方法によることになる(最高裁判所平成12年7月18日第三小法廷判決・訟月48巻6号1467頁参照(110頁)と判示し,最高裁平成12年判決を引用して,同判決と同)」様の立場に立つとしながらも結局初期放射線による被曝線量が過小評価,,「されている可能性放射性降下物による外部被曝内部被曝の可能性他」,「,」,「の被爆者の衣服や身体に付着した放射性降下物や,誘導放射能に起因する被曝等が生じた可能性136頁を抽象的に指摘するだけで1審原告らが」(),どの程度被曝したかに 」,「,」,「の被爆者の衣服や身体に付着した放射性降下物や,誘導放射能に起因する被曝等が生じた可能性136頁を抽象的に指摘するだけで1審原告らが」(),どの程度被曝したかについて具体的に認定することもなく,また,各1審原告の当該申請疾病について,客観的な医学的な証拠に基づいて被曝によらない同種の負傷・疾病の通常の症状・経過とは異なる特異な症状・経過が見られるのかどうかについて十分検討することなく,本件各却下処分を取り消している。 してみると,原判決は,放射線起因性について,1審原告において高度の蓋然性をもって通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得る程度の立証責任があることを看過し,極めて抽象的な可能性が認められると- 323 -いうだけで放射線起因性を認めたというほかなく,この点で,前記最高裁平成12年判決に反し,失当である。 (3)本件では1審原告ら各自の申請疾病につき放射線起因性の有無を判断す,るに当たっては上記(2)で述べたとおり1審原告らがどの程度の放射線量,,の被曝をしたのかを確定した上で,診療録等の客観的な証拠に基づいて各申請疾病に被曝によらない同種の負傷・疾病の通常の症状・経過とは異なる特,。 異な症状・経過が見られるかを個別的具体的に検討することが必要である1審被告らにおいて,上記の検討をした結果によれば,処分取消請求について訴えの利益の認められる1審被告らの控訴に係る1審原告らについては,いずれも放射線起因性は認められない。 最高裁平成12年判決後の事情の変化に留意されるべきこと(1)原判決及びこれまでの同種訴訟の判決においては1審被告らが主張する,被曝線量評価の合理性に疑問が持たれてきた。その主な理由は,1審被告らの被曝線量評価によれば生じるはずがないにも べきこと(1)原判決及びこれまでの同種訴訟の判決においては1審被告らが主張する,被曝線量評価の合理性に疑問が持たれてきた。その主な理由は,1審被告らの被曝線量評価によれば生じるはずがないにもかかわらず,遠距離・入市被爆者について被曝による急性症状が見られたという点にあると思われる。 (2)しかしその後様々な証拠の再検討当審におけるABCC調査記録の,,,,(),入手被曝による急性症状に関する専門家の証言Z116証人等によりそもそも,遠距離・入市被爆者に被曝による急性症状が見られたという事実こそ誤りというべきであることが明らかになっている。 (3)このように最高裁平成12年判決が前提とした事情は現在の知見に基,,づけば,大きく変動しているというべきであり,そうである以上,遠距離被爆者に生じた脱毛等の身体症状が被曝による急性症状でないことを否定しなかった同最高裁判決の原審判決の事実認定も再検討されなければならない。 科学的知見の評価について(1)本件訴訟においては当事者双方から各種の科学論文が書証として提出,,され,それらの論文が示す科学的知見に基づき放射線起因性に関する主張が- 324 -なされているところである。そこで,これらの論文が示す科学的知見の評価の在り方について,付言する。 (2) 自然科学の無限の進歩が素朴に信じられていた時代とは異なり,現在における自然科学の分野における証明は,必ずしも「一点の疑義も許されない」といったものではなく,仮説に対して実験や調査,検証を経ながら一定の科学共同体の中で徐々に創り出された,その時点における蓋然性の表明にすぎないものである(最高裁判所判例解説民事編平成9年度(上)292,302ページ。 )現在,極めて多数の科学論文が発表されているところ, 体の中で徐々に創り出された,その時点における蓋然性の表明にすぎないものである(最高裁判所判例解説民事編平成9年度(上)292,302ページ。 )現在,極めて多数の科学論文が発表されているところ,それらの中には,科学的知見とはいっても,仮説を提唱したにすぎず,今後の他の研究による実証を待っている段階のものから,大多数の科学者が受け入れる確定的な科学的知見を示したものまで様々なものがあり,更にいえば,後になされた研究によって当該論文において示された科学的知見が否定されたものまである。 したがって,各種の科学論文からいかなる科学的知見の存在を認めることができるのかについては,当然のことながら,当該論文自体の内容に照らして示している結論が合理性を有するものであるのかどうかといったことのほか,当該論文が示した知見が仮説として示されたものであるのか,実証された確定的知見として示されたものであるのかといった当該論文における科学的知見の位置づけ,当該論文が科学者の間で評価をされているのか,同一の問題について他の論文においても同一の科学的知見が示されているのかなどについての慎重な検討を経なければならない。単にある科学的知見を仮説として示したり,知見が認められる可能性を示唆したにすぎない論文が存在することだけで,そのような科学的知見の存在を認めることなどは到底できない。 (3) 以上のとおりであって,多くの論文の中から,当該論文の科学的知見の位- 325 -置づけや内容の合理性等について十分な検討をすることなく,自らの主張に都合の良いもののみを抜き出して立論するなどは,決して許されない。 裁判所が行う事実認定においても,各種の科学論文を適切に評価すること,,,が必要があるのでありその評価に際しては上記(2)で述べた点に留意しこれまで営々と 論するなどは,決して許されない。 裁判所が行う事実認定においても,各種の科学論文を適切に評価すること,,,が必要があるのでありその評価に際しては上記(2)で述べた点に留意しこれまで営々と積み上げられてきた科学的知見とその重みを十分理解した上で判断されなければならない。 第4DS86による初期放射線量評価は正当であり,原判決の指摘する実測値との乖離の問題は人体の健康影響を考慮するに当たって無視し得るものであること 初期放射線量の推定誤差は健康影響を判断する上で無視できること原爆による初期放射線は,ウラン又はプルトニウムの核分裂という物理法則に従って発生し,空中を伝播(輸送)し,地形,家屋,人体そのものにより遮へいされて人体の各臓器に到達する。こうした現象は,普遍性,再現性を有する放射線物理学上定まった知見である。原爆の初期放射線の線量評価は,こうした物理法則を用いて可能な限り科学的に厳密に推計されたDS86により明らかにされている。 この点原判決はDS02による再検証を経た後も初期放射線量に関す,,「,る計算値と測定値の関係については,広島原爆において,1300メートルないし1400メートルを超える遠距離で測定値が計算値を上回る傾向にあり,その誤差は,遠距離になるほど拡大するという問題点は,相当程度改善されたとはいえ完全には払拭されていないものといわざるを得ない ,」(,3頁「被爆者の実際の被曝線量を評価するに当たっては,この点を考慮する),必要がある113頁と判示しDS86やDS02に基づく線量評価計」(),(算値)が実測値となお乖離している可能性があることを指摘し,これが人体の健康影響を考慮するに当たって重大な問題であるかのようにいう。 しかしながら,仮に爆心地から約 づく線量評価計」(),(算値)が実測値となお乖離している可能性があることを指摘し,これが人体の健康影響を考慮するに当たって重大な問題であるかのようにいう。 しかしながら,仮に爆心地から約2キロメートル地点での線量に0.05グ- 326 -レイの誤差があるとしても,本件で争点となっているのは,直接被爆した者については,①爆心地から3.5キロメートル以上も離れた地点で被爆した1審原告らのがんや,②被曝線量いかんにかかわらず,放射線との関連性が認められていない疾病の各放射線起因性であって,いずれについても,このようなわずかな誤差が放射線起因性の判断に影響を及ぼすことは考え難いから,このような低線量の誤差の可能性を問題とすること自体,無意味である。 初期放射線量の推定誤差の問題はすでに解決済みであることそもそも,DS86の推定値と実測値からの推定値との誤差を問題とする見解は,科学的知見の発展を無視したものである。 たしかに,以前,DS86による初期放射線の線量推定値は,遠距離地点において,被爆時の屋根瓦などからの実測値からの推定値よりも過小であるとされ,最高裁平成12年判決においてもDS86が実際の線量を過小評価している可能性が指摘されたことがあり,1審原告らはこのことをいうものと思われる。 しかしながら,その後,日米の科学者が検証し直したところ,そもそも実測値にこそ問題があることが分かり,結局,DS86の合理性が再確認され,DS86とほとんど同じ線量推定をしたDS02(乙143の1・2)が策定されたのである(名古屋・仙台・東京意見書(乙190)9頁。 ) 仮に初期放射線量の推定誤差を問題とするのであれば,過大評価についても検討されるべきことなお,DS86の合理性を検討する際,過小評価の可能性ばかりに焦点が当てられ,過大評 乙190)9頁。 ) 仮に初期放射線量の推定誤差を問題とするのであれば,過大評価についても検討されるべきことなお,DS86の合理性を検討する際,過小評価の可能性ばかりに焦点が当てられ,過大評価である点が検討されないのは,明らかに不合理である。 すなわち,DS86は,空気中の初期放射線量を算出し,審査の方針もこれに基づいて初期放射線量を特定しているが,本来,例えば大腸がんの放射線起因性が問題となるのであれば,人体ではなく大腸という臓器の被曝線量が特定されなければならない。そして,先に述べたとおり,放射線は,人体そのもの- 327 -が遮へい要素となるから,正しく臓器の被曝線量を特定するためには,空気中の線量から人体による遮へい効果を考慮しなければならない。ところが,現実には,被爆者に有利に被曝線量を推定するため,審査の方針では,人体による遮へいを一切考慮せず,空気中の線量で特定しているのである(乙246〔Z117証人調書(反対尋問〕390ないし394項。 )) 小括以上から,そもそも遠距離地点におけるDS86の推定値と実測値からの推定値による誤差を問題視すること自体,誤りであるし,仮にそのような誤差まで問題にするのであれば,審査の方針が被爆者に有利に空気中の線量で特定し,。 ているという過大評価も検討されなければあまりに不合理な証拠評価となる第5放射性降下物による被曝線量評価は正当であること 放射性降下物による被曝線量推定は科学的知見に基づいた適切なものであること放射性降下物については,早いもので原爆投下の3日後から,複数の実地測定が繰り返され,例えば昭和20年8月9日には広島の爆心地から5キロメートル以内の28か所,同月11日には広島市内数か所,同月13日及び14日には広島市内外の約100か所等において土壌等が採 実地測定が繰り返され,例えば昭和20年8月9日には広島の爆心地から5キロメートル以内の28か所,同月11日には広島市内数か所,同月13日及び14日には広島市内外の約100か所等において土壌等が採取され,原爆由来の放射性物質(残留放射能)を調査された。この時点で,すでに広島市内の放射能の影響は,己斐地区などごく一部を除き大きくないことが確認されていた(乙1,,,,,)。 50・157頁乙151・24頁乙152・569頁の第2表16たしかに,DS86報告書第6章は,放射性降下物による被曝線量を評価するに当たり,基本的には昭和20年9月以降の調査結果に依拠しているが,これらの調査結果は,原爆投下直後の上記各調査結果と矛盾するものではないことに留意すべきである。 こうして,広島・長崎の原爆から放出されて地上に降り注いだ放射性降下物,,の量は極めて少なかったことが明らかにされ放射性降下物による被曝線量は- 328 -放射性降下物が比較的顕著に見られた広島の己斐・高須地区,長崎の西山地区において乙112頁爆発1時間後から無限時間まで同地区にとどまり続け(),たという現実にはあり得ない仮定をした場合でも,地上1メートルの位置での放射性降下物によるガンマ線の積算線量は,広島の己斐,高須地区で0.006ないし0.02グレイ,長崎の西山地区で0.12ないし0.24グレイであるにすぎず(大阪意見書(乙115)10頁,広島意見書(乙140)13頁乙9・353354頁その他の地域で仮に放射性降下物が降下したと,,),してもこの数値を超えることはないことは放射線物理学上明らかになっている。 これを受けて審査の方針では放射性降下物による被曝線量について原,,,「爆投下の直後に特定の地域に滞在し,又はその後,長期間に渡っ えることはないことは放射線物理学上明らかになっている。 これを受けて審査の方針では放射性降下物による被曝線量について原,,,「爆投下の直後に特定の地域に滞在し,又はその後,長期間に渡って当該特定の地域に居住していた場合について定めることとし,その値」を,広島の己斐,高須地区で「0.6~2センチグレイ,長崎の西山3,4丁目又は木場地区,」で「12~24センチグレイ」としているのであり(乙1,これを用いるこ,)とが最も合理的な推定方法というべきである。 放射性降下物による被曝線量推定を批判する見解はその基礎となった科学的知見を正確に理解しないものであること1審原告らは,①昭和20年9月下旬の台風の影響により放射性降下物が流出したことによる被曝線量の過小評価の可能性,②測定場所が少ないため標本に偏りが生じていることによる被曝線量の過小評価の可能性,③限られた核種についての現存する測定値からの推定による過小評価の可能性,④黒い雨の降雨域が実際にはより広範囲であり,これを考慮しないことによる被曝線量の過小評価の可能性を指摘する。しかし,こうした批判は,DS86報告書第6章に類似の記述がなされ,DS86報告書第6章の策定者自身が過小評価の可能性に一定の懸念を表明していることを1審原告らが最大限自己に有利に援用したものにすぎず,DS86報告書第6章策定以後の科学的研究の発展とその結- 329 -果を一切考慮しない極めて不適切なものである。 (1)すなわちまず風雨の影響との関係について述べると仮に昭和20年,,,9月下旬の台風によりほとんどの放射性降下物が洗い流されたとすれば,その後の測定調査の結果と,台風以前の測定調査の結果とは大幅に異なるはずである。しかし,最近のZ66らによる研究によれば,広島原爆投下から 旬の台風によりほとんどの放射性降下物が洗い流されたとすれば,その後の測定調査の結果と,台風以前の測定調査の結果とは大幅に異なるはずである。しかし,最近のZ66らによる研究によれば,広島原爆投下から3日後に採取された試料からの被曝線量は,台風後の測定結果からの被曝線量(),,と類似していることが判明したのであり甲169の1・2この事実からDS86報告書第6章策定当時の懸念は払拭されたのである。 そこで,最近では,原爆投下から3日後の試料でも放射性降下物はすでに散乱しているというものもあるが,こうした考え方は,仮定に仮定を重ねたものである。そもそも,原爆投下3日後ですでに散乱しているのであれば,放射性降下物の影響は考える必要がない。この点をおくとしても,1審原告らも重視する黒い雨から直接測定したZ66らの最近の研究により,正に原爆投下直後であっても,そして,黒い雨を浴びたとしても,その被曝線量が高くないことが判明している乙150この研究は黒い雨が家屋の中に()。 ,,,,まで流れ込み壁に付着したものでその時に黒い雨が拭き取られたものと拭き取られないままのものとが試料とされたものであり,風雨の影響を指摘する者であっても,測定場所の問題を指摘する者であっても,被曝線量を特定するには最適の研究試料のはずである。それにもかかわらず,当該試料においては黒い雨からの被曝線量は高くなかったのである(以上,乙226〔Z117証人調書(主尋問〕101ないし111項。 )),,,,(2)次に測定場所の問題については先に述べたとおり原爆投下直後から科学者たちが様々な場所を選択して実地調査を行っており,しかも,その結果は最近のZ66らの研究とも齟齬しない状況にある。そもそも,実地調査を行ったのは当時の第一線の科学者たちであり 原爆投下直後から科学者たちが様々な場所を選択して実地調査を行っており,しかも,その結果は最近のZ66らの研究とも齟齬しない状況にある。そもそも,実地調査を行ったのは当時の第一線の科学者たちであり,放射能測定に適切な場所を選択されたことが合理的に推認されるのであって,測定場所として放射線の- 330 -影響の少ない所ばかりが選ばれた結果,過小評価になったというようなことはない。 ,,(3)限られた核種からの推定を問題とする見解に対して述べるとたしかに測定自体は,セシウム137のみに依拠しているものの,そこから被曝線量を算定するに当たっては,原爆により生じた核分裂生成物のうち放射線を発するすべての核種の生成割合に応じて被曝線量を加算していることに留意すべきである乙226Z117証人調書主尋問 113項甲(〔()〕,,169の2・3頁「この方法によって,セシウム137の面積当たりの沈着量はZ233が用いた換算因子・・・中略を用いてすべての核分裂生成物に()よる累積被曝に換算されるとの記載参照したがってセシウム137の」)。 ,測定に基づく被曝線量といった場合には,放射線を発するすべての核種が生成されたのと同様の割合で一様に地面に沈着したと仮定した時の被曝線量を意味するのであり,そこから放射性降下物の被曝線量を推定することには合理性がある。 この点,生成割合と同じ割合で放射性降下物が地面に沈着するという仮定を問題とする者もあるようであるが,こうした指摘は被曝線量評価との関係では何の意味も持たない。なぜなら,こうした指摘は,被曝線量評価の過小評価の可能性と同じ程度で過大評価の可能性も認めることにつながるからである。更にいえば,例えば核分裂生成物の1つである放射性ヨウ素は,気化する性質を有し なぜなら,こうした指摘は,被曝線量評価の過小評価の可能性と同じ程度で過大評価の可能性も認めることにつながるからである。更にいえば,例えば核分裂生成物の1つである放射性ヨウ素は,気化する性質を有しており,原爆の火球とともに成層圏まで運び去られることが合理的に推認されるから,こうした物質を考慮すれば,気化するような核分裂生成物まで地面に沈着すると仮定することは,むしろ過大評価に結びつく事情になる。 (4)最後に黒い雨の降雨域を問題とする指摘について述べるとこれまで述,,べてきたとおり,地面に沈着したセシウム137からの測定においても,黒い雨からの測定においても,その被曝線量が高くないことが明らかな以上,- 331 -仮に広島で己斐・高須地区,長崎で西山地区以外の場所で放射性降下物が見られたとしても,人体の健康影響を考慮するに当たって有意な被曝となるこ。 ,「,,とは考え難い原判決は広島の己斐・高須地区長崎の西山地区以外にも周辺部の広い地域に放射性物質が降下した可能性がある115頁と判示」()し,広範囲に放射性降下物が降下した可能性を問題としているが,これは,結局のところ,具体的にどの程度の放射性降下物が降下したのかという最も重要な点について触れることなく,程度問題を度外視して放射性降下物が上記地区以外に存在したか否かのみを論じたものでしかない。 なお,念のため付言すると,黒い雨と放射性降下物を同一視する見解は全くの誤解に基づいている。放射性降下物の影響を示す事例として,1954年にビキニ環礁で米国が行った水爆実験によって,第5福竜丸乗組員が浴びた多量の死の灰(放射性降下物)が知られているが,これと黒い雨は全く異なるものである。すなわち,黒い雨が見られたのは,火災によるすすが巻き上げられ,雨と一緒に降下したこと て,第5福竜丸乗組員が浴びた多量の死の灰(放射性降下物)が知られているが,これと黒い雨は全く異なるものである。すなわち,黒い雨が見られたのは,火災によるすすが巻き上げられ,雨と一緒に降下したことによるものであり,すすは炭素であり,核分裂生成物ではない。また,炭素は,極めて放射化しにくい物質であるから,ほとんど放射化しないといっても過言ではなく,誘導放射化物質とも見られない。したがって,黒い雨それ自体は放射性降下物ではなく,黒い雨を浴びたという一事をもって単純に多量の被曝を想定することは誤りである(広島意見書(乙140)13頁,乙70・4頁,名古屋・仙台・東京意見書(乙190)13頁。 ) 放射性降下物が皮膚や衣服に付着したことによる被曝の影響を重視することは誤りであること広島・長崎の原爆から放出されて地上に降り注いだ放射性降下物の量は極めて少なかったのであるから,その一部が被爆者の衣服や身体に付着したとしても,その量自体は更に限られたものであった。さらに,仮に人体に放射性降下物が付着したとしても,垢とともに約1週間程度で脱落すると考えられ,壁の- 332 -ように長期間付着し続ける事態を想定するのは不合理である(乙226〔Z117証人調書(主尋問〕111項。したがって,そのような放射性降下物に))よる被曝は,一時的なものにすぎない。 ,,したがって放射性降下物の一部が被爆者の衣服や身体に付着したとしても無限時間を想定した積算線量(広島の己斐・高須地区で0.006ないし0. 02グレイ,長崎の西山地区で0.12ないし0.24グレイ)を超えることはあり得ず(広島意見書(乙A140)13頁),その被曝線量は,無視し得る程度のものであった。 仮に放射性降下物を含む降雨等が直接皮膚に付着した場合に,放射性降下物から発せられるアル )を超えることはあり得ず(広島意見書(乙A140)13頁),その被曝線量は,無視し得る程度のものであった。 仮に放射性降下物を含む降雨等が直接皮膚に付着した場合に,放射性降下物から発せられるアルファ線やベータ線により高線量の被曝をするとしても,こ,,れらはいずれも到達距離が非常に短くアルファ線は皮膚表面にしか作用せずベータ線も枢要な臓器には到底到達しない。また,ガンマ線を発する核種もあるが,その場合でも,皮膚表面から深部に到達する過程で線量は著しく減少するので,皮膚表面における被曝線量が最も高いことに変わりはない。そうすると,仮に放射性降下物が皮膚に付着することにより有意な被曝をするのであればまずは皮膚障害が生じたはずであるが甲119・78頁そのような,(,),皮膚障害は発生していないから,放射性降下物を含む降雨等が直接皮膚に付着することにより人体影響が生じるような被曝をすることはなかったのである。 第6旧審査の方針における誘導放射線による被曝線量評価は正当であること 誘導放射線の線量推定は科学的知見に基づいた適切なものであること原爆の誘導放射線は,原爆の初期放射線の中性子に起因するものであるところ,中性子は,物理法則に従い,爆心地から離れるに従って急激に低減し,広島では爆心地から700メートル,長崎では600メートルを超えればほとんど届かなくなるから,必然的に誘導放射線が生じる範囲も同様となる。 そして,例えばZ69らによる研究(乙157)や,Z234らによる研究(乙193)によれば,誘導放射化される元素自体,マンガン,ナトリウムな- 333 -ど限られている上,その半減期も短いことが,実際の土壌等の解析により判明している。 その結果,誘導放射線については,爆発直後から無限時間まで爆心地にとどまり続けたとい ,ナトリウムな- 333 -ど限られている上,その半減期も短いことが,実際の土壌等の解析により判明している。 その結果,誘導放射線については,爆発直後から無限時間まで爆心地にとどまり続けたという現実にはあり得ない仮定をした場合でも,地上1メートルの位置での誘導放射線による積算線量は,広島で約0.5グレイ,長崎で0.18ないし0.24グレイであるにすぎないことが明らかになった(大阪意見書(乙115)9頁,広島意見書(乙140)11頁,乙9353頁の表2,乙16・227,228頁,224頁の表12。 )旧審査の方針のうち,誘導放射線による被曝線量を定めた別表10は,このような実際の調査結果を踏まえて作成されたものであり,これを用いることが最も合理的な推定方法というべきである。 誘導放射線の線量推定を批判する見解はその基礎となった科学的知見を正確に理解しないものであることこれに対して,1審原告らは,①誘導放射線量を特定するに当たり,土壌しか考慮に入れられておらず,その他の建造物や被爆者自身を考慮外としているため,線量評価が不十分である(原審における1審原告らの2006年12月27日付け準備書面2021頁②被爆者の中にはがれきをかき分けて作,),,業をしたり,爆心地付近で寝そべって野営した者もいるのであるから,地上1メートルの高さで線量を評価することは不適切であると批判するようである。 しかしながら,こうした批判は,以下で述べるとおり,証拠に基づいた合理的な批判ではない。その上,初期放射線量評価への批判と同様,過小評価の可能性のみを大きく取り上げ,明らかな過大評価を適切に考慮しない極めて不適切な指摘である。 (1)まずZ69らは土壌以外の物質の誘導放射線を考慮に入れなければな,,。 ,,らないのにこれをあえて考 を大きく取り上げ,明らかな過大評価を適切に考慮しない極めて不適切な指摘である。 (1)まずZ69らは土壌以外の物質の誘導放射線を考慮に入れなければな,,。 ,,らないのにこれをあえて考慮外としたものではないすなわちZ69らは,,,土壌以外にも当時の広島の爆心地に多かったと考えられる屋根瓦れんが- 334 -アスファルト,木材及びコンクリート・ブロック片に含まれる誘導放射化され得る物質とその比放射能を調べている(乙157・2頁の「材料および方法の項目15頁表8例えば屋根瓦については土壌よりも誘導放射化」,)。 ,するマンガンの比放射能は高い。ところが,その屋根瓦から発せられる誘導放射線量は,土壌からのそれよりも圧倒的に低い結果となった(乙157・13頁表715頁表8なぜなら屋根瓦自体が遮へいとなり放射線が,)。 ,,(〔()〕屋根瓦の外に出られないからである乙226Z117証人調書主尋問13から126項。 )こうしてみると,特に原爆爆心地の場合には,ほとんどの建築材料は爆風及び熱線により地面上に崩壊したと合理的に考えられるところ,誘導放射線の高い土壌の上にその遮へいとなる屋根瓦やれんが木材炭コンクリ,,(),ート等が散らばっている状況においては,最も線量の高い土壌からの誘導放射線を考慮することが被曝した人体の被曝線量を最も高く評価することになるのである。以上により,土壌や屋根瓦やれんがなどからの誘導放射線を合算しなければならない合理的根拠は全くないというべきである。 (2)次に人体の誘導放射化についてであるが古い調査報告中に爆心地から,,500メートル地点で被爆した死者の臓器から発せられる放射線の個数を計測したところ,数十個単位の放射線があったという記述があ 次に人体の誘導放射化についてであるが古い調査報告中に爆心地から,,500メートル地点で被爆した死者の臓器から発せられる放射線の個数を計測したところ,数十個単位の放射線があったという記述があること(甲A78の14・937頁)から,これがあたかも健康影響を考える上で必要な被曝の原因になり得るかのような指摘も考えられるところであるが,こうした指摘は,放射線の基礎的な理解を欠いた,あまりに非科学的な見解である。 すなわち,いわゆるZ236臨界事故で約25グレイの被曝をした者の人体の誘導放射化を調べたところ,最も多い放射線の個数を検出した部位では自然放射線100個を含む2万6000個にも及ぶが,その被曝線量は,1時間当たり,胃の1回のレントゲン検査による被曝の300分の1程度にすぎないのである(乙222・117頁,118頁資料-1,Z116主尋問- 335 -,)。 ,,調書2122頁このように放射線の個数を多く検出したからといって直ちに被曝線量が高いことに結びつくものでは全くない。 (3)最後に被曝線量を地面から1メートルの高さで評価することの合理性に,ついて述べる。 被曝線量を地面から1メートルの高さで評価することを批判する者は,放射線量は放射線源からの距離の2乗に反比例して急激に低減するという法則がどのような場面にも当てはまるということを論拠とするものと思われる。 しかし,そもそも,この法則が当てはまるのは,原爆に即していえば初期放射線のような点線源に限られるのであり一様に散らばったと仮定して点,(線源に対して面線源と呼ばれる,被爆者に有利に線量を特定している誘導。)放射線や放射性降下物による被曝線量の推定には当てはまらない(名古屋・仙台・東京意見書(乙190)14頁,乙264,乙226〔Z117証人調書(主尋 る,被爆者に有利に線量を特定している誘導。)放射線や放射性降下物による被曝線量の推定には当てはまらない(名古屋・仙台・東京意見書(乙190)14頁,乙264,乙226〔Z117証人調書(主尋問〕147から155項。 ))以上のような理論的な誤りに加え,最近の研究によっても,皮膚に付着すれば1メートルの高さでの評価よりも大幅に被曝線量が高くなるという指摘の誤りが明らかになっている。すなわち,Z235らは,広島にある実際の土壌を用いて誘導放射線量を計算し,原爆爆発直後から1週間,爆心地にとどまり続け,その間,皮膚に一様に放射化した土壌が付着し続けたという現実的にはあり得ない仮定をし(爆発直後,爆心地に立って生存することは不可能である,地面からの被曝線量と皮膚に付着した土壌からの被曝線量を。)計算したところ,爆心地ですら,皮膚に付着した土壌からの被爆線量は,全体のわずか1パーセントであり,0.00936グレイにすぎないことが分。 ,,. かった同様の条件で爆心地から500メートル地点の皮膚の線量は0001339グレイ,爆心地から1キロメートル地点で0.00003294グレイである。しかも,これに寄与する放射線は,ガンマ線ではなく,ほとんどがベータ線であることも分かった。そうすると,ベータ線は臓器にま- 336 -で到達しないから,結局のところ,疾病の放射線起因性を考える上では,皮膚に付着した土壌からの被曝線量は全く無視できることが判明したのである(乙262。 )(4) 以上のとおり,審査の方針における誘導放射線の線量評価は正当である。 仮に,これが過小評価であると批判するのであれば,過大評価となっている点も正当に考慮されなければならない。例えば,上記Z235らの研究では,原爆爆発直後から皮膚に一様に土壌を付着し続けるという る。 仮に,これが過小評価であると批判するのであれば,過大評価となっている点も正当に考慮されなければならない。例えば,上記Z235らの研究では,原爆爆発直後から皮膚に一様に土壌を付着し続けるというあり得ない仮定をしているが,これは,放射能の減衰との関係で,原爆爆発直後が最も被曝線量が高くなるからであり,この研究は,被曝線量を過大に評価したものといえる。また,Z69らの研究に基づく審査の方針では,土壌からの誘導放射線がコンクリートや屋根瓦や焼けた木材などにより遮へいされることを無視し,多めの被曝線量を特定しているのである。 それでもなお,過小評価を問題とするのであれば,これらの過大評価と1審原告らが指摘するであろう過小評価との差こそが問題とされなければならない。 第7内部被曝による被曝線量を考慮する必要がないこと 内部被曝の影響は健康影響を考える上で考慮する必要がないこと原爆による内部被曝は,放射性降下物が鼻や口から吸い込んだ空気や飲食物を介するなどして,直接,身体に侵入して発生する場合が最も考えられるところ,その影響については,放射性降下物が最も多く堆積し,原爆による内部被曝が最も高いと見積もられる長崎の西山地区の住民について,2度の経時的な実測を含めた昭和20年から昭和60年までの40年間にわたる内部被曝による積算線量の算定が行われており,これに勝る科学的知見は存在しない。これによると,その線量は,男性で0.0001グレイ,女性で0.00008グレイと評価された(大阪意見書(乙115)18頁,広島意見書(乙140)15頁乙9・354355頁乙16・219頁長崎の西山地区以外の,,,)。 - 337 -被爆者の被曝線量については,これらをはるかに下回ることになる。 これは,自然放射線による年間の内部被曝線量(0.0 355頁乙16・219頁長崎の西山地区以外の,,,)。 - 337 -被爆者の被曝線量については,これらをはるかに下回ることになる。 これは,自然放射線による年間の内部被曝線量(0.0016シーベルト=すべてガンマ線であった場合0.0016グレイ)と比較しても格段に小さいものであるから(大阪意見書(乙115)18頁,同意見書参考文献3・13頁審査の方針において内部被曝による被曝線量を考慮しないものとされたこ),とには何ら不合理な点はない。 原爆被爆者において内部被曝の影響を重視することは誤りであること(1)内部被曝の問題については相当の被曝をしたと主張する者が外部被曝の,みではこれを十分に根拠づけることができないために過大視されてきたように思われる。しかし,内部被曝の影響を強調する者が依拠しているのは,そもそも古い時代の単なる仮説であり,しかもその仮説は,現在,理論的に誤りであることが証明され,かつ,実証的にも否定されており,およそ内部被曝の影響を重視する根拠になり得ないものであることが判明している。そうであれば,内部被曝による影響を重視することは,到底許されないというべきである。 (2) すなわち,例えば,内部被曝により50年間で1グレイの被曝をするためには,原爆投下直後に,爆心地付近の土壌を数十キログラム単位で一度に体内に摂取しなければならない(名古屋・仙台・東京意見書(乙190)23頁,乙226〔Z117証人調書(主尋問〕163から167項。単純計))算すれば,1グレイの100分の1である1センチグレイの内部被曝をもたらすためであっても,原爆投下直後に数百グラム単位で爆心地付近の土壌を一度に摂取しなければならないのであって,およそ現実的にはあり得ない事態である。 ところで,本件で問題となるのは,被爆 被曝をもたらすためであっても,原爆投下直後に数百グラム単位で爆心地付近の土壌を一度に摂取しなければならないのであって,およそ現実的にはあり得ない事態である。 ところで,本件で問題となるのは,被爆者本人すら気付かないうちに空気中の放射性物質を吸ったり,食べ物の表面にわずかに付着した放射性物質を食べたりしたという場合である。このように,放射性物質がわずかでも体内- 338 -に摂取された場合に,健康に悪影響を及ぼすほどの被曝をもたらすのかどうかが問題となる。 この点,1審原告らは,放射性物質がわずかでも体内に摂取された場合には,特にアルファ線により細胞が高線量の被曝をするという,いわゆるホットパーティクル理論又はホットスポット理論を根拠に,わずかでも放射性物質が体内に摂取された場合に健康に悪影響を及ぼすほどの被曝をもたらすという。 しかしながら,ホットパーティクル理論なるものは,そもそも何ら実証的に明らかにされたものではない。むしろ,ホットパーティクル理論の提唱者がその理論の正しさを実証できるとして挙げた,1965年にアメリカのロッキーフラットという軍事工場で発生した酸化プルトニウムを肺に吸入したという内部被曝事例において,40年以上経た現在においても,肺がんを発症した被曝者は1人もいないことからも,ホットパーティクル理論の誤りが実証されている乙246Z117証人調書反対尋問402から41(〔()〕1項また理論的に見てもホットパーティクル理論は誤っているすな)。 ,,。 わち,仮にプルトニウム粒子が細胞に付着して相当の被曝をもたらすとしても,これにより放射線を浴びた細胞は死滅し,がん化しようがないにもかかわらず,ホットパーティクル理論は,細胞の死滅に寄与した放射線量まで考慮に入れているが,絶対にがん化に寄 当の被曝をもたらすとしても,これにより放射線を浴びた細胞は死滅し,がん化しようがないにもかかわらず,ホットパーティクル理論は,細胞の死滅に寄与した放射線量まで考慮に入れているが,絶対にがん化に寄与しない放射線量を考慮に入れて,細胞のがん化を説明すること自体,極めて不適切であり,その誤りは明らかである。現在では,ホットパーティクル理論の誤りは世界の科学者の共通の理(,,,,解となっている乙80の12・1枚目乙96・6枚目乙105の12・1枚目,広島意見書(乙140)16,17頁,乙205の2,乙246〔Z117証人調書(反対尋問〕401,416,417項。 ))(3)放射線の人体影響が未解明であると強調しわずかな線量の放射線被曝に,よって様々な疾病が発症したとする1審原告らの主張は,今日の放射線医学- 339 -の常識に明らかに反しており,このような主張に従うならば,現在放射線を用いた診断や治療に携わる医療従事者に対し講じられている現在の種々の安全対策(例えば,放射線業務従事者については,実効線量限度が一定期間における線量限度として定められており,その値は1年間につき50ミリシーベルトであるは根本から見直さざるを得なくなるとともに多くの患者。),,の生命を救っている放射線を用いた診断・治療のほとんどは,我が国においては用いることができないという事態になりかねない。例えば,一般的な放射線を用いた診断法のひとつであるCTスキャンについて見れば,1回で約4.6ないし13.3ミリシーベルトの被曝をし,甲状腺機能亢進症の一般的治療であるアイソトープ治療を施せば,甲状腺に対して50グレイ以上の局所的な被曝を起こすことは医学的な常識として知られているが,そういった検査や治療は何も行うことができなくなってしまう 進症の一般的治療であるアイソトープ治療を施せば,甲状腺に対して50グレイ以上の局所的な被曝を起こすことは医学的な常識として知られているが,そういった検査や治療は何も行うことができなくなってしまう。 小括このように,ホットパーティクル理論が完全に否定される以上,これを前提として初めて成り立つ1審原告らの主張,すなわち,塵埃を吸ったり,汚染さ,,れた食べ物を摂取したりしたことでそれらに含まれていた放射性物質により外部被曝とは比較にならないような相当の内部被曝をしたという主張の誤りは明白というべきである。 結局,放射線被曝による健康影響は,内部被曝か外部被曝かといった被曝態様で危険性が変わるというものではなく,どれだけの線量の放射線被曝をした(〔()〕,,かが問題である乙226Z117証人調書主尋問66項乙251広島意見書(乙140)14頁。そして,内部被曝による被曝線量はどのよう)に見積もってもごくわずかな被曝線量にしかならないから,結論として,内部被曝の問題は人体の健康影響を考慮するに当たって無視し得るものというべきである。 1審原告らは,内部被曝の可能性を指摘するものの,これによりどの程度の- 340 -被曝が生じ得るのか,あるいは内部被曝であることにより外部被曝によるものよりもどの程度危険が増すのかについて具体的に指摘するものではなく,単に抽象的ですでに否定されている仮説をるる主張するにすぎない。 第8遠距離・入市被爆者に見られた被爆後の身体症状は放射線被曝による急性症状ではないこと 1審原告らの被爆後の身体症状の存否及び程度を認定するに当たっては,現在の供述の信ぴょう性を慎重に検討しなければならないことこれまで,原判決及び同種訴訟の判決では,その原告らの被爆後60年以上も経過した現在の供述 後の身体症状の存否及び程度を認定するに当たっては,現在の供述の信ぴょう性を慎重に検討しなければならないことこれまで,原判決及び同種訴訟の判決では,その原告らの被爆後60年以上も経過した現在の供述に基づき,被爆後に下痢や脱毛といった様々な身体症状が発症した事実が認定され,これが被曝による急性症状と評価され,これを根拠に原告らが相当程度の被曝をしたとされてきた。 しかし,ABCC調査記録によれば,被爆後に様々な身体症状があったと供述していた原告らやその家族のほとんどが,ABCCの調査に対し,被爆後に身体症状は一切なかった旨回答していることが明らかになった。 ,(,,)このABCC調査は各被爆者の具体的な被爆状況被爆地点距離状況及び被爆後の身体症状等を正確に把握することを目的として,被爆者宅を日本人調査員が訪問し,被爆者本人(これが困難である場合には被爆者本人の被爆状況を知る家族)に対して任意で聞取りを行ったものであり,調査時期も被爆からさほど時を経ていないものである。また,ABCC調査記録では,単に身体症状の有無や程度だけが調査されているのではなく,家族構成,被爆場所,被爆態様,外傷や熱傷の有無,程度,調査時の健康状態など様々な事項について調査がなされており,それぞれ真しに回答がなされ,調査者による信ぴょう性の評価もなされている。したがって,ABCC調査記録中の回答内容の信頼性は,被爆から60年も経過した現在の供述よりも格段に高いというべきである乙2541審原告らはABCC調査には被爆者が差別等を恐れて被爆()。 ,の事実を過少申告する傾向があったなどの様々な問題点があり,その回答内容- 341 -は信用できないと主張するが,上記のような調査の実態に照らしていずれも根拠がない。 仮に被爆後の身体症状の有無を問 事実を過少申告する傾向があったなどの様々な問題点があり,その回答内容- 341 -は信用できないと主張するが,上記のような調査の実態に照らしていずれも根拠がない。 仮に被爆後の身体症状の有無を問題とするのであれば,まずはABCC調査記録を検討し,ABCC調査記録が存在しないような場合には,被爆後60年以上経過してなされた現在の供述が一般的に信頼性が低いことに十分留意しつつ,供述の変遷や合理的な変遷理由の有無などを検討して慎重に事実を確定すべきである。 ところで,1審被告らは,Z107らの「原爆急性症状情報の確かさに関する研究乙144を援用し被爆者の身体症状についての記憶は不確かであ」(),る旨主張したところであるが1審被告ら控訴理由書66頁この研究会にお(),ける報告をまとめて論文として公表された「長崎原爆被爆者の急性症状に関する情報の確かさ(乙265)によれば「被爆直後の調査と被爆から15-2」,0年後の調査について両方の調査に回答していた627人を対象に急性症状の有無に関する回答の一致率について検討した。直後の調査を基準とした場合は脱毛と皮下出血の一致率が高く,後の調査を基準とした場合は下痢と嘔吐が高かったが,いずれの場合も高い一致率を示したものはなく,回答は安定していなかった。2㎞以上では嘔吐,脱毛および歯茎出血の一致率が低くかった(ママ(同80頁)としているのであり,Z107らはこの研究において,明確)」に被爆者の身体症状についての記憶は不確かであることを結論づけている。 身体症状の存在から直ちに被曝による急性症状を認定することは誤りであること被曝による急性症状については,放射線被曝事故や医療被曝など様々な被曝,,,事例の積み重ねによりどのような被曝態様であっても発症する症状の内容発症時 る急性症状を認定することは誤りであること被曝による急性症状については,放射線被曝事故や医療被曝など様々な被曝,,,事例の積み重ねによりどのような被曝態様であっても発症する症状の内容発症時期,程度,回復時期,しきい線量等に明確な特徴があることが判明している。したがって,本件においても,被爆者に見られる身体症状が被曝による急性症状であるかどうかは,単に症状の存在だけで判断できるものではなく,- 342 -発症する症状の内容,発症時期,程度,回復時期が被曝による急性症状の特徴を示しているかどうか,更にしきい線量を満たすだけの被曝事実があるかを総合的に考慮して判断されなければならない乙218Z116意見書甲1(「」,19・3頁以下乙145Z121意見書乙226Z117証人調書主,「」,〔(尋問〕19項以下。 ))これに対し,Z112は,原爆被爆者は原爆以外による被曝態様と異なることを理由に,世界的に確立した被曝による急性症状の特徴が原爆被爆者には当((),),てはまらない旨の意見を述べているがZ112証人調書主尋問56頁同氏は,①様々な被曝態様の違いがあっても共通した急性症状の特徴が見られるという事実を殊更に無視している上,②原爆被爆者に限っては,原爆以外による被曝態様と具体的にどのように異なるのかを明らかにできず,③被曝態様が異なれば,なぜ被曝による急性症状の特徴が全く異なってしまうのかについても説明することができないから,同氏の意見は到底採用できない。加えて,Z112の意見は,被曝態様が異なれば被曝による急性症状に見られる特徴が見られなくなるというにすぎず,放射線被曝以外の原因で生じる嘔吐,下痢,脱毛との区別を明らかにする基準は何ら示していない。Z112の意見をそのまま当てはめれば,原爆被爆 よる急性症状に見られる特徴が見られなくなるというにすぎず,放射線被曝以外の原因で生じる嘔吐,下痢,脱毛との区別を明らかにする基準は何ら示していない。Z112の意見をそのまま当てはめれば,原爆被爆者に被爆後に下痢や脱毛が見られれば,それはす,,,なわち被曝による急性症状であるということになりまた別の見方をすれば原爆被爆者には不衛生や精神的影響に起因する下痢や脱毛などの身体症状はほとんど見られなかったことになるが,これは,あまりに被爆の実態から離れた不合理な仮定である。 遠距離・入市被爆者に被曝による急性症状が見られた根拠として引用される各調査報告はいずれも被曝による急性症状を明らかにしたものではないこと1審原告らは,被爆者の身体症状を調べた様々な調査結果を根拠に,遠距離・入市被爆者にも被曝による急性症状が見られたと主張している。 しかし,Z116の証言等によれば,こうした調査が示した結果は被曝によ- 343 -る急性症状ではないことが明らかである。この点,1審被告らは,遠距離被爆者の身体症状を調査したものとして代表的に取り上げられるいわゆる日米合同調査報告(甲61の13)及び入市被爆者の身体症状を調査したものとして代「」()表的に取り上げられるZ98氏の原爆残留放射能障碍の統計的観察甲20が被曝による急性症状を示したものではないことについて,1審被告ら準備書面(12)8頁以下で詳細に述べているところである。 自然災害,東京大空襲,Z236臨界事故でも,被曝による影響ではないことが明白な嘔吐,下痢,出血,脱毛,口内炎,倦怠感,不眠といった様々な身体症状の発症が確認されていること原爆被爆者に見られた様々な身体症状は,自然災害などの放射線被曝をしていないことが明らかな他の事案においても具体的に確認されているのであって 感,不眠といった様々な身体症状の発症が確認されていること原爆被爆者に見られた様々な身体症状は,自然災害などの放射線被曝をしていないことが明らかな他の事案においても具体的に確認されているのであって乙248Z89尋問調書181から186項こうした事実に照らせば特(),,に遠距離・入市被爆者に見られたとされる身体症状が衛生環境の悪化や精神的影響に起因するものであることは明らかである。したがって,日米合同調査報告等の古い調査結果が,たまたま爆心地からの距離や遮へいの有無で身体症状の発現率に差があることを示したとしても,それを根拠に被曝による急性症状を明らかにしたものと認定することはできない。 最高裁平成12年判決が指摘した脱毛は被曝による急性症状としての脱毛の特徴を備えているとはいえないこと,(),(1) 最高裁平成12年判決は日米合同調査報告甲61の13等を指摘し「放射線による急性症状の一つの典型である脱毛について,DS八六としきい値理論を機械的に適用する限りでは発生するはずのない地域で発生した脱毛の大半を栄養状態又は心因的なもの等放射線以外の原因によるものと断ず,。」。 ,ることにはちゅうちょを覚えざるを得ないとしているしかしながら現在では,様々な被曝事例の経験から,被曝による急性症状には,その発症時期,程度,回復時期等に極めて明確な特徴があることが確定した知見とし- 344 -て明らかとなり,これに照らして日米合同調査報告等を検討すれば,前記4で述べたように,上記最高裁判決が前提とした日米合同調査報告等は,被曝による脱毛を的確に把握したものでないことが判明している。このことは,上記最高裁判決が指摘した脱毛に関する上記調査報告の調査対象者の多くが,調査ごとに脱毛(中でも重度脱毛)の有無についての回答 被曝による脱毛を的確に把握したものでないことが判明している。このことは,上記最高裁判決が指摘した脱毛に関する上記調査報告の調査対象者の多くが,調査ごとに脱毛(中でも重度脱毛)の有無についての回答を変えており乙144 爆心地から2キロメートル以遠において観察された脱(,),毛が放射線の影響か否かは判断できないこと(甲106,107)が上記最高裁判決後に新たに発表されたこと,また,最近の本件及び同種訴訟におけるABCC調査記録の取調べの結果からも裏付けられている。 (2) そして最高裁平成12年判決は被上告人に生じた脱毛の事実を挙げ,,「」るが,この脱毛は,現在知られている被曝による急性症状としての脱毛の特。 ,,,徴を備えていないすなわち原爆放射線被曝による脱毛であれば被曝後,,,8ないし10日後から出現しほとんどの毛髪が抜けるまで23週間続き脱毛から8ないし12週間後には発毛が見られるという特徴が観察されるはずであるところ(乙145,乙190・27頁,Z116主尋問調書13,14頁上記最高裁判決の原審が適法に認定した事実によれば同事件の被),,上告人は,被爆した昭和20年8月9日の後,数日間自宅にどどまっていたときに「頭髪が少しずつ抜け始め,同年10月上旬ころまで続いて「頭髪,」は一層薄くなった」というものであり,原爆放射線の被曝による脱毛の特徴を有しない。 (3) このように,最高裁平成12年判決が前提とした事情は,現在の知見に基づけば,大きく変動しているというべきであり,そうである以上,遠距離被爆者に生じた脱毛等の身体症状が被曝による急性症状でないことを否定しなかった同最高裁判決の原審判決の事実認定も再検討されなければならない。 本件においては,現時点において明らかになっている証拠関 離被爆者に生じた脱毛等の身体症状が被曝による急性症状でないことを否定しなかった同最高裁判決の原審判決の事実認定も再検討されなければならない。 本件においては,現時点において明らかになっている証拠関係に基づいて,遠距離・入市被爆者に生じた脱毛等の身体症状を被曝による急性症状と認め- 345 -ることができるか否かが判断されなければならないのである。 小括以上のとおり,遠距離・入市被爆者に見られたとされる身体症状を被曝による急性症状と認定すること自体誤りであるから,これを議論の出発点として,1審被告らが主張する被曝線量評価の合理性を否定したり,1審原告らの供述を吟味しないまま安易に身体症状を認定し,十分な総合的検討もせずにこれを,,被曝による急性症状と認定し相当の放射線に被曝したなどと推認することは誤りというべきである。 第9旧審査の方針における原因確率による放射線起因性の判断方法は合理的であること旧審査の方針においては,確率的影響による疾病について,放影研が広島及び長崎の被爆者の線量推定値を基礎に疫学的手法を用いて算出したリスク推定値を基に,原爆放射線の影響を受けている蓋然性があると考えられる原因確率を算定し,これを目安として,放射線起因性の判断をすることとされていた。 放影研が行った疫学調査は,世界的に見ても例がないほどに大規模であり,疫学的にも極めて精度の高い調査であって,このような調査に基づいて算定された原因確率による判断方法に不合理な点はなく,これに勝る科学的な知見は存在しない。原因確率は,IAEA(国際原子力機関)の公式文書である「職業被曝による発がん率の評価方法においても原因確率の算出は個人において」,「特定のがんが放射線によって誘発された確率を系統的に定量化する最良の方法。 ,。」であるそれは理想的 書である「職業被曝による発がん率の評価方法においても原因確率の算出は個人において」,「特定のがんが放射線によって誘発された確率を系統的に定量化する最良の方法。 ,。」であるそれは理想的ではないが現在利用できる唯一の実用的な方法である(乙189)とされており,国際的にも唯一承認された最善の方法である。また,原因確率の考え方及び原因確率策定の根拠となった疫学調査の科学的合理性については,検討会報告(乙217)によっても確認されている。したがって,原因確率を目安としてなされたがんを申請疾病とする1審原告らに対する各原爆症認定申請却下処分が国家賠償法上違法となることはない。 - 346 -なお,現時点で原爆症として認定されていない本件の1審原告らは,そもそも積極認定の対象疾病でない疾病を申請疾病とする1審原告らか,積極認定の対象疾病を申請疾病とするものの,積極認定の要件である被爆距離や入市時期等の要件を満たしていない1審原告らであり,結果として,放射線起因性の判断に当たり原因確率が問題となることはない。 第101審原告らの申請疾病の症状・経過を個別に見ると放射線起因性を認めることはできないこと 1審原告Z32(原告番号4)について(1)1審原告Z32は広島の爆心地から約6キロメートル離れた金輪島で被,爆したものであり,その後の行動に照らしても,新審査の方針における積極認定の要件(原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市したこと,又は原爆投下より約100時間経過後から原爆投下より2週間以内の期間に爆心地から約2キロメートル以内の地点に1週間程度滞在したこと)すら満たしておらず,同1審原告は原爆の放射線にほとんど被曝していないというべきであるから,原因確率を考慮するまでもなく,同1審原告の申請疾病 ら約2キロメートル以内の地点に1週間程度滞在したこと)すら満たしておらず,同1審原告は原爆の放射線にほとんど被曝していないというべきであるから,原因確率を考慮するまでもなく,同1審原告の申請疾病である前立腺がんに放射線起因性を認めることはできない。 ,,,,,,(2)また1審原告Z32が主張する倦怠感食欲不振脱毛嘔吐鼻血下痢といった被爆後の身体症状は,ABCC調査記録(乙1004の7)によれば存在しなかったことが明らかになっている。 この点をおくとしても,1審原告Z32の脱毛が原爆放射線によるものであるとすれば,被曝後,8ないし10日後から出現し,ほとんどの毛髪が抜けるまで2,3週間続き,脱毛から8ないし12週間後には発毛が見られるという特徴が観察されるはずであるところ,同1審原告の脱毛の症状は,被曝から1か月以上経過した9月20日ころから,1か月にわたり見られたというものであり,原爆放射線の被曝による脱毛の特徴を有しない。また,仮- 347 -に,1審原告Z32の脱毛が被曝による急性症状であるならば,脱毛のしきい値である3グレイ以上もの被曝をして脱毛が生じたということになるから,1ないし2グレイ程度の被曝で生じる前駆症状や,骨髄障害として血小板の減少に伴う紫斑等の出血傾向がほぼ確実にみられ,3グレイともなれば白血球減少に伴う感染症等の発症がほぼ不可避であるはずであるが,上記ABCC調査記録によれば,それに相当する症状は全く出ていない。 そして,1審原告Z32の下痢が原爆放射線によるものであるとすれば,その特徴である前駆症状としての下痢が被曝後数時間で現れ,その後,大量の消化管からの出血が生じたはずである。しかし,1審原告Z32に現れたとされる下痢は,昭和20年9月20日ころからのものであり,大量の消化管か 前駆症状としての下痢が被曝後数時間で現れ,その後,大量の消化管からの出血が生じたはずである。しかし,1審原告Z32に現れたとされる下痢は,昭和20年9月20日ころからのものであり,大量の消化管からの出血であったとは認められず(このような症状が生じた場合,まず生存の可能性はない,原爆放射線被曝による急性症状の特徴を備えていな。)い。 したがって,1審原告Z32の身体症状は,いずれにしても被曝による急性症状とは認められないものであり,これを根拠に1審原告Z32の申請疾病の放射線起因性を肯定することは許されない。 (3)さらに原爆放射線の被曝をしていない一般人に見られる前立腺がんの通,常の発症経過としては,加齢とともに罹患率が上昇し,特に70歳以上に特に多くなるところ乙1651審原告Z32の前立腺がんは73歳の時(),,に診断されたものであり,原爆放射線被曝をしていない一般人の高齢者に見られる前立腺がんと特段変わるところはなく,発症の経緯等においても原爆放射線の影響を特に疑わせるような事情は認められず,被曝によらない前立腺がんの通常の症状・経過とは異なる特異な症状・経過であると認めるに足りる証拠はないのであるから,この点においても1審原告Z32の前立腺がんに放射線起因性を認めることはできない。 1審原告Z26(原告番号9)について- 348 -(1)1審原告Z26は広島の爆心地から約7キロメートル離れた広島市鯛尾,所在の宇品船舶司令部付整備教育隊で被爆したものであり,その後に入市したのは被爆の12日後である8月18日である(なお,同1審原告は8月8日,9日に入市した旨主張するが,原判決が認定するとおり(155,156頁,そのような事実を認めることはできない)から,新しい審査の方針)。 における積極認定の要件 ある(なお,同1審原告は8月8日,9日に入市した旨主張するが,原判決が認定するとおり(155,156頁,そのような事実を認めることはできない)から,新しい審査の方針)。 における積極認定の要件すら満たしておらず,同1審原告は原爆の放射線に,,ほとんど被曝していないというべきであり原因確率を考慮するまでもなく同1審原告の申請疾病である前立腺がんに放射線起因性を認めることはできない。 (2)また1審原告Z26は9月6日ころに倦怠感が見られたとしこれが,,,被曝による急性症状である旨主張する。しかし,倦怠感の原因について,1審原告Z26は,本人尋問において,だいぶ疲れが出てきたという感じであると述べるのみであるから1審原告Z26本人調書142項その原因は(),放射線被曝以外の原因によるもの,端的にいえば単なる疲労であったと見るべきであるしたがって一般的にいえば放射線以外の原因によっても起こ。 ,「り得るものであるし,放射線の影響を疑うべき特段の事情を認めることもできない。そして,他に,同原告に放射線の影響を疑わせるような身体症状等が生じていたことを認めるに足りる証拠はない(156頁)との原判決の。」判示は正当であって,1審原告Z26に被曝による急性症状が見られたなどとして同1審原告の申請疾病の放射線起因性を認めることはできない。 (3)さらに前記1で述べたとおり原爆放射線被曝をしていない一般人に見,,られる前立腺がんの通常の経過としては,加齢とともに罹患率が上昇し,特に70歳以上の高齢者に多くなることは前記1で述べたとおりであるところ,1審原告Z26の前立腺がんは,79歳の時に診断されたものであり,原爆放射線の被曝をしていない一般人の高齢者に見られる前立腺がんと特段変わるところはなく,発症の経緯 記1で述べたとおりであるところ,1審原告Z26の前立腺がんは,79歳の時に診断されたものであり,原爆放射線の被曝をしていない一般人の高齢者に見られる前立腺がんと特段変わるところはなく,発症の経緯等においても放射線の影響を特に疑わせる- 349 -ような事情は認められず,被曝によらない前立腺がんの症状・経過とは異なる特異な症状・経過であると認めるに足りる証拠はないのであるから,この点においても1審原告Z26の前立腺がんに放射線起因性を認めることはできない。 1審原告Z49(原告番号12)について(1)1審原告Z49はその主張するところによっても広島に8月11日に,,入市したものであり,しかも,ABCC調査記録によれば,入市時期は更に遅い9月中旬であるとされている。したがって,同1審原告の主張する入市時期については疑義があり,また,その主張するところによっても,新審査の方針における積極認定の要件すら満たしておらず,いずれにしても同1審原告は原爆の放射線にほとんど被曝していないというべきであり,原因確率を考慮するまでもなく,同1審原告の申請疾病である直腸がんに放射線起因性を認めることはできない。 ,,,(2)また1審原告Z49が主張する下痢発熱といった被爆後の身体症状はABCC調査記録(乙1012の6)によれば存在しなかったことが明らかになっている。 この点をおくとしても,1審原告Z49の下痢が原爆放射線によるもので,,あるとすれば前記1(2)で述べたような特徴が見られるはずであるところ1審原告Z49に現れたとされる下痢は,被爆からおよそ2週間後のものであり,時期が全く異なるばかりか,下痢の特徴について「水便のようだって聞いております(1審原告Z49本人調書105項)と述べているから,。」被曝による急性症状 は,被爆からおよそ2週間後のものであり,時期が全く異なるばかりか,下痢の特徴について「水便のようだって聞いております(1審原告Z49本人調書105項)と述べているから,。」被曝による急性症状とは明らかに特徴が異なる。また,下痢が生じたのであれば,5グレイ程度以上の被曝をしていることになり,一過性の脱毛はほぼ必ず見られたはずであるが,脱毛は生じていない。 1審原告Z49に生じたとする発熱についても,そもそもその発熱が被曝による急性症状によるものであれば,被爆後数時間以内の当日に見られたは- 350 -ずであるところ同原告の発熱は入市後2週間後くらいから原判決16,「」(3頁,1審原告Z49本人調書91項)見られたというのであるから,これに該当しないことは明らかである。 したがって,いずれにしても被曝による急性症状とは認められないものであり,これを根拠に1審原告Z49の申請疾病の放射線起因性を肯定することはできない。 (3)さらに原爆放射線の被曝をしていない一般人の直腸がんを含む大腸がん,,,の通常の発症経過は被爆者であろうとなかろうと生活習慣等の要因により50歳代以上になると発症することがしばしば見られるというものであるところ乙1681審原告Z49の直腸がんは60歳の時に診断されたも(),,のであり,原爆放射線の被曝をしていない一般人に見られる直腸がんの発症経過と特段変わるところはなく,発症の経緯等においても放射線の影響を特に疑わせるような事情は認められず,被曝によらない直腸がんの通常の症状・経過とは異なる特異な症状・経過であると認めるに足りる証拠はないのであるから,この点においても1審原告Z49の直腸がんに放射線起因性を認めることはできない。なお,1審原告らが提出した証拠(甲1012の1・2頁) 特異な症状・経過であると認めるに足りる証拠はないのであるから,この点においても1審原告Z49の直腸がんに放射線起因性を認めることはできない。なお,1審原告らが提出した証拠(甲1012の1・2頁)において,Z201医師らは,1審原告Z49に白血球の減少が見られることが申請疾病である直腸がんの放射線起因性を肯定する根拠たり得るかのように指摘するが,文書送付嘱託により送付された診療録等の客観的な医学的証拠によっても同1審原告には放射線被曝に起因すると見るべき白血球減少が見られず,そもそも上記指摘は前提を欠くものである。 1審原告Z34(原告番号15)について(1)1審原告Z34は広島の爆心地から約4キロメートル離れた広島市東雲,町所在の広島市仁保国民学校で被爆したものであり,その後,被爆後100時間以内に入市するなどした事実は認められず,新審査の方針における積極認定の要件すら満たしておらず,同1審原告は原爆の放射線にほとんど被曝- 351 -していないというべきであり,原因確率を考慮するまでもなく,同1審原告の申請疾病である食道がん及び下咽頭がんに放射線起因性を認めることはできない。 (2)また1審原告Z34は被爆後下痢紫斑歯茎からの出血といった,,,,,症状が見られたのであり,これが被曝による急性症状である旨主張する。 しかし被曝による急性症状としての下痢は前記1(2)のような特徴が見,,られるはずであるところ,1審原告Z34に生じたとされる下痢は,被爆から2週間程度経過した8月20日ころのものであり,被曝による急性症状とは考え難い。また,被曝による急性症状としての下痢が生じたのであれば,当然,脱毛も生じていたはずであるが,1審原告Z34は,被爆者健康手帳の申請時(甲1015の2の1)及び原爆症認定の る急性症状とは考え難い。また,被曝による急性症状としての下痢が生じたのであれば,当然,脱毛も生じていたはずであるが,1審原告Z34は,被爆者健康手帳の申請時(甲1015の2の1)及び原爆症認定の申請時(乙1015の1の2)には,脱毛があったことを述べていない。同1審原告は,本件訴訟に至って,脱毛があったことを供述しているが,上記に照らし信用できず,原判決も,脱毛があったことを認定していない。 また,紫斑,歯茎からの出血については,被曝による急性症状としての出血傾向によるものであれば,被曝後3週間程度経過したころから出現し,血小板数の回復に沿って消失するものであり,前駆期や潜伏期に相当する時期に発症することもなければ,出血傾向が長期間継続することは考えられないものであるところ,1審原告Z34については,紫斑は8月20日ころ,歯茎からの出血は8月末ころに出現し,紫斑は昭和20年10月まで,歯茎の出血は翌年3月ころまで続いたというものであるから,上記のような特徴と合致しない。 したがって,1審原告Z34の身体症状は,いずれにしても被曝による急性症状とは認められないものであり,これを根拠に1審原告Z34の申請疾病の放射線起因性を肯定することはできない。 (3)さらに原爆放射線の被曝をしていない一般人の食道がん及び下咽頭がん,- 352 -の発症経過は,喫煙と飲酒といったリスク要因により,食道がんでは,男性の罹患率が40歳代後半から急激に増加し,下咽頭がんでは,罹患率が50歳代ないし60歳代に多く発生し,男性は女性の4,5倍の頻度で発生するというものである乙174乙175つまり原爆放射線の影響に関係(,)。 ,なく,上記のようなリスク要因により,年齢を重ねるに従って,食道がんないし下咽頭がんを発症することはごく一般的な経過 うものである乙174乙175つまり原爆放射線の影響に関係(,)。 ,なく,上記のようなリスク要因により,年齢を重ねるに従って,食道がんないし下咽頭がんを発症することはごく一般的な経過である。そして,少なくも1審原告Z34には飲酒歴があったことが推認され乙1015の6同(),1審原告の食道がんは80歳の時,下咽頭がんはその2年後の82歳の時に診断されたものであることからすれば,原爆放射線の被曝をしていない一般人に見られる食道がん及び下咽頭がんの発症経過と特段異なるものとは認められず,また,リスク要因が共通であり,いずれも高齢者に多いものであることからすれば,これらのがんに相次いで罹患したとしても何ら不自然な発症経過をたどったものではなく,発症の経緯等においても放射線の影響を特に疑わせるような事情は認められず,被曝によらない食道がん及び下咽頭がんの通常の症状・経過とは異なる特異な症状・経過であると認めるに足りる証拠はないのであるから,この点においても1審原告Z34の食道がん及び下咽頭がんに放射線起因性を認めることはできない。 1審原告Z50(原告番号17)について(1)一審原告Z50の申請疾病である肝硬変はC型慢性肝炎に起因するものであるところ,C型慢性肝炎及びこれに起因する肝硬変と放射線被曝との関連性が否定されることについて要点を述べると,まず,これに関するZ132論文(甲38,乙59)やZ133論文(甲77添付資料16,乙60)が調査した「慢性肝疾患」にはC型慢性肝炎以外の肝疾患が含まれており,C型慢性肝疾患と放射線との関連性を見るためにデザインされた疫学調査ということはできないしかも両論文には慢性肝疾患に含まれるC型慢性。 ,,「」肝疾患の割合が不明であったり著しく少ないとの問題がある上,同 線との関連性を見るためにデザインされた疫学調査ということはできないしかも両論文には慢性肝疾患に含まれるC型慢性。 ,,「」肝疾患の割合が不明であったり著しく少ないとの問題がある上,同論文にお- 353 -いても,ウイルス性肝炎と放射線との関連性は否定されている。また,C型慢性肝疾患に焦点を当てて研究したZ140論文(乙171の1,2)においては,放射線とC型慢性肝炎との関連性は全く認められず,関連性があると仮定した場合にどの程度発症リスクが高まるか(実線の勾配差の解析)について仮説を立ててその真偽を後続の研究にゆだねたところ,肝硬変について調査を行ったZ127論文2006(乙235)は,肝硬変と放射線との関連性を否定している。さらに,肝がんと放射線については従前から関連性が指摘されているところではあるが,Z127論文2003(乙237)に,,,よれば放射線が寄与しているのはC型慢性肝疾患の発症や進行ではなくC型肝炎ウイルス感染被爆者が肝硬変を経ずして直接に肝がんを発症するリスクであったことが明らかになっているのであるから,肝がんの患者の多くはC型慢性肝疾患の患者であるとの理解に基づき,安易に肝がんと放射線との関連性の知見をC型慢性肝疾患と放射線との関連性を検討するための資料とすることは許されず,両者の問題は分けて検討しなければならない。 以上によれば,C型慢性肝疾患と放射線との関連性については,最新の知見によれば否定されたということができるのであって,およそ,こうした知見の発展を無視して,古く不確かな疫学調査に基づいて関連性を肯定することはできないというべきである。 そもそも一審原告らの主張やZ112証人の意見は,C型肝炎ウイルス感染被爆者の場合には,放射線が免疫力を弱め,C型慢性肝疾患の発症や進行を促進する旨 連性を肯定することはできないというべきである。 そもそも一審原告らの主張やZ112証人の意見は,C型肝炎ウイルス感染被爆者の場合には,放射線が免疫力を弱め,C型慢性肝疾患の発症や進行を促進する旨指摘するものの,具体的に何をどう促進するというのか全く不明であって,C型肝炎ウイルス感染者に通常見られる進行と何ら異なることのない被爆者のC型慢性肝疾患についてまで放射線の影響があったなどというのは余りに非科学的である。 (2)1審原告Z50の申請疾病である肝硬変はC型肝炎ウイルスによるC型,肝炎が進行したものである。原爆放射線の被曝をしていない一般人において- 354 -も,C型肝炎ウイルスの持続感染により肝炎が持続し慢性化し,更に感染後約20年で肝硬変を発症するといわれているところ乙361審原告Z5(),0は,肝炎を発症してから肝硬変に移行するまでおよそ30年を経過しており,通常よりも肝硬変への進展が早いなどということもなく(むしろ遅いともいえる,原爆放射線の被曝をしていない一般人のC型慢性肝炎,肝硬変。)への進展の経過と異ならず,その症状も非被爆者に見られるものと特段異なるところはなく,発症の経緯等においても放射線の影響を特に疑わせるような事情は認められず,被曝によらないC型肝炎ウイルスに起因する肝硬変の通常の症状・経過とは異なる特異な症状・経過であると認めるに足りる証拠はないのであるから,1審原告Z50の申請疾病に放射線起因性を認めることはできない。 そして,原判決も,1審原告Z12のC型肝炎,肝硬変の放射線起因性についてはC型肝炎及び肝硬変ついては昭和38年の輸血の際にC型肝炎,「,ウィルスに感染し,平成14年までの39年間に肝炎,肝硬変へと進展したものと推測されるところ,感染から診断までの期間が長期であって, C型肝炎及び肝硬変ついては昭和38年の輸血の際にC型肝炎,「,ウィルスに感染し,平成14年までの39年間に肝炎,肝硬変へと進展したものと推測されるところ,感染から診断までの期間が長期であって,通常のC型肝炎の経過と異なるところはないことから考えると,本件全証拠を勘案しても,原告Z12のC型肝炎及び肝硬変が,放射線により進展が促進されるなど,放射線に起因するものとは認めがたい(202頁)と判示し,放。」射線起因性を否定している。にもかかわらず,原判決は,1審原告Z50については,原爆放射線の被曝をしていない一般人のC型肝炎慢性肝炎,肝硬変への進展の経過と異なるかどうかについて具体的な検討をすることもなく,同1審原告の肝硬変の放射線起因性を認めており,この点でも,原判決の判示は不当である。 (3)また1審原告Z50は被爆後発熱嘔吐脱毛倦怠下痢といっ,,,,,,,た症状が見られ,これらの症状は被曝による急性症状である旨主張する。 しかし被曝による急性症状としての脱毛の特徴は前記1(2)のようなも,,- 355 -のであるところ,1審原告Z50に生じた脱毛は,被曝のおよそ9日後から抜け始め,10月半ばまで続いた,髪が生え始めたのは被曝後およそ1年が経過した翌年の夏ころであるというのであるから,被曝による急性症状としての脱毛の特徴を有しない。 下痢については,陳述書(甲1017の1)及び申請時の申述書(乙1017の1の2)においては述べられておらず,その存在自体疑わしいというべきである。この点をおくとしても,被曝による急性症状としての下痢の特徴は,前記1(2)のようなものであるところ,1審原告Z50は「相当ひど,かった1審原告Z50本人調書11頁と述べるのみで具体的にその症」(),状を 被曝による急性症状としての下痢の特徴は,前記1(2)のようなものであるところ,1審原告Z50は「相当ひど,かった1審原告Z50本人調書11頁と述べるのみで具体的にその症」(),状を明らかにしていないから,被曝による急性症状としての下痢の特徴を備えていたと認めることはできない。 さらに,発熱,倦怠感についても,被爆時の状況(1審原告Z50本人調書3ないし11頁)に照らせば,負傷による発熱や倦怠感,肉体的疲労や精神的疲労があったとしても何ら不自然ではなく,これを被曝による急性症状としてのものと認めるに足りる根拠はない。 したがって,1審原告Z50の身体症状は,いずれにしても被曝による急性症状とは認められないものであり,これを根拠に1審原告Z50の申請疾病の放射線起因性を肯定することはできない。 (4)なお1審原告Z50の白血球数はおおむね正常値の範囲内にとどまっ,,ており,異常は認められず(乙1017の5・60ないし69,138ないし146197ないし203頁その他原爆放射線の被曝による白血球減,),少や免疫力の低下などを認めるような客観的な証拠はないから,爆心地から約1.3キロメートルの地点で被爆し,白血球の明らかな減少が認められ,骨髄障害や免疫機能の低下がうかがわれる被爆者の肝機能障害について放射線起因性を認めた東京高裁平成17年▲月▲日判決(甲131。いわゆるZ60訴訟判決)とは事案を異にするものである。 - 356 - 1審原告Z36(原告番号18)について(1)1審原告Z36の申請疾病である頸部有痛性瘢痕は「左頸部にはガラス,片排出後と思はれ,皮下硬結(径5mm)あり圧痛あり。特に神経,血管を損傷する危険性は今のところ感じられない(乙1018の2)という程度の。」ものである。被爆時に受傷し は「左頸部にはガラス,片排出後と思はれ,皮下硬結(径5mm)あり圧痛あり。特に神経,血管を損傷する危険性は今のところ感じられない(乙1018の2)という程度の。」ものである。被爆時に受傷したと思われる頸部の創部は治癒し,その際に受傷部に迷入したガラス片も,除去されたか,あるいは,皮下から排出されている。すなわち,健康診断個人票(乙1018の3)に記載されているように,既にX線撮影及びCT検査で十分に精査され,硬結内にガラス片の残存がないことが確認されているのである。また,自発痛を生じていないことからも分かるように,患部周辺に重篤な病変が広がっているものでもない。 こうしたことからすれば,1審原告Z36の頸部創は治癒しているのであり,頸部皮下の変化は通常の創傷の治癒の経過と異なるところはない。 したがって,治癒の経緯等においても放射線の影響を特に疑わせるような事情は認められず,被曝によらない頸部創の通常の治癒の経過とは異なる特異な経過等であると認めるに足りる証拠はないのであるから,同1審原告の申請疾病である頸部有痛性瘢痕に放射線起因性を認めることはできない。 なお,最高裁平成12年判決は,右半身不全麻痺及び頭部外傷を申請疾病とする同事件の被上告人について,これらの申請疾病に放射線起因性が認められるとの原審の認定について「経験則上許されないものとまで断ずることはできない」と判示している。しかし,同事件の被上告人は「本件処分時。 ,においても現在においても右片麻痺脳萎縮頭部外傷と診断され右,,(),,半身不全麻痺,右肘関節屈曲拘縮等の障害を有する。被上告人の左頭頂部の頭蓋骨には陥没骨折があって,骨折部分に対応する部分の脳実質が欠損しており,この欠損と側脳室が交通していて,脳孔症と診断されるほか,様々な不定愁訴を有 屈曲拘縮等の障害を有する。被上告人の左頭頂部の頭蓋骨には陥没骨折があって,骨折部分に対応する部分の脳実質が欠損しており,この欠損と側脳室が交通していて,脳孔症と診断されるほか,様々な不定愁訴を有している」というもので「物理的打撃のみでは説明しきれな。 ,いほどの被上告人の脳損傷の拡大の事実」が認められたのに対し,1審原告- 357 -Z36については,上記のように頸部創は治癒しているのであり,頸部皮下の変化は通常の創傷の治癒の経過と異なるところはないといったものであり,物理的打撃のみでは説明できないような創傷の拡大などないのであるから,本件は上記最高裁判決とは事案を異にするというべきである。 (2)また1審原告Z36は被爆直後から歯茎からの出血が見られたとする,,がこれが被曝によるものであれば前記4(2)で述べたとおりの特徴を有する,はずであるところ,同原告の症状はそのような特徴を有しない。1審原告Z36は歯が抜けたとも主張するが,被曝による急性症状として歯が抜けるということはない。1審原告Z36は,入院直後から41.2度もの高熱が約1週間続き,嘔吐,吐血,下痢,下血を繰り返したというが,被爆時に大怪我を負っているのであるから,このような症状が発症したとしても不自然なことではない。1審原告Z36は,2回にわたり毛髪が全部抜け落ち,髪が生えそろったのは被爆から約5年経過後のことであったというが前記1(2),で述べたような被曝による脱毛の特徴とは合致しない。さらに,1審原告Z36は,被爆後17歳まで生理は止まったままであったというが,同1審原告は出産をしており1審原告Z36本人調書24頁被曝による卵巣の障(),害があったとは考え難い。 したがって,1審原告Z36の被爆後の身体症状が被曝による急性症状であると認める うが,同1審原告は出産をしており1審原告Z36本人調書24頁被曝による卵巣の障(),害があったとは考え難い。 したがって,1審原告Z36の被爆後の身体症状が被曝による急性症状であると認めることはできず,これらが当然に被曝によるものと認めて同1審原告の申請疾病の放射線起因性を肯定することはできない。 1審原告Z37(原告番号19)について(1)1審原告Z37の申請疾病である甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,①Z171論文(甲293の文献5)では,男性と異なり女性では線量反応関係が認められないといった一貫しない結論が示されてい。 ,(,),,るまた②Z132論文甲38乙59では非中毒性甲状腺腫結節びまん性甲状腺腫,甲状腺中毒症,慢性リンパ球性甲状腺炎,甲状腺機能低- 358 -下症の5種類の疾患をまとめ,疫学調査を行ったものであり,甲状腺機能低下症と放射線との関連性を見るためにデザインされた疫学調査ということはできない。そして,③Z170論文(甲293の文献3)では自己免疫性の甲状腺機能疾患について原爆放射線との有意な関係が認められたとされたが(なお,本件の1審原告Z37及び1審原告Z27はいずれも自己免疫性の。),,(,甲状腺機能疾患ではないその後過去の調査の問題対象者数が少ない甲状腺放射線量が推定されていないこと及び診断方法が不明確な方法によって制約を受けていることを踏まえ放射線量の判明している大規模集団に。),おいて,高度な診断技法と明確な診断基準を用いて正確な自己免疫性甲状腺疾患の診断を行った調査であるZ183論文(乙181)において,自己免疫性であるものを含む甲状腺機能疾患について原爆放射線との有意な関係は認められず,過去の調査の結果が否定された。さらに,Z 甲状腺疾患の診断を行った調査であるZ183論文(乙181)において,自己免疫性であるものを含む甲状腺機能疾患について原爆放射線との有意な関係は認められず,過去の調査の結果が否定された。さらに,Z183報告の正確性は,長崎大学原爆後障害医療研究施設のZ185教授らの研究報告(Z185報告(乙182)によって検証された。 )(2)1審原告Z37の診療録乙1019の6・157頁によると同1審(),原告の甲状腺機能低下症は,自己免疫性でない甲状腺機能低下症である。自己免疫性でない甲状腺機能低下症については,放射線被曝との関連性について,臨床的にこれを肯定する知見や疫学調査の結果これを肯定する知見はない。そして,原爆放射線の被曝をしていない一般人の甲状腺機能低下症については,通常,甲状腺ホルモン剤(チラージンS)の投与がなされ,これがなされると甲状腺ホルモンの濃度が正常化するといった経過が見られるところ乙176・1559頁同1審原告に対してはチラージンS甲状腺ホ(),(ルモン剤)が投与されることで甲状腺ホルモンの濃度がほぼ正常化しており乙1019の7・156頁原爆放射線の被曝をしていない一般人の甲状(),腺機能低下症の症状・経過と特段異なるところは見られず,被曝によらない甲状腺機能低下症の通常の症状・経過とは異なる特異な症状・経過であると- 359 -認めるに足りる証拠はない。 したがって,1審原告Z37の申請疾病である甲状腺機能低下症に放射線が影響したとは認められず,放射線起因性を認めることはできない。 (3)また1審原告Z37は被爆後皮膚に発疹ぶつぶつおできを生,,,(,)じたとして,これが被曝による急性症状であると主張する。 しかし,そもそも皮膚に発疹(ぶつぶつ,おでき)ができる た1審原告Z37は被爆後皮膚に発疹ぶつぶつおできを生,,,(,)じたとして,これが被曝による急性症状であると主張する。 しかし,そもそも皮膚に発疹(ぶつぶつ,おでき)ができるなどという症状が放射線被曝による皮膚障害として発症することはない(乙218・7頁。 )なお,1審原告Z37は白血球数減少症であり,これが被曝による影響であるかのようにいうが,同1審原告の白血球数は,2000台を下回ることはほとんどなく,2000台でほぼ安定して推移しているところ(甲1019の6ないし11そもそも白血球数は個人差があまりに大きく基準値最),,(近では3500とされる場合が多いを下回る者も全体の5パーセント程度。)いる。しかも,白血球数が3500を下回ったからといって,これを白血球減少症と名付けたり,治療を施すことはないものであり,このことから1審原告Z37について骨髄機能が障害を受けているなど何らかの病的な機能障害が生じているということはできない。 したがって,1審原告Z37の身体症状は,いずれにしても被曝による急性症状とは認められないものであり,これを根拠に1審原告Z37の申請疾病の放射線起因性を肯定することはできない。 1審原告Z28(原告番号20)について(1)1審原告Z28は,8月19日に広島に入市した入市被爆者であるところ,新しい審査の方針における積極認定の要件すら満たしておらず,同1審原告は原爆の放射線にほとんど被曝していないというべきであり,原因確率を考慮するまでもなく,同1審原告の申請疾病である胃がんに放射線起因性を認めることはできない。 - 360 -(2)また1審原告Z28は被爆後化膿発熱食欲不振吐き気といっ,,,,,,た症状が見られ,これらの症状が被曝による急 に放射線起因性を認めることはできない。 - 360 -(2)また1審原告Z28は被爆後化膿発熱食欲不振吐き気といっ,,,,,,た症状が見られ,これらの症状が被曝による急性症状であると主張する。 しかし,化膿するということは白血球の機能が正常に働いているからであってZ116主尋問調書31頁これをもって被曝による急性症状である(),ということはできない。そして,発熱,食欲不振,吐き気といった症状は被曝による前駆症状としてであれば発症し得るものであり,前駆症状は被爆後数時間で発症する症状であるところ,同1審原告がこれらの症状を発症したのは,昭和20年8月末ころであるから,被曝による急性症状としての特徴を備えていないものである。これらの症状は,原判決がいうように(189頁熱中症疲労衛生環境の悪さ等を原因とする感染症等によるものとい),,,うべきである。 したがって,1審原告Z28の身体症状は,いずれにしても被曝による急性症状とは認められないものであり,これを根拠に1審原告Z28の申請疾病の放射線起因性を肯定することはできない。 (3)さらに胃がんは罹患数では第1位を占めるがんであり原爆放射線の被,,曝をしていない一般人についても,年齢とともに増加し(75ないし79歳の男性の胃がん罹患率は人口10万対562.8であり,80ないし84歳の男性では646.8である,生活習慣等の要因により発症することが一。)般的に認められるものである乙174つまり原爆放射線の影響に関係()。 ,なく,年齢を重ねるに従って胃がんを発症することはごく一般的な経過である。同1審原告の胃がんは,75歳ころに診断されたものであり,国民一般に見られる経過と同様の経過をたどったものというべきであり,その症状・経 重ねるに従って胃がんを発症することはごく一般的な経過である。同1審原告の胃がんは,75歳ころに診断されたものであり,国民一般に見られる経過と同様の経過をたどったものというべきであり,その症状・経過が一般の胃がん患者のがんと異なり放射線の影響と特に疑わせるような事情は認められず,被曝によらない胃がんの通常の症状・経過とは異なる特異な症状・経過であると認めるに足りる証拠はないのであるから,この点においても,同1審原告の胃がんに放射線起因性を認めることはできない。 - 361 - 1審原告Z27(原告番号27)について(1)1審原告Z27は昭和32年当時35歳ないしは昭和34年当時,()(37歳に甲状腺機能亢進症バセドー病との記載があるを発症し放射)(。),性ヨード(ヨウ素(I)131)によるアイソトープ治療を受けた事実が認められ,その後,少なくとも昭和61年(1986年,当時63歳)には甲状腺機能低下症を発症していたと認められる(乙1027の8・15,15 2257頁ところで一般に甲状腺の機能異常を,,,)。 ,,改善する目的で放射性ヨード131I(ヨウ素131)療法を受けると,治療後年とともに甲状腺の機能低下を生ずることが多いとされており,10年後には約30パーセントの症例が機能低下に陥るものとされている(乙244・579頁したがって同1審原告が放射性ヨード131I療法を受け)。 ,てから26年後ないし28年後に発症した甲状腺機能低下症は,甲状腺機能亢進症のアイソトープ治療により発症した医療行為を原因とする(医原性)ものであると認められ,原爆放射線以外の他の原因によるものであることが明らかであるから,放射線起因性を認めることはできない。 (2)また1審原告Z 治療により発症した医療行為を原因とする(医原性)ものであると認められ,原爆放射線以外の他の原因によるものであることが明らかであるから,放射線起因性を認めることはできない。 (2)また1審原告Z27は被爆後下痢脱毛歯茎からの出血といった,,,,,症状が存在した旨主張し,これが被曝による急性症状であるかのように主張する。 しかし,1審原告Z27は,その本人尋問においては,下痢,脱毛,歯茎からの出血等があったように述べるが,認定申請書添付の申述書(乙1027の1の2)及び訴状添付の「被害の概要」においては,こうした身体症状の記憶はないと明確に述べているのであり,供述の変遷に合理的な理由は見いだせず,これらの症状があったと認めることはできない。同様に判示して同1審原告の供述の信用性を否定した原判決の判断(210,211頁)は正当である。 この点をおくとしても,これらの症状は被曝による急性症状としての特徴- 362 -を備えていないすなわち1審原告Z27の述べる下痢は詳細は定かで。 ,,(はないがピッピッという感じの下痢やだっと流れる感じの下痢が続き)「,,ました。…そのような下痢が一日3~4回はありました(甲1027の1。」・3頁というものであり前記1(2)で述べた被曝による急性症状としての),下痢の特徴を備えていない脱毛についても手櫛で髪をとかすと10本。 ,「,~20本くらいの髪の毛がバサッと手にくっついて抜けた甲1027の1」(・3頁というものでありやはり前記1(2)で述べた被曝による急性症状と),しての脱毛の特徴とは異なるものである。 さらに,歯茎からの出血については,昭和21年に至ってから発症したというものであり前記4(2)で述べたような特徴と合致せず被曝によ 曝による急性症状と),しての脱毛の特徴とは異なるものである。 さらに,歯茎からの出血については,昭和21年に至ってから発症したというものであり前記4(2)で述べたような特徴と合致せず被曝による急性,,症状とは認められない。 したがって,1審原告Z27の身体症状は,いずれにしても被曝による急性症状とは認められないものであり,これを根拠に1審原告Z27の申請疾病の放射線起因性を肯定することはできない。 1審原告Z51(原告番号30)について(1)1審原告Z51は広島の爆心地から5キロメートル以上離れた広島市α,10の自宅玄関口で被爆したものであり,その後の行動に照らしても,新審査の方針における積極認定の要件すら満たしておらず,同1審原告は原爆の放射線にほとんど被曝していないというべきであり,原因確率を考慮するまでもなく,同1審原告の申請疾病である肝細胞がんに放射線起因性を認めることはできない。 (2)また1審原告Z51は被爆後倦怠感発熱化膿といった症状が見,,,,,られたとして,これらが被曝による急性症状であると主張する。 しかし,発熱,倦怠感については,被爆時の状況(1審原告Z51本人調書30ないし43項)に照らせば,極度の疲労や熱中症,栄養事情や衛生環境に起因する感染症,あるいは極度のストレス等の放射線以外の要因によっ- 363 -ても起こり得るものであり,これを被曝による急性症状と認めるに足りる根。 ,,,拠はないまた発熱については被爆後数時間で生じたものとは認め難く前記8(2)で述べたような前駆症状としての発熱の特徴を備えていたとは認められない。 そして化膿については前記8(2)で述べたとおり白血球の機能が正常,,,に働いているからこそ起こるものであり,これを被曝による急 前駆症状としての発熱の特徴を備えていたとは認められない。 そして化膿については前記8(2)で述べたとおり白血球の機能が正常,,,に働いているからこそ起こるものであり,これを被曝による急性症状であるということはできない。 したがって,1審原告Z51の身体症状は,いずれにしても被曝による急性症状とは認められないものであり,これを根拠に1審原告Z51の申請疾病の放射線起因性を肯定することはできない。 (3)さらにいえば1審原告Z51の肝細胞がんはB型肝炎ウイルス感染に,,起因するものであるところ,原爆放射線の被曝をしていない一般人においても,B型肝炎ウイルスに感染し,そのまま持続感染状態となった場合の経過は,その一部(約10ないし15パーセント)は慢性肝炎を発症することがあり,また,B型肝炎ウイルスに感染した場合,10歳代から30歳代に軽い肝炎を発症し,その場合,40歳代から50歳代前半に慢性肝炎に進展しその後肝硬変や肝がん(肝細胞がん)へと進展する可能性があるとされている(乙266・16ないし18頁,乙267・4,5頁。 ),,,,しかるに1審原告Z51は53歳ころに肝硬変により腹水がたまり広島の病院に1か月ほど入院し,62歳ころに肝細胞がんとの診断を受けている乙1030の5・310379頁等したがって同1審原告の肝(,)。 ,細胞がんは,原爆放射線の被曝をしていない一般人が通常B型肝炎ウイルス,,,に感染した後肝硬変肝がんへと進展する経過と特段異なるところはなく発症の経緯等においても放射線の影響を特に疑わせるような事情は認められず,被曝によらないB型肝炎ウイルスに起因する肝細胞がんの通常の症状・経過とは異なる特異な症状・経過であると認めるに足りる証拠はないのであ- 364 -るから,こ 特に疑わせるような事情は認められず,被曝によらないB型肝炎ウイルスに起因する肝細胞がんの通常の症状・経過とは異なる特異な症状・経過であると認めるに足りる証拠はないのであ- 364 -るから,この点においても放射線起因性を認めることはできない。 第111審原告らの被告国に対する国家賠償請求には理由がないこと1審原告らに対する原爆症認定申請却下処分はいずれも適法であるから,1審原告らの被告国に対する国家賠償請求には理由がない。 国家賠償法1条1項は国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個,「別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである(最高裁判所平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号208。」7,2100頁)ところ,すでに詳細に主張してきたとおり,いずれの1審原告らに対する原爆症認定申請却下処分も,1審被告厚生労働大臣が,従来の審査の方針を目安としてなされた分科会の答申を聴いた上で,放射線起因性が認められないとしてされたものであり,十分な科学的根拠に基づいてされたものであって,1審被告厚生労働大臣が職務上の法的義務に違反して上記各却下処分をしたものでないことは明らかである。また,行政手続法5条1項違反,8条違反を理由とする点についても,上記違反はない。したがって,1審原告らの1審被告国に対する国家賠償請求には理由がない。 なお,従来の審査の方針の下では放射線起因性があるとは認められなかった者が,新審査の方針の下において,これがあるものとして原爆症認定を受けたとしても,それは従来の審査の方針に基づいてされた原爆症認定申請却下処分が科学的,法的に誤っていたからではなく,飽くまでも,行政上の政策判断から被爆者の救済範囲 れがあるものとして原爆症認定を受けたとしても,それは従来の審査の方針に基づいてされた原爆症認定申請却下処分が科学的,法的に誤っていたからではなく,飽くまでも,行政上の政策判断から被爆者の救済範囲を可及的に拡大する政策が新たに採用されたからにほかならないのであるから,従来の審査の方針に基づき上記却下処分をしたことが国家賠償法上違法とされるいわれはない。 第12終わりに1審原告らの主張は,原爆の放射線被曝の影響の未解明さを殊更に強調し,要するに,現在までに医学及び放射線物理学等によって積み重ねられた科学的- 365 -知見に依拠しないで1審原告らの放射線起因性を認めるよう求めるに等しいものである。しかし,放射線起因性の立証責任は,飽くまでも1審原告側にあるのであって,仮に申請疾病に対する放射線被曝の影響が解明されていないというのであれば,立証が尽くされていないということになるだけであり,放射線起因性は認められないはずである。 1審被告らとしては,1審被告らが主張する被爆者の被曝線量の推定は正確なものであり,誤差があるといっても放射線の人体に対する健康影響を検討する上で何ら問題とならないこと,また,1審原告らの個々の申請疾病に関する科学的知見,更に1審原告らの個別の被爆状況や病状,他の原因の可能性等を検討した上で,1審原告らの申請疾病に放射線起因性(あるいは要医療性)が認められないことを客観的な資料等に基づいて十分に明らかにした。これに対し,1審原告らは,様々な被曝の可能性のみを殊更に強調し,また,知見として確立していない論文等を根拠に疾病と放射線との関連を主張したりしているにすぎない。しかし,放射線起因性の立証は,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る程度の高度の蓋然性を証明するも 放射線との関連を主張したりしているにすぎない。しかし,放射線起因性の立証は,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る程度の高度の蓋然性を証明するものであり,現在の確立した科学的知見とはいえない経験則によって放射線起因性を認めることは許されない。 以上

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