平成17(わ)2140 強盗殺人,窃盗,詐欺,詐欺未遂,窃盗未遂

裁判年月日・裁判所
平成21年9月7日 名古屋地方裁判所
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判決文本文57,041 文字)

- 1 -平成17年(わ)第2140号強盗殺人,窃盗,詐欺,詐欺未遂,窃盗未遂被告事件主文被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中740日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)第1(平成17年9月27日付け起訴状記載の公訴事実)被告人は,A1(以下「A1」という)及びA2(以下「A2」という)。 。 らとともに,平成15年11月21日午後6時ころから,名古屋市A’区B’C’丁目D’番E’号所在のB1店2階で行われた交通指導員の忘年会(以下「本件忘年会」という)に参加したものであるが,。 同日午後6時ころから同日午後8時20分ころまでの間に,前記B1店2階において,テーブル下の棚の上に置いてあったA1のかばん内から,同人所有又は管理に係る現金約7000円及びクレジットカード3枚ほか5点在中の財布1個(時価7000円相当)を抜き取り窃取し, 同日午後8時10分ころから同日午後8時20分ころまでの間に,前記B1店2階において,テーブル下の棚の上に置いてあったA2のかばん内から,同人所有又は管理に係る現金約3万円及び商品券約5枚ほか15点在中の財布1個(時価合計約1万4000円相当)を抜き取り窃取した。 第2(平成17年7月27日付け起訴状記載の公訴事実第1),(「」。)被告人は不正に入手したB2株式会社発行のA3以下A3という名義のクレジットカードを使用して,購入名下に商品を詐取しようと企て, 平成17年2月2日午後3時25分ころ,名古屋市F’区G’H’丁目I’’,,番J号所在のB3地下2階生鮮食料品売場において同売場店員A4に対し前記クレジットカードの正当な使用権限も同クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに,これがあるかのように装い,A3に- 2 -なりすまして, において同売場店員A4に対し前記クレジットカードの正当な使用権限も同クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに,これがあるかのように装い,A3に- 2 -なりすまして,同クレジットカードを提示し,果物2点ほか5点の購入を申し込み,上記A4をして,同クレジットカードシステム所定の方法により確実にその代金の支払を受けられるものと誤信させ,よって,即時同所において,同人から果物2点ほか5点(販売価格合計3528円)の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させ, 同日午後4時から同日午後4時2分ころまでの間,名古屋市F’区G’H’丁目K’番L’号株式会社B4店地下1階所在の株式会社B5店において,同店店員A5に対し,前記クレジットカードの正当な使用権限も同クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに,これがあるかのように装い,A3になりすまして,同クレジットカードを提示し,精肉2点の購入を申し込み,上記A5をして,同クレジットカードシステム所定の方法により確実にその代金の支払を受けられるものと誤信させ,よって,即時同所において,同人から精肉2点(販売価格合計3万1476円)の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させ, 同日午後6時17分ころ,名古屋市M’区N’町O’丁目P’番地所在のB6株式会社B7店1階食料品売場において,同売場店員A6に対し,前記クレジットカードの正当な使用権限も同クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに,これがあるかのように装い,A3になりすまして,同クレジットカードを提示し,ビール1ケースほか20点の購入を申し込み,上記A6をして,同クレジットカードシステム所定の方法により確実にその代金の支払を受けられるものと誤信させ,よって,即時同 して,同クレジットカードを提示し,ビール1ケースほか20点の購入を申し込み,上記A6をして,同クレジットカードシステム所定の方法により確実にその代金の支払を受けられるものと誤信させ,よって,即時同所において,同人からビール1ケースほか20点(販売価格合計1万1872円)の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させ, 同日午後6時37分ころから同日午後6時41分ころまでの間,前記B6株式会社B7店3階所在の「B8店」において,同店店員A7に対し,前記クレジットカードの正当な使用権限も同クレジットカードシステム所定の方法によ- 3 -り代金を支払う意思もないのに,これがあるかのように装い,A3になりすまして同クレジットカードを2回にわたり提示しジャンパー1着ほか8点販,,(売価格合計5万3655円)の購入を申し込んだが,前記B2株式会社に被告,。 人には正当な使用権限がないことを看破されたためその目的を遂げなかった第3(平成17年10月17日付け起訴状記載の公訴事実)被告人は,不正に入手したA8(以下「A8」という)名義の郵便貯金総。 合通帳1通を使用して,現金自動預払機から金員を引き出して窃取しようと企て,平成17年2月18日午前11時7分ころ,名古屋市M’区Q’R’丁目S’番地所在のB9郵便局において,同所に設置された現金自動預払機に,上記通帳1通を挿入して同機を作動させ,上記B9郵便局局長A9管理に係る現金を引き出して窃取しようとしたが,暗証番号を誤って入力したため,その目的を遂げなかった。 第4(平成17年8月30日付け起訴状記載の公訴事実)被告人は,民生委員として名古屋市M’区T’U’丁目V’番地市営B10荘B11棟B12号に単身居住するA10(以下「A10」という)に援助。 を行うこと等の職務に従事していたもの 状記載の公訴事実)被告人は,民生委員として名古屋市M’区T’U’丁目V’番地市営B10荘B11棟B12号に単身居住するA10(以下「A10」という)に援助。 を行うこと等の職務に従事していたものであるが,同人に睡眠薬を摂取させて昏睡させ,その金品を盗取しようと企て,平成17年3月22日午後,同人宅において,睡眠薬であるトリアゾラム剤を同人(当時83歳)に摂取させて昏,,,睡させた上同日午後9時前後の一定の幅のある時間帯の間に同所において同人所有又は管理に係る株式会社B13銀行のA10名義のキャッシュカード1枚ほか3点を盗取したが,その際,罪跡を隠滅するためにA10の殺害を決意し,索状物を用いて同人の首を絞め,よって,そのころ,同所において,同人を頸部圧迫による窒息により死亡するに至らしめた。 第5(平成17年7月27日付け起訴状記載の公訴事実第2)被告人は,判示第4の盗取に係るA10名義の株式会社B13銀行及び株式会社B14銀行のキャッシュカード各1枚を使用して現金自動預払機から金員- 4 -を窃取しようと企て, 平成17年3月23日午後4時6分ころ,名古屋市A’区W’X’丁目Y’番Z’号所在の株式会社B15銀行本店営業部B16出張所において,同所に設置された現金自動預払機に前記B13銀行のキャッシュカードを挿入して同機を作動させ,同機から上記B15銀行本店営業部長A11管理に係る現金5万3000円を引き出して窃取し, 同日午後4時7分ころから同日午後4時9分ころまでの間,2回にわたり,前記B16出張所において,同所に設置された前記現金自動預払機に前記B14銀行のキャッシュカードを挿入して同機を作動させ,前記A11管理に係る現金を引き出して窃取しようとしたが,暗証番号を誤って入力したため,その目的を遂げなかった。 ( た前記現金自動預払機に前記B14銀行のキャッシュカードを挿入して同機を作動させ,前記A11管理に係る現金を引き出して窃取しようとしたが,暗証番号を誤って入力したため,その目的を遂げなかった。 (証拠)(以下,括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠の番号を示し,職の番号は証拠等関係カード記載の職権採用証拠の番号を示す)。 (証拠の標目は省略)(事実認定の補足説明)(,。 以下括弧内の弁の番号は証拠等関係カード記載の弁護人請求証拠の番号を示すなお,証拠を引用する場合,特に断らなくてもそのうち証拠とならない部分は除く趣旨である。また,同証拠が謄本又は抄本である旨の表示は省略し,公判調書中の被告人及び証人の供述部分も「公判供述」という)。 第1弁護人の主張弁護人は,①判示第1の事実について,被告人は犯人ではない,②判示第3の事実について,被告人はA8名義の口座から金員を引き出そうとしたが,それは当該口座を管理していたA10に頼まれたからである,③判示第4の事実について,被告人は犯人ではない,④判示第5の事実について,被告人はA10名義の口座から金員を引き出すなどしたが,それはA10に頼まれるなどし- 5 -たからであるので,いずれも被告人は無罪であると主張し,被告人もこれに沿う供述をする。 また,弁護人は,⑤判示全部の事実について,これらの公訴の提起は,検察官が訴追裁量権を逸脱し,公訴権を濫用したものであるから,各公訴はいずれも棄却されるべきであると主張する。 以下,上記③及び④,②,①並びに⑤の順に検討する。 第2判示第4の事実(A10に対する強盗殺人事件)及び第5の事実(A10名義の口座に対する窃盗,窃盗未遂事件)について 前提となる事実関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 ( ) 被告人は,平 判示第4の事実(A10に対する強盗殺人事件)及び第5の事実(A10名義の口座に対する窃盗,窃盗未遂事件)について 前提となる事実関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 ( ) 被告人は,平成16年8月から民生委員をしており,その担当する高齢者 の1人がA10であった。 ( ) A10は,判示第4記載の住居地に1人で暮らしており,足が不自由で, 心臓が悪く,介助なしに1人で外出することは困難であり,毎週月曜日と木曜日にデイサービスを利用し,火曜日と金曜日に訪問介護を受けていた。 ( ) A10は,平成17年2月13日から同年3月4日まで,慢性心不全急性 憎悪によりB17病院に入院した(以下,特に断らない限り月日は平成17年のものである。この間,A10に対する介護サービスはいったん中止。)され,被告人は,毎日のようにA10を見舞うなどしていた。 ( ) A10は,3月22日午後1時ころから同日午後3時前ころまで,自宅で 介護サービスを受けた。 ( ) 同日午後9時20分から3分10秒間,A10宅の固定電話から,被告人 の交際相手であるA12(以下「A12」という)の寮の部屋の固定電話。 に,電話がかけられている。 ,,( ) 被告人は翌23日午後4時6分ころから同日午後4時9分ころまでの間 判示第5の1,2記載のとおり,A10名義のキャッシュカード2枚を用い- 6 -て,現金自動預払機を使用し,A10名義の1つの口座から現金5万3000円を引き出し,更にもう1つの口座の残高照会をしようとしたが,暗証番号を誤って入力したため残高を知ることができなかった。 ( ) A10は,同日午後6時6分ころ,窓からA10宅に入った消防士によっ て,ベッドの上で死亡している状態で発見された。その後の鑑定等の結果,A10の死因が索状 残高を知ることができなかった。 ( ) A10は,同日午後6時6分ころ,窓からA10宅に入った消防士によっ て,ベッドの上で死亡している状態で発見された。その後の鑑定等の結果,A10の死因が索状物を用いた頸部圧迫による窒息死であること,その血液には,睡眠剤等として使われるトリアゾラムが血液1グラム当たり約2.1ナノグラムの濃度で含まれていたことが判明し,A10は,死亡当時睡眠中であったと推測された。 ( ) 上記消防士らがA10宅に入る直前,同室の玄関や出入り可能な窓はいず れも施錠されており,B10荘の玄関のかぎは,その管理者から入居者に3本交付されるところ,A10宅の玄関のかぎ3本は,いずれも同室内にあった。また,玄関のかぎ穴には,これに適合するかぎによる解錠操作によってできる傷以外に傷は認められなかった。 ( ) 被告人夫婦の3月23日前後ころの債務残高は,消費者金融業者及びクレ ジット会社合計12社に対し合計336万円余り,銀行に対し326万円余り,B18に対し138万円余り,生命保険会社に対し42万円余りの合計843万円余りであり,3月における被告人夫婦の債務返済額は合計31万円余りであった。他方,同月における,被告人の夫であるA13(以下「A13」という)の手取り収入は合計45万1568円,被告人の手取り収。 入は勤務先からの収入6万0700円と民生委員等としての半年分の報酬2万7144円であり,被告人は,このころ毎月数万円を消費者金融業者等から借り入れていた。 A10の死因及び死亡推定時刻前記1( ),( )の事実によれば,A10は,3月22日午後3時前ころから 翌23日午後6時6分ころまでの間に,トリアゾラムを摂取した状態で睡眠中- 7 -に,索状物で首を絞められて殺害されたと明らかに認められるところ れば,A10は,3月22日午後3時前ころから 翌23日午後6時6分ころまでの間に,トリアゾラムを摂取した状態で睡眠中- 7 -に,索状物で首を絞められて殺害されたと明らかに認められるところ,A10の死亡推定時刻等について,A14(以下「A14」といい,A14の公判供述及び鑑定書(甲24)を総称して「A14鑑定」という)が死体を解剖し。 て鑑定を行い,A15(以下「A15」という)が検視を行っているので,。 以下検討する。 ( ) A14鑑定 アA14鑑定の要旨(ア) 一般に,それほど時間の経っていない死体について死後経過時間を推定する際には,死後硬直,角膜の混濁,死斑,腐敗,体温の降下により判断するところ,私は,3月24日午後3時26分から,A10の死体の解剖検査を行ってこれらを観察した(ただし,体温の降下については,警察の霊安室で冷蔵庫に死体が入っていた場合などには計る意味がないので,本件ではこれを測定しておらず,鑑定書を作成する際にも考慮していない。 。)(イ) 死後硬直は,あごから始まり,上から下に徐々に発現し,全身に強く発現するのは24時間程度で,目安としては,16時間ないし24時間くらいで最強になる。その後,硬直のおよそ2倍くらいの時間をかけて,上から順に硬直が解けていく。A10の死後硬直は,足の指だけに弱く残っていて,その他の諸関節は既に緩解,消失していたので,死後約40時間前後あるいはそれ以上経っていると考えられる。 ,,(ウ) 角膜は開眼しているか閉眼しているかにより進み具合は異なるが徐々に混濁していく。A10の死体の角膜の混濁は,中等度であり,死後半日から1日半,目を閉じていた場合には死後1日ないし2日経過していると考えられる。 (エ) 死斑は,死後非圧迫部に生じる暗赤色の斑で,発現初期は指 く。A10の死体の角膜の混濁は,中等度であり,死後半日から1日半,目を閉じていた場合には死後1日ないし2日経過していると考えられる。 (エ) 死斑は,死後非圧迫部に生じる暗赤色の斑で,発現初期は指圧によって容易に消退するが,徐々に消退しにくくなり,死後十数時間ないし- 8 -20時間以上経つと,指圧しても消退しにくくなり,1日ないし1日半を過ぎれば,強い指圧でもほぼ消退しなくなる。A10の死斑の状況からは,死後1日ないし2日程度と推測され,同死斑は,通常の指圧では消退せず,ピンセットの柄の部分を持って強く押したところ,辛うじて消退したので,少なくとも死後24時間から30時間は経っていると考えられる。また,3月23日午後6時30分ころから同日午後9時ころまでの間に撮影された写真撮影報告書(甲6)の写真番号28,29,32に写っているA10の死体を見ると,その死斑がはっきりと出ているから,この時点で,大体死後1日前後であると考えられる。 (オ) 腐敗は,冬場であれば,腐敗色が発現するには,2日ないし3日かかる。A10の死体には腐敗色は見られなかったので,死後2日ないし3日は経過していないだろうといえる。 (カ) 以上を総合すると,解剖開始時(3月24日午後3時26分)までの死後経過時間は20時間ないし40時間程度であると推定される。 (キ) なお,3月23日午後8時30分の直腸温と翌24日午後零時40分ころの直腸温を比較すると,1時間当たりの直腸温の降下率は0.464度であり,死亡後3月23日午後7時30分までA10がずっと布団に入っていたと考えれば,その時点までの直腸温の降下率はそれよりも低いと考えられること,一般的に布団の中の人の直腸温の降下率は,A10の体格を前提にすると0.4度くらいと考えられ,A10はそれに加えて布団の中で厚 えれば,その時点までの直腸温の降下率はそれよりも低いと考えられること,一般的に布団の中の人の直腸温の降下率は,A10の体格を前提にすると0.4度くらいと考えられ,A10はそれに加えて布団の中で厚着していたことからすれば,その時点までの直腸温の降下率は0.4度よりは低かったであろうと考えられ,0.3度であったとしても矛盾はない。 (ク) また,A10の胃の中には,粘液以外に特に食物であろうものがなかった。消化の速度は,食べる物や量によって異なり,場合によってはもっと早く胃が空になることもあるが,胃の中に何もないときは,一般- 9 -に食後五,六時間以上は経過していると判断しており,A10についても同じように判断した。 イA14鑑定の信用性A14は,その公判供述によれば,昭和59年にB19大学を卒業し,その後同大学の法医学教室に勤務している医師であり,A10の死体を解剖した平成17年3月当時までに約350体,公判供述時までに約500体の死体を解剖した経験を有していたのであるから,死体を解剖し,その死後経過時間を鑑定するのに必要な学識,経験を十分に有していると認められる。 そして,その供述内容であるA10の死体の所見は,解剖時の写真(甲20)等に合致するものであり,特段疑問を差し挟む事情は認められず,それに基づく判断も適切なものであると認められ,A14鑑定は信用できる。 ( ) A15の公判供述 アA15の公判供述の要旨(ア) 私は,検視等のためA10宅に臨場し,3月23日午後7時半ころからA10の死体の状況を観察し始めた。まず最初に顔がうっ血していることに気付き,そのころ布団をめくったところ,布団の中はまだ暖かみがあり,尿のにおいを感じた。A10の下着には失禁の跡があり,まだ湿っていた。 (イ) 次に,同日午後7時40分こ 顔がうっ血していることに気付き,そのころ布団をめくったところ,布団の中はまだ暖かみがあり,尿のにおいを感じた。A10の下着には失禁の跡があり,まだ湿っていた。 (イ) 次に,同日午後7時40分ころまでの間に,死体の硬直状態を見たところ,肩,肘,手首(以上を総称してここでは「上肢」という,。),,,(「」。),腰大腿部下腿部ひざ以上を総称してここでは下肢というあご,首の硬直具合は中程度のものだったが,腕の硬直は本当に弱く,あご,首は中程度でも弱い方だった。指の硬直は中程度でも硬く,足首はそれよりも硬い強度の硬直に近い状態だった。下肢の硬直具合は上肢- 10 -と同じく中程度だったが,上肢よりやや硬いように感じられた。 ,,,,,,私は死後硬直は死後約二三時間で始まりあごから上肢下肢という順に広がり,約12時間で全身が硬直し始め,その後,硬直が増強されていき,個人差や室温にもよるが,24時間くらいで緩解し始めると認識している。A10は硬直の緩解が始まりかけている状態だと判断したので,死後24時間を過ぎた死体現象だと思った。 (ウ) A10は目を閉じており,同日午後7時30分ころ,A10の角膜の状態を確認したところ,微混濁であった。私は,角膜の混濁は,まぶたが開いている方が早いが,死後三,四時間くらいで混濁が始まり,10時間くらいで角膜が白く濁り始め,徐々に瞳孔が見えなくなり,2日くらいで全混濁すると認識しており,瞳孔を容易に確認できる状態を微混濁,懐中電灯を当ててわずかに見える状態を中程度と表現している。 中程度とは,死後24時間くらい経ったころの状態である。A10は瞳孔が容易に測定できたことから,微混濁では後半であるが,死後24時間を経過しない状態だと判断した。 (エ) 同日午後7時 現している。 中程度とは,死後24時間くらい経ったころの状態である。A10は瞳孔が容易に測定できたことから,微混濁では後半であるが,死後24時間を経過しない状態だと判断した。 (エ) 同日午後7時50分ころ,A10の死斑を確認したところ,非圧迫部に暗紫赤色の死斑が顕著に表れており,背中,腰,尻の3か所を親指で押したが,死斑は退色しなかった。私は,死斑とは,外的条件によるが,一般に死後二,三時間で現れ,四,五時間経つと指で押せば退色するが,その後徐々に退色しなくなり,24時間を過ぎるとほとんど退色しないと認識しており,A10は死後24時間を過ぎた死体現象であると判断した。 (オ)同日午後8時30分ころ,A10の直腸温を計ったところ,29. 。 ,,7度であった私は生きている状態の直腸温を37度で計算するのでそれと7.3度くらいの差があると思った。ふだんは,室内で死亡した死体は1時間当たり0.5度直腸温が下がると計算しているところ,当- 11 -時の外気温は15.3度であったが,A10が死んでいた南側の六畳間は,A10の死体が発見されるまではカーテンが閉められ,密閉状態で電気こたつが付いていたこと,A10が冬布団の中に入り,かつ厚着をしていたことから,かなり保温状態が良かったと判断し,今回は1時間当たり0.3度くらいではないかと計算し,硬直状態や死斑の状態と照らし合わせて矛盾はないと判断した。なお,私は,直腸温は死後5時間,,から10時間くらいの降下率が高くその後低くなると認識しているが一律に同じ数値で計算した。 (カ) 以上を総合して,検視に立ち会った医師などとも相談した上,A10は死後24時間くらい経っているであろうと判断し,3月23日の段階で,死亡推定時刻は3月22日午後9時ころと判断した。 (キ) なお,私は,A10の て,検視に立ち会った医師などとも相談した上,A10は死後24時間くらい経っているであろうと判断し,3月23日の段階で,死亡推定時刻は3月22日午後9時ころと判断した。 (キ) なお,私は,A10の顔がうっ血していたことや頸部に表皮剥奪があったこと,まぶたの裏側に溢血点があったことから,犯罪死ではないかと思ったが,3月23日の段階では,結局犯罪死という結論にならなかった。 イA15の公判供述の信用性A15は,その公判供述によれば,警察官であり,医師免許を持っておらず,大学で法医学を専攻したこともないが,昭和59年3月に刑事課鑑識係に配属されて以来,同係での勤務を続け,警察で受ける教養や本での学習のほかに,先輩のやり方を見たり,解剖に立ち会った際,解剖医から話を聞いたりそのやり方を見たりして,死後経過時間を推定するための知識を身につけてきたこと,A10の死体を検視した平成17年3月当時までに約100体の死体を検視した経験を有しており,そのたびに死後経過時間を推定してきたことが認められる。これらからすれば,A15は,死体の死後経過時間を推定するのに必要な知識,経験を相当程度有しているものと認められる。 - 12 -そしてその供述内容であるA10の死体の所見は写真撮影報告書甲,,(6)等で裏付けられており,特段疑問を差し挟む事情は認められないことから,その供述は信用できる。 また,A15が算出した死亡推定時刻の正確性については,その前提となる知識がA14の公判供述と概ね一致すること,死体は経時的変化がより顕著に現れる早期に検視するほど死後経過時間を正確に推定できること,関係証拠によれば,A15が検視をした当時,A10はほぼ死体発見時の状態のまま保存されていたと認められること,A15が検視をした当時のA10の死斑の写真を見て,A1 経過時間を正確に推定できること,関係証拠によれば,A15が検視をした当時,A10はほぼ死体発見時の状態のまま保存されていたと認められること,A15が検視をした当時のA10の死斑の写真を見て,A14はA10が死後1日前後であると考えられると述べていることからすれば,A15の算出した死亡推定時刻は合理性があり,さらに,これがその後の捜査結果の影響のない3月23日時点の推定であることも併せ考慮すれば,一定程度信用できるものと認められる。 ( ) 検討 ア以上のとおり,A10の死亡推定時刻に関するA14鑑定及びA15の公判供述は,それぞれ信用性が認められるが,その正確性については,死体は早期に検視するほど死後経過時間を正確に推定できること,A15が検視をした当時,A10はほぼ死体発見時の状態のまま保存されていたのに対し,関係証拠によれば,A14が解剖したのは,A10の死体が2人の警察官による検視を経たり,ビニール袋に入れられて霊安所に運ばれたりして動かされた後であると認められることから,A15の供述の方がより正確というべきである。 そうすると,A10の死亡時刻は,厳密に特定することはできないもの,。 の3月22日午後9時前後の一定の幅のある時間帯であると認められるイこれに対し,弁護人は,A10の胃の状態から,A10は食後5時間ないし6時間以上経過した時点で殺害されたと考えられること,A10宅の- 13 -台所にはA10が夕食を取った形跡が残されていたこと,A10担当のケアマネージャーであるA16(以下「A16」という)が作成した週間。 サービス計画表によれば,A10は毎日午後6時ころに夕食を取る習慣があることから,A10が死亡したのは3月22日午後11時以降であると主張する。 しかし,A14の公判供述によれば,消化の速度は,食 サービス計画表によれば,A10は毎日午後6時ころに夕食を取る習慣があることから,A10が死亡したのは3月22日午後11時以降であると主張する。 しかし,A14の公判供述によれば,消化の速度は,食べる物や量によって異なり,食後五,六時間を経なくても胃が空になりうることが認められる。そして,何時に食事を取るかというのはその日の都合によって変わりうることであり,信用できるA17(以下「A17」という)の尋問。 調書によれば,A10担当のヘルパーであったA17が訪問介護に訪れた際,A10が午後3時までに夕食の準備を終えていたことがあったこと,3月22日も午後2時前ころには夕食に食べたと思われるカボチャを炊き上げていたことが認められることから,A10が同日午後6時より前に食事をした可能性も十分認められる。 したがって,A10が,いつ,何をどれくらい食べたのか分からない以上,A10の胃の状態という一事をもって,A10が死亡したのは午後11時以降であると断定することはできない。 よって,弁護人の上記主張は理由がない。 前記1,2の事実を前提に,以下4ないし7で,被告人が判示第4及び第5の各犯行を行ったことを推認させる間接事実について検討する。 A10の死亡推定時刻にA10宅からA12の寮にかけられた前記1( )の 電話は,被告人がかけたものと認められること( ) A10宅からA12の寮の部屋に電話がかけられた事実 前記1( )のとおり,3月22日午後9時20分から3分10秒間,A1 0宅の固定電話からA12の寮の部屋の固定電話に電話がかけられている。 ( ) A12の公判供述 - 14 -アA12の公判供述の要旨3月当時,私と被告人は十数年来のいわゆる不倫関係にあり,ほとんど毎日電話をしていた。 私の寮の部屋には固定電話がある ている。 ( ) A12の公判供述 - 14 -アA12の公判供述の要旨3月当時,私と被告人は十数年来のいわゆる不倫関係にあり,ほとんど毎日電話をしていた。 私の寮の部屋には固定電話があるが,その電話番号は一般には公開していなかった。 私は,被告人から頼まれて,A10の娘であるA18(以下「A18」という)のところへ被告人を車で送っていったことはあるが,A18と。 話したことはないし,A10とは面識がない。 3月22日午後9時20分,A10宅から私の部屋の固定電話へ電話がかかっているが,A10から電話を受けた記憶はない。そもそも電話がか,,かってきた記憶もないし誰からかかってきた電話かという記憶もないがA10宅から私に電話する人物は他に思い浮かばないので,ひょっとしたら被告人かもしれない。 翌23日,私は被告人からA10が亡くなったことを聞いた。その後,同月26日までに,A10が実は殺害されていたということも報道や被告人から聞いて知った。 イA12の公判供述の信用性A12には,あえて被告人に不利な虚偽の供述をする動機はなく,実際にA12は,被告人に有利不利を問わず覚えていることと覚えていないことを区別して率直に述べており,真摯な供述態度が認められる上,その供述に何ら不自然な点は認められない。 よって,上記供述は信用できる。 ( ) 検討 アA12の上記固定電話の電話番号は一般に公開されていないことから,これを知っているのは,A12の関係者のみであると認められるところ,A10宅に出入りする可能性のある人物で,A12の関係者は被告人のみ- 15 -であると認められる。 イこれに対し,弁護人は,上記( )の電話は,A12が被告人をA18の ところへ車で送っていったお礼に,A10が直接A12へかけたものであり,A12 告人のみ- 15 -であると認められる。 イこれに対し,弁護人は,上記( )の電話は,A12が被告人をA18の ところへ車で送っていったお礼に,A10が直接A12へかけたものであり,A12には午後8時前には布団に入る習慣があるから,上記電話当時もA12は完全には覚せいしていない状態にあり,かつ,用件もA12の関心のある事柄ではなかったため,記憶に残らなかったものであると主張し,被告人も,A10に聞かれてA12の上記固定電話の電話番号を教えたと供述する。 しかし,A12に一切面識のないA10が,いきなり直接A12に電話をかけることはそもそも考えにくいし,仮に電話をかけたのがA10であったのであれば,翌日A12はA10が亡くなったことを被告人から聞か,,されその数日後にはA10が殺害されていたことを知ったのであるから上記( )の電話は特にA12の記憶に残ったはずである。また,A12の 上記習慣を前提にしても,上記( )の電話は3分10秒間続いており,そ の間A12がずっと覚せいしていない状態であったとは考え難い。他方,被告人からの電話であれば,A12が覚せいして電話していても,日常と変わらない出来事であるから,特に記憶に残らなくても不思議ではない。 よって,弁護人の上記主張は理由がない。 ( ) 小括 ,,。 以上のとおり上記( )の電話をかけたのは被告人であると認められる そして,前記2のとおり,A10の死亡推定時刻は3月22日午後9時前後の一定の幅のある時間帯であり,かつ,A10は死亡する前,トリアゾラムを摂取した状態で睡眠中であったのであるから,被告人は,A10が死亡しているか,薬により睡眠中,又はそれに極めて接着した時にA10宅にいたことになり,この事実は,被告人がA10を殺害したことを強く推認させる 状態で睡眠中であったのであるから,被告人は,A10が死亡しているか,薬により睡眠中,又はそれに極めて接着した時にA10宅にいたことになり,この事実は,被告人がA10を殺害したことを強く推認させる。 - 16 - 被告人がA10の死亡後の3月23日に行った前記1( )の預金の引き出し 等は,A10の意思に基づかないものと認められること( ) 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 アA10は,2月28日午後3時12分ころ,B17病院内に設置されている現金自動預払機で,株式会社B13銀行のA10名義の口座から16万円を引き出した。この際,被告人は,A10の後ろに付き添っていた。 被告人は,同日午後3時23分ころから同日午後3時25分ころまでの間,上記現金自動預払機の前に立っていたが,その間,同機で入出金するなどの操作をすることはなかった。 イ前記1( )を詳細に見ると,以下のとおりである。 被告人は,3月23日午後4時3分ころ,判示第5記載の現金自動預払機で,キャッシュカードを用いて上記アと同じ口座の残高照会を行い,残高が5万3111円であることを確認し,継続して5万円を引き出そうとしたが,暗証番号を誤って入力したため出金できず,同日午後4時6分,判示第5の1記載のとおり,再び上記キャッシュカードを用いて上記口座から5万3000円を引き出し,これには手数料が105円かかったことから,結果として,同口座の残高は6円になった。 さらに,被告人は,判示第5の2記載のとおり,同日午後4時7分から同日午後4時9分にかけて,キャッシュカードを用いて株式会社B14銀行のA10名義の口座の残高照会を2度行おうとしたが,暗証番号を誤って入力したため,残高を知ることはできなかった。 ウ2月28日及び3月23日当時上記B13銀行の口座の暗証 を用いて株式会社B14銀行のA10名義の口座の残高照会を2度行おうとしたが,暗証番号を誤って入力したため,残高を知ることはできなかった。 ウ2月28日及び3月23日当時上記B13銀行の口座の暗証番号は○,「○○○であり3月23日当時上記B14銀行の口座の暗証番号は×」,,「×××」であった。 エ3月25日,被告人の捨てたごみ袋の中から「A10○○○○○,○○△? 「嫁□□□□」及び上記B17病院の現金自動預払機の暗」,- 17 -証番号入力画面の数字の入力キーと同じ配列の数字が裏面に書かれたB17病院の診察申込書が,破られた状態で発見された。 オA10の上記B13銀行の口座の出入金履歴(甲162,163)によれば,同口座には,毎偶数月の15日ころに合計約22万円の厚生年金が振り込まれ,同口座に入金される金員は利息を除けば過去5年以上この厚生年金だけである。また,同出入金履歴によれば,同口座からは,毎月月末に保険料や住宅使用料,介護サービス使用料が引き落とされており,3月も同様に引き落とされる予定だったと推認されるが,A10は,過去10年間,残高がマイナスにならないよう同口座を管理していた。 ( ) 検討 ,,ア上記( )アの被告人の行動同エの診察申込書の裏面の記載からすれば 被告人は,A10がB17病院内の現金自動預払機で上記B13銀行の口座から現金を引き出す際に暗証番号を入力する場面を見た後,1人で同現金自動預払機のところへ戻り,暗証番号入力画面を表示させ,同口座の暗証番号を推察したと考えるのが自然である。 イそして,上記( )オの出入金履歴に照らすと,保険料等の支払を控えた 時期に口座のほぼ全額を引き出すという3月23日の5万3000円の引き出しは,過去の引き出しと比べて異質な のが自然である。 イそして,上記( )オの出入金履歴に照らすと,保険料等の支払を控えた 時期に口座のほぼ全額を引き出すという3月23日の5万3000円の引き出しは,過去の引き出しと比べて異質な引き出しであると認められる。 しかし,関係証拠によれば,A10にそのような現金が必要だった事情は何らうかがわれない。 ウさらに,上記( )イ,ウのとおり,上記B13銀行の口座と暗証番号の 異なる上記B14銀行の口座の残高照会は,2度にわたって暗証番号を誤って入力したため失敗に終わっている。 エ以上からすれば,被告人は,2月28日に上記B13銀行の口座の暗証番号を推察した上,3月23日にA10の意思に基づかずに同口座から現金を引き出し,また,上記B14銀行の口座からも現金を引き出そうとし- 18 -て,その準備行為として残高照会を行おうとしたものと推認される。 ( ) 被告人の公判供述 これに対し,被告人は,①上記( )エの診察申込書の裏面の記載は,2月 28日に2度目にB17病院の現金自動預払機に行った際に被告人がメモしたものだが,これは,A10が,同アの引き出しの際,暗証番号を声に出しながら,後ろから見えるような状態で入力しており,不用心と思ったので,いつか注意してあげようと考え,その手段としてしたものである,②上記B13銀行の口座から現金を引き出したのは,3月22日にA10から頼まれ,,,たためであり上記B14銀行の口座の残高照会をしようとしたのは同日A10から同口座の通帳記入を頼まれており,せめて残高だけでも教えてあげようと思ったためである,③引き出した現金と使用した上記2枚のキャッシュカードは,茶封筒に入れてA10宅の玄関の引き戸に付いている郵便受けに入れて返した,④預金の引き出しと通帳記入を頼まれた際に預かった上記 たためである,③引き出した現金と使用した上記2枚のキャッシュカードは,茶封筒に入れてA10宅の玄関の引き戸に付いている郵便受けに入れて返した,④預金の引き出しと通帳記入を頼まれた際に預かった上記2口座の通帳2冊は,A10宅の簡易トイレの上の衣服の間に返したと供述する。 ア上記①について被告人は,そもそもA10は声に出しながら暗証番号を入力していたので,その時点でA10の上記B13銀行の口座の暗証番号は分かっていた旨供述するが,上記診察申込書の裏面に「○○○○○○○△?」と同,口座の暗証番号を推測するような記載がされていること,現金自動預払機の暗証番号入力画面の数字の入力キーと同じ配列の数字が記載されていることと整合しない。また,A10に注意するのであれば,その場で口頭で注意すれば足り,暗証番号らしき数字やその入力キーの配列までメモする必要は全くない。さらに,被告人は,その場で声を出してA10に対し注意したと供述したり,上記メモの作成後はA10に対し注意することはなかったとも供述している。 - 19 -これらからすれば,上記①の供述は不自然,不合理であり,信用できない。 イ上記②について被告人は,3月22日にA10から預金の引き出し及び通帳記入を頼まれた理由に関し,その際,被告人が,A10にA18からはがきが来たかと尋ねたところ,A10は「ええ,ええ,ええ,ええ,来ることになり,ましてね」と答えたと供述する。 。 しかし,実際には,A18がA10の下へ来る予定がなかったことは証拠上明らかである。また,確かに,被告人が作成したA10の訪問活動記録のうち,4月27日に被告人宅から押収されたもの(甲193)の3月22日の欄には「娘が来るお金がいるのでおろしてほしいと通帳と印,かんをわたされる」との記載があるが,関係証拠に 0の訪問活動記録のうち,4月27日に被告人宅から押収されたもの(甲193)の3月22日の欄には「娘が来るお金がいるのでおろしてほしいと通帳と印,かんをわたされる」との記載があるが,関係証拠によれば,同月29日に被告人の捨てたごみ袋の中から発見された別のA10の訪問活動記録2通(甲190)には上記記載はなく,そのうち1通は,被告人宅から押収さ,,れた訪問活動記録よりも先に作成されたものと認められること被告人は当公判廷では,印鑑は預かっていないと供述し,何を渡されたかという重要な点で齟齬があることに照らすと,上記記載は信用できない。 そうすると,被告人の上記②の供述は信用できない。 ウ上記③について被告人は,上記( )イのとおり預金を引き出すなどし,3月23日午後 4時45分ころ,始発のバス停からバスに乗り,午後5時5分ころ,A10宅の最寄りのバス停でバスを降り,歩いて2分ほどかけてまっすぐA10宅へ向かい,A10宅で何度か玄関の引き戸をノックして,3分ほどA10が出てくるのを待ったが,出てこなかったので,A10の口座から引き出した現金5万3000円,上記キャッシュカード2枚及び預金引き出しの明細票が入った茶封筒を,A10宅の郵便受けに入っていた2つの新- 20 -聞の間に入れたと供述する。 被告人の上記供述の信用性を検討する前提として,ちょうど同じころ,A10宅を訪れた旨供述するA16の公判供述を検討する。 (ア) A16の公判供述の要旨私は,A10のケアマネージャーであり,3月23日にA10に会おうとA10宅へ向かい,途中でA10宅へ2回電話をかけたが,いずれもA10は電話に出なかった。私は,A10が外出するといえば,デイサービスへ行くか,ヘルパーと病院等へ行くかくらいしか把握しておらず,同日はいずれの予定もなかった 10宅へ2回電話をかけたが,いずれもA10は電話に出なかった。私は,A10が外出するといえば,デイサービスへ行くか,ヘルパーと病院等へ行くかくらいしか把握しておらず,同日はいずれの予定もなかったので,不審に思った。そこで,同日午後4時42分にデイケアセンターへ電話をかけたが,A10は来ていないということだった。私は,A10の安否を確認するため,A10宅へ行き,玄関の引き戸をノックしたが,応答がなく,同引き戸にはかぎが掛かっていた。そこで,同日午後4時49分にもう1度デイケアセンターへ電話をかけたが,やはりA10は来ていないということだった。 そこで,同日午後4時52分に民生委員である被告人に電話をかけ,A10がいないことを伝えたところ,被告人からは,A10が娘のところに行くようなことを前日に言っていた旨聞いた。その後,A10宅の電話機の受話器が外れているのかもしれないと思い,A10宅の前でA10宅へ電話をかけたところ,部屋の中で電話の呼出し音が鳴るのが聞こえたので,A10の安否について,より不安になった。次に,郵便受けからA10宅の中をのぞこうとしたが,郵便受けには新聞が2部入っており,中をのぞくことができなかった。そこで,新聞を抜こうとしたところ,逆にA10宅の中へ2部とも落ちてしまった。郵便受けから中をのぞいたところ,スリッパが南側の和室の前にあるのが見えたので,A10は部屋の中にいることがうかがわれた。私は,心配になり,合いかぎがないか尋ねようとして管理事務所に行こうとしたが,間違ってコミ- 21 -ュニティセンターに行き,その後管理事務所に行くことができた。着いた時間は,管理事務所は午後5時までという意識があり,ぎりぎりだったという記憶があるので,午後5時ころだったと思う。管理事務所に行った後,午後5時12分にA18の 管理事務所に行くことができた。着いた時間は,管理事務所は午後5時までという意識があり,ぎりぎりだったという記憶があるので,午後5時ころだったと思う。管理事務所に行った後,午後5時12分にA18の住所などを知っている,A10が以前住んでいたB20区役所の職員のA19(以下「A19」という)。 に電話をし,A10がA18のところへ行くようなことがあり得るか,A18方に行ったほうがいいかなどと相談した。管理事務所では,以前同様のケースがあったときに,レスキューの人が開けてくれたということを聞き,私は消防署へ向かった。消防署で事情を説明したところ,出動してもらえることになり,先にA10宅の玄関前に戻って消防士が到着するのを待った。 そして,ベランダの窓を割ってA10宅へ入った消防士に玄関のかぎを開けてもらい,中に入ったところ,私が落とした新聞が2部あったのでそれを拾ったが,他に特に落ちているものは見当たらなかった。新聞は,3月23日の朝刊と夕刊だった。 (イ) A16の公判供述の信用性aA16は,その公判供述によれば,被告人と3月23日まで面識がなく,A10の面倒を見ていた被告人に感謝していて,捜査機関に被告人に不利と思われる事実を話すことをためらったこともあったと述べるくらいであるから,あえて被告人に不利な虚偽の供述をする動機はない。A16は,3月23日はA10の安否が分からないことで動転していたと述べ,実際にA16の記憶には,一部あいまいな部分が認められるが,覚えていることを覚えている限りで供述しようという真摯な姿勢が認められ,また,その供述は携帯電話の発信履歴(甲354)に裏付けられており,その供述の大枠については信用できると認められる。 - 22 -b弁護人は,A16の公判供述は,A10宅に着く前にデイケアセンターへ電話 供述は携帯電話の発信履歴(甲354)に裏付けられており,その供述の大枠については信用できると認められる。 - 22 -b弁護人は,A16の公判供述は,A10宅に着く前にデイケアセンターへ電話をかけた場所や,A10宅の新聞を落とした時期が被告人に電話をかける前なのか後なのか,新聞を抜こうと思ったら落ちたのか,最初から落とそうとしたのかなどの点について供述が変遷していること,A19は,その公判供述において,同日午後5時12分の電話でA16と交わした会話について,A10の家にいるが,新聞受けに新聞がたまり,かぎは閉まり,中から応答がないので,どうするべきかという相談がA16からあり,消防に連絡するように指示した旨述べており,その内容がA16の公判供述と食い違っていることなどから,同人の公判供述はおよそ信用性がないと主張する。 cしかし,まず,A10宅に電話をしてもつながらず,不安になってデイケアセンターや被告人に電話をし,A10宅の前でA10宅に電話をしたり,新聞をA10宅の中へ落として郵便受けから中をのぞいた結果,A10が部屋の中にいるという疑いを深め,管理事務所に向かったという流れについては変遷しておらず,また,行動の説明として合理的であるので,この点については信用できる。弁護人が主張するように,管理事務所へ行った後で郵便受けの新聞を中へ落とした可能性は認められない。 次に,A19の公判供述との食い違いについて検討する。A16及びA19の各公判供述によれば,A16もA19も断片的な記憶しか残っていないと認められる上,A16がA19に連絡を取ったのは消防署へ行く前であるから,A19がA16に消防署へ行くよう指示したとしても何ら不思議ではない。また,A16が経過説明のために,A19が述べるようにかぎや新聞のことを伝えたり,あるい 絡を取ったのは消防署へ行く前であるから,A19がA16に消防署へ行くよう指示したとしても何ら不思議ではない。また,A16が経過説明のために,A19が述べるようにかぎや新聞のことを伝えたり,あるいは経過を伝えられたA19が誤って記憶したことは十分あり得ることである。 これらの事情を併せ考慮すると,弁護人の指摘するA19の公判供述- 23 -部分は,A16の上記供述の信用性に疑いを差し挟ませるものではない。 (ウ) 検討a上記のとおり供述の大枠について信用できるA16の公判供述によれば,A16がA10宅の郵便受けの新聞を落としたのは,管理事務所に向かう前であり,その時刻は,A16が管理事務所に着く前に誤ってコミュニティセンターに行ったことも併せ考えれば,A19に電話をした午後5時12分よりも相当前であったと認められる。 ,,,,b一方被告人の供述によれば被告人は同日午後5時10分ころA10宅の郵便受けの新聞の間に上記茶封筒を入れたことになるが,上記のとおり,そのころには,既にA16によって新聞がA10宅の中へ落とされていたと認められる上,仮に落とされていなかったとしても,A16がA10宅の前でA10宅に電話をするなどしていた時間があること,被告人もA10宅の前でA10が出てくるのをしばらく待っていた時間があることを考慮すれば,A16と被告人がA10宅の前で全く接触しなかったというのは考えにくいが,そのような事実は認められない。 弁護人は,夕刊の新聞配達員は,A10宅の郵便受けに,4つ折りになって入っていた朝刊のような物の上に縦に重なるように3月23日の夕刊を8つ折りにして入れたとその警察官調書において述べ,一方A16は,その公判供述において,A10宅の郵便受けには8つ折りの新聞が2つ横に並んで入っていたと述べてい に縦に重なるように3月23日の夕刊を8つ折りにして入れたとその警察官調書において述べ,一方A16は,その公判供述において,A10宅の郵便受けには8つ折りの新聞が2つ横に並んで入っていたと述べているが,これは,被告人が上記茶封筒をA10宅の郵便受けの新聞の間に入れた際に,新聞の並び方が変わったためである可能性があると指摘するが,茶封筒を入れることで並び方が変わることがあっても,郵便受けに入っていた新聞が4つ折りから8つ折りに変わることは考えにくく,この可能性- 24 -は認められない。 ,,。 したがって被告人の供述は信用できるA16の供述と矛盾するcまた,関係証拠によれば,A10宅の郵便受けは,入れられたものがそのまま玄関のたたきに落ちる構造になっていること,たたきの色は濃い緑色であること,3月23日の朝刊と広告チラシ及び同日の夕刊は領置されていることが認められる。したがって,新聞がたたきに落ちた時に,被告人が入れたという茶封筒が新聞から離れて落ちたのであれば通常は目につくと考えられ,仮に新聞の間に挟まったままであったのであれば領置後に発見されると考えられるが,新聞を拾ったA16は上記茶封筒を見ておらず,その他上記茶封筒の存在をうかがわせる資料は認められない。 dよって,被告人の上記③の供述は信用できない。 エ上記④について(ア) 被告人は,預金の引き出しと通帳記入を頼まれた際に上記キャッシュカードとともに預かった上記通帳2冊は,3月23日に死亡しているA10が発見されてA10宅に行った際,簡易トイレの上の衣服の間に返したと供述し,A18の公判供述によれば,同日から翌24日にかけて同人が部屋を片付けていた際,上記通帳2冊が,実際に簡易トイレの上の衣服の間から,郵便局のキャッシュカードや印鑑などと共に発見されたことが 供述し,A18の公判供述によれば,同日から翌24日にかけて同人が部屋を片付けていた際,上記通帳2冊が,実際に簡易トイレの上の衣服の間から,郵便局のキャッシュカードや印鑑などと共に発見されたことが認められる。 (イ) しかしながら,被告人は,その公判供述によれば,捜査当初,上記通帳は現金と上記キャッシュカードとともに郵便受けに入れたと供述しながら,その後,上記すべてを簡易トイレの上の衣服の上に置いた旨供述を変遷させ,さらに,当公判廷では,現金と上記キャッシュカードは郵便受けの中に,上記通帳は簡易トイレの上に置いたとその供述を変遷させている。 - 25 -上記キャッシュカード等を返した場所を郵便受けから簡易トイレの上へと変遷させたことについては,取調べから逃れたかったという被告人の述べる動機が一応の理由になるとしても,上記通帳について,捜査当初事実に反する供述をした理由についての説明はない。 したがって,被告人は,預かった上記通帳をどこに返したのかという重要な点について,理由なく供述を変遷させている。 (ウ) また,被告人は,上記通帳を返した当時の状況について,A10の葬儀代などの工面のためか,A18をはじめその場にいた全員が貴重品を探していたことを認識していたと供述しながら,誰にも言わず簡易トイレの上に隠すように貴重品である通帳を返したと供述しており,この行動は明らかに不自然,不合理である。被告人は,その理由について,金のことばかり気にするA18に腹を立てていたので通帳を持っていることを告げる気をなくしたなどと供述するが,とても合理的な説明ではない。 (エ) よって,被告人の上記④の供述は信用できない。 オ被告人の上記①ないし④の供述の信用性以上のとおり,被告人の供述は他の証拠から認められる事実と矛盾する点を含み,重要な点で変遷し はない。 (エ) よって,被告人の上記④の供述は信用できない。 オ被告人の上記①ないし④の供述の信用性以上のとおり,被告人の供述は他の証拠から認められる事実と矛盾する点を含み,重要な点で変遷しているほか,不自然,不合理な点が多々存在することから,到底信用することができない。 ( ) 小括 以上のとおり,被告人は,A10の意思に基づかずに前記1( )の預金の 引き出し等を行ったと認められる。 この事実は,前記4のとおり,被告人がA10の死亡推定時刻にA10宅にいた事実と併せ考えると,被告人がA10から上記2口座のキャッシュカードを盗取するとともに,その機会にA10を殺害したことを強く推認させる。 - 26 -( ) 違法収集証拠との主張について アなお,弁護人は,上記B17病院の診察申込書等が入ったごみ袋をはじめとする被告人宅から捨てられたごみ袋を,警察官が,数日,数回にわたり領置したことは違法であり,したがって当該ごみ袋から収集した証拠やそれより派生した証拠はすべて違法収集証拠であり,証拠能力が認められないと主張する。 イしかし,不要物として公道上のごみ集積所に排出されたごみは,その占有が放棄されたものであって,通常,そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても,捜査の必要がある場合には,刑事訴訟法221条により,これを遺留物として領置することができるというべきである。また,市区町村がその処理のためにこれを収集することが予定されているからといっても,それは廃棄物の適正な処理のためのものであるから,これを遺留物として領置することが妨げられるものではない(最高裁平成20年4月15日第二小法廷決定・刑集62巻5号1398頁。 )ウ関係証拠によれば,本件では,警察官が,被告人及びA13が市 ら,これを遺留物として領置することが妨げられるものではない(最高裁平成20年4月15日第二小法廷決定・刑集62巻5号1398頁。 )ウ関係証拠によれば,本件では,警察官が,被告人及びA13が市からごみを捨てる場所として指定された公道上に不要物として捨てたごみ袋を領置したが,その当時,捜査機関は,A10の死亡推定時刻以降に,被告人が,A10の口座から現金を引き出したことを把握していたことが認められ,捜査機関において,被告人が犯人であるとの疑いを持つ合理的な理由,,。 が存在し捜査の必要があったのであるからこの領置手続は適法であるしたがって,弁護人の上記主張は理由がなく,上記ごみ袋から収集した証拠やそれより派生した証拠は違法収集証拠ではない。 A10が死亡時に摂取していたトリアゾラムは,被告人が用意したものと考えて矛盾はないこと( ) 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 - 27 -アトリアゾラムの使用には医師の処方を要するところ,A10は,トリアゾラムを含む薬を病院から処方されておらず,特に他の入手先も見当たらない上,現にA10宅からはトリアゾラムを含む薬は発見されなかった。 イ被告人の父親は,3月22日当時,トリアゾラム製剤であるハルシオン0.25ミリグラム錠を継続的に処方されており,被告人は,逮捕時(7月6日,同錠剤1錠を所持していた。 )ウ被告人宅から7月18日に発見されたすりこ木(以下「本件すりこ木」という)及びすり鉢各1個を鑑定したところ,本件すりこ木にはトリア。 ゾラムの付着が認められたが,上記すり鉢からはトリアゾラムは検出されなかった。 エ被告人宅には,平成16年末ころ以降,被告人及びA13のみが住んでいたところ,両名は,ハルシオンを処方されておらず,他の睡眠薬も使用。 ,,。 して からはトリアゾラムは検出されなかった。 エ被告人宅には,平成16年末ころ以降,被告人及びA13のみが住んでいたところ,両名は,ハルシオンを処方されておらず,他の睡眠薬も使用。 ,,。 していなかったまたA13は本件すりこ木の所在すら知らなかったオハルシオンには安息香酸ナトリウムが含まれるところ,A10の体内からも安息香酸ナトリウムが検出されており,A10が摂取したトリアゾラム剤がハルシオンであっても矛盾しない。 ( ) A20(以下「A20」という)の公判供述 。 アA20の公判供述の要旨私は,3月25日に被告人宅から捨てられ,その後回収したごみを同日中に精査した。ごみ袋を回収したのは私ではないが,ごみ袋が捨てられた状況を撮影した写真で,手元にあるごみ袋が被告人が捨てたものと同じであること,ごみ袋の封が開いていないことを確認した上で,中身を精査し。 ,,たごみ袋の中には刻まれた緑色の郵便局の古いキャッシュカード入れ数字が羅列して書かれているメモ紙等のほか,A13の名前が書かれている薬袋があり,その中には3種類くらいの空の薬の容器が8片くらい入っていた。そして,その1つがハルシオン0.25と書かれている銀色の容- 28 -器だった。ハルシオンは,睡眠導入剤で犯罪にも使われるので,従前から知っており,今もごみ袋の中に入っていたという記憶があるが,それ以外の空の容器は,知らない薬のものだったので,今は薬の名称は覚えていない。ハルシオンの空の容器は,半分破れた状態で,切断されてはいなかった。 ハルシオンの空の容器は,その後,その日のうちに捨ててしまった。なぜなら,その当時はまだトライエージという薬物検査でもA10の死体から薬物は検出されていなかったので,A10が睡眠薬を飲まされて殺害されたとは考えておらず,また, ,その日のうちに捨ててしまった。なぜなら,その当時はまだトライエージという薬物検査でもA10の死体から薬物は検出されていなかったので,A10が睡眠薬を飲まされて殺害されたとは考えておらず,また,A13の名前が書かれた薬袋に,他の種類の薬とともに入っていたことから,A13が服用したものだろうと考えたからである。 イA20の公判供述の信用性(ア) A20は,ハルシオンの空の容器がA13の名前が書かれた薬袋の中に入っていたことや容器は半分破れていたが切断されていなかったこと等発見された状況を具体的に述べるもので,同日回収したごみ袋の中にA13の名前が書かれた薬袋とその中に8片の薬の空袋が入っていたことは写真撮影報告書(甲124,捜査報告書(甲198)によって)裏付けられている。また,そのままハルシオンの空の容器を捨ててしまった理由についても,上記薬袋等が同写真撮影報告書において近接撮影されておらず,そのころには捜査機関において特段注目されていなかっ,,たとうかがわれることにも照らすとそれなりに納得できるものであり特に疑いを差し挟ませるような事情はなく,A20の上記供述は信用できる。 (イ) これに対し,弁護人は,ハルシオンの空の容器が発見されたという報告書が作られたのが6月23日と発見から約2か月経っていることや,同報告書に「0.25」の文字が記載されていないことから,ハル- 29 -シオンの空の容器を見たというA20の供述は信用できないと主張する。 しかし,A20は,その公判供述において,A10の殺害に薬物が使用されたのではないかと疑うきっかけとなる出来事があってから,捜査を進めるうちにその疑いが濃厚になって報告書を作成した旨述べており,その作成経緯は何ら不自然ではなく,鑑定嘱託書(甲23)によれば,実際にA10の血液に と疑うきっかけとなる出来事があってから,捜査を進めるうちにその疑いが濃厚になって報告書を作成した旨述べており,その作成経緯は何ら不自然ではなく,鑑定嘱託書(甲23)によれば,実際にA10の血液にトリアゾラムが含まれているかどうかの鑑定嘱託がなされたのは6月30日であることからも,その捜査の経緯は裏付けられている。上記報告書に「0.25」という文字はなくとも,ハルシオンという文字が青色系の文字で書かれていたことが記載されており,詳細にその様子が報告されているといえるから,特に疑いを抱かせる事情とはいえない。また,関係証拠によれば,上記報告書は本件すりこ木やA10の血液からトリアゾラムが検出されるよりも前に作成されたものであると認められるから,わざわざ警察が検出されるかも分からない成分のために,証拠を偽造したとも考えられない。 よって,弁護人の上記主張は理由がない。 ウ以上によれば,3月25日に被告人が捨てたごみ袋の中には,ハルシオン0.25ミリグラム錠の空の容器が存在したことが認められる。 ( ) 検討 A10は,前記2のとおり,トリアゾラムを摂取した状態で睡眠中に殺害されたものであるところ,上記( )アのとおり,A10にトリアゾラムの入 手先が見当たらないことからすると,A10がこれを自ら摂取したものとは考えにくい。 他方,被告人は,上記( )イのとおり,ハルシオンを処方されていた父親 からこれを入手することが可能であったばかりか,更に同ウ,エ,上記( ) ウの事実を総合すれば,3月25日に近い時期に,何らかの事情で,被告人- 30 -以外の者に摂取させるために,被告人宅の本件すりこ木でハルシオンをつぶしたものと推認される。 そして,上記( )オのとおり,A10が摂取したトリアゾラム剤がハルシ オンであっても矛盾しない 0 -以外の者に摂取させるために,被告人宅の本件すりこ木でハルシオンをつぶしたものと推認される。 そして,上記( )オのとおり,A10が摂取したトリアゾラム剤がハルシ オンであっても矛盾しない。 ( ) 被告人の公判供述 ,,(「」。)アこれに対し被告人は本件すりこ木はA21以下A21というからもらったものである可能性が高く,同人は睡眠薬をつぶすなどして服用していた,被告人は2本のすりこ木を持っており,ふだんは本件すりこ木ではない別のすりこ木(以下「別のすりこ木」という)を使用してい。 ,,た逮捕時に持っていたハルシオンは7月3日に父親からもらったものでそれ以外にハルシオンを手に入れたことはない,A10から引き取って被告人が自宅で捨てたごみの中に薬の銀紙らしきものがあったと供述する。 イしかし,A21から本件すりこ木をもらった事実や同人が睡眠薬を服用していた事実は全く裏付けがなく,A10からごみを引き取った事実,その引き取ったごみの中に薬の銀紙らしきものがあった事実は裏付けがあるとはいえない。仮に,被告人が7月3日以前にハルシオンを手に入れていないとすれば,3月25日に被告人が捨てたごみ袋の中に含まれていたハルシオンの空の容器はA13が捨てたことになるが,同人にはハルシオンの入手先が見当たらないので,そのような仮定は考え難い。また,写真撮影報告書(弁156)によれば,本件すりこ木と同様にA21からもらったというガラス鉢等は被告人の供述どおり被告人宅の裏庭にある木製棚の中から発見されているにもかかわらず,裏庭に干していた可能性があるという別のすりこ木の存在をうかがわせる資料は認められない。 ウよって,被告人の上記供述は信用できない。 ( ) 小括 以上によれば,被告人は,A10が死亡時に摂取してい に干していた可能性があるという別のすりこ木の存在をうかがわせる資料は認められない。 ウよって,被告人の上記供述は信用できない。 ( ) 小括 以上によれば,被告人は,A10が死亡時に摂取していたトリアゾラムを- 31 -用意したと考えて矛盾はないものと認められる。 この事実は,被告人がA10を殺害したことを強く推認させる前記4,5の事実と相まって,被告人がA10にトリアゾラム剤を摂取させて昏睡させたことを強く推認させる。 被告人は,A10宅の合いかぎを所持していたこと( ) A10宅の合いかぎを作成し所持していた事実 関係証拠によれば,被告人は,2月16日,A10宅の合いかぎを作り,3月22日当時,これを所持していたことが認められる。 ( ) 検討 前記1( ),( )のとおり,A10の死体発見直前,A10宅の玄関や出入 り可能な窓はいずれも施錠されていて,入居時に交付された玄関のかぎ3本はいずれも室内にあり,玄関のかぎ穴にも適合するかぎによる解錠操作によってできる傷以外の傷はなかったのであるから,A10を殺害した犯人は,殺害後,合いかぎを使って玄関を施錠したか,特殊な技能により玄関又は窓を外側から施錠したものと認めるほかない。 よって,犯人は,A10宅の合いかぎを持つ者か,上記のような特殊な技能を持つ者に限定される。 そして,被告人は,上記( )のとおり,3月22日当時A10宅の合いか ぎを持っていたので,犯行を行うことが可能であったと認められる。 弁護人及び被告人のその他の主張( ) 第三者によりA10が殺害された可能性について 弁護人は,①3月22日午後7時20分ころ,A22(以下「A22」という)がA10宅から髪を下ろした女性が出てきたところを目撃している。 が,被告人は3月23日に美容師のA23( 可能性について 弁護人は,①3月22日午後7時20分ころ,A22(以下「A22」という)がA10宅から髪を下ろした女性が出てきたところを目撃している。 が,被告人は3月23日に美容師のA23(以下「A23」という)によ。 って髪が結い上げられた状態にあったことが確認でき,3月22日に被告人が髪を下ろしたとは考えられないから,目撃された上記女性は被告人ではな- 32 -いこと,②捜査線上に現れていないA10と親しい人物がいたことをうかがわせる事実があることから,A10を殺害した犯人は,上記①,②のような第三者である可能性があると指摘する。 ア上記①について(ア) A22の公判供述の要旨私は,3月22日午後7時20分ころ,B10荘B11棟B12号から女性(以下「不審女性」という)が出てくるのを,同棟北側の駐車。 場に止めた車の中から,携帯電話で電話をしている時に目撃した。不審女性は,黒っぽい格好で,肩のあたりまで髪があり,B12号室の玄関から出て扉を閉め,扉に向かって中腰になっていたので,かぎを閉めていたのではないかと思う。私は,A10の身内かなと思い,特に不審女性を注視しておらず,電話を終えて車を降りた時には特に不審女性の方は見ていなかった。 その後,私は自宅に向かうためB10荘B11棟西側の階段を上っていたところ,上から降りてきた女性とすれ違った。私は「今晩は」,。 と挨拶したが,返事はなかった。その女性は,服装が同じであったことや,車からB10荘を見た時に他の人物は見当たらなかったことなどから,不審女性と同一人物だと思った。不審女性は,身長150から151センチメートルくらいで中肉中背,年齢50歳くらい,髪は肩までの長さで白髪交じりで少しカールがかっていた。不審女性は下を向いており,鼻から下しか見ていない。 3月24 審女性は,身長150から151センチメートルくらいで中肉中背,年齢50歳くらい,髪は肩までの長さで白髪交じりで少しカールがかっていた。不審女性は下を向いており,鼻から下しか見ていない。 3月24日,警察官が不審人物を見ていないかと聞き込みにまわっていることを聞き,翌25日,不審女性を見たことを警察官に話したところ,警察官から,何人かの人物の写真を何度か見せられたが,不審女性。 ,がその中に含まれているかどうかは分からなかったその写真の中にはいつも被告人が含まれていた。4月16日,警察官から容疑者を見てほ- 33 -しいという連絡を受け,警察署で被告人が歩いているところを見たが,被告人が不審女性であるかどうかは分からなかった。顔を除けば,年齢と背格好が似ていたので,約50パーセントの確率で不審女性だと思っ。 ,,た7月13日マジックミラー越しに髪の毛を下ろした被告人を見て背格好は不審女性と似ていたが,髪の長さが記憶より5センチメートルくらい長かったことや白髪の具合が違ったので,不審女性であるとは判断できなかったが,70ないし80パーセントくらいの確率で不審女性であると思った。この時,私は,警察が逮捕したんだから,被告人が犯人に間違いないと思っていた。 (イ) A22の公判供述の信用性A22の公判供述によれば,同人は,少なくとも3月22日まで被告人と面識がないこと,視力は裸眼で1.5であること,不審女性を目撃した当時,B12号室玄関付近は電灯が付いていたことが認められ,これらによれば,A22があえて被告人に不利な虚偽供述をする動機はないし,同日の視認状況にも問題がないと認められる。 もっとも,A22は,その当時意識して不審女性を観察したのではないことから,その観察の正確性にはおのずから限界があり,そもそも人を一番特徴づける顔 いし,同日の視認状況にも問題がないと認められる。 もっとも,A22は,その当時意識して不審女性を観察したのではないことから,その観察の正確性にはおのずから限界があり,そもそも人を一番特徴づける顔を見たわけではなく,その他不審女性に特異な特徴を述べるわけでもない。 さらに,A22は,警察官から複数写真を見せられた際には不審女性と同一人物がいるかどうか判断できなかったのに,時が経ち,何度も捜査機関から被告人を見せられるうちに,被告人と不審女性が同一である,,確率が増す方向で供述が変遷していることからA22の不審女性像は何度も被告人を見せられるうちに暗示を受け,徐々に被告人に近づいていった可能性がある。 したがって,特に70ないし80パーセントくらいの確率で被告人が- 34 -不審女性であるとの供述は採用することができない。 (ウ) A23の公判供述の要旨私は,美容師であり,約20年間にわたり被告人の髪を整えてきた。 被告人は,1週間から10日に1度くらいの割合で私の美容室に来てお,。 り私以外の美容師に髪を整えてもらっているということはないと思う被告人の髪は生まれつき強い癖がかかっており,短く切ると,髪の毛がいろんな方向に癖を持ってちりちりになってしまうと思う。 私は,被告人の髪を整えるときは,ローションやヘルメット状のドライヤーで癖を伸ばし,2つに分けて後ろで少し高めに結い上げていた。 自分でするのは難しい作業なので,被告人が自分で髪を結った場合と,私が髪を結った場合とは区別できる。私が結い上げた髪かどうかは,前髪と後ろの結い上げた髪の高さで判別できる。3月23日の防犯カメラに写っている被告人の姿(甲404)を見ると,私が結い上げた髪ではないかと思う。3月22日は美容室は休業日であり,翌23日は午前9時10分過ぎくらいから営業を さで判別できる。3月23日の防犯カメラに写っている被告人の姿(甲404)を見ると,私が結い上げた髪ではないかと思う。3月22日は美容室は休業日であり,翌23日は午前9時10分過ぎくらいから営業を始めているので,同日午前8時から仕事をしている被告人は,3月22日から翌23日午後までの間に私の美容室に来た可能性はない。 私は,平成16年から平成17年ころ,1か月から1か月半に1度くらいの頻度で被告人の髪を黒く染めており,被告人の髪の根元の方に白髪が出てくることはあっても,髪の毛全体が白髪交じりになるということはなかった。 被告人の髪は,いつも,まっすぐ伸ばした状態で肩から15ないし20センチメートルの長さになるようにそろえていた。 被告人の当時の髪の長さや白髪の具合,髪の毛の癖からすると,A22の「私が見たイメージ画像(甲397)のような髪型に被告人の髪」型がなるとは考えられない。 - 35 -(エ) A23の公判供述の信用性A23にとって,被告人は,約20年来の美容室の常連客であるが,これが直ちに被告人に有利な虚偽供述をする動機であるとはいえない。 そして,A23は,1週間から10日に1度くらいの頻度で被告人の髪に触れていたから,その髪の特徴についての供述は基本的には信用できる。 したがって,被告人の髪の長さや白髪の具合についての供述は信用することができる。 もっとも,上記防犯カメラの映像(甲404)を見て,被告人の髪は自分が結い上げたものであると思うと供述する点については,その映像自体が小さく,鮮明なものではないこと,A23は,その公判供述によれば,被告人が美容室に来る前に一時的に結い上げた状態以外には,被告人が自分で結った髪を見たことがないと認められることから,この点については信用性が低い。 (オ) 検討A22及びA23の各 述によれば,被告人が美容室に来る前に一時的に結い上げた状態以外には,被告人が自分で結った髪を見たことがないと認められることから,この点については信用性が低い。 (オ) 検討A22及びA23の各公判供述によれば,不審女性と被告人は,髪の長さや白髪の具合が異なっている。そうすると,不審女性は被告人でない可能性がある。 イ上記②についてA10は,牛乳・卵アレルギーであるとその診療録(弁36)に書かれ,(),,ているのに報告書弁30によれば日常的に卵を購入しているほかマヨネーズを購入していることが認められるから,第三者がA10宅に出入りしていた可能性はある。 ウ検討以上によれば,確かに,介護関係者や被告人以外の第三者がA10宅に出入りしていた可能性は残る。 - 36 -しかし,仮にこのような第三者が存在し,かつ,3月22日午後7時20分ころまでA10宅にいたとしても,前記4のとおり,それより後の同日午後9時20分ころ,被告人はA10宅にいたと認められるのであるから,この事実は,被告人がA10を殺害した犯人であると認定することに合理的な疑いを生じさせるものではない。 ( ) 被告人のアリバイについて 弁護人は,被告人にはA10の死亡推定時刻当時アリバイがあり,犯行は不可能であると主張する。そこで以下検討する。 ア関係証拠,A24の警察官調書(甲289)及びダイヤル通話料金明細内訳書(弁53)によれば,3月22日の出来事として,以下の事実が認められる。 (ア) 午後2時30分ないし午後2時45分ころ,被告人は仕事を終えて退社した。 (イ) 午後5時43分,A12から被告人の携帯電話に電話があり,約30秒間通話をした。 (ウ) 午後6時37分,A13の友人が被告人宅に電話をしたが,応答がなく,留守番電話に切り替わっ 退社した。 (イ) 午後5時43分,A12から被告人の携帯電話に電話があり,約30秒間通話をした。 (ウ) 午後6時37分,A13の友人が被告人宅に電話をしたが,応答がなく,留守番電話に切り替わった。 (エ) 午後8時9分,被告人が自宅から上記友人に折り返し電話をし,約1分15秒間通話した。 (オ) 午後8時26分,被告人が自宅からA13の実家に電話をし,約47秒間通話した。 (カ) 午後8時40分ないし午後8時45分ころ,A13が帰宅した。 (キ) 午後9時12分,被告人の知人が被告人宅に電話をしたところ,A13が出て「被告人はまだ家に帰っていない」と言った。 。 (ク) 午後9時48分,被告人が自宅から上記知人に折り返し電話をし,約9分27秒間通話をした。 - 37 -イ被告人の公判供述の要旨私は,3月22日午後4時前ころ,勤務先から帰宅し,午後5時ころ,民生委員として担当していたB10荘B11棟に住むA25(以下「A25」という)を訪ねたが,部屋から出てこなかった。その足で同じ棟の。 A10宅へ行って同人に会い,預金の引き出しと通帳記入を頼まれ,通帳とカードを預かるなどした。自宅に帰るためB10荘B11棟の西階段を出ようとした時に,A12から携帯電話に電話がかかってきた。午後6時少し前には帰宅し,自治会関係の書類を作成するなどしていた。その後,A26宅を訪問して同人に書類を作成してもらい,帰宅し,再びA25とA10に会うためB10荘B11棟へ行ったが,A25もA10も出てこず,会うことができなかった。自宅に帰った後,午後8時9分ころから自宅の電話からA13の友人に電話をかけ,更にその後A13の実家に電話をかけた。その後は夕食の準備等をし,午後8時45分ころ帰宅したA13に食事を出して,知人に依頼されていた粗大ごみを捨てるため外 自宅の電話からA13の友人に電話をかけ,更にその後A13の実家に電話をかけた。その後は夕食の準備等をし,午後8時45分ころ帰宅したA13に食事を出して,知人に依頼されていた粗大ごみを捨てるため外出し,午後9時14分から午後9時27分の間には帰宅した。その後,ずっと自宅にいた。 ウ検討被告人の3月22日の行動について,時刻も含めて裏付けられているのは上記アの事実だけである。 関係証拠によれば,被告人がA25を訪ねた事実はA25に関する訪問活動記録に一応記載されているが,上記記載のある訪問活動記録には,被告人宅から押収された1つづりの他の訪問活動記録と連続する汚れが認められないほか,A10に関する同一期間の異なる内容の訪問活動記録が複数存在すること,別の高齢者に関する訪問活動記録は燃やされていたことが認められるから,特に3月22日前後に関する訪問活動記録の記載は信用することができない。また,被告人が上記A26に書類の作成を依頼し- 38 -た事実は認められるが,これが3月22日であったとまでは認めることができない。知人の粗大ごみを捨てるのを被告人が手伝った事実があったとしても,上記の時間帯とは限らない。 さらに,仮にこれらの事実があったとしても,関係証拠によれば,被告人宅からA10宅へは歩けば往復10分くらい,自転車を使えば往復五,,,六分で行くことのできる距離であること被告人と同居していたA13は被告人が夜に1時間くらい外出しても何も不思議に思わず,記憶にも残らないと述べていることが認められる。これらからすれば,3月22日,被告人に犯行の機会はあったと認められる。 したがって,被告人にはアリバイがあるとの主張は理由がない。 小括以上のとおり,弁護人がるる主張する点を考慮しても,前記4ないし7のとおり認定できる各間接事実 に犯行の機会はあったと認められる。 したがって,被告人にはアリバイがあるとの主張は理由がない。 小括以上のとおり,弁護人がるる主張する点を考慮しても,前記4ないし7のとおり認定できる各間接事実を総合すると,被告人はA10を殺害した犯人であり,かつ,盗取したキャッシュカードを用いてA10の意思に基づかずに預金の引き出し等をしたと優に認められる。 そして,被告人は,前記1( )のとおり,A10殺害後,同人の口座から現 ,,金を引き出すなどしていること前記1( )のとおり当時金員に窮していた上 ,,,他に殺害の動機が見当たらず前記26のとおりトリアゾラム剤を摂取させ昏睡させて殺害するという犯行態様からして衝動的な犯行とも認められないことからすれば,少なくとも被告人は,金品を盗取する目的でトリアゾラム剤をA10に摂取させて昏睡させた上,キャッシュカード等を盗取し,その罪跡を隠滅するために同人を殺害したと認められる。 なお,前記2のA10の死亡推定時刻からすれば,被告人がA10を殺害したのはそのころである3月22日午後9時前後の一定の幅のある時間帯であると認められるが,被告人がA10にトリアゾラム剤を摂取させた時刻は,A10の血液に含まれていたトリアゾラムの濃度等の関係証拠を総合しても,上記- 39 -時間帯の一定程度前であるとしか認定することができない。 被害品について ( ) 検察官は,判示第4の被害品として,被告人が3月23日に使用した判示 第5の1,2記載のA10名義の①B13銀行のキャッシュカード1枚,②B14銀行のキャッシュカード1枚のほか,A10の死後部屋を片付けた際にA10宅から発見されなかった③A10名義の貯金通帳1通,④上記①ないし③の口座共通の届出印1個,⑤A27名義の貯金口座の届出印1個,⑥A キャッシュカード1枚のほか,A10の死後部屋を片付けた際にA10宅から発見されなかった③A10名義の貯金通帳1通,④上記①ないし③の口座共通の届出印1個,⑤A27名義の貯金口座の届出印1個,⑥A8,A28名義の貯金口座共通の届出印1個を主張する。 確かに,関係証拠によれば,A10宅からは他の多数の印鑑や通帳,キャッシュカード等が見つかったにもかかわらず,上記①ないし⑥については見つからなかったことが認められる。 ( ) そこで検討すると,上記①,②については,前記1( )のとおり,3月2 3日に被告人が使用していることが明らかであるから,本件被害品であると認められる。 上記③のA10名義の貯金通帳は,関係証拠によれば,少なくとも平成15年末ころからA10が日常的に継続して使用していた口座の通帳で,3月4日にもA10に依頼されたA17が入金手続を行った際に用いられ,その後A10に返却されていることが認められ,一人暮らしで1人で外出することがままならないA10がこれを紛失したとは考えにくいことから,被害当時A10宅にあったと推認される。また,上記⑥の印鑑は,関係証拠によれば,3月22日にA17が使用してA10に返却していることが認められるから,被害当時A10宅にあったと推認される。にもかかわらず,これらはA10の死亡後発見されていないことからすれば,上記①,②と同一機会に盗まれたものと推認できる。 ( ) しかし,上記④,⑤の印鑑については,関係証拠及び写真撮影報告書(甲 359,363)によれば,判示第4の犯行直前まで入出金のある口座の届- 40 -出印であることが認められるものの,届出印による金員の入出金はうかがえないし,形状からしても紛失しやすいものであるから,3月22日にA10宅にあったとまでは認めることができない。 よ - 40 -出印であることが認められるものの,届出印による金員の入出金はうかがえないし,形状からしても紛失しやすいものであるから,3月22日にA10宅にあったとまでは認めることができない。 よって,これらを被害品として認めることはできない。 結論 以上の次第で,被告人は,判示第4の強盗殺人,同第5の1の窃盗,同第5の2の窃盗未遂の各犯行を行ったものと認められる。 第3判示第3の事実(A10の孫名義の口座に対する窃盗未遂事件)について 前提となる事実関係証拠及び「照会に対する回答」と題する書面(弁103)によれば,前記第2の1( )(被告人とA10との関係,同1( )(A10の入院状況等, ))同7( )(被告人によるA10宅の合いかぎの作成・所持)の事実のほか,以 下の事実が認められる。 ( ) 被告人は,2月14日午前10時ころ,入院したA10の下着などを準備 するため,A10宅へ入った。 ( ) 被告人は,判示第3記載のとおり,2月18日にA8名義の通帳を使用し て現金自動預払機から現金を引き出そうとしたが,引き出すことができなかったところ,その態様は,現金1000円を2度にわたり引き出そうとしたものであるが,いずれも暗証番号を誤って入力したというものであった。 また,上記口座は,A8の祖母であるA10が管理していたもので,同日の残高が1293円であり,平成12年9月18日に1万円が引き出された後は使用されていなかった。そして,上記通帳には,同日の取引の後,利子以外に入出金はないことや平成15年4月1日時点での残高が1292円であることが記帳されていた。 ( ) 被告人は,2月20日から翌21日までの間に,A10宅へ入り,同日, A10が入院するまでの間に処方されていた薬の内容が分かる書類をB17- が1292円であることが記帳されていた。 ( ) 被告人は,2月20日から翌21日までの間に,A10宅へ入り,同日, A10が入院するまでの間に処方されていた薬の内容が分かる書類をB17- 41 -病院に持ってきた。 ( ) 被告人夫婦には,2月18日ころ,消費者金融業者合計8社に対し269 ,,,万円余りクレジット会社に対し52万円余り銀行に対し333万円余りB18に対し138万円余り,生命保険会社に対し42万円余りなどの債務があり,他方,同月における,A13の手取り収入は36万7486円,被告人の手取り収入は4万8300円であり,被告人は,このころ毎月数万円を消費者金融業者等から借り入れていた。 被告人の自白,(。 「」被告人はその検察官調書乙102ないし104以下本件自白調書Ⅰという)において,A10やA8に無断で前記1( )の口座から現金を引き。 出そうとしたことを認める供述をしているので,以下検討する。 ( ) 本件自白調書Ⅰの要旨 私は,2月18日,A10やA8に無断でA8名義の通帳を使用して上記口座から現金を引き出そうとした。この通帳は,確か同月16日に,A10から薬の処方箋を持ってきてほしいと頼まれてA10宅に入り,これを探していた際に見つけて持ち出した。使用した通帳は,その後A10宅へ返しておいた。 ( ) 本件自白調書Ⅰの任意性 弁護人は,本件自白調書Ⅰは,①逮捕前の任意取調べの違法状態が解消されないままに得られたものである,②取調官による強制,拷問などにより得られたものであるなどと主張し,任意性がない又は違法収集証拠であると主張する。 ア上記①について(ア) 前提となる事実関係証拠,捜査報告書(甲302,捜査関係事項照会に対する回答)書(甲303「弁護士法第23 と主張し,任意性がない又は違法収集証拠であると主張する。 ア上記①について(ア) 前提となる事実関係証拠,捜査報告書(甲302,捜査関係事項照会に対する回答)書(甲303「弁護士法第23条の2による照会に対する回答」と),- 42 -題する書面(弁79,A29及び被告人の公判供述並びに一件記録内)の身柄記録及び弁護人選任届によれば,被告人が逮捕される前の任意取調べについて,以下の事実が認められる。 a被告人は,3月27日,自ら警察署に出頭し,A10が殺害された件について取調べを受けた。 b被告人は,4月13日から5月27日までの間に合計34日間,休憩時間等を含めると合計275時間以上警察本部の取調室等で取調べを受けた。この取調べのうち5回は午後10時を過ぎても行われ,うち1回は翌日午前零時25分ころまで行われた。 c上記bの取調べの際は,警察官が,被告人宅から警察本部等までの往復とも被告人を捜査用車両で送迎した上,休憩時間を含め,被告人に常に付き添っていた。 d被告人は,4月30日,音信不通により勤務先を解雇された。 e被告人は,4月24日の午後の取調べにおいて,判示第2の事実については認めたが,上記bの取調べの全体を通じて,判示第4のA10が殺害された件については無関係であり,判示第5のA10の預金を引き出すなどした事実は認めたものの,それはA10に頼まれたからであるなどと供述し続けた。 f被告人は,7月6日から同月27日まで判示第2の4,第5の事実を被疑事実として逮捕・勾留され,8月10日から同月30日まで判示第4の事実を被疑事実として逮捕・勾留され,9月7日から同月27日まで判示第1の事実を被疑事実として逮捕・勾留され,同日から10月17日まで判示第3の事実を被疑事実として逮捕・勾留された。 g被告 4の事実を被疑事実として逮捕・勾留され,9月7日から同月27日まで判示第1の事実を被疑事実として逮捕・勾留され,同日から10月17日まで判示第3の事実を被疑事実として逮捕・勾留された。 g被告人には,実質的に,7月12日ころ1人目の弁護人が付き,同月15日ころ2人目の弁護人が付き,10月1日ころ3人目の弁護人- 43 -が付いた。 h被告人は,9月15日から同月26日にかけて,それまで否認していた判示第1の事実を認める供述をし,その旨の検察官調書(乙88ないし91,107)が作成された。 i被告人は,10月16日から翌17日にかけて,それまで否認して,。 いた判示第3の事実を認める供述をし本件自白調書Ⅰが作成された(イ) 検討a上記(ア)bのような長期間,長時間にわたる取調べを,同dのとおり勤務先を解雇されてまで任意に受けることは通常考えにくく,しかも,被告人が,その際,同cのとおり警察官による送迎や付添いを受け,事実上の監視を受けていたことからすれば,被疑事実が強盗殺人という重大事件であったことや,同bの取調べの終わりころには取調べ時間が午後のみになるなど捜査機関側の一定の配慮がうかがえることを考慮しても,特段の事情が認められない限り,一定の時点からはもはや任意取調べとは認められないというべきである。そして,被告人は,むしろ取調べを受けたくなかったと供述し,A13も,警察官に対し抗議をしていたと供述するのであるから,上記のような特段の事情は認められないというべきである。 したがって,被告人の逮捕前の任意取調べは,一定の時点から,任意捜査の限界を超えた違法なものであったと認められる。 bしかし,上記(ア)fのとおり,被告人の最初の逮捕は,最後の違法な任意取調べから1か月以上間を置いて行われ,かつ,被告人は,同bの取 ら,任意捜査の限界を超えた違法なものであったと認められる。 bしかし,上記(ア)fのとおり,被告人の最初の逮捕は,最後の違法な任意取調べから1か月以上間を置いて行われ,かつ,被告人は,同bの取調べでは,同eのとおり供述し,判示第2の事実についてはほとんど時間が割かれなかったと推認されるから,上記逮捕とそれに続く勾留は,主に被告人の供述証拠以外の証拠によってされたものと認められる。その後に続く一連の逮捕・勾留も,同h,iのとおり,被- 44 -告人はそれに先立って当該逮捕・勾留に係る被疑事実を自白した事実は認められないから,被告人の供述証拠以外の証拠によってされたものと認められる。 以上からすれば上記の違法な任意取調べを前提としても上記(ア),,fの一連の逮捕・勾留については,逮捕・勾留の違法な蒸し返しに当たるとまではいえない。 cそして,最初の逮捕までの時間の経過や,上記(ア)gのとおり逮捕後被告人には弁護人が付き,適切な弁護活動を受けられたと認められること,更に本件自白調書Ⅰ作成時には上記違法な任意取調べから4か月以上経過していたことに鑑みれば,本件自白調書Ⅰ作成時には,違法な任意取調べの影響は相当程度薄らぎ希薄化していたものと認められる。 よって,上記違法な任意取調べは,本件自白調書Ⅰの任意性等には直接には影響を及ぼさないと認められる。 イ上記②について(ア) 被告人は,本件自白調書Ⅰのとおり自白した理由について,検察官から,家族が納得できるよう説明してほしいなどと説得されたことを主たる原因であると供述し,他に,当時の弁護人から小さい事件だから自白してもよいと言われていたとも供述する。 しかし,検察官が被告人の家族のことを考えて本当のことを話すようにと諭したことは,取調べ方法として問題のあるものとはいえないし,弁 人から小さい事件だから自白してもよいと言われていたとも供述する。 しかし,検察官が被告人の家族のことを考えて本当のことを話すようにと諭したことは,取調べ方法として問題のあるものとはいえないし,弁護人から自白してもいいと言われたことは,信用性に影響を与えることはあっても,任意性に影響を与える事情とはいえない。 なお,被告人は,取調べの際,検察官から「泥棒しても,殺しした,にしても,あなたの血が子供に流れてる。その子供が生まれれば,窃盗の血が流れたり,強盗殺人の血が流れる子供が生まれる。結婚したお嫁- 45 -さんからは,そんなお婿さん(被告人の息子)は要らないと離婚されるだろう」と言われたとも供述する。しかし,取調べ検察官はこれを明。 確に否定する上,被告人が取調べ中に取調官に言われたことなどを書いていたノート(弁150)に上記記載はなく,そのころ接見した弁護人,,,にも相談したことはうかがえないし当公判廷においても主質問では判示第1の事実で勾留された取調べの際に言われたと供述していたのが,反対質問では,判示第3の事実で勾留されて取り調べられた際にも言われたと供述するなど,その供述は場当たり的に変遷していることが認められ,検察官が上記発言をしたとの被告人の供述は信用できない。 (イ) また,被告人は,本件自白調書Ⅰについて,検察官の言うとおりに作られていったとも供述する。 しかし,本件自白調書Ⅰによれば,被告人は,他の証拠と一致しない供述もしており,検察官からその矛盾点を指摘されても,その供述を維持していることが認められることからすれば,本件自白調書Ⅰには被告人の言い分が反映されているといえ,検察官の言うとおりに作られたなどとは到底いえない。 (ウ) その他,弁護人は,起訴後の取調べがあった,警察官が弁護人と被告人との信頼関 ば,本件自白調書Ⅰには被告人の言い分が反映されているといえ,検察官の言うとおりに作られたなどとは到底いえない。 (ウ) その他,弁護人は,起訴後の取調べがあった,警察官が弁護人と被告人との信頼関係を破壊しようとした,黙秘した被告人に謝罪文を書かせたなどの違法な取調べがあったと主張する。 しかし,被告人自身,起訴後の取調べには応じる義務がないことや黙秘権があることは弁護人から教えられて十分分かっており,実際に起訴後の取調べでは黙秘していた,弁護人の悪口を書いた書面へ署名を拒否した,弁護人の悪口を言った警察官に刑事だって桜のマークを付けたやくざだと言い返した,さらに,腹が立ったときには刑事を蹴ったこともあると供述していることからすれば,仮に上記主張のような事実があったとしても,被告人の自白に与えた影響はそれほど大きくなかったと認- 46 -められ,その任意性に疑いを生じさせるものとはいえない。 (エ) 以上のとおり,被告人の自白の任意性に疑いを生じさせるような取調べの状況はなく,また,証拠排除すべきほどの違法な取調べがあった,,ことはうかがわれないから被告人の本件自白調書Ⅰには任意性があり証拠能力が認められる。 ( ) 本件自白調書Ⅰの信用性 前記1( )のとおり,被告人が処方箋を取りにA10宅に入ったのは2月 20日以降であると認められるから,被告人の本件自白調書Ⅰにおける供述のうち,処方箋を取りにA10宅に入った際に同月18日に使用したA8名義の上記通帳を見つけたという部分は客観的事実と矛盾する。 しかし,それまで犯行を否認していた被告人が,上記( )イのとおり,任 意に,他の証拠と一致しない言い分も維持しながら,上記口座の記帳残高が1292円だったと教えられて嘘を突き通すことができないと思ったと動機まで合理的に説明した 被告人が,上記( )イのとおり,任 意に,他の証拠と一致しない言い分も維持しながら,上記口座の記帳残高が1292円だったと教えられて嘘を突き通すことができないと思ったと動機まで合理的に説明した上,自白に及んでいるのであるから,本件自白調書Ⅰには,前記1の認定事実と矛盾しない範囲で信用性が認められる。 なお,弁護人は,A10は,A8名義の上記通帳を入院していた病院に持ち込んでおり,A10宅から通帳を持ち出したという本件自白調書Ⅰはその点でも事実に反すると主張する。確かに,被告人は,A10はベッド上にいくつかの通帳を並べており,その中からA8名義の上記通帳を取り出して渡してきたと供述するが,それを裏付ける証拠はない。A10がふだん使っていない口座の通帳を入院先に持ち込まなかったということも経験則上十分あり得ることであるから,被告人の本件自白調書Ⅰのうち上記部分が客観的事実と矛盾するということはできない。 被告人の公判供述( ) 被告人の公判供述の要旨 私は,2月18日,B17病院へA10を見舞いに行き,A10を励まそ- 47 -うとして,休みになったらA10の息子の嫁や孫が会いに来てくれるかもしれないよなどと言ったところ,A10は半信半疑な様子ながらも期待し,もし来てくれるのであればお小遣いをあげたいと言い,さらには,生活費もなく,誰か来てくれても何もしてあげることができないのでお金がいると言った。そして,1万円か2万円か忘れたが,A8名義の前記口座から現金を引き出してきてほしいと頼まれ,その通帳を渡され,暗証番号を教えられた。 私は,Q’の郵便局で現金を引き出そうとしたが,暗証番号が間違っていたため,引き出すことができなかった。 その後,同日中にB17病院へ行き,A10に暗証番号が異なっていたことを伝え,通帳を返したが,その ,Q’の郵便局で現金を引き出そうとしたが,暗証番号が間違っていたため,引き出すことができなかった。 その後,同日中にB17病院へ行き,A10に暗証番号が異なっていたことを伝え,通帳を返したが,その後,A10から更に金員の引き出しを頼まれることはなかった。 ( ) 被告人の公判供述の信用性 ア供述内容の不自然性,不合理性被告人は,A10に休みになったらA10の息子の嫁や孫が会いに来てくれるかもしれないよなどと言ったところ,これを受けてA10は被告人に金員の引き出しを頼んだというが,A30の公判供述によれば,A10の息子の嫁や孫が見舞いに来る予定は全くなかったし,同人らは岡山県に住み,嫁は,A10が度々入院していることは知っていたが,A10とは七,八年前に会って以来会っていなかったことが認められることからすれば,A10が本当に嫁や孫らが来ると思い,被告人に金員の引き出しを依頼したとは考えにくい。 また,そもそも現金の引き出しを頼まれたのにその暗証番号が間違っていたということ自体不自然である上,前記1( )のとおり,上記口座はそ の当時まで4年以上も使用されておらず,当時の残高は1293円に過ぎなかったところ,このような口座からなぜ現金を引き出すよう依頼したのかも疑問であるし,残高を大幅に超える1万円ないし2万円を引き出して- 48 -ほしいと頼んだというのも不自然である。同口座からは平成12年9月18日に1万円が引き出された後,利子以外に入出金はないことや,平成15年4月1日時点での残高は1292円であるということが上記通帳に記帳されていたことからすれば,A10が同口座の残高を1万円以上と勘違いしたとも考えにくい。また,被告人が引き出そうとした金額が,頼まれたと供述する1万円ないし2万円ではなく1000円であるのも不可解であ ていたことからすれば,A10が同口座の残高を1万円以上と勘違いしたとも考えにくい。また,被告人が引き出そうとした金額が,頼まれたと供述する1万円ないし2万円ではなく1000円であるのも不可解である。 さらに,A10が本当に誰かが来たときのために金員の引き出しを依頼したのであれば,被告人から現金を引き出すことができなかったと伝えられた後,確実に入金されており,暗証番号も分かる,2月28日にA10自身が16万円を引き出しているB13銀行のA10名義の口座等から,被告人に再び頼むなどして現金を引き出すのが自然であると考えられるが,関係証拠によれば,そのような事実も認められない。 イ供述の変遷関係証拠及びA31の公判供述によれば,被告人は,捜査段階では,当初,A10から印鑑代金の支払のためお金を下ろしてきてほしいと頼まれたと供述し,その後,孫が2人来ると思うので,1人5千円ずつか1万円ずつあげたいからお金を引き出してほしいと頼まれたと供述し,さらに,当公判廷では,孫あるいはその他の誰かが来た場合に備えてお金を下ろしてきてほしいと頼まれたと供述していることが認められ,何のためにお金を下ろしてきてほしいと頼まれたのかという重要部分で供述を変遷させている。 ウ小括以上のとおり,被告人の公判供述の内容は不自然,不合理である上,重要部分で変遷している。 よって,被告人の公判供述は信用できない。 - 49 - 結論 前記1( )の被告人がA8名義の口座から現金を引き出そうとした行為の態 様,同口座の当時の残高やそれまでの取引経過,前記第2の7( )の被告人が A10宅の合いかぎを作っていた事実,前記2の被告人の自白に加え,前記1( )の被告人の当時の経済状況も総合考慮すれば,その他弁護人がるる主張す る点を考慮しても,被告人が,A10に 被告人が A10宅の合いかぎを作っていた事実,前記2の被告人の自白に加え,前記1( )の被告人の当時の経済状況も総合考慮すれば,その他弁護人がるる主張す る点を考慮しても,被告人が,A10に無断で判示第3の窃盗未遂の犯行を行ったものと優に認められる。 第4判示第1の事実(忘年会における窃盗事件)について 前提となる事実関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 ( ) 被告人は,平成15年当時,名古屋市の交通指導員をしており,同年11 月21日午後6時ころから,同じく交通指導員であるA1,A2ら11名,警察官2名及び区役所職員3名とともに,本件忘年会に参加した。 ( ) 本件忘年会開始当時,被告人の正面に,テーブルを挟んで向かい合う形で A2が座り,A2の右隣にA1が座った。A2とA1は,テーブル下の棚の上に,持っていたそれぞれのかばんを,その口が自分の方を向くようにして置いた。 上記テーブルは,横幅約60センチメートル,奥行き約74センチメート,,,ル高さ約74センチメートルの大きさであってその天板の下に棚がありその棚は,テーブルの脚から奥行き約20センチメートルのところに,奥行き約29.5センチメートル,横幅約53センチメートルの板が1枚あるだけであって,同棚の上面から天板の下面までの高さは約15センチメートルある。 そして,上記テーブルの両端に座った人はそのテーブル下の同じ棚を使用する構造になっている。 ( ) 本件忘年会も終わりに近づいた同日午後8時10分ころ,A2は,開始当 - 50 -時座っていた席に戻り,かばんの中に入れてあった小銭を財布に移し,その,,財布をかばんに入れた後もう1度かばんの口が自分の方を向くようにしてテーブル下の棚の上に置いた。その後,トイレに行って約10分後に同じ席に戻り, ばんの中に入れてあった小銭を財布に移し,その,,財布をかばんに入れた後もう1度かばんの口が自分の方を向くようにしてテーブル下の棚の上に置いた。その後,トイレに行って約10分後に同じ席に戻り,かばんの中の財布から金銭を出そうとしたが,財布がなかった。A2が,財布がない旨周りに伝えたことから,本件忘年会の参加者それぞれが自分のかばんの中を確認することになり,A1が自分のかばんを確認したところ,A1の財布もなかった。そこで,区役所職員2名を除く参加者全員がお互いのかばんの中を確認し合うなどしたが,A2とA1の上記各財布(以下「本件各財布」ともいう)は見つからなかった。 。 被告人は,自分のかばんの中を別の交通指導員に見せた後,迎えに来たA12が運転する車に乗って帰宅した。なお,A12は,同日午後8時前から本件忘年会会場付近の道路で車に乗って被告人が出てくるのを待っており,本件忘年会の最中,被告人は,少なくとも1度はA12の車の所へ行き,酔った区役所職員を送ってくれないかとA12に頼んだ。 その後,本件忘年会は終了し,参加者の一部は名古屋市M’区にあるスナックB21へ二次会に行った。 ( ) 同年12月12日午後9時ころから同日午後9時30分ころの間に,上記 スナックB21のあるビルの3階フロアのエレベーターを降りたすぐ右側に,本件各財布及びその中に入っていたクレジットカードやレシート等がすぐ目に入るような状態で散らばっているのを,同店のママであるA32(以下「A32」という)が発見した。同人は,盗難だと直感し,すぐにそれ。 らを持って店に入り,警察官である客3人の前で財布の中を確かめたが,現金は入っていなかった。 同日午後7時ころ,A32が同店に来た時には本件各財布等はなく,同日午後8時ころ出勤した同店店員や,同日午後8時30分ころ同 ,警察官である客3人の前で財布の中を確かめたが,現金は入っていなかった。 同日午後7時ころ,A32が同店に来た時には本件各財布等はなく,同日午後8時ころ出勤した同店店員や,同日午後8時30分ころ同店を訪れた上記3人の客は,本件各財布等について何も言っていなかった。 - 51 -閉店後,A32は警察に本件各財布等を届けた。 ( ) 平成16年1月8日,交通指導員の定例会が終わった後,本件各財布がス ナックB21付近で発見されたことが簡単に交通指導員に知らされた。 被告人は,A2や忘年会に参加した警察官らに対し,平成15年12月12日の愛知県知多郡A町にある食堂の飲食代金のレシートの時刻表示を1”「7:46」から「19:46」へ改ざんしたもののコピーを添付の上,同日午後7時46分ころには知多の食堂にいたので,本件各財布が投棄された時間帯にスナックB21へ行くことはできず,自分は犯人ではない旨の手紙を送った。なお,A2に送った手紙及び封筒裏面には「一月九日AM11:00」との記載がある。 ( ) 平成17年4月27日,被告人宅の台所の和タンスから「××××× ,××××××A33」とA2の字で書かれたメモ(以下「本件メモ」という)が,被告人の2001年の厚生手帳に挟まれた状態で発見された。 。 A33はA2の夫であり,上記番号の携帯電話は,平成12年4月6日にサービスが開始され,同人が勤務先から貸与されて使用していた。 ( ) 被告人宅からスナックB21のあるビルまで婦人用自転車で走行した場 合,信号の待ち時間を計上しなければ,往路は約10分20秒ないし約13分35秒を,復路は約11分40秒ないし約13分45秒を要する。 ( ) 被告人夫婦には,平成15年11月末ころ,消費者金融業者合計8社に対 し合計314万円余り,銀行に対 10分20秒ないし約13分35秒を,復路は約11分40秒ないし約13分45秒を要する。 ( ) 被告人夫婦には,平成15年11月末ころ,消費者金融業者合計8社に対 し合計314万円余り,銀行に対し486万円余り,生命保険会社に対し40万円余りなどの債務があり,被告人は,このころ毎月数万円を消費者金融業者等から借り入れていた。 A2の公判供述( ) A2の公判供述の要旨 ア私は,本件忘年会に参加した際,財布の中に,判示第1の2記載の被害品のほか,夫の名前と携帯電話番号を書いたメモを入れていた。それは,- 52 -私は携帯電話を持っていなかったので,いざというときに夫に連絡が取れるように,本件忘年会当日の朝作成し,財布の中に入れたものである。なお,私は,このときのように必要があると電話番号をメモして持ち歩いており,用が済むと持ち歩いていなかった。 イ私は,被告人に対し,夫の名前や携帯電話番号が書かれたメモを渡した記憶はない。私は,被告人とは交通指導員の仕事以外に私的な付き合いをしておらず,被告人の携帯電話番号を知らなかったし,夫と被告人との交流もなかった。本件メモは,本件忘年会当日の朝作成し,本件忘年会当時財布に入れていたメモに間違いない。 ウ本件忘年会が始まった当初,私はひざの上にかばんを置いていたが,被告人が「下に置けれるよ」とテーブルの下に棚があることを教えてくれ。 たので,そこにかばんを置いた。私は,人のつばが食事や食器に触れるのが嫌なので,デザートを食べ終えるまで最初に座った席で食事をし,その後,席を離れた。本件忘年会がもう終わるという時に,最初に座っていた席に戻り,かばんの中の小銭を財布に移したが,トイレに行って帰ってきて,お金を出そうとして,かばんの中に財布がないことに気付いた。 そこで,その場にいた人に「 がもう終わるという時に,最初に座っていた席に戻り,かばんの中の小銭を財布に移したが,トイレに行って帰ってきて,お金を出そうとして,かばんの中に財布がないことに気付いた。 そこで,その場にいた人に「財布がないから,みんなのかばんの中を見てくれない?」と言ったところ,それぞれが自分のかばんの中を探し,お互いにかばんの中を確認し合うことになった。そのとき,階段に続く出入口の近くにある台の上にあった被告人のかばんが,随分ぴんと張ってぱんぱんになっているのを見て,今日は持って帰るものもないのにと思った。 ,,,「,その少し後私は被告人が階段を下りていくところを見たのであっ今,帰っちゃまずいがな」と思った。そのとき,上記台の上を見たら,。 被告人のかばんがなかったので,被告人はかばんを持って階段を下りたと思う。その後,隣にいたA1が自分の財布もないと言ったので,事態はより深刻になった。私がA1に,被告人が帰ったことを告げると,A1が大- 53 -きな声で「被告人が帰ったんだって」と言ったが,それを聞いた別の交。 通指導員が「いーるじゃん」と言ったので,そちらを見たら,既に被告。 人は本件忘年会会場へ戻ってきていた。その時,被告人は「見てー」と。 言いながらかばんを広げて中を見えるようにしていた。 私は,被告人が階段を下りるのを見た時は,ただ帰るんだろうと思っただけだったが,被告人が階段を下りる前に見た同人のかばんがあまりにも不自然だったことから,もしかして盗んだ財布が入っていたからではないか,かばんの中を見せられるのはもう中に財布が入っていないからだろうと思い,すぐに階段を下りて店の外に出て,植え込みや缶捨てなどいろいろなところを探したが,財布は見つからなかった。 ,,私は10分くらい外で財布を探した後本件忘年会会場へ戻ったとこ ないからだろうと思い,すぐに階段を下りて店の外に出て,植え込みや缶捨てなどいろいろなところを探したが,財布は見つからなかった。 ,,私は10分くらい外で財布を探した後本件忘年会会場へ戻ったところ被告人は,自分のかばんの中の確認も受けたし,酔った区役所職員を送っていくからということで先に帰り,その後しばらくして他の参加者も帰った。 エ同年12月12日午後7時ころから同日午後8時過ぎころまで,私は,被告人と,本件忘年会で財布がなくなったことに関して電話で話をした。 ( ) A2の公判供述の信用性 アA2は,被告人の元同僚であり,あえて虚偽の供述をする動機はなく,その供述は具体的かつ自然である。そして,覚えていることと覚えていないこと,見たことと見たことから推測したことを区別して述べており,真摯な供述態度が認められる。また,A2の公判供述,被害届(甲75)によれば,A2は,財布がなくなった翌日には警察に被害届を出し,その後警察や区役所,市役所に行き,交通指導員同士で話合いを持つ中で,幾度となく記憶を喚起していることが認められる。そして,同供述によれば,A2は,平成16年2月から3月にかけて,市役所へ提出するために一連の経過をノート(甲414)にまとめているところ,A2の公判供述は同- 54 -ノートの記載とほぼ一致しており,A2はその当時から一貫して同じことを述べていることが認められる。さらに,本件忘年会の経過については,A1の公判供述とその内容がほぼ一致し,互いに信用性を補強し合っている。 本件メモについても,A2は,これを作成した理由を具体的に述べており,A2及びA1の各公判供述によれば,A2と被告人とは交通指導員の仕事以外での私的な交流はなく,A2の夫と被告人との交流もほとんどなかったこと,交通指導員同士の連絡は基本的 理由を具体的に述べており,A2及びA1の各公判供述によれば,A2と被告人とは交通指導員の仕事以外での私的な交流はなく,A2の夫と被告人との交流もほとんどなかったこと,交通指導員同士の連絡は基本的に自宅の電話で取ること,A1もA2の携帯電話番号を教えてもらったことはないことが認められる。 さらに,前記1( )のとおり,本件メモに記載された番号はA2の夫が勤 務先から貸与された仕事用の携帯電話の番号である。これらからすれば,本件メモが何らかの機会にA2又はその夫から被告人に渡されたものであるとは考えにくい。 よって,A2の公判供述は信用でき,本件メモはA2が本件忘年会当日の朝作成し,本件忘年会当時財布の中に入れていた被害品であると認められる。 イこれに対し,弁護人は,特に本件メモが本件忘年会当時A2の財布の中に入っていたという供述は,被害届にその旨の記載がなく,本件メモが被告人宅から発見された後にされた供述であるから,信用できないと主張する。 しかし,被害届には財産的価値のないものは書かれないのがむしろ一般であること,写真撮影報告書(甲386)によれば,A1の財産的価値のない被害品が写真撮影されたのも平成17年5月17日であることからすれば,被害届に上記メモの記載がないことは,A2の公判供述の信用性に何ら疑問を抱かせるような事情ではない。 よって,弁護人の上記主張には理由がない。 - 55 - 間接事実前記1の事実及び前記2のA2の公判供述によれば,被告人が判示第1の各犯行を行ったことを示す間接事実として,以下の事実が認められる。 ( ) 本件メモとA2の被害品との同一性 前記2のとおりA2の被害品と認められる本件メモが,前記1( )のとお り被告人宅から発見されている。 ( ) 犯行の機会 前記1( )ないし( )の事実 本件メモとA2の被害品との同一性 前記2のとおりA2の被害品と認められる本件メモが,前記1( )のとお り被告人宅から発見されている。 ( ) 犯行の機会 前記1( )ないし( )の事実及びA2の公判供述によれば,被告人は,①A 2の財布がなくなったころに本件忘年会会場にいたこと,②上記財布がなくなったことが発覚した後いったん上記会場を離れ,A1が財布がないと気付いたころに上記会場に戻り,別の交通指導員からかばんの中の確認を受けたこと,③そのころ,上記会場の外ではA12が車に乗って被告人を待っていたこと,④被告人は,本件忘年会が終わる前に少なくとも1度はA12の所に行き,その後再び上記会場に戻ったことがそれぞれ認められる。 以上からすれば,被告人には,本件各財布を盗んだ上,その後,他の交通指導員から自分のかばんの中の確認を受ける前に,本件各財布を外に持ち出し,A12の車に載せる機会があったことが認められる。 さらに,A2の公判供述によれば,被告人のかばんが,被告人が上記会場を離れる直前にふくらんでいたことも認められる。 ( ) 被害品を投棄する機会 前記1( )の事実によれば,本件各財布等がスナックB21前に投棄され たのは,平成15年12月12日午後8時30分ころから同日午後9時30分ころまでの間であると認められる。そして,同( )のとおり,被告人宅か らスナックB21までは自転車で十数分間で行くことができるから,前記2( )エの同日午後8時過ぎころまでのA2との電話の後,被告人が,本件各 財布等の判示第1の各被害品の一部をスナックB21前まで投棄しに行くこ- 56 -とは十分可能であったと認められる。 したがって,被告人には,同被害品を投棄する機会があったことが認められる。 ( ) アリバイ工作 被告人 一部をスナックB21前まで投棄しに行くこ- 56 -とは十分可能であったと認められる。 したがって,被告人には,同被害品を投棄する機会があったことが認められる。 ( ) アリバイ工作 被告人は,前記1( )のとおり,本件各財布等が投棄された時間帯に,ス ナックB21前まで行くことができなかった旨のアリバイ工作をしている。 ( ) 動機の存在 ,,,被告人夫婦には前記1( )のとおり本件忘年会当時多額の債務があり 本件各財布を盗む動機があった。 被告人の自白被告人は,その検察官調書(乙88ないし91,107。以下「本件自白調書Ⅱ」という)において,本件各財布を盗んだことを認める供述をしている。 ので,以下検討する。 ( ) 本件自白調書Ⅱの要旨 私は,本件忘年会の際,本件各財布を盗んだ。 本件忘年会の最中,参加していた区役所の課長が酔っぱらって私に何度か抱きついてきたことがあり,その際,テーブルが動いたせいか,私がしゃがんだ時,A2の財布がテーブルの下の棚の上に出ているのが見えた。A1の財布は,かばんの中に入っていたが,財布が入っているのが見える状態だった。私は,上記課長に抱きつかれた腹立たしさや,これまで交通指導員の中でいろいろ不満を持っていたことが思い出されたことから,財布を盗めば,うっ憤も晴れ,お金も手に入るしちょうどいいと思い,とっさにA1とA2の財布を手に取り,自分のかばんの中に入れた。これは,A2の財布がないという話が出る10分前以内のことである。 その後,A2が財布がないと言い出したのを聞いて,困ったなぁ,ヤバイことをしてしまったなぁ,このままでは私が盗んだことが分かってしまうと- 57 -思い,自分のかばんを持ってA12の車の所まで行き,A12に区役所の酔っぱらいを送って欲しいなどと話しかけ ,ヤバイことをしてしまったなぁ,このままでは私が盗んだことが分かってしまうと- 57 -思い,自分のかばんを持ってA12の車の所まで行き,A12に区役所の酔っぱらいを送って欲しいなどと話しかけながら,その後部座席の上着の下に財布を隠した。その後,本件忘年会会場に戻り,私のかばんの中の確認を受けた。なお,上記供述以前に,かばんの中の確認を受けた際,本件各財布は入ったままだったが,盗んだことは発覚しなかったと供述した(乙88)のはうそである。 その後,A12に車で自宅まで送ってもらったが,タクシーに乗ってスナックB21の前まで行き,A1とA2に申し訳なく思い,本件各財布が入った白いビニール袋をエレベーター横の2つの大きな植木鉢の間に置いた。そうすれば,同人らに財布が戻ると思った。本件忘年会から数週間後に本件各財布が発見されたことを聞き,発見されるのが遅すぎると思い,えー,うそー,と思った。 ( ) 本件自白調書Ⅱの任意性 弁護人は,前記第3の2( )とほぼ同様の理由で,本件自白調書Ⅱには任 意性がない又は違法収集証拠であると主張するが,前記第3の2( )のとお り,上記主張には理由がない。 なお,本件自白調書Ⅱの取調べの際のみの事情として,被告人の公判供述等によれば,そのころ,被告人が弁護人の1人との接見を拒否していた状況があることが認められるが,それは,被告人と当該弁護人がけんかをしたことが主たる原因であり,被告人には別の弁護人が付いていたことも併せ考えれば,この事実は,信用性に影響を与えても,任意性に影響を与える事情であるとはいえない。 本件自白調書Ⅱの内容からしても,他の証拠と一致しない供述が含まれて,,いたり明らかに不合理な内容の供述が含まれていたりすることからすれば被告人が検察官の言うがままの供述をしなければいけ ない。 本件自白調書Ⅱの内容からしても,他の証拠と一致しない供述が含まれて,,いたり明らかに不合理な内容の供述が含まれていたりすることからすれば被告人が検察官の言うがままの供述をしなければいけないという心理的強制を受けていたとは到底認められない。 - 58 -したがって,本件自白調書Ⅱには任意性が認められる。 ( ) 本件自白調書Ⅱの信用性 ①前記1( )のとおり,A2とA1は,それぞれ自分の方向に口が向くよ うにかばんをテーブル下の棚の上に置いていたのであるから,少々テーブルが動いたとしても,その反対側にいた被告人から本件各財布が見えたとは考え難いのに,被告人は,財布が見えたので盗んだと供述していること,②前記3( )のとおり,本件各財布がスナックB21前に投棄されたのは平成1 5年12月12日であるにもかかわらず,被告人は,本件忘年会当日に置いたと述べていることなど,本件自白調書Ⅱの中には,客観的事実と矛盾する内容が含まれることが認められる。 しかし,被告人が本件各財布を盗み,それから10分以内にA2が財布がないことに気付いたため,このままでは自分が盗んだことが分かってしまうと思って,本件各財布をA12の車に隠したというのは,前記1( )の認定 事実に合致し,流れも自然である。 ,,,そうすると被告人は真偽織り交ぜて検察官に供述したものと認められ本件自白調書Ⅱのうち,前記1の認定事実に沿う部分は,真実を述べたものと認められる。 弁護人及び被告人のその他の主張( ) 本件メモについて ア被告人は,本件メモは,いつかは覚えていないが,別の機会にA2からもらったものであると供述し,その根拠として,①被告人の子供とA2の子供は同時期にボーイスカウトに入っていたことがあって,そのときにA2の夫と被告人との間に交 かは覚えていないが,別の機会にA2からもらったものであると供述し,その根拠として,①被告人の子供とA2の子供は同時期にボーイスカウトに入っていたことがあって,そのときにA2の夫と被告人との間に交流があり,その後も被告人夫婦はA2の夫を見舞うなどして交流があったこと,②被告人には,平成13年1月ころに本件メモを見た記憶があること,③A2が,その夫の当該携帯電話を使用して被告人宅に電話をかけたことがあることを挙げる。 - 59 -イしかし,上記①については,被告人の子供とA2の子供が共にボーイスカウトに入っていたのは昭和61年ころまでのことで,本件忘年会より15年以上前の話であり,被告人夫婦がA2の夫の見舞いに行ったことがあるからといって,同人の携帯電話番号を教えられるほど親しい関係にあることとは必ずしもつながらない上,被告人自身,A2の夫に直接連絡を取る必要はなかったと述べている。 ウ上記②については,被告人は,平成13年1月ころに本件メモを見た事,,,実は公判段階に至って思い出したと供述するところ弁護人は被告人は捜査段階では,本件メモそのものではなく,本件メモと同じ内容が記載された白い紙を見せられたにすぎず,本件メモを見た事実を思い出して初めて本件メモにシミなどが付いていることを思い出し,実際に本件メモにはシミなどが付いてることから,この供述は極めて信用できると主張する。 しかし,被告人の判示第1の事実の取調べをした検察官は,証拠品は,後から非難を受けないよう原本を見せるように警察官に指示していたと供述しており,報告書(弁841)の資料3によれば,被告人は捜査段階で本件メモそのものを見せられていたと認められるから,弁護人の上記主張は前提を欠く。そもそも,6年以上前の事実を突然思い出したということ自体不自然であり,その理由 の資料3によれば,被告人は捜査段階で本件メモそのものを見せられていたと認められるから,弁護人の上記主張は前提を欠く。そもそも,6年以上前の事実を突然思い出したということ自体不自然であり,その理由も合理的なものではない上,平成13年1月ころ本件メモを見たという供述には何の裏付けもないので,被告人の上記②の供述は信用できない。 エ上記③については,携帯電話を持っていなかったA2が,緊急時に夫の携帯電話を使用することはあったとしても,前記2( )イのA2及びその 夫と被告人との関係や,前記1( )のとおり当該携帯電話がA2の夫の勤 務先から貸与されたものであることを考慮すれば,A2が,自分又は夫への連絡先として,被告人に夫の携帯電話番号を教えるとは考えにくい。 オまた,被告人は,A2から本件メモをもらった機会として,A2の夫の- 60 -会社のイベントに行った時かもしれないと供述するが,あいまいで信用できない。 カよって,被告人の本件メモに関するこれらの供述は信用できず,本件メモがA2の被害品であるとの前記3( )の認定は揺るがない。 ( ) 犯行の機会について 被告人は,A2の財布がなくなった後に外に出たのは,息子に電話をするため階段の踊り場にいたところ,店員に外で寝ている人がいるが連れではないかと言われ,様子を見に行くためであり,A2の財布がなくなっていたのは知らなかった,本件忘年会会場に戻ってから,いきなりかばんを見せろと言われ,かばんの中の確認を受けたが,この時も事態が飲み込めなかった,A12の車の所へ行ったのは,その後であると供述し,被告人に犯行の機会はなかったと主張する。 しかし,この供述は,本件忘年会会場に戻ってきた被告人が「見てー」。 と言いながらかばんの中を見せたというA2の公判供述と食い違っており,信 あると供述し,被告人に犯行の機会はなかったと主張する。 しかし,この供述は,本件忘年会会場に戻ってきた被告人が「見てー」。 と言いながらかばんの中を見せたというA2の公判供述と食い違っており,信用できない。 ,。 よって被告人に犯行の機会があったとの前記3( )の認定は揺るがない ( ) 被害品を投棄する機会について ,,前記3( )のとおり本件各財布等がスナックB21前に投棄されたのは 平成15年12月12日午後8時30分ころから同日午後9時30分ころまでの間であるところ,弁護人は,被告人は同日午後8時30分ころまで自宅でA2と電話していたので,上記時間帯に本件各財布等を投棄するのは不可能であると主張する。 この点につき,A2は,前記2( )エのとおり上記電話をしたのは同日午 後7時ころから同日午後8時過ぎころまでで,午後8時30分まではかからなかったと供述するところ,弁護人は,A2の手帳(弁43)に上記電話の時間として「7:00~8:30頃」と記載されていることから,A2の上- 61 -記供述は信用できないと主張する。しかし,A2は上記記載はメモ程度のものであると述べていること上記電話から比較的近い時に作られたノート甲,(414)には上記電話の時間として「7:00~8:00頃」と記載されていることからも,A2の手帳の上記記載は,A2の上記供述の信用性を失わせるものとはいえない。また,仮に同日午後8時30分ころにA2と被告人が電話を終えたとしても,信号の待ち時間を算入するなどした弁護人作成の実況見分調書(弁123)によっても,被告人宅からスナックB21のあるビルまでは自転車で最大約20分で移動することができる上検察官調書乙,(88)で被告人が述べるように,タクシーという手段もあるから,被告人が本件各財 によっても,被告人宅からスナックB21のあるビルまでは自転車で最大約20分で移動することができる上検察官調書乙,(88)で被告人が述べるように,タクシーという手段もあるから,被告人が本件各財布等をスナックB21前に投棄することは十分可能である。 よって,被告人に被害品を投棄する機会があったとの前記3( )の認定は 揺るがない。 ( ) したがって,これらの被告人の供述及び弁護人の主張は,いずれも被告人 が犯人であることに合理的疑いを差し挟ませるものではない。 結論 以上のとおり,前記3( )ないし( )の間接事実を総合し,前記4の被告人の 自白も併せ考慮すれば,被告人が判示第1の窃盗の各犯行を行ったものと優に認定でき,その他弁護人がるる主張する点を考慮しても,これに合理的疑いを差し挟む余地はない。 第5公訴棄却の申立てについて 弁護人の主張の補足弁護人は,①警察官が被告人の捨てたごみ袋を無断で持ち去って開披した手続は,無令状で捜索・差押えをしたものであり,刑事訴訟法及び憲法35条に違反している,また,②警察官が被告人を逮捕前に多数回にわたり任意同行の上取り調べたことは実質的な逮捕に当たり,刑事訴訟法に定められた身柄拘束の時間制限を大幅に超過したという重大な違法があるから,上記①の手続で得- 62 -られた証拠並びに上記②の身柄拘束及びこれに引き続いて行われた身柄拘束を利用して起訴された本件各公訴は,検察官が訴追裁量権を逸脱し,公訴権を濫用して起訴したものであり,棄却されるべきであると主張する。 当裁判所の判断( ) 現行法制の下では,検察官は,公訴の提起をするかしないかについて広範 な裁量権を認められているのであって,検察官の訴追裁量権の逸脱が公訴の提起を無効ならしめるのは,公訴の提起自体が職務犯罪を構成 現行法制の下では,検察官は,公訴の提起をするかしないかについて広範 な裁量権を認められているのであって,検察官の訴追裁量権の逸脱が公訴の提起を無効ならしめるのは,公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られるというべきである(最高裁昭和55年12月17日第一小法廷決定・刑集34巻7号672頁。また,このように検察官の広範)な裁量にかかる公訴提起の性質に鑑みれば,仮に捜査過程に違法があるとしても,それが必ずしも公訴の提起を無効ならしめるものでないことも明らかである(最高裁昭和44年12月5日第二小法廷判決・刑集23巻12号1583頁。 )( ) そこで,以下,本件について検討すると,上記①の主張については,前記 第2の5( )のとおり,警察官が被告人の捨てたごみ袋を領置したことはそ もそも違法でないので,同主張は理由がない。 また,上記②の主張については,前記第3の2( )のとおり,被告人に対 する任意取調べは一定の時点から違法なものとなったことが認められるが,被告人の逮捕とそれに続く勾留は,主に被告人の供述証拠以外の証拠によってされたものと認められるから,この違法が公訴の提起自体を無効ならしめるような極限的な場合に当たらないことは明らかであり,同主張は理由がない。 以上のとおり,本件各公訴は,検察官が訴追裁量権を逸脱し,公訴権を濫用して起訴したものであるとは到底認められない。 (法令の適用)罰条- 63 -判示第1の1,2,第5の1の行為いずれも刑法6条,10条により軽い裁判時の平成18年法律第36号による改正後の刑法235条判示第2の1ないし3の行為いずれも刑法246条1項判示第2の4の行為刑法250条,246条1項判示第3,第5の2の行為いずれも刑法243条,同法6条,10条により軽い る改正後の刑法235条判示第2の1ないし3の行為いずれも刑法246条1項判示第2の4の行為刑法250条,246条1項判示第3,第5の2の行為いずれも刑法243条,同法6条,10条により軽い裁判時の平成18年法律第36号による改正後の刑法235条判示第4の行為刑法240条(強盗殺人の場合)刑種の選択判示第1の1,2,第3,第5の1,2についていずれも懲役刑を選択判示第4について無期懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段,46条2項本文(判示第4の罪につき無期懲役刑を選択したので他の刑を科さない)。 未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由) 本件事案の概要本件は,被告人が,交通指導員の忘年会の席上で同僚2名の財布を窃取し(判示第1,不正に入手したクレジットカードを使用して購入名下に商品を詐取し)(判示第2の1ないし3,又は詐取しようとし(判示第2の4,民生委員と))して援助を行っていたA10が管理していた同人の孫名義の口座から現金を引き出して窃取しようとし(判示第3,A10からキャッシュカード等を盗取する)- 64 -とともに,その際,同人を殺害し(判示第4,そのキャッシュカードを使用し)てA10名義の口座から現金を引き出して窃取し(判示第5の1,又は引き出)(),,,して窃取しようとした判示第5の2強盗殺人1件窃盗3件窃盗未遂2件詐欺3件,詐欺未遂1件の事案である。 A10に対する強盗殺人(判示第4,その際に盗取したキャッシュカードを)使用してA10名義の口座から現金を窃取し,窃取しようとした窃盗,窃盗未遂(判示第5,A10の孫名義の口座から現金を窃取しようとした窃盗未遂(判)示第3)事件について被告人は,消費者金 ドを)使用してA10名義の口座から現金を窃取し,窃取しようとした窃盗,窃盗未遂(判示第5,A10の孫名義の口座から現金を窃取しようとした窃盗未遂(判)示第3)事件について被告人は,消費者金融等からの借入れを重ねたことなどで債務が増加し,その返済に窮したことからこれらの各犯行に及んだものと推認され,その自己中心的かつ利欲的な動機に酌量の余地は微塵もない。 被告人は,民生委員としてA10を援助し,その信頼を得たことを利用して,同人の管理するその孫名義の口座から現金を引き出そうとしており,背信的な犯行である(判示第3。そして,それに失敗すると,つぶしたトリアゾラム剤を)A10に摂取させて昏睡させた上,そのキャッシュカード等を盗取しており,そ。 ,,の犯行態様からして用意周到な計画的な犯行であるまた罪跡を隠滅するため高齢で病気があり,かつ,昏睡しているA10に対し,索状物でその首を絞めて殺害しており,極めて冷酷で残忍な犯行である(判示第4。さらに,A10を)殺害後,盗取した2枚のキャッシュカードを使用して,1つの口座からは残高のほぼ全額を引き出し,立て続けにもう一方の口座からも現金を引き出そうとして,,おり自らの行為を省みることなく強盗の成果を上げようとするその態度からは罪の意識が全く感じられない(判示第5。 )そして,A10のかけがえのない尊い命を奪った結果が重大であることはいうまでもない。A10は,当時83歳で,結婚し,2人の子供を育て上げた後,孫の成長を楽しみに穏やかな余生を送っていたものであり,娘とは100歳まで生きようと目標を立て合っていた。にもかかわらず,何の落ち度もないのに,最も- 65 -安全であるはずの自宅において,しかも,信頼していた被告人に裏切られ,突然,,,凶行に遭いその生涯を終えねばならな 目標を立て合っていた。にもかかわらず,何の落ち度もないのに,最も- 65 -安全であるはずの自宅において,しかも,信頼していた被告人に裏切られ,突然,,,凶行に遭いその生涯を終えねばならなくなったのであるからその驚きや衝撃無念さは察するに余りある。A10を失った遺族らの悲嘆と絶望の深さは察するに難くなく,しかもそれがA10が頼りにしていた被告人の手によるものであったのであるから,その精神的衝撃の大きさは計り知れない。当然のことながら,遺族らの処罰感情は峻烈であり,A10の娘は,被告人には一生罪を償ってほしい旨述べている。しかるに,被告人は慰謝の措置を何ら講じていない。 また,判示第5の1の犯行において奪った現金は口座残高のほぼ全額に当たる5万3000円であり,この金員が実質的にはA10がそのつつましい生活を送るための費用であったことも考えれば,その財産的被害も決して小さくはない。 その他の犯行について忘年会における窃盗(判示第1)については,被告人は,借金の返済に窮していたことや,うっぷん晴らしのため,その各犯行に及んだものと推認され,その短絡的かつ身勝手な動機に酌量の余地はない。その被害額は合計約5万8000円と少なくなく,しかも,交通指導員同士の信頼関係を破壊するなどの悪影響をももたらしたと認められる。被告人は,自己に疑いの目を向けられるやアリバイ工作をするなど罪証隠滅工作に及んでおり,犯行後の情状も悪い。 クレジットカードを使用した詐欺,詐欺未遂(判示第2)については,被告人は,不正に入手したクレジットカードを使用して,そのクレジットカード会社に正当な使用権限がないことを看破されるまで,連続して次々と商品を購入名下に,。 詐取し又は詐取しようとしており被害額は合計約4万6000円と小さくないしかし,被告人は,各被害者 ジットカード会社に正当な使用権限がないことを看破されるまで,連続して次々と商品を購入名下に,。 詐取し又は詐取しようとしており被害額は合計約4万6000円と小さくないしかし,被告人は,各被害者に対する被害弁償等慰謝の措置を全く講じていない。 被告人は,これらの犯行を1年半足らずの間に次々と敢行し,その中で強盗殺人という極めて重大な犯罪をも犯したものであり,その規範意識の欠如は深刻である。しかも,被告人は,判示第1,第3ないし第5の各犯行について,前記の- 66 -とおりいずれも不合理な弁解に終始しており,反省の態度は全くうかがえない。 以上からすると,被告人の刑事責任は極めて重い。 そうすると,被告人が,判示第2の事実については認めていること,判示第1の各被害品の一部は被害者の元へ返っていること,被告人には前科がないことなど被告人にとって有利に斟酌すべき事情を最大限考慮しても,被告人の刑事責任は極めて重大であって,酌量減軽すべき事情があるとは到底認められず,主文のとおり無期懲役刑に処し,一生をかけて贖罪の日々を送らせるのが相当であると判断した。 (求刑無期懲役)(検察官遠山玲子,私選弁護人金岡繁裕(主任,稲垣高志,伊神喜弘各出席))平成21年9月7日名古屋地方裁判所刑事第1部裁判長裁判官天野登喜治裁判官平手一男裁判官山出紗織

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