令和4(わ)952 殺人被告事件

裁判年月日・裁判所
令和5年7月26日 京都地方裁判所
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判決文本文3,731 文字)

- 1 - 主文 被告人を懲役7年に処する。 未決勾留日数中100日をその刑に算入する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は、幼少期から実父である被害者と二人で生活し、従前から家計のやりくりや同人の世話を含む家事全般を担っており、自閉スペクトラム症(ASD)の影響もあって、同人との同居に強いこだわりを有していたところ、同人から、「出ていけ」、「掃除しろ」などと叱責されたことに憤慨し、令和4年5月15日午後5時頃、京都市a 区b 町c 番地のd 被告人方において、被害者(当時78歳)に対し、殺意をもって、手に持った金槌(全長約34センチメートル、重量約497グラム)で、その頭部等を数十回殴り、よって、その頃、同所において、同人を顔面、頭部多発外傷による失血により死亡させた。 【法令の適用】罰条刑法199条刑種の選択有期懲役刑を選択未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書【争点に対する判断】第1 本件の争点本件の争点は責任能力の有無・程度であり、検察官は、犯行時の被告人は、犯行が違法であると判断し、その行為を思いとどまる能力が著しく弱まってはいなかったと主張し、弁護人は、少なくとも同能力が著しく弱まっていた疑いがあると主張する。 第2 当裁判所の判断A鑑定人の報告によると、被告人は、統合失調症にり患しており、幻聴等の陽性 - 2 - 症状は改善傾向にあって、陰性症状は余り目立たないものの、認知機能の低下が一定程度認められるとともに、重度のASDであったと認められる。 犯行動機は、被害者に同居を拒絶されたことに対する強い怒りであったと認められる。被告人は、令和2年以降、父の年金に 、認知機能の低下が一定程度認められるとともに、重度のASDであったと認められる。 犯行動機は、被害者に同居を拒絶されたことに対する強い怒りであったと認められる。被告人は、令和2年以降、父の年金に依存して生活していたから、一人暮らしをすることは現実的に難しい状況にあった。また、被害者が全く家事をしなかったため、家計のやりくりや被害者の世話を含む家事全般を被告人が一人で担っており、その点でも被告人が被害者を残して一人で暮らすことは非現実的であった。その上、犯行の翌月には多額の住宅ローンを返済しなければならない状況にあり、そのことに対する不安も抱えていた。そのような状況の下、被告人は、3か月ほど前から、被害者から頻繁に「出ていけ」、「掃除しろ」など理不尽な叱責を受け続けていた。したがって、被告人が強い怒りを抱いたことには、現実の状況認識等も一定程度影響していたと認められる。しかし、A鑑定人の報告によると、被告人は、幼少期に両親が離婚した際に被害者と住むように決められた、家のローンを被害者と二人で支払っているから被害者と同居するのは当然である、といった形式的な理由にとらわれ、被害者との同居に強くこだわっており、そこには、被告人のASD特性が表れていたと認められる。平素は大人しく被害者に従順であった被告人が、被害者に強い怒りを抱いたことには、被告人のASD特性が比較的強く影響していたと認められる。 また、被告人は、被害者を執拗に多数回殴打している。被告人は、その理由を被害者からの反撃を防ぐためであったと供述しており、幼いころに被害者から受けた暴力によって植え付けられた恐怖心を、その後も持ち続け、それが犯行態様に影響したことは十分考えられる。しかし、その殴打回数は少なくとも46回と余りにも執拗なものになっているのであり、そこには、A鑑定人が報 よって植え付けられた恐怖心を、その後も持ち続け、それが犯行態様に影響したことは十分考えられる。しかし、その殴打回数は少なくとも46回と余りにも執拗なものになっているのであり、そこには、A鑑定人が報告するとおり、常同的な反復行動を好むというASD特性が強く表れていたと認められる。 しかしながら、被告人が強い怒りから、被害者の頭を金槌で叩きたいという欲求を覚え、それを実行に移したことや、被告人が数十回叩いた後に一旦叩くのを止め - 3 - たものの、その後、被害者が生きていると考え、再び被害者を叩き始めたことは、被告人自身の判断と選択であり、そこに対する精神障害の影響は限定的であったと認められる。確かに、A鑑定人の報告によると、被告人が強い怒りから本件犯行に及んだことには、統合失調症による認知機能の低下や、ストレス対処能力が低く、自ら抱いたイメージに囚われるといったASD特性が影響していたと認められる。 しかし、被告人は、家計のやりくりや家事全般を一人でこなすとともに、一定の社会生活を送りながらも、これまで暴力沙汰を起こしたことがなかったのであり、本件の1週間前に被害者から叱責を受けて一度は金槌で被害者の頭を叩こうとは思ったものの、それを断念してからは被害者から叱責を受けつつも普段通り被害者と生活していた。そして、犯行当日も、被害者を叩き始めたのは、叱責された約1時間後であり、一旦叩くのを止めてから相当程度の時間が経ち、叩かれた被害者の様子も分かりながら、再び被害者を叩き始めている。また、再び開始した攻撃を止めた後は、被害者が助かるかもしれないと思い119番通報をすることができていた。 これらのことからすると、被告人の認知機能の低下は限定的であったと認められるとともに、被告人が被害者の頭を金槌で叩いたことを、ストレスに対する反射的で ないと思い119番通報をすることができていた。 これらのことからすると、被告人の認知機能の低下は限定的であったと認められるとともに、被告人が被害者の頭を金槌で叩いたことを、ストレスに対する反射的で爆発的な行動にすぎないとか、一旦抱いた被害者の頭を金槌で叩くというイメージにとらわれた結果にすぎないとみることは困難である。したがって、被告人が被害者の頭を金槌で叩きたいという欲求を覚え、それを実行に移したことや、被告人が一旦叩くのを止めたものの、再び被害者を叩き始めたことについての統合失調症の症状やASD特性の影響は限定的であったというべきである。なお、被告人は「今や」という幻聴が聞こえたので犯行に及んだ旨供述するが、A鑑定人が報告するとおり、それは統合失調症による幻聴ではなく、単に犯行を決意した被告人を後押しする自身の内なる声にすぎなかったと認められる。 以上のとおり、犯行動機の強い怒りや犯行態様が執拗なものになったことには、ASD特性が(比較的)強く影響しているものの、被告人が犯行を決意し実行したことに統合失調症やASDの影響は限定的であり、それは被告人自身の判断と選択 - 4 - であった。したがって、被告人は、犯行が違法であると判断し、それを思いとどまるべきであったのであり、そう判断、行動することが著しく困難な状態にはなかったというべきである。よって、犯行時の被告人は、自分の行為が違法であると判断し、その行為を思いとどまる能力が著しく弱まってはおらず、完全責任能力であったと認められる。 【量刑の理由】被害者は、自分の子である被告人から金槌で40回以上殴打された末に命を落としているのであって、その被った恐怖心や無念さは察するに余りあり、被害結果は重大であるというほかない。もっとも、被告人が強い怒りを抱いたのは、同居への 被告人から金槌で40回以上殴打された末に命を落としているのであって、その被った恐怖心や無念さは察するに余りあり、被害結果は重大であるというほかない。もっとも、被告人が強い怒りを抱いたのは、同居への強いこだわりというASD特性に加えて、わずかな収入の中、被害者のことを優先しながら家計をやりくりし、家事全般を一人で担っていたにもかかわらず、被害者から理不尽な叱責をうけたこと等も影響していたのであり、その経緯は被告人のために十分考慮する必要がある。また、犯行態様が執拗になったことには、ASD特性が強く影響していたと認められるから、その態様を理由に被告人を強く非難することはできない。しかしながら、被告人は自身の判断と選択により、金槌で被害者の頭を殴打し、一度犯行を止めても再開しているから、強固な殺意が認められ、この点は強い非難が妥当する。 以上を踏まえ、被告人がした罪の重さを検討すると、同種事案(突発的だが強固な殺意に基づき、凶器を用いて親を殺害した殺人一件の事案のうち、減軽事由がないもの)の中では、比較的軽い部類に属するものの、法定刑の下限付近まで軽くなることはないというべきである。 そこで、犯行後に119番通報したことや、被告人に粗暴な傾向はなく、犯行を反省していることから、再犯のおそれがないことも考慮し、被告人に対しては、主文の刑を科すのが相当であると判断した。 (求刑懲役12年)令和5年7月26日 - 5 - 京都地方裁判所第3刑事部 裁判長裁判官安永武央 裁判官村川主和 裁判官法花義与 和 裁判官法花義与

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