【DRY-RUN】主 文 原判決を破棄する。 被告人両名を各禁錮十月に処する。 原審における訴訟費用中証人A1、同A2、同A3に支給した分は被告人B1の負 担とし、証人A4、同A5、同A6、同A7、同A8、同A9
主文 原判決を破棄する。 被告人両名を各禁錮十月に処する。 原審における訴訟費用中証人A1、同A2、同A3に支給した分は被告人B1の負担とし、証人A4、同A5、同A6、同A7、同A8、同A9、同A10、同A11、同A12、同A13、同A14、同A15、同A16に支給した分及び第二回尋問の分として証人A17、同A18、同A19に支給した分は被告人B2の負担とし、その余の分は被告人両名の負担とし、当審における訴訟費用中証人A20に支給した分は被告人B1の負担とし、証人A14、同A17に支給した分は被告人B2の負担とする。 理由 被告人B1の弁護人玉井安美並に被告人B2の弁護人寺田熊雄の各控訴趣意は夫々別紙記載の通りである。 弁護人玉井安美の控訴趣意第一点について。 論旨は原判決は被告人B1が原判示乗合自動車内において原判示蓄電池の存在を知りながらその上にフイルム鑵一縛り(「男の花道」十巻)を横倒しに置いたことの証拠として検察官作成に係る被告人B1の第一回及び第二回各供述調書を掲げているけれども、右各供述(自白)は任意にされたものでない疑があるから、原判決がこれを証拠としたのは刑事訴訟法第三百十九条第一項の規定に違背していると謂うのである。しかし被告人B1の検察官に対する第一回(昭和二十六年十一月六日附)及び第二回(同月十四日附)各供述調書を検討するに、右各供述調書にはいずれも検察官が供述拒否権を告げて取調べたところ被疑者は任意に供述した旨、供述を録取し読み聞けたところ誤のない旨申立て署名拇印した旨の各記載並に被告人の署名拇印が存する上、本件記録を精査しても検察官が被告人B1を取調べるに際し強制、拷問、脅迫又はその他の方法により無理な取調をした形跡はこれを窺うことができない。被告人B1は原審公判廷においても警察 署名拇印が存する上、本件記録を精査しても検察官が被告人B1を取調べるに際し強制、拷問、脅迫又はその他の方法により無理な取調をした形跡はこれを窺うことができない。被告人B1は原審公判廷においても警察で大声で調べられたことがある旨述べているに止まり、検察官の取調方法が無理であつたことを何等訴えていない(原審第七回公判調書中被告人B1の供述記載参照)。而して被告人B1の検察官に対する供述の内容中重要部分を進んで検討するに、論旨摘録の如く前記第一回供述調書には「(前略)大西停留所で運転手席の真後に置いてあつた座布団包を車から下したのでその辺りが空きましたから私はおどろき一家の八巻を邪魔にならない場所へ置こうと思い運転手後の横の金棒を左手で掴んで右手で縄を持ち運転手席右後の空いた処へ置きました。其処は荷物が置いてなく床が見えました、その時運転手席真後の下に黒いバツテリーが置いてあるのに気付きました、そしてその端の方に新聞を巻いた包がいくつももたせかける様に置いてありました、それは左側一番前の座席との間であります、私が八巻を置いて姿勢を元へもどすと丁度後の方から左前の方へ男の花道のフルムを「ヨイシヨ」と云つて横にして出して来たので私はその一方の端を掴んでその人と一緒に之を私は自分で方向を定めてそのままバツテリーの上へ置きました(後略)」との記載が存するところ、本件乗合自動車の運転士席真後の床上に黒色の蓄電池が覆いのないままで置かれていたこと、運転士席背後に積み重ねてあつた乗客A21の持込荷物である座布団十枚の包が大西停留所で下されたことは本件証拠上明かであり、その他証拠上窺える諸般の情況より判断すれば当時車内は満員の乗客と多数の持込荷物で混雑していたとはいえ大西停留所において右座布団十枚の包が下された直後運転士席背後に相当の空隙を生じたため被告 あり、その他証拠上窺える諸般の情況より判断すれば当時車内は満員の乗客と多数の持込荷物で混雑していたとはいえ大西停留所において右座布団十枚の包が下された直後運転士席背後に相当の空隙を生じたため被告人B1が本件フイルム罐を置き換えるに際し右蓄電池の存在に気付くということがあり得ないことであるとは見られず(右座布団の包が下された直後本件バツテリーの附近に新聞紙の束があつたとしてもバツテリーの上部全体が蔽い隠されていたものとは本件引火の状況よりして認められない)、バツテリーの存在に気付いたとの被告人B1の前記供述が必ずしも不自然不合理であるとはいえない。尚論旨は検察官において被告人に対し強制的に供述せしめた事実がなかつたとしても被告人の司法警察員に対する供述は任意性の点につき疑があり従てその後に取調べた検察官に対する供述も任意にしたものでない疑があると主張するけれども、供述の任意性の有無は各取調につき夫々別個に検討すべきであり、仮に所論の如く被告人の司法警察員に対する供述につき任意性を疑う余地があつたとしても、その後になされた被告人の検察官に対する供述が直ちに任意にされたものでない疑があるとはいえない。これを要するに論旨主張の諸点を十分考慮に容れても、本件事故が余りにも大であつたため被告人が取調官より或程度心理的に圧迫されたことはこれを疑い得るとはいえ、被告人の検察官に対する供述が所論の如く任意性を欠くものとは未だ認められない。従て原判決が被告人の検察官に対する第一回及び第二回者供述調書を証拠に採用したことを以て違法であるとはいえず、諭旨は採用し難い。 同第二点について。 論旨は原判決が被告人B1はバツテリーの存在に気付きながらその上にフイルム罐を置いたと認定したのは誤認であり且つ右の点につき被告人の自白を補強すべき証拠がないと謂うのである。 。 同第二点について。 論旨は原判決が被告人B1はバツテリーの存在に気付きながらその上にフイルム罐を置いたと認定したのは誤認であり且つ右の点につき被告人の自白を補強すべき証拠がないと謂うのである。しかし被告人B1がバツテリーの存在に気付いていたとの主観的事実についてはその直接の証拠は同被告人の自白だけであつてもバツテリーの上にフイルム罐を置いたという客観的事実について自白以外の証拠が存し自白の真実性が保障せられると認められる以上必ずしも自白の補強証拠を要しないものと解せられるのみならず(最高裁判所昭和二五年一一月二九日大法廷判決参照)、原判決が証拠として掲げる裁判官の証人A20に対する尋問調書には「私が外へ出てから五、六分してB1さんにどうして火が出たのだろうかと聞いて見ると、B1さんはフイルムを置いた下にバツテリーがあつたからそれでスパークして火がついたのではなかろうかと言つていた」旨の供述記載も存し、その他右尋問調書の他の供述記載部分及び原判決が証拠として掲げる原審の証人A22、同A21に対する各尋問調書、検察官作成の実況見分調書(添付の写真を含む)等により認められる諸般の状況もまたバツテリーの存在を知りながらその上にフイルム罐を置いたとの被告人B1の自白の真実性を間接的でばあるが裏付け得るものであるから、原判決に被告人の自白のみによつて有罪の認定をした違法があるとはいえない。而して原審及び当審において取調べた各証拠を仔細に検討し論旨の主張するところを十分考慮に容れても原判決が挙示の各証拠(第一事実の証拠説明(四))により被告人B1が大西停留所停車の際本件蓄電池の存在に気付きながらその上に本件フイルム罐一縛り(男の花道十巻)を横倒しにして置いた事実を認定したのは蓋し相当であつて、原判決に事実誤認の疑は存しない。従て論旨は理由がない 停留所停車の際本件蓄電池の存在に気付きながらその上に本件フイルム罐一縛り(男の花道十巻)を横倒しにして置いた事実を認定したのは蓋し相当であつて、原判決に事実誤認の疑は存しない。従て論旨は理由がない。 同第三点について。 論旨は原判決が裁判官の証人A20に対する尋問調書を証拠として採用したのは違法であると謂うのである。仍て本件記録に徴するに本件第一回公判期日前である昭和二十六年十一月十八日松山地方裁判所裁判官が刑事訴訟法第二百二十七条基き検察官の請求によりA20を証人として尋問しているところ、右A20は同月八日及び同月十三日に業務上過失致死傷被疑事件の被疑者として検察官の取調を受けていること所論の通りである。しかし同一事件の共同被疑者として取調べを受けた者であつてもその者を起訴しないような場合において他の共同被疑者に対する関係において刑事訴訟法第二百二十七条の要件を充たす限り検察官が同条に基き裁判官にその者を証人として尋問請求をなすことは許されるものと解すべきであるから(刑事訴訟法第二百二十七条適用の前提となる同法第二百二十三条第一項にいわゆる被疑者以外の者とは当該被疑者以外の者を指称し共同被疑者もこれに含まれると解する)、本件の場合裁判官が刑事訴訟法第二百二十七条に基く検察官の請求によりA20を証人として尋問したのは適法であると謂はなければならい(当裁判所昭和二七年六月一四日判決、広島高等裁判所松江支部昭和二六年一〇月二四日判決、大阪高等裁判所昭和二六年一二月二四日判決、福岡高等裁判所昭和二四年九月二一日判決各参照)。而して原審は右裁判官の証人A20に対する尋問調書を刑典訴訟法第三百二十一条第一項第一号後段の規定に基きその証拠能力を認めたものであることは本件記録上これを窺うことができ、原判決が右証人尋問調書を証拠に採用したのは適法であ A20に対する尋問調書を刑典訴訟法第三百二十一条第一項第一号後段の規定に基きその証拠能力を認めたものであることは本件記録上これを窺うことができ、原判決が右証人尋問調書を証拠に採用したのは適法であつて、論旨は理由がない。 同第四点について、論旨は被告人B1に対する原判決の科刑は重きに失すると謂うのである。仍て本件記録を精査して考察するに本件事故は後記認定の如く本件乗合自動車の運転士であつた相被告人B2が自席背後床上にバツテリーを覆いのないまま置いて漫然輸送した過失と被告人B1が右バツテリーの置かれていることに気付きながら不注意にも(原判決が第一事実の証拠説明(七)において説示するところ参照)その上に映画フイルム罐一縛りを載せた過失とが競合して発生したものであるところ原判決認定の如くフイルム罐とバツテリーの接触に因る引火のため満員の本件乗合自動車内は瞬時にして火焔とガスが充満し遂に死者計三十三名、負傷者計十二名を生ぜしめるに至つたものであり、被告人B1は本件業務上過失致死傷につき相当の刑責を免れることはできない。しかし当時車内は満員の乗客と多数の持込荷物とで相当混雑していたこと、被告人B1は本件事故により愛児(二才)を失い妻は大火傷を負つたこと、国鉄職員の側にも相当責むべき点があること、本件乗合自動車は出入口が一個所のみであつたところ不幸にしてその出入口の扉が開かれなかつたため意外に多数の死傷兼を出すに至つたことその他諸般の情状を彼此斟酌すれば、被告人B1に対する原判決の科刑(禁錮一年二月)は幾分重きに失すると認められる。従て論旨は理由がある。 被告人B2の弁護人寺田熊雄の控訴趣意第一点について。 論旨は原判決が証拠とし掲げる被告人B2の検察事務官に対する第二回、検察官に対する第三回及び第四回各供述調書は弁護人においてその供述の任意性を争 被告人B2の弁護人寺田熊雄の控訴趣意第一点について。 論旨は原判決が証拠とし掲げる被告人B2の検察事務官に対する第二回、検察官に対する第三回及び第四回各供述調書は弁護人においてその供述の任意性を争つたにも拘らず原審が右各供述調書につき供述の任意性の有無を何等調査しないで証拠能力があるものと認めその証拠調をなしこれを有罪認定の資料としたのは刑事訴訟法第三百二十二条第三百十九条第三百二十五条に違背し違法であると謂うのである。 仍て本件記録に徴するに、原審第四回公判において検察官より証拠調請求のあつた被告人B2の検察事務官及び検察官に対する各供述調書につき、被告人B2の原審弁護人はこれを証拠とすることに同意せず、右各供述は暴行脅迫による自白ではないが被告人B2が調べを受けた当時は同被告人は相当精神状態が興奮していたところ取調官は犠牲者のことを持出して同被告人に心理的圧迫を加え供述を誘導した疑が多分にあり且つ各調書の供述内容に矛盾があるから供述の任意性がない旨主張したこと、これに対し検察官は心理的圧迫による供述は任意性を欠く供述に該当しない旨の意見を述べ、原審裁判所は供述の任意性の有無につき被告人尋問或は証拠調等をなすことなくして右各供述調書につき証拠調をなす旨の決定をなしその証拠調をなしたこと所論の通りである(原審第四回公判調書参照)しかし右の如く被告人の供述調書の任意性が争われた場合供述の任意性の点につき必ず検察官をして立証せしめるか或は裁判所自ら被告人を尋問し又は職権で証拠調をしなければならないものではなく、裁判所が適当の方法により調査し(当該供述調書の形式及び供述内容等も調査の資料となり得る)調査の結果供述の任意性につき心証を得ればこれを証拠とすることは何等妨げないところであり(最高裁判所昭和二六年(あ)第一二九五号昭和二八年一〇月九 述調書の形式及び供述内容等も調査の資料となり得る)調査の結果供述の任意性につき心証を得ればこれを証拠とすることは何等妨げないところであり(最高裁判所昭和二六年(あ)第一二九五号昭和二八年一〇月九日判決参照)、原審が供述の任意性につき被告人尋問又は特段の証拠調をしなかつたからといつて直ちに任意性の調査をしなかつたものとは断ぜられない(尚任意性調査の事実はこれを公判調書に記載しなければならないものではない)。従て原審が所論各供述調書の供述の任意性の有無につき特に証拠調等をしないで該調書を採用しその証拠調をした手続自体が必ずしも違法であるとはいえない。 <要旨第一>仍て進んで被告人B2の検察事務官及び検察官に対する前掲各供述調書の供述が任意性を有するや否やの点に</要旨第一>つき検討するに、原審第七回公判調書中の被告人B2の供述記載に徴すれば、同被告人は司法警察員及び検察官の各取調を受けた当時本件事故が余りにも大きかつたため相当興奮して居り且つ多数の犠牲者に対し気の毒だ或はすまないという気持で一杯だつたこと、取調官もまた多数の犠牲者のことを持ち出して同被告人に対しかなり鋭く追及したことを、また原審第六回公判調書中証人A23の供述記載によれば、被告人B2が野村地区警察署に拘束されていた間外部の者との面会を許されなかつたことを夫々窺うことができ、所論の如く被告人B2は捜査官より或程度心理的圧迫を受けていに事実はこれを否定することができない。また後に説示する如く前記各供述調書の供述内容中には幾分不自然と見られる部分(中筋停留所停車の際映画フイルム罐を見たとの点)も存するけれども、検察事務官又は検察官が同被告人に対し取調の際強制、拷問、脅迫等を加えた事実又はこれに類する無理な取調をした事実は本件記録上全然これを窺うことができず、本件の如き多数の死 との点)も存するけれども、検察事務官又は検察官が同被告人に対し取調の際強制、拷問、脅迫等を加えた事実又はこれに類する無理な取調をした事実は本件記録上全然これを窺うことができず、本件の如き多数の死傷者を生じた重大案件において前叙の如き心理状態にある被疑者に対し取調官が多数の犠牲者のことに言及して或程度追及的取調をしたとしても(かかる取調方法はできるだけ避けるべきであり、かかる取調の下における被疑者の供述の真実性については慎重な検討を要すること云うまでもない)、その程度が余りに極端に亘らない限り直ちにかかる取調の下における被疑者の供述が任意性を有しないものと断定することはできない。論旨の主張し且つ援用するところを十分考慮に容れて所論各供述調書の形式及び内容を検討し且つ本件記録を精査しても被告人B2の検察事務官に対する第二回、検察官に対する第三回及び第四回各供述内容が任意にされたものでない疑があるとは未だ認められない。従て原審の訴訟手続及び原判決に所論の如き違法があるとはいえず論旨は採用し難い。 同第二点について。 論旨は被告人B2に対する原判決(原判示第二の事実)は顕著な事実の誤認があると謂うのである。以下論旨の順序に従つて原判決の事実認定の当否を判断するに、(一) 「被告人B2は本件乗合自動車が中筋停留所に停車し乗客数名が降車した際自席左後方に乗客が本件フイルム罐の中一縛りを持込んでいるのに気付いた」との点について。 原判決は右事実の証拠として被告人B2の検察事務官に対する第二同供述調書並に検察官に対する第三回及び第四回者供述調書を掲げて居り(原判示第二事実に関する証拠説明(二)参照)、右検察事務官に対する第二回供述調書には「この映画フィルムを積込んだ時は知らないのでありますが野村駅を発しまして中筋駅に停車しました時に客の乗降がありま 原判示第二事実に関する証拠説明(二)参照)、右検察事務官に対する第二回供述調書には「この映画フィルムを積込んだ時は知らないのでありますが野村駅を発しまして中筋駅に停車しました時に客の乗降がありました。この時私は坐席より左斜後向位となつて見ました時私の坐席後のバツテリーより少し入口に寄つた所に裸の丸罐入の映画フイルムが荒縄縛りとして一縛り立ててあるのを見ました」との供述記載(記録第六四九丁)が存すること記録上明かである。而して論旨は被告人B2の検察事務官及び検察官に対する前掲各供述調書の供述はいずれも任意性がない旨極力主張するけれども、右各供述が必ずしも任意性がないと断定できないことはさきに控訴趣意第一点に対する判断において説示した通りである。しかし右供述が果して真実性を有するか否かは改めて検討を要するところである。 仍て本件乗合盲動車が中筋停留所停車の際被告人B2が運転士席より左斜後を振向いて本件フイルム罐の存在に気が付く状況にあつたか否かを検討するに、原判決が証拠として掲げる証人A17、同A18の原審公判廷における各証言(原審第二回及び第三回者公判調書参照)、原審の証人A19(但し第一回)、同A24、A25、同A22に対する各尋問調書、検察官作成に係るA14の供述調書並に原審の検証調書(昭和二十七年七月九日実施の分)を綜合すれば、中筋停留所停車の際本件フイルム罐二縛りが置かれていた車内の正確な位置はもとより判然しないが、大体運転士席左後の鉄柱の斜左後方附近床上に置かれていたこと並に運転士が自席よう斜左後方を振向いた場合注意して見ればこれを見ることができる位置に本作フイルム罐が置かれていたことを一応肯認することができ、当時車内は満員であつたこしても停留所停車の際は乗客の乗降のため出入口附近は乗客の位置が変り降車客を通すために一時空隙 ることができる位置に本作フイルム罐が置かれていたことを一応肯認することができ、当時車内は満員であつたこしても停留所停車の際は乗客の乗降のため出入口附近は乗客の位置が変り降車客を通すために一時空隙を生ずることもあり、他方乗合自動車等においては運転士が停車時に振向いて出入口の方を見ることもしばしば吾人の経験するところであり(殊に満員で客の乗降が混雑する場合において)、中筋停留所において自席より左斜後向位になつて見た時少し入口に寄つた所に映画フイルム罐があるのを見たとのB2被告人の供述が絶対にあり得ないことを供述しているものとは断ぜられない。しかし被告人B2がフィルム罐を見たとり点については同被告人の右検察事務官及び検察官に対する供述以外にこれを認めるに足る直接の証拠はなく、当事車内は超満員であつて本件フイルム鑵の岡田には乗客多数が種々の姿勢で立つて居り且つ他の持込荷物も相当数その附近に置かれまたに乗客がこれを携帯していたこと本件証拠上明かであり、原審が取調べた各証拠を検討し当審において検証並に証人尋問(当審の証人A14、同A17に対する各尋問調書参照)をした結果に徴すれば、果して実際被告人B2がフイルム罐の存在に気付いたか否かは相当疑わしいと謂わなければならない。換言すれば同被告人の前掲供述は真実性において多分の疑があることを否定できない。従て本件においては「被告人B2が中筋停留所停車の際乗客がフィルム罐を持込んでいるのに気付いた」という事実を認定するには未だ証拠が不十分であり、結局原判決認知事実中右の部分は事実誤認たるを免れない。 (二) 「被告人B2が午前六時野村町駅を卯之町駅に向つて発車するに当り自席背後床上に蓄電池が覆いのないまま積込まれていることを認めた」との点について。 論旨は被告人B2は野村町駅発車の際本件バツテリーが自席背 告人B2が午前六時野村町駅を卯之町駅に向つて発車するに当り自席背後床上に蓄電池が覆いのないまま積込まれていることを認めた」との点について。 論旨は被告人B2は野村町駅発車の際本件バツテリーが自席背後床上に積込まれているのを認識していないと主張するけれども、右事実につき原判決が挙示する証拠(第一事実の証拠説明(三)に掲げられた各証拠が第二事実の証拠説明(一)において引用されている)殊に昭和二十六年十一月八日附検察官作成に係る被告人B2の供述調書(第一回)に徴し十分右事実を認めることができ(論旨は原判決は何故かこの調書を証拠に掲げていないと述べているけれども、右は弁護人の誤解と思われる)、野村町駅発車当時まだ外界が暗かつたことその他論旨主張の諸点を考慮に容れて本作各証拠を検討しても原判決の右認定が誤認であるとは認められない。 (三) 「被告人B2は蓄電池の端子に他の金属が触れれば電気的発熱を生ずること知つていた」との点について。 原判決が第二事実の証拠説明(四)において説示する如く被告人B2が蓄電池につきその危険性を知悉して居り少くとも右の如き程度の知識を有していたことは原判決の掲げる各証拠殊に検察官作成に係る被告人B2の昭和二十六年十一月八日附供述調書に徴し明かであり、同被告人は本件事故迄約四年間乗合自動車の運転士をして居り而も運転士となる以前は技工をしていたこと(記録第九四五丁、被告人B2の履歴カード写参照)より観ても、同被告人の蓄電池についての知識に関する原判決の右認定が誤認であるとは到底認められない。尚論旨は原判決が被告人B2は蓄電池の端子に他の金属を触れれば電気的発熱を生ずることを知つていたことから直ちにフイルム罐を見たならばこれを蓄電池に近接させないよう適当な処置を講ずる注意義務があると認定したことを論難しているけれども、当裁判 に他の金属を触れれば電気的発熱を生ずることを知つていたことから直ちにフイルム罐を見たならばこれを蓄電池に近接させないよう適当な処置を講ずる注意義務があると認定したことを論難しているけれども、当裁判所としては前説示の如く被告人B2がフイルム罐の存在に気付いた事実は証拠上これを認め難いから、右論旨についての判断を省略する。 (四) 「被告人B2は大西停留所に停車した際覆いのない蓄電池の置いてある自席背後へ手廻品の置き換えられている気配を感じた」との点について。 右事実につき原判決の掲げる各証拠(第二事実の証拠説明(二))を綜合して判断すれば、被告人B2が大西停留所停車の際覆いのない蓄電池の置いてある自席背後ヘフイルム罐が置き換えられていることはこれを知らなかつたとしても少くとも乗客が何か手廻品を置き換えている気配を感じた事実は必ずしもこれを肯認し得ないことはないけれども、原判決は被告人B2が中筋停留所停車の際乗客がフイルム罐一縛りを持込んでいるのに気付いたことを前提として右置き換えの気配を感じたことを認定しその状況の下における注意義務を判示しているものであるところ、当裁判所としては前叙の如く被告人B2が中筋停留所においてフイルム罐の存在に気付いた事実は証拠上これを肯認し難く、後記の如く原判決と一部分異る事実認定をなすから、この点についての詳細な判断を省略する。 (五) 「被告人B2は乗務中の車掌A26がフイルム所持者に対し火災防止に関する格別の注意を与えるのを聞いていなかつた」との点について。 原判決の右認定部分も被告人B2が車内にフイルム所持者が居ることを知つていたことを前提とするものであるところ、当裁判所は同被告人がフイルム罐の存在に気付いていた事実はこれを認定しないから、右の点についての判断を省略する。これを要するに被告人B2に関する原 ことを知つていたことを前提とするものであるところ、当裁判所は同被告人がフイルム罐の存在に気付いていた事実はこれを認定しないから、右の点についての判断を省略する。これを要するに被告人B2に関する原判決認定事実(原判示第二事実)中同被告人が中筋停留所に停車し乗客数名が降車した際自席左後方に乗客が本件フイルム罐の中一縛りを持込んでいるのに気付いたとの部分並に右事実を前提として業務上の注意義務を認定している部分は認定を誤つて居り、事実誤認を主張なる本論旨中右の点に関する部分は理由があると謂はなければならない。 而して右認定部分は被告人B2に関する原判決認定事実中相当重要な部分を成しているから、右事実誤認は判決に影響を及ぼすものであり、原判決中被告人B2に関する部分はこの点において破棄を免れない。仍て被告人B1に関しては刑事訴訟法第三百八十一条第三百九十七条第一項により原判決中同被告人に関する部分を破棄し、被告人B2に関しては控訴趣意中爾余の論旨(業務上注意義務、過失責任に関するもの及び量刑不当等)に対する判断を省略し、同法第三百八十二条第三百九十七条第一項により原判決中同被告人に関する部分を破棄し、同法第四百条但書の規定に従い当裁判所において自判することとする。 被告人B1の罪となるべき事実及びこれを認める証拠は原判決の示す通りである(原判決添付死亡者一覧表及び負傷者一覧表を含む)。 (被告人B2の罪となるべき事実)被告人B2は昭和二十二年九月五日国鉄の自動車運転士となり同年十二月よりC自動車営業所D派出所に勤務し国鉄乗合自動車運転により乗客輸送の業務に従事していたものてあるところ、昭和二十六年十一月二日の夜愛媛県東宇和郡野村町駅で同僚の運転士A4より同人が乗務する乘合自動車に備付の自動車用十二ボルト蓄電池一個(証第一号)の性能が減退し始動が に従事していたものてあるところ、昭和二十六年十一月二日の夜愛媛県東宇和郡野村町駅で同僚の運転士A4より同人が乗務する乘合自動車に備付の自動車用十二ボルト蓄電池一個(証第一号)の性能が減退し始動が困難となつたためこれを充電の目的で明朝C自動車営業所まで輸送せられたい旨の依頼を受けるやこれを承諾し、翌十一月三日愛媛○△○××号いすず二型乗合自動車に運転士として乗車し午前六時野村町駅を卯之町駅に向つて発車するに先立ち自席背後床上に前記蓄電池(十一ボルト以上の電圧があつた)が覆いのないまま積込まれていることを認めたが、同被告人は蓄電池はその端子(クーミナル)に金属が触れれば短絡(シヨート)を生じ電気的発熱を生ずることを知つて居り且つ当時C自動車営業所長より事故警報等により蓄電池は木箱等で覆いを設け危険のない様にして輸送しな<要旨第二>ければならない旨を示達されていたのであるから、かかる場合乗客輸送の任に当る乗合自動車乗務員としては</要旨第二>車内の安全のため右蓄電池につき端子が外部に露出せぬよう覆いをする等の危険防止措置を車掌をしてなさしめるか又は自らなすか或はかかる覆いのない蓄電池の輸送を拒否するか等何等かの措置を採るべきであつたに拘らずこれを怠り、また若し右蓄電池を覆いのないまま輸送するとせば乗客が持込荷物等を接触させる虞れのない安全な箇所にこれを置いておくべきであるに拘らずその場所についても考慮を払うことを怠り(当日は文化の日であり且つ附近町村が秋祭のため朝から車内が混雑することは予想されていた)、運転士席背後の乗客が持込荷物を置く可能性の多い場所(前記乗合自動車の座席は所謂ロマンスシートである)に前記覆いのない蓄電池を置いたまま野村町駅を発車した。而して右乗合自動車は卯之町駅に至り同駅より折返して野村町駅に帰り、同駅よりは多数の乗 多い場所(前記乗合自動車の座席は所謂ロマンスシートである)に前記覆いのない蓄電池を置いたまま野村町駅を発車した。而して右乗合自動車は卯之町駅に至り同駅より折返して野村町駅に帰り、同駅よりは多数の乗客が乗車し(前記自動車の乗車定員は四十二名のところ乗客は約六十名に達す)且つ大小多数の手廻品が積み込まれたため所謂身動きも困難な状態となつて午前八時五分大洲町に向つて同駅を発車し、中筋、畑ケ谷等の停留所を経て同県同郡a村大西停留所に停車した際運転士席背後に積み重ねてあつた乗客A21の持込荷物である座蒲団十枚の包が取り降されたため、野村町駅より映写助手A20と共に映画フイルム罐二縛りを携帯して乗車していた相被告人B1が右フイルム罐一縛り(おどろき一家八巻)を運転士席右後に置き換え更に前記覆いのない蓄電池の上に他のフイルム罐一縛り(東宝映画「男の花道」十巻一巻宛ブリキ罐に入れ無包装のままこれをまとめて荒縄で縛つたもの)を横倒しにして置いた結果同日午前八時二十五分頃同自動車が前記大西停留所から百数十米進行し同村大字b字cd号のe番地に差しかかつた際右蓄電池に接触していた右フイルム罐に短絡を生じその赤熱化と電気火花の発生により右罐内のフイルムに引火し瞬時にしてフイルムを燃焼して火焔とガスを同車内に充満させ同自動車の車体その他に延焼してこれを全焼させ因て乗客A27外二十九名(原判決添付第一表一乃至三十記載の通り)を同車内で即時焼死させ、更にその後数日中にf町E病院において車掌A26、乗客A28及びA29を全身火傷により死亡するに至らしめると共にA30外十一名(原判決添付別表第二表一乃至十二記載の通り)に対し全治迄約一週間乃至四ケ月間位を要する顔面その他の火傷を夫々負わしめるに至つたものである。右事故は相被告人B1が不注意にも蓄電池の置いてあることを知 原判決添付別表第二表一乃至十二記載の通り)に対し全治迄約一週間乃至四ケ月間位を要する顔面その他の火傷を夫々負わしめるに至つたものである。右事故は相被告人B1が不注意にも蓄電池の置いてあることを知りながらその上にフイルム罐を載せた過失に因るものであると共に、被告人B2が前記の如く乗合自動車乗務員として業務上尽すべき必要な注意を怠り漫然運転士席背後に覆いのない蓄電池を置いたまま乗客を輸送した過失に基因するものであり、加之穫いのない蓄電池を前記の如き箇所に置いてある以上同被告人は運転という重大な職責があるとはいえ少くとも停車時等においては乗客が右蓄電池に危険物を接近させない様車掌をして注意せしめるか又は車掌が右注意をなすことを怠つているときは車内の状況に応じて自ら乗客に注意を促し以て車内の危険防止に努むべきであるに拘らず卯之町駅より折返して野村町駅において車内が超満員となつた以後においても右の点につき何等の注意を払はなかつたため前記の如く乗客である相被告入B1をして危険物である映画フイルム罐を前記蓄電池の上に置かせることとなり惹いて多数の死傷者を生ぜしめるに至つたものである。 右事実は一、 被告人B2の検察官に対する昭和二十六年十一月八日附供述調書二、 被告人B2の検察事務官に対する第二回供述調書三、 被告人B2の検察官に対する第三回供述調書四、 被告人B2の履歴カード写(記録第九四五丁)五、 原審第三回公判調書中証人A4の供述記載六、 原審第二回公判調書中証人A31の供述記載七、 原審の証人A32、同A33に対する各尋問調書八、 原審第三回公判調書中証人A5の供述記載九、 C自動車営業所長作成に係る「フイルム及びバツテリーの輸送につき乘務員に達示した事項」と題する報告書(記録第五九四丁)十、 火災事故警報(証第五号)十一、 原 公判調書中証人A5の供述記載九、 C自動車営業所長作成に係る「フイルム及びバツテリーの輸送につき乘務員に達示した事項」と題する報告書(記録第五九四丁)十、 火災事故警報(証第五号)十一、 原審第五回公判調書中証人A9の供述記載の一部十二、 原審の証人A21、同A22に対する各尋問調書十三、 相被告人B1の検察官に対する第一回(昭和二十六年十一月六日附)及び第二回各供述調書十四、 裁判官の証人A20に対する尋問調書十五、 原審の証人A19(但し第一回尋問の分)、同A24、A25に対する各尋問調書十六、 検察官作成の実況見分調書(添付写真を含む)十七、 原審の検証調書(但し昭和二十七年三月十日実施の分)十八、 鑑定人警察技官E、同F、同G共同作成に係る鑑定書十九、 原審の鑑定人Eに対する尋問調書及び同鑑定人作成の鑑定書二十、 押収に係る十二ボルト蓄電池一個(証第一号)及び映画フイルム罐三十六個(証第二号の一、二)の各存在二十一、 医師H作成のA27外二十九名(原判決添付死亡者一覧表一乃至三十)に対する各死体検案書(三十通)二十二、 医師I作成のA26に対する死亡診断書二十三、 医師J作成のA28、A29に対する各死亡診断書二十四、 医師J作成のA30外十一名(原判決添付負傷者一覧表一乃至十二)に対する各診断書(十二通)を綜合してこれを認める。 尚被告人B2が右判示の如く業務上必要な注意を怠た点につき附言するに、凡そ乗合自動車の運転士は自動車の運転を主たる職務として居り運転の安全、確実、迅速に先ずその注意を傾注すべきであるとはいえ、乗合自動車は多数の貴重な人命を乗せてこれを輸送するものであるから乗客の安全輸送に影響することについては運転行為以外の点についても自動車乗務員としての健全な良識に従い危険防止のため万全の注意をなす義 合自動車は多数の貴重な人命を乗せてこれを輸送するものであるから乗客の安全輸送に影響することについては運転行為以外の点についても自動車乗務員としての健全な良識に従い危険防止のため万全の注意をなす義務があるものと謂わなければならない。もとより車内の安全殊に乗客及び荷物に関することは車掌が第一次的の責任者であろうけれども、車掌一人ではその職務を処理し切れない場合、車掌がその任務を怠つている場合等においてはその具体的状況に応じ運転の安全に支障を来さぬ限度において運転士が車掌と協力し又は車掌を補佐し或は車掌に代つて車内の危険防止につき臨機適当の措置を採らなければならないものと考える。運転士は専ら自動車の運転行為のみに専念し乗客及び荷物その他車内の安全につき全然注意を払う必要がないとの弁護人所論及びこれと符節を合する国鉄職員の各証言は当裁判所の到底首肯し難いところである(乗合自動車は通常その乗務員は運転士と車掌各一名のみであり、運転士席も乗客の乗つている所と完全には遮断されて居らず、汽車の機関士或は国鉄電車の運転士等と同一に論ずることはできない)。四国地方自動車事務所長達甲第二七号、自動車営業所従事員職制及び服務規程(証第六号)第一条が自動車営業所従事員の職名と職種とを分け自動車運転士の職務として「自動車の運転注油及び手当」、自動車車掌の職務として「旅客の取扱及び荷物の受託輸送並に引渡」を夫々規定しているのは、運転士及び車掌の一応の職務分担を定めたに過ぎず、運転士もまた自動車乗務員として乗客の安全輸送のため運転行為以外の点についても細心の注意をなす業務上の義務があること原判決も説示する通りである(昭和二十三年五月七日運輸省令第十一号自動車運送事業運輸規程第二条参照)。今本件の場合につき考察するに被告人B2は国鉄乗合自動車の運転士であり自動車の運 上の義務があること原判決も説示する通りである(昭和二十三年五月七日運輸省令第十一号自動車運送事業運輸規程第二条参照)。今本件の場合につき考察するに被告人B2は国鉄乗合自動車の運転士であり自動車の運転を主たる職務としている者であること云う迄もないけれども、判示の如く同僚のK運転士より蓄電池の輸送を依頼せられてこれを承諾し昭和二十六年十一月三日早朝野村町駅発車に先立ち自己の運転する乗合自動車の自席背後床上に蓄電池が覆いのないまま積込まれているのを認めたのであるから前記挙示の証拠(殊に一、四及び八乃至十)により認め得られる如く蓄電池が危険物であることを知つていた同被告人としては危険防止のため判示の如き何等かの措置を採るべきであつたことは乗合自動車の乗務員として当然の義務であり、これを怠り漫然そのまま自動車を運行せしめ、而も車内が超満員となつた以後においても危険防止につき何等の措置を採つていない以上、被告人B2は業務上必要な注意を怠つたものと断じなければならない。弁護人は被告人B2は本件蓄電池を車掌に引継いだものであり一旦車掌に引継いだ以上は車掌の責任であつて運転士たる同被告人は運転のみに専念して居れば可なりと主張しているけれども、仮に被告人B2が本件蓄電池を何等かの形で車掌に引継いだとしても(当該車掌が本件事故に因り死亡しているため果して右引継が行われたか否かは本件証拠上幾分疑わしい)、同被告人としては車掌が危険防止の措置を採つたか否かを確めるべきであり、若し車掌が何等の措置も講じなければ自ら何等かの措置を採るか又は車掌に対し何等かの措置を採る様注意を促す義務があるものと謂わなければならない。然るに本件の場合車掌は本件蓄電池につき何等の危険防止措置を採つていないこと明かであり、本件蓄電池を覆いのないままで輸送した以上被告人B2は業務上必要 意を促す義務があるものと謂わなければならない。然るに本件の場合車掌は本件蓄電池につき何等の危険防止措置を採つていないこと明かであり、本件蓄電池を覆いのないままで輸送した以上被告人B2は業務上必要な注意を尽したものとはいえない。これを要するに本件は乗合自動車の運転士が同僚より蓄電池の輸送を依頼せられこれを引受けて輸送した特殊な場合であつて、その過失の有無を判定するに際しては運転士本来の注意義務のみを以てこれを論ずることはできず、乗客の安全輸送を職責とする乗合自動車乗務員としての注意義務の観点より事を判断しなければならない。 尚弁護人は覆いのないバツテリーを車内に積込ましめたことに被告人B2に責むべき点があるとしても右は本件事故との間に相当因果関係がないと主張する。しかし乗合自動車においては乗客が如何なる危険物を持込むかも予測できず、本件の場合の如く蓄電池を覆いのないまま車内判示の如き箇所に放置した場合乗客が不注意に金属製の物を蓄電池に接触させる虞れがあることはいう迄もなく、このことは注意すれば認識し得るところであつて、相被告人B1が映画フイルム罐を本件蓄電池の上に載せたため本件事故が発生した以上被告人B2の判示過失と本件事故との間に刑法上因果関係がないとはいえない。 更に本件の如き場合において被告人B2に対し判示の如き注意義務を要求することが酷に失するや否やの点につき一言するに、同被告人の蓄電池に関する知識は左程高度のものでなかつたとしても判示の如く蓄電池の端子に金属が触れれば短絡を生じ電気的発熱を生ずる程度の知識を有していたことは同被告人も認めているところである。前記証拠に掲げた証人A5、同A4の原審公判廷における各証言、C自動車営業所長作成の報告書火災事故警報等を綜合すれば、被告人B2はC自動車営業所長より乗務員宛達示された事故警報 ているところである。前記証拠に掲げた証人A5、同A4の原審公判廷における各証言、C自動車営業所長作成の報告書火災事故警報等を綜合すれば、被告人B2はC自動車営業所長より乗務員宛達示された事故警報その他の注意事項により事故発生防止のため蓄電池は木箱等で覆いを設け危険のない様にして輸送する必要があることを知つていたこと明かであり、また本件蓄電池に電気が蓄蔵されていないと認められるような状況は全然存しなかつたのであるから、同被告人が同僚の運転士よりバツテリーの輸送を依頼せられてこれを輸送するに際し判示の如き注意をなすことが必ずしも期待できないことであるとは見られない。これを要するに被告人B2は判示の如き業務上必要な注意をなすことを怠つたため乗客である相被告人B1が不注意にもフイルム罐を本件蓄電池の上に載せた過失と相俟つて本件の如き悲惨な死傷事故を生ぜしめるに至つたものであり、被告人B2は業務上過失致死傷の罪責を免れることはできない。 尚本件起訴状に記載された公訴事実第二には当裁判所の認定する被告人B2の業務上過失を具体的に記載していないけれども、当裁判所の認定する事実は本件訴因中に当然包含されているものと解する(検察官の冒頭陳述参照)。 仍て法律に照すと被告人B1の原判示第一の所為及び被告人B2の判示所為はいずれも刑法第二百十一条前段に該当するところ、右は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから同法第五十四条第一項前段第十条により夫々A27に対する業務上過失致死罪の刑に従い所定刑中各禁錮刑を選択し、その刑期範囲内で諸般の情状を愼重に考慮した上被告人両名を各禁錮十月に処し、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により被告人両名をして原審及び当審における訴訟費用を主文掲記の如く夫々負担させることとする。 仍て主文の通り判決する。 (裁判長判事 上被告人両名を各禁錮十月に処し、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により被告人両名をして原審及び当審における訴訟費用を主文掲記の如く夫々負担させることとする。 仍て主文の通り判決する。 (裁判長判事坂木徹章判事塩田宇三郎判事浮田茂男)
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