主文 1 近畿運輸局長は,原告に対し,原告が平成26年3月31日にした一般乗用旅客自動車運送事業の運賃設定届出及び同年6月3日にした同運賃変更届出について,特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法16条の4第3項に基づき,運賃を変更すべきことを命じてはならない。 2 近畿運輸局長は,原告に対し,特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法16条の4第3項に基づく運賃の変更命令に違反したことを理由として,同法17条の3第1項に基づき,輸送施設の使用の停止を命じ,又は一般乗用旅客自動車運送事業の許可を取り消してはならない。 3 原告のその余の請求に係る訴えを却下する。 4 訴訟費用は,これを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 近畿運輸局長は,原告に対し,原告が平成26年3月31日にした一般乗用旅客自動車運送事業の運賃設定届出及び同年6月3日にした同運賃変更届出について,特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法17条の3第1項に基づき,輸送施設の使用の停止を命じてはならない。 2 主文1項と同旨 3 主文2項と同旨第2 事案の概要本件は,特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法(平成25年法律第83号による改正後の 平成21年法律第64号。以下「特措法」という。)の準特定地域に指定された大阪市域交通圏において一般乗用旅客自動車運送事業(以下,特に必要がある 年法律第83号による改正後の 平成21年法律第64号。以下「特措法」という。)の準特定地域に指定された大阪市域交通圏において一般乗用旅客自動車運送事業(以下,特に必要がある場合を除いて「タクシー事業」といい,タクシー事業を営む者を「タクシー事業者」という。)を営む原告が,近畿運輸局長から,原告の届け出た運賃が特措法16条1項の規定により指定された運賃(以下「公定幅運賃」という。)の範囲内にないことを理由として,同法17条の3第1項に基づく輸送施設使用停止処分(以下「使用停止処分」という。)及び同法16条の4第3項に基づく運賃の変更命令(以下「運賃変更命令」という。)を受けるおそれがあり,さらに,運賃変更命令に違反したことを理由として,同法17条の3第1項に基づく使用停止処分及び一般乗用旅客自動車運送事業許可取消処分(以下「事業許可取消処分」といい,使用停止処分及び運賃変更命令と併せて「本件各処分」という。)を受けるおそれがあるなどと主張して,被告に対し,本件各処分の差止めを求める事案である。 1 関係法令等の概要(1) 道路運送法ア一般乗用旅客自動車運送事業者は,旅客の運賃及び料金を定め,国土交通大臣の認可を受けなければならない(9条の3第1項)。 イ国土交通大臣は,上記アの認可をしようとするときは,能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと,他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること等の基準によって,これをしなければならない(同条2項)。 (2) 特措法ア準特定地域の指定国土交通大臣は,特定の地域において,一般乗用旅客自動車運送事業が それがないものであること等の基準によって,これをしなければならない(同条2項)。 (2) 特措法ア準特定地域の指定国土交通大臣は,特定の地域において,一般乗用旅客自動車運送事業が 供給過剰となるおそれがあると認める場合であって,当該地域における一般乗用旅客自動車運送事業の状況に照らして,当該地域の輸送需要に的確に対応しなければ,一般乗用旅客自動車運送事業の健全な経営を維持し,並びに輸送の安全及び利用者の利便を確保することにより,その地域公共交通としての機能を十分に発揮することができなくなるおそれがあるため,当該地域の関係者の自主的な取組を中心として一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化を推進することが必要であると認めるときは,当該特定の地域を,期間を定めて準特定地域として指定することができる(3条の2第1項)。 イ公定幅運賃の範囲の指定(ア) 国土交通大臣は,準特定地域を指定した場合には,所定の手続により,当該準特定地域における公定幅運賃の範囲を指定し,当該運賃の範囲を,その適用の日の所定の日数前までに,公表しなければならない(16条1項前段)。これを変更しようとするときも,同様である(同項後段)。 (イ) 公定幅運賃の範囲は,能率的な経営を行う標準的な一般乗用旅客自動車運送事業者が行う一般乗用旅客自動車運送事業に係る適正な原価に適正な利潤を加えた運賃を標準とすること,一般旅客自動車運送事業者の間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること等の基準に適合するものでなければならない(同条2項)。 ウ運賃の届出等(ア) 道路運送法9条の3(運賃及び料金の認可)の規定は,公定幅運賃の範囲が適用された準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃には,適 ない(同条2項)。 ウ運賃の届出等(ア) 道路運送法9条の3(運賃及び料金の認可)の規定は,公定幅運賃の範囲が適用された準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃には,適用しない(16条の3)。 (イ) 公定幅運賃の範囲が公表された準特定地域内に営業所を有する一般乗用旅客自動車運送事業者は,当該運賃の範囲の適用後に当該準特定地 域において行う一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃を定め,あらかじめ,国土交通大臣に届け出なければならない(16条の4第1項前段)。これを変更しようとするときも,同様である(同項後段)。 (ウ) 上記(イ)の運賃は,当該準特定地域について指定された公定幅運賃の範囲内で定めなければならない(同条2項)。 (エ) 国土交通大臣は,上記(イ)により届け出られた運賃が,上記(ウ)に適合しないと認めるときは,当該一般乗用旅客自動車運送事業者に対し,期間を定めてその運賃を変更すべきことを命ずること(運賃変更命令)ができる(同条3項)。 エ許可の取消し等国土交通大臣は,一般乗用旅客自動車運送事業者が特措法又は特措法に基づく命令若しくは処分に違反したときは,6月以内の期間を定めて輸送施設の当該一般乗用旅客自動車運送事業のための使用の停止(使用停止処分)若しくは一般乗用旅客自動車運送事業の停止を命じ,又は許可を取り消すこと(事業許可取消処分)ができる(17条の3第1項)。 オ権限の委任公定幅運賃の範囲の指定,運賃変更命令,使用停止処分,事業許可取消処分等に関する国土交通大臣の権限は,地方運輸局長に委任する(18条,特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法施行規則〔以下「特措法施行規則」という。〕11条 国土交通大臣の権限は,地方運輸局長に委任する(18条,特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法施行規則〔以下「特措法施行規則」という。〕11条1項。以下,国土交通大臣及び上記権限の委任を受けた地方運輸局長を「国土交通大臣等」という。)。 カ罰則運賃変更命令に違反して,運賃を収受した者は,100万円以下の罰金に処する(20条の3第4号)。 (3) 本件各処分等に関する近畿運輸局長の公示 ア近畿運輸局長は,公示「特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法第16条の4第3項に基づく運賃の変更命令について」(平成26年1月27日付け近運自二公示第40号。以下「運賃変更命令公示」という。乙1)を定めた。運賃変更命令公示には,①タクシー事業者の届け出た運賃が公定幅運賃の範囲内にない場合,当該事業者に対し,公定幅運賃に適合する運賃を届け出るよう指導することとし,当該指導は状況に応じて複数回行うこととする,②上記の指導後,正当な理由なく公定幅運賃の範囲内の運賃を設定した運賃変更届出がされない場合は,(ア)公定幅運賃の範囲内の運賃を設定した運賃変更届出を15日以内に行うこと及び(イ)当該期間までに運賃変更届出を行わない場合は,運賃変更命令の対象となることを勧告する,③上記の勧告から15日経過後,当該事業者が公定幅運賃に適合する運賃を設定した運賃変更届出を行わない場合は,運賃変更命令をすることを前提に,行政手続法に基づき当該事業者に対し弁明書の提出の通知を行った上で,運賃変更命令をする,④当該命令書には,運賃変更届出書の提出期限として15日程度の期限を付すこととする,⑤当該命令書に記載した提出期限までに, 基づき当該事業者に対し弁明書の提出の通知を行った上で,運賃変更命令をする,④当該命令書には,運賃変更届出書の提出期限として15日程度の期限を付すこととする,⑤当該命令書に記載した提出期限までに,公定幅運賃の範囲内の運賃を設定した運賃変更届出がされない場合には,運賃変更命令の違反に該当するものとして,行政処分に係る所定の手続に移行することとする旨が定められている。 イ近畿運輸局長は,公示「一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基準について」(平成21年10月1日付け近運自監公示第11号,近運自二公示第34号,近運技保公示第6号〔最終改正平成26年4月25日〕。以下「処分基準公示」という。甲5)を定めた。処分基準公示には,①運賃変更命令に違反した場合,初違反は60日車(日車とは,1台の営業用車両を1日使用することをいう。以下同じ。)の自 動車等の使用停止を内容とする使用停止処分をし,再違反は事業許可取消処分をする,②特措法16条の4第2項に違反して運賃の設定をした場合には,初違反は20日車の自動車等の使用停止を内容とする使用停止処分をし,再違反は40日車の自動車等の使用停止を内容とする使用停止処分をする旨が定められている。 2 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。 (1) 当事者等ア原告は,大阪市域交通圏を営業区域とする一般乗用旅客自動車運送事業の許可を受け,同営業区域においてタクシー事業を営む株式会社であり,70台のタクシーを保有している。(甲1)イ近畿運輸局長は,特措法18条及び特措法施行規則11条1項に基づき,大阪府等における公定幅運賃の範囲の指定,運賃変更命令,使用停止処 社であり,70台のタクシーを保有している。(甲1)イ近畿運輸局長は,特措法18条及び特措法施行規則11条1項に基づき,大阪府等における公定幅運賃の範囲の指定,運賃変更命令,使用停止処分,事業許可取消処分等に関する国土交通大臣の権限の委任を受けた地方運輸局長である。 (2) 特措法による公定幅運賃制度の導入ア一般乗用旅客自動車運送事業者は,旅客の運賃及び料金につき国土交通大臣の認可を受けなければならず,国土交通大臣は,道路運送法9条の3第2項に定められた基準によって上記の認可をしなければならないが,特措法施行前(平成26年1月26日以前)は,行政運用上の措置として,一定の範囲内の運賃(以下「自動認可運賃」という。)であれば,事業者ごとの個別の審査を省略して認可を行い,他方,上記範囲の下限額を下回る運賃(以下「下限割れ運賃」という。)については,原則どおり,個別の審査を行うこととされていた。(乙2,3)イ特措法では,公定幅運賃制度が設けられ,公定幅運賃の範囲が適用され た準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業者に係る旅客の運賃には道路運送法9条の3は適用されず(特措法16条の3),一般乗用旅客自動車運送事業者は,公定幅運賃の範囲内で運賃を定めて国土交通大臣に届け出なければならないものとされた(特措法16条の4第1項,2項)。 (3) 原告による運賃の届出等ア国土交通大臣は,大阪市域交通圏を特措法3条の2第1項に係る準特定地域として指定した。 イ近畿運輸局長は,公定幅運賃の範囲の指定方法等を定め,これを公示「公定幅運賃の範囲の指定方法等について」(平成26年1月27日付け近運自二公示第39号。以下「指定方法公示」という。乙26)により公表した。指定方法公示では,タクシ の指定方法等を定め,これを公示「公定幅運賃の範囲の指定方法等について」(平成26年1月27日付け近運自二公示第39号。以下「指定方法公示」という。乙26)により公表した。指定方法公示では,タクシーの公定幅運賃の範囲の指定においては,従来から設定された自動認可運賃の範囲を公定幅運賃の範囲として指定することとされた。 ウ近畿運輸局長は,大阪市域交通圏におけるタクシーの公定幅運賃の範囲を,初乗運賃(2.0㎞まで)で大型車680~700円,中型車660~680円などと指定し,これを公示「一般乗用旅客自動車運送事業の公定幅運賃の範囲の指定について」(平成26年2月28日付け近運自二公示第64号〔最終改正同年3月25日〕。以下「本件公定幅運賃公示」という。甲4)により公表した。本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲は,指定方法公示に従い,従前の自動認可運賃の範囲に基づいて指定されたものであり,その上限額及び下限額は,当時の自動認可運賃の上限額及び下限額にそれぞれ消費税増額分を上乗せしたものであった。(乙4)エ原告は,同年3月31日,大型車及び中型車の初乗運賃(2.0㎞まで)を500円などと設定する特措法16条の4第1項の届出(以下「本件届出①」という。)をした。原告は,同法施行前の平成18年1月頃には下限割れ運賃をもって道路運送法9条の3の規定による認可を受けて いたところ,本件届出①に係る運賃の額は,原告が認可を受けていた下限割れ運賃と同額である。(甲6)(4) 原告に対する行政指導,勧告等ア近畿運輸局長は,本件届出①に係る運賃が公定幅運賃に適合しないと認め,運賃変更命令公示に従い,平成26年4月9日から同月18日にかけて,原告に対し,公定幅運賃の範囲内の運賃を設定した運賃変更届出を 近畿運輸局長は,本件届出①に係る運賃が公定幅運賃に適合しないと認め,運賃変更命令公示に従い,平成26年4月9日から同月18日にかけて,原告に対し,公定幅運賃の範囲内の運賃を設定した運賃変更届出をするよう複数回の行政指導を行った。 イ近畿運輸局長は,原告が上記アの運賃変更届出をしなかったことから,運賃変更命令公示に従い,同月22日,原告に対し,公定幅運賃の範囲内の運賃を設定した運賃変更届出を同年5月7日までにするよう勧告した。(甲7)ウ近畿運輸局長は,原告が上記イの運賃変更届出をしなかったため,運賃変更命令公示に従い,同月8日,原告に対し,弁明書の提出期限を同月22日として,運賃変更命令に係る弁明の機会の付与の通知をした。 (甲8)エ原告は,近畿運輸局長に対し,同日,弁明書を提出し,同年6月3日,消費税増額分を一部転嫁するためとして,大型車及び中型車の初乗運賃(2.0㎞まで)を510円などと変更する特措法16条の4第1項の届出(以下「本件届出②」という。)をした。(乙28,29)(5) 本件訴訟の提起原告は,平成26年5月20日,本件訴訟を提起した。(顕著な事実) 3 争点及び当事者の主張本件の争点は,①本件訴訟の適法性(本案前の争点・争点1),②特措法16条による公定幅運賃制度が憲法22条に反するか(本案の争点・争点2),③本件各処分をすることは近畿運輸局長に認められる裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものとなるか(本案の争点・争点3)であり,これらの争 点に関する当事者の主張は以下のとおりである。 (1) 争点1(本件訴訟の適法性)(原告の主張)ア運賃の設定違反を理由とする使用停止処分の差止めについて(ア) 近畿運輸局長は,公 する当事者の主張は以下のとおりである。 (1) 争点1(本件訴訟の適法性)(原告の主張)ア運賃の設定違反を理由とする使用停止処分の差止めについて(ア) 近畿運輸局長は,公定幅運賃の範囲内にない本件届出①をした原告に対し,公定幅運賃の範囲内で届出をするよう行政指導をし,運賃変更届出をすることを勧告した上,運賃変更命令につき弁明の機会の付与を通知しているのであるから,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分がされる蓋然性があるというべきである。なお,処分の時期とは,その時勢における行政庁の方針や事務処理の都合,当該処分に対する訴訟係属の有無によって左右されるものであることは容易に推測でき,必ずしも月日の経過によって処分の蓋然性が消失するものではないのであって,これまで近畿運輸局長が,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分について,原告に対していまだ弁明の機会を付与していないことをもって,使用停止処分がされる蓋然性が否定されることはない。 (イ) 運賃の設定違反を理由とする使用停止処分は,初違反で20日車,再違反で40日車の自動車等の使用停止を内容とするものであるところ,原告が70台のタクシーを保有するにすぎず,資本金が2000万円と小規模な会社であることからすれば,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分による損失は大きく(1台1日当たりの売上げが2万5053円なので,20日車の自動車等の使用停止処分の場合は,合計50万1060円,40日車の自動車等の使用停止処分の場合は,合計100万2120円の損害となる。),予約客等に十分な配車ができず,顧客の信用を失うことにもなり,原告の経営に深刻な影響を及ぼす。したがって,上記処分により重大な損害を生ずるおそれがあるということができる。 予約客等に十分な配車ができず,顧客の信用を失うことにもなり,原告の経営に深刻な影響を及ぼす。したがって,上記処分により重大な損害を生ずるおそれがあるということができる。 (ウ) 使用停止処分がされた後に同処分の取消訴訟を提起して執行停止の申立てをしたとしても,上記処分についての執行停止の申立てが認められるまでの間,原告は自動車等の使用停止を余儀なくされる。そうすると,その間に原告には経済的損失が生じ,顧客の信頼も失ってしまう。 一度失った顧客の信頼を回復することは非常に困難であり,事後的な取消訴訟等の方法によってはその損害を回復することはできない。 したがって,上記処分の差止めの訴えには補充性も認められる。 イ運賃変更命令の差止めについて(ア) 運賃の設定違反を理由とする使用停止処分(上記ア(ア))と同様,原告に対し,運賃変更命令がされる蓋然性があるというべきである。本件届出②に係る運賃変更命令に関し,これまで原告に対していまだ弁明の機会を付与していないことをもって,上記命令がされる蓋然性が否定されることはないことも上記ア(ア)と同様である。 (イ) 運賃変更命令がされた場合,これまで低価格を看板に営業を行ってきた原告としては,大阪市域交通圏における差別化が困難となり,営業上回復し難い損害を受ける。 また,原告は,運賃変更命令により運賃の変更を余儀なくされれば,自社のタクシーの窓等に貼付している運賃が記載されているステッカーを張り替え,料金メーターの設定を変更しなければならない。その費用はステッカー代21万1680円(窓用1台540円×70台=3万7800円,車内用1台540円×70台=3万7800円,行灯用1個972円×2〔表と裏〕×70台=13万6080円)であり,後日,運 はステッカー代21万1680円(窓用1台540円×70台=3万7800円,車内用1台540円×70台=3万7800円,行灯用1個972円×2〔表と裏〕×70台=13万6080円)であり,後日,運賃を500円に戻すことになれば,更に同額の費用が必要になる。 さらに,下記ウ(イ)のとおり,本件各処分が一連一体のものであることから,重大な損害を生ずるおそれの有無についても,本件各処分が一連のものとしてされた結果,原告においていかなる損害が生ずるかとい う観点から判断すべきであるところ,本件各処分によって生ずる損害は,事後の金銭賠償で回復することは困難なものである。 したがって,運賃変更命令により重大な損害を生ずるおそれがあるということができる。 (ウ) 運賃変更命令がされた後に同命令の取消訴訟を提起して執行停止の申立てをしたとしても,上記命令についての執行停止の申立てが認められるまでの間,従前の運賃で営業を継続して運賃を収受すれば刑事罰を科されることになるから,原告は事実上営業を全て停止せざるを得ない。 また,下記ウ(ア)のとおり,執行停止の申立てが認められるまでの間に,事業許可取消処分までされてしまうこともあり得るのであって,その場合,原告は法的にも営業を停止しなければならない。そうすると,その間に原告には経済的損失が生じ,顧客の信頼も失ってしまう。一度失った顧客の信頼を回復することは非常に困難であり,事後的な取消訴訟等の方法によってはその損害を回復することはできない。 したがって,上記命令の差止めの訴えには補充性も認められる。 ウ運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分及び事業許可取消処分の差止めについて(ア) 運賃変更命令がされれば,原告が所定の期間(15日程度)内に公定幅運賃の範囲内 は補充性も認められる。 ウ運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分及び事業許可取消処分の差止めについて(ア) 運賃変更命令がされれば,原告が所定の期間(15日程度)内に公定幅運賃の範囲内の運賃の届出をしない限り,運賃変更命令違反(初違反)として60日車の自動車等の使用停止を内容とする使用停止処分を受けるとともに,2回目の運賃変更命令を受け,2回目の運賃変更命令を受けると,所定の期間(15日程度)内に公定幅運賃の範囲内の運賃の届出をしなければ,運賃変更命令違反(再違反)として事業許可取消処分を受けることが予定されており,これらの処分は,1回目の運賃変更命令がされた後,早ければ2か月程度の間に全てされることになる。 そして,1回目の運賃変更命令,その命令違反(初違反)を理由と する使用停止処分,2回目の運賃変更命令及びその命令違反(再違反)を理由とする事業許可取消処分は,いずれもタクシー事業者に公定幅運賃を遵守させることを目的とする一連の処分と位置付けられており,その要件が満たされる場合には,原則として処分権者がこれらの処分を相次いですることが予定されているというべきである。 したがって,運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分及び事業許可取消処分がされる蓋然性があるというべきである。 (イ) そして,上記のとおり,本件各処分が一連一体のものであることから,重大な損害を生ずるおそれの有無についても,本件各処分が一連のものとしてされた結果,原告においていかなる損害が生ずるかという観点から判断すべきである。 上記ア(イ)のとおり,原告が70台のタクシーを保有するにすぎず,資本金が2000万円と小規模な会社であることからすれば,使用停止処分による損失は大きく(1台1日当たりの売上げが2万505 。 上記ア(イ)のとおり,原告が70台のタクシーを保有するにすぎず,資本金が2000万円と小規模な会社であることからすれば,使用停止処分による損失は大きく(1台1日当たりの売上げが2万5053円なので,60日車の自動車等の使用停止処分の場合は,合計150万3180円の損害となる。),予約客等に十分な配車ができず,顧客の信用を失うことにもなり,原告の経営に深刻な影響を及ぼす。また,運賃変更命令に反する運賃を収受した場合には刑事罰が科されるし,再度の運賃変更命令に従わなければ事業許可が取り消されることになるのである。 これらの使用停止処分及び事業許可取消処分は,原告が公定幅運賃の範囲内の運賃の届出をしない限り,反復してされる可能性があり,そうすると,原告の損害も累積加重的に拡大し得るものである。これらの損害は,事後の金銭賠償で回復することは困難なものである。 したがって,運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分及び事業許可取消処分により重大な損害を生ずるおそれがあるということができる。 (ウ) 上記(ア)の処分の蓋然性及び原告に生じる上記(イ)の損害に照らせば,事後的な取消訴訟等の方法によってはその損害を回復することはできず,運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分及び事業許可取消処分の差止めの訴えには補充性も認められる。 (被告の主張)本件訴訟は,以下のとおり,差止めの訴えの訴訟要件を満たさないものであり不適法である。なお,本件各処分は,要件効果を異にするものであり,一体として評価すべきものではない。 ア運賃の設定違反を理由とする使用停止処分の差止めについて(ア) 近畿運輸局長は,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分については,原告に対していまだ弁明の機会を付与しな のではない。 ア運賃の設定違反を理由とする使用停止処分の差止めについて(ア) 近畿運輸局長は,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分については,原告に対していまだ弁明の機会を付与しないまま,本件届出①及び本件届出②から1年以上も経過したのであるから,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分がされる蓋然性があるということはできない。 (イ) 運賃の設定違反を理由とする使用停止処分による損害は,初違反で20日車,再違反で40日車の自動車等の使用停止により生ずるものにとどまり,原告の事業基盤に深刻な影響を及ぼすおそれがあるとは認められない。そうすると,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分による損害は,事後的な金銭賠償で十分回復可能な経済的損害にすぎず,上記処分により重大な損害を生ずるおそれがあるということはできない。 (ウ) 原告は,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分がされた後にその取消訴訟を提起して執行停止の申立てをすることが可能であるし,執行停止の申立てが認められるまでの一定期間,自動車等を使用することができなくなるとしても,これによる損害は事後的な金銭賠償で十分回復可能なものである。したがって,上記処分の差止めの訴えには補充性は認められない。 イ運賃変更命令の差止めについて (ア) 本件届出②に係る運賃変更命令については,公定幅運賃の範囲内の運賃を設定した運賃変更届出をする旨の勧告や弁明の機会の付与も行われないまま,本件届出②から1年以上も経過したのであるから,本件届出②に係る運賃変更命令がされる蓋然性があるということはできない。 (イ) 運賃変更命令にはタクシー事業を行うこと自体を規制する効果はない上,運賃変更命令に反する運賃を収受した場合の刑事罰のためにタクシー事業を事 更命令がされる蓋然性があるということはできない。 (イ) 運賃変更命令にはタクシー事業を行うこと自体を規制する効果はない上,運賃変更命令に反する運賃を収受した場合の刑事罰のためにタクシー事業を事実上差し控えることになったとしても,それは,運賃変更命令の取消訴訟を提起してその執行停止の申立てが認められるまでの一定期間にすぎず,そのような短期間に生ずる損害は金銭賠償で十分回復可能であり,運賃変更命令の効果としてタクシー事業を行うことができなくなるということはできない。 原告が運賃変更命令に伴う損害と主張するステッカーの張り替え及び料金メーターの設定の変更の費用は,運賃変更命令の直接的な効果による損害ではないし,仮にこれを考慮するとしても,事後的な金銭賠償で十分回復可能な経済的損害にすぎず,原告の事業基盤に深刻な影響を及ぼすことはない。 したがって,運賃変更命令により重大な損害を生ずるおそれがあるということはできない。 (ウ) 原告は,運賃変更命令がされた後にその取消訴訟を提起して執行停止の申立てをすることが可能であるし,運賃変更命令に反する運賃を収受した場合に刑事罰が科される可能性があるため,執行停止の申立てが認められるまでの間,届け出た運賃を収受することができなくなるとしても,これによる損害は経済的損害にすぎず,事後的な金銭賠償で十分回復可能なものである。したがって,運賃変更命令の差止めの訴えには補充性は認められない。 ウ運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分の差止めについて (ア) 運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分は,運賃変更命令に違反したことを処分要件とするものである上,運賃変更命令をするための各手続,運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分のための弁明の機会の付与の手続等を 違反を理由とする使用停止処分は,運賃変更命令に違反したことを処分要件とするものである上,運賃変更命令をするための各手続,運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分のための弁明の機会の付与の手続等を経てされることが予定されている。そうすると,原告に対していまだ運賃変更命令がされておらず,運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分がされる可能性の有無すら判然としない現時点においては,上記処分がされる蓋然性があるということはできない。 (イ) 運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分による損害は,60日車の自動車等の使用停止により生ずるものにとどまり,原告の事業基盤に深刻な影響を及ぼすおそれがあるとは認められない。そうすると,運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分による損害は,事後的な金銭賠償により十分回復可能な経済的損害にすぎず,上記処分により重大な損害を生ずるおそれがあるということはできない。 (ウ) 原告は,運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分がされた後にその取消訴訟を提起して執行停止の申立てをすることが可能であるし,執行停止の申立てが認められるまでの一定期間,自動車等を使用することができなくなるとしても,これによる損害は事後的な金銭賠償で十分回復可能なものである。したがって,上記処分の差止めの訴えには補充性は認められない。 エ事業許可取消処分の差止めについて(ア) 事業許可取消処分は,運賃変更命令及び運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分をするための各手続,事業許可取消処分のための聴聞の手続等を経て行われることが予定されている。そうすると,原告に対していまだ運賃変更命令すらされておらず,事業許可取消処分がされる可能性の有無すら判然としない現時点においては,上記処分がされる蓋然性があるということはできない。 る。そうすると,原告に対していまだ運賃変更命令すらされておらず,事業許可取消処分がされる可能性の有無すら判然としない現時点においては,上記処分がされる蓋然性があるということはできない。 (イ) 事業許可取消処分による損害は,あくまでも経済的なものにすぎず,事後的な金銭賠償により回復可能なものであり,原告は,事業許可取消処分がされた後にその取消訴訟を提起して執行停止の申立てをすることにより一定期間でタクシー事業を継続し得る地位を回復することができる。そうすると,上記処分により重大な損害を生ずるおそれがあるということはできない。 (ウ) 原告は,事業許可取消処分がされた後にその取消訴訟を提起して執行停止の申立てをすることが可能であるし,執行停止の申立てが認められるまでの一定期間,タクシー事業を営むことができなくなるとしても,これによる損害は,事後的な金銭賠償で十分回復可能なものである。したがって,上記処分の差止めの訴えには補充性は認められない。 (2) 争点2(公定幅運賃制度の違憲性)(原告の主張)ア最高裁昭和50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁によれば,職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて,職業選択の自由そのものを規制する場合には,当該規制措置の合憲性は厳格に審査されるべきであり,重要な公共の利益のために必要かつ合理的なものであることを要し,他に制限的でない規制措置が存在する場合には違憲になるというべきである。 イ公定幅運賃制度は,それに違反した場合には,使用停止処分,タクシー事業の停止の処分,事業許可取消処分がされ,刑事罰が科されることが予定されている。このように,公定幅運賃制度は,タクシー事業者にとって厳しい法的効果が付されており,しかも,タクシー事業者の営利活動及び 業の停止の処分,事業許可取消処分がされ,刑事罰が科されることが予定されている。このように,公定幅運賃制度は,タクシー事業者にとって厳しい法的効果が付されており,しかも,タクシー事業者の営利活動及び事業における重要な要素である収益に直結する運賃・料金の定めを直接規制するものであることも考え合わせると,職業選択の自由そのものを規制するものではないとしても,それと同視することができる。したがって, 公定幅運賃制度の合憲性については,上記アの基準により判断すべきである。 ウ特措法1条には,「特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化を推進し,もって地域における交通の健全な発達に寄与することを目的とする。」とあり,同法3条1項には,「当該地域における供給輸送力の削減をしなければ,一般乗用旅客自動車運送事業の健全な経営を維持し,並びに輸送の安全及び利用者の利便を確保することにより,その地域公共交通としての機能を十分に発揮することが困難であるため,当該地域の関係者の自主的な取組を中心として一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化を推進することが特に必要であると認めるときは,当該特定の地域を,期間を定めて特定地域として指定することができる。」とあることから,公定幅運賃制度の目的は,タクシー事業の適正化及び活性化を図ることによって輸送の安全を確保することであるところ,これは正当である(なお,供給過剰状態の改善は公定幅運賃制度の目的そのものではなく,タクシー事業の適正化及び活性化並びにそれに伴う輸送の安全の確保のための手段にすぎない。)。 しかし,下記エのとおり,公定幅運賃を定めることは上記目的を達成することには結び付かないし,その点を措くとしても,上記目的を達成するためには,公定 輸送の安全の確保のための手段にすぎない。)。 しかし,下記エのとおり,公定幅運賃を定めることは上記目的を達成することには結び付かないし,その点を措くとしても,上記目的を達成するためには,公定幅運賃を定める以外にも,直接労働条件そのものを改善する施策を行うことや,労働条件が悪い,交通事故件数が多いといった悪質なタクシー事業者に対して個別に指導し,罰則を科すなど,より緩やかな手段を執ることが可能である。また,被告の主張は,供給過剰状態が改善されると運転者の労働条件が改善され,運転者の労働条件が改善されると輸送の安全が確保されるとするものであるが,そもそも,運転者の労働条件の改善は主として使用者と労働組合との団体交渉の中で解決されるべきものであり,運賃を規制することによって改善されるべきものではない。 エ仮に下記の(被告の主張)アの基準によったとしても,運賃の範囲を限定したからといって,必ずしも,供給過剰状態(なお,現時点でタクシーの供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰な状態に至っているのかどうかは不明である。)が改善され,運転者の労働条件が改善されるというものではなく,公定幅運賃制度には,タクシー事業の適正化及び活性化を図ることによって輸送の安全を確保するという目的を達成するための手段としての合理性はない。 オ以上の諸点に照らすと,公定幅運賃制度は,憲法22条1項に反して違憲であるというべきである。 (被告の主張)ア上記の最高裁昭和50年4月30日大法廷判決によれば,職業選択の自由に対する規制措置が,狭義の職業選択の自由そのものに制約を課すものではなく,職業活動の内容及び態様に対する規制である場合には,規制目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか,又は規制の内容がその目的を達成する ,狭義の職業選択の自由そのものに制約を課すものではなく,職業活動の内容及び態様に対する規制である場合には,規制目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか,又は規制の内容がその目的を達成するための手段として必要性又は合理性を欠くことが明らかでない限り,違憲とはならないというべきである。 イ公定幅運賃制度は,国土交通大臣が指定した一定の地域において,一定の期間に限り,一定の幅の範囲内にない運賃を定めてタクシー事業を営むことを規制するにとどまり,当該地域においてタクシー事業を営むこと自体を規制するものではないから,職業活動の内容及び態様に対する規制であるというべきである。したがって,公定幅運賃制度の合憲性は,上記アの基準により判断すべきである。 ウタクシー事業は,極端な労働集約型産業である一方,歩合制賃金による労働形態が採られることが多く,人件費について変動費的な要素が大きくなっていることから,需要が停滞ないし縮小する状況では,増車による供給拡大が行われやすく,営業収入の減少のリスクをタクシー事業者が負わ ずに運転者に転嫁されるという特殊性を有している。そのため,自由競争の下においてタクシー事業者の収益が減少した場合には,賃金低下,勤務時間の延長などといった運転者の労働条件に対するしわ寄せによってその影響が解消されることとなる。公定幅運賃制度は,上記のようなタクシー事業の特殊性を踏まえ,市場原理により運賃値下げ競争が行われるおそれがある状況では,減車ないし供給輸送力の抑制による供給過剰状態の解消ないし予防が阻害され,運転者の労働条件の悪化等によって輸送の安全確保に支障を来すおそれがあることから,運賃値下げ競争を一定期間中断ないし予防し,運賃値下げ競争が行われるおそれがない状況の下において,減車ないし 害され,運転者の労働条件の悪化等によって輸送の安全確保に支障を来すおそれがあることから,運賃値下げ競争を一定期間中断ないし予防し,運賃値下げ競争が行われるおそれがない状況の下において,減車ないし供給輸送力の抑制による供給過剰状態の解消ないし予防を効果的に行い,運転者の労働条件を改善し,もって輸送の安全を確保することを目的とするものである。このような公定幅運賃制度の目的は,公共の福祉に合致するものであって,正当である。 エそして,上記のようなタクシー事業の特殊性を踏まえれば,タクシー事業者が適切な利潤を得ると考えられる標準的な範囲に運賃を設定し,運賃値下げ競争を一定期間中断ないし予防することは,上記の目的を達成する手段として必要かつ合理的なものということができる。また,公定幅運賃制度は,適用される地域を限定するとともに,期間も限定する規制であることにも鑑みれば,公定幅運賃制度は,必要最小限度の適切な規制にとどまるものということができる。 オ以上によれば,公定幅運賃制度は,その規制目的が正当であり,規制の内容が目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものであって,これらを欠くことが明らかであるとはいえないから,憲法22条1項に反しないというべきである。 (3) 争点3(近畿運輸局長による裁量権の逸脱濫用)(原告の主張) 本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲は,初乗運賃(2.0㎞まで)がわずか20円の幅しかなく,タクシー事業の活性化という公定幅運賃制度の目的を達成することが困難であることが明白であるし,上記初乗運賃をわずか20円の幅に収めなくとも,タクシー事業の適正化という公定幅運賃制度の目的は達成可能である(なお,「適正化」という文言に,市場原理による運賃値下げ競争を一時的に中断ないし予 し,上記初乗運賃をわずか20円の幅に収めなくとも,タクシー事業の適正化という公定幅運賃制度の目的は達成可能である(なお,「適正化」という文言に,市場原理による運賃値下げ競争を一時的に中断ないし予防するという目的を読み込むことはできない。)。公定幅運賃を上記のように狭い範囲にとどめようとする真の意図は,タクシー業界の競争を過度に制約し,規制緩和以前の護送船団方式に戻そうとする点にあることは明白であり,このような目的は,タクシー事業の適正化及び活性化という公定幅運賃制度の目的と相容れないものである。したがって,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲の指定には,近畿運輸局長の裁量権の逸脱濫用がある。 また,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃は,従前の自動認可運賃をそのまま公定幅運賃として指定したものである。被告の主張する公定幅運賃制度の趣旨を前提としても,自動認可運賃の範囲を公定幅運賃の範囲とすることは導かれないし,その点を措くとしても,特措法16条2項1号の「能率的な経営を行う標準的な一般乗用旅客自動車運送事業者が行う一般乗用旅客自動車運送事業に係る適正な原価に適正な利潤を加えた運賃を標準とすること」とする基準に適合した運賃の上限及び下限は,社会の情勢やタクシー事業の需給バランス等により随時変動するにもかかわらず,近畿運輸局長は,自動認可運賃の上限額及び下限額の範囲内の運賃であれば,上記基準に適合すると判断したのであり,上記事項を考慮しないでされた本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲の指定には,近畿運輸局長の裁量権の逸脱濫用がある。 さらに,自動認可運賃制度の場合は下限割れ運賃も個別に審査してその適否が判断されていたのに対し,公定幅運賃制度の場合は下限額を下回る運賃 は刑罰をもって禁止されることになる さらに,自動認可運賃制度の場合は下限割れ運賃も個別に審査してその適否が判断されていたのに対し,公定幅運賃制度の場合は下限額を下回る運賃 は刑罰をもって禁止されることになるから,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃は,上記のような下限割れ運賃により経営するタクシー事業者の営業の自由を奪うものである。自動認可運賃制度の下において下限割れ運賃が認められていたことは,近畿運輸局長が,下限割れ運賃であっても,特措法16条2項1号の基準に適合した運賃が存在することを認めていたことを示すものである。したがって,近畿運輸局長は,公定幅運賃の範囲を指定するに当たり上記のような下限割れ運賃も考慮すべきであり,これを考慮しないでされた本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲の指定には,近畿運輸局長の裁量権の逸脱濫用がある。 よって,そのような公定幅運賃を前提としてされる本件各処分は違法なものとなる。 (被告の主張)特措法は,公定幅運賃の範囲を指定する基準の1つとして,同法16条2項1号において,「能率的な経営を行う標準的な一般乗用旅客自動車運送事業者が行う一般乗用旅客自動車運送事業に係る適正な原価に適正な利潤を加えた運賃を標準とすること」と規定している。公定幅運賃制度が導入された趣旨・目的は,供給過剰地域において市場原理による運賃値下げ競争が行われた場合には,減車による供給過剰状態の解消ないし予防が阻害され,運転者の労働条件の悪化等によって輸送の安全確保に支障を来すおそれがあることから,このような運賃値下げ競争を一時的に中断ないし予防し,運賃値下げ競争が行われるおそれのない状況の下において,減車による供給過剰状態の解消ないし予防を効果的に進め,運転者の労働条件を改善し,もって輸送の安全を確保することにある。このような公定幅 防し,運賃値下げ競争が行われるおそれのない状況の下において,減車による供給過剰状態の解消ないし予防を効果的に進め,運転者の労働条件を改善し,もって輸送の安全を確保することにある。このような公定幅運賃制度の趣旨・目的に鑑みれば,同号にいう「能率的な経営を行う標準的な一般乗用旅客自動車運送事業者」とは,従前の自動認可運賃制度の下において道路運送法9条の3第2項が規定する認可基準に適合すると合理的に推認される,すなわち「他の 一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないもの」と推認される自動認可運賃の範囲内で営業していたタクシー事業者を想定しているというべきである。そうすると,公定幅運賃の範囲は,基本的には,自動認可運賃の上限額及び下限額の範囲と同様の範囲が想定されており,近畿運輸局長が従前の自動認可運賃の上限額及び下限額の範囲を公定幅運賃の範囲として指定したことは,公定幅運賃制度の趣旨に合致するものということができる。このことは,特措法に関する国会審議において,法案提出者等の国会議員や政府参考人が,公定幅運賃制度が下限割れ運賃を許容しないものである旨や設定される運賃の幅は自動認可運賃と公定幅運賃とで異なるものでない旨の発言をしていたことからも明らかである。したがって,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲の指定について,近畿運輸局長の裁量権の逸脱濫用があったということはできない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件訴訟の適法性)について(1) 本件各処分がされる蓋然性についてア行政事件訴訟法3条7項は,一定の処分又は裁決が「されようとしている場合」であることを差止めの訴えの訴訟要件として規定しており,差止めの訴えについては行政処分がされる蓋然性が存在すること ア行政事件訴訟法3条7項は,一定の処分又は裁決が「されようとしている場合」であることを差止めの訴えの訴訟要件として規定しており,差止めの訴えについては行政処分がされる蓋然性が存在することが必要とされている。 これを本件についてみると,前記前提となる事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア) 原告は,自動認可運賃制度の下で下限割れ運賃による運賃の認可を受けてタクシー事業を営んでいたところ,近畿運輸局長は,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲を指定した。これに対し,原告は,従前認可を受けていた下限割れ運賃と同額の運賃の届出(本件届出①)をした。 (イ) 近畿運輸局長は,本件届出①に係る運賃が本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の下限額を下回るものであったため,運賃変更命令公示に従い,原告に対し,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲内の運賃を設定した運賃変更届出をするよう複数回の行政指導を行った上,同旨の勧告を行ったが,原告はこれに従わなかった。 (ウ) 近畿運輸局長は,運賃変更命令公示に従い,原告に対し,弁明書の提出期限を定めた上,運賃変更命令に係る弁明の機会の付与を通知した。 これに対し,原告は,弁明書を提出し,「運賃の変更命令には従わない,5月20日に大阪地方裁判所に提訴しました。」「A株式会社は,恒久認可を得ています,近畿運輸局は,A株式会社の恒久認可を剥奪するのですか,5月20日に大阪地方裁判所に提訴しました。」などと主張した。その後,原告は,本件届出②をしたが,これは,消費税増額分を運賃に一部転嫁するために本件届出①に係る運賃にこれを加算したにとどまるものであり,本件届出②に係る運賃も本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の下限額を下回るものであっ したが,これは,消費税増額分を運賃に一部転嫁するために本件届出①に係る運賃にこれを加算したにとどまるものであり,本件届出②に係る運賃も本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の下限額を下回るものであった。(乙28,29)(エ) 原告は,本件訴訟において,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の指定が違法であるなどと主張するとともに,運賃変更命令がされてもこれに従わない意思であることを明らかにしている。 イ以上の認定事実によれば,原告は,自動認可運賃制度の下で適法に下限割れ運賃によるタクシー事業を営んできたものであり,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲の指定がされたにもかかわらず,その下限額を下回る,上記の下限割れ運賃と同額の運賃の届出をした上,近畿運輸局長からの勧告に従わず,運賃変更命令に係る弁明の機会において運賃変更命令がされてもこれには従わない旨主張し,本件訴訟においても,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の指定が違法であるなどと主張するとともに,運賃変更命令がされてもこれには従わない意思である ことを明らかにしていることが認められる。このような原告の対応等に照らすと,原告は,運賃変更命令を受けることになったとしても,自らが従前認可を受けていた下限割れ運賃を許容しない本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲の指定が違法であるとの見解に基づき,運賃変更命令の効力を否定してこれに応じない可能性が高いというべきであり,原告が本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲内にある運賃変更届出をする可能性は低いと認められる。他方,本件において,被告の主張を前提とする限り,本件各処分の要件の充足について,その判定に特段の困難を伴うものとは考えられない。そして,近畿運輸局長の職責に照らせば,近畿運輸局長が,公定幅運賃の 他方,本件において,被告の主張を前提とする限り,本件各処分の要件の充足について,その判定に特段の困難を伴うものとは考えられない。そして,近畿運輸局長の職責に照らせば,近畿運輸局長が,公定幅運賃の範囲内にない運賃の届出をしたタクシー事業者を見過ごしたり,放置したりすることは考え難い上,前記認定事実によれば,原告は,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲の指定自体が違法であるなどと主張して,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲内の運賃変更届出をしないのであり,このような原告の主張は,近畿運輸局長において容認し難いものであると考えられるから,近畿運輸局長が原告の主張に応じて本件各処分を差し控えることは想定し難く,むしろ,厳正かつ迅速に本件各処分の手続を進める可能性が高いと認められる。また,処分基準公示の内容からすれば,1回目の運賃変更命令,その命令違反(初違反)を理由とする使用停止処分,2回目の運賃変更命令及びその命令違反(再違反)を理由とする事業許可取消処分は,いずれもタクシー事業者に公定幅運賃を遵守させることを目的とする一連の処分と位置付けられており,その要件が満たされる場合には,原則として処分権者がこれらの処分を相次いですることが予定されているものと解される。 以上の諸点に照らせば,近畿運輸局長は,本件届出①及び本件届出②をした原告に対し,処分基準公示に基づき,運賃の設定違反を理由とす る使用停止処分をするとともに,運賃変更命令公示に基づき,運賃変更命令をした上,原告において公定幅運賃の範囲内の運賃変更届出をしないことから,処分基準公示に基づき,運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分をし,さらに,再度の運賃変更命令をした上,これにも従わない原告に対してその命令違反を理由として,事業許可取消処 届出をしないことから,処分基準公示に基づき,運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分をし,さらに,再度の運賃変更命令をした上,これにも従わない原告に対してその命令違反を理由として,事業許可取消処分に至る可能性が高いというべきである。したがって,本件各処分がされる蓋然性があるものと認められる。 ウ被告は,原告に対しては,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分や本件届出②に係る運賃変更命令についてはいまだ弁明の機会が付与されていないし,運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分及び事業許可取消処分については処分要件となる運賃変更命令がされていないのであるから,それらの処分がされる蓋然性が認められない旨主張するが,前記イに説示したところに照らせば,被告の主張するところを考慮しても,本件各処分がされる蓋然性は否定されるものではなく,被告の上記主張は採用することができない。 また,被告は,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分や本件届出②に係る運賃変更命令については弁明の機会も付与されない状態が本件届出①及び本件届出②から1年以上も続いていることを指摘し,上記各処分がされる蓋然性が認められない旨主張する。確かに,本件届出①から現在まで1年9か月近くの期間が,本件届出②から現在まで1年6か月以上の期間が,それぞれ経過している。しかし,近畿運輸局長が,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分や本件届出②に係る運賃変更命令をしないことを明らかにしたなどといった事情もなく,むしろ,公定幅運賃の指定の違法性等が争われた同種の運賃変更命令等の差止訴訟が複数件提起され,仮の差止めを認める決定や差止めを認める判決が出されている状況(公知の事実)の下,近畿運輸局長が,本件訴訟の結論が 出るまでの間,事実上,原告に対する運賃の設 複数件提起され,仮の差止めを認める決定や差止めを認める判決が出されている状況(公知の事実)の下,近畿運輸局長が,本件訴訟の結論が 出るまでの間,事実上,原告に対する運賃の設定違反を理由とする使用停止処分や本件届出②に係る運賃変更命令をすることを控えているにすぎない可能性があるのであって,上記の処分の要件の充足の判定の容易さや,近畿運輸局長の職責に照らせば,被告が指摘する事情をもって,上記各処分がされる蓋然性が直ちに否定されるものではなく,被告の上記主張は採用することができない。 (2) 重大な損害を生ずるおそれの有無についてア差止めの訴えについては,一定の処分等がされることにより「重大な損害を生ずるおそれ」があることが必要であり(行政事件訴訟法37条の4第1項),その有無の判断に当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮するものとし,損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされている(同条2項)。そして,上記の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには,処分がされることにより生ずるおそれのある損害が,処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく,処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解するのが相当である(最高裁平成24年2月9日第一小法廷判決・民集66巻2号183頁)。 イ運賃変更命令公示及び処分基準公示によれば,タクシー事業者が運賃変更命令を受けると,所定の期間(15日程度)内に公定幅運賃の範囲内の運賃の届出をしない限り,運賃変更命令違反(初違反)として60日車の自動車等の使用停止を内容とする使用停止処分を受け,2回目の運賃変更命令を けると,所定の期間(15日程度)内に公定幅運賃の範囲内の運賃の届出をしない限り,運賃変更命令違反(初違反)として60日車の自動車等の使用停止を内容とする使用停止処分を受け,2回目の運賃変更命令を受けると,所定の期間(15日程度)内に公定幅運賃の範囲内の運賃の届出をしなければ,運賃変更命令違反(再違反)として事業許可取消処分を受けることが予定されており,さらに,運賃変更命令に反する運賃を収受すれば罰金刑に処せられることになる。そして,前記のとおり,上 記各処分は,タクシー事業者に公定幅運賃を遵守させることを目的とする一連の処分と位置付けられており,その要件が満たされる場合には,原則として処分権者がこれらの処分を相次いですることが予定されているものと解される。そうすると,前記(1)に説示した事情の下では,1回目の運賃変更命令がされた後,早ければ2か月程度の間にその命令違反を理由とする使用停止処分及び2回目の運賃変更命令を経て,その命令違反を理由とする事業許可取消処分の手続が開始され,それから間もなく事業許可取消処分がされるものと認められ,事業許可取消処分に至った場合には,タクシー事業の遂行自体が不可能となり,原告の事業基盤に深刻な影響が及ぶことになる。このように上記各処分が短期間のうちに反復継続的かつ累積加重的にされていくと事後的な損害の回復が著しく困難となるというべきであって,上記各処分がされることにより生ずる損害は,処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものであるとはいえず,処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであるということができ,その回復の困難の程度等に鑑み,上記各処分によって原告に「重大な損害 るものであるとはいえず,処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであるということができ,その回復の困難の程度等に鑑み,上記各処分によって原告に「重大な損害を生ずるおそれ」があるものと認められる。 被告は,上記各処分の差止めの訴えの訴訟要件の判断においては,上記各処分を一体として評価すべきではない旨主張するが,前記のような上記各処分の特質及び前記(1)に説示した事情に照らせば,上記各処分による損害の回復の困難の程度等について各処分ごとに個別に判断することは実態に沿わないものであって相当でなく,被告の上記主張は採用することができない。 ウこれに対して,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分は,公定幅運賃の範囲内にない運賃の届出を重ねて行わない限りは,同様の処分を受けるおそれはないのであり,運賃変更命令やその後続処分と異なり,反復継 続的にされる危険があるということはできないから,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分がされた後に取消訴訟を提起して執行停止の決定を受けることなどにより救済を受けることが可能であると考えられる。また,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分を受けた原告が運送収入の減少等の経済的損害を被ることは否定できないものの,当該処分の内容は,初違反で20日車,再違反で40日車の自動車等の使用停止により生ずるものにとどまり,原告の保有するタクシーの台数(70台)に照らすと,その営業に深刻な打撃を与えるものではなく,事後的に金銭による回復が可能なものということができる。これらの点に照らすと,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分によって原告に「重大な損害を生ずるおそれ」があるものとは認められない。 (3) 補充性の要件について差止めの訴えにつ ができる。これらの点に照らすと,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分によって原告に「重大な損害を生ずるおそれ」があるものとは認められない。 (3) 補充性の要件について差止めの訴えについては,「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」ではないこと,すなわち補充性の要件を満たすことが必要である(行政事件訴訟法37条の4第1項)。 これを本件についてみると,前記(2)に説示したところによれば,運賃変更命令又は運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分若しくは事業許可取消処分の取消訴訟を提起したり,それに伴い執行停止の申立てをすること等により実効的な救済が得られるとは認められないし,上記各処分の予防を目的とした事前救済の争訟方法として他に適当な方法があるとは解されないから,本件訴訟のうち上記各処分の差止めを求める訴えは,補充性の要件を満たすものということができる。 (4) 小括以上によれば,本件訴訟のうち,運賃変更命令並びに運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分及び事業許可取消処分の差止めを求める訴えは,差止めの訴えの訴訟要件を満たし,適法であるというべきである。 2 争点3(近畿運輸局長による裁量権の逸脱濫用)について(1) 認定事実前記前提となる事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,公定幅運賃制度の導入の経緯等について,以下の事実が認められる。 ア一般乗用旅客自動車運送事業者は,旅客の運賃及び料金を定めて国土交通大臣の認可を受けなければならず,国土交通大臣がこの認可をしようとするときは,能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること,他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれが 臣がこの認可をしようとするときは,能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること,他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること等の基準によるものとされているところ(道路運送法9条の3第1項,2項),行政運用上の措置として,地域ごとに標準的事業者の原価と利潤を基礎として上限額と下限額を定め,その範囲内の運賃(自動認可運賃)であれば,上記の基準に適合することが合理的に推認されるものとして,事業者ごとの個別の審査を省略して認可を行い,他方,下限割れ運賃である場合には,原則どおり,個別の審査を行うこととされていた。 (乙2,3,15)イ交通政策審議会は,平成20年12月,タクシーの運賃について,過度な低額運賃競争が行われた場合,運転者の労働条件や安全性の確保のための経費の削減が生じやすく,安全性やサービスの質の低下を通じて利用者に不利益をもたらすおそれがあるとした上,下限割れ運賃については,それが適正な原価で収支相償うものとして実施されるものであり,かつ,適正な経営が行われているとすれば,一律に利用者に不利益をもたらすものとしてこれを禁ずることは難しいとも考えられるとして,ガイドライン等の形で基準を明確化した上で,その適否を個々に判断する必要があるなどとする答申をした。(乙7)ウ平成21年6月,景気低迷によりタクシー需要が落ち込むとともに供給 過剰状況が進行し,運転者の賃金水準が低下するという状況を受け,特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法(平成25年法律第83号による改正前の平成21年法律第64号。以下「旧特措法」という。)が成立した。旧特措法により,供給過剰の状況等を考慮し 旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法(平成25年法律第83号による改正前の平成21年法律第64号。以下「旧特措法」という。)が成立した。旧特措法により,供給過剰の状況等を考慮して国土交通大臣が指定する地域においてはタクシー事業者等の協議による減車等が可能となり,また,その附則5項によって改正された道路運送法附則2項により,上記アの「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること」との基準は,当分の間,「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであること」と読み替えることとされた(なお,衆議院国土交通委員会及び参議院国土交通委員会において,それぞれ,自動認可運賃の幅を縮小するとともに,下限割れ運賃の審査を厳格化すること等を政府に求める旨の附帯決議がされている。)。(乙13,14)エ旧特措法の下においてタクシー事業の売上げと運転者の賃金は回復傾向にあったが,同法の施行後3年以上が経過して,それらの上昇の度合いやタクシーの供給過剰の解消効果が同法制定当初に期待されたよりも低い水準にとどまっていて不十分ではないかとの指摘や意見が出されるようになり,そのような状況の下において,B衆議院議員ほか6名は,平成25年10月,タクシーの供給過剰による運転者の労働条件の悪化や,それに伴う安全性やサービスの質の低下等を防止するとともに,利用者の利益を向上させることを目的として,旧特措法等を改正し,公定幅運賃の制度等を導入する旨の法律案を第185回臨時国会に提出し,その後,同法律案に基づく法律が成立し,同法による改正後の旧特措法(特措法)は,平成26年1月27日に施行された。(乙4,19~21)オ近畿運輸局長は,特措法の施行に伴い,公定幅運賃の範囲の指定方法等を定め,指定 づく法律が成立し,同法による改正後の旧特措法(特措法)は,平成26年1月27日に施行された。(乙4,19~21)オ近畿運輸局長は,特措法の施行に伴い,公定幅運賃の範囲の指定方法等を定め,指定方法公示により公表したが,指定方法公示では,タクシーの 公定幅運賃の範囲の指定につき,当該範囲を指定する趣旨が道路運送法9条の3第2項に基づく認可基準の趣旨と合致していることに加え,地域指定において新たに運賃原価等を見直す必要性が乏しいこと等を勘案し,従来から設定された自動認可運賃の範囲を公定幅運賃の範囲として指定することとされた。そして,近畿運輸局長は,原告を含め下限割れ運賃で営業するタクシー事業者が存在した大阪市域交通圏における公定幅運賃の範囲を指定し,これを本件公定幅運賃公示により公表したが,その上限額及び下限額は,当時の自動認可運賃の上限額及び下限額にそれぞれ消費税増額分を上乗せしたものであった。(乙26)(2) 検討ア特措法16条2項は,公定幅運賃の範囲について,「能率的な経営を行う標準的な一般乗用旅客自動車運送事業者が行う一般乗用旅客自動車運送事業に係る適正な原価に適正な利潤を加えた運賃を標準とすること」(同項1号),「一般旅客自動車運送事業者の間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」(同項3号)等の基準に適合するものでなければならないと規定するところ,これらの基準は抽象的,概括的なものであり,同基準に適合するか否かは,行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とするから,公定幅運賃の範囲の指定に関する判断には,国土交通大臣等に一定の裁量があることは否定することができない。しかし,公定幅運賃制度は,タクシー事業の営業形態を決する上で中核的な要素である運賃の設定自体 公定幅運賃の範囲の指定に関する判断には,国土交通大臣等に一定の裁量があることは否定することができない。しかし,公定幅運賃制度は,タクシー事業の営業形態を決する上で中核的な要素である運賃の設定自体を直接的に規制するものであり,タクシー事業者の営業の自由を相当程度制約するものであることからすると,公定幅運賃の範囲の指定に関する国土交通大臣等の判断が,事実の基礎を欠く場合,又は事実の評価を誤ることや判断の過程において考慮すべき事項を考慮しないこと等によりその内容が合理性を欠くものと認められる場合には,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとして違法 となると解するのが相当である。 イ前記前提となる事実及び認定事実によれば,近畿運輸局長は,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲を指定するに当たって,従前,大阪市域交通圏において,認可を受けて下限割れ運賃で営業していた原告を含むタクシー事業者の運賃や経営実態等を考慮することなく,当時の自動認可運賃の上限額及び下限額にそれぞれ消費税増額分を上乗せしたものをそのまま上限額及び下限額としており,その結果,初乗運賃(2.0㎞まで)については,原告が従前認可を受けていた額を160~180円も上回る下限額が指定されたものと認められる。 ところで,前記認定の特措法改正の経緯等に照らすと,特措法が公定幅運賃制度を導入した趣旨は,タクシーの供給過剰による運転者の労働条件の悪化や,それに伴う安全性やサービスの質の低下等を防止し,利用者の利便を確保することにあると解される。そして,前記認定事実によれば,道路運送法9条の3に基づく認可を受けて下限割れ運賃で営業していたタクシー事業者は,個別の審査により,能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたもの(又は加えたものを 認定事実によれば,道路運送法9条の3に基づく認可を受けて下限割れ運賃で営業していたタクシー事業者は,個別の審査により,能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたもの(又は加えたものを超えないもの)であることのほか,他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること等の基準を満たすものとして当該運賃の認可を受けたものといえるから,準特定地域において,当該事業者に当該運賃による営業を認めたとしても,直ちに低額運賃競争が行われ,運転者の労働条件の悪化や,それに伴う安全性やサービスの質の低下等が生ずるということはできない。ところが,公定幅運賃は,自動認可運賃と異なり,その範囲内にない運賃での営業を許さないものであって,自動認可運賃の下限額をもって公定幅運賃の下限額とした場合には,上記のような下限割れ運賃でのタクシー事業が禁止されることになる。これらの点を考慮すれば,国土交通大臣等は,公 定幅運賃の範囲の指定に当たって,当該地域に下限割れ運賃で営業していたタクシー事業者が存在する場合には,当該事業者の運賃や経営実態等をも考慮した上で当該地域における公定幅運賃の下限額を定めることを要するものというべきである。そうであるところ,近畿運輸局長は,上記のとおり,大阪市域交通圏において下限割れ運賃で営業していた原告等のタクシー事業者の運賃や経営実態等を全く考慮せずに公定幅運賃の範囲を指定したものであるから,その判断は,判断の過程において考慮すべき事項を考慮しなかったことにより合理性を欠くものと認められる。 ウこの点,被告は,特措法が公定幅運賃制度を定めた趣旨・目的は,運賃の値下げ競争を一時的に中断ないし予防することにより,減車による供給過剰状態の解消ないし予防を効 理性を欠くものと認められる。 ウこの点,被告は,特措法が公定幅運賃制度を定めた趣旨・目的は,運賃の値下げ競争を一時的に中断ないし予防することにより,減車による供給過剰状態の解消ないし予防を効果的に進め,運転者の労働条件を改善し,もって輸送の安全を確保することにあるから,公定幅運賃の範囲は,基本的には,自動認可運賃の上限額及び下限額の範囲と同様の範囲が想定されており,このことは,特措法に関する国会審議における法案提出者等の発言に照らしても明らかである旨主張する。 しかしながら,他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること等の基準を満たすものとして認可を受けた下限割れ運賃で営業していたタクシー事業者に当該運賃による営業を認めたとしても,直ちに低額運賃競争が行われ,運転者の労働条件の悪化が生ずるといえないことは上記のとおりであって,供給過剰である,又はそのおそれがあると認められる地域(特措法3条所定の特定地域又は同法3条の2所定の準特定地域)においても,新規参入や増車の制限(特措法14条の2,14条の3,14条の4,15条,15条の2)等によって供給輸送力自体の抑制が図られるにもかかわらず,下限割れ運賃で営業するタクシー事業者の存在が直ちに運賃の 値下げ競争を引き起こすということはできない。そうすると,公定幅運賃制度は,従前の自動認可運賃制度の下で認可を受けていた下限割れ運賃での営業を一律に規制することを目的とするものではなく,公定幅運賃の範囲の指定に当たって,従前の自動認可運賃を標準としつつ,当該地域において下限割れ運賃で営業していたタクシー事業者の運賃や経営実態等をも考慮して下限額を定めることは,特措法の趣旨に反しないものと解することができるのであるか の自動認可運賃を標準としつつ,当該地域において下限割れ運賃で営業していたタクシー事業者の運賃や経営実態等をも考慮して下限額を定めることは,特措法の趣旨に反しないものと解することができるのであるから,公定幅運賃制度が下限割れ運賃で営業していたタクシー事業者の利益を考慮することを予定していないということはできない。このように解することは,公定幅運賃の範囲について,「能率的な経営を行う標準的な一般乗用旅客自動車運送事業者が行う一般乗用旅客自動車運送事業に係る適正な原価に適正な利潤を加えた運賃」を「標準とすること」を要求する特措法16条2項1号の文言と矛盾するものではないし,仮に,上記のように解する余地がないとすれば,公定幅運賃制度による規制は,国土交通大臣の指定する地域のみにおける一時的なものであること等を考慮しても,タクシーの供給過剰による運転者の労働条件の悪化や,それに伴う安全性やサービスの質の低下等を防止するとともに,利用者の利益を向上させるという特措法の目的を超えるおそれがあり,規制と目的との関連性に疑問が生じ得るというべきである。また,法律の解釈に当たっては,立法目的との関連において合理的に解釈すべきものであるところ,国会審議における法案提出者等の発言内容が直ちに法律解釈の合理性を担保するものではなく,特措法の解釈において公定幅運賃の範囲と自動認可運賃の範囲とを一致させることに合理性がないことは上記のとおりである。 よって,被告の上記主張は,採用することができない。 エ以上によれば,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の下限額は,特措法の趣旨に照らして考慮すべき事項を考慮せずに指定されたものであり, 合理性を欠くものであると認められる。そうすると,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲の指定につ 特措法の趣旨に照らして考慮すべき事項を考慮せずに指定されたものであり, 合理性を欠くものであると認められる。そうすると,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲の指定については,近畿運輸局長の裁量権の範囲を超え又はその濫用があるものということができるから,上記指定を前提に,運賃変更命令又は運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分若しくは事業許可取消処分をすることも,裁量権の範囲を超え又はその濫用があるものとして,違法となるというべきである。 3 結論よって,本件訴えのうち,運賃の設定違反を理由とする使用停止処分の差止めを求める部分は不適法であるからこれを却下し,運賃変更命令並びに運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分及び事業許可取消処分の差止めを求める部分については,その余の点について判断するまでもなく,理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官西田隆裕 裁判官斗谷匡志 裁判官狹間巨勝
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