平成17(ワ)239 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成18年12月5日 奈良地方裁判所 葛城支部
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判決文本文14,311 文字)

- 1 -主文 被告は,原告に対し,1070万7761円及びこれに対する平成16年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は被告の負担とする。 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求 被告は,原告に対し,2193万9073円及びこれに対する平成16年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用被告負担第2事案の概要 本件は,奈良県磯城郡A町内の町道の路側帯を歩行中,町道沿いの水路に転落して負傷した原告が,被告に対し,町道及び水路の設置又は管理に瑕疵があったとして,国家賠償法2条1項に基づく損害賠償を求めている事案である。 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実等)( )転落事故の発生(以下「本件事故」という。) 日時平成16年7月14日午後8時ころ場所奈良県磯城郡A町BC番地所在のD小学校正門南側のA町道1号線(以下「本件町道」という。)南側水路(以下「本件水路」という。)のうち,別紙図面(図面の掲載は省略)中の「転落地点」として×印がついた付近(以下,同所に接する本件町道部分も含めて「本件事故現場」という。)- 2 -事故態様原告が本件町道の南側路側帯を歩行中,本件事故現場において本件水路に転落した。 ( )原告は,本件事故により,右大腿骨頚部骨折の傷害を負った。 ( )本件事故現場付近の状況は別紙図面のとおりであり,東西に走る本件町道 (片側1車線の2車線道路)の北側には幅約2.25メートルの歩道があり,南側には白実線で車道と区画された幅約1.65メートルの路側帯が設けられている。 本件町道は,本件事故現場の東方約7.92メ (片側1車線の2車線道路)の北側には幅約2.25メートルの歩道があり,南側には白実線で車道と区画された幅約1.65メートルの路側帯が設けられている。 本件町道は,本件事故現場の東方約7.92メートル先地点で,北西から南東に走る水路と交差している。上記水路が本件町道南側と交差する地点で本件水路は西に向かって分岐し,本件町道南側に沿って延びている(以下,この分岐地点を「本件分岐」という。)。本件水路は本件分岐から本件事故現場の西方約65メートル先地点まで断続的に開渠となっており,本件事故現場付近の幅は2ないし3メートル程度である。本件事故当時,本件町道のうち本件事故現場周辺の本件水路の開渠部分に接する箇所には,本件事故現場である長さ約1.7メートル,幅約2.25ないし2.4メートル,深さ約1.5メートルの開渠部分を除き,すべてガードレールが設置されていた。 ( )原告は,昭和15年E月F日生の女性である。 ( )被告は,本件町道を設置管理している。 ( )本件水路は国有水路であり,本件事故当時,本件水路への工作物の設置, 形状変更等の工事等についての許可及び境界確定等に係る権限は奈良県に属していたが,本件水路の補修・清掃等の維持管理は被告が担当していた。 争点 ( )被告の本件町道及び本件水路の設置管理上の瑕疵の有無 ア原告の主張被告は,本件町道及び本件水路を設置管理していたものであるが,一般に,道路と用水路が接しており道路を通行する人車が用水路内に転落する危険が- 3 -認められる場合,道路の設置管理者はその利用者が安全に通行しうるよう転落防止施設を設置すべき義務があると解されるところ,本件事故現場付近の本件町道には,南側に幅員2ないし3メートルの本件水路が平行していたにもかかわらず,本件事故当時,ガードレ 安全に通行しうるよう転落防止施設を設置すべき義務があると解されるところ,本件事故現場付近の本件町道には,南側に幅員2ないし3メートルの本件水路が平行していたにもかかわらず,本件事故当時,ガードレール等の転落防止装置が設置されていなかった。 そして,本件事故現場が小学校の正門近くであり,幼稚園も直近に存在するほか,住宅街にも近接しており,交通量も相当に多い道路であったこと,本件水路は道路面より約1.5メートルの深さがあり,転落すれば原告のように重傷を負う危険性が高く,水量が豊富な時期には暗渠に流されて命を失う危険もある状態であったこと,現に本件町道の南側路側帯と本件水路の間はほとんどの部分が高さ80センチメートルのガードレールが設置されるか有蓋の暗渠となっており,ガードレールが設置されておらずかつ暗渠にもなっていない箇所は,本件事故現場の幅1.7メートルだけであったこと,本件事故現場付近には照明灯はなく暗かったため,本件町道と本件水路の境目が分からない状態であったこと,後述するように,被告町内で他にもガードレールの設置されていない箇所での転落事故が発生していることなどを総合考慮すれば,被告が本件事故現場にガードレールを設置することなく放置していたことは本件町道の設置管理上の瑕疵にあたり,本件水路の管理上の瑕疵も認められる。 さらに,被告が,平成16年11月30日に原告から本件事故について抗議を受けた後,同年12月15日に本件事故現場にガードレールを設置したことは,被告がその責任を認めた証左というべきである。 なお,本件事故現場において,別紙図面の「G文具店」に居住する訴外Hのほか,D小学校の児童も二,三回転落したことがあるのみならず,本件事故後の平成16年12月6日,本件事故現場の西方約30メートル先地点で訴外Iが自転車ごと本件水路 面の「G文具店」に居住する訴外Hのほか,D小学校の児童も二,三回転落したことがあるのみならず,本件事故後の平成16年12月6日,本件事故現場の西方約30メートル先地点で訴外Iが自転車ごと本件水路に転落して両手首を骨折する重傷を負い,さらに,- 4 -平成17年にも本件事故現場の西方約65メートル先地点で夜間通行人が転落して負傷し,救急車で搬送される事故が発生するなど,本件事故現場付近では本件水路への転落事故が多発している。そして,本件水路以外にもA町内では道路の側溝等への転落事故が発生しており,被告の道路ないし水路管理の杜撰さは明らかである。 イ被告の主張(ア)本件町道の北側には整備された歩道が存在しており,歩行者としては同歩道を通行することによって安全に歩行することが可能であり,原告においても同歩道を通行することが可能であった。また,同歩道は,原告進行方向右側にあり,原告としてはなおさら上記歩道を通行すべきであった。 また,原告が歩行していた本件町道南側についても,本件町道の車道部分は片側1車線の2車線道路であり,その幅員は約6メートルあって,各車線とも車両が通行するのに十分な幅がある上,道路南側には幅約1.7メートルの路側帯が存在しており,本件町道の車道部分を車両が通常想定しうる態様で走行する限り南側の路側帯を歩行する歩行者にとって車両との接触や衝突の危険性はなく,後方から車両が接近してきたとしてもこれを避けるために南側水路方向に大きく避ける必要性はない。 このような本件事故現場付近の状況等に鑑み,路側帯を歩行する者において歩行者として当然払うべき通常の注意義務を怠らない限り本件水路に転落することは考えられない。 また,仮に原告が主張するとおりひったくりの恐怖から身を守るために避譲した結果本件事故が発生したのであれば,それ として当然払うべき通常の注意義務を怠らない限り本件水路に転落することは考えられない。 また,仮に原告が主張するとおりひったくりの恐怖から身を守るために避譲した結果本件事故が発生したのであれば,それは通常予測しうる事故態様でないことは明らかであって,このような通常予測できないような事態に対する対応が欠けていたとしても,そのために道路の設置管理に瑕疵があるとはいえない。 (イ)路側帯と本件水路との境界は判然としており,しかも,本件事故現場自体- 5 -にはガードレールは設置されていなかったもののその前後には設置されており,特に本件事故現場の三,四メートル東側には本件水路が露出し,水路と路側帯との間に長さ約4.7メートルに及ぶガードレールが設置され,路側帯を歩行する歩行者にとって上記水路及びガードレールの存在は当然認識しうるところであったから,同路側帯を東から西に向かって歩行していた原告にとっても本件事故現場に至る直前に同水路及びガードレールを左手に見て取れる状況であった。 本件事故現場付近の夜間の視界について,本件事故現場の直近にある商店の前には自動販売機が設置されており,また,原告が歩行していた本件町道南側には民家が軒を連ねており,民家の照らし出す明かりが存在したと考えられ,歩行者の前方及び足元の視界が著しく制限された状況であったとは考えられない。 よって,歩行者は,路側帯が水路と接していることを容易に認識しうる状態にあり,当然そのことを前提とした相当の注意をもって歩行すべきであり,かつ,それが可能な状態であった。 このような本件事故現場付近の客観的状況に鑑みれば,万が一原告が水路の存在を認識していなかったとしても,それ自体が原告において歩行者が通常払うべき注意を怠っていたことの証左である。 (ウ)原告はその視力の数値からして日常 近の客観的状況に鑑みれば,万が一原告が水路の存在を認識していなかったとしても,それ自体が原告において歩行者が通常払うべき注意を怠っていたことの証左である。 (ウ)原告はその視力の数値からして日常生活に支障が生じないとは言い難い状況にあり,これに加えて,原告自身が左目の見えにくさを訴え,事故後には左目の見えにくさから溝に転落したことを医師に自認していたことを考慮すれば,原告の左目の見えにくさが本件事故の要因になっていると考えられる。 (エ)以上に加えて,本件事故現場の水路内には水利組合の管理する井堰が存在し,同水利組合による利用の便宜上ガードレールが設置されていなかったところ,本件事故現場での転落事故はこれまで発生しておらず,また,本件事故現場について小学校近辺でありながら自治会や学校関係者等から被告に対- 6 -して危険箇所として要望はされていなかったこと,我が国の道路事情に鑑みると,本件事故現場のような市街地の舗装道路においても隣接する水路が無蓋の状態であったり,ガードレール等が設置されていないことは珍しいことではないことなどを考慮すると,仮に原告が後方から来る自動車の存在に気を取られた事実があったとしても,原告が前方及び側方(足元)への注意を著しく怠ったが故に本件事故が発生したことは明らかであり,本件事故現場にガードレールが設置されていなかったことをもって,本件町道が通常有すべき安全性を欠き,その設置管理に瑕疵があったとすることはできない。 なお,本件事故後に被告が本件事故現場にガードレールを設置したのは,実際に事故が発生したとの指摘を受けたことを重視し,より完全な安全性を確保すべくガードレールを設置したものであり,本件事故時点における瑕疵の存否の判断に影響を与えるものではない。 また,原告の指摘する本件事故現場で発生したとい を受けたことを重視し,より完全な安全性を確保すべくガードレールを設置したものであり,本件事故時点における瑕疵の存否の判断に影響を与えるものではない。 また,原告の指摘する本件事故現場で発生したという転落事故について,まず訴外Hは本件水路上に鉄板等をかけて家屋との往来を確保している者であり,そもそもどの部分から転落したのか明らかでない上,仮に本件町道から転落した事実があったとしても,本件における被告の道路管理の瑕疵とは無関係である。また,児童が二,三回転落したとの主張についても,その具体的内容は不明である。そして,本件事故現場以外で発生した転落事故に関する主張は,本件事故についての道路管理の瑕疵の有無の判断に影響を与えるものではない。 ( )原告の損害 ア原告の主張(ア)治療関係費38万0466円(イ)入院雑費9万9000円1500円×66日=9万9000万円(ウ)通院費12万4240円- 7 -(エ)入通院慰謝料173万円(オ)後遺障害による逸失利益1196万3455円原告は,右大腿骨頚部骨折により右股関節機能全廃の後遺障害を有し,右股骨頭置換術を施行した。身体障害者等級表の4級の障害認定を受けており,これは労災保険の障害等級表の第8級7号「1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」に該当するから,労働能力喪失率は45パーセントである。 また,原告は64歳(症状固定時)の女性であり,平成16年簡易生命表によれば平均余命は24.16歳であるから,就労可能年数は2分の1の12年と見込まれる。 よって,原告の後遺障害による逸失利益は,以下の計算式に基づき,1196万3455円が相当である。 計算式299万9600円〔平成16年賃金センサスの60歳~64歳の女子平均賃金〕×0.45〔労働能力喪失率〕×8 遺障害による逸失利益は,以下の計算式に基づき,1196万3455円が相当である。 計算式299万9600円〔平成16年賃金センサスの60歳~64歳の女子平均賃金〕×0.45〔労働能力喪失率〕×8.863〔12年のライプニッツ係数〕=1196万3455円(円未満四捨五入)(カ)後遺障害慰謝料830万円(キ)弁護士費用200万円(ク)合計2459万7161円(ケ)よって,原告は,被告に対し,本件事故による国家賠償法2条1項に基づく損害賠償2459万7161円の内金2193万9073円及びこれに対する本件事故の日である平成16年7月14日から支払済みまで,年5分の割合による金員の支払いを求める。 イ被告の主張原告の主張(ア)ないし(エ)は認め,その余は否認ないし争う。 なお,原告の後遺障害は,障害等級認定基準の定める「人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち,その可動域が健側の可動域角度の2分の1以下には制限されていないもの」にあたり,自賠法施行令2条別表の後遺障害別- 8 -等級表第10級11号「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」に該当する。 ( )原告の過失相殺(被告の予備的主張) ア被告の主張仮に本件町道の設置管理に瑕疵が認められたとしても,前記の諸事情からすれば,歩行者に要求されるべき通常の注意義務をもって歩行している限り本件水路に転落することは考えられず,本件事故発生について原告に重大な過失が存在することは明らかであるから,90パーセントを下らない割合による過失相殺がなされるべきである。 イ原告の主張本件事故は被告の基本的な道路及び水路管理上の瑕疵に基づくものであり,原告に過失はない。仮に過失ありとしても,1割以下が相当である。 第3当裁判所の判断 争点1(被告の本件 る。 イ原告の主張本件事故は被告の基本的な道路及び水路管理上の瑕疵に基づくものであり,原告に過失はない。仮に過失ありとしても,1割以下が相当である。 第3当裁判所の判断 争点1(被告の本件町道及び本件水路の設置管理上の瑕疵の有無)について( )前記前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア原告は,奈良県北㨯城郡J町在住であり,本件事故当日,被告町内の娘方に孫の子守をするため赴き,その帰途にK駅に向かって本件町道の南側路側帯を東から西に向かって通行中,後方から接近してきた自動車を避けようとして進行方向左(南;以下同じ。)側に寄ったところ,本件事故現場において,本件町道から本件水路内に転落した。 原告は右大腿骨頚部骨折の傷害を負い,本件水路内から自力で脱出することができず,しばらくして通行人が通報した警察官によって救出された。 イ原告は,本件事故現場付近の本件町道について,家族の運転する自動車に乗せてもらって夜間に二,三回,昼間に一,二回通行したことがあったが,徒歩で通行したのは今回が2回目程度であった。 ウ本件事故現場付近の状況は別紙図面のとおりであり,これを原告の進行方向- 9 -(東から西)に即して説明すると,まず,本件水路は,本件事故現場の約7. 92メートル手前(東寄り;以下同じ。)の本件分岐において,南東から北西方向へ延びる水路より西方へ分岐し,本件町道南側に沿って延びている。 この本件分岐地点の水路は開渠となっており,これと接する約4.7メートルの本件町道部分には白色ガードレールが設置され(以下「本件ガードレール」という。),以下東から西へ,順次,別紙図面の「L方」前の暗渠部分約3.22メートル,本件事故現場である開渠部分約1.7メートル,G文具店前の鉄板部分約3.8メートルと続き,同 「本件ガードレール」という。),以下東から西へ,順次,別紙図面の「L方」前の暗渠部分約3.22メートル,本件事故現場である開渠部分約1.7メートル,G文具店前の鉄板部分約3.8メートルと続き,同G文具店前から別紙図面の「M商店」前にかけての約14.82メートルは暗渠となっているものの,一部に長さ約2.8メートルと約1.85メートルの白色ガードレール2本が設置されている。 エ原告は,本件事故直前,進行方向左に本件ガードレールがあることは認識していたが,本件水路の存在については認識していなかった。 オ本件事故当時,本件事故現場のみガードレールが設置されていなかった理由は,本件事故現場の水路内に水利組合が管理する農業用水の水利井堰が設置されており,その管理の便宜のためであった。 カ本件事故現場周辺には,別紙図面記載のとおり防犯灯や自動販売機が設置されており,本件事故現場との距離は,D小学校の防犯灯との間が約16.4メートル,電柱取付の防犯灯との間が約11.8メートル,G文具店の自動販売機との間が約9.8メートル,M商店の自動販売機との間が約18.5メートルであるが,D小学校の防犯灯は通常点灯しておらず,また,本件事故現場西側の水路に架かるG文具店前の鉄板上には自動車が夜間停車しており,自動販売機と本件事故現場の間を遮る形になっている。 キ原告の平成16年6月25日時点の裸眼視力は,右0.04,左0.03であるが,本件事故当時はコンタクトを装用しており,矯正視力は0.4程度であった。 - 10 -ク本件事故現場付近のD小学校やN幼稚園その他の教育関係者や町民から被告に対し,本件事故現場について改善の要望が出されたことはなかった。また,被告は,本件事故当時,本件事故現場における転落事故について把握していなかった。 ケ被告は,原告の の教育関係者や町民から被告に対し,本件事故現場について改善の要望が出されたことはなかった。また,被告は,本件事故当時,本件事故現場における転落事故について把握していなかった。 ケ被告は,原告の夫からの申し入れを受けて,平成16年12月中旬,本件事故現場にガードレールを設置した。 ( )本件町道は,被告の設置管理する公の営造物であるというべきところ,国 家賠償法2条1項の「公の営造物の設置又は管理の瑕疵」とは,その営造物が通常有すべき安全性を欠き,他人に危険を及ぼす危険性のある状態をいい,このような瑕疵があったとみられるか否かは,当該営造物の構造,用法,場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的,個別的に判断すべきものである。 また,原告の本件事故が,本件道路の設置管理者である被告において通常予測することのできない行動に起因するものであるときには,営造物の通常の用法に即しない行動の結果事故が生じたものといえ,営造物として本来有すべき安全性に欠けるところはないから,その事故は営造物の設置管理上の瑕疵によるものとはいえない。 アこれを本件について見ると,本件町道は片側1車線の2車線道路であり,町立小学校や幼稚園等も面する町内の幹線道路として,道路状況を熟知した地元住民のみならず,一般公衆が広く日常の通行に利用することが想定される道路であること,他方,本件水路は,一旦転落事故が発生した場合には原告のように相当の重傷を負う可能性があり,場合によっては大人でも自力で脱出することが困難な事態も想定され,相当高度の危険性が認められるところ,現に被告は,本件事故発生当時,本件水路の開渠部分に接する本件町道のうち本件事故現場の約1.7メートル以外の箇所にはすべてガードレールを設置していたことなどが認められる。 - 11 -また,本 ,現に被告は,本件事故発生当時,本件水路の開渠部分に接する本件町道のうち本件事故現場の約1.7メートル以外の箇所にはすべてガードレールを設置していたことなどが認められる。 - 11 -また,本件事故は夜間に発生しているところ,上記()カ記載の本件事故 現場付近の照明の程度では,同ウ記載の本件事故現場手前の状況に照らして,予備知識のない本件町道の歩行者に本件水路が接していることや本件事故現場の開渠部分の存在を認識させるには十分なものではなかったと認められる(後記イ(イ)で改めて触れる。)。 イ次に,原告の本件事故が被告において通常予測することのできない原告の行動に起因するものとして,営造物の通常の用法に即しない行動の結果事故が生じたものといえるか否か,被告の主張に即して検討する。 (ア)まず,被告は,本件町道北側には歩道があった上,南側にも幅約1.7メートルの路側帯があり,後方から車両が接近してきたとしても,これを避けるために路外に避譲する必要はない旨主張する。しかしながら,道路交通法10条1項によれば,歩行者は,歩道又は歩行者の通行に十分な幅員を有する路側帯と車道の区別のない道路においては,原則として道路の右側端に寄って通行しなければならないところ,本件町道の南側路側帯は,白実線をもって表示され,歩行者の通行に十分な幅員を有しているから,原告は道路の進行方向右(北)寄りを通行する道路交通法上の義務を負うものではない。 したがって,原告が本件町道北側の歩道ではなく南側の路側帯を歩行していたことをもって営造物の通常の用法に即しない行動ということができないことは明らかである。また,歩行者が車道と工作物によって区画されていない路側帯を歩行するにあたり,走行車両からなるべく離れた路側帯の外側寄りを歩行することは,道路の設置管理者にとって ことができないことは明らかである。また,歩行者が車道と工作物によって区画されていない路側帯を歩行するにあたり,走行車両からなるべく離れた路側帯の外側寄りを歩行することは,道路の設置管理者にとって予測可能な通行態様といえる。 そして,路側帯を歩行している者が,たとえ自動車が車道内を走行し,物理的には衝突する可能性がほとんどない場合であっても,接近する自動車に対して不安や懸念を感じて避譲しようとすることはあり得る事態といってよく,その場合に歩行者が思わず路外へ出てしまい,側溝や水路等へ転落することは,道路の設置管理者として通常想定すべき転落事故の範囲内であるといえ,- 12 -しかもその場合には,いわば反射的・本能的にとっさに待避しようとした際に発生する事故であるから,それを前提に安全措置を講じることが要求される。 (イ)次に,被告は,原告が本件水路の存在を認識していなかった旨供述している点を捉えて,通常人であれば,本件事故現場の前後にはガードレールが設置されており,夜間でも照明は十分であったから,本件水路の存在を容易に認識できたものであり,原告がこれを認識していなかったとすれば,歩行者が通常払うべき注意を怠ったものであると主張する。 しかしながら,原告は本件事故現場手前の本件ガードレール(長さ約4.7メートル)の存在を認識していたとはいうものの,同ガードレールと本件転落現場の開渠との間には長さ約3.22メートルの暗渠が存在していた上,本件ガードレールから約23.54メートル先(西寄り;以下同じ。)までの本件水路は本件事故現場の約1.7メートル以外すべて暗渠となっており,しかも暗渠部分にもかかわらず2箇所にガードレールが設置されていたことなど本件事故現場の状況等に照らせば,予備知識に乏しかった原告が,夜間,上記()カ記載の認定に係る ル以外すべて暗渠となっており,しかも暗渠部分にもかかわらず2箇所にガードレールが設置されていたことなど本件事故現場の状況等に照らせば,予備知識に乏しかった原告が,夜間,上記()カ記載の認定に係る程度の照明の下で本件水路の存在を認識できな かったとしても不自然ではないし,また,歩行者が通常払うべき注意を怠ったということもできない。 なお,仮に本件ガードレールの存在に気づいた原告が,進んで同ガードレールで保護された開渠部分の水路の存在を認識し,あるいは認識することが可能であったとしても,上記()ウで認定したとおり,同開渠部分は,本件町 道と交差するように南東から北西へ延びる水路と本件水路との分岐点に位置し,しかも,本件分岐から西方へ延びる本件水路は直ちに約3.22メートルの暗渠で被われてしまうことなどからすれば,上記程度の照明の下では,南東から来た水路が本件町道の下を通ってそのまま北上していると推論するのが自然であるともいえ,上記開渠部分で本件水道が西方へ分岐して本件町- 13 -道に沿って延びているものと認識するのが通常であるとまではいえない。 (ウ)そして,被告は,原告の左目の見えにくさが本件事故の要因である旨指摘するが,道路の設置管理者において,すべての道路につき,道路の利用者として,およそ想定可能なあらゆる特性の歩行者が通行することを前提として安全措置を講じるべきであるとまでいうことはできないものの,他方で,何らハンディキャップのない歩行者のみを想定すれば足りるということもできないのであって,町内の幹線道路としての本件町道の利用形態や周辺環境等本件における事実関係の下では,仮に本件において原告の視力が低いことが事故発生に影響を与えているとしても,被告は少なくとも原告程度の視力の人物が夜間に通行することを想定して安全措置を 態や周辺環境等本件における事実関係の下では,仮に本件において原告の視力が低いことが事故発生に影響を与えているとしても,被告は少なくとも原告程度の視力の人物が夜間に通行することを想定して安全措置を講じるべきであったから,被告の主張は理由がない。 ( )以上検討したところに加えて,被告が本件事故当時,本件事故現場にガー ドレール等の転落防止設備を設置していなかった理由の面から見ても,また,設置費用の面から見ても,被告が本件事故現場に転落防止装置を設置することが不可能ないし著しく困難であったと認めるに足りる事情はないことも考え併せると,被告のその他の指摘する点を考慮しても,被告は,道路の設置管理者として,本件水路の存在や本件事故現場が開渠となっていることをあらかじめ知らない歩行者であっても,夜間,通常の注意をもってすれば安全に路側帯を通行できるように,歩行者がとっさに車道を走行する車両を避けようと行動する可能性を想定して,本件事故現場に接する本件町道南端に,周辺の他の開渠箇所と同様にガードレールを設置するか,あるいは十分な照明設備を設けた上で危険を知らせる標識等を設置するなどの転落防止措置を講じるべきであったと認めるのが相当であり,これを欠いたことは,本件町道の設置管理上の瑕疵に当たる。 よって,その余の点について検討するまでもなく,公の営造物たる本件町道の設置管理に瑕疵があったものというべきであり,被告は国家賠償法2条1- 14 -項の規定に基づく損害賠償責任を負う。 なお,本件事故後,被告によって本件事故現場にガードレールが設置されているが,だからといって被告が危険性を自認したものとは認められないし,事故後に改善策を講じた事実をもって危険性を自認したものと見ることによって,より安全な方策を講じることを抑止するおそれがあるから,こ るが,だからといって被告が危険性を自認したものとは認められないし,事故後に改善策を講じた事実をもって危険性を自認したものと見ることによって,より安全な方策を講じることを抑止するおそれがあるから,これを被告にとって不利益な間接事実として取り上げることは相当ではない。 また,原告主張に係る本件事故現場ないし被告町内で発生したという側溝等への転落事故は,これらが本件事故と事案を一にしていることを認めるに足りる証拠はないから,歩行者が道路脇の側溝等に転落する一般的危険性があることを裏付ける事情に止まるというべきある。 争点2(原告の損害)について( )治療関係費38万0466円 当事者間に争いがない。 ( )入院雑費9万9000円 原告が本件事故による傷害の治療のために66日間入院したことは当事者間に争いがない。 上記入院期間中の入院雑費は,1日1500円が相当である。 よって,原告の入院雑費は,9万9000円と認める。 ( )通院費12万4240円 当事者間に争いがない。 ( )入通院慰謝料173万円 原告が本件事故による傷害の治療のために66日間入院し,164日間通院したことは当事者間に争いがない。 よって,入院慰謝料は173万円が相当である。 ( )後遺障害による逸失利益717万8234円 ア証拠によれば,本件事故による原告の後遺障害の程度に関連して,以下の事- 15 -実が認められる。 原告は,平成16年7月29日付けで,下肢機能障害(右股間接機能の全廃)として,身体障害者福祉法別表に掲げる障害4級相当と診断を受けたが,その後,症状固定日である平成17年2月28日付けでなされた同じ医師による診断によれば,本件事故後の原告の股関節の可動域(他動)は,健側(左側)が屈曲125度・伸展-15度(可動域140 受けたが,その後,症状固定日である平成17年2月28日付けでなされた同じ医師による診断によれば,本件事故後の原告の股関節の可動域(他動)は,健側(左側)が屈曲125度・伸展-15度(可動域140度;以下同じ),外転45度・内転-15度(60度),外旋45度・内旋-35度(80度)であるのに対し,患側(右側)は屈曲95度・伸展-5度(100度),外転30度・内転-10度(40度),外旋35度・内旋-10度(45度)とされ,比較すると,患側の可動域は健側の可動域角度に対し,屈曲・伸展運動について約71.4パーセント,外転・内転運動について約66.7パーセント,外旋・内旋運動について約56.3パーセントとなっている。また,別の病院で平成17年2月16日に実施された股関節の可動域(患側のみ)の測定においても,屈曲95度・伸展-10度(105度),外転35度・内転-20度(55度),外旋25度・内旋-20度(45度)であり(いずれも他動),前記健側の各可動域角度と比較した場合の患側の可動域は,屈曲・伸展運動について75パーセント,外転・内転について約91. 7パーセント,外旋・内旋運動について約56.3パーセントとなっている。 そうすると,原告の後遺障害は,労災保険における障害等級認定基準の定める「人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち,その可動域が健側の可動域角度の2分の1以下には制限されていないもの」に該当するものといえ,自賠法施行令2条による後遺障害別等級表第10級11号「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」に該当すると認めるのが相当である。 よって,原告の上記後遺障害の内容・程度等に加え,後遺障害別等級表10級の場合の一般的な労働能力喪失率を参考にして,原告の後遺障害による労- 16 -働能力喪失率は27パー めるのが相当である。 よって,原告の上記後遺障害の内容・程度等に加え,後遺障害別等級表10級の場合の一般的な労働能力喪失率を参考にして,原告の後遺障害による労- 16 -働能力喪失率は27パーセントと認めるのが相当である。これに反する原告の主張は採用できない。 イ以上によれば,原告の逸失利益については,原告が病院で受付事務のパートとして勤務しており,同年代の女子の平均賃金程度の収入を,平均余命年数の2分の1程度の期間就労して得ることができる蓋然性があると認められ,以下の計算式により,717万8234円と算定される。 計算式299万9600円〔賃金センサス平成16年第1巻第1表の産業計・企業規模計・学歴計の60歳~64歳の女子労働者平均賃金〕×0.27〔労働能力喪失率〕×8.8632〔平成16年簡易生命表による64歳女性の平均余命24.16の2分の1である12年のライプニッツ係数〕=717万8234円(円未満切り捨て。以下同じ。)( )後遺障害慰謝料550万円 上記()記載の認定に加え,原告は人工骨頭置換術を施行されており,日 常生活にも支障が出ていることや,将来人工骨頭の入替再手術が必要になることなども考慮して,後遺障害慰謝料は550万円が相当である。 ( )以上の損害額合計1501万1940円 争点3(過失相殺)原告は十分な社会経験を有する成人女性であり,地理不案内な道路の路側帯を通行するに当たって慎重に歩行することを期待しても酷とはいえないこと,原告は本件事故現場手前の本件ガードレールの存在を認識しており,ひいては本件水路ないし本件事故現場の開渠に気づく契機がなかったとはいえないことなどに照らすと,本件事故の発生について原告にも足元の注意を怠った点で落ち度があったことは否定できず,その他事故の状況等諸般の は本件水路ないし本件事故現場の開渠に気づく契機がなかったとはいえないことなどに照らすと,本件事故の発生について原告にも足元の注意を怠った点で落ち度があったことは否定できず,その他事故の状況等諸般の事情を考慮し,本件事故についての原告の過失割合は3割5分を相当と認める。 まとめ( )過失相殺後の原告の損害賠償債権額は,1501万1940円の6割5分 - 17 -である975万7761円となる。 ( )本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の損害は,95万円と認める。 以上によれば,被告は,原告に対し,1070万7761円及びこれに対する本件事故発生日である平成16年7月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。 よって,主文のとおり判決する。 奈良地方裁判所葛城支部裁判官蛭田振一郎

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