平成20年7月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成19年(ワ)第16467号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成20年6月2日判決原告A同訴訟代理人弁護士向田誠宏国枝俊宏浜田冨士郎被告学校法人東京醫科大学同代表者理事長B被告C被告ら訴訟代理人弁護士桑原博道蒔田覚岡部真勝主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告らは,原告に対し,連帯して金160万円及びこれに対する平成18年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告学校法人東京醫科大学の開設する病院において被告C医師により右手背部に造影剤注入のための静脈注射を受けた後,右手第4指指神経障害の後遺障害が残ったと主張する原告が,被告Cにおいて,注射針の穿刺に際して注射針で手の背側指神経を傷つけないように細心の注意を払うべき注意義務 に違反して注射針を深い角度で穿刺した,造影剤の点滴により指神経を損傷する危険性を事前に説明する義務を怠ったとして,被告らに対し,診療契約上の()()債務不履行被告学校法人東京醫科大学につき又は不法行為被告Cにつきに基づいて,後遺障害慰謝料等の損害の賠償を求めている事案である。 前提事実(証拠原因により認定した事実については,括弧書きで当該証拠原因を掲記する。その余の事実は当事者間に争いがない)。 (1)当事者ア被告学校法人東京醫科大学は,東京都新宿区内において「東京医科大,」(「」。)。 学病院という名称の病院以下被告病院というを開設しているイ被告Cは,平成18年11月当時,被告病院の消化器外科に勤務していた 都新宿区内において「東京医科大,」(「」。)。 学病院という名称の病院以下被告病院というを開設しているイ被告Cは,平成18年11月当時,被告病院の消化器外科に勤務していた医師である。 ウ原告は,昭和52年生まれの女性であり,被告病院において平成18年11月に被告Cによる診療を受けた。 エ原告は,平成18年11月以前から現在に至るまで,フリーのバレエダンサーを務めてきた(甲A3・1頁。 )(2)被告病院における原告の診療経過等ア原告は,平成18年11月19日,50ccバイクで走行中,前方を走行していたトラックを避けようとして転倒し,左膝及び上腹部を打ち付けた。原告は,救急車で被告病院に搬送されたが,腹部の臓器の損傷が疑われたことから同病院消化器外科の被告Cの診察を受けることになった乙,(A1・2,7頁。 )イ被告Cは,原告が交通事故によって受傷した患者であったことから,臓器損傷の有無を確認する必要性が高いと判断し,同日,胸腹部造影CT検査を行うことにした(CT検査には,造影剤を使用せずに撮影を行う単純CTと造影剤を血管内に注射してから撮影を行う造影CTとがあるが,造影CTの方が血管や臓器の状況に関するより明瞭な画像が得られる。 。) 被告Cは,穿刺部位として左手の背側中手静脈(乙B1)を選択し,同静脈からの造影剤注入を試みたが,造影剤の血管外漏出が確認され,同静脈から造影剤を注入することができなかったため,穿刺部位を右手の背側中手静脈に変更した。そして,右手の背側中手静脈から造影剤を注入するために同静脈を確保しようとして右手背部に注射針を穿刺した(以下「本件注射」という。乙A1・2頁,乙A2・1,2頁,原告本人3,4頁,被告C本人2,3,11,12頁。 )ウ原告は,以後,平成18年11 同静脈を確保しようとして右手背部に注射針を穿刺した(以下「本件注射」という。乙A1・2頁,乙A2・1,2頁,原告本人3,4頁,被告C本人2,3,11,12頁。 )ウ原告は,以後,平成18年11月21日,同月24日,同月28日,平成19年1月9日,同年2月21日及び同年4月11日の6回にわたり,被告病院を受診した(乙A1・3,4,11ないし13頁。 )エDクリニックのE医師は,平成19年3月26日に,原告を診察し,右手第4指指神経障害であるとの診断書(甲A1)を作成した。 原告の主張(1)手技上の義務違反ア造影剤の注入部位として背側中手静脈を選択した被告Cは,注射針の穿刺に際し,注射針で手の背側指神経を傷つけないように細心の注意を払うべき注意義務を負っているところ,これを怠り,注射針で原告の右手第4指(薬指)の指神経を損傷した。すなわち,背側中手静脈は外見で認識し得るのであるから同静脈を正確に確保し注射針を極めて斜めに浅く皮,,(膚に対して約10度の角度で)穿刺すれば右手第4指指神経を傷つけることはなかったにもかかわらず,被告Cは,注射針を深い角度(皮膚に対して約20度の角度)で穿刺したものであり,原告の右手第4指指神経の損傷は,被告Cの注射手技が未熟であったために生じたものである。 イ被告Cが注射針の穿刺により原告の右手第4指指神経を損傷したため,原告には右手第4指指神経障害の後遺障害が残った。原告の右手指の痺れはいまだ消失していない。 (2)説明義務違反仮に手背静脈からの造影剤の点滴がブラインドタッチであるために背側指神経を痛める危険性あるいは可能性があるのであれば,被告Cは,その危険性を原告に事前に説明すべき義務があるのに,これを怠り,背側指神経を痛める危険性あるいは可能性について事前に原告に説明し に背側指神経を痛める危険性あるいは可能性があるのであれば,被告Cは,その危険性を原告に事前に説明すべき義務があるのに,これを怠り,背側指神経を痛める危険性あるいは可能性について事前に原告に説明しなかった。 (3)損害ア傷害慰謝料及び後遺障害慰謝料計145万円イ弁護士費用15万円 被告らの反論(1)手技上の義務違反の主張についてア血管の真上から注射針を穿刺すると,血管が左右に移動し,血管確保が困難になること,また,その際に血管下の神経を傷つける危険が存することから,目的とする血管の左右いずれかから,水平方向に若干の角度をつけて注射針を穿刺して血管を確保する方法が通常とられている。本件注射の際に,被告Cは,皮膚に対して10度から20度程度の角度で注射針を穿刺しているが,これは通常の静脈確保の手技にのっとったものであり,かかる手技をもって法的な義務違反と評価されるべき理由はない。神経の具体的な走行は千差万別であり,注射針の穿刺以前に静脈と神経の具体的位置関係を正確に把握する術はないから,仮に針先が神経に触れることがあったとしても,それはブラインドタッチによることのやむを得ない合併症・偶発症である。 イ仮に原告に神経症状が存在しているとしても,上記1(2)アの交通事故による影響も否定できないところであり,原告に神経症状が現れたことから,直ちに本件注射によって神経障害が引き起こされたと推認することはできない。 (2)原告の主張する神経損傷の事実自体が極めて懐疑的であること ア原告は,本件注射後,右手の第3指から第5指にかけて痺れて来た旨供述し(甲A3・2頁,診療録にも,原告が本件注射後に第3指の神経症)状を訴えた旨の記載がある(乙A1・3頁。しかしながら,本件注射の)刺入点は尺骨神経手背枝の第3指への分岐部 けて痺れて来た旨供述し(甲A3・2頁,診療録にも,原告が本件注射後に第3指の神経症)状を訴えた旨の記載がある(乙A1・3頁。しかしながら,本件注射の)刺入点は尺骨神経手背枝の第3指への分岐部よりも末梢側であり,本件刺入点付近を走行している尺骨神経手背枝が司っているのは,第4指の外側及び第5指の内側の感覚神経であるから,解剖学的に見て第3指に神経症状が生じることはあり得ない。したがって,原告の第3指の神経症状の訴えは,神経の支配領域と明らかに矛盾し,医学的な知見に反するものであり,また,原告の主観的な訴え以外にこれを裏付ける所見が存在しない。 イ原告は,本件注射の当日の左手の状態を携帯電話で撮影して証拠(甲A2)として提出しているが,このことは,原告が,右手で携帯電話を握持の上,左手を撮影することができたことを意味している。また,平成18年12月17日に撮影された写真画像(乙A3の1)によれば,原告の右手の指は,筋肉が張った状態での動きをしており,このような動きは,強い痺れや痛みを感じている者に容易に可能な動きではない。 ウ原告は,当初,右手の第3指及び第4指についてのみ痺れを訴え,第5指については痺れを訴えていなかったものであり(乙A1・3頁,平成)18年11月21日の診察の際にも,原告の右手に知覚異常や感覚異常がないことが確認されている。したがって,原告の右手第5指に何ら神経症状が存しなかったことは明白である。 エしたがって,本件注射によって原告の神経が損傷されたという原告の主張自体が極めて疑わしい。 (3)説明義務違反の主張についてア注射針の穿刺による偶発症の発生自体が極めて低率であること,後遺障害の残存が極めて稀であること,さらに,後遺障害の程度も知覚異常(運動機能障害はない)といった比較的軽度のものであること についてア注射針の穿刺による偶発症の発生自体が極めて低率であること,後遺障害の残存が極めて稀であること,さらに,後遺障害の程度も知覚異常(運動機能障害はない)といった比較的軽度のものであることに照らすと,被 告Cは本件注射に当たり神経損傷のリスクを説明すべき法的義務を負っ,,ていなかった。 イ仮に被告Cが神経損傷の可能性について説明すべき義務を負っていたとしても,原告は,造影剤アレルギーの危険性について説明を受けた上で造影CT検査を承諾しているから,神経損傷の可能性の説明によって本件注射を拒絶したとは考えられず,説明義務違反と結果との間に因果関係はない。 (4)原告の主張する後遺障害の残存が極めて懐疑的であることア上記1(2)エのとおり,E医師は,平成19年3月26日に原告を診察,(),し右手第4指指神経障害であるとの診断書甲A1を作成しているが上記診断の根拠は全く不明であること,原告がDクリニックに通院したのは1回のみであること,E医師が,被告病院の診療録,臨床経過を検討することなく,上記診断書において,造影剤投与との因果関係についてまで言及していること,上記クリニックにおいて,神経学的検査が実施されたとは考えられないこと等からすれば,上記診断書は,原告の主観的訴えのみに依拠して作成された疑いが極めて濃厚である。 イ仮に注射針の先が神経に触れたとしても,神経症状は期間の経過により改善し,概ね3か月程度で治癒するのが一般的であり,後遺障害として残存することは極めて稀である。そして,原告が痺れの訴えで被告病院を受,,,,診したのは平成18年11月24日同月28日平成19年1月9日同年2月21日及び同年4月11日のわずか5日にとどまる。 ウ原告は,本件注射後,右手の第3指から第5指にかけて痺 ,,,,診したのは平成18年11月24日同月28日平成19年1月9日同年2月21日及び同年4月11日のわずか5日にとどまる。 ウ原告は,本件注射後,右手の第3指から第5指にかけて痺れて来た,現,(),在でも第4指第5指が痺れている旨供述する甲A3・2頁けれども上記(2)ウのとおり,原告は,当初,右手の第5指については痺れを訴えておらず(乙A1・3頁,平成18年11月21日の診察の際にも,原)告の右手に知覚異常や感覚異常がないことが確認されている。損傷された 神経は,経時的に回復するものであり,当初存在しなかった知覚障害や知覚異常がその後に発生することは通常考えられないから,原告の右手第5指の痺れが本件注射によって生じたとは考えられない。 エしたがって,仮に本件注射の際に針先が原告の神経に触れたとしても,本件注射によって後遺障害が残存したという原告の主張は極めて疑わしい。 第3当裁判所の判断 原告が被告病院で診察を受けた後本訴訟を提起するまでの経過について上記第2の1の事実に証拠甲A3乙A1 原告本人被告C本人た(,,,,(だし,甲A3,原告本人については,後記の採用しない部分を除く)のほか,各項に掲記したもの)及び弁論の全趣旨を併せると,本件における原告の診療経過等について以下の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 (1)平成18年11月19日の診療ア原告は,平成18年11月19日,50ccバイクで走行中,前方を走行していたトラックを避けようとして転倒し,左膝及び上腹部を打ち付けた。そのため,救急車で被告病院整形外科に搬送され,整形外科のF医師の診察を受けたが,腹部の臓器の損傷が疑われたことから,F医師は,消化器外科による診療を優先することにし,被告C び上腹部を打ち付けた。そのため,救急車で被告病院整形外科に搬送され,整形外科のF医師の診察を受けたが,腹部の臓器の損傷が疑われたことから,F医師は,消化器外科による診療を優先することにし,被告Cが原告を診察することになった(乙A1・2,7,8頁,乙A2・1頁。 )イ被告Cは,臓器損傷の有無を確認するため,胸腹部造影CT検査を行うことにした。そして,原告に対し,臓器損傷の見落としを防ぐためには造影剤を用いることが望ましいこと,万一臓器損傷を見逃した場合には,生命の危険にさらされる可能性もあること,ただし,造影CT検査を行った場合に造影剤アレルギーなどの副作用が起きる可能性があること,血管外に造影剤が漏れることがあることを説明し,妊娠の有無や造影剤アレルギーの有無について問診を行い,いずれもないとの回答を得た。その際, 被告Cは,注射針の穿刺による神経損傷の可能性については説明しなかった。 ,,(,原告は被告Cの説明を了承し検査同意書に署名した乙A1・2頁,,,,,)。 乙A2・1頁乙A4原告本人2頁被告C本人11 37頁ウ胸腹部造影CT撮影を行う場合には,CT装置の寝台の上に患者を仰向けにし,その両手を頭の上に置かせた状態で撮影を行うことが一般的であるところ本件においても被告CはCT装置の寝台の上に仰向けになっ,,,た原告に,両手の指先を頭の上で重ねる姿勢をとらせた(原告本人5頁,被告C本人3,33頁。 )エ成人の場合には,造影CT検査のための注射針穿刺部位として,前腕肘窩か手背部の表在静脈が選択されるのが通常であるところ,手を頭の上に上げた状態では肘の部位の血管が曲がっているため,同部位に注射針を穿刺すると血管を突き破る危険性があり,また,その状態では肘の部位よりも手背部の方が 脈が選択されるのが通常であるところ,手を頭の上に上げた状態では肘の部位の血管が曲がっているため,同部位に注射針を穿刺すると血管を突き破る危険性があり,また,その状態では肘の部位よりも手背部の方が血管が見えやすいことから,被告Cは,手背部の表在静脈に穿刺することにした。そして,原告は右利きであるところ,右利きの患者は注射の際に不意に右手を動かすことがあるため,右利きの患者に対しては利き手でない左手の静脈を確保する方が安全であると考えられることを考慮し,被告Cは,左手背部の表在静脈である背側中手静脈(乙B1)から造影剤を注入することにした(乙A2・2頁,被告C本人3,4,33頁。 )オ被告Cは,原告の左手をゴム製の駆血帯で巻いた上,左手背部の第4指と第5指の根本付近の部位に,皮膚に対して10度から20度程度の角度で注射針を穿刺した。そして,静脈血の逆流を確認できたことから,駆血帯を外して,上記背側中手静脈からの造影剤注入を試みた。ところが,造影剤の血管外漏出が確認されたため,被告Cは,直ちに造影剤の注入を中止して注射針を抜いた。その際,原告から痛みの訴えはなかったが,原告 (,,,は少し泣きじゃくっていた甲A3・1頁乙A1・2頁乙A2・2頁原告本人3頁,被告C本人3,4,5,19,31,35頁。 )カ被告Cは,左手の背側中手静脈から造影剤を注入できなかったため,注射部位を右手の背側中手静脈に変更することにし,原告の右手をゴム製の駆血帯で巻いた上,右手背部の第4指と第5指の根本付近の部位に,皮膚に対して10度から20度程度の角度で注射針を穿刺した(本件注射。 )ところが,針先が血管内に到達する前に原告が痛みを訴え,注射をやめるよう求めたため,被告Cは,駆血帯を外し,注射部位にアルコール綿を置いた上で,注射針を抜い の角度で注射針を穿刺した(本件注射。 )ところが,針先が血管内に到達する前に原告が痛みを訴え,注射をやめるよう求めたため,被告Cは,駆血帯を外し,注射部位にアルコール綿を置いた上で,注射針を抜いた。そして,造影CT検査を行うことを断念し,単純CT検査を実施した(甲A3・1,2頁,乙A1・2,3,11頁,,,,,,)。 乙A2・23頁原告本人4頁被告C本人5ないし7 35頁なお,上記穿刺部位は,通常の神経走行であれば,尺骨神経手背枝の第3指への分岐部よりも末梢側であるといえる(被告C本人6,7,8頁及び同本人調書別紙。 )(2)平成18年11月21日の診療原告は,平成18年11月21日に,被告病院の消化器外科を受診し,被告Cの診察を受けた。被告Cは,左手背部の腫れが軽減していることを説明するとともに,原告の右手の状況を診察し,知覚異常及び感覚異常はないが右手第3指及び第4指に軽度の痺れがあるとの訴えを診療録に記載した。被告Cは,原告に対して整形外科の受診を勧めたが,原告はこれを断った。そして,被告Cは,原告に対し,右手の痛みや痺れは1週間ほどで治まるから(,,,様子を見てほしいと説明した甲A3・2頁乙A1・3頁乙A2・3頁被告C本人14,22,23,36,37頁。 )(3)平成18年11月24日の診療アその後も,右手背部から右手第3指及び第4指にかけての痛みと痺れが続いたことから,原告は,平成18年11月23日,被告病院に電話をか けた。休診日であった被告Cに代わって応対した消化器外科のG医師は,原告に対し,被告病院整形外科への紹介状を書くと説明して,翌24日の受診を指示した(甲A3・2頁,乙A1・3頁,原告本人6頁,被告C本人24頁。 )イ原告は,被告病院消化器外科を受診し,診 は,原告に対し,被告病院整形外科への紹介状を書くと説明して,翌24日の受診を指示した(甲A3・2頁,乙A1・3頁,原告本人6頁,被告C本人24頁。 )イ原告は,被告病院消化器外科を受診し,診察したG医師に対し,右手背部の穿刺された部位から右手第3指及び第4指にかけて疼痛と痺れがある。 ,,と訴えたその際左手の造影剤が漏出した部位については疼痛はないが右手については,痛みは軽減しているものの,痺れが増強していると述べた。原告は,G医師から,被告病院整形外科を紹介され,H医師の診察を受けた(乙A1・3,4,6,14頁,被告C本人8頁。 )ウ原告を診察したH医師は,本件注射の穿刺部位の腫脹や熱感を認めることはできなかったものの,原告からティネル徴候(神経の走行に沿って皮膚の上から指で神経を叩いた場合に,再生神経の先端あるいは神経の障害部位でその神経の支配領域にビリッとする感じや蟻走感を生じること)と見られる症状及び右手第4指尺側に放散する痛みの訴えがあったことから,右手背部側副神経損傷疑いと診断し,メチコバールを処方した(乙A1・4,6,11,14頁,被告C本人8,9頁,弁論の全趣旨。 )(4)平成18年11月28日の診療原告は,被告病院整形外科を受診し,診察したI医師に対し,本件注射の穿刺部位のティネル徴候と見られる症状及び右手第3指及び第4指の背側の痺れ感を訴えた。握力測定の結果は,右手0キログラム,左手23.3キログラムであった。I医師は,原告に対し,メチコバールとインテバンクリームを処方した(乙A1・12頁。 )(5)平成19年1月9日の診療原告は,被告病院整形外科を受診し,診察したI医師に対し,本件注射の穿刺部位のティネル徴候と見られる症状を訴えたほか,痺れ感は従前と同様 で右手の指の動きが鈍いと訴えた 平成19年1月9日の診療原告は,被告病院整形外科を受診し,診察したI医師に対し,本件注射の穿刺部位のティネル徴候と見られる症状を訴えたほか,痺れ感は従前と同様 で右手の指の動きが鈍いと訴えた。握力測定の結果は,右手9.8キログラム,左手22.8キログラムであった(乙A1・12頁。 )(6)平成19年2月21日の診療原告は,被告病院整形外科を受診し,診察したI医師に対し,ティネル徴候と見られる症状は1月9日の診療時と同様であると訴えた。その際,原告は,ダンサーとしての仕事は普通に行っており,多忙であると述べた。握力測定の結果は,右手8.9キログラム,左手21.6キログラムであった。 測定の際,原告は,痛みが走ることを恐れて十分力を入れなかったが,握ろうと思えばもう少し握ることができた。診察後,I医師は,原告に対し,メチコバールとインテバンクリームを処方したが原告は受け取らなかった乙,(A1・12頁,乙A5,原告本人16,26,28頁。 )(7)平成19年4月11日の診療原告は,被告病院整形外科を受診し,診察したI医師に対し,穿刺された部位の痛みは消失したが,右手の痺れ感は残っていると訴えた。握力測定の結果は,右手17.3キログラムであった(乙A1・13頁。 )(8)本訴訟の提起に至るまでの経緯ア被告病院は,平成19年3月22日ころ,原告に対し,本件注射における注射針穿刺の際に神経損傷によると思われる右手指の痺れが残った件に関し,あくまでも医療行為に伴う偶発的出来事であったと考えられるが,心情的配慮から,被告病院が見舞金として30万円を原告に支払うことで示談することを提案した(甲C1の1・2。 )イこれに対し,原告は,平成19年3月26日,Dクリニックを受診し,E医師の診察を受けた。E医師は「右第4指指神経障害」 て30万円を原告に支払うことで示談することを提案した(甲C1の1・2。 )イこれに対し,原告は,平成19年3月26日,Dクリニックを受診し,E医師の診察を受けた。E医師は「右第4指指神経障害」を病名とする,診断書を作成した。上記診断書には「右第4指外側に表在知覚低下,異,常知覚を認める。造影剤投与の為に刺入された注射針が原因となった可能性がある」との記載がある(甲A1,原告本人9,10,17ないし1。 9頁。 )ウ原告は,平成19年6月28日に,本訴訟を提起した。 本件注射による原告の右手背部の神経損傷の有無(1)上記1で認定したとおり,原告は,被告Cが平成18年11月19日に本件注射を行った際,針先が血管内に到達する前に痛みを訴え,注射をやめるよう求めている(1(1)カ。また,原告は,本件注射後,右手第3指及)び第4指の軽度の痺れ(同月21日,右手背部から右手第3指及び第4指)にかけての痛みと痺れ(同月23日,右手背部の穿刺された部位から右手)第3指及び第4指にかけて疼痛と痺れ(同月24日。なお,痛みは軽減しているものの,痺れが増強していると訴えた,右手第3指及び第4指の背。)側の痺れ感(同月28日,従前と同様の痺れ感及び右手の指の動きが鈍い)こと(平成19年1月9日)をそれぞれ訴えているほか,平成18年11月24日には,原告が本件注射の穿刺部位付近のティネル徴候と見られる症状及び右手第4指尺側の放散痛を訴えたため,右手背部側副神経損傷疑いとの診断がされている。また,同月28日,平成19年1月9日及び同年2月21日にも,原告は本件注射の穿刺部位付近のティネル徴候と見られる症状を訴えている(1(2)ないし(6) 。これらの事情は,本件注射によって原告の)右手の尺骨神経手背枝を損傷したことをうかが 2月21日にも,原告は本件注射の穿刺部位付近のティネル徴候と見られる症状を訴えている(1(2)ないし(6) 。これらの事情は,本件注射によって原告の)右手の尺骨神経手背枝を損傷したことをうかがわせる事情であるということができる。 (2)一方,上記1(1)カ及び証拠(乙B1,被告C本人8頁)によれば,原告の神経走行が一般的な文献(乙B1)に掲載されているとおりの通常の神経走行であることを前提にすれば,本件注射の穿刺部位は,尺骨神経手背枝の第3指への分岐部よりも末梢側であるといえること,同部位付近を走行している尺骨神経手背技が司っているのは,第4指の外側及び第5指の内側の感覚神経であること,したがって,本件注射によって第3指に神経症状が生じることはあり得ないことが認められる。そうとすると,本件注射によって原 告の右手の尺骨神経手背枝を損傷したとしても,右手第3指の痛みと痺れの症状が引き起こされることは通常は考えにくく,このことは,上記(1)の原告の右手第3指の痛みと痺れが本件注射以外の原因によって発生した可能性を示唆するものである。 もっとも,証拠(被告C本人8,10,26頁)によれば,受傷直後に痛みの部位がはっきりしなかったり,患者が痛みの部位を正確に特定できないことがあること,原告の神経走行が一般的な文献(乙B1)に掲載されている通常の神経走行と異なる可能性があることが認められるから,本件注射後に原告が訴えていた右手第3指の痛みと痺れが本件注射によって生じた可能性を完全に否定することはできない。 (3)以上によれば,本件注射によって原告の右手の尺骨神経手背枝を損傷した可能性があると認めることはできるが,そのように断定することは困難というほかない。 被告Cの手技上の義務違反の有無について(1)上記第2の1(2)イで認 て原告の右手の尺骨神経手背枝を損傷した可能性があると認めることはできるが,そのように断定することは困難というほかない。 被告Cの手技上の義務違反の有無について(1)上記第2の1(2)イで認定したとおり被告Cは交通事故での受診であっ,,たことから,臓器損傷の有無を確認する必要性が高いと判断し,胸腹部造影CT検査を行うことにしたものであるところ,上記第2の1(2)ア及び証拠(乙A2・5頁,被告C本人2,3,11頁)によれば,原告は,交通事故により左膝及び上腹部を打ち付け,救急車で被告病院に搬送されたこと,交通事故による臓器損傷を見落とすと極めて重篤な結果を招く危険があり,死の危険にさらされることもあることが認められ,臓器損傷の見落としを防ぐために造影CT検査を行う必要性は大きかったことが認められるから,原告に対して胸腹部造影CT検査を行うことにした被告Cの判断は,合理的なも。 ,,,のであったということができるまた上記1(1)ウエで認定したとおり被告Cは,CT装置の寝台の上に仰向けになり両手の指先を頭の上で重ねる姿勢をとっている原告に造影CT検査のための注射針を穿刺するに当たり, 肘の部位に注射針を穿刺すると血管を突き破る危険性があること,同部位よりも手背部の方が血管が見えやすいことから,穿刺部位として,手背部の表在静脈を選択したものであるところ,この選択が不適切であったことをうかがわせるような事情は見当たらない。 (2)ところで,上記第2の2(1)アのとおり,原告は,被告Cが,注射針の穿刺に際し,注射針で手の背側指神経を傷つけないように細心の注意を払うべき注意義務を怠った,具体的には,本件注射を行うに当たり,背側中手静脈を正確に確保し,注射針を極めて斜めに浅く(皮膚に対して約10度の角度で)穿刺すべきであ 神経を傷つけないように細心の注意を払うべき注意義務を怠った,具体的には,本件注射を行うに当たり,背側中手静脈を正確に確保し,注射針を極めて斜めに浅く(皮膚に対して約10度の角度で)穿刺すべきであったにもかかわらず,注射針を深い角度(皮膚に対して約20度の角度)で穿刺したと主張しているので,この主張について検討する。 上記1(1)カ及び証拠(乙A2・3頁)によれば,一般に,血管の真上か,,,,ら注射針を穿刺すると血管が左右に移動し血管確保が困難になりまたその際に血管の下にある神経を傷つけるおそれがあること,そのため,通常は,目的とする血管の左右いずれかから,皮膚に対して若干の角度をつけて血管確保を行うこと,本件注射に当たっても,被告Cは,皮膚に対して10度から20度程度の角度で注射針を穿刺したことが認められる。 この点について,原告は,本件注射に当たり,注射針と右手背部との角度が少し大きかった旨供述しているが(甲A3・1,2頁,原告本人6頁,)他方で,注射針が穿刺された際の姿勢については記憶にないとも供述しているのであり(原告本人14,26頁,この点に関する原告本人の供述は必)ずしも明確なものではないから,原告の上記供述は採用することができず,他に,注射針の穿刺角度についての上記認定を覆すに足りる証拠はない。 そうすると,被告Cは,一般的な刺入方法に従って本件注射を行ったということができる。 (3)一方,証拠(乙A2・3頁,乙B1,乙B2・14頁,被告C本人6, 25頁)によれば,尺骨神経手背枝は,背側中手静脈と併走しており,同静脈周辺を通過する部分もあること,神経の具体的走行は千差万別であり,外部から認識することもできないから,注射針の穿刺以前に静脈と神経の具体的な位置関係を正確に把握する方法はないこと(ブライ り,同静脈周辺を通過する部分もあること,神経の具体的走行は千差万別であり,外部から認識することもできないから,注射針の穿刺以前に静脈と神経の具体的な位置関係を正確に把握する方法はないこと(ブラインドタッチとなること,そのため,注射針の穿刺による尺骨神経手背枝の損傷を完全に回避す)ることは不可能であることが認められる。 (4)また,上記1(1)オ,カのとおり,被告Cは,左手背部の第4指と第5指の根本付近の部位に,皮膚に対して10度から20度程度の角度で注射針を穿刺したところ,造影剤の血管外漏出が確認されたため,直ちに注射針を抜いて穿刺部位を右手の背側中手静脈に変更し,次いで,右手背部の第4指と第5指の根本付近の部位に,皮膚に対して10度から20度程度の角度で注射針を穿刺したが,原告が痛みを訴えたため,針先が血管内に到達する前に注射針を抜き,造影CT検査を行うことを断念したものであるが,これらの措置は,注射針の穿刺によって原告の神経を損傷する事態を回避する上で相当な措置であったと認められる。 (5)以上によれば,本件注射の際に被告Cに穿刺の角度を誤った過失があったとは認められず,他に,本件全証拠を検討してみても,本件注射の際に被告Cに手技上の義務違反があったことを認めるに足りる証拠はない。 説明義務違反の主張について(1)原告は,仮に本件注射がブラインドタッチであるために指神経を痛める危険性あるいは可能性があるのであれば,被告Cは,原告に対し,その危険,,性を事前に説明すべき義務があったのにこれを怠ったと主張しているのでこの主張について検討する。 (2)上記1(1)ア,イで認定したとおり,被告Cは,原告が交通事故で上腹部を打ち付けて救急車で搬送された患者であったことから,臓器損傷の有無を確認する必要性が高いと判断し,胸 について検討する。 (2)上記1(1)ア,イで認定したとおり,被告Cは,原告が交通事故で上腹部を打ち付けて救急車で搬送された患者であったことから,臓器損傷の有無を確認する必要性が高いと判断し,胸腹部造影CT検査を行うことにし,原告 に対し,臓器損傷の見逃しを防ぐためには造影剤を用いることが望ましいこと,万一臓器損傷を見逃した場合には,生命の危険にさらされる可能性もあること,ただし,造影CT検査を行った場合に造影剤アレルギーなどの副作用が起きる可能性があること,血管外に造影剤が漏れることがあることを説,,,,,明し原告は被告Cの説明を了承し検査同意書に署名したことその際被告Cは,注射針の穿刺による神経損傷の可能性については説明しなかったことが認められる。 一方,小田原病院が行った報告(注射針による事故の問題点と今後の課「題-特に採血による末梢神経損傷について-,乙B2)によれば,平成8」年12月から平成11年10月までに行われた採血総数約2万件のうち,採血による疼痛・放散痛を訴え,整形外科を受診した患者は4名であったことが認められ,採血のための注射針穿刺によって神経損傷が起きる頻度は極めて小さいことが認められる。しかも,証拠(乙A2・4頁,乙B2,被告C本人13,27,36頁)によれば,注射針の穿刺によって神経損傷が生じた場合であっても通常は3か月程度で回復すること,上記の小田原病院が行った報告においても,整形外科を受診した4名の患者のうち1例は疼痛の完全消失までに6か月を要したものの,2例は経過観察により1,2週間後に緩解し,残りの1例は治療を継続していないため,転帰は不明であることが認められる。 (3)上記3(1)及び4(2)で認定した事実によれば,交通事故で上腹部を打ち付けて救急車で搬送された原告に 後に緩解し,残りの1例は治療を継続していないため,転帰は不明であることが認められる。 (3)上記3(1)及び4(2)で認定した事実によれば,交通事故で上腹部を打ち付けて救急車で搬送された原告に対して胸腹部造影CT検査を緊急に実施する必要性は高かったと認められ,他方,注射針の穿刺によって原告に重篤な後遺障害が残る可能性は極めて低いと認められる上,被告Cは,造影剤による副作用や造影剤の漏出のおそれなど胸腹部造影CT検査の実施に伴って生じる危険に関する一般的な説明を行い,原告も検査同意書の作成に応じてい,,るのであるから被告Cの胸腹部造影CT検査に関する事前の説明について 説明義務違反の違法があったとはいえないというべきである。 原告の後遺障害の主張について,,(1)上記のとおり被告らの責任原因に関する原告の主張は採用できないが原告は,被告Cが本件注射により原告の右手第4指指神経を損傷したため,原告には右手第4指指神経障害の後遺障害が残り,右手指の痺れはいまだ消失していない旨主張しているので(上記第2の2(1)イ,念のため,この)主張について検討する。 (2)原告の提出する甲A第1号証の診断書(E医師作成)には「右第4指,外側に表在知覚低下,異常知覚を認める。造影剤投与の為に刺入された注射。」,,,針が原因となった可能性がある旨の記載があり原告本人は現在でも注射針を穿刺した部位と第4指と第5指が痺れており,右手で強く握ることができず,仕事でダンスをしていても,右手の第4指と第5指をとっさに伸ばすことができない旨供述している(甲A3・2頁,原告本人7ないし9頁。 )しかしながら,E医師作成の診断書(甲A1)には,神経学的検査の実施の有無等診断の根拠が全く記載されていないこと,原告はDクリニックに1 ない旨供述している(甲A3・2頁,原告本人7ないし9頁。 )しかしながら,E医師作成の診断書(甲A1)には,神経学的検査の実施の有無等診断の根拠が全く記載されていないこと,原告はDクリニックに1回通院したのみであることからすれば,同診断書に記載された右第4指外側の表在知覚低下,異常知覚の症状が実際に存在するかどうかについて疑問を生じる。 また,上記4(2)のとおり,注射針の穿刺によって神経損傷が生じた場合であっても通常は3か月程度で回復し,小田原病院が採血総数約2万件について行った調査においても,6か月を超えて症状が残った例は報告されていないこと,上記1(1)ないし(7)のとおり,原告は,平成18年11月28日までは,さほど日を置かずに被告病院の診療を受けていたが,その後,徐々に通院の間隔が空いていること,その間の握力測定の結果は,平成18年11月28日に右手0キログラム,平成19年1月9日に右手9.8キログラ ム,同年2月21日に右手8.9キログラム,同年4月11日に右手17. 3キログラムであり,同年2月21日の数値は怖くて力を入れられなかった,,ために低い数値になったが実際の握力はもう少し高かったと見られること平成19年2月21日に被告病院を受診した際,原告は,診察したI医師に対し,ダンサーとしての仕事は普通に行っており,多忙であると述べていること,平成18年12月17日に撮影された原告の写真(乙A3の1(左側の女性,原告本人10頁)や平成19年3月17日に撮影された原告の写)真(乙A3の2(左側の女性,原告本人10,11頁)からは,原告が右)手に強い痛みや痺れを感じている様子はうかがわれないこと等からすれば,本件注射によって原告の右手の尺骨神経手背技を損傷していたとしても,原告の症状は平成19年2月ころにはほぼ )からは,原告が右)手に強い痛みや痺れを感じている様子はうかがわれないこと等からすれば,本件注射によって原告の右手の尺骨神経手背技を損傷していたとしても,原告の症状は平成19年2月ころにはほぼ回復していたと推認される。 さらに,証拠(被告C本人9,10頁)によれば,損傷された神経は時間の経過に伴って回復していくものであり,当初存在しなかった知覚障害や知覚異常がその後に発生することは,医学的に考えられないことが認められるところ,上記1(2)のとおり,平成18年11月21日の診察時には,原告の右手に知覚異常及び感覚異常はなく,また,原告の右手の第5指には神経症状が認められていないから,仮に,原告の供述どおり,現在,原告の右手の第4指と第5指に痺れの症状が存在するとしても,その症状が本件注射によって生じたと認めることは困難である。 (3)これらの諸点に照らすと,E医師作成の診断書(甲A1)や原告本人の供述から本件注射によって原告に右手第4指指神経障害の後遺症が残ったとは認め難いというべきであり,他に本件全証拠を検討してみても,本件注射によって原告の主張する後遺障害が残ったことを認めるに足りる証拠はない。 結論 以上のとおりであるから,原告の請求は,その余の点について判断するまで もなく,いずれも理由がないというべきである。 よって,原告の請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第14部孝橋宏裁判長裁判官坂田大吾裁判官宮川広臣裁判官
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