平成16(ワ)6618 損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成18年5月31日 東京地方裁判所
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判決文本文29,932 文字)

平成18年5月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成16年(ワ)第6618号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成18年3月16日判決原告A原告B原告C原告ら訴訟代理人弁護士伊藤紘一被告学校法人東邦大学同代表者理事長D同訴訟代理人弁護士加藤済仁桑原博道蒔田覚大平雅之主文 被告は,原告Aに対し金2326万2364円,原告B及び原告Cに対し各金1163万1182円並びにこれらに対する平成16年4月2日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告は,原告Aに対し金2632万3113円,原告B及び原告Cに対し各金1316万1556円並びにこれらに対する平成16年4月2日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告の開設する病院で胃癌に対する幽門側胃切除術及び胆石症に対する胆のう摘出術を受けた患者が,その約3か月後,腹痛で上記病院に救急搬送されて入院し,その翌日に死亡したことに関し,その妻子である原告らが,当該死亡は,担当医師において絞扼性イレウスと診断し,又はその疑いが強いものと判断して速やかに開腹手術を実施すべきであったのにこれを怠ったために生じたものであると主張して,被告に対し,不法行為ないし債務不履行に基づいて,逸失利益等の損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日からの民法所定の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。 なお,本件の診療は平成15年5月に行われており 為ないし債務不履行に基づいて,逸失利益等の損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日からの民法所定の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。 なお,本件の診療は平成15年5月に行われており,以下の月日ないし日付は,特に断らない限り平成15年の月日ないし同年5月の日付である。 前提事実(証拠原因を掲記しない事実は当事者間に争いがない)。 (1)当事者等ア原告AはE(昭和9年1月3日生,平成15年5月14日死亡)の妻。 であり,原告B及び原告CはEの子である。原告ら以外にはEの相続人はいない(甲C1の1,4,5,弁論の全趣旨)。 イ被告は,東京都目黒区内において「東邦大学医学部付属大橋病院」という名称の病院(以下「被告病院」という)を開設している。F医師,G。 医師,H医師及びI医師は,いずれも,被告病院に勤務し,本件でEの診療に関与した医師である。 (2)Eの診療経過等アEは,平成15年2月13日,胃癌に対する幽門側胃切除術及び胆石症に対する胆のう摘出術を受けた(以下,これらの手術を併せて「胃亜全摘術等」ともいう。 。)Eは,5月13日午後7時35分ころに腹痛等の主訴により救急車で被告病院の救急外来に搬送され,被告との間で診療契約を締結した上,被告病院医師によって亜イレウスと診断され,同日午後10時30分ころに被告病院の第3外科に入院したが,翌14日午後1時45分ころ,意識レベルが低下するとともに,心肺が停止し,同日午後9時50分に死亡が確認された。 Eの遺体は,5月15日に検案され,同月16日に東京都監察医務院において解剖(行政解剖。以下「本件解剖」という)が行われた。本件解。 ,「). 。 剖の結果 絞扼性イレウスa回腸の一部が索状物の間に入り絞扼循環障害。40cmにわたり出血性壊死。一部 において解剖(行政解剖。以下「本件解剖」という)が行われた。本件解。 ,「). 。 剖の結果 絞扼性イレウスa回腸の一部が索状物の間に入り絞扼循環障害。40cmにわたり出血性壊死。一部穿孔。b.腹腔液700mℓ血性」ということが確認された(甲A3。 )Eの直接死因は絞扼性イレウスである(6月13日付け死体検案書及び東京都監察医務院剖検記録(甲A3)にも,直接死因として「絞扼性イレウス」と記載されている。 。)イ被告病院におけるEの診療経過の概要は,別紙診療経過一覧表の「年月日「診療科「主訴・所見・診断「検査・処置「投薬」欄記載の」,」,」,」,とおりである。 ウ被告病院における血液検査の結果は,別紙血液検査結果一覧表記載のと,,,おりでありまた5月14日午前8時14分の動脈血ガス分析の結果は別紙動脈血ガス分析結果表記載のとおりである(乙A2,3。なお,各検査値の基準値は,各表の基準値欄記載のとおりである。また,以下の各検査値については,特に断らない限り,各表記載の各検査値の単位を用いる ものとする)。 (3)本件で前提となる医学的知見は,別紙医学的知見(以下「別紙知見」という)のとおりである。 。 原告らの主張(1)絞扼性イレウスの発症時期Eは,腹痛の生じた13日午後4時に絞扼性イレウスを発症していたのであり,被告病院医師が亜イレウスと診断したのは誤診であった。 このことは,下記(3)アないしオのEの症状等,本件解剖によって絞扼性イレウスが認められたこと,本件解剖の際,腸管が既に出血性壊死を起こしており,絞扼が生じてから時間が経過しているものと解されたことからも裏付けられる。 (2)開腹手術義務違反絞扼性イレウスの場合,緊急に開腹手術をする必要がある。そして,下記(3)アない を起こしており,絞扼が生じてから時間が経過しているものと解されたことからも裏付けられる。 (2)開腹手術義務違反絞扼性イレウスの場合,緊急に開腹手術をする必要がある。そして,下記(3)アないしオのEの症状等からすれば,被告病院の医師は,第1に13日午後10時30分ころ,第2に14日午前4時30分ころ,第3に同日午前8時10分ころまでに,Eの病態がイレウスの中でも絞扼性イレウスであると診断し,又は,少なくともその疑いが強いものと判断した上で,開腹手術をすべき義務があった。特に,絞扼性イレウスにより血行障害が発症してから概ね12時間を経過すると敗血症性ショックを発症することが多いとされていることを併せ考えると,被告病院医師は,遅くとも14日午前8時10分ころまでには開腹手術に踏み切るべきであった。 仮に,下記(3)アないしオの症状等のみからでは開腹手術の適応が判断できなかったとしても,下記(3)カのエコー検査ないし腹腔穿刺で得られるべき腹水等の所見を併せることにより,絞扼性イレウスと診断し,又はその疑いが強いものと判断した上で,開腹手術に踏み切るべきであった。 (3)Eの症状等 ア単純性イレウスの場合は周期的疼痛発作があるにとどまるが,絞扼性イレウスの場合,急激に鎮痛剤が奏功しない程の激しい腹痛が生じ,その腹痛が持続するところ,Eには下記の症状があった。 ①急激に腹痛を感じて救急車で被告病院に搬送され,その後入院時には自制の効かない疼痛を訴えていた。 ②13日及び14日午前4時30分ころの強い鎮痛剤であるソセゴン投与後も,腹痛をコントロールできず,自制不可能な程度の激しい腹痛が継続した。 ,,イ腹膜刺激症状が認められる場合絞扼性イレウスが強く疑われるところ被告病院来院時の腹部所見として「やや硬」とのカルテ記載があり(乙 トロールできず,自制不可能な程度の激しい腹痛が継続した。 ,,イ腹膜刺激症状が認められる場合絞扼性イレウスが強く疑われるところ被告病院来院時の腹部所見として「やや硬」とのカルテ記載があり(乙,A2の9頁,筋性防御(腹膜刺激症状)はあった。 )ウ発熱,白血球増多(10000以上,白血球の核の左方移動といった)炎症所見が見られる場合,絞扼性イレウスを疑うべきであり,また,絞扼性イレウスの場合,敗血症,DICになり,出血傾向に陥りやすく,その,,,場合出血等によって血圧が低下しショックを起こすこともあるところEには下記の症状があった。 ①白血球数は,3月25日は8000,4月26日は7000であったところ,5月13日には10000と増多していた。なお,14日起床時には7600と低下しているが,これは,白血球の破壊,消耗と理解される。 14日起床時のMETA値は0.5,BAND値は29.5,SEGは45であり,これらのデータは白血球の核の左方移動を示す。 13日は35度台であった熱が14日昼までに36度台後半に急上昇し,発汗も著明であり,発熱はあった。 ②13日のRDWは16.4と高く,MCVは正常であることから,鉄の不足が考えられ,白血球数は10000,CRP値は1.0といずれ も高く,出血が疑われる。 また,CK値は,腸管壊死により上昇するところ,51(13日)から356(14日起床時)へと急上昇した。現に,本件解剖によれば,腸管が出血性壊死し,腸間膜が出血していたのであり,CK値の推移からして14日朝に出血したものと考えられる。 ③14日午前8時ころ,倒れ込み,午前8時10分ころ,血圧が80/(「」,。)52mmHg以下の血圧の単位もmmHgであるが省略すると急低下し,同日午前9時ころの血圧も られる。 ③14日午前8時ころ,倒れ込み,午前8時10分ころ,血圧が80/(「」,。)52mmHg以下の血圧の単位もmmHgであるが省略すると急低下し,同日午前9時ころの血圧も90/54と低下した状態が持続していたところ,これらはショックである。 エHt値の上昇,嘔吐による電解質のバランスの崩れ,尿量の減少といった脱水所見やアミラーゼ値上昇が見られる場合,絞扼性イレウスが疑われるところ,Eには下記の症状があった。 ①嘔吐・嘔気があり,電解質のバランスが崩れていた。 ②Ht値が37.9%(13日)から39.8%(14日起床時)へと上昇した。 ③14日午前7時30分ころに尿意を訴えたが排尿がなく,尿量は減少していた。 ④アミラーゼ値は,13日の59IUが14日起床時には207IUへと上昇した。 オ下記の腹部X線ないし腹部CT所見が認められ,これらの所見からは絞扼性イレウスを疑うべきである。 ①13日のX線では,ガス像,腸壁のひだが確認できる。また,13日の腹部CTでは,小腸が拡張し,腸内圧が高いのが確認できる。 ②14日午前9時ころのX線では,腸管拡張,粘膜壁の菲薄が見られ,通過障害が確認できる。 カイレウスの診断にはエコー検査が有用であり,拡張腸管を内容物が往復 する所見(toandfromovement)が認められれば単純性イレウス,腹水や腸管壁異常肥厚が認められれば絞扼性イレウスと診断できる。また,腹腔穿刺を行えば腹水が捕捉できる。そして,本件では,上記アないしオの症状が見られたから,入院時か遅くとも14日起床時までに,被告病院医師はエコー検査ないし腹腔穿刺を行うべきであり,そうすれば,解剖の結果からしても,腹水等の所見が得られたはずである。 (4)義務違反と結果との因果関係被告病院医師が 14日起床時までに,被告病院医師はエコー検査ないし腹腔穿刺を行うべきであり,そうすれば,解剖の結果からしても,腹水等の所見が得られたはずである。 (4)義務違反と結果との因果関係被告病院医師が上記(2)のとおり開腹手術を行っていれば,Eが絞扼性イレウスにより死亡するということはなかった。 (5)損害アEに生じた損害(ア)逸失利益1831万3296円①76歳までの収入1658万4403円基礎となる収入を年409万4500円(平成13年度の賃金センサスによる男子学歴計65歳以上区分の年収額,労働能力喪失期間)を69歳から76歳までの7年(ライプニッツ係数5.7863,)生活費控除率を30パーセントとして計算した金員。 ②77歳以降の収入(年金)172万8893円基礎となる年金収入を年60万0600円,期間を77歳から83歳(69歳男子の平均余命を14年間として算出)までの7年間,生活費控除率を30パーセントとして下記のとおり計算した金員。 60万0600円×(9.8986(14年のライプニッツ係数)-5.7863)×(1-0.3)=172万8893円(イ)慰謝料2800万円イ原告ら固有の損害(ア)葬儀費用154万6909円 (イ)弁護士費用478万6020円ウ 結論 原告らは,Eに生じた上記アの損害について法定相続分(原告A2分の1,原告B及び原告C各4分の1)に応じて被告に対する損害賠償請求権を相続し,かつ,原告ら固有の損害について法定相続分に応じて負担したものであり,各原告の請求額は下記のとおりとなる。 (ア)原告A2632万3113円(イ)原告B及び原告C各1316万1556円 被告の主張(1)上記2(1)(絞扼性イレウスの発症時期)について術後のイレウスで最も多いのは となる。 (ア)原告A2632万3113円(イ)原告B及び原告C各1316万1556円 被告の主張(1)上記2(1)(絞扼性イレウスの発症時期)について術後のイレウスで最も多いのは癒着性の単純性イレウスであるところ,Eについて,その症状等は下記(3)アないしオのとおり評価されるべきであるから,亜イレウスであったと考えて矛盾はなく,絞扼性イレウスであったと。 ,,は考えにくい本件解剖の結果絞扼性イレウスであったことが判明したがいつの時点で絞扼性イレウスを発症したかは不明である。 (2)上記2(2)(開腹手術義務違反)について術後のイレウスで最も多いのは癒着性の単純性イレウスであるところ,Eの症状等については,下記(3)アないしオのとおり,一貫して典型的な絞扼性イレウスの所見を呈さず,急速に病状が進行したものであって,絞扼性イレウスと診断し,又はこれを疑うことは困難であった。被告病院医師は,Eの症状について,腹腔内の重篤な病変を示唆するものはなく,炎症も軽度であるが,術後症例における腹部救急診療の基本姿勢として,癒着性イレウスを念頭に,亜イレウス(以下,癒着による単純性の亜イレウスのことを,単に「亜イレウス」ともいう)疑いと診断した。また,疼痛部位が心窩部で。 あって,胃幽門側切除術が行われていることなどから,残胃炎,吻合部潰瘍なども疑われ,胃内視鏡検査を施行した。その際の所見として,残胃粘膜の 発赤,粗造化,赤褐色調粘液付着を認め,残胃炎と診断した。 ,,,開腹手術自体が身体に対する侵襲である以上腹膜刺激症状があり発熱白血球増多,核の左方移動等の炎症所見があり,かつ,CTで血行障害の所見が得られた場合などでなければ,絞扼性イレウスの疑いを理由とする開腹手術の適応はない。 なお,エコー検査及び腹腔穿刺について 熱白血球増多,核の左方移動等の炎症所見があり,かつ,CTで血行障害の所見が得られた場合などでなければ,絞扼性イレウスの疑いを理由とする開腹手術の適応はない。 なお,エコー検査及び腹腔穿刺については下記(3)カのとおりであって,この点を考慮しても,絞扼性イレウスの疑いを理由とする開腹手術の適応は生じない。 また,原告は,14日起床時の血液検査結果を援用して過失を構成しているが,14日起床時の血液検査結果は同日午前11時ころに判明したのであり,これを前提とした過失主張は誤りである。 (3)Eの症状等ア①絞扼性イレウスの場合,腹部全体に,1人で歩行することができないほど激烈な痛みが突発するところ,Eの腹痛は,軽度の圧痛であって,1人でトイレに行けており,その部位も心窩部に限局されていたのであり,この程度の疼痛は亜イレウスに伴う腸管拡張による膨満痛と評価するのが妥当である。 ②原告は,Eの腹痛がソセゴンが奏功しない程強いものであったなどと主張するが,Eの腹痛はソセゴンで軽快したし,ソセゴンの効かない腹痛の原因疾患は絞扼性イレウス以外にも種々存在する。 イ絞扼性イレウスの場合,腹膜刺激症状(筋性防御,反跳痛(ブルンベルグ徴候)が見られる場合が多く,これは絞扼性イレウスを鑑別し緊急)手術の適応を決める重要な症状であるが,Eには一貫してかかる症状はなかった。 ウ14日起床時の血液検査の結果で白血球の核の左方移動は認められたが,下記のとおり他に重度の炎症所見等は見られなかったのであるから, 絞扼性イレウスを疑うべき炎症所見があったとはいえない。 ①絞扼性イレウスの場合に見られる白血球数の増多は通常15000から20000であるところ,Eの白血球数は,13日は10000であり増多があったとはいえないし,14日起床時は7600と減少し い。 ①絞扼性イレウスの場合に見られる白血球数の増多は通常15000から20000であるところ,Eの白血球数は,13日は10000であり増多があったとはいえないし,14日起床時は7600と減少していて炎症反応が改善している(なお,白血球の破壊,消耗といった特殊な病態を前提とすべき事情はない。そして,CRP値は,13日は1.。) 14日起床時は2.1でありこれは軽度の炎症所見にすぎない絞,,(扼性イレウスであれば,10以上を示すのが通常である)し,発熱も。 ない。 Eは胃切除後3か月であり,RDWの軽度上昇は特に異常ではない。 ②14日午前8時10分の血圧低下についてみると,輸液の増量,低用量(約3γ(ガンマ=μg/mℓ/kg)プレドパの使用により同日)午前9時30分ころには収縮期血圧200以上まで回復し,同製剤の使用を止めた後も血圧は169/125と維持されていたところ,<ア>敗血症性ショックを含む血液分布異常性ショックの場合,プレドパでは昇圧できないことが多いとされていること,<イ>プレドパは少量投与(5γ以下)では腎血流量増加により尿量が増加するのみで,5γ以上投与しなければ血圧上昇作用が加わってこないとされていることからすれば,この血圧低下は,鎮痛剤(ソセゴン)使用若しくは亜イレウスに伴う血管内脱水のいずれか又は双方が原因と考えられ,絞扼性イレウスによる敗血症性ショックと考えることはできない。 ③CK値が,入院時は51と正常であり,14日起床時に356と上昇したのは,Eが夜間に徘徊したことが原因である。14日午後2時ころに2324と上昇したのは,心臓マッサージ等の蘇生が原因である。 エ14日起床時のNa値が144,K値が3.5であり,いずれも基準値内であることからすれば,電解質バランスの崩れはない。Ht 2時ころに2324と上昇したのは,心臓マッサージ等の蘇生が原因である。 エ14日起床時のNa値が144,K値が3.5であり,いずれも基準値内であることからすれば,電解質バランスの崩れはない。Ht値の変動も 検査の誤差ないし胃切除の影響としてあり得る程度のものであるし,ある時点で排尿がなかっただけでは脱水を示唆しない。結局,絞扼性イレウスを診断する根拠となり得る程度の脱水所見はなかった。 14日起床時のアミラーゼ値は,異常な高値ではなく,亜イレウスであっても矛盾はない。 オ絞扼性イレウスは,イレウス所見があるにもかかわらず無ガスの場合に発症が疑われるところ,13日救急外来受診のX線では小腸ガスや大腸ガ。 ,,スが認められた14日午前9時ころの腹部X線所見も入院時と同様で小腸ガスが若干認められ,無ガスの状態ではなかった。また,絞扼性イレウスにより腸管穿孔が起これば,遊離ガスが確認可能であるが,これも認められなかった。 絞扼性イレウスの場合,腹部CTで腸管壁の虚血像及び腹水の貯留が認められるが,13日の腹部CTではかかる所見は全くなかった。 カエコーは術者の技量に左右される。また,イレウスは腹部腸管にガスが多量に貯留する病態であるところ,ガスが貯留すれば,エコーでの検査がきわめて困難になる。これに対し,造影CTは,術者による技量の差はなく,絞扼性イレウスの最大の特徴である腸管の血行障害すら判断できる。 エコーを推薦する文献があるのは,緊急時に造影CTが施行可能な医療機関が少ないことによるのであり,エコーによりCTを超える情報が得られるわけではない。 入院時の腹部CT所見で腹水が存在しないことが確認され,その後に腹水が穿刺可能な程度に貯留した蓋然性もないのに,腹水穿刺を施行することは不可能である。 したがって,エコー検査ないし腹腔 けではない。 入院時の腹部CT所見で腹水が存在しないことが確認され,その後に腹水が穿刺可能な程度に貯留した蓋然性もないのに,腹水穿刺を施行することは不可能である。 したがって,エコー検査ないし腹腔穿刺を行うべきとはいえない。 (4)上記2(4)(義務違反と結果との間の因果関係)について争う。 (5)上記2(5)(損害)について争う。 第3当裁判所の判断 前記前提事実に証拠(乙A1ないし4及び証人Hのほか,各項に掲記したもの)及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。 (1)胃亜全摘術等及びその術後経過Eは,2月13日,被告病院において,胃癌に対する幽門側胃切除術及び胆石症に対する胆のう摘出術を受け,同月25日に退院し,その後,容態は安定していた。 (2)腹痛発症から入院時まで(乙A5の1・2,8の1ないし3)Eは,5月13日午後7時35分ころに救急車で被告病院に搬送され,直ちに救急外来でF医師の診察を受けた。その際のEの主訴は,同日午後4時ころから心窩部痛が出現して徐々に増悪し自制が不可能であるというものであった。F医師は,午後8時46分ころソセゴンを投与した。 その後診察したH医師は,筋性防御なし,ブルンベルグ徴候なしと判断した。H医師は,腹部X線(乙A5の1・2,午後9時12分ころ施行)上,大腸ガスあり,小腸ガス少量あり,立位での明らかな鏡面像なし,横隔膜下に遊離ガスなし,腸ひだありと判断し,腹部CT(乙A8の1ないし3,午後9時43分ころ施行)上,上腸間膜動脈は異常なく,腹水なし,拡張した小腸ありと認め,腸管血流は保たれていると判断した。また,Eには嘔吐・嘔気があった。H医師は,以上の所見などから亜イレウスと診断し,午後10時30分ころにEを入院させた。 Eは救急外来で血液検査(以下「13日の血液検査」 流は保たれていると判断した。また,Eには嘔吐・嘔気があった。H医師は,以上の所見などから亜イレウスと診断し,午後10時30分ころにEを入院させた。 Eは救急外来で血液検査(以下「13日の血液検査」という)を受け,。 同日午後9時33分ころに迅速仮報告書が出された。 (3)入院時から14日午前4時30分ころまで入院時,Eは,体温が36.3度,血圧が170/88であって,心窩部 ,,,,,痛を訴えたところH医師は腸音良好腹部について軟らかいやや硬い筋性防御なし,ブルンベルグ徴候なしと判断し,血液検査の結果(WBC10000,CRP1.0)から軽度炎症所見ありと認め,改めて亜イレウスと診断した。 Eは,少なくとも13日午後11時ころと14日午前4時30分ころに自制不可能の腹痛を訴え,14日午前3時ころには,便秘を訴え,著明な発汗があった。 14日,H医師は,便秘に対し,午前3時ころにレシカルボン座薬の投与を,午前4時10分ころにグリセリン浣腸をそれぞれ指示したが,いずれも効果がなかった(浣腸はすぐ流出した。H医師は,午前4時30分ころ,。)Eを診察して,再度ソセゴンを投与した。 (4)14日の午前4時30分ころから午前9時13分ころまで(乙A6)Eは,午前4時30分ころ以降も,疼痛が続き,病室とトイレを行き来したり,身の置き所がなく動き回るなどしていた。午前7時30分ころに尿意を訴えたが,排尿は無かった。 ,,。 午前8時ころベッドサイドに座り込みそのまま倒れ込みそうになった午前8時10分ころ,血圧は80/52で,冷汗をかいており,腹痛のためかずっとうなっていたが,意識レベルの変化はなかった。 午前8時15分ころ,I医師がEを診察して動脈血ガス分析を行ったところ,その主な結果は,PHが7.239,PCOが2 汗をかいており,腹痛のためかずっとうなっていたが,意識レベルの変化はなかった。 午前8時15分ころ,I医師がEを診察して動脈血ガス分析を行ったところ,その主な結果は,PHが7.239,PCOが21.4,POが11 9.5,HCOが8.9,BEが-16.3,OSATが97.3であり, 過換気ではないかとの診断をした。そして,午前8時30分ころ,IVHが挿入され,プレドパの点滴が開始された。 ,,(),(),その後血圧は92/60午前8時30分90/54午前9時209/160(午前9時30分)と推移し,午前9時30分ころプレドパの投与が中止された。Eは,午前9時ころ,腹痛が変わらずあると訴え,身 の置き所落ち着かず,体動が激しくあった。 午前9時13分ころ,腹部X線検査(乙A6)を受けた。 (5)14日の午前9時30分ころから正午ころまで,,「,。 ,Eは午前9時30分ころウ~ウ~痛いのここここここの3か所痛いよ」と心窩部,左右側腹部の3か所の圧痛を訴えた。そのころ,被告。 ,,,,病院医師は再度Eを診察し体温37度台後半腹部やや膨満しやや硬い心窩部痛あり,腸音弱め,筋性防御はっきりせず,ブルンベルグ徴候なしと判断した。Eは,午前10時ころ,落ち着かず,体動著しく,不明言動が時折あった。午前10時30分ころ血圧が92/触知まで低下したが,H医師は様子観察と判断した。 H医師及びI医師は,午前10時55分ころ,残胃病変の可能性を考え,胃内視鏡検査を施行した。その際の所見は,食道内から胃内に水溶性内容物多量,吻合腸管狭窄等著変なし,残胃内に赤褐色調粘液付着などというものであり,被告病院医師は,残胃炎の症状と診断した。その際の血圧は89/41であった。 Eは,午前11時ころ から胃内に水溶性内容物多量,吻合腸管狭窄等著変なし,残胃内に赤褐色調粘液付着などというものであり,被告病院医師は,残胃炎の症状と診断した。その際の血圧は89/41であった。 Eは,午前11時ころ,血圧が105/50で,体動著しく落ち着かなかった。午前11時20分ころ,ベッドから立ち上がり,中心静脈ラインより逆流があり,また,尿管接続が外れてしまい,再固定された。 14日起床時の血液検査結果は,午前11時ころ病棟に報告された。 (6)14日の午後午後1時30分ころ,H医師が胃管を挿入していたところ,100mℓの暗赤血性排液が吸入され,午後1時45分ころ,急激に意識レベルの低下があり,心肺停止状態に陥った。これに対して蘇生措置が行われ,いったんは心拍及び呼吸を再開したが,意識は回復せず,午後8時45分ころに再度心停止となり,午後9時50分ころに死亡が確認された。 (7)本件解剖 東京都監察医務院の東京都監察医J医師が,5月16日午前9時30分から午前10時40分まで,Eの遺体を行政解剖した。その結果の要旨は以下のとおりである(甲A3)。 ①絞扼性イレウストライツより20cmの回腸が,胃癌手術後の癒着により生じた索状の組織の間に約40cmにわたり入り込み,出血性壊死を起こしている。循環障害が強く,出血した回腸は一部に小孔あり穿孔している。腸間膜も同様に出血している。 ②血性腹腔液700mℓ③胃切除後状態ビルロートⅠ法,胃癌の再発なし(胃炎の所見の記載。 はない)。 ④胆のう切除術後状態⑤心肥大,冠動脈硬化⑥大動脈が高度の粥状硬化⑦多発性脳梗塞⑧肺うっ血,肝小葉中心性に肝細胞のネクロビオーシス,脾うっ血,膵自家融解,腎小動脈硬化・蛋白円柱 前記前提事実及び上記1の認定事実(以下「前提事実等」という)に 度の粥状硬化⑦多発性脳梗塞⑧肺うっ血,肝小葉中心性に肝細胞のネクロビオーシス,脾うっ血,膵自家融解,腎小動脈硬化・蛋白円柱 前記前提事実及び上記1の認定事実(以下「前提事実等」という)によれ。 ば,Eは,死亡時までに絞扼性イレウスを発症していて,これが原因で死亡したこと,その絞扼性イレウスの発症時期は,被告病院来院時(13日午後7時)、、,35分ころ以前あるいはその後死亡するまでの間のいずれかであることそして,被告病院来院時には、既に単純性であるか複雑性(絞扼性)であるかはともかくとして機械的イレウス(亜イレウスを含む)を発症していたこと。 が認められる。 ところで,絞扼性イレウスについては,腸管壊死,腹膜炎,敗血症,ショック等を起こし,急速に全身状態が悪化して死に至る危険があることから,直ち に開腹手術を行うことが必要である(別紙知見1(4))のであって,絞扼性イレウスと診断されたときはもとより,その確定診断はつかなくても,その疑い,(,が強いものと判断されるときには直ちに開腹手術を行うべきである甲B1乙B4にも同旨の意見が記載されている。 。)しかして,原告らの主張は,被告病院医師において,第1に13日午後10時30分ころまでに,第2に14日午前4時30分ころまでに,第3に14日午前8時10分ころまでに,絞扼性イレウスと診断し,又はその疑いが強いものと判断して,直ちに開腹手術を行うべきであったというものであり,絞扼性イレウスの発症時期については,第1次的には,被告病院来院時以前(腹痛が生じた13日午後4時ころ)と主張しているが,仮にそうでないとしても遅く。 ,とも上記第1ないし第3の各時点までと主張するものと解されるこれに対し被告は,被告病院来院時には亜イレウスであったとした上,その後どの時 4時ころ)と主張しているが,仮にそうでないとしても遅く。 ,とも上記第1ないし第3の各時点までと主張するものと解されるこれに対し被告は,被告病院来院時には亜イレウスであったとした上,その後どの時点で絞扼性イレウスを発症したかは不明であると主張している。 そこで,本件においては,原告ら主張の各時点において,①(事後的客観的に見て)その時点までに絞扼性イレウスを発症していたといえるかどうか,②これが肯定されるとき,被告病院医師において,絞扼性イレウスと診断し,又はその疑いが強いものと判断すべきであった(直ちに開腹手術を行うべきであった)といえるかどうか,ということを検討すべきことになる。なお,単純。 性イレウスが絞扼性イレウスに移行することもある(別紙知見1(4))ので,このことも念頭に置いて検討する。 ここで,単純性イレウスと絞扼性イレウスの臨床症状及び鑑別点並びにイレ,(,,ウスの手術適応について以下のとおりであることが認められる甲B1 7,8,12,乙B1,2,4。 )(1)術後の癒着によるイレウスには,単純性と絞扼性の両方があるが,単純性イレウスの頻度が高い。 (2)腹痛等の症状については,単純性イレウスでは,徐々に発症し,周期的 な疼痛発作,疝痛様の腹痛があり,蠕動亢進を抑える目的で抗コリン剤を使用し(抗コリン剤が奏功する場合は単純性イレウスのことが多い。抗コリン剤禁忌の場合は,ペンタゾシン,レペタン等の一般的鎮痛剤を投与する,。)膨満,蠕動不安,金属製雑音などの腹部所見が認められるのに対し,絞扼性イレウスでは,発症が急速で,持続的に激痛(絞扼痛)があり,抗コリン剤や一般的鎮痛剤では軽快せず,麻薬系鎮痛剤を必要とすることもあり,絞扼された腸の部位に限局性圧痛が見られ,腹膜刺激症状(筋性防御,ブルン スでは,発症が急速で,持続的に激痛(絞扼痛)があり,抗コリン剤や一般的鎮痛剤では軽快せず,麻薬系鎮痛剤を必要とすることもあり,絞扼された腸の部位に限局性圧痛が見られ,腹膜刺激症状(筋性防御,ブルンベルグ徴候,Wahl徴候などの腹部所見が認められる。 )(3)絞扼性イレウスでは,発熱,白血球増多,白血球核の左方移動が認められることが多く,時にショック状態に陥るが,高齢者では,これらを伴わずに汎発性腹膜炎に移行し,ショック状態になることもある。また,絞扼性イレウスでは,腸管壊死が進行するとCK値が上昇し,その上昇が壊死の指標となるが,早期には変化が見られず,絞扼自体の指標とはなり得ない。 単純性イレウスでは,輸液を十分に行えば,全身症状は軽度で済むのに対し,絞扼性イレウスでは,輸液のみでは発熱,頻脈,血圧低下が改善されにくい。 (4)脱水所見(Ht値の上昇,嘔吐による電解質(Na,K,Cl)バ++-ランスの崩れ,尿量減少,血中エンドトキシンの上昇,アミラーゼ値の上)昇が認められる場合,絞扼性イレウスを疑う。 (5)腹部X線上,単純性イレウスでは,鏡面像,腸係蹄著明の所見が認められるのに対し,絞扼性イレウスでは,ガス像少ない,コーヒー豆様陰影ないし腹水の所見が認められる。 (6)エコー検査は,単純性イレウスと絞扼性イレウスの鑑別に有用であり,腸管運動や腸内容の移動性,浮動性をリアルタイムで描出でき,ベッドサイドで容易に反復して行うことができるが,腸管全体を走査することは困難であり,腸管ガスのために描出不良となることも多い。 ,(),単純性イレウスでは拡張腸管とKerckringひだkeyboardsignの有無拡張腸管内を内容物が往復する所見(toandfromovement ,長期経過後)には逆 (),単純性イレウスでは拡張腸管とKerckringひだkeyboardsignの有無拡張腸管内を内容物が往復する所見(toandfromovement ,長期経過後)には逆に内容の移動性や腸間蠕動の減弱などの所見が認められる。絞扼性イレウスでは,他の検査所見に先行して,絞扼分節で腸内容の浮動性や腸蠕動。 ,の減弱を早期から認める虚血が進行すると絞扼腸管周囲に腹水が認められ腸管壁の肥厚,層構造の明瞭化,さらに腸管壊死に至ると腸内容の移動性の停止,壁の菲薄化,腹水の増加等が描出される。 (7)腹部CTは,超音波検査に比較し,静止画像であるが再現性に優れる。 腸間内の液体貯留も評価可能であり,拡張腸管を連続的に評価することにより,閉塞起点が推定可能なこともある。絞扼性イレウスでは,腸間壁の肥厚(うっ血や浮腫,進行すると逆に壁の菲薄化(壊死)として描出される。 )腸間壁や腸間膜動脈が明瞭に造影されなければ血行障害を疑う。気腹,腹水の存在も診断が可能である。 (8)腹腔穿刺は,腸管拡張が著明な状態で手技に習熟していない者にとっては一般に禁忌であるが,臨床所見から絞扼性イレウスが疑われ,超音波で腹水貯留が認められた場合は,診断価値は高い。血性腹水であれば,絞扼性イレウスと診断できる。 (9)腹膜刺激症状,腹膜炎,ないしショック症状が認められる場合,通常手術適応が認められる。 上記2の①,②の点について,当裁判所は,①腹痛発生当初(13日午後4時ころ)から絞扼性イレウスを発症していた可能性が高く,仮にそうでないとしても,遅くとも14日午前8時10分ころには既に絞扼性イレウスを発症していた,②被告病院医師において,14日午前8時10分ころには,絞扼性イレウスの疑いが強いものと判断すべきであった(直ちに開腹手術を行うべき とも14日午前8時10分ころには既に絞扼性イレウスを発症していた,②被告病院医師において,14日午前8時10分ころには,絞扼性イレウスの疑いが強いものと判断すべきであった(直ちに開腹手術を行うべきであった)との結論に達した。その認定判断の理由は,以下のとおりである。 。 (1)Eの症状や検査結果等を別紙知見及び上記3の医学的知見に照らして検 討する。以下,<ア>では,14日午前8時10分ころまでに判明した症状等を,<イ>では,それ以降に判明した症状等をそれぞれ検討する(なお,白血球の核の左方移動,アミラーゼ値,CK値,Ht値についての原告らの主張は,いずれも14日起床時に実施された血液検査の結果を前提としているところ,その検査結果が判明したのは同日午前11時ころであったことは上記1(5)で認定したとおりである。 。)ア発症及び症状悪化の態様について下記のとおり発症及び症状悪化が急速である点は,絞扼性イレウスの症状に合致する。 <ア>胃亜全摘術等の手術後,容態は安定していたにもかかわらず,13日午後4時ころ腹痛が出現し,その後,自制が効かなくなって同日午後7時35分ころ救急車で被告病院に搬送され,そのまま入院したが,その後も腹痛が持続し,さらに,14日午前8時10分ころには後記ウのとおりショック症状が認められるなど,発症及び症状の悪化が急速であった。 <イ>その後,血圧は14日午前9時30分ころまでに一時回復したものの,午後1時45分ころには,意識レベルの低下があり,心肺停止に陥るショックが生じて,午後9時50分には死亡確認に至っており,症状の悪化が急速であった。 イ腹痛について(ア)下記のような持続的な激しい腹痛は,絞扼性イレウスに特徴的な症状に合致する。 <ア>腹痛は,13日午後4時ころ発現し,被告病院に救急 っており,症状の悪化が急速であった。 イ腹痛について(ア)下記のような持続的な激しい腹痛は,絞扼性イレウスに特徴的な症状に合致する。 <ア>腹痛は,13日午後4時ころ発現し,被告病院に救急車で搬送された午後7時35分ころまでには,自制が効かないというほどの強い痛みになった。そして,少なくとも13日午後11時ころ及び14日午前4時30分ころにも自制不可能の腹痛を訴え,その後も,持続的 に腹痛を訴えて,身の置き所がなく動き回るなどし,14日午前7時ころには看護師に背中をさすってもらい落ち着いたものの,午前8時ころにはベッドサイドで倒れ込むにまで至ったのであって,強度の腹痛が持続していたものと認められる。 ところで,別紙知見4(1)によれば,ソセゴンは,筋肉注射後15,,~20分で鎮痛効果が発現しその効果は3~4時間継続するとされしかも,上記3(2)によれば,単純性イレウスであれば疼痛対策には抗コリン剤又はそれが禁忌の場合はペンタゾシン(ソセゴン」はそ「の商品名)などの一般的鎮痛剤が用いられるのに対し,絞扼性イレウスの場合は,抗コリン剤や一般的鎮痛剤では疼痛が軽快せず,麻薬性鎮痛剤が必要な場合もあるとされている。 そうすると,Eの腹痛については,13日のソセゴン投与後も自制不可能な程度のものが続き,特に14日午前4時30分ころのソセゴン投与後は単純性イレウスとしては説明できない程度に強いものが持続していた。 <イ>14日午前9時ころ以降も,腹痛が変わらずあると訴え,身の置き所落ち着かず激しく体動しており,<ア>と同様の激しい腹痛が持続していた。 (イ)この点について,被告は,絞扼性イレウスの場合,腹部全体に1人で歩行することができないほど激烈な痛みが突発するところ,Eの腹痛は1人でトイレに行けるほど軽度の圧痛で,そ 痛が持続していた。 (イ)この点について,被告は,絞扼性イレウスの場合,腹部全体に1人で歩行することができないほど激烈な痛みが突発するところ,Eの腹痛は1人でトイレに行けるほど軽度の圧痛で,その部位も心窩部に限局されていたのであり,この程度の疼痛は亜イレウスに伴う腸管拡張による膨満痛と評価される旨主張する。 しかし,イレウスに伴う腹痛のうち絞扼性イレウスに伴う絞扼痛については,腹部全体に激痛を訴えるとする文献(甲B1)もあるが,この文献においては,膨満痛も腹部全体に持続的な痛みを訴えるとされ,絞 扼性イレウスと単純性イレウスの鑑別方法として腹痛の部位を指摘している訳ではなく,むしろ,上記鑑別に関して,絞扼性イレウスの腹痛は限局性圧痛を示す旨を指摘する文献(甲B7,乙B2)もあるのであって,絞扼性イレウスに関する上記以外の文献(甲B4,8,乙1,4)にはイレウスの種類と腹痛の部位について特段言及されていないことなどに鑑みると,腹痛の部位は,絞扼性イレウスの診断に際して少なくともあまり重要な意義を有しないものと考えられ,Eの腹痛が限局性のものであったからといって絞扼性イレウスが否定されるものではない。また,絞扼性イレウスの腹痛については,激痛であるとされている(上記3(2))が,特に1人で歩行することができなくなるほどのものであるとする文献は見当たらず,上記のとおり「自制不可能」と表現されるような痛みであれば,通常「激痛」と呼ばれる痛みに当たると見るのが相当であり,かえって,上記のとおり「自制不可能」と表現されるような腹痛を被告主張の亜イレウスによるものと説明することのほうが難しいと考えられる。 ウ血圧,ショックについて(ア)本件では,下記のとおり,腹痛発症からわずか約16時間後及び約22時間後という短時間のうちに2度の 亜イレウスによるものと説明することのほうが難しいと考えられる。 ウ血圧,ショックについて(ア)本件では,下記のとおり,腹痛発症からわずか約16時間後及び約22時間後という短時間のうちに2度のショックが起きており,このことは,単純性イレウスでは説明が困難であり,絞扼性イレウスの症状と合致する。 <ア>Eの血圧は,13日入院時は170/88であったところ,14日午前8時10分ころには80/52にまで急低下しており,この血圧低下は下記のとおりショックであったと判断される。 (),,①ショックの定義別紙知見2(1)のうち収縮期血圧90以下40以上の急激な血圧低下の2つに該当する。 ②また,蒼白,拍動の減弱,発汗,虚脱,頻呼吸は典型的なショッ (),,,ク症状とされている別紙知見2(1)ところEは冷汗をかき倒れ込みそうになり,過換気と診断されたことからすれば,少なく,,。 とも上記のうち発汗虚脱頻呼吸の3症状を呈していたといえる③ショックスコア(別紙知見2(1)別表2参照)については,本件では脈拍,尿量のデータがないため正確に計算することはできないが,午前8時10分の収縮期血圧は80,午前8時14分のBEは-16.3mmol/ℓであり,また,午前8時30分ころにプレドパが投与されているところ,プレドパは,急性循環不全改善剤であって,a)無尿,乏尿や利尿剤で利尿が得られない状態,b)脈拍数の増加した状態,c)他の強心剤,昇圧剤により副作用が認められたり奏功しない場合に使用される(別紙知見4(3))ところ,上記c)の事情は認められないので,a)尿量が減少したか,b)脈拍数が増加していた可能性が高く,Eのスコアは,ショックと診断される5点以上になる可能性が十分ある。 <イ>14日午後1時45分 ろ,上記c)の事情は認められないので,a)尿量が減少したか,b)脈拍数が増加していた可能性が高く,Eのスコアは,ショックと診断される5点以上になる可能性が十分ある。 <イ>14日午後1時45分ころの意識レベル低下,心肺停止は,ショックと判断される(争いがない。 。)(イ)14日午前8時10分ころの血圧低下の評価につき,被告は,①血液分布異常性ショックの場合,プレドパでは昇圧できないことが多いとされていること,②プレドパは5γ以上投与しなければ血圧上昇作用が加わってこないところ,本件ではプレドパを約3γ投与しただけで血圧が回復したのであり,この血圧低下の原因を絞扼性イレウスによるショックと考えることはできず,むしろ,鎮痛剤(ソセゴン)使用ないし亜イレウスに伴う血管内脱水のいずれか又は双方が原因と考えられた旨主張する。 しかし,①の点についてみると,絞扼性イレウスを原因とするショックには敗血症性ショックのみならず循環血流量減少性ショックもある (別紙知見1(2))ことから,絞扼性イレウスを否定する根拠とはならない。 ②の点についてみても,確かに,プレドパについては5γ以上投与しなければ血圧上昇作用等のα刺激作用はないとされている(別紙知見4(3))が,循環血流量減少性ショックの場合,その治療は輸液による循環血流量の補充が基本であって,プレドパのα刺激作用がなければ血圧の回復が期待できないわけではなく(別紙知見2(2) ,現に本件では)プレドパの投与と併せてIVHにより循環血流量の補充がされているのであるから,この点も絞扼性イレウスによるショックを否定するものではない。 一方,ソセゴンの副作用にはショックがある(甲B9)ものの,13日にソセゴンを投与した後には何らのショック症状を呈していないし(午後10時30分ころの血圧 スによるショックを否定するものではない。 一方,ソセゴンの副作用にはショックがある(甲B9)ものの,13日にソセゴンを投与した後には何らのショック症状を呈していないし(午後10時30分ころの血圧は170/88であった,14日午。)前4時30分ころのソセゴン投与からショックまで約3時間30分も経過していることからすれば,ソセゴンの投与によるショックであるとは考えにくい。また,単純性イレウスに伴う血管内脱水によってもショックは起こり得る(別紙知見1(2)別表1)が,絞扼性イレウスを単純性イレウスと鑑別するポイントの1つにショックが挙げられていること,単純性イレウスにしては発症からショック発生まで症状の進展があまりに急激であることに鑑みると,亜イレウスに伴う血管内脱水によるショックであるとは考えにくい。 エ腹部X線検査について<ア>13日の腹部X線検査で,単純性イレウスの場合に認められるとさ(),,れている鏡面像立位が認められず小腸ガス像が少なかったことは単純性イレウスよりも絞扼性イレウスを疑わせるものである。 なお,絞扼性イレウスの場合,常に直ちに腸管穿孔が生じて遊離ガス が認められるわけではないから,腹部X線検査で遊離ガスが認められなかったことは絞扼性イレウスと矛盾しない。 オ胃内視鏡検査について<イ>14日午前10時55分ころの胃内視鏡検査において残胃内に赤褐色粘液の付着等が認められたところ,本件解剖の結果,絞扼性イレウスによる腸管の穿孔・出血が認められたこと,胃内視鏡検査時に食道内から胃内まで水溶性内容物が多量に認められたこと及び14日午後1時30分ころの胃管挿入時に暗赤血性排液が吸入されたことからすると,絞扼性イレウスによる腸管からの出血があって,その出血が絞扼部位から胃内に逆流したものと思われ 多量に認められたこと及び14日午後1時30分ころの胃管挿入時に暗赤血性排液が吸入されたことからすると,絞扼性イレウスによる腸管からの出血があって,その出血が絞扼部位から胃内に逆流したものと思われ,胃内視鏡検査時(14日午前10時55分ころ)よりも相当程度前に絞扼性イレウスを発症していた可能性が高いといえる。 なお,被告は,上記の胃内視鏡検査の結果について,それが残胃炎を示すものであるかのように主張するが,本件解剖の結果,特に残胃炎の所見は認められていない。 カCK値について<イ>CK値(基準値32~187)は13日に51であったものが14日起床時には356と大幅に上昇しているところ,このCK値の上昇については,筋肉注射後にもCK値は上昇する(別紙知見5(1))ことからして,14日午前4時30分ころのソセゴンの筋肉注射の影響を受けている可能性はあるが,腸管壊死が進行するとCK値が上昇するのであって,その後の症状の経過も併せ考えると,絞扼性イレウスによる腸管壊死の進行を示すものである可能性もある。 (2)上記(1)による認定判断ア上記(1)の検討(<イ>の点を含む,とりわけ,上記(1)のアないしウ。)の検討によれば,腹痛発生当初(13日午後4時ころ)から絞扼性イレウ スであった可能性が高く,仮にそうでないとしても,遅くとも,血圧が80/52に低下してショック状態に陥ったと認められる14日午前8時10分ころには,既に絞扼性イレウスを発症していたものと認めるのが相当である。 イまた,上記(1)の検討(ただし,<イ>の点を除く,とりわけ,上記(1)。)のアないしウの検討によれば,被告病院医師は,Eについて,2度のソセゴンの投与によっても自制不可能な程度の激しい腹痛が持続し,しかも,症状が急速に悪化して,14日午前8時 とりわけ,上記(1)。)のアないしウの検討によれば,被告病院医師は,Eについて,2度のソセゴンの投与によっても自制不可能な程度の激しい腹痛が持続し,しかも,症状が急速に悪化して,14日午前8時10分ころにはショックに陥ったこと等を認めたのであるから,同時刻ころの時点で,絞扼性イレウスの疑いが強いものと判断することができたし,また,そう判断すべきであったと認めるのが相当である。 (3)上記(2)の認定判断を覆すに足りる事情ないし証拠が存在するかどうかについて検討する(上記(1)と同様に,<ア>は14日午前8時10分ころまでに判明した症状等についての検討であり,<イ>はその後に判明した症状等についての検討である。 。)ア白血球数等の炎症所見について被告は,14日起床時の血液検査の結果で白血球の核の左方移動が認められたこと以外には,絞扼性イレウスを疑うべき重度の炎症所見は認められず,また,14日起床時には白血球数が7600と減少して炎症反応が改善したと主張する。 <ア>確かに,13日には,白血球数(基準値4000~9000)が10000,CRP(基準値0.0~0.3)が1.0であって,軽度炎症と評価されるが,絞扼性イレウスの場合には早期の段階であっても常に高度の炎症所見を示すと認めるに足りる証拠はないし,<イ>14日起床時の検査の結果についてみると,絞扼性イレウスの場合に認められることが多いとされている白血球の核の左方移動が認められたのであるし,白血球数が 7600と減少したことについても,H医師も証言するとおり,白血球の過剰消費によっていったんは正常値になった可能性もないとはいえず,他方,午前9時30分ころに37度台後半の発熱があったことは炎症所見と評価される。 いずれにせよ,Eの白血球数等の炎症所見は,絞扼性イレウスと によっていったんは正常値になった可能性もないとはいえず,他方,午前9時30分ころに37度台後半の発熱があったことは炎症所見と評価される。 いずれにせよ,Eの白血球数等の炎症所見は,絞扼性イレウスと矛盾するものとはいえず,上記(2)の認定判断を左右しない。 イ腹膜刺激症状について(ア)腹膜刺激症状は,絞扼性イレウスの鑑別ポイントないし手術適応の目安の1つとされているところ,被告病院医師は,<ア>14日午前8時10分ころまで,腹膜刺激症状はないとの判断をしており,<イ>14日午前9時30分ころには,筋性防御がはっきりせず,ブルンベルク徴候なしとの判断をしていた。 (イ)ところで,腹膜刺激症状は,腹膜炎の所見(甲B23,乙B5)であって,絞扼性イレウスの場合に腹膜炎が起きやすいことから単純性イレウスとの鑑別のポイントとされ,また,イレウスにより腹膜炎が発生している場合には通常手術適応が認められるから手術適応の目安とされているのであって,絞扼性イレウスを発症すると常に直ちに腹膜炎を生じるわけではない(別紙知見1(2)別表1参照。 )そして,本件解剖の結果によれば,回腸が約40cmにわたり出血性壊死を起こし,循環障害が強く,一部穿孔(小孔)があり,腸間膜も出血していて,血清腹腔液700mℓが認められたのであり,少なくとも事後的にみれば,急激に意識レベルの低下等の症状悪化が認められた14日午後1時45分ころ以前に腹膜炎を発症していた可能性が高く,14日午前9時30分には筋性防御が否定されなかったことや,その後被告病院医師は腹膜刺激症状を確認していないことなどからすれば,上記(ア)の所見だけで,午前8時10分ころまでに絞扼性イレウスが発症し ていたことを否定することはできない。 また,絞扼性イレウスは急速に全身状態が悪化して死に至る危 いないことなどからすれば,上記(ア)の所見だけで,午前8時10分ころまでに絞扼性イレウスが発症し ていたことを否定することはできない。 また,絞扼性イレウスは急速に全身状態が悪化して死に至る危険があるので直ちに手術適応があるとされている(別紙知見1(4))以上,腹膜刺激症状が認められない場合でも,腹痛その他の症状から絞扼性イレウスと診断されるか,その疑いが強いと判断される場合には手術適応が認められる場合もある。 よって,Eに14日午前8時10分までに腹膜刺激症状が認められなかったとしてもそれだけで手術適応が否定されることはなく上記(2),,イの認定判断を覆すに足りるものではない。 エ腹部CT検査について(ア)<ア>13日の腹部CT検査で,上腸間膜動脈に異常が認められず,腸管血流は保たれている,腹水無しなどと判断されているところ,絞,,扼性イレウスは血行障害を伴う機械的イレウスをいい小腸の血管は上腸間膜動脈から細かく枝分かれし,小腸の一部が巾着状に締め付けられると血行障害が生じるとされている(甲B12)こと,また,腹水の所見は絞扼性イレウスの所見であり,それはCTで描出可能であるとされていること(上記3(6)(7))から,上記のCT所見は絞扼性イレウスを否定するかのような所見である。 (イ)しかし,腹部CT検査で血行障害が認められるのは,腸管壁や腸間膜動脈の造影効果の低下や欠如によってであり(甲B8,乙B1,腹)部CT検査で血行障害が確認できなかった場合に絞扼性イレウスが否定される旨指摘する文献も特に見当たらないことなどからすれば,絞扼性イレウスが発症して血行障害が生じていても,それが造影効果の低下として捉えられない場合も考えられ,腹部CT検査上,血行障害が認められた場合に絞扼性イレウスを疑うのは当然としても どからすれば,絞扼性イレウスが発症して血行障害が生じていても,それが造影効果の低下として捉えられない場合も考えられ,腹部CT検査上,血行障害が認められた場合に絞扼性イレウスを疑うのは当然としても,血行障害が確認できないからといって絞扼性イレウスでないとはいえず,Eの腹部CT検 査の所見は絞扼性イレウスと矛盾するとはいえない。 そして,腹部CT検査で血行障害が認められなかったことを最大限考慮するとしても,これが実施されたのは13日午後9時43分ころであって,上記(1)アないしウで指摘した症状等を考慮すると,この時点の腹部CT検査の所見だけで,その後約10時間を経過した14日午前8時10分ころの時点における絞扼性イレウスの発症(上記(2)ア)を否定できるものではないし,また,14日午前8時10分ころに絞扼性イレウスの疑いが強いものと判断して開腹手術を行うべきという上記(2)イの認定判断も左右されない。 また、絞扼性イレウスの場合,腸管が粘膜側から順次壊死に陥り,壊死が漿膜下層まで達すると非可逆性になり,絞扼分節の漿膜側から血清,()浸出液が腹腔内に逸脱し血性腹水を呈することとされている甲B8ことからすれば,腹痛発症後約6時間しか経過していない腹部CT検査時に腹水貯留が認められなかったとしても,絞扼性イレウスと矛盾するとはいえず,上記(2)ア及びイの認定判断は否定されない。 オなお,被告は,残胃炎,吻合部潰瘍など(以下「残胃炎等」という)。 の可能性も考えられた旨主張するが,本件解剖の結果,特に残胃炎等の所見は認められなかったのであるし,Eの腹痛の態様,13日の腹部CT所見(小腸の拡張)及び14日午前8時10分ころにはショックに陥ったことなどを残胃炎等による症状と考えるのが相当であるとする医学的知見を認めるに足りる証拠はなく し,Eの腹痛の態様,13日の腹部CT所見(小腸の拡張)及び14日午前8時10分ころにはショックに陥ったことなどを残胃炎等による症状と考えるのが相当であるとする医学的知見を認めるに足りる証拠はなく,上記(2)イの認定判断は左右されない。 以上によれば,被告病院医師は,14日午前8時10分ころの時点で,絞扼性イレウスの疑いが強いものと判断して,直ちに開腹手術を行うべき義務があったということができる。 被告病院医師がこの義務に違反したことは明らかである。 なお,原告らは,被告病院医師において,13日午後10時30分ころ又は 14日午前4時30分ころの時点で,絞扼性イレウスと診断し,又はその疑いが強いものと判断すべきであった,また,入院時か遅くとも14日起床時までにエコー検査ないし腹腔穿刺を行うべきであり,そうすれば腹水等の所見が得られ,上記の判断ができたとの主張もしているが,下記6のとおり,上記の14日午前8時10分ころの時点での義務違反と結果との因果関係は認められるので,この主張については判断するまでもない。 因果関係Eは,絞扼性イレウスによって,5月14日午後1時45分ころ2度目のショックを起こし,そのまま全身状態が悪化して死亡したものである。 絞扼性イレウスからショックを起こす機序は,別紙知見1(2)のとおり,①腸間膜の血行障害により,腸間壁の透過性が亢進し,腹腔内漏出,細菌,エンドトキシン漏出が起きて,循環血流量減少性ショック又は敗血症性ショックを,,起こすか②腸間内及び腹腔内出血から循環血流量減少性ショックを起こすか③腸間壊死により穿孔を起こし,又は細菌漏出により腹膜炎を起こして敗血症性ショックを起こすというものである。 そして,絞扼性イレウスにおいては,積極的なイレウス解除状態を早期に成立させることが肝要であり,開 死により穿孔を起こし,又は細菌漏出により腹膜炎を起こして敗血症性ショックを起こすというものである。 そして,絞扼性イレウスにおいては,積極的なイレウス解除状態を早期に成立させることが肝要であり,開腹手術は,腸管の絞扼部位を解除して血行を改善し,壊死に陥った腸管を切除するなどの処置である(甲B4,7,8,乙B1,2)ところ,一般的には,患者がショックを起こすまでにこれらの処置を施せば,上記①ないし③の機序によって患者がショックを起こすことを防げる蓋然性が高いといえる。 しかして,本件では,5月14日午前8時10分ころの1度目のショックの時点以降も,意識レベルの低下は認められず,血圧もしばしば低下しながらも一定程度維持はされており,呼吸も一応管理はされていたものであるのに,同日午後1時45分ころの意識レベルの低下,心肺停止にまで至る2度目のショック以降,症状が急激に悪化して死亡したものであるから,被告病院医師が同 日午前8時10分ころに絞扼性イレウスを念頭に開腹手術を開始したならば,Eがその約5時間後である同日午後1時45分ころに再度の重篤なショックを起こすことを防げた蓋然性が高いと認めるのが相当であり,他に,本件全証拠を検討しても,上記認定判断を覆すに足りる証拠はない。 したがって,上記6の被告病院医師の義務違反とEの死亡との間には因果関係があるといえる。 被告の責任被告病院医師の上記6の義務違反(過失)は民法709条の不法行為を構成するものであるところ,それが被告の事業の執行について行われたものであることは明らかであるから,被告は,民法715条(使用者責任)に基づき,Eの死亡によって生じた損害を賠償すべき責任を負う。 損害(1)逸失利益証拠(甲C2の1・3,3の2)によると,E(死亡当時69歳)は,平成14年度に,株 法715条(使用者責任)に基づき,Eの死亡によって生じた損害を賠償すべき責任を負う。 損害(1)逸失利益証拠(甲C2の1・3,3の2)によると,E(死亡当時69歳)は,平成14年度に,株式会社アイ・ライフから60万円と株式会社日本経済広告社から255万1000円の合計315万1000円の賃金収入を得るとともに,60万0600円の年金収入を得たと認められる。 そうすると,Eは,本件で死亡しなければ,76歳までの7年間(ライプニッツ係数5.7863)は就労して同程度の収入(賃金収入と年金収入)を得ることができ,また,その後83歳までの7年間は年額60万0600円の年金を受給したであろうことが認められる。生活費控除率について,その年収に鑑み,76歳までは40%,それ以降は100%として,Eの逸失利益を算定すると,下記計算のとおり1302万4729円となる。 (315万1000円+60万0600円)×(1-0.4)×5.7863=1302万4729円(2)慰謝料 Eの死亡による精神的苦痛に対する慰謝料は,本件に顕れた諸般の事情を考慮して,2800万円と認めるのが相当である。 (3)葬儀関係費用本件不法行為と相当因果関係ある葬儀関係費用損害金は,150万円をもって相当と認める。 (4)Eに生じた上記(1)及び(2)の損害賠償請求権については,法定相続分に従って,原告Aが2分の1を,原告B及び原告Cが各4分の1をそれぞれ相続により取得した。また,上記(3)については,原告Aが2分の1を,原告()B及び原告Cが各4分の1をそれぞれ負担したと認められる弁論の全趣旨から,各原告が上記各割合による金員の損害賠償請求権を取得した。 以上による損害賠償請求権の額は,原告Aが2126万2364円,原告B及び原告Cが各1063万1182円 担したと認められる弁論の全趣旨から,各原告が上記各割合による金員の損害賠償請求権を取得した。 以上による損害賠償請求権の額は,原告Aが2126万2364円,原告B及び原告Cが各1063万1182円となる。 (5)弁護士費用本件不法行為と相当因果関係ある弁護士費用損害金は,本件訴訟の難易,請求認容額等に鑑みて,原告Aにつき200万円,原告B及び原告Cにつき各100万円と認めるのが相当である。 (6)したがって,被告に対し,原告Aは2326万2364円の損害賠償請求権を,原告B及び原告Cは各1163万1182円の損害賠償請求権を有する。 以上の次第で,原告らの請求は,被告に対し,原告Aが2326万2364円,原告B及び原告Cが各1163万1182円並びにこれらに対する平成16年4月2日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割,,合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容しその余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第14部 貝阿彌誠裁判長裁判官水野有子裁判官井出正弘裁判官 別紙医学的知見 イレウス(甲B1,4,7,8,12,乙A4,B1ないし4,証人H)(1)イレウス(腸閉塞)とは,腸内容の肛門側への通過障害,停滞により腸管が異常に拡張し,腹部膨満感や腹痛を生じ,腸内容が口側に逆流し嘔吐を来す病態である。イレウスは,物理的な閉塞起点を有し,同部での腸管の拡張,虚脱の境界が明瞭な機械的イレウスと,明らかな閉塞起点を有さず腸管運動の障害により腸内容の停滞のみを生じる機能的イレウスに分類される。機械的な通過障害でも,完全閉塞まで至らない狭窄程度の通過障害で,腹部膨満,悪心,嘔吐などの症状を示す病態を亜イレウス 有さず腸管運動の障害により腸内容の停滞のみを生じる機能的イレウスに分類される。機械的な通過障害でも,完全閉塞まで至らない狭窄程度の通過障害で,腹部膨満,悪心,嘔吐などの症状を示す病態を亜イレウスとも呼ぶ。機械的イレウスは,腸管の血行障害を伴う絞扼(複雑)性イレウスとこれを伴わない単純性イレウスに分類される。単純性イレウスのうち,開腹手術後の癒着を原因とするイレウスを癒着性イレウスという。 (2)単純性イレウス及び絞扼性イレウスの病態生理の流れは,以下の説明を加えるほか,概要別表1のとおりである。 腸管の機械的閉塞が起こると,閉塞部位の口側の腸管は貯留したガスや腸液により拡張する。腸管の拡張と内圧の上昇に伴い静脈還流が障害され,腸管壁の浮腫,腹腔内への水,Naの漏出が起こる。腸管内圧がさらに上昇すると動脈血流も障害され,腸管壊死,穿孔を来す。また絞扼性イレウスの場合は,早期に動脈血流障害を来し,腸管壊死,穿孔,腹膜炎,ショックへと進行する。 健常人では1日に7~8ℓの電解質を含んだ腸液が分泌,再吸収されているが,これに加え血管内から漏出した水分,Naが嘔吐などにより大量に体外に失われるため,細胞外液,循環血漿量が低下する。絞扼性イレウスの場合,血行障害が腸管壁の透過性を亢進させ,細菌や細菌由来の毒素が腹腔などから吸収されて血液に入り込む水分もさらに漏出し,脱水は急速に進み,ショックや腎血流の低下による腎不全を来す。血管の透過性が亢進し,腸内細菌が血中に流入するため,敗血症やエンドトキシンショックを来すこともある。 (3)イレウスは,手術歴の有無,腹痛の種類及び経過,嘔吐,腹部膨満,腸蠕動不隠,排ガス停止,腹部X線所見などにより他の疾患と鑑別される。腹痛を主訴とする急性腹膜炎,胆石症,急性虫垂炎,急性膵炎,尿路結石,子宮外妊娠, 歴の有無,腹痛の種類及び経過,嘔吐,腹部膨満,腸蠕動不隠,排ガス停止,腹部X線所見などにより他の疾患と鑑別される。腹痛を主訴とする急性腹膜炎,胆石症,急性虫垂炎,急性膵炎,尿路結石,子宮外妊娠,卵巣嚢胞茎捻転などとの鑑別が重要となる。 (4)一般に,イレウスの場合,循環血流量が減少するので,鎮痛剤投与とともに輸液を開始すべきである。 絞扼性イレウスの場合,腸管壊死,腹膜炎,敗血症,ショック等を起こし,急速に全身状態が悪化し,死に至る危険があるので,直ちに手術が必要であるが,紋扼性イレウスが否定されれば保存的治療(絶飲食による腸管の安静とチューブによる減圧,補液による脱水や電解質異常の補正等)が第一選択とな。 り,そのまま寛解することも多く,いきなり重症化することは少ない。 単純性イレウスが,拡張腸管の捻転,嵌頓などにより,絞扼性イレウスに移行することもあるので注意を要する。 ショック(甲B27,乙B11)(1)ショックは,収縮期血圧90以下,平均血圧60以下の時,あるいは40以上の急激な血圧低下があった時と定義される。また,ショックの重傷度診断には,別表2のショックスコアが有用であり,5点以上でショックと診断される。 ショックになるかどうかは,心拍出量,循環血流量,全身血管抵抗の3要素により規定されている。また,蒼白,拍動の減弱,発汗,虚脱,頻呼吸の5つは,典型的なショックの症状とされる。ショック状態では,細胞の嫌気性代謝が行われて代謝性アシドーシスが起こり,動脈血ガス分析上はPHの低下と重炭酸イオンの減少,BEの低下を呈する。また,代謝性のPaCO低下と, 低酸素血症を認めることが多い。 ショックは,病態ごとに,循環血流量減少性ショック,心原性ショック,閉塞性ショック,血液分布異常性ショック(敗血症性ショックないしエンドトキ 謝性のPaCO低下と, 低酸素血症を認めることが多い。 ショックは,病態ごとに,循環血流量減少性ショック,心原性ショック,閉塞性ショック,血液分布異常性ショック(敗血症性ショックないしエンドトキ シンショックもこれに分類される)の4つの病態に分類される。 。 (2)ショックが生じた場合,急速輸液をしながらショックの病態を鑑別し,症状が重篤な場合はプレドパやノルアドレナリン等で昇圧した後に鑑別し,病態に即して輸液治療及び原因疾患に対する治療を行う。 循環血流量減少性ショックの輸液治療の基本は循環血流量の補充である。低血圧が著しい場合には,一時的に血圧上昇作用などのα刺激作用を期待してプレドパなどの使用を考慮するが,循環血流量の補充とともに血行動態が安定すれば直ちに減量,中止する。 血液分布異常性ショックは,全身の血管が拡張することにより相対的な循環血流量減少状態になっている。治療は,循環血流量減少性ショックと同じく輸液が基本となるが,輸液により十分な前負荷が補充されても低血圧が遷延することも多く,そのような場合にはα刺激薬(プレドパ,ノルアドレナリン等)を使用する。プレドパでは昇圧できないことが多く,その場合はノルアドレナリンを使用する。 敗血症(甲B25),,,(1)敗血症とは感染が惹起した全身性の炎症反応であり感染の存在に加え以下の2つ以上の項目を満たす病態と定義される。 ①高ないし低体温(体温>38℃ないし<36℃)②頻脈(心拍数>90/分)③頻呼吸(>20/分)ないし低炭酸ガス血症(PaCO<32) ④白血球数増加や減少(>12000/μℓ,<4000μℓ)ないし核左方移動(桿状核好中球>10%),,,,,敗血症は臓器機能障害低灌流あるいは低血圧を合併して重症敗血症敗血症性ショック, 増加や減少(>12000/μℓ,<4000μℓ)ないし核左方移動(桿状核好中球>10%),,,,,敗血症は臓器機能障害低灌流あるいは低血圧を合併して重症敗血症敗血症性ショック,を経て,多臓器機能不全障害へと重篤化する。 (2)敗血症性ショックとは,乳酸アシドーシス,乏尿,精神状態の急性変化を含むが,これだけに限定されない適切な輸液に反応しない敗血症起因性低血圧 である。 DIC(播種性血管内凝固亢進)とは,悪性腫瘍,敗血症,ショック,アシドーシスなど何らかの基礎疾患があり,組織因子の血中流入あるいは出現,血管内皮細胞障害などにより,生体内で凝固系が過度に活性化され,トロンビン生成に伴い,全身性の主として細小血管内に播種性に微小血栓形成が起こり,それに基づく虚血性臓器障害を来すとともに,2次線溶亢進及び血小板や凝固因子の消費性低下による著明な出血傾向を生じる病態である。 薬剤(1)ソセゴン(甲B9)「ソセゴン」とは,ペンタゾシンの商品名で,各種癌や術後等の鎮痛に効果があるベンズアゾジン系鎮痛剤である。筋肉注射後15~20分で鎮痛効果が発現し,その効果は3~4時間継続するものとされており,胸腹部臓器疾患に伴う疼痛に対する鎮痛効果が,一般臨床試験において94.4%認められている。 (2)プリンペラン(甲B10)プリンペランとは,メトクロプラミドの商品名で,胃炎等の場合の消化器異常等に効果があるベンザミド系消化器機能異常治療剤である。 (3)プレドパ(甲B3,乙B9,10),,()プレドパとは塩酸ドパミンの商品名で急性循環不全出血性ショック等改善剤であり,①無尿,乏尿や利尿剤で利尿が得られない状態,②脈拍数の増加した状態,③他の強心剤,昇圧剤により副作用が認められたり奏功しない場合に使用され の商品名で急性循環不全出血性ショック等改善剤であり,①無尿,乏尿や利尿剤で利尿が得られない状態,②脈拍数の増加した状態,③他の強心剤,昇圧剤により副作用が認められたり奏功しない場合に使用される。少量(5γ(ガンマ=μg/kg/分)以下)投与では腸間膜血流や腎血流量が増加して,尿量が増加するが,投与量が多くなる(5γ以上)と,血圧上昇作用等のα刺激作用が加わる。 検査値(1)CK(CPK(クレアチニン(フォスフォ)キナーゼ(甲B24))) CKは,筋肉細胞のエネルギー代謝に,重要な役割を果たす酵素の一種であり,筋肉や脳などの組織細胞に障害があるかどうかを判定するのに役立つ。病因以外では,筋肉注射,血管注射,手術,激しい運動の後や鎮静剤などを服用している場合などに少し増加する。 (2)CRP(甲B2の2),(),急性炎症や組織崩壊があるとき血中に増加する蛋白質C反応性蛋白で急性反応物質の1つ。特定の疾患との特異性はなく,病気の活動性,重傷度判定,経過を見るのに役立つ。 (3)白血球数(WBC(甲B2の4ないし6))白血球の異常は,血液疾患,感染症,中毒,組織の壊死など様々な病態によって起こる。救急疾患での白血球増加は,細菌,真菌,寄生虫やウイルスによる急性感染症,熱傷,心筋梗塞,外傷や手術後などの炎症,中毒,急性出血,気管支喘息や薬剤アレルギーなどで起こり,白血球減少は,重症感染症,アナフィラキシーショックなどで起こる。 (4)MCV(平均赤血球容積,RDW(赤血球粒度分布幅(甲B5,6)))RDW高値,MCV正常の場合,鉄芽球形貧血,鉄,ビタミンB12,又は葉酸欠乏症の初期,複合性欠乏症,貧血性異常血色素症,骨髄線維症が疑われる。 値,MCV正常の場合,鉄芽球形貧血,鉄,ビタミンB12,又は葉酸欠乏症の初期,複合性欠乏症,貧血性異常血色素症,骨髄線維症が疑われる。

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