- 1 - 主文 被告人を懲役1年に処する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 本件公訴事実中,過失運転致死の点については,被告人は無罪。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成26年11月17日午後6時1分頃,普通乗用自動車(以下,「被告人車両」という。)を運転し,岐阜市島栄町内の東西に延びる市道(以下,「本件市道」という。)と南方に延びる市道とが交わる,交通整理の行われていない三差路交差点(以下,「本件交差点」という。)を,東から西へ向かい直進するに当たり,折から同交差点出口付近に向けて本件市道を北側から南側に向かい横断歩行中のA(当時84歳)に自車左前部を衝突させて路上に転倒させ,同人に重症頭部外傷等の傷害を負わせる交通事故(以下,「本件事故」という。)を起こし,もって,自己の運転に起因して人に傷害を負わせたのに,直ちに車両の運転を停止して,同人を救護する等必要な措置を講じず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律に定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。 (一部無罪の理由)本件公訴事実中,過失運転致死の点(公訴事実第1)は,「被告人は,平成26年11月17日午後6時1分頃,普通乗用自動車を運転し,岐阜市島栄町内の交通整理の行われていない三差路交差点を,東から西方面へ向かい直進するに当たり,同所は道路標識によりその最高速度が40キロメートル毎時と指定された場所であったから,同最高速度を遵守するはもとより,前方左右を注視し,進路の安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,左方道路から来る車両の有無に気をとられ,前方左右を十分注視せず,進路の安全確認不十分のまま漫然時速約50キロメートルで進行した過失により,折から同 すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,左方道路から来る車両の有無に気をとられ,前方左右を十分注視せず,進路の安全確認不十分のまま漫然時速約50キロメートルで進行した過失により,折から同交差点出口付近を右方から左方へ向かい小走りで歩行横断中のA(当時84歳)を至近距離に迫 - 2 -ってようやく認めたが,急制動の措置を講じる間もなく,同人に自車左前部を衝突させて路上に転倒させ,よって,同人に重症頭部外傷等の傷害を負わせ,同日午後8時42分頃,同市内の病院において,同人を上記重症頭部外傷により死亡させた」というものである。 この点,関係証拠によれば,被告人が,判示のとおりの交通事故を起こし,これにより,Aに重症頭部外傷等の傷害を負わせ,同人を同外傷により死亡させたとの事実を優に認定することができ,その限りにおいては当事者間にも争いがないが,本件事故発生時の被告人の走行状況,現場付近の交通状況やこれを前提とした自動車運転上の過失の有無については下記第1のとおり争いがある。 当裁判所は,検察官の主張する自動車運転上の過失があったと認めるには合理的な疑いが残り,上記公訴事実については犯罪の証明がないことに帰するものと判断したので,以下,その理由を説明する。 第1 当事者の主張及び本件における争点 1 当事者の主張検察官は,被告人は,本件交差点を直進するに当たり,前方左右を十分に注視せず,安全確認不十分なまま,最高速度を超える時速約50キロメートルで進行した過失により,本件事故を惹起した旨主張するとともに,これに関連して,本件事故当時,被告人車両の走行車線(以下,「被告人走行車線」という。)の対向車線(以下,単に「対向車線」という。)上には,被告人の視界を遮るような車両は存在していなかったから,Aが道路の横断を開始し始 事故当時,被告人車両の走行車線(以下,「被告人走行車線」という。)の対向車線(以下,単に「対向車線」という。)上には,被告人の視界を遮るような車両は存在していなかったから,Aが道路の横断を開始し始めた直後には同人を発見することができた上,最高速度を遵守し,かつ,同時点で制動等の回避措置をとれば,本件事故を回避することができた旨主張する。 これに対し,弁護人は,前方左右の不注視及び速度超過の各事実を争うとともに,本件当時,対向車線上には複数の車が渋滞又は低速で走行し連なっている状態であったため,対向車線上に連なる車両の背後を横断していたAの姿は被告人からは目視することはできず,被告人がAを発見し得た時点で制動措置 - 3 -をとったとしても本件事故を回避することはできなかったから,いずれにしても被告人には自動車運転上の過失はないとして,過失運転致死の点について無罪を主張する。 2 本件における争点本件における争点は,被告人の自動車運転上の過失の有無であり,これを基礎付けるより具体的な争点として,本件事故当時の①被告人車両の走行速度,②前方左右不注視の事実の有無,③対向車線上の道路状況及びこれを踏まえた④結果回避可能性の4点が挙げられる。 そこで,以下,本件事故現場付近の状況や本件事故の発生状況等について,前提となる事実を認定した上で,上記①ないし④の各争点について検討し,被告人の自動車運転上の過失の有無についての結論を示すこととする。 第2 前提となる事実前掲証拠のほか,自動車工学の専門家作成に係る鑑定書(以下,「鑑定書」という。)を含む関係証拠によれば,本件事故現場及び本件事故の客観的状況として以下の事実が認められる。 1 本件事故現場の状況等⑴ 本件事故現場は,中央線で区分された片側1 下,「鑑定書」という。)を含む関係証拠によれば,本件事故現場及び本件事故の客観的状況として以下の事実が認められる。 1 本件事故現場の状況等⑴ 本件事故現場は,中央線で区分された片側1車線の車道幅員7.3メートルの東西に通じる本件市道と,本件市道から南方に通じる車道幅員5.8メートルの市道(以下,「交差道路」という。)が交わる三差路交差点(本件交差点)付近の道路である。被告人が走行していた本件市道の本件事故現場付近における最高速度は,40キロメートル毎時と規制されていた。そして,本件交差点内には,東西方向及び南北方向ともに横断歩道は設置されておらず,本件市道を南北に横断する横断歩道は,本件事故現場から東方約65メートルの地点及び西方約117メートルの地点にそれぞれ設置されていた。 ⑵ 本件市道の沿道には,本件事故現場の北側にスーパーマーケットが,南側にガソリンスタンドがあり,本件市道を挟んだ同ガソリンスタンドの北東端 - 4 -の向かい(北側)には上記スーパーマーケットの店舗出入口が設置されていた。また,上記スーパーマーケットに隣接した東側には駐車場が設置されており,本件市道側にはその出入口が複数設けられていた。 ⑶ 本件市道は,アスファルト舗装された直線状の平坦な路面であり,本件事故当時,天候は曇りであったが,路面は降雨があったため湿潤な状態にあった。また,事故発生時刻は,日没後であり,通行車両は前照灯を点灯して走行していたが,付近に設置された街路灯や周辺の店舗の照明等で比較的明るい状態であった。 2 本件事故の発生状況等⑴ 被告人は,本件事故当日,勤務先から帰宅するため,普通乗用自動車を運転し,本件事故現場の東方にある交差点から右折して本件市道に入り,本件市道を西進していた。なお,本件事故直 故の発生状況等⑴ 被告人は,本件事故当日,勤務先から帰宅するため,普通乗用自動車を運転し,本件事故現場の東方にある交差点から右折して本件市道に入り,本件市道を西進していた。なお,本件事故直前,被告人車両と先行車両との車間距離は,約60メートル程度であった。 ⑵ 一方,Aは,本件事故の直前に,上記スーパーマーケットでの買い物を済ませた後,上記1⑵の店舗出入口から歩いて店の外に出て,同所近くに設置されていた街路灯(上記ガソリンスタンドの向かいに設置されていたもの。 以下,「本件街路灯」という。)付近から車道に入り,交差道路方面に向かって本件市道の横断を開始した。Aは,横断開始後,秒速約1.22メートルから1.32メートル程度の概ね一定の速度で歩行を継続し,中央線付近で立ち止まることなく被告人走行車線に入った。 ⑶ 本件交差点付近の本件市道北端から約4.7メートルの地点で,本件市道を西進してきた被告人車両の左前部と,本件市道を南方に横断歩行中のAが衝突し(以下,「本件衝突」といい,その地点を「本件衝突地点」という。),この衝突の衝撃により,Aは,被告人車両の左前方約6.8メートルの地点まで飛ばされた。 ⑷ 被告人は,本件衝突の直前と直後にはアクセルにより加速することも,ブ - 5 -レーキにより減速することもしておらず,本件衝突地点から約5.6メートルの地点でブレーキを踏んだものの,路上にスリップ痕等が印象されるような急ブレーキではなかった。被告人は,本件衝突位置から35メートルないし50メートル程度進行した地点で一旦停止したが,その後,再び発進し,その場を逃走した。なお,本件衝突直後の被告人車両の速度は,本件衝突地点から約12メートルの区間で平均して時速40.4キロメートルであった。 第3 争点に対する判断 止したが,その後,再び発進し,その場を逃走した。なお,本件衝突直後の被告人車両の速度は,本件衝突地点から約12メートルの区間で平均して時速40.4キロメートルであった。 第3 争点に対する判断 1 被告人車両の走行速度(争点①)について⑴ 検察官は,被告人の捜査段階の供述に依拠して,本件事故現場付近での被告人車両の走行速度は最高速度である40キロメートル毎時を超える時速約50キロメートルであったと主張する。 ⑵ しかし,被告人は,そもそも本件事故当時速度メーターを確認して走行していたわけではないというのであって,その速度に関する供述は,感覚的なものにすぎず,性質上,正確性が担保されているものではないから,具体的な速度を認定する上でその証拠価値を過大視することはできない。また,被告人の捜査段階の供述調書には,本件事故当時の走行速度が時速約50キロメートルであった旨具体的に特定する記載がある一方で,本件事故前後に減速した際の速度については時速20キロメートルから30キロメートルくらいであったなどとの幅のある記載がされており,いずれも体感速度であるにもかかわらず,前者についてのみ具体的に特定された速度が記載されているのも不自然である。この点,被告人は,公判廷においては,捜査段階では本件事故当時の速度については時速30キロメートルから50キロメートルぐらいと述べていた,供述調書上は時速50キロメートルと特定されているが,これは,その旨記載された供述調書案を示された際に,ひき逃げをした負い目があるので仕方ないと思い訂正はしなかった旨述べている。被告人の速度に関する供述が感覚的なものである以上,幅のある速度を述べていたとする - 6 -点はむしろ自然であるし,にもかかわらず,供述調書上は時速約50キロメートルとして特定さ べている。被告人の速度に関する供述が感覚的なものである以上,幅のある速度を述べていたとする - 6 -点はむしろ自然であるし,にもかかわらず,供述調書上は時速約50キロメートルとして特定された経緯として被告人が述べるところもあながち不自然とはいえない(被告人の警察官調書には,「時速約30キロメートルで走行中」,「もし,私が時速30キロメートルで走行していたならば」など,被告人が,上記公判供述に沿う供述をしていたことをうかがわせる記載もある。)。 以上によれば,被告人の捜査段階の供述調書中の走行速度に関する記載は,一応の目安としての意味を持ち得るにしても,本件事故当時の客観的な速度を具体的に特定するに足りる証拠であるとはいえない。 ⑶ そこで,被告人の走行速度について,事故状況に関する客観的な事実やこれを踏まえた専門的知見(鑑定書)を基に検討することとする。 アこの点,前記第2の2の認定事実によれば,本件衝突地点から約12メートル進行するまでの区間における被告人車両の平均走行速度は,時速約40.4キロメートルであったこと,被告人は,本件事故の直前,直後に加減速の措置はとっておらず,本件衝突地点から約5.6メートル進んだ地点で初めてブレーキをかけたこと,もっとも,急ブレーキではなく,これにより被告人車両が急激に減速することはなかったこととの各事実が認められる。そして,以上に加え,ブレーキを踏もうと考えてから,実際にブレーキが利き始めるまでの空走距離をも併せ考慮すると,本件衝突の衝撃によりある程度減速した可能性があるにしても,本件衝突地点から約12メートル進行する間に大幅に減速したとは考え難い。そうすると,本件事故当時の被告人車両の走行速度としては,時速40.4キロメートルをやや上回るものであったとまでは認められるものの,本 地点から約12メートル進行する間に大幅に減速したとは考え難い。そうすると,本件事故当時の被告人車両の走行速度としては,時速40.4キロメートルをやや上回るものであったとまでは認められるものの,本件衝突の衝撃による減速の程度も明らかでない以上,これを超えて具体的にその速度を特定することはできないというべきである。 イまた,本件衝突地点とAの転倒地点との距離(Aの飛翔距離)に基づく - 7 -本件事故時の被告人車両の計算上の走行速度は,時速約26キロメートルないし30キロメートルであり,Aが被告人車両の進行方向の左斜め約30度の角度で飛翔していることをも併せ考慮すると,実際の走行速度は上記計算上の速度を上回るものであったと考えられる(鑑定書)。しかし,飛翔距離に基づく上記考察は,上記アの認定に係る走行速度と矛盾するものではないといえるものの,時速約26キロメートルないし30キロメートルをどの程度上回るものであったかは不明であり,上記考察からも具体的に走行速度を特定することはできない。 結局のところ,本件事故当時の被告人車両の走行速度については,本件全回るものであったと認められるにとどまり,時速約50キロメートルで走行していたとの事実までは認定できない。 2 前方左右不注視の事実の有無(争点②)について⑴ 検察官は,本件市道を西進中,本件衝突地点の約25.9メートル手前から進路左前方を見ながら走行した,本件衝突地点で進路前方に視線を戻し,目の前に人らしいものが見えたと思った瞬間に衝突してしまったなどとの被告人の捜査段階の供述に依拠し,被告人は交差道路から来る車両の有無に気をとられ,前方左右の注視を欠いた旨主張する。 ⑵ しかし,前記第2に認定した本件事故現場付近の道路状況や交通状況等に照らすと,仮に,本件事故 述に依拠し,被告人は交差道路から来る車両の有無に気をとられ,前方左右の注視を欠いた旨主張する。 ⑵ しかし,前記第2に認定した本件事故現場付近の道路状況や交通状況等に照らすと,仮に,本件事故直前の被告人の視線の動きが上記供述のとおりであったとしても,これを前方左右不注視と評価すべきかについては疑問がある。すなわち,道路交通法上,交差点に入ろうとするときには,当該交差点の状況に応じ,交差道路を通行する車両等,当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意しなければならないものとされている(36条4項)。この点,本件事故現場は,三差路である本件交差点付近道路であるところ,被告人の進行方向手前側からは左方への見通しが悪い一方,本件交 - 8 -差点には横断歩道は設置されていなかったのであるから,先行車両とも十分な車間距離がある中,本件交差点に入ろうとするときに最も注意すべきは左方の交差道路を通行する車両等の有無であるというべきであって,本件交差点付近に至って,交差道路方向である左方に視線を向けることはむしろ必要かつ相当な行為であるといえる。しかも,交差道路方向を通行する車両の有無等を確認するには,進路前方を視野に捉えつつ,やや左前方に視線を向ければ足りるから,交差道路の安全確認に必要な限度での視線の移動である限り,これにより進路前方の対向車線方向への注意の比重が相対的に下がり,あるいは一時的に視界から外れることがあったとしても,これをもって前方左右不注視と評価することは,運転者に実現困難な過大な注意義務を課するに等しいといわなければならない。 さらに,被告人は,公判廷においては,本件事故直前,「左前方と前方を見ていました。」,「(左前方については)3差路で車が来るかもしれないと思い,注意はしていました。」,「右を注視 ければならない。 さらに,被告人は,公判廷においては,本件事故直前,「左前方と前方を見ていました。」,「(左前方については)3差路で車が来るかもしれないと思い,注意はしていました。」,「右を注視するということはしてないですが,視界には入っていました。」などと述べている。本件交差点付近の道路状況等に照らせば,これら公判供述は,上記捜査段階の供述よりもむしろ自然な内容であり,少なくともその信用性を排斥することはできないというべきである。 そうである以上,被告人が,本件事故直前に交差道路方向に視線を向けた事実は認められるものの,これをもって前方左右不注視の事実があったと評価することはできないというべきである。 なお,下記5のとおり,本件事故は,夜間に発生したものである上,被告人の進行方向前方にはAの横断位置への視界を遮る対向車両が存在したことなどから,被告人がAを発見し得たのは,早くとも本件衝突の1秒余り前であったと認められる。そして,そうである以上,被告人が述べるとおり,衝突直前,被告人車両の正面にいるAの存在に初めて気付いたのだとしても, - 9 -それ自体は,脇見をするなどして前方左右の注視を欠いたとの事実を推認させるものとはいえない。 3 小括以上のとおり,被告人にはそもそも前方左右注視義務違反はなく,走行速度についても最高速度である時速40キロメートルをやや超える程度であったというべきであるが,仮に,交差道路の方向に視線を向けたことをもって前方左右不注視と評価する余地があるとしても,結果回避可能性があったと認めるにはなお合理的な疑いが残るというべきであり,いずれにせよ,被告人には自動車運転上の過失があると認めることはできない。 以下,対向車線上の道路状況(争点③)及びこれを踏まえた結果回避可能性(争 るにはなお合理的な疑いが残るというべきであり,いずれにせよ,被告人には自動車運転上の過失があると認めることはできない。 以下,対向車線上の道路状況(争点③)及びこれを踏まえた結果回避可能性(争点④)の順に補足して説明する。 4 対向車線上の道路状況(争点③)について被告人は,当公判廷において,本件事故当時,本件事故現場付近では対向車線上に車両が連なって渋滞しており,Aは,対向車線上の車の陰から出てきた旨述べている。 これに対し,検察官は,主として,本件事故当時,対向車線上を本件事故現場に向かって東進していた車両の運転手であるBの供述,Bの運転車両(以下,「B車」という。)に搭載されていたドライブレコーダーの画像(以下,「ドライブレコーダー画像」という。)及びこれらを資料として作成された鑑定書に依拠して,対向車線上のB車の前方には,1台の先行車両(以下,「B前車」という。)が走行しており,さらにその前方を走行する先行車両があった可能性も否定はできないが,いずれにせよ,本件事故当時,本件事故現場以東の対向車線上に渋滞による停止車両や低速で進行していた車両は存在しなかったことは明らかであって,上記被告人供述は信用できない旨主張する。 そこで,まず,B前車の前を走行する車両が存在したか否かについて検討 - 10 -する。 この点,本件事故時及びその直前の本件衝突地点以東の対向車線上の道路状況については,B自身は,B車の約20メートル前を走行するB前車によって視界を遮られ,目視することができなかった上,ドライブレコーダー画像もB前車越しの状況が撮影されたものにすぎず,鑑定書も,B前車の前方の車両の有無については特定不能であると結論づけている。しかし,ドライブレコーダー画像をつぶさにみると(以下,〔〕内に記載した時刻 像もB前車越しの状況が撮影されたものにすぎず,鑑定書も,B前車の前方の車両の有無については特定不能であると結論づけている。しかし,ドライブレコーダー画像をつぶさにみると(以下,〔〕内に記載した時刻は,関連する場面がドライブレコーダー画像に表示された時刻を指す。),Aが本件市道の横断を開始した約1秒後〔18:04:24〕に,本件街路灯の約10メートル東方に設置された中電柱(街路灯付きのもの。以下,「本件中電柱」という。)を過ぎた付近でB前車とは別の車両のブレーキランプが点灯している様子を確認できるのであって,B前車の前方を走行する先行車両(以下,「B前々車」という。)が存在したことは明らかである。また,B前車とB前々車との車間距離については,上記時点においてB前車が上記ガソリンスタンドの西端付近を走行していたことに照らすと,概算ながら30メートル程度であったと認められる。 次に,B前車及びB前々車の走行状況をも含め,本件事故前後の本件衝突地点以東の道路状況について検討すると,ドライブレコーダー及び鑑定書を含む関係証拠によれば,前記第2の認定事実に加え,以下の事実が認められる。 ア Bが本件市道を本件衝突地点に向けて東進する途上においては,渋滞することもなく,車がスムーズに流れていたが,B車の前方にも一定の車間距離を置きつつ複数の車両が走行しており,ある程度の交通量があった〔18:03:55~56〕。 イ Aは,B前々車が自身の前を通過してすぐに,本件街路灯付近から車道に入り〔18:04:23〕,横断歩道のない本件交差点付近で本件市道 - 11 -の横断を開始した。Aは,B前々車とB前車との間を,途中で立ち止まることもなく,秒速約1.22ないし1.32メートルで歩行を続けた。なお,Aは,車道に入ってから約2.46秒で本 - 11 -の横断を開始した。Aは,B前々車とB前車との間を,途中で立ち止まることもなく,秒速約1.22ないし1.32メートルで歩行を続けた。なお,Aは,車道に入ってから約2.46秒で本件市道の中央線に到達し,約3.56秒で本件衝突地点に到達した。 ウ B前々車の運転者は,Aが自車の後方で横断を開始した約1秒後〔18:04:24〕に本件中電柱のやや東側でブレーキを踏み,以降,少なくとも約8秒間,制動措置を継続した。 一方,B前車の運転者は,Aが本件市道に進入した約0.61秒後,B前々車のブレーキランプが点灯した直後〔18:04:24〕にブレーキを踏み,その約1.45秒後,前方をAが横断している最中に,一旦ブレーキペダルから足を離したが,その前方をAが通過し,かつ,Aが被告人車両と衝突した〔18:04:27〕後に,再び,断続的に制動措置をとった〔18:04:28~38〕。 B前々車及びB前車の各運転手が最初にブレーキを踏んだ時点〔18:04:24〕において,両車両の対面信号は青色表示であり,同表示は,ドライブレコーダー画像表示が〔18:04:36〕になるまで続いていた。 エ本件衝突地点以東の本件市道の北側には,上記スーパーマーケット及びその駐車場があり,B前車の前方で上記駐車場の出口から本件市道に出ようとする車両もあった〔18:04:35~37〕。 そこで,検討するに,本件衝突直前には,B前車の前方約30メートルにBB前々車は,Aが自車の後方を横断し始めた直後に,対面信号が青色表示であるにもかかわらず,ブレーキを踏み,以降,少なくとも約8秒間にわたり制動措置を継続して減速してい量があり(同ア),かつ,本件衝突地点以東には,上記スーパーマーケットの駐車場があり,こ - 12 -れに出入りする ーキを踏み,以降,少なくとも約8秒間にわたり制動措置を継続して減速してい量があり(同ア),かつ,本件衝突地点以東には,上記スーパーマーケットの駐車場があり,こ - 12 -れに出入りする車両もあったこと(同エ)からすれば,B前々車が上記のとおりブレーキを踏んだのは,信号表示に従ったものでも,横断を開始したAとの衝突を避けるためでもなく,上記スーパーマーケットの駐車場に出入りする車両があったことなどから,B前々車の前にも車両が連なっていたためである可能性が高いというべきである。また,B前々車とB前車との車間距離が30メートル程度(時速40キロメートルで走行する車両であれば3秒青色表示であるにもかかわらず,Aが,B前々車とB前車の間を比較的ゆっ件衝突地点以東の対向車線上の交通状況を見るなどして,B前車が減速するであろうことを予想していたからであるとすれば,自然である。 以上によれば,本件事故当時,本件事故現場付近の対向車線上には,B前車の前方に,本件市道を横断するAを挟んで東方を走行するB前々車があったことが認められるほか,同車両の前方(東方)にも複数の車両が連なってことはできないから,本件事故当時の本件事故現場付近の対向車線上の状況としては,被告人の公判供述のとおり,車両が連なっていたものと認めるのが相当である。 5 結果回避可能性(争点④)についてそこで,上記4に認定した対向車線上の状況をも含む,本件事故当時の実際の道路状況を踏まえ,被告人が,停止可能距離に到達するよりも前にAを発見することができたか否かを検討する。 被告人車両の停止可能距離まず,被告人の走行速度については,上記1のとおり,厳密な速度を認定することはできないので,時速40キロメートルから45キロメートルの間であったと仮定し,路面が湿潤状 被告人車両の停止可能距離まず,被告人の走行速度については,上記1のとおり,厳密な速度を認定することはできないので,時速40キロメートルから45キロメートルの間であったと仮定し,路面が湿潤状態であったことを踏まえ,摩擦係数を0. - 13 -4,反応時間を標準的な数値である0.75秒として計算すると,その停止可能距離は,時速40キロメートル(秒速約11.11m)の場合約24. 08メートル,時速45キロメートル(秒速約12.5m)の場合約29. 3メートルとなる。 本件事故直前の被告人からのAの視認可能性次に,上記4の認定事実に基づく本件事故直前の被告人車両,A及びB前々車の位置等を踏まえ,いつ,どの地点において,被告人から横断歩行中のAを発見することができたかについて検討する。 ア Aが横断を開始した時点(衝突の約3.56秒前)同時点においては,被告人車両は,本件衝突地点の手前約44.5メートル(時速45キロメートルの場合)ないし約39.55メートル(時速40キロメートルの場合)の地点を,B前々車は,本件街路灯付近をそれぞれ走行中であり,Aは,B前々車のすぐ後ろ付近で横断を始めたものと認められる。そして,この位置関係を前提にすると,横断開始直後のAは,B前々車に遮られたまさに死角を歩行していたものと認められ,被告人からその姿を視認することは物理的に不可能であったというべきである。 イ Aが横断を開始した約1秒後(衝突の約2.56秒前)同時点においては,被告人車両は,本件衝突地点の手前約32メートル(時速45キロメートルの場合)ないし約28.44メートル(時速40キロメートルの場合)の地点を,B前々車は,本件街路灯の約10メートル東方の地点をそれぞれ走行中であり,Aは,横断開始位置から本件衝突地 45キロメートルの場合)ないし約28.44メートル(時速40キロメートルの場合)の地点を,B前々車は,本件街路灯の約10メートル東方の地点をそれぞれ走行中であり,Aは,横断開始位置から本件衝突地点に向け,約1.22メートル南下した対向車線中央よりやや北側を歩行していた。そうすると,この時点においても,被告人車両とB前々車との間にはなお約18.44メートルないし約22メートルの距離があることになるから,両車両ともに極端に歩道寄りを走行していたなどの事情がない限り(証拠上そのような事情は認められない。),被告人から対向車 - 14 -線側を見た場合,少なくとも本件衝突地点付近の対向車線の北側半分程度は,なおB前々車の死角となっていたものと考えられる。そうである以上,同時点においても,被告人が,対向車線の中央よりもやや北側を歩行していたAの姿を視認することは物理的に不可能であった可能性が高いというべきである。 ウ Aが横断を開始した約2秒後(衝突の約1.56秒前)同時点においては,被告人車両は,本件衝突地点の手前約19.5メートル(時速45キロメートルの場合)ないし約17.33メートル(時速40キロメートルの場合)の地点を,B前々車は,具体的な位置の特定は困難であるが,本件街路灯の約10メートル以上東方の地点をそれぞれ走行中であり,Aは,横断開始位置から本件衝突地点に向け,約2.44メートル南下した対向車線上の中央線寄りを歩行していた。 B前々車の車種(大きさ)や走行位置,速度等が明らかではないので断定することはできないものの,それまでの同車両及び被告人車両の走行状況に照らすと,同時点においては,両車両が既にすれ違った後である可能性が高く,そうでなくとも,上記Aの位置に照らすと,B前々車が,被告人のAの方向へ いものの,それまでの同車両及び被告人車両の走行状況に照らすと,同時点においては,両車両が既にすれ違った後である可能性が高く,そうでなくとも,上記Aの位置に照らすと,B前々車が,被告人のAの方向への視界を遮るような位置関係ではなくなっていると考えるのが合理的であり,いずれにせよ,物理的には,被告人から歩行中のAを視界に捉えることができる位置関係にあったと認められる。 エ被告人がAを最初に発見できた時点及び地点以上によれば,被告人が,B前々車によって遮られることなく,横断歩行中のAを視界に捉えることができた最初の時点は,上記イ(衝突の約2. 56秒前)から同ウ(同約1.56秒前)の間のいずれかの時点であるということになる。そして,上記イの時点における被告人車両と本件衝突地メートルの場合)ないし約4.36メートル(時速40キロメートルの場 - 15 -距離」という。)上回っているから,結果回避が可能であったといえるためには,これらの距離を走行する間(時間に換算すると,時速45キロメートルで走行していた場合には約0.22秒,時速40キロメートルで走行していた場合には約0.39秒。以下,これらの時間をまとめて「回避可能残時間」という。)に,Aを視界に捉え,かつ,現に発見可能であったといえる必要がある。 この点,上記イと同ウとの間におけるAの位置についてはドライブレコーダー画像や鑑定書等の証拠により,相当な確度をもって特定することができるものの,被告人車両及びB前々車の具体的な走行状況については,上記アないしウ以上に具体的に認定することはできず,AがB前々車の死角を脱して,被告人の視界に入る時点を正確に特定することはもとより不可能である。しかし,例えば,両車両がともに中央線寄りを走行するなどしていたなどの事情から,上記 することはできず,AがB前々車の死角を脱して,被告人の視界に入る時点を正確に特定することはもとより不可能である。しかし,例えば,両車両がともに中央線寄りを走行するなどしていたなどの事情から,上記イの時点以降も,回避可能残時間を超えて,Aの歩行位置付近がB前々車後方の対向車線上の死角内にとどまっていた可能性も否定し得ない。 また,本件事故は夜間に発生したものであり,物理的に視界を遮られていなかったからといって,直ちに視認可能であったということはできない。 本件市道付近は,街路灯や周辺の店舗の照明等で比較的明るい状態であったとはいえ,昼間に比べて見通しが悪く,特に,これら照明から離れた本件市道中央線付近において,紺色のジャンパーと濃い茶色の長ズボンという暗色系の服装をした,身長154センチメートルと比較的小柄なAの姿は見えづらく,視界の範囲内にさえあれば視認可能であるといえないことは明らかである(対向車線上を,右折に備え前方を注視しつつ走行していたBも,ドライブレコーダー画像によれば視界には入っていたであろう横断開始時点のAの姿には気付いておらず,本件事故の直前に中央線付近を - 16 -歩いているAの姿に初めて気付いた旨証言している。)。この点,本件事故現場付近の見通し状況については,夜間,明るさという意味では本件事故当時とほぼ同様の条件の下,被告人が,被告人走行車線上に停止した車両の中から,対向車線上に置いた横断者を仮装した人形が見えるかどうかを確認する方法で実況見分が行われ,その際,被告人は,中央線寄りの位置に置かれた上記人形の姿を約31.6メートルの距離から「なんとか見える」旨説明している。この場所は,上記イの時点における被告人車両の走行位置に概ね相当する地点であるところ,人形が設置されていることを予め知っている被告人 を約31.6メートルの距離から「なんとか見える」旨説明している。この場所は,上記イの時点における被告人車両の走行位置に概ね相当する地点であるところ,人形が設置されていることを予め知っている被告人が,静止状態でその方向を意識的に目視したときにですら「なんとか見える」程度であったのであるから,本件事故当時,時速40キロメートルから45キロメートルで車両を運転していた被告人が,上記実況見分時と同じ地点からAを視認することが可能であったかどうかは甚だ疑問であり,特に,Aが,付近に横断歩道がなく,人が横断しているであろうことを当然に予想すべきとはいえない場所を横断歩行していたことをも併せ考慮すればなおさらである。 しかも,上記実況見分は,明るさ以外の点では,路面は乾燥,Aの歩行位置方向への視界を遮る対向車両もこれに先行する対向車両もないとの条件の下で行われた。しかし,本件事故直前には,対向車線上にB前々車があり,少なくとも横断開始当初においてはA方向への視界を遮っていたから,被告人からすれば,Aは,B前々車の死角から本件市道上に突然現れる形で見えることになる。また,路面は湿潤であり,自車及び対向車両の前照灯や街路灯の乱反射により,特に中央線付近が視認しにくい状況にあった。すなわち,本件事故当時には,上記実況見分の際と比して,Aの視認,発見を困難にするような条件が幾重にも重なっていたのであって,現実的な発見可能地点は,上記実況見分において「なんとか見え」たよりも相当程度本件衝突地点寄りの場所であり,被告人において,回避可能残距 - 17 -離を超えて,西進した地点で初めてAを発見することが可能であったとの時間(0.75秒)を前提に計算したものであって,上記のような悪条件の下,反応時間が少しでも長くなれば,これに伴って,停止可能距離自体 を超えて,西進した地点で初めてAを発見することが可能であったとの時間(0.75秒)を前提に計算したものであって,上記のような悪条件の下,反応時間が少しでも長くなれば,これに伴って,停止可能距離自体も長くなるから,被告人が停止可能距離に至る前にAを発見し得たかについては,重大な疑問が残るといわざるを得ない。 オ以上によれば,被告人が前方を注視し,Aを発見した時点で直ちに制動措置を講じたとしても本件衝突を回避することが可能であったというには合理的な疑問が残るというべきである。 なお,被告人は,上記2のとおり,本件交差点の約25メートル手前において,すなわち,上記イの時点での走行位置を過ぎてから,本件交差点を通行する車両の有無を確認するために左方に視線を向けている。そして,その間,被告人の進路前方の対向車線方向への注意の比重が下がり,対向車線方向が視界から外れた可能性もある以上,遅くとも被告人が左方に向の停止可能距離を下回る,本件衝突地点寄りの地点であった可能性は十分にある。上記2のとおり,交差道路のある左方に視線を向けること自体を前方不注視と評価すべきでないとの見解に立てば,その意味でも回避可能性がなかった可能性が一層高まることになる。 第4 結論以上により,被告人は,最高速度をいくらか上回る速度で走行してはいたものの,前方左右不注視の義務違反があったとの事実は認められない上,そもそも前方左右の注視を尽くしていても本件事故を回避し得たとするには合理的な疑問が残るから(なお,被告人の走行速度が,上記第3の5で検討した際の前提である時速を上回る,例えば,時速50キロメートルであったとしても,その結論は同様である。),本件事故が,被告人が自動車運転上の注意義務を怠 - 18 -ったことにより生じたものであるとは認 提である時速を上回る,例えば,時速50キロメートルであったとしても,その結論は同様である。),本件事故が,被告人が自動車運転上の注意義務を怠 - 18 -ったことにより生じたものであるとは認められず,被告人に自動車運転上の過失があったということはできない。 よって,本件公訴事実中,過失運転致死の点については,犯罪の証明がないことに帰するから,刑事訴訟法336条により被告人に対して無罪の言渡しをすることとする。 (法令の適用)省略(量刑の理由) 1 被告人は,時速40キロメートルをやや上回る速度で自車で走行中にAと衝突しており,その際の衝撃は,同人が衝突地点から約6.8メートル先まで飛ばされるほど大きなものであって,これにより同人に重大な結果が生じたであろうことは当然に予想し得たにもかかわらず,同人の安否を気遣うことなくもっぱら自己保身から現場から逃走したものであり,強い非難に値する。本件は,懲役刑が相当な事案であるといわざるを得ないのであって,同人の遺族らが,公判廷において,被告人が逃走したことを「無責任の極み」や「自己中心」などの言葉で強く非難し,厳しい処罰感情を示していることも十分に理解できる。 2 他方,被告人は,本件救護義務違反,報告義務違反の事実を認めるとともに,結果としてAを亡くならせてしまったことについても,終始,自身の責任である旨述べている。加えて,被告人は,既にAの診療費用である約24万円を支払っているほか,今後も遺族らに対する謝罪を含む償いを行う意向を示しており,被告人なりの反省の態度を示している。また,被告人の雇用主が出廷し,今後も被告人を雇用し,指導監督も行っていく旨述べ,更生のために協力する意向を示している。被告人には,前科前歴はない上,複数の交通違反歴はあるものの,いずれも軽微なもの た,被告人の雇用主が出廷し,今後も被告人を雇用し,指導監督も行っていく旨述べ,更生のために協力する意向を示している。被告人には,前科前歴はない上,複数の交通違反歴はあるものの,いずれも軽微なものである。 3 そこで,上記1の事情に加え,上記2の事情をも考慮すると,被告人に対しては,主文の懲役刑を科した上で,その執行を猶予し,社会内で更生する機会を与 - 19 -えるのが相当であると判断した。 よって主文のとおり判決する。 (求刑-懲役3年6月の実刑)平成27年12月7日岐阜地方裁判所刑事部 裁判長裁判官大西直樹 裁判官溝田泰之 裁判官小島武士
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