令和7年3月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(ワ)第10217号職務発明対価請求事件口頭弁論終結日令和7年1月30日判決 原告A (以下「原告A」) 原告B (以下「原告B」) 原告ら訴訟代理人弁護士拾井美香同小山田桃々子 被告パネフリ工業株式会社 被告訴訟代理人弁護士高山和也 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告ら各自に対し、それぞれ2000万円及びこれに対する令和5年8月24日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本判決で用いる用語 (1) 本件特許(権)1:特許第5894716号に係る特許(権)。その明細書及 び図面は「本件明細書1」、本件特許1に係る発明(ただし、後記訂正後のもの)は「本件発明1」。 (2) 本件特許(権)2:特許第5873225号に係る特許(権)(本件特許1と2を総称して「本件各特許(権)」。)。その明細書及び図面は「本件明細書2」、本件特許2に係る発明(ただし、後記訂正後のもの)は「本件発明2」(本件発 明1と2を総称して「本件各発明」。)。 (3) 被告製品:本件各発明実施品である立体網状繊維集合体(商品名は「カルファイバー」であるが、カルファイバーと称して被告が販売するものは、本件各特許の実施品以外のものもある(乙23)。)(4) 本件実施品:●●●●●●●が販売する被告製品を利用したベッド用マット レス(5) 本件褒賞規定:平成18年に制定され、平成20年に改訂さ 許の実施品以外のものもある(乙23)。)(4) 本件実施品:●●●●●●●が販売する被告製品を利用したベッド用マット レス(5) 本件褒賞規定:平成18年に制定され、平成20年に改訂された、被告の「発明考案の褒賞規定」 2 原告らの請求(訴訟物)本件は、本件各発明の共同発明者である原告らが、被告に対し、平成27年法 律第55号による改正前の特許法35条3項(以下、単に同条各項に言及するときは改正前法をいう。)にいう相当の対価を求めた事案である(明示的一部請求)。 なお、原告ら以外の本件各発明の共同発明者1名(以下「C」)に係る同条同項の権利は、各2分の1の割合で原告らに譲渡された。 3 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実) (1) 当事者等ア原告ら原告Aは、平成18年8月に被告の従業員となり、令和4年2月に被告を退職した者である。 原告Bは、平成23年4月に被告の従業員となり、令和4年5月に被告を 退職した者である。 イ被告被告は、プラスチック製品、金属プレス製品、木工家具製品、陶磁器の製造並びに販売等を目的とする株式会社である。 (2) 本件特許権1(甲2、乙3の1、2)ア本件特許権1の書誌的事項は次のとおりであり、発明者は、原告らとCで あった。 特許番号特許第5894716号発明の名称立体網状繊維集合体出願日平成27年7月3日(特願2015-553976)国際出願番号 PCT/JP2015/069309 優先権主張番号特願2014-139015優先日平成26年7月4日登録日平成28年3月4日イ本件特許1に係る訂正請求本件特許1については、特許異議 69309 優先権主張番号特願2014-139015優先日平成26年7月4日登録日平成28年3月4日イ本件特許1に係る訂正請求本件特許1については、特許異議(異議2016-700854)が申し 立てられ、当該手続中に取消理由通知を受けて特許請求の範囲につき訂正請求がされ、平成29年5月15日、これを認めて特許を維持する旨の決定がされた。 訂正後の特許請求の範囲の請求項1は次のとおりである(下線部が訂正事項)。 「プロピレン系重合体(a)およびプロピレン単独重合体(b)を含んでなるポリマーアロイから構成される150~100000dtexの繊度の繊維からなり、多数の該繊維を溶融状態でランダムな方向性を持たせて互いに融着させた立体網状繊維集合体であって、前記ポリマーアロイは、ポリマーアロイに含まれる全重合体を構成する全モ ノマー単位を基準として、51~95モル%のプロピレンを構造単位として 有し、前記ポリマーアロイは、ポリマーアロイ100質量部に対して、プロピレン系重合体(a)30~80質量部およびプロピレン単独重合体(b)70~20質量部を含有する、立体網状繊維集合体。」(3) 本件特許権2(甲3、乙4の1、2)ア本件特許権2の書誌的事項は次のとおりであり、発明者は、原告らとCで あった。 特許番号特許第5873225号発明の名称立体網状繊維集合体出願日平成27年7月3日(特願2015-553980)国際出願番号 PCT/JP2015/069308 優先権主張番号特願2014-139015優先日平成26年7月4日登録日平成28年1月22日イ本件特許2に係る訂正請求本件特許2につ P2015/069308 優先権主張番号特願2014-139015優先日平成26年7月4日登録日平成28年1月22日イ本件特許2に係る訂正請求本件特許2については、特許異議(異議2016-700780)が申し 立てられ、当該手続中に取消理由通知を受けて特許請求の範囲につき訂正請求がされ、平成29年5月29日、これを認めて特許を維持する旨の決定がされた。 訂正後の特許請求の範囲の請求項1は次のとおりである(下線部が訂正事項)。 「プロピレン系重合体(a)を含んでなる樹脂から構成される150~100000dtexの繊度の繊維からなり、多数の該繊維を溶融状態でランダムな方向性を持たせて互いに融着させた立体網状繊維集合体であって、前記プロピレン系重合体(a)は、その全モノマー100モル%に対して、51~95モル%のプロピレンおよび5~49モル%のα-オレフィンを 構造単位として有し、前記樹脂は、前記プロピレン系重合体(a)およびプ ロピレン単独重合体(b)から構成されるポリマーアロイである、立体網状繊維集合体。」(4) 本件各発明に係る特許を受ける権利の移転本件各発明に係る特許を受ける権利は、遅くとも本件各特許の出願までに、被告に移転した。 (5) 被告における本件褒賞規定の制定等(甲4、乙26)被告は、平成18年3月15日、本件褒賞規定を制定し、平成20年12月1日にこれを一部改訂した。 上記一部改訂後の本件褒賞規定は、概要次の内容を定めている。 ア従業員がなした発明考案に関する工業所有権を受ける権利は、会社に譲渡 しなければならない。 イ褒賞は出願褒賞、登録褒賞、実施褒賞に区分する。 ウ出願褒賞は、出願が決定 定めている。 ア従業員がなした発明考案に関する工業所有権を受ける権利は、会社に譲渡 しなければならない。 イ褒賞は出願褒賞、登録褒賞、実施褒賞に区分する。 ウ出願褒賞は、出願が決定したときに、次のとおり授与する。 (ア) 特許出願賞(個人作成) 2万円(イ) 特許出願賞(外部依頼) 5000円 (ウ) 実用新案出願(登録)賞 5000円エ登録褒賞は、発明考案が工業所有権登録査定になったときに、2万円(特許登録賞)を授与する。 オ実施褒賞は、工業所有権の行使により、会社に大きな貢献があった場合に、貢献利益に応じて実施褒賞を授与する。その金額は、職務内容を考慮の上、 関係部署の担当責任者(部長又は工場長)が算定(査定)し、社長が決定する。 (6) 本件褒賞規定に基づく支払(争いがない)原告らは、被告から、本件褒賞規定所定の出願褒賞金及び登録報奨金の支払を受けた。 (7) 被告による本件各発明の実施(甲12、14、27、31、32、乙14) 被告は、平成26年頃から、本件各発明の実施品である被告製品を製造、販売していた。 ●●●は、被告から被告製品を購入し、被告製品を利用して本件実施品を販売した(シリーズ名は「●●●●●●●」など)。 被告製品は、ベッド用マットレス向けのほか、チャイルドシートやクッショ ンなどのクッション材としても利用されている(いた)が、原告らは、主として本件実施品向けの被告製品についての独占の利益等を請求の根拠としている。 (8) 原告らの請求等(甲6、7)原告らは、令和5年8月23日、被告に対し、本件各発明についての特許法 35条3項の相当の対価の支払を求めた。 これに対し被告は、同年10月2日頃、本件褒賞 告らの請求等(甲6、7)原告らは、令和5年8月23日、被告に対し、本件各発明についての特許法 35条3項の相当の対価の支払を求めた。 これに対し被告は、同年10月2日頃、本件褒賞規定に基づく褒賞はすべて支払済みであり、原告らの請求に応じるつもりはない旨回答した。 4 争点(1) 本件褒賞規定により対価を支払うことが不合理なものであるどうか(争点1) (2) 本件褒賞規定によらない場合の特許法35条3項の「相当な対価」の額(争点2)ア独占の利益があるかイ具体的な対価額第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件褒賞規定により対価を支払うことが不合理なものであるかどうか)について【原告らの主張】(1) 本件褒賞規定の制定等に係る事情本件褒賞規定の制定に当たり、従業者との協議や意見聴取はされなかった。 また、被告の上野工場は、平成29年に稼働を始め、その際に就業規則等が 備え付けられたが、その中には、平成18年の制定時の本件褒賞規定が収録されていたが、平成20年の改訂後の本件褒賞規定が開示されていたこともない。 (2) 特許法35条5項が適用されるべきことしたがって、本件褒賞規定にしたがって職務発明の対価を支払うことは不合理であって、本件各発明に対する対価は、特許法35条5項により、本件各発 明により被告が受けるべき利益の額、これらの発明に関連して被告が行う負担、貢献及び原告らの処遇その他の事情を考慮して定めるのが相当である。 【被告の主張】(1) 本件褒賞規定の制定経過被告においては、平成17年末頃から、開発・技術部門の人員が増え、次第 に、発明や考案の出願がされるようになり、褒賞金の支払の必要性が生じたことから、職 (1) 本件褒賞規定の制定経過被告においては、平成17年末頃から、開発・技術部門の人員が増え、次第 に、発明や考案の出願がされるようになり、褒賞金の支払の必要性が生じたことから、職務発明に係る規定を策定することとなり、被告は、特許庁・特許事務所等の事例を参考に、県の窓口を通じて発明協会の担当者の意見を聴くなどして、本褒賞規定の原案を作成した。 その当時の開発・技術部門の人員は7、8名程度であったため、被告は、平 成18年1月ころから、開発・技術部門の従業者全員を対象に三重県に所在する弊社工場の会議室で行っていた勉強会において、褒賞規定の案の説明をするなどして、規定案を従業者に開示し意見を聴取した上で、本件褒賞規定を策定した。 (2) 平成20年の改訂の経緯 その後、原告Aを含む複数の従業者から、従業者自身が作成した出願書類に係る出願と、弁理士に依頼して作成された出願書類に係る出願とが同一の褒賞金の額とされていることを疑問視する意見等があったことや、特許法の改正を契機として、本件褒賞規定の改訂が検討されるようになった。 被告は、このような従業者からの意見を踏まえて社内で検討し、改めて、平 成20年10月から11月頃にかけて、当初、本件褒賞規定を策定した際と同 様に、開発・技術部門の従業者全員を対象にその規定について勉強会において開示・説明し、意見を聴取した上で、当初出願褒賞として支払われていた1万円を、従業者自身が出願書類を作成した場合には2万円とするように、本件褒賞規定を改訂した。 (3) 上記経緯を踏まえると、本件褒賞規定の策定における協議、開示、額の算定 についての従業員からの意見聴取のいずれもが十分にされていたといえるから、本件褒賞規定にしたがって本件各発明の 。 (3) 上記経緯を踏まえると、本件褒賞規定の策定における協議、開示、額の算定 についての従業員からの意見聴取のいずれもが十分にされていたといえるから、本件褒賞規定にしたがって本件各発明の対価を支払うことは不合理なものではない。 2 争点2(本件褒賞規定によらない場合の特許法35条3項の「相当な対価」の額)のうちの「ア独占の利益があるか」について 【原告らの主張】(1) 本件各発明の技術的意義等ア本件各発明当時の状況立体網状繊維集合体は、繊維状に溶融押出したポリエチレン等の樹脂を複雑に絡み合わせて冷却整形した網目状の立体構造体であり、通気性が良く、 丸洗いができることから、マットレスの素材として用いられる。 ポリエステル系及びポリエチレン系の立体網状繊維集合体に関しては、平成24年頃には東洋紡株式会社や株式会社シーエンジ等が特許を取得し、マットレス素材を製造していた。 被告がマットレス・クッション業界に参入するためには、樹脂組成の異な る立体網状繊維集合体を開発することが極めて重要であった。 そこで、原告らは、α-オレフィン系(メタロセン触媒)ポリプロピレンとその改質技術を用いた立体網状繊維集合体を開発することを発案し、これを完成させて本件各特許を取得したものである。 イ本件各発明の技術的意義 本件各発明に係る立体網状繊維集合体(その実施品としての被告製品)は、 競合品と比較しても優位な低臭気性、耐薬品性、高耐熱性、体圧分散性を有しており、これらが本件各発明の技術的意義である。この点、被告製品も耐薬品性をアピールポイントとしていた。 (2) 本件実施品の性能等についてア前記(1)イのとおり、被告製品を利用した本件実施品は、低臭気性、耐 本件各発明の技術的意義である。この点、被告製品も耐薬品性をアピールポイントとしていた。 (2) 本件実施品の性能等についてア前記(1)イのとおり、被告製品を利用した本件実施品は、低臭気性、耐薬品 性、高耐熱性、体圧分散性といった優れた特徴を有し、ポリエチレン系やポリエステル系の他社製品と比較しても優位性を有している。 ところで、マットレスにおいて重視されるのは、寝心地に直結するクッション性や体圧分散性、洗浄可能かどうかに関わる耐薬品性等であり、耐久性については、必要な耐久性を備えていればそれで十分とされている。●●● が販売する被告製品を用いた製品の保証期間は30年となっており(甲23)、被告製品はマットレスとして必要かつ十分な耐久性を有している。 また、通常の性能を有する被告製品の、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●評価項目において、被告製品とエアウィーヴ・ブレスエアー は同等に「〇」と評価されている(甲22)。 イ被告は、マットレスに高度な耐久性が要求されると主張するが、仮にそうであれば、●●●や●●●●その他複数の企業が被告製品をマットレスとして採用することはないはずである。被告の上記主張は、これまで被告製品が被告の主力製品となってきた事実と矛盾するものである。 耐久性に係る被告主張の実験結果は、日本産業規格とは異なる基準(体温より高いセ氏40度における実験)に基づくものであるから、耐久性が劣る根拠とならない。 また、立体網状繊維集合体は、経年変化により強靭化が生じ、また強度は見かけ密度にも左右されるため、これらを意識しないサンプルで比較しても 正確なデータとはならない。 (3 また、立体網状繊維集合体は、経年変化により強靭化が生じ、また強度は見かけ密度にも左右されるため、これらを意識しないサンプルで比較しても 正確なデータとはならない。 (3) 独占の利益があること本件各発明は、第三の素材というべきα-オレフィン系ポリプロピレン系の立体網状繊維集合体として注目に値するものであるが、特許権が成立し、異議手続により無効理由が解消されたことにより、他社への抵触や他社の模倣が避けられたものであり、被告は、本件各特許権がなければ、他社の特許権に抵触 せずにマットレス・クッション業界において立体網状繊維集合体の製造販売をすることはできず、●●●との取引も実現不可能なものであった。また、本件各発明には、上記のとおり、低臭気性、耐薬品性、高耐熱性、体圧分散性といった優れた特徴を有し、これらの特徴を備える被告製品は、ポリエチレン系やポリエステル系の競合品と比較して優位性を示しているから、競合品は被告製 品の代替品とはなり得ない。 したがって、被告製品の製造販売について、独占の利益がある。 【被告の主張】(1) 本件各発明の技術的意義ア本件各特許の出願当時の技術状況 本件各発明の出願当時、立体網状繊維集合体という構造自体は既に技術常識であり、それを構成する素材に応じて立体網状繊維集合体に係る特許が複数成立しており、その素材を「エチレンと炭素数3以上のα-オレフィン共重合体」とし「炭素数3以上のα-オレフィン」を「プロピレン」とする特許(乙10)も存在していた。 また、立体網状繊維集合体がマットレスに用いられることも技術常識であり、本件発明の出願当時、既に、東洋紡株式会社によるポリエステル、シーエンジ株式会社によるポリエチレンを用いた各立体網状 また、立体網状繊維集合体がマットレスに用いられることも技術常識であり、本件発明の出願当時、既に、東洋紡株式会社によるポリエステル、シーエンジ株式会社によるポリエチレンを用いた各立体網状繊維集合体等が販売され、マットレスとして用いられていた。 イ本件各発明の技術的意義 本件各発明は、立体網状繊維集合体の構造を組成する素材として従前から 存在していた「エチレンとα-オレフィンの共重合体」につき、先行技術を回避するため、従来、「エチレン」の割合が多かったものを「プロピレン」の割合を多くするなど、その配合割合を変えたものにすぎず、本件各発明は、上記素材(樹脂素材)の組成が先行技術に抵触しないことにのみ特徴がある。 すなわち、本件各発明で用いられている「プロピレン系重合体およびプロピ レン単独重合体を含んでなるポリマーアロイ」は従来とは全く異なる「第三の素材」などではなく、そもそも技術常識であった「プロピレン系重合体」について、その素材成分の配合割合を、従来から、「プロピレン」を多く変更したものに過ぎない。 ウ原告ら主張の特徴について(素材の特徴にすぎないこと) 原告らが本件各発明の特徴であるとする低臭気性、耐薬品性、高耐熱性といった点は、いずれも立体網状繊維集合体を構成する「ポリプロピレン」という素材自体の特徴であり、立体網状繊維集合体とすることによって、同集合体を構成する素材が持つ特徴に加えて顕著な効果が生じるものではない。 (2) 本件実施品の性能等 ア本件実施品においては耐久性が重要であること本件各発明の実施品である被告製品を用いた本件実施品は、寝具(マットレス)であったが、寝具(マットレス)に用いられる素材としては、立体網状繊維集合体のほか、ウレタンフォー 久性が重要であること本件各発明の実施品である被告製品を用いた本件実施品は、寝具(マットレス)であったが、寝具(マットレス)に用いられる素材としては、立体網状繊維集合体のほか、ウレタンフォームといったものが挙げられ、品質としては、高耐熱性や耐薬品性ではなく、耐久性、すなわち繰り返し使用するこ とで、“ヘタリ”といわれる弾性が失われた状態(復元しない)にならないことが重視される。とりわけ、人が就寝時間中、横臥する態様での利用が想定されることから、少なくとも体温に近い環境下において長時間圧力がかかった状態で日々利用された際に、状態が復元されるかが商品として採用されるポイントとなる。 イ本件実施品の耐久性について 被告製品について、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●なお、令和元年11月においても●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●被告製品の物性は改善されなかった。 すなわち、上述のとおり、マットレスとして想定される用途に応じた、マットレス上で横臥する●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●競業他社の各製品に比べて劣っており、耐久性の問題が改善されることはなかった。そのため、●●●においては、本件実施品につき、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●素材が被告製品 から他の素材へ変更され、別のシリーズ(U3シリーズ)では、令和6年4月末日の出荷をもって在庫限りの扱いとなり、●●●●●●●●●の取引は終了し、また、別の第三者との間でも、被告製品の販売が実現しなかった。 (3) 独占の利益がないことア ズ)では、令和6年4月末日の出荷をもって在庫限りの扱いとなり、●●●●●●●●●の取引は終了し、また、別の第三者との間でも、被告製品の販売が実現しなかった。 (3) 独占の利益がないことア使用者が受ける利益について 「使用者が受ける利益」とは、被告が、競業他社を排して本件各発明を独占的に実施することにより、通常実施権に基づく実施では得られなかった利益(独占権による超過利潤)をいう。 上記(1)のとおり、本件各発明の技術的意義は、従来技術として存在していた立体網状繊維集合体の素材の配合割合を従来から変更し、従来技術に抵 触しないことにあるにすぎない。 マットレスの素材には、被告製品のような立体網状繊維集合体(ファイバー)のほかに様々な素材(コイルマットレスやウレタンなど)が存在するが、本件における上記独占の有無の検討の対象となる被告製品の市場とは、少なくとも「立体網状繊維集合体」に係る寝具等としてとらえる必要がある。そ して、消費者は、ブランドや値段等の様々な要因を考慮して購入を決定する ところ、競業他社は、本件各発明とは異なる様々な技術により有し、ブレスエアー、シーコア、エアウィーヴといった商品名の「立体網状繊維集合体の寝具」を製造販売し、一定の市場シェアを維持している。すなわち、本件各特許登録後も、本件各発明の代替技術は存在し、競業他社は、本件各発明を実施することなく立体網状繊維集合体に係る寝具等を製造販売して一定の 市場シェアを維持しており、本件各特許による市場の独占はない。実際に、被告は、本件各発明について、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●加えて、被告製品は、立体網状繊維集合体自体が有する特徴について、競業他社の製品と差別化する特徴は有していないば 被告は、本件各発明について、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●加えて、被告製品は、立体網状繊維集合体自体が有する特徴について、競業他社の製品と差別化する特徴は有していないばかりか、上記(2)のとおり、 物性の問題があり、その品質は競業他社の製品より劣るものでもあった。 これらの事情を踏まえれば、被告は、本件各発明に係る通常実施権の実施によって得られる利益の額を超えた利益を得ておらず、本件各発明に由来する独占の利益(超過売上高)は存在しない。 イ原告らの主張について 原告らは、本件各特許があるから●●●との間で被告製品の取引が開始されたなどと主張するが、当該取引は、●●●と被告との従前からの取引関係が存在したから開始したにすぎず、本件各発明に特段の意義や優位性はない。 3 争点2(本件褒賞規定によらない場合の特許法35条3項の「相当な対価」の額)のうちの「イ具体的な対価額」について 【原告らの主張】(1) 被告製品の売上高平成27年から令和6年3月までの被告製品の総売上高は合計●●●●●●●●●●であり、平成27年から令和5年までの9年間の売上総額は約●●●●●●●●●であることから、1年当たりの平均は約●●●●●●●●とな る。被告と●●●との間の取引が終了したということはなく、今後も取引が継 続すると解されるから、本件各特許の存続期間満了(2036年)までの被告製品の売上高が●●●●●●●●●(=●●●●●●●●●●●●●)を下ることはない。 (2) 超過売上高超過売上額の算定に当たり、減額が40パーセントを上回ることはない。 (3) 仮想実施料率上記2【原告らの主張】で述べたとおりの本件各発明の有用性や寄与度に照らし ) 超過売上高超過売上額の算定に当たり、減額が40パーセントを上回ることはない。 (3) 仮想実施料率上記2【原告らの主張】で述べたとおりの本件各発明の有用性や寄与度に照らし、仮想実施料率は6パーセントを下回ることはない。 (4) 使用者貢献度次に述べる事情から、使用者貢献度が60パーセントを上回ることはない。 ア原告A原告Aは、被告採用前から、立体網状繊維集合体及びその関連材に係る発明を完成させた経験から、立体網状繊維集合体に関する選定使用可能な樹脂の性質や品質、開発・製造方法、寝具業界において要求される物性や品質、マットレスに関するニーズ、カバー縫製に関する知識や技術等を習得してお り、競合他社の特許の取得状況を把握していた。 被告において、これらの原告Aの知見(特に、立体網状繊維集合体の製造装置の開発に係る知見)をもとに、ポリプロピレン系の樹脂で立体網状繊維集合体に係る本件各発明を完成させることができた。また、原告Aは、寝具業界の特殊性や取引構図に係る知見を習得し、被告の営業担当者に対して、 当該知見に基づいて商品の物性等について細やかな助言をした。さらに、被告の取引先となる立体網状繊維集合体の縫製や加工先を原告Aが選定した。 以上のとおり、原告Aは、本件各発明の完成及びその実施品である被告製品の売上げに貢献したものである。 イ原告B 本件各発明には、分子構造解析のため核磁気共鳴スペクトル測定を行う必 要があったが、試料の溶解性が低く、測定条件が特殊であって技術的に難しいものであったため、外注できる企業がなかった。このため原告Bが個人的に大学教授に依頼し、この困難な測定を実現し、本件各発明の成分構成を特定できたものである。 この が特殊であって技術的に難しいものであったため、外注できる企業がなかった。このため原告Bが個人的に大学教授に依頼し、この困難な測定を実現し、本件各発明の成分構成を特定できたものである。 この測定は本件各発明の完成に不可欠なものであり、迅速かつ適切な測定 により、本件各発明の特許化及び製品化が実現された。以上から、これらの点は、原告Bの貢献として評価される。 (5) 小括以上によると、(1)の●●●●●●●●●に、(2)の割合、(3)の料率、(4)の被用者に帰属すべき分(40パーセント)を乗じた●●●●●●●●●●が、 原告らの本件各発明に対する相当の対価である。 【被告の主張】否認ないし争う。 上記2【被告の主張】のとおり、被告製品の販売について本件各発明に由来する独占の利益(超過売上高)はない。 第4 判断 1 争点1(本件褒賞規定により対価を支払うことが不合理なものであるかどうか)について(1) 認定事実証拠(甲4、乙7、25、26)及び弁論の全趣旨に前提事実を総合すると、 次の各事実を認めることができる。 ア被告の従業員であった D (以下「D」)は、平成17年末頃より、被告従業者の発明や考案の出願がされるようになり、褒賞金を支払う必要が生じたことから、特許庁、特許事務所から事例を集めたり、発明協会(当時)の担当者の意見を聞いたりするなどして、上司の承認を得て、本件褒賞規定の 原案を作成した。 イ被告は、Dをして、三重県に所在する被告の工場において、開発・技術部門の従業者全員を対象に、本件褒賞規定の原案を説明するなどした上、平成18年3月15日、本件褒賞規定を制定した。 ウその後、原告Aを含む複数の従業員から、従業員が自ら出願書類を作成した ・技術部門の従業者全員を対象に、本件褒賞規定の原案を説明するなどした上、平成18年3月15日、本件褒賞規定を制定した。 ウその後、原告Aを含む複数の従業員から、従業員が自ら出願書類を作成した場合と、弁理士がそうした場合とで褒賞金が同一(1万円)であることを 疑問視する意見が出されたことに加え、特許法改正(平成20年法律第16号を指すものと解される。)があったことから、本件褒賞規定の改訂が検討され、従業員が出願書類を作成した場合には、出願褒賞を2万円に増額し、他方、外部に作成を依頼した場合はこれを5000円に減額する旨の改訂案が作成された。 Dは、平成18年当時と、開発・技術部門の従業員の構成が変わっていることを踏まえ、改めて、制定当時と同様に従業員に開示して説明をした上、原告Aには個別に説明を行った。 エ被告は、ウを踏まえ、平成20年12月1日、本件褒賞規定の一部改訂を行った。 オ原告ら及びCは、平成28年2月10日、本件特許権2について、本件褒賞規定に基づく登録褒賞2万円を受領し、その受領証を被告に差し入れた。 (2) 原告らの主張について原告らは、上記の過程で従業員への開示、意見聴取などなかった等と主張するが、改訂の内容は、発明の権利化について従業員の貢献がある場合にこれを 有利に斟酌するものであって、これらの意見が従業員から出されたことを契機とするDの説明は合理的なものであって、改訂の前後を通じ、本件褒賞規定が従業員にも十分理解されていたことがうかがわれる。よって、原告らの主張は、前記認定を左右しない。 (3) 判断 前記認定によると、本件褒賞規定は、その制定及び改訂の過程において、一 般的な勤務規則等が参照され、知的財産に知見を持つ者の意見も得た上 認定を左右しない。 (3) 判断 前記認定によると、本件褒賞規定は、その制定及び改訂の過程において、一 般的な勤務規則等が参照され、知的財産に知見を持つ者の意見も得た上、従業員等に案が開示され、意見聴取等を経て制定されたものであるから、被告においてされた職務発明の対価につき、適法な手続を経て定められた本件褒賞規定によって支払うことは不合理であると認めることはできない。 なお、被告の工場の一部で、改訂前の本件褒賞規定が「就業規則・人事関係 規定」と題する紙ファイルに綴られていたことがうかがわれる(甲15)が、このことから直ちに本件褒賞規定が不合理であったとすることは困難である。 (4) 小括以上の次第で、本件褒賞規定によって本件各発明に関する「相当の対価」を支払うことが許容されると解される。そして、原告らは、本件褒賞規定に基づ いて被告から既に褒賞金の支払を受けている以上、被告に対する職務発明の対価請求権は成立しない。 2 争点2(本件褒賞規定によらない場合の特許法35条3項の「相当な対価」の額)について(1) はじめに 前記1で述べたとおり、本件褒賞規定は、適法な手続に基づいて策定されたものであるところ、本件褒賞規定には、「実施褒賞については、工業所有権の行使により、会社に対し大きな貢献をなした場合に、貢献利益に応じて授与するものとされ、職務内容を考慮の上、関係部署の担当責任者(部長又は工場長)が算定(査定)し、社長が決定する」と定められている。 そうして、前提事実(8)によると、被告は、当該実施褒賞を支給しない旨の意思決定を行ったものと理解できるところ、かかる被告の判断が、本件各特許権の実施状況等に照らして著しく不合理であるときは、裁量を逸脱したものと 事実(8)によると、被告は、当該実施褒賞を支給しない旨の意思決定を行ったものと理解できるところ、かかる被告の判断が、本件各特許権の実施状況等に照らして著しく不合理であるときは、裁量を逸脱したものとして、本件褒賞規定の当該部分の適用が不合理とされることもありうるというべきである。 そこで、争点2に関する当事者の主張は、このような観点から当該会社の判 断の当否を検討するものと理解して、以下、念のため検討することとする。 (2) 本件各発明の技術的意義についてア本件各特許の出願時において、ベッドマットレス向けの立体網状繊維集合体について、競業他社が複数の特許権を保有の上製品化をしており、「エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンからなるエチレン・α-オレフィン共 重合体樹脂」を素材(ポリマー)として構成される「ソフト反発性を有する弾性網状構造体」の発明に係る特許権も存在した。これに後発で参入しようとした被告においては、これら特許権を回避しながら製品開発をする必要があり、本件各発明は、このような技術状況を前提にされた(乙10、争いはない)。 イそして、本件各発明は、従来技術による立体網状繊維集合体が、薬品処理や加熱処理によって一部が溶解したり、臭気が発生したりするため、医療分野や介護分野での仕様に適当でなかったことから、耐薬品性、高耐熱性、低臭気性の立体網状繊維集合体を提供することを課題とし(本件明細書1の【0005】【0006】)、その解決手段として、主としてプロピレン(プロ ピレン系重合体及びプロピレン単独重合体)を構造単位とすることを採用した(同【0007】)ものである。 ウなお、原告らは、本件各特許権の意義に関し、本件各特許権があったからこそ被告は●●●と取引ができた等と主張す プロピレン単独重合体)を構造単位とすることを採用した(同【0007】)ものである。 ウなお、原告らは、本件各特許権の意義に関し、本件各特許権があったからこそ被告は●●●と取引ができた等と主張するが、本件において、特許発明の実施品であることの一般的な利点を超えて、本件各特許権の存在が被告と ●●●間の取引において殊更有利に働いたと認めるに足りる証拠はない。 (3) 被告製品及び本件実施品の販売状況ア認定事実後掲各証拠及び弁論の全趣旨によると、①被告は、平成24年頃から、本件各発明の実施品として、医療・福祉分野向けのマットレス(クッション材) の素材の開発に着手し、平成25年10月頃から、介護用の新しいマットレ スの製造ラインを構築して、試作品の開発等を始めたが、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●こと(甲12、乙6)、②被告製品は、●●●の販売するベッド用マットレスの素材に採用され、被告製品の用途の大部分を占めるようになった一方、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●こと(乙16)、③令和元年に実施された●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●こと(乙13)、④●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●こと(乙14、18、弁論の全趣旨)の各事実を認めることができる。 イ補足説明原 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●こと(乙14、18、弁論の全趣旨)の各事実を認めることができる。 イ補足説明原告らは、要旨、マットレスにおいて耐久性は問題とならないこと、被告 製品は十分な耐久性を有していたこと、被告製品の販売体制等に問題があったことなどを主張するが、需要者は一般消費者が想定されるベッド用マットレスにおいて、安定した寝心地や買い替えの頻度等に影響する耐久性は、基本的に備えるべき性能であるといえるところ、被告製品が採用された本件実施品において、耐久性に問題があったとする上記アの認定を左右しうる証拠 はなく、耐久性に問題がなかったとする原告らの主張は採用の限りでない。 また販売体制等に問題があったことを認めるに足りる証拠もなく、本件実施品の終売は、上記耐久性の問題が主たる原因であったというべきである。 (4) 小括以上によると、被告製品は、汎用的な立体網状繊維集合体として、クッショ ン材などに利用される余地はあるとうかがわれるものの、原告らが超過売上高 の根拠として主張する寝具用マットレス用途においては、一旦は商品化が実現し、一定期間の販売実績は上げたものの、マットレスとしての性能においては低位の評価を受け、商品化は終了したものとうかがわれる。 このような状況において、被告が、実施褒賞金の支給要件である「工業所有権の行使により、会社に対し大きな貢献をなした場合に」該当せず、本件各発 明に対する実施褒賞を支給しないと判断したことに不合理な点はない。 以上から、出願褒賞金及び登録褒賞金の支払をもって、被告は、原告らに対し、本件褒賞規定に基づく支給義務を履行したものというべきである。 第5 結論 を支給しないと判断したことに不合理な点はない。 以上から、出願褒賞金及び登録褒賞金の支払をもって、被告は、原告らに対し、本件褒賞規定に基づく支給義務を履行したものというべきである。 第5 結論以上によると、原告らの請求は理由がない。 なお、本判決は、本件口頭弁論終結時までの事実関係に基づき、原告らの職務発明対価請求権が存在しないことを判断したものであり(原告らの請求(訴訟物)も、そのようなものであるとの前提である。)、口頭弁論終結後の事実関係、例えば、別の実施形態がとられることにより、前記2の判断が異なり得る可能性を排除するものではないことを付言する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 松阿彌隆 裁判官 島田美喜子 裁判官 西尾太一
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