主文 一本件控訴をいずれも棄却する。 二控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第一控訴の趣旨一原判決を取り消す。 二被控訴人富士電機株式会社及び被控訴人株式会社日立製作所は連帯して、愛知県に対し、金三億九三一五万一〇〇〇円及びこれに対する被控訴人富士電機株式会社については平成八年三月八日から、被控訴人株式会社日立製作所については平成八年三月七日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 三被控訴人愛知県公営企業管理者企業庁長が、被控訴人富士電機株式会社、同株式会社日立製作所、訴外横河電機株式会社、同山武ハネウエル株式会社及び同株式会社島津製作所に対して、安城浄水場計装設備工事及び尾張東部浄水場計装設備工事の談合に関する不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実が違法であることを確認する。 四訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。 五仮執行宣言第二事案の概要一本件は、愛知県が指名競争入札により発注した工事に関し、被控訴会社らが談合により落札をして請負契約を締結した行為が違法であるとして、地方自治法二四二条の二第一項四号後段に基づき、愛知県に代位して、被控訴会社らに対し、損害賠償を請求し、同条同項三号に基づき、被控訴人企業庁長に対し、同被控訴人が、被控訴会社ら右入札参加者に対する損害賠償請求権の行使を怠っていることの違法確認請求を求めた事案であるが、その概要は、原判決の「事実及び理由」の「第二事案の概要」に摘示されたところのうち、控訴人らと被控訴人らに関する部分と同一であるから、これを引用するほか(ただし、幸田請負契約にかかる部分の損害賠償請求を除く。)、後記「二当審における控訴人らの主張」のとおりである。 二当審における控訴人らの主張(補足主張を含む。) あるから、これを引用するほか(ただし、幸田請負契約にかかる部分の損害賠償請求を除く。)、後記「二当審における控訴人らの主張」のとおりである。 二当審における控訴人らの主張(補足主張を含む。) 1 地方自治法二四二条二項の期間制限の適用について(一) 原判決は六二年判決を引用し、本件監査請求は、当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為が違法であるとし、当該行為が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるときは、不真正怠る事実に該当するから、同条二項の期間制限の適用があると判断した。しかしながら、六二年判決は、本来怠る事実にかかる監査請求については期間制限の適用がないのであるから、当該行為が違法、かつ、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているときに限って期間制限の適用があるとしていると解すべきであり、原判決の理解は誤りである。そして、本件各請負契約の契約金額は予定価格の範囲内であり、本件各支出自体は違法ではないし、仮に、違法であるとしても本件各請負契約は無効ではないから、本件は同判決の射程範囲外である。 また、監査請求及び住民訴訟は長や職員の違法行為是正措置であるから、同条一項の「当該行為」は長や職員が違法な財務会計上の行為をした場合に限られ、本件のように長や職員が談合であることを知らずに請負契約を締結した場合は、長や職員は違法行為をしていないのであるから、「当該行為」に当たらず、同条二項の期間制限の適用はないと解すべきである。 (二) 平成九年判決は、財務会計上の違法な積極的行為があっても、これに基づく実体法上の請求権が発生していなかったり、これを行使することができない場合には、住民が監査を 適用はないと解すべきである。 (二) 平成九年判決は、財務会計上の違法な積極的行為があっても、これに基づく実体法上の請求権が発生していなかったり、これを行使することができない場合には、住民が監査を請求することができないことから、実体法上の請求権が発生し、これを行使することができることになった日から監査請求期間が進行する旨判示したものであるが、その事案からすると、契約が解除された時点で茅ヶ崎市の損害賠償債務は抽象的に発生しており、茅ヶ崎市は予備的に市長に対して損害賠償請求権を行使することは可能であったのである。ところが、本件は長や職員が談合であることを知らずに請負契約を締結したのであるから、支出の段階では損害賠償請求権が発生していることを知りえず、平成九年判決の事案に比して、はるかに地方自治体に損害賠償請求権の行使を期待できないから、本件課徴金納付命令が新聞報道された後相当期間が経過するまでは監査請求期間は進行しないと解すべきである。 2 正当な理由について原判決は、正当な理由を判断するうえでの相当期間の起算点を「相当な資料に基づき、当該財務会計上の行為が違法性を有するとの合理的疑いをもつことができた時をいう」と判示しているが、そうだとしてもその適用を誤っており、次のように解すべきである。 (一) 知る対象としての「当該財務会計上の行為」は、愛知県に損害が発生したことを長や職員が知り、談合企業に対して損害賠償請求のため事実及び法律関係の調査を行い、損害賠償請求権を行使できる条件が整ったのに相当期間内にこれを行使しないという事実である。 (二) 「疑いをもつことができた時」とは、住民にとって確実に違法性が認められる時期と解すべきであり、少なくとも談合企業が明確に談合の事実を認める態度をとったときと解すべきであるから、談合企業が課徴金を納 「疑いをもつことができた時」とは、住民にとって確実に違法性が認められる時期と解すべきであり、少なくとも談合企業が明確に談合の事実を認める態度をとったときと解すべきであるから、談合企業が課徴金を納付したとき、ないし納付命令に対して異議を申し立てることなく一月を経過したときである。 (三) 談合に関する監査請求の場合の「相当な期間」は、住民にとって、財務会計職員が損害賠償請求権を行使しないことが不当であると客観的に認識しえたときから、財務会計職員の立場ならば損害賠償請求訴訟の提起に踏み切れるであろうと通常考えられる期間を含む相当な期間が保障されるべきであり、地方自治体としても直ちに損害賠償請求権を行使できない事情があり、現に談合による損害賠償請求をするについては、通常九か月から一三か月を要していることを考慮して判断すべきである。 第三当裁判所の判断一当裁判所も、控訴人らの本訴請求は適法な監査請求を経ない訴えであるから不適法であり、これを却下すべきものと判断するが、その理由は原判決の「事実及び理由」の「第三当裁判所の判断」の「二」及び「三」の説示を引用するほか、後記「二付加する判断」のとおりである。 二付加する判断 1 地方自治法二四二条二項の期間制限について(一) 控訴人らは、六二年判決は、本来怠る事実にかかる監査請求については期間制限の適用がないのであるから、当該行為が違法、かつ、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているときに限って期間制限の適用があるとしていると解すべきであり、他方で、本件各請負契約の契約金額は予定価格の範囲内であり、本件各支出自体は違法ではないし、仮に、違法であるとしても本件各請負契約は無効ではないから、本件は同判決の射程範囲外であると主張する。しかし 方で、本件各請負契約の契約金額は予定価格の範囲内であり、本件各支出自体は違法ではないし、仮に、違法であるとしても本件各請負契約は無効ではないから、本件は同判決の射程範囲外であると主張する。しかしながら、第一に、控訴人らの請求原因を前提とすれば、談合に基づく入札は違法であり、違法な入札を前提とする請負契約、これに基づく支出も違法になるはずである。次に、有効、無効はともかく、違法な入札を前提とする請負契約あるいはこれに基づく支出が違法であれば、愛知県の損害賠償請求権は発生し、住民はその違法を問責して監査請求をすることができるから、請負契約及びこれに基づく支出が無効でなくても地方自治法二四二条二項の期間制限は適用されると解される。なお、前記のとおり(原判決引用)、六二年判決の事案は、監査請求人が、財務会計上の行為が違法、無効であることにより発生した損害賠償請求権の不行使は違法であると主張していたものであることからすると、六二年判決は、期間制限の適用を当該行為が違法、かつ、無効である場合に限定しているものとは解されない。 また、控訴人らは、監査請求及び住民訴訟は長や職員の違法行為是正装置であるから、同条一項の「当該行為」は長や職員が違法な財務会計上の行為をした場合に限られ、本件のように長や職員が談合であることを知らずに請負契約を締結した場合は、長や職員は違法行為をしていないのであるから、「当該行為」に当たらず、同条二項の期間制限の適用はないと解すべきであると主張する。控訴人らのこの主張は、長や職員等の主観的事情(知不知、あるいは、故意過失)によって怠る事実と不真正怠る事実とを区別しようとする見解であるが、前記認定のとおり(原判決引用)、控訴人らの請求原因を前提とすれば、談合に基づく入札は違法であり、違法な入札を前提とする本件請負契約も違法 怠る事実と不真正怠る事実とを区別しようとする見解であるが、前記認定のとおり(原判決引用)、控訴人らの請求原因を前提とすれば、談合に基づく入札は違法であり、違法な入札を前提とする本件請負契約も違法であるというべきところ、このように財務会計上の行為が法規に反し、これに基づき実体法上の請求権が発生している場合において、その有無の判断に困難を伴うことの多い長や職員等の主観的事情によって住民監査請求の請求期間が左右されると解するのは、法的安定性を損なうものであって、相当ではない。地方自治法は、同条一項において、住民主導による地方財政の健全化を目的として住民監査請求の制度を設ける一方、同条二項において、財務会計上の行為につき住民がいつまでもその行為の効力を問題にし得る状態にしておくことが法律関係の早期安定の見地から好ましくないとの趣旨で住民監査請求を期間的に制限したのであるが、そのことは十分合理性を有し、首肯できるところである。そして、住民監査請求が右期間を徒過した場合には、同項ただし書の正当な理由の有無によりその適法性が判断できるように配慮されているのである。以上からすると、同項の「違法」は客観的に判断されるべきものであり、法規に反する財務会計上の行為により実体法上の請求権が発生した場合、その請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求については、地方自治体の長や職員が自ら違法行為を行ったか否かにかかわらず、あるいは、長や職員の主観的事情にかかわらず、右法規に反する財務会計上の行為の時を基準として同項の期間制限が課されると解すべきである。したがって、右と異なる見解に立つ控訴人らの主張は採用できない。 (二) 控訴人らは、平成九年判決の事案からすると、契約が解除された時点で茅ヶ崎市の損害賠償債務は抽象的に発生しており、茅ヶ崎市 ある。したがって、右と異なる見解に立つ控訴人らの主張は採用できない。 (二) 控訴人らは、平成九年判決の事案からすると、契約が解除された時点で茅ヶ崎市の損害賠償債務は抽象的に発生しており、茅ヶ崎市は予備的に市長に対して損害賠償請求権を行使することは可能であったのであるが、本件は長や職員が談合であることを知らずに請負契約を締結したのであるから、支出の段階では損害賠償請求権が発生していることを知りえず、平成九年判決の事案に比して、はるかに地方自治体に損害賠償請求権の行使を期待できないから、本件課徴金納付命令が新聞報道された後相当期間が経過するまでは監査請求期間は進行しないと解すべきであると主張する。しかしながら、右事案においては損害賠償請求権の有無が法的に争われていたのであり、本件において長や職員が知らないために行使できないのは事実上の問題であって、法的な障害があるわけではないから、右主張も採用の限りではない。 2 本件監査請求期間の始期について原判決は、右始期を本件各請負契約の代金が完済された日であるとするところ、被控訴人らは、これを批判し、本件各請負契約の締結時であると主張する。たしかに、本件各請負契約が締結されただけの段階では直ちに損害額の確定ができるのか疑問がないわけではない。その一方で談合に基づく本件各請負契約は違法であり、そのことから注文者に発生するべき具体的請求権が、客観的には未発生であるとか、その行使に法律的障害があるとは断定しがたいところである。こうしてみると、いずれの見解にも相当の理があり、一方を正当とし、他方を失当とするにはなお検討すべき点がある。しかし、本件においては、これをいずれに解するにしても、所定の監査請求期間を徒過していることになるから、その結論に影響しないところである。その意味で右の議論は必ずしも実益 はなお検討すべき点がある。しかし、本件においては、これをいずれに解するにしても、所定の監査請求期間を徒過していることになるから、その結論に影響しないところである。その意味で右の議論は必ずしも実益のあるものではない。そこで、当裁判所としては、この点についての原判決の説示を改めることなく引用したうえ、監査請求期間の徒過の点については同旨の判断をするものである。 3 正当な理由について(一) 控訴人らは、知る対象としての「当該財務会計上の行為」は、愛知県に損害が発生したことを長や職員が知り、談合企業に対して損害賠償請求のため事実及び法律関係の調査を行い、損害賠償請求権を行使できる条件が整ったのに相当期間内にこれを行使しないという事実であり、「疑いをもつことができた時」とは、住民にとって確実に違法性が認められる時期と解すべきであり、少なくとも談合企業が明確に談合の事実を認める態度をとったときと解すべきであるから、談合企業が課徴金を納付したとき、ないし納付命令に対して異議を申し立てることなく一月を経過したときであると主張する。しかしながら、監査請求においては、その対象を客観的に特定する必要があるとはいえ、地方自治法二四二条一項の「証する書面」についてはそれほど厳格な違法性立証が要求されていないことからすると(本件では公正取引委員会が作成配布した課徴金納付命令の課徴金算定の基礎となった工事の一覧表で足りると解される。)、正当な理由の有無は、特段の事情がない限り、当該行為が秘密裡になされたとか、財務会計行為は公然と行われているが、その違法性に係る事実が隠蔽されていたという場合において、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為ないしその違法性に係る事実を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができ 蔽されていたという場合において、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為ないしその違法性に係る事実を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができたと解されるときから相当な期間内に監査請求したかどうかによって判断すべきものである。そして、公正取引委員会において、課徴金の納付命令を出した以上、仮に、企業側が否認していたとしても、監査を請求すること自体は可能であり、請求を受けた監査委員も適正な監査をすることは可能であるから、本件においても「当該行為を知ることができた時」は課徴金納付命令があったことを知りえた時である。そして、前記認定のとおり(原判決引用)、控訴人らは課徴金納付命令がなされた後に公正取引委員会に問い合わせれば、課徴金算定の基礎となった工事の一覧表を入手することができることを知っていたものと認められるから、控訴人らは、平成七年八月九日に、本件課徴金納付命令がなされたとの新聞報道に接すれば、公正取引委員会に問い合わせ、同委員会が一般に公表・配布していた本件課徴金納付命令の課徴金算定の基礎となった工事の一覧表を入手することにより、本件工事が、談合により不当に高い契約金額となっていたとの合理的疑いを持つことができたものと認められるのである。 したがって、この点に関する控訴人らの主張は採用できない。 (二) 控訴人らは、談合に関する監査請求の場合の「相当な期間」は、住民にとって、財務会計職員が損害賠償請求権を行使しないことが不当であると客観的に認識することができたときから、財務会計職員の立場ならば損害賠償請求訴訟の提起に踏み切れるであろうと通常考えられる期間を含む相当な期間が保障されるべきであり、地方自治体としても直ちに損害賠償請求権を行使できない事情があり、現に談合による損害賠償請求 ば損害賠償請求訴訟の提起に踏み切れるであろうと通常考えられる期間を含む相当な期間が保障されるべきであり、地方自治体としても直ちに損害賠償請求権を行使できない事情があり、現に談合による損害賠償請求をするについては、通常九か月から一三か月を要していることを考慮して判断すべきであると主張する。 しかしながら、住民が監査請求の手続をとるのに相当と認められる期間は、地方自治体がする損害賠償請求権行使のための準備とは自ずから別であり、また、控訴人らは愛知県のどのような動向により監査請求が遅れたのかについて具体的な主張・立証をしていないし、愛知県の対応が控訴人らの監査請求に影響したことを窺わせる証拠はないのであって、控訴人らの右主張も採用できない。 三よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第四部裁判長裁判官宮本増裁判官野田弘明裁判官永野圧彦
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