令和7年3月4日判決言渡令和6年(ネ)第10026号特許権侵害行為差止等請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所令和4年(ワ)第9521号)口頭弁論終結日令和7年1月28日 判決控訴人株式会社日本触媒 同訴訟代理人弁護士:設樂隆一、河合哲志、清水節、渡邉佳行、関卓人、上野裕平、小松陽一郎、藤野睦子、千葉あすか、中田健一、福永聡、本田輝人同訴訟代理人弁理士:今村玲英子、森下夏樹、馰谷剛志被控訴人株式会社カネカ 同訴訟代理人弁護士:飯島歩、井窪保彦、黒田薫、三品明生 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 (略語は、本判決で定めるもののほか、原判決「事実及び理由」の第2の1の例による。) 第1 事案の要旨 本件特許の特許権者である控訴人が、被控訴人による被控訴人製品(原判決別紙被告製品目録記載の樹脂)の製造販売等及び被控訴人方法(被控訴人製品の製造方法)の使用が本件特許権(請求項1及び6)の侵害に当たる旨主張して、その差止め、損害賠償等を求める事案である。 第2当事者の求めた裁判第2-1控訴人の請求(※に請求の法的根拠を掲げる。)(1)被控訴人は、被控訴人製品を製造し、販売し、輸出し又は販売の申出をしてはならない。 ※ 特許法100条1項に基づく差止請求(2)被控訴人は、被控訴人製品及びその半製品(原判決別紙被告製品説明書記載の各構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの)を廃棄せよ。 ※ 特許法100条2項に基づく廃棄請求(3) 被控訴人は、控訴人に対し、10億円及びこれに 書記載の各構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの)を廃棄せよ。 ※ 特許法100条2項に基づく廃棄請求(3) 被控訴人は、控訴人に対し、10億円及びこれに対する令和4年11月10日から支払済みまで年3%の割合による金銭を支払え。 ※ 主請求は不法行為に基づく損害賠償請求(一部請求)、附帯請求は遅延損害金請求(利率は民法所定、起算日は訴状送達日の翌日)第2-2 原審の判断及び控訴の提起 原審は控訴人の請求を全部棄却する判決をしたところ、控訴人がこれを不服として、下記のとおり控訴を提起した。 【控訴の趣旨】・原判決を取り消す。 ・上記第2-1(1)~(3)と同旨 第3 前提事実(争いがないか、弁論の全趣旨によって認められる。)第3-1 本件特許 控訴人は、下記の本件特許の特許権者である。 ・特許番号:特許第4974971号 ・発明の名称:「熱可塑性樹脂組成物とそれを用いた樹脂成形品および偏光子保護フィルムならびに樹脂成形品の製造方法」 ・出願日:平成20年6月13日 ・優先日:平成19年6月14日、同年8月1日 ・設定登録日:平成24年4月20日第3-2 本件各発明の構成要件の分説(本件発明1は樹脂組成物に係る物の発明、本件発明6はその製造方法に係る方法の発明である。)(1) 本件発明1(請求項1) 1A:ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂と、 1B:ヒドロキシフェニルトリア 水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂と、 1B:ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する、分子量が700以上の紫外線吸収剤と、 1C:を含み、 1D:110℃以上のガラス転移温度を有する 1E:熱可塑性樹脂組成物。 1F:ここで、前記ヒドロキシフェニルトリアジン骨格は、トリアジンと、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2-ヒドロキシフェニル)-1、3、5-トリアジン骨格)である。 (2) 本件発明6(請求項6) 6A:ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂と、 6B:ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する、分子量が700以上の紫外線吸収剤と、 6C:を溶融混合して、 6D:110℃以上のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂組成物を得る、 6E:熱可塑性樹脂組成物の製造方法。 6F:ここで、前記ヒドロキシフェニルトリアジン骨格は、トリアジンと、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2-ヒドロキシフェニル)-1、3、5-トリアジン骨格)である。 第3-3本件各発明の技術的特徴 本件明細書に開示された本件各発明の技術的特徴は、以下のとおりである。 (1) 【技術分野】 本発明は、耐熱性透明材料として好適な熱可塑性樹脂組成物と、当該組成物からなる樹脂成形品ならびに樹脂成形品の具体的な一例 技術的特徴は、以下のとおりである。 (1) 【技術分野】 本発明は、耐熱性透明材料として好適な熱可塑性樹脂組成物と、当該組成物からなる樹脂成形品ならびに樹脂成形品の具体的な一例である偏光子保護フィルムとに関する。また、本発明は、上記保護フィルムを備える偏光板と、当該偏光板を備える画像表示装置とに関し、さらには樹脂成形品の製造方法に関する(【0001】)。 (2) 【背景技術】(2)アポリメタクリル酸メチル(PMMA)に代表される熱可塑性アクリル樹脂(以下、単に「アクリル樹脂」ともいう)は、高い光線透過率を有するなど、その光学特性に優れるとともに、機械的強度、 成形加工性および表面硬度のバランスに優れることから、自動車および家電製品をはじめとする各種の工業製品における透明材料として幅広く使用されている(【0002】)。 (2)イアクリル樹脂は、紫外線を含む光に曝されると黄変して透明度が低下することがあり、これを防ぐ方法として、紫外線吸収剤(UVA)を添加する方法が知られている。しかし一般的なUVAでは、UVAを添加したアクリル樹脂組成物を成形する際に発泡が生じたり、UVAがブリードアウトしたりすることがある。また、成形時に加えられる熱によりUVAが蒸散して、得られた樹脂成形品の紫外線吸収能が低下したり、蒸散したUVAにより成形装置が汚染されるなどの問題が生じることがある(【0003】)。 (2)ウ樹脂あるいは樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が高くなると、より高い成形温度が必要となる。このため、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂にUVAを添加すると、得られた樹脂成形品に発泡やUVAのブリードアウトが生じやすい。また、成形時におけるUVAの蒸散が強くなることによる紫 が必要となる。このため、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂にUVAを添加すると、得られた樹脂成形品に発泡やUVAのブリードアウトが生じやすい。また、成形時におけるUVAの蒸散が強くなることによる紫外線吸収能の低下、成形装置の汚染が生じやすくなる(【0005】)。 (2)エこれらの問題を考慮し、これまで、少量の添加により高い紫外線吸収効果が得られるとされるトリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物およびベンゾフェノン系化合物が、UVAとして、アクリル樹脂と組み合わせて用いられている。上述した特開2006-328334号公報にも上記化合物が開示されている(【0006】)。 (3) 【発明が解決しようとする課題】(3)アしかし、これらの化合物は、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂との相溶性に課題が残る。高温での成形時における発泡、ブリード アウトの発生の抑制も必ずしも十分であるといえない。また、アクリル樹脂とUVAとを含む樹脂組成物から光学部材を形成する際に、得られた部材の外観上の欠点を減らすことを目的として、ポリマーフィルタによる樹脂組成物の濾過を行うことがあるが、この場合、樹脂組成物の成形温度をさらに高くする必要がある。成形温度が高くなると、発泡およびブリードアウトが発生しやすくなるとともに、UVAの蒸散に伴う問題(得られた樹脂成形品における紫外線吸収能の低下、蒸散したUVAによる成形装置の汚染)が生じやすくなる(【0007】)。 (3)イ本発明は、アクリル樹脂とUVAとを含む樹脂組成物であって、ガラス転移温度の高さに基づく優れた耐熱性を有しながら、高温での成形時においても、発泡、ブリードアウトなどの発生が抑制され、UVAの蒸散による問題の発生を低減できる樹脂組成物を提供する 物であって、ガラス転移温度の高さに基づく優れた耐熱性を有しながら、高温での成形時においても、発泡、ブリードアウトなどの発生が抑制され、UVAの蒸散による問題の発生を低減できる樹脂組成物を提供することを目的とする(【0008】)。 (4) 【課題を解決するための手段】(4)ア本発明の樹脂組成物は、熱可塑性アクリル樹脂(樹脂(A))と、分子量が700以上の紫外線吸収剤(UVA(B))とを含み、110℃以上のガラス転移温度(Tg)を有する。樹脂(A)は、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有する。UVA(B)は、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する。ここで、前記ヒドロキシフェニルトリアジン骨格は、トリアジンと、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2-ヒドロキシフェニル)-1、3、5-トリアジン骨格)である(【0009】)。 (4)イ本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、ラクトン環構造、 無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂を重合した後、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する、分子量が700以上の紫外線吸収剤と、前記熱可塑性アクリル樹脂とを溶融混合して、110℃以上のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂組成物を得る(【0010】)。 (5) 【発明の効果】本発明の樹脂組成物は、110℃以上という高いガラス転移温度(Tg)に基づく優れた耐熱性を示すとともに、高温での成形時においても発泡、ブリードアウトの発生 【発明の効果】本発明の樹脂組成物は、110℃以上という高いガラス転移温度(Tg)に基づく優れた耐熱性を示すとともに、高温での成形時においても発泡、ブリードアウトの発生が抑制され、UVAの蒸散による問題の発生が少ない(【0015】)。 第3-4被控訴人製品、被控訴人方法 被控訴人製品及び被控訴人方法に用いられる被控訴人UVA(C42H57N3O6)の分子量は、699.91848である(原判決「事実及び理由」第4の1(2)で認定のとおり。当審では、当事者双方ともこの分子量を前提とする主張を展開している。)。 被控訴人製品及び被控訴人方法は、分子量の数値範囲に係る構成要件1B、6Bの充足性につき後述の争いがあるが、これ以外の本件発明1、6の構成要件を全て充足する。 第4 争点 第4-1 技術的範囲の属否に関する争点控訴人は、構成要件1B、6Bにいう「分子量700以上」の「700」は小数第1位の数字を四捨五入した数値と理解されるから、上記構成は「699.5以上」と解釈すべきであり、そうでな いとしても「700程度以上」であれば本件各発明の本質的部分として十分であるなどと主張しており、①構成要件1B、6Bの充足性(争点1-1)及び②均等侵害の成否(争点1-2)が、技術的範囲の属否に関し争われている。 第4-2 特許の有効性に関する争点被控訴人は、①原審以来、本件特許には進歩性欠如の無効理由があると主張しており(争点2-1)、更に当審において、②サポート要件違反の無効理由(争点2-2)、③明確性要件違反の無効理由(争点2-3)の主張を追加した。他方、控訴人は、上記①に対し、訂正の再抗弁を追加した(争点2-4)。 第4-3損害論に関する争点 効理由(争点2-2)、③明確性要件違反の無効理由(争点2-3)の主張を追加した。他方、控訴人は、上記①に対し、訂正の再抗弁を追加した(争点2-4)。 第4-3損害論に関する争点 控訴人の被った損害の額が争われている(争点3)。 第5 争点に関する当事者の主張第5-1争点1-1(構成要件1B、6Bの充足性)について第5-1(1) 争点1-1:控訴人の主張ア 「分子量が700以上」の意義原判決は、「分子量が700以上」の要件について、数値限定発明であるから当然のようにこれを「700.0以上」と限定して解釈しているが、本件各発明の数値要件の意義を理解しておらず、失当である。本件各発明は、アクリル樹脂の一次構造やUVAの化学構造、それらの組合せが重要な発明なのであって、「分子量が700以上」との数値要件に臨界的意義はないから、本件各発明は、数値要件にのみ進歩性の根拠があるような狭義の数値限定発明ではない。 このような本件各発明につき、特段の理由も付さずに「分子量が700.0以上」と厳格に理解するのは、それ自体として不十分・不 適切なものである。 本件明細書においては、正確に計算すれば小数第5位までの数字となる分子量を、全て整数第1位を有効な数字とする整数として記載している。このことを考慮すれば、本件明細書においては、「算出された分子量を特定の桁(整数値)」に丸めることは前提とされていると解すべきである。そして、小数第5位まで表示される精密な分子量が整数値で表示される場合には、数字を丸める方法について本件明細書にはその記載がないため、当業者の技術常識であるJISの基準(甲8の2b及び2cの規則B)により解釈されるべきである。当該基準に基づけ 整数値で表示される場合には、数字を丸める方法について本件明細書にはその記載がないため、当業者の技術常識であるJISの基準(甲8の2b及び2cの規則B)により解釈されるべきである。当該基準に基づけば、整数値で分子量を表記する場合は、いずれも小数第1位の数字を四捨五入した数字として表記される。 この点については、控訴人が新たに証拠提出するとおり、本件各発明が属する技術分野にて有力な5名の学者も、「分子量が700以上」について「分子量が700.0以上」等といった厳格な理解を否定し、控訴人主張の解釈を支持している(甲21~25)。 また、本件各発明の「分子量が700以上の紫外線吸収剤」は、本件各発明のUVAの主成分について規定されたものであると解されるところ(【0063】)、本件明細書の実施例1~5のいずれにおいても、使用されているUVAの主成分の分子量は、標準的なソフトウェアである「ChemDraw」を用いて、小数第1位で四捨五入された整数値として算出されたものである(以下「ChemDraw方式」という。)。「ChemDraw」は化学分野では出願当時最も汎用されていたソフトウェアであるから、ChemDraw方式は当業者の技術常識である。 したがって、「分子量が700以上」の紫外線吸収剤(UVA)とは、当業者の技術常識に照らせば、算出される分子量の小数点以 下の数字をJISの基準により四捨五入すること(以下「控訴人計算方法」ということがある。)により「分子量が700」となるもの以上の分子量、すなわち分子量が「699.5以上」のUVAを意味する。 イ文言侵害の成立被控訴人UVAの分子量は、原判決も認定したとおり、699. 91848であり、「分子量が小数点以下を四捨 量が「699.5以上」のUVAを意味する。 イ文言侵害の成立被控訴人UVAの分子量は、原判決も認定したとおり、699. 91848であり、「分子量が小数点以下を四捨五入した場合に700となる数値以上」(換言すれば「分子量が699.5以上」)に含まれる。したがって、上記アで述べた「分子量が700以上」の要件の意義(解釈)に従えば、被控訴人製品及び被控訴人方法は本件各発明の構成要件1B及び6Bを充足し、被控訴人製品の製造販売等につき、本件特許権の文言侵害が成立する。 ウ被控訴人が主張する本件明細書の矛盾についてウ(ア) 被控訴人は、本件明細書の実施例又は比較例において使用されたUVAの分子量の記載が、控訴人計算方法による結果と矛盾すると主張する。 しかし、そもそも「分子量が700以上の紫外線吸収剤」は、本件各発明のUVAの主成分について規定されたものであるから、UVAの主成分と直接関係しない比較例等の分子量の記載は、上記構成要件の解釈に影響しない。 また、本件明細書においては、比較例のUVAの分子量は、単に、メーカーのカタログ等に記載された分子量を引用して記載する方法によっているにすぎず(甲34)、このことは、本件各発明のUVAの構成要件である「分子量700以上」の解釈に影響を与えるものではない。 しかも、被控訴人が指摘する比較例の「CGL479」、「Sum isorb300」は、その分子量も「676」、「315」という、本件各発明における「700」という分子量よりも明らかに小さいものであるから、その分子量について厳密な表記を必要とするものではない。 ウ(イ) さらに、本件明細書における実施例である「CGL77 発明における「700」という分子量よりも明らかに小さいものであるから、その分子量について厳密な表記を必要とするものではない。 ウ(イ) さらに、本件明細書における実施例である「CGL777MPAの副成分(小)」の分子量については、「ChemDraw」に構造式を入力するに際して、ヒドロキシ基(-OH基)を付加すべきところを、誤って「O」のみを付加した構造式を入力してしまい、表示された分子量「773」をそのまま本件明細書に転記してしまったことから齟齬が生じているのであり(甲34)、その構造式に記載ミスがあったとはいえ、控訴人計算方法により記載されたものであることに変わりはない。 第5-1(2) 争点1-1:被控訴人の主張 以下に述べるとおり、控訴人の上記主張は失当である。 ア本件明細書の実施例・比較例との矛盾まず、第1に、本件各発明の「分子量が700以上の紫外線吸収剤」なる構成要件の意義について、本件特許の特許請求の範囲には、分子量の計算方法や小数点以下の数値の処理について規定した記載はない。そこで、本件明細書の記載及び図面を考慮して解釈する必要があるところ(特許法70条2項)、本件明細書には、分子量の計算方法や数値の小数点以下の処理方法は記載されておらず、むしろ、控訴人計算方法は本件明細書の記載と矛盾する分子量の記載がある。すなわち、本件明細書の実施例又は比較例において使用されたUVAのうち、「CGL479」(比較例4、本件明細書では「676」と表記)、「Sumisorb300」(比較例3、本件明細書では「315」と表記)、「CGL777MPA(副成分)」(実施 例1、段落【0175】、本件明細書では「773」と表記)の各分子量は、控訴人計算方法による分子量の整数値化で 、本件明細書では「315」と表記)、「CGL777MPA(副成分)」(実施 例1、段落【0175】、本件明細書では「773」と表記)の各分子量は、控訴人計算方法による分子量の整数値化では、「CGL479」が「678」、「Sumisorb300」が「316」、「CGL777MPA(副成分)」が「774」となって、説明できない整数値になっている。 イ技術常識との齟齬第2に、控訴人も認めるように、分子量は、同位体存在比を考慮した小数第4位又は第5位の数字で表示される原子量を用いて、小数第5位程度の数値で算出するのが技術常識であるところ、分子量の小数点以下4~5桁が化合物の構造決定に重要な要素であることを考慮すれば、ある化合物について、小数第5位程度に精密に算出された分子量を、小数第1位を四捨五入することによって整数値化することが一般的であるとか、技術常識であるということはできない。この点については、学者の意見書においても述べられている(乙6~9)。 これに対し、控訴人は、ChemDraw方式が2007年の優先日当時の技術常識であると主張するが、「ChemDraw」においては、表示される分子量の小数点以下の桁数を入力する箇所を操作者が自由に設定することができ、表示する桁を決定すると、一つ小さい位の数を四捨五入して表示する仕様となっているにすぎない(甲34)。このように自由な操作が可能であることが前提となっている以上、小数第5位まで計算される分子量について小数第1位で四捨五入して整数値として算出することが、2007年当時の技術常識であると裏付けられるものではない。 さらにいえば、控訴人が出願人として2007年に出願した3件の出願(①特願2007-157991 数値として算出することが、2007年当時の技術常識であると裏付けられるものではない。 さらにいえば、控訴人が出願人として2007年に出願した3件の出願(①特願2007-157991(乙25)、②特願200 7-200689(乙26)、③特願2007-200693(乙27))の全てにおいて、本件特許と同様に、「CGL777MPA」、「CGL479」、「LA-31」及び「Sumisorb300」の各分子量が整数値にて表記されており、それら全ての分子量が、ChemDraw方式では説明がつかない分子量となっている。 ウ明確性要件違反を生じさせるクレーム解釈第3に、仮に、本件明細書の記載と矛盾し、当業者の技術常識に則した評価方法といえないにもかかわらず、本件各発明の「分子量が700以上」のUVAの解釈として、控訴人計算方法による解釈を採り得るとすると、明確性要件違反(特許法36条6項2号)の無効理由を構成することになる。すなわち、当業者であれば、本件各発明の「分子量が700以上」のUVAの意義について、本件明細書等に分子量の計算方法や数値の小数点以下の数値の処理について規定した記載がない以上、分子量の計算方法についての技術常識に則して、特定の桁に丸めることのない精密な分子量を意味するものと解釈し、対象となるUVAについて算出した精密な分子量の数値をそのまま採用して、「分子量が700以上」(つまり「分子量が700.00000以上」)のUVAに該当するかを判断することも通常あり得る。そうすると、控訴人の主張する解釈は、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確であるといえ、採用する余地はない。 エ上述したとおり、控訴人計算方法は採用できず、本件各発明の「分子量が700以上の紫外線吸 控訴人の主張する解釈は、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確であるといえ、採用する余地はない。 エ上述したとおり、控訴人計算方法は採用できず、本件各発明の「分子量が700以上の紫外線吸収剤」に該当するかを評価する際には、技術常識に従って、対象となる化合物の分子量を「精密な分子量」として算出し、この分子量をそのまま採用して、本件各発明の「分子量が700以上」(すなわち、「700.00000以上」) であるかを評価することになる(乙6~9)。被控訴人UVAの分子量は「699.91848」であるところ、この分子量は「700.00000以上」に当たらないのであるから、被控訴人UVAの分子量は、「分子量が700以上の紫外線吸収剤」との構成要件を充足しない。 第5-2争点1-2(均等侵害の成否)について第5-2(1)争点1-2:控訴人の主張 仮に、被控訴人製品及び被控訴人方法が本件各発明の「分子量が700以上」との構成要件(1B、6B)を充足しないとしても、本件各発明にいう「分子量が700以上」のUVAは、分子量が699.91848の被控訴人UVAと均等であり、均等侵害が成立する。以下、均等論の各要件に即して述べる(第4要件及び第5要件は被控訴人が主張立証責任を負うものであるところ、第4要件については被控訴人から主張がなく、第5要件については、被控訴人の主張に対する反論を述べる。)。 ア第1要件(非本質的部分)について 原判決は、数値限定発明であることを重視して、「分子量が700以上」との構成要件を本質的部分と解し、第1要件を欠くと判断したが、以下に述べるとおり、誤りである。 本件各発明は、公知技術と比べて、アクリル樹脂の一次構造と、トリアジンとトリアジンに結合した3つのヒ 構成要件を本質的部分と解し、第1要件を欠くと判断したが、以下に述べるとおり、誤りである。 本件各発明は、公知技術と比べて、アクリル樹脂の一次構造と、トリアジンとトリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2―ヒドロキシフェニル)―1、3、5―トリアジン骨格)(以下「本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格」という。)を有するUVAで、分子量が700以上のものの組合せが重要な発明であり、これにより進歩性が認められる発明であるから、広義の数値限定発明(数値限定を発明特定事項とするが、その余の構成と の組合せにより進歩性が認められるもの)であり、「分子量が700以上」の数値要件に臨界的意義は要求されない。 そうすると、本件各発明における分子量が「700以上」という構成については、一応の特徴ではあるものの、上記のように本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格という化合物の構造自体に特徴がある中で、また、従来技術・比較例の分子量が大きくとも658~676といった数値であることとの関係で、「700以上」という分子量が規定されたものである以上、「分子量が700以上」の構成要件の解釈についても、数値限定発明であるからといって、当然のように「700.0以上」あるいは「700.00000以上」と限定して解釈すべきではない。本件各発明の本質的部分は、環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂とUVAとを含む熱可塑性樹脂組成物において、そのUVAが、本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有するもので、分子量が「700程度以上」であることと解するべきである。そして、ここでの「700程度」には、「699、698、697」等が含まれるものであるが、本件明細書にて分子量が整数で表記されていることも踏まえ、小数第1位 程度以上」であることと解するべきである。そして、ここでの「700程度」には、「699、698、697」等が含まれるものであるが、本件明細書にて分子量が整数で表記されていることも踏まえ、小数第1位を四捨五入すれば700となるもの(699.5以上700.5未満)は、これに当然に含まれる。 被控訴人製品は、本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する分子量が700程度のUVAを含むものであるから、本件各発明の本質的部分を備えており、厳密な分子量の違いに係る相違点は本件各発明の本質的部分ではないから、均等の第1要件は充足される。 イ第2要件(置換可能性)及び第3要件(置換容易性)について原判決「事実及び理由」第3の2【原告の主張】(1)、(2)のとおりであるから、これを引用する。 なお、第2要件に関し、UVAの分子量が被控訴人UVAのように「699.91848」であったとしても、本件各発明の作用効果を奏さなくなるなどとは考え難く(学者の意見書である甲21、25)、実際、控訴人による追試(甲30「実験報告書1/樹脂組成物の製造と物性評価」)では、本件明細書記載の作用効果を示すことが確認されている。 ウ第5要件(意識的除外等の特段の事情)について最高裁平成29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号359頁(マキサカルシトール事件上告審判決、以下「平成29年最高裁判決」という。)は、意識的除外と評価できる場合を、特許請求の範囲の構成に代替し得る技術を明細書に記載し、客観的、外形的に表示した場合に限定したものであり、出願人の主観的認識だけを問題としていないことは明らかである。これを本件に即していえば、意識的除外と認められるのは、分子量を「699.91 記載し、客観的、外形的に表示した場合に限定したものであり、出願人の主観的認識だけを問題としていないことは明らかである。これを本件に即していえば、意識的除外と認められるのは、分子量を「699.91848」とする構成が、分子量を「700.0」とする構成に代替し得るものであることが明細書に記載され客観的・外形的に表示されていたような場合である。本件では、本件明細書にも、それが引用する文献においても、例えば分子量が「695」とか「699」であるUVAが、分子量「700」のUVAに代替し得る旨が明記されているわけではないから、平成29年最高裁判決の判示からすれば、「分子量が700.0」未満の構成が特許請求の範囲に記載されていないことをもって、意識的除外と評価できるものではない。 第5-2(2)争点1-2:被控訴人の主張 本件においては、均等論の第1要件、第2要件及び第5要件の充足が認められず、均等侵害は成立しないというべきである。 ア第1要件(非本質的部分)について ア(ア) 本件明細書の記載から認定できる本件各発明の技術的意義(課題、課題解決手段、効果)を踏まえると、本件各発明の効果は一つの効果ではなく、複合的な効果であり(【0015】、【0016】)、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は本件各発明の特定の構成のみに由来する特定の効果であるということはできず、特許請求の範囲の構成の一部のみを上位概念化して認定することは妥当でない。 また、本件明細書の記載によれば、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂とトリアジン系化合物等のUVAとを組み合わせた樹脂組成物及びその高温での成形時における発泡、ブリードアウトの発生の問題、UVAの蒸散に伴う問題は、従来から知られ 、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂とトリアジン系化合物等のUVAとを組み合わせた樹脂組成物及びその高温での成形時における発泡、ブリードアウトの発生の問題、UVAの蒸散に伴う問題は、従来から知られており、本件各発明の解決手段は、その組合せを上記構成として最適化し、その効果は、上記問題を抑制し、又は少なくしたというものである。また、アクリル樹脂とUVAを溶融混合して樹脂組成物を得るという本件発明6の製造方法は従来の製造方法と比べて特に目新しいものではない。このように、本件各発明は、従来技術の延長線上にある改良発明として位置付けられ、その従来技術に対する貢献の程度は大きいとはいえない。 そうすると、本件各発明は、「従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合」に該当するから、本件各発明の本質的部分は、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されるべきである。 ア(イ) また、均等論において、控訴人が主張するように、特許請求の範囲に「700」と特定された数値を「700程度」と読み替えるような不明確な「上位概念化」は認められるべきではない。「700程度」とはあまりにも漠然とした基準であって、どこまでが「程度」 に含まれるのか不明確であるから、上位概念として不適切である。 イ第2要件(置換可能性)について 本件明細書には、UVAの分子量が「958」である実施例のデータと、UVAの分子量が「676」である比較例のデータが記載されているのみで、分子量が「700」あるいはその近傍のデータは全く見当たらないのであるから、本件明細書に接する者は、その記載からUVAの分子量が「700」であることの作用効果を認識することができない。したがって、本件各発明は、第2要件(置換可 傍のデータは全く見当たらないのであるから、本件明細書に接する者は、その記載からUVAの分子量が「700」であることの作用効果を認識することができない。したがって、本件各発明は、第2要件(置換可能性)の充足を議論する前提を欠いているといわざるを得ない。 また、控訴人が提出した実験報告書1(甲30)の結果には、以下に述べるような疑問がある。すなわち、「追試組成物」の作用効果が、分子量において250以上も差がある実施例のそれと同等であるとする一方で、分子量において25程度の差しかない比較例のそれと著しく異なるとするのは不合理である。このことは、控訴人が「700」という分子量の値には臨界的意義がないと主張していることからすればなおさらである。加えて、本件明細書の実施例や上記実験報告書では、昇華性、飛散性及び濁度変化量が測定されているが、昇華性や飛散性の測定は当業者が通常行う測定ではなく、本件明細書の実施例や上記実験報告書の記載から、それらの測定を実施すること自体が困難である。また、濁度変化量の測定は、実験条件の僅かな相違より計測値が変動するため、信頼性のある測定結果を得ることができない(乙12)。 ウ第5要件(意識的除外等の特段の事情)についてウ(ア)平成29年最高裁判決は、いわゆる出願時同効材に対する均等の適用を肯定しつつ、「客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあ えて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。」として、均等が否定される場合があることを認めている。 そして 明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。」として、均等が否定される場合があることを認めている。 そして、上記の典型的なケースとして、「特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、特許請求の範囲に記載された構成を対象製品等に係る構成と置き換えることができるものであることを明細書等に記載するなど」の場合を挙げているが、これが例示であって、そのような場合に限られないことは、上記引用部分に「など」とされていることから明らかである。 ウ(イ) これを本件について見ると、出願人がUVAの分子量が重要であることを認識していたことは、本件明細書の【0061】【0063】【0066】等の記載から客観的、外形的に明らかである。そして、本件明細書には実施例におけるUVAの分子量として「958」が、また比較例における分子量として「676」が記載されているところ、出願人が適切であると考えれば、分子量の下限値は、上記二つの数値間のいかなる値でも任意に設定し得るのであり、このことは客観的、外形的にみて明らかである。その上、本件特許の出願当時(優先日当時)、当業者において、UVAの分子量は、その構成する各元素の原子量表記載の原子量に各元素の数を乗じた数値の和として認識されていたこと、原子量表記載の原子量に基づいて分子量を計算すれば小数点以下4桁又は5桁までの数値となることは、いずれも技術常識であった。しかも、本件においては、被控訴人製品に使用されているUVAと同じ分子式(C42H57N3O6)のUVAが本件特許の優先日前に既に知られており(乙11・10 頁の化合物No.18)、かつ、その分子量を控訴人が主張する原子量表記載の原子 いるUVAと同じ分子式(C42H57N3O6)のUVAが本件特許の優先日前に既に知られており(乙11・10 頁の化合物No.18)、かつ、その分子量を控訴人が主張する原子量表記載の原子量の数値の和として計算すれば、699.91848となる。仮に、出願人たる控訴人が、それを本件特許の技術的範囲に含ませたいと考えるのであれば、特許請求の範囲に「699以上」とか「699.5以上」と記載すれば簡単にできたのである。 ウ(ウ)以上によれば、出願人である控訴人が、UVAの分子量の下限値を「700未満」とする記載をしなかったことは、客観的、外形的にみて、請求項1及び6の「分子量が700以上の紫外線吸収剤」にいう下限値の「700」の構成を「700未満」とする構成と代替できることを認識しながら、あえて特許請求の範囲に記載しなかったというべきである。したがって、UVAの分子量の下限値を「700未満」の数値範囲とする記載をしなかったことは、まさに平成29年最高裁判決にいう「特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存する」場合に該当し、本件においては、均等の第5要件は充足されない。 第5-3 争点2-1(進歩性欠如の無効理由)について 上記争点に関する当事者双方の主張は、原判決「事実及び理由」第3の3に記載のとおりであるから、これを引用する。 第5-4争点2-2(サポート要件違反の無効理由)について第5-4(1)争点2-2:被控訴人の主張 本件各発明については、当業者は、①本件明細書の記載から、分子量が「700」であるUVAが本件発明の課題を解決できることを認識できず、また、②ラクトン環構造「以外」の構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂を含むものが本件各発明の課題を解決できる から、分子量が「700」であるUVAが本件発明の課題を解決できることを認識できず、また、②ラクトン環構造「以外」の構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂を含むものが本件各発明の課題を解決できることも認識できないから、特許法36条6項1号のサポート要件違反がある。 すなわち、上記①につき、本件各発明の課題は、アクリル樹脂とUVAとを含む樹脂組成物であって、ガラス転移温度の高さに基づく優れた耐熱性を有しながら、高温での成形時においても、発泡、ブリードアウトなどの発生が抑制され、UVAの蒸散による問題の発生を低減できる樹脂組成物を提供するところにあるものと認められるが、本件明細書の記載からは、UVAの分子量が「700以上」であること、少なくとも下限である「700」であることの作用効果を認識することができず、ひいては分子量が「700」であるUVAが本件発明の課題を解決できることを認識することができない。 また、上記②につき、本件特許に係る特許請求の範囲に記載された熱可塑性樹脂組成物あるいは熱可塑性樹脂組成物の製造方法の発明において、熱可塑性アクリル樹脂の構造は、「ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂」とされているが、本件明細書に記載の実施例1~5及び比較例1~4においては、いずれもラクトン環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂を含む樹脂組成物について、「発泡性」などが測定され、その結果から、実施例の樹脂組成物は高い効果を奏するものとされている一方、ラクトン環構造「以外」の構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂を含む樹脂組成物については、発明の詳細な説明に、その効果に関する記 果から、実施例の樹脂組成物は高い効果を奏するものとされている一方、ラクトン環構造「以外」の構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂を含む樹脂組成物については、発明の詳細な説明に、その効果に関する記載は全く見当たらない。 第5-4(2)争点2-2:控訴人の主張ア被控訴人の主張①について本件各発明の熱可塑性樹脂に含まれるUVAは、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する分子量700以上の化合物であって、 ヒドロキシフェニルトリアジン骨格は、本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格である。そして、本件明細書の記載(【0061】、【0066】、【0072】~【0074】)によれば、本件各発明のUVAは、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基という構造が、少ない添加量で高い紫外線吸収能を発揮するために重要な構造であり、分子量700以上という数値に特別な技術的意義があるわけではないことが明らかである。 そして、本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する分子量700以上のUVAは、分子量が700以上というある程度大きな分子であるため蒸散(揮散)しにくいという共通の性質を有することが予想できる。また、本件明細書【表1】におけるUVAを同量添加した実施例及び比較例の結果によれば、発泡性及び吸光度(飛散性)はUVAの分子量と相関関係があり、UVAの分子量が大きい場合には、発泡性なしで、吸光度(昇華性)及び吸光度(飛散性)の値が低く、UVAの分子量が小さい場合にはその逆の傾向があることが理解できるから、分子量700のUVAを用いた場合も、発泡性はなしとなること、吸光度(飛散性)は比較例1や4の数値よりも低くなることを当業者であれば認識できる。 イ被控訴人の主張②について ラ るから、分子量700のUVAを用いた場合も、発泡性はなしとなること、吸光度(飛散性)は比較例1や4の数値よりも低くなることを当業者であれば認識できる。 イ被控訴人の主張②について ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造は、窒素原子又は酸素原子を含む5員又は6員ヘテロ環であり、窒素原子又は酸素原子の隣にカルボニル基(C=O)を有する点で共通する環構造であって、これらの環構造をそれぞれ主鎖に含む熱可塑性アクリル樹脂は、ガラス転移温度が高いという性質を有する点でも共通する。このことを踏まえれば、ラクトン環以外の4つの環の何れかを主鎖に有する 熱可塑性アクリル樹脂も、実施例で使用されたラクトン環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂と同様に、ガラス転移点の高さに基づく優れた耐熱性を有する樹脂であることが理解できる。 第5-5 争点2-3(明確性要件違反の無効理由)について第5-5(1) 争点2-3:被控訴人の主張 本件各発明の「分子量が700以上の紫外線吸収剤」の構成要件の意義について、仮に控訴人の主張するクレーム解釈が認められた場合、特許請求の範囲の記載が明確性要件違反を生じさせることは、上記第5-1(2)ウで述べたとおりである。 第5-5(2)争点2-3:控訴人の主張 本件明細書の記載及び技術常識に照らせば、控訴人主張のクレーム解釈が正当なものとして導かれるのであって、被控訴人の解釈は誤っており採用し得ないものであるから、明確性要件違反など存在しない。被控訴人の主張は、クレーム解釈論が二つある場合、明確性要件違反がある旨を主張するものであり、いずれかのクレーム解釈が正しいと判断できるのであれば不明確とはいえないのであるか 違反など存在しない。被控訴人の主張は、クレーム解釈論が二つある場合、明確性要件違反がある旨を主張するものであり、いずれかのクレーム解釈が正しいと判断できるのであれば不明確とはいえないのであるから、その主張に理由がないことは明らかである。 第5-6 争点2-4(訂正の再抗弁)について第5-6(1) 争点2-4:控訴人の主張ア仮に、現在の特許請求の範囲を前提とすれば争点2-1に係る進歩性欠如の無効理由が認められるとしても、控訴人は、本件特許に係る訂正請求又は訂正審判請求が法律上可能となった時点で(現在は無効審判係属中)、特許請求の範囲の請求項1、6の熱可塑性樹脂組成物を「厚さ100μmのフィルムとしたときに、分光光度計で測定した波長380nmの光の透過率が1%未満である」と特定する訂正をする予定である。この訂正は、特許法が定める訂正要件 に適合するものである。 イ上記訂正により追加される構成は、乙1発明が有するものではなく、かつ、乙2発明との組合せによる容易想到性も認められないものであるから、上記訂正後の請求項1、6に係る各発明は進歩性を有する。すなわち、争点2-1に係る無効理由は解消する。 ウ上記訂正後の請求項1、6を前提としても、被控訴人製品及び被控訴人方法は、同訂正後の本件各発明の技術的範囲に属する。 第5-6(2) 争点2-4:被控訴人の主張争う。 第5-7争点3(控訴人の被った損害の額)について この点に関する当事者の主張は、原判決「事実及び理由」第3の4(12頁~)に記載のとおりであるから、これを引用する。 第6当裁判所の判断の骨子当裁判所は、文言侵害については構成要件1B、6Bの充足が認められず、均等侵害について 4(12頁~)に記載のとおりであるから、これを引用する。 第6当裁判所の判断の骨子当裁判所は、文言侵害については構成要件1B、6Bの充足が認められず、均等侵害については均等論の第5要件を欠き、よって被控訴人製品及び被控訴人方法は本件各発明の技術的範囲に属さず(原審の判断とは、均等論の適用を否定する理由付けは異なるが結論は同じ。)、控訴人の請求は全て棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおりである。 第7「分子量700以上」の数値限定の技術的意義について第7-1争点1-1(構成要件1B、6Bの充足性)及び争点1-2(均等侵害の成否)を検討する前提として、構成要件1B、6Bに係る「(紫外線吸収剤の)分子量700以上」という数値限定の技術的意義を明らかにしておく。 第7-2本件明細書には、紫外線吸収剤(UVA)の分子量につき、以下の記載がある。 (1)【0061】「UVA(B)の分子量は700以上である。当該分子量は800以上が望ましく、900以上がより好ましい。一方、当該分子量が10000を超えると、樹脂(A)との相溶性が低下することで、最終的に得られる樹脂成型品の色相、濁度などの光学的特性が低下する。」 【0066】「UVA(B)の構造は分子量が700以上である限り特に限定されないが、UVA(B)がヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有することが好ましい。ヒドロキシフェニルトリアジン骨格は、トリアジンと、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2-ヒドロキシフェニル)-1、3、5-トリアジン骨格)である。ヒドロキシフェニル基における水酸基の水素原子は、トリアジンの窒素原子とともに水素結合を形成し、形成された水素結合は、フェニ る骨格((2-ヒドロキシフェニル)-1、3、5-トリアジン骨格)である。ヒドロキシフェニル基における水酸基の水素原子は、トリアジンの窒素原子とともに水素結合を形成し、形成された水素結合は、フェニルトリアジンの発色団としての作用を増大させる。UVA(B)では上記水素結合が3つ形成されるため、フェニルトリアジンが有する発色団としての作用をより増大でき、少ない添加量で高い紫外線吸収能を得ることができる。」(2)また、樹脂組成物の実施例及び比較例で、発泡性、透過率、吸光度(昇華性・飛散性)を測定した実験結果が表1として示されているところ、添加された紫外線吸収剤(UVA)の分子量は、実施例1~5が「958」、比較例4が「676」、比較例1、2が「659」、比較例3が「315」である。これら実施例、比較例を通じての総体的な評価としては、UVAの分子量が大きいほど発泡性は抑制され、吸光度は低いとの傾向が示されている(透過率では明確な相関関係が見られない。)が、分子量700又はその前後の数 値を境として本件各発明の効果(発泡の抑制、UVAの蒸散の防止)に大きな影響を及ぼすと解されるような結果は示されていない。 第7-3以上によれば、本件各発明の構成要件1B、6Bの「(紫外線吸収剤の)分子量が700以上」という数値限定は、いわゆる臨界的な意義を有するものではない(控訴人もこれを自認している。)。 すなわち、本件各発明の作用効果との関係で技術的意義を有する分子量は、ピンポイントの700ではなく、かなり広い幅(実施例で用いられた「958」と最大分子量の比較例で用いられた「676」の間の領域)にまたがる数字と考えられるが、いわば「切りのよい数字」として「700以上」という数値限定を採用したものと理解される(甲21も同旨)。 8」と最大分子量の比較例で用いられた「676」の間の領域)にまたがる数字と考えられるが、いわば「切りのよい数字」として「700以上」という数値限定を採用したものと理解される(甲21も同旨)。 第8争点1-1(構成要件1B、6Bの充足性)について第8-1控訴人は、構成要件1B、6Bの「分子量が700以上」の「700」は小数第1位の数字を四捨五入した数値と理解されるから、上記構成は「699.5以上」と解釈すべき旨主張しており、その当否が問題となる。 なお、控訴人も自認するように、本件特許の特許請求の範囲自体にも、本件明細書にも、分子量の計算方法や小数点以下の数値の処理を明らかにする記載はないところ、控訴人は、この点は当業者の技術常識に従うべきであるとして、具体的には、①「JISハンドブック49/化学分析」2007」の「数値の丸め方」(Z8401)(甲8)の基準(以下「本件JIS基準」という。)を援用するとともに、②学者の意見書(甲21~25)を提出するので、以下、順に検討する。 第8-2本件JIS基準について 第8-2(1)上記JISハンドブックには、下記の記載がある。 記 1.適用範囲この規格は、鉱工業において用いる十進法の数値の丸め方について規定する。 2.数値の丸め方 a) 丸めるとは、与えられた数値を、ある一定の丸めの幅の整数倍がつくる系列の名から選んだ数値に置き換えることである。この置き換えた数値を丸めた数値と呼ぶ。 例1. 丸めの幅:0.1 整数倍:12.1、12.2、12.3、12.4、・・・ 例2. 丸めの幅:10 整数倍:1210、1220、1230、1240、・・・ b) 与えられた数値に最も近い整 整数倍:12.1、12.2、12.3、12.4、・・・ 例2. 丸めの幅:10 整数倍:1210、1220、1230、1240、・・・ b) 与えられた数値に最も近い整数倍が一つしかない場合には、それを丸めた数値とする。 例1.丸めの幅:0.1 例2. 丸めの幅:10 c) 与えられた数値に等しく近い、二つの隣り合う整数倍がある場合には、次の規則Aが用いられる。 与えられた数値丸めた数値12.22312.25112.27512.212.312.3与えられた数値丸めた数値1222.31225.11227.5122012301230 規則A 丸めた数値として偶数倍のほうを選ぶ。 例1.丸めの幅:0.1 例2. 丸めの幅:10 備考規則Aには、例えば、一連の測定値をこの方法で処理するとき、丸めによる誤差が最小になるという特別な利点がある。 参考1. c)の場合、次の規則Bが用いられることもある。 規則B 丸めた数値として大きい整数倍のほうを選ぶ。 例1.丸めの幅:0.1 例2. 丸めの幅:10 (中略) e) 規則A、Bは、丸めた数値の選び方について何の考慮すべき基準もない場合にだけ適用すべきである。安全性の要求又は一定の制与えられた数値丸めた数値12.2512.3512.212.4与えられた数値丸めた数値 適用すべきである。安全性の要求又は一定の制与えられた数値丸めた数値12.2512.3512.212.4与えられた数値丸めた数値1225.01235.012201240与えられた数値丸めた数値12.2512.3512.312.4与えられた数値丸めた数値1225.01235.012301240 限を考慮しなければならないときは、例えば、常に一定方向へ丸めるほうがよいことがある。 第8-2(2)以上のとおり、本件JIS基準は、「与えられた数値」を一定の「丸めの幅」に従って丸める場合の手法を示すものであるところ、ここでいう「与えられた数字」とは、処理(切上げ、切下げ等)する必要のある端数を持った所与の数値を想定していると解される。 これに対し、本件で問題となっている構成要件1B、6Bの「700以上」という数値限定は、権利者(出願人)が、権利範囲を画定するために自ら任意に定めた数値であり、いわば「創設された数値」とも呼ぶべきものである。上記数値限定のこのような性格は、当該数値が臨界的意義を有さない本件各発明において、一層明らかである。 以上のように自らが任意に定める数値であれば、本来の技術的範囲を画する数字として「端数のある数値」をまず決めた上で、当該数字を「丸める処理」をして、わざわざその「丸められた数値」を特許請求の範囲に掲げるなどという迂遠かつミスリーディングなことをする必要性も妥当性も見いだせない。本件特許の特許請求の範囲の記載に接した第三者の立場から考えても、「700以上」という数値範囲が示されて 求の範囲に掲げるなどという迂遠かつミスリーディングなことをする必要性も妥当性も見いだせない。本件特許の特許請求の範囲の記載に接した第三者の立場から考えても、「700以上」という数値範囲が示されているのに、当該数値の背後に「丸める前の数値」が別に存在しており、そのような背後の数値こそが技術的範囲を画する数値であるなどと理解するとは考え難い。 第8-2(3)また、仮に、本件JIS基準の適用を認めた場合、以下のような問題が生ずる。 すなわち、本件JIS基準は、小数点以上・以下のどの位(桁)で数値を丸めるのか(「丸めの幅」の選択)に関する限り、何らのルールも定めていない。控訴人の主張は、丸めの幅を「1」とする 前提に立つものであるが、そのように解すべき根拠は明らかでない。 むしろ、本件明細書の記載(上記第7-2)を前提にすると、UVAの分子量「700」の丸めの幅は「10」であっても不思議ではない(実施例と比較例の差別化の論理的な説明が可能)。 ・丸めの幅:10 ・整数倍:680、690、700、710、720・・・ 丸めの幅を大きくするほど権利範囲が拡大することになるが、そのような恣意的な丸めの幅の選択が可能な本件JIS基準は、クレーム解釈の基準として適切とはいえない。 また、本件JIS基準には、規則Aと規則Bの選択の余地、例外ルールの許容(「e)」の項目参照)などが認められており、控訴人の主張する解釈が一義的に導かれるものでもない。 以上によれば、本件JIS基準は、控訴人の主張する技術常識の根拠になるものとはいえない。 第8-3学者の意見書について 当業者の技術常識を示すものとして控訴人が提出している学者の意見書について、次に検討する。 第8-3(1) 学者の意見書 根拠になるものとはいえない。 第8-3学者の意見書について 当業者の技術常識を示すものとして控訴人が提出している学者の意見書について、次に検討する。 第8-3(1) 学者の意見書(甲21~25)には、①分子(化合物)の分子量(質量)は、教科書や辞書では整数値で示されるのが通常であり、特定の分子について精緻な正確さを必要とする場合には小数点以下1~2位程度、化合物の同定で用いる精密質量では小数点第4位~第5位までの数値が使われる、②分子量が整数値で示される場合、小数点以下は有効数字の範囲外と考えるのが通常であり、通常、小数第1位を四捨五入した数値として示される、③紫外線吸収剤としての性質が、分子量699.91848の場合と700.00000の場合とで実質的に異なるとは考え難い、④科学的にみて700 は700.0や700.0000とは異なり、桁数の異なる数値を比較すること自体が適切でない等の記載がある。 被控訴人提出の学者の意見書(乙6~9)は、上記の内容を覆すものとはいえず、上記①~④に示したとおりの技術常識が存在するものと認められる。ただし、上記②に関しては、技術文献等に「紫外線吸収剤の分子量700(以上)」という記載があった場合に、一般に、分子量が整数値で示されていることの意味を当業者がどのように理解するかという場面での技術常識にとどまることに留意が必要である。 第8-3(2) 以上を踏まえて検討するに、上記②の技術常識が存在するからといって、特許請求の範囲に数値限定が発明特定事項として記載されている場合における当該数値の意義(クレーム解釈)に、当該技術常識がそのまま妥当するものではない。 すなわち、特許請求の範囲は、特許発明の技術的範囲を画するものであり(特許法70条1項)、第 ている場合における当該数値の意義(クレーム解釈)に、当該技術常識がそのまま妥当するものではない。 すなわち、特許請求の範囲は、特許発明の技術的範囲を画するものであり(特許法70条1項)、第三者の予測可能性を保障する「権利の公示書」としての役割が求められるものである。したがって、その解釈は、特許法固有の観点を抜きに行うことはできない。 このような観点から考えるに、本件で問題となっている(紫外線吸収剤の分子量)「700以上」という数値範囲は、権利者(出願人)が、権利範囲を画定するために自ら定めたものであり、特許発明の技術的範囲(独占の範囲)に属するものと属さないものを、一線をもって区分する線引きにほかならない。そうである以上、上記数値範囲の下限である「700」は、切り下げられた小数点以下の端数も、切り上げられた小数点以下の端数も持たない、本来的な意味での整数値と解釈するのが相当である。 数値範囲にこれと異なる趣旨、役割を持たせたいのであれば、特 許請求の範囲又は明細書に、分子量の計算方法や小数点以下の数値の処理等を説明しておくべきである。本件明細書等にそのような記載がないことは前述のとおりであり、以上によれば、「分子量が700以上」という構成要件は、分子量が700をたとえ0.00001でも下回れば、これを充足しない(その技術的範囲に属さない)ものと解すべきことになる。 なお、技術文献等で分子量が整数値で示されている場合の一般的な意味についての技術常識は上記第8-3(1)(②)のとおりであるとしても、それは技術的範囲の解釈(クレーム解釈)という法律問題とは次元の異なる問題である。また、上記第8-3(1)(④)のとおり、桁数の異なる数値を比較することは一般に適切でないと考えられているとしても、特許 は技術的範囲の解釈(クレーム解釈)という法律問題とは次元の異なる問題である。また、上記第8-3(1)(④)のとおり、桁数の異なる数値を比較することは一般に適切でないと考えられているとしても、特許請求の範囲における数値限定の意義は単純に2つの数値を比較する場面とは異なるから、この点も、上記の認定判断を左右しない。 第8-4小括 以上のとおり、控訴人の主張するクレーム解釈(「分子量が700以上」の「700」は小数第1位を四捨五入した数値と理解されるから、上記構成は「699.5以上」と解釈すべき旨の主張)は採用できない。被控訴人UVAは、その分子量が700には満たない699.91848であるから、被控訴人製品は構成要件1Bを、被控訴人方法は構成要件6Bを充足しない。 第9争点1-2(均等侵害の成否)について第9-1均等論の第1要件(非本質的部分)について 被控訴人UVAの分子量は699.91848であり、本件各発明の構成要件1B、6Bの「分子量が700以上」という数値範囲 に含まれない。しかし、上記数値範囲は、臨界的意義を有するものではなく、本来、本件各発明の作用効果との関係で技術的意義を有する分子量は、ピンポイントの700ではなく、かなり広い幅にまたがる数字と考えられるところ、いわば「切りのよい数字」として「700以上」という数値限定を採用したものと理解される(上記第7-3)。そして、紫外線吸収剤としての性質が分子量699.91848の場合と700の場合とで実質的に異なるとは考え難いものと認められる(前記第8-3(1)の③)。 そうすると、上記分子量の相違は、本件各発明の本質的部分に関するものとはいえないと解される。本件で、均等論の第1要件は充足する。 第9-2均等論の第5 れる(前記第8-3(1)の③)。 そうすると、上記分子量の相違は、本件各発明の本質的部分に関するものとはいえないと解される。本件で、均等論の第1要件は充足する。 第9-2均等論の第5要件(意識的除外等の特段の事情)について第9-2(1)均等論の第5要件とは、「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がないこと」であり(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁)、被疑侵害者側が主張立証責任を負う。 第9-2(2)そこで検討するに、まず、特許請求の範囲の記載は、特許発明の技術的範囲を画する機能を有するものであり(特許法70条1項)、第三者に対しては「権利の公示書」としての役割を果たすことが求められるものである。構成要件1B、6Bの「分子量700以上」との記載は、一般的な技術文献の記載ではなく、上記のような役割を担う特許請求の範囲の記載であることが本件の大前提となる。 そして、証拠(甲8、9)によれば、化合物の分子量は、その分子を構成する原子の原子量の和に等しく、原子量の選定については歴史的変遷があるものの、小数第4位又は第5位の数字で示される 原子量表記載の数値によることになるから、そのような小数点以下の数値を有する数値として算出されるということは、本件特許の出願日当時の技術常識であったと認められる。それにもかかわらず、控訴人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、6の「分子量が700以上の紫外線吸収剤」との構成の数値範囲について、「700以上」という整数値をあえて使用している。 本件において、分子量700という数値に臨界的意義も認められないから、当該数値は控訴人がいわば任意に選択して定めたも 構成の数値範囲について、「700以上」という整数値をあえて使用している。 本件において、分子量700という数値に臨界的意義も認められないから、当該数値は控訴人がいわば任意に選択して定めたものといえる。また、控訴人としては、その数値範囲を「699.5以上」とすることや、分子量の小数点以下の数値の取扱いについて定めることも容易にできたと解されるにもかかわらず、あえてそのような手当もしていない。これは、小数点以下の数値は、技術的に意味のある数字でないという理解に加え、法的にも特段の含意がない(特別な意味を持たせない)ことを前提とするものと解するべきである。 そうすると、控訴人が特許請求の範囲において分子量を「700以上」とする数値範囲を定めたということは、「700以上」か「700未満」かという線引きをもって特許発明の技術的範囲を画し、下限値「700」をわずかでも下回る分子量のものについては、技術的範囲から除外することを客観的、外形的に承認したと認めるのが相当である。 第9-2(3)控訴人は、平成29年最高裁判決は、意識的除外と評価できる場合を、特許請求の範囲の構成に代替し得る技術を明細書に記載し、客観的、外形的に表示した場合に限定しており、出願人の主観的認識だけを問題としていない旨主張する。しかし、同最判は、いわゆる出願時同効材に関する判断を示したものであって、本件に適切でない上、上記第9-2(2)の判断は、特許請求の範囲の記載の公示機能 を重視する同最判の趣旨に何ら反するものとはいえない。 第9-2(4)以上のとおり、紫外線吸収剤の分子量が699.91848(本来的には700未満であり、小数第1位を四捨五入することによって初めて「700以上」に含まれることになる数値)の被控訴人UVAを使用する 以上のとおり、紫外線吸収剤の分子量が699.91848(本来的には700未満であり、小数第1位を四捨五入することによって初めて「700以上」に含まれることになる数値)の被控訴人UVAを使用する被控訴人製品及び被控訴人方法は、本件特許の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるというべきである。したがって、本件においては、均等論の第5要件を充足せず、控訴人主張の均等侵害は成立しない。 第10以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、控訴人の請求は理由がなく、これを全部棄却した原判決は少なくとも結論において相当である。よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官宮坂昌利 裁判官本吉弘行 裁判官岩井直幸
▼ クリックして全文を表示