令和2(行ウ)7 行政処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年12月17日 札幌地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-90903.txt

判決文本文14,955 文字)

- 1 -判決 主文 1 北海道公安委員会が原告に対して平成31年4月24日付けで行った別紙銃砲目録(添付省略)記載の銃砲に係る道本保(銃)第95号ライ フル銃所持許可取消処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨 第2 事案の概要本件は,原告が,北海道公安委員会から銃砲所持の許可を取り消す旨の処分を受けたところ,当該処分は銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)所定の要件を満たさず,また裁量権を逸脱・濫用したものであると主張して,被告に対し,その取消しを求めた事案である。 1 関係法令等の定め(1) 銃刀法ア銃刀法は,猟銃その他の銃砲の所持については都道府県公安委員会の許可を受けなければならないものとし(同法4条),当該許可を受けた者が同法に違反した場合には,都道府県公安委員会はその許可を取り消すこと ができるものと定める(同法11条1項柱書き,同項1号)。 そして,同法は,猟銃の所持の許可を受けた者は,鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(以下「鳥獣保護管理法」という。)の規定により銃猟(銃器を使用した鳥獣の捕獲等をいう。以下同じ。)をする場合等を除き,当該猟銃を発射してはならないと定める(同法10条2 項柱書き,同項1号)。 - 2 -イなお,銃刀法は,同法に違反した者に対する措置として,上記許可の取消しをするのではなく,危害予防上必要な措置を執るべきことを「指示」するにとどめる旨の規定も設けている(同法10条の9)。 (2) 鳥獣保護管理法鳥獣保護管理法は,「弾丸の到達するおそれのある・・・建物・・・に向 かって,銃猟をしてはならない。」と定める(同法38条 める旨の規定も設けている(同法10条の9)。 (2) 鳥獣保護管理法鳥獣保護管理法は,「弾丸の到達するおそれのある・・・建物・・・に向 かって,銃猟をしてはならない。」と定める(同法38条3項)。 (3) 通達北海道警察生活安全部長発出の「銃砲刀剣類所持等取締法に基づく行政処分事務処理要領の制定について」と題する通達(平成29年3月16日道本保第4069号。乙26)には,銃砲の所持許可の取消し(銃刀法11条1 項1号)につき,「当該違反に伴う実害の発生,同種違反の再発のおそれ,社会的に非難されるべき点等が認められる場合に,許可を取り消すものとする。」との記載がある。 2 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)(1) 原告 原告は,北海道砂川市(以下,単に「砂川市」という。)在住の男性であり,北海道猟友会砂川支部の支部長を務めているほか,砂川市の委嘱する鳥獣被害対策実施隊の隊員も務めている(甲22〔3頁〕,原告本人〔2頁〕)。 (2) 銃砲所持の許可北海道公安委員会は,平成30年3月8日,原告に対し,銃刀法4条に基 づき,別紙銃砲目録記載のライフル銃(猟銃の一種。以下「本件ライフル銃」という。)の所持を許可した。 (3) 本件発射行為原告は,平成30年8月21日午前7時45分頃,砂川市ab番c(以下「本件現場」という。)において,ヒグマ(以下「本件ヒグマ」という。)1 頭を駆除するため,本件ライフル銃から弾丸1個を発射した(以下,この行- 3 -為を「本件発射行為」という。)。 本件発射行為の際の原告と本件ヒグマの位置関係は,おおむね別紙図面1(添付省略)記載のとおりであった(甲7)。 (4) 本件ライフル銃の所持許可の取消処分北海道公安委員会は 為」という。)。 本件発射行為の際の原告と本件ヒグマの位置関係は,おおむね別紙図面1(添付省略)記載のとおりであった(甲7)。 (4) 本件ライフル銃の所持許可の取消処分北海道公安委員会は,平成31年4月24日,原告に対し,本件発射行為 が「弾丸の到達するおそれのある建物に向かって」銃猟をし,もって鳥獣保護管理法の規定によらない銃猟をして銃砲を発射したものであり,銃刀法10条2項に違反し,同法11条1項1号に該当するとして,本件ライフル銃の所持許可を取り消した(甲1。以下,この処分を「本件処分」という。)。 (5) 本件訴えに至る経緯 ア原告は,令和元年6月4日,北海道公安委員会に対し,本件処分についての審査請求を行ったものの,令和2年4月1日,これを棄却する旨の裁決を受けた(甲2)。 イ原告は,令和2年5月12日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。 3 争点(1) 本件発射行為の銃刀法11条1項1号該当性(2) 本件処分の裁量権の逸脱・濫用の有無①-要件裁量(3) 本件処分の裁量権の逸脱・濫用の有無②-効果裁量第3 当事者の主張 1 争点(1)(本件発射行為の銃刀法11条1項1号該当性)について(被告の主張)(1) 本件現場の付近には,別紙概念図1(添付省略)のとおり,ライフル銃の弾丸が到達する範囲内に複数の建物が存在しており,これらの建物に弾丸の到達するおそれがあった。 したがって,原告の本件発射行為は「弾丸の到達するおそれのある・・・- 4 -建物・・・に向かって」銃猟をし,もって鳥獣保護管理法38条3項に違反したものであるから,銃刀法10条2項1号に違反し,同法11条1項1号に該当するものである。 (2) この点につき原告は,本件現場にはバ ・に向かって」銃猟をし,もって鳥獣保護管理法38条3項に違反したものであるから,銃刀法10条2項1号に違反し,同法11条1項1号に該当するものである。 (2) この点につき原告は,本件現場にはバックストップ(弾丸の行く手を遮る土手などのこと。「安土」ともいう。)が存在していたため,その背後の建物 に弾丸が到達するおそれはなかったと主張する。 しかし,弾丸の行く手を遮るバックストップとは別紙概念図2(添付省略)の上図のものをいうところ,本件現場付近の断面は同別紙の下図のとおりであり,跳弾(目標に命中しなかった弾丸が岩などに当たって跳ね返る現象)又は誤射により建物に弾丸が到達するおそれがあったのであるから,本件現 場にバックストップが存在していたとはいえない。そもそも,付近の建物のうちAの居住する自宅建物(以下「本件建物」という。)については,原告の位置からも見えていたのであって,この点でも,原告はまさに「建物・・・に向かって」銃猟をしたものというべきである。 (原告の主張) 本件ヒグマの背後には高さ約8mの土手があり,バックストップが存在していたというべきであって,更にその背後の建物にまで弾丸が到達するおそれはなかった。また,原告と本件ヒグマとの距離は約16.62mしかなく,しかも原告の所持する本件ライフル銃にはスコープが装着されていたのであって,約38年の狩猟歴を有する原告はもちろん,猟銃免許を取得した者にとって, およそ外すはずもない至近距離であった。 したがって,原告の本件発射行為は「弾丸の到達するおそれのある・・・建物・・・に向かって」銃猟をしたものではなく,鳥獣保護管理法38条3項に違反したものではないから,銃刀法10条2項1号に違反せず,同法11条1項1号には該当しない。 2 争点( る・・・建物・・・に向かって」銃猟をしたものではなく,鳥獣保護管理法38条3項に違反したものではないから,銃刀法10条2項1号に違反せず,同法11条1項1号には該当しない。 2 争点(2)(本件処分の裁量権の逸脱・濫用の有無①-要件裁量)について- 5 -(原告の主張)仮に,原告の本件発射行為につき,形式的には鳥獣保護管理法38条3項の構成要件該当性自体を否定することができなかったとしても,当該構成要件はいわゆる規範的構成要件であるところ,争点(1)において主張したとおり,本件ヒグマの背後の土手はバックストップというべきであって,その先にある建 物に「弾丸の到達するおそれ」があるとの判断は,要件裁量の逸脱である。 したがって,本件処分は,違法となるものというべきである。 (被告の主張)北海道公安委員会は,構成要件該当性のみならず,本件発射行為に至った経緯,原告の認識,危険の程度及び違法性阻却事由の有無等を踏まえて,総合的 に評価をした上で本件処分に至ったものであり,形式的に構成要件に該当するとの一事をもって本件処分をしたものではない。 したがって,本件処分には要件裁量の逸脱はなく,違法となるものではない。 3 争点(3)(本件処分の裁量権の逸脱・濫用の有無②-効果裁量)について(原告の主張) 本件は,ヒグマが出没したとして,砂川市から原告に対して出動を要請したものであり,原告は有害駆除という公共の利益のために,かつ緊急性の高い状況で,本件発射行為をしたものである。そして,これによりヒグマの有害駆除は成功裏に終了し,その時点では何の問題も指摘されていなかった。そもそも,争点(1)において主張したとおり,本件ヒグマの背後にはバックストップが存 在していたものであるし,現場に臨場した警 除は成功裏に終了し,その時点では何の問題も指摘されていなかった。そもそも,争点(1)において主張したとおり,本件ヒグマの背後にはバックストップが存 在していたものであるし,現場に臨場した警察官も,原告の発射を特段制止したり,原告に対して警告したりはしていなかった。 このような事実関係に照らせば,原告に対しては銃刀法10条の9所定の指示や単なる指導でも十分であったところ,北海道公安委員会は本件処分を行い,もって猟銃の所持の許可を取り消したのであって,効果裁量を逸脱したもので ある。 - 6 -したがって,本件処分は,違法となるものというべきである。 (被告の主張)争点(1)において主張したとおり,本件現場の付近には複数の建物が存在しており,これらの建物に弾丸の到達するおそれがあったのであるから,原告の本件発射行為は鳥獣保護管理法38条3項に違反し,これにより銃刀法10条 2項1号に違反する。そして,銃刀法10条2項の違反は,銃砲を発射できる場合を限定列挙し,それ以外の場合における発射を全面的に禁止したものであるところ,本件はこれに違反したものであって,重大な違反というべきである。 また,本件ヒグマは,推定年齢が0歳であり,体重もわずか7.5kgしかない子熊であって,直接的・具体的な危険性はなく,駆除の必要性は存在しなか った。 しかも,原告は,一貫して本件発射行為が正当であると主張しており,危険をいとわず猟銃を発射する性癖がうかがえるのであって,再発のおそれも認められる。 したがって,原告の本件発射行為につき,銃刀法10条の9所定の指示や, 何ら法的根拠を有しない指導にとどめることなどできないのであって,効果裁量の逸脱はなく,本件処分は違法となるものではない。 第4 当裁判所の判断 につき,銃刀法10条の9所定の指示や, 何ら法的根拠を有しない指導にとどめることなどできないのであって,効果裁量の逸脱はなく,本件処分は違法となるものではない。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認 められる。 (1) 原告の有害鳥獣駆除歴原告は,昭和56年8月,最初の猟銃の所持許可を受け,以後,30年以上にわたり,砂川市等において有害鳥獣駆除に従事してきた(甲21〔1頁〕)。 (2) ヒグマの目撃情報- 7 -砂川市a地区(以下,単に「a地区」という。)では,平成30年8月19日及び20日の2日間にわたり,ヒグマが相次いで目撃されていた。そのため,同地区の住民からは不安の声が上がっていた(甲22〔2頁〕,23の1,証人B〔5,28頁〕,証人C〔12頁〕)。 (3) 本件発射行為に至る経緯等 ア原告に対する出動要請札幌方面砂川警察署(以下「砂川署」という。)の担当者は,平成30年8月21日,a地区においてヒグマを目撃したとの通報を受けた。 そこで,砂川署の担当者は,この通報内容を砂川市に連絡した。 砂川市の職員であるB(以下「B職員」という。)は,上記連絡を受け て,砂川市の鳥獣被害対策実施隊の隊員である原告に対し,出動を要請した(証人B〔5,6頁〕,原告本人〔7頁〕)。 イ a地区でのやり取り原告,B職員及び砂川署の警察官であるC(以下「C警察官」という。)の3名は,a地区に到着し,それぞれ現地確認や住民からの聞き取り調査 等を行った。また,同じく砂川市の鳥獣被害対策実施隊の隊員であるD(以下「D」という。)も,遅れてa地区に到着した。 原告は,B職員に対し,目撃情報のあるヒグマはまだ子 からの聞き取り調査 等を行った。また,同じく砂川市の鳥獣被害対策実施隊の隊員であるD(以下「D」という。)も,遅れてa地区に到着した。 原告は,B職員に対し,目撃情報のあるヒグマはまだ子熊なので,これを逃がしてはどうかと提案した。しかし,B職員は,3日連続でヒグマが出没しており,今後も食べ物を当てにして繰り返し現れる可能性が高く, 地域住民も生活上の不安を感じて駆除を強く要望しているため,できれば駆除をお願いしたい旨伝えた。そこで,原告は,ヒグマを駆除することとした(甲21〔5,6頁〕,22〔3,4頁〕,証人B〔6ないし8,19,20,22頁〕,証人C〔2頁〕,原告本人〔9,40,41頁〕)。 ウ本件ヒグマの発見 原告,D,B職員及びC警察官が別紙図面2(添付省略)の○× 付近にい- 8 -たところ,本件ヒグマが現れ,私道を南から北へ横切った。 そこで,原告は本件ライフル銃を携えて本件ヒグマを追い,Dも本件ヒグマを追って,ともに私道脇の草むら(本件現場)へ入っていった。B職員及びC警察官は,北側の市道に行き,近くの住民に対し,ヒグマが現れており,ハンターがその有害駆除を実施中であることを告げて,家の中に 入るよう避難誘導した(別紙図面2(添付省略)参照)。 なお,C警察官は,原告が本件ライフル銃を発射する可能性を認識していたが,特段,原告に対し,発射を制止したり,発射しないよう警告したりすることはなかった(証人B〔9ないし13頁〕,証人C〔4ないし7,13,14頁〕,証人D〔3ないし7頁〕,原告本人〔11ないし14,2 0頁〕)。 エ本件ヒグマの駆除原告は,本件現場において,Dに対し,私道を通って北側の市道に移動するよう指示を出し,Dはこれに従った。 そして,原告は, 人〔11ないし14,2 0頁〕)。 エ本件ヒグマの駆除原告は,本件現場において,Dに対し,私道を通って北側の市道に移動するよう指示を出し,Dはこれに従った。 そして,原告は,本件ヒグマに対して本件ライフル銃を構え,本件ヒグ マが立ち上がるのを待った上で,弾丸を1個発射し,これを本件ヒグマに命中させた(本件発射行為)。 なお,本件ヒグマの背後には高さ約8mの土手があり,本件ヒグマはこの土手を背にして立ち上がっていた。また,本件発射行為の時点において,原告と本件ヒグマとの距離は,わずか約15mないし19m程度でしかな かった(甲1〔6頁〕,7〔2枚目〕,乙2,証人D〔5,6頁〕,原告本人〔14ないし16,19,48,52ないし55頁〕)。 オとどめ刺しDは,北側の市道から原告のいる本件現場に降りてきたところ,本件ヒグマが血を流し,ぜいぜい言いながら倒れていた。そこで,Dは,どうす るのか原告に尋ねたところ,「お前に任せる。」と言われたため,本件ヒグ- 9 -マに向けて弾丸を発射し,とどめを刺した(証人D〔9頁〕)。 カ特段の異常のないことの確認本件ヒグマを駆除した後,原告,D,B職員及びC警察官は,駆除が無事に終了したこと,特に異常も生じていないことを確認し,解散した(甲22〔5頁〕,証人B〔14,15頁〕,証人C〔15頁〕,原告本人〔2 1頁〕)。 (4) 駆除後の経緯ア Dによる被害申告Dは,原告の本件発射行為で発射された弾丸が跳弾し,これにより自己の猟銃の銃床が破損したなどとして,原告に対し,金銭の支払を要求した。 原告がこれを拒否したところ,Dは,平成30年10月4日,砂川署に対し,原告の本件発射行為により猟銃の銃床が破損した旨の被害申告をした 損したなどとして,原告に対し,金銭の支払を要求した。 原告がこれを拒否したところ,Dは,平成30年10月4日,砂川署に対し,原告の本件発射行為により猟銃の銃床が破損した旨の被害申告をした(甲13〔8枚目〕,乙7〔3頁〕,証人D〔34,35頁〕,原告本人〔21頁〕)。 イ検察庁及び北海道知事の対応 砂川署は,Dの被害申告を受けて捜査を行い,鳥獣保護管理法違反,銃刀法違反等の罪により事件を検察庁に送致したが,検察庁は原告を不起訴処分とした。 また,鳥獣保護管理法では都道府県知事による狩猟免許の制度が設けられているところ(同法39条),北海道知事は,原告に対し,同法38条 3項違反を理由とする狩猟免許の取消し(同法52条2項)は行わないものとした(甲3,16,弁論の全趣旨)。 ウ本件処分北海道公安委員会は,平成31年4月24日,原告に対し,本件ライフル銃の所持許可を取り消した(本件処分)。もっとも,本件処分において は,弾丸の到達するおそれのある建物に向かって銃猟をしたことのみが処- 10 -分の理由とされており,Dの銃床が破損した事実は理由とはされなかった(前提事実(4))。 2 争点(3)(本件処分の裁量権の逸脱・濫用の有無②-効果裁量)について事案に鑑み,争点(3)について検討する。 (1) 判断枠組み 銃刀法は,銃砲の所持の許可を受けた者が同法に違反した場合には,都道府県公安委員会において,その許可を取り消すことができるものと定めている(同法11条1項柱書き,同項1号)。これは,一般に,銃砲が国民の生命や身体に対して高度の危険性を有する一方で,社会生活上有用な道具としての機能も有することに鑑みて,同法に違反した場合にその許可を一律に取 り消すのではなく,その取 は,一般に,銃砲が国民の生命や身体に対して高度の危険性を有する一方で,社会生活上有用な道具としての機能も有することに鑑みて,同法に違反した場合にその許可を一律に取 り消すのではなく,その取消しを個々の事案における具体的事情を踏まえた裁量判断とし,これを都道府県公安委員会に委ねた趣旨であるものと解される(現に,前記第2,1(3)の通達も,取消しの判断基準として,「実害の発生」,「再発のおそれ」及び「社会的に非難されるべき点」などという極めて幅の広い基準を示すにとどめている。)。 したがって,都道府県公安委員会の行った銃砲の所持許可の取消処分の適否を審査するに当たっては,これが裁量権の行使としてされたことを前提とした上で,その判断が,重要な事実を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるものと解するのが相当である。 (2) 本件処分について以上を前提に,本件処分に裁量権の逸脱・濫用があるのかを検討する。 アまず,そもそも原告が本件ライフル銃を持って出動したのは,砂川署がヒグマ出現の通報を受けてこれを砂川市に連絡し,同市において,鳥獣被害対策実施隊の隊員である原告に対し,出動を要請したためである(認定 事実(3)ア)。そして,本件現場のあるa地区では,前日及び前々日にもヒ- 11 -グマが相次いで目撃されており,住民からは不安の声が上がっていたところである(同(2))。 このように,本件における原告の出動は,砂川署から連絡を受けた砂川市の要請に基づくものであり,なおかつ地域住民の不安に応じたものであって,公益目的の行為であり,公共の利益に沿ったものというべきである。 イ次に,a地区に赴いたのは原告だけ 連絡を受けた砂川市の要請に基づくものであり,なおかつ地域住民の不安に応じたものであって,公益目的の行為であり,公共の利益に沿ったものというべきである。 イ次に,a地区に赴いたのは原告だけではなく,同じ鳥獣被害対策実施隊の隊員であるDのほか,砂川署の警察官であるC警察官と,砂川市の職員であるB職員も赴き,同所で現地確認等を行っていたものである(認定事実(3)イ)。しかも,原告は当初,B職員に対し,目撃情報のあるヒグマはまだ子熊なので逃がしてはどうかと提案していたところ,B職員から地域 住民の不安などを理由に駆除を依頼されて,ヒグマを駆除することとしたものである(同)。 このように,a地区には,原告だけでなく,他の隊員のほか,警察官及び砂川市の職員も赴いていた上,原告は,当初はヒグマの駆除には消極的であって,砂川市の職員から依頼されて駆除するものとしたところである。 ウそして,本件ヒグマが現れ,原告が本件ライフル銃を携えてこれを追っていったのに対し,その場にいたC警察官は,原告が本件ライフル銃を発射する可能性を認識しておきながら,特段,原告に対し,発射を制止したり,発射しないよう警告したりすることはせず,むしろ,原告が本件ヒグマを駆除することを前提に,近くの住民に対する避難誘導を行っていたも のである(認定事実(3)ウ)。 このように,現場に臨場していた警察官自体も,原告による本件ライフル銃の発射を事前に制止することなく,むしろ発射を前提とした行動を取っていたところである。 エさらに,原告が弾丸を発射した際,本件ヒグマの背後には高さ約8mの 土手があり,本件ヒグマはこの土手を背にして立ち上がっていたというの- 12 -である(認定事実(3)エ)。 しかも,更に検討するに,本件現場付近の様 ,本件ヒグマの背後には高さ約8mの 土手があり,本件ヒグマはこの土手を背にして立ち上がっていたというの- 12 -である(認定事実(3)エ)。 しかも,更に検討するに,本件現場付近の様子は証拠として提出された各写真(甲17,乙1,10,27,29,30)及び動画(甲18)並びに検証調書添付の動画のとおりであって,本件ヒグマの背後の土手というのは,おおむね草木に覆われていたところである。 加えて,上記各写真及び各動画によれば,本件現場から見える建物というのは本件建物のみであって,他の建物はにわかに見える位置にはない。 そして,この本件建物についても,被告提出の写真(乙1,27)によったとしても,原告の発射位置よりやや手前の位置からその屋根の一部が見えるという程度にすぎず(上記写真には発射位置に立つ捜査員ないし原告 本人が写っているため,そのやや手前から撮影していたことになる。),原告の発射位置に立った場合には,屋根すらも全く見えないか,仮に見えたとしてもやはり屋根の一部のみが見えるにとどまるのではないかと推認されるところである(なお原告本人〔17頁〕参照)。 しかも,この本件建物に居住するAは,その陳述書(甲20)において, 土手がかなりの急斜面であり,本件建物から土手の下(本件現場)は見えないため,仮に土手の下から発砲されたとしても,本件建物にまで弾丸が飛んでくるとの恐れを抱くことはない旨陳述している。 オそして,本件発射行為の時点において,原告と本件ヒグマとの距離はわずか15mないし19m程度でしかなかったところである(認定事実(3) エ)。 しかも,原告が用いた銃はライフル銃であり,これは,銃身の内側にらせん状の溝(ライフリング)を設けることによって命中精度が高められている上,スコープを ところである(認定事実(3) エ)。 しかも,原告が用いた銃はライフル銃であり,これは,銃身の内側にらせん状の溝(ライフリング)を設けることによって命中精度が高められている上,スコープを用いることによって照準をより合わせやすくされていたものである(原告本人〔17頁〕参照)。 加えて,原告は,弾丸を外さないようにするため,本件ヒグマに対して- 13 -本件ライフル銃を構えた後,本件ヒグマが立ち上がるのを待った上で,弾丸を発射したものである(認定事実(3)エ。原告本人〔16頁〕参照)。 さらに,原告によれば,建物の位置自体は承知しており(原告本人〔4頁〕),万全を期すために,左右方向においては建物と建物の間に射線(銃身を向ける方向)を設定したというのである(甲21〔7頁〕,乙16 〔19頁〕,18〔5頁〕)。 カしかも,原告が本件発射行為により発射した弾丸については,本件ヒグマからそれたりすることもなく,これに命中したものである(認定事実(3)エ)。また,この弾丸が本件ヒグマの体を貫通し,更に跳弾してどこかへ飛んだような事実をうかがわせる証拠も見当たらない(乙9参照。単に 本件ヒグマの体内にとどまったものと推認される。)。そもそも,原告が発射した弾丸が,本件現場付近の建物に当たったとか,その建物を損壊させたなどといった事実は,本件証拠上全く認められない。 むしろ,本件ヒグマを駆除した後,C警察官は,原告,D及びB職員とともに,駆除が無事に終了したこと,特に異常も生じていないことを確認 し,解散しているところである(同(3)カ)。 そして,現に,本件発射行為から約1か月半後の平成30年10月4日にDが被害申告をするまでは,原告に対し,警察官による何らの捜査も行われていない(同(4)ア参照)。 ころである(同(3)カ)。 そして,現に,本件発射行為から約1か月半後の平成30年10月4日にDが被害申告をするまでは,原告に対し,警察官による何らの捜査も行われていない(同(4)ア参照)。 キさらに,事案に鑑み,本件についての地域住民等の反応をみるに,①本 件建物に居住するAは,本件ヒグマを駆除してもらって良かったと思っており,このことは地域住民もみな同じ気持ちだと思う旨陳述し(甲20〔2頁〕),②砂川市のB職員は,本件のようなケースで発砲者が行政処分を受けるとなると,市としても駆除の協力を得るのが難しくなり,その結果,住民に不安を与えてしまう旨陳述している(甲22〔6頁〕)。 クなお,検察庁は,原告につき,鳥獣保護管理法違反,銃刀法違反等の罪- 14 -による事件の送致を受けたものの,原告を不起訴処分としたところである。 また,北海道知事も,原告に対し,鳥獣保護管理法38条3項違反を理由とする狩猟免許の取消しは行っていない(認定事実(4)イ)。 ケ以上のとおり,そもそも原告の出動は砂川市の要請に基づくものであり,a地区には警察官及び砂川市の職員も赴いていた上,当該職員からの依頼 によりヒグマを駆除するものとしたこと,警察官は原告が本件ライフル銃を発射する可能性を認識しておきながら,これを事前に制止することもなく,むしろ発射を前提とした行動を取っていたこと,本件ヒグマの背後にはおおむね草木に覆われた高さ約8mもの土手があったこと,被告提出の写真によっても,原告の発射位置からは本件建物の屋根の一部が見えるか 見えないかという程度にすぎないこと,原告と本件ヒグマとの距離はわずか15mないし19m程度にすぎず,原告はこれに対してスコープ付きのライフル銃を用いた上,本件ヒグマが立ち上がるのを待って弾丸を 見えないかという程度にすぎないこと,原告と本件ヒグマとの距離はわずか15mないし19m程度にすぎず,原告はこれに対してスコープ付きのライフル銃を用いた上,本件ヒグマが立ち上がるのを待って弾丸を発射したものであること,発射した弾丸は本件ヒグマに命中したこと,この弾丸が付近の建物に当たったり,建物を損壊させたりしたような事実もないこ と,地域住民のAは本件ヒグマを駆除してもらって良かった旨陳述していること,砂川市の職員は本件のようなケースで発砲者が行政処分を受けるとなると住民に不安を与えてしまう旨陳述していること,その他証拠上認められる一連の事情を総合考慮すると,仮に原告の本件発射行為が鳥獣保護管理法38条3項に違反し,もって銃刀法10条2項1号に違反したも のと判断する余地があるとしても,これを理由に本件ライフル銃の所持許可を取り消すというのは,もはや社会通念に照らし著しく妥当性を欠くというべきであって,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものといわざるを得ない。 したがって,本件処分は,違法となるものというべきである。 (3) この点につき被告は,以下のとおり種々の主張をするが,いずれも採用す- 15 -ることができない。 アまず,被告は,本件現場の付近にはライフル銃の弾丸が到達する範囲内に複数の建物が存在しており(別紙概念図1(添付省略)参照),これらの建物に弾丸の到達するおそれがあったなどと主張する。 しかし,被告の上記主張は,極めて抽象的ないし観念的な危険をいうも のにすぎない。 しかも,上記(2)エにおいて認定したとおり,本件現場から見える建物というのは本件建物のみであり,しかも,原告が発射した位置からは,被告提出の写真によっても,せいぜい屋根の一部が見えるか見えないかという程度で (2)エにおいて認定したとおり,本件現場から見える建物というのは本件建物のみであり,しかも,原告が発射した位置からは,被告提出の写真によっても,せいぜい屋根の一部が見えるか見えないかという程度でしかない。 さらに,上記(2)オにおいて認定したとおり,原告と本件ヒグマとの距離はわずか15mないし19m程度にすぎず,原告はこれに対してスコープ付きのライフル銃を用いた上,本件ヒグマが立ち上がるのを待って弾丸を発射したものであり,現に,発射した弾丸は本件ヒグマに命中している(上記(2)カ)。 そもそも,銃砲の所持許可の取消処分が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くか否かは,単に発射行為の抽象的・観念的な危険の有無のみで判断すべきものではなく,当該発射行為の端緒,経緯,状況,地域住民等の反応,その他一連の事情を総合考慮して判断すべきところでもある。 したがって,いずれにせよ,被告の上記主張は採用することができない。 イまた,被告は,本件ヒグマは推定年齢が0歳であり,体重もわずか7. 5kgしかない子熊であって(乙6参照),直接的・具体的な危険性はなく,駆除の必要性は存在しなかったなどと主張する。 しかし,原告によれば,熊は小さくても危険なものは危険であり,かじられたりすると感染症のおそれも出る上,子熊だけで徘徊することはなく, 母熊が付近にいることも多いのであって,子熊だからといって直ちに安全- 16 -というわけではないというのである(原告本人〔5,6頁〕)。 そして,現に本件発射行為の当時,地域住民から不安の声が上がっていた上(認定事実(2),(3)イ),本件ヒグマを現認したC警察官自身も,当時,原告に対して発射を制止したり,発射しないよう警告したりといった行動には及んでいない(同(3)ウ)。 が上がっていた上(認定事実(2),(3)イ),本件ヒグマを現認したC警察官自身も,当時,原告に対して発射を制止したり,発射しないよう警告したりといった行動には及んでいない(同(3)ウ)。 なお,被告は,本件ヒグマに直接的・具体的な危険性がないことの根拠として,その体重が柴犬の成犬と同程度であった旨を指摘するが,そもそも野生のヒグマと飼育犬である柴犬とは,その体格,性格,攻撃性,人への慣れの有無等を大きく異にするのであって,被告の指摘はその前提を欠くものといわざるを得ない。 したがって,いずれにせよ,被告の上記主張は採用することができない。 ウさらに,被告は,原告は一貫して本件発射行為が正当であるとしており,危険をいとわず猟銃を発射する性癖もうかがえるのであって,再発のおそれが認められるなどと主張する。 しかし,被告の上記主張は,そもそも本件発射行為が不当であることを 前提とするものであるところ,これまで述べてきたとおり,原告は砂川市の要請に基づいて出動し,同市の職員の依頼によりヒグマを駆除したものであり,この点につき警察官から特段の制止も受けなかったものであって,これに,本件発射行為の態様,状況等を併せ考慮しても,本件発射行為が不当であったとすることはおよそできない。 また,上記主張のうち原告の性癖について触れてある部分についてみても,本件証拠上,原告が危険をいとわず猟銃を発射する性癖を有することをうかがわせる的確な証拠はなく,かえって,原告は当初,本件ヒグマを逃がしてはどうかと提案したり(認定事実(3)イ),本件ヒグマに対しても直ちに弾丸を発射するのではなく,これが立ち上がるのを待ってから発射 したり(同(3)エ),本件ヒグマのとどめ刺しをDに委ねたりするなど(同- 17 -(3)オ イ),本件ヒグマに対しても直ちに弾丸を発射するのではなく,これが立ち上がるのを待ってから発射 したり(同(3)エ),本件ヒグマのとどめ刺しをDに委ねたりするなど(同- 17 -(3)オ),猟銃の発射には一貫して謙抑的・抑制的であったようにうかがわれるところである。 したがって,いずれにせよ,被告の上記主張は採用することができない。 エなお,Dは,本件発射行為により発射された弾丸が,自己の所持していた猟銃に当たり,その銃床が破損したなどと証言する(証人D〔10,1 1頁〕)。 しかし,そもそも,本件処分の理由は「弾丸の到達するおそれのある建物に向かって」銃猟をしたとするものであって(前提事実(4)),Dの所持していた猟銃の銃床を破損させたとか,Dに向かって銃猟をしたなどということは処分の理由としては一切挙げられていない。したがって,Dの上 記証言の内容は,本件処分の適否を左右するものではない。 なお,事案に鑑み,念のため検討しても,Dの証言は,①発砲される可能性のある場所をわざわざ歩いた(証人D〔28,29頁〕),②普段は山に入るときには銃床が肘で隠れるように持つが,今回はそういう持ち方はしていなかった(同〔25頁〕),③弾丸が猟銃に当たったというのに,当 初はこれに気付かず,後に車に戻った時点で初めて気付いた(同〔10,32頁〕),④しかも,銃床の位置が腰ないし太ももの前くらいになるように猟銃を持っていたにもかかわらず,銃床に弾丸が当たったことに全く気付かなかった(同〔26頁〕),⑤後にその猟銃を用いて本件ヒグマに弾丸を発射したにもかかわらず(認定事実(3)),なお銃床の破損に気付かなか った(証人D〔9,10,32頁〕),⑥駆除が終了し,車に戻った時点でようやく銃床の破損に気付いたものの,そ グマに弾丸を発射したにもかかわらず(認定事実(3)),なお銃床の破損に気付かなか った(証人D〔9,10,32頁〕),⑥駆除が終了し,車に戻った時点でようやく銃床の破損に気付いたものの,その場ではその話を誰にもしなかった(同〔32頁〕)などというものであって,その証言内容には疑問を差し挟むべき不自然な点が多々みられるものといわざるを得ない。 現に,Dは,砂川署に対し,原告の本件発射行為により猟銃の銃床が破 損した旨の被害申告をしたものの(認定事実(4)ア),砂川署が検察庁に事- 18 -件を送致した際の送致書(甲16)には,Dの銃床を破損した事実は犯罪事実とされておらず,Dに向けて弾丸を発射した事実も犯罪事実とされていないのであって,砂川署においても,Dの申告した被害については,およそ送致するに足りないと判断したようにうかがわれるところである。 したがって,いずれにせよ,Dの上記証言内容については本件の判断を 何ら左右するに足りない。 (4) 以上によれば,本件処分は違法であって,取消しを免れない。 3 結論よって,争点(1)及び(2)について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官瀬 孝 裁判官河野文彦 裁判官佐藤克郎

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る