平成22(ワ)8232 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年3月29日 大阪地方裁判所
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判決文本文23,533 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,連帯して3億7545万2875円及びこれに対する平成19年7月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Cに対し,連帯して880万円及びこれに対する平成19年7月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告Bに対し,連帯して880万円及びこれに対する平成19年7月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告は,原告Dに対し,連帯して440万円及びこれに対する平成19年7月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告は,原告Eに対し,連帯して440万円及びこれに対する平成19年7月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(以下,原告Aを「原告A」,原告Cを「原告C」,原告Bを「原告B」,原告Dを「原告D」,原告Eを「原告E」,学校法人R学園を「学園」,大阪府S連盟を「S連」,T地区丙連盟を「T連」といい,S連及びT連を併せて「S連ら」という。また,S連を単に「S」ともいう。)学園の開設するU高等学校の柔道部(以下「本件柔道部」という。)に所属する原告Aは,柔道の形の講習会及び昇段審査会(以下「本件講習会」という。)に参加し,模範演技を披露したところ,同模範演技の直後に急性硬膜下血腫を発症し,後遺症として遷延性意識障害に至った。 本件は,原告らが,被告に対し,被告は本件講習会をS連と共に主催し又は主催者であるS連を総括していたのであるから,原告Aに対して安全義務を負うところ,本件講習会において,万が一急性硬膜下血腫等の重大な結果を伴う事故が起きた場合には適切な医 会をS連と共に主催し又は主催者であるS連を総括していたのであるから,原告Aに対して安全義務を負うところ,本件講習会において,万が一急性硬膜下血腫等の重大な結果を伴う事故が起きた場合には適切な医療措置を施し又は直ちに医療機関に連絡できる体制を整備すべきであったにもかかわらず,本件講習会の会場に医療関係者を立ち会わせるなどの義務を怠り,また,早期に救急搬送されていれば原告Aが遷延性意識障害等の重度の後遺症に至ることを回避することができたにもかかわらず,早期に119番通報する義務を怠り,これらの注意義務違反により原告Aが遷延性意識障害に至ったとして,講習会参加契約の債務不履行又は不法行為に基づき,原告Aについては損害金3億7545万2875円,原告C及び原告Bについてはそれぞれ損害金880万円,原告D及び原告Eについてはそれぞれ損害金440万円及びこれらに対する不法行為の日である平成19年7月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 争いのない事実等(証拠を掲げたもののほかは当事者間に争いがない。)(1)当事者ア原告Aは,平成19年当時,学園との間の在学契約に基づき,学園の開設するU高等学校に1年生として在籍し,本件柔道部に所属していた。原告Cは原告Aの父であり,原告Bは原告Aの母でかつ成年後見人であり,原告Dは原告Aの姉であり,原告Eは原告Aの弟である。 イ被告は,日本における柔道界を統括し,柔道の普及や振興を目的として設立された財団法人であり,その事業は,全国的競技会及び講習会や国際的協議会の開催,柔道における規則の制定,柔道技術の研究指導,人材の育成等である。被告は,柔道競技者について会員登録制度を設け,被告又はその加盟団体が主催,主管又は後援する柔道競技会及び講習 や国際的協議会の開催,柔道における規則の制定,柔道技術の研究指導,人材の育成等である。被告は,柔道競技者について会員登録制度を設け,被告又はその加盟団体が主催,主管又は後援する柔道競技会及び講習会に参加するには被告に会員登録しなければならない旨を定めている(甲A50,51,丙A1,2)。 (2)柔道における段位制度について被告は,会員の技術の水準や技能の程度等を評価するものとして段位制度を定めており,会員に付与する段位を,財団法人V(以下「V」という。)の認定に基づくものとしていた(丙A1,2,4)。 また,Vは,各柔道競技者の段位認定の資料とするために,Sに対し,段位認定の推薦業務を委託していた(甲A49,丁A2)。 (3)本件講習会の開催大阪府下の各地区で組織する柔道団体のほか大阪府下の同一職業域で組織する柔道団体を統括する権利能力なき社団であるSは,Vより,柔道の形の講習会及び昇段審査会の実施について委託を受けており,年に6回,講習会及び昇段審査会を主催しているほか,S連盟規約内規により独自に,加盟する柔道団体に対して年1回講習会及び昇段審査会を実施することを認めている。 Sは,平成19年7月27日から29日までの間,上記委託に基づく講習会の一つとして,吹田市立武道館(以下「洗心館」という。)で行われた柔道の形の講習会及び昇段審査会である本件講習会を主催した。 Sに加盟する権利能力なき社団であるTは,本件講習会の運営業務を補助し,Tの理事であるW(以下「W」という。)及びX(以下「X」という。)は,本件講習会に指導員として携わっていた。 (4)本件事故の経過原告Aは平成19年7月28日午後6時(以下,特に断らない限り,時間の記載は平成19年7月28日のことである。)から開催された本件講習会2日目 指導員として携わっていた。 (4)本件事故の経過原告Aは平成19年7月28日午後6時(以下,特に断らない限り,時間の記載は平成19年7月28日のことである。)から開催された本件講習会2日目の練習に参加し,本件柔道部に所属していたY(以下「Y」という。)と共に模範演技(以下「本件模範演技」という。)を行った。 原告Aは,本件模範演技の後,体調の不良を訴え,Wからロビーで休むように指示を受けた。本件柔道部の部長であったZ(以下「Z」という。)は,本件柔道部に所属していた乙(以下「乙」という。)と共に原告Aに付き添い,午後6時19分頃,原告Bに対し,原告Aを迎えに来るように電話で依頼し,原告Aは,洗心館に到着後,午後7時6分頃,119番通報した。 原告Aは,午後7時26分頃,大阪大学医学部附属病院に運び込まれ,各種検査の結果,架橋静脈の裂孔によって急性硬膜下血腫を発症していたことが判明した。 原告Aは,同病院において,浸透利尿薬であるマンニゲンIV(マンニトール)の投薬等による治療を受けた後,午後8時45分から9時30分までの間,頭血腫除去術を受け,午後10時27分から翌28日午前0時45分までの間,開頭血腫除去術を受けたが,遷延性意識障害の症状が残った。 (5)本件事故後の見舞金の支払Mは,平成20年6月頃,原告Aに対し,見舞金2500万円を支払った(丙A8,丙B3)。 2 争点及び争点に関する当事者の主張(1)被告が本件講習会の主催者等であったかどうか(原告らの主張)ア原告Aは,被告との間で,本件講習会に参加することを目的とした本件講習会参加契約を締結していたから,被告は,本件講習会参加契約に基づき,本件講習会に参加する生徒らが安全に競技を行うことができるように配慮する義務があった。 イ柔道が高 することを目的とした本件講習会参加契約を締結していたから,被告は,本件講習会参加契約に基づき,本件講習会に参加する生徒らが安全に競技を行うことができるように配慮する義務があった。 イ柔道が高度な危険性を伴う格闘技であることに鑑みれば,本件講習会を主催又は主管する者及び本件講習会の主催者を統括することにより主催者と同視し得る立場にある者は,本件講習会に参加する生徒らが安全に競技を行うことができるように配慮する義務を負うところ,以下の事情に照らすと,被告は,本件講習会を主催若しくは主管し,又はSを統括することにより主催者と同視し得る立場にあったというべきである。 (ア)被告寄附行為4条5項によれば,競技会の開催については,全国的なものに限定されているが,講習会については「柔道に関する講習会の開催」とされており,全国的なものに限定されていない。 (イ)昇段のための審査会については,Vが統括しているとしても,①いずれもその目的は丙によって創始された柔道の普及及び振興を図ることにあるとされていること(被告寄附行為3条),②被告がその法人事務所をV内に置いていること,③被告の会長理事とVの館長は同一人物が兼務していること,④被告及びその加盟団体に所属する者の段位はVの段位によるものとされていること(被告寄附行為細則11条),⑤地域の昇段会には被告に会員登録している者でなければ参加できないとされ(同細則2条本文),本件講習会の開催通知にも同旨の記載があること,⑥地域での講習会は被告の承認のもとで行われるべきものとされていること(同細則3条1項),⑦VとSとの間の業務委託契約によれば,SはM振興費を含めて昇段料を徴収することができるとされていることなどによれば,被告は,Vが統括する講習会を財政的・事務的な面で補充する関係にある。 (ウ) ⑦VとSとの間の業務委託契約によれば,SはM振興費を含めて昇段料を徴収することができるとされていることなどによれば,被告は,Vが統括する講習会を財政的・事務的な面で補充する関係にある。 (ウ)Vが認定する段位については,予めVが示した規準があり,競技者がこれに該当するかどうかは,推薦委託団体である地域柔道連盟の推薦によることとなるが,地域柔道連盟は被告の下部組織であるから,実質的には被告が段位の推薦権を有している。 (エ)被告競技者規程によれば,各都道府県団体の競技者及び役員についての参加資格は,最終的に被告において決定されるものとされ(同規程4条),これを通じて,下部団体を含む加盟団体が主催,主管又は後援する競技会は被告により規制されている。競技会と講習会の規制とは表裏一体であり,講習会にも被告の規制が及んでいる。 (オ)被告が原告Aに対して本件事故に関して見舞金を支払ったことも,被告が本件講習会に関して原告Aに対する安全義務を負っていたからにほかならない。 (カ)以上によれば,被告は,Sと共に本件講習会を主催し,又は本件講習会を主催するSを統括していたということができる。 ウしたがって,被告は,Sらと共に,本件講習会に関し,その参加者である原告Aに対する安全義務を負う。 (被告の主張)ア被告が原告Aとの間で本件講習会参加契約を締結したことは否認する。 イ被告は,以下のとおり,本件講習会を主催又は主管していたとはいえず,かつSを統括していたともいえない。 (ア)被告は,地域レベルの大会,講習会等を統括して行っているものではなく,その開催は地域の柔道連盟に任されている。被告寄附行為にいう講習会は,柔道教室,審判講習会など,主として柔道の競技力向上を目的としたものであり,形の講習は除外されている。 (イ)本件講 ではなく,その開催は地域の柔道連盟に任されている。被告寄附行為にいう講習会は,柔道教室,審判講習会など,主として柔道の競技力向上を目的としたものであり,形の講習は除外されている。 (イ)本件講習会は,昇段審査会及びそのための形の講習会であるが,柔道における段位の認定や昇段については,Vが統括し,地方柔道連盟に業務委託しているのであり,本件講習会についても,被告は,その実施運営に関与せず,人員の派遣や開催状況についての指導監督もしていない。 (ウ)被告とVは,柔道の発展普及を目的としている点では共通するものの,①被告は,主として国内外における競技,大会を統括し,Vは,主として柔道を通じての教育,指導,段位の認定などを統括し,その役割は異なること,②両法人は,理事などの役員をそれぞれの手続に則って独自に選出しており,たまたまV館長と被告会長理事が同一人物であるとしても,両団体を同一視することはできないこと,③被告の所在地がV内であるとしても,その事業内容は異なり,事務所も職員も別々に有していることなどによれば,両者が全く別個の法人であることは明らかである。 そして,昇段のための講習会を開催するためには,被告への届出や承認などの手続は不要であり,本件講習会の受講は被告への登録を参加要件とするものではなく,受講者が支払った受講料又は受験料についても被告は一切受領していない。 (エ)段位認定権はVが有し,Vから委任された推薦委任団体が推薦権を有するところ,被告はVから段位認定権又は推薦権の委任を受けておらず,Vが段位認定の業務委託契約を締結しているのは地方柔道連盟である。 本件講習会についても,VとSとの間の段位認定に関する業務委託契約に基づいて開催されたものである。 (オ)被告競技者規程は,競技者にとっての一般的な倫理を定めたもの しているのは地方柔道連盟である。 本件講習会についても,VとSとの間の段位認定に関する業務委託契約に基づいて開催されたものである。 (オ)被告競技者規程は,競技者にとっての一般的な倫理を定めたものであり,本件講習会のような形の講習会とは無関係であり,同規程に基づいて被告が本件講習会を統括していたということはできない。 (カ)被告は,原告Aに対して,保険会社を通じて本件事故に関する保険金を支給したが,これは,被告の過失の有無にかかわらず所定の保険金が支払われる仕組みとなっているのであるから,原告Aに対する保険金の支給は,被告の安全義務の有無とは関係がない。 (キ)以上によれば,被告が,Sと共に本件講習会を主催し,又は本件講習会を主催するSを統括していたということはできない。 ウしたがって,被告は,本件講習会に関し,その参加者である原告Aに対する安全義務を負わないというべきである。 (2)本件事故の原因(原告らの主張)ア本件模範演技の直接の影響について急性硬膜下血腫とは,脳と硬膜の間で出血が起こり,急激に血腫が広がった状態をいう。その発生機序としては,①脳挫傷により脳の表面の血管が損傷したり,脳そのものが損傷したりして出血を起こす場合のほか,②衝撃を受けた頭蓋骨と脳との間に回転性の加速によるずれが生じ,架橋静脈が急に伸展されて破綻し,出血を起こす場合があり,②の場合を「加速損傷」という。加速損傷は,頭部打撲そのものによる損傷ではなく,頭全体の動きの急激な変化が頭蓋内に納められている脳やその支持組織血管にひずみをもたらすことによって生じる損傷であり,頭部打撲を伴わなくても生じ得る。 加速損傷による急性硬膜下血腫は,柔道を含むいわゆるコンタクトスポーツにおいて起こりやすいことが知られており,柔道においては,たとえば よって生じる損傷であり,頭部打撲を伴わなくても生じ得る。 加速損傷による急性硬膜下血腫は,柔道を含むいわゆるコンタクトスポーツにおいて起こりやすいことが知られており,柔道においては,たとえば,投げ技をかけられたときに,加速によって頭全体が激しく移動したり,頭全体の激しい動きが急に停止したりすることによって発症する。 原告Aは,形の模範演技の受け手として,繰り返し受け身による回転性の加速を受け,その結果,脳に加速損傷を生じ,架橋静脈が破綻することによって出血し,血腫を発症したものと考えられる。 イ本件事故以前の脳震盪及び体調不良の影響について脳震盪は,頭部打撲直後から出現する神経機能障害であり,かつ,それが一過性で完全に受傷前の状態に回復するものをいい,脳に軽微な損傷を受けて脳震盪の症状を生じると,通常はそのまま治癒の過程に移行する。 ところが,脳震盪を生じた後,治癒の過程に移行する期間に第2の損傷を受けると,1度目の損傷よりも激しい損傷になることがある(以下,このことを「セカンドインパクト・シンドローム」という。)。 原告Aは,本件事故の3日前である平成19年7月25日,学園において柔道の練習中に教諭に殴打され,脳震盪を起こしていた。また,原告Aは,本件模範演技の最中にも,目がうつろになり,焦点が合わない状態になっており,ここでも脳震盪を起こしていた可能性がある。 また,「受け身」によって柔道の技を受ける際の加速衝撃を軽減する作用は,受け身をとる本人の健康状態等によって大きく左右されるところ,原告Aは,本件模範演技の際,頭痛等の体調不良を訴えており,このような体調不良により十分に受け身がとれない状態であった。 このように,原告Aは,本件事故当時,以前に発症していた脳震盪を原因とするセカンドインパクト・シンドロー 痛等の体調不良を訴えており,このような体調不良により十分に受け身がとれない状態であった。 このように,原告Aは,本件事故当時,以前に発症していた脳震盪を原因とするセカンドインパクト・シンドロームにより,また,体調不良が原因で十分に受け身がとれない状態であったことにより,加速損傷による急性硬膜下血腫が発生する危険性が高い状態にあったものである。 ウウイルス性髄膜炎の影響について被告は,原告Aがウイルス性髄膜炎に罹患して血管が脆弱化していたことが急性硬膜下血腫を発症した原因であると主張するが,原告Aがウイルス性髄膜炎に罹患していたことを示す証拠はない。 エ以上のように,本件で原告Aが急性硬膜下血腫を発症したのは,上記殴打行為により脳に軽微な損傷を受け,わずかな衝撃でも激しい損傷が生じやすい状況にあったところに,本件模範演技において,体調不良のために十分に受け身がとれない状態で,強い回転加速を受け,これにより架橋静脈が破綻したことが原因である。 (被告の主張)ア本件模範演技の直接の影響について原告Aは,問題なく本件模範演技をこなしており,これにより頭部打撲を伴う急性硬膜下血腫が発生したとは考え難い。回転性の加速の発症には相当強い回転力を要し,回転損傷による硬膜下血腫が発生するのは,自動車事故における衝突など,急激な加速を伴う強い回転力が頭部に働いた場合に限られる。柔道の形というのは,予め決められた手順で技をかけ,受け止め,反撃することによってその理合と技を習得するものであって,受け手と投げ手の申合せに基づき行われるものであるから,乱取りや試合と異なり,予測不能な回転性の加速がかかるわけではない。本件模範演技においても,原告Aは,頭部と体が一体として比較的緩やかなスピードで回転しており,頭部に強い外力が加わったと あるから,乱取りや試合と異なり,予測不能な回転性の加速がかかるわけではない。本件模範演技においても,原告Aは,頭部と体が一体として比較的緩やかなスピードで回転しており,頭部に強い外力が加わったとは考えられない。 そのため,本件模範演技が急性硬膜下血腫の発症に何らかの契機を与えたとしても,本件模範演技の受け身を取ったことのみで回転加速による架橋静脈の損傷が生じたとは考え難く,原告Aの有していた何らかの要因が影響したものと考えるのが合理的である。 イ本件事故以前の脳震盪及び体調不良の影響についてセカンドインパクト・シンドロームを引き起こすのは,頭部外傷を伴うような極めて強い回転外力又は衝撃を受けた場合に限られる。原告Aが本件事故の3日前に殴打されたとしても,その程度は軽微であり,原告Aには,床への転倒又は意識の喪失など,脳震盪をうかがわせるような症状は発生していないのであるから,それが原告Aの急性硬膜下血腫に影響したとは考えられない。 また,原告Aは,実力相当の申し分のない模範演技を披露し,本件模範演技においても受け身を失敗していないから,仮に原告Aの体調が万全でなかったとしても,原告Aの体調不良が急性硬膜下血腫の発症に影響したとは考えられない。 ウウイルス性髄膜炎の影響について原告Aが本件講習会の1週間前から頭痛を訴えていたこと,原告Aが本件講習会の日に副鼻腔炎を発症していたこと,原告Aが平成19年7月28日の採血でCRP値が高く,白血球数が多かったことなどの事実に照らせば,原告Aはウイルス性髄膜炎の基礎疾患を有していたと推測される。 ウイルス性髄膜炎に感染していた場合,脳表面にウイルスあるいは髄液中に細菌が広がり,そのために血管が脆弱な状態となるから,比較的軽微な外力で架橋静脈が破綻して急性硬膜下血腫を発症す たと推測される。 ウイルス性髄膜炎に感染していた場合,脳表面にウイルスあるいは髄液中に細菌が広がり,そのために血管が脆弱な状態となるから,比較的軽微な外力で架橋静脈が破綻して急性硬膜下血腫を発症する可能性が高い。 そのため,原告Aに生じた急性硬膜下血腫は,ウイルス性髄膜炎に感染していたために架橋静脈が脆弱になっていたところに,本件講習会での模範演技において外力が加わったことにより,架橋静脈が破綻したことに起因するものと考えるのが合理的である。 エ以上のとおり,原告Aに発生した急性硬膜下血腫については,原告Aがウイルス性髄膜炎に感染していたことが影響していると考えられる。 (ウ)被告が本件講習会の会場に医療関係者を立ち会わせる義務を怠り,これにより原告Aを遷延性意識障害に至らしめたかア本件講習会において急性硬膜下血腫等の重篤な傷害が発生することについての予見可能性(原告らの主張)Sら及び被告は,柔道という競技の危険性に照らせば,本件講習会の最中に急性硬膜下血腫等の重篤な傷害が発生することを予見することができた。 (被告の主張)柔道の形は,受け手と投げ手の申合せにより行われるものであるから,乱取りや試合と異なり,予測不能な回転性の加速が生じにくい。本件講習会は,柔道の形についての講習と昇段の試験を内容とするものであって,しかも初段又は二段の昇段試験を受験しようとする者を対象とするものであるから,頭部外傷及びこれに基づく重篤な脳疾患などは通常生じ得ない。 また,仮に本件講習会において受講者が何らかの傷害を負うことがあるとしても,打撲や捻挫といった軽度のものが想定され,柔道整復師を配置することで対応することが可能であった。また,Sらは緊急の場合に備えて,負傷者を近くにある大学病院に搬送できるよう所在連絡先の把 るとしても,打撲や捻挫といった軽度のものが想定され,柔道整復師を配置することで対応することが可能であった。また,Sらは緊急の場合に備えて,負傷者を近くにある大学病院に搬送できるよう所在連絡先の把握に努めており,救急車の連絡を取る体制も整えていた。 そのため,本件講習会においては,通常生じ得る事故に対しては十分に対応可能であり,医師を配備しなければ対応できないような重篤な脳疾患が発生することを予見することはできなかった。 イ遷延性意識障害に至る結果回避可能性及び因果関係(原告らの主張)本件講習会に医療関係者が立ち会っていれば,原告Aの異常に気がつくことができ,早期に適切な処置を施すことができたはずであるから,原告Aは遷延性意識障害を負うことなく回復することができたはずである。ところが,Sら及び被告は,本件講習会の会場に医療関係者を立ち会わせなかった。 Sら及び被告は,本件講習会に医療関係者を立ち会わせ,事故が発生した場合には傷害を負った者の状況を把握し,適切な医療措置を施し又は直ちに医療機関に連絡することができる体制を整備する義務を負っていたにもかかわらず,これに違反し,原告Aを遷延性意識障害に至らしめたというべきである。 (被告の主張)仮に本件講習会に医療関係者が立ち会っていたとしても,原告Aが頭痛を訴えていたことのみから直ちに頭部疾患の重篤性を疑って適切に対処することは困難であり,専門医師であっても現場の手当てにより本件事故に対処することは不可能であった。 このように,仮に医療関係者が本件講習会の会場に立ち会っていたとしても,原告Aが遷延性意識障害に至ることを回避し得なかったというべきであるから,被告には,本件講習会の会場に医療関係者を立ち会わせるなどの義務はなく,仮にこの義務を怠ったとしても,この っていたとしても,原告Aが遷延性意識障害に至ることを回避し得なかったというべきであるから,被告には,本件講習会の会場に医療関係者を立ち会わせるなどの義務はなく,仮にこの義務を怠ったとしても,この義務違反と本件において原告Aが遷延性意識障害に至ったこととの間には因果関係がない。 (4)被告が午後6時19分頃までに119番通報する義務を怠り,これにより原告Aを遷延性意識障害に至らしめたかア原告Aに急性硬膜下血腫等の重篤な傷害が発生していたことの予見可能性(原告らの主張)原告Aは,本件講習会の当初から体調不良を訴え,形の模範演技の最中においても,苦しそうな表情をし,肩で息をしている状態であり,模範演技終了後,道場内の壁際で座り込むなど,明らかに異常な様子であった。 そして,原告Aは,ロビーに出た後上半身裸になって床に横たわり,午後6時19分頃までに,しんどい,頭が痛い,暑いなどと繰り返し訴え,横臥したまま苦しみもがいてロビーにあった植木を蹴り倒すなどの異常な行動をとっていた。 したがって,Xをはじめとする被告及びSらの職員等は,遅くとも午後6時19分頃までには,原告Aが急性硬膜下血腫などの重篤な症状を発症しており,直ちに医療機関による適切な処置を受けなければ重大な損害が生じ得ることを予見することができた。 (被告の主張)原告Aは自らの意思で本件模範演技を行うこととし,本件模範演技の前後を通じて原告Aの顔色等に異常は認められなかった。原告Aの模範演技は優れており,受け身に失敗したり,頭部を打撲したり,演技中に目がうつろになったりすることもなかった。 原告Aは,本件模範演技の後,壁際にもたれかかって座り込むなどしていたが,自力で歩ける状態であり,Zと乙に付き添われてロビーで休憩していた。原告Aは,午後6時19 になったりすることもなかった。 原告Aは,本件模範演技の後,壁際にもたれかかって座り込むなどしていたが,自力で歩ける状態であり,Zと乙に付き添われてロビーで休憩していた。原告Aは,午後6時19分頃の時点において,しんどい,頭が痛い,暑い暑いなどと言いながら柔道着の上着を脱いで床に横臥していたものの,これらの言動から直ちに急性硬膜下血腫等を予見することは一般人には困難である。 原告Aは,原告Aに付き添っていたZから家族に連絡して迎えに来てほしいかと尋ねられた際も,いったんはその必要がないと言って拒否しており,Xの問いかけに対しても上半身を起こして返答することができ,その表情も普通であった。 そのため,Xをはじめとする被告及びS連らの職員等が,原告Aの健康状態について何らかの異常に気付き,救急搬送すべきであると予見することは不可能であった。 イ遷延性意識障害に至る結果回避可能性及び因果関係(原告らの主張)(ア)急性硬膜下血腫に対する一般的な治療経過脳挫傷を伴わずに発症する急性硬膜下血腫は,血腫が大きくならないうちに治療が開始され,脳実質への圧迫が進行しなければ,予後が良好であるが,血腫による圧迫によって頭蓋内圧が亢進し,脳ヘルニアが進行して脳幹圧迫が生じると,意識障害が進み,予後が不良になる。そのため,脳ヘルニアによる意識障害が進行する前に治療を開始することが良好な転帰を得るための要点となる。 重篤な意識障害を生じる脳ヘルニアは,脳幹部を対側下方へ圧迫するテント切痕ヘルニアに陥るケースである。テント切痕ヘルニアは,その進行過程によって,脳機能の回復可能性が異なり,圧迫が間脳にとどまる「間脳期」であれば,脳損傷は未だ可逆的であり,適切な処置を施すことによって回復可能であるが,圧迫が中脳を超え,上部橋まで及ぶ「 の進行過程によって,脳機能の回復可能性が異なり,圧迫が間脳にとどまる「間脳期」であれば,脳損傷は未だ可逆的であり,適切な処置を施すことによって回復可能であるが,圧迫が中脳を超え,上部橋まで及ぶ「中脳-上部橋期」に達すると,非可逆的であり,死亡ないし遷延性意識障害等の重大な後遺症が避けられないとされている。 通常,急性硬膜下血腫による脳ヘルニアが意識障害の原因であると判明した場合には,手術に先立って直ちに頭蓋内圧亢進による脳ヘルニアの進行を遅らせるための緊急処置がなされる。具体的には,頭部を高く保ち,頭蓋内圧を下げる浸透利尿薬(マンニトール)などを点滴し,場合によっては脳保護目的に脳代謝を減らす目的で全身麻酔を導入するなど,様々な処置が行われる。 (イ)本件における原告Aの脳ヘルニアの進行原告Aは,午後6時55分頃に原告Bが洗心館に到着した時点においては,原告Bの問いかけに対して答えることができるなど,会話をすることが可能であったため,未だ間脳期にあったということができるが,救急搬送のために洗心館から出発した午後7時24分頃には,JCS3桁の意識障害に陥っており,脳ヘルニアは中脳-上部橋期を超え,非可逆的な段階に至っていたものと考えられる。 (ウ)午後6時19分に119番通報されていた場合の結果回避可能性仮に,被告が午後6時19分頃までに119番通報していれば,原告Aは午後6時39分頃までには大阪大学医学部附属病院に到着することができたはずである。その時点では,原告Aの脳ヘルニアの進行はそれほど進んでおらず,明らかに間脳期よりも手前の段階にあったものと考えられ,同時点で病院に到着していれば,少なくとも脳ヘルニアの進行を遅らせるための緊急処置を受けることは十分可能であり,それにより脳ヘルニアが非可逆的な段階に至る前に りも手前の段階にあったものと考えられ,同時点で病院に到着していれば,少なくとも脳ヘルニアの進行を遅らせるための緊急処置を受けることは十分可能であり,それにより脳ヘルニアが非可逆的な段階に至る前に外科的な手術を施すことが可能であった。そして,そのような段階で手術を受けることができれば,回復可能性は十分に認められ,遷延性意識障害などの重大な後遺症を避けることができたはずである。 (エ)まとめしたがって,被告が午後6時19分頃までに119番通報していれば,原告Aが重大な後遺症に陥ることを回避することが可能であったということができ,被告が119番通報しなかったことと原告Aが遷延性意識障害に至ったこととの間には因果関係がある。 (被告の主張)(ア)急性硬膜下血腫に対する一般的な治療経過急性硬膜下血腫を発症した場合,脳ヘルニアが間脳期の段階で血腫除去術等の適切な処置を行わなければならないことについては,原告らと見解を異にするものではない。 急性硬膜下血腫による脳ヘルニアの進行を遅らせるための緊急処置のうち,マンニトールの投与については,脳圧を下げる効果が見込まれるものの,急性硬膜下血腫のある患者にこれを投与すると,脳圧により一時止血していたものが頭蓋内圧の減少とともに再び出血し始め,血腫をより増大させる危険性がある。そのため,マンニトールの投与は,救急搬送後直ちにされるものではなく,血液検査・レントゲン検査及びCT検査等のしかるべき検査等の後に,開頭血腫除去術を行う必要があると判断してから行われるものである。 また,過呼吸治療は,人工呼吸を過換気に設定し,血中炭素ガス濃度を下げることで,頭蓋内圧の低下を計る治療方法であるが,これは,気管挿管がなされた時点から行われる。 (イ)本件における原告Aの脳ヘルニアの進行 は,人工呼吸を過換気に設定し,血中炭素ガス濃度を下げることで,頭蓋内圧の低下を計る治療方法であるが,これは,気管挿管がなされた時点から行われる。 (イ)本件における原告Aの脳ヘルニアの進行原告Aは,午後7時12分頃に救急隊が洗心館に到着した時点において,昏睡状態であったため,この頃までに中脳-上部橋期に達し,脳ヘルニアが非可逆的に進行していたということができる。そのため,午後7時12分頃までに血腫を除去することができなければ,原告Aが遷延性意識障害などの重大な後遺症に陥ることを回避できなかった。 (ウ)午後6時19分に119番通報されていた場合の結果回避可能性a 本件において,原告Aは,午後6時19分頃においては,意識障害が生じていなかったため,この時点で救急要請したとしても,救急隊員の判断で二次救急医療を扱う病院に搬送された可能性が高い。原告Aが二次救急病院に搬送された場合,まずは保存的加療がなされ,緊急手術が必要な事態が生じても,三次救急病院とは異なり,直ちに手術が開始できるわけではない。そのため,仮に被告が午後6時19分に119番通報していたとしても,午後7時12分頃までに原告Aの頭蓋内圧の除圧をすることはできなかった。 b 仮に,原告Aが午後6時39分までに大阪大学医学部附属病院に搬送されていたとしても,午後7時12分頃までに手術を開始することは不可能であった。 すなわち,原告Aが午後6時39分に大阪大学医学部附属病院に救急搬送されていたとしても,血液検査,レントゲン検査及びCT検査等を行って治療方針を決定するのには少なくとも30分程度の時間を要し,その後,マンニトールの投与等による治療が開始されたとしても,マンニトールの投与速度は20パーセント溶液で100ミリリットル当たり3分ないし10分であり,一般的に 少なくとも30分程度の時間を要し,その後,マンニトールの投与等による治療が開始されたとしても,マンニトールの投与速度は20パーセント溶液で100ミリリットル当たり3分ないし10分であり,一般的には効果発現までに30分を要するとされているから,午後7時12分の時点までにマンニトールの投与による治療が効果を発生させることは不可能であった。 さらに,原告Aは,気管挿管を行った時点で,肺水腫,たこつぼ型心筋症を起こしており,この処置に時間を要したと考えられる。 そうすると,原告Aが午後6時39分までに大阪大学医学部附属病院に搬送されていたとしても,午後7時12分頃までに手術を開始することは不可能であり,実際に,本件においては,原告Aが大阪大学医学部附属病院に到着してから穿頭血腫除去術の開始までに1時間19分を要している。 c 仮に,原告Aが午後6時39分に大阪大学医学部附属病院に救急搬送され,早期にマンニトールの投与や過呼吸治療が行われたとしても,原告Aの頭蓋内出血は大量であり,止血にも難渋したため,開頭手術においては,上矢状静脈洞に注ぐ複数の静脈を温存するため,圧迫止血をせざるを得なかったと考えられる。原告Aに重篤な後遺症が生じたのは,圧迫止血により静脈が閉塞し,術後の環流障害を起こし,脳腫脹が顕著になったためであると考えられるが,原告Aに生じた頭蓋内出血の程度に照らすと,圧迫止血を選択せざるを得ない状況にあり,これにより原告Aに遷延性意識障害等の重大な後遺症が生じることは回避し得なかった。 (エ)まとめしたがって,被告が午後6時19分頃までに119番通報していても,原告Aが重大な後遺症に陥ることを回避し得なかったというべきであり,被告が119番通報しなかったことと原告Aが遷延性意識障害に至ったこととの間には因果関係が 時19分頃までに119番通報していても,原告Aが重大な後遺症に陥ることを回避し得なかったというべきであり,被告が119番通報しなかったことと原告Aが遷延性意識障害に至ったこととの間には因果関係がない。 (5)本件事故により原告らが受けた損害の額についてア原告Aの損害(原告Aの主張)原告Aは,本件事故に起因して遷延性意識障害になったことにより,以下のとおり,合計3億7545万2875円の損害を被った。 (ア)治療関係費 448万9715円症状固定日(平成20年11月30日)までに必要となった治療費は116万8004円である。 原告Aは,症状固定後も,在宅医療を中心に継続して治療を受けており,機能維持・機能回復のために症状固定後も継続的に治療を受ける必要がある。平成20年12月1日から平成24年7月31日までの間の原告Aの治療費は91万8717円である。 さらに,原告Aは今後生涯にわたり治療を継続して受ける必要があるところ,同人の治療費は1か月あたり1万0674円であるから,平均余命である77歳までの57年間(ライプニッツ係数18.7605)に必要となる治療費は240万2994円である。 (計算式)1万0674円×12か月×18.7605(イ)入院雑費 47万1000円原告Aは,遷延性意識障害の治療のために合計314日間入院しており,1日当たり1500円として入院雑費を計算すると,合計47万1000円となる。 (計算式)1500円×314日(ウ)入院付添費 251万2000円原告Aは,遷延性意識障害の治療のために合計314日間入院しており,その間,意識障害に陥っている原告Aに対して原告C及び原告Bら家族がほぼ毎日付き添っていた。かかる家族の入院付添費は1日あたり8000円を下るもの 意識障害の治療のために合計314日間入院しており,その間,意識障害に陥っている原告Aに対して原告C及び原告Bら家族がほぼ毎日付き添っていた。かかる家族の入院付添費は1日あたり8000円を下るものではないから,合計251万2000円となる。 (計算式)8000円×314日(エ)在宅介護費 200万9040円a 原告Aは,退院日の翌日である平成20年6月6日から症状固定日である平成20年11月30日までの178日間,自宅で両親ら家族の介護を受けた。かかる家族の在宅介護費用は,原告Aが遷延性意識障害という重篤な状態に陥り,24時間体制で常時介護が必要であることを考慮すると,1日当たり1万円を下るものではないから,合計178万円となる。 (計算式)1万円×178日b また,原告Aは家族による介護と併せて職業付添人による介護も受けているところ,平成20年6月6日から平成20年11月30日までの介護費用は合計22万9040円である。 (オ)車両使用料・交通費 23万7230円平成21年12月31日までの福祉車両使用料及び交通費の合計は,23万7230円である。 (カ)装具・器具購入費・レンタル費 143万6376円原告Aは,遷延性意識障害の治療等のために,車椅子,リフト,車椅子付属品,リフト付属品,昇降機,介護用ベッド,携帯用吸引器,ネプライザー,クッション,パルスオキシメーター,トレイージースライドシート,ソフトネックホルダー等を購入又はレンタルする必要があり,これらの購入費又はレンタル費の合計は,143万6376円である。 (キ)雑費 29万1170円原告Aは,退院後在宅治療となり,症状固定日までの間に必要かつ相当な雑費の支出があるところ,その合計は12万2851円である。 また,原告Aは,症状固定 ある。 (キ)雑費 29万1170円原告Aは,退院後在宅治療となり,症状固定日までの間に必要かつ相当な雑費の支出があるところ,その合計は12万2851円である。 また,原告Aは,症状固定後も治療,リハビリ,介護の必要があり,それに伴い必要かつ相当な雑費の支出が見込まれるところ,その合計は16万8319円である。 (ク)自宅改造費 287万円原告Aの自宅療養のための自宅改造費は287万円である。 (ケ)自動車購入費 306万5250円原告Aの治療,リハビリ等に必要となる自動車の購入費は306万5250円である。 (コ)水道光熱費 165万0389円a 原告Aは,遷延性意識障害という重篤な状態に陥り,24時間体制で常時介護が必要であり,入浴等も家族とは別に行わなければならない。また,中枢神経に障害があることから,体温調節がうまくできず年間を通じてエアコンを作動させて部屋の空調管理をすることが必要である上,電動の昇降機,介護用ベッド,吸引器等の器具の助けを借りなければ生活ができない。そのため,原告Aが退院し,自宅での介護が開始された日以降,水道,ガス,電気の使用量が大幅に増加している。そして,原告Aの退院から症状固定日までの間に増加した水道,ガス及び電気料金の額は,合計3万4395円である。 b また,原告Aの症状固定後も同様に水道,ガス,電気の使用料が大幅に増加することとなり,その増加額は1年当たり合計8万5370円となるから,症状固定日である平成20年11月30日から平均余命である77歳までの60年間(ライプニッツ係数18.9293)に必要となる水道光熱費の増加分は,合計165万0389円となる。 (計算式)8万5370円×18.9293(サ)将来介護費用 1億5200万2279円原告Aは, 係数18.9293)に必要となる水道光熱費の増加分は,合計165万0389円となる。 (計算式)8万5370円×18.9293(サ)将来介護費用 1億5200万2279円原告Aは,遷延性意識障害に至ったことにより,今後生涯にわたって24時間体制での常時介護が必要となる。現在は両親による介護と職業付添人による介護を組み合わせる体制をとっているが,今後,両親の高齢化等に伴い,職業付添人による介護の比率が大きくなっていることは避けられず,将来介護費用としては,昼間8時間の職業付添人として1日当たり1万2000円,それ以外の時間の家族による介護費用として1日あたり1万円をそれぞれ下るものではない。 そのため,症状固定日から平均余命である77歳までの60年間(ライプニッツ係数18.9293)に必要となる将来介護費用は,合計1億5200万2279円となる。 (計算式)2万2000円×365日×18.9293(シ)将来の装具・器具等の買換え費用 1313万8551円原告Aは,遷延性意識障害の治療等のために,今後も自動車(購入費306万5250円,耐用年数6年),車椅子及び付属部品(購入費合計37万3185円,耐用年数6年),リフト及び付属部品(購入費49万1400円,耐用年数4年),昇降機(購入費41万円,耐用年数6年),介護用ベッド(購入費5万5420円,耐用年数8年),携帯用吸引器(購入費1万4240円,耐用年数5年),ネプライザー(購入費3600円,耐用年数5年),パルスオキシメーター(購入費3万円,耐用年数5年)を購入する必要があり,症状固定日から平均余命である77歳までの60年間にこれらを買い換えるために必要となる費用の合計は,それぞれ中間利息を控除すると,合計1313万8551円となる。 (ス)逸 を購入する必要があり,症状固定日から平均余命である77歳までの60年間にこれらを買い換えるために必要となる費用の合計は,それぞれ中間利息を控除すると,合計1313万8551円となる。 (ス)逸失利益 1億2024万1277円原告Aは,本件事故による急性硬膜下血腫により遷延性意識障害に陥り,その労働能力を100パーセント失った。原告Aは本件事故当時15歳の高校生であったが,同人が通学していたU高校は,平成21年度で455名が大学へ進学しており,高い進学実績があるなど,多くの生徒が卒業後に大学に進学している進学校であり,かつ,原告A自身,四年制大学進学を希望していた。また,原告Aの姉である原告Dも大学に進学しており,原告C及び原告Bも原告Aを大学に進学させる予定であった。 したがって,原告Aの逸失利益の算定に当たっては,原告Aが四年制大学に進学することを前提とすべきであり,以下の計算式により,労働能力喪失期間を23歳から67歳までとして中間利息を控除すると,原告Aの逸失利益は合計1億2024万1277円となる。 (計算式)680万7600円×17.6628(セ)入通院慰謝料 490万5000円原告Aは,遷延性意識障害に至ったことにより314日間入院しており退院日の翌日である平成20年6月6日から症状固定日である平成20年11月30日までの178日間通院治療をしていた。そして,原告Aが急性硬膜下血腫になり,一時は生死が危ぶまれる状態であったこと,生命が助かった後も遷延性意識障害の状態が継続し,非常に重篤な状態であることなどを考慮すれば,原告Aの被った入通院慰謝料は490万5000円が相当である。 (ソ)後遺症慰謝料 5000万円原告Aは,本件事故により,健康な高校生としての当たり前の日常生活の大部分を失 などを考慮すれば,原告Aの被った入通院慰謝料は490万5000円が相当である。 (ソ)後遺症慰謝料 5000万円原告Aは,本件事故により,健康な高校生としての当たり前の日常生活の大部分を失ってしまったのであり,その苦しみと悲しみ,その絶望の念は筆舌に尽くし難い。その精神的苦痛は,金銭をもって容易に慰謝し得るものではないが,本件の事情の一切を考慮して金銭評価をするならば,原告Aの精神的苦痛を慰謝するのに必要な慰謝料は5000万円を下らない。 (タ)リハビリ費用 1799万8617円a 平成24年7月までのリハビリ費用(332万1320円)原告Aは,症状固定後,入通院により又は在宅においてリハビリを受ける必要があり,治療費及び介護費用等に含まれないリハビリ費用として,平成24年7月までに合計332万1320円を要した。 b 平成24年8月以降のリハビリ費用(1440万8064円)原告Aは,今後生涯にわたり機能維持・機能回復のためにリハビリを継続する必要があり,そのリハビリ費用は1か月あたり6万4000円であるから,平成24年8月から平均余命である77歳まで57年間(ライプニッツ係数18.6705)に必要となるリハビリ費用は,合計1440万8064円となる。 (計算式)6万4000円×12か月×18.6705(チ)成年後見申立費用 16万9335円原告Aは,本件事故により遷延性意識障害の状態となり,判断能力を喪失したことから,成人したことに伴い,母である原告Bを申立人として大阪家庭裁判所に成年後見の申立てを行い,原告Bが成年後見人に選任された。 原告Bは,上記成年後見申立に際し弁護士に代理人を依頼せざるを得ず,弁護士費用及び申立手数料等として16万9335円を支出した。 (ツ)弁護士費用 3774 ,原告Bが成年後見人に選任された。 原告Bは,上記成年後見申立に際し弁護士に代理人を依頼せざるを得ず,弁護士費用及び申立手数料等として16万9335円を支出した。 (ツ)弁護士費用 3774万円原告Aは,本件訴えを提起するに当たり弁護士に訴訟遂行を依頼せざるを得なかったところ,被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は3774万である。 (テ)損益相殺 -3977万4354円原告Aは,本件事故に関し,独立行政法人日本スポーツ振興センターから給付金として3977万4354円を受領した。 なお,原告Aは,S連から傷害保険金282万円を受領したが,この保険金は,平成16年度からS連を通じてM連会員登録の際に,指導者・競技者ともに加入することとなったM連盟後遺傷害保険(なお,原告Aは保険料として500円を支払っている。)によるものなので損益相殺の対象とはならない。 (被告の主張)否認する。 なお,被告は,平成21年2月20日,原告Aに対し,本件事故に関する見舞金として2500万円を支払っているので,同額の損益相殺をすべきである。 イ原告C,原告B,原告D及び原告Eの損害(原告C,原告B,原告D及び原告Eの主張)原告Aの両親である原告C及び原告B並びに兄弟である原告D及び原告Eは,本件事故により原告Aが遷延性意識障害の状態となり,甚大な精神的苦痛を被った。その精神的苦痛の程度は計りがたいものであり,金銭をもって容易に慰謝し得るものではないが,本件の事情の一切を考慮して金銭評価をするならば,同人らの精神的苦痛を慰謝するには,原告C及び原告Bについては800万円,原告C及び原告Dについては400万円をそれぞれ下るものではない。 また,本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,原告C及び原告B 痛を慰謝するには,原告C及び原告Bについては800万円,原告C及び原告Dについては400万円をそれぞれ下るものではない。 また,本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,原告C及び原告Bについて80万円,原告D及び原告Eについて40万円が相当である。 したがって,原告C及び原告Bの損害額はそれぞれ880万円であり,原告D及び原告Eの損害額はそれぞれ440万円である。 (被告の主張)否認する。 第3 当裁判所の判断 1 被告が本件講習会の主催者等であったかどうかについて(1)原告Aと被告との間の契約締結の有無について原告らは,原告Aが被告との間で本件講習会に参加することを目的とした本件講習会参加契約を締結したと主張するが,そのような契約が締結されたと認めるに足りる証拠はない。 (2)被告の本件講習会の主催若しくは主管又はS連の統括の有無について原告らは,被告がS連と共に本件講習会を主催若しくは主管し,又は本件講習会を主催するS連を統括することにより主催者と同視し得る立場にあったと主張する。 アしかしながら,前記争いのない事実等のとおり,本件講習会は,S連がVからの委託に基づいて主催し,T連が主管していたものであるところ,被告は,そもそも,柔道の段位認定の権限を有するものではなく,Vとの業務委託契約等により段位認定の推薦業務を受託していたものでもないのであるから,本件講習会を主催するS連に対して指揮監督を行う法的権限を有していなかったというべきである。 そして,実際のところ,本件講習会の開催に当たり,被告がその実施要領や運営方法について,S連又はT連に対し,何らかの指導又は指示をしたと認めるに足る証拠はなく,証拠(証人W)及び弁論の全趣旨によれば,被告の職員は洗心館には派遣されていなかったと認めら その実施要領や運営方法について,S連又はT連に対し,何らかの指導又は指示をしたと認めるに足る証拠はなく,証拠(証人W)及び弁論の全趣旨によれば,被告の職員は洗心館には派遣されていなかったと認められるのであるから,本件講習会の現場においても,被告が指導監督を行ったということはできない。そうすると,被告は,実際上も,本件講習会の開催・実施に関与していなかったというべきである。 したがって,被告がS連と共に本件講習会を主催若しくは主管し,又は本件講習会を主催するS連を統括することにより主催者と同視し得る立場にあったということはできない。 イ原告らの主張する事実は,以下のとおり,これを認めるに足る証拠はないか,認められるとしても,それらの事実をもって,被告がS連と共に本件講習会を主催若しくは主管し,又は本件講習会を主催するS連を統括することにより主催者と同視し得る立場にあったということはできない。 (ア)原告らは,被告寄附行為4条5項が「柔道に関する講習会の開催」を被告の行うべき事業と定めていることを根拠に,被告は,本件講習会のような形の講習会を開催する権限を有すると主張する。 しかしながら,前記判示のとおり,段位の認定はVに帰属すべきものとされ(V寄附行為5条13号。丙A4),Vはそのための講習会の開催をする権限を有するのであるから(同条6号),同寄附行為4条5項が定める「講習会」とは,被告が開催の権限を有するものに限られると解すべきであり,形の講習会の開催は含まないと解するのが相当である。 (イ)原告らは,地域柔道連盟は被告の下部組織であることなどを理由として,被告が本件講習会の参加者の昇段についての推薦権を有していたと主張する。 しかしながら,地域柔道連盟は,被告とは異なる団体であり,その一部ではないから,単に地域 組織であることなどを理由として,被告が本件講習会の参加者の昇段についての推薦権を有していたと主張する。 しかしながら,地域柔道連盟は,被告とは異なる団体であり,その一部ではないから,単に地域柔道連盟が被告の下部組織であるからといって,被告が段位の推薦権を有しているということはできない。本件においては,段位認定権限を有するVから段位認定の推薦業務を受託していたのはS連であるから,S連又はT連がVに対して参加者の昇段に関する推薦を行う権限を有していたというべきであり,被告が本件講習会の参加者の昇段についての推薦権を有していたとは認められない。 (ウ)原告らは,被告が本件講習会の主催者であるS連を統括していたことの根拠として,本件講習会に参加するためには被告への登録が必要であり,本件講習会の開催には被告の承認が必要であったことなどを指摘する。 しかしながら,本件講習会の参加者が被告に登録するものとされ,実際に本件講習会の参加者の多くが被告に登録していたとしても,そのことのみをもって,被告が本件講習会に具体的に関与していたということはできず,本件全証拠によっても,S連が被告に対して本件講習会に関して何らかの届出をし,又は被告がS連に対して本件講習会開催の承認をするなどの手続が行われた形跡はない。 さらに,本件講習会の受講者が支払った受講料又は受験料を被告が受領したと認めるに足る証拠もない。 (エ)原告らは,被告とVとは,その設立目的,事務所の所在地,代表者の一致などの点に鑑み,密接な関係を有し,事実上一体のものとして同視し得ると主張する。 しかしながら,被告とVの設立目的,事務所の所在地,代表者の一致などの点について,原告らの主張するような事実が認められるとしても,それをもって被告とVとを事実上一体のものとして同視するこ する。 しかしながら,被告とVの設立目的,事務所の所在地,代表者の一致などの点について,原告らの主張するような事実が認められるとしても,それをもって被告とVとを事実上一体のものとして同視することはできず,また,これらの事実から,被告が本件講習会の主催者であるS連を統括していたと認めることもできない。 また,原告らは,被告及びその加盟団体に所属する者の段位はVの段位によるものとされていること,VとS連との間の業務委託契約によれば,S連はM振興費を含めて昇段料を徴収することができるとされていることなどを指摘する。 しかしながら,被告及びその加盟団体に所属する者の段位をVの段位によるものとされているのは,Vが段位認定権限を有するからであって,これをもってVと被告とを事実上一体のものと認めることはできない。 また,VとS連の業務委託契約書の覚書(丁A2)において,昇段時費用にV振興費を含むと定められていたとしても,このような費用徴収の代行の事実から,被告がS連を統括していたということはできず,被告とVとが事実上一体の関係にあったということもできない。 (オ)原告らは,被告競技者規程(丙A9)を根拠にして,地域柔道連盟が主催,主管又は後援する競技会は被告により規制されていると主張するが,同規程は,競技者が遵守すべき一般的事項や競技会の開催に関する事項を定めたものであって,本件講習会とは関係がなく,同規程をもって,被告の規制が本件講習会にも及んでいたと認めることはできない。 (カ)原告らは,被告が本件講習会の主催者であるS連を統括していたことの根拠として,被告が原告Aに対して見舞金を支払ったことを指摘する。 しかしながら,証拠(甲A48,51,丙A8,丙B3)及び弁論の全趣旨によれば,同見舞金は被告に登録している者が柔道の活動中 との根拠として,被告が原告Aに対して見舞金を支払ったことを指摘する。 しかしながら,証拠(甲A48,51,丙A8,丙B3)及び弁論の全趣旨によれば,同見舞金は被告に登録している者が柔道の活動中の事故により負傷した場合に支払われるものにすぎず,これをもって被告が本件講習会の主催者であるS連開催を統括していたと認めることはできない。 ウ以上によれば,本件講習会の主催者はS連であり,被告が本件講習会を主催若しくは主管し又は主催者であるS連を統括することにより主催者と同視し得る立場にあったということはできない。 (3)まとめしたがって,本件においては,原告Aが被告との間で本件講習会参加契約を締結したとは認められず,被告がS連と共に本件講習会を主催し,又は本件講習会を主催するS連を統括することにより主催者と同視し得る立場にあったということもできないのであるから,その余の争点については判断するまでもなく,本件事故について被告が債務不履行責任又は不法行為責任を負うとする原告らの主張には理由がない。 2 結論よって,原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第9民事部 裁判長裁判官佐藤達文 裁判官小野寺優子 裁判官松波卓也

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