- 1 -主文被告人を死刑に処する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,二人暮らしのA(当時59歳)及び同人の実母B(当時81歳)を殺害して金品を強取しようと企て,平成19年6月11日午後8時30分ころ,岩手県一関市内のa寺庫裡において,第1Aに対し,殺意をもって,所携の包丁でその前胸部及び左側胸部等を突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,同人を肝刺創による出血性ショックにより死亡させて殺害し,第2Bに対し,殺意をもって,その頭部を灰皿で数回殴打し,前記包丁でその前頚部及び胸腹部等を突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,同人を左総頚動脈・椎骨動脈等損傷による失血により死亡させて殺害した上,A又はB所有の現金約15万円を強取した。 (証拠の標目)(注)括弧内の甲,乙の番号は証拠等関係カード記載の検察官請求番号を示す。 (省略)(争点に対する判断) 本件では,被告人が,包丁等を用いて,被害者らを殺害したこと,その後約15万円の現金を持ち去ったことについては争いがない。しかし,被告人は,最初から二人を殺害して金品を強取するつもりはなかったと述べ,弁護人も,被告人はAから侮辱されたことに激こうし,とっさに殺意を生じて,包丁でAを刺殺するとともに,これをBに見られたため,Bを殺害したものであって,財物奪取の意図は殺害後に生じたものであるから,被告人には殺人罪と窃盗罪が成立するにとどまる旨主張する。そこで,被害者両名を殺害した時点において被告人に強盗目的が認められるか検討する。 - 2 - 関係証拠等により容易に認められる事実(1)Aは,a寺の住職であり,BはAの母親であって,二人でa寺に居住していた。 被告人の実家はa寺の檀家であり,被告人自身,AやBと直接話したことはなかったものの,墓参りの際に に認められる事実(1)Aは,a寺の住職であり,BはAの母親であって,二人でa寺に居住していた。 被告人の実家はa寺の檀家であり,被告人自身,AやBと直接話したことはなかったものの,墓参りの際にa寺を訪れるなどしていた。 (2)被告人は,夫の父親が経営する会社が倒産し,夫が職に就けなかったり,職を転々としたりしたこともあり,平成12年ころから生活費等のためにクレジットカード会社などから借り入れをするようになった。平成17年8月ころには,夫やその両親には黙って当該債務を返済しようと,夫の叔母からの借入金200万円を原資にこれらを一括返済した。夫は平成17年9月ころには現在の勤務先に就職し,安定した収入を得るようになり,被告人もラーメン店でのパート勤務を続けて一定の収入を得ていたが,被告人はその後も消費者金融業者やクレジットカード会社からの借金を続け,本件犯行時点においては借入金額は合計約225万円となっていた。 被告人は夫やその両親らと共に6人で生活していたが,事件当時,被告人と夫で月35万円程度の収入があり,その他に夫の両親の年金収入から固定資産税や冠婚葬祭の費用を賄うことで間接的に一家の生活費を補っていた。 ところが,被告人は,平成18年春ころに夫の父親が肝臓がんで余命1年と診断されたことから,夫の父親が得ていた年金収入が得られなくなると不安を感じるようになった。加えて,平成19年5月ころには,夫から会社が倒産するかもしれない旨告げられ,被告人一家の家計が破たんするのではないかと不安を募らせるようになった。そして,被告人は,月々の消費者金融業者等への返済金額が合計約11万円となっており負担を感じていたことから,家計がひっ迫する前に被告人名義の借入れだけでも返済したいと考えるようになった。 (3)被告人は,平成19年6月上旬までに 業者等への返済金額が合計約11万円となっており負担を感じていたことから,家計がひっ迫する前に被告人名義の借入れだけでも返済したいと考えるようになった。 (3)被告人は,平成19年6月上旬までには他人から金銭を脅し取ることを考- 3 -えるようになり,同月8日には勤務先の飲食店から刃体の長さ約23.5センチメートルの包丁(以下「本件包丁」という)を持ち出し,自分の車,。 の助手席下に隠した。 被告人は,同月11日夜,その約2週間前にa寺にある父親の墓参りをした際にBが被告人に声をかけてくれたことを思い出し,Aがパチンコを趣味としており金銭を所持していると思われること,a寺はBとAの二人暮らしであることなどから,a寺に強盗に入ることを決意し,その際,両名を殺害することをも決意した。 被告人は,Bに電話をかけて相談に行く旨の連絡をした後,手みやげとし,,てフルーツゼリーを買って本件包丁及び手袋を入れた手提げかばんを持ち髪の毛を遺留しないよう頭にバンダナを巻いた上でa寺を訪問した。 (4)被告人は,a寺庫裡の居間に入り,B,Aと共にこたつを囲んだ。被告人は,Bに対し借金のことについて話すなどしていたが,Bが席を離れた後,手提げかばんの中に入れていた本件包丁を取り出してAの右腕をつかみ,判示第1部分の犯行に着手した。 また,被告人は,部屋に戻ってきたBに対し,判示第2部分の犯行に及んだ。 (5)被告人は,被害者両名が動かなくなったことを確認した後,物色行為をしようとしたところ,右手指に怪我をして出血していることに気付き,その場にあった輪ゴムを巻いて止血した。その後,持ってきた手袋を着けて本件現場の物色を開始した。被告人は居間の西側に続く8畳間,6畳間,10畳間のうち一番奥の10畳間にあった金庫様の金属製ストッカーを開け,中に入っ ムを巻いて止血した。その後,持ってきた手袋を着けて本件現場の物色を開始した。被告人は居間の西側に続く8畳間,6畳間,10畳間のうち一番奥の10畳間にあった金庫様の金属製ストッカーを開け,中に入っていた布団を引き出した上で,その奥にあったバッグ等を取り出し,その中から現金を発見して,これをポケットに入れた。被告人は,更に10畳間の押し入れにあった手提げ金庫,8畳間にある洋服だんすや引き出し,和だんすの引き出しなどの中身を確認し,居間に戻って,Bが倒れている横の茶- 4 -だんすの物色を行った。その間,被告人は,Aが居間から8畳間の方に動いたことに気付き,ひん死のAが被告人の視界に入らぬよう,近くにあった長座布団を掛けた。また,被告人は,その右手指から出血が続いていたため,その血液から自己の犯行が発覚することを恐れ,他人の血液を混合することで血液の鑑別ができなくなるのではと考えて,Bの体から流れ出てできた血だまりに手袋を浸した上で物色行為を続けるなどした。 (6)Aは,前胸部から肝臓を貫く深さ約13センチメートルの刺創と左側胸部から横行結腸に達する深さ約13センチメートルの刺創を負い,肝刺創による出血性ショックにより死亡した。 Bは,前頚部に深さ約13.5センチメートルの刺創を負ったほか,胸腹部等にも刺創を負うなど多数の負傷をし,左総頚動脈・椎骨動脈等損傷による失血により死亡した。 殺害時における強盗目的の有無について(1)ア以上のとおり,被告人は,強盗殺人を行うことを決意し,その目的でa寺を訪問したこと,実際に当初計画したとおり被害者両名を殺害し,金品を奪取していること,被害者両名への殺害行為後,速やかに物色行為に及んでいることが認められるのであって,これらの事実によれば,被告人がa寺訪問以前に決意した被害者両名を殺害して金 両名を殺害し,金品を奪取していること,被害者両名への殺害行為後,速やかに物色行為に及んでいることが認められるのであって,これらの事実によれば,被告人がa寺訪問以前に決意した被害者両名を殺害して金員を得るという強盗殺人の計画に基づいて本件犯行を行ったことが強く推認される。 イまた,被告人は,逮捕直後にはAが「やらせろ」などと言ってきたため,,殺害したなどと虚偽の弁解をしていたが逮捕翌日には当該供述を撤回し金を取ろうという気持ちで被害者らを殺害した旨の供述をするに至ってお,。 ,り最終的にもその旨の内容の供述をしていたことが認められるすると被告人は,Aの言動など自己に有利な主張を続けながらも,この点については一貫して自己に不利益な事実を認めていたと認められるのであって,少なくともこの点についての捜査段階での被告人の供述には不自然なとこ- 5 -ろはなく,信用性が高いということができる。 (2)これに対し,被告人は,当公判廷において,Aの近くに座ったところ,Aの体格が想像より大きかったことから強盗の犯意を完全に喪失した,被害者らを殺害したのは,Aから「金はあるけど貸されないな。Cは体売って男から金もらってた。おめも,その血を引いているんだから,体で金稼げ」と。 言われ,被告人が子供のころ母親であるCと伯父が抱き合っている場面や,伯父と一緒にいた母親が現金を手にしていたのを目撃していたこともあって,Aに対し激こうしたからである旨供述する。 (3)ア検察官は,被告人の母親が男性と性的関係を持ち,金銭を得ていたとの事実自体がないこと,住職という社会的地位を有し,地域住民の信頼を得ていたAの言動として非常識,不合理であること,被告人が,それまでほとんど面識のなかった被害者両名に300万円もの借金を申し込むこと自体不自然であること, という社会的地位を有し,地域住民の信頼を得ていたAの言動として非常識,不合理であること,被告人が,それまでほとんど面識のなかった被害者両名に300万円もの借金を申し込むこと自体不自然であること,被告人の捜査段階での供述が変遷を重ねており,信用性が低いことを指摘し,Aによる侮辱的発言は存在しなかったと主張する。 イこの点,被告人の母親は,被告人の伯父と抱き合うなどしたことはないし,性的関係はなく,金銭のやりとりもしたことがない,被告人から逮捕後「10才~20才前までは,どちらかというと母さんのことを,あの事が原因で,けいべつしてました」という手紙を受け取ったが,そこに記載されている「あの事」についての心当たりは一切ない旨証言し,被告人の伯父も同趣旨の証言をする。 これらの証言内容については,被告人の母親及び伯父の名誉や社会的評価に深く関わる事項であって,その信用性については慎重に判断する必要があるところ,上記手紙に記載されている「あの事」について,これが被告人の母親の男女関係や性的行動を示す文言は同手紙にはなく,同人自身も心当たりがないと供述しながら,これが同人の男女関係のことを言って- 6 -いると思った旨供述するなど,その供述には不自然な点が認められるし,同人から被告人への返信の手紙においても「あの事」について問いただすなどしておらず,そのことについての同人の説明も要領を得ないものであって,これも不自然とみる余地がある。他方,被告人は,母親が伯父と洗,,面所の肥料袋のような袋の上で横になって抱き合っているのを見た後日,,被告人の祖母にこのことを話したところ祖母が母親や伯父らを呼び出し被告人にその目撃内容を話させるなどした,別の機会に金銭のやりとりをするところも見たなどと具体的に供述しているところ,被告人の母親が夫に 人の祖母にこのことを話したところ祖母が母親や伯父らを呼び出し被告人にその目撃内容を話させるなどした,別の機会に金銭のやりとりをするところも見たなどと具体的に供述しているところ,被告人の母親が夫に先立たれて夫の母親と子供らと暮らして男手がなく,伯父が被告人宅の農作業を手伝いに来ていた当時の状況などからすれば,被告人が供述する内容がそれ自体としておよそ不自然であるとまではいうことができない。 そうしてみると,被告人の母親や伯父の上記証言によっても,両名間の性的関係の存在について,これがなかったと断定することは困難である。 ウまた,被告人が借金の返済資金をどうしても得たいと思っていた当時の状況からすれば,被告人がわらにもすがる思いで借金の申し込みをすることや,そのような申し出を非常識と考えるなどしたAにおいて,被告人を非難したり,非難が高じた内容の言葉を述べることがあったとしても,それ自体が一概に不自然であるとはいえないし,被告人の捜査段階の供述についても,供述調書中には前記(1)イのように一貫性があり信用性が高いと認められる部分もあることに加え,上記のとおり,被告人の母親と伯父との関係について否定できないことを前提とすれば,Aから侮辱的な発言をされたと逮捕後一貫して述べている供述部分について,その信用性を否定することは困難であるといわざるを得ない。その他の検察官指摘の事情に照らしても,Aによる侮辱的な発言があり得ないとまではいえない。 そうすると,この点に関する被告人主張の事実が存在しないと断ずるにはなお合理的な疑いが残るものといわざるを得ない。 - 7 -(4)しかし,上記事実を前提としても,被告人がいったん強盗殺人の意思を完全に喪失した後で,Aの言動に激こうして改めて殺意を生じたとの被告人の供述は極めて不自然,不合理というほかない - 7 -(4)しかし,上記事実を前提としても,被告人がいったん強盗殺人の意思を完全に喪失した後で,Aの言動に激こうして改めて殺意を生じたとの被告人の供述は極めて不自然,不合理というほかない。 すなわち,Aによる上記言動があったものとしてその内容を考慮しても,その発言のみによって,いったんは被害者両名に対する強盗殺人の意思を完全に失っていた被告人に殺意を抱かせるに十分なものとは考えられない。被告人の供述によれば,Aによる発言の後,これに口頭での抗議などをすることなく,直ちに持参した手提げかばん内の本件包丁をつかんでAを刺したものであるところ,相手の言葉に立腹した者の行動として明らかに常軌を逸しており,不合理極まりないものである。このような被告人の行動は,被告人の供述する心理状態とは相容れないものというほかなく,むしろ,Aに対する殺害の意図が持続していたことを示すものということができる。 また,被告人は,Aに対してのみならず,逃げたり防御しようとするBに対しても執ように攻撃を加えており,さらには,被害者両名を殺害後,自分の血が証拠として残らないようにBの血だまりに手袋を浸すなど冷静に物色行為を行っているのであって,Aの言葉に激こうして殺意を抱いた者の行動としては極めて不自然である。 (5)被告人は,捜査段階においては前記のとおり,殺して金を取ろうと考えて殺害した旨供述しているところ,被告人は,これらの公判供述と異なる調書が作成された理由について,捜査官に対しても,かっとなって殺害したもので,金を取ろうと思って殺害したものではない旨説明してもそのような調書を作ってもらえなかった,文章も巧みだったので「ああそうなのかな」と,も思って作成された調書に署名したなどと述べる。 しかし,これらの供述調書は「和尚さんからそのような小馬鹿にした もそのような調書を作ってもらえなかった,文章も巧みだったので「ああそうなのかな」と,も思って作成された調書に署名したなどと述べる。 しかし,これらの供述調書は「和尚さんからそのような小馬鹿にしたよ,うな態度をとられたのでなければ,和尚さんを殺そうとは思わなかったと思います。一方で,私が和尚さんからお金を奪い取ろうと思って和尚さんを包- 8 -丁で刺して殺したということも,間違いありません。私は,その時,和尚さんを殺してお金を奪い取りたいという気持ちがなかったら,母のことを言われて小馬鹿にしたような態度をとられたからといって,和尚さんを包丁で刺して殺すまでのことはしなかっただろうと思います」などと強盗の犯意に。 ついて詳細に記載されているもので,その内容に誤解が入る余地のないものであるまた被告人は調書の作成時にBを殺害した際の心情に関してま。 ,,「た,お金を手に入れて逃げて捕まらないようにするには,Bさんを殺すしかありませんでした」という記載に対して,そんなに冷静な気持ちではなかったなどと訂正を申し立てていることなどからすれば,被告人が,調書作成時において,被害者らを殺害した際の心情について,調書の内容を理解した上で署名等をしたことが認められるのであって,被告人の説明は合理的とはいえない。 (6)以上からすれば,本件犯行着手前に,強盗殺人の犯意は喪失しており,Aの言動に激こうしたことから被害者らを殺害するに至ったものであるとする被告人の公判供述は,到底信用することができない。 上記判示のとおり,Aによる侮辱的な言動を否定するにはなお疑いが残るといわざるを得ないものであり,これを前提とすれば,そのようなAの言動が,多少なりとも被告人による本件犯行着手の契機となったことを否定することはできないが,これをもって被告人 するにはなお疑いが残るといわざるを得ないものであり,これを前提とすれば,そのようなAの言動が,多少なりとも被告人による本件犯行着手の契機となったことを否定することはできないが,これをもって被告人が,被害者らを殺害する際に,当初の目的に基づいて,金員を奪うために被害者らを殺害したとの推認を覆すものではなく,被告人が被害者らを強盗目的で殺害したことを優に認めることができる。 (法令の適用)(省略)(量刑の理由) 本件は,被告人が,夜間に,住職及びその母親から金員を強取しようと企てて- 9 -その寺を訪れ,同人らを殺害し,現金約15万円を強取した,2名に対する強盗殺人の事案である。 本件犯行態様等(1)犯行の計画性被告人は,本件犯行日以前から犯罪行為をしてでも借金を一括返済するための金が欲しいと考え,パート先から本件包丁を持ち出して用意するなどしていたが,本件当日,約2週間前にa寺でBと話したことを思い出して,同所なら大金があるのではと思い,強盗に行こうと考え,その犯行を遂げるた。 ,めに住職のAとその母Bを殺害することも考えたというのである被告人はこの考えを実行に移すために,本件包丁を凶器として使用することとし,前記認定のとおり,自己の犯行の発覚を防ぐため手袋を持ち,さらにはバンダナを巻き,購入した手みやげを持って訪問客を装うなどして,確実に遂行できるように準備を進めた上で,本件犯行に及んだものであって,その計画性は相当高度である。 (2)犯行態様ア被告人の被害者両名に対する殺害行為の状況は概要次のとおりである。 被告人は,Bが席を離れてAが一人になった際に,Aに抵抗する間も与えずに,Aの腕をつかんで引き寄せ,鋭利で殺傷能力が高い本件包丁でその前胸部を刺した。その傷は肝臓を貫く約13センチメートルにも及ぶ傷であ は,Bが席を離れてAが一人になった際に,Aに抵抗する間も与えずに,Aの腕をつかんで引き寄せ,鋭利で殺傷能力が高い本件包丁でその前胸部を刺した。その傷は肝臓を貫く約13センチメートルにも及ぶ傷であり,Aは倒れ込んだ。 被告人は,さらに,部屋に戻ったBがAの異変に気付いて同人のそばに近付こうとするや,その後頭部をめがけ,同所にあった灰皿をつかんで複数回振り下ろした。被告人は,部屋中を必死で逃げ回るBを執ように追いかけ,上記灰皿で後頭部を殴り続けた。その殴打の強度はBの後頭部に,皮膚とその下の組織との結合が断たれる損傷が広範囲に生じるほどのものであった。被告人は,負傷しながらも反撃しようとするAをたたきはらっ- 10 -た上,Bに更なる攻撃を続け,本件包丁を手に取って,必死に逃げるBの前に回り込み,抵抗するBの首や胸,背中を繰り返し突き刺して,Bを絶命させた。このほかにも,Bの身体には,左手に切創及び表皮剥奪が見られ,また右手にも腕前面に貫通する刺創があるなど多数回に及ぶ刺突行為を行ったことが認められる。 さらに,被告人は,Bを殺害した後,最初の胸への刺突行為等によりもはや立ち上がることができないAが,最後の力を振り絞って電話機に手を伸ばしているのに気付き,電話機を取り上げて,とどめとしてAの左側胸部を深く刺したというのである。 このように,被告人の被害者両名に対する殺害行為は,極めて執ようであり,被害者両名を確実に殺害しようとする断固たる意思に基づきこれを貫徹したものと評価するほかない,冷酷非情なものである。他人の生命を一顧だにしないまさに鬼畜の所業以外のなにものでもない。Aに対する度重なる刺突行為や,高齢で身を守るすべもないまま必死で逃げようとするBに対する情け容赦のない一方的な攻撃の非情さは筆舌に尽くしがたい。 イさらに,被告人 畜の所業以外のなにものでもない。Aに対する度重なる刺突行為や,高齢で身を守るすべもないまま必死で逃げようとするBに対する情け容赦のない一方的な攻撃の非情さは筆舌に尽くしがたい。 イさらに,被告人は,被害者両名が動かなくなったと見るや,殺害現場である居間のみならず,その西側に続く10畳間及び8畳間に入り,金庫,押し入れや家具等を開けて金品を探すといった執ような物色行為に及んだものであり,Aがいまだ絶命せず,目を開け閉めしていることに気付きながらも,Aの上半身に長座布団を掛けた上で物色を続けたばかりか,さらには自らの血が証拠として残らないように,Bの体から流れ出て溜まっている大量の血の中に手袋を浸すことまでしながら物色行為を続けているのであって,本件犯行の執ようさ,非道さや被告人の犯行完遂に向けた強固な意思を際立たせるものである。 (3)以上のとおり,本件犯行は,事前によく準備された計画性の高いものであるとともに,その犯行態様も殺害行為自体もそれに続く金品の物色行為につ- 11 -いても,極めて悪質,非道というほかなく,その非人間性に戦慄を覚えるほどのものである。 結果の重大性(1)犯行の結果は,被告人と特に深い交際もなかった被害者2名の尊い生命が一夜にして奪われるという極めて重大なものであることは論を待たない。 Aは,父親が他界した後,a寺の住職としての職に就き,子供はいないながらも地域の小学校への寄付を行うなど地域住民らとの付き合いを大切にし,また,家族の長兄として親族らの中心となって,母であるBと協力しながら,a寺を守っていた。 また,Bは,81歳という高齢ではあるが,膝が痛むほか大きな病気もなく,先代住職の妻として寺を守り,また,先代住職が他界した後も住職を継いだ息子Aを支えながら過ごしていた。Bは,a寺で平和に暮らし また,Bは,81歳という高齢ではあるが,膝が痛むほか大きな病気もなく,先代住職の妻として寺を守り,また,先代住職が他界した後も住職を継いだ息子Aを支えながら過ごしていた。Bは,a寺で平和に暮らし,独立した息子たちが家族とともに帰省するのを楽しみに暮らしていたのである。 被害者らは,檀家の娘である被告人が相談に来たため,親切心で家に迎え入れたのであって,その生命を絶たれなければならない理由は一切なく,被害者らが本件犯行によって受けた肉体的苦痛はもとより,突如の凶行による驚愕,絶命に至るまで感じた恐怖,絶望感は察するに余りある。 (2)そして,Bの二男(Aの弟)は「なぜ母や兄がこのような惨い殺され方,をされなければならなかったのかと,悔しくて,悔しくて仕方ありませんでした」と述べ,その妻も当公判廷においてBに対する思慕の情を述べるとともに被告人に対する峻烈な処罰感情を述べている。Bの三男(Aの弟)も,「一生懸命,亡き父親や,私たち兄弟を育て,地域の皆さんのご先祖様を守ってきた母とA兄貴が何故殺されなければいけないのか「絶対あなたを許」しません」などと述べ,Bの孫も「できることなら,被告人がばあちゃんとおじちゃんにやったのと同じように,同じ数だけ被告人を刺して,ばあちゃんとおじちゃんの苦しみを被告人本人にも味あわせてやりたい」と述べるな- 12 -ど,遺族らはいずれも峻烈な処罰感情を述べているのである。被害者ら遺族の被告人に対する刑罰が死刑以外あり得ないという処罰感情は,本件の結果や犯行状況に照らせば,被害者らの無念さを代弁するものとしても,十分に理解できる。 本件犯行に至る経緯及び動機(1)被告人は,上記のとおり消費者金融業者等からの借金があり,返済に負担を覚えていたこと,家計がひっ迫する危険性があることなどから自らの借金 ,十分に理解できる。 本件犯行に至る経緯及び動機(1)被告人は,上記のとおり消費者金融業者等からの借金があり,返済に負担を覚えていたこと,家計がひっ迫する危険性があることなどから自らの借金だけでも一括返済する資金が欲しいと思って,本件犯行を決意したというのであって,その動機は安易かつ身勝手で酌量の余地はない。 (2)この点について,弁護人は,借金等によって追い込まれていた心理状態を酌量すべきである旨主張し,被告人も,生活費等のため借金をしており返済したかった旨供述する。 しかし,被告人は,平成17年8月には夫の叔母からの借入金を使ってクレジットカード会社からの借金については精算していたというのであって,同年9月以降の被告人と夫が得ていた収入の合計は少なくとも月35万円はあったこと,このうち,被告人はパチンコ代に,多いときは,1か月10万円弱,夫は10万円以上を費やしたこともあったことからすれば,親戚からの借入れについての返済を考慮しても,生活をするために収入以上の金銭が必要となる事情は常識的には考えがたく,被告人名義の借金のうち相当部分は,被告人夫婦のパチンコを原因とするものといわざるをえない。 さらに被告人は,借金等に困窮したという認識を持ちながらも,家族らに家計の状況について相談したり,パチンコをやめたり,節約をするなど家計の見直しを考えていた形跡は認められず,被告人が借金等によって精神的に追い込まれていたとしても,それはまさに自らが管理すべき自分と夫の遊興費を含めあまりにも無計画な支出を続けていた当然の結果というべきであって,それを何ら関係のない被害者らに対する強盗殺人という凶行によって解- 13 -消しようと決意したその動機は全くもって身勝手というほかないのであり,弁護人の主張は採用できない。 犯行後の情状等 それを何ら関係のない被害者らに対する強盗殺人という凶行によって解- 13 -消しようと決意したその動機は全くもって身勝手というほかないのであり,弁護人の主張は採用できない。 犯行後の情状等(1)上記認定のとおり,被告人は,被害者らを殺害後,手袋を着用したり,手袋をBの血に浸すなどして証拠を残さないように物色し,犯行後,本件現場から離れたところで着衣を替え,さらに,自らの指紋遺留の可能性を案じるや,同所には被害者らの亡骸がそのまま残った状態であることを知りつつ,,,自らの犯行発覚を妨げたい一心で自らが手を下した惨劇の現場に再び戻り指紋を残したと考えた部分を拭き取ったり,自らが素手で触れた電話機の受話器,子機,灰皿を持ち去るなどの念入りな罪証隠滅行為に及んでいる。 そればかりか,事件後,逮捕されるまでの約半年間,パチンコをするなど従前と同じ生活を平然と送っており,警察がDNA捜査の資料を集めているのを察知するや,警察の捜査から逃れるために他人のDNAを警察に提出しようと,他県まで出掛けて,街頭調査を装って第三者のだ液を採取し,これ,。 を捜査機関に提出するなど大胆な罪証隠滅行為にまで及んでいるのであるこのように,被告人の本件犯行後の行動は,重大,凶悪犯罪を犯して良心の呵責を感じる人間のものとは到底いえず,単に自己の犯行の発覚を恐れ,その防止に汲々としていたと評価するほかないものである。 ,,,(2)被告人は逮捕後被害者らを殺害したこと自体は一貫して認めるものの逮捕当初はAが性的な素振りを見せたため殺害したなどと,虚偽の弁解を行うなどしており,その後最終的に強盗目的の殺害や凶器の準備等,事実を認めるに至ったものの,当公判廷において,各殺害時に強盗目的はなかった旨弁解するなど,なお責任回避的な姿勢を見せており,自己の罪責 うなどしており,その後最終的に強盗目的の殺害や凶器の準備等,事実を認めるに至ったものの,当公判廷において,各殺害時に強盗目的はなかった旨弁解するなど,なお責任回避的な姿勢を見せており,自己の罪責をありのままに見つめ,真しに反省しようとする態度は十分とはいえない。 また,本件は,突如,山間部にある小さな町で生じた事件であって,地域の信頼を集める住職一家が惨殺された事件として,被害者遺族のみならず,a寺の檀- 14 -家や,地域住民に与えた恐怖,不安は大きく,社会的影響も大きい。 以上検討した事情,特に犯行の計画性,結果の重大性,行為態様や犯行後の情状の悪質性に鑑みれば,被告人の刑事責任は極めて重いというべきであり,前記のとおり一部検察官の主張とは異なる認定部分があるとはいえ,極刑をもって臨むほかないとする検察官の意見には十分な理由がある。 もっとも,死刑が真にやむを得ない場合において選択すべき究極の刑罰であることに鑑みると,被告人に対し死刑をもって臨むか否かについては慎重に検討を加える必要があることから,次のような事情について,被告人のために斟酌する余地があるかについて,更に検討しておくこととする。 (1)まず,前記判示のとおり,本件強盗殺人の計画性が相当高度のものであったとはいえ,被告人は,事前にa寺における金銭の有無や在りかについて把握したり,下見をしたりはしていないなど,その計画には綿密とまではいえない面も見られるのであり,計画性の程度には一定の限度があるものということができる。 また,被告人は,本件犯行現場に赴くまでの間,いったんは反対方向へ向かったり,途中で停止するなど本件犯行の実行を逡巡していた形跡が認められる。そして,a寺に到着後も直ちには着手せず,Bが席を外した後もAと。 ,会話をした後に本件犯行に及んだ ったんは反対方向へ向かったり,途中で停止するなど本件犯行の実行を逡巡していた形跡が認められる。そして,a寺に到着後も直ちには着手せず,Bが席を外した後もAと。 ,会話をした後に本件犯行に及んだというのであるこれらの事実からすれば被告人が本件計画を実行に移すかどうかについてかなり逡巡をしていたと評価することができる。そして,前記判示のとおり,殺害前に,Aが被告人に対して侮辱的な言葉を投げかけた可能性が証拠上否定できない以上,刑事訴訟の原則に従い,Aがかかる言動をしたことを前提として本件を評価することになるが,これが少なくとも本件犯行着手の契機となったことについては考慮する必要がある。 (2)被告人は,犯行に至る経緯として,借金の返済資金を得るためであり,この借金内容については被告人夫婦のパチンコへの浪費などが主たる原因であ- 15 -って,酌量すべき事情とならないことは上記のとおりである。しかし,被告人の家族状況を考慮するに,被告人は,夫の父親が経営する会社が倒産した際に生じた借金について夫が連帯保証人となっていることについても気に病んでいたところ,その点について夫の父親と夫とで話し合うように求めていたにも関わらず,夫は仕事で疲れていることなどを理由に被告人の訴えに耳を貸さず,連帯保証している借金の額についてすら無関心で,パチンコに多額の金銭を消費する状態であった。すると,被告人が本件の借金について相談せず,自分でどうにかせざるを得ないと考えたその心情自体は理解できないものではない。 (3)被告人の犯行後の行為,当公判廷での供述態度については,責任回避的な言動が見られることは前に指摘したとおりであるが,被告人は,今更ながらではあるが謝罪の気持ちを表し「命をもって償えというのであれば私はそ,うしようと思います」などとその心情 ついては,責任回避的な言動が見られることは前に指摘したとおりであるが,被告人は,今更ながらではあるが謝罪の気持ちを表し「命をもって償えというのであれば私はそ,うしようと思います」などとその心情を述べ,毎日被害者らの冥福を祈っているというのであって,被告人には反省悔悟の情が皆無であるということはできない。本件の結果の重大性,被害者ら遺族の心情を考慮すれば,これらを過大に評価すべきでないことは当然であるが,なお考慮すべき事情ではある。 (4)被告人に前科前歴はない。被告人は,夫も証言するように,本件犯行に至る44年間の間,何ら犯罪を行ったことがないばかりか,昭和63年に婚姻してから,娘をもうけた後,夫の父親の経営する会社の倒産,夫の無職など,,,の困難な事態を迎えながらもパートをして家計を助け家事育児をこなし妻として,また母として犯罪とは無縁な生活を送っていたのである。また,パートにおいても,店長的な責任のある仕事を任されるなど,その稼働態度もまじめで誠実であったことが伺われる。 そうすると,被告人の反社会的性格及び犯罪的傾向が根深く更生可能性がおよそないと断ずることまではできない。 - 16 - 以上を踏まえて,被告人の量刑について再度検討する。 前記8のとおり,被告人に有利に考慮すべき事情も一定程度あり,これらを十分考慮する必要はある。 しかしながら,前記判示のとおり,本件犯行の計画性が相当高度であったことや,本件犯行着手時に強盗の目的を持っていたことは明らかであるし,その後の犯行態様や被告人の行動にも照らせば,Aの言動が本件犯行着手の契機になったとしても,それは事前に意図していた計画を実行に移すきっかけ程度の意味を持つに過ぎないというほかない。 そして,無関係な二人の生命が被告人の自己中心的で短絡的な動機により奪われて 着手の契機になったとしても,それは事前に意図していた計画を実行に移すきっかけ程度の意味を持つに過ぎないというほかない。 そして,無関係な二人の生命が被告人の自己中心的で短絡的な動機により奪われてしまったことやその殺害行為の残虐性,執ようさ,その後の人倫にもとる行動など,本件の際立った悪質性,非人間性を前にしたとき,上記の被告人のために酌むべき諸事情,とりわけ,被告人のこれまでの生活歴からかいま見られる社会性とそこから期待できる更生可能性を最大限斟酌したとしても,やはり,被告人の刑事責任はあまりにも重い。 そうしてみると,本件については,罪刑均衡の見地からも,一般予防の見地からも,被告人に対して極刑をもって臨むほかない。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑死刑)平成20年10月8日盛岡地方裁判所刑事部裁判長裁判官佐々木直人裁判官小野寺真也- 17 -裁判官大槻友紀
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