令和5(ワ)70291 発明の相当の対価及び逸失利益等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年2月14日 東京地方裁判所
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令和6年2月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(ワ)第70291号発明の相当の対価及び逸失利益等請求事件口頭弁論終結日令和5年12月15日判決 原告 A 被告ヤマハロボティクスホールディングス株式会社同訴訟代理人弁護士中村勝彦丸住憲司 本間 洵 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、160万円を支払え。 第2 事案の概要本件は、被告の元従業員である原告が、被告の在職中に職務上行った別紙特許目録記載の各特許に係る各発明(以下「本件各発明」という。)について、 特許を受ける権利をいずれも被告に承継させたとして、被告に対し、特許法35条3項(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下、同項につき同じ。)に基づいて、上記承継に係る相当の対価の一部として160万円の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特 記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者ア原告は、昭和59年4月3日に被告(当時の商号は株式会社新川)に入社し、平成26年3月31日に被告を退職した、被告の元従業員である。 イ被告は、産業用ロボット、生産ラインシステム、その部品及び付属品の製造並びに販売等の事業を営む会社及びこれに相当する事業を営む外国会 社の株式又は持分を所有することにより、当該会社の経営管理及びこれに付帯 用ロボット、生産ラインシステム、その部品及び付属品の製造並びに販売等の事業を営む会社及びこれに相当する事業を営む外国会 社の株式又は持分を所有することにより、当該会社の経営管理及びこれに付帯する業務を行うことを目的とする会社である(弁論の全趣旨)。 なお、被告は、令和元年7月1日、「株式会社新川」から「ヤマハモーターロボティクスホールディングス株式会社」に商号を変更し、さらに、令和3年1月1日、現在の「ヤマハロボティクスホールディングス株式会 社」に商号を変更した。 (2) 職務発明及び特許を受ける権利の承継原告は、被告の従業員であった期間に、被告を使用者とする職務発明として別紙特許目録記載の各特許に係る本件各発明を行い、遅くとも別紙特許目録記載11の特許の出願日である平成13年11月12日までに、被告に対 し、本件各発明に係る特許を受ける権利を承継させた(弁論の全趣旨)。 (3) 本件各特許被告は、本件各発明につき、別紙特許目録記載のとおり、同目録記載の特許(以下、目録の順に、「本件特許1」、「本件特許2」などといい、これらの特許を併せて「本件各特許」という。)の特許出願をし、本件各特許に係 る特許権(以下「本件各特許権」という。)の設定登録を受けた。なお、本件各特許権は、別紙特許目録記載の各「特許料不納による消滅日」又は「存続期間満了による消滅日」に、それぞれ消滅した。(甲14ないし24)(4) 被告の新設分割ア被告は、令和元年5月27日、同年7月1日を効力発生日として、株式 会社新川(以下「本件新会社」という。)を新たに設立し、本件新会社に 対して被告が営む半導体製造装置及びその技術を応用した電子精密機器等の研究・開発・設計・製造・販売及び保守サービスに関する事業(以下 以下「本件新会社」という。)を新たに設立し、本件新会社に 対して被告が営む半導体製造装置及びその技術を応用した電子精密機器等の研究・開発・設計・製造・販売及び保守サービスに関する事業(以下「本事業」という。)と当該事業に属する資産、債務、雇用契約その他の権利義務を承継させる旨の新設分割計画書(以下「本件計画書」という。)を作成し、本件計画書記載のとおり新設分割をした(以下「本件新設分割」 という。)。なお、本件特許2、3、5ないし8、10、11は、いずれも、半導体製造装置に関する特許であり、これらの特許に関する事業は、本事業の範囲に含まれる。(乙1)イ本件計画書には、次の事項が記載されている(乙1。なお、「甲」は被告を、「乙」は本件新会社を指すものである。以下同じ。) 「第3条(承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務)(1) 乙は、第6条に定める分割期日において、甲から、…別紙2「承継権利義務明細表」記載の資産、債務、雇用契約その他の権利義務…を承継する。 (2) 本件分割後、甲は、乙に承継される債務すべてについて、免責的 債務引受の方法により承継し、本件分割後、甲は当該債務を負わない。」ウ本件計画書に別紙2として添付された承継権利義務明細表は、本件新会社が被告から承継する権利義務の範囲を次のとおり定めている(乙1)。 「本件分割により、乙が甲から承継する本件権利義務の明細は、乙の成 立の日において本事業に属する次に掲げる権利義務とする。……2.承継する負債(1) 流動負債買掛金、未払金、未払費用、…その他流動負債… 3.承継するその他の権利義務等 (1) 本事業に主として従事する甲の従業員との雇用契約上の地位及びこれに付随する 動負債買掛金、未払金、未払費用、…その他流動負債… 3.承継するその他の権利義務等 (1) 本事業に主として従事する甲の従業員との雇用契約上の地位及びこれに付随する一切の権利義務当社は、分割期日において、当会社と従業員との間で締結している雇用契約に基づく権利義務を新設会社に全て承継し、…出向させるものとする。」 エ被告による本件新設分割の手続被告は、令和元年5月29日、会社法810条2項に定める事項を官報に公告し、かつ、被告の定款の定めに従い、同事項を同法939条1項3号に定める電子公告の方法により公告した(乙1、10、11、弁論の全趣旨)。 2 争点⑴ 被告の原告に対する本件各発明に係る職務発明対価支払債務(以下「本件債務」という。)が本件新会社に承継されたか否か(争点1)⑵ 相当の対価の額(争点2)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件債務が本件新会社に承継されたか否か)について(被告の主張)⑴ 仮に、本件新設分割の効力発生日より前に、被告が原告に本件債務を負っていたとしても、本件債務は本件新設分割により全て本件新会社に承継されたから、被告は本件債務の債務者ではない。 すなわち、被告は、自らの商号を株式会社新川からヤマハモーターロボティクスホールディングス株式会社に変更して、自らは、いわゆる持株会社となり、被告の子会社として新たに設立した本件新会社に本事業及びこれに関連する資産・負債等を承継させることを目的として、本件新設分割を行った。 このような本件新設分割の目的に照らすと、承継の対象となる本事業の 範囲を広く解するべきであって、その範囲が持株会社としての事業を除く全 ての事業であることは明らか 分割を行った。 このような本件新設分割の目的に照らすと、承継の対象となる本事業の 範囲を広く解するべきであって、その範囲が持株会社としての事業を除く全 ての事業であることは明らかであるから、本件各特許に関する事業もこれに含まれる。 そして、本件債務は、本件計画書に別紙2として添付された承継権利義務明細表2.(1)の「流動負債」又は同3.(1)の「本事業に主として従事する甲の従業員との雇用契約上の地位及びこれに付随する一切の権利義務」に含 まれるから、本件計画書の効力により、本件新会社に承継されたといえる。 ⑵ これに対し、原告は、本件特許1、4及び9が、半導体装置に関する特許であり、半導体製造装置に関するものではないから、本事業の範囲に含まれない旨主張するものと理解できる。 しかし、本件特許1及び4は、半導体装置に関する発明のみならず、ワイ ヤボンディング方法、すなわち、半導体製造装置の動作プロセスに関する発明が含まれている特許であるし、本件特許9は、本件特許3に係る半導体製造装置の動作プロセスを用いて成形することが想定された半導体装置に関する特許であるから、これらの特許に関する事業も本事業に含まれるものである。 ⑶ したがって、本件新設分割より前に被告が本件債務を負っていたとしても、同債務は本件新設分割によって本件新会社に承継されているため、被告は原告に対して、本件債務を負っているとはいえない。 (原告の主張)⑴ 本件債務は原告と被告との間の雇用契約に基づいて発生したものであるか ら、本件新設分割により本件債務が本件新会社に承継されることはない。 この点について、被告は、本件債務が本件計画書に別紙2として添付された承継権利義務明細表3.(1)の「本事業に主として従事する甲の従業 本件新設分割により本件債務が本件新会社に承継されることはない。 この点について、被告は、本件債務が本件計画書に別紙2として添付された承継権利義務明細表3.(1)の「本事業に主として従事する甲の従業員との雇用契約上の地位及びこれに付随する一切の権利義務」に含まれると主張するが、同3.(1)の規定は、本件新設分割時に被告とその従業員の間で締結 している雇用契約に基づく権利義務を本件新会社に承継させる趣旨の規定で あり、被告の主張は理由がない。 ⑵ また、個別契約に基づく債務の承継には、債権者の個別の同意が必要であるところ、原告は被告から本件新設分割について通知を受けておらず、原告が債務の承継に同意した事実もない。 したがって、この点からしても、本件債務が本件新会社に承継されること はない。 ⑶ さらに、前提事実(3)のとおり、本件特許1、4及び9は、いずれも半導体装置の構造に関する特許であるから、本件特許1、4及び9の開発等は、「半導体製造装置及びその技術を応用した電子精密機器等の研究・開発・設計・製造・販売及び保守サービスに関する事業」すなわち本事業に含まれな い。 したがって、少なくとも、本件特許1、4及び9に関する本件債務が本件新会社に承継されることはない。 2 争点2(相当の対価の額)について(原告の主張) 本件各発明に係る特許を受ける権利を承継させたことにつき原告が受けるべき相当の対価の額は160万円を下らない。 (被告の主張)争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件債務が本件新会社に承継されたか否か)について⑴ 前提事実⑷アのとおり、本件においては、本件計画書により、本事業及び本事業に属する資産、債務、雇用契約その他の権利義務が被告から本 1 争点1(本件債務が本件新会社に承継されたか否か)について⑴ 前提事実⑷アのとおり、本件においては、本件計画書により、本事業及び本事業に属する資産、債務、雇用契約その他の権利義務が被告から本件新会社に承継される旨規定されていたところ、本件特許2、3、5ないし8、10、11は、いずれも半導体製造装置に関する特許であり、これらの特許に 関する事業は、本事業の範囲に含まれる。 また、証拠(甲14、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許1及び4の特許請求の範囲には、半導体装置の発明のみならず、半導体製造装置の動作プロセスであるワイヤボンディング方法の発明が記載されていると認められるから、本件特許1及び4に関する事業は、いずれも、「半導体製造装置…に関する事業」すなわち本事業に属する事業であると解釈することがで きる。 他方で、本件特許9は、半導体装置に関する発明であるものの、半導体装置は、半導体製造装置により製造されるものであり、証拠(甲16、22)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許9に係る発明の半導体装置は、本件特許3に係る発明の半導体製造装置により製造することができるものであると 認められる。このような事実に照らすと、本件特許9に係る事業も、本事業に属する事業であると解釈するのが相当である。 そうすると、仮に、本件新設分割時に被告が原告に対して本件債務を負っていたとしても、前提事実(4)イ、ウのとおり、本件債務は、被告から本件新会社に承継される「買掛金…その他流動負債」(本件計画書に別紙2とし て添付された承継権利義務明細書2.(1))に含まれるといえる。 そして、本件計画書には、本件新会社に承継される被告の債務は本件新会社に免責的引受けの方法により承継されると記載されているから、本件債務は された承継権利義務明細書2.(1))に含まれるといえる。 そして、本件計画書には、本件新会社に承継される被告の債務は本件新会社に免責的引受けの方法により承継されると記載されているから、本件債務は、本件新設分割により、その効力発生日に被告から本件新会社に免責的に承継されたといえ、被告が本件債務を負うものではないというべきである。 ⑵ これに対し、原告は、本件債務は原告と被告との間の雇用契約に基づいて発生したものであるから、本件計画書に別紙2として添付された承継権利義務明細表3.(1)の「本事業に主として従事する甲の従業員との雇用契約上の地位及びこれに付随する一切の権利義務」には含まれないから、本件新設分割により本件債務が本件新会社に承継されることはない旨主張する。 しかし、本件債務は、仮に上記の「本事業に主として従事する甲の従業員 との雇用契約上の地位及びこれに付随する一切の権利義務」に含まれないとしても、既に説示したとおり、同明細表2(1)の「買掛金…その他流動負債」に含まれることは明らかであるから、原告の上記主張は採用することができない。 また、原告は、本件債務は原告と被告との間の雇用契約に基づいて発生し たものであるから、原告の個別の同意を得ない限り、本件新設分割により本件債務が本件新会社に承継されることはない旨主張する。 しかし、新設分割は会社の営業の全部又は一部を新たに設立した会社に包括的に承継させる組織上の行為であり、会社分割に伴う権利義務の承継は、新設分割計画の定めに従うこととされ、これにより不利益を受ける債権者の 保護は、債権者異議手続により図られている(会社法764条、810条)。 本件において、被告は、前提事実(4)エのとおり、会社法810条2項に定める事項を官報及び被告の定款 を受ける債権者の 保護は、債権者異議手続により図られている(会社法764条、810条)。 本件において、被告は、前提事実(4)エのとおり、会社法810条2項に定める事項を官報及び被告の定款において定める電子公告の方法により公告しているから、同条3項により、本件新設分割について、原則として、債権者に対して各別に催告をすることは要しない。そして、本件全証拠によって も、本件債務について、上記と異なる取扱いをしなければならないような事情は何ら認めることができない。 したがって、本件新設分割により、本件債務は、債権者である原告の個別の同意を得ることなく、本件新会社に免責的に承継されたと認められるから、原告の上記主張を採用することはできない。 なお、原告は発明考案審査委員会の議事録等について文書提出命令を申し立てているところ(令和5年(モ)第84400号)、これは本件債務の債務者が被告であることを前提とした書証の申出であるといえ、本件の争点との関係でいずれの書証も取調べの必要性が認められないから、上記申立てを却下する。 2 結論 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 間明宏充 裁判官 間明宏充 裁判官 バヒスバラン薫 (別紙)特許目録 1 登録番号特許第3189115号 発明の名称半導体装置及びワイヤボンディング方法 出願日平成8年12月27日 出願人株式会社新川 登録日平成13年5月18日 特許料不納による消滅日平成26年5月18日 発明者A、B 2 登録番号特許第3333413号 発明の名称ワイヤボンディング方法 出願日平成8年12月27日 出願人株式会社新川 登録日平成14年7月26日 特許料不納による消滅日平成24年7月26日 発明者A、B 3 登録番号特許第3370539号 発明の名称ワイヤボンディング方法 出願日平成9年1月13日 出願人株式会社新川 登録日平成14年11月15日 特許料不納による消滅日平成26年11月15日 発明者A、B 4 登録番号特許第3455092号 発明の名称半導体装置及びワイヤボンディング方法 出願日平成9年10月27日 出願人株式会社新川 特許第3455092号 発明の名称半導体装置及びワイヤボンディング方法 出願日平成9年10月27日出願人株式会社新川登録日平成15年7月25日特許料不納による消滅日平成24年7月25日発明者 A、B 5 登録番号特許第3377747号発明の名称ワイヤボンディング方法出願日平成10年6月23日出願人株式会社新川登録日平成14年12月6日 特許料不納による消滅日平成22年12月6日発明者 A、B 6 登録番号特許第3377748号発明の名称ワイヤボンディング方法出願日平成10年6月25日 出願人株式会社新川登録日平成14年12月6日特許料不納による消滅日平成22年12月6日発明者 A 7 登録番号特許第3522123号 発明の名称ワイヤボンディング方法出願日平成10年9月30日出願人株式会社新川登録日平成16年2月20日特許料不納による消滅日平成23年2月20日 発明者 A、B 8 登録番号特許第3455126号発明の名称ワイヤボンデイング方法出願日平成11年3月2日出願人 A、B 8 登録番号特許第3455126号発明の名称ワイヤボンデイング方法出願日平成11年3月2日出願人株式会社新川登録日平成15年7月25日 特許料不納による消滅日平成21年7月25日発明者 A 9 登録番号特許第3370646号発明の名称半導体装置出願日平成12年6月2日 出願人株式会社新川登録日平成14年11月15日特許料不納による消滅日平成22年11月15日発明者 A登録番号特許第3347707号 発明の名称ボンディング装置用超音波ホーン出願日平成12年4月6日出願人株式会社新川登録日平成14年9月6日存続期間満了による消滅日平成2年4月6日 発明者 C、A 11 登録番号特許第3742332号発明の名称ワイヤボンデイング装置出願日平成13年11月12日出願人株式会社新川 登録日平成17年11月18日 特許料不納による消滅日平成23年11月18日発明者 A以上 主文 1月18日発明者A以上

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