主文 1 厚生労働大臣が平成22年12月24日付けで第3事件原告に対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分を取り消す。 2 厚生労働大臣が平成22年8月26日付けで第4事件原告に対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分を取り消す。 3 厚生労働大臣が平成22年10月25日付けで第5事件原告に対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分(申請疾病甲状腺機能低下症に係る部分に限る。)を取り消す。 4 厚生労働大臣が平成22年12月24日付けで第7事件原告に対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分を取り消す。 5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 6 訴訟費用は,第1事件原告に生じた費用の全部と被告に生じた費用の7分の1を第1事件原告の負担とし,第2事件原告に生じた費用の全部と被告に生じた費用の7分の1を第2事件原告の負担とし,第3事件原告に生じた費用の2分の1と被告に生じた費用の14分の1を第3事件原告の負担とし,第4事件原告に生じた費用の2分の1と被告に生じた費用の14分の1を第4事件原告の負担とし,第5事件原告に生じた費用の4分の3と被告に生じた費用の28分の3を第5事件原告の負担とし,第6事件原告に生じた費用の全部と被告に生じた費用の7分の1を第6事件原告の負担とし,第7事件原告に生じた費用の2分の1と被告に生じた費用の14分の1を第7事件原告の負担とし,その余の全費用を被告の負担とする。 事実 及び理由第1章請求 第1 第1事件 1 厚生労働大臣が平成22年8月26日付けで じた費用の14分の1を第7事件原告の負担とし,その余の全費用を被告の負担とする。 事実 及び理由第1章請求 第1 第1事件 1 厚生労働大臣が平成22年8月26日付けで第1事件原告に対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分を取り消す。 2 被告は,第1事件原告に対し,300万円及びこれに対する平成23年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 第2事件 1 厚生労働大臣が平成22年9月29日付けで第2事件原告に対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分を取り消す。 2 被告は,第2事件原告に対し,300万円及びこれに対する平成23年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第3 第3事件 1 主文1項と同旨 2 被告は,第3事件原告に対し,300万円及びこれに対する平成23年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第4 第4事件 1 主文2項と同旨 2 被告は,第4事件原告に対し,300万円及びこれに対する平成23年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第5 第5事件 1 厚生労働大臣が平成22年10月25日付けで第5事件原告に対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分を取り消す。 2 被告は,第5事件原告に対し,300万円及びこれに対する平成23年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第6 第6事件 1 厚生労働大臣が平成22年10月25日付けで第6事件原告に対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する 3年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第6 第6事件 1 厚生労働大臣が平成22年10月25日付けで第6事件原告に対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分を取り消す。 2 被告は,第6事件原告に対し,300万円及びこれに対する平成23年12月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第7 第7事件 1 主文4項と同旨 2 被告は,第7事件原告に対し,300万円及びこれに対する平成24年9月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2章事案の概要本件は,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」という。)1条の被爆者である原告らが,それぞれ被爆者援護法11条1項の規定による認定(以下「原爆症認定」という。)の申請(以下,併せて「本件各申請」という。)をしたところ,厚生労働大臣から本件各申請を却下する旨の処分(以下,併せて「本件各却下処分」という。)を受けたことから,被告に対し,本件各却下処分が違法であると主張して,その取消しを求めるとともに,国家賠償法1条1項の規定により,慰謝料各200万円及び弁護士費用各100万円並びにこれらに対する不法行為後である訴状送達の日の各翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。 第1 関係法令の定め 1 被爆者援護法の目的被爆者援護法の前文は,同法の目的について,次のとおり規定する。 「昭和二十年八月,広島市及び長崎市に投下された原子爆弾という比類のない破壊兵器は,幾多の尊い生命を一瞬にして奪ったのみならず,たとい一命を とりとめた被爆者にも,生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を残し,不安の中 び長崎市に投下された原子爆弾という比類のない破壊兵器は,幾多の尊い生命を一瞬にして奪ったのみならず,たとい一命を とりとめた被爆者にも,生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を残し,不安の中での生活をもたらした。 このような原子爆弾の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉を図るため,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律を制定し,医療の給付,医療特別手当等の支給をはじめとする各般の施策を講じてきた。また,我らは,再びこのような惨禍が繰り返されることがないようにとの固い決意の下,世界唯一の原子爆弾の被爆国として,核兵器の究極的廃絶と世界の恒久平和の確立を全世界に訴え続けてきた。 ここに,被爆後五十年のときを迎えるに当たり,我らは,核兵器の究極的廃絶に向けての決意を新たにし,原子爆弾の惨禍が繰り返されることのないよう,恒久の平和を念願するとともに,国の責任において,原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ,高齢化の進行している被爆者に対する保健,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ,あわせて,国として原子爆弾による死没者の尊い犠牲を銘記するため,この法律を制定する。」 2 被爆者被爆者援護法において,「被爆者」とは,次の(1)~(4)のいずれかに該当する者であって被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(被爆者援護法1条)。 (1)原子爆弾が投下された際に当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令で定めるこれらに隣接する区域内に在った者(同条1号。なお,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行令(以下「被爆者援護法施行令」という。)1条1項,別表第一は,上記の「政令で定めるこれ 又は政令で定めるこれらに隣接する区域内に在った者(同条1号。なお,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行令(以下「被爆者援護法施行令」という。)1条1項,別表第一は,上記の「政令で定めるこれらに隣接する区域」として,広島県a郡等の一部及び長崎県b郡の一部を規定している。)(2)原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間内に上記(1)の 区域のうち政令で定める区域内に在った者(被爆者援護法1条2号。なお,被爆者援護法施行令1条2項は,上記の「政令で定める期間」を,広島市に投下された原子爆弾(以下「広島原爆」という。)については昭和20年8月20日まで,長崎市に投下された原子爆弾(以下「長崎原爆」という。)については同月23日までとしており,同条3項,別表第二は,上記の「政令で定める区域」として,おおむね爆心地から2㎞以内の区域を規定している。)(3)上記(1)及び(2)に掲げる者のほか,原子爆弾が投下された際又はその後において,身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者(被爆者援護法1条3号)(4)上記(1)~(3)に掲げる者がそれぞれに記載された事由に該当した当時その者の胎児であった者(同条4号) 3 被爆者健康手帳被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,その居住地(居住地を有しないときは,その現在地)の都道府県知事(広島市又は長崎市にあっては,当該市の長(被爆者援護法49条)。以下同じ。)に申請しなければならず(被爆者援護法2条1項),都道府県知事は,同申請に基づいて審査し,申請者が前記2(1)~(4)のいずれかに該当すると認めるときは,その者に被爆者健康手帳を交付する(同条3項)。 4 被爆者に対する援護(1)健康管理都道府県知事は,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で 記2(1)~(4)のいずれかに該当すると認めるときは,その者に被爆者健康手帳を交付する(同条3項)。 4 被爆者に対する援護(1)健康管理都道府県知事は,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところにより,健康診断を行い(被爆者援護法7条),同健康診断の結果必要があると認めるときは,当該健康診断を受けた者に対し,必要な指導を行う(被爆者援護法9条)。 (2)医療の給付 厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者(ただし,当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは,その者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る。)に対し,必要な医療の給付を行う(被爆者援護法10条1項)。 上記の医療の給付の範囲は,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護並びに⑥移送であり(同条2項),これら医療の給付は,厚生労働大臣が指定する医療機関に委託して行う(同条3項)。 上記の医療の給付を受けようとする者は,あらかじめ,当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の厚生労働大臣の認定(原爆症認定)を受けなければならない(被爆者援護法11条1項)。 (3)一般疾病医療費の支給厚生労働大臣は,被爆者が,負傷又は疾病(前記(2)の医療の給付を受けることができる負傷又は疾病,遺伝性疾病,先天性疾病及び厚生労働大臣の定めるその他の負傷又は疾病を除く。)につき,都道府県知事が指定する医療機関から前記(2)①~⑥に掲げる医療を受け,又は緊急その他やむを得ない理 傷又は疾病,遺伝性疾病,先天性疾病及び厚生労働大臣の定めるその他の負傷又は疾病を除く。)につき,都道府県知事が指定する医療機関から前記(2)①~⑥に掲げる医療を受け,又は緊急その他やむを得ない理由により上記医療機関以外の者からこれらの医療を受けたときは,その者に対し,当該医療に要した費用の額を限度として,一般疾病医療費を支給することができる(被爆者援護法18条1項本文)。 (4)医療特別手当の支給都道府県知事は,原爆症認定を受けた者であって,当該認定に係る負傷又は疾病の状態にあるものに対し,医療特別手当を支給する(被爆者援護法24条1項)。 上記の者は,医療特別手当の支給を受けようとするときは,上記の要件に 該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない(同条2項)。医療特別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1か月につき13万5400円とする(同条3項。なお,上記の額は,後記(9)の規定により,平成17年以降,ほぼ1年ごとに改定されている。)。医療特別手当の支給は,上記の認定を受けた者が同認定の申請をした日の属する月の翌月から始め,上記の要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(同条4項)。 (5)特別手当の支給都道府県知事は,原爆症認定を受けた者に対し,その者が医療特別手当の支給を受けている場合を除き,特別手当を支給する(被爆者援護法25条1項)。 上記の者は,特別手当の支給を受けようとするときは,上記の要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない(同条2項)。 特別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1か月につき5万円とする(同条3項。なお,上記の額は,後記(9)の規定により,平成17年以降,ほぼ1年ごとに改定されている。)。特別手当の支給 特別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1か月につき5万円とする(同条3項。なお,上記の額は,後記(9)の規定により,平成17年以降,ほぼ1年ごとに改定されている。)。特別手当の支給は,上記の認定を受けた者が同認定の申請をした日の属する月の翌月から始め,上記の要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(同条4項)。 (6)健康管理手当の支給都道府県知事は,被爆者であって,造血機能障害,肝臓機能障害その他の厚生労働省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)にかかっているものに対し,その者が医療特別手当,特別手当又は原子爆弾小頭症手当の支給を受けている場合を除き,健康管理手当を支給する(被爆者援護法27条1項。なお,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行規則(以下「被爆者援護法施行規則」という。)51条は,上記の「厚生労働省令で定める障害」として,造 血機能障害,肝臓機能障害,細胞増殖機能障害,内分泌腺機能障害等を規定している。)。 (7)保健手当の支給都道府県知事は,被爆者のうち,原子爆弾が投下された際に爆心地から2㎞の区域内に在った者又はその当時その者の胎児であった者に対し,これらの者が医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当又は健康管理手当の支給を受けている場合を除き,保健手当を支給する(被爆者援護法28条1項)。 (8)その他の手当等の支給都道府県知事は,一定の要件を満たす被爆者等に対し,原子爆弾小頭症手当(被爆者援護法26条),介護手当(被爆者援護法31条)等を支給する。 (9)手当額の自動改定医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当,健康管理手当及び保健手当については,総務省において作成する年平均の全国消費者物価指数が平成 者援護法31条)等を支給する。 (9)手当額の自動改定医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当,健康管理手当及び保健手当については,総務省において作成する年平均の全国消費者物価指数が平成5年(上記各手当の額の改定の措置が講じられたときは,直近の当該措置が講じられた年の前年)の物価指数を超え,又は下るに至った場合においては,その上昇し,又は低下した比率を基準として,その翌年の4月以降の当該手当の額を改定するものとし,その改定の措置は,政令(被爆者援護法施行令17条)で定める(被爆者援護法29条)。 5 原爆症認定の手続等(1)原爆症認定の申請原爆症認定を受けようとする者は,厚生労働省令で定めるところにより,その居住地の都道府県知事を経由して,厚生労働大臣に申請書を提出しなければならない(被爆者援護法施行令8条1項)。 上記申請書は,①被爆者の氏名,性別,生年月日及び居住地並びに被爆者健康手帳の番号,②負傷又は疾病の名称,③被爆時の状況(入市の状況を含む。),④被爆直後の症状及びその後の健康状態の概要,⑤医療の給付を受 けようとする指定医療機関の名称及び所在地等を記載した所定の様式の認定申請書によらなければならない(被爆者援護法施行規則12条1項。なお,平成20年厚生労働省令第41号による改正前の同項においては,上記③及び④は記載事項とされておらず,「被爆時以降における健康状態の概要及び原子爆弾に起因すると思われる負傷若しくは疾病について医療を受け,又は原子爆弾に起因すると思われる自覚症状があったときは,その医療又は自覚症状の概要」を記載するものとされていた。)。また,上記申請書には,所定の様式の医師の意見書及び当該負傷又は疾病に係る検査成績を記載した書類を添えなければならない(同条2項)。 (2)審 又は自覚症状の概要」を記載するものとされていた。)。また,上記申請書には,所定の様式の医師の意見書及び当該負傷又は疾病に係る検査成績を記載した書類を添えなければならない(同条2項)。 (2)審議会等の意見聴取厚生労働大臣は,原爆症認定を行うに当たっては,当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかであるときを除き,審議会等(国家行政組織法8条に規定する機関をいう。)であって政令で定めるものの意見を聴かなければならない(被爆者援護法11条2項)。 そして,被爆者援護法施行令9条は,上記の審議会等であって政令で定めるものを,疾病・障害認定審査会としている。 疾病・障害認定審査会は,厚生労働省に置かれ(厚生労働省組織令132条),委員30人以内で組織される(疾病・障害認定審査会令1条1項)。 同審査会には,必要に応じて臨時委員及び専門委員を置くことができ,委員,臨時委員及び専門委員は,学識経験のある者等のうちから厚生労働大臣が任命する(同令1条2項,3項,2条)。同審査会には,被爆者援護法の規定により疾病・障害認定審査会の権限に属させられた事項を処理する分科会として,原子爆弾被爆者医療分科会(以下「医療分科会」という。)が置かれ(同令5条1項),医療分科会に属すべき委員,臨時委員及び専門委員は,厚生労働大臣が指名する(同条2項)。 (3)認定書の交付 厚生労働大臣は,原爆症認定の申請書を提出した者につき原爆症認定をしたときは,その者の居住地等の都道府県知事を経由して,認定書を交付する(被爆者援護法施行令8条4項)。 第2 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。 1 原子爆弾の投下アメリカ合衆国 (被爆者援護法施行令8条4項)。 第2 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。 1 原子爆弾の投下アメリカ合衆国軍は,昭和20年8月6日午前8時15分,広島市に広島原爆を投下し,同月9日午前11時2分,長崎市に長崎原爆を投下した(公知の事実)。 2 「原爆症認定に関する審査の方針」の策定医療分科会は,平成13年5月25日,以下のような内容の「原爆症認定に関する審査の方針」(以下「旧審査の方針」という。)を策定し,原爆症認定に係る審査は,これに定める方針を目安として行うものとした(乙A2)。 (1)原爆放射線起因性の判断ア判断に当たっての基本的な考え方申請に係る疾病等における原爆放射線起因性の判断に当たっては,原因確率(疾病等の発生が原爆放射線の影響を受けている蓋然性があると考えられる確率)及びしきい値(一定の被曝線量以上の放射線を浴びなければ疾病等が発生しない値)を目安として,当該申請に係る疾病等の原爆放射線起因性に係る「高度の蓋然性」の有無を判断する。 この場合にあっては,当該申請に係る疾病等に関する原因確率が,①おおむね50%以上である場合には,当該申請に係る疾病の発生に関して原爆放射線による一定の健康影響の可能性があることを推定し,②おおむね10%未満である場合には,当該可能性が低いものと推定した上で,当該申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案して判断を行う。ま た,原因確率又はしきい値が設けられていない疾病等に係る審査に当たっては,当該疾病等については原爆放射線起因性に係る肯定的な科学的知見が立証されていないことに留意しつつ,当該申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等 設けられていない疾病等に係る審査に当たっては,当該疾病等については原爆放射線起因性に係る肯定的な科学的知見が立証されていないことに留意しつつ,当該申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別に判断する。 イ原因確率原因確率は,白血病,胃がん,大腸がん,甲状腺がん,乳がん,肺がん,肝臓がん,皮膚がん(悪性黒色腫を除く。),卵巣がん,尿路系がん(膀胱がんを含む。),食道がん,その他の悪性新生物及び副甲状腺機能亢進症について,それぞれ,申請者の性別,被曝時年齢及び被曝線量に応じた所定の率とする。 ウしきい値放射線白内障のしきい値は,1.75シーベルトとする。 エ原爆放射線の被曝線量申請者の被曝線量は,初期放射線による被曝線量の値に,残留放射線(誘導放射線)による被曝線量及び放射性降下物による被曝線量の値を加えて得た値とする。そして,①初期放射線の被曝線量は,申請者の被爆地及び爆心地からの距離(2.5㎞まで)の区分に応じた所定の値とし,②残留放射線の被曝線量は,申請者の被爆地,爆心地からの距離(広島原爆については700mまで,長崎原爆については600mまで)及び爆発後の経過時間(72時間まで)の区分に応じた所定の値とし,③放射性降下物による放射線の被曝線量は,原爆投下の直後に所定の地域に滞在し,又はその後,長期間にわたって当該所定の地域に居住していた場合についてそれぞれ所定の値とする。 (2)要医療性の判断要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断する。 3 「原爆症認定に関する審査の方針」の見直し (1)「新しい審査の方針」の策定医療分科会は,平成20年3月17日,以下のような内容の「新しい審査の方針」(以下 ,個別に判断する。 3 「原爆症認定に関する審査の方針」の見直し (1)「新しい審査の方針」の策定医療分科会は,平成20年3月17日,以下のような内容の「新しい審査の方針」(以下「新審査の方針」という。)を策定し,原爆症認定に係る審査は,「被爆者援護法の精神に則り,より被爆者救済の立場に立ち,原因確率を改め,被爆の実態に一層即したものとするため」,これに定める方針を目安として行うものとした(乙A1)。 ア放射線起因性の判断(ア)積極的に認定する範囲①被爆地点が爆心地より約3.5㎞以内である者,②原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2㎞以内に入市した者又は③原爆投下より約100時間経過後から,原爆投下より約2週間以内の期間に,爆心地から約2㎞以内の地点に1週間程度以上滞在した者から,放射線起因性が推認される以下の疾病についての申請がある場合については,格段に反対すべき事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を積極的に認定する(以下,この認定方法を「積極認定」という。)。 a 悪性腫瘍(固形がんなど)b 白血病c 副甲状腺機能亢進症d 放射線白内障(加齢性白内障を除く。)e 放射線起因性が認められる心筋梗塞この場合,認定の判断に当たっては,積極的に認定を行うため,申請者から可能な限り客観的な資料を求めることとするが,客観的な資料がない場合にも,申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する。 (イ)それ以外の申請について前記(ア)に該当する場合以外の申請についても,申請者に係る被曝 線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を総合的に判断する(以下 (イ)それ以外の申請について前記(ア)に該当する場合以外の申請についても,申請者に係る被曝 線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を総合的に判断する(以下,この認定方法を「総合認定」という。)。 イ要医療性の判断要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断する。 (2)新審査の方針の改定医療分科会は,平成21年6月22日,新審査の方針を改定し,積極認定の対象疾病(前記(1)ア(ア)a~e)に,「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」及び「放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変」を追加した(乙A13)。 (3)新審査の方針の再改定医療分科会は,平成25年12月16日,新審査の方針を以下のとおり改定した(乙A17)。 ア放射線起因性の判断放射線起因性の要件該当性の判断は,科学的知見を基本としながら,総合的に実施するものである。特に,被爆者救済及び審査の迅速化の見地から,現在の科学的知見として放射線被曝による健康影響を肯定できる範囲に加え,放射線被曝による健康影響が必ずしも明らかでない範囲を含め,次のとおり「積極的に認定する範囲」を設定する。 (ア)積極的に認定する範囲a 悪性腫瘍(固形がんなど),白血病及び副甲状腺機能亢進症については,①被爆地点が爆心地より約3.5㎞以内である者,②原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2㎞以内に入市した者又は③原爆投下より約100時間経過後から,原爆投下より約2週間以内の期間に,爆心地から約2㎞以内の地点に1週間程度以上滞在した者のいずれかに該当する者から申請がある場合については,格段に反対すべき事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を原則的 に認定する から約2㎞以内の地点に1週間程度以上滞在した者のいずれかに該当する者から申請がある場合については,格段に反対すべき事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を原則的 に認定する。 b 心筋梗塞,甲状腺機能低下症及び慢性肝炎・肝硬変については,①被爆地点が爆心地より約2.0㎞以内である者又は②原爆投下より翌日までに爆心地から約1.0㎞以内に入市した者のいずれかに該当する者から申請がある場合については,格段に反対すべき事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を積極的に認定する。 c 放射線白内障(加齢性白内障を除く。)については,被爆地点が爆心地より約1.5㎞以内である者から申請がある場合については,格段に反対すべき事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を積極的に認定する。 これらの場合,認定の判断に当たっては,積極的に認定を行うため,申請者から可能な限り客観的な資料を求めることとするが,客観的な資料がない場合にも,申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する。 (イ)それ以外の申請について前記(ア)に該当する場合以外の申請についても,申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を総合的に判断する。 イ要医療性の判断要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断する。 4 本件各却下処分の経緯等(1)原告X1に関する経緯等ア第1事件原告(以下「原告X1」という。)は,昭和14年●月●日生まれの男性であり,被爆者援護法1条の被爆者である(乙B5,6)。 イ原告X1は,平成20年8月25日,「狭心症」を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件X1申請」という。)をした(乙B まれの男性であり,被爆者援護法1条の被爆者である(乙B5,6)。 イ原告X1は,平成20年8月25日,「狭心症」を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件X1申請」という。)をした(乙B1)。 ウ厚生労働大臣は,疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上,その意見に従い,平成22年8月26日付けで,原告X1に対し,本件X1申請を却下する旨の処分(以下「本件X1却下処分」という。)をした(乙B8)。 エ原告X1は,平成23年2月28日,第1事件に係る訴えを提起した(顕著な事実)。 (2)原告X2に関する経緯等ア第2事件原告(以下「原告X2」という。)は,昭和6年●月●日生まれの男性であり,被爆者援護法1条の被爆者である(乙C6~8)。 イ原告X2は,平成21年1月14日,「頭部,背部,左上腕及び左足足趾の火傷瘢痕,左後頭部瘢痕」を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件X2申請」という。)をした(乙C1)。 ウ厚生労働大臣は,疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上,その意見に従い,平成22年9月29日付けで,原告X2に対し,本件X2申請を却下する旨の処分(以下「本件X2却下処分」という。)をした(乙C9)。 エ原告X2は,同年11月30日付けで,厚生労働大臣に対し,本件X2却下処分についての異議申立てをした(乙C10)。 オ原告X2は,平成23年2月28日,第2事件に係る訴えを提起した(顕著な事実)。 (3)原告X3に関する経緯等ア第3事件原告(以下「原告X3」という。)は,昭和8年●月●日生まれの男性であり,被爆者援護法1条の被爆者である(乙D8~10)。 イ原告X3は,平成21年9月9日,「甲状腺機能低下症」を申請疾病とする原爆症認定の 3」という。)は,昭和8年●月●日生まれの男性であり,被爆者援護法1条の被爆者である(乙D8~10)。 イ原告X3は,平成21年9月9日,「甲状腺機能低下症」を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件X3申請」という。)をした(乙D1)。 ウ厚生労働大臣は,疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上,その意見に従い,平成22年12月24日付けで,原告X3に対し,本件X3申請を却下する旨の処分(以下「本件X3却下処分」という。)をした(乙D1 2)。 エ原告X3は,平成23年2月18日,厚生労働大臣に対し,本件X3却下処分についての異議申立てをした(乙D13)。 オ原告X3は,同月28日,第3事件に係る訴えを提起した(顕著な事実)。 (4)原告X4に関する経緯等ア第4事件原告(以下「原告X4」という。)は,昭和14年●月●日生まれの女性であり,被爆者援護法1条の被爆者である(乙E4,5)。 イ原告X4は,平成19年10月9日,「甲状腺機能低下症(慢性甲状腺炎)」を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件X4申請」という。)をした(乙E1)。 ウ厚生労働大臣は,疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上,その意見に従い,平成22年8月26日付けで,原告X4に対し,本件X4申請を却下する旨の処分(以下「本件X4却下処分」という。)をした(乙E7)。 エ原告X4は,平成23年2月28日,第4事件に係る訴えを提起した(顕著な事実)。 (5)原告X5に関する経緯等ア第5事件原告(以下「原告X5」という。)は,昭和15年●月●日生まれの女性であり,被爆者援護法1条の被爆者である(乙F6,7)。 イ原告X5は,平成21年1月22日,「甲状腺機能低下症,両 第5事件原告(以下「原告X5」という。)は,昭和15年●月●日生まれの女性であり,被爆者援護法1条の被爆者である(乙F6,7)。 イ原告X5は,平成21年1月22日,「甲状腺機能低下症,両白内障」を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件X5申請」という。)をした(乙F1)。 ウ厚生労働大臣は,疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上,その意見に従い,平成22年10月25日付けで,原告X5に対し,本件X5申請を却下する旨の処分(以下「本件X5却下処分」という。)をした(乙F9)。 エ原告X5は,平成23年4月28日,第5事件に係る訴えを提起した(顕著な事実)。 (6)原告X6に関する経緯等ア第6事件原告(以下「原告X6」という。)は,昭和19年●月●日生まれの男性であり,被爆者援護法1条の被爆者である(乙G8,9)。 イ原告X6は,平成20年11月26日付けで,「心筋梗塞,労作性狭心症」を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件X6申請」という。)をした(乙G1)。 ウ厚生労働大臣は,平成22年10月25日付けで,原告X6に対し,本件X6申請を却下する旨の処分(以下「本件X6却下処分」という。)をした(乙G11)。 エ原告X6は,同年12月27日,厚生労働大臣に対し,本件X6却下処分についての異議申立てをした(乙G12)。 オ原告X6は,平成23年11月14日,第6事件に係る訴えを提起した(顕著な事実)。 (7)原告X7に関する経緯等ア第7事件原告(以下「原告X7」という。)は,昭和18年●月●日生まれの女性であり,被爆者援護法1条の被爆者である(乙H7,8)。 イ原告X7は,平成21年9月9日,「甲状腺機能低下症」を申請疾病 件原告(以下「原告X7」という。)は,昭和18年●月●日生まれの女性であり,被爆者援護法1条の被爆者である(乙H7,8)。 イ原告X7は,平成21年9月9日,「甲状腺機能低下症」を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件X7申請」という。)をした(乙H1)。 ウ厚生労働大臣は,疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上,その意見に従い,平成22年12月24日付けで,原告X7に対し,本件X7申請を却下する旨の処分(以下「本件X7却下処分」という。)をした(乙H10)。 エ原告X7は,平成23年1月24日,厚生労働大臣に対し,本件X7却下処分についての異議申立てをした(乙H11)。 オ厚生労働大臣は,平成24年2月24日,原告X7に対し,上記エの異議申立てを棄却する旨の決定をした(乙H12)。 カ原告X7は,同年8月27日,第7事件に係る訴えを提起した(顕著な事実)。 5 放射線の種類等(1)放射線の種類(乙A159,160)アアルファ線は,2個の陽子と2個の中性子からなる粒子線であって,その電離作用は大きいが,物質との相互作用が強く物質通過中に急速にエネルギーを失っていくため,透過力は極めて小さく,空気中では数㎝程度しか飛ばず,薄い紙1枚で完全に止めることができる。 イベータ線は,高速度の電子からなる粒子線であって,その電離作用及び透過力は中程度であり,空気中では数十㎝~数mの距離まで届く。 ウガンマ線は,電磁波であって,質量や電気を持たず物質との相互作用が弱いため,その透過力は大きいが,電離作用は小さい。 エ中性子線は,電気を持たない中性子からなる粒子線であって,それ自体は電荷を帯びていないが,陽子にぶつかると体内で電離を引き起こすとされ,その透過力 その透過力は大きいが,電離作用は小さい。 エ中性子線は,電気を持たない中性子からなる粒子線であって,それ自体は電荷を帯びていないが,陽子にぶつかると体内で電離を引き起こすとされ,その透過力は大きい。 (2)放射線に関する単位等(乙A160,弁論の全趣旨)ア照射線量とは,放射線がある場所における空気を電離する能力であり,その単位としては,クローン毎キログラム(C/㎏)やレントゲン(R)が用いられる。1レントゲンは,放射線の照射によって標準状態の空気1㎤当たり1静電単位(esu)のイオン電荷が発生したときの放射線の総量である(1レントゲンは,おおむね0.87ラドに相当する。)。 イ吸収線量とは,物質に吸収された放射線のエネルギーの量であり,その単位としては,グレイ(Gy)が用いられる。物質1㎏当たり1ジュールのエネルギー吸収があるときの吸収線量が1グレイである。なお,吸収線量の単位としては,かつてはラド(Rad)が用いられており,1グレイ(100センチグレイ)は100ラドと等しい。 ウ等価線量とは,人体が吸収した放射線の影響度を表すものであり,吸収線量の単位をグレイとしたときの等価線量の単位はシーベルト(Sv)である。等価線量は,放射線の種類によって人体に対するリスクが異なることから,吸収線量値に放射線の種類ごとに定められた係数(放射線荷重係数)を乗じて算出する(放射線荷重係数は,ベータ線及びガンマ線については1,アルファ線については20,中性子線についてはエネルギーに応じて5~20とされている。)。 エ実効線量とは,人体の組織・臓器への影響の評価を表すものであり,その単位としては,シーベルト(Sv)が用いられる。実効線量は,等価線量が同じでもその影響の現れ方が人体の組織・臓器によって異なることか 実効線量とは,人体の組織・臓器への影響の評価を表すものであり,その単位としては,シーベルト(Sv)が用いられる。実効線量は,等価線量が同じでもその影響の現れ方が人体の組織・臓器によって異なることから,等価線量に個別の人体組織の放射線感受性を表す係数(組織荷重係数)を乗じて算出する。 第3 争点及び当事者の主張本件における争点は,①原爆症認定における放射線起因性の判断基準,②原告らの原爆症認定要件該当性(放射線起因性及び要医療性)及び③本件各却下処分についての国家賠償責任であり,これらの争点に関する当事者の主張は,争点②について要旨を以下に記載するほか,別紙2(原告らの主張)及び別紙3(被告の主張)に記載のとおりである。 1 原告X1について(原告X1の主張)(1)被爆状況等昭和20年8月6日の広島原爆投下時,原告X1(当時5歳)は,広島市c町の自宅近くの路上(爆心地から約2.4㎞)におり,同所で被爆した。 原告X1は,その後,降り注ぐ灰や砂埃の中を自宅から北方向に歩いて避難し,同日昼頃,修道院と思われる建物に着き,同所で配られた握り飯を食べ,他の避難者が大勢いる小さな部屋で雑魚寝をして過ごした。原告X1は,そ の後,生活用品などを取りに自宅跡地へ行くこともあったが,しばらくの間,上記の修道院と思われる建物で生活し,その後,広島市dに転居した。 原告X1には,被爆の翌日の朝,体全体に赤紫の発疹が現れた。また,広島市dに転居した後,原告X1と共に避難生活をしていた母及び姉の髪が全て抜け(原告X1は丸坊主であったため脱毛があったか否かは判然としない。),弟は平成25年に心筋梗塞で死亡した。 また,原告X1は,昭和56年以降,複数回にわたって狭心症や頸動脈の狭窄を指摘されたほか,平成13年に後嚢下混濁のある白内障 があったか否かは判然としない。),弟は平成25年に心筋梗塞で死亡した。 また,原告X1は,昭和56年以降,複数回にわたって狭心症や頸動脈の狭窄を指摘されたほか,平成13年に後嚢下混濁のある白内障と診断され,同年以降,何回も大腸ポリープを切除している。 以上のような被爆状況等に照らすと,原告X1が初期放射線及び誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 (2)放射線起因性原告X1は,前記(1)のとおり相当量の放射線に被曝していること,原告X1が当時若年であったこと,原爆放射線への被曝と狭心症・心筋梗塞の発症との間に有意な関係が認められることは既に医学的・疫学的知見から明らかになっていること等に照らせば,原告X1の狭心症が原爆放射線に起因するものであることは明らかである。 (被告の主張)(1)被爆状況等爆心地から約2.4㎞の地点で被爆した原告X1の初期放射線による被曝線量は,その主張する状況を前提としても,約0.0179グレイを下回る程度である(なお,原告X1は,広島原爆投下時には遮蔽物の陰におり,直接閃光を浴びていない。)。また,原告X1は,その後,爆心地とは反対の北側の修道院に避難したというのであるから,避難時及び修道院での生活時における誘導放射線の影響は無視し得る程度であったというべきである。そし て,内部被曝による健康被害への影響は重視する必要はないというのが確立した科学的知見であるから,仮に,原告X1が内部被曝をしていたとしても,その被曝線量は小さく,これによって,健康被害の観点から,有意な線量の被曝をしたということはできない。以上によれば,原告X1の推定被曝線量は,約0.0179グレイを下回る程度にすぎない。 被爆直後の時期に原告X1に発疹が現れてい て,健康被害の観点から,有意な線量の被曝をしたということはできない。以上によれば,原告X1の推定被曝線量は,約0.0179グレイを下回る程度にすぎない。 被爆直後の時期に原告X1に発疹が現れていたとしても,これが放射線被曝による急性症状の一種であると認めることはできない。また,その母や姉に脱毛等の症状があったとは認められないし,そのような症状が,上記発疹が放射線被曝による急性症状であったことの裏付けとなるものでもない。さらに,原告X1の主張するこれまでの疾病等が放射線被曝によって生じたことについては何らの主張立証もないから,これらによって原告X1が相当量の放射線に被曝したということはできない。 (2)放射線起因性狭心症の放射線起因性に関する確立した知見はないところ,心筋梗塞についても,低線量の放射線被曝との関連性を肯定し得る疫学調査等はなく,最新の科学的知見においてもしきい値(放射線防護の観点を加味してより低く見積もっても0.5グレイ程度)の存在は否定されていない。そうであるところ,原告X1の推定被曝線量は,全体量としても,約0.0179グレイを下回る程度にすぎない上,原告X1は,脂質異常症,高血圧,肥満といった狭心症の主因となる動脈硬化の危険因子を複数有しているのであるから,原告X1の狭心症が原爆放射線により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証明があるとはいえず,むしろ,その発症は,脂質異常症等の原爆放射線以外の要因によると見るのが自然かつ合理的である。 よって,原告X1の申請疾病(狭心症)については,放射線起因性の要件を満たすということはできない。 2 原告X2について(原告X2の主張)(1)被爆状況等昭和20年8月6日の広島原爆投 X1の申請疾病(狭心症)については,放射線起因性の要件を満たすということはできない。 2 原告X2について(原告X2の主張)(1)被爆状況等昭和20年8月6日の広島原爆投下時,原告X2(当時14歳)は,広島市e町の県立f中学校の校庭(爆心地から約1.7㎞)におり,何ら遮蔽物のない状態で被爆して左半身に大火傷を負った。原告X2は,その後,避難を開始し,g橋を渡って,市の中心部に向かおうとしたが,火災のため,川沿いに広島駅の方へ向かい,h町付近で消防団に救助され,重傷の被爆者でごった返すi小学校に運ばれた。原告X2は,同日昼,防空壕に退避したが,体を動かすこともできない状態となり,そのまま防空壕に残り,数日後,父方の実家に運ばれた。 原告X2は,被爆直後から強い全身倦怠感に見舞われて動けない状態となった。これは,典型的な急性症状である。また,原告X2には,当時,発熱や下痢等の急性症状があった可能性も十分に考えられる。 原告X2の火傷は,被爆後,膿が出る状況が続き,その後,左頬から左後頸部,左後頭部,左背部及び左上腕部のほか,左足指にケロイドを形成した。 また,原告X2は,被爆後,風邪を引きやすくなり,頭痛や下痢,めまい等の症状にも悩まされ,その後も,肋膜炎,感冒,栄養失調,慢性胃炎,肺炎,大腸ポリープ,脳梗塞,潜在性甲状腺機能低下症等の診断を受けた。 以上のような被爆状況等に照らすと,原告X2が初期放射線及び誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 (2)放射線起因性原告X2は,前記(1)のとおり相当量の放射線に被曝している。そして,原告X2の火傷瘢痕はケロイドであるところ,被爆者のケロイドが通常の熱傷によるものと比べて病理学的にも特徴的な所見を有し,放射 原告X2は,前記(1)のとおり相当量の放射線に被曝している。そして,原告X2の火傷瘢痕はケロイドであるところ,被爆者のケロイドが通常の熱傷によるものと比べて病理学的にも特徴的な所見を有し,放射線の影響を受 けていることは明らかであること,原告X2が当時若年であったこと等に照らせば,原告X2の火傷瘢痕(ケロイド)が原爆放射線に起因するものであることは明らかである。 (3)要医療性原告X2のケロイドについては,痛みが生じた際には,対症療法として痛み止めの処方等の治療が必要であったし,左足指については,4指が拘縮により変形して癒着し,歩行に障害があったが,手術により大きく改善する可能性もあった。また,左後頸部については,嚥下障害が生じており,食事療法などの指導が必要であり,平成24年8月頃以降は,パーキンソニズムにより更に嚥下障害が進行していたことから内服治療が必要となった。以上によれば,原告X2の火傷瘢痕(ケロイド)について,要医療性が認められることは明らかである。 (被告の主張)(1)被爆状況等原告X2が直爆を受けたのが爆心地から約1.7㎞の地点であったと認めるに足りる証拠はない。そして,原告X2が爆心地から約1.91㎞の広島市e町で被爆したことを前提にすると,その初期放射線による被曝線量は約0.110711グレイ程度にすぎない。また,原告X2は,被爆直後にg橋を渡っておらず,爆心地から約1.5㎞以遠の場所を通って避難したと認められるから,誘導放射線による被曝は考慮に値しない。そして,内部被曝による健康被害への影響は重視する必要はないというのが確立した科学的知見であるから,仮に,原告X2が内部被曝をしていたとしても,その被曝線量は小さく,これによって,健康被害の観点から,有意な線量の被曝をしたということ 響は重視する必要はないというのが確立した科学的知見であるから,仮に,原告X2が内部被曝をしていたとしても,その被曝線量は小さく,これによって,健康被害の観点から,有意な線量の被曝をしたということはできない。以上によれば,原告X2の推定被曝線量は,約0. 110711グレイ程度にすぎない。 被爆直後の時期に原告X2に倦怠感が現れていたとしても,それは火傷の 影響というべきであるし,これが放射線被曝による急性症状の一種であると認めることはできない。また,原告X2に他に身体症状があったとも認められない。さらに,原告X2の主張するこれまでの疾病等が放射線被曝によって生じたことについては何らの主張立証もないから,これらによって原告X2が相当量の放射線に被曝したということはできない。 (2)放射線起因性原告X2の火傷瘢痕はケロイドではなく肥厚性瘢痕であり,その治癒に相当の時間が掛かったのは,火傷の直後に十分な治療を受けていなかったことによるものと考えられる上,原告X2の推定被曝線量は,全体量としても,約0.110711グレイ程度にすぎないこと,ケロイドと放射線被曝との関係についても,その発症原因や治癒過程において放射線そのものが影響するという科学的知見はないこと等からすれば,原告X2の申請疾病(火傷瘢痕)の発症又は治癒能力の低下が原爆放射線により生じたことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証明があるとはいえない。 よって,原告X2の申請疾病(火傷瘢痕)については,放射線起因性の要件を満たすということはできない。 (3)要医療性原告X2は,その火傷瘢痕について,本件X2申請の時点において,対症療法を含めて積極的な治療が実施されていたことを何ら主張立証しておらず,定期的な経過観 すということはできない。 (3)要医療性原告X2は,その火傷瘢痕について,本件X2申請の時点において,対症療法を含めて積極的な治療が実施されていたことを何ら主張立証しておらず,定期的な経過観察すら受けていたとは認められない。また,手術が必要であったとも認められない。以上によれば,原告X2の申請疾病(火傷瘢痕)については,要医療性の要件を満たすということはできない。 3 原告X3について(原告X3の主張)(1)被爆状況等 昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,原告X3(当時12歳)は,長崎市j町の自宅(爆心地から約3.7㎞)におり,同自宅座敷で被爆し,直後に防空壕に向かったところ,猛烈な爆風を受けた。原告X3は,同月12日午前8時頃,通学していたk中学校の状況を確かめるため,父親と共に自宅を出て,徒歩で,l町を経由し,m橋西岸を通ってn町(同約0.7㎞)にある同中学校に行った。同中学校の近くではとたんやむしろがかぶせられた遺体を確認し,同中学校では,瓦礫の山となった校舎で,砂埃が立ち込める中,英語の試験の答案用紙がないか捜したり,校庭で栽培されていたサツマイモの根を掘り返して食べたりしながら,1時間ほど滞在した。さらに,原告X3は,同中学校の北側のo学院(同約0.5㎞)の近くに下宿していた友人の安否を確認すべく下宿付近まで行った後,p川東岸に渡り,p駅を通って市電沿いをq(r町)まで歩き,lまで船で渡り,夕方頃,自宅に帰った。 原告X3とその父親には,被爆の翌日,軽い下痢と微熱があり,その後しばらくしてから,猛烈な下痢と高熱に襲われた。 また,原告X3は,昭和48年頃,自己免疫疾患である原田氏病と診断され,昭和59年には,十二指腸潰瘍で入院し,平成3年頃から胸痛や動悸といった症状を自覚するようになり,平成 下痢と高熱に襲われた。 また,原告X3は,昭和48年頃,自己免疫疾患である原田氏病と診断され,昭和59年には,十二指腸潰瘍で入院し,平成3年頃から胸痛や動悸といった症状を自覚するようになり,平成6年には攣縮性狭心症,平成10年頃には拘束型心筋症の疑いと診断された。その後,原告X3は,平成19年に甲状腺の機能低下を指摘され,平成20年7月,甲状腺機能低下症(橋本病)と診断された。 以上のような被爆状況等に照らすと,原告X3が誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 (2)放射線起因性原告X3は,前記(1)のとおり相当量の放射線に被曝していること,原告X3が当時若年であったこと,原爆放射線への被曝と甲状腺機能低下症の 発症との間には低線量域を含めて有意な関係が認められること等に照らせば,原告X3の甲状腺機能低下症が原爆放射線に起因するものであることは明らかである。 (被告の主張)(1)被爆状況等爆心地から約3.7㎞の地点で被爆した原告X3の初期放射線による被曝線量は,約0.0007グレイである。そして,原告X3が昭和20年8月12日にo学院まで行った事実は認められず,同日に最も爆心地に近づいたのは,爆心地から約0.7㎞の地点までであって,原告X3の誘導放射線量は,0.00582グレイを大きく下回る。そして,内部被曝による健康被害への影響は重視する必要はないというのが確立した科学的知見であることから,仮に,原告X3が内部被曝をしていたとしても(なお,原告X3がk中学校においてサツマイモの根を食べた事実は認められない。),その被曝線量は小さく,これによって,健康被害の観点から,有意な線量の被曝をしたということはできない。以上によれば,原告X3の推定被曝線量は,全体 おいてサツマイモの根を食べた事実は認められない。),その被曝線量は小さく,これによって,健康被害の観点から,有意な線量の被曝をしたということはできない。以上によれば,原告X3の推定被曝線量は,全体量として,約0.00652グレイを大きく下回る程度にすぎない。 原告X3に入市後下痢及び発熱が出現したとは認められないし,仮にこれらがあったとしても,放射線被曝による急性症状であるとはいえない。さらに,原告X3が原田氏病に罹患したとしても,原田氏病の原因として放射線は特に挙げられていないし,他の疾病等が放射線被曝によって生じたことについても何らの主張立証もないから,これらによって原告X3が相当量の放射線に被曝したということはできない。 (2)放射線起因性甲状腺機能低下症について,低線量の放射線被曝との関連性を肯定し得る疫学調査等はない。そうであるところ,原告X3の推定被曝線量は,全体量としても,約0.00652グレイを大幅に下回る程度である上,原告X3 は,平成20年8月の時点では潜在性甲状腺機能低下症であり,甲状腺機能低下状態として内服治療を開始した平成21年5月当時には,76歳と高齢であった。そうすると,原告X3の甲状腺機能低下症が原爆放射線により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証明があるとはいえず,むしろ,その発症は,加齢等の原爆放射線以外の要因によると見るのが自然かつ合理的である。 よって,原告X3の申請疾病(甲状腺機能低下症)については,放射線起因性の要件を満たすということはできない。 4 原告X4について(原告X4の主張)(1)被爆状況等昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,原告X4(当時6歳)は,長崎市s町の伯母宅(爆心地から約2. 満たすということはできない。 4 原告X4について(原告X4の主張)(1)被爆状況等昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,原告X4(当時6歳)は,長崎市s町の伯母宅(爆心地から約2.2㎞)におり,同伯母宅前の路上で被爆し,爆風で伯母宅内に吹き飛ばされた。原告X4は,その後,父親に手を引かれ,妹と共に,t町の自宅(同約2.6㎞)に戻った。原告X4は,同月10日,父親と共に,砂埃の立ち込める中,多くの遺体や負傷者と接触しながら,市電沿いの道を歩き,父親が当時勤務していたu工場(同約1.2㎞)に行った。 原告X4は,u工場から戻った後,黒いものを吐き,その後も,嘔吐,鼻血,下痢,発熱,頭痛などの症状に襲われた。 原告X4は,30歳になった頃から,突然意識を失って倒れることがあり,だるさや疲れやすさ,激しいめまいといった症状も続いている。また,原告X4は,医師から脳梗塞の疑いがあると指摘されたこともある。 以上のような被爆状況等に照らすと,原告X4が初期放射線及び誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 (2)放射線起因性原告X4は,前記(1)のとおり相当量の放射線に被曝していること,原告X4が当時若年であったこと,原爆放射線への被曝と甲状腺機能低下症の発症との間には低線量域を含めて有意な関係が認められること等に照らせば,原告X4の甲状腺機能低下症が原爆放射線に起因するものであることは明らかである。 (被告の主張)(1)被爆状況等原告X4が被爆したのは爆心地から約2.3㎞の地点にある家屋の玄関内(完全に遮蔽されていた。)であり,初期放射線による被曝線量は,約0.0326グレイである。そして,原告X4が昭和20年8月10日にu工場まで行った事実は認 地から約2.3㎞の地点にある家屋の玄関内(完全に遮蔽されていた。)であり,初期放射線による被曝線量は,約0.0326グレイである。そして,原告X4が昭和20年8月10日にu工場まで行った事実は認められず,被爆後に自宅(爆心地から約2.6㎞)又はv町(同約3.5㎞)にとどまったとしても,誘導放射線による被曝を考慮する必要はない。そして,内部被曝による健康被害への影響は重視する必要はないというのが確立した科学的知見であるから,仮に,原告X4が内部被曝をしていたとしても,その被曝線量は小さく,これによって,健康被害の観点から,有意な線量の被曝をしたということはできない。以上によれば,原告X4の推定被曝線量は,全体量として,約0.0326グレイ程度にすぎない。 被爆後の原告X4に嘔吐,下痢等が出現したとは認められないし,仮にこれらがあったとしても,放射線被曝による急性症状であるとはいえない。さらに,原告X4が罹患した疾病等が放射線被曝によって生じたことについても何らの主張立証もないから,これらによって原告X4が相当量の放射線に被曝したということはできない。 (2)放射線起因性甲状腺機能低下症について,低線量の放射線被曝との関連性を肯定し得る 疫学調査等はない。そうであるところ,原告X4の推定被曝線量は,全体量としても,約0.0326グレイ程度にすぎない上,原告X4は,甲状腺機能低下症を発症した平成9年1月頃には,58歳と高齢であった。さらに,甲状腺機能低下症の発症頻度が一般に男性よりも女性の方が高いことをも考慮すれば,原告X4の甲状腺機能低下症が原爆放射線により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証明があるとはいえず,むしろ,その発症は,加齢等の原爆放射線以外 状腺機能低下症が原爆放射線により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証明があるとはいえず,むしろ,その発症は,加齢等の原爆放射線以外の要因によると見るのが自然かつ合理的である。 よって,原告X4の申請疾病(甲状腺機能低下症)については,放射線起因性の要件を満たすということはできない。 5 原告X5について(原告X5の主張)(1)被爆状況等昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,原告X5(当時5歳)は,長崎市w町の自宅(爆心地から約4.0㎞)におり,同自宅内で被爆し,その後,父親と屋外に出たところ,爆風で約10m吹き飛ばされた。原告X5は,同月10日又は11日,会社の状況等を見に行く父親に背負われて爆心地に向かい,x町(爆心地から約0.8㎞)付近まで行ったが,その先に進むことができず,自宅に引き返した。原告X5は,帰宅後,自宅横の井戸の水を飲んだり,裏の畑で採れた芋のツルを食べたりした。また,原告X5は,その翌日以降も,5日ほどの間,毎日朝から日没頃まで父親と共に爆心地付近を歩き回った。 原告X5は,爆心地を歩き回った後,下痢や吐き気,めまいに襲われ,また,髪を両手ですくと,指からはみ出るくらい髪の毛が抜けた。また,原告X5は,入市から10日ほど経過した頃,40度近くの高熱を発した。 原告X5は,被爆後は常に体のだるさを感じるようになり,風邪を引きや すく,高熱を出しやすくなり,下痢や腸炎を起こすこともあった。また,鼻血がよく出るようになり,顔や手足がむくむようになった。原告X5は,その後も,外反母趾,脳梗塞,高脂血症,大腸ポリープ,骨粗鬆症,緑内障,変形性脊椎症,不整脈等の様々な健康障害に苦しんできた。また,原告の父親は脳軟化症で死亡し,母親は肺が うになった。原告X5は,その後も,外反母趾,脳梗塞,高脂血症,大腸ポリープ,骨粗鬆症,緑内障,変形性脊椎症,不整脈等の様々な健康障害に苦しんできた。また,原告の父親は脳軟化症で死亡し,母親は肺がんと大腸がんで死亡している。 以上のような被爆状況等に照らすと,原告X5が初期放射線及び誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 (2)甲状腺機能低下症(放射線起因性)原告X5は,前記(1)のとおり相当量の放射線に被曝していること,原告X5が当時若年であったこと,原爆放射線への被曝と甲状腺機能低下症(自己免疫性でないものも含む。)の発症との間には低線量域を含めて有意な関係が認められること等に照らせば,原告X5の甲状腺機能低下症が原爆放射線に起因するものであることは明らかである。 (3)両白内障ア放射線起因性放射線白内障は,被爆後30~40年を経て発病することもあり,後嚢下混濁だけでなく,老人性白内障と同じ皮質混濁が年齢より早期に起こることが明らかになった。さらに,白内障のしきい値が存在しないことも明らかになっている。そして,原告X5は,前記(1)のとおり相当量の放射線に被曝しているから,原告X5の両白内障が原爆放射線に起因するものであることは明らかである。 イ要医療性原告X5は,両白内障について,カリーユニ点眼液を処方されており,要医療性が認められることは疑いの余地がない。 (被告の主張) (1)被爆状況等原告X5が被爆したのは爆心地から約4.0㎞の地点であり,初期放射線による被曝線量は,約0.0002グレイである。そして,原告X5が昭和20年8月10日に長崎市x町付近に入市した事実や,その後も複数回入市した事実は認められず, ら約4.0㎞の地点であり,初期放射線による被曝線量は,約0.0002グレイである。そして,原告X5が昭和20年8月10日に長崎市x町付近に入市した事実や,その後も複数回入市した事実は認められず,同月11日に爆心地から約0.8㎞の地点に入市した事実を認め得るにとどまる。そうすると,原告X5が被曝した誘導放射線の積算線量は,約0.00021グレイとなる。そして,内部被曝による健康被害への影響は重視する必要はないというのが確立した科学的知見であるから,仮に,原告X5が内部被曝をしていたとしても,その被曝線量は小さく,これによって,健康被害の観点から,有意な線量の被曝をしたということはできない。以上によれば,原告X5の推定被曝線量は,全体量として,約0.00041グレイ程度にすぎない。 入市後の原告X5に下痢,吐き気,脱毛及び発熱が出現したとは認められないし,仮にこれらがあったとしても,放射線被曝による急性症状であるとはいえない。さらに,原告X5が罹患した疾病等が放射線被曝によって生じたことについても何らの主張立証もないから,これらによって原告X5が相当量の放射線に被曝したということはできない。 (2)甲状腺機能低下症(放射線起因性)甲状腺機能低下症(特に,自己免疫性でないもの)について,低線量の放射線被曝との関連性を肯定し得る疫学調査等はない。そうであるところ,原告X5の推定被曝線量は,全体量としても,約0.00041グレイ程度にすぎない上,原告X5の甲状腺機能低下症は自己免疫性でなく,これを発症した平成15年3月頃には,原告X5は63歳と高齢であった。さらに,甲状腺機能低下症の発症頻度が一般に男性よりも女性の方が高いことをも考慮すれば,原告X5の甲状腺機能低下症が原爆放射線により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない と高齢であった。さらに,甲状腺機能低下症の発症頻度が一般に男性よりも女性の方が高いことをも考慮すれば,原告X5の甲状腺機能低下症が原爆放射線により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる 高度の蓋然性の証明があるとはいえず,むしろ,その発症は,加齢等の原爆放射線以外の要因によると見るのが自然かつ合理的である。 よって,原告X5の申請疾病(甲状腺機能低下症)については,放射線起因性の要件を満たすということはできない。 (3)両白内障ア放射線起因性現在の科学的知見の到達点としては,放射線白内障については,0.5グレイがしきい線量であるとされているところ,原告X5の推定被曝線量は,全体量として,約0.00041グレイ程度にすぎない。そして,白内障は,加齢や喫煙に伴って有所見率が急増する疾病であるところ,原告X5については,68歳という初期白内障の好発期(66~83%の有所見率)に「軽度白内障」が発覚している上,約40年間にわたって1日10~22本の喫煙をしていた。また,原告X5は,効能・効果が「初期老人性白内障」とされ,放射線白内障の医療効果を向上させる治療薬ではないカリーユニ点眼液の処方がされている。以上によれば,原告X5の両白内障が原爆放射線により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証明があるとはいえず,むしろ,その発症は,加齢等の原爆放射線以外の要因によると見るのが自然かつ合理的である。 よって,原告X5の申請疾病(両白内障)については,放射線起因性の要件を満たすということはできない。 イ要医療性原告X5の両白内障については,本件X5申請当時,本人の希望によ よって,原告X5の申請疾病(両白内障)については,放射線起因性の要件を満たすということはできない。 イ要医療性原告X5の両白内障については,本件X5申請当時,本人の希望により経過観察が行われていたにすぎない。カリーユニ点眼液等による薬物療法は老人性白内障の治療法の一つであり,放射線白内障には効果がない上,原告X5に対してカリーユニ点眼液の処方が開始されたのは,本件X5却 下処分後である平成23年6月24日である。 以上によれば,原告X5の申請疾病(両白内障)については,要医療性の要件を満たすということはできない。 6 原告X6について(原告X6の主張)(1)被爆状況等昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,原告X6(当時10か月)は,長崎市l町●の自宅(爆心地から約2.5㎞)におり,同所で被爆した。原告X6は,同月11日から約1週間,y 工場に出勤したまま戻らなかった父親を捜す母親に連れられて,爆心地を経由する経路での入市を繰り返した。その際,原告X6は,手ぬぐい1枚を頭にかぶせられただけのほぼ裸の状態で,遺体を一つずつひっくり返して父親を捜す母親に背負われていた。 原告X6は,被爆後間もなく,髪が抜けるようになり,その後生えてくる髪は縮れていた。また,原告X6は,30歳代後半から,体がだるく,高血圧と診断され,平成元年には脳出血で入院し,重度の言語障害と右側体幹機能障害が残った。さらに,平成9年には脳梗塞や急性心筋梗塞を患い,平成14年には心不全等で入院し,平成20年には右冠動脈の狭窄につきステント手術を受けるなどした。 以上のような被爆状況等に照らすと,原告X6が初期放射線及び誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 (2)放射線起 ント手術を受けるなどした。 以上のような被爆状況等に照らすと,原告X6が初期放射線及び誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 (2)放射線起因性原告X6は,前記(1)のとおり相当量の放射線に被曝していること,原告X6が当時若年であったこと,原爆放射線への被曝と狭心症・心筋梗塞の発症との間に有意な関係が認められることは既に医学的・疫学的知見から明らかになっていること等に照らせば,原告X6の心筋梗塞及び労作性狭心症 が原爆放射線に起因するものであることは明らかである。 (被告の主張)(1)被爆状況等原告X6が被爆した長崎市l町●は,爆心地から約3.1㎞の地点であり,原告X6の初期放射線による被曝線量は,約0.007グレイ以下である。 また,原告X6が,その主張のとおり,昭和20年8月11日から1週間ほど爆心地付近に通ったとしても,その誘導放射線の被曝線量は,0.0228グレイを大きく下回る。そして,内部被曝による健康被害への影響は重視する必要はないというのが確立した科学的知見であるから,仮に,原告X6が内部被曝をしていたとしても,その被曝線量は小さく,これによって,健康被害の観点から,有意な線量の被曝をしたということはできない。以上によれば,原告X6の推定被曝線量は,全体量としても,0.0298グレイを大きく下回る程度にすぎない。 原告X6に被爆後脱毛が生じたとは認められないし,仮にこれがあったとしても,放射線被曝による急性症状であるとはいえない。また,原告X6の主張するこれまでの疾病等が放射線被曝によって生じたことについては何らの主張立証もないから,これらによって原告X6が相当量の放射線に被曝したということはできない。 (2)放射線起因性心筋梗塞や狭心 するこれまでの疾病等が放射線被曝によって生じたことについては何らの主張立証もないから,これらによって原告X6が相当量の放射線に被曝したということはできない。 (2)放射線起因性心筋梗塞や狭心症については,低線量の放射線被曝との関連性を肯定し得る疫学調査等はなく,最新の科学的知見においても,しきい値(放射線防護の観点を加味してより低く見積もっても0.5グレイ程度)の存在は否定されていない。そうであるところ,原告X6の推定被曝線量は,全体量としても,約0.0298グレイを大きく下回る程度にすぎない上,原告X6は,高血圧症の原因疾患の一つであるとともにそれ自体の直接作用により心筋梗塞等の心血管疾患を引き起こしやすい原発性アルドステロン症に罹患し, さらに,高血圧,加齢,喫煙,肥満といった心筋梗塞や狭心症の主因となる動脈硬化の危険因子を複数有しているのであるから,原告X6の心筋梗塞及び狭心症が原爆放射線により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証明があるとはいえず,むしろ,その発症は,原発性アルドステロン症等の原爆放射線以外の要因によると見るのが自然かつ合理的である。 よって,原告X6の申請疾病(心筋梗塞,労作性狭心症)については,放射線起因性の要件を満たすということはできない。 7 原告X7について(原告X7の主張)(1)被爆状況等昭和20年8月6日の広島原爆投下時,原告X7(当時2歳)は,広島市z●の自宅(爆心地から約3.45㎞)におり,同自宅の庭で被爆した。原告X7は,同日,母親及び兄と共に,建物疎開に出ていた父親を探しにaa町,bb 町を通り,g橋(同約1.7㎞)周辺を歩き回り,近辺で大火傷を負っている父親を発見し,cc 小学校に連れて行った た。原告X7は,同日,母親及び兄と共に,建物疎開に出ていた父親を探しにaa町,bb 町を通り,g橋(同約1.7㎞)周辺を歩き回り,近辺で大火傷を負っている父親を発見し,cc 小学校に連れて行った。さらに,原告X7は,同日又は同月7日から,連日,伯母や叔母を探しに行く母親に背負われて,dd町(同約1.5㎞)及びee 町(同0.3~0.5㎞)に入市し,父親がいるcc 小学校に通った。同小学校には大勢の被爆者が収容され,遺体が焼かれていた。また,原告X7は,父親を捜しに行った際,防火水槽の水を飲んだ。 原告X7は,被爆後,脱毛があったと聞いている。また,原告X7は,物心ついた頃から,喉が腫れやすく,胃腸の調子もすぐれず下痢が多かったほか,体力がなく,風邪を引いても治りにくくなった。一緒に入市した兄も病弱になった。 原告X7は,昭和48年頃からめまいがひどくなり,平成15年頃からは,疲れやむくみ,激しいめまいがしばしば起こるようになり,平成18年3月 には甲状腺機能低下状態となった。 以上のような被爆状況等に照らすと,原告X7が初期放射線及び誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝によりかなり大量の放射線に被曝したことは明らかである。 (2)放射線起因性原告X7は,前記(1)のとおりかなり大量の放射線に被曝していること,原告X7が当時若年であったこと,原爆放射線への被曝と甲状腺機能低下症(自己免疫性でないものを含む。)の発症との間には低線量域を含めて有意な関係が認められること等に照らせば,原告X7の甲状腺機能低下症が原爆放射線に起因するものであることは明らかである。 (被告の主張)(1)被爆状況等原告X7が被爆したのは爆心地から約3.45㎞の地点にある自宅敷地内であり,初期放射線による被曝線量は,約0.0004 因するものであることは明らかである。 (被告の主張)(1)被爆状況等原告X7が被爆したのは爆心地から約3.45㎞の地点にある自宅敷地内であり,初期放射線による被曝線量は,約0.0004グレイである。そして,原告X7が昭和20年8月6日にg橋を渡って更に数百m爆心地に近づいた事実や,同月7日から数日間,ee 町付近及びdd 町付近に入市した事実は認められず,同月6日に爆心地から約1.7㎞のg橋周辺に入市したとしても,誘導放射線による被曝を考慮する必要はない(なお,仮に原告X7の主張を前提としても,誘導放射線による被曝線量は,約0.032グレイを下回る。)。そして,内部被曝による健康被害への影響は重視する必要はないというのが確立した科学的知見であるから,仮に,原告X7が内部被曝をしていたとしても,その被曝線量は小さく,これによって,健康被害の観点から,有意な線量の被曝をしたということはできない。以上によれば,原告X7の推定被曝線量は,その主張を前提としても,全体量として,約0.0324グレイを下回る程度にすぎない。 原告X7に被爆後脱毛が生じたとしても,これが放射線被曝による急性症 状であるとはいえない。さらに,原告X7が罹患した疾病等が放射線被曝によって生じたことについても何らの主張立証もないから,これらによって原告X7が相当量の放射線に被曝したということはできない。 (2)放射線起因性甲状腺機能低下症(特に,自己免疫性でないもの)について,低線量の放射線被曝との関連性を肯定し得る疫学調査等はない。そうであるところ,原告X7の推定被曝線量は,全体量としても,約0.0324グレイを下回る上,原告X7の甲状腺機能低下症は自己免疫性でなく,これを発症したのは,平成18年3月頃であり,原告X7は当時62歳と高齢であ 原告X7の推定被曝線量は,全体量としても,約0.0324グレイを下回る上,原告X7の甲状腺機能低下症は自己免疫性でなく,これを発症したのは,平成18年3月頃であり,原告X7は当時62歳と高齢であった。さらに,甲状腺機能低下症の発症頻度が一般に男性よりも女性の方が高いことをも考慮すれば,原告X7の甲状腺機能低下症が原爆放射線により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証明があるとはいえず,むしろ,その発症は,加齢等の原爆放射線以外の要因によると見るのが自然かつ合理的である。 よって,原告X7の申請疾病(甲状腺機能低下症)については,放射線起因性の要件を満たすということはできない。 第3章当裁判所の判断第1 原爆症認定における放射線起因性の判断基準(争点①) 1 放射線起因性の立証の程度等被爆者援護法10条1項,11条1項の規定によれば,原爆症認定をするためには,①被爆者が現に医療を要する状態にあること(要医療性)のほか,②現に医療を要する負傷若しくは疾病が原子爆弾の放射線に起因するものであるか,又は上記負傷若しくは疾病が放射線以外の原子爆弾の傷害作用に起因するものであって,その者の治癒能力が原子爆弾の放射線の影響を受けているため上記の状態にあること(放射線起因性)が必要であると解される。 そして,被爆者援護法は,給付ごとにそれぞれ支給要件を規定しているとこ ろ,健康管理手当や介護手当の支給要件についてはいずれも弱い因果の関係で足りることが規定上明らかにされていること(被爆者援護法27条1 項,31条)と対比すると,上記の放射線起因性については,放射線と負傷若しくは疾病の発生又は治癒能力の低下との間に通常の因果関係があることが要件とされていると解するのが こと(被爆者援護法27条1 項,31条)と対比すると,上記の放射線起因性については,放射線と負傷若しくは疾病の発生又は治癒能力の低下との間に通常の因果関係があることが要件とされていると解するのが相当である。 ところで,行政処分の要件として因果関係の存在が必要とされる場合に,その拒否処分の取消訴訟において原告がすべき因果関係の立証の程度は,特別の定めがない限り,通常の民事訴訟における場合と異なるものではない。そして,訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とすると解すべきである。 そうであるところ,原爆症認定の要件としての放射線起因性については,上記の特別の定めはないから,原爆症認定の申請を却下する処分の取消訴訟において,原告は,原爆放射線に被曝したことにより,その負傷若しくは疾病又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明する必要があり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを要すると解すべきである(最高裁平成12年7月18日第三小法廷判決・裁判集民事198号529頁参照)。 2 具体的な判断方法放射線起因性について前記1のとおり解するとしても,人間の身体に疾病等が生じた場合に,その発症に至る過程においては,多くの要因が複合的に関連しているのが通常であり,特定の要因から当該疾病等の発症に至った機序を逐一解明することには困難が伴う。殊に,放射線に起因する疾病等は,放射線に起因することによって特異な症状を呈するものではなく,その しているのが通常であり,特定の要因から当該疾病等の発症に至った機序を逐一解明することには困難が伴う。殊に,放射線に起因する疾病等は,放射線に起因することによって特異な症状を呈するものではなく,その症状は放射線に 起因しない場合と同様であり,また,放射線が人体に影響を与える機序は,科学的にその詳細が解明されているものではなく,長年月にわたる調査にもかかわらず,放射線と疾病等との関係についての知見は,統計学的,疫学的解析による有意性の確認など,限られたものにとどまっており,これらの科学的知見にも一定の限界が存する。 そこで,放射線起因性の判断に当たっては,当該疾病の発症等に至った医学的・病理学的機序を直接証明することを求めるのではなく,当該被爆者の放射線への被曝の程度と,統計学的・疫学的知見等に基づく申請疾病等と放射線被曝との関連性の有無及び程度とを中心的な考慮要素としつつ,これに当該疾病等の具体的症状やその症状の推移,その他の疾病に係る病歴(既往歴),当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度等を総合的に考慮して,原子爆弾の放射線への被曝の事実が当該申請に係る疾病若しくは負傷又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして判断するのが相当である。 3 被曝線量の評価方法(1)検討対象放射線起因性の判断に当たっては,前記2のとおり,当該被爆者の放射線への被曝の程度が中心的な考慮要素の一つとなる。ところで,前記法令の定め,前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば,厚生労働大臣が原爆症認定を行うに当たっては,原則として医療分科会の意見を聴かなければならないところ,医療分科会は,旧審査の方針の下において,被爆者の被曝線量を,①初期放射線による被曝線量の値に②誘導放射線 臣が原爆症認定を行うに当たっては,原則として医療分科会の意見を聴かなければならないところ,医療分科会は,旧審査の方針の下において,被爆者の被曝線量を,①初期放射線による被曝線量の値に②誘導放射線による外部被曝線量の値及び③放射性降下物による外部被曝線量の値を加えて得た値とし,④内部被曝による被曝線量については特に考慮していなかったのであり,新審査の方針(再改定後のものを含む。以下,特に記載しない限り同じ。)の下においても,大枠としては同様の評価方法を踏襲しているものと認められる。 そこで,以下,新審査の方針の下における医療分科会の具体的な被曝線量の評価方法を踏まえて,上記①~④の評価方法の合理性を検討し,さらに,これらに関連する⑤いわゆる遠距離被爆者及び入市被爆者の被曝線量の評価について検討する(なお,原告らは,被告が平成26年7月11日の第20回口頭弁論期日において提出した残留放射線(誘導放射線及び放射性降下物)による外部被曝及び内部被曝の線量評価に関する主張(別紙3の第2及び第11参照)及び証拠(乙A81,190~218)について,時機に後れた攻撃防御方法であるとして,却下を求めるが,被告は,本件訴訟の当初から本件各申請に係る疾病の放射線起因性を争い,平成23年7月13日の第2回口頭弁論期日において陳述された第2準備書面において,誘導放射線及び放射性降下物による外部被曝及び内部被曝の線量評価の在り方について具体的に主張するなどしているところ,上記の主張及び証拠はこれを補充するものにすぎない上,本件口頭弁論は,これらが提出された期日に終結しており(顕著な事実),訴訟の完結が遅延したものともいえないから,これらを時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきということはできない。)。 (2)初期放射線の被曝線量の評価について た期日に終結しており(顕著な事実),訴訟の完結が遅延したものともいえないから,これらを時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきということはできない。)。 (2)初期放射線の被曝線量の評価についてア初期放射線とは,原子爆弾のウランやプルトニウムが臨界状態に達し,爆弾が炸裂する際に放出される放射線(炸裂直前の爆弾内部で生じた核分裂反応の際に放出される即発放射線と,炸裂後に生じた火球内の核分裂生成物から放出される遅発放射線とに分かれる。)であり,主にガンマ線及び中性子線からなる(乙A106,弁論の全趣旨)。 初期放射線による被曝線量について,旧審査の方針は,被曝線量評価体系(DS86)により爆心地からの距離(2.5㎞まで)に応じて算定した値によって推定するものとしていた(前提となる事実,乙A2,100,101)。DS86は,日米合同の研究者グループが1986年(昭和61年)に取りまとめた線量評価方式であって,原子爆弾の物理学的特徴と, 放出された放射線の量及びその放射線が空中をどのように移動し,建築物や人体の組織を通過した際にどのような影響を与えたかについての核物理学上の理論的モデルとに基づいて,コンピュータにより初期放射線による被曝線量を算出したものであり,その客観性は広島及び長崎で被曝した試料を用いたガンマ線及び中性子線の測定結果による検証によっておおむね裏付けられていたが,一部の計算値と測定値の不一致の問題も指摘されていた(乙A102,103,105の1,107,112,弁論の全趣旨)。 DS86については,その後,日米合同の研究者グループが再評価を行い,同グループは,2002年(平成14年),DS86の基本的な評価方法を踏襲しつつ,これを改良した新たな被曝線量評価体系(DS02)を取りまとめた(乙A103,10 同の研究者グループが再評価を行い,同グループは,2002年(平成14年),DS86の基本的な評価方法を踏襲しつつ,これを改良した新たな被曝線量評価体系(DS02)を取りまとめた(乙A103,105の1・2,106,107)。そして,新審査の方針の下においては,DS02の線量評価方式により初期放射線による被曝線量の推定が行われている(弁論の全趣旨)。 イ被告は,DS86の線量評価方式は再評価の過程でその信頼性が確認されたものであり,これに改良を加えたDS02の評価方式はDS86よりも更に信頼性に勝るものであると主張し,他方,原告は,DS86の線量評価方式は爆心地から遠距離において過小評価となっており,DS02においても問題は解消されていないなどと主張するので,以下検討する。 (ア)証拠(乙A100~103,105の1,106,107,112,212)及び弁論の全趣旨によれば,①DS86の被曝線量評価方式は,当時の最新の核物理学の理論に基づき,高度なシミュレーション計算法と演算能力の高い高性能のコンピュータを用い,爆弾の構造,爆発の状況,爆発が起きた環境(大気の状態,密度等),被爆者の状態等に関する諸条件を可能な限り厳密かつ正確に再現し,データ化して被曝線量を推定したものであること,②DS86は,国際放射線防護委員会(ICRP)から承認され,世界の放射線防護の基本的資料とされるなど,国 際的に通用する体系的線量評価方式として取り扱われてきたこと,③DS02は,DS86の基本的な評価方法を踏襲した上で,更に進歩した最新の大型コンピュータを駆使し,最新のデータやDS86の策定後に可能となった最新の計算法を用いるなどして,DS86よりも高い精度で被曝線量の評価を可能にしたものであること等が認められ,他方,DS02の線量評価方式 ータを駆使し,最新のデータやDS86の策定後に可能となった最新の計算法を用いるなどして,DS86よりも高い精度で被曝線量の評価を可能にしたものであること等が認められ,他方,DS02の線量評価方式の計算過程に疑問を抱かせる事情や,より高次の合理性を備えた線量評価方式が他に存在することを認めるに足りる証拠はない。そうすると,DS02の被曝線量評価方式は,被爆者の初期放射線による被曝線量を高い精度で算定することが可能な相当の科学的合理性を有するものであるということができる。 (イ)もっとも,DS02は,コンピュータによるシミュレーション計算の結果を基礎として策定されたものである以上,それに基づく被曝線量の計算値(推定値)は,飽くまでも近似的なものにとどまらざるを得ない(この点,DS02に係る報告書(乙105の1・2)も,代表的なDS02被爆者線量の合計誤差は広島・長崎両市とも30%程度であり,誤差の範囲は合計線量の27~45%であるとする。)。また,特に広島原爆については,同じ型の爆弾による実験・測定結果がないこと等もあり,線量評価の前提となる爆弾の出力推定が比較的困難であるとされている(乙A103,104の1)。 ところで,初期放射線のうちガンマ線については,DS86による線量計算値が広島原爆については爆心地から約1000m以遠において測定値より小さくなり,長崎原爆についてはこれと逆の関係が認められることが指摘されていた(乙A107)。この点については,再検討の結果,DS02による計算値は,測定値と全体的に良く一致しているとされたが,広島原爆については,遠距離では測定値が計算値よりも高いことを示唆する若干の例があるとされ,広島原爆及び長崎原爆の爆心地か ら約1500m以遠の距離におけるガンマ線量の測定値については,推定バ 原爆については,遠距離では測定値が計算値よりも高いことを示唆する若干の例があるとされ,広島原爆及び長崎原爆の爆心地か ら約1500m以遠の距離におけるガンマ線量の測定値については,推定バックグラウンド線量の誤差に大きく影響されるので,正確に決定することができないとされているのであって(乙A105の1),これらに照らすと,遠距離における過小評価の可能性は,特に広島原爆においては,DS02による検証を経てもなお完全には否定することができないというべきである。 また,初期放射線の熱中性子線(運動エネルギーの低い中性子線)については,DS86において,計算値と測定値との系統的な不一致がある(例えば,コバルト60については,計算値が,爆心地から近距離では測定値よりも大きく,遠距離になると測定値を下回り,爆心地から1180mの地点においては,測定値の3分の1になる。)ことが指摘されていた(乙A107)。DS02においては,ユーロピウム152についてバックグラウンドの影響を極めて低く抑えた環境で精度の高い測定を行い,加速器質量分析法(AMS)によって熱中性子により誘導放射化した塩素36の放射化測定実験を行うなどしたところ,測定値は計算値とよく一致し,上記の不一致の問題は解決したものとされる(乙A105の2,107)が,上記のバックグラウンドの影響を極めて低く抑えた環境における測定においても,広島原爆については爆心地から地上距離1400m付近でコバルト60及びユーロピウム152の測定値がいずれも計算値を上回っており,塩素36についても,爆心地からの地上距離が1100~1500m以遠では測定が困難であること等(乙A105の2)からすれば,爆心地から約1500m以遠の距離における熱中性子線量の計算値が過小評価である可能性は,DS02におい らの地上距離が1100~1500m以遠では測定が困難であること等(乙A105の2)からすれば,爆心地から約1500m以遠の距離における熱中性子線量の計算値が過小評価である可能性は,DS02においても,なお完全には否定することができないというべきである。 さらに,初期放射線の速中性子線(運動エネルギーの高い中性子線)については,DS86において,広島原爆のリン32の測定値と計算値 とが比較され,爆心地から数百m以遠の距離で一致しているかどうかをいうには測定値の誤差が大きすぎるとされていた(乙A112)。その後,銅試料中のニッケル63を測定することによって速中性子線を測定する方法が開発され,広島原爆の爆心地から900~1500mの距離における速中性子の測定値が初めて得られた結果,ニッケル63の測定値とDS86及びDS02の計算値が良く一致するとされたが,広島原爆の速中性子線の測定値は,爆心地から1470mの地点ではDS02に基づく推定線量の1.88±1.72倍となっていること(乙A105の2)等に照らすと,遠距離における測定値と計算値のずれは完全には解消されていないものといえる。 (ウ)以上によれば,DS02においても,爆心地から約1500m以遠において初期放射線の被曝線量を過小評価している可能性を完全には否定することができない。もっとも,爆心地から遠距離における初期放射線の被曝線量の測定値と計算値との相違については,線量が小さくバックグラウンドとの区別が困難であることなどの測定値の不確実性等によるものと考えられ(乙A107),過小評価の可能性があるとしても,その絶対値はそれほど大きなものであるとは考え難いから,これを過大視することはできないというべきである。 ウ以上を総合すれば,DS02は相当の科学的合理性を有し,こ 小評価の可能性があるとしても,その絶対値はそれほど大きなものであるとは考え難いから,これを過大視することはできないというべきである。 ウ以上を総合すれば,DS02は相当の科学的合理性を有し,これによって初期放射線の被曝線量を推定することは合理的ということができるが,その適用については,上記の観点から一定の限界が存することにも留意する必要があるというべきである。 (3)誘導放射線の被曝線量の評価についてア誘導放射線とは,原子爆弾の初期放射線の中性子が建物や土壌等を構成する物質の特定の元素の原子核と反応を起こすこと(誘導放射化)によって生じた放射性物質(誘導放射化物質)が放出する放射線である(乙A1 02,弁論の全趣旨)。 誘導放射線による外部被曝線量について,旧審査の方針は,前記前提となる事実のとおり,申請者の被爆地,爆心地からの距離(広島原爆については700mまで,長崎原爆については600mまで)及び爆発後の経過時間(72時間まで)の区分に応じた所定の値としていた。これに対し,新審査の方針には,誘導放射線による外部被曝線量の算定基準は明示されていないが,医療分科会は,旧審査の方針の考え方を基本的に踏襲し,その後に現れたDS02に基づくP1論文(乙A106)等をも踏まえて線量を算定しているものと認められる(乙A1,13,17,弁論の全趣旨)。 イ P1論文は,誘導放射線(ガンマ線)による地上1mでの外部被曝線量(空気中組織カーマ)を求めた結果,爆発直後から無限時間同じところに居続けたと仮定したときの放射線量(積算線量)は,爆心地においては広島で120センチグレイ,長崎で57センチグレイ,爆心から1000mでは広島で0.39センチグレイ,長崎で0.14センチグレイ,爆心から1500mでは広島で0.01センチグレイ ,爆心地においては広島で120センチグレイ,長崎で57センチグレイ,爆心から1000mでは広島で0.39センチグレイ,長崎で0.14センチグレイ,爆心から1500mでは広島で0.01センチグレイ,長崎で0.005センチグレイとなったとし,これ以上の距離での誘導放射線被曝は無視して構わないと結論付けている(乙A106)ところ,その計算過程の合理性を疑わせる事情は特に見当たらないこと等に照らすと,医療分科会が新審査の方針において用いている誘導放射線による外部被曝線量の算定方法は,相当の科学的根拠に基づくものということができる。 しかしながら,広島及び長崎の土壌に由来する誘導放射線については,誘導放射化物質となり得る元素の含有量・濃度に測定者や測定場所によってかなりのばらつきがあることが認められ(乙A112,129),計算の前提に一定の制約があるということができる。また,P1論文では,地表面(土壌)から生ずる誘導放射線(ガンマ線)を地表1mの高さで積算しているところ,原子爆弾の中性子によって誘導放射化するものとしては, 土壌のみならず,建物等の建築資材,空気中の塵埃,人体や遺体等も想定される上(弁論の全趣旨),被曝の形態も,誘導放射化した塵埃等が身体に付着した場合や,口や傷から体内に取り入れられた場合,誘導放射化した瓦礫や人体に接触した場合など様々なものが考えられるのであって,上記の方法によってこれらすべての場合を的確に算定できるかについては疑問もあり得る。さらに,P1論文は,爆心地から600~700m以遠においては,原子爆弾の中性子線がほとんど届かないため,誘導放射線もほとんど発生しないことを前提としているが,原子爆弾の爆発時に生じた強烈な衝撃波や爆風によって,誘導放射化した土壌等が粉塵となって舞い上がり,遠距離に飛散した 線がほとんど届かないため,誘導放射線もほとんど発生しないことを前提としているが,原子爆弾の爆発時に生じた強烈な衝撃波や爆風によって,誘導放射化した土壌等が粉塵となって舞い上がり,遠距離に飛散した可能性も十分にあるというべきである(なお,広島原爆については,粉塵の水平スケールが4500mと見積もられている(乙A122)。)。また,P1論文は,爆心地から1000m地点の誘導放射線による外部被曝線量は1センチグレイにも満たないとするが,後記のとおり,初期放射線にほとんど被曝していないいわゆる入市被爆者や遠距離被爆者にも放射線被曝による急性症状とみられる症状が一定割合生じている旨の調査結果が複数報告されており,これらの調査結果については,上記の外部被曝線量評価だけでは合理的に説明することが困難である。 ウこれらの点を考慮すると,新審査の方針の下における誘導放射線による被曝線量の評価については,過小評価となっている疑いがあるというべきであり,実際に被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,爆心地から600~700m以遠の地域(広島原爆についていえば,上記粉塵の水平スケールに照らし,少なくとも爆心地から2250m以内の地域)にも誘導放射化物質が相当量存在していた可能性を考慮に入れ,かつ,その被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らして,誘導放射化された放射性物質による様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性を十分に検討する必要があるというべきである。 (4)放射性降下物による放射線の被曝線量の評価についてア放射性降下物による放射線とは,原子爆弾の核分裂によって生成された放射性物質(核分裂生成物)等で地上に降下したもの(放射性降下物)が放出する放射線である(乙A102,弁論の全趣旨)。 放射性降下物によ 降下物による放射線とは,原子爆弾の核分裂によって生成された放射性物質(核分裂生成物)等で地上に降下したもの(放射性降下物)が放出する放射線である(乙A102,弁論の全趣旨)。 放射性降下物による放射線の外部被曝線量について,旧審査の方針は,原爆投下の直後に所定の地域に滞在し,又はその後,長期間にわたって当該地域に居住していた場合についてそれぞれ所定の値としており,具体的には,広島市のff(以下,併せて「ff 地区」という。)につき0.6~2センチグレイ,長崎市のgg●丁目及びhh(以下,併せて「gg 地区」という。)につき12~24センチグレイとしていた(乙A2)。これに対し,新審査の方針には,放射性降下物による放射線の外部被曝線量の算定基準は明示されていないが,医療分科会は,旧審査の方針の考え方を基本的に踏襲し,DS86に係る報告書(乙A112)の分析結果等によって線量を算定・評価しているものと認められる(乙A1,13,17,弁論の全趣旨)。 イ放射性降下物については,原子爆弾投下の数日後から複数の測定者が放射線量の測定を行い,これらの調査の結果,ff 地区及びgg 地区において,それぞれ放射線の影響が比較的顕著に見られることが判明し,これは,原子爆弾の爆発後,両地区において激しい降雨があり,これによって放射性降下物が降下したことによるものであることが確認されている(乙A102,108~111,弁論の全趣旨)。そして,DS86に係る報告書は,これらの調査結果を総括して,地表1mの高さにおける放射性降下物の累積的被曝への寄与は,gg 地区では,おそらく20~40レントゲンの範囲であり,ff 地区では,おそらく1~3レントゲンの範囲であるとし,これを組織吸収線量に換算すると,長崎については12~24ラド(12~24センチ gg 地区では,おそらく20~40レントゲンの範囲であり,ff 地区では,おそらく1~3レントゲンの範囲であるとし,これを組織吸収線量に換算すると,長崎については12~24ラド(12~24センチグレイ),広島については0.6~2ラド(0.6~2センチグ レイ)になると結論付けている(乙A112)。同分析は,上記のとおり原子爆弾投下直後の調査に基づく複数の調査報告等を総括したものであり,その後の調査結果による推定値もこれと特に矛盾するものではないこと(甲A27の1・2,乙A108)等をも考慮すると,医療分科会が新審査の方針において用いている放射性降下物による放射線の外部被曝線量の算定方法は,相当の科学的根拠に基づくものということができる。 しかしながら,放射性降下物の測定結果については,上記分析自体が測定等の精度の非常に低いことを強調しているところ(乙A112),放射性降下物は,必ずしも均一に存在していたわけではない上,地表到達後の風や地表水による移動の結果,分布が更に複雑になるのであって(乙A60),降下形態やその後の集積により局地的に強い放射線を出す場合があり得ること(なお,原子爆弾投下後数か月以内の複数の測定結果からは,放射性降下物が相当不均一に存在していたことが推認される(甲A73,乙A109~111)。)等をも考慮すると,上記算定方法による放射性降下物による放射線の外部被曝線量の算定については,測定精度や測定資料等の制約から一定の限界が存するというべきである。 また,旧審査の方針においては,特定の地域についてのみ放射性降下物による放射線の外部被曝線量を算定することとされていたが,広島原爆投下後の降雨域は相当に広いものであり(甲A27の1・2,68~70,乙A108),ff 地区以外の地域でも相当量の放射性降下物を 物による放射線の外部被曝線量を算定することとされていたが,広島原爆投下後の降雨域は相当に広いものであり(甲A27の1・2,68~70,乙A108),ff 地区以外の地域でも相当量の放射性降下物を含む降雨があったことが推認されるし,長崎原爆についても,gg 地区以外の地域における降下物の目撃供述があるとされている(甲A65)。そして,上記算定方法は,放射性降下物による放射線(ガンマ線)を地表1mの高さで積算するものであるが,放射性降下物についても,誘導放射線についてと同様,放射性物質である放射性降下物に直接接触したり,これを体内に摂取したりすることによる,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性が あることは否定できない。さらに,上記のとおり,放射性降下物は均一に存在しているとは限らず,放射性降下物が集積し局地的に強い放射線を放出している場合もあり得,これに接触し又は接近することにより相当量の被曝をする可能性も考えられる。また,旧審査の方針によれば,広島原爆の放射性降下物による放射線の外部被曝線量は,最大でもわずか2ラド(0. 02グレイ)とされているが,広島原爆投下直後の調査結果においては,黒い雨が降った地域の池や川の魚類が斃死浮上する現象等が報告されており(甲A69),これらを上記の線量によって合理的に説明することは困難というべきである。 ウこれらの点を考慮すると,新審査の方針の下における放射性降下物による被曝線量の評価は,過小評価となっている疑いがあるというべきであり,実際に被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,ff 地区又はgg 地区以外の地域にも放射性降下物が相当量降下し又は浮遊していた可能性を考慮に入れ,かつ,当該被爆者の被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らし,放射性降下物による様々な形態で 区又はgg 地区以外の地域にも放射性降下物が相当量降下し又は浮遊していた可能性を考慮に入れ,かつ,当該被爆者の被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らし,放射性降下物による様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に検討する必要があるというべきである。 (5)内部被曝の影響の評価についてア内部被曝とは,呼吸,飲食,外傷,皮膚等を通じて体内に取り込まれた放射性物質が放出する放射線による被曝をいう(弁論の全趣旨)。 旧審査の方針においては,前記のとおり,内部被曝による被曝線量は特に考慮されておらず,新審査の方針の下においても,医療分科会は,旧審査の方針の考え方を基本的に踏襲し,内部被曝による被曝線量を重視していないものと認められる(乙A1,13,17,弁論の全趣旨)。 イ内部被曝については,昭和44年及び昭和56年にgg 地区の住民を対象とするセシウム137の測定結果を用いて,昭和20~60年の40年間に及ぶ内部被曝線量を積算したところ,男性で10ミリレム(0.000 1グレイ),女性で8ミリレム(0.00008グレイ)と推定されたとの報告(乙A112)や,広島原爆投下当日に爆心地から1㎞以内の地点において8時間の片付け作業に従事した場合の内部被曝線量の推定は0. 06マイクロシーベルトであるとして,外部被曝に比べ無視できるレベルであるとする研究(P1論文)があり,医療分科会が内部被曝による被曝線量を重視していないのは上記のような科学的知見に基づくものと認められる(弁論の全趣旨)。そうすると,内部被曝による被曝線量を重視しない医療分科会の方針は,相当の科学的根拠に基づくものというべきである。 しかしながら,上記の報告等からは,短時間で大きな内部被曝を生じさせる可能性のある半減期の短い放射 被曝による被曝線量を重視しない医療分科会の方針は,相当の科学的根拠に基づくものというべきである。 しかしながら,上記の報告等からは,短時間で大きな内部被曝を生じさせる可能性のある半減期の短い放射性物質等による内部被曝線量については不明である上,前記のとおり,爆心地付近に限らず局地的に放射性降下物や誘導放射化物質が集積するなどしている場合があり得ることも考慮すると,内部被曝線量はおよそ無視し得る程度のものであると評価することには,なお疑問が残るといわざるを得ない。 また,被告は,内部被曝による健康影響は被曝線量が同じであれば外部被曝による健康影響と同等であるかより低いと主張し,これに沿う証拠(乙A6,60,81)もあるが,他方で,内部被曝については,①ガンマ線の線量は線源からの距離に反比例するから,同一の放射線核種による被曝であっても,外部被曝より被曝線量自体が大きくなる,②外部被曝ではほとんど問題とならないアルファ線やベータ線を考慮する必要があり,しかもこれらは飛程距離が短いため,そのエネルギーのほとんど全てが体内に吸収され,核種周辺の体内組織に大きな影響を与える,③人口放射線核種は,放射性ヨウ素なら甲状腺というように,特定の体内部位に濃縮され,集中的な被曝が生ずる,④放射性核種が体内に沈着すると,被曝が長期間継続することになるといった外部被曝と異なる特徴があり,一時的な外部被曝よりも身体に大きな影響を与える可能性があるなどと指摘する見解も ある(甲A45,60,129,194,196の1・2の1・2の2,235)。この点,現状においては,これらの見解が科学的知見として確立しているとはいい難い上,体内に取り込まれた放射性微粒子による不均等かつ継続的な被曝によってリスクが飛躍的に高まるとするいわゆるホットパーティクル理論 においては,これらの見解が科学的知見として確立しているとはいい難い上,体内に取り込まれた放射性微粒子による不均等かつ継続的な被曝によってリスクが飛躍的に高まるとするいわゆるホットパーティクル理論については,ICRP等により相当の科学的根拠をもって否定されている(乙A119の2,142の1・2,143,144の1・2,145)。もっとも,内部被曝の機序については必ずしも科学的に解明・実証されていないところ,低線量放射線による継続的被曝が高線量放射線の短時間被曝よりも深刻な障害を引き起こす可能性について指摘する見解(甲A36,129,144,149,198)もあり(例えば,原子力安全委員会の放射線障害防止基本専門部会・低線量放射線影響分科会は,核分裂中性子線等については同じ被曝線量であれば長期にわたって被曝した場合(低線量率の場合)の方がリスクも上昇するという逆線量率効果,被曝した細胞から隣接する細胞に被曝の情報が伝わるバイスタンダー効果,放射線被曝を受けた細胞に生じた遺伝的変化が間接的な突然変異を誘発するゲノム不安定性誘導等の可能性を指摘する(甲A198)。),これらの見解を一概に無視することまではできない。 ウ以上によれば,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らして,誘導放射化物質及び放射性降下物を体内に取り込んだことによる内部被曝の可能性がないかどうかを十分に検討する必要があるというべきであり,加えて,内部被曝による身体への影響には,一時的な外部被曝とは異なる特徴があり得ることを念頭に置く必要があるというべきである。 (6)遠距離被爆者及び入市被爆者の被曝線量の評価についてア遠距離被爆者について放射線被曝による急性症状については,皮下出血 特徴があり得ることを念頭に置く必要があるというべきである。 (6)遠距離被爆者及び入市被爆者の被曝線量の評価についてア遠距離被爆者について放射線被曝による急性症状については,皮下出血(歯茎からの出血,紫 斑を含む。)については2グレイ程度,脱毛については3グレイ程度,下痢については4グレイ程度のしきい線量(1~5%の人に症状が出現する線量)があるなどとされているところ(乙A149,弁論の全趣旨),DS86及びP1論文により算出される誘導放射線及び放射性降下物による外部被曝線量は,現実的には最大でもせいぜい数十センチグレイ程度であるから,上記のしきい線量(DS02によれば,広島原爆については爆心地から1000~1200m付近で,長崎原爆については爆心地から1200~1400m付近でそれぞれ被爆した場合の初期放射線による被曝線量に相当する(乙105の1)。)を前提とすれば,広島原爆及び長崎原爆のいずれについても,爆心地から1500m以遠において皮下出血,脱毛,下痢といった放射線被曝による急性症状が生じることはほとんどないことになるはずである。 しかしながら,原子爆弾投下後比較的早期に行われた調査として,①広島・長崎における被爆20日後の生存者を調査した結果に基づく日米合同調査団報告書(甲A6,124の10),②昭和20年10月から同年11月にかけて広島原爆の被爆者約5000名を調査した結果に基づく東京帝国大学医学部診療班の原子爆弾災害調査報告(甲A86,124の9),③同年10月から同年12月にかけて長崎原爆の被爆者約6000名を調査した結果に基づく報告(甲A67文献4,90),④昭和32年1月から同年7月にかけて広島原爆の被爆者約4000名を調査した結果に基づく報告(甲A67文献6)等があるが,これらの調査結 000名を調査した結果に基づく報告(甲A67文献4,90),④昭和32年1月から同年7月にかけて広島原爆の被爆者約4000名を調査した結果に基づく報告(甲A67文献6)等があるが,これらの調査結果からは,脱毛や皮下出血(紫斑)が生じたとする者が,爆心地から1500~2000mの地点で被爆した者については10%前後以上,2000m以遠で被爆した者についても数%以上存在し,かつ,これらの症状(特に脱毛)を生じたとする者の割合が,爆心地からの距離や遮蔽の存在に応じて減少する傾向があると認められる(この傾向は,その他の調査結果(甲A87~89, 124の12等)ともおおむね合致している。)。 このような傾向に照らすと,爆心地からの距離が1500m以遠において被爆した者に生じたとされる脱毛や皮下出血等の症状は,全てとはいえないまでも,その相当部分は放射線による急性症状であると見るのが自然である。ところで,初期放射線による被曝線量は,爆心地から2000m以遠においては1グレイにも達しないと認められ(乙A105の1),他方,外部被曝による脱毛や下痢のしきい線量は,前記のとおり3~4グレイ程度とされていること等も考慮すると,爆心地から1500m以遠にみられる脱毛等の症状につき,初期放射線による外部被曝が主たる原因であると理解することもまた困難であって,むしろ,主として,誘導放射化した大量の粉塵等や放射性降下物から発せられる放射線による外部被曝及び内部被曝をしたことによるものと見るのが,自然かつ合理的というべきである(なお,遮蔽の有無により急性症状の発症率に有意な差があることについては,原子爆弾の爆発直後に発生した短命の誘導放射化物質や放射性降下物への接触の程度に差があったためと考えることも可能である。)。 イ入市被爆者について 状の発症率に有意な差があることについては,原子爆弾の爆発直後に発生した短命の誘導放射化物質や放射性降下物への接触の程度に差があったためと考えることも可能である。)。 イ入市被爆者について原子爆弾投下時には広島市内又は長崎市内におらず,その後に市内に入った者(いわゆる入市被爆者)についても,例えば,①原子爆弾投下時には広島市内にいなかった者で,投下直後に広島市内に入ったものの中心地(爆心地から1㎞以内)には出入りしなかった104名には,発熱,下痢,脱毛等の症状はみられなかったが,同様の者で投下直後に中心地に入った525名のうち230名(43.8%)にこれらの症状(急性症状の特徴を備えるもの)がみられ,そのうち投下から20日以内に中心地に出入りした人に有症率が高く,投下から1か月後に中心地に入った人の有症率は極めて低く,中心地滞在時間が4時間以下の場合は有症率が低く,10時間以上の人に有症率が高いなどとする報告(甲A67文献6),②広島原 爆の爆心地から約12㎞又は約50㎞の地点にいた陸軍船舶司令部隷下の将兵のうち原子爆弾投下後に入市して負傷者の救援活動等に従事した233名について,下痢患者が多数続出したほか,ほとんど全員が白血球3000以下と診断され,発熱,点状出血,脱毛の症状も少数ながらあったとする報告(甲A112の17),③賀北部隊工月中隊に所属し原子爆弾投下後に入市して作業に従事した99名に対するアンケート等調査の結果,その約3分の1が放射線による急性障害に似た諸症状を訴えており,そのうちほぼ確実な急性症状として,脱毛6名,歯茎等からの出血5名,白血球減少2名があったなどとする報告(乙A151資料38,199)等がある。 これらの調査結果等によれば,入市被爆者についても,放射線被曝による急性症状とみられ 脱毛6名,歯茎等からの出血5名,白血球減少2名があったなどとする報告(乙A151資料38,199)等がある。 これらの調査結果等によれば,入市被爆者についても,放射線被曝による急性症状とみられる脱毛,下痢,発熱等の症状が少なからず生じており,爆心地付近に入った時期が早く,また滞在時間が長いほど有症率が高いという傾向があると認められるのであって,このような傾向に照らすと,上記のような症状の多くは,誘導放射線及び放射性降下物による外部被曝及び内部被曝の影響によるものと見るのが自然であり,放射線被曝以外の原因によるものと理解することは困難というべきである。 ウ被告の主張について被告は,放射線被曝による急性症状には発症時期,程度,回復時期等に明確な特徴があり,他方,自然災害や東京大空襲等の被災者にも,嘔吐,下痢,脱毛等の身体症状の発症が確認されており,これらの症状は衛生状況等の悪化や精神的影響によるものと考えるのが合理的であるから,遠距離・入市被爆者にこれらの症状が見られたからといって,そのことから,当該被爆者が放射線被曝による急性症状を発症し,ひいては,有意な被曝をしたものと推論することは不当であると主張する。しかしながら,遠距離被爆者については爆心地からの距離や遮蔽の存在等に応じて脱毛等の症 状が減少し,入市被爆者については爆心地付近に入った時期が早く,また滞在時間が長いほど有症率が高いという傾向が見られ,このような傾向に照らすと当該症状の多くが放射線被曝以外の原因によるものと理解することが困難というべきことは前記のとおりであり,仮に,自然災害や東京大空襲等において嘔吐,下痢,脱毛等の症状が一定割合で生じていたとしても,直ちに上記の評価を左右するものということはできない。 また,被告は,①入市被爆者としては最も りであり,仮に,自然災害や東京大空襲等において嘔吐,下痢,脱毛等の症状が一定割合で生じていたとしても,直ちに上記の評価を左右するものということはできない。 また,被告は,①入市被爆者としては最も多くの被曝をしているとされる賀北部隊工月中隊について末梢血10ml の染色体分析から被曝線量を推定したところ,推定線量は平均0.048グレイ(最大0.135グレイ)であり,DS86等を用いた物理学的推定値(平均0.051グレイ,最大0.118グレイ)とほぼ一致した,②遠距離被爆者について極めて信頼性の高い生物学的推定法である歯エナメル質の電子スピン共鳴法(ESR法)による被曝線量の測定を行ったところ,「遠距離被爆者の大多数が浸透力の大きい残留放射線によって大きな線量(例えば1Gy)を受けたという主張を支持しなかった」と結論付けられている,③放射性降下物が最も強く残留したとされるgg 地区の住民6名について染色体異常頻度から包括的な被曝線量を推定した結果,平均0.0625グレイとなり,物理学的推定値と大差がなかった,④賀北部隊工月中隊の総死亡率及びがん死亡率調査では日本全国の統計と有意な差が認められなかった,⑤LSS集団のうちの「早期入市者」4512名の死亡率の調査からは,白血病以外のがんについては増加が認められなかったなどとして,残留放射線(誘導放射線及び放射性降下物)による外部被曝及び内部被曝が低線量であったことが確認されていると主張する。しかしながら,上記のうち,染色体異常頻度による推定(上記①③)については,被爆後検体の入手までに長期間が経過しているため,識別が困難な安定型異常が中心とならざるを得ず,また,検査の対象となる血液リンパ球集団自体が被曝時の細胞分化段 階を異にする異質な集団であり,個々の細胞がどの分化段階で放射線 過しているため,識別が困難な安定型異常が中心とならざるを得ず,また,検査の対象となる血液リンパ球集団自体が被曝時の細胞分化段 階を異にする異質な集団であり,個々の細胞がどの分化段階で放射線に被曝したかを調べる方法がなく,染色体異常頻度を放射線量に換算できないといった問題があり(乙A206,207),ESR法による推定(上記②)については,49名の被爆者から提供された56本の大臼歯という限られた資料に基づくものであり(乙A209の1・2,210。なお,ESR法を含む生物学的線量測定値は,LSS集団のわずかな一部の集団についてしかデータがなく,かなりの不確実性があると見られるとされる(乙A212)。),大量の残留放射線に被曝した原爆被爆者が一定割合は存在する可能性は留保されている上,内部被曝が検出されていない可能性も指摘されている(乙A209の1・2)。さらに,賀北部隊工月中隊の疫学調査(上記④)については,総数99名,死亡者27名という小規模な集団を対象とするものである上,その考察においても,死亡に至らない種々の疾病・障害があった可能性については更なる追跡の必要がある旨が指摘されているし(乙A199),LSS集団のうちの「早期入市者」の死亡率の調査(上記⑤)も,その対象とする「早期入市者」には原爆投下後1か月以内に市内(爆心地からの距離に限定はない。)に入った者が広く含まれており,そのうち原爆投下の当日又は翌日に1000~1200m以内に入市した者(a群)は191名にすぎず,その考察においても,慎重に長期観察を継続することが重要であるとされている(乙A217)。そうすると,上記の各研究結果から,直ちにおよそ遠距離被爆者や入市被爆者が健康に影響を及ぼすような線量の放射線に被曝していないとまではいうことができない。 よって, るとされている(乙A217)。そうすると,上記の各研究結果から,直ちにおよそ遠距離被爆者や入市被爆者が健康に影響を及ぼすような線量の放射線に被曝していないとまではいうことができない。 よって,被告の上記主張はいずれも採用することができない。 エ小括以上によれば,個別の遠距離・入市被爆者に生じた上記のような症状が放射線被曝による急性症状であるか否かについては,これらの症状が放射 線被曝以外の原因によっても生じ得るものであること等を踏まえて慎重に検討する必要があるとしても,遠距離・入市被爆者に生じた症状が,およそ放射線の影響によるものではないとすることは不合理であり,遠距離・入市被爆者であっても有意な放射線被曝をし得ることを否定することはできない(他方,急性症状のしきい線量が,前記のとおり,1~5%の人に症状が出現する線量を意味することに照らすと,明確な急性症状がないからといって,直ちに有意な放射線被曝をしていないということにはならない。)というべきである。 (7)まとめ以上のとおり,新審査の方針の下での被曝線量の算定方法は,科学的合理性を肯定することができるものの,シミュレーションに基づく推定値であることや測定精度の問題等から一定の限界が存することに十分留意する必要がある上,特に誘導放射線及び放射性降下物による放射線については,内部被曝の影響を考慮していない点を含め,地理的範囲及び線量評価の両方において過小評価となっている疑いがあるといわざるを得ない。そうすると,DS02等により算定される被曝線量は,飽くまでも一応の目安とするにとどめるのが相当であり,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らし,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がな とするにとどめるのが相当であり,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らし,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に検討する必要があるというべきである。 第2 原爆症認定要件該当性(争点②) 1 原告X1について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等 (ア)昭和20年8月6日の広島原爆投下時,原告X1(当時5歳)は,広島市c町の自宅近くの路上(爆心地から約2.4㎞)に弟と共におり,同所で被爆したが,塀の陰になったため,直接閃光を浴びなかった(甲B1,乙B5,6,10,11,原告X1本人)。 (イ)原告X1は,その後,灰や砂埃の中を,近所の女性に連れられて,姉や弟と共に北方向(爆心地と反対方向)に避難し,同日昼頃,修道院のような建物(爆心地からの距離は不明である。)に着き,同建物において,配られた握り飯を食べ,他の避難者が大勢いる小さな部屋で雑魚寝をして過ごした(甲B1,乙B1,6,原告X1本人,弁論の全趣旨)。 (ウ)原告X1は,その後,両親とも合流し,2週間から1か月程度,上記建物で生活し,その後,徒歩で広島駅付近を通って,広島市dに転居した(甲B1,乙B6,11,原告X1本人)。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(ア)原告X1は,昭和20年8月7日朝,衣服で隠れていた部分以外の体全体がかゆくなり,赤紫の斑点が生じた(原告X1本人)。 (イ)原告X1は,昭和56年に狭心症と診断され,昭和57年4月には発作を起こして入院し,平成2年2月には再び入院してバイパス手術を受け, がかゆくなり,赤紫の斑点が生じた(原告X1本人)。 (イ)原告X1は,昭和56年に狭心症と診断され,昭和57年4月には発作を起こして入院し,平成2年2月には再び入院してバイパス手術を受け,さらに,平成20年に経皮的冠動脈形成術(PCI)を受けた(甲B1,2,9,11,乙B1,9,原告X1本人)。 (ウ)原告X1は,平成13年から平成17年にかけて,複数回にわたり大腸ポリープを切除し,平成13年頃には白内障と診断された(甲B1~3)。 (エ)原告X1は,昭和53年頃に高コレステロール血症との指摘を受け,その後も総コレステロール値及びトリグリセライド値の高い状態が続いていたところ,昭和57年4月に狭心症の発作を起こして入院した際のトリグリセライド値(単位mg/dl,基準値50~150)は655,総 コレステロール値(単位mg/dl,基準値130~220)は282であり,退院時には,トリグリセライド値が176,総コレステロール値が203まで低下したものの,高脂血症と診断された(甲B10,乙A529,B9)。 (オ)原告X1は,上記(エ)の入院時,身長160.5㎝,体重68㎏であり,BMI(単位㎏/㎡。25~27が肥満傾向,27以上が肥満とされる。)は約26.6であった(乙A517,B9)。 (カ)原告X1は,その後,境界型糖尿病を指摘され,平成2年2月に入院した際には,身長161.5㎝,体重72㎏であり(BMIは約27. 8),入院数日後のトリグリセライド値は168,総コレステロール値は259であった(甲B12,乙B3,7,9)。 (キ)原告X1は,狭心症を発症した後,継続的に降圧剤等の投薬治療を受けている(乙B2)。 (2)放射線起因性ア放射線被曝の程度について(ア)原告X1は,前記認定のと 3,7,9)。 (キ)原告X1は,狭心症を発症した後,継続的に降圧剤等の投薬治療を受けている(乙B2)。 (2)放射線起因性ア放射線被曝の程度について(ア)原告X1は,前記認定のとおり,広島原爆の爆心地から約2.4㎞離れた路上の塀の陰において被爆しているのであるから,DS02による初期放射線による推定被曝線量は,0.0179グレイを下回る(乙A105の1)。また,前記認定の新審査の方針の下における線量評価方法によれば,被爆地点から爆心地と反対方向にある修道院のような建物まで避難し,2週間以上滞在していた原告X1については,誘導放射線による有意な被曝はなく,また,原告X1がff 地区に滞在又は居住したとは認められないから,放射性降下物による放射線被曝はないことになる。 しかしながら,原告X1は,前記認定のとおり,被爆直後に,灰や砂埃(前記のとおり,誘導放射化物質や放射性降下物が含まれている可能 性は否定できない。)の中を徒歩で避難している上,たどり着いた修道院のような建物においては,多くの避難者が密集する部屋に滞在し,握り飯を食べるなどしており,他の避難者らの衣服,髪,皮膚等に付着した粉塵等(特に爆心地方面からの避難者に付着した粉塵等については,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子が含まれている可能性が高いといえる。)に接触し,呼吸等を通じて上記粉塵等を体内に取り込むなどしたものと推認される。 そうすると,原告X1は,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である(もっとも,原告X1は,上記のとおり,被爆地点(爆心地から約2.4㎞)から爆心地と反対方向の上記建物に避難し,その後,少なくとも2週間程度は同建物に滞在していること,被爆後に原告X1に生じた赤紫色 もっとも,原告X1は,上記のとおり,被爆地点(爆心地から約2.4㎞)から爆心地と反対方向の上記建物に避難し,その後,少なくとも2週間程度は同建物に滞在していること,被爆後に原告X1に生じた赤紫色の斑点が放射線被曝による急性症状であると認めるに足りる証拠はないこと等に照らすと,仮に,上記建物に滞在中に,被爆地点付近の自宅跡地を訪ねることがあったとしても,その被曝放射線量が非常に高かったとまではいうことができない。)。 (イ)この点,被告は,原告X1の推定被曝線量は,全体量としても,0. 0179グレイを下回る程度にすぎず,健康に影響を及ぼすような有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきである。よって,被告の上記主張は,採用することができない。 イ狭心症と放射線被曝との関連性について(ア)原告X1の申請疾病は,前記前提となる事実のとおり,「狭心症」であるところ,狭心症は,冠動脈が何らかの原因で閉塞して心筋への血液供給が阻害されて心筋細胞が酸素不足(虚血)に陥る虚血性心疾患であ って,心筋壊死を伴わないものであり,その主因は,心筋梗塞(虚血性心疾患であって,心筋壊死を伴うもの。)と同じく,冠動脈硬化症(冠動脈に生ずる粥状動脈硬化)であるとされる(乙A501~504)。 粥状動脈硬化症(アテローム性動脈硬化症)とは,動脈の内側に粥腫(アテローム)が沈着してプラーク(動脈硬化巣)を形成する疾患であり,形成されたプラークにより血管の内腔が閉塞して血液が流れにくくなったり,プラークが破れて血液中に形成された血栓が重要臓器の血管を詰まらせたりすることによって,心筋梗塞,脳梗塞等を引き起こすものである(乙A50 ラークにより血管の内腔が閉塞して血液が流れにくくなったり,プラークが破れて血液中に形成された血栓が重要臓器の血管を詰まらせたりすることによって,心筋梗塞,脳梗塞等を引き起こすものである(乙A503~507)。 (イ)狭心症や心筋梗塞及び動脈硬化と放射線被曝との関連性については,①一定の原爆被爆者集団の昭和25年から昭和60年までの循環器疾患による死亡率は線量との有意な関連を示したなどとする寿命調査(LSS)第11報(甲A67文献29,乙A167),②同集団の昭和25年から平成2年までの死亡者について解析した結果,心疾患の1シーベルト当たりの過剰相対リスク(当該要因によって増加したリスクの割合)は0.14(90%信頼区間(同一の調査を同一の計算方法を用いて100回行った場合に90回は母平均値が入る区間)は0.05~0.22,P値(当該要因がある群とない群とで発症率が等しいとする仮説が正しいと仮定した場合に当該結果が起こる確率であり,0.05を下回る場合に上記仮説が誤りであり両群に有意な差があると判定することが多い。)は0.003)であり,そのうち冠状動脈性心疾患の1シーベルト当たりの過剰相対リスクは0.06(90%信頼区間は-0.06~0.20)であるとした上,「影響はもはや最も高い線量域に限らない」,「心筋梗塞および脳梗塞,ならびにアテローム性動脈硬化症と高血圧症の様々な指標について有意な線量反応が観察されている」とするLSS第12報(甲A67文献18,乙A168),③同集団の昭和4 3年から平成9年までの期間における心疾患の1シーベルト当たりの過剰相対リスクは0.17(90%信頼区間は0.08~0.26,P値は0.001)であるとするLSS第13報(甲A67文献19,乙A169),④40歳未満で被爆した人の心筋梗塞( シーベルト当たりの過剰相対リスクは0.17(90%信頼区間は0.08~0.26,P値は0.001)であるとするLSS第13報(甲A67文献19,乙A169),④40歳未満で被爆した人の心筋梗塞(ただし,喫煙及び飲酒の因子を調整する前のもの。)について,1シーベルト当たりの相対リスク(当該要因がある場合にリスクが何倍になるかを示す値であり,相対リスクから1を控除した値が過剰相対リスクとなる。)は1.25(95%信頼区間は1.00~1.69,P値は0.05)となり,有意な二次線量反応関係を認めたとする成人健康調査(AHS)第8報(甲67文献31,乙A170の1・2),⑤被爆者について,心疾患による死亡及び心筋梗塞が増加しており,大動脈弓の石灰化及び網膜細動脈硬化を認めることから,被曝の影響として動脈硬化による心血管疾患が増加していると考えられるとするP2報告(甲G10,乙A527),⑥昭和62年から平成15年までに原爆検診を受診した40~79歳の被爆者1万6335例につき,大動脈脈波速度(PWV)を測定したところ,被曝と大動脈硬化の関連が認められ,特に被爆時年齢が20歳未満の男性の若年直接被爆者では大血管の動脈硬化が強く,特に10歳未満の近距離被爆者に強いとの結果を得たとするP3報告(甲G11),⑦一定の原爆被爆者集団のうち,昭和25年から平成15年までの間に心臓病で死亡した8463人について分析したところ,心疾患については1グレイ当たりの過剰相対リスクは0.14(95%信頼区間は0. 06~0.23,P値は0.001未満)であったとし,低線量被曝でも過剰リスクがあることが示唆されたが,結論として,0.5グレイを上回る被曝線量は心疾患のリスク上昇に関連していたものの,それより少ない線量では明確ではなかったとするP4論文(甲G9の1・ 量被曝でも過剰リスクがあることが示唆されたが,結論として,0.5グレイを上回る被曝線量は心疾患のリスク上昇に関連していたものの,それより少ない線量では明確ではなかったとするP4論文(甲G9の1・2,乙A524~526)等の知見があることが認められる。 (ウ)以上のとおり,心筋梗塞や動脈硬化については,原子爆弾の放射線被曝との関連性を肯定する科学的知見が集積しているのであって,心筋梗塞及びこれと同じく粥状動脈硬化症を主因とする虚血性心疾患である狭心症と放射線被曝との関連性については,低線量域も含めて,一般的に肯定することができるというべきである(なお,近時,放射線被曝が,免疫機能低下を引き起こしてウイルス等による慢性的な炎症反応を誘発し,動脈硬化・心筋梗塞の発症の促進に寄与していることを示唆する複数の研究報告(LSS第12報,P2報告等)が示されるなど,放射線被曝が粥状動脈硬化及び心筋梗塞の発症を促進する機序についても科学的な知見が集積しつつあり,このことは,心筋梗塞等と放射線被曝との関連性を更に強固に裏付けるものということができる。)。 (エ)これに対し,被告は,①LSS第11報及び第12報は,心筋梗塞等よりも広いカテゴリである「循環器疾患」による死亡率が放射線被曝と有意な関連を示したものにすぎない,②LSS第13報は,心疾患等のがん以外の疾患の死亡率について,低線量域における線量反応関係は不確実であるとしており,心疾患における低線量の放射線被曝との関連性についての仮説を提示したものにすぎない,③AHS第8報は,40歳未満で被爆した人の心筋梗塞について,統計上喫煙と飲酒による影響が出ないようにこれらの因子を調整した場合のP値は0.14としており,放射線被曝との間に有意な関係が示されているとはいえない上,「虚血性心疾 被爆した人の心筋梗塞について,統計上喫煙と飲酒による影響が出ないようにこれらの因子を調整した場合のP値は0.14としており,放射線被曝との間に有意な関係が示されているとはいえない上,「虚血性心疾患」のカテゴリで見ると,上記の因子を調整しなかった場合も調整した場合も,有意な関連がない,④P2報告は研究途上における可能性を述べるものにすぎず,P3報告も若年時の近距離被曝により動脈硬化がより強くなる可能性を示したにすぎない,⑤P4論文も,「心筋梗塞」ではなくより広いカテゴリである「心疾患」について放射線との関連性を指摘したものにすぎない(P4論文に添付されたウェブ表B(乙 A525)によれば,「心筋梗塞」のカテゴリにおけるP値は0.5超で,1グレイ当たりの過剰相対リスクも0であるし,狭心症等も含んだ「虚血性心疾患」のカテゴリを見ても,P値は0.5超であり,1グレイ当たりの過剰相対リスクの95%信頼区間も-10~15%と下限値が負となっているから,その死亡率と放射線被曝との関連性は統計学的に有意とはいえない。)上,0.5グレイ以下の低線量被曝については,「心疾患」の死亡率との間に統計学的に有意な関係を示す結果は得られなかったとされているなどとして,上記各知見は,いずれも心筋梗塞や狭心症の放射線起因性を認める根拠となる科学的知見とはいえないと主張する。 しかしながら,LSS第13報は,心疾患を含むがん以外の疾患のリスクについて,「1Sv 以下の線量においても増加していることを示す強力な統計的証拠がある。低線量における線量反応の形状については著しい不確実性が認められ,特に約0.5Sv 以下ではリスクの存在を示す直接的証拠はほとんどないが,LSSデータはこの線量範囲で線形性に矛盾しない。」「リスク増加の全般的特徴から,また機序に関す は著しい不確実性が認められ,特に約0.5Sv 以下ではリスクの存在を示す直接的証拠はほとんどないが,LSSデータはこの線量範囲で線形性に矛盾しない。」「リスク増加の全般的特徴から,また機序に関する知識が欠如していることから,因果関係については当然懸念が生ずるが,この点のみからLSSに基づく所見を不適当と見なすことはできない。」などとしており(甲A67文献19,乙A169),低線量域を含む放射線被曝との関連性を強く示唆する内容であるということができるし,LSS第12報についても,冠状動脈性心疾患の過剰相対リスク自体は正の値を示している上,心疾患の「その他」(過剰相対リスク0.17,90%信頼区間0.05~0.31)の中には,「心不全」と記載されているものが1787例(55%)含まれている(甲A67文献18,乙A168)ところ,その中には心筋梗塞も相当数含まれていると見るのが自然であることも考慮すると,統計学的な有意性が直ちに否定され るものではないというべきである。また,P4論文は,0.5グレイ未満の結果は統計的に有意でなかったとするものの,心疾患に関しては,線形モデルがよく適合し,推定しきい値線量の最良の予想は0グレイ(95%信頼上限は約0.5グレイ)であったなどとしていること(甲G9の1・2,乙A524)からしても,心疾患と低線量の放射線被曝との関連性を強く示唆するものと見るべきである(なお,少なくとも高線量域において心筋梗塞と放射線被曝との関連性が認められることにはほぼ異論がないこと(弁論の全趣旨)等に照らすと,上記ウェブ表Bの心筋梗塞及び虚血性心疾患の分類に係るデータについては,その信頼性を慎重に検討する必要があるところ,P4論文は,死亡診断書上の分析の正確さについて,広いカテゴリ(脳卒中及び心疾患)については「 Bの心筋梗塞及び虚血性心疾患の分類に係るデータについては,その信頼性を慎重に検討する必要があるところ,P4論文は,死亡診断書上の分析の正確さについて,広いカテゴリ(脳卒中及び心疾患)については「かなりよかった」としているのに対し,より細かな疾患の下位分類については「精度は貧弱と言わざるをえない」(死亡診断書と剖検報告書との一致率は,虚血性心疾患では69%であり,高血圧性心疾患では22%にとどまる。)としていること(乙A526)からすれば,高血圧性心疾患に分類されているもののうち相当数が虚血性心疾患又は心筋梗塞である可能性がある上,心不全とは心臓の機能不全を意味する概念であるから,心不全のカテゴリには相当数の虚血性心疾患又は心筋梗塞が含まれていると考えるのが自然であり,同表の心筋梗塞及び虚血性心疾患に係るデータを数値どおりに捉えて,心疾患のうち虚血性心疾患及び心筋梗塞については放射線との間に関連性がないと結論付けることは相当ではないというべきである。この点,被告は,死亡診断書に「心不全」との記載をしないよう厚生労働省が指示をした後,心臓病の死亡率が下がり「がん」等の死亡率が上がっているから(乙A541),「心不全」と診断された症例の中には心疾患以外の症例が多分に含まれていたと主張するが,仮に死亡率の変動が上記のとおりであるとしても,直ちに「心不全」 と診断された症例の大多数が心疾患以外の症例で虚血性心疾患又は心筋梗塞はほとんど含まれていないとまではいうことができない。)。さらに,P2報告やP3報告も,各種の研究結果に基づき,放射線被曝の動脈硬化への影響について合理的に説明するものであり(甲G10,11,乙A527),これを仮説にすぎないとして一概に無視することはできないというべきである。以上によれば,仮にAHS第8報にお 被曝の動脈硬化への影響について合理的に説明するものであり(甲G10,11,乙A527),これを仮説にすぎないとして一概に無視することはできないというべきである。以上によれば,仮にAHS第8報において心筋梗塞と放射線被曝との間に有意な関連が認められていないとしても,なお心筋梗塞の発症と低線量域を含む放射線被曝との関連性を示唆する十分な知見が存在し,これらの知見は,訴訟上,心筋梗塞や狭心症の放射線起因性を認める根拠となり得るものということができる。 また,被告は,UNSCEAR2006年(平成18年)報告書(乙A537)は,LSS第12報及び第13報並びにAHS第8報の内容を総括して,「約1-2Gy 未満の線量における電離放射線への被ばくと心血管疾患の罹患との間に因果関係があると結論づけるには現在不十分である」とし,UNSCEAR2010年(平成22年)報告書(乙A539)においても同様に結論付けられており,2011年(平成23年)4月に発表されたICRPの声明(乙A523の1・2)においても,P4論文などの最近の研究結果等も踏まえた上で,循環器疾患のしきい吸収線量が0.5グレイ程度まで低い可能性があるとの指摘がされているにすぎず,ICRP2012年(平成24年)勧告も,それ以下の線量域におけるリスクの不確実性を強調しているのであって,これら最新の国際的に合意された科学的知見に反する結論を導くことは許されないと主張する。 しかしながら,上記の報告書や声明は,いずれも,低線量域の放射線被曝と心筋梗塞等の因果関係を積極的に否定するものではない上,「約1-2グレイ(Gy)未満の線量域での致死的な心血管疾患と放射線被ば くの間の関連を示す証拠は,これまで日本の原爆被爆者のデータ解析から得られているだけである」(乙A537),「放 上,「約1-2グレイ(Gy)未満の線量域での致死的な心血管疾患と放射線被ば くの間の関連を示す証拠は,これまで日本の原爆被爆者のデータ解析から得られているだけである」(乙A537),「放射線被ばくに関連した致死的な心血管疾患の過剰リスクを示す唯一の明確な証拠は,心臓への線量が約1-2Gy 未満では,原爆被爆者のデータから得られている」(乙A539)などとしており,原爆被爆者については「致死的な心血管疾患」と低線量の放射線被曝との関連性を示す証拠があることを前提としていると解されることからすれば,上記の報告書や声明があるからといって,訴訟上,直ちに上記(ウ)のような結論を導くことが許されなくなるものではないというべきである。 さらに,被告は,狭心症は,心筋梗塞とは異なり,心筋に器質的障害を残さない可逆的虚血の場合であって,上記の「致死的な心血管疾患」にすら該当しないから,狭心症について放射線起因性を認めることは許されないと主張する。 しかしながら,前記のとおり,狭心症と心筋梗塞は,いずれも粥状動脈硬化症を主因とする虚血性心疾患であるところ,動脈硬化について低線量被曝との関連性を認める科学的知見があるというべきことは上記のとおりであるから,狭心症が「致死的な心血管疾患」に該当しないとしても,狭心症と低線量被曝との関連性を認める科学的知見がないということはできない。 よって,被告の上記各主張は,いずれも採用することができない。 ウ他の原因(危険因子)について(ア)被告は,原告X1について,脂質異常症(高脂血症),高血圧,肥満,糖尿病といった因子を指摘し,原告X1の狭心症は,これらを原因として発症したものと見るのが自然かつ合理的であると主張するところ,証拠(乙A502,505~510,511の1・2の1・2の2)に 満,糖尿病といった因子を指摘し,原告X1の狭心症は,これらを原因として発症したものと見るのが自然かつ合理的であると主張するところ,証拠(乙A502,505~510,511の1・2の1・2の2)によれば,上記各因子は,いずれも,動脈硬化及びこれを原因とする狭心症 の危険因子であると認められる。 この点,原告X1は,LSSやAHS等の調査結果は危険因子についても織り込み済みの判断であるとし,他の危険因子があっても放射線起因性は否定されないと主張する。しかしながら,例えば,P4論文は,心疾患の放射線リスクを認めた上で,喫煙,飲酒,教育,職業,肥満,糖尿病等の交絡因子を調整しても心疾患の放射線リスクの評価にほとんど影響を及ぼさなかったとするものの(甲G9の1・2),このような交絡因子の調整は,一般的な疫学的因果関係の判断のために行われるものであるから(乙A196),これによって,個々の具体的事例において当該疾患が他の危険因子によって発症したものと見ることが否定されるものではなく,放射線起因性の証明の有無を判断するに当たっては,当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度の検討が必要である(他方,これらの危険因子があるからといって,動脈硬化やこれを原因とする心筋梗塞等と放射線被曝との間の関連性が直ちに否定されるものではない。)というべきである。 (イ)そうであるところ,前記認定事実によれば,原告X1は,昭和53年頃に高コレステロール血症と指摘され,その後も総コレステロール値及びトリグリセライド値がともに高い状態が続いていたところ,昭和57年4月に狭心症を発症して入院した際には,トリグリセライド値が655,総コレステロール値が282と,いずれも基準値を大きく上回っており,退院時に高脂血症と診断されている。そして,我が国の疫 昭和57年4月に狭心症を発症して入院した際には,トリグリセライド値が655,総コレステロール値が282と,いずれも基準値を大きく上回っており,退院時に高脂血症と診断されている。そして,我が国の疫学調査では,総コレステロール値が160~179の群に対して260以上の群では冠動脈疾患死亡の相対リスクが3.8倍となり,トリグリセライド値が84以下の群に対して165以上の群では冠動脈疾患発症の相対リスクが約3倍となるとされること(乙A542)等に照らすと,原告X1の狭心症については,放射線被曝以外に,他の原因(危険因子)が あり,その程度も非常に重いというべきである。 (ウ)この点,原告X1は,上記のトリグリセライド値及び総コレステロール値は空腹時の検査の結果でない可能性がある上,LDLコレステロール値が不明であるから,原告X1が,当時,狭心症を発症するほどの高脂血症であったといえるか否かを判断することはできないと主張する。 しかしながら,上記の検査は,前記認定のとおり,入院中に行われたものであり,空腹時に行われなかったことをうかがわせる事情も認められないから,上記各数値が空腹時の検査の結果でないと認めることはできない(なお,仮に上記の検査が空腹時に行われたものではないとしても,非空腹時のトリグリセライド値の方がむしろ心血管イベントの予測能が高いとの報告もあること(乙A542)等に照らすと,直ちに上記各数値が不正確であるということもできない。)。また,トリグリセライド値が上昇すれば冠動脈疾患の発症率が上昇することは前記のとおりであるところ,原告X1は,前記認定のとおり,昭和57年4月の入院の当時,トリグリセライド値が655と上記基準値を大幅に上回っており,それ以前からトリグリセライド値等が高い状態が続いていたのであるから,LD ろ,原告X1は,前記認定のとおり,昭和57年4月の入院の当時,トリグリセライド値が655と上記基準値を大幅に上回っており,それ以前からトリグリセライド値等が高い状態が続いていたのであるから,LDLコレステロール値が不明であるとしても,重度の脂質異常症であったことは明らかというべきである(トリグリセライド値が150以上となると,脂質異常症の一類型である高トリグリセライド血症と診断される(乙A542)。)。 また,原告X1は,高脂血症にも放射線被曝が関与していることも明らかになっているところ,原告X1については,中性脂肪の値が高く,HDLコレステロールの値が低いのであって,これは被爆者に特徴的な血液データであるから,高脂血症が放射線起因性を否定するものではないと主張する。しかしながら,原告X1は,前記認定事実によれば,上記入院の際にはBMIが約26.6と肥満傾向にあった上,その後,境 界型糖尿病と指摘され,平成2年2月に狭心症で再度入院した際には,肥満の程度も進んでいるところ(BMI約27.8),低HDLコレステロール血症や高トリグリセライド血症と肥満度(BMI)との間には関連性が認められ,内臓脂肪型肥満は糖尿病,脂質異常症等を合併しやすいとされていること(乙A544),原告X1には偏食があり,糖分を多く摂る傾向があること(乙B9)等に照らすと,仮に放射線被曝が脂質異常症(高脂血症)に影響し得るとしても,原告X1の脂質異常症(高脂血症)は,むしろ生活習慣に起因するものと考えるのが合理的である。 以上によれば,原告X1の上記各主張は,いずれも採用することができない。 エまとめ以上のとおり,原告X1は健康に影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められるが,他方,原告X1には,脂質異常症(高 上記各主張は,いずれも採用することができない。 エまとめ以上のとおり,原告X1は健康に影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められるが,他方,原告X1には,脂質異常症(高脂血症)という狭心症の危険因子があることが認められ,その程度も非常に重いということができるのであって,前記認定のとおり,原告X1が被曝した放射線の線量が非常に高いものとまでは認められないこと等をも考慮すれば,原告X1が被爆当時5歳と若年であり,放射線に対する感受性が比較的高かったといえること,狭心症と放射線被曝との間に一般的に関連性が認められること等を考慮しても,原告X1の狭心症は,その生活習慣に起因する脂質異常症(高脂血症)等によって発症したものと見るのが合理的であるといえる。そうすると,原告X1の狭心症については,原爆放射線に被曝したことにより発症したことを是認し得る高度の蓋然性が証明されたものということはできない。 よって,本件X1申請に係る狭心症については,放射線起因性が認められない。 (3)小括以上のとおり,本件X1申請に係る狭心症については,放射線起因性の要件を満たしていたものと認めるに足りないから,本件X1却下処分は,その余の点について判断するまでもなく,違法であるとは認められない。 2 原告X2について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(ア)昭和20年8月6日の広島原爆投下時,原告X2(当時14歳)は,広島市e町の広島県立f中学校の校庭(爆心地から約1.7~1.91㎞)にいて同所で被爆し,爆風で吹き飛ばさた後,熱風を受けて左半身の後頭部から頸部,背部,上腕部,大腿部,足指にかけて火傷を負った(甲C1,乙 の広島県立f中学校の校庭(爆心地から約1.7~1.91㎞)にいて同所で被爆し,爆風で吹き飛ばさた後,熱風を受けて左半身の後頭部から頸部,背部,上腕部,大腿部,足指にかけて火傷を負った(甲C1,乙C5,11,原告X2本人)。 (イ)原告X2は,その後,一旦,防空壕に入った後,広島駅に向かって避難を開始し,途中で消防団に救助されてi小学校に収容され,さらに,同日昼頃,近くの山の上の防空壕に避難した(甲C1,原告X2本人)。 (ウ)原告X2は,数日後,親戚に発見され,父方の実家に運ばれた(甲C1,原告X2本人)イ被爆後の生活状況等(ア)原告X2は,父方の実家に運ばれた後,火傷部分が化膿する状態が続き,火傷部分は,その後,瘢痕化した(甲C1,原告X2本人)。 (イ)原告X2は,昭和27年頃,警察予備隊に入隊し,昭和58年頃に定年となるまで,自衛官として稼働したが,その間,昭和40年代頃には,訓練後,左足が腫れるなどして病院で薬を処方されることが何回かあった(甲C1,原告X2本人)。 (ウ)原告X2には,被爆後間もない頃から,頸部の火傷瘢痕による喉頭部・食道の狭窄のため,嚥下障害が生じており,原告X2は,医師から食べ物をゆっくり食べるようにといった指導を受け,原告X2の妻は,原告X2が嚥下しやすい食事について医師に相談するなどした(甲C1,10,証人P5,原告X2本人)。 (エ)原告X2は,平成24年4月頃,自宅付近で転倒し,大腿骨を骨折した(甲C1,原告X2本人)。 (オ)原告X2は,同年8月13日,兵庫県立ii センターを受診し,その後,パーキンソニズムによる嚥下障害の緩徐な進行について,抗パーキンソン剤の内服を開始した(甲C13)。 (2)要医療性ア原告X2の申請疾病は,前記 3日,兵庫県立ii センターを受診し,その後,パーキンソニズムによる嚥下障害の緩徐な進行について,抗パーキンソン剤の内服を開始した(甲C13)。 (2)要医療性ア原告X2の申請疾病は,前記前提となる事実のとおり,「頭部,背部,左上腕及び左足足趾の火傷瘢痕,左後頭部瘢痕」である(この点,被告は,本件X2申請に係る申請疾病は「頭部,背部,左上腕部及び左足足趾の火傷瘢痕」と「左後頭部瘢痕」の二つであると主張するが,本件X2申請に係る認定申請書(乙C1)及び医師の意見書(乙C2)の記載内容等に照らすと,本件X2申請においては,左半身の火傷瘢痕全体が一つの疾病として申請されているものと認めるのが相当である。)。 イ被爆者援護法10条1項は,厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対して必要な医療の給付を行うと規定し,同条2項は,上記医療の給付の範囲を,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護並びに⑥移送としている。これらの規定に照らすと,疾病等が「現に医療を要する状態にある」(要医療性)とは,当該疾病等に関し, 同条2項に規定する医療の給付を要する状態にあることをいうものと解するのが相当である。 そうであるところ,前記認定事実によれば,原告X2は,昭和40年代頃に左足の火傷瘢痕の腫れ等について薬を処方されたことがあるものの,本件X2申請がされた平成21年1月9日から本件X2却下処分がされた平成22年9月29日までの間に,火傷瘢痕に関し,特に治療を受けていたとは認められず,上記のような医療の給付を要する があるものの,本件X2申請がされた平成21年1月9日から本件X2却下処分がされた平成22年9月29日までの間に,火傷瘢痕に関し,特に治療を受けていたとは認められず,上記のような医療の給付を要する状態にあったということもできない。 ウこの点,原告X2は,火傷瘢痕のうち,①足指については,歩行に障害があり,手術によって大幅な改善が期待できた上,長時間歩くなどすると激しい痛みが生ずるなどしたため,その都度,対症療法としての痛み止めの処方等の治療が必要であった,②後頭部,背部及び上腕部については,短時間日光に当たっただけでも赤く変色して痛むことから,対症療法としての痛み止めの処方等の治療が必要であった,③頚部については,これによって嚥下障害が生じていたため,食事療法などの指導が必要であり,平成24年8月頃以降は,パーキンソニズムにより更に嚥下障害が緩徐に進行していたことから抗パーキンソン剤を内服していたなどと主張し,これに沿うP5医師の証言(証人P5)もある。 しかしながら,上記のうち,痛みの点については,本件X2申請の時から本件X2却下処分の時までの間に,現に鎮痛剤等が処方されたと認めるに足りる証拠はなく,原告X2が鎮痛剤等を必要とするような痛みが生じていたにもかかわらず,これが放置されたといった事情も認められないから,上記のような対症療法が客観的に必要な状態にあったということはできない。また,嚥下障害については,前記認定のとおり,原告X2が医師から食べ物をゆっくり食べるようにといった指導を受け,原告X2の妻が医師に食事の内容を相談していた程度であるところ,被爆者援護法が「健 康管理」と「医療」とを区別し,健康管理(第3章第2節)の内容として,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところにより,健康診断を行 を相談していた程度であるところ,被爆者援護法が「健 康管理」と「医療」とを区別し,健康管理(第3章第2節)の内容として,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところにより,健康診断を行うものとし(7条),同健康診断の結果必要があると認めるときは,当該健康診断を受けた者に対し,必要な指導を行うものとしていること(9条)に照らすと,上記のような指導・相談を,「医療」としての対症療法であると評価することは困難であるというほかない(なお,前記認定のとおり,原告X2は,嚥下障害について抗パーキンソン剤を内服しているが,その内服開始は本件X2却下処分後の平成24年8月以降であるから,これによって要医療性が基礎付けられるものではない。)。さらに,歩行障害については,仮に手術による機能改善が期待できるとしても,原告X2は,医師から手術を勧められたことも,自ら手術を希望したこともないのであって(原告X2本人),他に,本件X2申請の時から本件X2却下処分の時までの間に,手術によって機能回復を図る必要がある程度の歩行障害が原告X2にあったと認めるに足りる証拠もない(この点,前記認定のとおり,原告X2は,平成24年4月頃に転倒して大腿骨を骨折しているが,これは,本件X2却下処分がされた後のことである上,転倒が歩行障害に起因するものか否かも判然としないから,要医療性を基礎付けるものということはできない。)。 以上に反するP5医師の証言は信用することができず,原告X2の上記各主張は,いずれも採用することができない。 エよって,本件X2申請に係る火傷瘢痕については,要医療性が認められない。 (3)小括以上のとおり,本件X2申請に係る火傷瘢痕については,要医療性の要件を満たしていたものとは認められないから,本件X2却下処分は,その 係る火傷瘢痕については,要医療性が認められない。 (3)小括以上のとおり,本件X2申請に係る火傷瘢痕については,要医療性の要件を満たしていたものとは認められないから,本件X2却下処分は,その余の点について判断するまでもなく,違法であるとは認められない。 3 原告X3について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(ア)昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,原告X3(当時12歳)は,長崎市j町の自宅(爆心地から約3.7㎞)の座敷にいて同所で被爆し,防空壕に避難しようとしたところ,爆風を受けた(甲D1,乙D1,8,9,10,原告X3本人)。 (イ)原告X3は,同月12日,通学していたk中学校の状況を確認するため,父親と共に自宅を出発し,l町を経由し,焼け野原の中を,遺体を確認するなどしながら歩き,k中学校(爆心地から約0.7㎞)に至った(甲D1,原告X3本人)。 (ウ)原告X3は,k中学校に着くと,砂埃の中,校舎の瓦礫に潜り込んで書類を捜し,校庭のサツマイモ畑を掘るなどし,その後,o学院(爆心地から約0.5㎞)付近を通ってp川を渡り,夕方頃,帰宅した(甲D1,原告X3本人)。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(ア)原告X3及びその家族には,昭和20年8月10日,軽い下痢と微熱があり,原告X3及びその父親は,k中学校に行った同月12日からしばらくしてから,激しい下痢が数日続いた(甲D1,乙D1,11,原告X3本人)。 (イ)原告X3は,昭和48年頃,原田氏病と診断され,昭和50年頃から十二指腸潰瘍で服薬治療を受けるなどし,平成5年には狭心症,平成6年には攣縮性狭心症,平成10年頃 1,原告X3本人)。 (イ)原告X3は,昭和48年頃,原田氏病と診断され,昭和50年頃から十二指腸潰瘍で服薬治療を受けるなどし,平成5年には狭心症,平成6年には攣縮性狭心症,平成10年頃には拘束型心筋症の疑いとそれぞれ診断された(甲D1,2)。 (ウ)原告X3は,平成10年頃から,動悸,息切れ,全身のむくみ,疲れやすさ,めまい等の症状があったところ,平成19年10月,甲状腺の機能低下を指摘され,平成20年8月,慢性甲状腺炎,潜在性甲状腺機能低下症と診断され,平成21年5月,甲状腺ホルモン剤(チラージン)の服用を開始した(甲D3,乙D14,15)。 (2)事実認定の補足説明ア被告は,原告X3が昭和20年8月12日にk中学校に行った際,更にo学院付近まで行ったとする原告X3の供述(甲D1,原告X3本人)は,原告X3の平成2年10月5日付け被爆者健康手帳交付申請書等にその旨の記載がないこと等に照らして信用できないと主張する。 しかしながら,上記申請書に添付された地図には,k中学校から北に進み,o学院の南側を通ってjj 橋を渡る経路が示され,「最短爆心地から500m位」と記載されており(乙D10),これは,本件X3申請に係る認定申請書に添付された地図に示された経路とおおむね一致するのであって(乙D1),これらによれば,原告X3は,平成2年当時から一貫してo学院付近まで行ったとの認識を示していたものといえる。そして,他に上記供述の信用性を疑わせるような事情も認められないから,上記供述は信用することができるというべきであり,被告の上記主張は採用することができない。 イ他方,原告X3は,k中学校の校庭の畑でサツマイモの根を食べたと主張し,これに沿う原告X3(甲D1,原告X3本人)の供述もある。 べきであり,被告の上記主張は採用することができない。 イ他方,原告X3は,k中学校の校庭の畑でサツマイモの根を食べたと主張し,これに沿う原告X3(甲D1,原告X3本人)の供述もある。 しかしながら,上記アの被爆者手帳交付申請書(乙D10)及び本件X3申請に係る認定申請書(乙D1)には,サツマイモの根を食べた旨の記載はなく,かえって,上記認定申請書や原告X3が平成20年に書いた手記には,畑を掘ってみたが食べられそうなものはなかった旨の記載があるのであって(乙D1,11),原告X3の上記供述は,これと矛盾するも のといわざるを得ない。そうすると,原告X3の上記供述は信用することができず,上記主張事実を認めることはできない。 (3)放射線起因性ア放射線被曝の程度について(ア)原告X3は,前記認定のとおり,長崎原爆の爆心地から約3.7㎞離れた自宅屋内において被爆しているのであるから,DS02による初期放射線による推定被曝線量は,約0.0007グレイとなる(乙A105の1,弁論の全趣旨)。また,前記認定の新審査の方針の下における線量評価方法によれば,長崎原爆の投下の3日後に爆心地から0.5㎞に入市した原告X3の誘導放射線による推定被曝線量は,0.00582グレイよりも大幅に低くなるし(乙A106),原告X3がgg 地区に滞在又は居住したとは認められないから,放射性降下物による放射線被曝はないことになる。 しかしながら,原告X3は,前記認定のとおり,長崎原爆の投下の3日後に,爆心地から約0.7㎞のk中学校において,砂埃の中,校舎の瓦礫に潜り込んで書類を捜し,校庭のサツマイモ畑を掘るなどしているのであって,その間,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を含む粉塵等に接触し,呼吸等を通じて上記粉塵等を体内 ,砂埃の中,校舎の瓦礫に潜り込んで書類を捜し,校庭のサツマイモ畑を掘るなどしているのであって,その間,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を含む粉塵等に接触し,呼吸等を通じて上記粉塵等を体内に取り込むなどしたものと推認される。また,原告X3は,k中学校に至る途中で遺体を確認するなどしており,誘導放射化した遺体に接触したものと考えられる上,k中学校を出た後,爆心地から約0.5㎞の地点にまで進み,更に誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を含む粉塵等に接触するなどした可能性が高いというべきである。 そうすると,原告X3は,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 (イ)この点,被告は,原告X3の推定被曝線量は,全体量としても,約0. 00652グレイを大きく下回る程度にすぎず,健康に影響を及ぼすような有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきである。よって,被告の上記主張は,採用することができない。 イ甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性について(ア)原告X3の申請疾病は,前記前提となる事実のとおり,「甲状腺機能低下症」であるところ,甲状腺機能低下症は,甲状腺ホルモンの欠乏又は作用不足により易疲労感や無気力等の症状を示す病態であり,その95%は甲状腺自体の障害による原発性のものであって(血中甲状腺ホルモン(FT4,FT3)低値及び甲状腺刺激ホルモン(TSH)高値によって診断される。なお,FT4及びFT3が正常値でTSHのみ高値の場合は,潜在性甲状腺機能低下症と診断される。),その大部分は,慢性甲状腺炎を原因とする(乙A601~603)。 慢性甲状 高値によって診断される。なお,FT4及びFT3が正常値でTSHのみ高値の場合は,潜在性甲状腺機能低下症と診断される。),その大部分は,慢性甲状腺炎を原因とする(乙A601~603)。 慢性甲状腺炎は,甲状腺における慢性炎症性の疾患であり,自己免疫性疾患の一つであって,甲状腺自己抗体(抗マイクロゾーム抗体,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体,抗サイログロブリン抗体)陽性により診断される(乙A601~603)。 (イ)甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,①昭和59年に受診した広島原爆の被爆者9159人における甲状腺機能低下症の頻度は,男女とも近距離被爆者群(1.5㎞以内群)が対照群(3㎞以遠群)よりも有意に高く,また,被曝線量の増加とともに高率となり,さらに,甲状腺機能低下症症例のマイクロゾーム抗体陽性率は近距離被爆者群では対照群に比して男女いずれも著明に低率であったとし,甲状腺機能低下症が被曝線量と統計上有意に相関していることを示すとともに,自己免疫性のもの以外のものも含めた甲状腺機能低下症と放射線被曝と の関連の可能性について指摘したP6報告(甲A161の2文献5,6),②同年から長崎のAHS集団1745人を対象に行った甲状腺機能低下症の調査において,被爆者全体の甲状腺機能低下症の発生頻度は0ラド群と比して有意な増加が認められ,被曝線量別に見ると1~49ラド群についてのみ0ラド群に比して有意な発生頻度の増加が認められたなどとするP3・P7報告(甲A161の2文献7),③同年から昭和62年に長崎のAHS集団1978人を対象に行った甲状腺疾患の調査において,抗体陽性特発性甲状腺機能低下症(自己免疫性甲状腺機能低下症)の有病率が0.7±0.2シーベルトで最大レベルに達する,上に凸の線量反応を示したとするP7論文(甲 象に行った甲状腺疾患の調査において,抗体陽性特発性甲状腺機能低下症(自己免疫性甲状腺機能低下症)の有病率が0.7±0.2シーベルトで最大レベルに達する,上に凸の線量反応を示したとするP7論文(甲161の2文献3。なお,P7論文は,マーシャル諸島の核実験で被爆した子どもに10年以内に甲状腺機能低下症が認められたこと,マーシャル諸島の住民の甲状腺被曝は主として内部放射線によるものであったこと,その甲状腺機能低下症の多くは自己免疫性甲状腺機能低下症ではなかったことも指摘している。),④甲状腺疾患(非中毒性甲状腺腫結節,び慢性甲状腺腫,甲状腺中毒症,慢性リンパ球性甲状腺炎,甲状腺機能低下症のうち一つ以上が存在する疾患)と被曝線量との関係を解析すると有意な正の線量反応が見られ(1グレイ当たりの相対リスク1.30,P値<0.0001,95%信頼区間1.16~1.47),特に若年で被爆した人でリスクの増加が見られるとするAHS第7報(甲A161の2文献9),⑤甲状腺疾患における1シーベルト当たりの相対リスクは1.33(P値<0.0001,95%信頼区間1.19~1.49)であり,リスクは20歳未満で被爆した者で顕著に増大したとするAHS第8報(甲A161の2文献12)のほか,⑥甲状腺炎自然発症マウスNOD-H2h4 において,0.5グレイ単独放射線全身照射により甲状腺自己免疫(甲状腺炎と抗サイログロブリン抗体価)が有意に増悪したとするP10 報告(甲A272)等 の知見があることが認められる。 (ウ)以上のとおり,甲状腺機能低下症及び慢性甲状腺炎と低線量を含めた放射線被曝との関連性を肯定する疫学的知見が存在していること等に照らすと,甲状腺機能低下症及び慢性甲状腺炎と放射線被曝との関連性については,低線量域も含めて,一般的に肯定するこ 腺炎と低線量を含めた放射線被曝との関連性を肯定する疫学的知見が存在していること等に照らすと,甲状腺機能低下症及び慢性甲状腺炎と放射線被曝との関連性については,低線量域も含めて,一般的に肯定することができるというべきである。 (エ)この点,被告は,①P7論文は,自己免疫性甲状腺機能低下症について,上に凸の線量反応関係を示したとしており,これは線量と有病率との正の相関関係を示す一般的な統計学的モデル(直線線形モデル,二次曲線モデル)とはいえないところ,このような線量反応関係が示されたことについて何ら理論的な説明がされていない,②AHS第7報及び第8報は,いずれも,甲状腺疾患全体を対象としたものであり,特定の甲状腺疾患に対する放射線の影響について評価したものではないから,これらに依拠して甲状腺機能低下症と放射線との関連があるということはできない,③P7論文の結論については,その再現性を検証するために平成12年から平成15年にかけて広島及び長崎のAHS集団3185人を対象に行われた甲状腺疾患の調査の結果,甲状腺自己抗体陽性甲状腺機能低下症も同抗体陰性甲状腺機能低下症も線量に関連していなかったとするP8論文によって再現性が認められておらず,P8論文等を踏まえて,甲状腺自己抗体陽性率及び甲状腺機能低下症一般について被曝線量との関連性は認められていないとするP9論文(乙A610)や,原爆被爆者のこれまでの研究では甲状腺機能低下症及び慢性甲状腺炎のいずれについても甲状腺被曝線量との有意な関係は認められていないなどとする「原爆放射線の人体影響改訂第2版」の「要約」(乙A614)等もある上,放射線の影響に関する世界的権威であるUNSCEARの報告書(乙A616)も,原爆被爆者の調査結果を含め,放射 線被曝と自己免疫性甲状腺炎(慢性甲状腺 」の「要約」(乙A614)等もある上,放射線の影響に関する世界的権威であるUNSCEARの報告書(乙A616)も,原爆被爆者の調査結果を含め,放射 線被曝と自己免疫性甲状腺炎(慢性甲状腺炎)の間に関係は見いだせないと結論付けているのであって,P7論文等のみから,低線量の放射線被曝により甲状腺機能低下症が発症するという結論を導くことは,明らかに科学的経験則に反するものであり,許されないと主張する。 しかしながら,上記①の点については,高線量の被曝をして甲状腺機能低下症を発症すべき者が早期に死亡するなどしたために調査対象に含まれなかった可能性を否定できない上,具体的な機序が未解明であるからといって,このような線量反応関係が直ちに不自然であり,低線量域における線量反応関係を認めた調査結果が不合理であると断ずることもできない。 また,上記②の点については,AHS第7報及びAHS第8報が甲状腺疾患全体の線量反応関係を検討したものであり,甲状腺機能低下症のみについて解析をした場合に異なる結果が出る余地があることは否定できないが,これらの報告は,低線量の放射線被曝が甲状腺に対して一定の傷害作用を有することを示唆するものということができ,その限りにおいては,甲状腺機能低下症と低線量の放射線被曝との関連性を検討する上でも意味を持つというべきである。 さらに,上記③の点については,P8論文は,それ自体,P7論文の調査結果との違いについて,「時間の経過に伴い対象者の線量分布が変化したこと(死亡およびがんのリスクは放射線量に依存するため)」等に起因するかもしれないとしており,上記調査結果を積極的に否定するものではないのであって,甲状腺機能低下症及び慢性甲状腺炎と低線量の放射線被曝との関係を認めるP7論文等の知見が,P8論文によって科学的に するかもしれないとしており,上記調査結果を積極的に否定するものではないのであって,甲状腺機能低下症及び慢性甲状腺炎と低線量の放射線被曝との関係を認めるP7論文等の知見が,P8論文によって科学的に完全に否定されたとまではいうことができない。そして,このことは,P8論文を引用するP9論文及び「原爆放射線の人体影響改訂第2版」や,UNSCEARの報告書についても同様である。そうする と,P8論文等があるからといって,訴訟上,上記(ウ)のような結論を導くことが直ちに許されなくなるものではないというべきである。 よって,被告の上記各主張は,いずれも採用することができない。 ウ他の原因(危険因子)について証拠(乙A601)によれば,慢性甲状腺炎も甲状腺機能低下症も,一般論としては加齢に伴って増加する傾向にあるものと認められる。 そうであるところ,原告X3は,前記認定のとおり,平成19年10月に甲状腺の機能低下を指摘され(当時74歳),平成21年5月に甲状腺ホルモン剤(チラージン)の服用を開始したのであるから(当時76歳),甲状腺機能低下症を発症した頃には相当に高齢であったということができるが,同年代の男性の多くが甲状腺機能低下症を発症するとまではいうことができない(なお,原告X3には喫煙歴があるが(乙D16),喫煙が甲状腺機能低下症の危険因子であるということはできない(甲E9の1・2,証人P5)。)。 エまとめ以上のとおり,原告X3は健康に影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められるところ,甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,低線量域も含めて,一般的に肯定することができるのであって,原告X3が,被爆当時12歳と若年であり,放射線に対する感受性が比較的高かったといえること等をも考 低下症と放射線被曝との関連性については,低線量域も含めて,一般的に肯定することができるのであって,原告X3が,被爆当時12歳と若年であり,放射線に対する感受性が比較的高かったといえること等をも考慮すれば,原告X3が,甲状腺機能低下症を発症した当時,相当に高齢であったことを考慮しても,原告X3の甲状腺機能低下症は,原爆放射線に被曝したことによって発症したものと見るのが合理的であるといえる。 よって,本件X3申請に係る甲状腺機能低下症については,放射線起因性が認められる。 (4)要医療性 原告X3は,前記認定のとおり,平成21年5月以降,甲状腺ホルモン剤(チラージン)の服用を続けており,当該治療が必要な状態が続いていたといえるから,本件X3申請に係る甲状腺機能低下症については,要医療性が認められる。 (5)小括以上のとおり,本件X3申請に係る甲状腺機能低下症については,放射線起因性及び要医療性の各要件をいずれも満たしていたものと認められるから,本件X3却下処分は,違法であるというほかない。 4 原告X4について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(ア)昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,原告X4(当時6歳)は,妹と共に,長崎市s町の伯母宅(爆心地から約2.3㎞)の玄関にいて同所で被爆し,材木の下敷きになって負傷したが,父親に助け出され,妹と共に,父親に連れられて,t町の自宅(同約2.6㎞)に戻った(甲E1,乙E1,9,原告X4本人)。 (イ)原告X4は,同月10日朝,父親に連れられて,その勤務先であったu工場(爆心地から約1.2㎞)まで徒歩で行き,焼け落ちた工場跡で遺体を見るなどし,同日夕方頃,自宅に戻った(甲E1,乙 人)。 (イ)原告X4は,同月10日朝,父親に連れられて,その勤務先であったu工場(爆心地から約1.2㎞)まで徒歩で行き,焼け落ちた工場跡で遺体を見るなどし,同日夕方頃,自宅に戻った(甲E1,乙E1,原告X4本人)。 (ウ)原告X4は,その後,家族と共に,長崎市v町の墓地(爆心地から約3.5㎞)に1週間程度滞在し,その後,自宅に戻った(甲E1,原告X4本人)。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等 (ア)原告X4は,昭和34年頃,単身で神戸に移り住み,スナック等で働いていたが,昭和45年頃から,仕事中に突然意識を失うことがあった(甲E1,原告X4本人)。 (イ)原告X4は,平成8~9年頃,甲状腺の機能低下を指摘され,平成12年頃から甲状腺ホルモン剤(チラージン)を服用するようになった(乙E8)。 (ウ)原告X4は,平成7年頃,狭心症を発症し,平成12年頃には脳梗塞の疑いと診断され,平成14年頃には脳梗塞で入院した(甲E1,原告X4本人)。 (2)事実認定の補足説明ア被告は,昭和20年8月10日にu工場に行ったとする原告X4の供述等(甲E1,乙E1,原告X4本人)は,原告X4の昭和32年6月13日付け被爆者健康手帳交付申請書(乙E5)等にその旨の記載がないこと等に照らして信用できないと主張する。 しかしながら,上記申請書は,原告X4の父親が作成したものと認められるところ(原告X4本人),原告X4が長崎原爆投下時に自宅にいた旨が記載されており,その内容は,同年1月に実施されたABCCの調査に対する原告X4に係る回答(原告X4の父親からの情報に基づく。)には,原爆投下時の正確な位置として,自宅ではなく伯母宅の住所が記載されていること(乙E9)と矛盾するのであって,信用することができない。そして X4に係る回答(原告X4の父親からの情報に基づく。)には,原爆投下時の正確な位置として,自宅ではなく伯母宅の住所が記載されていること(乙E9)と矛盾するのであって,信用することができない。そして,原告X4の上記供述等は,当初から一貫しており,原告X4の父親が原爆投下の翌日に原告X4のみを勤務先の工場跡に連れて行ったとする点も,当時,原子爆弾の放射線の影響等が広く知られていなかったこと等に照らすと不合理とまではいえないから,十分に信用することができる。 よって,被告の上記主張は採用することができない。 イ他方,原告X4は,長崎原爆投下時には伯母宅の玄関内ではなく玄関前 の路上におり,また,上記伯母宅の爆心地からの距離は約2.3㎞ではなく約2.2㎞であると主張し,これに沿う原告X4の供述等(甲E1,乙E1,原告X4本人)もある。 しかしながら,原告X4の上記供述等は,昭和32年1月に実施されたABCCの調査に対する上記回答(前記認定のとおり原爆投下当時に原告X4と共におり,その後も行動を共にしていた父親からの情報に基づくものであり,信用することができる。)には,被爆地点の爆心地からの距離が2.322㎞であり,玄関土間で完全に遮蔽されていた旨の記載があることと合致せず,他に,上記供述等を裏付ける証拠もないから,信用することができない。よって,上記主張事実を認めることはできない。 ウまた,原告X4は,u工場から戻った後,黒いものを吐き,その後も,嘔吐,鼻血,下痢,発熱,頭痛などの症状に襲われたと主張し,これに沿う原告X4の供述等(甲E1,乙E1,原告X4本人)もある。 しかしながら,ABCCの調査に対する上記回答には,発熱,嘔吐,下痢等の症状等について,いずれもなかった旨が記載されているところ,上記回答は,上記のとおり原爆投 1,乙E1,原告X4本人)もある。 しかしながら,ABCCの調査に対する上記回答には,発熱,嘔吐,下痢等の症状等について,いずれもなかった旨が記載されているところ,上記回答は,上記のとおり原爆投下当時から原告X4と行動を共にしていた父親からの情報に基づくものであり,原告X4に上記のような症状があれば,これらがなかった旨の回答を父親がするとは考え難いこと等に照らすと,原告X4の上記供述等は信用することができない(この点,原告X4は,被爆者に対する就職や結婚における社会的差別を避けるため,ABCCの調査等に対して被爆の事実を秘匿し,又は過少に報告することは当時よく見られたことであり,原告X4の父親が上記の症状について敢えて記載しなかったことも十分にあり得ると主張するが,原告X4の父親は,上記のとおり,爆心地から約2.3㎞の地点で被爆した事実については正確に申告しているのであって,被爆後の症状についてのみ全く虚偽の申告をしたことをうかがわせる事情も認められないから,原告X4の上記主張は 採用することができない。)。よって,上記主張事実を認めることはできない。 (3)放射線起因性ア放射線被曝の程度について(ア)原告X4は,前記認定のとおり,長崎原爆の爆心地から約2.3㎞離れた伯母宅玄関内において被爆しているのであるから,DS02による初期放射線による推定被曝線量は,約0.0326グレイとなる(乙A105の1,弁論の全趣旨)。また,前記認定の新審査の方針の下における線量評価方法によれば,長崎原爆の投下の翌日朝に爆心地から1. 2㎞に入市した原告X4の誘導放射線による推定被曝線量は,0.0000388グレイを下回るし(乙A106,弁論の全趣旨),原告X4がgg 地区に滞在又は居住したとは認められないから,放射性降下物によ 2㎞に入市した原告X4の誘導放射線による推定被曝線量は,0.0000388グレイを下回るし(乙A106,弁論の全趣旨),原告X4がgg 地区に滞在又は居住したとは認められないから,放射性降下物による放射線被曝はないことになる。 しかしながら,原告X4は,前記認定のとおり,長崎原爆の投下の翌日朝に,爆心地から約1.2㎞のu工場まで歩いて行っているのであって,その途中及び上記工場において,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を含む粉塵等に接触し,呼吸等を通じて上記粉塵等を体内に取り込むなどした可能性が高いというべきである。 そうすると,原告X4は,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 (イ)この点,被告は,原告X4の推定被曝線量は,全体量としても,約0. 0326グレイ程度にすぎず,健康に影響を及ぼすような有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,原告X4が上記のとおり長崎原爆の投下の翌日朝に爆心地から約1.2㎞の地点まで入市した事実を看過している上,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきである。よって, 被告の上記主張は,採用することができない。 イ甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性について原告X4の申請疾病は,前記前提となる事実のとおり,「甲状腺機能低下症(慢性甲状腺炎)」である(なお,原告X4は甲状腺自己抗体陽性と判定されており(甲E6),その甲状腺機能低下症は自己免疫性のものであると認められる。)ところ,甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,前記のとおり,低線量域も含めて,一般的に肯定することができるというべきである。 ウ他の原因(危険因子)について 証拠 められる。)ところ,甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,前記のとおり,低線量域も含めて,一般的に肯定することができるというべきである。 ウ他の原因(危険因子)について証拠(乙A601,603)によれば,甲状腺機能低下症は,一般論としては,加齢に伴って増加する傾向にあり,また,男性と比較すると女性の方が,発症頻度が高いものと認められる。 そうであるところ,原告X4は,前記認定のとおり,平成8~9年頃に甲状腺の機能低下を指摘されており,当時57~58歳であったから,甲状腺機能低下症を発症した頃には比較的高齢の女性であったということができるが,同年代の女性の多くが甲状腺機能低下症を発症するとまではいうことができない(なお,原告X4には喫煙歴があるが(乙E8),喫煙が甲状腺機能低下症の危険因子であるとはいえないことは,前記のとおりである。)。 エまとめ以上のとおり,原告X4は健康に影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められるところ,甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,低線量域も含めて,一般的に肯定することができるのであって,原告X4が,被爆当時6歳と若年であり,放射線に対する感受性が比較的高かったといえること等をも考慮すれば,原告X4が,女性であり,甲状腺機能低下症を発症した当時,比較的高齢であったことを考慮し ても,原告X4の甲状腺機能低下症は,原爆放射線に被曝したことによって発症したものと見るのが合理的であるといえる。 よって,本件X4申請に係る甲状腺機能低下症については,放射線起因性が認められる。 (4)要医療性原告X4は,前記認定のとおり,平成12年頃から,甲状腺ホルモン剤(チラージン)を服用しており,当該治療が必要な状態が続いていたといえ ついては,放射線起因性が認められる。 (4)要医療性原告X4は,前記認定のとおり,平成12年頃から,甲状腺ホルモン剤(チラージン)を服用しており,当該治療が必要な状態が続いていたといえるから,本件X4申請に係る甲状腺機能低下症については,要医療性が認められる。 (5)小括以上のとおり,本件X4申請に係る甲状腺機能低下症については,放射線起因性及び要医療性の各要件をいずれも満たしていたものと認められるから,本件X4却下処分は,違法であるというほかない。 5 原告X5について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(ア)昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,原告X5(当時5歳)は,長崎市w町の自宅近所の家(爆心地から約4.0㎞)の屋内にいて同所で被爆し,その後,助けに来た父親と共に爆風を受けた(甲F1,乙F1,6,7,原告X5本人)。 (イ)原告X5は,同月11日,娘の消息を確かめるためにkk 工場に行く知人に同行する両親に連れられて,長崎市x町(爆心地から約0.8㎞)付近まで行ったが,それ以上進むことができず,自宅に戻った(甲F1,乙F1,7,原告X5本人)。 (ウ)原告X5は,自宅に戻った後,自宅付近の井戸の水を飲み,自宅裏の畑の芋のツルを食べるなどした(甲F1,原告X5本人)。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(ア)原告X5は,被爆後,常に体のだるさを感じ,風邪を引きやすくなるなどし,その後,首も痛むようになり,これについて運動機能障害として健康管理手当を受給するようになった(甲F1,原告X5本人)。 (イ)原告X5の父親は,昭和58年頃,脳軟化症で死亡し,原告X5の母親は,平成2年頃,肺がん及び なり,これについて運動機能障害として健康管理手当を受給するようになった(甲F1,原告X5本人)。 (イ)原告X5の父親は,昭和58年頃,脳軟化症で死亡し,原告X5の母親は,平成2年頃,肺がん及び大腸がんで死亡した(甲F1,原告X5本人)。 (ウ)原告X5は,平成7年頃,脳梗塞と診断されたほか,高脂血症,大腸ポリープ,骨粗鬆症,緑内障,変形性脊椎症,不整脈などと診断されたことがある(甲F1,原告X5本人)。 (エ)原告X5は,平成15年3月,甲状腺機能低下症と診断され,甲状腺ホルモン剤(チラージン)の服用を開始した(甲F1,乙F3,10,原告X5本人)。 (オ)原告X5は,平成21年1月,両白内障(軽度白内障)と診断されたが,治療の必要はないとされ,原告X5の希望により経過観察が行われていたが,平成22年6月にサンコバ点眼液を処方され,平成23年6月にカリーユニ点眼液を処方された(乙F4,5,10~12,16)。 (2)事実認定の補足説明ア原告X5は,長崎市x町に最初に入市したのは昭和20年8月10日又は同月11日であり,その後も5日間ほど同町付近に入市していると主張し,これに沿う原告X5の供述等(甲F1,乙F1,原告X5本人)もある。 しかしながら,原告X5が昭和41年8月に提出した被爆者健康手帳入市日変更申請書には,「実際の入市日と場所」として「8月11日長崎市 x町」と記載され,同申請書に添付された原告X5の知人ら作成の被爆状況証明書2通にも,原告X5が「中心地から2㎞以内の地域に投下後2週間以内にはいりこんだ時場所理由」として,いずれも,「8月11日(1日間)x町へ母と同行のため」と記載されているのであって(乙F7),原告X5の上記供述等は,これらの記載と矛盾する上,その内容も曖昧であるから,信用するこ 所理由」として,いずれも,「8月11日(1日間)x町へ母と同行のため」と記載されているのであって(乙F7),原告X5の上記供述等は,これらの記載と矛盾する上,その内容も曖昧であるから,信用することができない(なお,原告X5の被爆者健康手帳には,「被爆直後の行動」欄に,「8月10日か8月11日に爆心地に人をさがしに行った」「毎日5日ほど」との手書きの書き込みがあるが(甲F3),その筆跡,体裁等に照らすと,上記書き込みは,交付後に原告X5等によってされた可能性が高いというべきであり,これが上記供述等を裏付けるものということはできない。)。よって,上記主張事実を認めることはできない。 イまた,原告X5は,入市後,下痢や吐き気,めまいに襲われたほか,髪を両手ですくと指からはみ出るくらい髪の毛が抜け,10日ほど経過した頃には40度近くの高熱を発したと主張し,これに沿う原告X5の供述(甲F1,原告X5本人)もある。 しかしながら,原告X5の父親(前記認定のとおり,被爆当時,原告X5と行動を共にしていた。)が昭和32年6月に作成した原告X5の被爆者健康手帳交付申請書には,おおむね6か月以内に現れた「原爆による急性症状」として,「食べものをはく」,「げり」,「熱がでた」,「毛がぬけた」等について時期及び程度を記載する欄があるにもかかわらず,何も記載されていない上(乙F7),原告X5が作成した本件X5申請に係る認定申請書にも,発熱以外の症状については何ら記載されていないこと等に照らすと,原告X5の上記供述は信用することができない。よって,上記主張事実を認めることはできない。 (3)甲状腺機能低下症 ア放射線起因性(ア)放射線被曝の程度についてa 原告X5は,前記認定のとおり,長崎原爆の爆心地から約4.0㎞離れた家屋内 を認めることはできない。 (3)甲状腺機能低下症 ア放射線起因性(ア)放射線被曝の程度についてa 原告X5は,前記認定のとおり,長崎原爆の爆心地から約4.0㎞離れた家屋内において被爆しているのであるから,DS02による初期放射線による推定被曝線量は,約0.0002グレイとなる(乙A161の1,弁論の全趣旨)。また,前記認定の新審査の方針の下における線量評価方法によれば,長崎原爆の投下の翌々日に爆心地から0.8㎞に入市した原告X5の誘導放射線による推定被曝線量は,0. 00021グレイを下回るし(乙F15),原告X5がgg 地区に滞在又は居住したとは認められないから,放射性降下物による放射線被曝はないことになる。 しかしながら,原告X5は,前記認定のとおり,長崎原爆の投下の翌々日に,爆心地から約0.8㎞の長崎市x町付近まで歩いて行っているのであり,その間,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を含む粉塵等に接触し,呼吸等を通じて上記粉塵等を体内に取り込むなどした可能性が高いというべきである。また,原告X5は,同日,自宅付近の井戸の水を飲み,自宅裏の畑の芋のツルを食べるなどしており,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を含む粉塵等を体内に取り込むなどした可能性も否定できない。 そうすると,原告X5は,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 b この点,被告は,原告X5の推定被曝線量は,全体量としても,約0.00041グレイを大幅に下回る程度にすぎず,健康被害に影響を及ぼすような有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきである。よって,被告の 害に影響を及ぼすような有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきである。よって,被告の 上記主張は,採用することができない。 (イ)甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性について原告X5の第1の申請疾病は,前記前提となる事実のとおり,「甲状腺機能低下症」である(なお,原告X5は甲状腺自己抗体陰性と判定されており(乙F8),その甲状腺機能低下症が自己免疫性のものであると認めることはできない。)ところ,甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,前記のとおり,低線量域も含めて,一般的に肯定することができるというべきである。 この点,被告は,自己免疫性でない甲状腺機能低下症と低線量の放射線被曝との関連性を認める疫学調査はなく,P7論文等を前提としても,原告X5の甲状腺機能低下症が放射線被曝によるものということはできないと主張する。しかしながら,前記のとおり,P7論文は,マーシャル諸島の核実験で被爆した子どもに10年以内に甲状腺機能低下症が認められたこと,マーシャル諸島の住民の甲状腺被曝は主として内部放射線によるものであったこと,及びその甲状腺機能低下症の多くは自己免疫性甲状腺機能低下症ではなかったことを指摘しているのであって,これに照らすと,上記核実験においては放射性降下物の量が多かったことを考慮しても,相対リスクがどの程度であるかは判然としないものの,自己免疫性でない甲状腺機能低下症についても放射線被曝との関連性を否定することはできないというべきである。 (ウ)他の原因(危険因子)について甲状腺機能低下症が,一般論としては,加齢に伴って増加する傾向にあり,また,男性と比較すると女性の方が,発症頻度が高いも 定することはできないというべきである。 (ウ)他の原因(危険因子)について甲状腺機能低下症が,一般論としては,加齢に伴って増加する傾向にあり,また,男性と比較すると女性の方が,発症頻度が高いものと認められることは,前記のとおりである。 そうであるところ,原告X5は,前記認定のとおり,平成15年3月に甲状腺機能低下症と診断されており,当時63歳であったから,甲状 腺機能低下症を発症した頃には比較的高齢の女性であったということができるが,同年代の女性の多くが甲状腺機能低下症を発症するとまではいうことができない(なお,原告X5には喫煙歴があるが(乙F10),喫煙が甲状腺機能低下症の危険因子であるとはいえないことは,前記のとおりである。)。 (エ)まとめ以上のとおり,原告X5は健康に影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められるところ,自己免疫性でないものを含む甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,低線量域も含めて,一般的に肯定することができるのであって,原告X5が,被爆当時5歳と若年であり,放射線に対する感受性が比較的高かったといえること等をも考慮すれば,原告X5が,女性であり,甲状腺機能低下症を発症した当時,比較的高齢であったことを考慮しても,原告X5の甲状腺機能低下症は,原爆放射線に被曝したことによって発症したものと見るのが合理的であるといえる。 よって,本件X5申請に係る甲状腺機能低下症については,放射線起因性が認められる。 イ要医療性原告X5は,前記認定のとおり,平成15年3月から,甲状腺ホルモン剤(チラージン)を服用しており,当該治療が必要な状態が続いていたといえるから,本件X5申請に係る甲状腺機能低下症については,要医療性が認められる。 (4)両白内障ア から,甲状腺ホルモン剤(チラージン)を服用しており,当該治療が必要な状態が続いていたといえるから,本件X5申請に係る甲状腺機能低下症については,要医療性が認められる。 (4)両白内障ア原告X5の第2の申請疾病は,前記前提となる事実のとおり,「両白内障」であるところ,原告X5は,前記認定のとおり,平成21年1月に両白内障(軽度白内障)と診断されたものの,これについては,治療の必要 はないとされ,原告X5の希望により経過観察が行われていたにすぎないのであって,本件X5申請がされた同月22日から本件X5却下処分がされた平成22年10月25日までの間に,両白内障に関し,積極的な治療を受けていたとは認められず,被爆者援護法10条2項に規定する医療の給付を要する状態にあったということもできない(なお,原告X5は,前記認定のとおり,同年6月にサンコバ点眼液を処方されているが,同点眼液の効能・効果は「調節性眼精疲労における微動調節の改善」であり(乙A562),白内障の治療に効果があると認めるに足りる証拠はないから,同点眼薬が処方されたことをもって,原告X5の両白内障について治療が行われ,又は治療が必要な状態にあったということはできない。)。 イこの点,原告X5は,その両白内障についてはカリーユニ点眼薬が処方されているから,要医療性が認められることは疑いの余地がないと主張する。しかしながら,同点眼薬の効能・効果は「初期老人性白内障」であり(乙A561),発生機序の異なる放射線白内障の治療に効果があるといえるか疑問がある上,いずれにしても,同点眼薬が処方されたのは,前記認定のとおり,本件X5却下処分後の平成23年6月であるから,同点眼薬が処方されたことをもって,原告X5の両白内障について治療が行われ,又は治療が必要な状態にあっ も,同点眼薬が処方されたのは,前記認定のとおり,本件X5却下処分後の平成23年6月であるから,同点眼薬が処方されたことをもって,原告X5の両白内障について治療が行われ,又は治療が必要な状態にあったということはできない。 また,原告X5は,その両白内障については定期的な検査が行われていたから,要医療性が認められると主張する。しかしながら,前記のとおり,疾病等が「現に医療を要する状態にある」(要医療性)とは,当該疾病等に関し,被爆者援護法10条2項に規定する医療の給付を要する状態にあることをいうものと解されるところ,積極的な治療行為を伴わない定期検査等の経過観察については,広い意味での「診察」に含まれ得るとしても,「負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある」という文言の自然な意味内容のほか,被爆者援護法が「健康管理」と「医療」とを区 別し,健康管理(第3章第2節)の内容として,都道府県知事が,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところにより,健康診断を行うものとし(7条),一般検査の結果必要があれば精密検査を行うものとし,その検査の方法は特に制限されていないこと(被爆者援護法施行規則9条)等に照らすと,当該疾病につき再発や悪化の可能性が高い等の特段の事情がない限り,上記の「医療」には当たらないと解するのが相当である。そして,原告X5の両白内障については,前記認定のとおり,治療の必要はないとされ,原告X5の希望により経過観察が行われていたにすぎないのであって,上記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。 よって,原告の上記主張は,いずれも採用することができない。 ウ以上によれば,本件X5申請に係る両白内障については,要医療性が認められない。 (5)小括以上のとおり,本件X5申請に係る甲状腺機能低下症につい 記主張は,いずれも採用することができない。 ウ以上によれば,本件X5申請に係る両白内障については,要医療性が認められない。 (5)小括以上のとおり,本件X5申請に係る甲状腺機能低下症については,放射線起因性及び要医療性の各要件をいずれも満たしていたものと認められるから,本件X5却下処分のうち甲状腺機能低下症に係る部分は,違法であるというほかないが,本件X5申請に係る両白内障については,要医療性の要件を満たしていたものとは認められないから,本件X5却下処分のうち両白内障に係る部分は,その余の点について判断するまでもなく,違法であるとは認められない。 6 原告X6について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(ア)昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,原告X6(当時0歳)は,長 崎市l町の自宅(爆心地から約3.1㎞)の屋内にいて,同所で被爆した(甲G1,乙G1,9,15,原告X6本人)。 (イ)原告X6は,職場から戻らなかった父親を捜す母親に背負われ,同月11日から,長崎市ll 町(爆心地から約0.3㎞)で父親の遺品を発見するまでの約1週間,連日,ほぼ裸の状態で爆心地付近を通って西p方面まで行き,母親が付近の遺体を確認して父親を捜す間も母親に背負われていた(甲G1~4,25,乙G1,原告X6本人)。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(ア)原告X6は,20歳代の頃から高血圧を指摘され,断続的に治療を受けていたが,昭和60年12月に脳出血(右被殻出血)で入院し,平成元年1月には脳出血(左被殻出血)で入院し,重度の言語障害と右側体幹機能障害が残った(乙G2,13,14)。 (イ)原告 を受けていたが,昭和60年12月に脳出血(右被殻出血)で入院し,平成元年1月には脳出血(左被殻出血)で入院し,重度の言語障害と右側体幹機能障害が残った(乙G2,13,14)。 (イ)原告X6は,同年9月8日の時点で血圧(収縮期/拡張期・単位mmHg。 収縮期140以上又は拡張期90以上であれば高血圧症有病者とされる。)が200/120であり,平成2年2月までに,原発性アルドステロン症と診断された(乙A518,G13)。 (ウ)原告X6は,平成9年に脳梗塞を発症し,同年11月には急性心筋梗塞を発症し,さらに,平成10年11月には陳旧性心筋梗塞でバイパス手術を受けた(甲G1,乙G2)。なお,当時,原告X6の血圧は,180/100~120/70で変動が著明であった(乙G13)。 (エ)原告X6は,平成20年に右冠動脈狭窄でステント手術を受けたが,当時,塩分や油ものを好むなど食生活・生活習慣にかなりの問題があると指摘されていた(甲G1,乙G2,4,14)。 (オ)原告X6は,昭和60年頃まで約15~17年間にわたり,1日当たり30~40本の喫煙をしていた(乙G14)。 (カ)原告X6は,身長約162㎝であり,体重は,平成3年12月当時が 62.2㎏,平成8年2月当時が68㎏,平成20年1月当時が64㎏であった(乙G13,14)。 (キ)原告X6は,平成元年頃から,アルダクトンA等を継続的に処方されており,平成10年に上記(ウ)のとおりバイパス手術を受けた後も,アルダクトンA,バイアスピリン等を処方されている(乙G2,13,14,16)。 (2)事実認定の補足説明ア原告X6は,被爆後間もなく,髪が抜けるようになり,その後生えてくる髪は縮れていたと主張し,これに沿う原告X6の供述(甲G1,原告X6本人)もある。 14,16)。 (2)事実認定の補足説明ア原告X6は,被爆後間もなく,髪が抜けるようになり,その後生えてくる髪は縮れていたと主張し,これに沿う原告X6の供述(甲G1,原告X6本人)もある。 しかしながら,原告X6の上記供述は,本件X6申請後に姉から聞いた内容に基づくものであり,曖昧である上,母親(前記認定のとおり,被爆当時,原告X6と行動を共にしていた。)が昭和32年6月に作成した原告X6の被爆者健康手帳交付申請書には,おおむね6か月以内に現れた「原爆による急性症状」として,二,三歳の頃に「口内炎,咽頭痛」があった旨の記載がある一方で,脱毛については,「毛がぬけた」時期及び程度を記載する欄があるにもかかわらず何も記載されていないこと(乙G9)等に照らすと,信用することができない。よって,上記主張事実を認めることはできない。 イまた,原告X6は,原発性アルドステロン症に罹患したことはないと主張する。 原発性アルドステロン症は,副腎の腫瘍や肥大(過形成)によりアルドステロンが過剰に分泌される疾患であり,高血圧(二次性高血圧症)の原因になる(高血圧症の5~20%程度を占めるとされる。)とともに,アルドステロン過剰による直接の臓器障害により心筋梗塞等の心血管疾患を引き起こしやすくする(本態性高血圧症に比べて,心筋梗塞は6.5倍高 率に発症するとの報告がある。)ものである(乙A519~521)。その診断については,血漿アルドステロン濃度(PAC)と血漿レニン活性(PRA)とを同時測定し,その比(PAC/PRA)が200を上回ることをスクリーニングの基準とし,カプトプリル負荷試験,フロセミド立位負荷試験,生理食塩水負荷試験等によって総合的に確定診断を行うものとされ,その治療については,副腎の片側病変であればそ 0を上回ることをスクリーニングの基準とし,カプトプリル負荷試験,フロセミド立位負荷試験,生理食塩水負荷試験等によって総合的に確定診断を行うものとされ,その治療については,副腎の片側病変であればその摘出手術を検討し,両側病変の場合等には抗アルドステロン剤(アルドステロン拮抗薬であるアルダクトンAなど)による薬物療法を行うものとされる(乙A520,G20)。そうであるところ,原告X6については,京都府立mm病院(以下「mm 病院」という。)の医師が作成した平成2年2月7日付けの診断書(健康管理手当用)に,疾病の名称として,原発性アルドステロン症が明示されており,その後も,mm 病院のカルテ等に,傷病名として,同症が記載されているのであって(乙G13,16),原告X6のPAC/PRAは,平成2年9月の血液検査では600,平成3年5月の血液検査では910であり,いずれも,上記のスクリーニング基準値を大幅に上回っていること(乙G17),原告X6が20歳代という若年で高血圧を指摘されていること(本態性高血圧症では40歳くらいから徐々に高血圧が現れることが多いが,二次性高血圧症の多くは20~30歳代の若年で急速に高血圧が発症するとされる(乙A545)。)等をも併せ考慮すれば,原告X6は,平成2年頃までに,原発性アルドステロン症を発症していたものと認めることができる。 この点,原告X6は,現在,原発性アルドステロン症とは診断されておらず,手術も経過観察も受けたことがないし,mm 病院等において確定診断に必要な負荷試験等がされた形跡もなく診断の根拠が不明であるなどと主張する。しかしながら,上記のとおり,原発性アルドステロン症については,手術のほか薬物療法も選択可能であるところ,原告X6については, 平成元年頃からアルドステロン拮 拠が不明であるなどと主張する。しかしながら,上記のとおり,原発性アルドステロン症については,手術のほか薬物療法も選択可能であるところ,原告X6については, 平成元年頃からアルドステロン拮抗薬であるアルダクトンA等が継続的に処方されているのであるから(なお,アルドステロン拮抗薬は,PAC/PRAを大きく低下させるので,原発性アルドステロン症のスクリーニングに当たっては,偽陰性を避けるため,6週間以上内服を中止すべきとされる(乙A520)。),手術等を受けたことがないにもかかわらず,平成10年10月の血液検査ではPAC/PRAが200を上回っておらず,それ以降は原発性アルドステロン症の診断や検査を受けていないとしても,原告X6が同症を発症していないということはできない。また,既に判示したところに照らすと,仮に,mm 病院医師による上記診断書作成の際に各種負荷試験等が行われていないとしても,上記認定を覆すに足りないというべきである。 よって,原告X6の上記主張は採用することができない。 (3)放射線起因性ア放射線被曝の程度について(ア)原告X6は,前記認定のとおり,長崎原爆の爆心地から約3.1㎞離れた自宅屋内において被爆しているのであるから,DS02による初期放射線による推定被曝線量は,0.007グレイ程度となる(乙A161の1,弁論の全趣旨)。また,前記認定の新審査の方針の下における線量評価方法によれば,長崎原爆の投下の翌々日から約1週間,毎日,爆心地付近を通過した原告X6の誘導放射線による推定被曝線量は,0. 0228グレイを下回るし(乙G19),原告X6がgg 地区に滞在又は居住したとは認められないから,放射性降下物による放射線被曝はないことになる。 しかしながら,原告X6は,前記認定のとおり,爆心 0228グレイを下回るし(乙G19),原告X6がgg 地区に滞在又は居住したとは認められないから,放射性降下物による放射線被曝はないことになる。 しかしながら,原告X6は,前記認定のとおり,爆心地付近を連日通過した際,ほぼ裸の状態で母親に背負われていたのであって,母親が遺体を確認するなどしながら歩いていたこと等をも考慮すれば,その間, 誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を含む粉塵等に接触し,呼吸等を通じて上記粉塵等を体内に取り込むなどした可能性が高いというべきである。 そうすると,原告X6は,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である(もっとも,上記のような被曝態様に照らすと,その被曝放射線量が非常に高かったとまではいうことができない。)。 (イ)この点,被告は,原告X6の推定被曝線量は,全体量としても,0. 0298グレイを大きく下回る程度にすぎず,健康に影響を及ぼすような有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきである。よって,被告の上記主張は,採用することができない。 イ心筋梗塞及び労作性狭心症と放射線被曝との関連性について原告X6の申請疾病は,前記前提となる事実のとおり,「心筋梗塞,労作性狭心症」であるところ,心筋梗塞及び狭心症と放射線被曝との関連性については,前記のとおり,低線量域も含めて,一般的に肯定することができるというべきである。 ウ他の原因(危険因子)について(ア)原告X6は,前記認定のとおり,平成2年頃までに原発性アルドステロン症を発症していたものと認められるところ,原発性アルドステロン症は,高血圧(二次性高血圧症)の 他の原因(危険因子)について(ア)原告X6は,前記認定のとおり,平成2年頃までに原発性アルドステロン症を発症していたものと認められるところ,原発性アルドステロン症は,高血圧(二次性高血圧症)の原因になるだけでなく,直接作用として心筋梗塞等の心血管疾患を大幅に引き起こしやすくするものであるから,原告X6の心筋梗塞及び労作性狭心症については,放射線被曝以外に,重大な他の原因(危険因子)があったというべきである。 また,原告X6は,前記認定のとおり,20歳代の頃から高血圧を指 摘され,断続的に治療を受けていたが,その血圧は,一時,200/120にまで上昇し,その後も服薬治療にもかかわらず180/100~120/70で変動していたのであるから,重い高血圧症であったというべきであり(仮に放射線被曝が高血圧に影響し得るとしても,原告X6が原発性アルドステロン症を発症していたことに照らすと,その高血圧症は,むしろ原発性アルドステロン症に起因する二次性高血圧症であると考えるのが合理的である。),前記認定の身長,体重に照らすと原告X6は肥満気味であったといえること等をも併せ考慮すると,原告X6の心筋梗塞及び労作性狭心症については,複数の危険因子があり,その程度も重かったというべきである。 (イ)この点,原告X6は,LSSやAHS等の調査結果は危険因子についても織り込み済みの判断であるとし,他の危険因子があっても放射線起因性は否定されないと主張する。しかしながら,交絡因子の調整は,一般的な疫学的因果関係の判断のために行われるものであるから,これによって,個々の具体的事例において当該疾患が他の危険因子によって発症したものと見ることが否定されるものではなく,放射線起因性の証明の有無を判断するに当たっては,当該疾病等に係る他の原因(危険因子 によって,個々の具体的事例において当該疾患が他の危険因子によって発症したものと見ることが否定されるものではなく,放射線起因性の証明の有無を判断するに当たっては,当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度の検討が必要であるというべきことは,前記のとおりである。よって,原告X6の上記主張は採用することができない。 エまとめ以上のとおり,原告X6は健康に影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められるが,他方,原告X6には,原発性アルドステロン症及びこれに起因する二次性高血圧症といった,心筋梗塞及び狭心症の重大な危険因子が複数あることが認められ,その程度も重いということができるのであって,前記認定のとおり,原告X6が被曝した放射線の線量が非常に高いものとまでは認められないこと等をも考慮すれば,原告X6 が被爆当時0歳と若年であり,放射線に対する感受性が比較的高かったといえること,心筋梗塞及び狭心症と放射線被曝との間に一般的に関連性が認められること等を考慮しても,原告X6の心筋梗塞及び労作性狭心症は,原発性アルドステロン症等によって発症したものと見るのが合理的であるといえる。そうすると,原告X6の心筋梗塞及び労作性狭心症については,原爆放射線に被曝したことにより発症したことを是認し得る高度の蓋然性が証明されたものということはできない。 よって,本件X6申請に係る心筋梗塞及び労作性狭心症については,放射線起因性が認められない。 (4)小括以上のとおり,本件X6申請に係る心筋梗塞及び労作性狭心症については,放射線起因性の要件を満たしていたものと認めるに足りないから,本件X6却下処分は,その余の点について判断するまでもなく,違法であるとは認められない。 7 原告X7について(1)認定事実 ,放射線起因性の要件を満たしていたものと認めるに足りないから,本件X6却下処分は,その余の点について判断するまでもなく,違法であるとは認められない。 7 原告X7について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(ア)昭和20年8月6日の広島原爆投下時,原告X7(当時2歳)は,広島市zの自宅(爆心地から約3.45㎞)の庭にいて,洗濯物を干している母親に背負われていたところ,被爆した(甲H1,乙H1,8,13,原告X7本人)。 (イ)原告X7は,同日,建物疎開の作業に出ていた原告X7の父親を捜しに行く母親に背負われ,祖母及び兄と共に,aa 町,bb 町を通ってg橋周辺に行き,その間,防火水槽の水を飲むなどし,g橋付近(爆心地か ら約1.7㎞)で大やけどを負っている父親を発見した(甲H1,乙H8,9,原告X7本人)。 (ウ)原告X7は,その後,救護所となったcc 小学校(爆心地から約3. 1㎞)に収用された父親の看病に行く母親に連れられて,毎日,cc 小学校に通ったが,同小学校には,多数の負傷者等が収容され,遺体が焼かれるなどしていた(甲H1,7,8,乙H8,9,原告X7本人)。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(ア)原告X7は,被爆後,脱毛があり,その後も胃腸の調子がすぐれず,疲れやすい上,風邪を引くとなかなか治らない状態が続き,原告X7の兄も,病弱で,発育が悪く,黄疸のような症状が出るなどした(甲H1,乙H1,原告X7本人)。 (イ)原告X7は,昭和48年頃から,めまいや疲れがひどくなり,平成15年頃からは,顔が腫れるなどし,平成18年3月,甲状腺機能低下症と診断され,甲状腺ホルモン剤(チラージン)の服用を開始した 。 (イ)原告X7は,昭和48年頃から,めまいや疲れがひどくなり,平成15年頃からは,顔が腫れるなどし,平成18年3月,甲状腺機能低下症と診断され,甲状腺ホルモン剤(チラージン)の服用を開始した(甲H1,乙H3,5の2,14,原告X7本人)。 (2)事実認定の補足説明ア原告X7は,昭和20年8月6日に父親を捜しに行った際にg橋から更に数百mは爆心地に近づいたと思われ,また,同日に外で雨に降られたと聞いているなどと主張するが,これらの事実を認めるに足りる証拠はない。 イまた,原告X7は,父親をcc 小学校に連れて行った当日又は翌日から数日間,伯母や叔母を捜しに行く母親に背負われて,広島市dd 町(爆心地から約1.5㎞)及びee 町(同約0.3~0.5㎞)に行ったと主張し,これに沿う原告X7の供述(甲H1,原告X7本人)もある。 しかしながら,原告X7の上記供述は,母親等から聞いた内容に基づくものであり,曖昧である上,原告X7及びその母親が昭和41年9月に提出した被爆者健康手帳交付申請書には,いずれも,原告X7の父親が収容 されたcc 小学校に毎日通った旨の記載があるのに対し,伯母や叔母を捜しに行った旨の記載は一切ないこと(乙H8,9),原告X7の母親は父親を捜しに行った際に足に怪我をして10日間ほど治療を受けており(乙H9),数㎞離れたee 町まで連日歩いて行ったというのは不自然であること等に照らすと,信用することができない。よって,上記主張事実を認めることはできない。 (3)放射線起因性ア放射線被曝の程度について(ア)原告X7は,前記認定のとおり,長崎原爆の爆心地から約3.45㎞離れた屋外において被爆しているのであるから,DS02による初期放射線による推定被曝線量は,約0.0004グレイとなる(乙A1 (ア)原告X7は,前記認定のとおり,長崎原爆の爆心地から約3.45㎞離れた屋外において被爆しているのであるから,DS02による初期放射線による推定被曝線量は,約0.0004グレイとなる(乙A161の1,弁論の全趣旨)。また,前記認定の新審査の方針の下における線量評価方法によれば,広島原爆の爆心地から1.7㎞の地点に入市した原告X7については誘導放射線による被曝を考慮する必要はなく,また,原告X7がff 地区に滞在又は居住したとは認められないから,放射性降下物による放射線被曝はないことになる。 しかしながら,原告X7は,前記認定のとおり,広島原爆の投下の当日に,母親に背負われて,爆心地から約1.7㎞のg橋付近まで行っているのであって,その間,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を含む粉塵等に接触し,呼吸等を通じて上記粉塵等を体内に取り込むなどした可能性が高いというべきである。また,原告X7は,上記入市の際に防火水槽の水を飲んでおり,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を含む粉塵等を体内に取り込むなどした可能性も否定できない。 さらに,前記認定のとおり,原告X7は,同日以降,父親が収容されたcc 小学校の救護所に数日通っているところ,同救護所には,多数の負傷者等が収容されていたのであって,その衣服,髪,皮膚等に付着した粉 塵等に接触し,呼吸等を通じて上記粉塵等を体内に取り込むなどしたものと推認される。 そうすると,原告X7は,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 (イ)この点,被告は,原告X7の推定被曝線量は,全体量としても,約0. 0004グレイ程度にすぎず,健康に影響を及ぼすような有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や (イ)この点,被告は,原告X7の推定被曝線量は,全体量としても,約0. 0004グレイ程度にすぎず,健康に影響を及ぼすような有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきである。よって,被告の上記主張は,採用することができない。 イ甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性について原告X7の申請疾病は,前記前提となる事実のとおり,「甲状腺機能低下症」である(なお,原告X7は甲状腺自己抗体陰性と判定されており(乙H6),その甲状腺機能低下症が自己免疫性のものであると認めることはできない。)ところ,甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,前記のとおり,低線量域も含めて,一般的に肯定することができるというべきである。 この点,被告は,自己免疫性でない甲状腺機能低下症と低線量の放射線被曝との関連性を認める疫学調査はなく,P7論文等を前提としても,原告X7の甲状腺機能低下症が放射線被曝によるものということはできないと主張するが,自己免疫性でない甲状腺機能低下症についても放射線被曝との関連性を否定することはできないというべきことは,前記のとおりである。 ウ他の原因(危険因子)について甲状腺機能低下症が,一般論としては,加齢に伴って増加する傾向にあり,また,男性と比較すると女性の方が,発症頻度が高いものと認められることは,前記のとおりである。 そうであるところ,原告X7は,前記認定のとおり,平成18年3月に甲状腺機能低下症と診断されており,当時62歳であったから,甲状腺機能低下症を発症した頃には比較的高齢の女性であったということができるが,同年代の女性の多くが甲状腺機能低下症を発症するとまではいうことができない 症と診断されており,当時62歳であったから,甲状腺機能低下症を発症した頃には比較的高齢の女性であったということができるが,同年代の女性の多くが甲状腺機能低下症を発症するとまではいうことができない。 エまとめ以上のとおり,原告X7は健康に影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められるところ,自己免疫性でないものを含む甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,低線量域も含めて,一般的に肯定することができるのであって,原告X7が,被爆当時2歳と若年であり,放射線に対する感受性が比較的高かったといえること等をも考慮すれば,原告X7が,女性であり,甲状腺機能低下症を発症した当時,比較的高齢であったことを考慮しても,原告X7の甲状腺機能低下症は,原爆放射線に被曝したことによって発症したものと見るのが合理的であるといえる。 よって,本件X7申請に係る甲状腺機能低下症については,放射線起因性が認められる。 (4)要医療性原告X7は,前記認定のとおり,平成18年3月から,甲状腺ホルモン剤(チラージン)を服用しており,当該治療が必要な状態が続いていたといえるから,本件X7申請に係る甲状腺機能低下症については,要医療性が認められる。 (5)小括以上のとおり,本件X7申請に係る甲状腺機能低下症については,放射線起因性及び要医療性の各要件をいずれも満たしていたものと認められるから,本件X7却下処分は,違法であるというほかない。 第3 本件各却下処分についての国家賠償責任(争点③) 1 判断枠組み国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである 条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるから,原爆症認定の申請に対する却下処分が放射線起因性又は要医療性の要件の充足に関する判断を誤ったため違法であるとしても,そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,原爆症認定に関する権限を有する厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該却下処分をしたと認め得るような事情がある場合に限り,国家賠償法上違法の評価を受けるものと解するのが相当である(最高裁平成5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。 ところで,厚生労働大臣が原爆症認定を行うに当たっては,申請疾病が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかである場合を除き,疾病・障害認定審査会の意見を聴かなければならないものとされている(被爆者援護法11条2項,被爆者援護法施行令9条)。これは,原爆症認定の判断が専門的分野に属するものであることから,厚生労働大臣が処分をするに当たっては,原則として,必要な専門的知識経験を有する諮問機関の意見を聴くこととし,その処分の内容を適正ならしめる趣旨によるものであり,厚生労働大臣は,特段の合理的理由がない限り,その意見を尊重することが要請されていると解される。そして,同審査会には,被爆者援護法の規定により疾病・障害認定審査会の権限に属させられた事項を処理する分科会として,医療分科会を置くこととされ(疾病・認定審査会令5条1項),医療分科会に属すべき委員及び臨時委員等は,厚生労働大臣が指名するものとされているところ(同条2項),医療分科会の委員及び臨時委員 として,医療分科会を置くこととされ(疾病・認定審査会令5条1項),医療分科会に属すべき委員及び臨時委員等は,厚生労働大臣が指名するものとされているところ(同条2項),医療分科会の委員及び臨時委員は,放射線科学者,被爆者医療に従事する医学関係者,内科や外科等の専門的医師等の放射線起因性及び要医療性の判 断について高い識見と豊かな専門的知見を備えた者により構成されていることが認められる(弁論の全趣旨)。 以上によれば,厚生労働大臣が原爆症認定申請につき疾病・障害認定審査会(医療分科会)の意見を聴き,その意見に従って誤って却下処分をした場合においては,その意見が関係資料に照らして明らかに誤りであるなど,答申された意見を尊重すべきではない特段の事情が存在し,厚生労働大臣がこれを知りながら漫然とその意見に従い却下処分をしたと認め得るような場合に限り,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該却下処分をしたものとして,国家賠償法上違法の評価を受けると解するのが相当である。 2 検討(1)本件各却下処分のうち,本件X1却下処分,本件X2却下処分,本件X5却下処分(申請疾病両白内障に係る部分に限る。)及び本件X6却下処分は,前記第2のとおり,放射線起因性又は要医療性の要件の充足に関する判断を誤った違法なものであるとは認められない。そうすると,厚生労働大臣が上記各処分をしたことが国家賠償法上違法の評価を受けるということはできない。 (2)他方,本件各却下処分のうち,上記(1)の各処分以外のものは,前記第2のとおり,放射線起因性又は要医療性の要件の充足に関する判断を誤った違法なものであるというほかない。しかしながら,これらの処分は,いずれも,前記前提となる事実のとおり,厚生労働大臣が疾病・障害認定審査会(医療分科会 因性又は要医療性の要件の充足に関する判断を誤った違法なものであるというほかない。しかしながら,これらの処分は,いずれも,前記前提となる事実のとおり,厚生労働大臣が疾病・障害認定審査会(医療分科会)の意見を聴いた上で,その意見に従ってされたものであるところ,その意見が関係資料に照らし明らかに誤りであるなど,答申された意見を尊重すべきではない特段の事情が存在したと認めるに足りる証拠はない。 この点,原告らは,最高裁平成12年判決等から導かれる総合判断の認定手法や,その後に策定された新審査の方針に従えば,原告らが原爆症認定を受けるべき者であることは明らかであるにもかかわらず,厚生労働大臣は, 医療分科会の意見に何らの疑義も挟まず,漫然と上記各処分を行ったものであるから,国家賠償法上違法であると主張する。しかしながら,既に判示したところに照らすと,上記各処分に係る申請疾病(いずれも甲状腺機能低下症である。)については,相当程度の放射線被曝を受けたかどうかの事実認定も含め,慎重に検討する必要があったというべきであり,原爆症認定がされるべきことが明らかであったということはできない(なお,上記各処分の当時に適用されていた再改定前の新審査の方針の下において,上記各処分に係る申請疾病が,積極認定の対象となる「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」に当たることが関係資料に照らして明らかであったということもできない。)。よって,原告らの上記主張は採用することができない。 そうすると,上記各処分が国家賠償法上違法の評価を受けるということはできない。 3 小括以上のとおり,厚生労働大臣が本件各却下処分を行ったことが国家賠償法上違法であるとは認められない(なお,原告らは,厚生労働大臣が,①審査に当たって行政手続法5条1項の審査基準を示し 3 小括以上のとおり,厚生労働大臣が本件各却下処分を行ったことが国家賠償法上違法であるとは認められない(なお,原告らは,厚生労働大臣が,①審査に当たって行政手続法5条1項の審査基準を示しておらず,②本件各却下処分を行うに当たって同法8条の要求する処分の理由を示していないから,本件各却下処分はこれらの規定に違反し,国家賠償法上も違法であるとも主張する。しかしながら,①同法5条1項は,審査基準の設定が不要又は不可能であるような場合にまで審査基準の設定を行政庁に義務付けるものではないと解されるところ,原爆症認定の申請がされた場合には,被爆者援護法10条1項所定の放射線起因性及び要医療性について,医学的知見や疫学的知見などを踏まえた高度に科学的・専門的な判断がされ,その性質上,個々の申請について個別具体的な判断をせざるを得ないから,同項の規定以上に具体的な基準を定めることは困難というほかなく,原爆症認定については,審査基準を定めることを要しないというべきであるし,②行政手続法8条1項本文の規定によりどの程度の理 由を提示すべきかは,当該処分の根拠法令の規定内容,当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該処分の性質及び内容,当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮して決すべきであり(同法14条1項についての最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照),原爆症認定の申請を却下する処分については,医療分科会に諮問された場合にはその審議の概要と結果のほか,放射線起因性又は要医療性のいずれの要件を欠くものとされたかを明らかにすれば足りると解するのが相当であるところ,本件各却下処分に係る通知書の理由の記載からは,原爆症認定の要件が示された上で,医療分科会における審議の概要と結果のほか, 要件を欠くものとされたかを明らかにすれば足りると解するのが相当であるところ,本件各却下処分に係る通知書の理由の記載からは,原爆症認定の要件が示された上で,医療分科会における審議の概要と結果のほか,放射線起因性又は要医療性を欠くものとされたことが明らかということができる(乙B8,C9,D12,E7,F9,G11,H10)。そうすると,本件各却下処分は,行政手続法5条1項及び8条に違反するものではないというべきであり,原告らの上記各主張は,いずれも採用することができない。)。 第4 結論以上のとおりであって,本件X3却下処分,本件X4却下処分,本件X5却下処分(申請疾病甲状腺機能低下症に係る部分に限る。)及び本件X7却下処分の取消しを求める請求はいずれも理由があるから認容し,原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官西田隆裕 裁判官山本 拓 裁判官佐藤しほりは,差し支えのため署名押印することができない。 裁判長裁判官西田隆裕
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