平成29(ネ)1026 賃金請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成30年2月15日 東京高等裁判所 その他 東京地方裁判所 平成24(ワ)14472
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判決文本文23,850 文字)

主文 1⑴一審被告の本件控訴に基づき,原判決中,一審被告の敗訴部分を取り消す。 ⑵上記の部分につき,一審原告らの請求をいずれも棄却する。 一審原告らの本件各控訴をいずれも棄却する。 訴訟費用は,第一審,差戻し前の控訴審,上告審及び差戻し後の控訴審を通じ,全て一審原告らの負担とする。 事実 及び理由第1控訴の趣旨 一審原告ら⑴原判決を次のとおり変更する。 ア一審被告は,一審原告aに対し,59万1468円及びこれに対する平成24年2月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を54万7981円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 イ一審被告は,一審原告bに対し,113万8952円及びこれに対する平成24年2月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を104万3262円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 ウ一審被告は,一審原告cに対し,139万1579円及びこれに対する平成24年2月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を127万8072円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払 済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 エ一審被告は,一審原告dに対し,126万8004円及びこれに対する平成24年2月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を113万5539円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 オ一審被告は,一審原告eに対し,120万1537円及びこれに対する平成23年12月28日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を105万5504円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払 一審被告は,一審原告eに対し,120万1537円及びこれに対する平成23年12月28日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を105万5504円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 カ一審被告は,一審原告fに対し,132万2167円及びこれに対する平成24年2月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を119万5315円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 キ一審被告は,一審原告gに対し,97万1932円及びこれに対する平成24年2月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を97万1932円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 ク一審被告は,一審原告hに対し,99万9569円及びこれに対する平成24年2月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を91万4281円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 ケ一審被告は,一審原告iに対し,72万8402円及びこれに対する平成24年2月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を72万8402円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 コ一審被告は,一審原告jに対し,74万2871円及びこれに対する平成24年2月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を66万2261円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 サ一審被告は,一審原告kに対し,114万0460円及びこれに対する平成24年2月28日から支払済みまで れに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 サ一審被告は,一審原告kに対し,114万0460円及びこれに対する平成24年2月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を106万1744円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 シ一審被告は,一審原告lに対し,164万0303円及びこれに対する平成24年2月28日から支払 済みまで年6分の割合による金員を148万0424円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 ス一審被告は,一審原告mに対し,71万9543円及びこれに対する平成23年4月18日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を59万1370円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員ををそれぞれ支払え。 セ一審被告は,一審原告nに対し,71万6649円及びこれに対する平成24年1月31日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を62万3519円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 ⑵仮執行宣言 一審被告主文第1項と同じ。 第2事案の概要 事案の概要と本件訴訟の経過⑴事案の概要本件は,一般旅客自動車運送事業等を営む一審被告との間で労働契約(以下「本件労働契約」という。)を締結し,タクシー乗務員として勤務していた一審原告らが,一審被告に対し,一審被告の定める就業規則中のタクシー乗務員賃金規則(以下「本件賃金規則」という。)における歩合給(歩合給 ⑴)の支給規定(以下「本件規定」という。)について,その計算過程で割増金(深夜手当,残業手当及び公 める就業規則中のタクシー乗務員賃金規則(以下「本件賃金規則」という。)における歩合給(歩合給 ⑴)の支給規定(以下「本件規定」という。)について,その計算過程で割増金(深夜手当,残業手当及び公出手当)と同額を控除することによって,実質的に割増金の支払を免れていることになるから,労働基準法(以下「法」という。)37条1項に違反し,あるいはその趣旨を潜脱し,公序良俗に反して無効であり,また,同じく本件規定において,歩合給として支給されるべき金額から交通費と同額を控除することは,実質的に交通費の支払を免れることになるので,交通費の支給を定めた本件労働契約の債務不履行に当たると主張し,本件労働契約による賃金請求権に基づいて,平成22年3月27日支払分から平成24年2月27日支払分(ただし,一審原告eは,退職した日である平成23年12月27日まで,一審原告mは,同じく退職日の平成23年4月17日まで,一審原告nは,同じく退職日の平成24年1月30日まで。)までの未払賃金(主位的には未払割増金,予備的には未払歩合給)及び未払交通費並びにこれに対する最終支払期日の翌日である平成24年2月28日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金(ただし,一審原告eについては,退職した日の翌日である平成23年12月28日から,一審原告mについては,退職した日の翌日である平成23年4月18日から,一審原告nについては,退職した日の翌日である平成24年1月31日から,各支払済みまで,賃金の支払の確保等に関する法律[以下「賃確法」という。]6条1項に定める年14.6%の割合による遅延損害金)の支払を求めるとともに,法114条に定める付加金として,未払割増金(上記主位的請求の部分。ただし,当該支払期日から本件訴訟の提起までに除斥期間の2年間が経過 る年14.6%の割合による遅延損害金)の支払を求めるとともに,法114条に定める付加金として,未払割増金(上記主位的請求の部分。ただし,当該支払期日から本件訴訟の提起までに除斥期間の2年間が経過した部分を除く。)と同一の額及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 ⑵本件訴訟の経過ア一審(東京地裁平成24年(ワ)第14472号)は,①本件規定のう ち,歩合給の算定に当たり,割増金と同額を控除する部分が法37条1項の趣旨に違反し,公序良俗に反して無効であり,割増金の支払はなされているが,上記控除額相当の歩合給が未払である旨を判示して,一審被告が一審原告らに対し,予備的請求である未払の歩合給として,控除した割増金と同額(一審判決別紙認容額等一覧表の「認容額」欄記載の金員)を支払うよう命ずる一方,②同じく歩合給の算定に当たり,交通費と同額を控除する部分は無効とは認められないとし,③本件規定は,一審被告で長年にわたり採用され,多数派労働組合との労使協定でも維持されて問題視されることのなかったもので,本件訴訟でその仕組みの有効性が争点となったが,公序良俗に反する無効なものであることが一見して明白であるというわけではなく,一審被告が争うことにも相当の合理性があるから,一審原告e,同m及び同n(以下,まとめて「一審原告eら」という。)との関係で,賃確法6条1項は適用されず,遅延損害金は商事法定利率である年6分の割合によるべきであり,さらに,④上記歩合給の未払については,法37条の規定自体に違反したわけではないから,付加金の支払を命ずるのは相当ではないとして,一審原告らのその余の請求を棄却したところ,これを不服とする一審原告ら及び一審被告がそれぞれ控訴をした(なお, 37条の規定自体に違反したわけではないから,付加金の支払を命ずるのは相当ではないとして,一審原告らのその余の請求を棄却したところ,これを不服とする一審原告ら及び一審被告がそれぞれ控訴をした(なお,一審原告らは,遅延損害金に賃確法6条1項の適用を求めた部分及び付加金の支払を求めた部分の限度で不服を申し立て,その余の部分(本件規定で交通費と同額を控除する部分)については不服を申し立てていないため,同部分については,控訴審の審理の対象から外れている。)。 イ差戻し前の控訴審(東京高裁平成27年(ネ)第1166号)は,①基本給が歩合給・出来高払の場合を除外せず,使用者に割増金の支払を強制することで労働者の時間外労働を抑制するという法37条の趣旨は,本件労働契約でも妥当するもので,同条が強行法規であり,その違反には刑事罰が科されることに鑑みれば,同条の趣旨に反する歩合給制度を設計する ことは許されないとした上,本件規定において,歩合給の算定に当たり,割増金と同額を控除する部分は,同条の規制を潜脱してその趣旨に反し,ひいては公序良俗に反するものとして民法90条により無効である,②一審被告が本件規定の無効の主張を争ったことには合理的な理由が認められるから,一審原告eらとの関係で,賃確法6条1項は適用されない,③一審被告の未払部分は,歩合給の一部であるから,法37条の規定自体に違反したわけではなく,付加金の支払を命ずる前提を欠く旨を判示して,一審の上記判断を維持し,一審原告ら及び一審被告の各控訴をそれぞれ棄却したところ,これを不服とする一審被告が上告及び上告受理の申立てをした。 ウ上告審(最高裁平成27年(オ)第1596号,同年(受)第1998号)は,一審被告の上告を棄却したが,上告受理の決定をした上,使用者が労働者に対し,法37条に定める び上告受理の申立てをした。 ウ上告審(最高裁平成27年(オ)第1596号,同年(受)第1998号)は,一審被告の上告を棄却したが,上告受理の決定をした上,使用者が労働者に対し,法37条に定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには,労働契約における賃金の定めにつき,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と,同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別できるか否かを検討した上,判別ができる場合に,割増賃金として支払われた額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,法37条等に定められた方法により算定した割増金の額を下回らないか否かを検討すべきであり,これを下回るときには,使用者が労働者にその差額を支払うべき義務があるとし,法37条は,労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるか特に規定をしていないことに鑑みると,労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に,当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの,当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効であると解 することができないとしたほか,法37条は,使用者に対し,法内時間外労働や法定外休日労働に対する割増賃金を支払う義務を課しておらず,使用者がその労働の対価として割増賃金を支払う義務を負うか否かは労働契約の定めに委ねられているから,労働者に割増賃金として支払われた金額が,法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて判断するに当たっては,時間外労働等のうち法内時間外労働や法定外休日労働にあたる部分とそれ以外の部分を区別する必要があ 法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて判断するに当たっては,時間外労働等のうち法内時間外労働や法定外休日労働にあたる部分とそれ以外の部分を区別する必要がある旨を判示して,差戻し前の控訴審判決を破棄し,更に審理を尽くさせるためとして,本件を当審に差し戻す旨の判決(以下「本件上告審判決」という。)をした。 前提となる事実(争いのない事実及び証拠等によって容易に認定することができる事実)⑴当事者ア一審被告は,一般旅客自動車運送事業等を目的とする株式会社である。 イ一審原告らは,一審判決別紙雇用日等一覧表の「雇用年月日」欄記載の時期に,一審被告との間で,本件労働契約を締結し,タクシー乗務員として勤務していた。その後,一審原告らのうち,一審原告eは,平成23年12月27日までに,一審原告mは,平成23年4月17日に,一審原告nは,平成24年1月30日にそれぞれ一審被告を退職した。 ⑵本件賃金規則による賃金の定め一審被告が定める就業規則の一部である本件賃金規則では,本採用されているタクシー乗務員の賃金につき,次のとおり定めている。 ア基本給として,1乗務(15時間30分)当たり,1万2500円を支給する。 イ服務手当(タクシーに乗務せずに勤務した場合の賃金)として,タクシーに乗務しないことにつき,従業員に責任のない場合は1時間当たり12 00円,責任のある場合は1時間当たり1000円を支給する。 ウ割増金及び歩合給を求めるための対象額(以下「対象額A」という。)を次のとおり算出する(なお,揚高については,税抜揚高とする。)。 対象額A=(所定内揚高-所定内基礎控除額)×0.53+(公出揚高-公出基礎控除額)×0.62所定内基礎控除額は,所定就労日の1乗務の控除額(平日は原則として2万9 ついては,税抜揚高とする。)。 対象額A=(所定内揚高-所定内基礎控除額)×0.53+(公出揚高-公出基礎控除額)×0.62所定内基礎控除額は,所定就労日の1乗務の控除額(平日は原則として2万9000円,土曜日は1万6300円,日曜祝日は1万3200円)に,平日,土曜日及び日曜祝日の各乗務日数を乗じた額とする。また,公出基礎控除額は,公出(所定乗務日数を超える出勤)の1乗務の控除額(平日は原則として2万4100円,土曜日は1万1300円,日曜祝日は8200円)を用いて,所定内基礎控除額と同様に算出した額とする。 エ深夜手当は,次の①と②の各計算式によって計算された金額の合計額とする。 ①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×0.25×深夜労働時間②(対象額A÷総労働時間)×0.25×深夜労働時間オ残業手当は,次の①と②の各計算式によって計算された金額の合計額とする。 ①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×1.25×残業時間②(対象額A÷総労働時間)×0.25×残業時間カ公出手当のうち,法定外休日(労働基準法において使用者が労働者に付与することが義務付けられている休日以外の労働契約に定められた休日)の労働分は,次の①と②の各計算式によって計算された金額の合計額とする。 ①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×0.25×休日労働時間②(対象額A÷総労働時間)×0.25×休日労働時間公出手当のうち,法定休日の労働分は,次の①と②の各計算式によって計算された金額の合計額とする。 ①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×0.35×休日労働時間②(対象額A÷総労働時間)×0.35×休日労働時間キ歩合給は,次の計算式によって計算された金額による(本件規定) ①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×0.35×休日労働時間②(対象額A÷総労働時間)×0.35×休日労働時間キ歩合給は,次の計算式によって計算された金額による(本件規定)。 対象額A-{割増金(深夜手当,残業手当及び公出手当の合計)+交通費(片道分)×出勤日数(7.75時間ごとに1日分に換算)}ク歩合給は,次の計算式によって計算された金額による(ただし,公出分揚高は当月の揚高より除外する。)。 (所定内揚高-34万1000円)×0.05ケ賃金の締切は,原則として,前月18日から当月17日までとし,賃金の支給日は27日(2月度は26日)とし,支給日が土曜,日祝日の場合はその前日とする。 コ本件賃金規則は,平成22年4月に改定されたものであるが,改定前の賃金規則では,所定内基礎控除額の基準となる1乗務の控除額が,平日は原則として3万5000円,土曜日は2万2200円,日曜祝日は1万8800円とされ,また,公出基礎控除額の基準となる1乗務の控除額が,平日は原則として2万9200円,土曜日は1万6400円及び日曜祝日は1万3000円とされていた。さらに,上記エからカまでの各計算式において「基本給,服務手当」とされていた部分が,いずれも「基本給+安全手当+服務手当」とされていたほか,賞与の支給があったため,歩合給に相当する定めがなく(なお,歩合給は,賞与に代えて支払う賃金と して定められた。),「歩合給」として,上記キの歩合給と同様の定めがあった。 ⑶一審原告らの勤務実績と賃金の額ア一審原告らは,平成22年2月から平成24年2月までの間,本件賃金規則上の本採用のタクシー乗務員(ただし,一審原告m及び一審原告nが,その前にそれぞれ退職したことは前記のとおりである。)として,一審判決別紙個人別賃金計 年2月から平成24年2月までの間,本件賃金規則上の本採用のタクシー乗務員(ただし,一審原告m及び一審原告nが,その前にそれぞれ退職したことは前記のとおりである。)として,一審判決別紙個人別賃金計算書の「所定乗務数」及び「公出乗務数」の各欄記載のとおり勤務した。 イ上記アの期間における一審原告らの揚高は,それぞれ一審判決別紙個人賃金計算書の「所定税抜揚高」及び「公出税抜揚高」の各欄記載のとおりであり,これらに基づき,本件賃金規則の定め(ただし,平成22年3月支給分は,同年4月の改定前の定めによる。)に従って,一審原告らの残業手当,深夜手当,公出手当,交通費及び歩合給⑴(同年3月支給分については「歩合給」。以下,これらを区別せずに「歩合給」という。)の額を計算すると,それぞれ同計算書の「残業手当」,「深夜手当」,「公出手当」,「通勤交通手当」及び「歩合給」の各欄記載のとおりである。そして,一審被告は,一審原告らに対し,上記各欄記載の金額を支払った。なお,上記アの期間における一審原告らの各月の対象額Aを計算すると,同計算書の「対象額A」欄記載のとおりである。 当事者の主張⑴一審原告らの主張ア本件規定の効力について法37条1項違反について法37条1項は,時間外労働等が通常の労働形態に比して,労働の肉体的及び精神的負荷が高いことから,時間外労働等を行った場合,時間外労働等を行わなかった場合に比べて,割増賃金分の賃金が増額される ことを要請し,これにより使用者に経済的負担を負わせることで,時間外労働の抑制を意図し,労働時間制の原則の維持を図るとともに,過重な労働に対する労働者への補償を行うとするものである。そして,法37条1項に違反して割増賃金を支払わなかった場合には,使用者には刑事罰まで科されることからすれば(法119条 維持を図るとともに,過重な労働に対する労働者への補償を行うとするものである。そして,法37条1項に違反して割増賃金を支払わなかった場合には,使用者には刑事罰まで科されることからすれば(法119条1項),法37条1項は強行法規であり,これに違反する就業規則の規定は無効となり,法37条1項の規定によることになる(法13条)。したがって,時間外労働等を行ったにもかかわらず,割増賃金分の賃金が増額されないような賃金の算定方法による規定は,法37条に違反し,あるいはこれを潜脱するものである。 そして,本件規定では,歩合給⑴の計算過程で,深夜手当,残業手当及び公出手当で構成される割増金と同額が差し引かれているため,時間外労働等を行った分だけ,時間外手当等と同額だけ,通常の労働時間の賃金が減少していくことになり,使用者は,実質的に割増賃金を負担することはない。また,乗務員が時間外労働や深夜労働等をどれだけ行っても,その賃金総額は増額されないから,時間外手当等が全く支払われないのと同じ結果となる。このように,本件規定は,時間外労働を抑制し,労働時間制の原則の維持を図るとともに,過重な労働に対する労働者への補償を行う法37条1項の趣旨を没却するもので,同条の法規制に違反し,あるいはこれを潜脱するものである。 さらに,本件規定は,その内容からして,一審被告において割増賃金の負担を免れる意図があったことは明らかであり,割増賃金の不払を目的としたものであるから,この点においても,法37条に違反し,あるいはこれを潜脱するものである。 本件規定の必要性・合理性の欠如法37条は,業種や労働の内容によって例外を設けておらず,法の適 用があるものに例外なく時間外手当等の支払を義務付けているものであって,タクシー業務の内容等を理由として,例外的に潜脱が許される 法37条は,業種や労働の内容によって例外を設けておらず,法の適 用があるものに例外なく時間外手当等の支払を義務付けているものであって,タクシー業務の内容等を理由として,例外的に潜脱が許されることはあり得ない。また,タクシー事業では,厚生労働省告示による規制があるので,他の業種と比べても,労働者の時間管理が厳しくなされており,その管理が困難であるという事情はない。かえって,常に売上に強い関心を抱いている会社は,乗務員が長時間労働をすればするだけ売上が増えるから,できるだけ乗務員に多くの売上を上げさせ,また,車が遊んでいる状態を避けるため,乗務員に深夜労働,長時間労働を強いてきたのが実態であって,残業時間が規制され,累進歩合制が禁止されたのも,会社が営業成績を上げさせようと乗務員に無理をさせ,長時間労働を引き起こすおそれがあることが理由であった。このように深夜労働,長時間労働が常態化していたタクシー業界では,会社において,実質的に残業代の支払を免れる賃金制度を研究し,新たな賃金制度を編み出し,その結果として,本件のように,割増賃金の実質的な不払を行う賃金制度が採用されているのである。 明確区分性について本件賃金規則における深夜手当,残業手当及び公出手当は,法37条1項に定める割増賃金としての実質を持つものではない。すなわち,上記各手当は,形式上はその名目で支払がなされているものの,歩合給の計算過程で,これらの合計額と同一額が減額されてしまい,時間外労働の対価としての効果が相殺されることになり,時間外労働等に従事した場合でも,それに応じた割増賃金が「通常の労働時間の賃金」に増額して支払われることがない。そうすると,本件賃金規則における残業手当等の支払部分は,時間外労働の対価としての実質を有していないから,「同条の定める割増賃金 た割増賃金が「通常の労働時間の賃金」に増額して支払われることがない。そうすると,本件賃金規則における残業手当等の支払部分は,時間外労働の対価としての実質を有していないから,「同条の定める割増賃金に当たる部分」ということはできず,その他に本件賃金規則には,「同条の定める割増賃金に当たる部分」として判別 できる部分は存在しない。 また,割増賃金が「通常の労働時間の賃金」に加えて支払われているかを判断するためには,「通常の労働時間の賃金」が,時間外労働時間に応じて変動するものであってはならない。ところが,本件賃金規則では,歩合給ではその計算過程で,時間外労働の時間に対応して減額される割増金控除部分を含んでいるため,「通常の労働時間の賃金」と評価することができず,「通常の労働時間の賃金」としての実質があるとはいえないから,「通常の労働時間の賃金に当たる部分」を判別することができない。 以上からすれば,本件賃金規則をその規定のまま形式通りに解する限り,「通常の労働時間の賃金」の実質を有する賃金と,「同条の定める割増賃金」の実質を有する賃金に当たる部分とに判別することができない(ただし,割増金と交通費の合計額が対象額Aを上回る場合であっても,歩合給がマイナスにはならなければ,この場合の賃金総額は,割増金と交通費の合計額から対象額Aを差し引いた金額の限度で,形式上の割増賃金が残ることになるので,割増賃金の一部の支払として判別することができる。)。 したがって,本件賃金規則では,「通常の労働時間の賃金に当たる部分」と「同条に定める割増賃金に当たる部分」を判別することができないので,法37条1項に定める割増賃金が支払われたということができない。 金額適格性について本件賃金規則では,明確区分性を欠いており,法37条1項に定める割増賃金の支 部分」を判別することができないので,法37条1項に定める割増賃金が支払われたということができない。 金額適格性について本件賃金規則では,明確区分性を欠いており,法37条1項に定める割増賃金の支払が認められない以上,割増賃金として支払われた金額が法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを判断することができない。 イ遅延損害金の利率(賃確法6条1項の適否)について一審被告が割増金の支払を実質的に免れて,法37条に違反していることは明らかであり,恣意的な法解釈に基づく残業代の不払であるから,一審原告eらに対する遅延損害金には,賃確法6条1項に基づいて,年14. 6%の割合による利率を適用すべきであって,賃確法施行規則6条4号の「合理的な理由により」争っている場合には該当しない。 ウ法114条所定の付加金について本件規定は,法37条に違反しており,一審被告による割増金の未払は多額であり,一審原告らが再三にわたって支払を求めているにもかかわらず,一審被告は,一切支払おうとしないばかりか,かえって,一審原告らの加入する労働組合を潰そうと不当労働行為に及んでいる。このように一審被告の上記不払は悪質であるから,付加金全額の支払を命ずるべきである。 ⑵一審被告の主張ア本件規定の効力について明確区分性について本件賃金規則による賃金の定めでは,通常の労働時間に当たる部分と法37条の定める割増賃金に当たる部分とは明確に判別することができる。すなわち,本件賃金規則においては,乗務員の賃金は,基本給+服務手当+交通費+割増金+歩合給で構成されるが,このうちの基本給(乗務しない場合は服務手当)及び歩合給が通常の労働時間に当たる部分であり,割増賃金に当たる部分は,本件賃金規則における割増金の部分である。このように 割増金+歩合給で構成されるが,このうちの基本給(乗務しない場合は服務手当)及び歩合給が通常の労働時間に当たる部分であり,割増賃金に当たる部分は,本件賃金規則における割増金の部分である。このように上記の各部分が明確に区分されているから,法定の割増賃金を計算することは可能である。 金額適格性について本件賃金規則においては,法定の割増賃金を上回る割増金を支払うこ とになっている。すなわち,労働基準法施行規則(以下「規則」という。)19条1項6号は,法37条1項の「通常の労働時間又は通常の労働日の賃金」につき,本件のように固定給+出来高払制の出来高払の部分については,「その賃金算定期間において出来高払制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における,総労働時間で除した金額」と定めているが,本件における残業手当の部分を見ると,その計算式は,「対象額A÷総労働時間×0.25×残業労働時間」となっているところ,上記規則の定めによれば,本来,総労働時間で除する額は,「賃金算定期間において出来高払制によって計算された賃金の総額」であるから,本件賃金規則では「歩合給⑴」がこれに当たる。ところが,本件賃金規則では,割増金等を控除する前段階での「対象額A」を総労働時間で乗した額を基準額としているのであるから,常に乗務員に支払われる残業手当等は上記規則の規定より算出される法定の割増賃金の額より多いことになる。 なお,一審被告は,一審原告らに対して,上記のとおり,法定の額を上回る割増金を支払っているため,法内時間外労働や法定外休日労働の当たる部分とそれ以外の部分とを区別する必要はない(一審被告においては,1年単位の変形労働時間制を採用しており,変形期間を52週とすると,法定労働時間の総枠は2080時間[40時間×52週=2080時間]となるが 以外の部分とを区別する必要はない(一審被告においては,1年単位の変形労働時間制を採用しており,変形期間を52週とすると,法定労働時間の総枠は2080時間[40時間×52週=2080時間]となるが,1年の総所定労働時間は2077時間である。そして,同時間を超える労働時間につき割増金を支払っているところ,2080時間との差の3時間は法内時間外労働となり,法37条に定める割増賃金の支払義務がないものの,この部分は主張しない。)。 法37条の趣旨との適合性法37条の趣旨は,使用者に割増賃金の支払という負担を強制することで,労働者の時間外等の労働を抑制するとともに,時間外労働等をし た労働者への補償を行うことにある。ところで,乗務員は,使用者の指揮・監督から離れ,自らの才覚で営業を行うという自立性,独立性,現場即応性の高い業務を行っており,個人の力量で運賃を稼ぎ,これが自らの収入に反映されるものであるから,収入増加のために必然的に過剰労働に陥りやすい。そこで,会社としては,過剰労働を防ぎ,乗務員の健康・安全に配慮する必要があるため,歩合給計算の方式として,算出基礎となる揚高から割増金相当額を控除する賃金体系にして,無駄な非効率の時間外労働を防止し,効率的な営業を賃金面で奨励しているのであって,割増金の支払を免れるという不当な目的はない。 タクシー会社においては,上限運賃をタクシー事業の経営に必要な営業費(人件費,燃料費,車両修繕費,車両償却費等)に適正な利潤を加えた総括原価を求め,総収入がこれと等しくなるように運賃水準を決定する総括原価方式を採用する一方,乗務員については,その労働条件の改善を図るため,厚生労働省告示によって「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が定められるなど,時間外労働及び休日労働に厳格な限度が設定され,走 用する一方,乗務員については,その労働条件の改善を図るため,厚生労働省告示によって「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が定められるなど,時間外労働及び休日労働に厳格な限度が設定され,走行距離にも最高限度が定められている。このようにタクシー事業では,運賃が自由に決められず,労働時間にも厳格な定めがあるため,会社の売上(乗務員の揚高)には限度があり,このような中でどのような賃金規定を設けるかは,いわば,労使間及び労働者間で,得られた売上をいかに公平に分配するかの問題として,法による制限が及ぶものを除けば,契約自由の原則及び労使自治の原則が妥当するものである。そして,本件賃金規則は,一審被告所属の乗務員の95%が所属する国際労働組合(以下「国際労組」という。)の強い要望を受け入れたものであり,大小30回にわたる労使協議が行われ,国際労組内部でも十分に議論した結果,賃金協定の締結に至ったものであって,その内容として乗務員に不当な不利益を与えるものではなく,手続的に も乗務員の利益が確保されている。 したがって,本件規定が法37条に違反し,あるいはその趣旨を潜脱するということはない。 一部無効の不当性本件規定に問題があるとしても,割増金相当額の控除部分のみを無効として,残部のみで歩合給を計算することは不合理である。本件規定における歩合給の算出は,割増金相当額の控除がなされることを前提として歩率を高く設定しているのであるから,歩率の値を変えずに割増金相当額を控除する部分のみを無効とすることは,本件規定を設けた経緯からして,当事者意思に著しく反する結果を招き,また,当事者間の公平を害することにもなって不当である。 仮に,本件規定における割増金相当額の控除部分が法に違反して無効とするならば,その控除に代わるべき代替控除費目を設定す 著しく反する結果を招き,また,当事者間の公平を害することにもなって不当である。 仮に,本件規定における割増金相当額の控除部分が法に違反して無効とするならば,その控除に代わるべき代替控除費目を設定する合理的な補充解釈を行うべきであり,全乗務員の割増金の総額を全乗務員の延べ乗務数で除した金額(定額控除方式)が最も合理的な補充解釈である。 そして,補充解釈を認めないのであれば,本件規定自体を全部無効とすべきである。 イ遅延損害金の利率(賃確法6条1項の適否)について一審原告e,同m及び同nに対する遅延損害金については,前記のとおり,労使間で十分に議論した本件賃金規則の合理性が問題となっており,合理的な理由によって争訟しているので,賃確法6条1項を適用すべきでない。 ウ法114条所定の付加金について本件では法37条違反は問題とならないので,付加金が生ずることはない。 仮に,同条の問題になるとしても,前記のような労働組合との交渉状況や本件賃金規則に割増金の計算式を明示していたといった事情に鑑みれば,一審被告が不当に割増金の支払を免れようとしたことはないから,付加金の支払 を命ずるのは相当ではない。 争点 ⑴本件規定の効力ア本件規定の法37条違反の有無イ本件賃金規則の明確区分性の有無ウ割増金の金額適格性の有無(法37条所定の割増賃金との比較)⑵賃確法6条1項の適否(一審原告eらの関係)⑶法114条所定の付加金を課することの可否及びその相当性第3当裁判所の判断当裁判所は,一審の判断とは異なり,歩合給⑴の算定に当たり割増金を控除する旨を定めた本件規定が,法37条に違反することはなく,本件賃金規則における賃金の定めが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができ,割増賃金として支払 する旨を定めた本件規定が,法37条に違反することはなく,本件賃金規則における賃金の定めが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができ,割増賃金として支払われる金額が,法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回ることはないから,一審原告らに対する未払の割増金(主位的請求の部分)又は歩合給(予備的請求の部分)は存せず,賃確法6条1項を適用する前提を欠き,また,付加金の支払を命ずる前提も欠いているので,一審原告らの請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。 本件規定の法37条違反の主張について⑴公序良俗違反の主張について前提となる事実⑵によれば,本件賃金規則においては,時間外手当としての割増金(深夜手当,残業手当,公出手当)と歩合給⑴を算出するに当たっては,まず,所定の計算式によって対象額Aを算出した上,これを基礎額として,割増金及び歩合給⑴を算出する定めとなっている。そして,歩合給⑴については,対象額Aから割増金及び交通費を控除するものとされているが,法37条は,労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるか について特に規定していないことに鑑みると,労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合,当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効と解することができないことは,本件上告審判決で判示されたとおりである。 したがって,本件規定は,法37条の趣旨に反するものではなく,公序良俗に反して無効ではないというべきである。 ⑵合理性を欠くことから法37条に違反するとの主張についてア一審原告らは,本件規定が法37条 って,本件規定は,法37条の趣旨に反するものではなく,公序良俗に反して無効ではないというべきである。 ⑵合理性を欠くことから法37条に違反するとの主張についてア一審原告らは,本件規定が法37条の趣旨に反するものではないとしても,歩合給算定の際に割増金を控除することによって,実質的に割増金の支払を免れることになるから,もともと係る定めは合理性を欠くものであって,法37条自体に違反し,これを潜脱するものであると主張する。 しかしながら,本件規定においては,所定の計算式によって,割増金(深夜手当,残業手当,公出手当)を算出することが明確に定められており,乗務員が時間外,深夜及び休日労働に従事した場合には,一審被告が各乗務員に対して,これらの割増金を加算した賃金を(名目的,形式的との主張を伴ってはいるが)支給していること自体は当事者間に争いがない。そして,歩合給⑴の算定に当たり,売上高等の一定割合に相当する金額から割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨の定めが,法37条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効と解することはできないことは前記のとおりである。 そもそも法37条では,労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるか特に規定していないことに照らせば,労働契約の内容となる賃金体系の設計は,法令による規制及び公序良俗に反することがない限り,私的自治の原則に従い,当事者の意思によって決定することができるものであり,基本的に労使の自治に委ねられている事柄というべきであっ て,通常の労働時間の賃金としての歩合給の定め方を指定し,あるいは規制した法令等は特に見当たらない。そして,歩合給は,成果主義に基づく賃金であるから,労働の成果に応じて金額が変動することを内容としており,労働の成果が同じである場 歩合給の定め方を指定し,あるいは規制した法令等は特に見当たらない。そして,歩合給は,成果主義に基づく賃金であるから,労働の成果に応じて金額が変動することを内容としており,労働の成果が同じである場合,労働効率性を評価に取り入れて,労働時間の長短によって歩合給の金額に差が生ずるようにその算定過程で調整を図ることは不合理なことではなく,本件規定において,歩合給⑴の算定に当たって割増金相当額を控除する方法は,労働時間に応じた労働効率性を歩合給の金額に反映させるための仕組みとして,合理性を是認することができるというべきである。 そこで,歩合給⑴の算定過程で,割増金相当額を控除したことをもって,実際に支給される割増金の経済的効果がいわば減殺されると見られるものとしても,実質的に割増金の支払がなされていないとは直ちに評価することはできない(なお,歩合給⑴の算定に当たり,対象額Aが割増金等の控除額を下回り,そのマイナス分を他の賃金支給分から控除するとなると,その分実質的な支払がないと評価し得ることとなるが,一審被告では,このような場合,歩合給⑴の支給額を零円とするに止め,更に他から控除はしない取扱いにしていることは当事者間に争いがないので,この点は上記判断に影響しない。)。 したがって,一審原告らの上記主張は採用することができない。 イ一審原告らは,本件規定によって,一審被告が割増金の支払を免れる意図を有していたことが明らかであり,タクシー業務の実態としても,会社が営業成績を上げようと,乗務員に深夜労働や長時間労働を強いて常態化していた状況にあり,乗務員の業務管理の方法として賃金制度を利用せずとも,他に様々な方法があるなどと主張する。 しかしながら,証拠(乙4,5,証人o,同p)及び弁論の全趣旨によれば,本件規定による歩合給⑴の算定方法が採用され の業務管理の方法として賃金制度を利用せずとも,他に様々な方法があるなどと主張する。 しかしながら,証拠(乙4,5,証人o,同p)及び弁論の全趣旨によれば,本件規定による歩合給⑴の算定方法が採用された事情は以下のとお りであることが認められる。すなわち,タクシー業務は,単独で業務車両を運行して営業活動を自由に行うという業務の形態から,乗務員は,会社組織に属しながらも業務遂行の点で自主性,独立性が高く,日常の営業活動においては,いわゆる個人タクシーと同じように,実質的に個人事業主と変わらない特質を有する上,賃金制度での歩合給制の採用によって,売上を伸ばして増収を図るために,所定労働時間を超えて長時間労働に陥りやすい労働の実態があることから,過剰な長時間労働を抑止することで,乗務員の健康や業務の安全管理を図る必要があること,また,24時間営業のために,乗務体制としてシフト制を採用していることから,深夜労働が多い時間帯とそうでない日中の時間帯に乗務員を振り分ける必要があり,乗務員の事情によっては,深夜勤務や時間外労働ができない者もあるため,会社に所属する乗務員全体としての賃金体系での公平性を確保する必要があること,さらに,会社の立場からは,営業用車両の確保・維持や諸施設の維持管理などの,営業体制を整備するのに相応の各種経費を要するものであり,これらの経費を考慮した上で,法的規制の下で限られた範囲の収入の中で適正利潤を確保しなければならないこと,といった事情が認められる。他方において,証拠(甲5,一審原告a本人)によっても,タクシー事業全般において,一審原告らが主張するような業務の実態があるとは直ちに認められず,一審原告らが指摘するGPSやタコメーター等の走行記録を利用した業務管理の方法は,全乗務員に対して日常的かつ網羅的に実施するに いて,一審原告らが主張するような業務の実態があるとは直ちに認められず,一審原告らが指摘するGPSやタコメーター等の走行記録を利用した業務管理の方法は,全乗務員に対して日常的かつ網羅的に実施するには,多大な労力とコストを伴うもので,経営面からは現実的な手法であるとは言い難いし,賃金面から乗務員に対して労働効率化の働き掛けを行おうとする施策を否定する理由とはならない。 そうすると,本件規定による歩合給⑴の算定方法は,前記認定のとおり,揚高の一定割合を基礎として割増金相当額を控除費目として合理的な利潤を確保するとともに,賃金面において,乗務員に対して労働効率化への動 機付けを行うことで,非効率的な時間外労働を抑止し,効率的な営業活動を奨励しようとするもので,業務の実態に即した賃金制度として合理性を認めることができるというべきであって,一審被告が割増金の支払を免れる意図を有して設けたものとは認められない。 ウさらに,本件賃金規則については,一審被告の労働組合である国際労組との間で,労使協議を重ねた結果,協定の締結に至ったものであるが,一審原告らは,国際労組は会社寄りの立場を採っているため,合理性を裏付ける事情とはなり得ないなどと主張する。 しかしながら,証拠(乙4,証人o)によれば,国際労組は,一審被告に所属する乗務員の約95%が加入する労働組合であるところ,国際労組の内部でも様々な賃金体系の在り方を検討した末に,最終的に,本件賃金規則による賃金の定めが最も労働者に有利であると判断したこと,これを検討するに当たっては,組合員全員が参加する各支部会ごとに討議を行い,意見を集約した上で,中央委員会で討議し,最終的に合同執行会議において全会一致で中央委員会に提案し同委員会でも全員一致で採決したという意思決定の過程を経ていること,現状において 会ごとに討議を行い,意見を集約した上で,中央委員会で討議し,最終的に合同執行会議において全会一致で中央委員会に提案し同委員会でも全員一致で採決したという意思決定の過程を経ていること,現状において,本件賃金規則は,会社が適正な利潤を確保しながら様々な働き方がある中で,労働分配という観点から見て乗務員により最も有利であるとし,国内のタクシー会社の中でトップクラスの賃金が維持されていると評価していることが認められる。このような事情に照らせば,本件賃金規則は,一審被告に所属する大多数の乗務員の意向を踏まえたものとして労働組合の承認を得たものであって,労働者の立場から見ても,合理性が確保された内容であるということができる。 以上,検討してきたとおり,歩合給⑴の算定に当たり割増金を控除する旨を定めた本件規定は,タクシー業務の実態に即して,賃金面から乗務員に労働効率化の動機付けを与えて,非効率的な時間外労働を抑止し,効率 的な営業活動を奨励するため,労使間の協議の末に協定成立に至っているものであるから,協定締結の事実も合理性を裏付ける事情と認められる。 したがって,一審原告らの上記主張は採用することができない。 本件規定の明確区分性について⑴使用者が,労働者に対し,時間外労働等の対価として法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するに当たっては,まず,労働契約における賃金の定めについて,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるかを判断する必要がある(最高裁平成3年(オ)第63号平成6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁,最高裁平成21年(受)第1186号平成24年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁参照)。 前提となる事実⑵ オ)第63号平成6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁,最高裁平成21年(受)第1186号平成24年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁参照)。 前提となる事実⑵によれば,本件賃金規則では,乗務員に支給される賃金は,基本給,(乗務しなかった場合の)服務手当,交通費,歩合給及び割増金によって構成され,このうちの割増金は,深夜手当,残業手当及び公出手当(法定外休日労働分及び法定休日労働分)をその内容とし,歩合給は,毎月の揚高を基礎として算出される成果主義的な報酬である歩合給⑴と,賞与の廃止に伴い,これに替わるものとして定められた歩合給⑵があり,これらの計算方法は,本件賃金規則で定める前掲の計算式が示すとおりである。そして,以上の賃金のうちで,基本給,服務手当及び歩合給の部分が,通常の労働時間の賃金に当たる部分となり,割増金を構成する深夜手当,残業手当及び公出手当が,法37条の定める割増賃金に当たる部分(ただし,残業手当の対象となる法内時間外労働の部分と,公出手当の対象となる法定外休日労働の部分は,法37条の定める割増賃金には当たらない。)に該当することになる。 したがって,本件賃金規則においては,通常の労働時間の賃金に当たる部 分と法37条の定める割増賃金に当たる部分とが明確に区分されて定められているということができる。 ⑵この点,一審原告らは,①割増賃金が通常の労働時間の賃金に加えて支払われているかを判断するためには,通常の労働時間の賃金が,時間外労働時間に応じて変動するものであってはならないから,時間外労働時間に応じて増減が生ずる歩合給⑴は,通常の労働時間の賃金に当たると評価することができず,通常の労働時間の賃金に当たる部分を判別することができない,②本件賃金規則では,名目的に割増金の支払がな 労働時間に応じて増減が生ずる歩合給⑴は,通常の労働時間の賃金に当たると評価することができず,通常の労働時間の賃金に当たる部分を判別することができない,②本件賃金規則では,名目的に割増金の支払がなされているが,歩合給⑴の計算過程でこれと同一額が控除されているので,実質的に時間外労働の対価が支払われているとはいえないから,割増金が法37条の定める割増賃金に当たる部分ということはできず,その他に同条の定める割増賃金に当たる部分が存在しないとして,明確区分性を欠くと主張する。 まず,上記①の点については,歩合給は,労働の成果である売上高に応じた一定割合の金額を報酬とする賃金であるが,労働の成果のみならず,労働効率性を評価に取り入れて,成果の獲得に要した労働時間によって金額が変動するものとしても,成果主義的な報酬として,通常の労働時間の賃金であるという本質を失わない。このように通常の労働時間の賃金としての歩合給⑴の算定に当たり,時間外労働時間の長さを考慮に含めることが公序良俗に反しないことは前記のとおりであるし,また,これを制限する法令等の根拠も見当たらないため,これを通常の労働時間の賃金の計算方法とすることが許されないとする根拠はなく,その労働時価の長さを考慮するための方法として割増金の控除を定めたとしても,上記のとおり通常の労働時間の賃金であることの性格を失わず,法37条の定める明確区分性には反しない。 上記②の点については,一審被告においては,本件賃金規則に従って,割増金を加算した賃金を各乗務員に支給していることは前記のとおりであり,歩合給⑴の算定過程で,割増金相当額を控除する方式を採用しても,それは 飽くまで歩合給⑴を算定する際の労働効率性の観点からの評価要素の性質を有するもので,係る定めが法37条に違反せず,実質的に時間外労働へ 算定過程で,割増金相当額を控除する方式を採用しても,それは 飽くまで歩合給⑴を算定する際の労働効率性の観点からの評価要素の性質を有するもので,係る定めが法37条に違反せず,実質的に時間外労働への対価が支払われていないと直ちに評価することはできないことは既に前記1で説示したとおりであるから,本件賃金規則で定める割増金は,その内容からして,法37条に定める割増賃金に該当するというべきである。 したがって,一審原告らの上記主張はいずれも採用することができない。 割増金の金額適格性について⑴そこで,本件賃金規則において,割増賃金として支払われた金額(割増金)が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否か(前記2⑴の最高裁判決参照)を検討する。 法37条1項に定める通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額について,規則19条1項6号は,出来高払制その他請負制によって定められた賃金については,その賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における,総労働時間数で徐した金額とする旨を定めている(また,法37条1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令は,時間外労働につき2割5分,休日労働につき3割5分と定める。)。そして,本件賃金規則において,上記の「賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額」に該当するのは,歩合給⑴となる。他方で,本件賃金規則では,割増賃金を構成する残業手当,深夜手当及び公出手当について,その歩合給に相当する部分の算定方法としては,対象額A(歩合給⑴の算定過程で控除される割増金の控除前の金額)を総労働時間で除し,これに0.25(残業手当, る残業手当,深夜手当及び公出手当について,その歩合給に相当する部分の算定方法としては,対象額A(歩合給⑴の算定過程で控除される割増金の控除前の金額)を総労働時間で除し,これに0.25(残業手当,深夜手当及び公出手当のうち法定外休日労働分)又は0.35(公出手当のうち法定休日労働分)を乗じた金額に該当する労働時間を乗ずる旨を定めている。そうすると,本件賃金規則では,割増賃金として支払われる金 額は,賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額(歩合給⑴)ではなく,割増金を控除する前の対象額Aを計算の基礎とするから,それを控除した後の歩合給⑴に相当する部分の金額を基礎として算定する法37条等に定められた割増賃金の額を常に下回ることがないということができる。 したがって,本件賃金規則においては,割増金の支払については,法37条の定める支給要件を満たしているというべきであって,一審被告の一審原告らに対する未払の割増金又は歩合給があるとは認められない。 ⑵この点,一審原告らは,歩合給⑴が「賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額」に該当することを争い,その提出に係る有識者作成の意見書(甲14)では,本件賃金規則における歩合給部分の割増賃金については,対象額Aを算定の基礎額とすべきであり,対象額Aから割増金を控除した残額を歩合給として定めることは,法37条のみならず,法24条にも違反する旨の見解が示されている。 しかしながら,歩合給⑴の計算過程で割増金を控除することが,法37条に違反せず,一審被告が乗務員に対して割増金を加算した賃金を支給していることは前記のとおりであるから,法24条に違反していないというべきである。そして,本件賃金規則の内容に照らしても,対象額Aは揚高をベースに 一審被告が乗務員に対して割増金を加算した賃金を支給していることは前記のとおりであるから,法24条に違反していないというべきである。そして,本件賃金規則の内容に照らしても,対象額Aは揚高をベースにしているが,各種手当や歩合給算定のための基礎数値に止まり,当然に労働者がその金額を取得できる性質のものとは認められないし,労働の成果に連動する歩合給を算定するに当たり,その労働の成果を評価する方法として,労働効率化の動機付けを与えるため割増金を控除する算定方法を労使間で協定することが許されることは既に説示したとおりである(上記意見書は,揚高から経費に相当する部分を控除する算出方法を採用することは不合理ではないとしつつ,歩合給の算定に当たり残業手当を経費として控除することは,本来使用者が負担すべき割増賃金という法上の責任コストを労働者に転嫁す るもので妥当ではないとしているが,そのような算定方法を採用することが効率的な営業活動を奨励するための賃金制度として合理性の認められることは既に判示したとおりである。)。そうすると,本件賃金規則における定めにより,歩合給⑴が,「賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額」に当たると解するのが相当である。 したがって,一審原告らの上記主張は採用することができない。 賃確法6条1項の適否について一審原告eらは,賃確法6条1項に基づき,未払の割増金又は歩合給について,それぞれの退職した日の翌日から支払済みまで年14.6%の割合による遅延損害金の支払を求めている。 しかしながら,既に検討してきたように,一審原告eらに対して,割増金又は歩合給の全部又は一部について未払があることを認めるに足りる証拠はないから,賃確法6条1項を適用する前提を欠くというべきである。 したがって,一審原告 してきたように,一審原告eらに対して,割増金又は歩合給の全部又は一部について未払があることを認めるに足りる証拠はないから,賃確法6条1項を適用する前提を欠くというべきである。 したがって,一審原告eらの上記主張は採用することができない。 法114条所定の付加金を課することの可否及びその相当性について一審原告らは,本件規定が法37条に違反しており,割増金又は歩合給の未払は多額であって,上記不払は悪質であるから,一審被告に対して,付加金の支払を命ずるべきであると主張する。 しかしながら,既に検討してきたとおり,一審被告において,一審原告らに対し,割増金又は歩合給の全部又は一部について未払があることを認めるに足りる証拠はなく,その他に法37条に違反する事実を認めることができないから,法114条を適用する前提を欠くというべきである。 したがって,一審原告らの上記主張を採用することができない。 よって,一審原告らの請求はいずれも理由がないから全部棄却すべきところ,一審判決中これを認容した部分は失当であって,一審被告の本件控訴は理由があるから,一審判決中一審被告の敗訴部分を取り消し,係る部分について,一 審原告らの請求をいずれも棄却し,一審原告らの本件各控訴は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第19民事部裁判長裁判官都築政則裁判官石垣陽介裁判官野本淑子

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