令和5(ワ)16818 宗教ヘイト等損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年7月1日 東京地方裁判所
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判決文本文7,211 文字)

令和6年7月1日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(ワ)第16818号宗教ヘイト等損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和5年4月22日判決 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、原告に対し、連帯して、3300万円及びこれに対する令和5年6月15日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 被告Gは、原告に対し、330万円及びこれに対する令和5年6月15日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、権利能力なき社団であるとする原告が、弁護士である被告A、被告B、被告C、被告D、被告E及び被告Fが、「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(以下「本件連絡会」という。)の名称で発出した声明(以下「本件声明」という)及び本件声明発出後の記者会見中にされた被告Gの発言が原告の名誉を毀損するものであると主張して、不法行為に基づき、被告らに対し、連帯して 3300万円(慰謝料3000万円、弁護士費用300万円)及びこれに対する不法行為日である令和5年6月15日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告Gに対し、330万円(慰謝料300万円、弁護士費用30万円)及びこれに対する不法行為日である同日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実 以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。 ⑴ 当事者ア原告は、平成4年4月に設立された国連NGOであるWomen’s 以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。 ⑴ 当事者ア原告は、平成4年4月に設立された国連NGOであるWomen’sFederationforWorldPeaceInter nationalの日本支部として、同年9月に設立された団体である(甲5)。原告は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会。以下「本件教団」という。)と創設者を同じくする団体である。 イ被告らは、いずれも、本件教団による被害の救済を掲げて発足した本件連絡会の代表世話人、事務局長等の立場にある弁護士である。 ⑵ 本件声明本件連絡会は、令和5年6月15日、同連絡会名義で、全国の各自治体を名宛人として、別紙のとおり下記アからウの表現を含む「世界平和女性連合の女子留学生日本語弁論大会について」と題する本件声明を発出した。本件声明には、被告A、被告B、被告C、被告D及び被告Eが代表世話人として、 被告Fが事務局長として記載されている(甲3)。 ア 「旧統一教会のダミー団体である世界平和女性連合は、本年6月10日から7月29日にかけ、「2023年WFWP留学生日本語弁論大会」なるイベントを全国各地で相次いで開催予定としているところ、同イベントに会場の使用許可をしないようにして頂きたい。」(以下「表現1」と いう。)イ 「世界平和女性連合は、上記のような被害者を獲得するための旧統一教会の「かくれみの」的団体の一つである。」、「多数の女性が、その正体が旧統一教会であることを隠されたままで、世界平和女性連合に誘われ、その活動に従事させられている。世界平和女性連合は、ボランティア組織を 仮装した旧統一教会の資金集め、人集めのための団体な 体が旧統一教会であることを隠されたままで、世界平和女性連合に誘われ、その活動に従事させられている。世界平和女性連合は、ボランティア組織を 仮装した旧統一教会の資金集め、人集めのための団体なのである。」(以下 「表現2」という。)ウ 「世界平和女性連合の派遣員が運営していたモザンビークの学校において、旧統一教会の布教を強く意識した学校活動が実施されていたとして外務大臣表彰が取り消されている」、「奈良県において世界平和女性連合が手芸サークルの活動であると称して布教活動を行い」、「世界平和女性連合が 現在でも正体隠しの活動をしていることが明らかとなっている。」(以下「表現3」という。)⑶ 被告Gの発言被告Gは、本件声明発出後に本件連絡会が開いた記者会見において、本件声明を紹介するとともに、「自治体が(会場を)貸すのと、民間が貸すのと では明らかに次元が異なる。政教分離の観点からも問題がある。貸すこと自体が憲法違反だ。」(以下「表現4」という。)と発言した。 2 争点及び争点に関する当事者の主張⑴ 争点⑴(原告の当事者能力の有無)(原告の主張) 原告は、権利能力なき社団といえるから、当事者能力を有する。 すなわち、原告は、東京に事務所を置き、全国の連合会を会員とし、本部と連合会を基本組織とするなど、団体としての組織を備えており、総会等で多数決の原則が行われている。また、原告は、連合会の会員や会長の変更にもかかわらず団体として存続しているほか、組織によって代表の人選方 法・役割、総会の運営、財産の管理、その他団体としての主要な点が確定している。したがって、原告は、権利能力なき社団であるといえる。 (被告らの主張)原告は、権利能力なき社団とは 法・役割、総会の運営、財産の管理、その他団体としての主要な点が確定している。したがって、原告は、権利能力なき社団であるといえる。 (被告らの主張)原告は、権利能力なき社団とはいえないから、当事者能力を有しない。 すなわち、原告の代表者がどのように役員及び代表者に選任されたか証拠 上明らかでなく、原告において多数決の原理も行われていないから、権利能 力なき社団とはいえない。本件訴えは却下されるべきである。 ⑵ 争点⑵(表現1~4の名誉毀損該当性)ア表現1~4による原告の社会的評価の低下の有無について(原告の主張)一般人の通常の注意と読み方を基準にすれば、表現1~3は、原告が本 件教団の「ダミー団体」ないし「かくれみの」的団体として発足し、本件教団と一体となって違法行為を行っており、現在も正体隠しの布教活動を行っていると受け止められるものであるから、原告の社会的評価を低下させるものである。 また、表現4は、原告が主催する弁論大会が「宗教活動」であることを 前提とするものであり、政教分離原則の憲法解釈を誤ったもので、原告の社会的評価を低下させるものである。 (被告らの主張)表現1~3は、原告を批判の対象とするものではなく、本件教団による正体を隠した伝道を批判の対象とするものであるから、原告の社会的評 価を低下させるものではない。 また、表現4は、自治体による会場貸出しの行為が政教分離違反になるものとして、自治体の対応を批判するものであり、原告の社会的評価を低下させるものではない。 イ表現1~4についての真実性、相当性の抗弁の成否について (被告らの主張)(ア)表現1~4は、本件教団に ものであり、原告の社会的評価を低下させるものではない。 イ表現1~4についての真実性、相当性の抗弁の成否について (被告らの主張)(ア)表現1~4は、本件教団による正体隠しの勧誘に公共の施設が利用されているという公共の利害に関する事実について、全国の自治体に対し、原告に公共の施設を利用させることの問題について警鐘を鳴らし、公益を図ることを目的としたものである。 (イ)本件教団の活動をまとめた文書において、原告の活動が紹介されてい ること、本件教団と原告が実質的に別個の団体であるといえるか疑問があるとした裁判例があること、原告のモザンビークにおける学校運営に関する活動について、外務大臣が「本件教団の布教を強く意識した学校活動を実施していた」などと述べていることからすると、表現1~4の論評の前提となる原告が本件教団のダミー団体であるとの事実は、真実 であるか、被告らにおいて、真実であると信ずるにつき相当な理由があった。 (ウ)表現1~4は、論評としての域を逸脱していない。 (原告の主張)(ア)表現1~4の前提となる、原告が本件教団の支配下にある団体である という事実は、原告が本件教団から独立して公益活動を行っている自律的なボランティア団体であるという事実と矛盾し、真実ではなく、被告らにおいて、真実であると信ずるにつき相当の理由もなかった。 (イ)表現4は、宗教ヘイトを構成する宗教差別によって原告の尊厳を蹂躙し、政教分離の曲解解釈に基づく欺瞞的発言であり、論評としての域を 逸脱する。 ⑶ 争点⑶(原告の損害の有無及び額)(原告の主張)表現1~4によって原告の社会的評価が低下し、そのことによって原告に生じ 発言であり、論評としての域を 逸脱する。 ⑶ 争点⑶(原告の損害の有無及び額)(原告の主張)表現1~4によって原告の社会的評価が低下し、そのことによって原告に生じた損害は、表現1~3について3000万円、表現4について300万 円を下回ることはない。 (被告らの主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(原告の当事者能力の有無)について ⑴ 権利能力なき社団に該当するためには、団体としての組織を備え、多数決 の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していることを要するものと解される(最高裁昭和35年(オ)第1029号同39年10月15日第一小法廷判決・民集18巻8号1671頁参照)。 ⑵ これを本件についてみると、証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、全国の連合会を会員として本部と連合会を併せて基本組織を構成し(世界平和女性連合規約5条、9条)、役員の選任等の運営に関する重要事項の議決・承認を総会の出席者の過半数で行い(同規約17条、18条)、代表者として会長を1名置くとともに(同規約10条、11条)、資産 及び会計に関する定めを設け(同規約24~31条)、連合会の会員の変更にかかわらず団体として存続していることが認められる。 上記認定事実によれば、原告は、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が 確定していると認められるから、権利能力なき社団であると認められる。 員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が 確定していると認められるから、権利能力なき社団であると認められる。 したがって、原告は、当事者能力を有しているというべきである。 2 争点⑵(表現1~4の名誉毀損該当性)について⑴ 判断の枠組み表現行為によって他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、 一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。 また、表現行為によって他人の社会的評価が低下する場合でも、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為 が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることに あった場合に、上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときは、人身攻撃に及ぶなどの意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠くものであり、真実であることの証明がなくとも、行為者において上記事実を真実と信じるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されるもの と解される(最高裁昭和55年(オ)第1188号同62年4月24日第二小法廷判決・民集41巻3号490頁、最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁、最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。 ⑵ 表現4について表現4は、弁護士である被告Gが、自治体が原告に会場を貸すことが 頁、最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。 ⑵ 表現4について表現4は、弁護士である被告Gが、自治体が原告に会場を貸すことが、政教分離の点で問題があるとの法的意見を表明したものにとどまるのであって、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準としても、被告Gが自治体に対して政教分離の観点を意識した対応を求めたことを認識することができるにす ぎず、これによって原告の社会的評価を低下させるものとはいえない。 ⑶ 本件声明について本件声明は、本件教団による被害の救済を目的として発足した本件連絡会が、全国の各自治体に対して、原告が実施を計画していた「2023年WFWP留学生日本語弁論大会」について、会場の使用許可をしないことを求め る目的で発出されたものであり、その内容の全体をみれば、①本件教団が反社会的な活動を行う団体であることを記載し、②原告は本件教団の「別働隊」、「かくれみの」であるとして原告が本件教団と一体の存在であることを記載し、③自治体に対して、原告に施設を利用させることの問題点を指摘するという構成となっている。すなわち、本件声明の要点は、原告が本件教団 と一体の存在であることを強調する点にあるのであり、そのために、「ダミ ー団体」(表現1)、「かくれみの」(表現2)、「正体隠しの活動」(表現3)などの表現が用いられているものといえる。 ⑷ 表現1~3による社会的評価の低下の有無本件声明は、本件教団が、「一般市民に対し、印鑑、念珠(数珠)、石板、壺、多宝塔、釈迦塔、人参濃縮液などを先祖の因縁を解放するためなどと欺 罔し、畏怖・困惑させて、不当に高い価格で売り付けたり、多額の献金・貸付を強要したりする、いわゆ 印鑑、念珠(数珠)、石板、壺、多宝塔、釈迦塔、人参濃縮液などを先祖の因縁を解放するためなどと欺 罔し、畏怖・困惑させて、不当に高い価格で売り付けたり、多額の献金・貸付を強要したりする、いわゆる霊感商法や高額献金等」の反社会的活動を行う教団であることを記載しており、表現1~3は、上記記載を前提として、原告が本件教団と一体であることを記載するものであるから、原告が反社会的活動を行う団体と同視される存在であることを記載したものであり、一般 の読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば、原告の社会的評価を低下させるものといわざるを得ない。 ⑸ 表現1~3の違法性本件声明は、上記のとおり、本件教団による被害の救済を目的として発足した本件連絡会が発出したものであり、本件声明の全体をみれば、公共の利 害に関する事実に関連し、かつ、その目的が公益を図ることにあることを認めることができる。 上記のとおり、本件声明の要点は、原告が本件教団と一体の存在であるという点にあるといえるところ、原告と本件教団が創設者を同じくする団体であって、創設者において原告の会長を任命する権限があるとされていること、 また、創設者が原告の究極の権威を有する象徴であるとされていることは、いずれも原告が自認する事実である(令和5年10月23日付原告準備書面参照)。本件声明は、これらの原告も自認する事実を前提に、表現1~3のとおり、さまざまな表現を用いて本件教団と原告が一体の存在であることを強調し、これに基づいて自治体に対して原告に会場の使用許可をしないこと を求めるものであるから、本件声明においては、一定の事実を前提に、原告 が本件教団と同一視されるべき存在である旨の意見ないし論評が記載されているとみることができる。 そうすると を求めるものであるから、本件声明においては、一定の事実を前提に、原告 が本件教団と同一視されるべき存在である旨の意見ないし論評が記載されているとみることができる。 そうすると、本件声明の一部である表現1~3は、原告の社会的評価の低下を招く表現であるとしても、原告が自認する事実からもうかがわれる原告と本件教団との間の強い結びつきを前提に、原告と本件教団が同一視される べき存在である旨の意見ないし論評を記載したものといえるものであるところ、論評の前提となる事実のうち重要な部分については原告も自認するものであり、また、「ダミー団体」、「かくれみの」、「正体隠し」というやや穏当を欠く表現が使用されているとしても、意見ないし論評としての域を逸脱した表現とまでは認められないから、いずれについても、違法性を有する表現 であるとはいえない。 ⑹ まとめ以上のとおり、表現4については、原告の社会的評価を低下させる表現ではなく、表現1~3については、原告の社会的評価を低下させるものであっても違法性を有する表現とはいえないから、表現1~4のいずれについても 原告に対する名誉毀損は成立しない。 第4 結論以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第7部 裁判長裁判官新谷祐子 裁判官齊藤敦 裁判官永見里保 裁判官齊藤敦 裁判官永見里保

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