主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。 2 ただし,原判決主文第2項を次のとおり訂正する。 (1) 控訴人dは,被控訴人に対し,別紙物件目録記載の各土地の各8分の1の持分について,昭和22年7月2日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。 (2) 控訴人eは,被控訴人に対し,別紙物件目録記載の各土地の各8分の1の持分について,昭和22年7月2日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。 (3) 控訴人fは,被控訴人に対し,別紙物件目録記載の各土地の各8分の1の持分について,昭和22年7月2日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。 (4) 控訴人gは,被控訴人に対し,別紙物件目録記載の各土地の各6分の1の持分について,昭和22年7月2日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。 3 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中,控訴人ら敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人の予備的請求をいずれも棄却する。 3 別紙物件目録記載の各土地について,控訴人d,同e及び同fがそれぞれ持分8分の1,控訴人gが持分6分の1の各共有持分権を有することを確認する。 第2 当事者間に争いない事実と事案の概要 1 当事者間に争いない事実別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)については,(1) 昭和22年7月2日自作農創設特別措置法(以下「自創法」という。)16条の規定による売渡を原因として,同25年5月27日a(以下「a」という。死亡後のことをいうときは「亡a」という。以下同様。)あて所有権移転登記が,(2) a死亡の昭和23年2月6日相続を原因として,aから,被控訴人,控訴人d,同e及び同fに各持分 「a」という。死亡後のことをいうときは「亡a」という。以下同様。)あて所有権移転登記が,(2) a死亡の昭和23年2月6日相続を原因として,aから,被控訴人,控訴人d,同e及び同fに各持分8分の1,同gに持分6分の1,hに持分6分の2とする所有権移転登記がそれぞれ経由されている。 2 事案の概要本件は,(1) 被控訴人から,控訴人らに対し,本件土地は,ア主位的に,自創法による本件土地の買受人は,aではなく被控訴人であると主張して,真正な登記名義の回復を原因として,イ予備的に,昭和22年7月2日,同23年2月6日又は同23年4月26日時効取得したと主張し,これを原因として,物権的登記請求権に基づき,控訴人らの各持分について,所有権移転登記手続を求め,(2) 控訴人らは,ア被控訴人の請求を争い,イ逆に,被控訴人に対し,本件土地は亡aの遺産であるとして,控訴人らが各相続分に応じた1(2)のとおりの持分権を有することの確認を求める反訴を提起した事案である。 3(1) 原判決は,ア主位的請求を棄却し,イ予備的請求のうち,被控訴人の昭和23年4月26日時効取得を認め,本件土地の控訴人らの各持分について被控訴人へ所有権移転登記手続をするように命じ,ウ反訴請求を棄却したところ,(2) 控訴人らのみが控訴したので,(3) 当審では,予備的請求と反訴のみが審理の対象となる。 第3 前提となる基本的事実(争いがないか,末尾掲記の証拠により認める。人証はすべて原審分。) 1 当事者(1) aは,本件各当事者の祖父である。 (2) bは,aの長男であり,被控訴人,控訴人d,同e及び同fの父である。 (3) cは,bの妻であり,被控訴 はすべて原審分。) 1 当事者(1) aは,本件各当事者の祖父である。 (2) bは,aの長男であり,被控訴人,控訴人d,同e及び同fの父である。 (3) cは,bの妻であり,被控訴人,控訴人d,同e及び同fの母である。 (4) 控訴人gは,aの孫である。 (5) 上記各当事者の親族関係は,別紙親族関係一覧表記載のとおりである。 2 相続(1) aは,昭和15年5月14日隠居し,bが家督相続した。 (2) bは,昭和20年3月17日死亡し,被控訴人が家督相続した。 (3) aは,昭和23年2月6日死亡した。 (4) 亡aの相続人は,被控訴人,控訴人d,同e,同f,同g及びhの6名であり,その相続分は,hが6分の2,控訴人gが6分の1,その余の控訴人及び被控訴人が各8分の1である。 (5) したがって,aが昭和15年5月14日に隠居した時点で所有していた財産は,bを経て被控訴人が家督相続したが,aがその翌日以降に取得した財産は,hが6分の2,控訴人gが6分の1,その余の控訴人及び被控訴人が各8分の1の割合で相続した。 3 本件土地の従前の所有者本件土地は,従前,訴外Jが所有していた〔甲2〕。 4 本件土地の耕作状況(1) 本件土地は,従前,aがJから借り受けて小作した。 (2) a隠居後は,bが本件土地の小作人となり,これを耕作した。 (3) bは,昭和19年出征したので,昭和21年までは親族のIがbから転借して耕作した。 (4) 昭和22年からは,被控訴人がIら親族の援助を得ながら耕作した。 (5) 被控訴人が自立できるようになった後は,被控訴人は単独で本件土地を耕作した。 〔以上,甲2,14,被控訴人本人〕(6) なお,(3),(4)については,争いがあるので,この点に た。 (5) 被控訴人が自立できるようになった後は,被控訴人は単独で本件土地を耕作した。 〔以上,甲2,14,被控訴人本人〕(6) なお,(3),(4)については,争いがあるので,この点については後に項を改めて詳述する。 5 自創法による所有権移転等本件土地は,自創法に基づき,政府が買収した後,昭和22年7月2日,a名義で買い受けられ,同25年5月27日,同人名義に所有権移転登記が経由された〔甲1の1ないし5,甲2〕。 6 a名義への所有権移転登記後の本件土地の耕作状況等(1) 被控訴人は,a名義への所有権移転登記経由後も,本件土地を単独で耕作し続けた。控訴人らはこれに対して異議を述べなかった。 (2) 本件土地の固定資産税は,一貫して被控訴人が納めてきた。 〔以上,被控訴人本人〕 7 紛争の発生(1) 平成2年当時,本件土地の所有名義は亡aのままであった。 (2) 被控訴人は当時57歳であったが,60歳から農業年金を受給するべく農業委員会に相談に赴いたところ,同委員会から,60歳から農業年金の支給を受けるためには亡a名義の農地を被控訴人名義に変える必要がある旨指導を受けた。 (3) そこで,被控訴人は,平成4年1月,控訴人ら及びhを相手方として,本件土地について,遺産分割の調停を申し立てた。 (4) これにより,被控訴人らと控訴人ら間の本件紛争が明確化した。 〔以上,乙1の1・2,2,3,被控訴人本人,控訴人d本人〕 8 現在の登記名義その後,本件土地については,長崎地方法務局佐世保支局平成13年3月30日受付第6763号により,相続を原因として,被控訴人,控訴人d,同e及び同fが持分8分の1,同gが持分6分の1,hが持分6分の2とする所有権移転登記が経由されている。 第4 当事者の主張 3月30日受付第6763号により,相続を原因として,被控訴人,控訴人d,同e及び同fが持分8分の1,同gが持分6分の1,hが持分6分の2とする所有権移転登記が経由されている。 第4 当事者の主張 1 取得時効の成否(被控訴人の主張)(1) 起算点を昭和22年7月2日とする主張ア被控訴人の占有(ア) bは,昭和20年3月17日,死亡した。 (イ) 当時,aは70歳を超える高齢で,農業労働に従事することができなかった。 (ウ) そこで,被控訴人は,昭和21年12月,当時通っていた中学を中退して農業に専念することとし,以後本件土地を耕作してこれを占有した。 イ所有の意思(ア) 被控訴人は,昭和20年3月17日,亡bを家督相続し,A家の戸主となった。 (イ) 被控訴人は,昭和21年12月,中学を中退して農業に専念し,そのころ,実質的にも,A家の中心,代表となった。 (ウ) 本件土地の買受代金は,cと被控訴人が農業をして得た収入によりまかなわれた。 (エ) 自創法による買受名義人がaとなったのは,被控訴人が当時未成年であったからにすぎない。 (オ) よって,被控訴人は,本件土地の売渡処分のあった昭和22年7月2日,本件土地の実質的な買受人は被控訴人であると信じ,本件土地を所有する意思を生じた。 ウ時効期間の経過(ア) 被控訴人は,昭和22年7月2日当時,本件土地を占有していた。 (イ) 被控訴人は,昭和42年7月2日経過時,同土地を占有していた。 エ援用の意思表示被控訴人は,平成13年12月25日,本件原審第6回口頭弁論期日において,上記時効を援用する旨意思表示した。 (2) 起算点を昭和23年2月6日とする主 いた。 エ援用の意思表示被控訴人は,平成13年12月25日,本件原審第6回口頭弁論期日において,上記時効を援用する旨意思表示した。 (2) 起算点を昭和23年2月6日とする主張ア被控訴人の本件土地占有(1)ア記載のとおり,被控訴人は,昭和23年2月6日当時,本件土地を占有していた。 イ所有の意思(ア) aは,昭和23年2月6日死亡した。 (イ) 被控訴人は,上記に先だち,亡bを家督相続しており,当然のこととして,亡aの財産も家督相続すると信じた。 (ウ) よって,被控訴人は,昭和23年2月6日に亡aが死亡した時点で,本件土地を所有する意思を生じた。 ウ時効期間の経過被控訴人は,昭和43年2月6日経過時,本件土地を占有していた。 エ援用の意思表示被控訴人は,平成13年12月25日,本件原審第6回口頭弁論期日において,上記時効を援用する旨意思表示した。 (3) 起算点を昭和23年4月26日とする主張ア被控訴人の本件土地占有(1)ア記載のとおり,被控訴人は,昭和23年4月26日当時,本件土地を占有していた。 イ所有の意思(ア) cは,昭和23年4月26日,被控訴人の親権者として,亡b名義の8筆の土地につき被控訴人の家督相続を原因として,亡a名義の41筆の土地につき亡b及び被控訴人の各家督相続を原因として,いずれも被控訴人名義に所有権移転登記手続をした。 (イ) 被控訴人は,上記時点で本件土地も被控訴人が単独で相続したと信じた。 (ウ) よって,被控訴人は,他の土地について相続登記のすんだ昭和23年4月26日,本件土地を所有する意思を生じた。 ウ時効期間の経過被控 訴人が単独で相続したと信じた。 (ウ) よって,被控訴人は,他の土地について相続登記のすんだ昭和23年4月26日,本件土地を所有する意思を生じた。 ウ時効期間の経過被控訴人は,昭和43年4月26日経過時,本件土地を占有していた。 エ援用の意思表示被控訴人は,平成13年12月25日,本件原審第6回口頭弁論期日において,上記時効を援用する旨意思表示した。 (控訴人らの主張)(1) 独立した占有の有無ア b出征後,本件土地を主体として耕作したのはaとcである。被控訴人は,昭和22年7月2日当時は14歳,同23年2月6日当時は15歳,同23年4月26日当時も15歳の若年で,aとcが行う農業の補助的な手伝いをしていたにすぎない。 イしたがって,いずれの起算点当時も被控訴人は本件土地を独立して占有していない。 (2) 所有の意思ア起算点を昭和22年7月2日とする主張について(ア) 自創法は,「当該農地に就き耕作の業務を営む小作農」等に農地を売り渡す制度である。 (イ) 昭和22年7月2日当時,本件土地を耕作していたのはaであり,買い受け資格を有するのはaをおいてほかにない。 (ウ) よって,買受資格を有しない被控訴人が自創法により本件土地を取得したと信じる余地はない。 イ起算点を昭和23年2月6日とする主張について(ア) 家督相続の制度は,日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律の施行により,昭和22年5月3日停止され,同23年1月1日廃止された。 (イ) aが死亡したのは昭和23年2月6日であるから,亡aの相続には改正後の民法の相続の規定が適用される。 (ウ) したがって,仮に被控訴人がaの死亡により 年1月1日廃止された。 (イ) aが死亡したのは昭和23年2月6日であるから,亡aの相続には改正後の民法の相続の規定が適用される。 (ウ) したがって,仮に被控訴人がaの死亡により本件土地を家督相続したと誤解したとしても,その誤解は保護の対象とならず,その時点で所有の意思(単独所有の意思)を生じたとすることはできない。 ウ起算点を昭和23年4月26日とする主張について(ア) 本件土地は,改正後の民法により,本件各当事者とhが共同相続した。 (イ) したがって,昭和23年4月26日に本件土地以外の亡a名義及び亡b名義の土地について被控訴人単独名義への所有権移転登記が経由されたとしても,そのことは本件土地について被控訴人が単独所有の意思を生じる原因とはならない。 エ被控訴人が所有の意思を有していなかったことを示す間接事実(ア) 被控訴人は,本件訴え提起に先立ち,平成4年,本件土地について遺産分割の調停を申し立てた。これは,被控訴人においても,本件土地が亡aの遺産に属すると認識していたことを示している。 (イ) 被控訴人は,昭和46年ごろ,cが被控訴人と別居するにあたり,cに対し,本件土地で穫れる米から年間3俵を渡す旨約束した。他に農地があるにもかかわらず,あえて本件土地から穫れる米と特定したのは,本件土地が亡aの遺産であることを被控訴人が自認していたからである。 (上記間接事実についての反論)(1) 被控訴人が本件土地について遺産分割の調停を申し立てたのは,被控訴人名義に所有権移転登記を行うための便法としてであり,本件土地が亡aの遺産に属することを認めたものではない。 (2) 被控訴人は,cに対して年間3俵の米を渡す旨は約束したが,その際,交付する米を本件土地で収 権移転登記を行うための便法としてであり,本件土地が亡aの遺産に属することを認めたものではない。 (2) 被控訴人は,cに対して年間3俵の米を渡す旨は約束したが,その際,交付する米を本件土地で収穫されたものに特定したことはない。 2 時効援用権の喪失(控訴人の主張)(1) 被控訴人は,平成4年,控訴人らを相手方として,本件土地について遺産分割の調停を申し立てた。 (2) これは,取得時効完成後に,本件土地が亡aの遺産に属することを認めたものである。 (3) よって,被控訴人は,その時点で時効援用権を喪失した。 (被控訴人の主張)(1) 被控訴人は,本件土地につき,被控訴人名義に所有権移転登記を行うための便法として遺産分割の調停を申し立てた。 (2) したがって,被控訴人は,本件土地が亡aの遺産に属することを認めたものではなく,このことにより時効援用権を喪失することはない。 第5 当裁判所の判断 1 A家における農業経営の経緯(1)ア A家は,従前,多数の自作地,小作地を持ち,専業農家として生計を維持してきた。 イ本件土地はその一つとしてJから借り受けていた小作地である。 〔以上,甲2,4,8ないし15,被控訴人本人〕(2) A家では,その農地を,かつてはaが,同人が老齢となってからは,bが耕作した。 (3) bは,昭和19年2月ころ,出征を命じられた。 〔以上,甲14,被控訴人本人,控訴人d本人〕(4)ア aは,当時70歳を超える老齢で,単独で農業を行うに耐えなかった。 イ被控訴人は当時12歳で中学に通っており,やはり独立して農業に従事することはできなかった。 (5)アそこで,bは,出征に先立ち,自作地は小作に出し,小作地は地主の承諾を得て当分の間転貸することとした。 当時12歳で中学に通っており,やはり独立して農業に従事することはできなかった。 (5)アそこで,bは,出征に先立ち,自作地は小作に出し,小作地は地主の承諾を得て当分の間転貸することとした。 イ本件土地はIに転貸し,同人がこれを耕作することとなった。 (6)ア bは,昭和20年3月17日死亡した。 イ cとaは,終戦後も,しばらくは戦死の報が誤報ではないかと考え,bの帰りを待っていたが,そのうち戦死の場所が明らかとなり,その死亡が確定的なものであることを知った。 ウそこで,cとaらは,今後のA家の生活について協議をし,その結果,被控訴人は,昭和21年12月,中学校を辞め,農業に専念することとなった。 (7) 被控訴人は,中学校を辞めてもすぐには独力で農業をできなかったが,Iその他の親戚の協力を得ながら経験を重ね,次第にA家の中心として農業を行うようになった。 (8)アそして,逐次,他に委ねていた農地の返還を受けた。 イ本件土地については,昭和21年12月に返還を受け,Iの協力を得ながら,以後被控訴人がこれを耕作した。 〔(4)から(8)まで,甲14,被控訴人本人〕(9)アこの点につき,控訴人らは,b出征後農業を中心として担ったのはaとcであると主張する。 イしかし,前記認定の事実によれば,次のとおり認定・判断される。 (ア) aは昭和15年に隠居をし,同23年2月死亡していることからすれば,b出征時に一人で多数の農地を耕作しえたとは考えがたいし,ましてや,死亡直前の昭和22年まで主体となって耕作をしたとは到底思われない。 (イ) また,cは,当時4人の幼い子供を抱えており,特に控訴人fは昭和18年4月生で,b出征時(昭和19年2月ころ)にはまだ1歳の誕生日も迎えてお となって耕作をしたとは到底思われない。 (イ) また,cは,当時4人の幼い子供を抱えており,特に控訴人fは昭和18年4月生で,b出征時(昭和19年2月ころ)にはまだ1歳の誕生日も迎えておらず,昭和22年でもまだ4歳であって,農業に専念できる状態ではなかった。 (ウ) これらの状況を考えると,b出征後農業を中心として担ったのはaとcであるとする控訴人らの主張は採用することができない。 (10)アなお,控訴人らは,被控訴人が中学校を辞めた理由を,「通学途中に列車から飛び降りたことを学校に知られないようにするためであって,bの戦死とは関係ない。」と主張する。 イしかし,前記認定の事実によれば,次のとおり認定・判断される。 (ア) 通学途中に列車から飛び降りたことが退学の理由になるとは通常考えられない。 (イ) また,昭和21年12月という退学の時期は,稲刈りその他で農業が忙しい時期の直後であるから,学業との両立が困難になって退学をしたのではないかという事情を推測させる。 (ウ) してみると,被控訴人が中学校を退学したのは農業に専念するためであると解するのが相当である。控訴人らの主張はやはり採用できない。 2 被控訴人が本件土地について独立の占有を取得した時期と占有の性格(1) 前記認定の事実によれば,次のとおり認定・判断される。 (ア) bは,昭和20年3月17日死亡し,被控訴人が家督相続をした。 (イ) したがって,被控訴人は,その時点で本件土地の小作権を取得した。 (ウ) 小作権者は,実際に耕作をしていなくても,該小作地を間接的に占有する。 (エ) してみると,被控訴人はA家を家督相続した時点で本件土地の小作権者となり,そのときに本件土地についても独立の占有を取得した は,実際に耕作をしていなくても,該小作地を間接的に占有する。 (エ) してみると,被控訴人はA家を家督相続した時点で本件土地の小作権者となり,そのときに本件土地についても独立の占有を取得したというのが相当である。 (2)アこの点につき,控訴人らは,被控訴人は当時12歳の中学生で,実際には本件土地を耕作していないから独立の占有はないと主張する。 イしかし,(ア) 誰が小作権を有するかと実際の耕作者が誰かとは次元を異にする問題である。 (イ) してみると,実際に耕作をしていないことは占有の主体でないことの理由とはならない。 (3) なお,小作権である以上,被控訴人がbから引き継いだ占有の性格は他主占有である。 3 自創法に基づく本件土地のaへの売渡し前記認定の事実によれば,次のとおり認定・判断される。 (1)ア本件土地については,昭和22年7月2日付けでaに対して自創法16条に基づく売渡処分がされている。 イ小作権者は被控訴人であったのに,何ゆえに売渡処分の相手方がaになったかは,実際にその手続をとったa,cとも死亡しているので,必ずしも明らかではないが,おそらく(2)以下の経過によるものと推察される。 (2) 自創法は,一定以上の広さの土地を持つ地主から,政府が農地を買い上げ,これを「買収の時期において当該農地に就き耕作の業務を営む小作農その他命令で定める者で自作農として農業に精進する見込のあるもの」(自創法16条1項)に売り渡すという構造をとっている。 (3)ア政府が本件土地を買収したのは,どんなに遅くとも昭和22年6月以前である。 イ被控訴人は昭和21年12月に中学を辞め,そのころIの協力を得ながら耕作を開始したのであるから,昭和22年当時は被控訴人はまだ独力 買収したのは,どんなに遅くとも昭和22年6月以前である。 イ被控訴人は昭和21年12月に中学を辞め,そのころIの協力を得ながら耕作を開始したのであるから,昭和22年当時は被控訴人はまだ独力では耕作をすることができなかった。 (4) してみると,自創法は,「耕作者の地位を安定し,その労働の成果を公正に享受させるため自作農を急速且つ広汎に創設」することを目的とする(1条)から,その趣旨にかんがみれば,法形式上は小作権者であっても,実際には独立して耕作をしていない被控訴人が買受人となることは実際上困難であったと思われる。 (5) そこで,とりあえず本件土地をA家の所有に帰するよう確定するため,aを買受人としたのではないかと推測される。 4 新権原の発生前記認定の事実及び末尾掲記の証拠によれば,次のとおり認定・判断される。 (1)ア自創法により農地を取得するのは,通常該土地の小作人である。 イ被控訴人は,本件土地についてa名義への売渡処分があった昭和22年7月2日当時,本件土地の小作人であった。 (2)ア被控訴人は,当時,A家の農地の所有者であり,小作権者であったから,実際の耕作者が誰であるかにかかわりなく,農業収入はすべて被控訴人に帰属していた。 イまた,被控訴人は当時いくつかの農地を小作に供していたが,該土地も自創法の適用を受けて政府に買収され,被控訴人にはその売得金が入ってもいた。 ウよって,被控訴人は,本件土地を買い受けるに足る資金を有していた。 〔以上,甲14,被控訴人本人,弁論の全趣旨〕(3) cは,直前まで戸主であった被控訴人を尊重し,本件土地売渡通知書(甲2)を被控訴人に交付し,以後被控訴人がこれを保管した〔被控訴人本人〕。 (4) 被控訴人は,1人で農作業をこな 〕(3) cは,直前まで戸主であった被控訴人を尊重し,本件土地売渡通知書(甲2)を被控訴人に交付し,以後被控訴人がこれを保管した〔被控訴人本人〕。 (4) 被控訴人は,1人で農作業をこなせるようになってからは,単独で本件土地の耕作を続けた。 (5) 本件土地の固定資産税は,一貫して被控訴人が支払ってきた〔被控訴人本人〕。 (6)アところで,被控訴人は,本人尋問(本人調書11ページ)において,誰の名義で買ったかは関心なかったと供述し,原判決(10ページ22行目から24行目まで)はこれを昭和22年7月2日に所有の意思を生じたことを認めない理由の1つとしている。 イしかし,新憲法が施行され,戸主の制度を適用しないようになったのは昭和22年5月3日である(日本国憲法の施行に伴う応急的措置に関する法律3条)。本件土地について売渡処分がされた同年7月2日が,まだその直後であったことを考慮すれば,農村では旧「家制度」の意識が抜けきっていなかったものと推測される。 ウ被控訴人は,まさに昭和22年5月3日までA家の戸主であった。 エしてみると,被控訴人が誰の名義で買ったかに関心がなかったのは,被控訴人が供述するとおり(本人調書11ページ),本件土地は名義にかかわらずA家で買ったという認識しかなく,A家で取得した以上,直前まで戸主であった自分のものになったと考えたからであると解するのが相当である。これと異なる原判決の解釈は相当でない。 (7)ア以上の諸事実及び当時の法意識を総合勘案すれば,被控訴人は,昭和22年7月2日に本件土地についてa名義で政府から自創法16条の規定による売渡処分を受けた時点で本件土地をA家が取得した,すなわちA家の戸主たる自分が同売渡処分で取得したと信じるに至ったと解するのが相当である 日に本件土地についてa名義で政府から自創法16条の規定による売渡処分を受けた時点で本件土地をA家が取得した,すなわちA家の戸主たる自分が同売渡処分で取得したと信じるに至ったと解するのが相当である。 イこれは民法185条にいう新権原にあたる。 (8) よって,被控訴人は,昭和22年7月2日から,新権原により所有の意思を持って本件土地を占有するようになった旨の被控訴人の主張は正当として是認することができる。これと見解を異にする原審の判断は相当でない。 5 他主占有の主張について(1) 遺産分割の調停を申し立てた点についてア控訴人らは,被控訴人が本件訴え提起に先立ち,平成4年に本件土地について遺産分割の調停を申し立てたことをとらえ,これは被控訴人も本件土地が亡aの遺産に属すると認識していたことを示すものであると主張する。 イしかし,本件調停は,先に認定したとおり,農業委員会から,農業年金の受給手続をとるためには本件土地を自己名義にする必要があると指導されたことがきっかけとなって申し立てられたものである。 ウしたがって,被控訴人としては,とにかく名義が被控訴人に変わればよく,その理由にはこだわっていなかったと推測される。 エまた,被控訴人が遺産分割の調停を申し立てたのには,司法書士にできるだけ早く名義を変えるためにはどのような手続をとればよいかと相談したところ,本件土地は自分のものであることを申し述べたのに本件調停の申し立てを薦められたとの事情がある〔被控訴人本人〕。 オしてみると,被控訴人が本件調停の申し立てをしたからといって,被控訴人が本件土地を亡aの遺産であると認識していたと速断することはできない。この点に関する原審の判断は相当である。 (2) 被控訴人がcに与える米を本件土地か 調停の申し立てをしたからといって,被控訴人が本件土地を亡aの遺産であると認識していたと速断することはできない。この点に関する原審の判断は相当である。 (2) 被控訴人がcに与える米を本件土地から収穫される米に特定した旨をいう主張についてア次に,控訴人らは,「被控訴人は,昭和46年12月6日,cがつぼね入りをするにあたって,本件土地から収穫される米を毎年3俵与える旨を約したが,あえて本件土地から収穫される米と特定したのは,本件土地は亡aの遺産であり,被控訴人の所有に属していないことを認識していたからである。」と主張する。 イ 「つぼね入り」とは,親(c)が子(被控訴人)と別居することを意味するところ,確かに,従来,cは被控訴人家族と同居してきたが,昭和45,6年ころ,不仲になって,cが被控訴人宅から隣の別宅に別居するようになったこと,そこで,親族関係者が一同に会して,別居に際して,被控訴人は,cに対し,毎年本件土地から収穫される米3俵を交付する旨約束した事実を認めることができる。 〔乙4,証人K,同L,被控訴人本人〕ウしかし,(ア) 上記約束は,cが被控訴人と別居するにあたり,どの程度の生活援助をするかに意味があり,援助の中身たる米がどの土地から穫れたかはそれほど重要な意味を持たないと解される。 (イ) また,cに与える米が本件土地から収穫されたものと特定されていたとしても,そのことは被控訴人が本件土地を亡aの遺産であると認識していたことと直接結びつくものではない。 (ウ) 本件土地が真実亡aの遺産であり,cが別居により生活に困るのであれば,控訴人dらは,そのころには本件土地が亡aの遺産である旨をcから聞いていたというのであるから,その時点で本件土地の遺産分割の協議を求め,控訴人dら の遺産であり,cが別居により生活に困るのであれば,控訴人dらは,そのころには本件土地が亡aの遺産である旨をcから聞いていたというのであるから,その時点で本件土地の遺産分割の協議を求め,控訴人dらのものとなった土地ないし代償金からcを援助するという方法も考えられたにもかかわらず,控訴人らは遺産分割の協議の申し出をした形跡はない。 エしてみると,cと別居するにあたり毎年本件土地から収穫される米3俵をcに交付する旨を約束したことは,それ単独では,被控訴人が本件土地を亡aの遺産に属すると認識していたことを認定するに足る間接事実とはならない。 (3) まとめ以上,被控訴人が本件調停を申し立てたこと及びcのつぼね入りにあたり毎年本件土地から収穫された米3俵を与える旨約束したことは,単独では,被控訴人の本件土地占有が他主占有であると認定するに足る間接事実ではない。また,両者を総合しても,やはり,被控訴人の本件土地占有が他主占有であると認定するには至らない。 そして,他に被控訴人が本件土地を亡aの遺産であると認識していたと認めるに足る証拠はないから,被控訴人の本件土地占有は他主占有であると認めることはできない。 6 時効援用権喪失の主張について当裁判所も,本件土地が亡aの遺産であることを前提に控訴人らに対して遺産分割の調停を申し立てたことをもって,被控訴人が時効の利益を放棄した,ないしは時効援用権を喪失したとみることはできないと判断する。 その理由は,原判決15ページ5行目から18行目に記載のとおりであるから,これを引用する。 控訴人らは,この点に関する原審の判断を論難するが,理由がない。 7 まとめ(1) 以上のとおり,被控訴人は,ア昭和22年7月2日から本件土地について所有の意思をも を引用する。 控訴人らは,この点に関する原審の判断を論難するが,理由がない。 7 まとめ(1) 以上のとおり,被控訴人は,ア昭和22年7月2日から本件土地について所有の意思をもって(民法185条)占有を開始し,イその占有は,善意,平穏,公然たる占有であると推定され(同186条1項),ウしかも,同42年7月2日も同土地を占有していたから,その間20年間継続して,同土地の占有を続けたと推定される(同186条2項)。 エしたがって,被控訴人は,20年の時効により,同土地所有権を取得した(同162条1項)ところ,オ被控訴人が平成13年12月25日原審第6回口頭弁論期日において上記時効を援用した(同145条)ことは本件記録上明らかである。 カ被控訴人はそれまでに時効の利益を放棄した,ないしは時効援用権を喪失したと認めることはできない。 (2) 本件土地について,現在登記されている控訴人らの持分は,第3の8のとおりである。 (3) したがって,ア物権的登記請求権に基づき,被控訴人の昭和22年7月2日時効取得を原因として,本件土地の控訴人らの各持分について被控訴人への所有権移転登記手続を求める請求(予備的請求)は理由があり,イ控訴人らが,被控訴人に対して,本件土地について控訴人らが上記各持分権を有する旨の確認を求める反訴請求は理由がないから,以上と同趣旨の原判決は相当である。 (4) ただし,時効取得の起算点を昭和23年2月6日と判断したことと,主文において控訴人らの持分を明示しなかったのはいずれも不適切である。そこで,時効取得の起算点を昭和22年7月2日とし,控訴人らの持分を明示すべく,原判決主文第2項を,本判決主文2項のとおり訂正する(このようにしても, 持分を明示しなかったのはいずれも不適切である。そこで,時効取得の起算点を昭和22年7月2日とし,控訴人らの持分を明示すべく,原判決主文第2項を,本判決主文2項のとおり訂正する(このようにしても,本件予備的請求の訴訟物が,土地の時効取得を背景にした物権的登記請求権に基づくものであって,被控訴人の主張する取得時効の起算点はいずれも近接し,被控訴人はどれかが認容されればそれでよいという趣旨であることは明らかであり,また,その起算点をどう判断するかにおいて控訴人らの攻撃防御方法になんら影響を与えるものではないから,弁論主義に反することはない。)。 (5) よって,本件控訴は理由がないからこれを棄却し,控訴費用は控訴人らに負担させることとして,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第1民事部裁判長裁判官簑田孝行裁判官駒谷孝雄裁判官藤本久俊(別紙物件目録省略)(別紙親族関係一覧表省略)
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