主文 1 本件訴えのうち,厚生労働大臣が原告p7及び原告p8に対してそれぞれ別紙2処分目録「不認定疾病」欄記載の疾病につき原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定をすることの義務付けを求める部分を却下する。 2 厚生労働大臣が原告p1,原告p2,原告p4,原告p5,原告p6及び原告p9に対してそれぞれ別紙2処分目録「処分日」欄記載の日付けでした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分をいずれも取り消す。 3 厚生労働大臣は,原告p1,原告p2,原告p4,原告p5,原告p6及び原告p9に対し,それぞれ別紙2処分目録「申請疾病」欄記載の疾病につき原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定をせよ。 4 厚生労働大臣が原告p7及び原告p8に対してそれぞれ別紙2処分目録「処分日」欄記載の日付けでした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分のうち,同目録「認定疾病」欄記載の疾病に係る部分をいずれも取り消す。 5 厚生労働大臣は,原告p7及び原告p8に対し,それぞれ別紙2処分目録「認定疾病」欄記載の疾病につき原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定をせよ。 6 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 7 訴訟費用は,原告p1に生じた費用の2分の1と被告に生じた費用の20分の1を同原告の負担とし,原告p2に生じた費用の2分の1と被告に生じた費用の20分の1を同原告の負担とし,原告p3に生じた費用全部と被告に生じた費用の20分の1を同原告の負担とし,原告p4に生じた費用の2分の1と被告に生じた費用の20分の1を同原告の負担とし,原告p5に生じた費用の2分の1と被告に生じた費用の2 じた費用全部と被告に生じた費用の20分の1を同原告の負担とし,原告p4に生じた費用の2分の1と被告に生じた費用の20分の1を同原告の負担とし,原告p5に生じた費用の2分の1と被告に生じた費用の20分の1を同原告の負担とし,原告p6に生 じた費用の2分の1と被告に生じた費用の20分の1を同原告の負担とし,原告p7に生じた費用の3分の2と被告に生じた費用の10分の1を同原告の負担とし,原告p8に生じた費用の3分の2と被告に生じた費用の10分の1を同原告の負担とし,原告p9に生じた費用の2分の1と被告に生じた費用の20分の1を同原告の負担とし,その余の全費用を被告の負担とする。 事実 及び理由第1章請求第1 第1事件,第2事件,第4事件から第6事件まで及び第9事件 1 主文2項及び3項と同旨 2 被告は,原告p1,原告p2,原告p4,原告p5,原告p6及び原告p9に対し,各300万円及びこれに対する別紙3損害賠償請求目録「請求の趣旨変更申立書送達日」の各該当欄記載の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 第7事件及び第8事件 1 厚生労働大臣が原告p7及び原告p8に対してそれぞれ別紙2処分目録「処分日」欄記載の日付けでした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分をいずれも取り消す。 2 厚生労働大臣は,原告p7及び原告p8に対し,それぞれ別紙2処分目録「申請疾病」欄記載の疾病につき原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定をせよ。 3 被告は,原告p7及び原告p8に対し,各300万円及びこれに対する別紙3損害賠償請求目録「請求の趣旨変更申立書送達日」の各該当欄記載の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支 よ。 3 被告は,原告p7及び原告p8に対し,各300万円及びこれに対する別紙3損害賠償請求目録「請求の趣旨変更申立書送達日」の各該当欄記載の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第3 第3事件被告は,原告p3に対し,118万円及び平成22年1月から原告p3に対して同人が平成20年3月27日付けでした申請に係る原子爆弾被爆者に対する援 護に関する法律11条1項の規定による認定がされた日まで1か月当たり1万円の割合による金員を支払え。 第2章事案の概要本件は,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」という。)1条の被爆者である原告ら(原告p3(以下「原告p3」という。)を除く。 以下,原告p3を除く原告らを併せて「未認定原告ら」という。)が,被爆者援護法11条1項の規定による認定(以下「原爆症認定」という。)の申請をしたところ,厚生労働大臣がこれらの申請を却下する旨の処分(以下,併せて「本件各却下処分」という。)をしたことから,被告に対し,本件各却下処分の取消し及び原爆症認定の義務付けを求めるとともに,国家賠償法1条1項の規定により,慰謝料各200万円及び弁護士費用各100万円並びにこれらに対する不法行為後である別紙3損害賠償請求目録「請求の趣旨変更申立書送達日」の各該当欄記載の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め(第1事件,第2事件及び第4事件から第9事件まで),原爆症認定を受けた者である原告p3が,被告に対し,厚生労働大臣が,原告p3による原爆症認定の申請の後,原爆症認定を一定の期間しなかったこと(以下「本件不作為」という。)により精神的苦痛を受けたと主張して,国家賠償法1条1項の規定により,慰謝料の支払を求めた(第3事件)事案である 症認定の申請の後,原爆症認定を一定の期間しなかったこと(以下「本件不作為」という。)により精神的苦痛を受けたと主張して,国家賠償法1条1項の規定により,慰謝料の支払を求めた(第3事件)事案である。 第1 法令の定め 1 被爆者援護法等の内容(1)目的被爆者援護法の前文は,同法の目的について,次のとおり規定する。 「昭和20年8月,広島市及び長崎市に投下された原子爆弾という比類のない破壊兵器は,幾多の尊い生命を一瞬にして奪ったのみならず,たとい一命をとりとめた被爆者にも,生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を残し,不安の中での生活をもたらした。 このような原子爆弾の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉を図るため,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律を制定し,医療の給付,医療特別手当等の支給をはじめとする各般の施策を講じてきた。また,我らは,再びこのような惨禍が繰り返されることがないようにとの固い決意の下,世界唯一の原子爆弾の被爆国として,核兵器の究極的廃絶と世界の恒久平和の確立を全世界に訴え続けてきた。 ここに,被爆後50年のときを迎えるに当たり,我らは,核兵器の究極的廃絶に向けての決意を新たにし,原子爆弾の惨禍が繰り返されることのないよう,恒久の平和を念願するとともに,国の責任において,原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ,高齢化の進行している被爆者に対する保健,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ,あわせて,国として原子爆弾による死没者の尊い犠牲を銘記するため,この法律を制定する。」(2)被爆者被爆者援護法にお る被爆者に対する保健,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ,あわせて,国として原子爆弾による死没者の尊い犠牲を銘記するため,この法律を制定する。」(2)被爆者被爆者援護法において,「被爆者」とは,次のいずれかに該当する者であって,被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(被爆者援護法1条。以下,単に「被爆者」というときは,被爆者援護法にいう「被爆者」を指す。)。 ア原子爆弾が投下された際に当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令で定めるこれらに隣接する区域内に在った者(同条1号)なお,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行令(以下「被爆者援護法施行令」という。)1条1項,別表第一は,上記の「政令で定めるこれらに隣接する区域」として,広島県安芸郡の一部及び長崎県西彼杵郡の一部を規定している。 イ原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間内に上記アの区域のうち政令で定める区域内に在った者(被爆者援護法1条2号) なお,被爆者援護法施行令1条2項は,上記の「政令で定める期間」を,広島市に投下された原子爆弾については昭和20年8月20日まで,長崎市に投下された原子爆弾については同月23日までとしており,同条3項,別表第二は,上記の「政令で定める区域」として,おおむね爆心地から2キロメートル以内の区域を規定している。 ウ上記ア及びイに掲げる者のほか,原子爆弾が投下された際又はその後において,身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者(被爆者援護法1条3号)エ上記アからウまでに掲げる者がそれぞれに記載された事由に該当した当時その者の胎児であった者(同条4号)(3)被爆者健康手帳被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,その居住地(居住地を有しないと までに掲げる者がそれぞれに記載された事由に該当した当時その者の胎児であった者(同条4号)(3)被爆者健康手帳被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,その居住地(居住地を有しないときは,その現在地)の都道府県知事(広島市又は長崎市にあっては,当該市の長(被爆者援護法49条)。以下同じ。)に申請しなければならず,都道府県知事は,同申請に基づいて審査し,申請者が前記(2)アからエまでのいずれかに該当すると認めるときは,その者に被爆者健康手帳を交付する(被爆者援護法2条(平成20年法律第78号による改正前のもの))。 (4)被爆者に対する援護ア健康管理都道府県知事は,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところにより,健康診断を行い(被爆者援護法7条),同健康診断の結果必要があると認めるときは,当該健康診断を受けた者に対し,必要な指導を行う(被爆者援護法9条)。 イ医療の給付厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者(ただし,当該負傷又は疾病が 原子爆弾の放射能に起因するものでないときは,その者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る。)に対し,必要な医療の給付を行う(被爆者援護法10条1項)。 上記の医療の給付の範囲は,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護並びに⑥移送であり(同条2項),これら医療の給付は,厚生労働大臣が指定する医療機関に委託して行う(同条3項)。 上記の医療の給付を受けよ 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護並びに⑥移送であり(同条2項),これら医療の給付は,厚生労働大臣が指定する医療機関に委託して行う(同条3項)。 上記の医療の給付を受けようとする者は,あらかじめ,当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の厚生労働大臣の認定(原爆症認定)を受けなければならない(被爆者援護法11条1項)。 ウ一般疾病医療費の支給厚生労働大臣は,被爆者が,負傷又は疾病(前記イの医療の給付を受けることができる負傷又は疾病,遺伝性疾病,先天性疾病及び厚生労働大臣の定めるその他の負傷又は疾病を除く。)につき,都道府県知事が指定する医療機関から前記イ①から⑥までに掲げる医療を受け,又は緊急その他やむを得ない理由により上記医療機関以外の者からこれらの医療を受けたときは,その者に対し,当該医療に要した費用の額を限度として,一般疾病医療費を支給することができる(被爆者援護法18条1項本文)。 エ医療特別手当の支給都道府県知事は,原爆症認定を受けた者であって,当該認定に係る負傷又は疾病の状態にあるものに対し,医療特別手当を支給する(被爆者援護法24条1項)。上記の者が医療特別手当の支給を受けようとするときは,上記の要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない(同条2項)。医療特別手当は,月を単位として支給するものと し,その額は,1か月につき13万5400円である(同条3項。なお,上記の額は,後記ケの規定により,平成17年以降,ほぼ1年ごとに改定されている。)。医療特別手当の支給は,上記の認定を受けた者が同認定の申請をした日の属する月の翌月から始め,上記の要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(同条4項)。 オ特別手 に改定されている。)。医療特別手当の支給は,上記の認定を受けた者が同認定の申請をした日の属する月の翌月から始め,上記の要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(同条4項)。 オ特別手当の支給都道府県知事は,原爆症認定を受けた者に対し,その者が医療特別手当の支給を受けている場合を除き,特別手当を支給する(被爆者援護法25条1項)。上記の者が特別手当の支給を受けようとするときは,上記の要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない(同条2項)。特別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1か月につき5万円である(同条3項。なお,上記の額は,後記ケの規定により,平成17年以降,ほぼ1年ごとに改定されている。)。特別手当の支給は,上記の認定を受けた者が同認定の申請をした日の属する月の翌月から始め,上記の要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(同条4項)。 カ健康管理手当の支給都道府県知事は,被爆者であって,造血機能障害,肝臓機能障害その他の厚生労働省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)にかかっているものに対し,その者が医療特別手当,特別手当又は原子爆弾小頭症手当の支給を受けている場合を除き,健康管理手当を支給する(被爆者援護法27条1項)。 なお,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行規則(以下「被爆者援護法施行規則」という。)51条は,上記の「厚生労働省令で定める障害」として,造血機能障害,肝臓機能障害,細胞増殖機能障害,内分泌腺機能障害,脳血管障害,循環器機能障害,腎臓機能障害,水晶体混濁に よる視機能障害,呼吸器機能障害,運動器機能障害及び潰瘍による消化器機能障害を規定している。 障害,細胞増殖機能障害,内分泌腺機能障害,脳血管障害,循環器機能障害,腎臓機能障害,水晶体混濁に よる視機能障害,呼吸器機能障害,運動器機能障害及び潰瘍による消化器機能障害を規定している。 キ保健手当の支給都道府県知事は,被爆者のうち,原子爆弾が投下された際に爆心地から2キロメートルの区域内に在った者又はその当時その者の胎児であった者に対し,これらの者が医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当又は健康管理手当の支給を受けている場合を除き,保健手当を支給する(被爆者援護法28条1項)。 クその他の手当等の支給都道府県知事は,一定の要件を満たす被爆者等に対し,原子爆弾小頭症手当(被爆者援護法26条),介護手当(被爆者援護法31条)等を支給する。 ケ手当額の自動改定医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当,健康管理手当及び保健手当については,総務省において作成する年平均の全国消費者物価指数が平成5年(上記各手当の額の改定の措置が講じられたときは,直近の当該措置が講じられた年の前年)の物価指数を超え,又は下るに至った場合においては,その上昇し,又は低下した比率を基準として,その翌年の4月以降の当該手当の額を改定するものとし,その改定の措置は,政令(被爆者援護法施行令17条)で定める(被爆者援護法29条)。 2 原爆症認定の手続等(1)原爆症認定の申請原爆症認定を受けようとする者は,厚生労働省令で定めるところにより,その居住地の都道府県知事を経由して,厚生労働大臣に申請書を提出しなければならない(被爆者援護法施行令8条1項(平成22年政令第29号による改正前のもの))。 上記申請書は,①被爆者の氏名,性別,生年月日及び居住地並びに被爆者健康手帳の番号,②負傷又は疾病 ればならない(被爆者援護法施行令8条1項(平成22年政令第29号による改正前のもの))。 上記申請書は,①被爆者の氏名,性別,生年月日及び居住地並びに被爆者健康手帳の番号,②負傷又は疾病の名称,③被爆時の状況(入市の状況を含む。),④被爆直後の症状及びその後の健康状態の概要,⑤医療の給付を受けようとする指定医療機関の名称及び所在地等を記載した所定の様式の認定申請書によらなければならない(被爆者援護法施行規則12条1項。なお,平成20年厚生労働省令第41号による改正前の同項においては,上記③及び④は記載事項とされておらず,「被爆時以降における健康状態の概要及び原子爆弾に起因すると思われる負傷もしくは疾病について医療を受け,又は原子爆弾に起因すると思われる自覚症状があったときは,その医療又は自覚症状の概要」を記載するものとされていた。)。また,上記申請書には,所定の様式の医師の意見書及び当該負傷又は疾病に係る検査成績を記載した書類を添えなければならない(同条2項(平成22年厚生労働省令第47号による改正前のもの))。 (2)審議会等の意見聴取厚生労働大臣は,原爆症認定を行うに当たっては,当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかであるときを除き,審議会等(国家行政組織法8条に規定する機関をいう。)であって政令で定めるものの意見を聴かなければならない(被爆者援護法11条2項)。 そして,被爆者援護法施行令9条は,上記の「審議会等…であって政令で定めるもの」を,疾病・障害認定審査会としている。 疾病・障害認定審査会は,厚生労働省に置かれ(厚生労働省組織令132条),委員30人以内で組織される(疾病・障害認定審査会令1条1項)。 同審査会には,必要に応じて臨時委員及び専門委員を置くことがで 疾病・障害認定審査会は,厚生労働省に置かれ(厚生労働省組織令132条),委員30人以内で組織される(疾病・障害認定審査会令1条1項)。 同審査会には,必要に応じて臨時委員及び専門委員を置くことができ,委員,臨時委員及び専門委員は,学識経験のある者等のうちから厚生労働大臣が任命する(同令1条2項,3項,2条)。同審査会には,被爆者援護法の規定により疾病・障害認定審査会の権限に属させられた事項を処理する分科会と して,原子爆弾被爆者医療分科会(以下「医療分科会」という。)が置かれ(同令5条1項),医療分科会に属すべき委員,臨時委員及び専門委員は,厚生労働大臣が指名する(同条2項)。 (3)認定書の交付厚生労働大臣は,原爆症認定の申請書を提出した者につき原爆症認定をしたときは,その者の居住地の都道府県知事を経由して,認定書を交付する(被爆者援護法施行令8条2項(平成22年政令第29号による改正前のもの))。 第2 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の証拠(書証番号は特に記載しない限り枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。 1 原子爆弾の投下(公知の事実)アメリカ合衆国軍は,昭和20年8月6日午前8時15分,広島市に原子爆弾(以下「広島原爆」という。)を投下し,同月9日午前11時2分,長崎市に原子爆弾(以下「長崎原爆」という。)を投下した。 2 「原爆症認定に関する審査の方針」の策定(乙A2)医療分科会は,平成13年5月25日,「原爆症認定に関する審査の方針」(以下「旧審査の方針」という。)を策定し,原爆症認定に係る審査は,これに定める方針を目安として行うものとした。旧審査の方針の概要は,次のとおりである。 (1)原爆放射線起因性の判断 方針」(以下「旧審査の方針」という。)を策定し,原爆症認定に係る審査は,これに定める方針を目安として行うものとした。旧審査の方針の概要は,次のとおりである。 (1)原爆放射線起因性の判断ア判断に当たっての基本的な考え方申請に係る疾病等における原爆放射線起因性の判断に当たっては,原因確率(疾病等の発生が原爆放射線の影響を受けている蓋然性があると考えられる確率)及びしきい値(一定の被曝線量以上の放射線を浴びなければ疾病等が発生しない値)を目安として,当該申請に係る疾病等の原爆放射 線起因性に係る「高度の蓋然性」の有無を判断する。 この場合にあっては,当該申請に係る疾病等に関する原因確率が,①おおむね50パーセント以上である場合には,当該申請に係る疾病の発生に関して原爆放射線による一定の健康影響の可能性があることを推定し,②おおむね10パーセント未満である場合には,当該可能性が低いものと推定した上で,当該申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案して判断を行う。また,原因確率又はしきい値が設けられていない疾病等に係る審査に当たっては,当該疾病等については原爆放射線起因性に係る肯定的な科学的知見が立証されていないことに留意しつつ,当該申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別に判断する。 イ原因確率原因確率は,白血病,胃がん,大腸がん,甲状腺がん,乳がん,肺がん,肝臓がん,皮膚がん(悪性黒色腫を除く。),卵巣がん,尿路系がん(膀胱がんを含む。),食道がん,その他の悪性新生物及び副甲状腺機能亢進症について,それぞれ,申請者の性別,被曝時年齢及び被曝線量に応じた所定の率とする。 ウしきい値放射線白内障のしきい値は, ),食道がん,その他の悪性新生物及び副甲状腺機能亢進症について,それぞれ,申請者の性別,被曝時年齢及び被曝線量に応じた所定の率とする。 ウしきい値放射線白内障のしきい値は,1.75シーベルトとする。 エ原爆放射線の被曝線量申請者の被曝線量は,初期放射線による被曝線量の値に,残留放射線(誘導放射線)による被曝線量及び放射性降下物による被曝線量の値を加えて得た値とする。そして,①初期放射線の被曝線量は,申請者の被爆地及び爆心地からの距離(2.5キロメートルまで)の区分に応じた所定の値とし,②残留放射線の被曝線量は,申請者の被爆地,爆心地からの距離(広島原爆については700メートルまで,長崎原爆については600メート ルまで)及び爆発後の経過時間(72時間まで)の区分に応じた所定の値とし,③放射性降下物による放射線の被曝線量は,原爆投下の直後に所定の地域に滞在し,又はその後,長期間にわたって当該所定の地域に居住していた場合についてそれぞれ所定の値とする。 (2)要医療性の判断要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断する。 3 「原爆症認定に関する審査の方針」の見直し(1)「新しい審査の方針」の策定(乙A1の1)医療分科会は,平成20年3月17日,「新しい審査の方針」(以下「新審査の方針」という。)を策定し,原爆症認定に係る審査は,「被爆者援護法の精神に則り,より被爆者救済の立場に立ち,原因確率を改め,被爆の実態に一層即したものとするため」,これに定める方針を目安として行うものとした。新審査の方針の概要は,次のとおりである。 ア放射線起因性の判断(ア)積極的に認定する範囲①被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者,②原爆 行うものとした。新審査の方針の概要は,次のとおりである。 ア放射線起因性の判断(ア)積極的に認定する範囲①被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者,②原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者又は③原爆投下より約100時間経過後から,原爆投下より約2週間以内の期間に,爆心地から約2キロメートル以内の地点に1週間程度以上滞在した者から,放射線起因性が推認される以下の疾病についての申請がある場合については,格段に反対すべき事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を積極的に認定する(いわゆる積極認定)。 a 悪性腫瘍(固形がんなど)b 白血病c 副甲状腺機能亢進症 d 放射線白内障(加齢性白内障を除く。)e 放射線起因性が認められる心筋梗塞この場合,認定の判断に当たっては,積極的に認定を行うため,申請者から可能な限り客観的な資料を求めることとするが,客観的な資料がない場合にも,申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する。 (イ)それ以外の申請について前記(ア)に該当する場合以外の申請についても,申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を総合的に判断する(いわゆる総合認定)。 イ要医療性の判断要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断する。 (2)新審査の方針の改定(乙A1の2)医療分科会は,平成21年6月22日,新審査の方針を改定し,いわゆる積極認定の対象疾病(前記(1)ア(ア)aからe まで)に,「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」及び「放射線起因性が認められる慢性肝 会は,平成21年6月22日,新審査の方針を改定し,いわゆる積極認定の対象疾病(前記(1)ア(ア)aからe まで)に,「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」及び「放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変」を追加した。 4 原告らによる原爆症認定の申請等(1)原告らは,いずれも被爆者援護法1条の被爆者である(乙C7,G15,H5,J10,K7,L7,N10,O13,P10)。 (2)未認定原告らは,別紙2処分目録「申請日」欄記載の日に,同目録「申請疾病」欄記載の疾病について,それぞれ原爆症認定の申請をしたが,厚生労働大臣は,疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上,同目録「処分日」欄記載の日付けで,これらの申請を却下する旨の本件各却下処分をした(乙C1から3まで,13から16まで,G1,18,19,J1から3まで,15,16,K1から3まで,10,11,L1から3まで,11,12,14, 15,N1から3まで,12から14まで,16,17,O1から3まで,17,18,P1から3まで,12,13,弁論の全趣旨)。 (3)原告p3は,平成20年3月27日,副甲状腺機能亢進症及び甲状腺機能低下症を申請疾病とする原爆症認定の申請をし,厚生労働大臣は,同申請について,疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上,平成22年5月27日付けで甲状腺機能低下症について原爆症認定をし,同年6月24日付けで副甲状腺機能亢進症について申請を却下する旨の処分をした(乙H1,7,8,12から14まで)。 5 本件訴訟の提起等(顕著な事実)(1)原告らは,平成21年12月24日,原告らの原爆症認定の申請について厚生労働大臣が処分を行わないことが違法であることの確認,上記申請に係る原爆症認定の義務付け及び国家賠償を求めて本件訴訟を提起した。 告らは,平成21年12月24日,原告らの原爆症認定の申請について厚生労働大臣が処分を行わないことが違法であることの確認,上記申請に係る原爆症認定の義務付け及び国家賠償を求めて本件訴訟を提起した。 (2)未認定原告らは,本件各却下処分がされたことを受け,それぞれ,本件訴訟に係る請求の趣旨を第1章第1及び第2記載のとおり変更する旨の書面を当裁判所に提出し,これらの書面の副本は,別紙3損害賠償請求目録「請求の趣旨変更申立書送達日」の各該当欄記載の日にそれぞれ被告に送達された。 (3)原告p3は,平成22年10月13日,前記4(3)記載のとおり原爆症認定がされたことを受け,本件訴えのうち不作為の違法確認及び原爆症認定の義務付けに係る部分を取り下げ,被告は,同月27日,これに同意した。 6 放射線量の単位等(乙A160,弁論の全趣旨)(1)グレイ(Gy)とは,吸収線量(物質に吸収された放射線のエネルギーの量)の単位であり,物質1キログラム当たり1ジュールのエネルギー吸収があるときの吸収線量が1 グレイである。なお,吸収線量の単位としては,かつてはラド(Rad)が用いられており,1グレイ(100センチグレイ)は100ラドと等しい。 (2)シーベルト(Sv)とは,等価線量(人体が吸収した放射線の影響度)及び 実効線量(人体の組織が吸収した放射線の影響度)の単位である。等価線量は,放射線の種類によって人体に対する影響度(リスク)が異なることから,吸収線量値に放射線の種類ごとに定められた係数(放射線荷重係数)を乗じて算出する(放射線荷重係数は,ベータ線及びガンマ線は1,アルファ線は20,中性子線はエネルギーにより5から20までとされている。)。また,実効線量は,等価線量が同じでもその影響の現れ方が人体の組織・臓器によって異なることか ,ベータ線及びガンマ線は1,アルファ線は20,中性子線はエネルギーにより5から20までとされている。)。また,実効線量は,等価線量が同じでもその影響の現れ方が人体の組織・臓器によって異なることから,等価線量に個別の人体組織の放射線感受性を表す係数(組織荷重係数)を乗じて算出する。 (3)レントゲン(R)とは,照射線量(ある場所における空気を電離する能力)の単位であり,1レントゲンは,放射線の照射によって標準状態の空気1立方センチメートル当たり1静電単位(esu)のイオン電荷が発生したときの放射線の総量である(1レントゲンは,おおむね0.87ラド(センチグレイ)に相当する。)。 第3 争点及び当事者の主張本件における争点は,①原爆症認定における放射線起因性の判断基準,②未認定原告らの原爆症認定要件該当性,③本件義務付けの訴えの適法性等,④本件各却下処分についての国家賠償責任及び⑤本件不作為についての国家賠償責任であり,これらの争点に関する当事者の主張は,争点②,④及び⑤について要旨を以下に記載するほか,別紙4(原告らの主張),別紙5(被告の主張1)及び別紙6(被告の主張2)記載のとおりである。 1 未認定原告らの原爆症認定要件該当性(争点②)について(1)原告p1(以下「原告p1」という。)について(原告p1の主張)ア被爆状況等原告p1(当時7歳)は,昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,長崎県西彼杵郡a村にいたが,同月10日昼前,親戚を捜すため,きょうだい と共に長崎市に入り,b町(爆心地から約1.5キロメートル)からc町(爆心地付近)などを経由してA大学(爆心地から約500メートル)及びA大付属病院(同約700メートル)に至り,夕方頃まで付近の捜索をした。また,原告p1は,同月11日 1.5キロメートル)からc町(爆心地付近)などを経由してA大学(爆心地から約500メートル)及びA大付属病院(同約700メートル)に至り,夕方頃まで付近の捜索をした。また,原告p1は,同月11日も同じ経路で長崎市に入り,同様に捜索をした。原告p1は,同年9月頃,長崎市内の父親のもとで生活するようになったが,その頃,めまいやむかつき,倦怠感,微熱,下痢,鼻血等の症状が現れた。 以上のような被爆状況等に照らすと,原告p1が誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 イ放射線起因性原告p1は,前記アのとおり相当量の放射線に被曝しており,原爆放射線と心筋梗塞の発症との間に有意な関係が認められることは既に医学的・疫学的知見から明らかになっていること等に照らせば,原告p1の狭心症(心筋梗塞と同じく動脈硬化を主因とする。)が原爆放射線に起因するものであることは明らかである。新審査の方針に照らしても,原告p1については,迅速かつ積極的に原爆症認定が行われるべきである。 (被告の主張)ア被爆状況等原告p1は,昭和20年8月10日及び同月11日に入市したと主張するが,同行者らが当時7歳の原告p1を連れてあえて2日にわたり入市したのか疑わしく,同月11日の行動についての供述が具体性に欠けることも踏まえると,同日に入市したとの原告p1の供述はにわかに信用し難い。 そして,往復の時間も考慮すれば,原告p1が同月10日にA大学付属病院付近で滞在した時間は3時間程度である。また,原告p1の主張を前提としても,原告p1は初期放射線に被曝しておらず,その後の入市によっても,誘導放射線等により人体の健康被害の観点から見て有意な線量の外 部被曝及び内部被曝をしたと また,原告p1の主張を前提としても,原告p1は初期放射線に被曝しておらず,その後の入市によっても,誘導放射線等により人体の健康被害の観点から見て有意な線量の外 部被曝及び内部被曝をしたとはいい難い(推定被曝線量は,せいぜい0. 055グレイである。)。また,被爆後に鼻血等の症状があったとは認められず,下痢等についても急性症状の特徴を備えていないのであって,原告p1に放射線被曝による急性症状が生じたとは認められない。 イ放射線起因性狭心症は,虚血性心疾患の1つであり,心筋梗塞と同様に,動脈硬化を主因とする生活習慣病であるところ,原告p1は,加齢,喫煙,脂質異常症(高脂血症),ストレス・性格といった危険因子を複数有しているから,その狭心症は,これらを原因として発症したものとみるのが自然かつ合理的である。また,疫学的知見を踏まえても,狭心症と同じく虚血性心疾患に分類される心筋梗塞に関しては,相当量の放射線被曝との間に関連性があるとの調査結果が存在するにとどまり,低線量被曝についてまで関連性を認める的確な疫学的知見もないところ,原告p1が人体の健康被害の観点から見て有意な線量の被曝をしたとはいい難いことは,前記アのとおりである。よって,原告p1の狭心症には,放射線起因性が認められない。 (2)原告p2(以下「原告p2」という。)について(原告p2の主張)ア被爆状況等原告p2(当時15歳)は,昭和20年8月6日の広島原爆投下時,中学校の生徒であったが,体調を崩して広島市d町○丁目の自宅(爆心地から約2.5キロメートル)で寝ていたところ被爆した。原告p2は,同日,帰宅しない三兄の捜索のため,父及び次兄と共にB駅付近及び同市e町の手前近くまで三,四回入り,その後,同市f町の家屋に昭和21年3月 約2.5キロメートル)で寝ていたところ被爆した。原告p2は,同日,帰宅しない三兄の捜索のため,父及び次兄と共にB駅付近及び同市e町の手前近くまで三,四回入り,その後,同市f町の家屋に昭和21年3月まで居住した。原告p2は,被爆直後から,高熱や右耳に膿がたまるといった症状が二,三か月続き,下痢も続いた。熱や下痢の症状は,近くで被爆した家族も同様であった。原告p2は,その後も,原因不明の全身倦怠感, 肝炎,腰痛等に苦しんできた。なお,近くで被爆した父母は肝臓がんで,次兄は胃がんで,それぞれ死亡している。 以上のような被爆状況等によると,原告p2が初期放射線のみならず誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 イ放射線起因性原告p2は,前記アのとおり相当量の放射線に被曝しており,原爆放射線と心筋梗塞の発症との間に有意な関係が認められることは既に医学的・疫学的知見から明らかになっていること等に照らせば,原告p2の心筋梗塞が原爆放射線に起因するものであることは明らかである。新審査の方針に照らしても,原告p2については,迅速かつ積極的に原爆症認定が行われるべきである。 (被告の主張)ア被爆状況等原告p2は,昭和20年8月6日にB駅付近及びe町の手前近くまで三,四回入ったと主張するが,その具体的な状況は不明である。また,原告p2の主張を前提としても,その初期放射線による被曝線量は低く,原告p2が屋内で被爆した後に立ち入った最も爆心地に近い場所はe町の「手前近く」であるから,爆心地から約1キロメートル離れた地点と考えられ,この距離に照らすと誘導放射線による被曝も極めて低線量であるから,原告p2が人体の健康被害の観点から見て有意な被 場所はe町の「手前近く」であるから,爆心地から約1キロメートル離れた地点と考えられ,この距離に照らすと誘導放射線による被曝も極めて低線量であるから,原告p2が人体の健康被害の観点から見て有意な被曝をしたとは認められない(推定被曝線量はせいぜい0.0164グレイ程度である。)。また,被爆後,原告p2に下痢や倦怠感等の症状が生じたとは認められず,仮にこれらの症状が生じていたとしても,放射線被曝による急性症状であるということはできない。 イ放射線起因性 心筋梗塞は,放射線に被曝していなかったとしても種々の危険因子の下で発症し得るものであるところ,原告p2は,加齢,高血圧,脂質異常症(高脂血症),喫煙といった心筋梗塞の危険因子を複数有していたのであるから,その心筋梗塞は,これらを原因として発症したものとみるのが自然かつ合理的である。また,前記のとおり,低線量被曝について心筋梗塞との関連性を認める的確な疫学的知見もないところ,原告p2が人体の健康被害の観点から見て有意な線量の被曝をしたとはいい難いことは,前記アのとおりである。 よって,原告p2の心筋梗塞には,放射線起因性が認められない。 (3)原告p4(以下「原告p4」という。)について(原告p4の主張)ア被爆状況等原告p4(当時19歳)は,昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,軍の部隊に所属し,C小学校(爆心地から約4.5キロメートル)で水くみ作業に従事していたが,同校舎内で休憩していたところ被爆した。原告p4らは,その後,長崎市内へ救援活動に向かうため,長崎駅付近(同約2キロメートル)へ赴き,更に爆心地方向へ北上したが,火災のために進むことができず,途中で引き返し,夕方頃,C小学校に戻った。また,原告p4らは,同月11日朝,再度, に向かうため,長崎駅付近(同約2キロメートル)へ赴き,更に爆心地方向へ北上したが,火災のために進むことができず,途中で引き返し,夕方頃,C小学校に戻った。また,原告p4らは,同月11日朝,再度,長崎市内へ救援活動に向かい,u駅(同約1キロメートル)付近の変電所で遺体搬送や道路整備の作業を行ったが,その際,破れた水道管からあふれる水を飲むなどした。原告p4は,このような作業を5日程度続けた。原告p4には,明確な急性症状の記憶はないが,昭和40年頃に突然すべての歯が約1か月の間に抜けてしまうなどした。 以上のような被爆状況等によると,原告p4が初期放射線のみならず誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝した ことは明らかである。 イ放射線起因性原告p4は,前記アのとおり相当量の放射線に被曝しており,原爆放射線と心筋梗塞の発症との間に有意な関係が認められることは既に医学的・疫学的知見から明らかになっていること等に照らせば,原告p4の心筋梗塞が原爆放射線に起因するものであることは明らかである。新審査の方針に照らしても,原告p4については,迅速かつ積極的に原爆症認定が行われるべきである。 (被告の主張)ア被爆状況等原告p4は,昭和20年8月9日に長崎駅付近に赴き,更に爆心地方向へ北上したと主張するが,その詳細は不明である。また,原告p4の主張を前提としても,その初期放射線による被曝線量は低く,長崎駅(爆心地から約2.3キロメートル)付近に赴いた際に誘導放射線等によって人体の健康被害の観点から見て有意な被曝をしたとはいい難く,同月11日にuに赴き,遺体を搬送したり,粉塵等を吸い込んだり,放射性降下物により汚染された水を飲んだりしたとしても,その際に原告p4 って人体の健康被害の観点から見て有意な被曝をしたとはいい難く,同月11日にuに赴き,遺体を搬送したり,粉塵等を吸い込んだり,放射性降下物により汚染された水を飲んだりしたとしても,その際に原告p4が人体の健康被害の観点から見て有意な線量の外部被曝及び内部被曝をしたとは到底認められない(推定被曝線量はせいぜい0.0002グレイ程度である。)。 また,原告p4には,被爆後,急性症状が現れていない。 イ放射線起因性心筋梗塞は,放射線に被曝していなかったとしても種々の危険因子の下で発症し得るものであるところ,原告p4は,加齢,喫煙,高血圧といった心筋梗塞の危険因子を複数有していたから,原告p4の心筋梗塞は,これらの危険因子によるものと見るのが自然かつ合理的である。また,前記のとおり,低線量被曝について心筋梗塞との関連性を認める的確な疫学的 知見もないところ,原告p4が人体の健康被害の観点から見て有意な線量の被曝をしたとはいい難いことは,前記アのとおりである。よって,原告p4の心筋梗塞に放射線起因性は認められない。 (4)原告p5(以下「原告p5」という。)について(原告p5の主張)ア被爆状況等原告p5(当時10歳)は,昭和20年8月6日の広島原爆投下時,両親らと離れて広島県比婆郡g町に疎開していたが,広島市内の自宅跡から家財を掘り出すとともに行方不明の異母姉らを捜すため,同月10日早朝,広島市内で被爆して避難してきた両親及び姉と共に広島に向かい,同日午前中に広島駅に到着した。原告p5は,その後,同市h町(爆心地から約0.8キロメートル)及びi町(同約1キロメートル)に至り,i町の自宅跡では家財を掘り出す作業に従事した。また,原告p5は,同日夜にはD小学校に宿泊し,その際,校庭で遺体を焼く煙を吸 (爆心地から約0.8キロメートル)及びi町(同約1キロメートル)に至り,i町の自宅跡では家財を掘り出す作業に従事した。また,原告p5は,同日夜にはD小学校に宿泊し,その際,校庭で遺体を焼く煙を吸うなどした。原告p5は,その後,1年ほどの間,全身の倦怠感,歯茎からの出血,下痢などの症状が続き,半年から1年ほど過ぎた頃からは,全身にできものができ,膿が出る状態が半年ほど続いた。 以上のような被爆状況等に照らすと,原告p5が誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 イ舌がん術後後遺症(放射線起因性及び要医療性)原告p5は,前記アのとおり相当量の放射線に被曝しており,原爆放射線とがんの発症との間に有意な関係が認められることは既に医学的・疫学的知見からも明らかとなっていること等に照らすと,原告p5の舌がんが原爆放射線に起因するものであることは明らかである。そして,原告p5は,舌がん治療のために平成7年11月10日に行われた右頸部リンパ節郭清術後,以前は問題なく上がっていた右腕が上がりにくくなったのであ って,右上肢挙上障害は,同手術による副神経損傷等によるものであることが明らかであるから,同障害は,舌がん術後後遺症として,放射線起因性を有するものというべきである。 また,原告p5の舌がん術後後遺症については,対症療法が継続的に行われており,要医療性が認められることは明らかである。 ウ慢性甲状腺炎(橋本病)(放射線起因性)相当量の放射線に被曝すると甲状腺機能低下症を発症し,特に若年被爆者についてはリスクがより高いとされており,新審査の方針の改定の際には甲状腺機能低下症が積極認定の対象疾病に加えられているところ,原告p5は,前記アのとおり相当量の放射線に 症を発症し,特に若年被爆者についてはリスクがより高いとされており,新審査の方針の改定の際には甲状腺機能低下症が積極認定の対象疾病に加えられているところ,原告p5は,前記アのとおり相当量の放射線に被曝しており,被爆当時10歳という若年であったこと等に照らすと,原告p5の慢性甲状腺炎(橋本病)の放射線起因性は優に認められるというべきである。新審査の方針に照らしても,原告p5については,迅速かつ積極的に原爆症認定が行われるべきである。 (被告の主張)ア被爆状況等昭和31年に作成された原告p5に係る調査(以下「ABCC調査」という。)の記録には「入市月日昭和22年11月10日」と記載されていること,原告の両親の被爆者健康手帳申請書にもgに避難して以降は入市していない旨が記載されていること,昭和20年8月7日にようやく広島市から100キロメートル以上離れた広島県比婆郡g町に避難することができた原告p5の両親が再度入市しようとは考えないであろうし,通常の親であれば当時10歳の原告p5をあえて惨状の中に連れて行こうとは考えないはずであること等からすれば,原告p5が昭和20年8月10日に入市した事実は認められない。また,原告p5の主張を前提としても,原告p5は初期放射線に被曝しておらず,その後の入市によっても,誘導 放射線等により人体の健康被害の観点から見て有意な線量の外部被曝及び内部被曝をしたとはいい難い(推定被曝線量は,0.000624グレイよりもはるかに低い程度である。)。また,被爆後,原告p5に下痢の症状があったとは認められず,倦怠感や歯茎からの出血といった症状も,放射線被曝による急性症状であるということはできない。 イ舌がん術後後遺症(放射線起因性及び要医療性)舌がんは50歳代から6 があったとは認められず,倦怠感や歯茎からの出血といった症状も,放射線被曝による急性症状であるということはできない。 イ舌がん術後後遺症(放射線起因性及び要医療性)舌がんは50歳代から60歳代の男性に多く,喫煙の影響が大きいところ,原告p5が舌がんと診断されたのは59歳の時点である上,原告p5には喫煙歴がある。そして,原告p5については,前記アのとおり入市被爆の事実が認め難く,仮に原告p5の主張を前提としても,その被曝線量は低く,人体の健康影響の観点から有意な被曝をしているとは認められないから,舌がんは上記の原因により発症したものと見るのが自然かつ合理的である。 また,原告p5の右上肢挙上障害は,精査の結果,筋萎縮性側索硬化症(ALS)の亜型と診断されている。そして,副神経損傷による障害であれば術後直ちに現れるはずであり,事後に進行することは通常考え難いし,その後,手術と無関係の左上肢にも障害が生じていることからすると,原告p5の右上肢挙上障害の原因は,右頸部リンパ節郭清術による副神経損傷であるとは認め難く,舌がんとも関係がないというべきである。よって,原告p5の舌がん術後後遺症については,放射線起因性が認められない。 さらに,原告p5は,舌がん術後後遺症について,医師から経過観察以上の積極的な治療を受けているということはできないから,舌がん術後後遺症については要医療性が認められない。 ウ慢性甲状腺炎(橋本病)(放射線起因性)慢性甲状腺炎と放射線被曝との間に有意な関連性は認められておらず,低線量被曝と甲状腺機能低下症との間に関連性があるとの報告もない。ま た,甲状腺機能低下症は,誰でも発症し得る一般的な疾病であり,年齢が高くなるほど頻度が増すとされている。原告p5については,前記アのとおり入市被爆の との間に関連性があるとの報告もない。ま た,甲状腺機能低下症は,誰でも発症し得る一般的な疾病であり,年齢が高くなるほど頻度が増すとされている。原告p5については,前記アのとおり入市被爆の事実が認め難く,その主張を前提としても人体の健康影響の観点から有意な被曝をしているとは認められないところ,原告p5は,慢性甲状腺炎を発症した時点で59歳,甲状腺機能低下症と確認された平成8年11月の時点で62歳と比較的高齢であったから,その慢性甲状腺炎は,加齢によるものと見るのが自然かつ合理的である。よって,原告p5の慢性甲状腺炎(橋本病)に放射線起因性は認められない。 (5)原告p6(以下「原告p6」という。)について(原告p6の主張)ア被爆状況等原告p6(当時10歳)は,昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,国民学校の生徒であったが,長崎市上j町○番地の自宅(爆心地から約2. 7キロメートル)の居間にいたところ被爆した。原告p6は,その約1時間後,k町に住んでいた父及び長姉の捜索をするため,きょうだいと共にj水源池の脇の道を歩いてE山を越え,u天主堂(同約500メートル)の近くの神学校まで行ったが,それ以上進むことができず,自宅に引き返した。原告p6は,被爆当日から食欲がなくなり,下痢がしばらく続いた。 以上のような被爆状況等に照らすと,原告p6が初期放射線のみならず誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 イ放射線起因性前記のとおり,相当量の放射線に被曝すると甲状腺機能低下症を発症し,特に若年被爆者についてはリスクがより高いとされており,新審査の方針の改定の際には甲状腺機能低下症が積極認定の対象疾病に加えられているところ,原告p6は, 射線に被曝すると甲状腺機能低下症を発症し,特に若年被爆者についてはリスクがより高いとされており,新審査の方針の改定の際には甲状腺機能低下症が積極認定の対象疾病に加えられているところ,原告p6は,前記アのとおり相当量の放射線に被曝しており,被 爆当時10歳という若年であったこと等に照らすと,原告p6の甲状腺機能低下症の放射線起因性は優に認められるというべきである。新審査の方針に照らしても,原告p6については,迅速かつ積極的に原爆症認定が行われるべきである。 (被告の主張)ア被爆状況等原告p6の被爆者健康手帳交付申請書には入市についての記載は一切なく,原告p6は,原爆症認定の申請をする直前の平成18年8月9日には,p10 医師に対し,被爆当日にlに山を越えて逃げた旨を話している上,その説明する入市ルート等も不自然であり,原告p6の主張する被爆状況等は信用することができない。また,原告p6の主張を前提としても,その初期放射線による被曝線量は低く,その後の入市によっても,誘導放射線により人体の健康被害の観点から見て有意な線量の外部被曝及び内部被曝をしたとはいい難いし,仮に最も放射性降下物の影響があるとされるj地区で黒い雨を受けたとして計算しても,被曝線量は高くない(推定被曝線量は,多く見積もっても0.34グレイを下回る。)。また,被爆後,原告p6に下痢の症状があったとは認められない。 イ放射線起因性前記のとおり,低線量被曝と甲状腺機能低下症との間に放射線関連性があるとの報告はない上,甲状腺機能低下症は誰でも発症し得る一般的な疾病であり,年齢が高くなるほど頻度が増すとされているところ,原告p6については,前記アのとおり人体の健康影響の観点から有意な被曝をしているとは認められないし,甲状腺機 症は誰でも発症し得る一般的な疾病であり,年齢が高くなるほど頻度が増すとされているところ,原告p6については,前記アのとおり人体の健康影響の観点から有意な被曝をしているとは認められないし,甲状腺機能低下状態になった当時,68歳と比較的高齢であったから,その甲状腺機能低下症は,加齢により発生したものと見るのが自然かつ合理的である。よって,原告p6の甲状腺機能低下症に放射線起因性は認められない。 (6)原告p7(以下「原告p7」という。)について(原告p7の主張)ア被爆状況等原告p7(当時19歳)は,昭和20年8月6日の広島原爆投下時,広島市m町の広島第一陸軍病院m分院(爆心地から約3.6キロメートル)に入院中であり,同病院の木造建物内で被爆した。原告p7は,その後,同病院に避難してきた女性10人近くを男性数名と共に爆心地の方にある自宅付近まで送り届けることになり,同日午前9時頃,川沿いを爆心地の方へ歩いた。原告p7は,2時間ほど爆心地付近を歩き回った後,昼食に間に合うように病院に戻った。原告p7は,同日から同月15日まで,上記病院において遺体を霊安室に運ぶ手伝いをしたり,医師や看護師と共に数回にわたり広島市内の救護所を回ったりした。原告p7は,被爆してから数日後から同月16日頃まで,下痢や吐き気,頭痛に悩まされた。 以上のような被爆状況等によると,原告p7が初期放射線のみならず誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 イ急性心筋梗塞(放射線起因性)原告p7は,前記アのとおり相当量の放射線に被曝しており,原爆放射線と心筋梗塞の発症との間に有意な関係が認められることは既に医学的・疫学的知見から明らかになっていること等に照らせば, 性)原告p7は,前記アのとおり相当量の放射線に被曝しており,原爆放射線と心筋梗塞の発症との間に有意な関係が認められることは既に医学的・疫学的知見から明らかになっていること等に照らせば,原告p7の急性心筋梗塞が原爆放射線に起因するものであることは明らかである。新審査の方針に照らしても,原告p7については,迅速かつ積極的に原爆症認定が行われるべきである。 ウ白血球減少症(放射線起因性及び要医療性)白血球減少症は疾病であり,原告p7については,白血球が恒常的に減少していることは明らかであって,白血球減少症の症候が認められる。そ して,原告p7は,前記アのとおり相当量の放射線に被曝しており,白血球減少症を含む造血機能障害の放射線起因性は疫学的にも認められているから,原告p7の白血球減少症については放射線起因性が認められる。 原告p7は,白血球減少症につき,現在も通院治療中であるから,要医療性が認められることは明らかである。 (被告の主張)ア被爆状況等原告p7の被爆者健康手帳交付申請書や認定申請書等には被爆当日の午前中に爆心地の方に行った旨の記載は全くなく,その供述内容も不自然であって信用できない。また,入市した回数等についても上記各書類等の内容に明らかな変遷が見られ,直ちに信用することはできない。そうすると,原告p7は,被爆当日に爆心地方向に入市したことはなく,翌日以降に一,二回入市したとしても爆心地から2キロメートル以遠であったというべきであり,その初期放射線による被曝線量は低く,誘導放射線等によって原告p7が人体の健康被害の観点から見て有意な被爆をしたともいい難いし,遺体の運搬等による人体からの誘導放射線等による外部被曝又は内部被曝についても,極めて低線量であるとい く,誘導放射線等によって原告p7が人体の健康被害の観点から見て有意な被爆をしたともいい難いし,遺体の運搬等による人体からの誘導放射線等による外部被曝又は内部被曝についても,極めて低線量であるといえる(推定被曝線量は0.0007グレイ以下である。)。また,被爆後に,原告p7に下痢や吐き気といった症状が現れたとは認められず,仮にこれらの症状があったとしても,放射線被曝以外の原因によるものというべきである。 イ急性心筋梗塞(放射線起因性)心筋梗塞は,放射線に被曝していなかったとしても種々の危険因子の下で発症し得るものであるところ,原告p7は,加齢,高血圧といった心筋梗塞の危険因子を複数有していた上,被爆していない原告の弟妹も心疾患を発症していることを踏まえると,原告p7の心筋梗塞は,これらの原因によるものと見るのが自然かつ合理的である。また,前記のとおり,低線 量被曝について心筋梗塞との関連性を認める的確な疫学的知見もないところ,原告p7が人体の健康被害の観点から見て有意な線量の被曝をしたとはいい難いことは,前記アのとおりである。よって,原告p7の急性心筋梗塞に放射線起因性は認められない。 ウ白血球減少症(放射線起因性及び要医療性)原告p7の白血球数が,恒常的,継続的,慢性的に一般の標準値と比較して著しく少ない状態にあるとは認められず,原告p7が白血球減少症であると認めることは困難である。また,放射線に被曝した場合,白血球は,被曝により骨髄抑制が生じ,一時的に新しい白血球が作られないため徐々に減少し,その後,次第に回復するものであるところ,原告p7について白血球数が少ない状態が続いているのであれば,放射線被曝による白血球減少症の特徴と整合しない。よって,仮に原告p7が白血球減少症であるとしても,その放射線 回復するものであるところ,原告p7について白血球数が少ない状態が続いているのであれば,放射線被曝による白血球減少症の特徴と整合しない。よって,仮に原告p7が白血球減少症であるとしても,その放射線起因性は認められない。 また,白血球減少症は一般的に治療を要する疾病ではなく,原告p7についても積極的な治療が行われた形跡はない。よって,原告p7の白血球減少症については,要医療性がない。 (7)原告p8(以下「原告p8」という。)について(原告p8の主張)ア被爆状況等原告p8(当時19歳)は,昭和20年8月6日の広島原爆投下時,軍の部隊に所属し,演習のために広島市m町の部隊本部付近(爆心地から約3.5キロメートル)の路上にいたところ,被爆し,顔面の皮膚が溶けるけがをした。原告p8は,その後,同所において,重傷者の手当等をしていたところ,黒い雨に遭遇した。さらに,原告p8は,同月8日午前10時頃から入市してn町(同約2キロメートル)に赴き,警備等の作業に従事し,同月10日午前10時頃,交代のためn町を出発した。原告p8は, 同月8日頃から鼻血が続き,同月20日頃から下痢やめまいに悩まされるようになった。 以上のような被爆状況等によると,原告p8が初期放射線のみならず誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 イ貧血症(放射線起因性及び要医療性)原告p8は,前記アのとおり相当量の放射線に被曝しており,原爆被爆者の中に鉄欠乏性貧血や正球性正色素性貧血が見られ,貧血の有病率が他の集団に比べて高いことが指摘されているからすれば,原告p8の貧血症(正球性正色素性貧血である。)が放射線に起因するものであることは明らかである。 貧血や正球性正色素性貧血が見られ,貧血の有病率が他の集団に比べて高いことが指摘されているからすれば,原告p8の貧血症(正球性正色素性貧血である。)が放射線に起因するものであることは明らかである。 また,原告p8は,貧血症について現在も通院治療中であり,要医療性が認められることは明らかである。 ウ心筋梗塞(放射線起因性)原告p8は,前記アのとおり相当量の放射線に被曝しており,原爆放射線と心筋梗塞の発症との間に有意な関係が認められることは既に医学的・疫学的知見から明らかになっていること等に照らせば,原告p8の心筋梗塞が原爆放射線に起因するものであることは明らかである。新審査の方針に照らしても,原告p8については,迅速かつ積極的に原爆症認定が行われるべきである。 (被告の主張)ア被爆状況等原告p8の初期放射線による被曝線量は低く,その後,仮に黒い雨に遭遇したとしても,放射性降下物により人体の健康被害の観点から有意な被曝をしたということはできないし,重傷者を手当した際などに誘導放射線により人体の健康被害の観点から見て有意な線量の外部被曝及び内部被曝 をしたとも認められない(推定被曝線量は0.001グレイ以下である。)。 また,被爆後,原告p8に下痢や鼻血といった症状が現れたとは認められず,仮にそのような症状があったとしても,放射線被曝による急性症状の特徴と整合しないから,それらは放射線被曝を原因とするものであるとはいえない。 イ貧血症(放射線起因性及び要医療性)放射線被曝による貧血は,骨髄の造血組織が害されることにより赤血球が減少するものであり,被曝から長期間経過後に発症したり長期間にわたって継続するものではないところ,原告p8の貧血症は被爆の4年後であり,その後も落ち 血は,骨髄の造血組織が害されることにより赤血球が減少するものであり,被曝から長期間経過後に発症したり長期間にわたって継続するものではないところ,原告p8の貧血症は被爆の4年後であり,その後も落ち着いたり悪くなったりを繰り返しているから,放射線被曝による貧血の特徴に整合しない。また,現在,疫学的には被曝に密接な関係のある貧血はないと考えられている上,原告p8が人体の健康被害の観点から見て有意な被曝をしたと認められないことは,前記アのとおりである。よって,原告p8の貧血症に放射線起因性は認められない。 また,原告p8の貧血症については,積極的な治療が行われておらず,定期的な検査や単なる経過観察のみでは要医療性は認められないのであるから,原告p8の貧血症に要医療性は認められない。 ウ心筋梗塞(放射線起因性)心筋梗塞は,放射線に被曝していなかったとしても種々の危険因子の下で発症し得るものであるところ,原告p8は,加齢,高血圧,脂質異常症(高脂血症)といった心筋梗塞の危険因子を複数有していたから,原告p8の心筋梗塞は,これらの原因によるものと見るのが自然かつ合理的である。また,前記のとおり,低線量被曝について心筋梗塞との関連性を認める的確な疫学的知見もないところ,原告p8が人体の健康被害の観点から見て有意な被曝をしたと認められないことは,前記アのとおりである。よって,原告p8の心筋梗塞に放射線起因性は認められない。 (8)原告p9(以下「原告p9」という。)について(原告p9の主張)ア被爆状況等原告p9(当時4歳)は,昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,長崎市o町○番地の自宅(爆心地から約2.1キロメートル)におり,玄関内で被爆した。その後,降ってきた雨に打たれ,自宅近くのF山 原告p9(当時4歳)は,昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,長崎市o町○番地の自宅(爆心地から約2.1キロメートル)におり,玄関内で被爆した。その後,降ってきた雨に打たれ,自宅近くのF山で野宿するなどしていたが,同月11日朝,両親の郷里である大分県へ向かうため,自宅からu川に沿って爆心地近くを通り,G駅まで歩いて行った。原告p9には明確な急性症状の記憶はないが,背中に黒い斑点が多数残っている。 なお,原告p9の母は白血病で死亡しており,父も肺結核で死亡したが病状は母と同様であった。 以上のような被爆状況等によると,原告p9が初期放射線のみならず誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 イ放射線起因性前記のとおり,相当量の放射線に被曝すると甲状腺機能低下症を発症し,特に若年被爆者についてはリスクがより高いとされており,新審査の方針の改定の際には甲状腺機能低下症が積極認定の対象疾病に加えられているところ,原告p9は,前記アのとおり相当量の放射線に被曝しており,被爆当時4歳という若年であったこと等に照らすと,原告p9の甲状腺機能低下症の放射線起因性は優に認められるというべきである。新審査の方針に照らしても,原告p9については,迅速かつ積極的に原爆症認定が行われるべきである。 (被告の主張)ア被爆状況等原告p9は,被爆者健康手帳交付申請書には,「投下後3日間」防空壕 に避難した旨を記載しているから,原告p9が被爆の2日後にG駅まで歩いていったとは認められないし,原爆症認定申請書の記載内容に照らし,黒い雨に遭った旨の供述もにわかに信用し難い。また,原告p9の主張を前提としても,その初期放射線による被曝線量は低く,そ G駅まで歩いていったとは認められないし,原爆症認定申請書の記載内容に照らし,黒い雨に遭った旨の供述もにわかに信用し難い。また,原告p9の主張を前提としても,その初期放射線による被曝線量は低く,その後の入市によっても,誘導放射線により人体の健康被害の観点から見て有意な線量の外部被曝及び内部被曝をしたとはいい難いし,仮に最も放射性降下物の影響があるとされるj地区で黒い雨を受けたとして計算しても,被曝線量は高くない(推定被曝線量は,多く見積もっても0.37グレイを下回る。)。 イ放射線起因性前記のとおり,低線量被曝と甲状腺機能低下症との間に放射線関連性があるとの報告はない上,甲状腺機能低下症は誰でも発症し得る一般的な疾病であり,年齢が高くなるほど頻度が増すとされている上,原告p9は,甲状腺機能低下症ではなく,発症頻度の高い潜在性甲状腺機能低下症であるとみるべきところ,原告p9は,潜在性甲状腺機能低下状態になった当時,64歳と比較的高齢であったから,その潜在性甲状腺機能低下症は,加齢により発生したものと見るのが自然かつ合理的である。よって,原告p9の甲状腺機能低下症に放射線起因性は認められない。 2 本件各却下処分についての国家賠償責任(争点④)について(1)違法性について(未認定原告らの主張)ア厚生労働大臣は,未認定原告らが原爆症認定の要件を満たすことが明らかであるにもかかわらず,事実認定及び法律判断を誤った本件各却下処分をしたものであり,その行為は,国家賠償法上違法である。 イまた,厚生労働大臣は,行政手続法5条1項の規定にもかかわらず,原爆症認定に必要な審査基準を定めていないのであって,審査基準を定めることなく本件各却下処分を行ったことは,同項に違反するものであり,国 家賠償法上の違法行為 5条1項の規定にもかかわらず,原爆症認定に必要な審査基準を定めていないのであって,審査基準を定めることなく本件各却下処分を行ったことは,同項に違反するものであり,国 家賠償法上の違法行為に該当する。 ウさらに,本件各却下処分の通知書には,疾病・障害認定審査会の審議の結果,原爆症とは認定しないという結論のみしか記載されておらず,同審査会においていかなる事実を前提にいかなる審議がされ,却下処分に至ったか等の実質的理由は全く記載されていないのであって,このように具体的な処分理由を全く明示することなく本件各却下処分をしたことは,行政手続法8条に違反するものであり,国家賠償法上の違法行為に該当する。 エまた,厚生労働大臣は,未認定原告らが原爆症認定の要件を満たすことが明らかであるにもかかわらず,その申請を長期間放置したものであり,その行為は,国家賠償法上違法である(後記3(1)(原告p3の主張)アからウまで参照)。 (被告の主張)ア本件各却下処分については,科学的経験則というに足りる十分な科学的知見に基づく吟味が尽くされた上で放射線起因性があるということはできないとされたものであって,これを国家賠償法上違法とする余地はない。 イまた,行政手続法5条1項の審査基準設定義務は,例外が認められないものではなく,審査基準を設定しないことに合理的な理由等がある場合には,行政庁は,審査基準を設定することを要しないと解すべきところ,原爆症認定の要件である放射線起因性及び要医療性の判断の個別具体性に鑑みれば,行政庁である厚生労働大臣が,被爆者援護法11条1項の定め以上に具体的な基準を定めることは極めて困難であるし,同条2項は,厚生労働大臣は,原爆症認定に当たり,原則として審議会の意見を聴かなければならないとしており,処分の客観的 爆者援護法11条1項の定め以上に具体的な基準を定めることは極めて困難であるし,同条2項は,厚生労働大臣は,原爆症認定に当たり,原則として審議会の意見を聴かなければならないとしており,処分の客観的な適正妥当と公正を担保し,処分を適正ならしめているから(なお,新審査の方針は,公開されていた。),原爆症認定について審査基準を設定する必要はないというべきであり,厚生労働大臣が審査基準を定めることなく本件各却下処分をしたことは,行 政手続法5条1項に違反するものではない。 ウさらに,行政手続法8条の規定による理由の提示の程度は,処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らして決定すべきところ,原爆症認定において放射線起因性がないという理由で却下処分がされる場合には,申請者の放射線起因性があるとして申請をした疾患について,申請者が提出した添付書類に基づき,医学的・科学的知見を踏まえて,その疾患が原爆放射線の影響によるものか否かが判断され,その結果,放射線起因性が認められなかったことが明らかであるし,その却下処分の基となった事実関係は申請者において明らかである。したがって,根拠条文のほか,単に「申請疾患については,通常の医学的知見に照らして放射線起因性が認められない」旨の理由付記をすれば,十分に処分庁の恣意が抑制され,申請者に対しても不服申立ての便宜が図られているというべきである。よって,本件各却下処分の通知書の理由の記載に何ら不備はなく,行政手続法8条に違反するものではない。 エまた,未認定原告らの申請から本件各却下処分をするまでに一定の期間を要したことも,国家賠償法上違法とはいえない(後記3(1)(被告の主張)アからウまで参照)。 (2)損害について(未認定原告らの主張)ア慰謝料 するまでに一定の期間を要したことも,国家賠償法上違法とはいえない(後記3(1)(被告の主張)アからウまで参照)。 (2)損害について(未認定原告らの主張)ア慰謝料未認定原告らが厚生労働大臣による前記(1)(未認定原告らの主張)の違法行為によって被った精神的損害に対する慰謝料は,各200万円が相当である。 イ弁護士費用未認定原告らは,厚生労働大臣の前記(1)(未認定原告らの主張)の違法行為により,本来不要な裁判を余儀なくされたのであって,本件訴訟 を提起するために未認定原告らがそれぞれ訴訟代理人に支払うことを約した着手金・報酬のうち各100万円については,被告が負担すべきである。 (被告の主張)争う。 3 本件不作為についての国家賠償責任(争点⑤)について(1)違法性について(原告p3の主張)ア原爆症認定申請者は,認定が迅速にされることを求める手続的権利を有しており,原爆症の被害が重篤であること,その被害が国家の行った戦争に基づく被害であり,被爆者援護法が国家補償的措置として原爆症認定制度を定めていること,多くの被爆者が認定を待ちながら亡くなっていく現実があることからすれば,その権利性は,より強く認められるべきである。 この点,水俣病認定遅延損害賠償請求事件の最判平成3年4月26日・民集45巻4号653頁(以下「平成3年最判」という。)も,「早期の処分により水俣病にかかっている疑いのままの不安定な地位から早期に解放されたいという期待,その期待の背後にある申請者の不安,焦燥の気持ちを抱かされないという利益は,内心の静穏な感情を害されない利益として,不法行為法上の保護の対象となる」として,申請者が迅速に認定を受ける権利を認めている。 イ 背後にある申請者の不安,焦燥の気持ちを抱かされないという利益は,内心の静穏な感情を害されない利益として,不法行為法上の保護の対象となる」として,申請者が迅速に認定を受ける権利を認めている。 イ厚生労働大臣は,被爆者援護法11条1項に基づく処分をすることについて,行政庁としての権限と責任を有しており,被爆者援護法の趣旨等に照らすと,その権限を行使するに当たり,申請から相当の期間内に迅速・適正に処分をする義務を負うのであって,その期間内に処分をしなかった場合には,直ちに職務上の義務違反が認められるというべきである。そして,原爆症認定申請後処分までの所要時間を積算すると,上記の相当の期間は3か月である。よって,厚生労働大臣が原爆症認定申請後3か月を経 過したにもかかわらず何らの処分をしない場合には,職務上の義務違反が認められ,国家賠償法上違法となる。 ウ仮に,国家賠償法上の作為義務違反が認められるためには相当の期間が経過した後に更に長期間にわたり遅延させていること,及び行政庁として遅延解消のために通常期待される努力を尽くさなかったことが必要であるとしても,本件においては,処分がされるまでに3か月を大幅に超えており,更に長期間にわたり遅延させていることが明らかである上,厚生労働大臣は,原爆症認定申請者の増加を見通して,標準処理期間(行政手続法6条)を設定し,必要な審査体制を整備することが期待されていたにもかかわらず,標準処理期間を定めることもなく,医療分科会の委員や事務局の人員の増員等を検討するなどもしておらず,遅延を回避するための努力を尽くしていない。 エしかも,原告p3の原爆症認定の申請は,新審査の方針の下における積極認定の対象に係るものであることは明らかであり,どんなに遅くとも,甲状腺機能低下症が積極認定の対象疾 努力を尽くしていない。 エしかも,原告p3の原爆症認定の申請は,新審査の方針の下における積極認定の対象に係るものであることは明らかであり,どんなに遅くとも,甲状腺機能低下症が積極認定の対象疾病とされてから2か月後の平成21年8月末頃には原爆症認定をすることができたはずであり,これを超えて申請を放置した本件不作為は,国家賠償法上違法である。 (被告の主張)ア原爆症認定が迅速にされることを求める手続的権利なるものを国家賠償請求における法律上保護された利益とする原告らの主張は,独自の見解というほかない。また,このような権利が認められると仮定しても,その侵害によって被る具体的な不利益の内容は,単なる不安感にとどまるのであって,これを法律上保護された利益の侵害であると見ることはできない。 平成3年最判は,難病として特殊な病像を持つ水俣病にかかっているとの疑いのあるまま不安定な地位にあることに着目して「内心の静穏な感情に対する侵害」につき不法行為の成立の余地があるとしたものであるところ, 原告らの疾病は水俣病のような病像を持つものではなく,ただ,その疾病について放射線起因性が認められるか否かが不確定な状態にあるだけであり,原告らの主張する不安感は,水俣病認定の申請者が持つ不安感とは本質的に異なる。また,被爆者は,被爆者援護法上,段階的に各種の援護を受けることができ,原爆症認定がされた場合には医療特別手当等を申請時から受給できることからすれば,原告らが原爆症認定申請に対する処分の遅滞により被ることになるという不利益は,いずれにせよ処分庁からの処分がされることにより解消される性質のものである。 イ厚生労働大臣が国家賠償法上の作為義務に違反したといえるためには,客観的にその処分のために手続上必要と考えられる期間内に処分できなか 庁からの処分がされることにより解消される性質のものである。 イ厚生労働大臣が国家賠償法上の作為義務に違反したといえるためには,客観的にその処分のために手続上必要と考えられる期間内に処分できなかったことだけでは足りず,その期間に比して更に長期間にわたり遅延が続き,かつ,その間,処分庁として通常期待される努力によって遅延を解消できたのに,これを回避するための努力を尽くさなかったことが必要である。多数の申請者に対する事務局や医療分科会の事務負担や新審査の方針の策定後の新規申請件数の急増振りを考慮すれば,申請から処分まで3か月を超えれば国家賠償法上違法であるなどとは到底考えることはできない。 ウまた,標準処理期間を定めることは行政手続法上の努力義務にすぎない上,厚生労働大臣の行う原爆症認定は,個々の申請者の被爆距離,被爆状況,被曝線量を個別的に確定した上で,申請疾病と放射線との関連性につき高度な科学的,医学的知見に基づく判断を踏まえて行う必要があり,その審査期間も個別事情によって様々であるから,標準処理期間を定めることは困難であり,これを定めることを職務上の義務ということはできない。 そして,厚生労働大臣は,新審査の方針の策定後,新規申請件数の増加にも配慮して,限られた人員体制の中で審査の迅速化のための諸施策を講じてきたのであり,これ以上の人員の増員や医療分科会の開催頻度の増加は現実的に困難である上,そのような施策を講じていれば滞留案件を迅速に 処理し得たものとも断じ難い状況にあったのであるから,厚生労働大臣がその職務上の義務に違反して漫然と原告らに対する処分を遅滞させたとはいえない。 エよって,本件不作為は,国家賠償法上違法とはいえない。 (2)損害について(原告p3の主張)原告p3が本件各不作為に て漫然と原告らに対する処分を遅滞させたとはいえない。 エよって,本件不作為は,国家賠償法上違法とはいえない。 (2)損害について(原告p3の主張)原告p3が本件各不作為により被った精神的損害に対する慰謝料は,認定すべきものを認定せずに放置したことについて100万円,原爆症認定の申請から3か月を経過した日の翌月から原爆症認定がされるまでの遅延について1か月につき1万円が相当である。 (被告の主張)争う。 第3章当裁判所の判断第1 原爆症認定における放射線起因性の判断基準(争点①) 1 放射線起因性の立証の程度等被爆者援護法10条1項,11条1項の規定によれば,原爆症認定をするためには,①被爆者が現に医療を要する状態にあること(要医療性)のほか,②現に医療を要する負傷若しくは疾病が原子爆弾の放射線に起因するものであるか,又は上記負傷若しくは疾病が放射線以外の原子爆弾の傷害作用に起因するものであって,その者の治癒能力が原子爆弾の放射線の影響を受けているため上記の状態にあること(放射線起因性)が必要であると解される。 ところで,行政処分の要件として因果関係の存在が必要とされる場合に,その拒否処分の取消訴訟において原告がすべき因果関係の立証の程度は,特別の定めがない限り,通常の民事訴訟における場合と異なるものではない。そして,訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招 来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とすると解すべきである。 そして,被爆者援護法は,給付ごとにそれぞれ支給要件を規定し 性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とすると解すべきである。 そして,被爆者援護法は,給付ごとにそれぞれ支給要件を規定しているところ,健康管理手当や介護手当の支給要件についてはいずれも弱い因果の関係で足りることが規定上明らかにされていること(被爆者援護法27条1 項,31条)と対比すると,原爆症認定については,実体法上,放射線と負傷若しくは疾病の発生又は治癒能力の低下との間に通常の因果関係があることが要件とされていると解するのが相当である。 よって,原爆症認定の要件としての放射線起因性については,原告において,原爆放射線に被曝したことにより,その負傷若しくは疾病又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明する必要があり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを要すると解すべきである(最判平成12年7月18日・集民198号529頁参照)。 2 具体的な判断方法放射線起因性について前記1のとおり解するとしても,人間の身体に疾病等が生じた場合に,その発症に至る過程においては,多くの要因が複合的に関連しているのが通常であり,特定の要因から当該疾病等の発症に至った機序を逐一解明することには困難が伴う。殊に,放射線に起因する疾病等は,放射線に起因することによって特異な症状を呈するものではなく,その症状は放射線に起因しない場合と同様であり,また,放射線が人体に影響を与える機序は,科学的にその詳細が解明されているものではなく,長年月にわたる調査にもかかわらず,放射線と疾病等との関係についての知見は,統計学的,疫学的解析による有意性の確認など,限られたものにとどまっており,これらの科学的知見にも一定の限界 ものではなく,長年月にわたる調査にもかかわらず,放射線と疾病等との関係についての知見は,統計学的,疫学的解析による有意性の確認など,限られたものにとどまっており,これらの科学的知見にも一定の限界が存する。 そこで,放射線起因性の判断に当たっては,当該疾病の発症等に至った医学的・病理学的機序を直接証明することを求めるのではなく,当該被爆者の放射線への被曝の程度と,統計学的・疫学的知見等に基づく申請疾病等と放射線被曝との関連性の有無及び程度とを中心的な考慮要素としつつ,これに当該疾病等の具体的症状やその症状の推移,その他の疾病に係る病歴(既往歴),当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度等を総合的に考慮して,原子爆弾の放射線への被曝の事実が当該申請に係る疾病若しくは負傷又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして判断するのが相当である。 3 被曝線量の評価方法(1)はじめに放射線起因性の判断に当たっては,前記2のとおり,当該被爆者の放射線への被曝の程度が中心的な考慮要素の一つとなるところ,前記法令の定めによれば,厚生労働大臣が原爆症認定を行うに当たっては,原則として医療分科会の意見を聴かなければならないとされており,前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば,医療分科会は,旧審査の方針の下において,被爆者の被曝線量を①初期放射線による被曝線量の値に②残留放射線(誘導放射線)による被曝線量の値及び③放射性降下物による被曝線量の値を加えて得た値とし,④内部被曝による被曝線量は特に考慮していないのであって,新審査の方針の下においても,大枠としては同様の評価方法を踏襲しているものと認められる(弁論の全趣旨)。 そこで,以下,新審査の方針の下における医療分科会 る被曝線量は特に考慮していないのであって,新審査の方針の下においても,大枠としては同様の評価方法を踏襲しているものと認められる(弁論の全趣旨)。 そこで,以下,新審査の方針の下における医療分科会の具体的な評価方法を踏まえつつ,上記①から④までの点についてその評価方法の合理性を検討し,さらに,上記の各点に関連する⑤いわゆる遠距離被爆者及び入市被爆者に被爆後に生じた症状の評価について検討を加える。 (2)初期放射線の被曝線量の評価について ア初期放射線とは,原子爆弾のウランやプルトニウムが臨界状態に達し,爆弾が炸裂する際に放出される放射線(炸裂直前の爆弾内部で生じた核分裂反応の際に放出される即発放射線と,炸裂後に生じた火球内の核分裂生成物から放出される遅発放射線とに分かれる。)であり,主にガンマ線と中性子線からなる(乙A102,106,弁論の全趣旨)。 初期放射線による被曝線量について,旧審査の方針は,日米合同の研究者グループが1986年(昭和61年)に取りまとめた被曝線量評価体系(DosimetrySystem 1986。以下「DS86」という。)による数値に基づいて作成された表に定める申請者の被爆地及び爆心地からの距離(2.5キロメートルまで)の区分ごとの値よって推定するものとしていた(前提となる事実,乙A1,100)。DS86は,原子爆弾の物理学的特徴と,放出された放射線の量及びその放射線が空中をどのように移動し建築物や人体の組織を通過した際にどのような影響を与えたかについての核物理学上の理論的モデルとに基づいて,コンピュータにより初期放射線による被曝線量を算出したものであり,その客観性は広島及び長崎で被曝した試料を用いたガンマ線及び中性子線の測定結果による検証によっておおむね裏付けられていたが,一部の計算値と ュータにより初期放射線による被曝線量を算出したものであり,その客観性は広島及び長崎で被曝した試料を用いたガンマ線及び中性子線の測定結果による検証によっておおむね裏付けられていたが,一部の計算値と測定値の不一致の問題も指摘されていた(乙A105の1,107,弁論の全趣旨)。 DS86については,日米合同の研究者グループが再評価を行い,2002年(平成14年)に新たな線量評価体系(DosimetrySystem 2002。以下「DS02」という。)を取りまとめており,新審査の方針においては,DS02に基づく線量評価方式により初期放射線による被曝線量の推定が行われている(弁論の全趣旨)。DS02は,DS86の基本的な評価方法を踏襲しつつ,これを改良したものである(乙A104)。 イこの点,被告は,DS86の線量評価方式は再評価の過程でその信頼性が確認されたものであり,これに改良を加えたDS02の評価方式はDS 86よりも更に信頼性に勝るものであると主張し,他方,原告は,DS86の線量評価方式は爆心地から遠距離において過小評価となっており,DS02においても問題は解消されていないなどと主張するので,DS02の被曝線量評価方式の合理性について検討する。 証拠(乙A100から107まで)及び弁論の全趣旨によれば,①DS86の被曝線量評価方式は,当時の最新の核物理学の理論に基づき,高度なシミュレーション計算法と演算能力の高い高性能のコンピュータを用い,爆弾の構造,爆発の状況,爆発が起きた環境(大気の状態,密度等),被爆者の状態等に関する諸条件を可能な限り厳密かつ正確に再現し,データ化して被曝線量を推定したものであること,②DS86は,国際放射線防護委員会(以下「ICRP」という。)による基準の根拠としても用いられ,世界の放射線防 条件を可能な限り厳密かつ正確に再現し,データ化して被曝線量を推定したものであること,②DS86は,国際放射線防護委員会(以下「ICRP」という。)による基準の根拠としても用いられ,世界の放射線防護の基本的資料とされるなど,世界中において優良性を備えた体系的線量評価方式として取り扱われてきたこと,③DS02は,DS86の基本的な評価方法を踏襲した上で,更に進歩した最新の大型コンピュータを駆使し,最新のデータやDS86の策定後に可能となった最新の計算法を用いるなどして,DS86よりも高い精度で被曝線量の評価を可能にしたものであること等が認められ,他方,DS02の線量評価方式の計算過程に疑問を抱かせるべき事情や,より高次の合理性を備えた線量評価方式が他に存在することを認めるに足りる証拠はない。そうすると,DS02の線量評価方式は,被爆者の初期放射による被曝線量を高い精度で算定することが可能な相当の科学的合理性を有するものであるということができる。 もっとも,DS02は,コンピュータによるシミュレーション計算の結果を基礎として策定されたものである以上,それに基づく被曝線量の計算値(推定値)は,飽くまでも近似的なものにとどまらざるを得ない上,広島原爆及び長崎原爆は,兵器として使用され,甚大な被害を生じさせたの であって,そのような被害の実態がどこまでシミュレーションに反映されているかについての疑問が完全に払拭されているとはいい難い。また,特に広島原爆については,同じ型の爆弾による実験・測定結果がないこと等もあり,線量評価の前提となる爆弾の出力推定が比較的困難であるとされている(甲A11,乙A104)。 そして,初期放射線のうちガンマ線については,爆心地から約1000メートル以遠の距離におけるDS86による線量計算値が過小評価であ 出力推定が比較的困難であるとされている(甲A11,乙A104)。 そして,初期放射線のうちガンマ線については,爆心地から約1000メートル以遠の距離におけるDS86による線量計算値が過小評価である可能性が指摘されていたところ(甲A8),DS02で再検討が行われた結果,結論的には,DS02による計算値は,測定値と全体的に良く一致しているとされたものの,広島原爆については,遠距離では測定値が計算値よりも高いことを示唆する若干の例があるとされ,また,広島原爆及び長崎原爆の爆心地から約1500メートル以遠の距離におけるガンマ線量の測定値については,バックグラウンドの誤差に大きく影響されるので,正確に決定することができないとされたこと等(乙A105の1)からすると,上記の過小評価の可能性は,特に広島原爆において,DS02による検証を経てもなお完全には否定することができないというべきである。 また,初期放射線の熱中性子線(運動エネルギーの低い中性子線)については,DS86において,計算値とコバルト60の測定値の系統的な不一致(計算値が,爆心地から近距離では測定値よりも大きく,遠距離になると測定値を下回り,爆心地から1180メートルの地点においては,測定値の3分の1になるというもの)があることが指摘されていたが(乙A107),DS02においては,コバルト60以外に,ユーロピウム152や塩素36についても解析が行われ,ユーロピウム152についてバックグラウンドの影響を極めて低く押さえた環境で高い検出効率での測定を行い,塩素36について加速器質量分析法(AMS)によって熱中性子により誘導放射化した塩素36の放射化測定実験を行うなどしたところ,D S02による計算値とよく一致したとされる(乙A105の2,107)。 もっとも,前記のバックグ AMS)によって熱中性子により誘導放射化した塩素36の放射化測定実験を行うなどしたところ,D S02による計算値とよく一致したとされる(乙A105の2,107)。 もっとも,前記のバックグラウンドの影響を極めて低く押さえた環境における測定においても,爆心地から1400メートル付近ではコバルト60及びユーロピウム152の測定値がいずれも計算値を上回っており,塩素36についても,爆心地からの地上距離が1100から1500メートル以遠では測定が困難であるというのであるから(乙A105の2),広島原爆及び長崎原爆の爆心地から約1500メートル以遠の距離における熱中性子線量の計算値が過小評価である可能性は,DS02においても,なお完全には否定することができないというべきである。 さらに,初期放射線の速中性子線(運動エネルギーの高い中性子線)については,DS86において,広島原爆のリン32の測定値と計算値とが比較され,爆心地から数百メートル以遠の距離で一致しているかどうかを言うには測定値の誤差が大きすぎるとされていたところ(乙A112),その後,銅試料中のニッケル63を測定することによって速中性子線を測定する方法が開発され,広島原爆の爆心地から900から1500メートルの距離における速中性子の測定値が初めて得られた結果,ニッケル63の測定値とDS86及びDS02の計算値が良く一致するとされた(乙A105の2)。もっとも,広島原爆の速中性子線の測定値は,爆心地から1470メートルの地点ではDS02に基づく推定線量の1.88±1. 72倍となっており,遠距離における測定値と計算値のずれは解消されていないし,爆心地から1800メートル以遠のバックグラウンドについては依然として完全には理解されておらず,さらに検討すべきものとされている(乙A1 り,遠距離における測定値と計算値のずれは解消されていないし,爆心地から1800メートル以遠のバックグラウンドについては依然として完全には理解されておらず,さらに検討すべきものとされている(乙A105の2)。 以上のとおり,DS02においても,爆心地から1300から1500メートル以遠において初期放射線の被曝線量を過小評価している可能性を完全には否定することができない。もっとも,DS02において,バック グラウンドによる測定自体の誤差等が検討され,バックグラウンドの影響を極めて低くした精度の高い測定を行うなどした結果,完全とはいえないまでも,測定値とDS86による計算値との不一致がバックグラウンドによる測定自体の誤差等の問題として相当程度解決されたと評価し得ること等からすると,DS02において,爆心地から遠距離における初期放射線の被曝線量が過小評価されている可能性があるとしても,その絶対値はそれほど大きなものであるとは考え難く,これを過大視することはできないというべきである。 ウ以上によれば,DS02は相当の科学的合理性を有し,これによって初期放射線の被曝線量を推定することは合理的といえるが,その適用については,前記の観点から一定の限界が存することにも十分留意する必要があるというべきである。 (3)誘導放射線の被曝線量の評価についてア誘導放射線とは,原子爆弾の初期放射線の中性子が建物や土壌等を構成する物質の特定の元素の原子核と反応を起こすこと(誘導放射化)によって生じた放射性物質(誘導放射化物質)が放出する放射線である(乙A102,106,弁論の全趣旨)。 誘導放射線による外部被曝線量について,旧審査の方針は,前記前提となる事実のとおり,申請者の被爆地,爆心地からの距離(広島原爆については700メートルまで,長 A102,106,弁論の全趣旨)。 誘導放射線による外部被曝線量について,旧審査の方針は,前記前提となる事実のとおり,申請者の被爆地,爆心地からの距離(広島原爆については700メートルまで,長崎原爆については600メートルまで)及び爆発後の経過時間(72時間まで)の区分に応じた所定の値としていた。 これに対し,新審査の方針には,誘導放射線による外部被曝線量の算定基準は明示されていないが,医療分科会においては,旧審査の方針の考え方を基本的に踏襲し,その後に現れたDS02に基づくp11 の研究(乙A106。以下「p11 論文」という。)等をも踏まえて線量を算定・評価しているものと認められる(乙A1,10,106,弁論の全趣旨)。 イ p11 論文は,誘導放射線による地上1メートルでの外部被曝線量(空気中組織カーマ)を求めた結果,爆発直後から無限時間同じところに居続けたと仮定したときの放射線量(積算線量)は,爆心地においては広島で120センチグレイ,長崎で57センチグレイ,爆心から1000メートルでは広島で0.39センチグレイ,長崎で0.14センチグレイ,爆心から1500メートルでは広島で0.01センチグレイ,長崎で0.005センチグレイとなったとし,これ以上の距離での誘導放射線被曝は無視して構わないと結論している(乙A106)。そして,その計算過程の合理性を疑わせる事情は特に見当たらないこと等に照らすと,医療分科会が新審査の方針において用いている誘導放射線による外部被曝線量の算定方法は,相当の科学的根拠に基づくものということができる。 しかしながら,広島及び長崎の土壌に由来する誘導放射線については,誘導放射化物質となり得る元素の含有量・濃度に測定者や測定場所によってかなりのばらつきがあることが認められ(乙A112,129) 。 しかしながら,広島及び長崎の土壌に由来する誘導放射線については,誘導放射化物質となり得る元素の含有量・濃度に測定者や測定場所によってかなりのばらつきがあることが認められ(乙A112,129),計算の前提に一定の制約があるということができる。また,p11 論文では,地表面(土壌)から生ずる誘導放射線(ガンマ線)を地表1メートルの高さで積算しているところ,原子爆弾の中性子によって誘導放射化するものとしては,土壌のみならず,建物等の建築資材,空気中の塵埃,人体や遺体等も想定される上(弁論の全趣旨),被曝の形態も,誘導放射化した塵埃等が身体に付着した場合や,口や傷から体内に取り入れられた場合,誘導放射化した瓦礫や人体に接触した場合など様々なものが考えられるのであって,上記の方法によってこれらすべての場合を的確に算定できるものとはいい難い。さらに,p11 論文は,爆心地から600から700メートル以遠においては,原子爆弾の中性子線がほとんど届かないため誘導放射線もほとんど発生しないことを前提としているが,原子爆弾の爆発時に生じた強烈な衝撃波や爆風によって,誘導放射化した土壌等が粉塵となって舞 い上がり,遠距離(広島原爆における粉塵の水平スケールは4500メートルと見積もられている。)に飛散する可能性も十分にあると認められる(甲A69,乙A122)。また,p11 論文は,爆心地から1000メートル地点の誘導放射線による外部被曝線量は1センチグレイにも満たないとするが,後記のとおり,初期放射線にほとんど被曝していないいわゆる入市被爆者や遠距離被爆者にも放射線被曝による急性症状とみられる症状が一定割合生じている旨の調査結果が複数報告されており,これらの調査結果については,上記の外部被曝線量評価だけでは合理的に説明することが困難であ 距離被爆者にも放射線被曝による急性症状とみられる症状が一定割合生じている旨の調査結果が複数報告されており,これらの調査結果については,上記の外部被曝線量評価だけでは合理的に説明することが困難である。 ウこれらの点を考慮すると,新審査の方針の下における誘導放射線による被曝線量の評価については,過小評価となっている疑いが強いというべきであり,実際に被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,爆心地から600から700メートル以遠の地域(広島原爆についていえば,上記粉塵の水平スケールに照らし,少なくとも爆心地から2250メートル以内の地域)にも誘導放射化物質が相当量存在していた可能性を考慮に入れ,かつ,その被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らして,誘導放射化された放射性物質による様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性を十分に検討する必要があるというべきである。 (4)放射性降下物による放射線の被曝線量の評価についてア放射性降下物による放射線とは,原子爆弾の核分裂によって生成された放射性物質(核分裂生成物)等で地上に降下したものが放出する放射線である(乙A102,弁論の全趣旨)。 放射性降下物による放射線の外部被曝線量について,旧審査の方針は,原爆投下の直後に所定の地域に滞在し,又はその後,長期間にわたって当該地域に居住していた場合についてそれぞれ所定の値としており,具体的には,広島原爆についてはp又はq(以下「p・q地区」という。)につ き0.6から2センチグレイ,長崎原爆についてはj○,○丁目又はr(以下「j地区」という。)につき12から24センチグレイとしていた(前提となる事実,乙A1,弁論の全趣旨)。これに対し,新審査の方針には,放射性降下物による放射線の外部被曝線量の算定基準は明 はr(以下「j地区」という。)につき12から24センチグレイとしていた(前提となる事実,乙A1,弁論の全趣旨)。これに対し,新審査の方針には,放射性降下物による放射線の外部被曝線量の算定基準は明示されていないが,医療分科会においては,旧審査の方針の考え方を基本的に踏襲し,DS86に基づく分析結果によって線量を算定・評価しているものと認められる(乙A1,10,弁論の全趣旨)。 イ放射性降下物については,原子爆弾投下の数日後から複数の測定者が放射線量の測定を行い,これらの調査の結果,広島ではp・q地区で,長崎ではj地区で,それぞれ放射線の影響が比較的顕著に見られることが分かり,これは,原子爆弾の爆発後,両地区において激しい降雨があり,これによって放射性降下物が降下したことによるものであることが確認された(乙A102,108から112まで,弁論の全趣旨)。そして,DS86に基づく前記分析は,これらの調査結果を総括して,j地区における放射性降下物の累積的被曝への寄与は,おそらく20から40レントゲンの範囲であり,p・q地区では,おそらく1から3レントゲンの範囲であるとし,これを組織吸収線量に換算すると,長崎については12から24ラド(0.12から0.24グレイ),広島については0.6から2ラド(0. 006から0.02グレイ)になると結論付けている(乙A112)。同分析は,原子爆弾投下直後の調査に基づく複数の調査報告等を総括したものであり,また,その後の調査結果による推定値もこれと特に矛盾するものではないこと(甲A27,乙A108)等をも考慮すると,医療分科会が新審査の方針において用いている放射性降下物による放射線の外部被曝線量の算定方法は,相当の科学的根拠に基づくものということができる。 しかしながら,放射性降下物の測定結果につ 慮すると,医療分科会が新審査の方針において用いている放射性降下物による放射線の外部被曝線量の算定方法は,相当の科学的根拠に基づくものということができる。 しかしながら,放射性降下物の測定結果については,上記分析自体がその精度が非常に低いことを強調しており(乙A112),しかも,放射性 降下物は必ずしも一様に存在していたわけではなく,降下形態やその後の集積により局地的に強い放射線を出す場合があり得る(原子爆弾投下後数か月以内の複数の測定結果からは,放射性降下物が相当不均一に存在していたことが推認される(甲A73,乙A109から111まで)。)こと等をも考慮すると,上記算定方法による放射性降下物による放射線の外部被曝線量の算定に当たっては,上記のような測定精度や測定資料等の制約から一定の限界が存することに十分留意する必要があるというべきである。 また,旧審査の方針においては,特定の地域についてのみ放射性降下物による放射線の外部被曝線量を算定することとされていたが,広島原爆投下後の降雨域は相当に広いものであり(甲A27,68から70まで,乙A108),p・q地区以外の地域でも相当量の放射性降下物を含む降雨があったことが推認され,長崎原爆についても,j地区以外の地域における降下物の目撃供述があるとされている(甲A65)。しかも,上記算定方法は,放射性降下物による放射線(ガンマ線)を地表1メートルの高さで積算するものであるが,放射性降下物についても,誘導放射線についてと同様,放射性物質である放射性降下物に直接接触したり,これを体内に摂取したりすることによる,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性があることを否定することができない。さらに,放射性降下物は土壌に均一に存在しているとは限らず,放射性降下物が集積し局地的に強い放射線 たりすることによる,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性があることを否定することができない。さらに,放射性降下物は土壌に均一に存在しているとは限らず,放射性降下物が集積し局地的に強い放射線を放出している場合もあり得,これに接触し又は接近することにより相当量の被曝をする可能性も考えられる。また,旧審査の方針によれば,広島原爆の放射性降下物による放射線の外部被曝線量は最大でもわずか2センチグレイ(0.02グレイ)とされているが,原子爆弾投下直後の調査結果においては,放射性降下物の影響であるとみられる現象や症状が報告されており(甲A69),これらの現象や症状を上記の線量によって合理的に説明することは困難である。 ウこれらの点を考慮すると,新審査の方針の下における放射性降下物による被曝線量の評価は,過小評価となっている疑いが強いというべきであり,実際に被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,p・q地区又はj地区以外の地域にも放射性降下物が相当量降下し又は浮遊していた可能性を考慮に入れ,かつ,当該被爆者の被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らし,放射性降下物による様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に検討する必要があるというべきである。 (5)内部被曝の影響の評価についてア内部被曝とは,呼吸,飲食,外傷,皮膚等を通じて体内に取り込まれた放射性物質が放出する放射線による被曝をいう(弁論の全趣旨)。 旧審査の方針においては,内部被曝による被曝線量は特に考慮されておらず,新審査の方針の下においても,医療分科会は,旧審査の方針の考え方を基本的に踏襲し,内部被曝による被曝線量を特に考慮していないものと認められる(乙A10,弁論の全趣旨)。 イ内部被曝については,昭和44年及び昭和56年 ても,医療分科会は,旧審査の方針の考え方を基本的に踏襲し,内部被曝による被曝線量を特に考慮していないものと認められる(乙A10,弁論の全趣旨)。 イ内部被曝については,昭和44年及び昭和56年に長崎のj地区住民を対象とするセシウム137の測定結果を用いて,昭和20年から昭和60年までの40年間に及ぶ内部被曝線量を積算したところ,男性で10ミリレム(0.0001グレイ),女性で8ミリレム(0.00008グレイ)と推定されたと報告されており(乙A112),医療分科会が内部被曝による被曝線量を考慮していないのは上記のような科学的知見に基づくものであるところ(弁論の全趣旨),上記報告の他にも,広島原爆投下当日に爆心地から1キロメートル以内の地点において8時間の片付け作業に従事した場合の内部被曝線量の推定は0.06マイクロシーベルトであるとして,外部被曝に比べ無視できるレベルであるとする研究(p11 論文)もあり,これらによれば,内部被曝による被曝線量を特に考慮しない医療分科会の方針は,相当の科学的根拠に基づくものということができる。 しかしながら,上記の報告等からは,短時間で大きな内部被曝を生じさせる可能性のある半減期の短い放射性物質等による内部被曝線量については不明である上,前記のとおり,爆心地付近に限らず局地的に放射性降下物や誘導放射化物質が集積するなどしている場合があり得ることも考慮すると,内部被曝線量は無視し得る程度のものであると評価することには,なお疑問が残るといわざるを得ない。 また,被告は,内部被曝と外部被曝は同じ臓器線量であれば健康への影響も同等であると主張しており,これに沿う証拠(乙A10)もあるが,他方で,内部被曝については,①ガンマ線の線量は線源からの距離に反比例するから,同一の放射線核種による被曝で 線量であれば健康への影響も同等であると主張しており,これに沿う証拠(乙A10)もあるが,他方で,内部被曝については,①ガンマ線の線量は線源からの距離に反比例するから,同一の放射線核種による被曝であっても,外部被曝より被曝量は格段に大きくなる,②外部被曝ではほとんど問題とならないアルファ線やベータ線を考慮する必要があり,しかもこれらは飛程距離が短いため,そのエネルギーのほとんど全てが体内に吸収され,核種周辺の体内組織に大きな影響を与える,③放射性核種が体内に沈着すると,体内被曝が長期間継続することになるといった外部被曝と異なる特徴があり,一時的な外部被曝よりも身体に大きな影響を与える可能性があるなどと指摘する見解もある(甲A44,60,129,143,194,196,234等)。 この点,現状においては,これらの見解が科学的知見として確立しているとはいい難い上,体内に取り込まれた放射性微粒子による不均等かつ継続的な被曝によってリスクが飛躍的に高まるとするいわゆるホット・パーティクル理論については,ICRP等により相当の科学的根拠をもって否定されているものの(乙A142から145まで),内部被曝の機序については必ずしも科学的に解明・実証されておらず,また,低線量放射線による継続的被曝が高線量放射線の短時間被曝よりも深刻な障害を引き起こす可能性について指摘する見解(例えば,原子力安全委員会・放射線障害防止基本専門部会・低線量放射線影響分科会は,同じ被曝線量であれば長期 にわたって被曝した場合の方がリスクも上昇するという逆線量率効果,被曝した細胞から隣接する細胞に被曝の情報が伝わるバイスタンダー効果,放射線被曝を受けた細胞集団に長期間にわたる様々な遺伝的変化が非照射時の数倍から数十倍の高い頻度で生ずる状態が続くゲノム不安定性等の可 した細胞から隣接する細胞に被曝の情報が伝わるバイスタンダー効果,放射線被曝を受けた細胞集団に長期間にわたる様々な遺伝的変化が非照射時の数倍から数十倍の高い頻度で生ずる状態が続くゲノム不安定性等の可能性を指摘する。)があり(甲A36,37,129,143から149まで,198),このような科学的知見を一概に無視することはできないこと,後記のとおり,いわゆる入市被爆者等に放射線被曝による急性症状とみられる症状が一定割合生じているとの調査結果があり,推定される外部被曝線量だけでは必ずしもこれを十分に説明し得ないこと,広島原爆投下の際に高放射能を持つ有害物質を含む黒塵と思われる「ガス」を吸った者は「原子症」がひどいといわれるとの報告があること(甲A69)等に照らすと,被曝線量の評価に当たって,内部被曝線量は無視し得る程度のものであるとしてこれを考慮しないことには疑問があるといわざるを得ない。 ウこの点,被告は,①体内に取り込まれた放射性核種は,人体に備わった代謝機能により体外に排出される,②チェルノブイリ原発事故では,事故後10年後辺りから甲状腺がんの有意な増加がみられるが,遠距離・入市被爆者に見られるがんにそのような傾向は見られず,内部被曝の影響があったとは考え難い,③医療の現場等においても放射性物質の投与が行われており,それによる人体影響がないというのが医療の常識であるなどとして,原子爆弾の被爆者について内部被曝の影響を重視することは誤りであると主張する。 しかしながら,①の点については,体内に取り込まれた放射性核種が体外に排出されるまでには相応の日数を要する上,短命の放射性物質による内部被曝の場合には,体外に排出されるまでに相当の内部被曝が生じているのであるから,この点をもって原子爆弾の被爆者の内部被曝を無視し得 までには相応の日数を要する上,短命の放射性物質による内部被曝の場合には,体外に排出されるまでに相当の内部被曝が生じているのであるから,この点をもって原子爆弾の被爆者の内部被曝を無視し得 るということにはならない。また,②の点については,原子爆弾の被爆者に甲状腺がんの有意な増加がみられないとする根拠が明らかではない上,チェルノブイリ原発事故により小児甲状腺がんが増加したということは,かえって,内部被曝により特定の臓器に影響を与えることを明確に裏付けるものであって,この点をもって原子爆弾の被爆者の内部被曝を無視し得るということにはならないし,被爆者とチェルノブイリ原発事故における内部被曝の状況を同一視することにも疑問があるといわざるを得ない。また,③の点については,医療上の必要により放射性物質が投与された場合に内部被曝の影響が生じていないとする根拠が明らかではない上,医療上の必要により放射性物質が投与される場合には,現在の医療水準に基づき,放射性物質による影響をできる限り少なくするための努力がされるはずであって,全く無防備で特段の事後対応もされない被爆者の場合と同視することにはそもそも疑問がある。したがって,被告の上記主張はいずれも採用することができない。 エ以上によれば,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らして,誘導放射化物質及び放射性降下物を体内に取り込んだことによる内部被曝の可能性がないかどうかを十分に検討する必要があるというべきであり,加えて,内部被曝による身体への影響には,一時的な外部被曝とは異なる特徴があり得ることを念頭に置く必要があるというべきである。 (6)遠距離被爆者及び入市被爆者に生じた症状の評価についてア遠距離被爆 被曝による身体への影響には,一時的な外部被曝とは異なる特徴があり得ることを念頭に置く必要があるというべきである。 (6)遠距離被爆者及び入市被爆者に生じた症状の評価についてア遠距離被爆者に生じた症状について放射線被曝による急性症状については,皮下出血(歯茎からの出血,紫斑を含む。)については2グレイ程度(DS02によれば,広島原爆については爆心地から1200メートル付近,長崎原爆については爆心地から1300メートル付近で被爆した場合の初期放射線量に相当する。),脱 毛及び下痢については3グレイ程度(同じく,広島原爆については爆心地から1100メートル付近,長崎原爆については爆心地から1200メートル付近で被爆した場合の初期放射線量に相当する。)のしきい線量があるとされるところ(乙A114,119,149),DS86及びp11 論文により算出される誘導放射線及び放射性降下物による外部被曝線量は,現実的には最大でもせいぜい数十センチグレイ程度であるから,上記のしきい線量を前提とすれば,広島においても長崎においても,爆心地から1500メートル以遠において皮下出血,脱毛,下痢といった放射線被曝による急性症状が生じることはほとんどないことになるはずである。 しかしながら,原子爆弾投下後比較的早期に行われた調査として,①広島・長崎における被爆20日後の生存者1万3503人を調査した結果に基づく日米合同調査団報告書(甲A6,124の10),②昭和20年10月から同年11月にかけて広島原爆の被爆者5120人を調査した結果に基づく東京帝国大学医学部診療班の原子爆弾災害調査報告(甲A86,124の9),③同年10月から同年12月にかけて長崎原爆の被爆者5853人(死亡者333人を含む。)を調査した結果に基づく報告(甲A90), 帝国大学医学部診療班の原子爆弾災害調査報告(甲A86,124の9),③同年10月から同年12月にかけて長崎原爆の被爆者5853人(死亡者333人を含む。)を調査した結果に基づく報告(甲A90),④昭和32年1月から同年7月にかけて広島原爆の被爆者4406人を調査した結果に基づく報告(甲A124の8)等があるが,これらの調査結果からは,脱毛や皮下出血(紫斑)が生じたとする者が,爆心地から1500から2000メートルの地点で被爆した者については10パーセント前後以上,2000メートル以遠で被爆した者についても数パーセント以上存在し,かつ,これらの症状(特に脱毛)を生じたとする者の割合が,爆心地からの距離や遮蔽の存在に応じて減少する傾向があると認められる(この傾向は,その他の調査結果(甲A67文献15,87から89まで,124の12等)ともおおむね合致している。)。 このような傾向に照らすと,爆心地からの距離が1500メートル以遠 において被爆した者に生じたとされる脱毛や皮下出血等の症状は,全てとはいえないまでも,その相当部分について放射線による急性症状であると見るのが自然である。ところで,前記のとおり,初期放射線による外部被曝線量は,爆心地から2000メートル以遠においては過小評価の可能性を考慮してもせいぜい十数センチグレイ程度であり,1グレイにも達しないと見られ,他方,外部被曝による脱毛や下痢のしきい線量は3グレイ程度とされていること等も考慮すると,爆心地から1500メートル以遠にみられる脱毛等の症状につき,初期放射線による外部被曝が主たる原因であると理解することもまた困難であって,むしろ,主として,誘導放射化した大量の粉塵等や放出された放射性降下物から発せられる放射線による外部被曝及び内部被曝をしたことによるものと見るの が主たる原因であると理解することもまた困難であって,むしろ,主として,誘導放射化した大量の粉塵等や放出された放射性降下物から発せられる放射線による外部被曝及び内部被曝をしたことによるものと見るのが,自然かつ合理的というべきである(なお,遮蔽の有無により急性症状の発症率に有意な差があることについては,原子爆弾の爆発直後に発生した短寿命の誘導放射化物質や放射性降下物への接触の程度に差があったためと考えることも可能である。)。 イ入市被爆者に生じた症状について原子爆弾投下時には広島市内又は長崎市内におらず,その後に市内に入った者(いわゆる入市被爆者)についても,脱毛等の放射線による急性症状とみられる症状が生じたとする複数の調査結果が存在している(例えば,①原子爆弾投下時には広島市内にいなかった者で,投下直後に広島市内に入ったものの中心地(爆心地から1キロメートル以内)には出入りしなかった104人には,発熱,下痢,脱毛等の症状はみられなかったが,同様の者で投下直後に中心地に入った525人のうち230人(43.8パーセント)にこれらの症状(急性症状の特徴を備えるもの)がみられ,そのうち投下から20日以内に中心地に出入りした人に有症率が高く,投下から1か月後に中心地に入った人の有症率は極めて低く,中心地滞在時間が 4時間以下の場合は有症率が低く,10時間以上の人に有症率が高いなどとする報告(甲A5),②広島市陸軍船舶司令部隷下の将兵(暁部隊)のうち,爆心地から約12キロメートル又は約50キロメートルの地点にいた者で原子爆弾投下後に入市して負傷者の救援活動等に従事した233人について,下痢患者が多数続出したほか,ほとんど全員が白血球3000以下と診断され,発熱,点状出血,脱毛の症状も少数ではあるがあったとする報告(甲A1 に入市して負傷者の救援活動等に従事した233人について,下痢患者が多数続出したほか,ほとんど全員が白血球3000以下と診断され,発熱,点状出血,脱毛の症状も少数ではあるがあったとする報告(甲A112の17),③賀北部隊工月中隊に所属し原子爆弾投下後に入市して作業に従事した99人に対するアンケート等調査の結果,その約3分の1が放射線による急性障害に似た諸症状を訴えており,その中には脱毛が18人,皮下出血が1人,白血球減少が11人等であったなどとする報告(乙A151資料38)等がある。)。 これらの調査結果等によれば,入市被爆者についても,放射線被曝による急性症状とみられる脱毛,下痢,発熱等の症状が少なからず生じており,爆心地付近に入った時期が早く,また滞在時間が長いほど有症率が高いという傾向があると認められるのであって,このような傾向に照らすと,上記のような症状の多くは,誘導放射線及び放射線降下物による外部被曝及び内部被曝の影響によるものとみるのが自然であり,放射線被曝以外の原因によるものと理解することは困難というべきである。 ウ被告の主張についてなお,被告は,放射線被曝による急性症状には発症時期,程度,回復時期等に明確な特徴があり,他方,自然災害や東京大空襲等の被災者にも嘔吐,下痢,脱毛等の身体症状の発症が確認されており,これらの症状は衛生状況等の悪化や精神的影響によるものと考えるのが合理的であるから,遠距離・入市被爆者にこれらの症状が見られたからといって,そのことから,当該被爆者が放射線被曝による急性症状を発症し,ひいては,有意な被曝をしたものと推論することは不当であると主張する。 しかしながら,遠距離被爆者については爆心地からの距離や遮蔽の存在等に応じて脱毛等の症状が減少し,入市被爆者については爆心地付 有意な被曝をしたものと推論することは不当であると主張する。 しかしながら,遠距離被爆者については爆心地からの距離や遮蔽の存在等に応じて脱毛等の症状が減少し,入市被爆者については爆心地付近に入った時期が早く,また滞在時間が長いほど有症率が高いという傾向が見られることは前記のとおりであり,他方,自然災害や東京大空襲等において嘔吐,下痢,脱毛等の症状が一定割合で生じたことを裏付けるに足りる的確な証拠はなく,それが遠距離・入市被爆者に生じた症状と同様の傾向を有するといえるか否かも証拠上明らかではない。そうすると,個別の遠距離・入市被爆者に生じた上記症状が放射線被曝による急性症状であるか否かについては,上記症状が放射線被曝以外の原因によっても生じ得るものであることをも踏まえて慎重に検討する必要があるとしても,遠距離・入市被爆者に生じた症状が,およそ放射線の影響によるものではないとすることは不合理であり,遠距離・入市被爆者であっても有意な放射線被曝をし得ることを否定することはできない(他方,明確な急性症状がないからといって直ちに有意な放射線被曝をしていないということにはならない。)というべきである。 (7)まとめ以上によれば,新審査の方針の下での被曝線量の算定方法は,科学的合理性を肯定することができるものの,シミュレーションに基づく推定値であることや測定精度の問題等から一定の限界が存することに十分留意する必要があることに加え,初期放射線については,爆心地から1300から1500メートル以遠において過小評価の可能性があり,誘導放射線及び放射線降下物による放射線については,内部被曝の影響を考慮していない点を含め,地理的範囲及び線量評価の両方において過小評価となっている疑いが強いという問題がある。そうすると,DS02等により算定さ 放射線降下物による放射線については,内部被曝の影響を考慮していない点を含め,地理的範囲及び線量評価の両方において過小評価となっている疑いが強いという問題がある。そうすると,DS02等により算定される被曝線量は,飽くまでも一応の目安とするにとどめるのが相当であり,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被 爆後に生じた症状等に照らし,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に検討する必要があるというべきである。 第2 未認定原告らの原爆症認定要件該当性(争点②) 1 原告p1について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(甲C1,乙C1,8,原告p1本人)(ア)原告p1は,昭和12年○○月○○日生まれの男性であり,昭和20年8月9日の長崎原爆の投下時には,長崎県西彼杵郡a村の桟橋(爆心地から約6キロメートル)にいた(当時7歳)。 (イ)原告p1は,同月10日午前8時頃,A大学の学生であった親戚を捜すため,長姉夫婦らとa村を出発し,同日昼前,b町(爆心地から約1. 5キロメートル),c町(爆心地付近)を経てA大学(爆心地から約0. 5キロメートル)及びA大付属病院(同0.7キロメートル)に至り,その付近を三,四時間程度捜索した。 (ウ)原告p1は,同月11日も,上記(イ)と同様に長崎市内に入り,親戚を三,四時間程度捜索した。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(甲C1,12,乙C1,4,17,18,証人p10,原告p1本人)(ア)原告p1には,昭和20年9月頃から,めまい,むかつき,倦怠感,下痢,下血,鼻血,歯茎からの出血 後の生活状況,病歴等(甲C1,12,乙C1,4,17,18,証人p10,原告p1本人)(ア)原告p1には,昭和20年9月頃から,めまい,むかつき,倦怠感,下痢,下血,鼻血,歯茎からの出血等の症状が現れていた。 (イ)原告p1は,平成13年12月,急性狭心症を発症し,平成14年2月,ステント留置手術を受けた。 (ウ)原告p1は,平成24年頃,H病院で冠動脈CT検査を受けたところ,左主幹部に狭窄が生じていることが発見された。 (エ)原告p1と共に長崎市内に入った原告p1の義兄は,昭和59年頃,白血病で死亡した。 (オ)原告p1は,平成11年頃,H病院で脂質異常症(高脂血症)の治療を受けており,その総コレステロール値(mg/dl)は,平成10年7月には220,平成11年7月には239,同年11月には233,平成12年5月には250,急性狭心症と診断された平成13年12月には220であったが,これら以外の検査結果は正常値(150から219まで)の範囲内であった。 (カ)原告p1は,20歳頃に喫煙を開始し,当初は1日当たり五,六本程度,30歳代前半頃からは1日当たり20本程度のたばこを吸っていたが,急性狭心症の発症を機に喫煙をやめた。 (キ)原告p1は,急性狭心症の発症以来,その再発を防ぐため,抗凝固剤,冠血管拡張剤等を服用している。 (2)事実認定の補足説明ア被告は,昭和20年8月11日に長崎市内に入ったとする原告p1の供述はにわかに信用し難いと主張する。 しかしながら,原告p1は,平成2年5月22日に作成した被爆者健康手帳交付申請書(乙C8)において,「初めて入市した日」を8月10日とした上で,それ以外にも「s町にまた行きました」と記載しており,2日にわたって長崎市内に入ったとする点においては当時 た被爆者健康手帳交付申請書(乙C8)において,「初めて入市した日」を8月10日とした上で,それ以外にも「s町にまた行きました」と記載しており,2日にわたって長崎市内に入ったとする点においては当時から一貫していること,死亡した母の代わりに原告p1を養育していた長姉夫婦(甲C1)が原告p1を親戚に預けるなどせずに二度にわたって長崎市内に同行したとしても不自然とはいえないこと等に照らすと,昭和20年8月11日にも長崎市内に入ったとする原告p1の供述は信用することができる。よって,被告の上記主張は採用することができない。 イまた,被告は,原告p1作成の平成20年5月9日付けの認定申請書(乙 C1)には鼻血及び歯茎からの出血に関する記載がなく,これらについての原告p1の供述は信用できないと主張する。 しかしながら,上記認定申請書に係る原爆症認定の申請の際に提出された医師意見書(乙C4)には,鼻血及び歯茎からの出血についても記載があり,原告p1は,当時,医師に対してこれらの説明をしたと推認されること,認定申請書には複数の身体症状が列挙されており,個別の症状について書き落としがあっても不自然とはいえないこと等に照らすと,鼻血及び歯茎からの出血に関する原告p1の供述は信用することができる。よって,被告の上記主張は採用することができない。 (3)放射線起因性についてア放射線被曝の程度について(ア)前記認定事実によれば,原告p1は,長崎原爆の爆心地から約6キロメートル離れた屋外において被爆したのであるから,初期放射線による有意な被曝はないものと認められる。また,前記のような新審査の方針の下における線量評価方法によれば,原告p1の誘導放射化物質による被曝線量は,昭和20年8月10日及び同月11日に爆心地付近を通過したこと 被曝はないものと認められる。また,前記のような新審査の方針の下における線量評価方法によれば,原告p1の誘導放射化物質による被曝線量は,昭和20年8月10日及び同月11日に爆心地付近を通過したことを考慮しても,せいぜい0.055グレイ程度であるし(乙A106),原告p1がj地区に滞在又は居住したと認めるに足りる証拠はないから,放射性降下物による被曝はないことになる。 (イ)しかしながら,原告p1は,前記認定のとおり,長崎原爆投下の翌日である昭和20年8月10日及び翌々日である同月11日に,それぞれ長崎原爆の爆心地付近を通過し,爆心地から約0.7キロメートルの地点において各三,四時間程度,親戚の捜索活動を行っているのであるから,その間,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を相当量含む粉塵等に接触することにより,多量の放射性物質が衣服,髪,皮膚等に付着し,又は呼吸を通じてこれらを体内に取り込むなどした可能性が高 いというべきである。そして,前記認定のとおり,原告p1と共に長崎市内に入った原告p1の義兄が白血病で死亡していること等をも併せ考慮すれば,原告p1は,誘導放射化物質や放射性降下物からの放射線により,新審査の方針の下における線量評価方法による推定値を超えて,健康に影響を及ぼすような相当程度の線量の外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 この点,被告は,原告p1の供述を前提としても,同人が人体の健康被害の観点から有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきであり,被告の上記主張は採用することができない。 イ狭心症と放射線被曝との関連性について(ア)原告p1の申請疾病は「狭心症」で 被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきであり,被告の上記主張は採用することができない。 イ狭心症と放射線被曝との関連性について(ア)原告p1の申請疾病は「狭心症」であるところ,狭心症は,心筋梗塞と同じく,冠動脈が何らかの原因で閉塞して心筋への血液供給が阻害され,その結果,心筋細胞が酸素不足(虚血)に陥る虚血性心疾患であり,その主因は冠動脈硬化症(冠動脈に生ずる粥状動脈硬化)であるとされる(乙A173,502,503,証人p10)。 粥状動脈硬化症(アテローム性動脈硬化症)とは,動脈の内側に粥状の物質(アテローム)が沈着してプラーク(動脈硬化巣)を形成する疾患であり,形成されたプラークにより血管の内腔が閉塞して血液が流れにくくなったり,プラークが破れて血液中に形成された血栓が重要臓器の血管を詰まらせたりすることによって,心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすものである(乙A504から507まで,弁論の全趣旨)。 (イ)心筋梗塞及び動脈硬化と放射線被曝との関連性については,①昭和25年から昭和60年までの循環器疾患による死亡率は線量との有意な関係を示しているなどとする寿命調査(以下「LSS」という。)第11 報(乙A162),②昭和25年から平成2年までのがん以外の疾患による死亡者について解析した結果,心疾患の1シーベルト当たりの過剰相対リスク(当該要因がある場合にリスクが何倍になるかを示す相対リスクから1を引いたものであり,当該要因によって増加したリスクの割合を示す。)は0.14で,90パーセント信頼区間(同一の調査を同一の計算方法を用いて100回行った場合に90回は母平均値が入る区間)は0.05から0.22まで,P値(ここでは,当該要因がある群とない群とで発症率が等しいとする仮説が正 ト信頼区間(同一の調査を同一の計算方法を用いて100回行った場合に90回は母平均値が入る区間)は0.05から0.22まで,P値(ここでは,当該要因がある群とない群とで発症率が等しいとする仮説が正しいと仮定した場合に当該結果が起こり得る確率であり,P値が0.05を下回る場合に上記仮説が誤りであり両群に有意な差があると判定することが多い。)は0.003であり,そのうち冠状動脈性心疾患の同過剰相対リスクは0.06(90パーセント信頼区間-0.06から0.20まで)であるとするLSS第12報(乙A163。なお,その考察においては,「影響はもはや高い線量域に限らない」,「心筋梗塞および脳梗塞,ならびにアテローム性動脈硬化症と高血圧症の様々な指標について有意な線量反応が観察されている」とされ,その機序に関しても,「免疫能不全が考えられる。…T細胞とB細胞の機能的・量的異常において原爆放射線の後影響がみられる。最近の研究では,クラミジア・ニューモニエ…に感染するとアテローム性動脈硬化症が発症しやすいことが示唆されている。」とされている。),③昭和43年から平成9年までの期間のLSSにおける心疾患,脳卒中,呼吸器疾患及び消化器疾患に有意な過剰リスクが認められたとし,心疾患の1シーベルト当たりの過剰相対リスクは0. 17(90パーセント信頼区間0.08から0.26まで,P値0.001)であるとするLSS第13報(乙A164),④40歳未満で被爆した人の心筋梗塞に有意な二次線量反応関係を認め(P値0.05,1シーベルト当たりの相対リスク1.25,95パーセント信頼区間1. 00から1.69まで),二次モデルでは放射線被曝の寄与リスクは16パーセントであった(ただし,喫煙及び飲酒の因子を調整する前のもの)とする成人健康調査(以下「AHS」とい ト信頼区間1. 00から1.69まで),二次モデルでは放射線被曝の寄与リスクは16パーセントであった(ただし,喫煙及び飲酒の因子を調整する前のもの)とする成人健康調査(以下「AHS」という。)第8報(甲A115の16),⑤放影研で行った放射線被曝と心・血管疾患及びその危険因子との関連についての調査結果によれば,心疾患による死亡及び心筋梗塞が増加しており,大動脈弓の石灰化及び網膜細動脈硬化を認めることから,被爆者でも被曝の影響として動脈硬化による心血管疾患が増加していると考えられるとし,動脈硬化や心血管疾患の危険因子である高血圧,高脂血症及び炎症にも放射線被曝が関与していることも明らかになり,これらを介して動脈硬化が促進され,心血管疾患の増加につながったと考えられるとするp12 の論文(甲C4。以下「p12 論文」という。),⑥昭和62年から平成5年までに原爆検診を受診した40歳から79歳の被爆者1万6335例につき,大動脈脈波速度(PWV)を測定したところ,被爆と大動脈硬化の関連が認められ,特に被爆時年齢が20歳未満の男性の若年直接被爆者では大血管の動脈硬化が強く,特に10歳未満の近距離被爆者に強いとの結果を得たとするp13 の論文(甲C5),⑦昭和25年から平成8年までの間に対象者のうち8463人が心臓病で死亡し,心疾患については1グレイ当たり0.14の過剰相対リスク(95パーセント信頼区間0.06から0.23まで,P値<0.001)があったとし,低線量被曝でも過剰リスクがあることが示唆されたが,結論として,0.5グレイを上回る被曝線量は心疾患のリスク上昇に関連していたものの,それより少ない線量では明確ではなかったとするp14 らの論文(甲C3,乙A193,194。以下「p14 論文」という。)等の知見があることが認 る被曝線量は心疾患のリスク上昇に関連していたものの,それより少ない線量では明確ではなかったとするp14 らの論文(甲C3,乙A193,194。以下「p14 論文」という。)等の知見があることが認められる。 また,厚生労働省に設けられた原爆症認定の在り方に関する検討会(後記第4の2(2)ア(ウ)参照)が取りまとめた「原爆症認定の在り方 に関する検討会報告」(同(エ)参照)は,心筋梗塞について,被爆者を対象とした疫学調査のみならず,動物実験を含む多くの研究結果により,一定以上の放射線量との関連があるとの知見が集積してきており,認定疾病に追加する方向でしきい値の設定等の検討を行う必要があるとし(乙A10),これを受けて,新審査の方針は,いわゆる積極認定の対象疾病として「放射線起因性が認められる心筋梗塞」を掲げている(乙A1)。 (ウ)以上のとおり,心筋梗塞については,原子爆弾の放射線被曝との関連性を肯定する疫学的知見が集積しているのであって,新審査の方針においても,いわゆる積極認定の対象疾病として「放射線起因性が認められる心筋梗塞」が掲げられていることも考慮すれば,心筋梗塞と放射線被曝との関連性については,一般的に肯定することができるというべきである(なお,近時,放射線被曝が,ヘルパーT細胞数の減少に伴う免疫機能低下を引き起こし,ウイルスによる慢性的な炎症反応を誘発し,心筋梗塞の発症の促進に寄与していることを示唆する複数の研究報告が示され(LSS第12報,p12 論文等),放射線被曝が粥状動脈硬化及び心筋梗塞の発症を促進する機序についても科学的な知見が集積しつつあり,このことは,心筋梗塞と放射線被曝との関連性を更に強固に裏付けるものということができる。)。そして,狭心症についても,心筋梗塞と同じく粥状動脈硬化症を主因とする いても科学的な知見が集積しつつあり,このことは,心筋梗塞と放射線被曝との関連性を更に強固に裏付けるものということができる。)。そして,狭心症についても,心筋梗塞と同じく粥状動脈硬化症を主因とする虚血性心疾患であることからすれば,放射線被曝との関連性を一般的に肯定することができるというべきである。 (エ)これに対し,被告は,①放影研の大規模な疫学調査(LSS,AHS)においては,高線量被曝に関して心血管疾患リスクの示唆がされているものの,低線量被曝に関しては,いまだ心筋梗塞の発症との関連性を肯定し得るものではない(LSS第13報は,心疾患等のがん以外の疾患 の死亡率について,低線量域における線量反応関係は不確実であるとしており,LSS第13報の存在をもって心疾患における低線量の放射線影響が積極的に肯定するのが一般的知見であるということはできず,AHS第8報では,統計上喫煙と飲酒による影響が出ないようにこれらの因子を調整した場合には40歳未満で被爆した人の心筋梗塞と放射線被曝との間に有意な関係が示されているとはいえないし,LSS第12報によると,冠状動脈性心疾患の1シーベルト当たりの過剰相対リスクは0.06であるが,90パーセント信頼区間の下限値が負(-0.06)となっており,統計学的に有意な結果とはいえない。),②p14 論文においても,放射線との関連性が指摘されているのは「虚血性心疾患」,「高血圧性心疾患」,「リウマチ性心疾患」,「心不全」及び「その他の心疾患」の全てを含んだ広いカテゴリである「心疾患」であって「心筋梗塞」又は「虚血性心疾患」ではない(p14 論文に添付されたウェブ表Bによれば,心筋梗塞だけでなく狭心症等も含んだ「虚血性心疾患」というカテゴリで見ても,P値は「>0.5」であり,「1グレイ当たりの過剰相 「虚血性心疾患」ではない(p14 論文に添付されたウェブ表Bによれば,心筋梗塞だけでなく狭心症等も含んだ「虚血性心疾患」というカテゴリで見ても,P値は「>0.5」であり,「1グレイ当たりの過剰相対リスク」の95%信頼区間も「-10%から15%」と下限値が負となっているのであるから,その死亡率と放射線被曝との関連性は統計学的に有意とはいえない。)上,0.5グレイ以下の低線量被曝については,心疾患の死亡率との間に統計学的に有意な関係を示す結果は得られなかったとされている,③原子放射線の影響に関する国連科学委員会(以下「UNSCEAR」という。)の2006年(平成18年)のレポートでは,低線量被曝者における電離放射線と心血管疾患の因果関係は立証できないと結論づけており,2011年(平成23年)4月に発表された最新のICRPのステートメントにおいても,p14 論文などの最近の研究結果等も踏まえた上で,不確実性を伴うとしながら,循環器疾患のしきい値が0.5グレイ程度まで低い可能性があるとの指 摘がされているにすぎないのであって,最新の科学的知見においても,循環器疾患のしきい値は否定されていない,④狭心症そのものに関する疫学調査は存在しないところ,「虚血性心疾患」のカテゴリの疫学調査の結果を見ると,上記のとおり,その発生率と放射線被曝との間に有意な関係は示されておらず, 狭心症と放射線被曝(特に,低線量被曝)との関連性を認める科学的知見があるとはいえないと主張する。 しかし,①LSS第13報は,「がん以外の疾患のリスクは1Sv 以下の線量においても増加していることを示す強力な統計的証拠がある。低線量における線量反応の形状については著しい不確実性が認められ,特に約0.5Sv 以下ではリスクの存在を示す直接的な証拠はほとんど 下の線量においても増加していることを示す強力な統計的証拠がある。低線量における線量反応の形状については著しい不確実性が認められ,特に約0.5Sv 以下ではリスクの存在を示す直接的な証拠はほとんどないが,LSSデータはこの線量範囲で線形性に矛盾しない。」「リスク増加の全般的特徴から,また機序に関する知識が欠如していることから,因果関係については当然懸念が生ずるが,この点のみからLSSに基づく所見を不適当と見なすことはできない。」としており,低線量被曝の場合でも関連性があることを示唆する内容であるといえる。また,LSS第12報についても,冠状動脈性心疾患の過剰相対リスク自体は正の値を示している上,心疾患の「その他」(過剰相対リスク0.17,90パーセント信頼区間0.05から0.31まで)の中には,「心不全」と記載されているものが1787例(55パーセント)含まれているところ,その中には心筋梗塞が相当数含まれているとみるのが自然であることも考慮すると,統計学的な有意性が直ちに否定されるものではない。 そうすると,仮に,AHS第8報においては,統計上喫煙と飲酒の因子を調整した場合に40歳未満で被爆した人の心筋梗塞と放射線被曝との間の関係に有意性が認められないとしても,なお心筋梗塞の発症と低線量被曝との関連性を示唆する十分な疫学的調査が存在するということができる。 また,②p14 論文は,0.5グレイ以下の被曝線量では心疾患のリスク上昇との関連が明確ではなかったとしているものの,心疾患死亡に対する過剰相対リスクにつき,線形モデルが最も適合し,低線量域でも過剰リスクがあることが示唆され,しきい値線量の最良の予想は0グレイであった(95パーセント信頼上限でおよそ0.5グレイ)とし,より長期間の追加研究が低線量被曝のリスクについてよ 合し,低線量域でも過剰リスクがあることが示唆され,しきい値線量の最良の予想は0グレイであった(95パーセント信頼上限でおよそ0.5グレイ)とし,より長期間の追加研究が低線量被曝のリスクについてより正確な推測を提供するであろうとしていることからしても,心疾患と放射線被曝との関連性につき,しきい値が存在しないことを想定しているとみるのが合理的であるところ,心筋梗塞などの虚血性心疾患は,心疾患の主要な類型の一つであることからすれば,しきい値のあるいわゆる確定的影響に係る疾病(放射線による健康影響のうち,一定の線量以上の放射線に被曝して初めて影響が出現するもの)ではなく,確率的影響に係る疾病(被曝した放射線量が多いほど影響の出現する確率が高まるもの)であると考えるのが合理的であり,約0.5グレイ以下の被曝線量であっても,虚血性心疾患との関連性を直ちに否定することはできないというべきである。なお,p14 論文に添付されたウェブ表Bの心筋梗塞及び虚血性心疾患の分類に係るデータについては,少なくとも高線量域において心筋梗塞と放射線被曝との関連性が認められることにはほぼ異論がなく,新審査の方針も「放射線起因性の認められる心筋梗塞」を積極認定の対象疾病としていること等に照らすと,その信頼性を慎重に検討する必要があるところ,p14 論文は,死亡診断書上の分析の正確さについて,広いカテゴリ(脳卒中及び心疾患)については「かなり良い」としているのに対し,より細かな疾患の下位分類については「相当悪い」としており,死亡診断書と剖検報告書との一致率は,虚血性心疾患では69パーセントにとどまり,高血圧性心疾患では22パーセントとかなり低いことからすれば,高血圧性心疾患に分類されているもののうち相当数が虚血性 心疾患又は心筋梗塞である可能性があるし,ま は69パーセントにとどまり,高血圧性心疾患では22パーセントとかなり低いことからすれば,高血圧性心疾患に分類されているもののうち相当数が虚血性 心疾患又は心筋梗塞である可能性があるし,また,心不全とは心臓の機能不全を意味する概念であることから,心不全のカテゴリには相当数の虚血性心疾患又は心筋梗塞が含まれていると考えるのが自然であり(この点,被告は,死亡診断書に「心不全」との記載をしないよう厚生労働省が指示をした後,心臓病の死亡率が下がり「がん」等の死亡率が上がっているから,「心不全」と診断された症例の中には心疾患以外の症例が多分に含まれていたと主張するが,仮に死亡率の変動が上記のとおりであるとしても,「心不全」と診断された症例の大多数が心疾患以外の症例で虚血性心疾患又は心筋梗塞はほとんど含まれていないとまでは認めることはできない。),同表の心筋梗塞及び虚血性心疾患に係るデータを数値どおりに捉えて,心疾患のうち虚血性心疾患及び心筋梗塞については放射線と間に関連性がないと結論付けることは相当ではないというべきである。 さらに,③UNSCEARの前記レポートは,「今日まで,致死的な心臓血管疾患と1-2Gy 以下の範囲の線量の関連性を示した証拠は日本における原爆被爆の生存者の解析のみであり」としており(乙A18),ICRPの前記ステートメントも,医療上の必要により放射性物質が投与される場合を念頭に置いていると認められること(乙A558)等に照らすと,これらが原子爆弾による低線量被曝のリスクを否定する趣旨であると断ずることはできないというべきである。 そして,④狭心症と同じく粥状動脈硬化症を主因とする虚血性心疾患である心筋梗塞について低線量被曝との関連性を認める科学的知見があるというべきことは上記のとおりであるから,狭心症その うべきである。 そして,④狭心症と同じく粥状動脈硬化症を主因とする虚血性心疾患である心筋梗塞について低線量被曝との関連性を認める科学的知見があるというべきことは上記のとおりであるから,狭心症そのものについての疫学的調査が存在しないとしても,狭心症と低線量被曝との関連性を認める科学的知見がないということはできない。 以上によれば,心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患には一定のしき い値があり,低線量被曝の場合には関連性がない旨の被告の主張は,採用することができない。 ウ検討(ア)放射線の影響について以上のとおり,狭心症と放射線被曝との間には関連性を認めることができ,そこに一定のしきい値は存在しないと考えるのが合理的であるところ,原告p1は,前記のとおり,健康に影響を及ぼす程度の放射線に被曝していた可能性が高いというべきである。加えて,原告p1が放射線被曝の影響が大きいとされる若年時(当時7歳)に被爆していること,新審査の方針によれば,「放射線起因性が認められる心筋梗塞」がいわゆる積極認定の対象疾病とされているところ,原告p1は「原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者」に該当することなども併せ考慮すれば,原告p1の申請疾病である狭心症は原子爆弾の放射線に起因すると認めるのが相当である。 (イ)危険因子についてa この点,被告は,原告p1について,①加齢(発症時64歳),②喫煙,③脂質異常症(高脂血症),④ストレス(バスの運転)・性格(几帳面)といった危険因子を指摘し,原告p1の狭心症は,これらを原因として発症したものとみるのが自然かつ合理的であると主張するところ,加齢や脂質異常症(高脂血症),高血圧症,喫煙,糖尿病,肥満,ストレス,性格,過度の飲酒,家族歴等は, p1の狭心症は,これらを原因として発症したものとみるのが自然かつ合理的であると主張するところ,加齢や脂質異常症(高脂血症),高血圧症,喫煙,糖尿病,肥満,ストレス,性格,過度の飲酒,家族歴等は,動脈硬化及びこれを原因とする心筋梗塞や狭心症の危険因子であると認められる(乙A506から508まで)。 しかしながら,心疾患の放射線リスクを認めた上で,喫煙,飲酒,教育,職業,肥満,糖尿病等の交絡因子を調整しても心疾患の放射線リスクの評価にほとんど影響を及ぼさなかったとするp14 論文等の 知見を踏まえれば,上記のような危険因子があるからといって,動脈硬化やこれを原因とする心筋梗塞・狭心症と放射線被曝との間の関連性が直ちに否定されるものではないというべきである。 b そして,③脂質異常症(高脂血症)については,高血圧や高脂血症それ自体が放射線被曝による影響を受けている可能性が示唆されている(p12 論文)上(この点,被告は,p12 論文が指摘する血圧やコレステロール値に対する放射線被曝の影響はごくわずかであるから,高血圧や脂質異常症(高脂血症)と低線量の放射線被曝との間に有意な関係があるとはいえないと主張するが,p12 論文は,「若年被爆者においては,加齢に伴う収縮期血圧および拡張期血圧経過が,上方に偏位している」「加齢に伴うコレステロール経過は全ての被爆時年齢において,被爆者では上方に偏位している」としており,放射線被曝とこれらの数値の上昇との間に一定の関連性があること自体は否定し難く,放射線被曝による影響には個人差も大きいと考えられること等をも考慮すれば,放射線被曝による血圧等の増加の平均値がそれほど大きな数値ではないからといって,これにより放射線被曝が動脈硬化と関連していないということはできないというべきである。),原告 ること等をも考慮すれば,放射線被曝による血圧等の増加の平均値がそれほど大きな数値ではないからといって,これにより放射線被曝が動脈硬化と関連していないということはできないというべきである。),原告p1は,前記認定のとおり,平成11年頃にH病院で脂質異常症(高脂血症)の治療を受けているが,その総コレステロール値は,正常値の上限を上回ることもあったもののおおむね正常値の範囲内であり,継続的に脂質異常症の治療を受けていたと認めるに足りる証拠もないのであるから,原告p1の狭心症の発症に大きく影響したとはいい難い(証人p10)。 c 他方,②喫煙については,前記認定のとおり,原告p1は長期間にわたり1日20本程度のたばこを吸っていたところ,喫煙習慣を有する者が虚血性心疾患を発症する率は1日当たりの喫煙本数が15本か ら34本の者では非喫煙者の3倍であるとされていること(乙A513)に照らすと,原告p1の狭心症の発症に寄与した可能性は高いということができる。しかしながら,喫煙による心血管疾患発症リスクについては,禁煙後1年で低下し,2年以降で非喫煙者と変わらなくなるとする指摘(甲C10,証人p10)や,禁煙期間によってばらつきはあるが,喫煙者に比べ危険性は半分から10分の1まで下がったとする指摘(乙A513)等もあることに照らすと,禁煙をすれば顕著に低下すると認められるところ,原告p1は,前記認定のとおり,狭心症を発症した平成13年12月から禁煙をしているにもかかわらず,10年以上経過してから冠動脈に狭窄が発見されていることからすれば,喫煙を過大視することはできないというべきである。 d また,原告p1の④ストレス・性格については,狭心症の危険因子となり得るような顕著なものであると認めるに足りる証拠はない。 e そうすると,原告 煙を過大視することはできないというべきである。 d また,原告p1の④ストレス・性格については,狭心症の危険因子となり得るような顕著なものであると認めるに足りる証拠はない。 e そうすると,原告p1の喫煙等の危険因子が狭心症の発症に影響していることは否定できないとしても,これによって原子爆弾の放射線の影響自体が否定されるものではなく,むしろ,原告p1の放射線被曝と喫煙等の危険因子とが相まって,狭心症の発症に寄与したものと考えるのが自然かつ合理的である。よって,被告の上記主張は採用することができない。 (ウ)まとめ以上によれば,原告p1の原爆症認定の申請に係る狭心症については,放射線起因性が認められる。 (4)要医療性について原告p1は,前記認定事実によれば,狭心症の発症以来,その再発を防ぐため,抗凝固剤,冠血管拡張剤等による投薬治療等を継続的に受けており,当該治療が必要な状態が続いているといえるから,原告p1の狭心症につい ては,要医療性が認められる。 (5)小括以上によれば,原告p1は,前記前提となる事実4(2)の原爆症認定の申請に係る狭心症について放射線起因性及び要医療性の要件を満たしていたものと認められる。そうすると,上記申請を却下する処分は違法というべきであり,取消しを免れない。 2 原告p2について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(甲G1,乙G1,16,原告p2本人)(ア)原告p2は,昭和5年○月○日生まれの男性であり,昭和20年8月6日,広島市d町○丁目の自宅(爆心地から約2.5キロメートル)の木造家屋内において広島原爆に被爆し(当時15歳),倒壊した上記家屋から避難した。 月○日生まれの男性であり,昭和20年8月6日,広島市d町○丁目の自宅(爆心地から約2.5キロメートル)の木造家屋内において広島原爆に被爆し(当時15歳),倒壊した上記家屋から避難した。 (イ)原告p2は,同日,建物疎開の作業に出ていた三兄を探すため,数回にわたりe町方面に捜索に向かい,B駅を越えた辺り(爆心地から約1. 5キロメートル)まで進んだが,それ以上進むことができず,その都度引き返した。 (ウ)原告p2は,両親及び二兄と共に,同月19日頃までt村(爆心地から約2キロメートル)の収容所において,戻ってきた三兄の看病をしていたが,同日頃に三兄が死亡した後,f町(同約2.5キロメートル)の家屋の2階を間借りし,昭和21年3月まで生活していた。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(甲G1,乙G4,12,13,21,22,証人p10,原告p2本人)(ア)原告p2には,被爆直後から,高熱や右耳に膿がたまるといった症状 が二,三か月にわたって見られ,その後も,全身倦怠感,肝炎,腰痛等といった症状が現れた。 (イ)原告p2は,平成15年10月に急性心筋梗塞(後壁)を発症し,平成20年4月に急性心筋梗塞(前壁)を発症した。 (ウ)原告p2と同様に被爆したその両親及び二兄は,いずれもがんで死亡し,原告p2の三女は,水頭症で死亡した。 (エ)原告p2は,20歳頃から多いときで1日40本程度のたばこを吸っていたが,50歳になったときから禁煙を続けている。 (オ)原告p2は,60歳頃に高血圧を指摘され,また,平成16年頃には高脂血症と指摘されたが,いずれについても投薬治療が必要とはされておらず,平成15年10月,平成20年5月及び同年9月の時点では,高脂血症の状態にはなかった。 (カ)原告p2は,急 成16年頃には高脂血症と指摘されたが,いずれについても投薬治療が必要とはされておらず,平成15年10月,平成20年5月及び同年9月の時点では,高脂血症の状態にはなかった。 (カ)原告p2は,急性心筋梗塞の発症以来,その再発を防ぐため,抗凝固剤等を服用している。 (2)事実認定の補足説明ア被告は,昭和20年8月6日に三兄を探しにB駅付近及びe町の手前近くまで数回入ったとする原告p2の供述は,被爆者健康手帳交付申請書等に記載がないこと等に照らし,にわかに信用し難いと主張する。 しかしながら,原告p2は,いわゆる直接被爆者として被爆者健康手帳交付申請をしているのであるから(乙G16),その申請書に自宅で被爆した後の入市状況についての記載がなくても不自然であるとはいえないところ,本人尋問においても,川を渡ったかどうかは記憶がはっきりしないが国鉄の線路を越えた記憶はあるとするなど,記憶に従い具体的に供述していると認められるのであって(原告p2本人),その供述は信用することができる。そうすると,原告p2は,同日,少なくともB駅を越えた辺りまで数回行ったものと認められる。よって,被告の上記主張は採用する ことができない。 イ他方,原告p2は,被爆後に下痢の症状があったと主張しており,これに沿う原告p2の供述等(甲G1,原告p2本人)もある。 しかしながら,原告p2の被爆者健康手帳交付申請書(乙G16)や原爆症認定に係る認定申請書(乙G1)には,右耳の膿や高熱といった症状については具体的な記載があるにもかかわらず,下痢については本件訴訟に至るまで一切言及されていなかったものであり,それまで下痢のみを一貫して書き落とす合理的理由も見当たらないことからすれば,原告p2の上記供述は信用することができず,原告p2に被爆後に下痢の症状 訟に至るまで一切言及されていなかったものであり,それまで下痢のみを一貫して書き落とす合理的理由も見当たらないことからすれば,原告p2の上記供述は信用することができず,原告p2に被爆後に下痢の症状が現れたと認めることはできない。 (3)放射線起因性についてア放射線被曝の程度について(ア)前記認定事実によれば,原告p2は,広島原爆の爆心地から約2.5キロメートル離れた木造家屋内において被爆したのであるから,初期放射線による被曝線量はせいぜい0.0125グレイ程度にとどまる(乙A105の1)。また,前記のような新審査の方針の下における線量評価方法によれば,原告p2の誘導放射化物質による被曝線量は,昭和20年8月6日に広島原爆の爆心地から約1.5キロメートルの地点に立ち入ったことを考慮しても,0.0039グレイに満たない程度であるし(乙A106,弁論の全趣旨),原告p2がp・q地区に滞在又は居住したと認めるに足りる証拠はないから,放射性降下物による被曝はないことになる(イ)しかしながら,原告p2は,前記認定のとおり自宅が倒壊した際やB駅付近(爆心地から約1.5キロメートル)に立ち入った際に,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を相当量含む粉塵等に接触し,さらに,t村の収容所(同約2キロメートル)において,10日以上にわ たってe町で直接被爆した三兄の看護した際に,誘導放射化した三兄の体に直接触れるなどし,その後もf町(同約2.5キロメートル)の家屋に約半年間居住している間に多量の放射性物質が衣服,髪,皮膚等に付着し,又は呼吸を通じてこれらを体内に取り込むなどした可能性が高いというべきである。そして,前記認定のとおり,原告p2と同様に被爆したその両親及び二兄がいずれもがんで死亡しており,原告p2の三女 付着し,又は呼吸を通じてこれらを体内に取り込むなどした可能性が高いというべきである。そして,前記認定のとおり,原告p2と同様に被爆したその両親及び二兄がいずれもがんで死亡しており,原告p2の三女が水頭症で死亡していること等をも考慮すれば,原告p2は,誘導放射化物質や放射性降下物からの放射線により,新審査の方針の下における線量評価方法による推定値を超えて,健康に影響を及ぼすような相当程度の線量の外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 この点,被告は,原告p2の供述を前提としても,同人が人体の健康被害の観点から有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきであり,採用することができない。 イ心筋梗塞と放射線被曝との関連性について原告p2の申請疾病は「心筋梗塞」であるところ,前記のとおり,心筋梗塞と放射線被曝との間には関連性を認めることができ,そこに一定のしきい値は存在しないと考えるのが合理的というべきである。 ウ検討(ア)放射線の影響について前記のとおり,心筋梗塞と放射線被曝との間には関連性を認めることができ,そこに一定のしきい値は存在しないと考えるのが合理的であるところ,原告p2は,健康に影響を及ぼす程度の放射線に被曝していた可能性が高いというべきである。加えて,原告p2が放射線被曝の影響が大きいとされる若年時(当時15歳)に被爆していること,新審査の方針によれば,「放射線起因性が認められる心筋梗塞」がいわゆる積極 認定の対象疾病とされているところ,原告p2は「被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者」,「原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメート る心筋梗塞」がいわゆる積極 認定の対象疾病とされているところ,原告p2は「被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者」,「原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者」及び「原爆投下より約100時間経過後から,原爆投下より約2週間以内の期間に,爆心地から約2キロメートル以内の地点に1週間程度以上滞在した者」のいずれにも該当することなども併せ考慮すれば,原告p2の申請疾病である心筋梗塞は原子爆弾の放射線に起因すると認めるのが相当である。 (イ)危険因子についてa この点,被告は,原告p2について,①加齢(発症時73歳),②高血圧,③脂質異常症(高脂血症),④喫煙といった因子を指摘し,原告p2の心筋梗塞は,これらを原因として発症したものとみるのが自然かつ合理的であると主張するところ,これらの因子が動脈硬化及びこれを原因とする心筋梗塞の危険因子であると認められることは前記のとおりである。 しかしながら,前記のとおり,上記のような危険因子があるからといって,動脈硬化やこれを原因とする心筋梗塞と放射線被曝との間の関連性が直ちに否定されるものではない。 b そして,②高血圧及び③脂質異常症(高脂血症)については,前記のとおり,それ自体が放射線被曝による影響を受けている可能性が示唆されている上,原告p2は,前記認定のとおり,高血圧及び高脂血症と指摘されたことはあるものの,投薬治療の必要はない状態であった上,継続的に血圧が高い状態であったと認めるに足りる証拠はなく,心筋梗塞を発症した平成15年及び平成20年頃に高脂血症の状態であったとも認められないのであるから,これらを過大視することはできないというべきである(証人p10)。 c また,④喫煙については,その心血管疾 成15年及び平成20年頃に高脂血症の状態であったとも認められないのであるから,これらを過大視することはできないというべきである(証人p10)。 c また,④喫煙については,その心血管疾患発症リスクは,前記のと おり,禁煙をすれば顕著に低下すると認められるところ,原告p2は,前記認定のとおり,心筋梗塞を発症する20年以上前から禁煙しているのであるから,これが原告p2の心筋梗塞の発症に影響したとはいい難い。 d そうすると,原告p2の高血圧等の危険因子が心筋梗塞の発症に影響していることは否定できないとしても,これによって原子爆弾の放射線の影響自体が否定されるものではなく,むしろ,原告p2の放射線被曝と高血圧等の危険因子とが相まって,心筋梗塞の発症に寄与したものと考えるのが自然かつ合理的である。よって,被告の上記主張は採用することができない。 (ウ)まとめ以上によれば,原告p2の原爆症認定の申請に係る心筋梗塞については,放射線起因性が認められる。 (4)要医療性について原告p2は,前記認定事実によれば,心筋梗塞の発症以来,その再発を防ぐため,抗凝固剤等による投薬治療等を継続的に受けており,当該治療が必要な状態が続いているといえるから,原告p2の心筋梗塞については,要医療性が認められる。 (5)小括以上によれば,原告p2は,前記前提となる事実4(2)の原爆症認定の申請に係る心筋梗塞について放射線起因性及び要医療性の要件を満たしていたものと認められる。そうすると,上記申請を却下する処分は違法というべきであり,取消しを免れない。 3 原告p4について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の 事実が認められる。 ア うべきであり,取消しを免れない。 3 原告p4について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の 事実が認められる。 ア被爆状況等(甲J1,乙J1,11,原告p4本人)(ア)原告p4は,大正14年○○月○○日生まれの男性であり,昭和20年8月9日,所属する軍部隊の駐屯先である長崎市w町にある長崎市立C小学校(爆心地から約4.5キロメートル)の校舎内で長崎原爆に被爆した(当時19歳)。 (イ)原告p4は,同日,所属部隊と共に救護活動に向かい,長崎駅付近(爆心地から約2.3キロメートル)まで進んだが,火災のため,それ以上進むことができなかった。 (ウ)原告p4は,同月11日から同月15日頃まで,連日,u(爆心地から約1キロメートル)において,1日数時間ずつ,遺体の搬送や道路の整備等の作業に従事した。 (エ)原告p4は,その後,同年9月15日まで,前記C小学校で待機していたが,同日,大阪へ向かうため,同所を出発した。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(甲J1,6,乙J1,2,4,18,19,証人p10,原告p4本人)(ア)原告p4は,昭和40年頃に歯槽膿漏のような症状が現れて歯が抜けるようになり,平成9年頃には右眼白内障を,平成18年5月には急性心筋梗塞を,平成20年には左眼白内障を,平成23年11月には脳梗塞を,それぞれ発症した。 (イ)原告p4は,20歳頃から喫煙を始め,昭和40年頃には1日当たり20本程度のたばこを吸っていたが,平成11年頃から喫煙本数を減らして平成14年頃には1日当たり13本程度とし,さらに,急性心筋梗塞の発症後に完全に喫煙をやめた。 (ウ)原告p4は,昭和63年2月に血圧(収縮期血圧/拡張期血圧・mmH 11年頃から喫煙本数を減らして平成14年頃には1日当たり13本程度とし,さらに,急性心筋梗塞の発症後に完全に喫煙をやめた。 (ウ)原告p4は,昭和63年2月に血圧(収縮期血圧/拡張期血圧・mmHg)が160/100となり,その後,高血圧の治療を受けるとともに,平 成17年頃までの間,たびたび慢性疾患指導(食塩制限)等を受けていたが,同年3月以降の血圧は,150/80程度となったことが数回あるほかは,おおむね120/80程度で推移していた。 (エ)原告p4は,急性心筋梗塞の発症以来,その再発を防ぐため,抗凝固剤,血管拡張剤等を服用している。 (2)放射線起因性についてア放射線被曝の程度について(ア)前記認定事実によれば,原告p4は,長崎原爆の爆心地から約4.5キロメートル離れた校舎内で被爆したのであるから,初期放射線による被曝線量はせいぜい0.00007グレイ程度にとどまる(乙A105の1,弁論の全趣旨)。また,前記のような新審査の方針の下における線量評価方法によれば,原告p4の誘導放射化物質による被曝線量は,昭和20年8月9日に長崎原爆の爆心地から約2.3キロメートルの地点に立ち入り,同月11日から同月15日頃まで同約1キロメートルの地点に立ち入ったことを考慮しても,0.0001358グレイを下回るし(乙A106,弁論の全趣旨),原告p4がj地区に滞在又は居住したと認めるに足りる証拠はないから,放射性降下物による被曝はないことになる。 (イ)しかしながら,原告p4は,前記認定のとおり長崎駅付近に立ち入った際に,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を相当量含む粉塵等に接触し,さらに,uにおいて遺体搬送や道路整備等の作業に従事した際,誘導放射化した遺体に直接触れたり,粉塵を吸引したりしていると た際に,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を相当量含む粉塵等に接触し,さらに,uにおいて遺体搬送や道路整備等の作業に従事した際,誘導放射化した遺体に直接触れたり,粉塵を吸引したりしていると認められるのであって,多量の放射性物質が衣服,髪,皮膚等に付着し,又は呼吸を通じてこれらを体内に取り込むなどした可能性が高いというべきである。そうすると,原告p4は,誘導放射化物質や放射性降下物からの放射線により,新審査の方針の下における線量評価方法によ る推定値を超えて,健康に影響を及ぼすような相当程度の線量の外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 この点,被告は,原告p4は人体の健康被害の観点から有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきであり,採用することができない。 イ心筋梗塞と放射線被曝との関連性について原告p4の申請疾病は「心筋梗塞症」であるところ,前記のとおり,心筋梗塞と放射線被曝との間には関連性を認めることができ,そこに一定のしきい値は存在しないと考えるのが合理的というべきである。 ウ検討(ア)放射線の影響について前記のとおり,心筋梗塞と放射線被曝との間には関連性を認めることができ,そこに一定のしきい値は存在しないと考えるのが合理的であるところ,原告p4は,健康に影響を及ぼす程度の放射線に被曝していた可能性が高いというべきである。加えて,原告p4が放射線被曝の影響が大きいとされる若年時(当時19歳)に被爆していること,新審査の方針によれば,「放射線起因性が認められる心筋梗塞」がいわゆる積極認定の対象疾病とされているところ,原告p4は「原爆投下より約100時間 きいとされる若年時(当時19歳)に被爆していること,新審査の方針によれば,「放射線起因性が認められる心筋梗塞」がいわゆる積極認定の対象疾病とされているところ,原告p4は「原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者」に該当することなども併せ考慮すれば,原告p4の申請疾病である心筋梗塞症は原子爆弾の放射線に起因すると認めるのが相当である。 (イ)危険因子についてa この点,被告は,原告p4について,①加齢(発症時81歳),②喫煙,③高血圧といった危険因子を指摘し,原告p4の心筋梗塞は,これらを原因として発症したものとみるのが自然かつ合理的であると 主張するところ,これらの因子が動脈硬化及びこれを原因とする心筋梗塞の危険因子であると認められることは前記のとおりである。 しかしながら,前記のとおり,上記のような危険因子があるからといって,動脈硬化やこれを原因とする心筋梗塞と放射線被曝との間の関連性が直ちに否定されるものではない。 b そして,③高血圧については,前記のとおり,それ自体が放射線被曝による影響を受けている可能性が示唆されている上,原告p4は,前記認定のとおり,高血圧の治療を受けており,急性心筋梗塞を発症する前である平成17年3月頃以降の血圧はおおむね120/80程度で推移していたのであるから,これを過大視することはできないというべきである。 c また,②喫煙についても,原告p4は,前記認定のとおり,急性心筋梗塞を発症するまでは一定量の喫煙をしていたものの,急性心筋梗塞を発症した平成18年5月以降は完全に禁煙をしていたにもかかわらず,平成23年11月に動脈硬化を主因とする脳梗塞を発症しているのであって,喫煙による心血管疾患発症リスクは,前記のとおり,禁煙をすれば顕著に低下する 8年5月以降は完全に禁煙をしていたにもかかわらず,平成23年11月に動脈硬化を主因とする脳梗塞を発症しているのであって,喫煙による心血管疾患発症リスクは,前記のとおり,禁煙をすれば顕著に低下すると認められること等を考慮すれば,原告p4の喫煙が心筋梗塞の発症に相当程度影響していることは否定できないとしても,その影響を過大視することはできないというべきである。 d そうすると,原告p4の喫煙等の危険因子が心筋梗塞の発症に影響していることは否定できないとしても,これによって原子爆弾の放射線の影響自体が否定されるものではなく,むしろ,原告p4の放射線被曝と喫煙等の危険因子とが相まって,心筋梗塞の発症に寄与したものと考えるのが自然かつ合理的である。よって,被告の上記主張は採用することができない。 (ウ)まとめ以上によれば,原告p4の原爆症認定の申請に係る心筋梗塞症については,放射線起因性が認められる。 (4)要医療性について原告p4は,前記認定事実によれば,急性心筋梗塞の発症以来,その再発を防ぐため,抗凝固剤,血管拡張剤等による投薬治療等を継続的に受けており,当該治療が必要な状態が続いているといえるから,原告p4の心筋梗塞症については,要医療性が認められる。 (5)小括以上によれば,原告p4は,前記前提となる事実4(2)の原爆症認定の申請に係る心筋梗塞症について放射線起因性及び要医療性の要件を満たしていたものと認められる。そうすると,上記申請を却下する処分は違法というべきであり,取消しを免れない。 4 原告p5について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(甲K1から3まで,乙K1,7,原告p5本人) 5について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(甲K1から3まで,乙K1,7,原告p5本人)(ア)原告p5は,昭和9年○月○○日生まれの男性であり,昭和20年8月6日の広島原爆の投下時には,学童疎開で広島県比婆郡g町にいた(当時10歳)。 (イ)原告p5の両親,兄及び姉は,広島市内で広島原爆に被爆し,その後,原告p5のいるg町へ避難してきた。 (ウ)原告p5は,同月10日,自宅の家財を回収し,異母姉らを捜索するため,両親及び姉と共に鉄道で広島市へ向かい,午前中に広島駅(爆心地から約2キロメートル)に到着し,その後,h町(同約0.8キロメ ートル)で異母姉らの捜索をし,自宅のあったi町(同約1キロメートル)で家財を素手で掘り出す作業をするなどした。 (エ)原告p5は,同日夜,D小学校(同約0.5キロメートル)に宿泊し,その際,握り飯を食べたり,遺体を焼く煙を吸ったりした。 (オ)原告p5は,同月11日頃,g町へ戻り,その約半年後,vへ移り住んだ。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(甲K1,4,8,11,12,証人p22,原告p5本人)(ア)原告p5には,広島市からg町に戻った後,1年ほどの間,全身の倦怠感,歯茎からの出血等の症状が現れ,また,vに移り住んだ頃には全身にできものができ,膿が出るなどした。 (イ)原告p5は,平成6年2月頃,右頸部に腫瘍が発見され,同年5月には,舌がんが発見されため,放射線治療と化学療法による治療を受けていたが,その後,リンパへのがんの転移が発見されたため,平成7年11月に右頸部リンパ節郭清術を受けた。 (ウ)原告p5は,上記手術の際の副神経切断により右腕が 放射線治療と化学療法による治療を受けていたが,その後,リンパへのがんの転移が発見されたため,平成7年11月に右頸部リンパ節郭清術を受けた。 (ウ)原告p5は,上記手術の際の副神経切断により右腕が上がりにくくなっていたところ,平成16年頃から上記の右上肢挙上障害の症状が悪化するとともに左上肢にも挙上障害が生じ,平成19年10月,I病院において,舌がんの放射線治療による放射線障害によって神経細胞が減少したことによる両側腕神経叢障害(放射線治療後)と診断され,その頃から内服薬による治療を受けるようになった。 (エ)原告p5は,平成21年3月,上肢挙上障害について筋萎縮性側索硬化症の亜型であるFlailarmsyndrome と診断され,その治療を受けるようになったが,その後,上肢挙上障害についての積極的な治療は中止され,経過観察のみが行われるようになった。 (オ)原告p5は,平成6年6月に慢性甲状腺炎(橋本病)との診断を受け, 平成8年頃には甲状腺機能低下症を発症し,その頃から,甲状腺ホルモン剤(チラージン)を継続的に服用していた。 (2)事実認定の補足説明被告は,原告p5の入市状況に関する供述の内容は,原告p5の父親のABCC調査への回答や両親の被爆者健康手帳交付申請書の内容と矛盾しており,また,合理的理由なく変遷しているものであって,到底信用することはできないから,原告p5が昭和20年8月10日に入市したことが立証されているとはいえないと主張する。 しかしながら,原告p5は,平成6年10月24日,昭和20年8月10日に広島市i町に行った旨の記載のある被爆者健康手帳交付申請書を提出し,現に入市被爆者として被爆者健康手帳の交付を受けているところ(乙K7の2),①原告p5の父は,昭和31年のABCC調査の際,原告p5 広島市i町に行った旨の記載のある被爆者健康手帳交付申請書を提出し,現に入市被爆者として被爆者健康手帳の交付を受けているところ(乙K7の2),①原告p5の父は,昭和31年のABCC調査の際,原告p5が入市したのは昭和22年11月10日であるとし(乙K12),原告p5の両親が昭和35年に提出した被爆者健康手帳交付申請書にはいずれもg町に避難した後は入市していない旨の記載があるものの,これらは,原告p5の両親が原告p5の被爆の事実を隠すために虚偽の事実を述べたものである可能性が高いこと,②原告p5の両親らが,いったんg町まで避難しながら,家財の回収等のために原告p5を連れて再度入市したとする点も,当時,原子爆弾の放射線の影響等が広く知られていなかったこと等に照らすと不合理とまではいえないこと,③原告p5は,本人尋問において異母姉らの捜索については言及していないが,積極的に否定をしているわけでもなく,この点について変遷があるとはいえないし,入市した日にD小学校に宿泊したとする点等についても,被爆者健康手帳交付申請書(乙K7の2)において宿泊させてもらったとする知人ら(同申請の際に同内容の証明書を提出している。)と会った場所や時期,宿泊の場所等については,同申請がされたのが広島原爆の投下の約50年後であることからすれば,原告p5及び知人らの双方に 記憶の混乱があっても不自然でないところ,同小学校に行ったこと自体は同申請書にも記載があること,④上記の被爆者健康手帳交付申請書には「爆心地に一番近い場所」に行った日時として「8月10日14時頃」との記載があるが,これは,当該場所として記載されているi町に行った日時と見るのが自然であるから,上記の記載は,広島駅に同日午前中に着いたとする原告p5の上記供述と矛盾するものではないこと等に照らすと 記載があるが,これは,当該場所として記載されているi町に行った日時と見るのが自然であるから,上記の記載は,広島駅に同日午前中に着いたとする原告p5の上記供述と矛盾するものではないこと等に照らすと,原告p5の上記供述は十分に信用することができるというべきである。よって,被告の上記主張は採用することができない。 (3)慢性甲状腺炎(橋本病)についてア放射線起因性について(ア)放射線被曝の程度についてa 前記認定事実によれば,原告p5は,広島原爆の投下時には広島県比婆郡g町にいたのであるから,初期放射線による被曝はないものと認められる。また,前記のような新審査の方針の下における線量評価方法によれば,原告p5の誘導放射化物質による被曝線量は,昭和20年8月10日に爆心地から1キロメートル以内に立ち入ったことを考慮しても,0.000624グレイをはるかに下回る程度であるし(乙A106,弁論の全趣旨),原告p5がp・q地区に滞在又は居住したと認めるに足りる証拠はないから,放射性降下物による被曝はないことになる。 b しかしながら,原告p5は,前記認定のとおり,広島原爆の投下の4日後である昭和20年8月10日午前中に爆心地から約2キロメートルの広島駅に到着し,その後,爆心地から約1キロメートルのi町で家財を掘り出す作業に従事するなどし,同日夜は爆心地から約0. 5キロメートルのD小学校に宿泊して,その際に握り飯を食べるなどしているのであるから,その間,誘導放射化した粉塵や放射性降下物 の微粒子を相当量含む粉塵等に接触することにより,多量の放射性物質が衣服,髪,皮膚等に付着し,又は呼吸や飲食を通じてこれらを体内に取り込むなどした可能性が高いというべきである。そうすると,原告p5は,誘導放射化物質や放射性降下物からの とにより,多量の放射性物質が衣服,髪,皮膚等に付着し,又は呼吸や飲食を通じてこれらを体内に取り込むなどした可能性が高いというべきである。そうすると,原告p5は,誘導放射化物質や放射性降下物からの放射線により,新審査の方針の下における線量評価方法による推定値を超えて,健康に影響を及ぼすような相当程度の線量の外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 この点,被告は,原告p5の供述を前提としても,同人が人体の健康被害の観点から有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきであり,採用することができない。 (イ)慢性甲状腺炎(橋本病)及び甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性についてa 原告p5の第1の申請疾病は「慢性甲状腺炎(橋本病)」とされているが,実質的には,慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症が申請されているものと認められる(弁論の全趣旨)。 甲状腺機能低下症は,甲状腺ホルモンの欠乏又は作用不足により易疲労感や無気力等の症状を示す病態であるところ,その95パーセントは甲状腺自体の障害による原発性のもの(甲状腺ホルモン(T4,T3)低値及び甲状腺刺激ホルモン(TSH)高値によって診断される。なお,T3,T4が正常値でTSHのみ高値の場合は,潜在性甲状腺機能低下症と診断される。)であり,その大部分は,慢性甲状腺炎を原因とする(乙A601,606,613)。慢性甲状腺炎は,甲状腺における慢性炎症性の疾患であり,自己免疫性疾患の一つ(甲状腺自己抗体(抗マイクロゾーム抗体,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗 体,抗サイログロブリン抗体)陽性により診断されることが多い。)とされる(乙A606,613)。 b 免疫性疾患の一つ(甲状腺自己抗体(抗マイクロゾーム抗体,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗 体,抗サイログロブリン抗体)陽性により診断されることが多い。)とされる(乙A606,613)。 b 甲状腺が高線量の放射線被曝により破壊され,甲状腺機能低下症が起こることについては異論がなく,そのしきい値については確立した知見がないところ(乙A610,613),慢性甲状腺炎及び甲状腺機能低下症と低線量の放射線被曝との関連性については,①昭和59年に受診した広島原爆の被爆者9159人における甲状腺機能低下症の頻度は,男女とも近距離被爆者群(1.5キロメートル以内群)が対照群(3キロメートル以遠群)よりも有意に高く,また,被曝線量の増加とともに高率となり,さらに,甲状腺機能低下症症例のマイクロゾーム抗体陽性率は近距離被爆者群では対照群に比して男女いずれも著明に低率であったとし,甲状腺機能低下症が被曝線量と統計上有意に相関していることを示すとともに,自己免疫性の以外のものも含めた甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連の可能性について指摘したp15 らの報告(甲A161の2文献5),②同年から長崎のAHS集団1745人を対象に行った甲状腺疾患の調査において,被爆者全体の甲状腺機能低下症の発生頻度は0ラド群と比して有意な増加が認められ,被曝線量別に見ると1から49ラド群についてのみ0ラド群に比して有意な発生頻度の増加が認められたなどとするp16 らの報告(甲A161の2文献7。以下「p16 論文」という。),③同年から昭和62年に長崎のAHS集団1978人を対象に行った甲状腺疾患の調査において,抗体陽性特発性甲状腺機能低下症(自己免疫性甲状腺機能低下症)においては有病率が0.7±0.2シーベルトで最大レベルに達する上に凸の線量反応を示したとするp を対象に行った甲状腺疾患の調査において,抗体陽性特発性甲状腺機能低下症(自己免疫性甲状腺機能低下症)においては有病率が0.7±0.2シーベルトで最大レベルに達する上に凸の線量反応を示したとするp17 らの報告(甲161の2文献3。以下「p17 論文」という。なお,p17 論文は,マーシャル諸島の核実験で被爆した子どもに10年以内に甲状腺機能低 下症が認められたこと,マーシャル諸島の住民の甲状腺被曝は主として内部放射線によるものであったこと,その甲状腺機能低下症の多くは自己免疫性甲状腺機能低下症ではなかったことも指摘している。),④長崎のj地区住民の甲状腺機能(遊離T4)が,正常値の範囲内ではあるが対照群に比して有意に低く,この差は被爆時年齢20歳以下の集団で顕著であったとするp18 らの報告(甲161の2文献1参照),⑤甲状腺疾患(非中毒性甲状腺腫結節,び慢性甲状腺腫,甲状腺中毒症,慢性リンパ性甲状腺炎,甲状腺機能低下症のうち1つ以上が存在する疾患)と被曝線量との関係を解析すると有意な正の線量反応が見られ(1グレイ当たりの相対リスク1.30,P値<0.0001,95パーセント信頼区間1.16から1.47まで),特に若年で被爆した人でリスクの増加が見られるとするAHS第7報(甲A161の2文献9),⑥甲状腺疾患における1シーベルト当たりの相対リスクは1.33(P値<0.0001,95パーセント信頼区間1.19から1.49まで)であり,リスクは20歳未満で被爆した者で顕著に増大したとするAHS第8報(甲A161の2文献12)のほか,⑦甲状腺炎自然発症マウスNOD-H2h4 において,0.5グレイ単独放射線全身照射により甲状腺自己免疫(甲状腺炎と抗サイグロブリン抗体価)が有意に増悪したとするp19 らの報告(甲A279。以下 ⑦甲状腺炎自然発症マウスNOD-H2h4 において,0.5グレイ単独放射線全身照射により甲状腺自己免疫(甲状腺炎と抗サイグロブリン抗体価)が有意に増悪したとするp19 らの報告(甲A279。以下「p19論文」という。)等の知見があることが認められる。 また,医療分科会は,平成21年6月22日,新審査の方針を改定し,いわゆる積極認定の対象疾病に,「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」を追加した(乙A1の2)。 c 以上のとおり,甲状腺が高線量の放射線被曝により破壊され,甲状腺機能低下症が起こることについては異論がなく,そのしきい値については確立した知見がないところ,慢性甲状腺炎及び甲状腺機能低下 症と低線量の放射線被曝との関連性を肯定する疫学的知見が存在しており,新審査の方針のいわゆる積極認定の対象疾病に「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」が追加されたこと等をも考慮すれば,慢性甲状腺炎及び甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,低線量域を含めて,一般的に肯定することができるというべきである。 d この点,被告は,①p16 論文及びp17 論文は,いずれも,一定の低線量被曝群についてのみ甲状腺機能低下症の有意な増加が認められるとするところ,仮に甲状腺機能低下症に放射線起因性が認められるのであれば,当該群だけでなく他の被曝群についても対照群との有意差を示し,被曝線量が増すにつれて有症率も増加するはずであるにもかかわらず,上記のような上に凸の線量反応関係が示されたことについて何ら理論的・実験的な説明がされていない,②AHS第7報及び第8報は,いずれも,甲状腺疾患全体を対象としたものであり,特定の甲状腺疾患に対する放射線の影響について評価したものではないから,これらに依拠して甲状腺機能低下症と放射 ていない,②AHS第7報及び第8報は,いずれも,甲状腺疾患全体を対象としたものであり,特定の甲状腺疾患に対する放射線の影響について評価したものではないから,これらに依拠して甲状腺機能低下症と放射線との関連があるということはできない,③平成12年から平成15年にかけて広島及び長崎のAHS集団3185人を対象に行った甲状腺疾患の調査において,甲状腺自己抗体陽性率は放射線の線量に関連しておらず(P値0.20),甲状腺自己抗体陽性甲状腺機能低下症も同抗体陰性甲状腺機能低下症も線量に関連していなかった(P値はそれぞれ0.92及び0.31)とするp20 らの報告(乙A608,609。以下「p20 論文」という。)によりp17 論文における調査の結果は否定された,④p19 論文は,マウスの慢性甲状腺炎の増悪を調査したものであり,そのまま人に適用できるか不明である上,放射線により慢性甲状腺炎が発症し得るか否かも明らかでない,⑤p20 論文等の文献レビューにより,最新の調査 では自己免疫性甲状腺機能低下症においても有意な関係が認められず甲状腺自己抗体陽性率及び甲状腺機能低下症一般においては被曝線量との関連性は認められていないとするp21 の研究(乙A610。以下「p21 論文」という。)や,これまでの被爆者における研究では甲状腺機能低下症,慢性甲状腺炎及び甲状腺自己抗体陽性のいずれについても甲状腺被曝線量との有意な関係は認められていないとする放射線被曝者医療国際協力推進協議会編「原爆放射線の人体影響改訂第2版」の解説(乙A613)等がある上,チェルノブイリ事故の放射線被曝の自己免疫性甲状腺炎への影響を他の要因から切り出すには非常に慎重な調査が必要であるとするUNSCEARの2008年(平成20年)のレポート(乙A611)や,甲状腺機能低 ルノブイリ事故の放射線被曝の自己免疫性甲状腺炎への影響を他の要因から切り出すには非常に慎重な調査が必要であるとするUNSCEARの2008年(平成20年)のレポート(乙A611)や,甲状腺機能低下症を引き起こす線量は甲状腺線量で25から30グレイ程度(分割照射)であると推定されるとするICRPの報告書(乙A604,弁論の全趣旨)等をも踏まえれば,現在の一般的な医学的・科学的知見として甲状腺機能低下症と低線量の放射線被曝との間に関連性があるとは到底認められないと主張する。 しかし,①p16 論文及びp17 論文の調査結果において上に凸の線量反応関係が示されたことについては,高線量の被曝をして甲状腺機能低下症を発症すべき者が早期に死亡するなどしたために調査対象に含まれなかった可能性を否定できない上(この点,被告は,p17 論文は「本調査のデータは,放射線治療を受けた者および原爆被爆者における甲状腺癌の頻度の増加を報告した以前の調査結果と一致している」としており,高線量を浴びた被爆者も調査対象に含まれていたことは明らかであるとするが,上記の記載は,DS86による推定線量値が得られていない群(unavailable 群)について,より精度の低い推定方式(T65D)による線量を仮に用いて解析した結果についてのも のであり,同群を除外した解析では,甲状腺線量と有症率の間には単調増加の線量反応関係が示唆されたものの有意ではなかった(P値0. 09)とされていること(甲A161の2文献3)に照らしても,被告の上記主張は採用することができない。),具体的な機序が未解明であるからといって,このような線量反応関係が直ちに不自然であり,低線量域における線量反応関係を認めた調査結果が不合理であると断ずることもできない(なお,上記の点について 。),具体的な機序が未解明であるからといって,このような線量反応関係が直ちに不自然であり,低線量域における線量反応関係を認めた調査結果が不合理であると断ずることもできない(なお,上記の点について,p16 論文及びp17論文は,原子爆弾の放射線被曝による免疫系の異常の発生は発がんと違った機序によることを示唆していると考えられるとする。)。 また,②AHS第7報及びAHS第8報は,たしかに,甲状腺疾患全体の線量反応関係を検討したものであり,甲状腺機能低下症のみについて解析をした場合に異なる結果が出る余地があることは否定できないし,④p19 論文におけるマウスの慢性甲状腺炎の増悪についての調査結果が,人の慢性甲状腺炎の発症について直ちに適用できるものでないことはいうまでもないが,これらの報告は,低線量の放射線被曝が甲状腺に対して一定の障害作用を有することを示唆するものということができ,その限りにおいては,慢性甲状腺炎及び甲状腺機能低下症と低線量の放射線被曝との関連を検討する上でも意味を持つというべきである。 さらに,③p20 論文は,それ自体,p17 論文の調査結果との違いについて,「時間の経過に伴い対象者の線量分布が変化したこと(死亡およびがんのリスクは放射線量に依存するため)」等に起因するかもしれないとしており(なお,時間の経過は,高線量に被曝した被爆者の割合を低下させるというよりも,低線量に被曝した者も含めて放射線起因性のある疾病を発症した者の割合を低下させる可能性があるように思われる。),上記調査結果を明示的に否定するものではないの であるから,慢性甲状腺炎及び甲状腺機能低下症と低線量の放射線被曝との関係を認めるp17 論文等の知見が,p20 論文によって否定されたと断ずることはできない。そして,このことは はないの であるから,慢性甲状腺炎及び甲状腺機能低下症と低線量の放射線被曝との関係を認めるp17 論文等の知見が,p20 論文によって否定されたと断ずることはできない。そして,このことは,⑤p20 論文を引用するp21 論文及び「原爆放射線の人体影響改訂第2版」の前記解説や,UNSCEARの前記レポート及びICRPの前記報告書(なお,同報告書は,正常な成人の甲状腺に対する重篤な機能的損傷のしきい値を30日間の分割照射で約25から30グレイ程度と推定しつつ,より低線量でも損傷を受ける可能性はあるとしている(乙A604)。)についても同様である。 以上によれば,甲状腺機能低下症と低線量の放射線被曝との間に関連性があるとは到底認められないとの被告の主張は,採用することができない。 (ウ)検討a 放射線の影響について以上のとおり,慢性甲状腺炎及び甲状腺機能低下症と放射線被曝との間には低線量域を含めて関連性を認めることができるところ,原告p5は,前記のとおり,健康に影響を及ぼす程度の放射線に被曝していた可能性が高いというべきである。加えて,原告p5が放射線被曝の影響が大きいとされる若年時(当時10歳)に被爆していること,新審査の方針によれば,「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」が積極認定の対象疾病とされているところ,原告p5が「原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者」に該当することなども併せ考慮すれば,原告p5の申請疾病である慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症は,原子爆弾の放射線に起因すると認めるのが相当である。 b 危険因子について この点,被告は,原告p5について,加齢(慢性甲状腺炎発症時59歳,甲状腺機能低下症発症時62歳)を指摘し,原告p 射線に起因すると認めるのが相当である。 b 危険因子について この点,被告は,原告p5について,加齢(慢性甲状腺炎発症時59歳,甲状腺機能低下症発症時62歳)を指摘し,原告p5の慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症は,これを原因として発症したものと見るのが自然かつ合理的であると主張するところ,慢性甲状腺炎も甲状腺機能低下症も,一般論としては加齢に伴って増加する傾向にあると認めることができる(乙A601,603)。 しかしながら,原告p5が健康に影響を及ぼす程度の放射線に被曝していた可能性が高いことは前記のとおりであり,甲状腺機能低下症発症時に62歳と比較的高齢であったというだけでは放射線起因性を否定することはできないというべきである。よって,被告の上記主張は採用することができない。 c まとめ以上によれば,原告p5の原爆症認定の申請に係る慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症については,放射線起因性が認められる。 イ要医療性について原告p5は,前記認定事実によれば,甲状腺機能低下症を発症した頃から甲状腺ホルモン剤(チラージン)による投薬治療等を継続的に受けており,当該治療が必要な状態が続いていたといえるから,原告p5の慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症については,要医療性が認められる。 (4)舌がん術後後遺症についてア放射線起因性について(ア)原告p5の第2の申請疾病は「舌がん術後後遺症」であるが,その具体的内容は,右上肢挙上障害であると認められる(弁論の全趣旨)。ところで,原告p5は,前記のとおり,原子爆弾の放射線により健康に影響を及ぼすような相当程度の線量の外部被曝及び内部被曝をした可能性が高く,原告p5が放射線被曝の影響が大きいとされる若年時(当時1 0歳)に被 ,前記のとおり,原子爆弾の放射線により健康に影響を及ぼすような相当程度の線量の外部被曝及び内部被曝をした可能性が高く,原告p5が放射線被曝の影響が大きいとされる若年時(当時1 0歳)に被爆していること,新審査の方針によれば,「悪性腫瘍(固形がんなど)」がいわゆる積極認定の対象疾病とされているところ,原告p5は「原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者」に該当することなども併せ考慮すれば,原告p5に喫煙歴があったとしても,その舌がんは原子爆弾の放射線に起因すると認めることができる。 (イ)そして,前記認定事実によれば,原告p5の右上肢挙上障害は,舌がんの治療としての右頸部リンパ節郭清術の際に副神経が切断されたことにより発症し,舌がんの放射線治療による放射線障害によって神経細胞が減少したことにより両側腕神経叢障害(放射線治療後)を発症したことにより増悪し,筋萎縮性側索硬化症の亜型であるFlailarmsyndromeを発症したことにより更に増悪したものと認められる。そして,上記の副神経の切断及び両側腕神経叢障害が舌がん治療の後遺症であることは明らかであるから,原告p5の右上肢挙上障害については,放射線起因性が認められるというべきである。 この点,被告は,原告p5の上肢挙上障害はFlailarmsyndrome であるから放射線起因性がないと主張するが,前記認定のとおり,右上肢挙上障害の症状自体は前記右頸部リンパ節郭清術の直後から現れており,その後の増悪も一定程度までは放射線治療の影響によるものと認められるのであるから,その後,Flailarmsyndrome によって症状が更に増悪したとしても,舌がんの治療との関係が否定されるものではない。よって,被告の上記主張は採用することがで と認められるのであるから,その後,Flailarmsyndrome によって症状が更に増悪したとしても,舌がんの治療との関係が否定されるものではない。よって,被告の上記主張は採用することができない。 イ要医療性について原告p5は,前記認定事実によれば,右上肢挙上障害について,平成19年10月にI病院において両側腕神経叢障害(放射線治療後)と診断された頃から内服薬による治療を受けるようになり,平成21年3月にFlai larmsyndrome と診断された後は,その治療を受けるようになったものと認められる。 ところで,原爆症認定の申請と共に医療特別手当の申請を行った場合において,原爆症認定がされたときは,当該申請をした日の属する月の翌月から医療特別手当が支給され得るのであるから(被爆者援護法24条4項),要医療性の要件は原爆症認定の申請時において満たされていれば足りると解される。そうであるところ,原告p5については,上記のとおり,平成19年10月頃から右上肢挙上障害について内服薬による治療を受けており,原告p5が同年11月5日に前記前提となる事実4(2)のとおり原爆症認定の申請をした時点においても,同治療が継続されていたと認められる。そうすると,その後,同治療が中止され,経過観察のみが行われるようになったとしても(当該疾病について積極的治療が行われず経過観察のみが行われている場合には,原則として要医療性が認められないことは,後記のとおりである。),原告p5の舌がん術後後遺症(右上肢挙上障害)については,要医療性の要件を満たしていたというべきである。 (5)小括以上によれば,原告p5は,前記前提となる事実4(2)の原爆症認定の申請に係る慢性甲状腺炎(橋本病)及び舌がん術後後遺症のいずれについても放 の要件を満たしていたというべきである。 (5)小括以上によれば,原告p5は,前記前提となる事実4(2)の原爆症認定の申請に係る慢性甲状腺炎(橋本病)及び舌がん術後後遺症のいずれについても放射線起因性及び要医療性の要件を満たしていたものと認められる。そうすると,上記申請を却下する処分は違法というべきであり,取消しを免れない。 5 原告p6について(1)認定事実前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(甲L1,乙L1,8,16,原告p6本人) (ア)原告p6は,昭和9年○月○○日生まれの男性であり,昭和20年8月9日,長崎市上j町の自宅(爆心地から約2.7キロメートル)の木造家屋内において長崎原爆に被爆した(当時10歳)。 (イ)原告p6は,同日,家族と共に,長崎県西彼杵郡lの親戚のもとに避難した。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(甲L1,乙L1,10,原告p6本人)(ア)原告p6は,昭和26年に肝機能障害・黄疸のため通院治療を受け,また,昭和28年にアレルギー性神経性鼻炎のため通院治療を受けた。 (イ)原告p6は,昭和31年9月から昭和32年6月まで,肺結核のため入院した。また,原告p6は,昭和60年から高血圧のため投薬治療を受けており,平成13年に胃潰瘍のため治療を受けた。 (ウ)原告p6は,平成15年1月に甲状腺機能低下症との診断を受け,その頃から,甲状腺ホルモン剤(チラージン)を継続的に服用している。 (2)事実認定の補足説明ア原告p6は,長崎原爆に被爆した当日の午後2時頃,k町に住んでいた父及び長姉の行方を捜すため,u天主堂近くの神学校(爆心地から約0. 5キロメートル)まで行ったが, (2)事実認定の補足説明ア原告p6は,長崎原爆に被爆した当日の午後2時頃,k町に住んでいた父及び長姉の行方を捜すため,u天主堂近くの神学校(爆心地から約0. 5キロメートル)まで行ったが,自宅に引き返し,2日後にlに避難したと主張しており,これに沿う原告p6の供述等(甲L1,乙L1,原告p6本人)もある。 しかしながら,原告p6は,昭和32年6月29日に作成した被爆者健康手帳交付申請書(乙L8)には上記入市に係る事実を何ら記載していないのみならず,p10 医師作成の診療録(乙L16)によれば,平成18年8月9日,同医師に対して,上j町の自宅において被爆し,その日に山を越えてlに避難したなどと上記主張と異なる説明をしていることが認められる(なお,同医師は,原告p6からは入市の状況を聞いており,上記診 療録の記載が誤っていると供述するが(証人p10),数多くの原爆症認定の申請に関与し,入市被爆を含む被爆状況を重視する(証人p10)同医師が,長崎原爆投下の当日に爆心地付近まで立ち入った旨を聞きながらこれを診療録に記載せず,かえってこれと異なる事実を記載するとは考え難く,同医師の上記供述は信用することができない。)。そして,入市当時の長崎市内の状況等についての原告p6の供述に具体性が乏しいこと等をも併せ考えると,原告p6の上記供述等は信用することができない。よって,上記主張に係る入市の事実は認められない。 イまた,原告p6は,長崎原爆投下の当日からしばらく下痢が続いたと主張しており,これに沿う原告p6の供述等(甲L1,原告p6本人)もある。 しかしながら,上記の被爆者健康手帳交付申請書(乙L8)には,下痢について記載する欄があるにもかかわらず,下痢があった旨の記載はない上,原告p6作成の平成18年 原告p6本人)もある。 しかしながら,上記の被爆者健康手帳交付申請書(乙L8)には,下痢について記載する欄があるにもかかわらず,下痢があった旨の記載はない上,原告p6作成の平成18年9月6日付けの認定申請書(乙L1)や,同申請書に係る原爆症認定の申請の際に提出された原告p6の姉の陳述書(乙L1)及び医師の意見書(乙L4)にも,下痢については何ら記載されておらず,かえって,上記医師の意見書には,急性症状については原告p6に記憶がない旨が記載されているのであって,これらに照らすと,原告p6の上記供述は信用することができない。よって,原告p6に被爆後に下痢の症状が現れたと認めることはできない。 (3)放射線起因性についてア放射線被曝の程度について(ア)前記認定事実によれば,原告p6は,長崎原爆の爆心地から約2.7キロメートル離れた木造家屋内において被爆したのであるから,初期放射線による被曝線量はせいぜい0.007グレイ程度にとどまる(乙A105の1,弁論の全趣旨)。また,前記のような新審査の方針の下に おける線量評価方法によれば,原告p6の誘導放射化物質による被曝線量は,前記入市の事実が認められない以上,考慮する必要がないことになる。 (イ)しかしながら,前記のとおり,誘導放射化した粉塵等は爆心地から約2.7キロメートル離れた上j町の自宅付近にも到達していた可能性がある上,同町は,長崎原爆の投下から約20分後に黒い雨が降り(甲L5,6),放射性降下物が多かったとされるj地区にも近接しているのであるから,原告p6自身に黒い雨に遭遇した記憶がない(原告p6本人)としても,被爆後に自宅付近にとどまっていた間に,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を相当量含む粉塵等が衣服,髪,皮膚等に付着し,又は 原告p6自身に黒い雨に遭遇した記憶がない(原告p6本人)としても,被爆後に自宅付近にとどまっていた間に,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を相当量含む粉塵等が衣服,髪,皮膚等に付着し,又は呼吸を通じてこれらを体内に取り込むなどした可能性が高いというべきである。そうすると,原告p6は,誘導放射化物質や放射性降下物からの放射線により,新審査の方針の下における線量評価方法による推定値を超えて,健康に影響を及ぼすような相当程度の線量の外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 この点,被告は,原告p6の供述を前提としても,同人が人体の健康被害の観点から有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきであり,採用することができない。 イ甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性について原告p6の申請疾病は「甲状腺機能低下症」であるところ,その甲状腺機能低下症は自己免疫性ではないと認められる(乙L10)。 ところで,甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,前記のとおり,低線量域を含めて,一般的に肯定することができるというべきである。そして,前記のとおり,自己免疫性ではない甲状腺機能低下症について線量反応関係を認めた調査結果は現れていないが,p17 論文は,マ ーシャル諸島の核実験で被爆した子どもに10年以内に甲状腺機能低下症が認められたこと,マーシャル諸島の住民の甲状腺被曝は主として内部放射線によるものであったこと,その甲状腺機能低下症の多くは自己免疫性甲状腺機能低下症ではなかったことを指摘していること等に照らすと,相対リスクがどの程度であるかは判然としないものの,自己免疫性でない甲状腺機能低下症について ,その甲状腺機能低下症の多くは自己免疫性甲状腺機能低下症ではなかったことを指摘していること等に照らすと,相対リスクがどの程度であるかは判然としないものの,自己免疫性でない甲状腺機能低下症についても,放射線被曝との関連性を認めることができる。 ウ検討(ア)放射線の影響について前記のとおり,自己免疫性でない甲状腺機能低下症と放射線被曝との間には低線量域を含めて関連性を認めることができるところ,原告p6は,健康に影響を及ぼす程度の放射線に被曝していた可能性が高いというべきである。加えて,原告p6が放射線被曝の影響が大きいとされる若年時(当時10歳)に被爆していること,新審査の方針によれば,「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」が積極認定の対象疾病とされているところ,原告p6が「被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者」に該当することなども併せ考慮すれば,原告p6の申請疾病である甲状腺機能低下症は,原子爆弾の放射線に起因すると認めるのが相当である。 (イ)危険因子についてこの点,被告は,原告p6について,加齢(発症時68歳)を指摘し,原告p6の甲状腺機能低下症は,これを原因として発症したものと見るのが自然かつ合理的と主張するところ,甲状腺機能低下症が一般論としては加齢に伴って増加する傾向があることは前記のとおりである。 しかしながら,原告p6が健康に影響を及ぼす程度の放射線に被曝していた可能性が高いことは前記のとおりであり,甲状腺機能低下症発症時に68歳と比較的高齢であったというだけでは放射線起因性を否定す ることはできないというべきである。よって,被告の上記主張は採用することができない。 (ウ)まとめ以上によれば,原告p6の原爆症認定の申請に係る甲状腺機能低下症については,放 ることはできないというべきである。よって,被告の上記主張は採用することができない。 (ウ)まとめ以上によれば,原告p6の原爆症認定の申請に係る甲状腺機能低下症については,放射線起因性が認められる。 (4)要医療性について原告p6は,前記認定事実によれば,甲状腺機能低下症との診断を受けた頃から甲状腺ホルモン剤(チラージン)による投薬治療等を継続的に受けており,当該治療が必要な状態が続いているといえるから,原告p6の甲状腺機能低下症については,要医療性が認められる。 (5)小括以上によれば,原告p6は,前記前提となる事実4(2)の原爆症認定の申請に係る甲状腺機能低下症について放射線起因性及び要医療性の要件を満たしていたものと認められる。そうすると,上記申請を却下する処分は違法というべきであり,取消しを免れない。 6 原告p7について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(甲N1,乙N1,11,原告p7本人)(ア)原告p7は,大正15年○月○日生まれの男性であり,昭和20年8月6日,入院していた広島市m町の広島第一陸軍病院m分院(爆心地から約3.6キロメートル)の木造建物内において広島原爆に被爆した(当時19歳)。 (イ)原告p7は,同日以降,上記病院内で遺体の運搬等の作業に従事したほか,医師等の救護活動に数回同行し,広島市内のより爆心地に近い地 域に立ち入るなどした。 (ウ)原告p7は,同月16日頃,郷里である兵庫県y市に戻った。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(甲N1,11,乙N1,4,18から21まで,24,証人p10,原告p7本人)(ア)原告p7には,被爆 頃,郷里である兵庫県y市に戻った。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(甲N1,11,乙N1,4,18から21まで,24,証人p10,原告p7本人)(ア)原告p7には,被爆の数日後から昭和20年8月16日頃まで,下痢や吐き気といった症状があり,また,その後も全身の倦怠感等が続いた。 (イ)原告p7は,昭和29年頃,白血球数が少ないと指摘されて検査入院し,白血球減少症との診断を受けた。 (ウ)原告p7は,昭和50年に変形性脊椎症,昭和57年頃に高血圧及び動脈硬化症,平成3年に変形性膝関節症,平成8年に頸椎症との診断をそれぞれ受け,平成22年10月に白内障の手術を受けた。また,骨粗鬆症との診断を受け,平成2年頃からたびたび骨折をしている。 (エ)原告p7は,平成17年6月,急性心筋梗塞を発症し,経皮冠動脈ステント留置術を受けた。 (オ)原告p7は,前記(ウ)のとおり高血圧と診断されて以降,継続的に投薬治療を受けているところ,原告p7の血圧(mmHg)は,平成15年から上記急性心筋梗塞発症までの間は,拡張期はおおむね80台,収縮期は130台から140台のことが多かったが,平成16年後半頃から収縮期が150を超えることが多くなり,平成17年には170から180に達することもあった。 (カ)原告p7の白血球数は,平成8年8月から平成22年7月まで,おおむね2500から3500の範囲内で推移していた(基準値は3500から8900まで)。 (キ)原告p7は,心筋梗塞の発症以来,その再発を防ぐため,血管拡張剤や抗凝固剤を服用している。 (ク)原告p7の白血球減少症については,他の疾病を発症した場合等に備 えて定期的な血液検査等の経過観察が必要とされるが,投薬等の治療は行われていない。 (2)事実認定の補 ている。 (ク)原告p7の白血球減少症については,他の疾病を発症した場合等に備 えて定期的な血液検査等の経過観察が必要とされるが,投薬等の治療は行われていない。 (2)事実認定の補足説明原告p7は,広島原爆に被爆した昭和20年8月6日の午前中に,前記広島第一陸軍病院m分院に避難してきた女性らを自宅に送り届けるために爆心地付近に立ち入り,その後,2時間ほど爆心地付近を見物して回ったと主張しており,これに沿う原告p7の供述等(甲N1,原告p7本人)もある。 しかしながら,原告p7は,昭和47年6月26日に作成した被爆者健康手帳交付申請書(乙N11)に,直接被爆者としての被爆状況のみならず看護救護従事者としての状況についても記載しているにもかかわらず,上記主張に係る入市の事実については何ら記載しておらず,平成18年10月6日付けの認定申請書(乙N1)及び同申請書に係る原爆症認定の申請の際に提出された医師の意見書(乙N4)にも当該事実を記載していない上,女性らを危険な爆心地方面に送り届け,その後,爆心地付近を見物して回ったという供述内容自体,不自然といわざるを得ないことからすれば,原告p7の上記供述は信用することができない。よって,上記主張に係る入市の事実は認められない。 (3)白血球減少症についてア原告p7の第1の申請疾病は「白血球減少症」であるところ,前記認定事実によれば,原告p7の白血球減少症については,定期的な血液検査等の経過観察を要するものの,積極的な治療行為が必要な状況ではなく,直ちに他の疾病を発症するなどする危険性が高いということもできないというべきである。 イところで,被爆者援護法10条1項は,厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被 る危険性が高いということもできないというべきである。 イところで,被爆者援護法10条1項は,厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対して必要な医療の給付を行うと規定し,同条2項は,上記医 療の給付の範囲を,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護並びに⑥移送としている。これらの規定に照らすと,疾病等が「現に医療を要する状態にある」(要医療性)とは,当該疾病等に関し,同条2項の規定する医療の給付を要する状態にあることをいうものと解するのが相当である。 もっとも,積極的な治療行為を伴わない定期検査等の経過観察については,広い意味で「診察」に含まれ得るとしても,「負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある」という文言の自然な意味内容のほか,被爆者援護法が「健康管理」と「医療」とを区別し,健康管理(第3章第2節)の内容として,都道府県知事が,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところにより,健康診断を行うものとし(被爆者援護法7条),一般検査の結果必要があれば精密検査を行うものとし,その検査の方法は特に制限されていないこと(被爆者援護法施行規則9条)等に照らすと,当該疾病につき悪化の可能性が高い等の特段の事情がない限り,上記の「医療」には当たらないと解するのが相当である。 ウそして,前記のとおり,原告p7の白血球減少症については,前記前提となる事実4(2)のとおり原爆症認定の申請をした時点において,積極的な治療行為を伴わない経過観察が必要とされていたにすぎず,当該疾病 して,前記のとおり,原告p7の白血球減少症については,前記前提となる事実4(2)のとおり原爆症認定の申請をした時点において,積極的な治療行為を伴わない経過観察が必要とされていたにすぎず,当該疾病につき悪化の可能性が高い等の特段の事情があったとも認められないから,要医療性が認められないというべきである。 (4)急性心筋梗塞についてア放射線起因性について(ア)放射線被曝の程度についてa 前記認定事実によれば,原告p7は,広島原爆の爆心地から約3. 6キロメートル離れた木造建物内において被爆したのであるから,初期放射線量による被曝線量はせいぜい0.0007グレイ程度にとどまる(乙A105の1,弁論の全趣旨)。また,前記のような新審査の方針の下における線量評価方法によれば,原告p7の誘導放射化物質による被曝線量は,仮に昭和20年8月7日に爆心地から約1.5キロメートルの地点に立ち入ったとしても,0.0039グレイに満たない程度であり(乙A106,弁論の全趣旨),また,原告p7がp・q地区に滞在又は居住したと認めるに足りる証拠はないから,放射性降下物による被曝はないことになる。 b しかしながら,原告は,前記認定のとおり,被爆の当日から,前記病院において被爆者の遺体の運搬作業等に従事し,誘導放射化した遺体に直接触れるなどしている上,救護活動のために広島市内に数回入るなどしているのであって,その具体的な日時や場所が不明であるとしても,救護活動の間に多量の放射性物質が衣服,髪,皮膚等に付着し,又は呼吸を通じてこれらを体内に取り込むなどした可能性が高いというべきである。そして,前記認定のとおり,原告p7が白血球減少症との診断を受け,その白血球数が継続的にやや少ない状態にあるなど放射線の影響をうかがわせる症状が発現し 取り込むなどした可能性が高いというべきである。そして,前記認定のとおり,原告p7が白血球減少症との診断を受け,その白血球数が継続的にやや少ない状態にあるなど放射線の影響をうかがわせる症状が発現していること等をも考慮すれば,原告p7は,誘導放射化物質や放射性降下物からの放射線により,新審査の方針のもとにおける線量評価方法による推定値を超えて,健康に影響を及ぼすような相当程度の線量の外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 この点,被告は,原告p7の供述を前提としても,同人が人体の健康被害の観点から有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきであり,採用することが できない。 (イ)急性心筋梗塞と放射線被曝との関連性について原告p7の第2の申請疾病は「急性心筋梗塞」であるところ,前記のとおり,心筋梗塞と放射線被曝との間には関連性を認めることができ,そこに一定のしきい値は存在しないと考えるのが合理的というべきである。 (ウ)検討a 放射線の影響について前記のとおり,心筋梗塞と放射線被曝との間には関連性を認めることができ,そこに一定のしきい値は存在しないと考えるのが合理的であるところ,原告p7は,健康に影響を及ぼす程度の放射線に被曝していた可能性が高いというべきである。加えて,原告p7が放射線被曝の影響が大きいとされる若年時(当時19歳)に被爆していること,新審査の方針によれば,「放射線起因性が認められる心筋梗塞」が積極認定の対象疾病とされているところ,原告p7が「原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者」に該当する可能性も相当程度あることなども併せ考慮す められる心筋梗塞」が積極認定の対象疾病とされているところ,原告p7が「原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者」に該当する可能性も相当程度あることなども併せ考慮すれば,原告p7の申請疾病である急性心筋梗塞は原子爆弾の放射線に起因すると認めるのが相当である。 b 危険因子についてこの点,被告は,原告p7について,①加齢(発症時79歳),②高血圧,③家族歴(被爆していない弟妹も心疾患を発症)を指摘し,原告p7の急性心筋梗塞は,これらを原因として発症したものとみるのが自然かつ合理的であると主張するところ,これらの因子が動脈硬化及びこれを原因とする心筋梗塞の危険因子であると認められることは前記のとおりである。 しかしながら,前記のとおり,上記のような危険因子があるからといって,動脈硬化やこれを原因とする心筋梗塞と放射線被曝との間の関連性が直ちに否定されるものではない。 そして,②高血圧については,前記のとおり,それ自体が放射線被曝による影響を受けている可能性が示唆されている上,原告p7は,前記認定のとおり,急性心筋梗塞を発症する半年ほど前から収縮期の値が高い状態であったものの,治療の結果,重篤な状態が長期間続いていたとまでは認められない。また,③家族歴については,それ自体を重大な危険因子と見ることはできないというべきである。 そうすると,原告p7の高血圧等の危険因子が急性心筋梗塞の発症に影響していることは否定できないとしても,これによって原子爆弾の放射線の影響自体が否定されるものではなく,むしろ,原告p7の放射線被曝と高血圧等の危険因子とが相まって,急性心筋梗塞の発症に寄与したものと考えるのが自然かつ合理的である。よって,被告の上記主張は採用することができない。 c く,むしろ,原告p7の放射線被曝と高血圧等の危険因子とが相まって,急性心筋梗塞の発症に寄与したものと考えるのが自然かつ合理的である。よって,被告の上記主張は採用することができない。 c まとめ以上によれば,原告p7の原爆症認定の申請に係る急性心筋梗塞については,放射線起因性が認められる。 イ要医療性について原告p7は,前記認定事実によれば,心筋梗塞の発症以来,その再発を防ぐため,抗凝固剤,血管拡張剤等による投薬治療等を継続的に受けており,当該治療が必要な状態が続いているといえるから,原告p7の急性心筋梗塞については,要医療性が認められる。 (5)小括以上によれば,原告p7は,前記前提となる事実4(2)の原爆症認定の申請に係る急性心筋梗塞について放射線起因性及び要医療性の要件を満たし ていたものと認められるから,上記申請を却下する処分のうち当該申請疾病に係る部分は違法というべきであり,取消しを免れない。他方,上記申請に係る白血球減少症については要医療性の要件を満たしていたとは認められないから,上記申請を却下する処分のうち当該申請疾病に係る部分は,その余の点について判断するまでもなく,違法であるとは認められず,当該部分の取消請求は理由がない。 7 原告p8について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(甲O1,乙O1,12,原告p8本人)(ア)原告p8は,大正15年○月○○日生まれの男性であり,昭和20年8月6日,所属する軍部隊の本部がある広島市m町の路上(爆心地から約3.5キロメートル)において広島原爆に被爆し(被爆当時19歳),その際,熱線により頬に火傷を負った上,竜巻のような突風に遭遇した。 月6日,所属する軍部隊の本部がある広島市m町の路上(爆心地から約3.5キロメートル)において広島原爆に被爆し(被爆当時19歳),その際,熱線により頬に火傷を負った上,竜巻のような突風に遭遇した。 (イ)原告p8は,その後,近くのグラウンドにおいて,重傷者の救護活動に従事し,その間,黒い雨に遭遇した。 (ウ)原告p8は,同日夜は路上で就寝し,同月7日も,同じ場所で同様の救護活動に従事した。 (エ)原告p8は,同月8日午前,広島市n町(爆心地から約2キロメートル)に移動し,同月10日に前記部隊本部に戻るまで,同所において救護・警備活動に従事した。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(甲O2,3,乙O4,19,20,証人p10,原告p8本人)(ア)原告p8は,昭和24年頃に貧血症を発症し,昭和45年に胃潰瘍の手術を受けた。また,原告p8は,平成13年及び平成19年にそれぞ れ心筋梗塞を発症した。 (イ)原告p8が1回目の心筋梗塞を発症した際の血圧(収縮期血圧/拡張期血圧・mmHg)は140/86であり,その後は,平成14年4月1日に162/86であったほかは,おおむね,収縮期130台から140台まで,拡張期80台の範囲で推移していた。 (ウ)原告p8は,平成13年10月から高脂血症の治療を受けており,同年8月の総コレステロール(mg/dl)は201と正常値(150から219まで)の範囲内であった。 (エ)原告p8は,1回目の心筋梗塞の発症以来,その再発を防ぐため,抗凝固剤,血管拡張剤等を服用しているが,貧血症については,経過観察を要するものの,積極的な治療は受けていない。 (2)事実認定の補足説明原告p8は,被爆後,下痢や鼻血といった症状が現れたと主張し,これに沿う原告p8の供述等(甲O 症については,経過観察を要するものの,積極的な治療は受けていない。 (2)事実認定の補足説明原告p8は,被爆後,下痢や鼻血といった症状が現れたと主張し,これに沿う原告p8の供述等(甲O1,乙O1,原告p8本人)もある。 しかしながら,原告p8の被爆者健康手帳(乙O12)の「被爆当時の急性症状」欄には,頭痛についての記載があるのみで下痢や鼻血の記載はないところ,下痢や鼻血の症状が現れていたのであれば,これらを記載しない合理的理由がないこと等に照らすと,原告p8の上記供述等は信用することができない。よって,原告p8に被爆後に下痢や鼻血の症状が現れたと認めることはできない。 (3)貧血症について前記のとおり,積極的な治療行為を伴わない定期検査等の経過観察については,当該疾病につき悪化の可能性が高い等の特段の事情がない限り,「現に医療を要する状態にある」と認めることはできないと解するのが相当であるところ,前記認定事実によれば,原告p8の貧血症については,前記前提となる事実4(2)のとおり原爆症認定の申請をした時点において,積極的 な治療行為を伴わない経過観察が必要とされていたにすぎず,当該疾病につき悪化の可能性が高い等の特段の事情があったとも認められない。 そうすると,原告p8の第1の申請疾病である貧血症については,要医療性が認められないというべきである。 (4)心筋梗塞についてア放射線起因性について(ア)放射線被曝の程度についてa 前記認定事実によれば,原告p8は,広島原爆の爆心地から約3. 5キロメートル離れた屋外において被爆したのであるから,初期放射線による被曝線量は0.001グレイ以下である(乙A105の1,弁論の全趣旨)。また,前記のような新審査の方針の下における線 から約3. 5キロメートル離れた屋外において被爆したのであるから,初期放射線による被曝線量は0.001グレイ以下である(乙A105の1,弁論の全趣旨)。また,前記のような新審査の方針の下における線量評価方法によれば,原告p8の誘導放射化物質による被曝線量は,昭和20年8月8日から同月10日までの間,広島市n町(爆心地から約1.5キロメートル)に滞在したとしても,0.000016グレイを下回るし(乙A106),原告p8がp・q地区に滞在したと認めるに足りる証拠はないから,放射性降下物による被曝はないことになる。 b しかしながら,原告p8は,前記認定のとおり,被爆直後に竜巻のような突風に遭遇したり,黒い雨に遭遇したりしたことにより,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を相当量含む粉塵等に接触した可能性が高く,また,重傷者の救護活動に従事して誘導放射化した人体に触れるなどしている。そして,昭和20年8月8日から3日間,爆心地から約1.5キロメートルの屋外で作業し,負傷者と接触するなどしていることをも考慮すれば,原告p8は,誘導放射化物質や放射性降下物からの放射線により,新審査の方針の下における線量評価方法による推定値を超えて,健康に影響を及ぼすような相当程度の線 量の外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 この点,被告は,原告p8の供述を前提としても,同人が人体の健康被害の観点から有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきであり,採用することができない。 (イ)心筋梗塞と放射線被曝との関連性について原告p8の第2の申請疾病は「心筋梗塞」であるところ,前記のとお 軽視している点等において不当というべきであり,採用することができない。 (イ)心筋梗塞と放射線被曝との関連性について原告p8の第2の申請疾病は「心筋梗塞」であるところ,前記のとおり,心筋梗塞と放射線被曝との間には関連性を認めることができ,そこに一定のしきい値は存在しないと考えるのが合理的というべきである。 (ウ)検討a 放射線の影響について前記のとおり,心筋梗塞と放射線被曝との間には関連性を認めることができ,そこに一定のしきい値は存在しないと考えるのが合理的であるところ,原告p8は,健康に影響を及ぼす程度の放射線に被曝していた可能性が高いというべきである。加えて,原告p8が放射線被曝の影響が大きいとされる若年時(当時19歳)に被爆していること,新審査の方針によれば,「放射線起因性が認められる心筋梗塞」が積極認定の対象疾病とされているところ,原告p8が「被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者」及び「原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者」に該当することなども併せ考慮すれば,原告p8の申請疾病である心筋梗塞は原子爆弾の放射線に起因すると認めるのが相当である。 b 危険因子についてこの点,被告は,原告p8について,①加齢(発症時75歳),②高血圧,③脂質異常症(高脂血症)といった因子を指摘し,原告p8 の心筋梗塞は,これらを原因として発症したものとみるのが自然かつ合理的と主張するところ,これらの因子が動脈硬化やこれを原因とする心筋梗塞の危険因子であると認められることは前記のとおりである。 しかしながら,前記のとおり,上記のような危険因子があるからといって,心筋梗塞と放射線被曝との間の関連性が直ちに否定されるものではない。 そし 険因子であると認められることは前記のとおりである。 しかしながら,前記のとおり,上記のような危険因子があるからといって,心筋梗塞と放射線被曝との間の関連性が直ちに否定されるものではない。 そして,②高血圧については,それ自体が放射線被曝による影響を受けている可能性を否定し難い上,原告p8の血圧は,前記認定のとおり,1回目の心筋梗塞発症後はおおむね収縮期130台から140台まで,拡張期80台の範囲で推移していたのであって,重篤な状態が長期間続いたとは認められない。また,③脂質異常症(高脂血症)についても,それ自体が放射線被曝による影響を受けている可能性を否定し難い上,原告p8は,前記認定のとおり,1回目の心筋梗塞発症後に高脂血症の治療を受け始めているものの,その直前の総コレステロール値は正常値の範囲内(201mg/dl)であり,他に総コレステロール値が正常値の範囲を超えていたと認めるに足りる証拠もないのであるから,これを過大視することはできないというべきである(証人p10)。 そうすると,原告p8の高血圧等の危険因子が心筋梗塞の発症に影響していることは否定できないとしても,これによって原子爆弾の放射線の影響自体が否定されるものではなく,むしろ,原告p8の放射線被曝と高血圧等の危険因子とが相まって,心筋梗塞の発症に寄与したものと考えるのが自然かつ合理的である。よって,被告の上記主張は採用することができない。 c まとめ以上によれば,原告p8の原爆症認定の申請に係る心筋梗塞につい ては,放射線起因性が認められる。 イ要医療性について原告p8は,前記認定事実によれば,1回目の心筋梗塞の発症以来,その再発を防ぐため,抗凝固剤,血管拡張剤等による投薬治療等を継続的に受けており,当該治療が必要な状態が続い イ要医療性について原告p8は,前記認定事実によれば,1回目の心筋梗塞の発症以来,その再発を防ぐため,抗凝固剤,血管拡張剤等による投薬治療等を継続的に受けており,当該治療が必要な状態が続いているといえるから,原告p8の心筋梗塞については,要医療性が認められる。 (5)小括以上によれば,原告p8は,前記前提となる事実4(2)の原爆症認定の申請に係る心筋梗塞について放射線起因性及び要医療性の要件を満たしていたものと認められるから,上記申請を却下する処分のうち当該申請疾病に係る部分は違法というべきであり,取消しを免れない。他方,上記申請に係る貧血症については要医療性の要件を満たしていたとは認められないから,上記申請を却下する処分のうち当該申請疾病に係る部分は,その余の点について判断するまでもなく,違法であるとは認められず,当該部分の取消請求は理由がない。 8 原告p9について(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(甲P1,乙P1,8,10,原告p9本人)(ア)原告p9は,昭和16年○月○○日生まれの男性であり,昭和20年8月9日,長崎市o町の自宅(爆心地から約2.1キロメートル)の木造家屋内において母と共に被爆し(被爆当時4歳),その際,足を負傷し,その場で黒い雨に遭遇した。 (イ)原告p9は,両親と共に,同日夜は自宅近くのF山の防空壕で過ごし,同月10日,自宅で荷物をまとめる作業をした上,同月11日朝,大分 県xへ避難するため,自宅を出発し,u川に沿って爆心地付近を通り,G駅まで歩いた。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(甲P1,4から7まで,乙P4,14,原告p9本人)(ア)原告p するため,自宅を出発し,u川に沿って爆心地付近を通り,G駅まで歩いた。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(甲P1,4から7まで,乙P4,14,原告p9本人)(ア)原告p9は,被爆後,疲れやすくなり,倦怠感が続くなどし,昭和47年頃には白血球数が少ないとの指摘を受けた。なお,原告p9の平成19年から平成22年までの白血球数は2960から4430までの範囲で推移している(基準値は3500から8900まで)。 (イ)原告p9は,成人後,両肩及び頭部に黒い斑点が多数あることに気づき,黒い雨に打たれたことが原因ではないかと考え,皮膚科を受診するなどした。 (ウ)原告p9は,平成19年4月に甲状腺機能低下症との診断を受け,その頃から甲状腺ホルモン製剤を服用している。なお,原告p9の平成17年から平成21年までの甲状腺ホルモン(遊離T4)値(ng/dl)は1. 0から1.4の範囲で推移しており(正常値は0.8から1.9まで),同時期の甲状腺刺激ホルモン(TSH)値(μU/ml)は,4.1から11.3の範囲で推移していた(正常値は0.4から4.0)。 (エ)原告p9と共に被爆し,爆心地付近を通過したその母は,白血病で死亡した。 (2)事実認定の補足説明ア被告は,爆心地付近を通ったのは昭和20年8月11日である旨の原告p9の供述は,被爆者健康手帳交付申請書の記載と異なること等に照らして信用できないと主張する。 たしかに,原告p9の被爆者健康手帳交付申請書(乙P8)には,「投下後3日間z岳ふもとの防空壕に避難」との記載があり,これを文字どおり解せば,同日に爆心地付近を通った旨の供述とは矛盾するようにも思わ れる。しかしながら,原告p9は,上記の「3日間」とは被爆当日から出発日までを数えたものであると供述 り,これを文字どおり解せば,同日に爆心地付近を通った旨の供述とは矛盾するようにも思わ れる。しかしながら,原告p9は,上記の「3日間」とは被爆当日から出発日までを数えたものであると供述しており(原告p9本人),このような説明が不自然とまではいうことができない。そして,上記供述に他に不自然・不合理な点もないのであるから,原告p9の上記供述は信用することができる。よって,被告の上記主張は採用することができない。 イまた,被告は,黒い雨に遭遇した旨の原告p9の供述は,原爆症認定申請書にも記載がないこと等に照らして信用できないと主張する。 たしかに,原告p9が平成19年10月9日付けで作成した認定申請書(乙P1)には,黒い雨についての記載はない。しかしながら,原告p9は,前記認定のとおり,両肩や頭部に黒い斑点があり,黒い雨に打たれたことが原因ではないかと考えて皮膚科を受診するなどしているのであって,他に上記供述に他に不自然・不合理な点もないのであるから,原告p9の上記供述は信用することができる。よって,被告の上記主張は採用することができない。 (3)放射線起因性についてア放射線被曝の程度について(ア)前記認定事実によれば,原告p9は,長崎原爆の爆心地から約2.1キロメートル離れた木造家屋内において被爆したのであるから,初期放射線による被曝線量はせいぜい0.066グレイ程度にとどまる(乙A105の1)。また,前記のような新審査の方針の下における線量評価方法によれば,原告p9の誘導放射化物質による被曝線量は,昭和20年8月11日に長崎原爆の爆心地付近を通過したことを考慮しても,0. 05529グレイを下回る値にすぎないし(乙A106),原告p9がj地区に滞在又は居住したと認めるに足りる証拠はないから,放射性降 年8月11日に長崎原爆の爆心地付近を通過したことを考慮しても,0. 05529グレイを下回る値にすぎないし(乙A106),原告p9がj地区に滞在又は居住したと認めるに足りる証拠はないから,放射性降下物による被曝はないことになる。 (イ)しかしながら,原告p9は,前記認定のとおり,被爆した自宅におい て黒い雨に遭遇している上,昭和20年8月11日には長崎原爆の爆心地付近を歩いて通過したのであるから,多量の放射性物質が衣服,髪,皮膚等に付着し,又は呼吸を通じてこれらを体内に取り込むなどした可能性が高いというべきである。そして,前記認定のとおり,原告p9と共に自宅で被爆し,爆心地を通過した原告p9の母は,白血病で死亡していること,原告p9の白血球数がやや低い状態にあるなど放射線の影響をうかがわせる症状が発現していること等をも考慮すれば,原告p9は,誘導放射化物質や放射性降下物からの放射線により,新審査の方針の下における線量評価方法による推定値を超えて,健康に影響を及ぼすような相当程度の線量の外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 この点,被告は,原告p9の供述を前提としても,同人が人体の健康被害の観点から有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきであり,被告の上記主張は採用することができない。 イ甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性について原告p9の申請疾病は「甲状腺機能低下症」であるところ,原告p9については,前記認定のとおり,甲状腺ホルモン(遊離T4)は正常値であり,甲状腺刺激ホルモン(TSH)のみが高値であるから,その甲状腺機能低下症は,潜在性甲状腺機能低下症であると認められる。そして,潜 ついては,前記認定のとおり,甲状腺ホルモン(遊離T4)は正常値であり,甲状腺刺激ホルモン(TSH)のみが高値であるから,その甲状腺機能低下症は,潜在性甲状腺機能低下症であると認められる。そして,潜在性甲状腺機能低下症を含む甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,前記のとおり,自己免疫性であるか否かを問わず,低線量域を含めて,一般的に肯定することができるというべきである。 ウ検討(ア)放射線の影響について 前記のとおり,潜在性甲状腺機能低下症と放射線被曝との間には低線量域を含めて関連性を認めることができるところ,原告p9は,健康に影響を及ぼす程度の放射線に被曝していた可能性が高いというべきである。加えて,原告p9が放射線被曝の影響が大きいとされる若年時(当時4歳)に被爆していること,新審査の方針によれば,「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」が積極認定の対象疾病とされているところ,原告p9が「被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者」及び「原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者」に該当することなども併せ考慮すれば,原告p9の申請疾病である甲状腺機能低下症は,原子爆弾の放射線に起因すると認めるのが相当である。 (イ)危険因子についてこの点,被告は,原告p9の甲状腺機能低下症は年齢が高くなるほど発症頻度が増す潜在性甲状腺機能低下症であるところ,原告p9は発症時64歳と比較的高齢であったから,その潜在的甲状腺機能低下症は加齢を原因として発症したものとみるのが自然かつ合理的と主張する。 しかしながら,原告p9が健康に影響を及ぼす程度の放射線に被曝していた可能性が高いことは前記のとおりであり,甲状腺機能低下症発症時に比較的高齢であったということだけ のが自然かつ合理的と主張する。 しかしながら,原告p9が健康に影響を及ぼす程度の放射線に被曝していた可能性が高いことは前記のとおりであり,甲状腺機能低下症発症時に比較的高齢であったということだけでは放射線起因性を否定することはできないというべきである。よって,被告の上記主張は採用することができない。 (ウ)まとめ以上によれば,原告p9の原爆症認定の申請に係る甲状腺機能低下症については,放射線起因性が認められる。 (4)要医療性について原告p9は,前記認定事実によれば,甲状腺ホルモン剤(チラージン)に よる投薬治療等を継続的に受けており,当該治療が必要な状態が続いているといえるから,原告p9の甲状腺機能低下症については,要医療性が認められる。 (5)小括以上によれば,原告p9は,前記前提となる事実4(2)の原爆症認定の申請に係る甲状腺機能低下症について放射線起因性及び要医療性の要件を満たしていたものと認められる。そうすると,上記申請を却下する処分は違法というべきであり,取消しを免れない。 第3 本件義務付けの訴えの適法性等(争点③) 1 未認定原告らの原爆症認定の義務付けを求める訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号の申請型義務付けの訴えであるところ,前記第2のとおり,未認定原告らの本件各却下処分の取消請求のうち,原告p7及び原告p8の別紙2処分目録「不認定疾病」欄記載の疾病に係る部分は認容されるべきものではない。 そうすると,本件訴えのうち当該疾病につき原爆症認定の義務付けを求める部分は,同法37条の3第1項2号の要件を満たさないから不適法であり,却下を免れない。 2 他方,前記第2のとおり,本件各却下処分のうち,その余の疾病に係る部分は取り消されるべきものであるから,本件訴えのうち当該疾病につき原 2号の要件を満たさないから不適法であり,却下を免れない。 2 他方,前記第2のとおり,本件各却下処分のうち,その余の疾病に係る部分は取り消されるべきものであるから,本件訴えのうち当該疾病につき原爆症認定の義務付けを求める部分は,同号の要件を満たし,適法であると認められる。 そして,前記第2において判示したところに照らせば,上記各疾病については,放射線起因性及び要医療性のいずれの要件も満たされていると認められ,他にこれを却下すべき事情も見当たらないから,同法37条の3第5項の規定により,厚生労働大臣に対し,原爆症認定をすべき旨を命ずるのが相当である。 第4 本件各却下処分についての国家賠償責任(争点④) 1 却下の判断の違法性について(1)判断枠組み 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるから,原爆症認定の申請に対する却下処分が放射線起因性又は要医療性の要件の充足に関する判断を誤ったため違法であるとしても,そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,原爆症認定に関する権限を有する厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該却下処分をしたと認め得るような事情がある場合に限り,国家賠償法上違法の評価を受けるものと解するのが相当である(最判平成5年3月11日・民集47巻4号2863頁参照)。 ところで,厚生労働大臣が原爆症認定を行うに当たっては,申請疾病が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかである場合を除き,疾病・障害認定審査会の意見を聴かなければならないものとされて ろで,厚生労働大臣が原爆症認定を行うに当たっては,申請疾病が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかである場合を除き,疾病・障害認定審査会の意見を聴かなければならないものとされている(被爆者援護法11条2項,被爆者援護法施行令9条)。これは,原爆症認定の判断が専門的分野に属するものであることから,厚生労働大臣が処分をするにあたっては,原則として,必要な専門的知識経験を有する諮問機関の意見を聴くこととし,その処分の内容を適正ならしめる趣旨によるものであり,厚生労働大臣は,特段の合理的理由がない限り,その意見を尊重することが要請されていると解される。そして,同審査会には,被爆者援護法の規定により疾病・障害認定審査会の権限に属させられた事項を処理する分科会として,医療分科会を置くこととされ(疾病・認定審査会令5条1項),同分科会に属すべき委員及び臨時委員等は,厚生労働大臣が指名するものとされているところ(同条2項),医療分科会の委員及び臨時委員は,放射線科学者,被爆者医療に従事している医学関係者,内科や外科等の専門的医師といった,疾病等の放射線起因性について高い識見と豊かな学問的知見を備えた者により構成されていることが認められる(弁論の全趣旨)。 以上によれば,厚生労働大臣が原爆症認定申請につき疾病・障害認定審査会の意見を聴き,その意見に従って却下処分を行った場合においては,その意見が関係資料に照らして明らかに誤りであるなど,答申された意見を尊重すべきではない特段の事情が存在し,厚生労働大臣がこれを知りながら漫然とその意見に従い却下処分をしたと認め得るような場合に限り,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該却下処分をしたものとして,国家賠償法上違法の評価を受けると解するのが相当である。 その意見に従い却下処分をしたと認め得るような場合に限り,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該却下処分をしたものとして,国家賠償法上違法の評価を受けると解するのが相当である。 (2)検討アこれを本件について見ると,本件各却下処分は,前記前提となる事実のとおり,厚生労働大臣が疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上で,その意見に従ってされたものであるところ,その意見が関係資料に照らし明らかに誤りであるなど,答申された意見を尊重すべきではない特段の事情が存在したとは認められない。 イこの点,未認定原告らは,新審査の方針によれば,未認定原告らの申請疾病は積極認定の対象となることが明らかであるにもかかわらず,厚生労働大臣は「格段に反対すべき事由」がないのに本件却下処分を行ったものであり,本件各却下処分は国家賠償法上違法であると主張する。 しかしながら,未認定原告らの申請疾病のうち心筋梗塞(これに準ずる狭心症を含む。)及び甲状腺機能低下症については,前記のとおり,それらが積極認定の対象となる「放射線起因性が認められる心筋梗塞」又は「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」に当たるかどうかについて,相当程度の放射線被曝を受けたかどうかの事実認定も含め,慎重に検討する必要があるのであって,いわゆる総合認定の場合との違いが明らかではない上記文言の当否はともかくとして,これらが積極認定の対象となることが関係資料に照らして明らかであったとまではいうことができない。また,原告p5の申請疾病のうち舌がん術後後遺症については,舌がん自体 が積極認定の対象となるとしても,その術後後遺症としての右上肢挙上障害と舌がんとの関係については,前記のとおり慎重な検討が必要というべきであり,当該疾病が積極認定の対象に該当することが明ら が積極認定の対象となるとしても,その術後後遺症としての右上肢挙上障害と舌がんとの関係については,前記のとおり慎重な検討が必要というべきであり,当該疾病が積極認定の対象に該当することが明らかであったとはいうことはできない。以上のとおり,未認定原告らの申請疾病が新審査の基準による積極認定の対象に該当することが明らかであったとはいえないから,未認定原告らの上記主張は採用することができない。 ウまた,未認定原告らは,厚生労働大臣は行政手続法5条1項の審査基準を定めることなく本件各却下処分を行っているから,本件各却下処分については同項違反の違法があり,国家賠償法上も違法であると主張する。 しかしながら,行政手続法5条が行政庁に審査基準の設定,具体化及び公表を義務付けている趣旨は,行政庁による法令の解釈適用に際しての裁量行使を公正なものとし,行政過程の透明性の向上を図ることにある。そして,このような趣旨に照らすと,同条は,審査基準の設定が不要又は不可能であるような場合にまで審査基準の設定を行政庁に義務付けるものではなく,許認可等の性質上,個々の申請について個別具体的な判断をせざるを得ず,法令の定め以上に具体的な基準を定めることが困難である場合には,行政庁は,審査基準を定めることを要しないと解するのが相当である。そして,原爆症認定の申請がされた場合には,被爆者援護法10条1項所定の放射線起因性及び要医療性の有無について判断がされるところ,その判断は,医学的知見や疫学的知見などを踏まえた高度に科学的・専門的なものであるから,その性質上,個々の申請について個別具体的な判断をせざるを得ず,同項の規定以上に具体的な基準を定めることは困難というほかない。そうすると,原爆症認定については,審査基準を定めることを要しないというべきである。 よ 申請について個別具体的な判断をせざるを得ず,同項の規定以上に具体的な基準を定めることは困難というほかない。そうすると,原爆症認定については,審査基準を定めることを要しないというべきである。 よって,本件各却下処分は,行政手続法5条1項に違反したものとはいえず,国家賠償法1条1項にいう違法性があったということもできないか ら,未認定原告らの上記主張は採用することができない。 エさらに,未認定原告らは,本件各却下処分は,具体的な理由が示されることなくされたものであるから,行政手続法8条に違反した違法なものであり,国家賠償法上も違法であると主張する。 しかしながら,行政手続法8条1項本文が,許認可等の申請に対して行政庁が拒否処分をする場合は申請者に対し同時に当該処分の理由を示さなければならないとしている趣旨は,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を申請者に知らせて不服申立てのための便宜を図ることにあると解される。そして,同項本文の規定によりどの程度の理由を提示すべきかは,上記のような同項本文の趣旨に照らし,当該処分の根拠法令の規定内容,当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該処分の性質及び内容,当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮して決すべきである(同法14条1項についての最判平成23年6月7日・民集65巻4号2081頁参照)。そして,原爆症認定の申請を却下する旨の処分については,申請者は,認定申請書に被爆時の状況(入市の状況を含む。)を記載するとともに,自ら申請疾患を特定し,その病状・病歴等を認定申請書に記載した上,医師の意見書及び当該疾病等に係る検査成績を記載した書類を添付してこれを厚生労働大臣に提出することが求められているのであるから(被爆者援護法施 疾患を特定し,その病状・病歴等を認定申請書に記載した上,医師の意見書及び当該疾病等に係る検査成績を記載した書類を添付してこれを厚生労働大臣に提出することが求められているのであるから(被爆者援護法施行規則12条),原爆症認定の申請が却下された場合,当該申請者において,その却下処分の基礎となった事実関係は明らかというべきである(なお,平成20年厚生労働省令第41号による改正前の同条においては,被爆時の状況(入市の状況を含む。)は認定申請書の記載事項とされていなかったが,申請者は,被爆者健康手帳交付申請の際に,被爆者援護法1条各号のいずれかに該当する事実(被爆状況)を認めることができる書類等を添付しているから(被爆者援護法施行規則1条),いずれにしても当該 事実関係は明らかということができる。)。また,これを審査する医療分科会においては,本件却下処分当時,新審査の方針を判断の目安として用いていたところ,この新審査の方針は厚生労働省のホームページを通じ一般に公開されていたのであるから(弁論の全趣旨),未認定原告らは,判断の目安を容易に知ることができたというべきである。しかも,原爆症認定における主たる判断対象は,被爆者援護法10条1項所定の放射線起因性及び要医療性であるところ,これらの処分要件該当性の判断は,医学的知見や疫学的知見などを踏まえた高度に専門的なものである上,放射線起因性については,申請疾病等に関する科学的疫学的知見に加え,被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等の総合的な判断を要求されるものであり,その性質上,その判断の過程を詳細に説明することには困難が伴うということができる。そして,原爆症認定はその要件効果について裁量の余地はなく,また,厚生労働大臣が原爆症認定を行うに当たっては,申請疾病等が原子爆弾の傷害作用に起因 細に説明することには困難が伴うということができる。そして,原爆症認定はその要件効果について裁量の余地はなく,また,厚生労働大臣が原爆症認定を行うに当たっては,申請疾病等が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかである場合を除き,疾病・障害認定審査会(医療分科会)の意見を聴かなければならないとされており,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するための制度的手当がされていることも考慮すれば,原爆症認定の申請を却下する処分については,当該却下処分に至る判断の過程やその根拠となる科学的疫学的知見まで詳細に摘示しなければならないものではなく,医療分科会に諮問された場合にはその審議の概要と結果のほか,放射線起因性又は要医療性のいずれの要件を欠くものとされたかを明らかにすれば足りると解するのが相当であり,そのように解しても,行政手続法8条1項本文の趣旨には反しないというべきである。 これを本件について見ると,本件各却下処分の通知書には,いずれも,①原爆症認定を受けるために必要とされる被爆者援護法10条1項の要件の具体的内容,②疾病・障害認定審査会において,申請書類から得られた 被爆時の状況,申請時に至るまでの健康状況及び疾病の治療状況等に関する情報をもとに,これまでに得られている医学的知見や経験則等に照らし総合的に検討されたが,当該疾病については放射線起因性があるとすることは困難であると判断され,又は疾病の状況について検討された結果,当該疾病については現に医療を要する状態にないと判断された旨,及び③このような疾病・障害認定審査会の意見を受けて却下処分を行った旨が記載されていることが認められる(乙C3,G19,J3,K3,L3,N3,O3,P3)。そして,このような通知書の理由の記載からは,原爆症認定 疾病・障害認定審査会の意見を受けて却下処分を行った旨が記載されていることが認められる(乙C3,G19,J3,K3,L3,N3,O3,P3)。そして,このような通知書の理由の記載からは,原爆症認定の要件が示された上で,医療分科会における審議の概要と結果のほか,放射線起因性又は要医療性を欠くものとされたことが明らかということができる。そうすると,本件各却下処分の通知書の理由の記載は,行政手続法8条1項本文に違反するものではないというべきである。 よって,本件各却下処分は,行政手続法8条に違反したものとはいえず,国家賠償法1条1項にいう違法があったということもできないから,未認定原告らの上記主張は採用することができない。 オ以上によれば,厚生労働大臣が本件各却下処分を行ったことが国家賠償法上違法であるとは認められない。 2 不作為の違法性について(1)判断枠組み前記1(1)のとおり,国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるから,厚生労働大臣が原爆症認定の申請に対する処分のために客観的に手続上必要と考えられる期間内に応答処分をしなかったとしても,そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注 意義務を尽くすことなく,漫然と相当の期間を超えて応答処分を長期間遅延させたと認め得るような事情がある場合に限り,国家賠償法上違法の評価を受けるものと解するのが相当である。 (2)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア な事情がある場合に限り,国家賠償法上違法の評価を受けるものと解するのが相当である。 (2)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア新審査の方針の策定の経緯(乙A1,8から13まで,弁論の全趣旨)(ア)安倍晋三内閣総理大臣(当時。以下「安倍総理」という。)は,平成19年8月5日,広島県内の被爆者団体と面談した際,原爆症認定の在り方について,「専門家の判断をもとに改めて見直すことを検討させたい」と表明した。 (イ)医療分科会は,安倍総理の上記発言を踏まえ,平成19年7月分から,旧審査の方針によれば却下相当と答申すべき事例について判断を保留することとした。なお,このような理由で保留とされた件数は,約300件(異議申立ての審査分を含む。)である。 (ウ)厚生労働省は,同年9月28日,同省健康局長の下に,「原爆症認定の在り方について,科学的知見に照らして検討し,その結果に応じて見直しを行うこと」を目的として,医療分科会の委員とは別の医学及び放射線学の専門家並びに法律家を構成員とする原爆症認定の在り方に関する検討会(以下「検討会」という。)を発足させた。 (エ)検討会は,同年12月17日,旧審査の方針の考え方をおおむね是認する内容の「原爆症認定の在り方に関する検討会報告」(以下「検討会報告」という。)を取りまとめた。 (オ)当時の政権与党の原爆被爆者対策に関するプロジェクトチームは,同月19日,がん等の一定の疾病について,「一定区域内(約3.5㎞前後を目安とする)の被爆者及び一定の入市した被爆者(爆心地付近(約 2㎞以内)に約100時間以内に入市した被爆者及び約100時間程度経過後,比較的直ちに約1週間程度滞留したもの)については,格段の反対すべき事由がなければ 入市した被爆者(爆心地付近(約 2㎞以内)に約100時間以内に入市した被爆者及び約100時間程度経過後,比較的直ちに約1週間程度滞留したもの)については,格段の反対すべき事由がなければ合理的推定により積極的かつ迅速に認定を行うものとする」といった内容の提言(以下「与党PT提言」という。)を取りまとめた。 (カ)厚生労働省は,被爆者の救済を可及的に行う観点から,与党PT提言を基本的に受け入れ,「新しい審査のイメージ」を作成し,平成20年1月21日,これを医療分科会に示した。 (キ)医療分科会は,厚生労働省が示した「新しい審査のイメージ」をもとに意見交換を行い,同年3月17日,新審査の方針を策定し,同年4月から,新審査の方針による審査を開始した。 (ク)医療分科会は,平成21年6月22日,新審査の方針を改定し,いわゆる積極認定の対象疾病に,「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」及び「放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変」を追加した。 イ原爆症認定の申請に係る事務等(乙A25,26,弁論の全趣旨)(ア)原爆症認定の申請に係る事務は,厚生労働省健康局総務課の所掌事務であり,同課には,原爆症認定の申請に係る事務をつかさどる職員ら(以下「事務局」という。)が置かれている。 (イ)事務局が行う原爆症認定の審査に関する業務の概要は,以下のとおりである。 a 申請資料の確認都道府県知事から申請書類が進達されると,事務官において,基本情報(申請者氏名,被爆状況,申請疾病等)の受付入力作業(台帳入力作業),被爆状況と原子爆弾投下当時の地図,戦災誌をはじめとする資料との照合等が行われる。また,医師免許を有する医系技官において,医学的知見を踏まえた申請疾病の罹患状況等の把握等が行われ る。 b 照会文書の作成 下当時の地図,戦災誌をはじめとする資料との照合等が行われる。また,医師免許を有する医系技官において,医学的知見を踏まえた申請疾病の罹患状況等の把握等が行われ る。 b 照会文書の作成事務局において資料が不足すると考える場合には,適宜,事務局の事務官又は医系技官が照会文書を作成し,都道府県知事を経由して申請者等に対し照会を行うなどして追加資料の徴求・収集が行われる。 当該照会が行われた場合には,その都度,申請者ごとに台帳入力が行われ,当該案件は別途照会案件がまとめられたファイルに整理・編てつされる。なお,平成20年度申請分について見ると,6000件以上について照会が行われ,さらに500件以上について再度の照会が行われている。 c 返送された照会回答に対する確認作業照会に対する回答が都道府県知事から返送されると,その確認作業が行われる。この作業では,事務官において台帳入力を行った上,事務官及び医系技官において,別途照会案件のみがまとめられたファイルから該当の回答案件を取り出して照合し,回答内容の確認を行う。 そして,確認の結果,なお資料が不足すると思料される場合には,再度の照会が行われる。 d 諮問案件の事前確認作業以上の手続を経て,審査資料が一応そろったと思料された案件については,審査会開催前に,複数の医系技官及び事務官によって事前確認作業が行われる。 e 諮問書の作成事務官は,審査会に諮問する案件について,内部決裁を経た上で,諮問書を作成する。なお,諮問書に添付される個々の申請者情報は,事務官において個々の申請者の台帳データから手作業で転記される。 f 審査会の資料作成,審査会の会場設営 事前確認を終えた諮問案件については,審査会に先立ち,審査会のための資料の作成が行われるとともに,審査会 者の台帳データから手作業で転記される。 f 審査会の資料作成,審査会の会場設営 事前確認を終えた諮問案件については,審査会に先立ち,審査会のための資料の作成が行われるとともに,審査会の会場設営が行われる。 なお,審査会においても,判断を行うために更なる資料提出を求められる案件があり,このような案件については,審査終了後に,適宜,事務局が委員に個別に連絡を取り,必要な資料の再確認を行った上,照会文書の作成を行う。 g 答申書の作成審査会の審査終了後,申請者ごとに答申内容を整理した上で決裁書類を作成し,決裁を経た後,答申書を作成する。 h 認定書・却下通知書の作成答申書作成後,各申請者宛の認定書又は却下通知書を作成する作業が行われる。なお,医療分科会においては,答申件数が多い上,却下理由が申請者ごとに異なる場合も多いため,事務官及び医系技官による複数回の確認作業を経た上で,通知書類が作成される。 i 審査に付随する業務事務局は,以上の審査に関する業務に加え,これに付随する業務として医療分科会又は審査部会の委員の日程調整,会場の確保,開催通知等の起案,議事要旨等を公開するためのホームページの更新作業も併せて行う。また,個々の申請者からの電話照会に対する応対も事務局において行われる。 (ウ)以上の原爆症認定に係る業務のほか,事務局は,医療分科会委員の選任準備作業,毎年8月に行われる原爆記念式典の準備作業も併せて行っている。また,原爆症認定に関する訴訟や不作為に関する異議申立て等の不服申立てについては,事務局が中心となって対応しており,原爆症認定業務に係る国会開会中における質疑や質問主意書に関する業務,情報公開請求に対応する業務等も,事務局が担当している。さらに,平成 19年度において 務局が中心となって対応しており,原爆症認定業務に係る国会開会中における質疑や質問主意書に関する業務,情報公開請求に対応する業務等も,事務局が担当している。さらに,平成 19年度においては,旧審査の方針の見直し及び新審査の方針の策定作業が行われており,これに関する種々の事務作業(検討会の委員に対する委嘱手続や日程調整,資料作成のほか,過去の審査データの分析等の準備作業,審査の方針のイメージの作成作業,医療分科会における意見交換のための検討資料の作成準備や,審査部会を増設するに当たっての準備作業,線量評価方法をDS86からDS02へ移行するための準備作業等)も,事務局が行っていた。 ウ旧審査の方針下における審査体制等(乙A24,27,弁論の全趣旨)(ア)医療分科会の委員等平成20年3月現在,医療分科会の委員は19人であり,医療分科会はおおむね1か月に1回の割合で開催されていた。 (イ)事務局の人員体制等旧審査の方針の下における審査に従事する事務局には,平成18年度及び平成19年度は5人(事務官2人,医系技官3人)が配置されており,このうち医系技官2人は,審査に関する業務として医学的資料の確認,徴求等を行う傍ら,当時,全国の地裁に係属していた多くの原爆症認定集団訴訟の訴訟対応事務等を兼務していた。また,事務官のうち専任で資料確認作業等の審査業務を行っていた者は1人であるところ,当該事務官は1か月に1回開催される医療分科会の準備作業も併せて行っており,その余の2人はその他の業務を行っていた。なお,平成19年8月5日以降の旧審査の方針見直し作業に伴い,事務局の事務量の負担が増大することとなったため,同年11月頃,医系技官1人が検討会の補助等のため他の部署との併任で事務局に配置されることとなった。 (ウ)申請件 降の旧審査の方針見直し作業に伴い,事務局の事務量の負担が増大することとなったため,同年11月頃,医系技官1人が検討会の補助等のため他の部署との併任で事務局に配置されることとなった。 (ウ)申請件数・処分件数・平均審査期間原爆症認定の年間申請件数は,平成10年度から平成17年度まではおおむね500件前後で推移していたが,平成18年度は1325件, 平成19年度は1601件となった。他方,年間処分件数は,平成18年度が538件(平均審査期間は約224日)であり,平成19年度が262件(平均審査期間は約350日)であった(なお,ここでいう平均審査期間とは,原爆症認定申請書を都道府県知事が受理した日から最終答申がされた日までの期間の合計日数を,各当該年度の最終答申に係る合計申請数で除したものである。以下同じ。)。 エ新審査の方針の下における審査迅速化のための取組(乙A7,24,25,弁論の全趣旨)(ア)審査部会の設置等平成20年4月から,疾病・障害認定審査会運営規程7条の規定により,医療分科会に一定の疾病に係る審査を行う四つの審査部会(①主として消化器系以外の悪性腫瘍の申請に係る審査を行う第一審査部会,②主として消化器系の悪性腫瘍の申請に係る審査を行う第二審査部会,③甲状腺の悪性腫瘍,白血病及び副甲状腺機能亢進症の申請に係る審査を行う第三審査部会及び④白内障及び心筋梗塞の申請に係る審査を行う第四審査部会)が置かれ,各部会の議決をもって医療分科会の議決とみなすこととされた。これにより,従前,1か月に1回開催される医療分科会によって行われていた審査が,おおむね1か月に合計5回開催される医療分科会又は審査部会によって行われることになった。 (イ)いわゆる事務局認定の開始平成20年4月から,いわゆる確率的影 よって行われていた審査が,おおむね1か月に合計5回開催される医療分科会又は審査部会によって行われることになった。 (イ)いわゆる事務局認定の開始平成20年4月から,いわゆる確率的影響の範ちゅうに属する悪性腫瘍のうち,旧審査の方針に基づき審査をしても認定相当と考えられる案件等については,当該負傷又は疾病が「原子爆弾の傷害作用に起因すること」が「明らか」(被爆者援護法11条2項ただし書)であるとして,医療分科会や審査部会による答申を経るまでもなく,認定が行われることとなった。 (ウ)医療分科会委員の増員医療分科会の委員は,新審査の方針の策定後の同年4月,新たに審査部会が増設されたことをも踏まえて26人に増員され,その後も,平成21年2月までに31人に,同年6月までに33人に,それぞれ増員された。 (エ)事務局係員の増員事務局の係員は,平成20年度から10人に増員された。特に,専任の事務官が1人から6人に増員され,医系技官も2人から3人に増員され,うち1人の医系技官は認定審査業務に専任し得る体制とされた(なお,平成22年1月1日には,厚生労働省健康局総務課内に原子爆弾被爆者援護対策室が設置された。)。 オ新審査の方針の下における処分件数等(乙A14,15,27,弁論の全趣旨)(ア)原爆症認定の申請件数は,新審査の方針による審査開始後に激増し,平成20年6月から9月までの4か月間の申請件数(新規進達件数)は毎月1000件を超え,平成20年度の年間申請件数(新規進達件数)は8580件に上った。年間申請件数(新規進達件数)は,平成21年度が3964件,平成22年度が2114件であり,平成19年度以前よりも大幅に多い状態が続いていた。 (イ)原爆症認定の申請に対する処分を待つ状態にある件数(以 請件数(新規進達件数)は,平成21年度が3964件,平成22年度が2114件であり,平成19年度以前よりも大幅に多い状態が続いていた。 (イ)原爆症認定の申請に対する処分を待つ状態にある件数(以下「待機件数」という。)は平成20年4月末には約2600件に上っていたが,上記のような申請件数の増加に伴って更に増加し,同年12月時点では約8400件となっていた。 (ウ)これに対し,原爆症認定の申請に対する年間処分件数(取消訴訟係属中の原告らに対する処分件数及び異議申立て分を含む。)は,平成20年度が3031件(平均審査期間322日),平成21年度が5003 件(平均審査期間520日)であり,平成22年度は10か月間で6048件(平均審査期間615日)であった。 (エ)事務局は,新審査の方針による審査が始まった平成20年4月以降,申請の時期が古い案件に対する審査,特に集団訴訟における原告らに対する審査の見直しを速やかに行うとともに,審査期間が長期に及ぶ案件の中でも,新審査の方針の下で,形式的要件を満たしさえすれば,原則として放射線起因性が認められることとなったがん疾患など,被爆状況やその申請疾病等に照らし,原爆症認定がなされる可能性が特に高いと思われる案件をまず洗い出し,これを優先的に処理することとした。 (オ)新審査の方針は,積極認定の対象疾病として「放射線起因性が認められる心筋梗塞」を掲げているが,申請疾病である心筋梗塞に放射線起因性があるかどうかは,個別事情の総合判断によるほかはなく,これを審査する第四審査部会においても,どのような場合に放射線起因性を肯定すべきかについて整理ができておらず,事務局も追加資料の徴求等について個別に検討する必要があった。 (カ)医療分科会は,平成21年6月22日,新審査の方針を改定し,「 ような場合に放射線起因性を肯定すべきかについて整理ができておらず,事務局も追加資料の徴求等について個別に検討する必要があった。 (カ)医療分科会は,平成21年6月22日,新審査の方針を改定し,「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」を積極認定の対象疾病に追加したが,それまでの間,甲状腺機能低下症を申請疾病とする者については審査を進めることができず,上記改定後,再度,集団訴訟における原告らに対する審査の見直し作業を行う必要が生じた。 (3)検討ア被爆者援護法は,その前文において,「ここに,被爆後50年のときを迎えるに当たり,…国の責任において,原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ,高齢化の進行している被爆者に対する保健,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講」ずるとしていることからすれば,その 制定時点において,被爆者が既に相当高齢化しており,これに対する援護が急がれることを自覚して制定されたものと理解することができる。そして,現在においては,被爆者援護法の制定(平成6年)から20年近くの年月が経過しており,被爆者は例外なく高齢者である上,原爆症認定の申請に係る疾病は,悪性腫瘍(がん)などの重篤なものが多く,厚生労働大臣の応答処分が長期間遅延すると,処分の時点では既に当該申請者が死亡しているという事態も起こり得る。このような被爆者援護法の制定趣旨や被爆者の現状等に照らすと,原爆症認定の申請に対しては,できる限り早期の応答処分が求められているということができる。 もっとも,他方で,厚生労働大臣は,原爆症認定申請に対して適正に判断すべき義務も負っているところ,厚生労働大臣の行う原爆症認定処分は,個々の申請者の被爆状況等を個別的に確定した上 うことができる。 もっとも,他方で,厚生労働大臣は,原爆症認定申請に対して適正に判断すべき義務も負っているところ,厚生労働大臣の行う原爆症認定処分は,個々の申請者の被爆状況等を個別的に確定した上で,既往歴,生活環境等の個別事情も考慮し,申請疾病等と放射線との関連性についての高度な科学的・医学的知見に基づく判断を経て行われるものである。しかも,被爆者援護法上,原爆症認定をするに当たっては,原則として,合議制の機関である疾病・障害認定審査会(医療分科会)の意見を聴かなければならず(同法11条2項),合議体による実質的な議論を行うためには相当の事前準備が必要となるのであって,このような原爆症認定制度の性格上,厚生労働大臣が原爆症認定の申請に対して適正な判断を行うためには,その審査に相当程度の期間を要することもやむを得ない面がある。そして,前記認定事実によれば,原爆症認定に係る平成18年度の平均審査期間は約224日,平成19年度の平均審査期間は約350日であると認められるのであって,このような実情等をも考慮すると,原爆症認定の申請からこれに対する応答処分までの通常要すべき期間は,その審査の難易度等において平均的な事案を想定すれば,1年程度を一応の目安とするのが相当というべきである。 イところで,未認定原告らは,前記前提となる事実のとおり,別紙2処分目録「申請日」欄記載の日にそれぞれ原爆症認定の申請をしたが,厚生労働大臣は,同目録「処分日」欄記載の日付けで本件各却下処分をしたものであるから,上記各申請から本件各却下処分までの期間は,約1年8か月から約3年6か月となり,いずれも1年を超えていることが認められる。 しかしながら,前記認定事実によれば,平成10年度から平成17年度までの原爆症認定の年間申請件数は,おおむね500件 約1年8か月から約3年6か月となり,いずれも1年を超えていることが認められる。 しかしながら,前記認定事実によれば,平成10年度から平成17年度までの原爆症認定の年間申請件数は,おおむね500件程度で推移していたところ,平成18年度には1325件,平成19年度には1601件と急激に増加しており,申請件数の増加に伴い,平成20年4月末には待機件数が約2600件に上っていた上,同月に新審査の方針による審査が開始されて以降,申請件数は更に激増し,同年6月から9月までの4か月間は毎月1000件を超え,平成20年度の年間申請件数は8580件に上り,待機件数は同年12月時点で約8400件にまで増加したものと認められる。しかも,事務局は,これらの処理と並行して,新審査の方針の策定や審査体制の整備に向けた各種事務,全国の裁判所に係属していた多数の原爆症認定集団訴訟の訴訟対応事務等もあったというのである。以上によれば,事務局における原爆症認定に係る事務が滞留し,通常よりも申請書類の確認作業等に時間を要したことも,やむを得ないものというべきである。 また,医療分科会においては,旧審査の方針の見直し作業が進められている間,旧審査の方針によれば却下相当の答申をすべき事例についても判断を保留しており,その件数は約300件に上っていたところ,新審査の方針による審査が開始された後,これらの保留案件や,全国に係属する数百名の原爆症認定集団訴訟の原告らの処分の見直しを優先して行う必要があったというのである。さらに,心筋梗塞については,新審査の方針の積極認定の対象疾病として「放射線起因性が認められる心筋梗塞」が盛り込 まれたものの,申請疾病である心筋梗塞に放射線起因性があるかどうかは,個別事情の総合判断によるほかはなく,これを審査する第四審査 対象疾病として「放射線起因性が認められる心筋梗塞」が盛り込 まれたものの,申請疾病である心筋梗塞に放射線起因性があるかどうかは,個別事情の総合判断によるほかはなく,これを審査する第四審査部会においても,どのような場合に放射線起因性を肯定すべきかについて整理ができておらず,事務局も追加資料の徴求等について個別に検討する必要があったこと,甲状腺機能低下症については,平成21年6月22日に至って新審査の方針が改定され,「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」が積極認定の対象疾病に追加されたため,再度の見直しが必要となったこと等の事情が認められるのであって,これらの事情に照らすと,新審査の方針の策定前あるいは策定後直ちに本件各却下処分に係る原爆症認定の申請につき諮問・答申がされなかったことについても,やむを得ない事情があったということができる。 次に,新規申請数の増加等を踏まえた遅延を回避するための努力について見ると,前記認定のとおり,平成20年4月から,医療分科会に一定の疾病に係る審査を行う四つの審査部会が設置されて各審査部会の議決をもって医療分科会の議決とみなすこととなり,従前,1か月に1回開催される医療分科会により審査が行われていたものが,おおむね1か月に合計5回開催される医療分科会又は審査部会により審査が行われることとされている。また,医療分科会委員の人数についても,新審査の方針の策定前(平成20年3月現在)は19人であったものが,新審査の方針の策定直後には,新たに審査部会が増設されたことも踏まえて33人にまで増員されており,事務局の係員についても,平成19年度には5人(専任1人を含む事務官3人,医系技官2人)であったものが,平成20年度からは10人(専任6人を含む事務官7人,医系技官3人)に増員されている。そして り,事務局の係員についても,平成19年度には5人(専任1人を含む事務官3人,医系技官2人)であったものが,平成20年度からは10人(専任6人を含む事務官7人,医系技官3人)に増員されている。そして,新審査の方針の策定後の処分件数は,平成20年度は3031件,平成21年度は5003件となっており,従前の10倍近い件数が処理されている。これらの事情に加えて,医療分科会委員には,原爆症認定申請の審査 をするにふさわしい学識経験を有する者を任命しなければならない(国家行政組織法8条参照)から,医療分科会の委員やその開催回数を増やすにも一定の限度があることは明らかであり,また,事務局の係員についても,公務員予算や定員の問題があるため,その増員等には相当の困難があることも考慮すると,新審査の方針の策定後,応答処分の遅延を回避するための努力が十分に尽くされていると評価することができるのであって,厚生労働大臣が従前の処理体制を漫然と放置していたとは到底いうことができない。 ウ以上の諸事情を踏まえれば,未認定原告らの原爆症認定の申請から本件各却下処分まで約1年8か月から約3年6か月を要したことについては,殊更これらの申請を放置していたといった特段の事情がない限り,厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と相当の期間を超えて応答処分を長期間遅延させたものということはできない。そして,本件各却下処分について上記特段の事情があると認めるに足りる証拠はないから,未認定原告らの原爆症認定の申請から本件各却下処分まで約1年8か月から約3年6か月を要したことが国家賠償法上違法であるとは認められない。 3 小括以上によれば,未認定原告らの被告に対する国家賠償法1条1項の規定による損害賠償請求は,その余の点について判断 月から約3年6か月を要したことが国家賠償法上違法であるとは認められない。 3 小括以上によれば,未認定原告らの被告に対する国家賠償法1条1項の規定による損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。 第5 本件不作為についての国家賠償責任(争点⑤) 1 判断枠組み前記第4の2(1)のとおり,厚生労働大臣が原爆症認定の申請に対する処分のために客観的に手続上必要と考えられる期間内に応答処分をしなかったとしても,そのことから直ちに国家賠償法上1条1項にいう違法があったとの評 価を受けるものではなく,厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と相当の期間を超えて応答処分を長期間遅延させたと認め得るような事情がある場合に限り,国家賠償法上違法の評価を受けるものと解するのが相当である。 2 検討(1)前記前提となる事実のとおり,原告p3は,平成20年3月27日,副甲状腺機能亢進症及び甲状腺機能低下症を申請疾病とする原爆症認定の申請をし,厚生労働大臣は,同申請について,疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上,平成22年5月27日付けで甲状腺機能低下症について原爆症認定をし,同年6月24日付けで副甲状腺機能亢進症について申請を却下する旨の処分をしているのであって,本件不作為の期間は約2年2か月に及ぶ。 (2)ところで,前記第4の2(3)のとおり,原爆症認定の申請からこれに対する応答処分までの通常要すべき期間は,その審査の難易度等において平均的な事案を想定すれば,1年程度を一応の目安とするのが相当というべきであるが,新審査の方針の策定の経緯や申請件数の激増等の諸事情を踏まえれば,事務局における原爆症認定に係る事務が滞留し,通常よりも申請書類の確認作業等に時間を要し 一応の目安とするのが相当というべきであるが,新審査の方針の策定の経緯や申請件数の激増等の諸事情を踏まえれば,事務局における原爆症認定に係る事務が滞留し,通常よりも申請書類の確認作業等に時間を要したことや,新審査の方針の策定前あるいは策定後直ちに本件各却下処分に係る原爆症認定の申請につき諮問・答申がされなかったことにもやむを得ない事情があったというべきであり,かつ,厚生労働大臣が従前の処理体制を漫然と放置していたということはできない。 そうすると,本件不作為が約2年2か月に及んだことについては,上記申請を殊更放置していたといった特段の事情がない限り,厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と相当の期間を超えて応答処分を長期間遅延させたものということはできない。そして,本件不作為について上記特段の事情があると認めるに足りる証拠はないから,本件不作為が約2年2か月に及んだことが国家賠償法上違法であるとは認められない。 3 小括以上によれば,原告p3の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 第6 結論以上のとおりであって,本件訴えのうち原告p7及び原告p8の別紙2処分目録「不認定疾病」欄記載の各疾病につき原爆症認定の義務付けを求める部分は不適法であるから却下し,原告p1,原告p2,原告p4,原告p5,原告p6及び原告p9の各原爆症認定の申請を却下する旨の処分の全部並びに原告p7及び原告p8の各原爆症認定の申請を却下する旨の処分のうち同目録「認定疾病」欄記載の各疾病に係る部分の取消しと,上記各取消しに係る疾病についての原爆症認定の義務付けを求める各請求はいずれも理由があるから認容し,原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪 と,上記各取消しに係る疾病についての原爆症認定の義務付けを求める各請求はいずれも理由があるから認容し,原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判官山本拓 裁判長裁判官山田明及び裁判官内藤和道は,転補のため署名押印することができない。 裁判官山本拓
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