昭和49(う)1180 傷害被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和50年1月30日 東京高等裁判所
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判決文本文7,042 文字)

主文 原判決を破棄する。被告人両名は無罪。理由 本件控訴の趣意は、被告人A、同B並びに被告人両名の弁護人斉藤展夫、同鈴木亜英及び同山口達視(共同)作成の各控訴趣意書記載のとおりであり、これらに対する答弁は、東京高等検察庁検察官検事塚本明光作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。弁護人らの所論は、要するに、原判決は、被告人両名は、原判示のC自治会の常任委員であつたが、原判示の日時に原判示の場所で開かれた同自治会の常任委員会の傍聴人であつたDを退場させるために、被告人Aにおいてその右腕を、同Bにおいてその左腕をそれぞれ両手で掴み、机にしがみついて退場を拒む同人を無理矢理吊り上げて数十センチメートル後退させ、同人をして玄関脇にあつた下駄箱の東南角又は北東角に背中を接して安坐していた傍聴人のEの右肩に突き当てさせ、その結果右Dに原判示のような傷害を負わせた事実を認定して、被告人両名の行為が傷害罪にあたるとしている。しかし、被告人両名には暴行の犯意がなく、また、被告人両名は、右Dを原判示のようにその腕をもつて立たせただけであつて、その他の暴行をしておらず、さらに、右Dは、原判示のような傷害を負つてはいない。たとえ、右Dが傷害を受けた事実が認められるとしても、被告人両名の行為と右Dの傷害との間に因果関係があるとは認められない。また、被告人両名が右Dの腕をもつて同人を立たせた行為は、暴行にあたるものではなく、若しあたるとしても、前記自治会の平穏な進行を妨害した右Dの行為に対して行つた正当防衛であるから、原判決にはこれらの点で判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというのであり、被告人両名の所論も右と同旨であると解される。そこで、記録及び原審において取り調べた証拠を 正当防衛であるから、原判決にはこれらの点で判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというのであり、被告人両名の所論も右と同旨であると解される。 、前記自治会の平穏な進行を妨害した右Dの行為に対して行つた正当防衛であるから、原判決にはこれらの点で判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというのであり、被告人両名の所論も右と同旨であると解される。そこで、記録及び原審において取り調べた証拠を 正当防衛であるから、原判決にはこれらの点で判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというのであり、被告人両名の所論も右と同旨であると解される。そこで、記録及び原審において取り調べた証拠を精査し、当審における事実取調の結果をも併せて検討する。まず、原審及び当審における証拠によると、被告人両名が前記自治会の常任委員会の会場から右Dを退場させるために、原判示のように同人の腕をもつて立ち上らせて後ろ向きのまま後退させたのち、その腕から手をはなし、ついで同人が原判示のように玄関コンクリート土間に転落した事実が認められる。そして、被告人Bの司法警察員に対する供述調書その他の証拠を総合すると、被告人両名は、右Dが右の会場から退場することを拒んでいたのを同人の意に反して相当強い力を加えて右判示のように後退させたことが認められる。そして、右認定に反する被告人両名の原審及び当審における各供述その他の証拠は、積極証拠と対比して信用することができない。また、原判決の挙示する録音テープによると、右Dが「おれは帰る。」と発言したことが認められるけれども、右の言葉は、他の証拠と併せて考えると、被告人両名が右Dから手をはなした時に発せられたものであることが認められる。このことから考えると、被告人両名がそれまで相当強い力で右Dを退場させようとしたのに対して、同人が自発的に退場する旨の意思を表示して被告人両名の手をはなさせようとして右のような発言をしたとも解せられるから、右の発言があつたからといつて、所論のように、同人が席を立つ前から退場する意思があつて、自分で自発的に後退したことの証拠になるとは考えられない。従つて、右認定の点に関する原判示は、表現がやや強すきる感がないてはないけれども、事実を誤認したとまではいえない。さらに、被告人両名が、原判示の 自発的に後退したことの証拠になるとは考えられない。従つて、右認定の点に関する原判示は、表現がやや強すきる感がないてはないけれども、事実を誤認したとまではいえない。さらに、被告人両名が、原判示のように右Dを下駄箱あるいは前記Eに突き当てさせ、その勢いで右Dを転落させたものであるかどうかの点について考察すると、証人D、同F、同E及び同Gは、いずれも原審公判廷において右判示に沿うかのような供述をしている。 発的に後退したことの証拠になるとは考えられない。従つて、右認定の点に関する原判示は、表現がやや強すきる感がないてはないけれども、事実を誤認したとまではいえない。さらに、被告人両名が、原判示のように右Dを下駄箱あるいは前記Eに突き当てさせ、その勢いで右Dを転落させたものであるかどうかの点について考察すると、証人D、同F、同E及び同Gは、いずれも原審公判廷において右判示に沿うかのような供述をしている。しかし、右Dの供述は、一方では右事実を全然記憶していないような供述をするなどその供述内容に自己矛盾の点が多い。つぎに、右Fの供述には、原判決もその「当裁判所の認定の経過」の項(以下原判決の判断という。)二の(2)において判示しているように、明らかに客観的事実に反する点や暖味な点が多く、また、右Gの供述には、右同様原判決が判示するとおり、被告人両名の行為についての具体的供述が欠けており、これらの点からみて右両名が果して被告人両名と右Dの当時の行動を十分観察していたかについて疑問がある。さらに、右Eの供述には、右同様、原判決が原判決の判断二の(2)で判示しているように、具体的供述に欠けているばかりでなく、同人の坐つていた位置と体位からみて当時の事態を観察することが果して可能であつたかについて疑問がある。そのうえ、右三名の者は、原判決が原判決の判断三で判示しているとおり実際に行なわれたとは到底認められないところの、被告人Aが右Dを表道路上に放り出したという事実までも肯定するような供述をしているのであり、また、右三名は、前記C自治会の東京都H協議会への加盟継続の問題について反対の意見をもつていた点で右Dに同調する立場にあつたものである。以上の諸点を総合すると、右三名は想像にもとづきまたは作為的に被告人両名に不利益な供述をしたと考えられるふしがな 加盟継続の問題について反対の意見をもつていた点で右Dに同調する立場にあつたものである。以上の諸点を総合すると、右三名は想像にもとづきまたは作為的に被告人両名に不利益な供述をしたと考えられるふしがないではない。従つて、前記四名の各供述は、結局その信憑性に欠けるところがあるといわざるをえない。そして、原判決は、原判決の判断二の(1)において、右Dの転落の態様が自分で転んだものとしては不自然であるとし、また、同人の転落したのちのIが発したと認められる「暴力はやめよ」という趣旨の言葉を、被告人両名の暴力的行為がその前にあつたために発せられたものであるとして、これらを原判示の前記事実認定の資料としているけれども、証拠を仔細に検討すると、原判決の右の推論には、所論も非難するように不合理な点があつて、これに同調するわけにはいかない。 )において、右Dの転落の態様が自分で転んだものとしては不自然であるとし、また、同人の転落したのちのIが発したと認められる「暴力はやめよ」という趣旨の言葉を、被告人両名の暴力的行為がその前にあつたために発せられたものであるとして、これらを原判示の前記事実認定の資料としているけれども、証拠を仔細に検討すると、原判決の右の推論には、所論も非難するように不合理な点があつて、これに同調するわけにはいかない。その反面、証人I、同J、同K、同L(以上原審)と同M(原審及び当審)は、右Dが被告人両名の行為によつてではなく、自分自身の行為によつて転落したものであると明らかに供述している。そして、当時右Dが相当酒に酔つていたこと、同人が転落前に自分の身体を大きく動かして被告人両名の手を振り払つたことが証拠上認められ、また、原判決が原判決の判断二において前記の録音テープの音声から右Dの転落の態様を推察しているところもおおむね正当と認められる。また、前記録音テープ等によつて、本件当時前記委員会に出席していた者のうち右Dと口論したNを除くその余の者は、右Dに対して比較的冷静な態度をとつていたことが認められ、被告人両名が右Dを退場させる目的以上の暴力を用いたことが推認されるような状況ではなかつたことが窺われる。これらの事情を総合すると、前記のIら五名の証人の各供述には相当高い信用性があることが認められる。右の考察を総合すると、被告人 の暴力を用いたことが推認されるような状況ではなかつたことが窺われる。これらの事情を総合すると、前記のIら五名の証人の各供述には相当高い信用性があることが認められる。右の考察を総合すると、被告人両名が原判示のように右Dを立たせて後退させたことは認められるけれども、被告人両名において、右Dが前記の下駄箱あるいは前記Eに突きあたることを認識し、かつ認容しながら右Dを突いたり押したりしたために同人が右下駄箱などに突きあたつて転落したとは認めることができない。かえつて、前判示のように被告人両名が右Dを後退させたのちは、右Dにおいて被告人両名の手を振り払うなどしたため自らの行為によつて転落するに至つたものといわざるをえない。それで、被告人両名の前記行為と右Dの転落との間に因果関係は認められないのである。従つて、原判決は、被告人両名が右Dを下駄箱あるいは右Eに突き当てさせ、その勢いで土間に転落するに至らせ、その結果同人に原判示の傷害を負わせた事実を認定している点で、事実を誤認したものといわねばならない。 せたのちは、右Dにおいて被告人両名の手を振り払うなどしたため自らの行為によつて転落するに至つたものといわざるをえない。それで、被告人両名の前記行為と右Dの転落との間に因果関係は認められないのである。従つて、原判決は、被告人両名が右Dを下駄箱あるいは右Eに突き当てさせ、その勢いで土間に転落するに至らせ、その結果同人に原判示の傷害を負わせた事実を認定している点で、事実を誤認したものといわねばならない。そこで、右Dの傷害の有無の点について判断する必要がないから、これを省略し、被告人両名の右の行為が犯罪を構成するかどうかについて検討する。<要旨>被告人両名の前認定の行為は、その態様に徴すると、暴行罪にいう暴行の構成要件にあたるといわざるをえ</要旨>ない。しかし、証拠によると、次の事実が認められる。すなわち、原判示のように、前記C自治会においては、常任委員会を開催して年間行事計画などを討議していたところ、会員であるDが酒に酔つて途中から傍聴人として出席したうえ、右自治会長のKが原判示の発言をしたのを機にこれに関連する質問を始めたのであるが、同人は、くどい質問をくり返したばかりでなく途中からは既に決定されて当日の議題にはなつていなかつた東京都H 席したうえ、右自治会長のKが原判示の発言をしたのを機にこれに関連する質問を始めたのであるが、同人は、くどい質問をくり返したばかりでなく途中からは既に決定されて当日の議題にはなつていなかつた東京都H協議会への加盟継続問題をこれに反対する立場からむし返して議論を始めたのである。ところが同人は、酔つていたことと興奮したこととが相まつて意味の判らないような発言をするようになり、その果には大声で右自治会の性格や役員個人に対して攻撃するなど粗暴な態度を示すに至つた。そのため、同人は、前記会長のKらから議事妨害であるとして退場を求められたにもかかわらず、さらに前記委員のNと口論を始め、机を叩くなど粗暴な言動をやめず、容易に退場しようとしなかつた。そこで、被告人両名は、右会長をはじめ委員全員の意をうけて同人を退場させるために前記の行為に出たものである。ところで、前記の自治会は、東京都下清瀬市所在のO団地居住者(約四五〇世帯)によつて構成されており、会員相互の親睦を図り、居住権の完全擁護と民主的権利を守り、福祉の増進と文化的生活の向上を推進することを目的として設立されたいわば公共的な団体であるから、その常任委員会の平穏で円滑な運営は、集会の自由等の観点からみて法的保護に値する利益であることはいうまでもない。 させるために前記の行為に出たものである。ところで、前記の自治会は、東京都下清瀬市所在のO団地居住者(約四五〇世帯)によつて構成されており、会員相互の親睦を図り、居住権の完全擁護と民主的権利を守り、福祉の増進と文化的生活の向上を推進することを目的として設立されたいわば公共的な団体であるから、その常任委員会の平穏で円滑な運営は、集会の自由等の観点からみて法的保護に値する利益であることはいうまでもない。ところが、本件当日正規に開催され、正常に運営されていた右委員会が前記のとおり右Dの行為によつて妨害され、議事の進行が困難な状態に陥つたことが証拠上認められるから、右Dの行為は、右の法益に対する急迫不正の侵害であつたことが明らかである。もちろん、前記団地居住者で自治会の会員である右Dが右委員会に出席して質問等の発言をすることは許されていたのであるけれども、そのために右Dの前記の行為が正当化されるものでないことはいうまでもない。そして、当日の委員 住者で自治会の会員である右Dが右委員会に出席して質問等の発言をすることは許されていたのであるけれども、そのために右Dの前記の行為が正当化されるものでないことはいうまでもない。そして、当日の委員会においては、右Dが質問をした時点においてはなお予定された議事が残つていたために途中で中止するわけにはいかなかつたのであり、また、右Dを説得して退場させることは殆んど不可能な状態であつたことが認められる。また、当時の状況から右Dを退場させるために警察官の出動を求めるほど重大な事件とは考えられなかつたばかりでなく、また時間的にその余裕もなかつたことが認められる。右の事情から、被告人両名が会員一同に代つて右Dを退場させることが必要であり、そのためには実力を行使することもやむをえなかつたものといわなければならない。また、被告人両名は、前記の法益を防衛する意思で右の行為に出たものであり、その実力行使の程度も前記認定のとおりであるから、被告人両名の右の行為によつて右Dに加えた害の程度は、被告人両名が防衛しようとした前記の法益に比較して軽微であり、実力行使の態様も穏当なものであつたことが認められる。以上の認定を総合すると、被告人両名の前記の行為は、刑法第三六条第一項の正当防衛にあたるものと認められるから、暴行罪の違法性を阻却するものである。それで、右の点を認めなかつた原判決は、事実を誤認したものである。 前記認定のとおりであるから、被告人両名の右の行為によつて右Dに加えた害の程度は、被告人両名が防衛しようとした前記の法益に比較して軽微であり、実力行使の態様も穏当なものであつたことが認められる。以上の認定を総合すると、被告人両名の前記の行為は、刑法第三六条第一項の正当防衛にあたるものと認められるから、暴行罪の違法性を阻却するものである。それで、右の点を認めなかつた原判決は、事実を誤認したものである。そして、前記の被告人両名の暴行の態様及びこれを原判示の傷害との間の因果関係の点に関する事実誤認と右正当防衛の点に関する事実誤認とは、いずれも判決に影響を及ぼすことが明らかである。それで、論旨は、理由がある。右のとおりで、本件各控訴は理由があるから、刑事訴訟法第三九七条、第三八二条により原判決を破棄したうえ、同法第四〇〇条但書の規定に従つて、さらに判決 とが明らかである。それで、論旨は、理由がある。右のとおりで、本件各控訴は理由があるから、刑事訴訟法第三九七条、第三八二条により原判決を破棄したうえ、同法第四〇〇条但書の規定に従つて、さらに判決することとする。本件公訴事実中、被告人両名が前記Dを玄関コンクリート土間に放り出した事実及び被告人Aが右Dの襟首付近をつかんで表道路上に放り出した事実が証拠上認められないことは、原判示のとおりであり、また、被告人両名が右Dを下駄箱などに突き当てさせて転落させたこと及び被告人両名の行為と右Dの傷害との間に因果関係があることは、前判示のとおりいずれも証拠上認めることができず、さらに、被告人両名の行為と認めうる前判示の暴行も前判示のとおり正当防衛と認められるから、結局罪とならないものである。それで、刑事訴訟法第四〇四条、第三三六条により被告人両名に対して無罪の言渡をする。そこで、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官浦辺衛裁判官環直彌裁判官内匠和彦)

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