令和3(わ)604 殺人

裁判年月日・裁判所
令和5年3月7日 京都地方裁判所
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判決文本文11,863 文字)

令和5年3月7日宣告令和3年(わ)第604号殺人被告事件 主文 被告人を懲役11年に処する。 未決勾留日数中420日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、精神障害を有していた夫であるAを実子であるBと共に疎ましく思っていたところ、B及びCと共謀の上、Aを殺害しようと計画し、平成23年3月5日午後0時頃から同日午後4時頃までの間に、東京都江戸川区a町b丁目c番d号eマンションf号室等において、手段不詳によりA(当時77歳)を殺害した。 (事実認定の補足説明)第1 争点等公訴事実記載の日時場所においてAが死亡したことは関係証拠上明らかに認められる。他方、弁護人は、Aが殺害されたとしても、被告人がその共謀をしたことはない旨主張し、被告人もこれに沿う供述をする。 本件の争点は、Aが、被告人、B及びCの共謀に基づいて殺害されたと認められるか否かである。 第2 認定事実関係各証拠によれば、次の事実が認められる。 1 被告人とA及びBとの関係(1) 被告人は、昭和50年8月にAと結婚し、平成2年6月に一度離婚したものの、平成5年1月にAと再度入籍した。Aは、被告人との結婚以前から精神障害を有して入退院を繰り返してきており、被告人との結婚後も、長年にわたって入退院を繰り返し、平成22年1月23日以降は、双極I 型感情障害(主に躁症状が強く現れる躁鬱病)の治療のため長野県所在のg病院に入院していた。 また、過去に起こした脳梗塞等の後遺障害として嚥下障害や歩行障害が生じていた。 (2) Bは、被告人とAとの間の実子である。 2 BとCとの関係等Bは、平成12年4月にh大学医学部医学科に入学し、平成14年春頃、i大学医学部医学科に在籍していたCと知り が生じていた。 (2) Bは、被告人とAとの間の実子である。 2 BとCとの関係等Bは、平成12年4月にh大学医学部医学科に入学し、平成14年春頃、i大学医学部医学科に在籍していたCと知り合った。なお、Cは、平成15年5月に医師免許を取得している。その後、Bは、大学を退学していたが、当時、厚生労働省において医系技官として医師国家試験の受験資格認定審査業務に携わっていたCの指南を受け、平成21年3月に厚生労働省に内容虚偽の資料を提出して医師国家試験受験資格認定を受け、平成22年3月に医師国家試験に合格して同年5月に医師免許を取得し、その頃、福島県内の医療機関で臨床研修を開始した。 なお、Cは、平成22年4月以降、j大学病院で勤務していた。 3 Aの殺害計画等(1) 被告人及びBは、長年にわたり、精神障害を有するAの介助、医療費等の経済的負担のほか、多くの苦労を余儀なくされてきたことから、Aを疎ましく感じており、遅くとも平成22年頃にはAの死を望むようになった。 (2) Bは、Aの状況等をCに知らせていたが、Cと連絡を取り合う中で、Aを退院させた上で殺害するという計画を具体化させていき、その結果、少なくともB及びCは、遅くとも平成23年3月5日までに、以下の内容を骨子とするAの殺害計画を練り上げた(以下、特に断りのない限り、平成23年のこととする。)。 ① 被告人とBが、g病院の担当医師らに対し、Aを東京都内の病院に転院させる手はずが整った旨の嘘を伝え、3月5日にAを退院させ、車椅子に乗せたAを新幹線でk駅まで搬送し、同駅でCと合流する。なお、Cと合流する前に、BがAにインスリン製剤を注入し、Aを鎮静状態にしておく。 ② Aをレンタカーに乗せてk駅から東京都江戸川区a町b丁目c番d号e マンションf号室に搬送する。 る。なお、Cと合流する前に、BがAにインスリン製剤を注入し、Aを鎮静状態にしておく。 ② Aをレンタカーに乗せてk駅から東京都江戸川区a町b丁目c番d号e マンションf号室に搬送する。 ③ eマンションf号室においてAを殺害する。 ④ B及びCの共通の知人である医師の名義で死亡診断書を作成し、それと一体となった死亡届を東京都中央区役所に提出し、火葬許可証を取得した上で、速やかにeマンションに近い火葬場でAを火葬する。 (3) 他方で、Bは、前記(2)の計画について、以下のとおり、被告人との間で、Cからのメールを転送したり、計画に基づく準備を依頼するなどのやり取りを行った。 ア退院手続等についてのやり取り(ア) Bは、1月1日、被告人に対し、「『今年は大仕事』するのだ」と記載したメールを送信した。他方、被告人は、同月24日、Bに対し、「今年は13回忌を迎える。おさらばして貰うには、丁度よい年じゃ!!!」などと記載したメールを送信した。 (イ) Bは、2月18日、Cに対し、g病院から退院させる準備として、同病院の担当医師に紹介状を書いてもらい、週明けには被告人に同病院に赴いてもらおうと考えている旨記載したメールを送信し、また、被告人に対しては、同メールを引用して返信してきたCからのメールを転送した。 (ウ) Bは、3月1日、被告人に対し、Aを退院させるために被告人がg病院に対して告げるべき台詞や口ぶりを記載したメールを送信した。同台詞の内容は、要旨、Aの転院先が既に横浜市内の病院に決まっており、同月5日に家族が迎えに行くので転院手続の準備をお願いしたいというものである。 (エ) Bは、3月3日、被告人に対し、l病院のウェブページのURLを記載したメールを送信した。これを受けた被告人は、同日、Bに対し、「基地・出 で転院手続の準備をお願いしたいというものである。 (エ) Bは、3月3日、被告人に対し、l病院のウェブページのURLを記載したメールを送信した。これを受けた被告人は、同日、Bに対し、「基地・出世!」「最高の名門で寝起きか」などと記載したメールを送信した。なお、「基地」とはAのことである。 イ搬送手段・搬送場所等についてのやり取り(ア) Bは、2月18日、Cとの間で、Aの搬送用にmレンタリースで福祉車両をレンタルすることを確認し、他方で、被告人に対し、福祉車両の情報が記載されたCからのメールを転送した。また、Bは、同月25日、被告人に対し、Cの名前で福祉車両のレンタルを申し込んだとの内容のメールを送信した。 (イ) Bは、2月25日、被告人に対し、eマンションの物件情報についてのウェブページやその所在地が記載された地図のURLを記載したメールを送信した。 (ウ) Bは、2月10日、被告人に対し、糖尿病患者用のインスリン注入器(いわゆる「フレペン」)についてのウェブページのURLが記載されたメールを送信した。また、Bは、同月26日、被告人に対し、インスリンによる低血糖等についてのウェブページのURLが記載されたメールを送信した上で、同月27日、「爆弾なんて野暮なモン使いませんぜ、奥さん。 鉛筆ですよエンピツ。」などと記載したメールや、インスリン注入用注射針についてのウェブページのURLを記載したメールを送信した。 ウ殺害後の処理方法等についてのやり取り(ア) Bは、2月1日、被告人に対し、火葬場の情報についてのウェブページのURLが記載されたCからのメールを転送した。 (イ) Bは、2月2日、被告人に対し、「棺桶」との件名で、除籍謄本には死亡地が載ってしまうことを付記した上で、Cからのメールを転送し ウェブページのURLが記載されたCからのメールを転送した。 (イ) Bは、2月2日、被告人に対し、「棺桶」との件名で、除籍謄本には死亡地が載ってしまうことを付記した上で、Cからのメールを転送した。これに対し、被告人は、同日、Bに対し、「棺桶」との件名で、福島であぼんなら福島であぼんと載るんだよねなどと記載したメールを送信した。なお、「あぼん」とは「死亡する」などという意味である。 (ウ) Bは、2月26日、被告人に対し、「本人名義の銀行口座等の処理は計画的に」と記載し、死亡後の主な手続についてのウェブページのURLを 記載したメールを送信した。 (エ) Bは、2月26日、被告人に対し、Cから聞いた話として、「死体は江戸川区に転がしておきつつ、中央区に死亡届を出しに行けばその場で火葬許可証をゲット」などと記載したメールを送信した。 (オ) 被告人は、2月26日、Bに対し、死亡届についてのウェブページのURLを記載したメールを送信した。 (カ) Bは、3月2日、被告人に対し、n葬儀所のウェブページのURLを記載した上で、「nとaは目と鼻の先」、「あしたとりあえず nに電話して、おたくって土日もやってるんですか?って問い合わせてくれや。日曜日お世話になることが可能かどうかが事前に知りたい。でなければ、最初から月曜日以降狙いとなる」などと記載したメールを送信した。これを受けて、被告人は、同日、Bに対し、「起きたらnに電話して尋ねます」と記載したメールを送信し、後日、Bにその確認結果を伝えた。 4 犯行日前後の被告人らの行動等(1) Cは、2月25日までに、mレンタリース埼玉に対し、3月5日午前11時にk駅東口店を出発し、同日午後8時にo駅西口店に返却するとの条件で福祉車両のレンタルを申し込んだ。 (2) Bは、2 (1) Cは、2月25日までに、mレンタリース埼玉に対し、3月5日午前11時にk駅東口店を出発し、同日午後8時にo駅西口店に返却するとの条件で福祉車両のレンタルを申し込んだ。 (2) Bは、2月27日頃、車椅子のレンタル会社に対し、3月4日にpホテルで受け取り、同月7日に都内から返却発送するとの条件で車椅子のレンタルを申し込んだ。 (3) Bは、2月28日、eマンションf号室を3月4日から4月2日までの約1ヶ月間賃借する内容の賃貸借契約を締結した。被告人は、Bの依頼を受けて、3月4日にqの支店において上記部屋の鍵を受領したほか、Bから、Cからの依頼であると告げられた上で、室内に点滴を吊り下げることができるような設備の有無の確認を依頼されたことから、それを確認するなどして、Bに伝え、Bは、その結果をCに伝えた。 (4) 被告人は、3月4日、A名義の金融機関の口座から預金を全て出金した。 (5) 被告人は、遅くとも3月5日より前に、Bの指示(前記3(3)ア(ウ))を受け、g病院に対し、Aを転院させる手はずが整ったので同日に退院させるとの意向を伝えた。 (6) 3月5日当日の経過は、以下のとおりである。 ア被告人及びBは、午前9時30分頃、g病院を訪れてAを退院させるとともに、事前にレンタルしていた車椅子にAを乗せ、r駅から新幹線でk駅に移動した。被告人、B及びAは、午前11時46分頃、k駅に到着し、駅前ロータリーにおいて、福祉車両をレンタルしたCと合流した。 なお、退院時点におけるAの健康状態は良好であり、経鼻胃管の必要も生じていなかった。 イ B及びCは、午後0時過ぎ頃、Cが運転する福祉車両にAを車椅子ごと乗車させた上で、eマンションに向かったが、被告人はBらと別れて一人で東京駅に向かった。 ウ Aは、e じていなかった。 イ B及びCは、午後0時過ぎ頃、Cが運転する福祉車両にAを車椅子ごと乗車させた上で、eマンションに向かったが、被告人はBらと別れて一人で東京駅に向かった。 ウ Aは、eマンションに到着後、そのf号室に搬送され、午後4時頃までに死亡した。 エ Bは、死亡日時を3月5日午後1時53分、死亡した場所をeマンションf号室、直接死因を「急性循環不全」、診断者名をB及びCの共通の知人である医師名とする死亡診断書を偽造した。また、Bと合流した被告人は、同死亡診断書と一体となった死亡届を作成し、午後5時20分頃、eマンションから公共交通機関を利用すれば約1時間15分の距離に位置する東京都中央区役所に、同死亡届を提出し、死体火葬許可証を受領した。さらに、被告人又はBは、この日のうちに葬儀業者を通じてn葬儀所での火葬を予約した。 (7) Aの遺体は、3月10日午後0時頃、n葬儀所において火葬され、その後、アフリカに埋められた。 7 5 被告人らの事後のメール内容(1) 被告人は、3月25日、Bに対し、Aについて「生き様がそのままに出てしまった。化け物よ。。サラバ!」「B(注:Bの名をひらがなで表記)が幸せな人生を送れるように邪魔をしにくるなよ!!」「もちろん、被告人(注:被告人の名をひらがなで表記)もや!」などと記載したメールを送信した。 (2) Bは、4月18日、Cに対し、「入籍おめでとう。おいらは結婚はもちろん女とすら無縁の人生を歩んでるのでゴールインした勝ち組を見上げるのが実にまぶしい。 しかし 結婚生活はいろいろと大変。ぜひとも幸せに。とりあえず 赤ちゃんができたらよいねえ。」「あさっての深夜羽田発、日曜日の深夜羽田帰還予定。 バンコクで暇つぶしして、ヨハネスではヒルトンのスイートに泊まって ワイン いろと大変。ぜひとも幸せに。とりあえず赤ちゃんができたらよいねえ。」「あさっての深夜羽田発、日曜日の深夜羽田帰還予定。 バンコクで暇つぶしして、ヨハネスではヒルトンのスイートに泊まってワイン飲んで打ち上げてくる。 すべてが初体験ツアー。まあ法要にかこつけてうざい小児科から離れてバカンスできるんだからおいしいもんだ。」などと記載したメールを送信した。 (3) Bは、4月26日、Cとメールのやり取りをする中で、Cに対し、「4日の夕方以降福島で打ち上げでもぜんぜんオッケイだが。」「とりあえず3日夜に福島っていうことで。土産話ならぬ記念写真でも持参するわ。」などと記載したメールを送信した。 (4) Bは、5月29日、被告人に対し、「先生、お世話になりますた from スワジランド」と記載してCの写真を添付したメールを送信した。 (5) Bは、11月2日、被告人に対し、「悪人でも逃げ出したくなる南アフリカ。 あそこは逃げ回るって行くところやないで。ドキチガイざまぁみろ。」「連れて帰ってほしいか? そらできんで。 胸がすっとするワ。」と記載したメールを送信した。 (6) 被告人は、平成29年3月2日、Bに対し、「kって、縁起が良い通過点だと思ってる」などと記載したメールを送信した。これを受けて、Bは、同日、被告人に対し、「せやな。人生がグイっとステップアップする節目だよな。」と 記載したメールを送信した。 (7) 被告人は、令和元年7月20日、Bに対し、「よかったなぁ、オバケさんよぉ」「オマイさんは恵まれていたぜ、平安な心になれて官僚に感謝しろよ?」などと記載したメールを送信した。 第3 争点に対する判断 1 Aが殺害されたと認められるかについてAは、g病院を退院してから長くても7時間以内には死亡するに至っている( 官僚に感謝しろよ?」などと記載したメールを送信した。 第3 争点に対する判断 1 Aが殺害されたと認められるかについてAは、g病院を退院してから長くても7時間以内には死亡するに至っている(前記第2の4(6)ア及びウ)ところ、Aの退院時点における健康状態は良好であり(同ア)、そのような短時間で病死・自然死に至った可能性を具体的にうかがわせるような事情は何ら見出せない。また、死亡診断書が偽造されている(同エ)ところ、仮にAが自然死、病死又は事故死であれば、あえて死亡診断書を偽造する必要がないことを併せ考えれば、Aが殺害されたと推認することができる。 2 被告人がB及びCとの間でAの殺害を共謀したかについて(1) 前記認定事実に基づく検討被告人とBとの間のメールのやり取り等(前記第2の3(3)、4(4))によれば、Bから被告人に対して殺害計画に関する情報が送信されているだけでなく、被告人がBに対してその意味内容を確認したような経過はうかがわれず、かえって、被告人は、死亡届の情報が記載されたURLをBに送信したり、eマンションに近い葬儀所へ事前に確認するようBから依頼されてこれを了承したりしているほか、Bからのメールを受けてAの預金口座から全額出金していることが認められる。これらの被告人の言動は、Bからのメールの記載内容や殺害計画を正しく理解し、Aが退院後の近い時期に死亡することを前提としなければ説明がつかないものというほかない。そうすると、被告人は、遅くとも3月5日までに、l病院に転院させるとの虚偽の説明を行ってAを同日退院させ、Cと合流して福祉車両でeマンションに搬送するのみならず、何らかの手段によってAを殺害し、その後、東京都中央区役所に死亡届を提出した上でn葬儀 所で火葬するという一連の計画を認識していた 、Cと合流して福祉車両でeマンションに搬送するのみならず、何らかの手段によってAを殺害し、その後、東京都中央区役所に死亡届を提出した上でn葬儀 所で火葬するという一連の計画を認識していたものと推認できる。 その上で、被告人は、eマンションの鍵を受領し、その下見をしたり(同4(3))、Aを退院させるためg病院に対して虚偽の説明をしたり(同(5))、また、3月5日当日には自らAの退院手続を行い、Bと共にAをk駅まで搬送してCに引き渡し、自らはBらと別れて東京駅で待機していたこと(同(6)ア、イ)も併せ鑑みれば、被告人は、Aの殺害計画について、単に認識していたにとどまらず、これを受け入れ、かつ、加担していたと認められる。 以上に加えて、Bが被告人に対してCからのメールを転送するなどしており(同3(3)ア(イ)、イ(ア)、ウ(ア)、(イ)、(エ))、また、BがCに対して被告人も本件計画の準備に携わっていることを伝えるなどしていたこと(同ア(イ)、同4(3))からすれば、Aの殺害計画については、被告人、B及びCにおいて、遅くとも3月5日までに、順次、共謀を遂げたものと認められる。 (2) 被告人の公判供述についての検討ア以上に対し、被告人は、公判廷において、要旨、①Bからの殺害計画に関するメールの多くは目を通しておらず、殺害計画が進んでいるとは思っていなかったのであり、3月5日にAを退院させるのは胃ろうの造設を防ぐために転院させることが目的であると認識していた、②同日、g病院でAを車椅子に乗せようとしてベッドから起き上がらせようとした際、「棺桶」とのタイトルのメールとAの様子が合わさり、このままではCにAが殺害されるかもしれないと閃き、同病院内とk駅に向かう新幹線の中で、Bに対し、やめよう、g病院に戻ろうなどと らせようとした際、「棺桶」とのタイトルのメールとAの様子が合わさり、このままではCにAが殺害されるかもしれないと閃き、同病院内とk駅に向かう新幹線の中で、Bに対し、やめよう、g病院に戻ろうなどと伝えたところ、Bから、g病院には戻れないが、Cと話をするから大丈夫、東京駅で待っていてくれと言われ、その言葉を信じて東京駅に向かった、③Cとはk駅において初めて会ったが、何の会話もしなかった、④その後、Bから連絡があって合流し、eマンションに向かい、室内で布団に横たわっていたAを見て初めてAが死んでいることを知った旨供述する。 イしかしながら、前記(1)で述べたとおり、被告人が送信しているメールの内容からして、殺害計画の細部はともかく、その概要を知らなかったとは到底考え難く、また、事前の準備行為や当日の行動についても、転院を前提とする行動でないことは客観的に明らかであって、被告人が何の疑問もなくBの指示に従ったり、単に転院手続が進められていると誤解したりする余地はない。被告人の公判供述は、事件の核心部分において曖昧な供述に終始しているだけでなく、Cに殺害されるかもしれないとの思いを抱きながらCにAを預けて自分は東京駅で待機するなど、その供述内容自体も不自然・不合理というほかない。また、被告人とBのと間では、他人に見られることを前提としていないこともあってか、メールでのやり取りにおいては、他人に対する不満等を含めて、Bの表現を借りれば、書きたい放題に、心情を率直に伝え合ってきたにもかかわらず、3月5日以降のメールでのやり取り(前記第2の5)を見ても、Cへの感謝の気持ちを述べることはあっても、Cが被告人やBらの意に反してAを殺害したことに関する非難等をうかがわせる記載は存在していない。 以上によれば、被告人の上記供述は信用でき の5)を見ても、Cへの感謝の気持ちを述べることはあっても、Cが被告人やBらの意に反してAを殺害したことに関する非難等をうかがわせる記載は存在していない。 以上によれば、被告人の上記供述は信用できない。 (3) 弁護人の主張についてア以上に対し、弁護人は、①被告人がBからのメールの内容をその意図どおりに理解できていたというには強い疑問が残る、②被告人が殺害計画を認識していたとすれば矛盾するメールが存在する、③Cと被告人とが意思を通じ合っていたとはいえない旨主張する。 しかしながら、前記(1)で述べたとおり、被告人は、Bからの殺害計画に関するメールを理解していたと認められるし、弁護人が指摘するメールについてみても、殺害計画がまだ具体化する以前の時期のものであることなどからすれば、殺害計画と矛盾する内容のメールとまでは評価できないし、そもそも、被告人とBとはメール以外にも電話でもやり取りを行っていたという のであるから、メールの返信がないことなどをもって被告人がBのメールを読んでいなかったことの裏付けとなるものではない。また、前記(1)のとおり、Bによるメールの転送等を通じて、被告人も本件の殺害計画の概要については認識していたし、Cにおいても、被告人が計画を承知した上で準備に関与することを認識していたものと認められる。 以上によれば、弁護人の上記主張をもって前記認定・判断を左右させるものとは評価できない。 イなお、弁護人は、被告人が、④殺害計画に感づいていたとしても、自らがその計画の一員であることを認識していたとはいえないし、⑤Aの死を望んでいたとしても、自ら又はBの犯罪としてAの殺害を遂行しようと考えたことがあったとはいえない旨主張する。 しかしながら、被告人は、殺害計画の立案に積極 とを認識していたとはいえないし、⑤Aの死を望んでいたとしても、自ら又はBの犯罪としてAの殺害を遂行しようと考えたことがあったとはいえない旨主張する。 しかしながら、被告人は、殺害計画の立案に積極的に関与していなかったとしても、Bと共にAの死亡を望んでいたという強い利害関係を有していたことに加えて、退院のための手続やeマンションの下見といったB及びCが行い得なかった役割を担っているほか、3月5日当日においても、Aを退院させてCの下へ搬送し、殺害後も死亡届を作成して提出するなど本件の殺害計画に不可欠な役割を果たしていると認められる。その上で、被告人が本件殺害計画における自身の役割等の持つ意味を理解できなかったことをうかがわせる事情も見出せないことからすれば、被告人は、自己の犯罪、すなわち正犯として本件犯行に関与したものと評価することができる。 (4) 小括以上のとおり、被告人がB及びCとの間でAの殺害を共謀したと認められる。 3 共謀に基づき殺害されたと認められるかについて(1) なお、公判廷において、被告人は、Bに対し、やめよう、g病院に戻ろうなどと伝えた旨供述し、Bも、被告人からやめようと言われたことから、Cに対して計画の中止を説得し、最終的にはCから計画中止の了承を得たものの、C が、Bに無断でAを殺害した旨供述する。 (2) しかし、3月5日における実際の被告人らの行動は、当初の計画どおりに手際よく進行されており、そこに予定外の事態が生じたことはうかがわれず、同日以降におけるBと被告人又はCとの間のメールのやり取りを見ても、計画の途中で予定外の事態が生じたことを具体的にうかがわせる事情は何ら見出せない。また、Bの供述を前提にすれば、Cは、殺害計画の中止を了承しながら、これまで付き合いの長かったBを何ら説得等 見ても、計画の途中で予定外の事態が生じたことを具体的にうかがわせる事情は何ら見出せない。また、Bの供述を前提にすれば、Cは、殺害計画の中止を了承しながら、これまで付き合いの長かったBを何ら説得等することもなく、いつBが入室してくるかも分からない状況下で、そのような関係にあるBの父を無断かつ独断で、それも車椅子から降ろして布団に寝かせる時間も含めて10分程度の短時間のうちに殺害したことになるが、そのような短時間のうちに一人で、他殺と疑われないように殺人を実行することが現実的に可能であるかも疑問である上、それまでBとの間で犯行発覚を防ぐために種々の準備・計画をしていたことを踏まえれば、Cにおいて、Bらの意思に反してAを殺害したとしても、Bらが事を荒立てずに協力してくれるだろうなどといった不確かな見込みに基づいて殺害を行うとは考え難いし、Bを説得等することができないような事情もない中で無断かつ独断で犯行に及んだというのはあまりにも不自然・不合理というほかない。 以上によれば、Aは、当初の殺害計画に基づいて殺害されたと合理的に推認することができ、Bの上記供述は信用できない。 4 結論以上の次第であるから、被告人、B及びCの共謀に基づいてAが殺害されたと認められ、被告人には殺人罪が成立する。 (量刑の理由) 1 本件は、被告人が、子であるB及びその医師仲間であるCと共謀して夫を殺害した殺人1件の事案である。 2(1) 具体的な殺害方法は不詳であるものの、被告人らは、医師としての知識・経験 や立場、あるいは妻としての立場を基に、夫を退院させる方法や殺害後の処理方法等の検討を重ねたり、必要となる医療品や犯行場所の確保等の準備をしたりするなどして、他殺を疑われることなく殺害する計画を緻密に練り上げ、その計画に基づいて共犯者3名 退院させる方法や殺害後の処理方法等の検討を重ねたり、必要となる医療品や犯行場所の確保等の準備をしたりするなどして、他殺を疑われることなく殺害する計画を緻密に練り上げ、その計画に基づいて共犯者3名で役割分担をしながら殺人を実行しており、その殺害計画は相当に巧妙で悪質である。 (2) 被告人個別の事情を見ても、犯罪計画を主体的に練り上げたのは専ら他の共犯者らであるし、被告人が殺害行為に直接携わったとも認められないことからすれば、被告人が共犯者の中で主導的役割を果たしたとまではいえないものの、計画の全貌を把握した上で、他の共犯者らでは行い得ない事前の準備や、犯行当日の退院手続、殺害後の死亡届の作成など、殺害計画の完遂に不可欠な役割を主体的・積極的に果たしたと評価すべきである。 被告人は、長年にわたって精神障害を有する夫の介助等に伴う多くの苦労を余儀なくされてきたことで、夫の死を望むようになっていたところ、BがCから他殺を疑われることなく殺害する方法を提案されるなどする中で、夫の殺害計画に賛同するに至っている。被告人の長年にわたる苦労等に鑑みれば、その動機・経緯には同情の余地もあり、全くの身勝手な理由で殺人を犯した事案と同様にみることはできない。 しかし、当時、夫を殺害しなければならないほどに被告人が追い詰められていたことをうかがわせる事情はなく、安易に人の命を奪うことを決めた被告人の意思決定は強い非難に値し、典型的な介護殺人の事案とも事案を異にしている。 3 以上の犯情を前提に、量刑上考慮すべき前科のない被告人による内縁を含む配偶者に対する殺人1件で、他に主要な罪のない事案のほか、介護疲れ又は怨恨を動機とする事案等の量刑傾向も踏まえて検討すると、本件は、典型的な介護殺人等とは異なっており、法定刑としての有期懲役刑の下限付近に位置付ける 人1件で、他に主要な罪のない事案のほか、介護疲れ又は怨恨を動機とする事案等の量刑傾向も踏まえて検討すると、本件は、典型的な介護殺人等とは異なっており、法定刑としての有期懲役刑の下限付近に位置付けるべきような軽い部類に属するとはいえない。他方で、計画は巧妙で悪質ではあるものの、動機・経緯に酌むべき事情も認められることや、被告人が本件において果たした役割の程度 等を踏まえれば、ことさらに重い部類に属するともいえない。 4 そこで、以上のほか、被告人に反省の態度はうかがわれない一方で再犯の可能性があるとも認められないこと、被告人の年齢など、本件に現れた一切の事情を考慮して、主文のとおり量刑した。 (求刑・懲役12年)令和5年3月7日京都地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官川上 宏 裁判官檀上信介 裁判官中谷洸

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