平成15(わ)654 傷害致死被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年7月2日 静岡地方裁判所
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判決文本文10,287 文字)

主文 被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中180日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成14年8月21日午前5時25分ころ,大型貨物自動車を運転し,静岡県島田市a番地付近道路を時速約80キロメートルで進行中,自車の後方を同様の速度で追従して普通乗用自動車を運転していたA(当時20歳)が,何度も対向車線上に車両をはみ出させては追い越すような素振りを見せながら,一向に追い越そうとしなかったことから,同人にからかわれ馬鹿にされているものと思って憤激し,自車を急停止させれば自車後部に同人運転車両が衝突して同人に傷害を負わせるかも知れないがそうなってもやむを得ないと考え,急制動の措置を講じて自車を急停止させ,自車後部に同人運転車両前部を衝突させて同人に硬膜下血腫の傷害を負わせ,よって,同月30日午後2時26分ころ,同市内のb病院において,同人を前記傷害に基づく肺炎により死亡するに至らしめた。 (争点に対する判断)第1 争点本件公訴事実は,「被告人は,平成14年8月21日午前5時25分ころ,大型貨物自動車を運転し,静岡県島田市a番地付近道路を時速約80キロメートルで進行中,自車の直後を同速度で追従して普通乗用自動車を運転していたA(当時20年)が,自車を追い越すと見せかけては,それを中止して自己をからかっていると憤激し,同人運転車両が自車後部に衝突して同人が死亡するのもやむを得ないと決意し,急制動の措置を講じて自車を急停止させ,自車後部に上記A運転車両前部を衝突させて同人に硬膜下血腫の傷害を負わせ,よって,同月30日午後2時26分ころ,同市内のb病院において,同人を前記傷害に基づく肺炎により死亡させて殺害したものである。」というものである。 これに対し,弁護人は,被告人が急制動の措置 ,よって,同月30日午後2時26分ころ,同市内のb病院において,同人を前記傷害に基づく肺炎により死亡させて殺害したものである。」というものである。 これに対し,弁護人は,被告人が急制動の措置を講じて自車を急停止させたのは,後続車両を運転していたAに運転方法を抗議するためであり,急停止によって自車とA車両が衝突することは予想していなかったのであるから,被告人に殺意はなく,無罪である旨主張し,被告人も当公判廷において,これに沿う供述をする。 そこで,衝突の際の認識を検討した上,殺意の存否について検討することとする。 第2 関係各証拠によれば,以下の事実が明らか又は容易に認められる。 1 衝突に至る経緯について被告人は,大型自動車免許を取得後,平成7年12月から本件に至るまで有限会社cのダンプカー運転手として砂利運搬業務に従事し,本件も,平素から使用しているダンプカー(以下「被告人車」という。)で砂利を積載しに行く途中の出来事であった。 被告人は,本件当日の午前4時45分ころ,静岡県島田市内の自宅を出て,勤務先の駐車場で被告人車に乗り,国道150号線から県道河原大井川港線に入り大井川上流に向い,更に主要地方道旧島田川根線に入って北進した。被告人は,主要地方道旧島田川根線が同新島田川根線と交差する水神東交差点に入る手前で,同新島田川根線上にA運転の普通乗用自動車(以下「A車」という。)が信号待ちをしているのに気付いたが,進行方向の信号機が黄色信号から赤色信号に変わろうとしていたため加速し,時速60キロメートル前後の速度で同交差点を通過した。被告人は,A車が被告人車に追い付いて来るのではないかと思い,後方を気にしながら時速70キロメートル前後で走行していたところ,同市伊太地内の笹ヶ久保公園手前付近でA車が迫ってくるのを右側 通過した。被告人は,A車が被告人車に追い付いて来るのではないかと思い,後方を気にしながら時速70キロメートル前後で走行していたところ,同市伊太地内の笹ヶ久保公園手前付近でA車が迫ってくるのを右側バックミラー越しに認めた。その後,柳島橋を渡り,d協同組合生コン工場付近に至るころ,被告人は,A車がセンターラインを跨ぎ,被告人車の後方を10メートル前後しか車間距離を空けずに追従しているのを確認した。被告人が,追い越しをさせまいとして,被告人車の速度を時速80キロメートル近くまで上げて約600メートル走行したが,A車も被告人車と同様の走り方をして追従を続けていた。被告人は,A車が対向車線にはみ出すなどして追い越すような素振りを見せていながら,追い越さずに被告人車のすぐ後ろを車間距離を詰めて追従してくるのを見て,馬鹿にされているものと苛立ち始め,赤松地蔵尊入口付近の連続する2つのカーブを時速約65キロメートルに減速して通過した後,直線道路になってA車が再び対向車線に進入したのを見て,追い越しをさせまいと再度加速した。すると,A車はまたも追い越しをして来なかったことから,被告人は,あおられてからかわれていると感じて憤激し,アクセルペダルを踏み込んで時速約80キロメートルまで一旦加速した後,アクセルペダルを離して排気ブレーキを作動させ,続いてフットブレーキをかけて急制動の措置を講じ,自車を急停止させた。 被告人がA車を最初に発見した水神東交差点から本件の衝突地点までの距離は約2キロメートルで,この間の被告人車の走行時間は約2分間であり,また,A車が車間距離を詰めて追従してくるのを現認したd協同組合生コン工場付近から同衝突地点までの距離は約1.2キロメートルで,この間の走行時間は1分間余りであった。被告人が時速約65キロメートルまで減速してカー 間距離を詰めて追従してくるのを現認したd協同組合生コン工場付近から同衝突地点までの距離は約1.2キロメートルで,この間の走行時間は1分間余りであった。被告人が時速約65キロメートルまで減速してカーブを通過してから時速約80キロメートルまで加速するのに要した時間は約15秒,同加速後,急停止までの所要時間は約5秒であった。また,衝突現場付近の道路は,指定最高速度40キロメートル,片側1車線で片側の幅員約3メートルの見通しのよい平坦な直線道路であり,衝突当時の交通量は少なかった。 2 被告人車及びA車の各形状等被告人車は,車長9.13メートル,車幅2.49メートル,車高3.17メートル,車両重量10020キログラムの大型貨物自動車(ダンプカー)である。被告人車の左右後輪の中間には,地上から約30センチメートルの高さに,直径約45センチメートルの朱色デフレンシャルケースが設置され,後部荷台の下には,直径約10センチメートル,長さ約160センチメートルの鉄製バンパーが,外幅約80センチメートルの間隔で設置された2本の取り付けステイによって,地上から約80センチメートルの高さに,地上とほぼ平行に取り付けられている。 一方,A車は,車長4.67メートル,車幅1.69メートル,車高1.49メートル,車両重量1440キログラムの普通乗用自動車である。 3 衝突直後の状況について(1) 被告人車は,急制動措置により,右前輪がセンターラインを越え,右後輪がセンターラインを踏むような位置で右斜めを向いて停止し,A車は,衝突により,右前後輪がセンターラインを踏むような位置に進行方向とほぼ平行に停止した。また,路面上には約14メートルにわたる被告人車の右後輪のスリップ痕が残ったが,他にスリップ痕は全く残っていない。 (2) 本件の衝突により ラインを踏むような位置に進行方向とほぼ平行に停止した。また,路面上には約14メートルにわたる被告人車の右後輪のスリップ痕が残ったが,他にスリップ痕は全く残っていない。 (2) 本件の衝突により,被告人車は,後部バンパーが後ろから押される形で曲損し,後輪デフレンシャルケース等には新しい擦過痕が見られ,A車の銀色塗膜片が付着している。 A車は,車両前部が大破し,ボンネットが捲れ上がってエンジンルームが剥き出しになり,ボンネットには,朱色塗料の付着した,外幅で約80センチメートルの2条の擦過痕が印象されている。A車のフロントガラスは割れ落ち,フロントの窓枠の右側部分は後方に押されたように湾曲した。 (3) また,本件の衝突により,Aは,左側頭部を中心とした硬膜下血腫や肋骨の骨折を伴う傷害を負った(なお,Aは,この9日後に,前記硬膜下血腫に基づく肺炎により死亡した。)。 4 衝突状況について前記1ないし3で認定した,各車両の構造,走行状況,停止位置,損壊状況,Aの受傷状況等を照らし合わせると,A車が被告人車の多少右寄りではあるがほぼ真後ろを走行中,被告人が急制動措置を講じたため,被告人車の後部バンパー部分にA車のボンネットを中心に車両前部が衝突し,そのバンパーの下に車体前部がのめり込むような形で被告人車両の下に進入し,バンパーがA車のフロントガラス及びフロントの運転席側窓枠に衝突し,その結果,Aが頭部及び胸部を強打したと推認することができる。 5 衝突直後の被告人の言動について被告人は,A車が自車後部に追突した衝撃を受けても,すぐには降車せず,自車を路肩に移動させてから降車し,A車の状態を見てから110番通報をして,警察官が臨場するのを待っていた。 その後,被告人は,現場に臨場した司法警察員Bに対し,「追突 ても,すぐには降車せず,自車を路肩に移動させてから降車し,A車の状態を見てから110番通報をして,警察官が臨場するのを待っていた。 その後,被告人は,現場に臨場した司法警察員Bに対し,「追突された」,「急ブレーキを踏んだ」,「あおられたので頭にきた」などと話していた。 第3 衝突原因この点,弁護人は,急制動直前に被告人車が加速したことによって,A車との車間距離が広がっていたから,衝突の原因は,Aの前方不注視によるものであると主張し,被告人も,これに沿う供述をしている。しかしながら,被告人車の加速は,時速約65キロメートルから時速約80キロメートルへ時速で約15キロメートル上げただけのものであり,それまで被告人車の加減速にかかわらず,被告人車にほぼぴたりと追従してきたA車の運転状況からすると,この程度の加速によってA車との車間距離がを大きく空いたとは考えにくい。 また,弁護人は,被告人は,Aに抗議するために自車を停車させようと,まずフットブレーキを踏む前に排気ブレーキを作動させ,時速約60キロメートル以下に減速してから停止した旨主張し,その根拠として,路面に残されたスリップ痕が約14メートルしかないことを指摘する。しかし,このスリップ痕は被告人車の右側の車輪によるもので,本来であれば付いておかしくない左側の車輪のものはないし,スリップ痕の長さは,被告人車のブレーキの状態や道路状況等によっても変化するものであるから,一つの目安とはなるものの,前述の排気ブレーキを作動させてからフットブレーキをかけるまでの距離や時間,排気ブレーキを作動させてからこれがきき始めるまでに必要な時間等を考え併せると,スリップ痕の長さのみを根拠に,急制動時の速度や状況等を判断するのは相当ではない。 事件後,被告人車を使用してテストコースで行われ 動させてからこれがきき始めるまでに必要な時間等を考え併せると,スリップ痕の長さのみを根拠に,急制動時の速度や状況等を判断するのは相当ではない。 事件後,被告人車を使用してテストコースで行われた実況見分の結果によれば,時速約80キロメートルで走行中に急停止した場合の被告人車の制動時間は4.17秒と計測されており,本件で被告人車が時速約80キロメートルから停止するまでの所要時間の約5秒とさほど大きくは変わらない上,被告人自身も,排気ブレーキを作動させて減速したというより,排気ブレーキのスイッチが入っている状態でアクセルペダルからブレーキペダルへ踏み替えたにすぎない旨供述しているところである。また,被告人が供述するアクセルペダルを離してからフットブレーキをかけるまでの走行距離や,排気ブレーキがききはじめるには多少の時間がかかることからすると,排気ブレーキがかかっていたと思われる時間は僅かである。したがって,本件において,被告人は,比較的弱い排気ブレーキによる減速しかきいていない段階で,強力なフットブレーキによる急制動をかけたものと認められる。 そして,前記実況見分の結果によれば,A車が時速80キロメートルから急制動措置を講じた場合の制動距離は平均26.6メートル,制動時間は平均2.71秒であるのに対し,被告人車の制動距離は28.20メートル,制動時間は4.17秒であることから,A車の制動距離,制動時間は,被告人車のそれより短いことが認められる。また,被告人の公判供述や,事故直後の実況見分によれば,被告人車は,完全に停止する前にA車に追突され,衝突地点から約3.2メートル前方に停止したことが認められる。 このように,A車が被告人車を追従してきた運転状況,A車の制動距離,制動時間が被告人車のそれより短いこと,被告人車が停止する前 れ,衝突地点から約3.2メートル前方に停止したことが認められる。 このように,A車が被告人車を追従してきた運転状況,A車の制動距離,制動時間が被告人車のそれより短いこと,被告人車が停止する前にA車が追突してきたことからすると,本件衝突は,被告人が時速80キロメートル近い速度から急制動措置をとったため,車間距離を詰めて走行していたA車がこれに対応できなかったことが原因であると認めるのが合理的である。 第4 衝突に対する認識の有無以上の認定事実を前提に,衝突に対する被告人の認識について検討する。 1 急制動措置直前のA車の走行位置に対する被告人の認識についてこの点,被告人は,急制動措置直前にA車を確認したか覚えていないが,衝突地点に至る直線道路に入った時,A車は対向車線上を走行していた旨供述し,A車が自車と同一車線の後方にいたことの認識がなかったことの根拠としている。確かに,カーブを過ぎ,直線道路に入ったことから,A車が追越しを始めようと対向車線に進入した可能性は十分考えられるところであるが,その後,被告人は,自分で再び加速してAに追越しを断念させようとしたのであり,また,それまでのd協同組合生コン工場付近から約1.2キロメートルの間においても,A車は,対向車線にはみ出したりしても,また走行車線に戻って走行するといったことを繰り返してきており,そのことは被告人もわかっていたのであるから,急制動の際においても,A車が走行車線上を走行している蓋然性が高いことは,十分把握していたと認められる。 2 急制動直前のA車との車間距離に対する被告人の認識について前記認定のとおり,被告人は,A車がそれまで十分な車間距離もとらずに被告人車に追従するように走行していたのを認識していたのであるから,前記加速後においてもA車がこれに合わ 被告人の認識について前記認定のとおり,被告人は,A車がそれまで十分な車間距離もとらずに被告人車に追従するように走行していたのを認識していたのであるから,前記加速後においてもA車がこれに合わせて加速し,その後も同程度の車間距離で追従していることを十分予測していたものと認められる。 3 傷害の故意について以上からすると,被告人は,急制動時,A車が被告人車の後方を急停止に必要な車間距離を空けずに同程度の速度で走行してることを予測しながら,時速約80キロメートルから突如急停止したことが認められる。このような状況で急停止すれば,被告人車後部にA車が衝突し,それにより,Aにも何らかの傷害を負わせる事態になるかもしれないことを,被告人は認識していたと認められるから,それにもかかわらずあえて実行に及んだ被告人には,少なくとも傷害についての未必的故意があったことは明らかというべきである。 なお,Aに文句を言うために,急制動の措置を講じて停止したにすぎず,衝突することは予想していなかったという被告人の当公判廷における弁解は,前記認定事実と全く整合しない上,被告人自身,事故当初からそのような弁解をしていなかった理由を合理的に説明できておらず,また,文句を言おうとしていたにもかかわらず,A車両に乗っている人物,人数等には全く関心を持っていなかったと述べていることなど不自然かつ不可解であり,およそ信用できるものではない。 4 殺意の有無についてそこで次に,被告人にはAに対する傷害の意思に留まらず殺意があったとまで認定することができるか否かについて検討する。 この点,検察官は,急制動措置を講じる際,被告人には未必の殺意が形成されていた旨主張する。 確かに,A車が十分な車間距離をとらずに被告人車の後方を高速度で追従して走行し ついて検討する。 この点,検察官は,急制動措置を講じる際,被告人には未必の殺意が形成されていた旨主張する。 確かに,A車が十分な車間距離をとらずに被告人車の後方を高速度で追従して走行しているのを認識しながら,いきなり急制動の措置をとるというのは,両車両の車体構造等の差を考えると,それ自体,非常に危険な行為であり,Aの死亡結果についても予見可能と言えなくもないところである。しかしながら,被告人は,A車の走行位置,車間距離について正確に把握していたわけではないし,被告人車のブレーキランプが点灯すれば,車間距離を狭め追従していたAも当然に急制動措置を講じたり,追突を避けるために対向車線に出たりすることが予想されるのであるから,被告人が急制動の措置をとっても,衝突するか否か,衝突したとしてもその態様,程度,強度如何について多くの不確定要素が残っていたのであって,衝突によって死の結果を招来する蓋然性が真に高かったと認めるには合理的な疑問がある。また,被告人が急制動措置を講じたのは,A車と遭遇してから約2分後,A車が被告人車に迫って追従を開始してからは僅か1分余り後のことであり,前記第2の1の認定事実を前提とする限り,そのごく短時間のうちに,これまで全く面識のない被告人がAに対して殺意を抱くほどの事情があったとは考えにくいところであり,殺害の動機としては薄弱との感を否めない。更に,衝突直後の被告人は,逃走することも,直ちに降車してAの様子を確認することもしておらず,自車を路肩に寄せてから降車してA車を確認に行き,110番通報をし,警察官が臨場するのを待っていたのであって,未必的であっても殺意を持って本件事故を起こした者の行動としての緊張感や興奮,警察へ通報することに対する躊躇等がそれほど感じられず,これは,衝突直後の被告人が死という重 るのを待っていたのであって,未必的であっても殺意を持って本件事故を起こした者の行動としての緊張感や興奮,警察へ通報することに対する躊躇等がそれほど感じられず,これは,衝突直後の被告人が死という重大な結果の発生について念頭になかったことの現れとみることもできなくはない。 また,被告人は,逮捕直後の警察官に対する弁解録取手続の中では,「相手の車が追突するであろうということは予測できたが,死ぬだろうとは思わなかったし,望みもしませんでした」と供述し,勾留質問手続においては,「『急停止により相手が死亡する危険性が高いということを認識しながら』という点は違います。衝突してもそれほど危険性が高いとは思いませんでしたし,死んでもやむを得ないとも思っていませんでした」と述べていたのであるが,これらの供述内容は,事情を聴取する者の誘導が比較的考えにくい場における,衝突に対する認識があったという重大な不利益陳述をしながらの殺意の否認供述であるから,被告人の事故直後の率直な認識を語るものと見ることもできる。これに対し,被告人は,逮捕前の平成14年8月21日の被告人の警察官に対する供述調書,翌22日の検察官に対する弁解録取書,同日の検察官に対する供述調書においては,「Aが死んでしまうかもしれないことはわかっていた」旨の自白をしているけれども,前記のように同じ頃の警察官の弁解録取手続や勾留質問手続では殺意を否認するなど,被告人の供述状況は二転三転し,一貫性がないし,これらの自白調書は,重大事故を発生させてしまい,精神的動揺を抑えきれない状態の下で,捜査官からの理詰めの尋問に遭って反論できなかったことから自白したように録取されてしまった疑いがあり,その信用性について問題がないとは言えない。 以上述べたとおり,被告人の急制動措置は,非常に危険性の高い行 詰めの尋問に遭って反論できなかったことから自白したように録取されてしまった疑いがあり,その信用性について問題がないとは言えない。 以上述べたとおり,被告人の急制動措置は,非常に危険性の高い行為であるけれども,他方で,本件犯行は,被害者を殺害する方法としては必ずしも確度の高いものではないこと,被告人には一面識もないAに対し殺意を抱くほどの事情は特には窺えず,動機の面で疑問があること,犯行直後の被告人には事態の重大性についてよく理解していなかったのではないかと見ることのできる行動が見られること,捜査段階の自白にはその信用性に疑問の余地があることなどに鑑みると,被告人に未必の殺意があると認めるには合理的疑いを払拭できないところと言わざるを得ない。 第4 結論以上のとおり,検察官が主張する殺人の未必の故意については認められないが,前記のとおり,傷害については未必の故意が認められ,Aの死が被告人の急制動措置による衝突によって生じたことは明らかであることから,殺人の訴因より縮小された範囲内で傷害致死の事実を認定する。 (法令の適用)罰条刑法205条未決勾留日数の算入刑法21条(量刑の理由)本件は,大型ダンプカーを運転していた被告人が,そのすぐ後方を走行していた被害者運転の普通乗用自動車の運転態様に立腹し,衝突させて被害者に傷害を負わせるかも知れないが,そうなってもやむを得ないと思いつつ,急ブレーキを掛けて被告人車を停止させ,自車後部に被害車の前部を衝突させて,被害者に重傷を負わせた結果,同人を死亡させるに至ったという傷害致死の事案である。 被告人は,被害者が被告人車を追い越すかのように対向車線に出たり,車間距離を詰め,あおるように追従してきたのに憤激し,急停止させて被害者に危険 同人を死亡させるに至ったという傷害致死の事案である。 被告人は,被害者が被告人車を追い越すかのように対向車線に出たり,車間距離を詰め,あおるように追従してきたのに憤激し,急停止させて被害者に危険な思いをさせたいと考え,衝動的に本件犯行に及んだものであるが,被害者が被告人車を追従した時間は僅か1分余りのものであって,本件犯行の危険性と比すると,あまりにも無思慮かつ短絡的で,動機に酌量の余地はない。大型ダンプカーである被告人車と普通乗用自動車である被害車の総重量は7倍近い差があり,その構造や材質等からすれば,本件犯行によって,被害車のみに重大な被害を与え,被害者を負傷させることは容易に想像でき,犯行態様は誠に危険かつ悪質というほかない。被害者には,十分な車間距離をとらずに高速度で被告人車に追従して被告人を刺激し,本件を誘発したという点はあるけれども,本件被害に遭わなければならないほどの落ち度はない。本件により,被害者の生命が奪われたのであるから,生じた結果は誠に重大である。被害者は,弱冠20歳という若さで突如この世を去らなければならなかったのであるから,その無念さは察するに余りあり,また我が子に先立たれた父親の悲しみも甚大である。このような事情に照らすと,被告人の刑事責任は重いと言わなければならない。 他方で,本件は,被告人が衝動的に及んだもので計画性はなく,傷害の故意についても未必的なものに止まること,被告人は,犯行後,自ら110番通報をして,現場で警察官の臨場を待っていたこと,自己の危険な行為によって被害者を死亡させたことについては,当公判廷において,反省の弁を述べていること,遺族に対しては,自賠責保険から3000万円余りが支払われており,被告人は今後も賠償の努力をする旨述べていること,被告人の父が被害者に対する見舞いや墓参りをする 廷において,反省の弁を述べていること,遺族に対しては,自賠責保険から3000万円余りが支払われており,被告人は今後も賠償の努力をする旨述べていること,被告人の父が被害者に対する見舞いや墓参りをするなど一応の慰藉の措置を講じていること,被告人には交通罰金前科1犯があるものの他に前科はないことなど,被告人に酌むべき事情も認められる。 そこで,以上の諸事情を総合考慮して,被告人を主文の刑に処するのが相当と判断した。(求刑懲役8年)よって,主文のとおり判決する。 平成15年7月2日静岡地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官姉川博之裁判官植村幹男裁判官樋口真貴子

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