平成10(オ)1318 和議債権請求事件

裁判年月日・裁判所
平成11年3月9日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 福岡高等裁判所 平成9(ネ)551
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判決文本文4,248 文字)

主    文      原判決中、上告人の敗訴部分を破棄する。      前項の部分につき、被上告人の控訴を棄却する。      控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。          理    由  一 上告代理人萩元重喜の上告理由は、理由の不備をいうが、その実質は単なる 法令違反を主張するものであって、民訴法三一二条一項、二項に規定する事由に該 当しない。  二 職権で検討すると、本件は、和議債権者である上告人が和議債務者である被 上告人に対して和議債務の履行を求めた事件であるところ、原審の適法に確定した 事実関係の概要及び本件訴訟の経過は、次のとおりである。  1 被上告人は、平成元年一一月三〇日ころ、上告人に対し、コンクリートポン プ車一台を代金二二六八万三一一八円、同二年一月から同六年一二月まで毎月末日 限り三七万八四〇〇円ずつ(最終回は三五万七五一八円)の割賦払、遅延損害金日 歩一〇銭の約定で割賦販売した。  2 被上告人は、平成三年一二月一八日、本件約束手形二通(手形金額合計一四 三九万九三一六円、満期日同四年六月五日)を振り出して上告人に交付した。  3 被上告人は、平成四年五月八日、福岡地方裁判所に和議開始の申立てをし、 同年一一月二日に和議開始決定がされた。  福岡地方裁判所は、平成五年四月二八日、(1)和議債権者は、和議債権元本の 五〇パーセント及び利息、損害金の全額を免除する、(2)被上告人は、右免除後 の残元本を、和議認可決定確定の日の一年後を第一回として毎年一〇分の一ずつ分 割弁済する、という内容の和議条件で和議認可決定をし、右和議認可決定は同年六 月五日に確定した。 - 1 -  4 被上告人は、平成七年一一月一六日、上告人に対し、本件約束手形金債務の うち六五万五〇七五円を弁済するとともに、同元年一一月ころの売買契約に基づく ホース等 同年六 月五日に確定した。 - 1 -  4 被上告人は、平成七年一一月一六日、上告人に対し、本件約束手形金債務の うち六五万五〇七五円を弁済するとともに、同元年一一月ころの売買契約に基づく ホース等の売買代金債権六万四八九〇円を自働債権として本件約束手形金債権と相 殺する旨の意思表示をした。  5 上告人は、平成八年六月一〇日、本件訴訟を提起し、被上告人に対し、和議 債権である本件約束手形金債権につき和議条件に基づく履行を求めるとして、次の 各金員の支払を求めた。  (一) 一五〇万四八二〇円(弁済期到来分合計二一五万九八九五円から前記4 の弁済額を控除した残額)及びこれに対する平成八年六月二五日(訴状送達の日の 翌日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金  (二) 平成九年から同一五年まで毎年六月五日限り各七一万九九六五円  6 被上告人は、平成八年一〇月八日、 前記1の割賦販売契約に基づく同四年 五月分から同五年四月分までの割賦代金債権合計四五四万〇八〇〇円(以下「本件 割賦代金債権」という。)を自働債権として、和議条件による変更後の本件約束手 形金債権と相殺する旨の意思表示をした。  7 上告人は、平成九年一月二一日、本件約束手形金債権一四三九万九三一六円 (和議条件による変更前のもの)を自働債権として本件割賦代金債権と相殺する旨 の意思表示をした。そして、右相殺後の本件約束手形金債権は九八五万八一四三円 であり、右債権につき和議条件に基づく履行を求めるとして、請求の趣旨を次のと おり減縮した。  (一) 八二万三六四六円(弁済期到来分合計一四七万八七二一円から前記4の 弁済額を控除した残額)及びこれに対する平成八年六月二五日から支払済みまで年 五分の割合による遅延損害金  (二) 平成九年から同一五年まで毎年六月五日限り各四九万二九〇七円 - 2 -  三 前記4の 弁済額を控除した残額)及びこれに対する平成八年六月二五日から支払済みまで年 五分の割合による遅延損害金  (二) 平成九年から同一五年まで毎年六月五日限り各四九万二九〇七円 - 2 -  三 第一審は、上告人の前記二7の相殺を認め、右相殺後の残債権が和議認可決 定の確定により和議条件に従って変更された後、前記二4の弁済及び相殺により一 部消滅したとして、上告人の請求を七五万八五八五円及びこれに対する平成八年六 月二五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金並びに同九年から同一五 年まで毎年六月五日限り各四九万二八五〇円の支払を求める限度で認容した。  四 原審は、被上告人からの控訴に対し、次のとおり判断して、第一審判決を一 部変更し、上告人の請求を平成九年から同一五年まで毎年六月五日限り各四九万二 八五〇円の支払を求める限度で認容した。  1 和議債権である本件約束手形金債権は、和議認可決定の確定により、和議条 件に従って変更され、平成六年から同一五年まで毎年六月五日限り各七一万九九六 五円の支払を求める債権となった。上告人の本訴請求は、右債権の一部請求である。  2 和議条件によって期限の猶予がされて弁済期が変更された場合、和議債権者 が和議債権を自働債権として和議債務者に対する債務と相殺することは、変更後の 弁済期が到来しない限り許されないというべきであり、また、右の場合、和議債務 者が弁済期未到来の和議債権につき期限の利益を放棄した上でこれを受働債権とし て相殺することも許されないというべきである。したがって、被上告人の前記二6 の相殺は、右相殺の意思表示の時点で弁済期の到来している上告人の前記債権を受 働債権とする限度で理由がある。  五 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の とおりである。  1 和議法五条は、相殺権 の時点で弁済期の到来している上告人の前記債権を受 働債権とする限度で理由がある。  五 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の とおりである。  1 和議法五条は、相殺権の行使に関する破産法九八条の規定を準用し、和議開 始決定時において和議債権者が和議債務者に対して債務を負担する場合には和議手 続によらずに相殺権を行使することができる旨定めているところ、その趣旨は、相 殺の有する担保的機能を和議手続においても保障し、互いに債権債務を有する和議 - 3 - 債権者と和議債務者との公平を図る点にあると解される。一方、和議認可決定が確 定した場合には、和議条件に従って和議債務の免除、弁済期の猶予等の実体法上の 効力が和議債権者全員について生じることとなる(和議法五七条、破産法三二六条 一項)。しかし、前記のとおり和議手続によらない相殺権の行使が許容され、相殺 権に対して別除権に匹敵する保護が与えられていることに加え、和議手続において は、和議債権の確定や和議債務者の財産の清算が行われないため和議手続中に相殺 権を行使する機会が十分保障されているとは言い難いことをも考慮すると、和議債 権者が和議認可決定の確定前に相殺の意思表示をしなかったからといって、直ちに 和議認可決定の効力を優先させ相殺権の行使を制限することは、和議債権者にとっ て酷であり、和議債権者と和議債務者との公平を欠くものというべきである。した がって、和議債権と和議債務者の和議債権者に対する債権とが和議認可決定確定前 に既に相殺適状にあった場合には、和議債権者は、和議認可決定の確定により和議 債権が和議条件に従って変更された後においても、和議認可決定の影響を受けず、 右変前の和議債権を自働債権として和議債務者の債権と相殺することができると解 するのが相当である(大審院昭和九年(オ)第一九 債権が和議条件に従って変更された後においても、和議認可決定の影響を受けず、 右変前の和議債権を自働債権として和議債務者の債権と相殺することができると解 するのが相当である(大審院昭和九年(オ)第一九一〇号同一〇年一月一六日判決・ 民集一四巻二一頁は、右と抵触する限度において、これを変更すべきである。)。 右の理は、和議認可決定が確定した後、和議債権者の相殺の意思表示に先立って、 和議債務者が和議条件による和議債権の変更を前提として弁済や相殺をした場合に も変わるところはない。和議の条件の申出や和議の可否の判断等は、和議債権者が 相殺権を放棄したと認めるべき事情のない限り、相殺権が行使されることを前提と して行われるべきものであるから、右のように解したからといって、和議債務者に 不測の損害を与え、和議条件の履行に支障を生じるわけではない。  2 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件約束手形金債権と 本件割賦代金債権は、いずれも和議認可決定確定前に弁済期が到来し、相殺適状に - 4 - あったものと認められる。そして、本件において上告人が相殺権を放棄したと認め るべき事情は存在しないから、上告人は、和議条件による変更前の本件約束手形金 債権を自働債権として本件割賦代金債権と相殺することができるというべきである。 右と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、 本件については、原判決中上告人の敗訴部分を職権で破棄するのが相当である。そ して、前記事実関係によれば、上告人の本訴請求を前記三の限度で認容した第一審 判決は正当であるから、これに対する被上告人の控訴を棄却することとする。  よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。      最高裁判所第三小法廷          裁判長裁判官    尾   崎   行   信 に対する被上告人の控訴を棄却することとする。  よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。      最高裁判所第三小法廷          裁判長裁判官    尾   崎   行   信             裁判官    園   部   逸   夫             裁判官    千   種   秀   夫             裁判官    元   原   利   文             裁判官    金   谷   利   廣 - 5 -

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