令和6年2月13日判決言渡 令和5年(行ケ)第10054号審決取消請求事件 口頭弁論終結日令和5年12月11日判決 原告 株式会社大同機械 同訴訟代理人弁護士 窪田英一郎 同乾裕介 同今井優仁 同中岡起代子 同本阿弥友子 同鈴木佑一郎 同堀内一成 同山田康太 同古橋和可菜 同訴訟代理人弁理士 小島浩嗣 被告 ジー・オー・ピー株式会社 同訴訟代理人弁護士 小林幸夫 同弓削田博 同平田慎二 同訴訟代理人弁理士 國分孝悦 同南林薫 同栗川典幸 同関直方 同古野久美子 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 特許庁が無効2022-800005号事件について令和5年4月5日にした審決を取り消す。 請求を棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求特許庁が無効2022-800005号事件について令和5年4月5日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等⑴ 被告は、出願日を平成30年6月20日とし、発明の名称を「保護部材」とする発明について特許出願(特願2018-117200号。優先権主張(日本):平成28年8月31日(以下「本件優先日」という。))をし、令和元年6月7日、特許権の設定登録(特許第6535792号。請求項の 数7。以下、この特許を「本件特許」といい、本件特許に係る明細書を「本件明細書」という。)を受けた。(甲56)⑵ 原告は、令和4年2月4日、本件特許につき、無効審判請求をした(無効2022-800005号事件。以下「本件無効審判」という。)。(甲57) ⑶ 特許庁は、令和5年4月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月14日、原告に送達された。 ⑷ 原告は、令和5年5月12日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。 2 特許請求の範囲の記載 ⑴ 本件特許の特許請求の範囲の記載は、別紙1特許公報(特許第6535792号)の【特許請求の範囲】に記載のとおりである(以下、請求項1ないし7に記載の各発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明7」といい、これらを併せて「本件各発明」という。)。(甲56)⑵ 本件発明1を構成要件に分説すると、以下のとおりである。 1A 運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の棒状部材に対して取り付けられる保護部材であって、1B 使用者が手で掴むグリップ部と、 1を構成要件に分説すると、以下のとおりである。 1A 運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の棒状部材に対して取り付けられる保護部材であって、1B 使用者が手で掴むグリップ部と、1C 前記グリップ部の下側に位置し、前記グリップ部の外周面よりも外側に突出させて前記グリップ部を掴んだ手が周囲の物体に接触しないよう に保護する保護部と、1D 前記棒状部材が挿入される取付穴と、を有し、1E 前記取付穴に前記棒状部材が挿入される方向から見て、前記保護部は、略円形である1F ことを特徴とする保護部材。 ⑶ 本件発明2は、本件発明1の上記構成要件を全て含むものである。 本件発明3は、本件発明1の上記構成要件のうち、1Eを「前記保護部は、円板状である。」に変更したものである(以下、この構成要件を「2E」という。)。 本件発明4ないし7は、その内容によれば、本件発明1の構成要件(1A ないし1F)を全て含むか、又は本件発明3の構成要件(1Aないし1D、2E及び1F)を全て含むものである。 3 本件無効審判で主張された無効理由原告は、本件無効審判において、次の無効理由を主張した。 ⑴ 無効理由1 本件発明1ないし3、5ないし7は、甲8の1ないし3(弁護士照会に対 する長岡産業株式会社(以下「長岡産業」という。)の回答書、及びその添付資料である長岡産業作成のパンフレット)により示された発明であるから、特許法29条1項1号又は2号の規定により特許を受けることができない。 本件発明4は、甲8の1ないし3により示された発明(主たる証拠)と、甲11、13ないし16に記載された技術的事項(従たる証拠)とに基づい て、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項 の1ないし3により示された発明(主たる証拠)と、甲11、13ないし16に記載された技術的事項(従たる証拠)とに基づい て、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 ⑵ 無効理由2本件発明1ないし3、5ないし7は、甲8の1ないし3により示された発明(主たる証拠)と、甲1(特開平11-342848号公報)、甲9の1(「安 全スタッフ」平成28年2月1日号(通巻第2251号)、労働新聞社、32~36頁)、甲9の2(「【特集2】侮るなかれ!台車作業11のリスク運搬作業時のケガを防ぐにはその①‐災害分析編‐」と題するウェブサイト上の記事、労働新聞社)、甲10の1(「安全スタッフ」平成28年2月15日号(通巻2252号)、労働新聞社、26~30頁)、甲10の2(「【特集2】 侮るなかれ!台車作業11のリスク運搬作業時のケガを防ぐにはその②‐災害事例編‐」と題するウェブサイト上の記事、労働新聞社)、甲11(特開2001-233218号公報)及び甲12(意匠登録第1399969号公報)にそれぞれ記載された技術的事項(従たる証拠)とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の 規定により特許を受けることができない。 本件発明4は、甲8の1ないし3により示された発明(主たる証拠)と、甲1、9ないし12に記載された技術的事項(従たる証拠)と、甲11、13ないし16に記載された技術的事項(従たる証拠)とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定 により特許を受けることができない。 ⑶ 無効理由3本件発明1ないし3、5ないし7は、甲9に記載された発明 が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定 により特許を受けることができない。 ⑶ 無効理由3本件発明1ないし3、5ないし7は、甲9に記載された発明(以下「甲9発明」という。)又は甲10に記載された発明(以下「甲10発明」という。)(主たる証拠)と、甲8の1ないし3により示された発明(以下「甲8発明」という。)又は甲3の1(「安全スタッフ」平成28年3月1日号(通巻第2 253号)、労働新聞社、32~38頁)、甲3の2(「【特集2】侮るなかれ! 台車作業11のリスク運搬作業時のケガを防ぐにはその③‐解決編‐」と題するウェブサイト上の記事、労働新聞社)に記載された発明(以下「甲3発明」という。)(従たる証拠)とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受ける ことができない。 本件発明4は、甲9発明又は甲10発明(主たる証拠)と、甲8発明又は甲3発明(従たる証拠)と、甲11、13ないし16に記載された技術的事項(従たる証拠)とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 ⑷ 無効理由4本件発明1ないし3、5ないし7は、甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)であるから、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができない。 本件発明4は、甲1発明(主たる証拠)と、甲11、13ないし16に記 載された技術的事項(従たる証拠)とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 ⑸ 無効理由5本件特許の請求項1及び3の「周囲の物体」と る証拠)とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 ⑸ 無効理由5本件特許の請求項1及び3の「周囲の物体」との記載は、特許法36条6 項2号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1ないし7について の特許は同法123条1項4号に該当する。 4 本件審決の理由等⑴ 本件審決の理由は、別紙2審決書(写し)記載のとおりであり、原告の主張に対する判断の要旨は次のとおりである。 ア無効理由1について 本件発明1と甲8発明との相違点(後記⑵ア(イ)の相違点1ないし3)は実質的な相違点であるから、本件発明1と甲8発明は同一でない。 本件発明2ないし7と甲8との間にも、本件発明1の場合と甲8との相違点の全て又はその一部の相違点が存在するから、本件発明2、3、5ないし7と甲8発明は同一でなく、本件発明4は甲8発明及び甲1、9ない し12の技術的事項等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ無効理由2について本件各発明は、甲8発明及び甲1、9ないし12の技術的事項等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ無効理由3について本件各発明は、甲9発明又は甲10発明及び甲8発明又は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ無効理由4について本件各発明と甲1発明との相違点は実質的な相違点であるから、本件各 発明と甲1発明は同一でない。 オ無効理由5について本件特許の請求項1ないし7の記載が不明確であるとはいえない。 ⑵ 本件審決は、上記判断をするに当たり、甲8発明、甲9発明、甲10発明、甲3発明及び甲1発明の 一でない。 オ無効理由5について本件特許の請求項1ないし7の記載が不明確であるとはいえない。 ⑵ 本件審決は、上記判断をするに当たり、甲8発明、甲9発明、甲10発明、甲3発明及び甲1発明の各内容、本件発明1と甲8発明との一致点及び相違 点並びに本件発明1と甲9発明及び甲10発明との一致点及び相違点を、次 のとおり認定した。 ア甲8発明(ア) 本件審決は、甲8で示される長岡産業製の商品は、①商品名「台車安全カバーおててまもるくん」(甲8の1添付資料1)、②商品名「台車用安全カバーおててまもるくん」(甲8の1添付資料2)、及び③ 商品名「パイプカバー(安全カバー)」(甲8の1の回答12)の三つであるところ、このうち無効理由1ないし3に係る、甲8の1ないし3により示された長岡産業製「台車用安全カバー」とは、上記②及び③が該当するとした上で、上記②の商品の構成について、次の発明を認定することができるとした。 「台車に固定され、グリップ部である水平部分と、水平部分の両端から延びるカーブ部分と、水平部分の両端からカーブ部分を介して下向きに延びる上下方向に沿った部分と、を有する、コ字状のハンドルのカーブ部分に対して取り付けられる台車用安全カバーであって、寸法を外径106mm、内径26mm、長さ100mm及び厚み40 mmとし、グリップ部を掴んだ手が周囲の物体に接触しないようにする本体と、本体の外周部からスリットを通じてハンドルが挿入される取付穴と、を有し、本体の外周部からスリットを通じてハンドルが挿入される方向と直交 する方向であって、取付穴を向く方向から見て、本体は、略円形である台車用安全カバー。」(イ) 本件審決が認定した、本件発明1と甲8発明との一致点及び相違点は ハンドルが挿入される方向と直交 する方向であって、取付穴を向く方向から見て、本体は、略円形である台車用安全カバー。」(イ) 本件審決が認定した、本件発明1と甲8発明との一致点及び相違点は次のとおりである(以下、本件審決が認定した本件発明1と甲8発明との一致点を「甲8一致点」といい、相違点として認定した次の相違点1 ないし3をそれぞれ「甲8相違点1」ないし「甲8相違点3」という。)。 〔一致点〕「運搬台車に固定される手押部材に対して取り付けられる保護部材であって、手が周囲の物体に接触しないように保護する保護部と、前記手押部材が挿入される取付穴と、を有する保護部材。」 である点。 〔相違点〕(相違点1)本件発明1は、「保護部材」が「使用者が手で掴むグリップ部」を有し、「保護部」が「前記グリップ部の下側に位置し、前記グリップ部の外周 面よりも外側に突出させて前記グリップ部を掴んだ手」を保護するのに対して、甲8発明は、「グリップ部」は「ハンドル」の一部であり、「台車用安全カバー」が有するものではなく、「本体」が「寸法を外径106mm、内径26mm、長さ100mm及び厚み40mmとし、グリップ部を掴んだ手が周囲の物体に接触しないようにする」点。 (相違点2)本件発明1の保護部は、「前記取付穴に前記棒状部材が挿入される方向から見て」「略円形である」のに対して、甲8発明の本体は、「本体の外周部からスリットを通じてハンドルが挿入される方向と直交する方向であって、取付穴を向く方向から見て」「略円形である」点。 (相違点3)本件発明1は、手押部材が「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の棒状部材」であるのに対して、甲8発明は、手押部材が「コ を向く方向から見て」「略円形である」点。 (相違点3)本件発明1は、手押部材が「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の棒状部材」であるのに対して、甲8発明は、手押部材が「コ字状のハンドル」であって、かつ、「台車の挿入孔に挿入される」ものか不明である点。 イ甲9発明及び甲10発明 (ア) 本件審決は、甲9及び甲10には次の発明が記載されていると認定した(甲9に記載された発明及び甲10に記載された発明として同一の内容のものを認定している。)。 「台車の直方体の枠状フレームにおける、台車の四隅に位置する上下方向に沿った長尺状の部材であって、 使用者が手で掴むことができる部分を有する、長尺状の部材。」(イ) 本件審決が認定した、本件発明1と甲9発明との一致点及び相違点は次のとおりである(本件発明1と甲10発明との一致点及び相違点も、次の一致点及び相違点と同一ということになる。以下、本件審決が認定した本件発明1と甲9発明との一致点を「甲9一致点」といい、相違点 として認定した次の相違点1ないし3をそれぞれ「甲9相違点1」ないし「甲9相違点3」という。)。 〔一致点〕「運搬台車の4隅に位置する部材であって、使用者が手で掴むことができるグリップ部を有する部材。」 である点。 〔相違点〕(相違点1)「運搬台車の4隅に位置する部材」が、本件発明1では、「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の棒状部材に対して取り付け られる保護部材」であるのに対し、甲9発明では、「台車の直方体の枠状フレームにおける、台車の四隅に位置する上下方向に沿った長尺状の部材」である点。 (相違点2)本件発明1は、「保護部材」が「使用者が手で掴むグリップ部 対し、甲9発明では、「台車の直方体の枠状フレームにおける、台車の四隅に位置する上下方向に沿った長尺状の部材」である点。 (相違点2)本件発明1は、「保護部材」が「使用者が手で掴むグリップ部」を有 し、「前記グリップ部の下側に位置し、前記グリップ部の外周面よりも 外側に突出させて前記グリップ部を掴んだ手が周囲の物体に接触しないように保護する保護部」を有するのに対し、甲9発明は、「使用者が手で掴むことができる部分」が「上下方向に沿った長尺状の部材」の一部であり、「保護部」を有しない点。 (相違点3) 本件発明1は、「前記棒状部材が挿入される取付穴」を有し、「前記取付穴に前記棒状部材が挿入される方向から見て、前記保護部は、略円形である」のに対し、甲9発明は、「保護部」のほかに「取付穴」も有しない点。 ウ甲3発明 本件審決が認定した甲3発明は、次のとおりである。 「手押台車に固定されたコ字状のパイプと、一対の鍔状ガードとを有する、手押部材であって、コ字状のパイプは、水平方向に沿った取っ手と、取っ手の両端から下向きに延びる上下方向に沿った支柱とからなり、一対の鍔状ガードは、上下に分割する樹脂製のパーツで構成され、水平方向に沿っ た取っ手における、台車幅を超えない位置に装着されるとともに、外径寸法を100mmとし、台車の取っ手を持つ位置を表示し、かつ、取っ手を掴んだ両手が周囲の物体に接触しないようにガードするものである、手押部材。」エ甲1発明 本件審決が認定した甲1発明は、次のとおりである。 「荷物運搬用の手押し車に固定され、水平方向に沿った手押し部4aと、水平方向に沿った手押し部4aの両端から下向きに延びる上下方向に沿った立ち上がり部4bと、を有するコ字状のパイプからなる である。 「荷物運搬用の手押し車に固定され、水平方向に沿った手押し部4aと、水平方向に沿った手押し部4aの両端から下向きに延びる上下方向に沿った立ち上がり部4bと、を有するコ字状のパイプからなる手押しハンドル4の上下方向に沿った立ち上がり部4bの上部に対して取り付けられ る衝撃緩衝用部材であって、 通路の側壁等との衝突を緩衝する本体1と、本体1の側部から切欠部2を通じて立ち上がり部4bが挿入される係止孔1aと、を有し、本体1の側部から切欠部2を通じて立ち上がり部4bが挿入される方向と直交する方向であって、係止孔1aを向く方向から見て、本体1は、 略円形である衝撃緩衝用部材。」 5 原告の主張する本件審決の取消事由⑴ 取消事由1無効理由2に係る進歩性判断の誤り⑵ 取消事由2 無効理由3に係る進歩性判断の誤り第3 当事者の主張 1 取消事由1(無効理由2に係る進歩性判断の誤り)について〔原告の主張〕⑴ 甲8発明の認定の誤り 甲8発明について、本件審決は、前記第2の4⑵ア(ア)のとおり認定した。 しかし、甲8発明の台車用安全カバーは、カーブ部分に取り付けられるように特化した形状とはなっておらず、特に、孔もカーブ部分に沿って曲がった形状とはなっておらず、直線の棒にも構造上装着可能であった。甲8発明の台車用安全カバーは、甲8の3ではコ字状のハンドルに対して取り付けら れているが、コ字状のハンドルのカーブ部分に対してのみ取り付け可能な製品ではないから、本件審決が、これを「コ字状のハンドルのカーブ部分に対して取り付けられる台車用安全カバー」であると認定したことは誤りである。 長岡産業の代表取締役も、甲8発明の台車用安全カバーについて、カーブ部分に装着することに特化した形状 のハンドルのカーブ部分に対して取り付けられる台車用安全カバー」であると認定したことは誤りである。 長岡産業の代表取締役も、甲8発明の台車用安全カバーについて、カーブ部分に装着することに特化した形状(特に、孔の形状)となっているのではな く、曲がっていない直線の棒にも装着可能なものであったと述べている(甲 53)。甲8の3に「3.完成」として掲載された写真は、カーブよりも少し下側に付けられたものとなっている。 このように甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルの垂直部分に取り付けることができるから、同様に、コ字状のハンドルではない台車(例えば、甲11ないし13のような台車)の手押し部材の垂直部分にも取り付 けが可能であり、この垂直部分に装着された場合でも、手を保護するのに必要な厚みを有しており、円形状の本体部分により手挟みを防止することができる。 そして、甲8発明の台車用安全カバーに接した当業者は、これが曲がっていない直線の棒にも装着可能であることを理解したといえる。 このように、甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルを含むがそれに限定されないハンドルを握った手が挟まれるのを防止するという課題を解決できるものである。 ⑵ 甲8発明と本件発明1との相違点の認定の誤り本件審決は、甲8発明と本件発明1との相違点を甲8相違点1ないし甲8 相違点3のとおり認定した(前記第2の4⑵ア(イ))。しかし、次のアないしウのとおり、甲8相違点2及び甲8相違点3の認定には誤りがある。 ア前記⑴のとおり、本件審決が、甲8発明の台車用安全カバーは「コ字状のハンドルのカーブ部分(のみ)に対して取り付けられる台車用安全カバー」であると認定したことは誤りである。したがって、甲8相違点3のう ち、「甲8発 決が、甲8発明の台車用安全カバーは「コ字状のハンドルのカーブ部分(のみ)に対して取り付けられる台車用安全カバー」であると認定したことは誤りである。したがって、甲8相違点3のう ち、「甲8発明は、手押部材が『コ字状のハンドル』であって、かつ、『台車の挿入孔に挿入される』ものか不明である点。」とあるのは「手押部材が棒状部材かどうか不明であり、かつ、台車の挿入孔に挿入されるものか不明である点」と認定されるべきものである。 イ本件発明1の構成要件1Aの「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入 される長尺の棒状部材」は、棒状部材(他の装置)の構造、機能等を特定 するものであり、保護部材の構造、機能等を特定するものではないことは、その記載からも明らかである。 すなわち、本件各発明が解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0004】にあるとおり、「手押し棒を用いて運搬台車を移動させる際には、手押し棒を掴んでいる(握っている)使用者の手が壁等といった周辺に存 在する物体に接触する虞がある」との点にある。そして、当該課題に対し、グリップ部の外周面よりも外側に突出させた保護部を設けること(構成要件1C)を解決手段としたのが、本件各発明である。 コ字状や逆U字型の台車であろうと、甲9、甲10のような台車であろうと、「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の」棒状部材で あろうと、上記課題が共通して妥当することになる。したがって、「手押し棒を用いて運搬台車を移動させる際には、手押し棒を掴んでいる(握っている)使用者の手が壁等といった周辺に存在する物体に接触する虞がある」という本件各発明の課題は、「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の」ものであることとは関係がない。 そのため、本件各発明の課 が壁等といった周辺に存在する物体に接触する虞がある」という本件各発明の課題は、「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の」ものであることとは関係がない。 そのため、本件各発明の課 題との関係で「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の」と規定することは、特に意味を有しない。 また、当該課題を解決する手段としての保護部材(保護部)に関しても、「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の」ものであるということが、保護部の構造、形状や機能に影響を与えたり、これを変化させ たりするようなものではない。つまり、「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の」との点は、課題の解決手段にも関係しない。 したがって、本件審決の甲8相違点3の認定は誤りである。 ウ構成要件1Eの「前記取付穴に前記棒状部材が挿入される方向から見て」略円形との部分は、取付穴の構造が略円形であること以上に、保護部材の 構造を特定するものではない。 そもそも本件発明1は、「保護部材」という「物」の発明であり、「取付穴に棒状部材が挿入される」とは、棒状部材が挿入された状態の取付穴に言及するものであり、取り付ける動作自体が要件とされているものではない。取付け方法が異なっていたとしても、本件発明1であろうと甲8発明であろうと、いずれも取り付けられた状態では、取付穴にハンドル(棒状 部材)が挿入された状態になる。そして、その状態において、本件発明1及び甲8発明における「挿入される方向から見」た場合というのは、いずれも取付穴の向いている方向であるという点で一致するのであり、その結果として、当該視点から見た保護部材は、いずれも同じ略円形であることになる。そのため、取り付ける動作の差異があろうとも、かかる点は相違 点 いている方向であるという点で一致するのであり、その結果として、当該視点から見た保護部材は、いずれも同じ略円形であることになる。そのため、取り付ける動作の差異があろうとも、かかる点は相違 点にはなり得ない。 したがって、本件審決の甲8相違点2の認定は誤りである。 ⑶ 容易想到性に関する判断の誤りア本件審決は、「甲8発明にグリップ部を付加しても本件発明1の構成に至らない」と判断している。しかし、甲8の3に例示された台車において も、甲8発明の本体を、コ字状のハンドルの垂直部分に取り付けその近傍を把持した場合には、保護部はグリップ部に対して下側に位置することになるのであり、それは単なる個々人の持ち方の問題にすぎない。そもそも、原告が審判手続において主張した無効理由2は、甲8の3に例示された台車のハンドルの水平部分を覆うようにグリップ部を付加するというより、 甲8発明の台車用安全カバーに対し、甲11ないし13等のような周知の台車を適用するに際して台車分野において極めてよく知られた周知のグリップ部を一体で付加するというものであるから、「甲8発明にグリップ部を付加しても」という審決の判断の前提自体が誤っている。 また、台車の手押部材とは別の部材のグリップ部を設けることは、本件 発明の課題とは関係のない付加的な構成に過ぎず、当業者に極めてよく知 られた周知慣用技術であった(甲11、13~16、37~41、43)。 そのため、甲8発明において、このようなグリップ部を採用することは容易であり、その際にグリップ部と保護部を一体のものとして採用することは、周知の構成であって(甲14、37~41、43)、甲8発明においてグリップ部と保護部を一体に構成することに何ら困難性はない。本件審決 が、甲8発明の台車用安 部を一体のものとして採用することは、周知の構成であって(甲14、37~41、43)、甲8発明においてグリップ部と保護部を一体に構成することに何ら困難性はない。本件審決 が、甲8発明の台車用安全カバーに更にグリップ部を付加する動機がないとか、甲8発明と周知技術のグリップ部は取付位置が異なると判断したのは、「甲8発明の台車用安全カバーはコ字状のハンドルのカーブ部分に取り付けられるもの」であるとの認定を前提としているが、この認定が誤りであるのは前記⑴のとおりであり、同認定を前提とした本件審決の上記判 断も誤りである。 したがって、本件審決の甲8相違点1に係る容易想到性の判断は誤りである。 イ甲8相違点2について容易想到性を否定した本件審決の判断は、甲8発明の台車用安全カバーの取り付け対象が「コ字状のハンドル」だけに限定 されることを前提としているが、この前提が誤りであることは前記⑴のとおりである。 また、本件発明1の課題はグリップを握った手が壁等に挟まれることを防止するためにグリップの外周面よりも外側に突出させた保護部を設けることにあり、その取り付け方にあるのではない。本件発明1も「物」と して構成を特定するものであり、棒状部材の「上端」から保護部材を挿入することは規定されていない。「前記取付穴に前記棒状部材が挿入される方向から見て、前記保護部は、略円形である」との要件は、棒状部材に取り付けられた保護部が円形であることを規定するものに過ぎず、その取り付け方に本件発明1の課題に対する作用効果があるものではなく、この点 は実質的な相違点ではないし、進歩性を基礎付けるような相違点とはなら ない。 したがって、本件審決の甲8相違点2に係る容易想到性の判断は誤りである。 ウ本件審決における甲8 は実質的な相違点ではないし、進歩性を基礎付けるような相違点とはなら ない。 したがって、本件審決の甲8相違点2に係る容易想到性の判断は誤りである。 ウ本件審決における甲8相違点3の認定は誤っており、本来認定すべき相違点の内容は前記⑵ア及びイのとおりである。 そして、甲8発明の台車用安全カバーの取り付け対象は「コ字状のハンドル」のみに限定されるものではなく、曲がった部分のない直線の手押し部材を有する「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺状の棒状部材を有する台車」にも適用可能であるところ、台車のハンドルを握った手が挟まれるという課題はこのような台車においても発生することが 知られていた(甲9、10)。したがって、甲8発明と、甲12を含む「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の棒状部材を有する台車」とでは、台車のハンドルを握った手が挟まれるという点で解決課題が共通する。 さらに、本件優先日当時、甲3で例示されているようなコの字型ハンド ルの台車と、甲9ないし13等に例示されているような棒状・直線状の手押部材を有する台車とは、いずれも周知であり、当業者はどちらのタイプの台車も現場の状況に応じて適宜選択可能であった。そして、前記⑴のとおり、甲8の台車用安全カバーは、曲がった部分のない直線状・棒状の手押部材のサイズにも取り付け可能であった。 以上によれば、当業者は、甲8の台車用安全カバーを、コの字型ハンドルの台車に代えて、曲がった部分のない直線の手押し部材を有する周知技術の台車に適用することを容易に想到し得た。すなわち、当業者であれば、甲1、甲9ないし13のように曲がった部分のない直線の手押部材を有する台車においても手が挟まれるとの課題を認識していたのであり(甲9・ に適用することを容易に想到し得た。すなわち、当業者であれば、甲1、甲9ないし13のように曲がった部分のない直線の手押部材を有する台車においても手が挟まれるとの課題を認識していたのであり(甲9・ 甲10)、かかる台車において、甲8の台車用安全カバーを、手を握る部 分の下側に取り付けるという解決手段を容易に想到し得た。 よって、本件審決の甲8相違点3に係る容易想到性の判断は誤りである。 ⑷ 甲8発明が公知であるとも公然実施されていたともいえないとの被告の主張に対する反論被告は、請求書(甲51の3の1)と精算書(甲51の3の2)の紐付け がされていないと主張するが、請求書と精算書の紐付けに関し、一般に、入金記録においては販売先から入金が行われたことが確認できれば十分であり、商品の品番が記載されるとの習慣はない。 長岡産業代表取締役が陳述書(甲53)において述べるとおり、長岡産業は、台車用安全カバーに「おててまもるくん」の名称を付けて販売する前か ら、同一規格の「パイプカバー(安全カバー)」や外径が少し異なる「ペフ安全カバー」を販売していたのであり、これらの販売を通じて台車用安全カバー「おててまもるくん」に関する営業活動ができていたので、台車用安全カバー「おててまもるくん」の販売がカタログの作成前となったことに不自然な点はない。また、長岡産業において、カタログを作った後でなければ商 品を販売しないというルールはない。 台車用安全カバー「おててまもるくん」は、売主である長岡産業により公然と販売されていたのであるから、甲8発明は公然に実施され、また公知であった。長岡産業が、「おててまもるくん」を販売した顧客に対し、守秘義務を課す秘密保持契約等を課したことはない。 以上のとおり、長岡産業は、本件優 から、甲8発明は公然に実施され、また公知であった。長岡産業が、「おててまもるくん」を販売した顧客に対し、守秘義務を課す秘密保持契約等を課したことはない。 以上のとおり、長岡産業は、本件優先日前に台車用安全カバー「おててまもるくん」を販売し、販売の申し出を行っていたのであり、これは「公然実施」に当たる。買主が梱包をほどかない限り公知とならないということはない。 〔被告の主張〕 ⑴ 甲8発明の認定について 次のとおり、甲8発明の台車用安全カバーは、台車の直線状の部分に取り付けが可能なものではなく、カーブ部分に取り付けるためのものであるから、本件審決の甲8発明の認定に誤りはない。 ア甲8の3の「3.完成」の写真は、真横から撮影されたものではなく、斜め上から撮影された写真である。そして、台車用安全カバーの上側に見 えているのがコ字型ハンドルの水平部分であって、上記写真は、台車用安全カバーがカーブ部分に取り付けられる様子を示すものである。甲35の添付資料5を見ても、湾曲したハンドル部に装着されているものしか開示されていないことから、甲8発明の台車用安全カバーはカーブ部分に取り付けられるものであることが裏付けられる。 イ原告は、甲8発明の台車用安全カバーの製造販売者である長岡産業代表取締役の陳述書(甲53)を根拠に、甲8発明の台車用安全カバーは「コ字状のハンドル」以外の棒状の手押部材にも取り付け可能なものであった旨主張するが、上記陳述書は、甲8の2に記載された「ハンドルのカーブ部分に挟み込み、テープをはがして包むだけ!」の表記と矛盾する。仮に、 甲8の2の台車用安全カバーをカーブ部分に挟み込むことが使用の一例であれば、一例であることを甲8の2に記載すべきであるが、そのような記載はされて はがして包むだけ!」の表記と矛盾する。仮に、 甲8の2の台車用安全カバーをカーブ部分に挟み込むことが使用の一例であれば、一例であることを甲8の2に記載すべきであるが、そのような記載はされていない。上記陳述書には、お客様によっては、商品カタログで示されるカーブの下側部分よりも更に下に付けて使用するケースもあったと思います。」の陳述があるものの、想像の域を超えておらず、客観的 な証拠とはいえない。 ウ一般的な単管の直径は、JISG 3444の規格によって定められた外径48.6mmであるから、甲12等の棒状部材の外径は台車用安全カバーの内径26mmよりも遥かに大きい。したがって、内径26mmの台車用安全カバーを甲12等の棒状部材(外径48.6mm)に取り付ける という発想はあり得ない。仮にテープを強く巻き付けたとしても、ずり落 ちる危険性があるし、また、台車用安全カバーを削って内径を広げると、厚みが薄くなり、強度が落ちて破損しやすくなるため、保護部材としての機能が失われるから、当業者であればそのようなことは行わない。 エ甲8発明の台車用安全カバーは、カーブ部分に取り付けることにより斜めになり、壁と接触するときに台車用安全カバーの円柱部分の角が壁に接 触し、接触部分とハンドルを握った手との距離を100mm確保することができることから、台車用安全カバーの変形が手まで伝わらないことにより手の保護を図ることができるものである。 一方、台車用安全カバーを直線状の部分に取り付けた場合、直線状の部分の外周面から台車用安全カバーの外周面までが40mmとなり、人が物 を掴んだときの手のひらから手の甲の厚みである約42mmよりも薄いため、手が台車用安全カバーの外周面からはみ出し、手の保護を図ることができない。 全カバーの外周面までが40mmとなり、人が物 を掴んだときの手のひらから手の甲の厚みである約42mmよりも薄いため、手が台車用安全カバーの外周面からはみ出し、手の保護を図ることができない。仮に手のひらから手の甲までの厚みが40mm以下の作業者であったとしても、台車用安全カバーが壁に接触する部分と手との距離が40mmであり、台車用安全カバーの変形が手の位置まで至ってしまうた め、壁と手が接触してしまう。このように、甲8発明の台車用安全カバーを直線状の部分に取り付けた場合には手の保護を図ることができない。 ⑵ 甲8発明と本件発明1との相違点について前記⑴のとおり、本件審決が甲8発明の台車用安全カバーは「コ字状のハンドルのカーブ部分(のみ)に対して取り付けられる台車用安全カバー」で あると認定したことに誤りはないから、これを前提とする甲8発明と本件発明1との相違点に関する本件審決の認定に誤りはない。 ⑶ 容易想到性についてア前記⑴のとおり、甲8発明の台車用安全カバーは、台車の直線状の部分に取り付けが可能なものではなく、カーブ部分に取り付けるためのもので あるから、当業者であってもこれを棒状部分に取り付けることは試みない。 しかも、甲8発明の台車用安全カバーを直線の手押し部材に取り付けた場合には、手が台車用安全カバーの外周面からはみ出してしまい、手の保護を図ることができないから、むしろ阻害要因がある。 イ甲8の3の台車では、ハンドルの水平部分を握っていれば周囲の物体と手との接触は起こらないが、ハンドルのカーブ部分を握ると周囲の物体と 手との接触が生じて手挟み事故が発生する場合があるので、ハンドルのカーブ部分に甲8発明の台車用安全カバーを取り付ける。これに対し、甲12等の棒状部材は、そのどこ カーブ部分を握ると周囲の物体と 手との接触が生じて手挟み事故が発生する場合があるので、ハンドルのカーブ部分に甲8発明の台車用安全カバーを取り付ける。これに対し、甲12等の棒状部材は、そのどこを握っても周囲の物体との間で手の接触が生じる可能性がある。したがって、手挟み事故防止の観点から、ハンドルの水平部分を握っていれば安全な甲8の3のハンドルを、どこを握っても手 挟み事故の可能性がある棒状部材に置き換えるという発想はあり得ず、阻害要因がある。 ウ本件発明1は、「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の棒状部材に対して取り付けられる保護部材」という特定がされており、使用者は運搬台車の4隅に挿入される棒状部材に取り付けられた保護部材 のいずれかのグリップ部を掴んで運搬台車を走行させることができ、運搬台車の操作性を向上させることができる。そして、本件発明1は、使用者が運搬台車の後ろに立ってグリップ部を掴む場合に限らず、運搬台車のいずれの側に立って保護部材のグリップ部を掴んでも、グリップ部を掴んだ手を保護することができるという極めて顕著な効果を奏することができ る。したがって、台車の4隅の挿入孔に挿入される棒状部材という構成が周知技術であるとしても、本件発明1の課題を解決することにはならないから、甲8相違点3に係る構成は、周知技術から容易に想到できる構成ではない。 エ甲8の3の台車には既に手で掴む部分が存在するから、この台車に装着 する甲8発明の台車用安全カバーに、さらにグリップ部を取り付ける必然 性も必要性もない。したがって、甲8発明の台車用安全カバーに周知技術であるグリップ部を適用する動機付けがない。 また、甲8発明の台車用安全カバーと同様に開くような特殊な構造のグリップ部は周知事 性も必要性もない。したがって、甲8発明の台車用安全カバーに周知技術であるグリップ部を適用する動機付けがない。 また、甲8発明の台車用安全カバーと同様に開くような特殊な構造のグリップ部は周知事実のいずれにも開示されていないから、甲8発明の台車用安全カバーに周知技術のグリップ部を取り付けると、台車用安全カバー を開けなくなり、製品を開いて台車のハンドルに挟み込んで装着することができなくなるし、台車のコ字状のハンドルには端部がないので、グリップ部にハンドルを挿入することができず、結局グリップ部を取り付けることができないから、甲8発明に周知技術のグリップ部を適用することには阻害要因がある。 ⑷ 甲8発明が公知であるとも公然実施されていたともいえないことについて「台車用安全カバーおててまもるくん」の販売日を立証する証拠は、請求書(甲51の3の1)の金額と精算書(甲51の3の2)であるが、両者の金額や日付が一致するだけでは両者を客観的に紐付けすることはできず、上記請求書と精算書とは紐付されていないから、両者は同一料金の別商品に関 するものであるという疑いが残り、上記請求書と精算書からでは、「台車用安全カバーおててまもるくん」の販売日が明らかとはいえない。 また、請求書(甲51の3の1)は、平成28年8月22日の日付で「台車用安全カバーおててまもるくん」の販売代金の請求がされたことになるが、長岡産業代表取締役の陳述書(甲35)には、甲8の3のカタログ作成 は同年9月2日であるとの陳述がある(7頁)。そうすると、同年8月22日に販売された製品の構成が甲8の3のカタログの構成と同一であるとは認められず、上記製品の構成について客観的な証拠に基づく証明がされていない。 仮に、「台車用安全カバーおててまもるくん」 8月22日に販売された製品の構成が甲8の3のカタログの構成と同一であるとは認められず、上記製品の構成について客観的な証拠に基づく証明がされていない。 仮に、「台車用安全カバーおててまもるくん」の販売が平成28年8月22日とすると、本件優先日は同月31日であり、その差は9日しかない。同 月日の販売が秘密保持契約を結んだ上でのお試し販売又はモニター販売であ るとすると、「台車用安全カバーおててまもるくん」の販売日とされる同月22日には公知とならない。秘密保持契約を結んだ上での販売でなかったとしても、わずか9日(土曜、日曜を挟むので実質7日)の間に、購入者において実際に梱包が解かれ、製品が使用されたか不明である。すなわち、この9日間の間に甲8の3の製品が実際に公知の状態になったか明らかでない。 以上のとおり、「台車用安全カバーおててまもるくん」の販売日に関する客観的証拠は存在せず、どのような構成の製品が販売されていたのかも不明であるから、甲8発明が本件優先日の前に公知であり、公然実施されていたことの立証がされていない。 2 取消事由2(無効理由3に係る本件各発明の進歩性判断の誤り)について 〔原告の主張〕⑴ 甲9発明又は甲10発明と甲3発明との組合せに関する容易想到性の判断の誤りア(ア) 本件審決は、甲3は「『保護部材』が『使用者が手で掴むグリップ部』を有する構成を備えるものではない」から、甲9発明に甲3発明を適用 したとしても、甲9相違点2に係る本件発明1の構成である「保護部材」が「使用者が手で掴むグリップ部」を有する構成には至らないと判断した。 しかし、甲3発明には、使用者が手で握る部分である「緑表示」があり、これが「手で掴むグリップ」部に相当する。 甲9や甲10の長尺状 で掴むグリップ部」を有する構成には至らないと判断した。 しかし、甲3発明には、使用者が手で握る部分である「緑表示」があり、これが「手で掴むグリップ」部に相当する。 甲9や甲10の長尺状の部材に甲3の一対の鍔状のガードを取り付けた際に、持つ位置を視覚的に表示させる「緑表示」を併せて採用することも、当業者は容易に想到し得る。 甲9や甲10の台車は垂直部分を持って使用する台車であるのに対し、甲3の写真2・図3等で示される台車は水平部分のハンドルを持って使 用する台車であるという相違があるものの、当業者は、甲9や甲10の 記載から、台車を握った手が、壁のみならずその周囲に存在する物体と台車との間に手が挟まれることを理解するから、上記相違は甲3を適用することの阻害要因とならない。甲9や甲10の台車には水平の取っ手部分はないが、甲3に接した当業者であれば、甲9や甲10の台車の使用者が持つ位置に甲3の「緑表示」を採用し、その近傍に鍔状ガードを 取り付けることができたといえる。 したがって、甲9発明と甲3発明との組合せにより、甲9相違点2に係る構成に想到する。 (イ) 甲9相違点3に係る構成は、甲3発明にそもそも備わっている構成であり、前記のとおり甲9発明に甲3発明を組み合わせる動機付けがある から、この動機付けに基づいて甲9発明に甲3発明を組み合わせることで、甲9相違点3の構成に想到し得た。 また、甲12や甲33のように、上下方向に沿った長尺状の部材を、運搬台車の4隅に位置する上下方向に沿った挿入孔に挿入する構成は、台車において周知・慣用であり、甲9発明の「枠状フレーム」を運搬台 車の4隅に位置する上下方向に沿った挿入孔に挿入して構成することは当業者であれば容易に想到し得たから、甲9相違点1に係る は、台車において周知・慣用であり、甲9発明の「枠状フレーム」を運搬台 車の4隅に位置する上下方向に沿った挿入孔に挿入して構成することは当業者であれば容易に想到し得たから、甲9相違点1に係る構成も当業者が容易に想到し得た。 (ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば、甲9発明と甲3発明とを組み合わせることにより、甲9相違点1ないし3に係る構成に容易に想到する。本件審決 の判断は、持つ位置を視覚的に表示させる「緑表示」を考慮せず、そもそも本件発明1に至らないと判断している点において誤りである。この点は甲10との関係でも同様である。 イ仮に、甲3発明の「緑表示」を甲9発明と組み合わせなかったとしても、次のとおり、本件審決における甲9発明と甲3発明の組合せに関する容易 想到性の判断は誤っている。 甲3発明では、もともと、「鍔状のガード」だけではなく、手で握る部分を明示する機能を有する「緑表示」(手で握る部分であるから「グリップ部」に対応する)が存在しているから、「甲3発明は・・・グリップ部を要さない」とは言えない。むしろ、甲3発明では「鍔状のガード」のみならず、手で握る部分を明示する機能を有する「緑表示」をも存在させており、「鍔 状のガード」を使用する際には、手押部材そのもの以外に「グリップ部」をも設けることが、当然の前提とされている。 このように、甲3発明の「鍔状のガード」は手で掴む部分を明示する機能を有する部材「緑表示」と共に用いられるものである以上、甲3発明の「鍔状のガード」を甲9発明又は甲10発明の台車に適用する際に、甲3 発明が元々有していた「緑表示」を手がかりに、鍔状ガードに周知・慣用技術のグリップ部を適用するという動機付けが存在する。 したがって、甲3に接した当業者は、甲3の「緑 車に適用する際に、甲3 発明が元々有していた「緑表示」を手がかりに、鍔状ガードに周知・慣用技術のグリップ部を適用するという動機付けが存在する。 したがって、甲3に接した当業者は、甲3の「緑表示」と同様に、手で握る部分を明示する機能を有する周知のグリップ部を適宜の作業を行った上で台車に取り付けようとするはずであり、グリップ部を組み合わせよ うとする発想に至ることはないとはいえない。 本件審決は、甲9相違点2について、甲9発明に甲3発明を適用したとしても、甲9相違点2に係る本件発明1の構成である「保護部材」が「使用者が手で掴むグリップ部」を有する構成には至らないと判断したが、この判断は誤りであり、本件審決は違法として取り消されるべきである。 ⑵ 甲9発明又は甲10発明と甲8発明との組合せに関する容易想到性の判断の誤り前記1〔原告の主張〕⑴のとおり、甲8発明の台車用安全カバーはコ字状のハンドルにのみ使用される製品ではない。むしろ、甲9に、棒状の手押部材においても手挟みの危険があることが開示されている以上、甲8発明の台 車用安全カバーを、甲9における台車に対し、その課題を解決する目的で取 り付けることの動機付けがある。甲8発明の台車用安全カバーを甲9発明の台車に適用する場合において、手で掴む部分として手押部材を覆う手押部材とは別の部材のグリップ部を設けることは、本件各発明の課題とは関係のない付加的な構成に過ぎず、手押部材とは別の部材のグリップ部を設けることは当業者に極めてよく知られた周知・慣用技術であったから、当業者は当該 構成に容易に想到し得たものである。 したがって、甲9相違点2及び3に係る構成、すなわち、本件発明1が「グリップ部」、「保護部」及び「取付穴」からなる「保護部材」である点で ら、当業者は当該 構成に容易に想到し得たものである。 したがって、甲9相違点2及び3に係る構成、すなわち、本件発明1が「グリップ部」、「保護部」及び「取付穴」からなる「保護部材」である点で本件発明1と甲9発明が相違するという点は、甲9発明と甲8発明とに基づいて容易に想到し得たものである。この点は甲10発明についても同様である。 甲9相違点1については、前記⑴ア(イ)に述べたとおりである。 以上によれば、甲9発明又は甲10発明に甲8発明を適用し、その際に周知・慣用技術であるグリップ部を適用することで本件発明1の構成に至るから、甲9発明を主引例、甲8発明を副引例とする容易想到性に関する本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕⑴ 甲9発明又は甲10発明と甲3発明との組合せについてア甲3の「緑表示」は、甲3の写真や図を見る限り、ハンドルに緑の着色をしたものにすぎないと考えられ、仮に何らかの部材が巻き付けられているとしても、緑色のテープのようなものにすぎず、ハンドルと別部材のグ リップとはいえない。すなわち、甲3の「緑表示」は、鍔状のガードに設けられているものではなく、台車のコ字状のパイプの水平方向に沿った取っ手に表示されたものであり、正しい持ち手位置を表示するためのハンドルの緑色の部分にすぎないから、本件発明1のように保護部材自体に設けられるグリップ部に相当するものではない。 イ甲3の1の図3によれば、甲3の鍔状ガードの外形寸法は100mmで あり、この鍔状ガードが装着される台車の取っ手のパイプの径は34mmとされているから、取っ手のパイプの外周から鍔状ガードの半径方向外端までの長さは33mm((100mm-34mm)÷2)となる。 そうすると、前記1〔被告の主張〕⑴エのと っ手のパイプの径は34mmとされているから、取っ手のパイプの外周から鍔状ガードの半径方向外端までの長さは33mm((100mm-34mm)÷2)となる。 そうすると、前記1〔被告の主張〕⑴エのとおり、人の手のひらから手の甲までの厚みは約42mmであるから、これよりも短い33mmでは、 取っ手を掴んだ手が鍔状ガードの外端からはみ出してしまい、周囲の物体との接触から取っ手を握る手の保護を図ることができない。 上記図3には、「積荷との干渉を防止するために、支柱と取っ手間の距離を80mm以上確保する。」との記載があるが、甲3の鍔状ガードに積荷と手との接触を防止する機能があるならば、このように支柱と取っ手との間 の距離を確保する必要はなく、この記載からも、甲3の鍔状ガードに積荷と手の接触を防止する機能がないことが分かる。 つまり、甲3の鍔状ガードは、取っ手を持つ位置の末端に取り付けられ、手が取っ手を持つ位置の末端を超えて移動することを規制して手が取っ手から脱落することを防止する機能により、手指の挟まれ防止を図るもの であり、鍔状ガード自体で手と周囲の物体との接触を防止するものではない。したがって、甲3の鍔状ガードを甲9又は甲10の台車の手押部材の「手で掴むことができる部分」に適用しても、グリップ部を掴んだ手の甲(中手骨頭)が鍔状ガードの外端からはみ出してしまうため、手と周囲の物体との接触を防止することができない。 ウ甲9及び甲10には、保護部材を取り付ける示唆が全く存在しない。 甲9に関していえば、写真2ないし4の説明として、「台車は身近で扱いやすく多くの職場で使用されているが、挟んだり、ぶつけるなどの災害が繰り返し発生している」という記載があるのみである。ここから、かかる災害を防止すべく、長尺の棒状部材に保 して、「台車は身近で扱いやすく多くの職場で使用されているが、挟んだり、ぶつけるなどの災害が繰り返し発生している」という記載があるのみである。ここから、かかる災害を防止すべく、長尺の棒状部材に保護部(材)を取り付ける発想に当 然に至る示唆があるとはいえない。 また、甲10に関して、「災害の概要・・・・・作業者Aは台車を空台車レーンに入れるため、台車を後方に方向転換をした。その際に後方から来た作業者Bの台車との間で右手首をぶつけて負傷した。視点の視点・・・・・工程内を通過する運搬作業者に対して通行ルールを決め運用徹底とした(一方通行が望ましい)。」と記載されている。すなわち、台車同士の衝突 を防ぐためにはむしろ通行ルールを定めた対策をすることが示唆されており、長尺の棒状部材に対して保護部(材)を取り付けることは何ら示唆されていない。 以上のような甲9及び甲10に接した当業者において、事故防止という課題を解決するため、長尺の棒状部材に保護部材を採用するという発想に 至ることは考えられない。 エ甲3の一対の鍔状のガードは、台車のコ字状のパイプの水平方向に沿った取っ手において、これ以上左右方向に手が移動すると手挟みの危険がある位置に一対の鍔状のガードを取り付け、この一対の鍔状のガードで手の移動範囲を規制することにより、取っ手の両端やそこから下向きに延びる 支柱を握ることにより手が周囲の物体に接触するのを防止するためのものであり、鍔状ガード自体で手と周囲の物体との接触を防止するものではないから、水平の取っ手部分が存在しない甲9又は甲10に、水平の取っ手部分での手の移動範囲を規制する甲3の一対の鍔状のガードを適用する動機付けがない。 また、甲9又は甲10の長尺状の部材は上下方向にまっすぐで、 部分が存在しない甲9又は甲10に、水平の取っ手部分での手の移動範囲を規制する甲3の一対の鍔状のガードを適用する動機付けがない。 また、甲9又は甲10の長尺状の部材は上下方向にまっすぐで、長尺状の部材のどこを握っても手挟み事故の可能性があるから、この長尺状の部材に甲3の一対の鍔状のガードを取り付けて手の移動範囲を規制したとしても、甲9又は甲10では本件発明1のグリップ部のように握る位置の特定がされないから、その移動範囲内で長尺状の部材を握った位置で周辺 の物体との間の手挟みが生じる可能性がある。したがって、この点からも 甲9又は甲10に甲3を組み合わせる動機付けは存在しない。 そもそも、取っ手における手の移動範囲を規制することにより手挟みを防止する甲3の鍔状のガードと、保護部をグリップ部の外周面よりも外側に突出させてグリップ部を掴んだ手が周囲の物体に接触しないように保護することによって手挟みを防止する本件発明1の保護部材とは、その作 用、機能を全く異にし、甲3の一対の鍔状のガードを、甲9又は甲10の長尺状の部材に取り付けて手の移動範囲を規制しても、本件発明1の保護部材のような手挟み防止の機能を発揮することはできない。 加えて、甲3の鍔状ガードを甲9又は甲10に適用する場合であっても、例えば、甲3の鍔状ガードを任意の位置に取り付けたときに、作業者は身 長に応じて鍔状ガードよりも下側を掴むか上側を掴むかを決めるために、使用者の手の下側に鍔状のガードを付ける動機付けはない。 オ甲3の鍔状のガードは、上下に分割されたパーツでコ字状のハンドルの取っ手部分を上下から挟み込んで取り付けるものであるから(甲3の1の33、34頁)、甲3の鍔状のガードにグリップ部を付けると、グリップ部 が邪魔になってパーツ されたパーツでコ字状のハンドルの取っ手部分を上下から挟み込んで取り付けるものであるから(甲3の1の33、34頁)、甲3の鍔状のガードにグリップ部を付けると、グリップ部 が邪魔になってパーツを分割できなくなり、甲9又は甲10の長尺状の部材に装着することができないという阻害要因がある。 また、前記イ、エのとおり、甲3の鍔状ガードは、台車のコ字状のパイプの水平方向に沿った取っ手において、これ以上左右方向に手が移動すると手挟みの危険がある位置に一対の鍔状のガードを取り付け、手の移動範 囲を規制するためのものであり、甲3の34頁の図3には、鍔ガード(赤色エンドストッパー)は、「台車幅を超えない」とする注意書きがある。そうすると、甲9又は甲10に甲3の鍔状ガードを適用すると、上記「台車幅を超えない」との注意書きに反し、鍔状ガードが台車幅を超えて取り付けられることになりかねない。甲3に接した当業者が「台車幅を超えない」 とする注意書きに反するような使用方法を適用することはないから、この 意味においても阻害要因がある。 カ以上のとおり、甲3発明の「緑表示」はグリップ部ではないし、鍔ガードに手を接触から保護する機能はなく、甲9発明又は甲10発明に甲3発明を組み合わせる動機付けもなく、むしろ阻害要因があるから、甲9相違点2が容易想到ではないと判断した本件審決に誤りはない。 キ甲9相違点3については、甲9相違点2と同様に、甲3発明の「緑表示」はグリップ部ではないし、鍔ガードに手を接触から保護する機能はなく、甲9発明ないし甲10発明に甲3発明を組み合わせる動機付けもなく、むしろ阻害要因があるから、甲9相違点3は容易想到ではない。 甲9相違点1については、甲1、10、11、33、44、46、47 及び52には 甲10発明に甲3発明を組み合わせる動機付けもなく、むしろ阻害要因があるから、甲9相違点3は容易想到ではない。 甲9相違点1については、甲1、10、11、33、44、46、47 及び52には、台車の4隅の挿入孔に挿入される棒状部材という構成が開示されておらず、当該構成は相当多数の刊行物に開示されているものではないために周知事実とはいえない。また、この点を措くとしても、前記1〔被告の主張〕⑶ウのとおり、本件発明1によれば、運搬台車の何れの側に立って保護部材のグリップ部を掴んでも、グリップ部を掴んだ手を保護 することができるという極めて顕著な効果を奏することができるから、単に台車の4隅の挿入孔に挿入される棒状部材という構成が周知技術であるからといって、本件発明1の課題を解決することにはならず、甲9相違点1に係る構成は、周知技術から容易に想到できる構成ではない。 ⑵ 甲9発明又は甲10発明と甲8発明との組合せについて 甲8の3の台車のハンドルでは、その水平部分を握っていれば、周囲の物体との間で手の接触は生じないが、ハンドルのカーブ部分を握ると、周囲の物体との間で手の接触を生じて手挟み事故が発生する場合がある。そのため、甲8発明は、ハンドルのカーブ部分に台車用安全カバーを取り付け、手がハンドルのカーブ部分にかからないようにして、ハンドルを掴んだ手が周囲の 物体に接触しないようにするものである。 これに対し、甲9及び甲10の台車の長尺状の部材にはカーブ部分が存在しないから、甲8の3と課題の共通性がなく、甲8発明の台車用安全カバーをカーブ部分以外に取り付けても、周囲の物体から手を保護することができないから、甲8発明を甲9又は甲10に適用する動機付けがない。 第4 当裁判所の判断 1 本件各発明 明の台車用安全カバーをカーブ部分以外に取り付けても、周囲の物体から手を保護することができないから、甲8発明を甲9又は甲10に適用する動機付けがない。 第4 当裁判所の判断 1 本件各発明の技術的意義等⑴ 特許請求の範囲本件特許に係る特許請求の範囲の記載は、別紙1特許公報(特許第6535792号)の【特許請求の範囲】に記載のとおりである(前記第2の2)。 ⑵ 本件明細書及び図面の記載 本件明細書の記載は、別紙1特許公報の【発明の詳細な説明】のとおりであり、図面の記載は、別紙1特許公報の【図1】ないし【図17】のとおりである。 ⑶ 本件各発明の技術的意義上記⑴の特許請求の範囲並びに上記⑵の本件明細書及び図面の記載によ れば、本件各発明の技術的意義は次のとおりであると認められる。 ア技術分野本件各発明は、保護部材に関するものであり、特に、使用者の手に運搬台車の周辺の物体等に接触しないように保護する保護部材等に関する(段落【0001】)。 イ背景技術及び課題建設現場等で使用される運搬台車には、手押し棒として単管を挿入可能なコーナ部材が四隅部に設けられた運搬台車があり、使用者は、運搬台車の移動の際に、運搬台車の本体に差し込んだ単管を手押し棒として用いることができるが、手押し棒を用いて運搬台車を移動させる際には、手押し 棒を掴んでいる(握っている)使用者の手が壁等といった周辺に存在する 物体に接触するおそれがある。本件各発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、使用者の手が運搬台車の周辺の物体等に接触しないようにすることを目的とする(段落【0002】~【0004】)。 ウ課題を解決するための手段本件各発明は、運搬台車の四隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の棒 が運搬台車の周辺の物体等に接触しないようにすることを目的とする(段落【0002】~【0004】)。 ウ課題を解決するための手段本件各発明は、運搬台車の四隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の棒 状部材に対して取り付けられる保護部材であって、使用者が手で掴むグリップ部と、前記グリップ部の下側に位置し、前記グリップ部の外周面よりも外側に突出させて前記グリップ部を掴んだ手が周囲の物体に接触しないように保護する保護部と、前記棒状部材が挿入される取付穴と、を有し、前記取付穴に前記棒状部材が挿入される方向から見て、前記保護部は、略 円形又は円板状であることを特徴とする(段落【0005】)。 エ本件各発明の効果本件各発明によれば、使用者の手が運搬台車の周辺の物体等に接触しないようにすることができる(段落【0006】)。 2 本件各発明の要旨認定について ⑴ア本件発明1は、前記第2の2⑵のとおりの構成要件に分説することができるところ、構成要件1A及び1F並びに本件明細書の段落【0001】の記載によれば、本件発明1は「保護部材」という物の発明である。また、構成要件1A、1D及び1Eは、本件発明に係る「保護部材」を、他の装置である「長尺の棒状部材」に関する事項を用いて特定しようとするもの である。 イ構成要件1Aでは、「保護部材」が「長尺の棒状部材に対して取り付けられる」ことが特定されている。「棒」の辞書・辞典に掲載された意味は、「①手に持てるほどの細長い木・竹・金属などの称。④一直線であること。単調で変化に乏しいこと。」(広辞苑第5版。甲42)、「㊀手に持てるほどの 細長い木・竹・金属など。また、細長いものの総称。㊃描いた線。直線。」 (新装改訂新潮国語辞典。甲70)、「①手に持てるくらいの細 。」(広辞苑第5版。甲42)、「㊀手に持てるほどの 細長い木・竹・金属など。また、細長いものの総称。㊃描いた線。直線。」 (新装改訂新潮国語辞典。甲70)、「①手に持てるくらいの細長い木・金属・竹など。②まっすぐに引いた線。」(辞林21。甲72)、「①(手で握れ、肩に担げるほどの)細長い直線状の木(竹・金属など)」(新明解国語辞典第6版。乙1)といった内容である。 上記のとおりである「棒」の通常の意義を踏まえると、構成要件1Aに おいて、「保護部材」は、手で持てる程度の細長い部材に対して取り付けられることが特定されており、保護部材の用途が特定されているといえる。 また、長尺の棒状部材は「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される」ものであるとされているから、長尺の棒状部材の太さや長さが、運搬台車の挿入孔に挿入されるものとして通常想定される程度であることが特定 されている。 「棒」の辞書における意義によれば、細長い直線状の物を意味する場合と、直線状か否かを問わず細長い物を意味する場合があるが、本件発明1で「保護部材」を特定する「棒状部材」は、「長尺の」ものとされている。 また、本件明細書において記載された本件各発明の実施形態及びこれらの 実施形態に関する図面では、「棒状部材」はいずれも直線のものとなっており、直線上の部材を「長尺状」の部材と記載しているものがあって(段落【0013】、【0014】、【0034】、【図5】、【図7】等)、これらのことからすると、本件発明1における「長尺の棒状部材」は、直線の細長い部材を指すものと認められ、当業者も本件明細書及び図面の記載からこれ を認識することができるといえる。 ウ構成要件1Cにおける「前記グリップ部」とは、構成要件1Bにおいて「使用者が手で掴む」 材を指すものと認められ、当業者も本件明細書及び図面の記載からこれ を認識することができるといえる。 ウ構成要件1Cにおける「前記グリップ部」とは、構成要件1Bにおいて「使用者が手で掴む」ものと特定されるものであるが、構成要件1Cは、「保護部」が、当該使用者が手で掴むグリップ部の下側に位置すると特定している。構成要件1Aの特定も踏まえると、保護部材が長尺の棒状部材 の垂直方向に沿って取り付けられた場合においてグリップ部の下側に保 護部材が存在することが特定されていると認められる。また、構成要件1Cでは、「保護部」が、グリップ部を掴んだ手が周囲の物体に接触しない程度にグリップ部の外周面から外側に突出していることが特定されていることも認められる。 エ構成要件1Dにおける「前記棒状部材」は、構成要件1Aにおいて特定 されるものである。そして、構成要件1Dでは、保護部材の一部を構成する「取付穴」が、構成要件1Aで特定される「棒状部材」が挿入されるものであるとされており、「保護部材」に、直線状の棒状部材が差し込まれる穴あるいはくぼみが存在することが特定されていると認められる。 オ構成要件1Eにおける「前記保護部」は、構成要件1Cにおいて特定さ れるものである。そして、構成要件1Eは、構成要件1Aで特定される「棒状部材」が構成要件1Dで特定される取付穴に差し入れられる方向という視点の特定によって、「保護部」の形状が略円形であることを特定するものであると認められる。 ⑵ 本件発明2ないし本件発明7の構成要件は前記第2の2⑶のとおりであり、 本件発明3は本件発明1の構成要件1Eが2E「前記保護部は、円板状である。」に変わっている。 構成要件2Eの「前記保護部」は、構成要件1Cにおいて特定されるもので 2の2⑶のとおりであり、 本件発明3は本件発明1の構成要件1Eが2E「前記保護部は、円板状である。」に変わっている。 構成要件2Eの「前記保護部」は、構成要件1Cにおいて特定されるものであり、保護部の形状が円板状であることを特定するものである。 3 取消事由1(無効理由2に係る進歩性判断の誤り)について ⑴ 甲8発明の認定についてア証拠(甲8の1~3、35、51の3の1・2)によれば、次の事実が認められる。 (ア) 長岡産業は、平成26年2月26日に「パイプカバー(安全カバー)」という名称の台車用安全カバー(前記第2の4⑵ア(ア)の③。以下「甲8 商品3」という。)の販売を開始した。 (イ) 長岡産業は、平成28年8月22日、「台車用安全カバーおててまもるくん」という名称の台車用安全カバー(前記第2の4⑵ア(ア)の②。以下「甲8商品2」という。)の販売を開始した。 甲8商品2は、寸法を外径106mm、内径26mm、長さ100mm、厚み40mmとした本体を有し、本体の外周部にはスリットがあっ て、このスリットを通じてハンドルが挿入される取付穴を有しており、本体の外周部からスリットを通じてハンドルが挿入される方向と直交する方向であって、取付穴を向く方向から見て、本体は略円形である。甲8商品2の本体部分は発泡ポリエチレン素材であり、塩化ビニルのシートが外周に巻かれている。 甲8商品2のパンフレット(甲8の3)には、商品の写真が掲載されているほか、その下に、まず、「Before」として台車のコ字状のハンドルを持つ手が周囲の物体に接触して手が挟まれた状態の写真が、次に、「装着」として台車のハンドルに甲8商品2を装着している状態の写真が、さらに、「After」として台車のコ字状のハンド コ字状のハンドルを持つ手が周囲の物体に接触して手が挟まれた状態の写真が、次に、「装着」として台車のハンドルに甲8商品2を装着している状態の写真が、さらに、「After」として台車のコ字状のハンドルのカーブ部分に甲8商 品2が装着され、甲8商品2の上部にハンドルを持つ手が置かれている写真が、それぞれ掲載されている。また、「簡単に取付できます!!」との見出しの下に甲8商品2の装着方法に関する3枚の写真も掲載されている。 (ウ) 長岡産業は、本件優先日(平成28年8月31日)よりも前に、甲8 商品2を顧客に販売した。 (エ) 長岡産業は、平成30年、「台車安全カバーおててまもるくん」という名称の台車用安全カバー(前記第2の4⑵ア(ア)の①。以下「甲8商品1」という。)の販売を開始した。 甲8商品1には、外径、長さ又は厚みが異なる3種類の商品があり、 そのうちの一つである「おててまもるくん(40t)」は、外径、内径、 長さ及び厚みが甲8商品2と同一である。甲8商品1も、甲8商品2と同じく、本体部分は発泡ポリエチレン素材であり、塩化ビニルのシートが外周に巻かれている。 甲8商品1のパンフレット(甲8の2)には、「ここがポイント!!」との見出しの下、「台車に取り付けることで、作業員の手挟み事故を防 止!掌握部も分かりやすくなり、安全指導がしやすくなります」との記載、及び「取り付けはとても簡単。ハンドルのカーブ部分に挟み込み、テープをはがして包むだけ!」との記載が存在する。また、写真として、甲8商品2のパンフレットの「Before」の写真、「After」の写真及び装着方法に関する3枚の写真と同一の写真が掲載されている。 イ上記アの認定事実によれば、甲8の1ないし3に示された長岡産業の商品は、販 トの「Before」の写真、「After」の写真及び装着方法に関する3枚の写真と同一の写真が掲載されている。 イ上記アの認定事実によれば、甲8の1ないし3に示された長岡産業の商品は、販売開始が古いものから順に甲8商品3、甲8商品2、甲8商品1の3種類があり、このうち甲8商品3及び甲8商品2が本件優先日の前に販売された商品である。 また、甲8商品2のパンフレットに掲載された写真の内容からすれば、 甲8商品2は、コ字状のハンドルのカーブ部分に取り付けることにより、使用者の手がハンドルの上下方向の直線部分に掛からないように規制し、これによって使用者の手が台車のハンドルと壁などの周囲の物体との間に挟み込まれる手挟み事故を防止する機能を有するものであると認められる。甲8商品2は、甲8商品1のうち「おててまもるくん(40t)」と 同一の構成の商品であると認められるところ、甲8商品1のパンフレットには、甲8商品1の取り付けに関して「ハンドルのカーブ部分に挟み込み」との記載及び「掌握部も分かりやすくなり」との記載があること、及び、甲8商品1のパンフレットにも台車用安全カバーがコ字状のハンドルのカーブ部分に取り付けられた写真が掲載されていることも、甲8商品2が 上記機能を有することを裏付けるといえる。そして、甲8商品2の記載や 掲載された写真の内容からすれば、当業者は、甲8商品2が、コ字状のハンドルのカーブ部分に取り付けることにより、使用者の手がハンドルの上下方向の直線部分に掛からないように規制し、これによって手挟み事故を防止するものであることを理解することができたと認められる。 ウ上記ア及びイによれば、本件審決が甲8商品2を前提に認定した甲8発 明の内容(前記第2の4⑵ア(ア))は相当であり、かつ、甲 故を防止するものであることを理解することができたと認められる。 ウ上記ア及びイによれば、本件審決が甲8商品2を前提に認定した甲8発 明の内容(前記第2の4⑵ア(ア))は相当であり、かつ、甲8発明が本件優先日の時点で公然実施されていたと認められる。 被告は、前記第3の1〔被告の主張〕⑷のとおり、本件優先日の時点で、甲8発明が公然知られた発明であったとも、公然実施された発明であるとも認められないと主張するが、上記アに挙げた各証拠によれば、甲51の 3の1の平成28年8月22日付け請求書は、長岡産業が同日顧客に甲8商品2を販売したことに係るものであると認められるから、本件優先日の時点では、既に甲8商品2が顧客に販売されており、甲8発明が少なくとも公然実施されたと認められる。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 ⑵ 甲8発明と本件各発明との相違点について前記⑴の甲8発明の認定と、前記2の本件発明1の要旨認定の内容を踏まえ、甲8発明と本件発明1との一致点及び相違点を検討する。 ア甲8発明の「台車に固定され、グリップ部である水平部分と、水平部分の両端から延びるカーブ部分と、水平部分の両端からカーブ部分を介して 下向きに延びる上下方向に沿った部分と、を有する、コ字状のハンドル」と、本件発明1の「長尺の棒状部材」は、いずれも台車の「手押部材」であるという点で共通する。また、甲8発明の「台車用安全カバー」は本件発明1の「保護部材」に相当する。したがって、甲8発明の「コ字状のハンドルのカーブ部分に対して取り付けられる台車用安全カバー」と、本件 発明1の「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の棒状部材 に対して取り付けられる保護部材」(構成要件1A)は、「手押部材に対して取 付けられる台車用安全カバー」と、本件 発明1の「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の棒状部材 に対して取り付けられる保護部材」(構成要件1A)は、「手押部材に対して取り付けられる保護部材」である点で共通する。 他方、本件発明1の「長尺の棒状部材」は長尺の直線状の部材を指すと認められるから、甲8発明の台車用安全カバーは「コ字状のハンドルのカーブ部分に対して取り付けられる」ものであるのに対し、本件発明1の保 護部材は長尺の棒状部材に対して取り付けられるという点は、甲8発明と本件発明1との相違点であると認められる。 イ甲8発明の「寸法を外径106mm、内径26mm、長さ100mm及び厚み40mmとし、グリップ部を掴んだ手が周囲の物体に接触しないようにする本体」は、本件発明1の構成要件Cの「グリップ部の外周面より も外側に突出させて前記グリップ部を掴んだ手が周囲の物体に接触しないように保護する保護部」に対応する。 他方、甲8発明の台車用安全カバーの寸法は上記のとおり定まっているが、本件発明1の保護部は、グリップ部を掴んだ手が周囲の物体に接触しない程度にグリップ部の外周面から外側に突出しているという特定がさ れているものの、具体的な寸法は定まっておらず、この点は甲8発明と本件発明1との相違点であると認められる。 ウ甲8発明の「本体の外周部からスリットを通じてハンドルが挿入される取付穴」は、本件発明1の「棒状部材が挿入される取付穴」に相当する。 エ甲8発明の「本体の外周部からスリットを通じてハンドルが挿入される 方向と直交する方向であって、取付穴を向く方向から見て」とは、本件発明1の「前記取付穴に前記棒状部材が挿入される方向から見て」と同様の視点を特定しているから、甲8発明と本件発明 が挿入される 方向と直交する方向であって、取付穴を向く方向から見て」とは、本件発明1の「前記取付穴に前記棒状部材が挿入される方向から見て」と同様の視点を特定しているから、甲8発明と本件発明1は、同じ視点から見れば、いずれも「保護部は、略円形である」点である点で共通する。 オ上記アないしエによれば、甲8発明と本件発明1との一致点と相違点は 以下のとおりであると認められる。 〔一致点〕「手押部材に対して取り付けられる保護部材であって、グリップ部の外周面よりも外側に突出させて前記グリップ部を掴んだ手が周囲の物体に接触しないように保護する保護部と、手押部材が挿入される取付穴と、を有し、 前記取付穴に前記手押部材が挿入される方向から見て、保護部は、略円形である」点。 〔相違点〕甲8相違点1(前記第2の4⑵ア(イ))のとおり。 さらに、前記アの説示によれば、本件発明1の「長尺の棒状部材」は長 尺の直線状の部材を指すと認められるから、甲8発明の台車用安全カバーは「コ字状のハンドルのカーブ部分に取り付けられる」ものであるのに対し、本件発明1の保護部材は長尺の棒状部材に対して取り付けられる点(以下「取付位置に係る相違点」という。)でも相違している。 カ甲8発明と本件発明1との相違点として本件審決が認定したもの(前記 第2の4⑵ア(イ))のうち、甲8相違点2は、前記エの説示によれば、甲8発明と本件発明1との相違点となるとは認められない。 また、甲8相違点3は、甲8発明における台車用安全カバー及び本件発明1における保護部材の用途を特定する物としての手押部材の違いを述べるものであって、甲8発明における台車用安全カバーと本件発明1にお ける保護部材との相違点とはい る台車用安全カバー及び本件発明1における保護部材の用途を特定する物としての手押部材の違いを述べるものであって、甲8発明における台車用安全カバーと本件発明1にお ける保護部材との相違点とはいえない。したがって、甲8発明と本件発明1との相違点は、甲8相違点1及び取付位置に係る相違点のみであると認められる。 キ前記第2の2⑶のとおり、①本件発明2は、本件発明1の構成要件1Aないし1Fを全て含み、②本件発明3は、本件発明1の構成要件のうち、 1Eを「前記保護部は、円板状である。」(構成要件2E)に変更したもの であり、③本件発明4ないし7は、本件発明1の構成要件1Aないし1Fを全て含むか、又は本件発明3の構成要件1Aないし1D、2E及び1Fを全て含むものである。 そうすると、本件発明2ないし7は、いずれも、甲8発明との関係で、甲8相違点1及び取付位置に係る相違点があると認めることができる。 ク以上のとおり、甲8発明と本件各発明との一致点及び相違点に係る本件審決の判断には相当でない部分があるものの、これによって直ちに本件審決の判断が違法となることはなく、甲8相違点1を前提に、当業者が、本件優先日の技術水準に基づいて、これらの相違点に対応する本件各発明を容易に想到することができたかどうかを判断すべきである。 ⑶ 容易想到性について前記⑴のとおりである甲8発明の内容によれば、甲8発明の台車用安全カバーは、その本体、すなわち甲8発明の全体が保護部を構成しており、作業者の手挟み事故を防止するとともに、手押部材の掌握部、すなわち台車のコ字状のハンドルのグリップ部の位置を使用者に認識させる作用をもつもので あるといえる。このことは、甲8商品2と同一の構成の商品を含む甲8商品1に係るパンフレット(甲8 掌握部、すなわち台車のコ字状のハンドルのグリップ部の位置を使用者に認識させる作用をもつもので あるといえる。このことは、甲8商品2と同一の構成の商品を含む甲8商品1に係るパンフレット(甲8の2)に、「台車に取り付けることで、作業員の手挟み事故を防止!掌握部もわかりやすくなり、安全指導がしやすくなります」との記載があることからも裏付けられる。 このように、甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルの水平部 分をグリップ部とすることを前提として、コ字状のハンドルのカーブ部分に取り付ける台車用安全カバー(保護部材)であって、これによって手挟み事故の防止を図るものであるから、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)にグリップ部を設けることは全く想定されていないといえる。 そうすると、仮に、台車の手押部材にグリップ部を設けること、又は台車 等の保護部をグリップ部と一体化したものとすることが、本件優先日の時点 で周知技術であったとしても、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)に接した当業者において、これらの周知技術を甲8発明に適用する動機付けがあったとは認められない。 したがって、引用発明である甲8発明に基づいて、甲8相違点1に係る本件各発明の構成が容易に想到できたとは認められず、甲8発明を前提とする 進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとは認められない。 ⑷ 前記第3の1〔原告の主張〕についてア原告は、前記第3の1〔原告の主張〕⑴のとおり、甲8発明の台車用安全カバーは、直線の棒にも装着可能であり、コ字状のハンドルのカーブ部分に対してのみ取り付け可能な製品ではないから、本件審決における甲8 発明の認定は誤りであると主張する。 この点、長岡産業代表取締役である甲の陳述書(甲53)には、甲8商 ハンドルのカーブ部分に対してのみ取り付け可能な製品ではないから、本件審決における甲8 発明の認定は誤りであると主張する。 この点、長岡産業代表取締役である甲の陳述書(甲53)には、甲8商品2は、甲8商品1とともに、カーブ部分に装着することに特化した形状(特に孔の形状)となっておらず、曲がっていない直線の棒にも装着可能なものであった旨の陳述がある。 しかし、甲8商品2の本体及び取付穴の形状から、物理的には直線の棒に装着することが可能であるとしても、甲8商品2のパンフレット(甲8の3)及び甲8商品2と同一の構成の商品が含まれる甲8商品1のパンフレット(甲8の2)の各記載及び掲載された写真からすれば、甲8商品2、すなわち甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルのカーブ部分 に取り付けることにより、使用者の手がハンドルの上下方向の直線部分に掛からないように規制し、これによって手挟み事故を防止するものであると認められる。 上記各パンフレットに掲載された、各商品が台車のハンドルに装着された状態の写真は、いずれもコ字状のハンドルのカーブ部分に装着されたも のを撮影したものであって、直線の部分に装着した写真ではないと認めら れる。また、甲8の2には、「ハンドルのカーブ部分に挟み込み、テープをはがして包むだけ!」と表記されているのであって、カーブ部分に挟み込むことが単なる使用の一例にすぎない旨の記載はされていない。 以上のとおり、甲8発明に関する本件審決の認定に誤りがあるとは認められない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は、前記第3の1〔原告の主張〕⑵のとおり、本件審決が認定した甲8相違点2及び甲8相違点3は誤りであると主張する。 甲8発明と本件各発明の相違点と 原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は、前記第3の1〔原告の主張〕⑵のとおり、本件審決が認定した甲8相違点2及び甲8相違点3は誤りであると主張する。 甲8発明と本件各発明の相違点として、甲8相違点2及び甲8相違点3が認められないことは、原告の主張のとおりである。 しかし、甲8発明と本件各発明の相違点として、甲8相違点1が認められ、甲8相違点1に係る本件各発明の構成が容易に想到できたとは認められないから、甲8相違点2及び甲8相違点3の認定の誤りにかかわらず、甲8発明を主引例とし、これに技術的事項等を適用して、当業者が本件各発明を容易に想到することができたとはいえないと判断した本件審決に 違法な点はない。 したがって、原告の上記主張は取消事由1が認められないとの結論を左右しない。 ウ原告は、前記第3の1〔原告の主張〕⑶アのとおり、①本件審決が「甲8発明にグリップ部を付加しても本件発明1の構成に至らない」と判断し たことは誤りである、②台車の手押部材とは別の部材のグリップ部を設けることは当業者によく知られた周知・慣用技術であったのであり、甲8発明においてグリップ部と保護部を一体のものとして構成することに困難性はなく、甲8発明の台車用安全カバーに更にグリップ部を付加する動機がないとか、甲8発明と周知技術のグリップ部は取付位置が異なると本件 審決が判断したのは誤りであると主張する。 しかし、甲8発明の台車用安全カバーは、台車のコ字状のハンドル(手押部材)のカーブ部分に取り付けることで、作業者の手挟み事故を防止するとともに、当該ハンドルの水平部分であるグリップ部の位置を使用者に認識させる作用をもつものであって、取り付けられる当該ハンドルに既にグリップ部が存在するから、台車用安全カバー の手挟み事故を防止するとともに、当該ハンドルの水平部分であるグリップ部の位置を使用者に認識させる作用をもつものであって、取り付けられる当該ハンドルに既にグリップ部が存在するから、台車用安全カバーにグリップ部を設けること は想定されておらず、甲8発明の台車用安全カバーに接した当業者において、甲8発明の台車用安全カバーにグリップ部を設ける動機付けをもつとは認められない。 原告が周知技術として提示する甲号証(甲11、13~16、37~41、43)から、台車の手押部材にグリップ部を設けること、台車等の保 護部材でグリップ部が一体になっているものがあることが周知技術であると認められるとしても、上記のとおり、甲8発明の台車用安全カバーが取り付けられる台車のハンドルに既にグリップ部があるのであるから、これらの周知技術を甲8発明に適用することは想定できない。 したがって、原告の上記主張のうち、①は取消事由1が認められないと の結論を左右せず、②は採用することができない。 エ原告は、前記第3の1〔原告の主張〕⑶イ及びウのとおり、甲8相違点2及び甲8相違点3に係る容易想到性に関する本件審決の判断が誤りであると主張する。 しかし、甲8発明と本件各発明の相違点として、甲8相違点2及び甲8 相違点3は認められないが、甲8発明と本件各発明の相違点として、甲8相違点1が認められ、甲8相違点1に係る本件各発明の構成が容易に想到できたとは認められないから、甲8発明を主引例とし、これに技術的事項等を適用して、当業者が本件各発明を容易に想到することができたとはいえないと判断した本件審決に違法な点はない。 したがって、原告の上記主張は取消事由1が認められないとの結論を左 右しない。 4 取消事由2(無効理由3に係る進歩性 ができたとはいえないと判断した本件審決に違法な点はない。 したがって、原告の上記主張は取消事由1が認められないとの結論を左 右しない。 4 取消事由2(無効理由3に係る進歩性判断の誤り)について⑴ 甲9発明及び甲10発明の認定及び本件各発明との相違点についてア本件審決は、甲9発明及び甲10発明を前記第2の4⑵イ(ア)のとおり認定しているところ、この認定について当事者間に争いはなく、甲9及び 甲10には上記内容の発明が記載されていると認められる。 イ甲9発明及び甲10発明が前記第2の4⑵イ(ア)のとおり認定できるとすると、甲9発明及び甲10発明は、台車に設置する「長尺状の部材」に係る物の発明であり、「保護部材」の開示はない。 これに対し、本件発明1は、「保護部材」に係る物の発明であって、前記 2⑴ア及びイのとおり、本件発明1において「長尺の棒状部材」は、「保護部材」の用途を示し、「保護部材」を特定するものにすぎない。 そうすると、甲9発明及び甲10発明と本件発明1との間には一致点がないというべきである。 本件審決は、甲9発明及び甲10発明と本件発明1との一致点を「運搬 台車の4隅に位置する部材であって、使用者が手で掴むことができるグリップ部を有する部材。」と認定するが、この内容は各発明の構成要件の一致点であるとはいえず、上記認定は誤りであると解される。 他方、甲9発明と本件発明1との相違点として本件審決が認定した甲9相違点2及び甲9相違点3(前記第2の4⑵イ(イ))は、甲9発明が保護部 も取付穴も有しないことを認定しており、これらの相違点の認定自体は相当であるといえる。 ウ甲10発明は甲9発明と同一であるから、やはり本件発明1との一致点はない。 また、本件発明2ないし7も、 も取付穴も有しないことを認定しており、これらの相違点の認定自体は相当であるといえる。 ウ甲10発明は甲9発明と同一であるから、やはり本件発明1との一致点はない。 また、本件発明2ないし7も、本件発明1と同様に、甲9発明及び甲1 0発明との一致点はないといえる。 ⑵ 甲9発明又は甲10発明と甲3発明との組合せに関する容易想到性についてア甲3には、「図3 台車の取っ手を持つ位置を表示して手指の挟まれを防止する」として、台車の絵が記載されており、この台車は、手押部材がコ字状になっており、使用者が持つ水平部分に赤色エンドストッパーが取 り付けられるとともに、取っ手を持つ位置が緑色で表示されたものとなっている。また、甲3には、「写真2 取っ手には鍔(つば)状のガードを付けて挟まれを防いだ」として、図3にいう赤色エンドストッパーである「鍔状のガード」の写真が掲載され、図3及び写真2に関する説明として、図3は「台車を持つ位置の表示」であって「これは手指挟まれの防止のため に、持つ位置の表示を基準化している。」とする記載、及び「鍔状の挟まれ防止ガードは、上下に分割する樹脂製のパーツで構成され、取り付けるようになっている。」との記載がある。 本件審決は、甲3発明の内容を前記第2の4⑵ウのとおり認定したが、甲3の上記各記載、その他甲3に存在する記載の内容に照らし、本件審決 の甲3発明の認定は相当であると解される。 イ前記第2の4⑵ウのとおりである甲3発明は、「手押台車に固定されたコ字状のパイプと、一対の鍔状ガードとを有する」手押部材であるが、保護部材である「鍔状のガード」にグリップ部が備わっているものではない。 すなわち、甲3発明は、手押部材であるコ字状のパイプの水平部分にグリ ップ位置を表示する ドとを有する」手押部材であるが、保護部材である「鍔状のガード」にグリップ部が備わっているものではない。 すなわち、甲3発明は、手押部材であるコ字状のパイプの水平部分にグリ ップ位置を表示するとともに、これとは別に同部分に鍔状ガードを付加するものにとどまり、グリップ部と保護部をともに備える保護部材の構成を開示していない。そうすると、甲9発明又は甲10発明に対して甲3発明を適用しても、甲9相違点2に係る本件各発明の構成に到達することはできないというべきである。 したがって、当業者が、甲9発明又は甲10発明に甲3発明を適用する ことによって本件各発明を容易に発明することができたとは認められない。 ⑶ 甲9発明又は甲10発明と甲8発明との組合せに関する容易想到性について甲8発明の内容は前記3⑴のとおりであるが、甲8発明の台車用安全カバ ーは、コ字状のハンドルの水平部分をグリップ部とすることを前提として、コ字状のハンドルのカーブ部分に取り付ける台車用安全カバー(保護部材)であって、これによって手挟み事故の防止を図るものであるから、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)にグリップ部を設けることは全く想定されていない(前記3⑶)。 そうすると、甲9発明又は甲10発明に対して甲8発明を適用しても、甲9相違点2に係る本件各発明の構成に到達することはできない。 したがって、当業者が、甲9発明又は甲10発明に甲8発明を適用することによって本件各発明を容易に発明することができたとは認められない。 ⑷ 前記⑵及び⑶によれば、引用発明である甲9発明又は甲10発明に基づい て、本件各発明の構成が容易に想到できたとは認められず、甲9発明又は甲10発明を前提とする進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとは認められ 、引用発明である甲9発明又は甲10発明に基づい て、本件各発明の構成が容易に想到できたとは認められず、甲9発明又は甲10発明を前提とする進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとは認められない。 ⑸ 前記第3の2〔原告の主張〕についてア原告は、前記第3の2〔原告の主張〕⑴のとおり、甲9発明に甲3発明 を適用する動機付けがあり、甲9発明と甲3発明とを組み合わせることにより、甲9相違点1ないし3に係る構成に容易に想到することができると主張する。 しかし、甲9発明は台車に設置する「長尺状の部材」に係る物の発明であり、「保護部材」の開示はなく(前記⑴イ)、他方、甲3発明はグリップ 部と保護部をともに備える保護部材の構成を開示していないから、甲9発 明に対して甲3発明を適用しても、甲9相違点2に係る本件各発明の構成に到達することはできないと解されることは、前記⑵イのとおりである。 甲3に記載された台車の取っ手を持つ位置を表示した「緑表示」を「手で掴むグリップ部」と解したとしても、あるいは、この「緑表示」が取っ手に何らかの部材を巻いたものであるとしても、甲3に記載された台車に おいて保護部材とグリップ部が一体となっておらず、甲3発明がグリップ部と保護部をともに備える保護部材の構成を開示していないことに変わりはないから、上記結論を左右しない。 また、甲9発明に甲3発明を適用しても甲9相違点2に係る本件各発明の構成に到達しないのであるから、甲9発明に甲3発明を適用する動機付 けの有無は、進歩性に関する判断を左右しない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は、前記第3の2〔原告の主張〕⑵のとおり、甲9発明又は甲10発明に甲8発明を適用し、その際に周知・慣用技術であるグリップ 右しない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は、前記第3の2〔原告の主張〕⑵のとおり、甲9発明又は甲10発明に甲8発明を適用し、その際に周知・慣用技術であるグリップ部を適用することで本件発明1の構成に至るから、本件審決における容易想到性 の判断は誤りであると主張する。 しかし、主引用発明である甲9発明に対して副引用発明である甲8発明を適用する際に、甲8発明に何ら開示や示唆がないグリップ部と保護部材を一体化する点を着想することは、仮にこのような着想が可能であるとしても、格別な努力が必要であり、当業者にとって容易であるとはいえない。 また、台車の手押部材にグリップ部を設けることが周知技術であると認められるとしても、甲8発明に当該周知技術を適用する動機付けがないことは、前記3⑷ウのとおりである。 したがって、原告の主張は採用することができない。 5 結論 以上のとおりであり、原告が主張する取消事由はいずれも理由がないから、 原告の請求は棄却されるべきである。 よって、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官東海林保 裁判官今井弘晃 裁判官 水野正則 (別紙1特許公報写し、別紙2審決書写し省略) 水野正則 (別紙1特許公報写し、別紙2審決書写し省略)
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