平成27年12月16日判決言渡 平成26年(行ケ)第10198号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成27年11月2日判決 原告X訴訟代理人弁理士 滝田清暉 同中村成美 同岩崎有穂 被告Y訴訟代理人弁護士 鮫島正洋 同幸谷泰造 同山本真祐子 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が無効2014-800004号事件について平成26年7月15日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等(証拠等を摘示しない事実は,当事者間に争いがない。) (1) 被告は,平成22年2月15日,発明の名称を「シートカッター」とする発明について特許出願(特願2010-47083号。以下「本件出願」という。)をし,平成25年3月11日,本件出願の願書に添付した特許請求の範囲を補正する手続補正(以下「本件補正」という。甲2)をした。 被告は,同年4月16日付け拒絶理由通知を受けたため(甲3),同年7月16日,特許請求の範囲について手続補正(甲5)をし,同年9月27日,特許第5374419号(請求項の数1。以下「本件特許」という。)として特許権の設定登録を受けた(甲6)。 (2) 原告は,平成26年1月6日,本件特許に対して特許無効審判を請求した。 特許庁は,上記請求を 419号(請求項の数1。以下「本件特許」という。)として特許権の設定登録を受けた(甲6)。 (2) 原告は,平成26年1月6日,本件特許に対して特許無効審判を請求した。 特許庁は,上記請求を無効2014-800004号事件として審理を行った上,同年7月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月25日,原告に送達された。 (3) 原告は,平成26年8月22日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲(1) 本件出願当初の請求項1の記載は,次のとおりである(甲1)。 【請求項1】カッターナイフの刃の横に,ガイド板(4)を設けたシートの切断道具であるシートカッター。 (2) 本件補正後の請求項1の記載は,次のとおりである(下線部は本件補正による補正箇所である。甲2)。 【請求項1】刃と,前記刃を設けた本体と,前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し,前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記刃が出ることを特徴とするカッター。 (3) 本件特許の設定登録時(平成25年7月16日付け手続補正後のもの)の請求項1(以下,単に「請求項1」という。)の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件特許発明」という。下線部は上記手続補正による補正箇所である。甲6)。 【請求項1】第1の刃と,第2の刃と,前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と,前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し,前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が出ることを特徴とするカッター。 3 本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,別紙審決 を有し,前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が出ることを特徴とするカッター。 3 本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,①本件補正によって,特許請求の範囲に本件出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(これらを併せて,以下「本件出願当初明細書」という。)に記載されていない発明を包含することになったものとはいえず,本件特許は,特許法17条の2第3項の要件を満たしていない本件補正をした特許出願に対してされたものといえないから,本件特許には同法123条1項1号に該当する無効理由は認められない,②本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1)の記載は,同法36条6項1号に規定する要件(以下「サポート要件」という。)及び同項2号に規定する要件(以下「明確性要件」という。)に適合していないものとはいえず,本件特許は,上記各号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから,本件特許には同法123条1項4号に該当する無効理由は認められないというものである。 第3 当事者の主張 1 原告の主張(1) 取消事由1(特許法17条の2第3項の要件の判断の誤り)ア本件審決は,本件補正のうち,特許請求の範囲(本件出願当初の請求項1)の「シートカッター」の記載を「カッター」と補正した事項(以下「本件補正事項1」という。)については,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件補正後の「カッター」は,本件出願当初明細書の記載の範囲内において解釈される「カッター」であり,概念的に「シートカッター」を含み得るものとして取り扱うことができるものであるから,本件補正事項1に係る本件補正は,新規事項の追加 出願当初明細書の記載の範囲内において解釈される「カッター」であり,概念的に「シートカッター」を含み得るものとして取り扱うことができるものであるから,本件補正事項1に係る本件補正は,新規事項の追加に当たらず,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとはいえない旨判断したが,以下のとおり,本件審決の判断は誤りである。 (ア) 本件補正事項1が本件出願当初明細書との関係で新規事項の追加に当たるかどうかを判断するには,まず,本件出願当初明細書に開示された「シートカッター」の意味を確定し,次に,本件補正によって導入された「カッター」が本件出願当初明細書によって開示されたシートカッターと実質的に同一であると自然に解釈することができるのか,本件出願当初明細書に開示された「シートカッター」とはいえない新規事項に該当する発明を含むことになるのかを検証すべきである。 (イ) しかるところ,本件審決は,本件出願当初明細書に開示された「シートカッター」の意味を確認することなく,「本件特許発明における「カッター」の意味を考察すれば,「カッター」の切断の対象となっているのは,主に凹凸を有する床材のノンスリップシートなどであり,」と認定し,本件出願当初明細書には,一つの道具としての「シートカッター」は記載されているが,社会通念上一般的な「カッター」は記載されていないという事実を考慮せずに,本件補正後の「カッター」は,本件出願当初明細書の記載の範囲内において解釈される「カッター」であり,概 念的に「シートカッター」を含み得るものとして取り扱うことができるものであるから,本件補正事項1は,新たな技術的事項を導入するものではなく,新規事項の追加に当たらない旨判断した。 本件審決の上記判断は,まず,本件出願当初明細書に開示された「シートカッ できるものであるから,本件補正事項1は,新たな技術的事項を導入するものではなく,新規事項の追加に当たらない旨判断した。 本件審決の上記判断は,まず,本件出願当初明細書に開示された「シートカッター」の意味を考察し,次に,本件補正後の特許請求の範囲の「カッター」の意味を考察すべきであるという上記の検証手続を踏んでいない点において,その判断手法に誤りがあり,また,本件出願当初明細書には,一つの道具としての「シートカッター」は記載されているが,社会通念上一般的な「カッター」は記載されていないという事実について何ら合理的な説明をすることなく,本件補正後の「カッター」は,本件出願当初明細書の記載の範囲内において解釈される「カッター」であり,概念的に「シートカッター」を含み得るとした判断内容自体にも誤りがある。 (ウ) この点に関し,被告は,本件出願当初明細書に示されている「カッターナイフの刃」は,ごく一般的なカッターナイフの刃であり,当業者であれば,これを「カッター」として認識することが自然であるから,本件出願当初明細書に「カッター」の開示がある旨主張する。 しかしながら,「カッターナイフの刃」は道具である「カッター」を構成する一部にすぎないし,また,本件出願当初明細書に示されている「カッターナイフの刃」は,単なる周知のカッターナイフの刃であり,本件出願当初明細書に開示された「シートカッター」なる道具には,周知のカッターナイフの刃を使用できることができて便利であると認識するにすぎず,専用のシートカッターのみならず,一般的な概念である「カッター」として認識するものとはいえないから,被告の上記主張は失当である。 イ本件審決は,本件補正のうち,特許請求の範囲(本件出願当初の請求項 1)に「前記本体と可動的に接続されたガイド板と ー」として認識するものとはいえないから,被告の上記主張は失当である。 イ本件審決は,本件補正のうち,特許請求の範囲(本件出願当初の請求項 1)に「前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し,」及び「前記本体が前記ガイド板に対して動く」を追加して補正した事項(以下,併せて「本件補正事項2」という。)について,機能的に表現された「前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し,」及び「前記本体が前記ガイド板に対して動く」の意味を考察すれば,本体をガイド板に対して傾け,カッターナイフの刃を出し得る構成,すなわち,シャフトを中心にガイド板に対して本体の傾斜角度を変更し得る手段であるものと解することができ,それ以外のものは含まれないものとみられる旨の原告の主張のとおりの解釈をしたにもかかわらず,結論として,本件補正事項2に係る本件補正は,新たな技術的事項を導入するものではないから,新規事項の追加に当たらず,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとはいえない旨判断したのは誤りである。 ウ小括以上のとおり,本件補正事項1及び2に係る本件補正は,特許法17条の2第3項の要件を満たしていないから,本件審決における上記要件の判断には誤りがある。 (2) 取消事由2(サポート要件及び明確性要件の判断の誤り)ア本件審決は,本件補正事項1及び2は,いずれも本件出願当初明細書に記載された事項の範囲内のものであって,新規事項ではないから,本件特許発明の特許請求の範囲の記載は,新規事項を含むものであって,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり,サポート要件に適合しないものであるとする原告の主張は理由がない旨判断した。 しかしながら,前記(1)で述べたとおり,本件補正事項1及び2は,本件出願当初明細書に記載され 範囲を超えるものであり,サポート要件に適合しないものであるとする原告の主張は理由がない旨判断した。 しかしながら,前記(1)で述べたとおり,本件補正事項1及び2は,本件出願当初明細書に記載された事項の範囲内のものとはいえず,新規事項に当たるから,本件審決の上記判断は誤りである。 イ本件審決は,本件特許発明の特許請求の範囲の記載は技術的な意味を有 するのか不明であり,明確性要件に適合していないものであるとする原告の主張は理由がない旨判断した。 しかしながら,本件審決の上記判断は,本件審決が,本件特許発明の特許請求の範囲の「前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し,」及び「前記本体が前記ガイド板に対して動く」の構成(本件補正事項2)について,原告の主張するとおりの限定解釈をしたにもかかわらず,その機能的表現は限定解釈どおりに読めると無理にみなして,あえて特許請求の範囲の記載をあいまいなままにした誤った判断である。 また,同様の理由により,本件特許発明の特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合しないものとはいえないとした本件審決の判断も誤りである。 ウ以上のとおり,本件審決におけるサポート要件及び明確性要件の判断には誤りがある。 2 被告の主張(1) 取消事由1(特許法17条の2第3項の要件の判断の誤り)に対し原告主張の取消事由1は,実質的には,本件補正事項1に係る本件補正が新規事項の追加に当たることを前提に本件審決の判断の誤りをいうものであるから,この点について反論する。 ア本件出願当初明細書の記載事項(段落【0004】,【0006】,【0008】)によれば,本件出願当初明細書には,従来,直定規とカッターナイフという二つの道具を同時に使う場合,光の向き(斜め照射の場合など)や照度(部屋全体が暗 (段落【0004】,【0006】,【0008】)によれば,本件出願当初明細書には,従来,直定規とカッターナイフという二つの道具を同時に使う場合,光の向き(斜め照射の場合など)や照度(部屋全体が暗い場合など)との関係で,少なくとも片手の影によって切断面が見づらくなり,きれいに切断することができないという問題があったことから,本件当初の請求項に係る発明は,直定規とカッターナイフを両手で同時に持つ方式をやめ,片手で作業ができるようにすることを課題とし,その課題を解決するための手段として,「刃を設けた本 体に,動かすことが可能な態様でガイド板が接続され,本体が動くことで,本体に設けられた刃が,ガイド板の外に出るような構成」を採用し,これによって,直定規とカッターナイフを両手で同時に持つことなく,ガイド板を,切断部分をガイドするようにシートに沿わせて,カッターを滑らせながら片手で作業ができるという効果を奏することが記載されている。 イ本件補正後の請求項1の「カッター」は,「刃と,前記刃を設けた本体と,前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し,前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記刃が出ることを特徴とするカッター」である。そして,本件補正の前後で発明の実質的な構成は同一であり,直定規とカッターナイフを両手で同時に持つことなく,ガイド板を,切断面をガイドするようにシートに沿わせて,カッターを滑らせながら片手で作業ができるという課題解決に寄与する技術的な意義は同一である。 また,本件補正により,「シートカッター」が「カッター」に補正されたからといって,ありとあらゆる対象物に適用できるようになるわけではなく,あくまでも請求項1に規定された構成に適合した対象物にしか適用できないことは明らかである。 さ 」が「カッター」に補正されたからといって,ありとあらゆる対象物に適用できるようになるわけではなく,あくまでも請求項1に規定された構成に適合した対象物にしか適用できないことは明らかである。 さらに,本件出願当初明細書には,ごく一般的な「カッターナイフの刃」が開示されており(段落【0005】,図3等),当業者であれば,本件出願当初明細書に開示されている「カッターナイフの刃」を「カッター」と認識するのは自然である。 したがって,本件補正事項1に係る本件補正は,本件出願当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって,本件出願当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであるということはできないから,本件補正事項1は新規事項に当たらないとした本件審決の判断に誤りはない。 ウこの点に関し,原告は,本件審決には,まず,本件出願当初明細書に開示された「シートカッター」の意味を考察し,次に,本件補正後の特許請求の範囲の「カッター」の意味を考察すべきであるという検証手続を踏んでいない点において,その判断手法に誤りがある旨主張する。 しかしながら,補正が特許法17条の2第3項の要件を満たしているからどうかは,出願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるか否かによって判断されるべきものであるから,本件審決における判断手法の誤りをいう原告の上記主張は,その主張自体失当である。 エ以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。 (2) 取消事由2(サポート要件及び明確性要件の判断の誤り)に対し原告主張の取消事由2は争う。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(特許法17条 れば,原告主張の取消事由1は理由がない。 (2) 取消事由2(サポート要件及び明確性要件の判断の誤り)に対し原告主張の取消事由2は争う。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(特許法17条の2第3項の要件の判断の誤り)について(1) 本件出願当初明細書の記載事項について本件出願当初明細書(甲1)の特許請求の範囲(本件出願当初の請求項1)の記載は,前記第2の2(1)記載のとおりである。 また,本件出願当初明細書の「発明の詳細な説明」には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面については,別紙図面を参照)。 ア 【技術分野】【0001】この発明は主に床材のノンスリップシートなどの凹凸を利用して,シートを切断する道具である。 【技術背景】【0002】従来,直定規とカッターナイフを使用して,シートを切断していた。 イ 【発明が解決しようとする課題】【0004】従来の欠点は,直定規とカッターナイフでノンスリップシートなどの凹凸に沿って,真っすぐ切断する際,光の向きや照度により見づらく,きれいに切断しにくかった。 本発明は以上のような欠点をなくすために作られた作品である。 ウ 【課題を解決するための手段】【0005】本体(1)の中に,カッターナイフの刃(2)を設け,シャフト(3)の通ったガイド板(4)を設ける。 本発明は,以上の構成によりなるシートカッターである。 エ 【発明の効果】【0006】このシートカッターはノンスリップシートなどの表面の凹凸に,ガイド板(4)を合わせ,シャフト(3)を軸に本体を傾けるだけで,設けてあるカッターナイフの刃(2)が出てくる。後はノンスリップシートなどの凹凸に沿わせ滑らせるだけで,光の向きや照度に左右される事なく,簡単で )を合わせ,シャフト(3)を軸に本体を傾けるだけで,設けてあるカッターナイフの刃(2)が出てくる。後はノンスリップシートなどの凹凸に沿わせ滑らせるだけで,光の向きや照度に左右される事なく,簡単できれい,かつ迅速にノンスリップシートなどを切断できる。 オ 【図面の簡単な説明】【0007】【図1】 本発明の斜視図である。 【図2】 本発明の分解斜視図である。 【図3】 本発明の断面図である。 カ 【発明を実施するための形態】【0008】以下,本発明を実施するための形態について説明する。 本体(1)の中にカッターナイフの刃(2)を設け,シャフト(3)を軸にスイングするガイド板(4)を設ける。 本発明は以上のような構造である。 これを使用する時は,ガイド板(4)をノンスリップシートなどの表面の凹凸に合わせ,シャフト(3)を軸にして本体(1)を傾けカッターナイフの刃(2)を出す。 後は凹凸に沿わせて滑らせ,ノンスリップシートなどを切断する。 その他の応用例として,壁紙の施工時,入り隅や枠の凹凸に沿わせ,後は同様にシートカッターを滑らせる事により,壁紙の余分な部分を,地ベラや定規を使用せず切り取る。 (2) 補正要件の判断の誤りの有無についてア本件補正事項1について原告は,本件審決が,本件補正事項1(本件出願当初の請求項1の「シートカッター」の記載を「カッター」と補正した事項)に係る本件補正は,新規事項の追加に当たらず,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとはいえない旨判断したのは誤りである旨主張する。 ところで,特許請求の範囲についての補正が,「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面」のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において のは誤りである旨主張する。 ところで,特許請求の範囲についての補正が,「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面」のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」する補正(特許法17条の2第3項)であると解するのが相当である。 以上を前提に,原告の主張を検討する。 (ア) 前記(1)の本件出願当初明細書の記載事項によれば,本件出願当初明細書には,「本発明」として,本体の中に,カッターナイフの刃と,シャフトの通ったガイド板を設けた構成からなる「シートカッター」が記 載され(段落【0005】,【0008】),この「シートカッター」は,ノンスリップシートなどの表面の凹凸にガイド板を合わせ,シャフトを軸に本体を傾けてガイド板からカッターナイフの刃を出した状態で,ガイド板を凹凸に沿わせ滑らせることにより,ノンスリップシートなどを切断できるので,直定規とカッターナイフを使用してノンスリップシートなどを切断する従来の道具とは異なり,光の向きや照度に左右されることなく,簡単できれい,かつ迅速にノンスリップシートなどを切断できる効果を奏することが記載されている(段落【0006】,【0008】)。 また,本件出願当初明細書には,この「シートカッター」について,壁紙の施工時,ガイド板を入り隅や枠の凹凸に沿わせ滑らせることにより,壁紙の余分な部分を切り取るという使い方ができることも記載されている(段落【0008】)。 (イ) 前記(ア)によれば,「シートカッター」の切断対象物として本件出願当初明細書に明示されているものは,ノンスリップシート及び壁紙などのシートであるといえ 載されている(段落【0008】)。 (イ) 前記(ア)によれば,「シートカッター」の切断対象物として本件出願当初明細書に明示されているものは,ノンスリップシート及び壁紙などのシートであるといえる。 他方で,①本件出願当初明細書には,「本発明」は,直定規とカッターナイフを使用してノンスリップシートなどを切断する従来の道具には,光の向きや照度により見づらく,きれいに切断しにくいという欠点があったため,そのような欠点をなくすことを課題とし,その課題を解決するものであること(段落【0004】,【0006】),②「本発明」の「シートカッター」と従来からあるカッターナイフは,刃を切断しようとする箇所に沿って移動させて切断対象物を切断するという点で,同じ作用を有するものであり,また,本件出願当初明細書には,「本発明」の「シートカッター」が,別紙図面の図3に示すように,「カッターナイフの刃」を備えていることが示されていること(段落【0005】, 図1ないし3等),③カッターナイフの切断対象物は,シートに限られず,刃を切断しようとする箇所に沿って移動させて切断することができるもの全般に及ぶことは,広く一般的に知られた事項であることに照らせば,本件出願当初明細書記載の「シートカッター」は,その切断手段の構成上,シート以外の対象物であっても,刃を切断しようとする箇所に沿って移動させて切断することのできるものであれば当該対象物の切断の用途に用いることができることは,本件出願当初明細書の記載から自明であるといえる。 そして,本件補正後の請求項1記載の「カッター」は,本件出願当初明細書記載の「シートカッター」と同様,ガイド板を有し,ガイド板から刃を出した状態で切断対象物を切断するものであって,切断手段の構成という点では上記「シートカッタ 記載の「カッター」は,本件出願当初明細書記載の「シートカッター」と同様,ガイド板を有し,ガイド板から刃を出した状態で切断対象物を切断するものであって,切断手段の構成という点では上記「シートカッター」と同じであり,その切断対象物は,シートに限定されないが,あくまでも,刃を切断しようとする箇所に沿って移動させて切断することができるものしか切断することができないことは明らかであるから,本件出願当初の請求項1の「シートカッター」と比べて切断対象物の範囲が無制限に広がるというものではない。 以上によれば,本件補正事項1に係る補正は,本件出願当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであると認められるから,本件出願当初明細書に記載した事項の範囲内においてする補正であるといえる。 したがって,本件補正事項1に係る本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしているものと認められるから,本件審決の判断に誤りはない。 (ウ) これに対し原告は,本件審決は,まず,本件出願当初明細書に開示された「シートカッター」の意味を考察し,次に,本件補正後の特許請 求の範囲の「カッター」の意味を考察すべきであるという検証手続を踏むことなく,本件補正事項1に係る本件補正が特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしているかどうかを判断している点において,その判断手法に誤りがあり,また,本件出願当初明細書には,一つの道具としての「シートカッター」は記載されているが,社会通念上一般的な「カッター」は記載されていないという事実について何ら合理的な説明をすることなく,本件補正後の「カッター」は,本件出願当初明細書の記載の範囲内において解釈される「カッター」であり,概念的に「シ 的な「カッター」は記載されていないという事実について何ら合理的な説明をすることなく,本件補正後の「カッター」は,本件出願当初明細書の記載の範囲内において解釈される「カッター」であり,概念的に「シートカッター」を含み得るとした判断内容自体にも誤りがあるから,本件補正事項1に係る本件補正は,新規事項に当たるとはいえず,同項に規定する要件を満たしていないとはいえないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。 しかしながら,前記(ア)及び(イ)認定のとおり,本件補正事項1に係る本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしているものと認められるから,本件審決の判断はその結論において誤りはなく,また,本件審決の判断手法の適否は,本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。 したがって,原告の上記主張は,理由がない。 イ本件補正事項2について原告は,本件審決は,本件補正事項2(本件出願当初の請求項1に「前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し,」及び「前記本体が前記ガイド板に対して動く」を追加して補正した事項)について,機能的に表現された「前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し,」及び「前記本体が前記ガイド板に対して動く」の意味を考察すれば,本体をガイド板に対して傾け,カッターナイフの刃を出し得る構成,すなわち,シャフトを中心にガイド板に対して本体の傾斜角度を変更し得る手段であるもの と解することができ,それ以外のものは含まれないものとみられる旨の原告の主張のとおりの解釈をしたにもかかわらず,結論として,本件補正事項2に係る本件補正は,新たな技術的事項を導入するものではないから,新規事項の追加に当たらず,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとはいえない旨判断したのは誤りである旨主 本件補正事項2に係る本件補正は,新たな技術的事項を導入するものではないから,新規事項の追加に当たらず,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとはいえない旨判断したのは誤りである旨主張する。 しかしながら,本件審決における本件補正事項2の解釈を前提とすれば,本件補正後の「可動的に接続された」及び「前記本体が前記ガイド板に対して動く」とは,本件出願当初明細書の記載の範囲内において解釈されるものであるとして,本件補正は新たな技術的事項を導入するものではないとした本件審決の判断に論理矛盾は認められないし,また,原告は,本件審決における本件補正事項2の解釈そのものに誤りがあることを主張するものではないから,原告の上記主張は,採用することができない。 (3) 小括以上のとおり,本件補正事項1及び2に係る本件補正は特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとはいえないとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(サポート要件及び明確性要件の判断の誤り)について(1) 原告は,本件審決は,本件補正事項1及び2は,いずれも本件出願当初明細書に記載された事項の範囲内のものであって,新規事項ではないから,本件特許発明の特許請求の範囲の記載は,新規事項を含むものであって,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり,サポート要件に適合しないものであるとする原告の主張は理由がない旨判断したが,本件補正事項1及び2は,本件出願当初明細書に記載された事項の範囲内のものとはいえず,新規事項に当たるから,本件審決の上記判断は誤りである旨主張する。 しかしながら,前記1(3)のとおり,本件補正事項1及び2に係る本件補正は特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとはいえな 項に当たるから,本件審決の上記判断は誤りである旨主張する。 しかしながら,前記1(3)のとおり,本件補正事項1及び2に係る本件補正は特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとはいえないと した本件審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は,その前提において,採用することができない。 (2) 原告は,本件審決が,本件特許発明の特許請求の範囲の「前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し,」及び「前記本体が前記ガイド板に対して動く」の構成(本件補正事項2)について,原告の主張するとおりの限定解釈をしたにもかかわらず,その機能的表現は限定解釈どおりに読めると無理にみなして,あえて特許請求の範囲の記載をあいまいなままにして,本件特許発明の特許請求の範囲の記載は,明確性要件及びサポート要件に適合しないものとはいえない旨判断したのは誤りである旨主張する。 しかしながら,原告の上記主張は,その主張自体,本件特許発明の特許請求の範囲の記載が,「発明が明確である」という明確性要件に適合しないことの根拠となるものとはいえないし,また,サポート要件に適合しないことの根拠となるものともいえないから,採用することができない。 (3) 以上によれば,本件審決におけるサポート要件及び明確性要件の判断に誤りがあるとはいえないから,原告主張の取消事由2は理由がない。 3 結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。 したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官大鷹一郎 裁判官田中 原告の請求は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 田中正哉 裁判官 神谷厚毅 (別紙図面) 【図1】 【図2】 【図3】
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