主文 1 被告株式会社Aは,原告に対し,金110万円及びこれに対する平成15年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告の被告株式会社Aに対するその余の請求及び被告B株式会社に対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告に生じた費用の10分の1と被告株式会社Aに生じた費用の5分の1を被告株式会社Aの負担とし,原告及び被告株式会社Aに生じたその余の費用と被告B株式会社に生じた費用を原告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して,金550万円及びこれに対する平成15年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,C型慢性肝炎に罹患している原告が,人材派遣会社である被告株式会社A(旧商号:株式会社C)に雇用され,同社から訴訟承継前の被告株式会社D(現商号:E株式会社)に派遣されて稼働していたところ,被告A及びD等の従業員らが,原告がC型肝炎に罹患していることを上司に報告することにより原告のプライバシーを違法に侵害した上,被告A及びDが共同してC型肝炎罹患を理由に原告を違法に解雇し,かつDの従業員が原告の名誉を毀損したと主張して,被告らに対し,本件解雇については民法719条1項(共同不法行為)に基づき(Dの関与が認められなかった場合には,被告Aに対して民法709条〔不法行為〕に基づき),プライバシー侵害及び名誉毀損については民法715条1項(使用者責任)に基づき損害賠償を求めた事案である。 2 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,各項末尾掲記の証拠によって容易に認められる。 については民法715条1項(使用者責任)に基づき損害賠償を求めた事案である。 2 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,各項末尾掲記の証拠によって容易に認められる。 (1) 当事者等ア原告はC型慢性肝炎(以下,単に「C型肝炎」という。)に罹患している者であり,平成8年7月から,医療法人社団G医院にて定期的に経過観察及び加療を受けている。同病院のF医師は,原告の病状について,定期的な通院は引き続き必要であるが,就業に関しては運動強度の高い屋外での肉体労働は別として,一般的な労働に従事するのは支障がないと診断している。(甲14)イ被告A(平成16年10月28日に旧商号株式会社Cから現商号に変更した。)は,労働者派遣事業等を業とする株式会社である。(争いがない)ウ Dは,医薬品の卸売販売等を業とする株式会社である。同社は,平成16年7月8日,商法374条の16以下に定める吸収分割の方法により,医薬品等の卸売事業に関する営業の全部を株式会社Hに承継させた。同社は,同年10月1日,商号をB株式会社に変更した(以下「被告B」という。)。(弁論の全趣旨)(2) 解雇に至る経過ア原告は,平成15年5月7日(以下,平成15年中の月日については,月日のみを表示する。),被告Aとの間で,D神戸支店を勤務先とし,医薬品の配送補助及び倉庫内でのピッキング作業(配送する商品を取り出す作業)等を内容とする雇用契約(賃金は時給1050円であり〔ただし,15日間以上勤務した場合は,入社時に遡って1200円となる。〕,支払日は毎月15日である。以下「本件雇用契約」という。)を締結した。(甲2,3)イ原告は,5月7日午前9時からD神戸支店においてピッ た場合は,入社時に遡って1200円となる。〕,支払日は毎月15日である。以下「本件雇用契約」という。)を締結した。(甲2,3)イ原告は,5月7日午前9時からD神戸支店においてピッキング作業及び配送作業に従事し,午後は,午後5時までピッキング作業と仕分け作業を行った。 原告は,同日午前の配送作業において,Dから商品納入業務を受託しているI株式会社(なお,同社はDの子会社〔株式保有率84.2%〕であり,Dは同社に対して関西地区における各営業支店から医療機関への商品納入業務等を委託している。)の従業員であるJが運転する配送トラックに同乗し,原告と同様に被告Aから派遣されていたPと3名でQ病院への医薬品の配送に出発した。その車中,原告とPとの間で飲酒が話題になった際,原告はC型肝炎に罹患しているので飲酒ができない旨述べ,Jもこれを聞いていた。(争いがない)ウ Jは,5月8日,原告がC型肝炎に罹患していること(以下,原告がC型肝炎に罹患している事実を「本件罹患事実」という。)をDの病専グループ(大規模な医療機関を担当するグループ)のKに対して報告し,Kはこれを同グループ長のLに対して報告した。また,Jは本件罹患事実をIの神戸営業所所長であるMに対しても報告した。また,Lは,同日,本件罹患事実をD神戸支店商品課課長のNに報告し,MもこれをNに報告した。(乙1,2)エ Pは,5月8日,本件罹患事実を被告A明石営業所のOに報告し,Oはこれを同営業所所長及び同社の本社総務課担当者に報告して相談した。また,Oは,同日,Nにも電話をかけたが,その際,NはOに対し,原告に自らの病気を誰彼なく話すものではないと注意するように伝えた。(乙2,丙4,5)オ Oは,5月9日の昼休憩中,D神戸 た,Oは,同日,Nにも電話をかけたが,その際,NはOに対し,原告に自らの病気を誰彼なく話すものではないと注意するように伝えた。(乙2,丙4,5)オ Oは,5月9日の昼休憩中,D神戸支店に赴き,原告と面接した上で,原告に対して解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。(争いがない)(3) C型肝炎に関する医学的知見C型肝炎はウイルス性肝炎の一種であり,C型肝炎ウイルスは,主として感染者の血液が他人の血液内に入ることによって感染する。したがって,通常の日常生活において感染することはない。 また,C型肝炎ウイルスに感染しても症状がないことが多く,殊に慢性肝炎の場合では,自覚症状のない場合が非常に多い。慢性肝炎となった場合,さらに一部の患者は肝硬変や肝癌へと進行するといわれているが,通常,進行までには20ないし30年といった長い期間がかかり,また,適切な治療を行うことで病気の進行を止めたり遅くしたりすることができる。(甲15) 3 争点(1) 被告Aによる本件解雇の違法性(2) 本件解雇に対するDの関与の有無(3) D,I及び被告Aの従業員が,本件罹患事実を上司に報告したことが違法なプライバシー侵害に該当するか(4) NがOに対して原告が自らの病気を誰彼となく話していると伝えたことが原告の名誉を毀損する不法行為か(5) 損害額 4 当事者の主張(1) 争点(1)(本件解雇の違法性)についてア原告の主張C型肝炎は日常の接触による感染の可能性はなく,職場において何ら感染を心配する必要はない。 また,C型肝炎に罹患していても,一般的な労働に従事するには支 原告の主張C型肝炎は日常の接触による感染の可能性はなく,職場において何ら感染を心配する必要はない。 また,C型肝炎に罹患していても,一般的な労働に従事するには支障がない。本件でも,原告の作業内容は倉庫内のピッキングと医薬品の配送補助であって,時には重い荷物を扱うことがあるかも知れないが一般的な労働の範疇を超えるものではなく,原告がそれまでに経験してきた職業に比して特段加重なものではない。 しかるに,被告Aは,原告がC型肝炎に罹患していることのみを理由として原告を解雇したのであり,これは著しい違法行為である。 イ被告Aの主張(ア) 被告Aが原告を解雇したのは,労働契約書(甲3)において解雇条件として定められている「勤務態度が不良の為,就業に適しないと認められる時」に該当すると考えたためであり,単に原告がC型肝炎に罹患していたからではない。 (イ) 原告は,5月7日午前に原告がJ及びPと共に配送に行った際,配送の車中でPが原告の歓迎会をしようと考え,原告に対し「酒はよく飲むほうか。」と尋ねたところ,原告は「僕ね,先天性のC型肝炎なんですよ。空気感染はしないので大丈夫ですけどね。後で分かってもめるのも嫌なんで,いつも先に言うようにしているんですよ。」ということを矢継ぎ早に述べた。 また,同日午後,原告がPと共にD神戸支店医薬品倉庫内にてピッキング作業をしていたところ,Pが棚に並ぶ医薬品の中に肝炎用の薬品があるのを目にとめ,「肝炎用の薬なんかは効かんのか。」と尋ねたところ,原告は「先天性なので効かないんですよ。だから,もし現場で血が出ることがあったら『近づかないでくれ。』と叫ぶんで離れてくださいね。鼻血とかも出たらいいますんで 薬なんかは効かんのか。」と尋ねたところ,原告は「先天性なので効かないんですよ。だから,もし現場で血が出ることがあったら『近づかないでくれ。』と叫ぶんで離れてくださいね。鼻血とかも出たらいいますんで。」と答えた。 (ウ) 原告の派遣先であるDでは,病院に医薬品を納入する際に,カッターナイフを日常的に使用することから,出血するような傷を負うことも珍しくなく,C型肝炎の感染の可能性も皆無ではない。よって,原告の上記発言はPを非常に驚かせるとともに,相当の恐怖感を抱かせるに十分なものであり,現場で共に働く同僚に対する発言として極めて不適切である。 また,病院は感染症に対して敏感になっており,病院に医薬品を納入する者として,自らの病気のことについて話す際には,相手や場所を選ぶべきであるのに,原告が現場で病気の話をしたことも不適切である。 さらに,原告の従事していた作業はきつい肉体労働であり,C型肝炎の発病により原告が長期の休みを取らざるを得なくなることも考えられ,その場合,現場に相当の負担がかかるおそれがある。 以上のような理由から,被告Aは原告を「勤務態度が不良のため,就業に適しないと認められる時」に該当すると判断したのであり,C型肝炎に罹患していることそれ自体をもって解雇したのではない。 (2) 争点(2)(本件解雇に対するDの関与)についてア原告の主張以下のとおり,本件解雇は被告Aが独断で行ったものではなく,Dに促されてなされたものであり,Dにも責任がある。 (ア) Pは,当初から原告がC型肝炎に罹患していることを問題視していたわけではなく,Jから上司への報告を求められて初めて「まずいことになる。」と考え,O であり,Dにも責任がある。 (ア) Pは,当初から原告がC型肝炎に罹患していることを問題視していたわけではなく,Jから上司への報告を求められて初めて「まずいことになる。」と考え,Oにその旨報告したのである。Jは単に上司への報告を求めたのではなく(報告のみでは何の意味もない。),被告Aに対して,原告がC型肝炎に罹患していることへの何らかの対処を暗に求めていたものと考えられる。そして,C型肝炎罹患の事実は本人の努力では解消のしようがないのだから,これへの対処としては職場からの排除しか考えられない。また,Jが原告に対して何ら病状等を確認しておらず,Jが本件罹患事実をKやMに報告し,KがLに,LがNに,それぞれ驚くべき速さで伝達されていることからすれば,Jは原告のC型肝炎罹患そのものを問題視し,原告の排除を前提としてK及びMに報告したものと考えられる。このように,JはPに上司への報告を求めることによって,被告Aに対して,原告の職場からの排斥を暗に求めたと考えられる。 なお,JはDではなくIの従業員であるが,同社はDの子会社であるとともに,D神戸支店商品課の指揮監督の下で,同課の業務と密接に関連した業務(配送作業)を行っているのであるから,Jの行為はDの業務執行の一部といえる。 (イ) NはL及びMから本件罹患事実の報告を受けて,取引先の病院に本件罹患事実が知れた場合の反応を過度に恐れ,原告の早期の排除を望むとともに,その間,原告を黙らせるために,5月8日,原告に対し「お前はC型肝炎にかかっているそうだが,ここは医薬品を扱っていて,皆の神経が過敏になるから黙っとけ。」と恫喝めいた口調で述べた。そして,Nは,その後にOからの電話を受けた際,Oに対し,原告に自らの病気を誰彼となく話さないように注意 だが,ここは医薬品を扱っていて,皆の神経が過敏になるから黙っとけ。」と恫喝めいた口調で述べた。そして,Nは,その後にOからの電話を受けた際,Oに対し,原告に自らの病気を誰彼となく話さないように注意するよう促し,Oは善処する旨答えたということである。しかし,原告は誰彼構わずに本件罹患事実を話したわけではないから,Oとしても解雇以外に善処などしようがないはずであり,事実,翌9日には解雇されているのである。これらからすれば,NとOの上記やりとりは,職場からの排斥を要求し,これを応諾したものと捉えなければならない。Oは,Nの反応から原告を解雇しなければ収まらないと考え,同日,D神戸支店に赴いた際にも,原告と面会する前にNに対して「解雇の日はまかせてもらえますか。」と述べ,これに対しNは驚く様子もなく「倉庫の方ならちょっとの間やってもらっていいよ。」と返答したのであるから,本件解雇はOとNとの間で既定路線となっていたと考えるほかない。 (ウ) また,Dは医薬品の卸売販売業の大手であり,他方,被告Aは地場の人材派遣会社にすぎないという力関係にあることからすれば,被告Aは,Dの意向に従わざるを得ない関係にあり,これを背景にしてN及びJは被告Aをして原告を解雇するよう仕向けたのである。 仮に,N及びJに,原告の解雇を求める意図がなかったとしても,少なくとも,同人らはOあるいはPとの会話により,原告が被告Aにおいて不利益な処遇を受けることを認識し,あるいは容易に認識し得たはずであり,本件解雇に対して,故意又は過失によって加担したものである。 イ被告Bの主張J及びNが被告Aに原告を解雇するよう促したことはなく,本件解雇は,被告Aが独自の判断に基づいてなしたものである。 ( たものである。 イ被告Bの主張J及びNが被告Aに原告を解雇するよう促したことはなく,本件解雇は,被告Aが独自の判断に基づいてなしたものである。 (ア) Jは,Pに対して,自らも上司に報告することを告げた上で,必要があればお願いしますという形で被告Aに報告してくださいという趣旨の発言をしたにすぎないのであって,原告の排除を暗に求めたとは到底いえない。Jは,自分なりの判断で,原告の健康状態から業務に支障が生じた場合に,迷惑が及ぶと考えた範囲の担当者及び上司に報告をしているにすぎず,原告の排斥など微塵も考えていなかった。 そもそも,JはDではなくIの従業員であり,DはIに配送業務を委託していた関係にあるから,業務上の具体的な指揮監督権は明らかにIにあり,Dの業務の執行とは無関係である。 よって,Jの行為について,Dが責任を負う根拠はない。 (イ) Nは,5月8日のOからの電話において,同人に対して「医療機関に商品を納品している立場だから,そこの者が特別の理由もないのに自分の病気のことを同僚であれ誰であれ話すものではないでしょう。そちらからも注意するようお願いします。」と申し入れたが,原告を解雇することなど考えてもいなかった。 翌9日にOがD神戸支店を訪れて,原告と面接した結果,Oが「本人が辞めると言っています。明日でもお伺いします。」と述べたので,Nとしては唐突な思いがしたが,雇用関係自体は原告と被告Aとの間の問題であり,双方で話がついている以上,Dとして口を挟む立場にもないので事態を静観していたにすぎない。 (3) 争点(3)(プライバシー侵害)についてア原告の主張原告がC型肝炎に罹患している事実( として口を挟む立場にもないので事態を静観していたにすぎない。 (3) 争点(3)(プライバシー侵害)についてア原告の主張原告がC型肝炎に罹患している事実(本件罹患事実)は秘匿性の高い個人情報であり,みだりに流布されるべきではない。しかるに,D,I及び被告Aの従業員は,以下のとおり,本件罹患事実をみだりに上司等に報告し,もって,原告のプライバシーを侵害した。なお,J及びMはIの従業員であるが,これらの者の行為がDの業務執行の一部であることは前記(2)ア(ア)のとおりである。 (ア) D(被告B)関係aJによるプライバシー侵害IのJは,本件罹患事実をD従業員のK及びIのMにそれぞれ報告した。 他人の病歴は,たとえ上司であっても業務上報告する必要性はないし,仮に,Jが自らの上司であるMに報告したことは許されるとしても,指揮命令関係のないKに本件罹患事実を報告したことは到底正当化できない。 b Kによるプライバシー侵害Jからの報告を受けたKは,原告とは面識がなく,原告に対する業務上の指揮命令権も監督関係もないにもかかわらず,本件罹患事実を自らの上司であるLに対して報告した。 c Lによるプライバシー侵害Kからの報告を受けたLは,原告とは面識がなく,原告に対する業務上の指揮命令権も監督関係もないにもかかわらず,本件罹患事実をNに報告した。Lの報告は「ただそういう話が出てるぞ。」という程度のものであり,何らの必要性も認められない。 d Mによるプライバシー侵害Jからの報告を受けたMは, 。Lの報告は「ただそういう話が出てるぞ。」という程度のものであり,何らの必要性も認められない。 d Mによるプライバシー侵害Jからの報告を受けたMは,わざわざNを訪問し,Nに対して本件罹患事実を報告した。 e Nによるプライバシー侵害Nは,被告AのOに対して,本件罹患事実を報告した。 (イ) 被告A関係被告Aの従業員であるPは,本件罹患事実をOに報告し,さらに,Oはこれを被告A明石営業所所長や本社総務課担当者に報告した。 イ被告Aの主張原告は,本件罹患事実を自ら同僚に明かしたのであり,特に口止めもしていない。よって,原告自身,かかる事実を特に秘匿していたわけではない。 Pは原告から体調が悪いときもあると聞き,作業自体が相当ハードなときもあり,かつ最低限の人員で行われていたから,原告に休まれると作業の進行に支障が出る可能性があると考え,Oに本件罹患事実を報告したのである。 また,Oは,直接の上司である明石営業所所長,本社総務課の担当者及びNに対して,部下の健康状態及び職務適性等を把握して報告するという職務上必要最低限の事柄を報告したのみである。 したがって,PやOが本件罹患事実をこれらの者に報告したことは,違法なプライバシー侵害とはいえない。 ウ被告Bの主張原告は,自ら本件罹患事実をJ及びPに対して話したのであり,全く口止めもしていない。 Jは,原告がC型肝炎ウイルスに感染しているだけでなく,C型肝炎に罹患していることから,今後,同じ納品先の担当者として共に作業を行う上で,作業上又 であり,全く口止めもしていない。 Jは,原告がC型肝炎ウイルスに感染しているだけでなく,C型肝炎に罹患していることから,今後,同じ納品先の担当者として共に作業を行う上で,作業上又は原告の健康上,何か支障が生じないか不安を抱き,少なくとも自らの配送先を担当している者には原告の病気を報告しておくべきと考え,Kに報告し,また,自社の上司であるMにも報告した。その後,Kは上司であるLに報告し,Mは自社の業務に直接関わる商品管理の責任者であるNに報告し,Lも商品管理の責任者であるNに報告したにすぎない。 上記のように,これらの情報伝達行為は,作業上又は原告の健康上の不安を懸念して,情報を伝えておく必要があると考えられる範囲に限定してなされたものであり,原告の私生活をみだりに公開する意思もなく,公開されたものでもない。したがって,不法行為を構成する違法なプライバシー侵害にはあたらない。 なお,原告はNがOに対して本件罹患事実を流布したと主張するが,Nは,Oからの電話で「Pから報告がありました。病気の件はご存じですね。」との報告を受けたのであり,Nが流布したわけではない。 (4) 争点(4)(名誉毀損)についてア原告の主張Nは5月9日の夕方にOと電話で話した際,Oに対して,原告が自らC型肝炎に罹患していることを誰彼なく話しているが,医療機関に商品を納入している立場としてとるべき言動ではないので,注意してほしい旨述べている。 しかし,原告はそもそも自らがC型肝炎である事実を誰彼なく話したことがなく,Nはそれらの事実を確認していない。Nのかかる注意は原告の名誉又は名誉感情を毀損するものである。 イ被告Bの主張争 C型肝炎である事実を誰彼なく話したことがなく,Nはそれらの事実を確認していない。Nのかかる注意は原告の名誉又は名誉感情を毀損するものである。 イ被告Bの主張争う。 (5) 争点(5)(損害額)についてア原告の主張(ア) 慰謝料原告はC型肝炎という自らでは避けがたい理由により,被告A及びDから差別的取扱を受け,就労の機会も奪われたのであり,その精神的苦痛・屈辱感は計り知れない。 また,現実にも,不況の折,就職先が容易に見つからない中でせっかく就労の機会を得ることができたのに,突然不当な理由により就労の機会を奪われ,勤務を続けていれば当然得られたであろう給与も得ることができなかった。 よって,原告の精神的苦痛を慰謝するための金員は,500万円を下らない。 (イ) 弁護士費用原告は,原告訴訟代理人弁護士に訴訟追行を依頼したので,その費用は金50万円を下らない。 イ被告らの主張争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件解雇の違法性)について(1) 原告は本件解雇がC型肝炎罹患のみを理由としてなされた違法なものであると主張し,被告Aは原告が労働契約上の解雇条件である「勤務態度が不良の為,就業に適しないと認められる時」に該当するから適法であると主張するので,以下検討する。 (2) 前記前提となる事実において認定のとおり,C型肝炎ウイルスは,主として感染者の血液が他人の血液内に入ることによって感染するものであり,通常の日常生活において感染することはなく,原告の健康状態としても,定期的な通院は必要であるものの, り,C型肝炎ウイルスは,主として感染者の血液が他人の血液内に入ることによって感染するものであり,通常の日常生活において感染することはなく,原告の健康状態としても,定期的な通院は必要であるものの,就業に関しては,運動強度の高い野外での肉体労働は別として一般的な労働に従事するのは支障ないと診断されていることからすれば,原告がC型肝炎に罹患していることのみを根拠として「就業に適しない」と解することは到底できない。この点,被告Aは,C型肝炎の発病により長期休暇を取らざるを得なくなった場合に,現場に相当の負担がかかると主張するが,上記認定の原告の健康状態からすれば,近々に原告のC型肝炎が増悪して長期の休暇が必要になるほどの切迫した事情は窺えないし,そもそも被告Aの従業員は原告の健康状態について何ら確認していない。とするならば,被告Aの上記主張には根拠がないものといわざるを得ず,仮に長期休暇が必要になったとしても,原告の従事した作業内容からして,欠員の補充が困難であるという事情も認められないことからすれば,単なる抽象的な可能性のみをもって就業に適しないとはいえない。 また,被告Aは,作業においてカッターナイフを日常的に使用することから感染の危険性が皆無ではないと主張するところ,確かに,証人Pはカッターナイフを使用する作業をしたことがあると証言するが,他方,証人Jは,配送において原告にカッターナイフを使用させる作業は予定していなかったと証言しており,実際にも,原告は作業に従事した3日間に,直接カッターナイフを用いて作業をすることはなかったと供述していることからすれば,少なくとも配送においてカッターナイフを用いて作業することは予定されていなかったものと認められる。また,仮にカッターナイフを用いる作業があったとしても,それによって出血する可 していることからすれば,少なくとも配送においてカッターナイフを用いて作業することは予定されていなかったものと認められる。また,仮にカッターナイフを用いる作業があったとしても,それによって出血する可能性は必ずしも大きいものとはいえないし,出血した場合でも,前記前提となる事実(3)で認定したC型肝炎ウイルスの感染力の弱さからすれば,血液に触れないように適切な対処をすれば感染は防げるのであり,原告を当該業務から排除しなければならないほどの危険性があったとは認められない。 さらに,被告Aは,病院に医薬品を納入している者として,自らの病気について他人に話す際には,相手や場所を選ぶべきとも主張するが,前記前提となる事実に加え,証拠(甲6,丙4,証人P,原告本人)によれば,原告がC型肝炎の罹患について話したのは,5月8日の配送車の中で飲酒できない理由として述べた時と,同日午後にD神戸支店の倉庫内でピッキング作業をしていた際に,Pから肝炎の治療薬であるインターフェロンが効かないのか問われて,若干のC型肝炎に関する説明と原告自身の病状の説明をした時のみであることが認められ,配送先の病院において原告が本件罹患事実を公言したような事実は本件証拠上窺われない。そうすると,原告が不特定多数に伝播する形で自らの病歴を話したわけではないのであるから,原告が話す相手や場所を選んでいなかったとは認められず,この点でも,被告Aの主張には根拠がない。 以上検討したところからすれば,本件において原告が「勤務態度が不良の為,就業に適しないと認められる」とは到底いえないのであって,同解雇条件には該当しないというべきである。 (3) 加えて,本件では,原告が本件罹患事実を明らかにしてから,わずか2日後の5月9日に解雇が告知されており,その前に原告の えないのであって,同解雇条件には該当しないというべきである。 (3) 加えて,本件では,原告が本件罹患事実を明らかにしてから,わずか2日後の5月9日に解雇が告知されており,その前に原告の病状に関する調査が一切なされていないこと,上記のとおり,被告Aが解雇理由として主張する事項には,何らの根拠もないことからすれば,本件解雇は,原告がC型肝炎に罹患しているという事実のみを理由としてなされたものと認めるのが相当である。そして,前記説示のとおり,C型肝炎であることのみを理由に解雇をすることは到底許されるものではなく,本件解雇はC型肝炎に対する十分な認識ないし調査もないまま一種の偏見に基づいてなされたものであり,著しく社会的相当性を逸脱した違法行為というべきである。 よって,本件解雇は被告Aの原告に対する不法行為となる。 2 争点(2)(本件解雇に対するDの関与)について(1) 上記認定のとおり,本件解雇は著しく社会的相当性を逸脱した違法行為であるところ,原告は本件解雇は被告AがDに促されて行ったものと主張し,これに対して,被告Bは被告Aが独断で行ったものであると主張するので,以下検討する。 (2) まず,Jの行為について検討するに,前記前提となる事実に加え,証拠(乙1,丙4,証人J,同P)によれば,Jは,5月8日,本件罹患事実をK及びMに報告するとともに,Pに対しても本件罹患事実を上司に報告するよう求めたこと,これを受けてPが本件罹患事実を被告Aの担当者であるOに報告したこと,その際,PはOに対して,Dの耳にも入っているからまずいことになるかも知れない旨述べたことがそれぞれ認められる。 そして,原告はJがPに対して上司への報告を求めたことは,原告の排除,すなわち解雇を求めたことにほかな 耳にも入っているからまずいことになるかも知れない旨述べたことがそれぞれ認められる。 そして,原告はJがPに対して上司への報告を求めたことは,原告の排除,すなわち解雇を求めたことにほかならないと主張する。しかし,証拠(証人J,同P)及び弁論の全趣旨によれば,原告が従事していた配送作業及び倉庫内でのピッキング作業は,必ずしも軽作業ではなく,時には体力的に厳しいこともあると認められることからすれば,Jが本件罹患事実を知って原告が作業についていけるか危惧した(証人J)というのも通常人の反応として首肯し得るところであり,Pも同様の心配をした旨証言していることをも併せ考慮すると,Jは,業務への支障を危惧してJに上司への報告を求めたものと推認するのが相当である。これに対して,原告は,Jが原告の通院状況や稼働状況,欠勤のおそれなどについて一切調査確認しようとしていないことから,Jが業務への支障を危惧したというのは後付けの理由にすぎず,単にC型肝炎であることのみを理由として職場からの排除を要求したと主張する。しかし,Jは配送に従事する者にすぎないのであり,作業現場を指揮ないし監督する者でもなく,欠勤があった場合のための態勢を整えるような立場にもないことからすれば,J自ら原告の病状等についてあれこれ詮索するのではなく,上司に対応を求めることも合理的な判断と考えられ,Jが原告に病状等を確認せずに上司に報告したからといって,原告の職場からの排除を求めたと断ずることはできない。また,原告は,JからNへの情報伝達が早かったことも,解雇を前提とした報告がなされていることを窺わせる事情とするが,これとて,Jが原告の排除を求めたことを推認する事情としては,あまりに薄弱といわざるを得ない。 確かに,結果的に見れば,JがPに対して上司への報告を求め, ていることを窺わせる事情とするが,これとて,Jが原告の排除を求めたことを推認する事情としては,あまりに薄弱といわざるを得ない。 確かに,結果的に見れば,JがPに対して上司への報告を求め,Pがまずいことになるかも知れないと直感してその旨Oに報告したことから本件解雇に至ったものといえる。しかし,証人Pは,「まずい」ことの内容について,「具体的には言えないです。僕の予感でしたので。」と証言し,その予感についても「どうなるかわかりませんけども,ちょっとまずいことになるんじゃないかという予感ですね。」と証言しており,いかなる根拠に基づいて,いかなる意味でまずいことになるかも知れないと直感したのか明らかでなく,漠然とした印象を持ったにとどまるとみられ,少なくとも原告が働き続けることができなくなるかも知れないというような危惧は感じていなかったと証言していることからすれば,やはり,Jが解雇を暗に求めたということまでは認められないというべきである。 よって,原告の主張によっても上記推認を覆すに足りないというべきであり,JがPに対して上司に報告を求めたことにつき,暗に原告の排除を求めたとは認められない。 なお,前記1で認定のとおり,被告Aが原告に対しC型肝炎を理由として解雇したことは著しく社会的相当性を欠く違法行為であり,JがPに上司への報告を求めたことが通常解雇に結びつく行為ではないことからすれば,Jの行為が本件解雇と客観的に関連したものともいえないというべきである。 (3) 次に,Nの行為について検討するに,前記前提となる事実に加え,証拠(丙5,証人N,同O)及び弁論の全趣旨によれば,Nが5月8日に原告に対して自らの病気のことを誰彼なく話すものではないと注意したこと,同日,Oからの電話で,OがNに対して,原告 なる事実に加え,証拠(丙5,証人N,同O)及び弁論の全趣旨によれば,Nが5月8日に原告に対して自らの病気のことを誰彼なく話すものではないと注意したこと,同日,Oからの電話で,OがNに対して,原告の「病気の件はご存じですね。」と述べたのに対し,Nは「医療機関に商品を納品している立場だから,そこの者が特別の理由もないのに自分の病気のことを同僚であれ誰であれ話すものではないでしょう。そちらからも注意するようお願いします。」旨述べ,原告への注意を求めたこと,これに対しOが善処する旨答えたこと,翌9日,OがD神戸支店を訪れ,原告に面接する前に,Nに対し,場合によっては解雇となることもあると述べ,これに対し,Nが倉庫であれば働いてもらっても構わない旨答えたことがそれぞれ認められる。 原告は,かかるやりとりから,5月9日にOが原告と面接する前から,NとOとの間で原告を解雇することが既に決まっており,これはNが求めたものであると主張する。確かに,OとNとの間の上記やりとりからすれば,既に被告Aにおいて解雇する方針が決まっており,Nも了解していたと考えられなくもない。しかし,Nが5月8日に原告に対して自身の病気について話さないように注意したということは,すなわち,原告が今後も作業に従事することを前提としているとも考えられるし,Nの発言内容からして,Nが原告のC型肝炎の罹患それ自体を問題視していたとまでは認められない。これに加え,N及びOは,Dが原告の解雇を求めたことについて,いずれも一貫して否定していることをも考慮すると,上記やりとりのみをもってNがOに対して原告の解雇を要求したとまでは認めることはできないというべきであり,その他,これを認めるに足りる証拠はない。 (4) 以上のとおり,本件解雇についてDの関与があったと認めるに足り がOに対して原告の解雇を要求したとまでは認めることはできないというべきであり,その他,これを認めるに足りる証拠はない。 (4) 以上のとおり,本件解雇についてDの関与があったと認めるに足りる証拠はないことからすれば,Dに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求には理由がない。 3 争点(3)(プライバシー侵害)について(1) 前記前提となる事実に加え,証拠(乙1,2,丙4,5,証人J,同P,同N,同O)及び弁論の全趣旨によれば,原告から本件罹患事実を聞いたJは,5月8日にこれをDのKとIのMに報告し,KはLに,LはNにそれぞれ報告し,MもNに報告したことが認められ,同様に原告から本件罹患事実を聞いたPは,これをOに報告し,Oは被告A明石営業所所長及び本社総務課担当者に,これを報告していることがそれぞれ認められる。 そして,原告は,かかる報告行為がいずれも違法なプライバシー侵害にあたると主張するので,以下検討する。 (2) 総論個人の病歴・病状に関する情報は一般に高度の秘匿性を有する個人情報に属するものと認められ,これを本人に無断で第三者に開示する行為は,個人のプライバシーを侵害するおそれが強いものと認められる。しかしながら,このような秘匿性の高い個人情報であっても,その開示行為が当然に違法性を有し,開示者が本人に対して不法行為責任を負うと考えるのは相当ではなく,当該個人情報の入手経緯,開示された個人情報の性質,開示することの合理性,開示された相手方及びその範囲,開示によって当該個人が受ける不利益の程度等を総合考慮して,当該個人情報の開示行為が社会通念上許容される限度を逸脱したと認められる場合に限り,違法なプライバシー侵害に該当するものと解するのが相当である。 (3) D関 不利益の程度等を総合考慮して,当該個人情報の開示行為が社会通念上許容される限度を逸脱したと認められる場合に限り,違法なプライバシー侵害に該当するものと解するのが相当である。 (3) D関係の事情まず,JがM及びKに報告し,KがLに,L及びMがNにそれぞれ本件罹患事実を開示した行為について検討する。 ア本件で開示された情報は個人の病状に関するものであり,一般的に高度の秘匿性を有するものと認められる。しかしながら,本件罹患事実は,本人が関知しないところで入手されたものではなく,原告自身が飲酒できないことの理由として自ら進んで明らかにしたものであり,原告がJ及びPに口止め等の措置を講じていないことからしても,原告が本件罹患事実の秘匿性に対して特別の期待を有していたとまでは認められない。 また,本件ではC型肝炎という原告の病名のみの開示であって,病状に関する具体的な情報が開示されたわけでもない。 イ開示することの合理性についても,本来,使用者(雇用契約上の使用者に限らず,現場において指揮・監督する者も含む。)が業務の円滑な執行及び労働者の職場環境の整備のために,労働者である被用者の病歴・病状に関する情報を入手することには一定の合理性が認められるところ,本件でも,原告は運動強度の高い屋外での肉体労働には適さないこと(甲14),前記2(2)で認定のとおり,原告が従事した作業は,時に肉体的負担が重くなることもあり,それによって原告の病状が急激に増悪して欠勤せざるを得ない可能性も皆無ではないこと(甲15,弁論の全趣旨)に照らすと,上司に対して業務の執行に支障を来し得る本件罹患事実を報告すること自体には合理性があるというべきであるし,適切な就業上の配慮をするためには,むしろ必要なこととい (甲15,弁論の全趣旨)に照らすと,上司に対して業務の執行に支障を来し得る本件罹患事実を報告すること自体には合理性があるというべきであるし,適切な就業上の配慮をするためには,むしろ必要なことといえる。また,前記2(2)で認定のとおり,Jは単なる興味本位で本件罹患事実を報告したのではなく,業務への支障を危惧して報告したのであり,K,L及びMも同様の目的の下に報告したものと推認できることをも併せ考慮すれば,上記Jらの各開示行為には合理性が認められる。 ウ開示の相手方についても,Jに関しては,自らの直属の上司であるMと,業務委託を受けているDの営業担当者であるKの2名であり,上記開示目的との関係で合理的かつ必要最小限の開示にとどまると考えられるし,KのLへの報告も上司への報告であり,L及びMのNへの各報告も,NがD神戸支店の商品課を統括する者であることからすれば,業務への支障及び職場環境の整備のために合理的かつ必要最小限の開示であったということができる(なお,原告は,Dには業務上の指揮命令権も監督関係もないから開示することに合理性がないと主張するが,原告が従事した作業は医薬品の配送補助のみではなく,D神戸支店倉庫内でのピッキング作業も含まれるのであり,少なくとも,同作業においては,Dに業務上の指揮監督権があることは明らかである。)。 エ開示によって原告が受けた不利益としては,まず本件解雇が考えられるが,前記2認定のとおり本件解雇にDが関与したものとは認められないことからすれば,本件解雇は上記Jらの各開示行為による不利益とはいえない。また,Jらの上記各開示行為によって,原告は5月8日にNから自らの病気を誰彼なく話すものではない旨の注意を受け(甲6,乙2,証人N,原告本人),NはOに対しても原告に同様の注意をするよう いえない。また,Jらの上記各開示行為によって,原告は5月8日にNから自らの病気を誰彼なく話すものではない旨の注意を受け(甲6,乙2,証人N,原告本人),NはOに対しても原告に同様の注意をするように求めているが,前者については,その当否はともかく,単なる事実上の不利益にすぎないし,後者についても,後記4のとおり独立の不法行為となるものではなく,事実上の不利益にすぎないことからすれば,Jらによる上記各開示行為によって,原告が特段の不利益を被ったとは認められない。 オ以上検討したところによれば,J,K,L及びMが原告に了解を得ないまま本件罹患事実を上司に報告したことについては,いささか配慮を欠く側面があったといえるが,上記のとおりDにとって本件罹患事実を知っておくことには合理性があると認められること等からすれば,Jらによる上記各開示行為は社会通念上許容される限度を逸脱したものとは認められない。 (4) 被告A関係の事情次に,PのOへの報告並びにOの明石営業所所長及び本社総務課担当者に対する各開示行為について検討する。 ア開示された情報の性質及びそれを入手した経緯については,前記(3)アで説示したとおりである。 イ開示することの合理性についても,被告Aは原告を直接雇用する者として,業務の円滑な執行及び職場環境の整備のために,本件罹患事実を知っておくこと自体には合理性があるといえるし,P自身も本件罹患事実を知って原告が作業についていけるのか心配した旨証言していることからすれば,Pの開示行為には合理性があったと認められる。また,Oの明石営業所所長及び本社総務課担当者に対する報告については,本件証拠上,その目的は明らかではないが,Oから報告を受けた明石営業所所長はOに対し,Dの耳に 為には合理性があったと認められる。また,Oの明石営業所所長及び本社総務課担当者に対する報告については,本件証拠上,その目的は明らかではないが,Oから報告を受けた明石営業所所長はOに対し,Dの耳に入った以上は,まずこちらの方から動いた方がよい旨応答し,同じく報告を受けた本社総務課担当者はOに対し「本人が言い回っているというのであれば問題があるので,事実を確認するように」指示した(証人O)というのであって,直ちに解雇するような指示がなされたものとは認められず,Oが解雇を前提に報告したと認めるに足りる証拠もないことからすれば,Oの開示行為にも合理性がないとはいえない。 ウ開示の相手方について,Pは上司であるOにのみ報告したのであり,Oも対処を相談するために自らの上司である明石営業所所長及び本社総務課担当者へ報告したのみであって,開示の範囲は必要最小限ということができる。なお,原告はOのNへの報告についてもプライバシー侵害と主張するところ,前記2(3)で認定したとおり,OがNに対して本件罹患事実を報告した際には,既にNはM及びLからの報告によって本件罹患事実を知っていたのであるから,Nとの関係においては,Oの開示行為によって原告のプライバシーが侵害されたという関係にはない。 エ開示によって原告が受けた不利益について,原告は,P及びOの各報告行為によって,結果的に解雇という重大な不利益を受けているが,C型肝炎であることを理由として解雇することは,通常は考えられないことからすれば,本件罹患事実の開示と本件解雇との関連性は社会通念上必ずしも強いとはいえない。 オ以上検討したところによれば,前記Jと同様,Pが原告に了解を得ないまま本件罹患事実を報告したことには配慮を欠く側面があったことは否めないが,被告Aは直 上必ずしも強いとはいえない。 オ以上検討したところによれば,前記Jと同様,Pが原告に了解を得ないまま本件罹患事実を報告したことには配慮を欠く側面があったことは否めないが,被告Aは直接の使用者として本件罹患事実を知っておくことの合理性があること等からして,P及びOの各開示行為もまた,社会通念上許容される限度を逸脱したものとは認められない。 4 争点(4)(名誉毀損)について前記前提となる事実において認定したとおり,Nは,5月9日の夕方,Oからの電話で,同人に対して,原告が自らC型肝炎に罹患していることを誰彼なく話していると述べたことが認められるところ,原告は,かかる事実の摘示が名誉毀損に当たると主張する。 しかし,Nは当該事実をOにしか述べていないのであり,不特定多数が知り得る態様で事実を摘示したものではなく,かつ不特定多数に伝播する可能性を認めるに足りる証拠もないことからすれば,かかる行為が原告の名誉すなわち社会的評価を低下させたものとは認められない。 よって,当該事実の真否について検討するまでもなく,名誉毀損に基づく損害賠償請求には理由がない。 5 争点(5)(損害額)について上記のとおり,本件においては被告Aによる解雇が不法行為として損害賠償請求の対象となるところ,本件解雇は原告がC型肝炎に罹患していることを理由としてなされた違法かつ不当なものであり,かかる不合理な理由に基づいて突如解雇されたことによって原告が受けた精神的苦痛は相当大きいものと認められる。 そこで,原告が被告Aで稼働した期間や,原告が従事した作業の内容及び時給の額,原告の健康状態及び年齢(本件当時29歳)等による再就職の可能性等を総合考慮して,本件解雇によって受けた原告の上記精神的苦痛を慰謝する が被告Aで稼働した期間や,原告が従事した作業の内容及び時給の額,原告の健康状態及び年齢(本件当時29歳)等による再就職の可能性等を総合考慮して,本件解雇によって受けた原告の上記精神的苦痛を慰謝するに足りる金額として,100万円をもって相当と認める。 また,本件事案の難易,性質等を総合すると,原告らが支払うべき弁護士費用のうち10万円の範囲で本件解雇と相当因果関係を認めるのが相当である。 6 結語そうすると,原告の本訴請求は,被告Aに対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,110万円及びこれに対する不法行為の日である平成15年5月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求める限度で理由があるからこれを認容し,被告Aに対するその余の請求及び被告Bに対する請求は失当としていずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行宣言につき同法259条1項を各適用して,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第6民事部裁判長裁判官田中澄夫裁判官大藪和男裁判官北岡裕章
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