平成20年7月8日判決言渡東京簡易裁判所平成20年(少コ)第66号賃金等請求事件(通常手続移行) 判決 主文 1 被告は原告に対し,金34万9250円を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを10分し,その9を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求の趣旨被告は原告に対し,金38万6250円を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告が経営する銀座のクラブ店舗においてホステスとして稼働していた原告が,雇用契約に基づく未払賃金を請求したのに対し,被告が,原告被告間の契約は雇用契約ではなく,報酬額を月ごとの純売上高に応じて定める請負類似の契約であり,店則に基づく様々な控除をすると原告に支払うべき金員は請求額より少ない,として争う事案である。 1 請求原因の要旨(1) 原告は,平成19年7月18日,賃金額日給3万円,賃金支払日毎月10日締め当月25日払いの条件で,被告会社にホステスとして雇用され,同日から勤務した。 (2) 原告は8月1日から28日までの間に15日間勤務し,合計3.5時間分の残業(残業代1時間あたり7,500円)も行い,この間(8月分)の賃金額は47万6250円(日給30,000円×15日+残業代7,500円×3.5時間)である。 (3) 前記賃金額から,前払金として受領済みの9万円を控除した残額38万6,250円(476,250円-90,000円)の支払を求める。 2 争いのない事実及び前提事実(1) 原告が,平成19年7月18日から同年8月28日まで,被告経営の銀座のクラ 額38万6,250円(476,250円-90,000円)の支払を求める。 2 争いのない事実及び前提事実(1) 原告が,平成19年7月18日から同年8月28日まで,被告経営の銀座のクラブ店舗においてホステスとして稼働したこと,8月1日から28日まで(8月分)の勤務日数が15日間であること,この間の残業時間が少なくとも2時間あること,遅刻が4回(合計1時間分)あること,前払金として受領済みの金員が9万円あること,並びに,被告が原告に支払うべき8月分の金員が少なくとも16万9200円あり,これが未払であること,は当事者間に争いがない。 (2) 平成19年7月分として,日給保証額3万円,出勤日数9日で計算された賃金27万円から,遅刻ペナルティー1万5000円,互助会費及び福利厚生費各1万5000円,前払金9万円,源泉所得税2万7000円の合計16万2000円が控除され,10万8000円が原告に支払われた(甲2)。 3 本件の争点及び争点についての当事者の主張要旨(1) 本件契約は雇用契約か請負類似の契約か(被告の主張要旨)本件契約は雇用契約ではなく,月ごとの原告の純売上高に応じてその報酬額を定める,請負類似の契約である。 (原告の主張要旨)勤務条件として出勤時間,退勤時間が定められ,勤務中は被告の指揮・命令に服することを求められ,提供した労働の対価として賃金支払を受けていたので,実態は雇用契約であって請負ではない。 (2) 原告に対する日給保証額は3万円か2万8000円か(被告の主張要旨)原告への1日の報酬額は,月間の純売上高に応じて定められ,純売上高が10万円未満の場合は2万8000円,10万円以上20万円未満の場合は3万円,20万円以上30万円未満の場合は3万2000円である。8月分の純売上 報酬額は,月間の純売上高に応じて定められ,純売上高が10万円未満の場合は2万8000円,10万円以上20万円未満の場合は3万円,20万円以上30万円未満の場合は3万2000円である。8月分の純売上高は10万円未満であったので,1日2万8000円の15日分として計算すべきである。 (3) 残業時間及び残業代の時間あたり単価(被告の主張要旨)残業時間は2時間であり,残業代の時間あたり単価は,店則等に基づき,1時間につき3000円とすることで合意した。 (原告の主張要旨)残業時間は3.5時間であり,残業代の時間あたり単価は,日給保証額3万円を勤務時間4時間で割った7500円とすべきである。 (4) 遅刻ペナルティー名目での控除(被告の主張要旨)店則に基づき,遅刻15分につき2800円を,遅刻ペナルティーとして支給額から控除することを合意した。 (原告の主張要旨)争う。 (5) 同伴ペナルティー名目での控除(被告の主張要旨)店則に基づき,原告は,月4回,顧客を同伴して出勤する義務があり,これを履行しない場合は,1回につき1日分の報酬相当額(日給保証額)を,ペナルティーとして支給額から控除することを合意した。 (原告の主張要旨)争う。 (6) 福利厚生費・互助会費名目での控除(被告の主張要旨)店則に基づき,厚生費(化粧品代・薬代・会食代など)として1ヶ月につき1日の報酬額の50パーセント,互助会費(慶弔費・見舞金・旅行代など)として1ヶ月1万5000円を支給額から控除することを合意した。 (原告の主張要旨)争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件契約は雇用契約か請負類似の契約か)につ ど)として1ヶ月1万5000円を支給額から控除することを合意した。 (原告の主張要旨)争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件契約は雇用契約か請負類似の契約か)について証拠(証人A,原告本人)によれば,被告店舗は従業員・ホステスが20名余り在籍する銀座のクラブであり,原告の勤務時間は午後8時から12時までと定められ,指名客以外の客への接客担当ホステスは,店のママであるAら店側の指示により決められ,原告には選択の余地がなかったことが認められる。このような原告の稼働実態に照らすと,原告には,請負人として被告から委託された接客業務を提供するというような独立の立場は認められず,被告ないしその意を受けた管理者からの指示に従って労務を提供する労働者であるとみるのが相当である。したがって,本件の契約を請負類似の契約であるとする被告の主張は採用できない。 2 争点(2)(原告に対する日給保証額は3万円か2万8000円か)について証拠(乙1・稟議書,原告本人)によれば,原告は被告に入店する際に被告の採用担当者である訴外Bから面接を受け,原告の日給保証額を,月間の純売上高に連動して,これが10万円未満の場合は2万8000円,10万円以上20万円未満の場合は3万円,20万円以上30万円未満の場合は3万2000円とする旨の説明を受けたものと認められる。この点に関し,原告は,月間の純売上高が入店後3ヶ月間10万円未満の状態が続いた場合には減額するが,それまでは日給3万円を保証するとの約束があったと主張するが,これを認めるに足りる証拠はなく,原告の主張は採用できない。したがって,原告に対する日給保証額は2万8000円と認めるのが相当である。 3 争点(3)(残業時間及び残業代の時間あたり単価)について残業時 る証拠はなく,原告の主張は採用できない。したがって,原告に対する日給保証額は2万8000円と認めるのが相当である。 3 争点(3)(残業時間及び残業代の時間あたり単価)について残業時間は,証拠(乙11の2・タイムカード)によれば8月21日の1時間34分,同24日の1時間26分の合計3時間と認められる。 残業代の時間あたり単価については,被告は,入店の際に原告に示して説明した店則(乙5)に1時間につき3000円と定め,別途店の従業員用トイレの中にも同旨の貼り紙(乙6)をして周知していたと主張するが,原告はこれをすべて争っており,被告の主張を認めるに足りる証拠はない。そうすると,日給保証額2万8000円を勤務時間4時間で割った7000円に,労働基準法37条1項による2割5分の割増加算をした8750円(¥28,000÷4×1.25)を1時間あたりの単価と解すべきである。以上によれば,残業代は2万6250円(¥8,750×3)と認めるのが相当である。 4 争点(4)(遅刻ペナルティー名目での控除)について遅刻が4回,合計1時間分あることは当事者間に争いがない。被告は店則に基づき,遅刻15分につき2800円を,遅刻ペナルティーとして支給額から控除することを合意したと主張し,原告も入店の際に同旨の説明を聞いたことを認めている。 たしかに,遅刻はその間の労務が提供されていないことになるので,有給休暇等として認められない限りは,いわゆるノーワークノーペイの原則に照らせばその間の賃金を減額控除することは正当と認められる。しかし,その場合の減額は労務不提供の割合に応じたものであるべきであり,本件では日給保証額を勤務時間で割った1時間あたりの賃金額7000円(¥28,000÷4)を基準に考えるべきである。 そうすると,本件 合の減額は労務不提供の割合に応じたものであるべきであり,本件では日給保証額を勤務時間で割った1時間あたりの賃金額7000円(¥28,000÷4)を基準に考えるべきである。 そうすると,本件で遅刻を理由とする減額が認められるのは,遅刻1時間分に相当する7000円となる。これを超える遅刻15分につき2800円,1時間につき1万1200円を減額する旨の合意は,労務の不履行に対する違約金又は損害賠償を予定することを禁じている労働基準法16条に抵触し,無効と解さざるを得ず,この合意を前提とする被告の主張は認められない。 5 争点(5)(同伴ペナルティー名目での控除)について被告は,店則に基づき,月4回の同伴出勤義務を履行しない場合は,1回につき1日分の報酬相当額(日給保証額)をペナルティーとして支給額から控除することを合意したと主張するが,原告はホステスとして稼動するのは被告の店が2軒目であり,同伴ペナルティーのシステム自体は知っていたが,当初3ヶ月間は同伴義務はないとの説明を受けた,として争っている。 この同伴義務は,店における接客という本来の労務に付随する集客義務と解されるが,これを履行しない場合に一定のペナルティーを課して賃金から控除するということは,労務の不履行に対する違約金又は損害賠償を予定することを禁じている労働基準法16条に抵触し,無効と解さざるを得ず,この合意を前提とする被告の主張は認められない。 6 争点(6)(福利厚生費・互助会費名目での控除)について被告は,店則に基づき,厚生費(化粧品代・薬代・会食代など)として1ヶ月につき1日の報酬額の50パーセント,互助会費(慶弔費・見舞金・旅行代など)として1ヶ月1万5000円を支給額から控除することを合意したと主張するが,原告はこれを争っている。 食代など)として1ヶ月につき1日の報酬額の50パーセント,互助会費(慶弔費・見舞金・旅行代など)として1ヶ月1万5000円を支給額から控除することを合意したと主張するが,原告はこれを争っている。 賃金は,通貨で,直接労働者に,全額を支払わなければならないのが原則であり(労働基準法24条1項),法令又は労働協約に別段の定めがある場合に一部控除が認められるに過ぎない。 また,労働者の自由意思による同意に基づいて賃金と相殺することが許される場合はあり得るが,本件ではそのような同意があったことを認めるに足りる証拠はない。さらに,化粧品代・薬代・会食代・慶弔費・見舞金・旅行代等の福利厚生費・互助会費の具体的費目の内訳をみると,本来会社が負担すべき福利厚生のための費用や互助的・自主的な積立金としての性格のお金であり,原告がこれらの費目により実際の恩恵を受けた事実も認められないことを併せ考慮すると,原告がこれらの支払義務を認め,賃金と相殺することについて原告の自由意思による同意があったと認めるに足りる合理的な理由は見出し難いといわなければならない。 以上によれば,本件において,原告の賃金から被告主張の福利厚生費・互助会費を控除する正当な理由はないといわなければならず,この合意を前提とする被告の主張は認められない。 7 まとめ以上のとおりであるから,原告の請求のうち,本件の契約が雇用契約であることを前提として,日給保証額2万8000円とする15日間分の42万円及び残業代2万6250円の合計額44万6250円から,遅刻による減額分7000円及び前払金として受領済みの9万円を控除した残額34万9250円の支払いを求める部分は理由があるからこれを認容することとし,その余の部分は理由がないからこれを棄却することとする。 額分7000円及び前払金として受領済みの9万円を控除した残額34万9250円の支払いを求める部分は理由があるからこれを認容することとし,その余の部分は理由がないからこれを棄却することとする。 なお,使用者たる被告の源泉所得税徴収義務については,賃金額が確定し現実に賃金を支払った時に発生するものであり,税徴収の方法として認められるに過ぎないから,本件のような,賃金債権の存否自体が係争の目的である場合にその額を確定して支払を命ずる判決においては,これを控除すべきでないと解する。 よって,主文のとおり判決する。 東京簡易裁判所民事第9室裁判官藤岡謙三
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