主文 1 原判決中、不当利得返還請求に係る部分を取り消す。 2 上記部分に係る控訴人らの訴えをいずれも却下する。 3 控訴人らのその余の控訴をいずれも棄却する。 4 控訴費用は控訴人らの負担とする。 (前注)略称は特記しない限り原判決の例による。 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2⑴ 被控訴人は、控訴人A及び控訴人Bに対し、各10万円及びこれらに対する昭和34年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑵ 被控訴人は、控訴人Cに対し、1万2500円及びこれに対する昭和34年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は、株式会社読売新聞社の発行する読売新聞全国版に、原判決別紙謝罪広告目録記載1の内容の謝罪広告を、同記載2の条件で1回掲載せよ。 4⑴ 被控訴人は、控訴人A及び控訴人Bに対し、各2000円及びこれらに対する平成31年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑵ 被控訴人は、控訴人Cに対し、250円及びこれに対する平成31年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は、アメリカ合衆国軍隊が使用する区域であり、立入りを禁じられた場所である東京都北多摩郡砂川町(現立川市)所在の立川飛行場内に正当な理由なく立ち入ったという日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法(昭和27年法律第138号。刑事特別法。以下、同条約を「安保条約」と、同協定を「行政協定」という。)2条違反の公 訴事実により公訴を提起された刑事事件(砂川事件)の被告人であった控訴人A及び控訴人B並びに同被告人であった亡D 別法。以下、同条約を「安保条約」と、同協定を「行政協定」という。)2条違反の公 訴事実により公訴を提起された刑事事件(砂川事件)の被告人であった控訴人A及び控訴人B並びに同被告人であった亡D(本件被告人ら)の相続人である控訴人Cが、被控訴人に対し、砂川事件の上告審裁判所(本件上告審裁判所)の裁判長裁判官田中耕太郎(田中裁判長)が、砂川事件の上告審の係属中に密かにアメリカ合衆国の関係者と面会し、砂川事件の審理の予測、評議の状況、心証等を伝えるなどしていたため、①本件上告審裁判所は憲法37条1項所定の「公平な裁判所」とはいえない状態となっており、田中裁判長が本件被告人らの公平な裁判所の裁判を受ける権利を侵害したとして、国家賠償法1条1項に基づき、控訴人A及び控訴人Bにつき慰謝料各10万円、控訴人Cにつき亡Dの慰謝料10万円のうち同人の法定相続分1万2500円並びにこれらに対する砂川事件上告審判決の日から支払済みまでの遅延損害金の支払と、名誉回復処分として謝罪広告の掲載を求めるとともに、②原判決を破棄し砂川事件を第1審に差し戻す旨の砂川事件上告審判決は憲法37条1項に違反し無効であり、本件被告人らをそれぞれ罰金2000円に処した差戻し後の第一審判決(砂川事件差戻審判決)も無効であるから、本件被告人らが被控訴人に納付した罰金は法律上の原因を欠くとして、不当利得返還請求権に基づき、控訴人A及び控訴人Bにつき各2000円、控訴人Cにつき同人の法定相続分250円並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延利息の支払を求める事案である。 原審が、本件上告審裁判所が憲法37条1項所定の「公平な裁判所」ではないとはいえないなどと判断して、控訴人らの請求をいずれも棄却したのに対し、これを不服として控訴人らが控訴を提起した。 。 原審が、本件上告審裁判所が憲法37条1項所定の「公平な裁判所」ではないとはいえないなどと判断して、控訴人らの請求をいずれも棄却したのに対し、これを不服として控訴人らが控訴を提起した。 2 前提事実次のとおり補正するほか、原判決第2の1(3頁11行目から7頁23行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決3頁22行目、4頁8行目から9行目にかけて及び同頁17行目の 「本件被告人ら」を「本件被告人ら外4名」に、それぞれ改める。 ⑵ 原判決5頁1行目から9行目までを次のとおり改める。 「エ田中裁判長は、昭和34年8月3日、砂川事件上告審の公判期日を同年9月7日、9日、11日、14日、16日及び18日の各午前10時と指定し、本件上告審裁判所は、上記各公判期日を経て、同年9月18日に弁論を終結した(判決宣告期日はおって指定。)。 本件上告審裁判所は、同年12月16日、砂川事件第一審判決がアメリカ合衆国軍隊の駐留が憲法9条2項前段に違反し許すべからざるものと判断したのは、裁判所の司法審査権の範囲を逸脱し同条項及び憲法前文の解釈を誤ったものであり、したがって、これを前提として刑事特別法2条を違憲無効としたことも失当であって、破棄を免れないと判断して、原判決を破棄し砂川事件を東京地方裁判所に差し戻す旨の判決をした(最高裁判所昭和34年12月16日大法廷判決・刑集13巻13号3225頁。以下「砂川事件上告審判決」という。)。なお、同判決は、裁判官7名の補足意見及び裁判官3名の意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものであった。 (甲2、20の2・5~10)」⑶ 原判決5頁12行目から13行目にかけての「刑事特別法2条が違憲無効ではないとの砂川事件上告審判決に拘束 か、裁判官全員一致の意見によるものであった。 (甲2、20の2・5~10)」⑶ 原判決5頁12行目から13行目にかけての「刑事特別法2条が違憲無効ではないとの砂川事件上告審判決に拘束されること」を「上記砂川事件上告審判決の判断に拘束されること」に、同頁14行目の「本件被告人ら」を「本件被告人ら外4名」に、それぞれ改める。 3 争点国家賠償請求に係る争点は⑴ないし⑸の、謝罪広告請求に係る争点は⑴ないし⑹の、不当利得返還請求に係る争点は⑺及び⑻のとおりである。 ⑴ 田中裁判長の行為についての違法性及び故意過失の有無(公平な裁判所の裁判を受ける権利の侵害の有無)⑵ 本件被告人らの損害 ⑶ 除斥期間経過の有無⑷ 除斥期間を適用することが正義公平の理念に反するため除斥期間を不適用とすべきか否か⑸ 消滅時効の完成の有無⑹ 謝罪広告請求の可否⑺ 罰金相当額の不当利得返還請求をすることの適法性(本案前の争点)⑻ 法律上の原因の有無 4 争点に関する当事者の主張次のとおり補正し、5のとおり当審における控訴人らの補充主張を付加するほか、原判決第2の3(8頁12行目から18頁21行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する⑴ 原判決8頁22行目の「駐日アメリカ主席公使」を「駐日アメリカ首席公使」に改める。 ⑵ 原判決15頁26行目から16頁1行目にかけての「損害の発生が確定していなかった」を「損害が確定していなかった」に、同頁4行目の「はじめて」から5行目末尾までを「損害が確定し、控訴人らは、同決定の送達を受けた同月19日に損害の発生を現実に認識したから、消滅時効の起算日はその翌20日となる。」に、それぞれ改める。 5 当審における控訴人 5行目末尾までを「損害が確定し、控訴人らは、同決定の送達を受けた同月19日に損害の発生を現実に認識したから、消滅時効の起算日はその翌20日となる。」に、それぞれ改める。 5 当審における控訴人らの補充主張⑴ 公平な裁判所の裁判を受ける権利の侵害の有無について(争点⑴関係)ア憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」は、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもった裁判所による裁判を意味するところ、外形的にみて、そのおそれがある場合には、「公平な裁判所の裁判」にはならず、当該裁判官が訴追者その他の事件関係者との間で事件に予断又は偏見をもたらすような特別な関係がなく、事件に対する一定の判断を形成していないなどの特段の事情が認められる場合に限り、「公平な裁判所の裁 判」に当たるというべきである。 田中裁判長が、裁判所外で事件関係者であるアメリカ合衆国大使等と接触し、事件について話をしたことは、外形的にみて偏頗や不公正のおそれがある場合に該当し、上記の特段の事情はないから、田中裁判長が同大使等と接触し、事件について話をしたことにより、田中裁判長が関与した砂川事件上告審判決は、憲法37条1項に違反することとなり、本件被告人らは、同条項の「公平な裁判所の裁判」を受ける権利を侵害された。 イ最高裁の判決(最高裁判所昭和25年4月12日大法廷判決・刑集4巻4号535頁)は、起訴前の強制処分に関与した裁判官について、忌避の理由があるものと認められないことを理由に、その裁判官が関与した判決は憲法37条1項に違反するとはいえないと判示しているから、その反対解釈として、刑事訴訟法21条1項所定の忌避事由がある裁判官が刑事事件の裁判に関与した場合、憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」には当たらず、同条項に違反すると えないと判示しているから、その反対解釈として、刑事訴訟法21条1項所定の忌避事由がある裁判官が刑事事件の裁判に関与した場合、憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」には当たらず、同条項に違反するというべきである。 ウ田中裁判長は、マッカーサー大使らに対し、訴訟外で面談した際の言動により、別紙「裁判官田中耕太郎から米側に伝わった裁判情報一覧表」(以下「別紙一覧表」という。)A欄記載のとおり、昭和34年4月24日頃に①及び②の、同年7月31日頃に③ないし⑨の、同年11月5日頃に⑩ないし⑮の砂川事件の裁判情報を伝えた。情報伝達の方法は発言に限られないから、田中裁判長の言動により、マッカーサー大使らに上記裁判情報が伝わったことが重要であり、田中裁判長がそのとおり発言したかどうかは重要ではない。 エアメリカ合衆国は、砂川事件の被害者であるとともに、日本に駐留する同国軍隊が憲法9条2項に違反する存在であるとして無罪判決を言い渡した砂川事件第一審判決が確定した場合、同軍隊を撤退せざるを得ない ことになるから、同判決を承認することができない敗訴当事者的立場にあった。 刑事事件の裁判長が、被害者や敗訴当事者と非公式に面談することは、それ自体、裁判の公平さを疑わせるものであり、刑事訴訟法21条1項の「不公平な裁判をする虞があるとき」に該当するところ、田中裁判長が、被害者であり敗訴当事者的立場にある同国の大使及び公使であるマッカーサー大使らと、上記イのとおり3回にわたり非公式に面談したことは、それ自体、砂川事件第一審判決を覆す方向で検討しているという情報を伝えるものであり、裁判の公平さを疑わせるものであるから、上記忌避事由に該当する。 オまた、田中裁判長が伝えた上記ウの裁判情報は、(ア)審理の進行に関する情報 向で検討しているという情報を伝えるものであり、裁判の公平さを疑わせるものであるから、上記忌避事由に該当する。 オまた、田中裁判長が伝えた上記ウの裁判情報は、(ア)審理の進行に関する情報(①~③、⑥、⑩)、(イ)審理方針・判決方針に関する情報(⑤、⑦~⑨、⑪、⑫、⑮)、(ウ)合議、評議の経過・状況に関する情報(④、⑬)、(エ)判決の内容に関する情報(⑭、⑮)に分類される。上記エの立場にあるマッカーサー大使らに対し、上記各裁判情報を伝えることは、上記(ア)については、審理時期に関する不安を解消させ、特に判決時期の予測については、砂川事件第一審判決を覆すことを暗に伝えるものであり、上記(イ)については、その内容から、砂川事件第一審判決を破棄することを前提とした方針を伝えるものであり、上記(ウ)については、弁護団の法的措置を抑え、砂川事件第一審判決の破棄判決の早期実現に向けて努めている状況や、破棄を前提とした評議内容を伝えるものであり、上記(エ)については、砂川事件第一審判決を破棄する旨をほぼそのままに伝え、確信を抱かせるものである。 刑事事件の裁判長が、被害者や敗訴当事者に、非公式に非公表の裁判情報、特に、審理方針・判決方針、合議、評議の経過・状況、判決の内容に関する情報といった重要な裁判情報を伝達することは、裁判の公平さ を疑わせるものであり、刑事訴訟法21条1項の「不公平な裁判をする虞があるとき」に該当するところ、田中裁判長が、上記のとおり、マッカーサー大使らに対し、非公式に非公表の裁判情報、特に重要な裁判情報を伝達したことは、裁判の公平さを疑わせるものであるから、上記忌避事由に該当する。 カ以上のとおり、田中裁判長には、砂川事件について刑事訴訟法21条1項の忌避事由があるから、田中裁判長が関与し 達したことは、裁判の公平さを疑わせるものであるから、上記忌避事由に該当する。 カ以上のとおり、田中裁判長には、砂川事件について刑事訴訟法21条1項の忌避事由があるから、田中裁判長が関与した砂川事件上告審判決は、憲法37条1項に違反するものであり、本件被告人らは、同条項の「公平な裁判所の裁判」を受ける権利を侵害された。 ⑵ 消滅時効について(争点⑸関係)控訴人らは、平成26年6月17日に砂川事件差戻審判決に対する再審請求をしたところ(砂川再審請求事件)、再審において同判決が取り消され失効した場合、そうでない場合と比べて、国家賠償請求の損害額が低額となり、謝罪広告請求の謝罪広告の内容も異なることになるから、砂川再審請求事件の完結まで、上記損害額及び謝罪広告の内容が確定しない。これらが確定したのは、同事件が終了した平成30年7月18日であるから、控訴人らが本訴を提起した時点で、本件国家賠償請求権及び謝罪広告請求権の消滅時効は完成していなかった。 第3 当裁判所の判断当裁判所は、控訴人らの請求のうち、控訴人らが公平な裁判所の裁判を受ける権利を侵害されたとして、損害賠償と謝罪広告の掲載を求める部分(控訴の趣旨2、3項)は理由がなく、本件被告人らを罰金2000円に処した砂川事件差戻審判決が無効であることを理由として不当利得の返還を求める部分(控訴の趣旨4項)は、不適法であって却下すべきであると判断する。その理由は、以下のとおりである。 1 争点⑴(田中裁判長の行為についての違法性及び故意過失の有無)について ⑴ 認定事実次のとおり補正するほか、原判決第3の1⑴(18頁24行目から25頁4行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 ア原判決19頁3行目の「甲5書簡」を ⑴ 認定事実次のとおり補正するほか、原判決第3の1⑴(18頁24行目から25頁4行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 ア原判決19頁3行目の「甲5書簡」を「同年7月31日付け甲5書簡」に改める。 イ原判決19頁10行目の「丸番号」の次に「及び別紙一覧表A欄に付された丸番号」を加える。 ウ原判決21頁6行目の次に、改行の上、次のとおり加える。 「(以下、甲6書簡の原文及び翻訳文のうち、1つ目の⑭で構成される部分を⑭前段と、2つ目の⑭で構成される部分を⑭後段と、1つ目の⑮で構成される部分を⑮前段と、2つ目の⑮で構成される部分を⑮後段という。)」エ原判決21頁23行目から22頁2行目までを次のとおり改める。 「 ⑭TheChiefJusticegavenoindicationthathebelievedthelowercourt’srulingwouldbeupheld. ⑭Onthecontrary, Ihadimpressionthathefeltitwouldbeoverruledbutthat ⑮theimportantthingwastohaveaslargeamajorityofthefifteenjusticesaspossibleruleontheconstitutionalissueinvolved, ⑮which, hesaid, ithadbeenquiteimproperforJudgeDatetopasson.」オ原判決22頁16行目から23行目までを次のとおり改める。 「 ⑭長官からは、下級裁判所の判決 quiteimproperforJudgeDatetopasson.」オ原判決22頁16行目から23行目までを次のとおり改める。 「 ⑭長官からは、下級裁判所の判決が支持されると考えているといった示唆はなかった。⑭反対に、私は、長官は同判決が覆されるだろうと感じているという印象を受けるとともに、⑮重要なことは、裁判官15人のうちできるだけ多くの多数によって、関連した憲法上の論点について判断することであるという印象を受けた。⑮この憲法上の論点について伊達判事〔注:砂川事件第一審裁判所の裁判長〕が判決を下したことは、 全く適切ではなかったと彼〔注:田中裁判長〕は述べていた。」カ原判決24頁4行目から25頁4行目までを次のとおり改める。 「 (イ) 前記(ア)のとおりのEの外交官としての経歴に照らせば、同人は外交及び海外情報の分析に関する知見を有し、同人の前記証言も、同知見からの合理的な推論を述べたものと認められるから、本件各文書の内容を検討する際に一定程度参考にすることができるが、Eは、砂川事件上告審判決が言い渡された後である昭和41年(1966年)に日本の外務省に入省したのであるから、同人の証言は、砂川事件上告審が審理されていた当時のアメリカ合衆国における公文書の作成に関する知見に基づくものとはいえない。 証拠(甲4ないし7、証人E)及び弁論の全趣旨によれば、本件各文書は、非公式の会合の記録であって、マッカーサー大使らが田中裁判長と非公式に面談をした際、通訳を介し、又は介さずに聞いた話について、後に記憶に基づいて書き起こし、その中から情報を取捨選択し、簡潔にまとめて報告したものと推認されるのであって、その正確性については、母国語が異なる者の会話であることによる制約があるう た話について、後に記憶に基づいて書き起こし、その中から情報を取捨選択し、簡潔にまとめて報告したものと推認されるのであって、その正確性については、母国語が異なる者の会話であることによる制約があるうえ、録音等によって正確性が担保されたものでもない。 そうすると、証拠(甲4ないし7、証人E)及び弁論の全趣旨によれば、本件各文書の記述は、マッカーサー大使らが事実関係と作成者の考え等とを峻別し、正確を期して作成したものであることがうかがわれるものの、具体的な発言内容、発言態様、発言の文脈等まで認定することは困難であって、発言者が記載内容に関して何らかの言動をしたことが一定程度推認されるにとどまるものと認められる。 ウ本件各文書から田中裁判長の具体的言動がうかがえるかについて前記ア及びイに基づき検討すると、本件各文書において、田中裁判長が「述べた」、「述べていた」又は「述べるところによれば」(原文は “told”、“said”又は“added”)と記述されている部分(前記①から④まで、⑧から⑩まで、⑫及び⑮後段)については、田中裁判長が記載内容に沿う言及をしたという事実は一定程度推認されるものの、田中裁判長の具体的な発言文言や発言態様等は不明であって、田中裁判長が記載内容に沿う趣旨の発言をしたかどうかは、前後の文脈等も参照の上、具体的に吟味する必要がある。 他方で、前記⑤から⑦まで、⑪、⑬、⑭前段、後段及び⑮前段については、田中裁判長が「述べた」などとは記載されておらず、田中裁判長が、記載された事項に関する言及をしたのか、マッカーサー大使等が感じ取ったことをまとめたものなのかは不明であって、それを前提として、記載内容や前後の文脈等を考慮して、田中裁判長が記載された事項に関する言及を れた事項に関する言及をしたのか、マッカーサー大使等が感じ取ったことをまとめたものなのかは不明であって、それを前提として、記載内容や前後の文脈等を考慮して、田中裁判長が記載された事項に関する言及を含む何らかの言動をしたと推認できるか否かを検討することが相当である。」⑵ 公平な裁判所の裁判を受ける権利の侵害の有無についてア判断枠組み憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもった裁判所による裁判を意味するものであり、個々の事件につきその内容実質が具体的に公正妥当なる裁判を指すのではないと解される(最高裁判所昭和23年5月26日大法廷判決・刑集2巻5号511頁参照)。 控訴人らは、前掲最高裁判所昭和25年4月12日大法廷判決を根拠に、その反対解釈として、刑事訴訟法21条1項所定の忌避事由がある裁判官が刑事事件の裁判に関与した場合、憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」には当たらない旨主張するが、上記昭和23年判決の説示するとおり、同条項は、個々の内容の事件の裁判内容の公平を直接保障するものではないこと、刑事訴訟法22条が上記忌避事由を理由とする忌避 申立ての時期を限定していることに照らすと、上記の忌避事由がある裁判官が刑事事件の裁判に関与した場合、当然に憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」に当たらず、同条項に違反するとはいえない。 もっとも、刑事訴訟法上の除斥及び忌避の制度は、憲法37条を具体化したものであることからすると、刑事訴訟法21条1項所定の忌避事由がない場合には、通常、当該裁判官が関与した裁判が憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」ではないとはいえず、同条項に違反するとはいえないものと解される。よって、まずは、控訴人らの主張す 定の忌避事由がない場合には、通常、当該裁判官が関与した裁判が憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」ではないとはいえず、同条項に違反するとはいえないものと解される。よって、まずは、控訴人らの主張する事由により、田中裁判長について、刑事訴訟法21条1項の「不公平な裁判をする虞があるとき」の忌避事由があるか否かという観点から、本件上告審裁判所の行った裁判が憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」ではないと認められるか否かについて検討する。 忌避の制度は、裁判官が事件の当事者と特別な関係にあるとか、手続外において既に事件について一定の判断を形成しているとかの、当該事件の審理過程に属さない要因により、当該裁判官によっては、その事件について公平で客観性のある審理及び裁判が期待し難いと認められる場合に、当該裁判官を事件の審判から排除し、裁判の公正及びこれに対する信頼を確保することを目的とするものであるから(最高裁判所昭和48年10月8日第一小法廷決定・刑集27巻9号1415号等参照)、上記のような場合、刑事訴訟法21条1項の「不公平な裁判をする虞があるとき」に当たり、同忌避事由に該当することになると解される。 イ田中裁判長がマッカーサー大使らと面談したことについて控訴人らは、田中裁判長が、砂川事件の被害者であり敗訴当事者的立場にあったアメリカ合衆国の大使及び公使であるマッカーサー大使らと3回にわたり非公式に面談したことは、それ自体、砂川事件第一審判決を覆す方向で検討しているという情報を伝えるものであり、裁判の公平さ を疑わせるものであり、上記忌避事由に該当する旨主張する。 アメリカ合衆国は、砂川事件の公訴事実に係る刑事特別法2条の保護法益の享受主体として、同事件の被害者又は被害者的立場に さ を疑わせるものであり、上記忌避事由に該当する旨主張する。 アメリカ合衆国は、砂川事件の公訴事実に係る刑事特別法2条の保護法益の享受主体として、同事件の被害者又は被害者的立場にあったということができるが、他方で、アメリカ合衆国は、砂川事件の当事者ではなく、同事件の判決の効力は同国には及ばないのであるから、砂川事件第一審判決が同国軍隊の駐留が憲法9条2項により禁止される戦力の保持に該当するなどと判断し、砂川事件上告審において、この点を含めた憲法上の問題が争点となっていたこと、砂川事件第一審判決の後、アメリカ合衆国と被控訴人とが情報や意見を交換していたことがうかがわれること(甲22)を考慮しても、アメリカ合衆国が敗訴当事者的立場にあったということはできない。 刑事訴訟法21条1項が忌避の原因として、除斥事由があるときを定め、同法20条1号ないし3号が被害者又は被害者と一定の関係にある場合を除斥事由として定めていることからすると、一般的に、刑事事件の担当裁判官が、事件の被害者又は被害者的立場にある者と一定の限度を超えて密接な関係を築くことは、裁判所の公平らしさに疑念を抱かせるおそれがあるから、そのような疑念を生じさせないよう手続外で面談をすることは避けるべきであるが、被害者等と面談をしたことにより、直ちに、裁判官と被害者等が公平で客観性のある審判を期待し難いといえるような特別な関係にあり、同法21条1項の「不公平な裁判をする虞があるとき」の忌避事由に該当するとまでいうことはできない。 上記⑴の認定事実のとおり、本件各文書には、マッカーサー大使らが、田中裁判長と非公式に面会した際の田中裁判長の言動が記載されており、田中裁判長が、本件各文書記載の作成日頃に、マッカーサー大使らと非公式に面談したこと とおり、本件各文書には、マッカーサー大使らが、田中裁判長と非公式に面会した際の田中裁判長の言動が記載されており、田中裁判長が、本件各文書記載の作成日頃に、マッカーサー大使らと非公式に面談したことが認められるが、上記のとおり被害者等と面談したことにより直ちに上記忌避事由に該当するとまではいえないことに加え、 昭和34年当時、最高裁判所長官の職にあった田中裁判長がマッカーサー大使らと面会したことは、外交儀礼としての側面も有していたと考えられることも考慮すると、控訴人らが主張するように、非公式に面談したこと自体が、砂川事件第一審判決を覆す方向で検討しているという情報を伝えるものであり、裁判の公平さを疑わせるもので、上記忌避事由に該当するとは認められない。 ウ本件各文書から推認することができる田中裁判長の言動について(ア) 甲4電報についてa 前提事実及び上記⑴の認定事実によれば、田中裁判長は、昭和34年4月3日に砂川事件につき跳躍上告がされた後の同月24日頃、マッカーサー大使と非公式に会話をし、それに基づき、マッカーサー大使がアメリカ国務長官に宛てて次の内容を含む甲4電報を発したものと認められる。 i 原文(英語)INPRIVATECONVERSATIONCHIEFJUSTICETANAKATOLDAMBASSADORTHATWHILE ①CASEHADBEENGIVENPRIORITY,②UNDERJAPANESEPROCEDURESAFTERDELIBERATIONSBEGINITWOULDTAKEATLEASTSEVERALMONTHSFORDECISIONTOBEREACHED.ii 翻訳( DELIBERATIONSBEGINITWOULDTAKEATLEASTSEVERALMONTHSFORDECISIONTOBEREACHED.ii 翻訳(日本語)大使との内々の会話において、田中長官は、①本件は優先されるであろうが、②日本の手続の下では審理開始後、判決に達するまで、少なくとも数か月は要するであろうと述べていた。 b 上記の検討(補正の上引用する原判決第3の1⑴ウ)によれば、甲4電報の①及び②については、田中裁判長が記載内容の趣旨に沿う言及をしたことが推認され、この推認を妨げる事情はない。もっとも、上記の 検討に加えて、本文書は電報であって、短文でまとめられていることからすると、田中裁判長の具体的な発言内容や発言態様、発言がなされた文脈等は不明である。 上記①は、砂川事件上告審が優先的に審判される旨の言及と理解し得るものであるが、砂川事件上告審が、刑事訴訟法406条及び同規則254条1項に基づき跳躍上告されたものであり、同規則256条により、他のすべての事件に優先して審判しなければならない事件であったことからすると、その旨を説明する趣旨で、上記のとおり言及したものと考えられる。 また、上記②は、一般論として、最高裁判所における上告事件の審理期間の見通しについて言及したものと考えられる。 そうすると、田中裁判長のこれらの言及は、日本の刑事手続における一般的事項を述べたものにとどまるから、田中裁判長がこれらの言及をしたことにより、被害者又は被害者的立場にあるアメリカ合衆国と特別な関係にあるなどの手続外の要因により、公平で客観性のある審判を期待し難い事情があったということはできない。 (イ) 甲5書簡に ことにより、被害者又は被害者的立場にあるアメリカ合衆国と特別な関係にあるなどの手続外の要因により、公平で客観性のある審判を期待し難い事情があったということはできない。 (イ) 甲5書簡についてa 前提事実及び上記⑴の認定事実によれば、田中裁判長は、昭和34年6月12日に砂川事件上告審が大法廷に回付された後、同年8月3日に公判期日が指定される前の同年7月31日頃、レンハート公使と非公式に会話し、それに基づき、マッカーサー大使がアメリカ国務長官に宛てて次の内容を含む甲5書簡を発したものと認められる。 i 原文(英語)Duringconversationathousemutualfriend, SupremeCourtChiefJusticeKotaroTANAKAtoldDCM ③henowthoughtdecisioninSunakawacaseprobableinDecember. ChiefJustice saidthat ④defenseattorneystryingeverylegaldevicepossibletodelaycompletionCourt’sconsideration, butheisdeterminedto ⑤confineissuetoquestionoflawandnotoffact. Onthisbasishebelieved ⑥oralargumentscouldbecompletedinaboutthreeweekstime, withtwosessions, morningandafternooneach, perwee ouldbecompletedinaboutthreeweekstime, withtwosessions, morningandafternooneach, perweekbeginningearlyinSeptember. ⑦ProblemwouldarisethereafterbecausesomanyofhisfourteenAssociateJusticesliketoarguetheirviewsatgreatlength. ChiefJusticeaddedhehoped ⑧Court’sdeliberationscouldbecarriedoutinmannerwhichwouldproducesubstantialunanimityofdecisionand ⑨avoidminorityopinionswhichcould “unsettle” publicopinion.ii 翻訳(日本語)共通の友人の家での会話の際に、田中耕太郎最高裁判所長官は、次席〔レンハート公使〕に対し、③砂川事件の判決は12月になろうと今考えている旨述べた。長官の述べるところによれば、④被告側弁護団は裁判所の審議終了を引き延ばすためにあらゆる法的な措置を試みているが、⑤長官は論点を事実問題ではなく、法律問題に限定する決意である由。これに基づき、長官は、⑥口頭弁論は9月上旬から毎週1度、午前と午後に開催し、3週間程度の間に完了するであろうと確信していた。⑦彼〔田中裁判長〕の14人の陪席裁判官の多くは、彼らの見解を徹底的に議論したいであろうから、問題はその後生じるであろう。さらに長官は、⑨裁判所の審議は 間程度の間に完了するであろうと確信していた。⑦彼〔田中裁判長〕の14人の陪席裁判官の多くは、彼らの見解を徹底的に議論したいであろうから、問題はその後生じるであろう。さらに長官は、⑨裁判所の審議は、世論を「揺るがす」ような少数意見を避け、⑧実質的な全員一致をもたらすようなやり方で行われることを希望する旨述べた。 b 上記の検討(補正の上引用する原判決第3の1⑴ウ)によれば、甲5書簡の③、④、⑧及び⑨については、具体的な発言文言、発言態様等は 不明であるものの、田中裁判長が記載内容の趣旨に沿う言及をしたことが推認されるのに対し、同⑤、⑥及び⑦については、田中裁判長が「述べた」などとは記載されておらず、田中裁判長が、記載内容の趣旨に沿う言及をしたことが推認されるわけではないので、他の記載内容等も参照しつつ、そのような記載の基となった言動があったかどうかを検討する必要がある。 上記③は、砂川事件上告審の判決時期の見通しについて言及したものと理解し得るものであり、上記④は、弁護団による審理遅延という審理状況について言及したものと理解し得るものであって、その趣旨の何らかの言及があったとの推認を妨げる事情はない。 上記⑤については、田中裁判長が決意している旨(heisdeterminedto)記載されており、上記④に続く部分であるにもかかわらず、発言として記載されておらず、内容的にも、レンハート公使等が感じたことをまとめたものである可能性もあるが、仮に、田中裁判長がレンハート公使がそのように理解する基となる言動をしたとすれば、跳躍上告における上告理由が法的問題に限られること(刑事訴訟法406条、同規則254条1項)からすると、その旨を説明する趣旨でした言動にすぎないと考えられる。 る言動をしたとすれば、跳躍上告における上告理由が法的問題に限られること(刑事訴訟法406条、同規則254条1項)からすると、その旨を説明する趣旨でした言動にすぎないと考えられる。 上記⑥については、田中裁判長が確信している旨(hebelieved)が記載されており、発言として記載されていないものの、その記載内容が口頭弁論が3週間で完了できるという具体的なものであることからすると、その詳細は定かではないものの、田中裁判長が、レンハート公使がそのように理解する基となる言動をしたことが推認される。もっとも、数日後に上記⑥の記載と異なる期日が指定されていることからすると、例示的なものであったと考えられる。 上記⑦については、その記載上、主体が不明であり、レンハート公使 が前後の記載内容に基づく所感を記載したとも理解し得るものであるから、田中裁判長が、その基となる言動をしたと推認することはできない。 上記⑧及び⑨については、評議の在り方について、少数意見を避け、実質的に全員一致となるようなやり方で行われることを希望する旨の言及をしたと理解し得るものであって、その趣旨の何らかの言及があったとの推認を妨げる事情はない。 c 以上によれば、甲5書簡について、上記④は、弁護団による審理遅延という審理状況について言及したもの、同⑤は、跳躍上告における上告理由が法的問題に限られる旨を説明する趣旨の言動があったことを示すもの、同⑥は、公判期日の指定について、例示的に示す言動があったことを示すもの、同③は、これらと関連して、判決時期の見通しについて言及したもの、上記⑧及び⑨は、評議の在り方について、少数意見を避け、実質的に全員一致となるようなやり方で行われることを希望する旨言及をしたものと考えられる れらと関連して、判決時期の見通しについて言及したもの、上記⑧及び⑨は、評議の在り方について、少数意見を避け、実質的に全員一致となるようなやり方で行われることを希望する旨言及をしたものと考えられる。 これらは、被害者又は被害者的立場にあるアメリカ合衆国に対し、手続外で、審理の状況や、公判期日の指定の仕方、判決の時期といった進行の見通しや上告審における審理の対象、評議の在り方についての希望を結果として伝えるものであり、裁判所の公平らしさに疑念を抱かせるおそれがあるから、その意味で、田中裁判長の上記の言及や言動は不適切なものであったといわざるを得ない。しかし、その内容は、手続等についての説明や見通しのほか、評議の在り方についての希望を述べるにとどまり、審判の公平性、客観性に影響するような性質のものであったとまではいえないことからすると、これらにより、田中裁判長について、同国と特別な関係にあるなどの手続外の要因により、公平で客観性のある審判を期待し難い事情があったということはできない。 (ウ) 甲6書簡について a 前提事実及び上記⑴の認定事実によれば、田中裁判長は、昭和34年9月18日に砂川事件上告審の弁論を終結した後の同年11月5日頃、マッカーサー大使と非公式に会話し、それに基づき、マッカーサー大使がアメリカ国務長官に宛てて次の内容を含む甲6書簡を発したものと認められる。 i 原文(英語)DuringrecentinformalconversationwithChiefJusticeTanakawehadabriefdiscussionabouttheSunakawacase. TheChiefJusticesaidthat ⑩h fJusticeTanakawehadabriefdiscussionabouttheSunakawacase. TheChiefJusticesaidthat ⑩henowhopedthattheSupremeCourtofJapanwouldbeabletohanddownitsverdictbythefirstoftheyearalthoughhewasnotyetcertainofthistiming. Heobservedthat ⑪withabenchoffifteenjusticesthemostimportantproblemwastotrytoestablishsomecommondenominatortoapproachthecase.ChiefJusticeTanakasaidthat ⑫itwasimportantthat, ifpossible,allofhisassociatejusticesapproachthecaseonthebasisofagreed,appropriateandrealisticgroundrulesasitwere. Heimpliedthat⑬someofthejusticeswereapproachingthecaseona “procedural”basiswhereasotherswereviewingitona “legal” basiswhilestillotherswereconsideringtheproblemona “con otherswereviewingitona “legal” basiswhilestillotherswereconsideringtheproblemona “constitutional” basis.(Igathered …〔注:中略〕)⑭TheChiefJusticegavenoindicationthathebelievedthelowercourt’srulingwouldbeupheld. ⑭Onthecontrary, Ihadimpressionthathefeltitwouldbeoverruledbutthat ⑮theimportantthingwastohaveaslargeamajorityofthefifteenjusticesaspossibleruleontheconstitutionalissueinvolved, ⑮which, hesaid, ithadbeenquiteimproperforJudgeDatetopasson. ii 翻訳(日本語)最近非公式に、田中最高裁判所長官と砂川事件について短時間話し合った。長官は、⑩タイミングについては定かではないものの、日本の最高裁は年初までには判決を出したいと目下望んでいる旨述べた。 長官は、⑪15人の裁判官による法廷にとって、最も重要な問題は、本件にアプローチするための共通の土台を確立しようとすることであるとみていた。田中長官は、⑫できれば、最高裁の裁判官全てがいわば合意した、適切かつ現実的な基本原則に従って本件にアプローチすることが重要だと述べた。彼 るための共通の土台を確立しようとすることであるとみていた。田中長官は、⑫できれば、最高裁の裁判官全てがいわば合意した、適切かつ現実的な基本原則に従って本件にアプローチすることが重要だと述べた。彼〔注:田中裁判長を指す〕の示唆するところによれば、⑬何人かの裁判官は本件を「手続的」観点からアプローチする一方、他の裁判官は「法律的」な観点から見ていたり、「憲法的」な観点から問題を考えている裁判官もいる由。 (私が推測するに…〔注:中略〕)⑭長官からは、下級裁判所の判決が支持されると考えているといった示唆はなかった。⑭反対に、私は、長官は同判決が覆されるだろうと感じているという印象を受けるとともに、⑮重要なことは、裁判官15人のうちできるだけ多くの多数によって、関連した憲法上の論点について判断することであるという印象を受けた。⑮この憲法上の論点について伊達判事〔注:砂川事件第一審裁判所の裁判長〕が判決を下したことは、全く適切ではなかったと彼〔注:田中裁判長〕は述べていた。 b 上記の検討(補正の上引用する原判決第3の1⑴ウ)によれば、甲6書簡の⑩、⑫及び⑮後段については、具体的な発言文言、発言態様等は不明であるものの、田中裁判長が記載内容の趣旨に沿う言及をしたことが推認されるのに対し、同⑪、⑬、⑭前段、後段及び⑮前段については、田中裁判長が「述べた」などと記載されていないので、他の記載内容等 も参照しつつ、そのような記載の基となった言動があったかどうかを検討する必要がある。 上記⑩は、砂川事件上告審の判決言渡に関し、不確実である前提で、言渡時期についての希望に言及したものと理解し得るものであって、その趣旨の何らかの言及があったとの推認を妨げる事情はない。 上記⑪は、田中裁判長 審の判決言渡に関し、不確実である前提で、言渡時期についての希望に言及したものと理解し得るものであって、その趣旨の何らかの言及があったとの推認を妨げる事情はない。 上記⑪は、田中裁判長が、記載のようにみていた旨(Heobserved)が記載されているところ、これは、その後に続く同⑫の記載に係る言及を基にマッカーサー大使が推察したところを記載したものとも理解し得るものであるから、同⑫のほかに、田中裁判長が同⑪の基となる言動をしたことを推認することはできない。 上記⑫は、評議の在り方について、可能な限り裁判官全員が一致した適切かつ現実的な基本原則に従って検討することが重要であるとの考えについて言及したものと理解し得るものであって、その趣旨の何らかの言及があったとの推認を妨げる事情はない。 上記⑬については、田中裁判長が示唆した旨(Heimplied)が記載されており、述べたなどと記載されていないものの、同段落の下部に括弧書きで、同⑬を受けたと考えられるマッカーサー大使の推測が別に記載されていること(甲6、7)からすると、その基となる同⑬は、田中裁判長の言動を受けて記載したものであり、その詳細は定かではないものの、田中裁判長は、同⑬の基となる言動をしたことが推認される。もっとも、その内容は、「手続的」観点、「法律的」観点、「憲法的」観点から検討する裁判官がいるとの趣旨のものにとどまるのであって、判決の結論の方向性を示唆するものとはいえない。 上記⑭前段については、前記Eの供述によれば、文言どおり、田中裁判長は、下級裁判所の判決が支持されると考えていることを示す言動をしなかったと認められる。 上記⑭後段については、マッカーサー大使が受けた印象(Ihadimpre り、田中裁判長は、下級裁判所の判決が支持されると考えていることを示す言動をしなかったと認められる。 上記⑭後段については、マッカーサー大使が受けた印象(Ihadimpression)として、長官は砂川事件第一審判決が覆されるだろうと感じていると記載されており、文言上も漠然としている上、上記⑭前段のとおり、田中裁判長が下級裁判所の判決が支持されると考えていることを示す言動がなかったことから、マッカーサー大使がそのような印象を受けたとも考えられるところであって、上記⑭後段の記載から、田中裁判長が、その基となる言動をしたと推認することはできない。 上記⑮前段についても、マッカーサー大使が受けた印象(Ihadimpression)として記載されており、その記載上、主体が不明確であり、マッカーサー大使が上記⑫等の記載内容に基づく印象を記載したものとも理解できるから、上記⑮前段の記載から、田中裁判長が、その基となる言動をしたと推認することはできない。 上記⑮後段は、文言上、伊達判事が憲法上の論点について判断したことが適切ではなかった旨の言及をしたものと理解し得るものである。しかし、仮に、田中裁判長が、このような発言をしたのであれば、伊達判事による判決を破棄するとの結論に至ることが明白であるから、マッカーサー大使は、上記⑭前段において、下級裁判所の判決が支持されると考えているという示唆はなかった、上記⑭後段において、長官は同判決が覆されるだろうと感じているという印象を受けた、といったあいまいな表現を用いる必要はなかったはずである。加えて、上記⑮後段は、甲6書簡の末尾に、その前の部分に付加される体裁で記載されていることを考慮すると、上記⑮後段の、伊達判事が憲法上の論点について判決を下したこと 用いる必要はなかったはずである。加えて、上記⑮後段は、甲6書簡の末尾に、その前の部分に付加される体裁で記載されていることを考慮すると、上記⑮後段の、伊達判事が憲法上の論点について判決を下したことは適切ではないと発言したとの記載については、上記⑭前段及び後段と整合しないため、実際にこの点についての言及やそれを示す言動があったことを推認することは困難である。仮に、田中裁判長がこの点について何らかの言及をしたとしても、下級審判決に関する抽象的 な見解などにとどまるなど、上記⑭前段、後段の内容と矛盾する内容のものではなかったものと考えられる。 c 以上によれば、甲6書簡について、上記⑩は、判決言渡時期についての希望に言及したもの、同⑫は、評議の在り方について、可能な限り裁判官全員が一致した基本原則に従って検討すること重要であるとの考えについて言及したもの、同⑬は、裁判官によって検討の仕方が異なっていることを示す言動があったことを示すものと考えられる。 これらは、被害者又は被害者的立場にあるアメリカ合衆国に対し、手続外で、判決言渡時期についての希望という手続きに関する事項のほか、評議の在り方や、裁判官による検討の仕方の違いといった評議の内容に関わる問題を結果として伝えるものであって、裁判所の公平らしさに疑念を抱かせるおそれがあるから、その意味で、田中裁判長の上記の言及や言動は不適切なものであったといわざるを得ない。 もっとも、上記⑫及び⑬については、砂川事件上告審において、上告趣意書(刑集13巻13号3286頁)で、刑事特別法2条の法定刑の合理性、アメリカ合衆国軍隊駐留の合憲性、統治行為論を含む司法裁判所の裁判権・違憲審査権の限界といった観点による上告理由が記載され、その要旨が公表されていたこと(甲 頁)で、刑事特別法2条の法定刑の合理性、アメリカ合衆国軍隊駐留の合憲性、統治行為論を含む司法裁判所の裁判権・違憲審査権の限界といった観点による上告理由が記載され、その要旨が公表されていたこと(甲2、8、22の15)からすると、手続上、法律上、憲法上の問題を含む多岐に渡る争点が形成され、これらの点について評議を要することが容易に想定し得る状況にあったといえる。そのような状況の下で、田中裁判長が上記⑫のような言及をしたことは、評議に際しての自身の考え方や指針を抽象的に示したにとどまるものであり、上記⑬のように裁判官によって検討の仕方が異なっている旨を抽象的に示唆したことは、上記の状況から容易に想定し得る範囲のものであったといえるから、田中裁判長のこれらの言動は、審判の公平性、客観性に影響するような性質のものであったとまではいえない。 そうすると、上記⑩、⑫及び⑬により、田中裁判長について、同国と特別な関係にあるなどの手続外の要因により、公平で客観性のある審判を期待し難い事情があったということはできない。 なお、上記⑭前段、後段、⑮後段については、当裁判所は、上記bのとおり、マッカーサー大使が田中裁判長が同判決が覆されるだろうと感じているという印象を受けたことは認められるものの、その基となる田中裁判長の言動は推認できないし、伊達判事が憲法上の論点について判断したことが適切ではなかった旨の言及をしたことも認められないと判断するものであるが、仮に、田中裁判長が上記の2点について何らかの言動をしたことが推認できるとしても、その具体的な内容が不明である上、田中裁判長が、甲6書簡に係る面会をしたのは、砂川事件上告審の弁論終結後のことであって、その言動による審理への影響は考え難いし、田中裁判長がアメリ 認できるとしても、その具体的な内容が不明である上、田中裁判長が、甲6書簡に係る面会をしたのは、砂川事件上告審の弁論終結後のことであって、その言動による審理への影響は考え難いし、田中裁判長がアメリカ合衆国と特別な関係にあるとか、手続外の事情を考慮して、そのような意見を形成するに至ったなどということはできず、評議に影響を及ぼすようなものであったということもできないから、これらが審判の公平性、客観性に影響するような性質のものであったとまではいえない。 以上によれば、上記の各言及や言動により、田中裁判長について、被害者に準じる立場にあるアメリカ合衆国と特別な関係にあるとか、手続外において既に事件について一定の判断を形成しているとかの、当該事件の審理過程に属さない要因により、公平で客観性のある審判を期待し難い事情があったということはできない。 エ控訴人らの指摘する情報伝達の観点からの検討控訴人らは、田中裁判長がマッカーサー大使等に伝えた裁判情報は、(ア)審理の進行に関する情報(①~③、⑥、⑩)、(イ)審理方針・判決方針に関する情報(⑤、⑦~⑨、⑪、⑫、⑮)、(ウ)合議、評議の経 過・状況に関する情報(④、⑬)、(エ)判決の内容に関する情報(⑭、⑮)に分類されると主張するところ、上記ウによれば、田中裁判長が(ア)審理の進行に関する情報(①~③、⑥、⑩)、(イ)審理方針・判決方針に関する情報(⑤、⑧、⑨、⑫)、(ウ)合議、評議の経過・状況に関する情報(④、⑬)について何らかの言及又は言動をしたことが推認される。 そして、控訴人らは、マッカーサー大使らに対し、上記(ア)を伝えることは、審理時期に関する不安を解消させ、特に判決時期の予測については、砂川事件第一審判決を覆すことを暗に伝えるものであ そして、控訴人らは、マッカーサー大使らに対し、上記(ア)を伝えることは、審理時期に関する不安を解消させ、特に判決時期の予測については、砂川事件第一審判決を覆すことを暗に伝えるものであり、上記(イ)については、その内容から、砂川事件第一審判決を破棄することを前提とした方針を伝えるものであり、上記(ウ)については、弁護団の法的措置を抑え、砂川事件第一審判決の破棄判決の早期実現に向けて努めている状況や、破棄を前提とした評議内容を伝えるものであり、上記(エ)については、砂川事件第一審判決を破棄する旨をほぼそのままに伝え、確信を抱かせるものであって、一方当事者や被害者にこのような内容を伝えることは裁判の公平さを疑わせるものであるから忌避事由に当たると主張する。 しかし、本件各文書その他本件の全証拠によっても、田中裁判長は上記の点について、上記ウで認定した限度の言及又は言動をしたにとどまるのであって、田中裁判長の言及や言動の具体的な内容、その文脈、意図等は不明であり、田中裁判長がマッカーサー大使等に対し砂川事件に関する具体的な評議の内容や心証、予測される判決内容等といった情報まで伝えていた事実は認めることができない。 また、上記イのとおり、アメリカ合衆国は砂川事件の被害者又は被害者的立場にあったとはいえるが、砂川事件の当事者として訴訟活動をする地位にはなく、同事件の判決の効力が同国に及ぶ立場ではないし、田中 裁判長が上記の言及、言動をしたことで、田中裁判長が予断又は偏見を抱くに至るわけではなく、手続外の要因により予断又は偏見を抱いていたことを窺わせるものともいえない。 上記ウで説示したとおり、裁判官は、裁判や裁判所に対する国民の信頼を損なうことがないように、慎重に行動すべきであり、田中裁判長の言及 より予断又は偏見を抱いていたことを窺わせるものともいえない。 上記ウで説示したとおり、裁判官は、裁判や裁判所に対する国民の信頼を損なうことがないように、慎重に行動すべきであり、田中裁判長の言及や言動は不適切であったといえるものの、これらの言及又は言動をもって忌避事由に該当するということはできない。 オ控訴人らの主張するその余の事情について控訴人らは、田中裁判長が、砂川事件上告審において、当事者的立場にあったアメリカ合衆国に対し、裁判情報を漏洩し、審理や評議の進め方について打合せをした上で、訴訟指揮を行い、評議において、他の裁判官を支配して判決内容を自身の望む一定方向にリードした旨主張する。 しかし、上記イのとおり、アメリカ合衆国が当事者的立場にあるということはできない。そして、本件全証拠によっても、田中裁判長が、上記ウで説示した面会の際の言及や言動を超えて、同国に対し裁判情報を伝えたことは認められず、その言及や言動を踏まえても、審理や評議の進め方について同国と打合せをしたことは認められない。また、田中裁判長が、砂川事件上告審における訴訟指揮や評議の際に、裁判長の権限の範囲を超えて、控訴人ら主張のような行為をしたことを認めるに足りる証拠はない。 ⑶ 小括以上のとおり、砂川事件上告審において、田中裁判長について、刑事訴訟法21条1項の「不公平な裁判をする虞があるとき」の忌避事由があったとは認められず、本件上告審裁判所の裁判が、憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」ではなかったとは認められない。 したがって、本件被告人らが公平な裁判所の裁判を受ける権利を侵害され たとは認められないから、田中裁判長の行為に違法性は認められず、控訴人らの本件国家賠償請求及び謝罪広告請求はいず したがって、本件被告人らが公平な裁判所の裁判を受ける権利を侵害され たとは認められないから、田中裁判長の行為に違法性は認められず、控訴人らの本件国家賠償請求及び謝罪広告請求はいずれも理由がない。 2 争点⑸(消滅時効の完成の有無)についてなお、控訴人らは、本件各文書に依拠して、本件被告人らが砂川事件上告審において公平な裁判所の裁判を受ける権利を侵害されたとして、本件国家賠償請求及び謝罪広告請求をするところ、遅くとも、砂川事件の再審請求をした平成26年6月17日までには、各請求の権利行使が可能であったと認められるから、本訴提起前の平成29年6月17日の経過時には各消滅時効が完成したと認められる。したがって、控訴人らの国家賠償請求及び謝罪広告請求は、この点からも理由がない。 その理由の詳細は、次の⑴のとおり補正し、⑵のとおり当審における控訴人らの補充主張に対する判断を付加するほか、原判決第3の2⑴及び⑵(29頁18行目から32頁1行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決の補正ア原判決30頁9行目の「そうすると」から11行目の「生じていないというべきである。」までを次のとおり改める。 「控訴人らの主張する上記権利侵害は、その性質上、田中裁判長を構成員とする本件上告審裁判所の審判により生じるものであるから、砂川事件上告審判決宣告時には損害が発生したというべきであり、上級審の裁判の拘束力(裁判所法4条)を考慮したとしても、砂川事件差戻審判決の確定時までには損害が発生したものというべきである。」イ原判決30頁13行目及び15行目の「国家賠償請求」の次に「及び謝罪広告請求」を、それぞれ加える。 ウ原判決30頁20行目の「原告らは」から21行目末尾 ものというべきである。」イ原判決30頁13行目及び15行目の「国家賠償請求」の次に「及び謝罪広告請求」を、それぞれ加える。 ウ原判決30頁20行目の「原告らは」から21行目末尾までを次のとおり改める。 「本件被告人らないし控訴人らにおいて、損害及び加害者を認識すれば、被 控訴人に対する国家賠償請求及び謝罪広告請求をすることが事実上可能な状況の下にあったといえる。」エ原判決30頁25行目の「再審の請求を行ったと主張しているところ」から31頁3行目の「認識していたというほかない。」までを次のとおり改める。 「再審の請求を行ったと認められるところ、その時点までには、本件各文書の内容を認識するなどして、砂川再審請求事件における判断の内容如何にかかわらず、田中裁判長の行為が違法であると現実に認識していたものと認められる。」に改める。 オ原判決31頁13行目の「しかし」から23行目末尾までを次のとおり改める。 「しかし、前記説示のとおり、控訴人らの主張する公平な裁判所による裁判を受ける権利の侵害による損害は、砂川事件上告審判決の宣告時か遅くとも砂川事件差戻審判決の確定時までに発生するものであって、その後に再審が開始され、控訴人ら主張のような状態に至ったとしても、一旦発生した損害が事後の事情により消滅又は軽減したというにすぎず、損害の発生という事実に影響するものではない。したがって、控訴人らの上記主張は採用できない。」⑵ 当審における控訴人らの補充主張に対する判断控訴人らは、前記第2の5⑵のとおり、砂川再審請求事件において砂川事件差戻審判決が取り消され失効した場合、損害額が低額となり、謝罪広告の内容が異なることになるから、同事件の完結まで、損害額及び謝罪広告の 人らは、前記第2の5⑵のとおり、砂川再審請求事件において砂川事件差戻審判決が取り消され失効した場合、損害額が低額となり、謝罪広告の内容が異なることになるから、同事件の完結まで、損害額及び謝罪広告の内容が確定せず、本件国家賠償請求権及び謝罪広告請求権の消滅時効は完成していなかった旨主張する。 しかし、補正の上引用する原判決第3の2⑴及び⑵のとおり、控訴人らの主張する公平な裁判を受ける権利の侵害による損害は、砂川事件上告審判決 の宣告時か遅くとも砂川事件差戻審判決の確定時までに発生するものであり、控訴人ら主張の再審請求による事情は、一旦発生した損害を事後的に消滅又は軽減するものにすぎないから、上記権利侵害による損害の発生という事実に影響するものではない。また、前記改正前の民法724条の「損害を知った時」とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解されるが、被害者が認識した損害と牽連一体をなし、その発生を予見することが可能な範囲のものについては、被害者が認識したものとして、消滅時効の進行を開始するものであり(最高裁判所昭和42年7月18日第三小法廷判決・民集21巻6号1559頁、同前掲昭和43年6月27日判決参照)、その意味で、損害の程度や額を具体的に認識することまで要するものではないと解される。 そうすると、控訴人らが砂川事件の再審請求の時までに認識した損害の内容に消滅時効の起算点として欠けるところはなく、その後の事情により損害が消滅又は軽減され、損害額や謝罪広告文の内容に影響が生じることがあることは、消滅時効の起算点に影響するものではなく、その当時の認識に基づいて各請求権を行使することが可能であったというべきであるから、控訴人らの主張は採用できない。 3 不当利得返還請求(争点⑺及び⑻)について の起算点に影響するものではなく、その当時の認識に基づいて各請求権を行使することが可能であったというべきであるから、控訴人らの主張は採用できない。 3 不当利得返還請求(争点⑺及び⑻)について⑴ 訴えの適法性(争点⑺)についてア控訴人らの不当利得返還請求(控訴の趣旨4項)は、原判決を破棄し、砂川事件を第一審に差し戻す旨の砂川事件上告審判決は憲法37条1項に違反し無効であり、したがって本件被告人らをそれぞれ罰金2000円に処した差戻後の第一審判決も無効であるから、本件被告人らが被控訴人に納付した罰金は法律上の原因を欠くとして、不当利得返還請求権に基づき、各2000円(控訴人Cについては、同人の法定相続分250円)及びこれに対する遅延利息の支払を求めるものである。 イ控訴人らの上記請求は、刑事手続で確定した罰金を内容とする有罪判決が無効であることを理由として、刑の執行として徴収された罰金額相当額の金員を不当利得として返還を求めるものである。しかし、我が国の司法制度は、民事訴訟及び行政事件訴訟とは別個の訴訟類型として刑事訴訟を設けているところ、①被告人が刑事手続とは別に民事訴訟ないし行政事件訴訟を提起し、有罪判決の無効を理由として罰金額相当額の金員の返還を求めることが許容されるとすれば、有罪判決の適否という同一の事項について刑事訴訟と民事訴訟等が並立し、裁判所の判断の抵触等の問題が起こり得ること、②確定した有罪判決に対する救済方法としては、刑事訴訟法で規定された再審手続があり、有罪判決の効力を争う手続としてこの再審手続が予定されていること、③再審手続において無罪の裁判を受けた者が、原判決によってすでに罰金の執行を受けた場合には、罰金額に所定の法定利率による金額を加算した額相当の補償を請求することがで の再審手続が予定されていること、③再審手続において無罪の裁判を受けた者が、原判決によってすでに罰金の執行を受けた場合には、罰金額に所定の法定利率による金額を加算した額相当の補償を請求することができ(刑事補償法1条2項、4条5項)、同一の原因による損害賠償請求については調整規定が設けられている(同法5条)のに対し、不当利得返還請求については、そのような規定はないことからすると、民事訴訟等において、有罪判決の効力を争い、刑の執行として徴収された罰金額相当額の金員を不当利得として返還を求めることは、現行法上想定されていないものであって、控訴人らの不当利得返還請求に係る訴えは、許されないと解するのが相当である。 よって、控訴人らの上記の点に関する訴えはいずれも却下を免れない。 第4 結論以上の次第で、控訴人らの請求のうち、不当利得の返還を求める部分(控訴の趣旨4項)は、不適法であるから却下すべきであり、その余の部分は理由がないから棄却すべきところ、控訴人らの請求を全部棄却した原判決は一部失当であるから、原判決中、不当利得の返還を求める部分を取り消して同部分に係 る訴えを却下し、その余の部分の控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第19民事部 裁判長裁判官後藤健 裁判官齋藤巌 裁判官天川博義(「別紙一覧表」の掲載省略)
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