【DRY-RUN】主 文 原判決中上告人A1に関する部分を破棄し、右部分につき本件を東京高 等裁判所に差し戻す。 上告人A2、同A3、同A4の本件上告を棄却する。 前項に関する上告費
主 文 原判決中上告人A1に関する部分を破棄し、右部分につき本件を東京高 等裁判所に差し戻す。 上告人A2、同A3、同A4の本件上告を棄却する。 前項に関する上告費用は、同上告人らの負担とする。 理 由 上告代理人信部高雄、同大崎勲の上告理由中上告人A1に関する部分について 原審は、(1) 上告人A1と訴外Dとは昭和二三年七月二〇日婚姻の届出をした 夫婦であり、両名の間に同年八月一五日に上告人A2が、昭和三三年九月一三日に 同A3が、昭和三九年四月二日にA4が出生した、(2)Dは昭和三二年銀座のアル バイトサロンにホステスとして勤めていた被上告人と知り合い、やがて両名は互に 好意を持つようになり、被上告人はDに妻子のあることを知りながら、Dと肉体関 係を結び、昭和三五年一一月二一日一女を出産した、(3) Dと被上告人との関係 は昭和三九年二月ごろ上告人A1の知るところとなり、同上告人がDの不貞を責め たことから、既に妻に対する愛情を失いかけていたDは同年九月妻子のもとを去り、 一時鳥取県下で暮していたが、昭和四二年から東京で被上告人と同棲するようにな り、その状態が現在まで続いている、(4) 被上告人は昭和三九年銀座でバーを開 業し、Dとの子を養育しているが、Dと同棲する前後を通じてDに金員を貢がせた こともなく、生活費を貰つたこともない、ことを認定したうえ、Dと被上告人との 関係は相互の対等な自然の愛情に基づいて生じたものであり、被上告人がDとの肉 体関係、同棲等を強いたものでもないのであるから、両名の関係での被上告人の行 為はDの妻である上告人A1に対して違法性を帯びるものではないとして、同上告 人の被上告人に対する不法行為に基づく損害賠償の請求を棄却した。 しかし、夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第 上告人の行 為はDの妻である上告人A1に対して違法性を帯びるものではないとして、同上告 人の被上告人に対する不法行為に基づく損害賠償の請求を棄却した。 しかし、夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある - 1 - 限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関 係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻と しての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の 苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。 したがつて、前記のとおり、原審が、Dと被上告人の関係は自然の愛情に基づい て生じたものであるから、被上告人の行為は違法性がなく、上告人A1に対して不 法行為責任を負わないとしたのは、法律の解釈適用を誤つたものであり、その誤り は、判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの点において理由があり、 原判決中上告人A1に関する部分は破棄を免れず、更に、審理を尽くさせるのを相 当とするから、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。 同上告理由中上告人A2、同A3、同A4に関する部分について 妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持つた女性が妻子のもとを去つた右男 性と同棲するに至つた結果、その子が日常生活において父親から愛情を注がれ、そ の監護、教育を受けることができなくなつたとしても、その女性が害意をもつて父 親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、右女性の行 為は未成年の子に対して不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。 けだし、父親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の 女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思によつて行うことができ るのであるから、他の女性との同棲の結果、未成年の子 だし、父親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の 女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思によつて行うことができ るのであるから、他の女性との同棲の結果、未成年の子が事実上父親の愛情、監護、 教育を受けることができず、そのため不利益を被つたとしても、そのことと右女性 の行為との間には相当因果関係がないものといわなければならないからである。 原審が適法に確定したところによれば、上告人A2、同A3、同A4(以下「上 告人A2ら」という。)の父親であるDは昭和三二年ごろから被上告人と肉体関係 を持ち、上告人A2らが未だ成年に達していなかつた昭和四二年被上告人と同棲す - 2 - るに至つたが、被上告人はDとの同棲を積極的に求めたものではなく、Dが上告人 A2らのもとに戻るのをあえて反対しなかつたし、Dも上告人A2らに対して生活 費を送つていたことがあつたというのである。したがつて、前記説示に照らすと、 右のような事実関係の下で、特段の事情も窺えない本件においては、被上告人の行 為は上告人A2らに対し、不法行為を構成するものとはいい難い。被上告人には上 告人A2らに対する関係では不法行為責任がないとした原審の判断は、結論におい て正当として是認することができ、この点に関し、原判決に所論の違法はない。論 旨は、採用することができない。 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、三八六条、九五条、八九条、 九三条に従い、裁判官大塚喜一郎の補足意見、裁判官本林讓の反対意見があるほか、 裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 裁判官大塚喜一郎の補足意見は、次のとおりである。 上告理由中上告人A2、同A3、同A4に関する部分について、私は、被上告人 の同棲行為と上告人A2らが被つた不利益との間には相当因果関係がないとする多 数意見に同 一郎の補足意見は、次のとおりである。 上告理由中上告人A2、同A3、同A4に関する部分について、私は、被上告人 の同棲行為と上告人A2らが被つた不利益との間には相当因果関係がないとする多 数意見に同調するものであるが、若干の意見を補足しておきたい。 妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持つた女性が妻子のもとを去つた右男 性と同棲するようになれば、右未成年の子が事実上父親の監護等を受けられなくな り、そのため不利益を被る場合があることは、否めないことである。この場合に、 問題は、右の事実上の不利益を法的に評価して原因行為と相当因果関係にあるもの であるとしうるかどうかである。本林裁判官は、右の不利益は本件のような場合に は、女性の同棲行為によつて通常生ずるのであるから、相当因果関係があるとされ るのである。なるほど、不法行為における行為とその結果との間に相当因果関係が あるかどうかの判断は、そのような行為があれば、通常はそのような損害が生ずる であろうと認められるかどうかの基準によつてされるべきであり、私は、一般論と - 3 - して同裁判官と意見を異にするものではないけれども、本件のような場合において は、家に残した子に対し、監護等を行うことは、その境遇いかんにかかわらず、ま さに父親自らの意思によつて決められるのであるから、相当因果関係の有無の判断 に当たつては、この父親の意思決定が重要な意義を持つものと考えるべきである。 そして、右父親の意思決定のいかんによつて未成年の子が監護等を受けられるか、 又は受けられないかの結果が生ずるものであるところ、多数意見摘示にかかわる原 審の確定した事実関係のもとにおいては、相手方の女性の同棲行為によつて未成年 の子が不利益を受けることが通常であるとはいゝ難く、右不利益は、あくまでも事 実上もたらされたものにしかすぎず、それを法的 原 審の確定した事実関係のもとにおいては、相手方の女性の同棲行為によつて未成年 の子が不利益を受けることが通常であるとはいゝ難く、右不利益は、あくまでも事 実上もたらされたものにしかすぎず、それを法的に評価して原因行為と相当因果関 係にある結果であるということはできない。なお、本件のような事案において、子 が父親に対しては損害賠償の請求を行わず、その同棲の相手方となつた女性に対し てだけ損害賠償の請求をする事例が一般的であるところ、その請求者の態度は心情 的に理解できないわけではないが、この一般的事実及びその背景にある法解釈論は、 本件相当因果関係の判断に関する考慮要素とすることができる。 さらに、本林裁判官は、子が被る不利益が法の保護に価する法益であるといわれ るので、この点について附言すると、右判示は、つまり不法行為における加害者の 行為の違法性の問題を指摘したものと解されるところ、違法性の有無の判断に当た つても、子が父親に対しては損害賠償の請求をしないという前記一般的事実及びそ の法解釈論は、十分に考慮されるべきであると考える。 裁判官本林讓の反対意見は、次のとおりである。 私は、上告理由中上告人A2、同A3、同A4に関する部分について、多数意見 とは異なり、被上告人の行為と上告人A2らが被つた不利益との間には、相当因果 関係があるとすべきものと考える。すなわち、多数意見は、被上告人が、上告人A 2らのもとを去つたその父親のDと同棲するに至つた結果、同上告人らが父親から - 4 - 愛情を注がれ、監護、教育を受けることができなくなつて不利益を被つたとしても、 被上告人の右行為と同上告人らが被つた不利益との間には相当因果関係はないとし、 その理由として、Dは、他の女性との同棲の有無にかかわりなく、上告人A2らに 対して自らの意思によつて監護等を行うことができるの 告人の右行為と同上告人らが被つた不利益との間には相当因果関係はないとし、 その理由として、Dは、他の女性との同棲の有無にかかわりなく、上告人A2らに 対して自らの意思によつて監護等を行うことができるのであるから、それを行うか どうかは、被上告人との同棲とは、関係がないというのである。なる程、父親が未 成年の子に対して行う監護及び教育は、父子が日常起居を共にしなければできない ものではなく、他の女性と同棲していたとしても、父親が強靱な意思をもつて行え ば行えなくはないものであろう。しかし、私は、未成年の子を持つ男性と肉体関係 を持ち、その者の子供を出産し、妻子のもとを去つた右男性と同棲するに至つた女 性がたとえ、自らその同棲を望んだものでもなく、同棲後も、男性が妻子のもとに 戻ることに敢えて反対しないのであつても、同棲の結果、男性がその未成年の子に 対して全く、監護、教育を行わなくなつたのであれば、それによつて被る子の不利 益は、その女性の男性との同棲という行為によつて生じたものというべきであり、 その間には相当因果関係があるとするのが相当であると考えるのである。けだし、 不法行為における行為とその結果との間に相当因果関係があるかどうかの判断は、 そのような行為があれば、通常はそのような結果が生ずるであろうと認められるか どうかの基準によつてされるべきところ、妻子のもとを去つて他の女性と同棲した 男性が後に残して来た未成年の子に対して事実上監護及び教育を行うことをしなく なり、そのため子が不利益を被ることは、通常のことであると考えられ、したがつ て、その女性が同棲を拒まない限り、その同棲行為と子の被る右不利益との間には 相当因果関係があるというべきだからである。更に、日常の父子の共同生活の上で 子が父親から日々、享受することのできる愛情は、父親が他の女性と同棲すれば、 必ず奪 その同棲行為と子の被る右不利益との間には 相当因果関係があるというべきだからである。更に、日常の父子の共同生活の上で 子が父親から日々、享受することのできる愛情は、父親が他の女性と同棲すれば、 必ず奪われることになることはいうまでもないのであり、右女性の同棲行為と子が 父親の愛情を享受することができなくなつたことによつて被る不利益との間には、 - 5 - 相当因果関係があるということができるのである。したがつて、私は、本件におい て、被上告人の同棲行為と上告人A2らが日常生活上、父親からの愛情を享受する ことができなくなり、監護、教育を受けられなくなつたことによつて被つた不利益 との間には、相当因果関係があるものと考えるのであり、この点において多数意見 に同調することができないものである。 このように、被上告人の行為と上告人A2らが被つた不利益との間に相当因果関 係が認められるとすれば、次に検討されなければならないのは、被上告人の行為に よつて上告人A2らが被つた不利益は、はたして不法行為法によつて保護されるべ き法益となり得るかの問題である(この問題については、多数意見は、論理的帰結 として当然ながら論及していないのである。)。民法八二〇条は、親権を行う者は、 子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負うと規定する。右監護及び教育の義 務が国家、社会に対する義務なのか、子に対する私法上の義務なのか、又はその両 方の性質を有するものかは、にわかに決し難いものがあるが、いずれにしても、少 なくとも親が故意又は過失によつて右義務を懈怠し、その結果、子が不利益を被つ たとすれば、親は、子に対して不法行為上の損害賠償義務を負うものというべきで あるから、右不利益は、不法行為法によつて保護されるべき法益となり得ると考え られるのである。また、未成年の子が両親とともに共同生活をおくる は、子に対して不法行為上の損害賠償義務を負うものというべきで あるから、右不利益は、不法行為法によつて保護されるべき法益となり得ると考え られるのである。また、未成年の子が両親とともに共同生活をおくることによつて 享受することのできる父親からの愛情、父子の共同生活が生み出すところの家庭的 生活利益等は、未成年の子の人格形成に強く影響を与えずにはいられないものであ り、かつ、人間性の本質に深くかかわり合うものであることを考えると、法律は、 それらへの侵害に対しては厚い保護の手を差し延べなければならない、換言すれば、 右利益等は、十分に法律の保護に価する法益であるというべきである。 このように考えると、ある女性が未成年の子を家に残して来た男性と同棲するこ とによつて、右子が父親からの愛情、監護、教育を享受し得なくなるような結果が - 6 - 生じた場合には、右女性は、故意又は過失がある限り、未成年の子に対し、不法行 為責任を負うものといわざるを得ないわけである。そうすると、原審が本件事実関 係の下においては、被上告人は、上告人A2らに対し、不法行為責任を負わないと したのは、法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤りは、判決に影響を及ぼす ことが明らかである。論旨は、この点において理由があり、原判決中上告人A2ら に関する部分も、破棄を免れず、更に、審理を尽くさせるため右部分についても本 件を原審に差し戻すのが相当であると考える。 最高裁判所第二小法廷 裁判官 大 塚 喜 一 郎 裁判官 本 林 讓 裁判官 栗 本 一 夫 裁判長裁判官吉田豊は退官につき署名押印することができない。 裁判官 大 塚 喜 讓 裁判官 栗 本 一 夫 裁判長裁判官吉田豊は退官につき署名押印することができない。 裁判官 大 塚 喜 一 郎 - 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