主文 被告人を懲役15年に処する。 未決勾留日数中70日を刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)第1 被告人は, 1 経営していた建築会社が平成3,4年ころ事実上倒産して多額の負債を抱えたことや,その後賭博などで浪費して金融業者等から多額の金銭を借り入れたことなどからその返済等に窮し,客として出入りしていた三重県松阪市a町b丁目c番地d所在の飲食店「e」の経営者であるA(当時74歳)から金銭を借り入れ,翌日が支払期限である借金の返済などに充てようと考え,平成13年11月14日午後1時ころ,上記「e」に赴き,同日午後2時30分ころ,上記Aに借金を申し込んだが,同女に断られたため,さらにしつこく頼み土下座までしたものの,同女に取り合ってもらえず,店から出ていくよう求められ,同女に押すようにされて店外に出され,同女に塩を撒かれたが,なお同店玄関付近にいた際,同店裏口に同女がいるのに気付き,同所から再び同店内に入って同女に更に借金を申し込んだところ,やはり同女に拒絶され,「しつこい」などと言われた上,同女が被告人を追い払おうとして持った灯油ポンプが被告人に当たるなどしたことから,自分が敢えて頭を下げて借金を申し込んでいるのに同女から冷たくあしらわれ,ばかにされたと考え,激高し,とっさに同女を殺害することを決意し,同日午後3時ころ,同店内において,同店の棚にあった焼酎瓶(平成14年押第19号の1。内容物と併せた本件当時の重量約850グラム)を手に取り,これで同女の頭部・顔面を多数回にわたって殴打し,よって,そのころ,同所において,同女を頭蓋冠及び頭蓋底骨折を伴う脳挫傷及びくも膜下出血により死亡させ, 2 同日午後4時ころ,上記「e」内において,上記A所有の現金約2万8000円を窃取した。 第2 被告人は,上記第1の1記載のとお を頭蓋冠及び頭蓋底骨折を伴う脳挫傷及びくも膜下出血により死亡させ, 2 同日午後4時ころ,上記「e」内において,上記A所有の現金約2万8000円を窃取した。 第2 被告人は,上記第1の1記載のとおり金銭に窮していたことから,寸借名下にB(当時29歳)から金員を詐取しようと企て, 1 平成13年12月21日午後1時45分ころ,三重県松阪市f町g番地h付近から同市i町j番地k所在のl株式会社松阪支店に向かって走行中の普通乗用自動車内において,返済する意思も能力もなく,かつ,真実は,借用後直ちに自己の借金の返済等に費消する意図であるのにその情を秘し,上記Bに対し,「早急に振り込みをしないといけないところがある。悪いけど君の名前でサラ金から50万円ほど借りて,貸して欲しい。1月10日ころには300万円位の金が入るので,それで返すことができる。おれのほうで必ず返しておくから。」などと嘘を言い,同人をしてその旨誤信させて金員貸付けを承諾させ,よって,同日午後2時45分ころ,同人をして上記l株式会社松阪支店から同人名義で現金50万円を借り出させた上,同社前路上に駐車中の上記自動車内において,その現金50万円の交付を受け, 2 更に,同月25日午前10時30分ころ,同市m町n番地o所在の飲食店「p」駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において,返済する意思も能力もなく,かつ,真実は,借用後直ちに自己の借金の返済等に費消する意図であるのにその情を秘し,上記Bに対し,「(自己が雇っている)従業員に払う給料がないんだ。今日どうしても必要なんだ。サラ金から50万円ほど借りて,貸してくれないか。前の分も合わせて1月10日には必ず返すから。」などと嘘を言い,前同様,同人をしてその旨誤信させて金員貸付けを承諾させ,よって,同日午前11時30分ころ,同人をしてq株式会社松 ,貸してくれないか。前の分も合わせて1月10日には必ず返すから。」などと嘘を言い,前同様,同人をしてその旨誤信させて金員貸付けを承諾させ,よって,同日午前11時30分ころ,同人をしてq株式会社松阪店から同人名義で現金50万円を借り出させた上,同市r町s番地t所在の株式会社u不動産専用駐車場に駐車中の上記自動車内において,その現金50万円の交付を受け,もってそれぞれ人を欺いて財物を交付させた。 (法令の適用)罰条判示第1の1の所為刑法199条判示第1の2の所為刑法235条判示第2の各所為いずれも刑法246条1項刑種の選択判示第1の罪につき有期懲役刑を選択併合罪加重刑法45条前段,47条本文,10条,14条(最も重い判示第1の1の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑訴法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,殺人1件,窃盗1件及び詐欺2件の事案であるが,被告人は,多額の負債を抱え,その返済に行き詰まり,切羽詰まって判示第1の被害者に対し金銭の借入れを申し込んだが断られ,同被害者に判示第1の1記載の店舗から出ていくよう言われるなどしたことから激高して同被害者を殺害し(判示第1の1),その後,同被害者の財布や同店のレジスターから現金を窃取し(判示第1の2),また,上記各犯行後も借金を返済しなければならないことには変りがなかったことから,知人の息子に対し,2件の詐欺に及んだ(判示第2)ものである。 判示第1の1の殺人の動機は,判示のとおり,被害者の対応に激高したことにあるが,もともと被告人は「e」の常連客というほど同被害者と親しくはなかったから,本来ならば同被害者に借金を申し込むことができる関係ではなかったのに,することが決まってい 害者の対応に激高したことにあるが,もともと被告人は「e」の常連客というほど同被害者と親しくはなかったから,本来ならば同被害者に借金を申し込むことができる関係ではなかったのに,することが決まっていなかった忘年会を予約し,被告人からの金銭の借り入れ申し込みを断りにくくした上で同被害者にしつこく借金を申し込み,借財を明確に断られて,一旦は同店から退去させられたのに,再び勝手に裏口から入り込んで更に借金の申し込みをしているから,同被害者がこのような被告人に対し,多少厳しい態度で退去を要求するなどしたとしてもやむを得ないところであって,同被害者に落ち度があるとまではいえず,このような同被害者の態度に激高して同被害者の殺害を決意した犯行動機は,自己中心的であって,到底酌量の余地はない。 また,判示窃盗及び詐欺の動機は,多額の負債を抱え,その返済に行き詰まったこと等にあるが,被告人は,経営していた建築会社が事実上倒産したことにより,多額の負債を抱えたとはいえ,その整理のため親族や知人らから多額の援助を受けるなどしたのに,その後賭博などで金銭を浪費して借金を膨らませ,弟の会社の金を自己の用途に費消してしまい働きづらくなったこともあって,ここ数年はアルバイト程度で定職に就かず,上記各犯行の1年前ころからは就労しないで,生活費,遊興費や借金返済等のためサラ金や親族,知人などから金銭を借り入れ,更に借金がかさんでその様な借り入れができなくなるや,親族や知人らの名義を冒用して金融業者から金銭を借り入れるなどし,その結果,それらの借金の返済を怠ると上記氏名冒用の事実が露見するおそれがあったことも手伝って,更に金策に追われ,上記各犯行を犯すに至ったものであるから,上記各犯行当時の被告人の困窮は,その無計画かつ怠惰な生活態度に大きな原因があったと言わざるを得ず,上 見するおそれがあったことも手伝って,更に金策に追われ,上記各犯行を犯すに至ったものであるから,上記各犯行当時の被告人の困窮は,その無計画かつ怠惰な生活態度に大きな原因があったと言わざるを得ず,上記各犯行に至る経緯,動機に酌むべきものは全くない。 判示第1の1の殺人の態様は,高齢の上記被害者に対し,その背後から,いきなり焼酎瓶で後頭部を力一杯殴りつけ,同被害者が悲鳴を上げたり腕で頭部を庇おうとしたのにもかまわず更に頭部顔面等を手加減することなく滅多打ちし,その結果,同被害者の頭部や顔面に,実に十数か所もの創口を生じさせ,頭蓋冠及び頭蓋底骨を骨折させて殺害したというもので,残酷であるばかりか,その結果,殺害現場には多量の血液が飛び散り,その一部は天井にも飛散するなど凄惨な状態になっており,これらからしても被告人が強固で確定的な殺意を持って犯行に及んだことは明らかである。また,被告人は,同被害者を殺害した後,犯行の発覚を防ぐため,同被害者の死体を引きずってトイレに入れた上,店内についた被告人の指紋や床などに付着した同被害者の血を拭き取るなどの罪証隠ぺい行為に及んでいる。したがって,本件の態様はまことに悪質である。犯行結果は言うまでもなく重大であり,突如として殺害された同被害者の精神的・肉体的苦痛や無念さは計り知れないし,遺族らの受けた精神的衝撃や悲嘆も察するに余りある。にもかかわらず,被告人は,遺族らに対し,慰謝の措置を講じていないのであって,遺族らの処罰感情が峻烈を極めているのも当然である。また,飲食店街で本件犯行が行われ,大きく報道された後もしばらく被告人が捕まらなかったことによる,周辺住民が受けた恐怖感や不安感も軽視できない。 判示第1の2の窃盗は,上記被害者の殺害後にその店内で敢行したものであること,その際被告人は同被害者の財布やレジ らく被告人が捕まらなかったことによる,周辺住民が受けた恐怖感や不安感も軽視できない。 判示第1の2の窃盗は,上記被害者の殺害後にその店内で敢行したものであること,その際被告人は同被害者の財布やレジスターにとどまらず,同店内や同被害者の居住部分まで入念に物色していること,居住部分を物色する際には指紋が残らないよう服で手を覆うなどしていること等,冷静さがうかがえる悪質な犯行である。被害金額は多額とはいえないものの,被告人は,本件についても被害弁償を行っていない。 判示第2の各詐欺については,知人の息子である被害者ならば,仕事をあっせんする振りをして同人に恩義を着せれば,金銭の借入れを申し込んでも断られないだろうと考えた被告人が,実際には,あっせんするような仕事もないのに,同被害者に仕事を紹介する旨申し向け,そのことを信じさせるため,仕事の現場であると偽って,同被害者を見知らぬ人の土地や建物に連れて回り,同被害者の面前で架空の施主に仕事の電話を掛ける振りまでして,その旨信じ込ませ,被告人からの金銭の借り入れ申し込みを断りにくくした上,連続して敢行したものであり,巧妙かつ計画的であって悪質な犯行である。同被害者は,被告人の言うことを信じ,近日中に返済が受けられるものと考えて,自らサラ金から借入れをして被告人に金員を交付したものであって,金額も合計100万円と多額であり,同被害者は被告人の厳重処罰を求めている。しかるに,被告人は同被害者に慰謝の措置を講じていないばかりか,公判廷において,本件は被害者に助けてもらったもので,自分としては被害者をだますまでの意思はなかったなどと,犯意を否定するとも受け取れる弁解をしているのであって,真摯に反省しているとは言い難い。 被告人は,判示第1の1の殺人を犯し,その後その犯行現場で判示第1の2の窃盗を敢行し,それ 思はなかったなどと,犯意を否定するとも受け取れる弁解をしているのであって,真摯に反省しているとは言い難い。 被告人は,判示第1の1の殺人を犯し,その後その犯行現場で判示第1の2の窃盗を敢行し,それから2か月も経過しないうちに判示第2の各詐欺を連続して敢行していることからすれば,被告人の規範意識の欠如は顕著である。 そうすると,被告人の刑事責任は極めて重大であるから,判示第1の1の殺人が被害者の態度に一方的に激高したものとはいえ,とっさに行われた偶発的な犯行であること,これまで罰金以外の前科がないこと,実弟が被告人の受け入れと雇用及び今後の監督を誓っていること,被告人は,判示各犯行を大筋においては認め,殺害された被害者の遺族に対して本当に申し訳ない旨述べていることなど被告人のために有利な事情を最大限斟酌しても主文の量刑はやむを得ない。 (求刑ー懲役18年)平成14年7月3日津地方裁判所刑事部裁判長裁判官天野登喜治裁判官増田周三裁判官見宮大介
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