- 1 - 令和元年11月7日判決言渡平成30年(行ウ)第163号重加算税賦課決定処分取消請求事件 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 中京税務署長が平成29年2月27日付けで原告に対してした平成25年4月期(平成24年5月1日から平成25年4月30日までの事業年度をいい,他の事業年度についても順次,各個別の終了年月をもって同様に略称する。)か ら平成28年4月期までの各事業年度に係る法人税の各重加算税賦課決定処分を取り消す。 2 中京税務署長が平成29年2月27日付けで原告に対してした平成25年4月課税事業年度(平成24年5月1日から平成25年4月30日までの復興特別法人税の課税事業年度をいい,他の復興特別法人税の課税事業年度について も順次,各個別の終了年月をもって同様に略称する。)及び平成26年4月課税事業年度に係る復興特別法人税の各重加算税賦課決定処分を取り消す。 3 中京税務署長が平成29年2月27日付けで原告に対してした平成28年4月課税事業年度(平成27年5月1日から平成28年4月30日までの地方法人税の課税事業年度をいう。以下同じ。)に係る地方法人税の重加算税賦課決定 処分を取り消す。 4 中京税務署長が平成29年2月27日付けで原告に対してした平成24年4月課税期間(平成23年5月1日から平成24年4月30日までの課税期間をいい,他の課税期間についても順次,各個別の終了年月をもって同様に略称する。)から平成28年4月課税期間までの各課税期間に係る消費税及び地方消 費税(以下「消費税等」という。)の各重加算税賦課決定処分を取り消す。 - 2 - 第2 事案の って同様に略称する。)から平成28年4月課税期間までの各課税期間に係る消費税及び地方消 費税(以下「消費税等」という。)の各重加算税賦課決定処分を取り消す。 - 2 - 第2 事案の概要本件は,パチンコ店の経営等を業とする原告が,平成25年4月期から平成28年4月期までの各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)に係る法人税の確定申告,平成25年4月課税事業年度及び平成26年4月課税事業年度(以下「本件各課税事業年度」という。)に係る復興特別法人税の確定申告,平成28年 4月課税事業年度に係る地方法人税の確定申告,並びに平成24年4月課税期間から平成28年4月課税期間までの各課税期間(以下「本件各課税期間」といい,本件各事業年度,本件各課税事業年度,平成28年4月課税事業年度及び本件各課税期間を併せて「本件各事業年度等」という。)に係る消費税等の確定申告において,実際には景品の仕入れの事実がないにもかかわらず,現金が不足した事実 を隠蔽するため,虚偽の仕入高を計上していたことなどを理由として,中京税務署長から,平成29年2月27日付けで,①本件各事業年度に係る法人税の各重加算税賦課決定処分,②本件各課税事業年度に係る復興特別法人税の各重加算税賦課決定処分,③平成28年4月課税事業年度に係る地方法人税の重加算税賦課決定処分,④本件各課税期間に係る消費税等の各重加算税賦課決定処分(以下, ①~④の各重加算税賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。)を受けたため,被告を相手に,本件各処分の取消しを求める事案である。 1 関係法令の定め国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)68条1項は,同法65条1項(過少申告加算税)の規定に該当する 場合(同条5項の適用 。 1 関係法令の定め国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)68条1項は,同法65条1項(過少申告加算税)の規定に該当する 場合(同条5項の適用がある場合を除く。)において,納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは,当該納税者に対し,政令で定めるところにより,過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠 ぺいし,又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあると- 3 - きは,当該隠ぺいし,又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え,当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定する。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実,各項掲記の証拠(書証番号は,特記 しない限り,各枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実)(1) 原告の組織等原告は,京都市α区に本店を置き,パチンコ店の経営等を業とする株式会社である(甲1)。 原告は,現在,本店所在地,堺市β区及び滋賀県γ市に3店舗のパチンコ店を出店している(以下,本店所在地にある店舗を「京都店」,堺市β区にある店舗を「堺店」といい,これら2店舗を併せて「本件各店舗」という。)。 原告は,本店所在地にある本部(京都店2階にある事務室)において,本件各店舗に係る経理事務等を行っている。 なお,原告は,平成23年4月期の途中から 併せて「本件各店舗」という。)。 原告は,本店所在地にある本部(京都店2階にある事務室)において,本件各店舗に係る経理事務等を行っている。 なお,原告は,平成23年4月期の途中から平成26年4月期の途中までは,本件各店舗に加えて大阪府δ市にも店舗を構えていたが,それ以降は本件各店舗の2店舗のみとなり,その後,平成28年4月に滋賀県γ市に店舗を開業して,現在に至っている。 原告の本部には,本件各事業年度等当時,部長であるA,次長であるB及 び正社員であるCことD(以下「C」という。)のほか,パート従業員であるEが所属していた(甲3)。 (2) 確定申告等原告は,会計ソフト「財務応援」(以下「本件会計システム」という。)を利用して経理事務を行っていた。 原告は,本件会計システムに入力されていた仕訳データを基に,本件各事- 4 - 業年度における法人税,本件各課税事業年度における復興特別法人税,平成28年4月課税事業年度における地方法人税,並びに本件各課税期間における消費税等について,別表1ないし4の各「確定申告」欄のとおり,各記載した確定申告書を中京税務署長に提出して,法定申告期限までに申告をした(乙8~18)。 (3) 税務調査,架空仕入れの発覚中京税務署の調査担当職員が,平成28年10月,原告に対して税務調査を実施したところ,総勘定元帳における仕入高の計上について,1店舗につき1行記載されるべき仕入高が,1店舗につき2行記載されている日が複数存在することが判明したことから,架空仕入れが疑われた。そこで,原告に おいて本件会計システムの修正履歴を確認したところ,当初は正しく「現金」と入力されていたものが,後で「仕入高」に修正されていたこと,すなわち,原告の ら,架空仕入れが疑われた。そこで,原告に おいて本件会計システムの修正履歴を確認したところ,当初は正しく「現金」と入力されていたものが,後で「仕入高」に修正されていたこと,すなわち,原告の平成23年7月から平成28年4月までの期間に係る仕訳データの一部について,振替伝票に基づいて適切に仕訳データが入力された後に,本件各店舗における日々の売上金額や特殊景品の仕入金額等を管理する営業 日報(以下「本件日報」という。)に基づかず,振替伝票の作成もされないまま,現金として計上されていた金額の勘定科目を仕入高勘定に修正する架空の仕入れ計上・入力(以下「本件架空仕入れ」という。)がされていたことが判明した。そして,本件架空仕入れの計上・入力は,Cによって行われたものであり,京都店における,売上金額から特殊景品の仕入金額及び諸経費を 差し引いた営業日当日における利益相当額の金額(以下「本件差金」という。)の一部が,原告の預金口座に入金されず,Cにより横領されていたことが判明した。(乙7,19,弁論の全趣旨)上記のような方法で本件会計システムに入力された本件架空仕入れは,別表5記載のとおり,合計72回(平成24年4月期は10回,平成25年4 月期は12回,平成26年4月期は10回,平成27年4月期は15回,平- 5 - 成28年4月期は25回),総額1億0727万0571円であった。 (4) 原告のCに対する刑事告訴原告は,中京警察署長に対し,平成29年8月30日付け告訴状(甲4)をもって,Cを業務上横領罪で告訴した(甲4,乙1)。 (5) 修正申告 原告は,上記税務調査により本件架空仕入れの事実が判明したため,平成29年1月30日から同年2月1日までの間に,本件各事業年度等について, した(甲4,乙1)。 (5) 修正申告 原告は,上記税務調査により本件架空仕入れの事実が判明したため,平成29年1月30日から同年2月1日までの間に,本件各事業年度等について,別表1ないし4の各「修正申告」欄のとおり,各記載した修正申告書を中京税務署長に提出して,修正申告をした(乙30~40)。 (6) 本件各処分 中京税務署長は,平成29年2月27日付けで,原告に対し,上記(2)の各確定申告において,実際には景品の仕入れの事実がないにもかかわらず,現金が不足した事実を隠蔽するため,虚偽の仕入高を計上していたことなどを理由として,別表1ないし4の各「賦課決定処分」欄のとおり,本件各処分をした(甲2)。 (7) 審査請求原告は,平成29年5月19日,国税不服審判所長に対し,上記本件各処分の取消しを求めて審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成30年4月16日付けで,原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。原告は,同月27日,同裁決書の謄本を受領した。 (甲5,乙41,弁論の全趣旨) (8) 本件訴えの提起原告は,平成30年10月19日,当庁に対し,本件各処分の取消しを求めて本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 争点及び当事者の主張(1) 主な争点 通則法68条1項が定める重加算税の要件のうち,65条1項(過少申告- 6 - 加算税)の規定に該当する場合であること,国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実について隠蔽仮装行為があったこと,及びその隠蔽仮装行為に基づき納税申告書を提出したことについては当事者間に争いがない。また,証拠(乙1,5~7,19)及び弁論の全趣旨によれば,本件架空仕入れの入力・計上をしたのはCであることが容易に その隠蔽仮装行為に基づき納税申告書を提出したことについては当事者間に争いがない。また,証拠(乙1,5~7,19)及び弁論の全趣旨によれば,本件架空仕入れの入力・計上をしたのはCであることが容易に認められる(上 記前提事実(3))。したがって,本件における主な争点は,原告の従業員であるCによる本件架空仕入れの計上・入力(隠蔽仮装行為)を,納税者本人である原告の行為と同視することができるか否か(通則法68条1項にいう「納税者」が隠蔽仮装行為をした場合に該当するか否か)である。 (2) 争点に対する当事者の主張 (被告の主張の要旨)ア我が国が採用する申告納税制度の下では,納税者は,自らが最もよく知り又は知り得べき課税要件事実に従って正しい申告をすべき義務を負っており,重加算税は,納税者が過少申告をするにつき隠蔽又は仮装という不正な手段を用いていた場合に,過少申告加算税よりも重い制裁を課すこ とによって,悪質な態様による納税義務違反の発生を防止し,もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとする趣旨に出た行政上の措置である。この措置は,本来的には,納税者自身による隠蔽仮装行為の防止を企図したものと解されるが,納税者以外の者が隠蔽仮装行為を行った場合であっても,それが納税者本人の行為と同視できるときには,納 税者本人に重加算税を賦課することができると解される(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁。以下「最高裁平成18年判決」という。)。 法人である納税者にあっては,申告に至るまでに役員や従業員といった納税者以外の者の行為が介在することが不可避であるが,これらの者は当 該納税者の機関あるいは事業活動上の利益を上げるための手足として用い- 7 - られている者 でに役員や従業員といった納税者以外の者の行為が介在することが不可避であるが,これらの者は当 該納税者の機関あるいは事業活動上の利益を上げるための手足として用い- 7 - られている者であるし,納税者以外の者の行為が介在するからといって,正しい申告をする義務(取り分け課税要件事実を隠蔽又は仮装して過少申告をしない義務)を免れ得るものではない。また,法人は,役員や従業員を機関あるいは手足として使って事業活動を行い経済的利益を得ている以上,それらの者が法人の事業活動に関して行った行為から生じる危険や責 任を負担すべきであるし(報償責任,危険責任の原理),当該行為は法人の行為の一部とみることも可能である。 他方,法人である納税者は,委任ないし雇用契約上の手段を通じて指揮監督するなど相当な注意義務を尽くすことで役員や従業員による隠蔽仮装行為の是正又はそれに基づく過少申告を防止する措置を講ずることができ る。 したがって,法人である納税者が,委任ないし雇用契約上の手段を通じて指揮監督するなど相当な注意義務を尽くすことによって,役員や従業員の隠蔽仮装行為を認識し又は認識することができ,法定申告期限までにその是正や過少申告を防止する措置を講ずることができたにもかかわらず, これを是正・防止せずに隠蔽仮装行為が行われ,それに基づいて過少申告がされたときには,役員や従業員による隠蔽仮装行為を納税者本人の行為と同視することができるというべきである。 原告が主張するように,役員や従業員の行為を法人の行為と同視できる場合を限定的に解すると,法人は,申告に関与する役員や従業員の業務を 適切に指揮監督するなど正確な申告を確保する措置を自ら講じなくても,申告後に課税庁からの指摘を待って過少申告加算税さえ納付すれば足りるとい すると,法人は,申告に関与する役員や従業員の業務を 適切に指揮監督するなど正確な申告を確保する措置を自ら講じなくても,申告後に課税庁からの指摘を待って過少申告加算税さえ納付すれば足りるという考えに至りかねないが,これは重加算税の制度趣旨にもとり,ひいては申告納税制度の根幹を揺るがすものである。 イ本件架空仕入れの入力は,総勘定元帳等をみれば容易に判明するもので あった。原告は,本部で保管する現金を厳格に管理しておらず,Cは,京- 8 - 都店に係る本件差金を意のままに取り扱い,仕訳データを自由に入力でき得る立場にあった。原告代表者,A及びBは,自ら又は部下従業員に指示して,原告の経理事務が適切に行われているのか否かを定期的に確認することができ,また,本部で保管する現金を厳格に管理するように容易に改めることができた。これらの措置を講じていれば,本件架空仕入れの入力 を認識することができたのであって,本件架空仕入れが入力された仕訳データに基づく過少申告を是正・防止する措置を講じることは極めて容易であり,かつ可能であったのに,原告はこれを怠り,隠蔽仮装行為に基づく過少申告を是正・防止するための相当な注意義務を尽くしていなかった。 したがって,Cの行為を原告の行為と同視することができ,通則法68 条1項にいう「納税者」が隠蔽仮装行為をした場合に該当する。 (原告の主張の要旨)ア通則法68条1項は,本来的には,納税者自身による隠蔽仮装行為の防止を企図したものである上,同項の文理上は,納税者本人以外の行為であれば,重加算税を課す余地はない。租税法律主義の観点からすれば,「納税 者」という文言から離れる解釈は,できる限りすべきではない。そうすると,納税義務者本人の行為でない場合には同項が適用されない ば,重加算税を課す余地はない。租税法律主義の観点からすれば,「納税 者」という文言から離れる解釈は,できる限りすべきではない。そうすると,納税義務者本人の行為でない場合には同項が適用されないのが原則であり,例外的に納税者本人の行為と同視できるとして同項の適用が肯定されるのは,納税者が課税所得を故意に減少せしめたと評価できる場合に限られるべきである。具体的には,法人が納税者である場合には,法人の役 員やその家族,株主など,納税者本人と実質的に同一と評価できる場合か,納税義務を免れたことによる不正の利益が,納税者本人である法人もしくは法人の代表者に帰属している場合に限られるべきである。 これに対し,法人の従業員に対する管理・監督不足に対し,重加算税という国家的制裁を加えることになるとの結論は,重加算税の制度趣旨(納 税者が過少申告をするにつき隠蔽又は仮装という不正手段を用いていた- 9 - 場合に,過少申告加算税よりも重い制裁を課すことによって,悪質な納税義務違反の発生を防止し,もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保する趣旨)に反するものであるし,中小零細企業に対して過度な管理を要求するものであり,極めて不当である。 イ原告の現金を横領し,その事実の発覚を防ぐために,無断で本件架空仕 入れを計上して隠蔽仮装行為を行っていたのは,原告の一従業員にすぎないCであり,納税者本人である原告と同視することができる関係にはない。 原告において,Cの上記行為に全く気付かずにいた点で同人の監督につき落ち度があったといえるものの,上記アのとおり,落ち度があったというだけでは,Cの行為を原告の行為と同視することはできない(最高裁平成 18年判決参照)。また,原告には,隠蔽仮装行為によって不正の利益が帰属して るものの,上記アのとおり,落ち度があったというだけでは,Cの行為を原告の行為と同視することはできない(最高裁平成 18年判決参照)。また,原告には,隠蔽仮装行為によって不正の利益が帰属していないのみならず,横領された現金が原告から流出してしまっているため,原告は従業員の隠蔽仮装行為による被害者である上,Cは,自身の横領の事実の発覚を防ぐためという私的理由により隠蔽仮装行為を行っているのであり,原告の納税義務を過少に見せかけることを目的として いない。 したがって,Cの行為を原告の行為と同視することはできず,通則法68条1項にいう「納税者」が隠蔽仮装行為をした場合に該当しない。 ウ被告は,報償責任,危険責任の原理を根拠に,役員や従業員の行為を法人の行為の一部とみることも可能である旨主張する。しかしながら,こ れらの原理は,労働者を指揮命令する立場にあり,労働者を使用することから利益を得ている使用者が,労働者の業務遂行上のミスから生じる損害を負担すべきであるという考え方であり,利益と損害という,いわば表裏の関係で用いられる原理であるのに対し,重加算税は,納税者に対する行政上の重い制裁であり,重加算税を付加することが適法か否かは,上記原 理が用いられる「民事上の」使用者・労働者間の損害の公平な分担の観点- 10 - とは全く場面が異なるから,理由がない。 また,被告は,役員や従業員の行為を法人の行為と同視できる場合を限定的に解すると,法人は,申告に関与する役員や従業員の業務を適切に指揮監督するなど正確な申告を確保する措置を自ら講じなくても,申告後に課税庁からの指摘を待って過少申告加算税さえ納付すれば足りるという考 えに至りかねないが,これは重加算税の制度趣旨にもとり,ひいては申告納税制度の 申告を確保する措置を自ら講じなくても,申告後に課税庁からの指摘を待って過少申告加算税さえ納付すれば足りるという考 えに至りかねないが,これは重加算税の制度趣旨にもとり,ひいては申告納税制度の根幹を揺るがすものである旨主張する。しかしながら,重加算税が過少申告加算税よりも重い行政上の制裁として規定されているのは,単に正確な申告をしなかったのみならず,隠蔽仮装行為を納税者が行っていることを理由とするものであって,上記主張によれば,正確な申告を確 保する措置を講じなかったことを理由に重加算税が賦課されるに等しい結論になってしまい,重加算税の趣旨に反することが明らかであるから,理由がない。 第3 当裁判所の判断 1 判断枠組み 通則法68条1項は,過少申告をした納税者が,その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し又は仮装し,その隠蔽し又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは,その納税者に対して重加算税を課することとしている。この重加算税の制度は,納税者が過少申告をするにつき隠蔽又は仮装という不正手段を用いていた場合に, 過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって,悪質な納税義務違反の発生を防止し,もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。同項は,隠蔽仮装行為の主体を納税者としているのであって,本来的には,納税者自身による隠蔽仮装行為の防止を企図したものと解される。しかし,納税者以外の者が隠蔽仮装行為を行った場合であっても,そ れが納税者本人の行為と同視することができるときには,形式的にそれが納税- 11 - 者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると,重加算税制度の趣旨及び目的を没却す れが納税者本人の行為と同視することができるときには,形式的にそれが納税- 11 - 者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると,重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる(最高裁平成18年判決参照)。 本件のように,納税者が法人である場合,当該法人の構成要素として存在する役員及び従業員をして,法人の事業活動,経済的活動が行われると同時に申告納税義務を適正に履行することが求められているのであって,これらの者に 対する不十分な指揮監督,組織管理の不備という法人の内部的事情を理由に,申告納税制度による適正な納税義務の履行を免れるとすると,重加算税制度の趣旨及び目的が没却されることになりかねない。 そうすると,納税者である法人において,その従業員が隠蔽仮装行為をし,その隠蔽仮装行為をしたところに基づき過少申告がされた場合であっても,当 該法人において,従業員による隠蔽仮装行為を認識し,又は容易に認識することができ,法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず,当該法人においてこれを防止せずに隠蔽仮装行為が行われ,それに基づいて過少申告がされたときには,当該隠蔽仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ,当該法人に対して重加算税を賦課すること ができると解するのが相当である。 2 認定事実前記前提事実に加え,各掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 原告の経理体制等 原告の経理事務は本部で行われており,本件各事業年度等当時,部長であるAは経理全体を統括するとともに堺店の現金管理を担当し,次長であるBは本部の総務と経理を,正社員であるCは振替伝票の作成,本件会計システムへの仕訳データの入力,支払関係のほ 業年度等当時,部長であるAは経理全体を統括するとともに堺店の現金管理を担当し,次長であるBは本部の総務と経理を,正社員であるCは振替伝票の作成,本件会計システムへの仕訳データの入力,支払関係のほか,京都店の現金管理(京都店に係る本件差金の保管及び預金口座への入金),預金管理等を,パート社員である Eは経理事務の補助(現金の取扱いを除く。)を,それぞれ担当していた(な- 12 - お,原告は,Cに京都店の現金管理(京都店に係る本件差金の保管及び預金口座への入金)を業務として担当させていたわけではないなどと主張するが,これは原告代表者の認識を主張するものにすぎず,Cが上司に当たるA又はBの指示に基づきこれを担当していたことは明らかであり,採用できない。)。 (甲3,4,乙1,3,5~7) B,C及びEは,本件各店舗が作成する本件日報に基づいて,本件会計システムに仕訳データを入力していた。なお,本件会計システムでは,一度入力された会計データを後に変更することが可能であったが,当該変更の履歴が残ることになっていた。(乙1,3,5)原告では,原告代表者が経理に詳しくなかったため,経理事務が従業員に 任せきりにされており,経理監査として,税理士及び中小企業診断士と顧問契約を締結するなどしていたが,その他に特段の不正チェックを行っていなかった(乙1,6)。 (2) 原告の収益管理の状況等原告では,本件各店舗において,店長等が本件日報を作成し,また,本件 差金を本件各店舗内の金庫に保管していた(甲4,乙1,3,5)。 本部では,本件各店舗が作成する本件日報に基づき,店舗ごと,日ごとに振替伝票が作成され,その後,当該振替伝票に基づき,1か月単位といった複数日の仕訳データがまとめて本件会計システムに入力されていた。 本部では,本件各店舗が作成する本件日報に基づき,店舗ごと,日ごとに振替伝票が作成され,その後,当該振替伝票に基づき,1か月単位といった複数日の仕訳データがまとめて本件会計システムに入力されていた。本件差金については,現金の増加として振替伝票が作成され,本件会計システムに 入力されていた。Cが経理処理を行っていた本件日報については,経理欄にCの押印があるものの,社長欄に押印はなく,また,振替伝票については,係印欄にCの押印があるものの,承認印欄に原告代表者や上司であるA及びBの押印はない。(乙3)堺店については,本件日報が毎日ファックスにより本部に送信され,本件 差金は,数日に一度,堺店を訪れたAに引き渡されていた。Aは,引き継い- 13 - だ本件差金を,原告名義の当座預金口座に入金していた。(乙1,3)他方で,京都店については,本件日報及び本件差金は,翌営業日にBに引き渡され,Bは,原告の預金口座へ本件差金を入金することなく,Cに引き継いでいた。Cは,引き継いだ本件差金を,本部にある金庫ではなく,自分の事務机の引き出し内に入れて一旦保管し,その後,数日分をまとめて原告 名義の普通預金口座に入金していた(ただし,京都店に係る本件差金の数日分の合計額に対応する金額の全額が,同預金口座に入金されていたわけではない。)。原告代表者,A及びBが,Cに対し,上記管理方法について,改善を指示するなど指揮監督をしたことはなく,むしろ京都店の現金管理はCに一任されていた。(甲4,乙1,3,5~7) (3) 原告における会計帳簿の記載内容等ア総勘定元帳(仕入高勘定)の記載内容等本件各店舗では,買い取った特殊景品の1日分の合計額を本件日報に記載して本部に報告し,本部では本件日報に基づいて店舗毎の振替 る会計帳簿の記載内容等ア総勘定元帳(仕入高勘定)の記載内容等本件各店舗では,買い取った特殊景品の1日分の合計額を本件日報に記載して本部に報告し,本部では本件日報に基づいて店舗毎の振替伝票が作成されていたため,原告の総勘定元帳(仕入高勘定)には,1店舗におけ る仕入高が1営業日当たり1件のみ計上されるのが通常であった。そのため,原告の総勘定元帳(仕入高勘定)には,本件各店舗のみ営業していた平成25年途中から平成28年4月27日までは1営業日当たり2件の仕入高が,本件各店舗に加えてδ市内又はγ市内の店舗を営業していた平成23年5月以降から平成25年途中まで及び平成28年4月28日以降は 1営業日当たり3件の仕入高が,それぞれ計上されるのが通常であった。 (乙1,3,7)しかしながら,原告の平成23年5月から平成28年4月までの総勘定元帳(仕入高勘定)には,1営業日当たり2件又は3件を超える件数の仕入高が計上されている営業日が多数存在しており,そのうちの多くが本件 架空仕入れに該当するものであった(乙20~24)。 - 14 - イ総勘定元帳(現金勘定)の記載内容等原告は,総勘定元帳(現金勘定)上,継続的に,少ないときで約1700万円,多いときで約4600万円の現金を手元で管理していることになっていたが,実際には,本部も本件各店舗もそのような多額の現金を保管しておらず,総勘定元帳の現金勘定記載の残高は,単なる帳簿上の数字と いう位置付けであった。また,本部では現金出納帳が作成されていなかった。そのため,原告では,日々の入出金と実際に保管する現金の額を正確に把握することができない状態であった。(乙5,7,25~29) 3 争点に対する判断(1) 検討 ア正社員 なかった。そのため,原告では,日々の入出金と実際に保管する現金の額を正確に把握することができない状態であった。(乙5,7,25~29) 3 争点に対する判断(1) 検討 ア正社員であるCは,本件各事業年度等当時,振替伝票の作成,本件会計システムへの仕訳データの入力,支払関係のほか,京都店の現金管理(京都店に係る本件差金の保管及び預金口座への入金),預金管理等といった経理事務を担当しており,原告の会計帳簿の作成等に携わる職務に従事していたこと(上記認定事実(1)),Cは,Bから引き継いだ京都店に係る本 件差金を,本部にある金庫ではなく,自分の事務机の引き出し内に入れて一旦保管し,その後,数日分をまとめて原告名義の普通預金口座に入金していたにもかかわらず,原告代表者,A及びBが,Cに対し,上記管理方法について改善を指示するなど指揮監督をした様子はうかがわれず,むしろ京都店の現金管理はCに一任されていたこと(上記認定事実(2))からす れば,Cは,役職こそ付されていないものの,原告から,京都店に係る本件差金の管理という重要な権限を与えられていたものと認められる。これらの事実に加え,原告では,原告代表者が経理に詳しくなかったため,経理事務が従業員に任せきりにされており,経理監査として,税理士及び中小企業診断士と顧問契約を締結するなどしていたが,その他に特段の不正 チェックを行っていなかったこと(上記認定事実(1)),Cが経理処理を行- 15 - っていた本件日報については,経理欄にCの押印があるものの,社長欄に押印はなく,また,振替伝票については,係印欄にCの押印があるものの,承認印欄に原告代表者や上司であるA及びBの押印はないなど,Cが行っていた経理処理に関する指揮監督が行われていた様子がうかがわ に押印はなく,また,振替伝票については,係印欄にCの押印があるものの,承認印欄に原告代表者や上司であるA及びBの押印はないなど,Cが行っていた経理処理に関する指揮監督が行われていた様子がうかがわれないこと(上記認定事実(2)),原告においては現金管理が厳格に行われておら ず,日々の入出金と実際に保管する現金の額を正確に把握することができない状態であったこと(上記認定事実(3)イ)を踏まえると,Cが,京都店に係る本件差金を意のままに取り扱い,本件会計システムへの仕訳データを自由に入力することができる状況,すなわち隠蔽仮装行為を誘発しやすい状況にあったにもかかわらず,原告はこの状況に対する是正や過少申告 防止の措置を講じていなかったものといわざるを得ない。 イ本件架空仕入れは,振替伝票に基づいて適切に仕訳データが入力された後に,本件日報に基づかず,振替伝票の作成もされないまま,現金勘定から仕入高勘定に修正する架空の仕入れ計上・入力というものであり,単に仕訳データを修正したのみで,それ以上に虚偽の本件日報や振替伝票を作 成して仕訳データに沿った外形を作出したりするなどしたわけではないから,特段巧妙な手段で行われたものではなかったといえること(上記前提事実(3)),原告の平成23年5月から平成28年4月までの総勘定元帳(仕入高勘定)には,1営業日当たりに原告の店舗数を超える件数の仕入高が計上されている営業日が多数存在しており,そのうちの多くが本件架空仕 入れに該当するものであったところ,これらの総勘定元帳(仕入高勘定)の記載は,通常の原告の経理事務に照らして明らかに不自然であったこと(上記認定事実(3)ア),本件架空仕入れの金額は,概ね1回当たり約100万円~300万円,合計1億0727万0571円と多額で )の記載は,通常の原告の経理事務に照らして明らかに不自然であったこと(上記認定事実(3)ア),本件架空仕入れの金額は,概ね1回当たり約100万円~300万円,合計1億0727万0571円と多額である上,その期間及び回数も,約5年間にわたり合計72回と長期間かつ多数回に及 ぶものであったこと(上記前提事実(3))からすれば,原告において,定期- 16 - 的に,京都店に係る本件差金の全額が原告の預金通帳に入金されているか否かを確認したり,本件会計システムに入力された仕訳データと本件日報及び振替伝票を照合したりするなどして,経理事務が適切に行われていることを確認していれば,本件架空仕入れの事実を容易に認識することができたものと認められる。 本件全証拠によっても,原告において,上記のような方法等で経理事務が適切に行われていることを定期的に確認するなどの措置を講じていたとは認められないところであり,仮に原告が上記措置を講じて本件架空仕入れの事実を認識していれば,本件架空仕入れの計上・入力の内容(上記前提事実(3))や本件架空仕入れ発覚後の原告の対応(上記前提事実(3)~(5)) 等からして,原告が法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたといえる。それにもかかわらず,原告はこれらの措置を講じずに隠蔽仮装行為に基づいて過少申告をしたのであるから,従業員であるCによる本件架空仕入れの計上・入力を,原告の隠蔽仮装行為と同視することができ,通則法68条1項にいう「納税者」が隠蔽仮装行為を した場合に該当するものというべきである。 (2) 原告の主張に対する判断原告は,隠蔽仮装行為による不正の利益が原告に帰属していないのみならず,横領された現金が原告から流出してしまっているため,原告は 該当するものというべきである。 (2) 原告の主張に対する判断原告は,隠蔽仮装行為による不正の利益が原告に帰属していないのみならず,横領された現金が原告から流出してしまっているため,原告は従業員の隠蔽仮装行為による被害者であることなどを理由に,本件は,通則法68条 1項にいう「納税者」が隠蔽又は仮装した場合に該当しない旨主張する。しかしながら,上記1で説示した判断枠組みは,通則法68条1項の趣旨及び目的に即した解釈であり,隠蔽仮装行為により納税者である法人に不正の利益が帰属しているか否かによって,役員や従業員の隠蔽仮装行為を法人の行為と同視することができるか否かの判断が左右されるべきものではないこ とから,原告の上記主張は採用することができない。 - 17 - また,原告は,原告代表者が複数の法人の業務を兼務していて,原告本社に常駐していたわけではないこと,複数の税理士や中小企業診断士と顧問契約を締結する,本件各店舗での現金管理を重点的に徹底するようなシステムを構築するなど,限られた人員の中でも適正な経営を可能とすべく尽力していたという事情があることなどを理由に,Cによる隠蔽仮装行為を原告代表 者が認識できなかったことに,重加算税の賦課を正当化するような重大な過失はない旨主張する。しかしながら,上記認定事実(2)のとおり,京都店の現金管理はCに一任されていたと認められるのであって,本件において,原告が現金管理を重点的に徹底するようなシステムを構築していたなどと認めるに足りる証拠はなく,原告が適正な経営を可能とすべく尽力していたなど とは到底いえない。また,原告が本件架空仕入れの事実を容易に認識することができたといい得ることは既に認定説示したとおりであって,仮に複数の税理士等と顧問契約を締結してい べく尽力していたなど とは到底いえない。また,原告が本件架空仕入れの事実を容易に認識することができたといい得ることは既に認定説示したとおりであって,仮に複数の税理士等と顧問契約を締結していた等の事情が認められたとしても,上記結論が左右されることはないというべきである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。 4 本件各処分の適法性について原告は,本件において取消しを求める本件各処分の適法性に係る被告の主張について,上記争点を除き,争うことを明らかにせず,本件記録によっても,被告の上記主張に不合理な点は見当たらない。 したがって,本件各処分は,いずれも適法であるということができる。 5 結論よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官松永栄治- 18 - 裁判官森田亮 裁判官渡邊直樹
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