【DRY-RUN】主 文 原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。 被告人Aを懲役六月に処する。 但し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。 被告人Bの本件控訴
主文 原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。 被告人Aを懲役六月に処する。 但し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。 被告人Bの本件控訴を棄却する。 原審における訴訟費用中、証人C、同D、同Eに支給した分を被告人Aの負担とし、証人F、同G、同H、同I、同J、同K、同L、同M、同N(昭和四五年四月二二日の公判期日の分)に支給した分を除きその余の分を被告人両名の連帯負担とする。 理由 本件各控訴の趣意は被告人両名の弁護人田代博之、同亀井時子、同柴田憲一共同名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官太田輝義名義の答弁書に、それぞれ記載してあるとおりであるから、いずれもこれを引用する。 一、 控訴趣意第一点について所論は、原裁判所が証拠として採用したOの検察官に対する供述調書は原審において検察官が、Oは国外にいるため公判期日において供述することができないとの理由で証拠調を請求したものであり、原裁判所がOの公判廷への出頭の可能性の有無について配慮せず、国外に在るということだけで安易にその証拠能力<要旨第一>を認め証拠として採用したことは訴訟手続の法令に違反したものであると主張する。刑訴法三二一条一項二号</要旨第一>による検察官の面前における供述を録取した調書の証拠能力を認める条件としての「供述者が国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき」とは、供述者が国外にいるときはそれだけで条件を充たす意味でないことは所論のとおりであり、記録上見られる、Oの検察官に対する供述調書の証拠決定に至つた経過よりすれば、原裁判所がOの公判廷へ出頭する可能性の有無につき無配慮であつたと断ずることはできないが、仮りにそうであつたとしても り、記録上見られる、Oの検察官に対する供述調書の証拠決定に至つた経過よりすれば、原裁判所がOの公判廷へ出頭する可能性の有無につき無配慮であつたと断ずることはできないが、仮りにそうであつたとしても、当審において弁護人の要望によつて行つた、a市P情報部気付、O証人召喚状の送達嘱託に対し、在大韓民国Q大使より昭和四八年二月二日付外務大臣宛送付された一、九七三年一月二六日付R外務部口上書写によれば、Oが弁護人指示のP情報部に勤務したことはなく、従つてその所在は不明で召喚状の送達は不能であることを伝えており、原裁判所が同様の措置を採つたとしても同一結果になつたと認められ、現実の状況のもとで他にOの所在を確かめる有効な手段は考えられないので、所論の訴訟手続の法令違反があつても判決に影響を及ぼさず、所論は理由がない。 二、 控訴趣意第二点について所論は、原判決の認定した事実は判決に影響を及ぼすことの明らかな誤認に基くものであると主張するが、原判決の掲げる証拠を総合判断すれば、被告人らの全面的否認にも拘らず、原判示事実を十分認定することができる。所論は認定証拠の主体となるOの検察官に対する供述内容は政治的謀略による虚偽架空のものであつて全く措信できないというが、所論の理由のないことは、原判決が照応する裏付証拠を挙示しながら詳細に説示するとおりであつて、右供述の信憑性を否定すべき証拠はない。所論はまた、原判決が証拠を示さずに被告人らの行動を組織的計画的と認定し、そのことから実体の不明な密出国に用いる船が、Oの乗船予定地秋田県男鹿市b海岸に廻航されてくる可能性を認めたことを指摘して誤認であるというか、Oが名古屋市のS方より東京都を経て男鹿市b海岸まで赴き、二夜廻航船の出現を待機したうえ、結局目的を遂げずに東京都に立戻り、同都内を転々した数日間に、次 能性を認めたことを指摘して誤認であるというか、Oが名古屋市のS方より東京都を経て男鹿市b海岸まで赴き、二夜廻航船の出現を待機したうえ、結局目的を遂げずに東京都に立戻り、同都内を転々した数日間に、次々と不詳の男が現れて前者より引継ぎを受けてはOを指示誘導しているのであつて、被告人らを含めそれらの者は、相互に関連なく偶然出会つたものとは認められず、背後に働く組織の力により計画されたところを指令されて行動していたと推認し得るのである。それらの一連の行動がOを密出国させるために乗船さぜる目的であつたことが明らかであるから、現実には出現しなかつたものの、船の廻航が計画、手配されていて乗船の可能性があつたと推認することも不合理ではない。関係証拠によれば原判示b海岸の風引岩附近から、殊に深夜、乗船することが不可能ではないが、容易でないことを認め得るが、もともと乗船の目的が厳禁されている密出国にあるのであるから、秘密を保つ必要上、深夜困難を冒しても通常乗船に用いられない場所を敢えて選ぶことは十分考え得ることである。原判決の認定に、判決に影響を及ぼす誤認があるとは認められない。所論は理由がない。 三、 控訴趣意第三点について所論は、出入国管理令七一条は密出国行為のみならず、密出国企図行為をも処罰の対象としているが、企図罪は密出国の基本的構成要件に該当する犯罪実行々為に着手する以前の準備行為を全て含み、その行為に定型性がなく、無数の態様があり得るから、処罰の対象が無限に拡大されて著しく法的安定性を害するうえ、刑法の規定する他の予備罪の法定刑が既遂、未遂の場合より軽いのに、密出国罪の既遂と同じ刑をもつて処罰し、他<要旨第二>の予備罪との均衡を欠き罪刑法定主義に立つ審法三一条の精神に違背し、違憲の疑いが強いと論ずる。出入国</要旨第二>管理令はその第一 より軽いのに、密出国罪の既遂と同じ刑をもつて処罰し、他<要旨第二>の予備罪との均衡を欠き罪刑法定主義に立つ審法三一条の精神に違背し、違憲の疑いが強いと論ずる。出入国</要旨第二>管理令はその第一条が宣明するとおり、本邦の出入国について公正な管理をすることを目的とするものであり、それが国家の秩序を保持する上に必須であることは論を俟たない。右目的よりすれば密出国の実行々為着手の前段階において規制することも公共の福祉に適うというべきである。密出国罪はその採られる手段によつて犯行の態様が多様であり、これを企てる行為の定型も幅広いものとなるが、このことは他の予備罪の犯行についても同様であり、基本の罪の性質により程度の差があるに過ぎない。また密出国企図罪が密出国罪と法定刑を同じくし、他の予備罪の場合と異ることは所論のとおりであるが、企図罪と雖も、内心に企図を懐いたのみで処罰されるものではなく、具体的な外部行動からその企図を認定し得る段階に達したときに初めて処罰の対象となることはいうまでもない。そしてその場合密出国の目的に向つて次第に進展する一連の行動経過において密出国の実行々為に接着した段階に在るといい得るから、処罰については密出国と同一法定刑の範囲内において具体的事案に応じた量刑に委ねる規制もあり得ることである。立法論として当否の批判は兎も角、そのために罪刑法定主義に違反し違憲であるとする所論は当らない。 所論は次いで、出入国管理令七一条が合憲としても、刑法六一条一項、六二条一項の教唆、幇助犯の規定は正<要旨第三>犯の実行々為の着手を前提として適用されるものであるから、正犯が実行着手前の予備行為に止る場合、右各</要旨第三>法条の適用はないと論ずる。密出国企図罪は密出国罪に対しその予備的行為ではあるが、それとして構成要件を備えた独立の犯罪であ るものであるから、正犯が実行着手前の予備行為に止る場合、右各</要旨第三>法条の適用はないと論ずる。密出国企図罪は密出国罪に対しその予備的行為ではあるが、それとして構成要件を備えた独立の犯罪であるから、企図行為の実行着手ありと認められる場合、その教唆、幇助犯の規定の適用を否定する理由はない。所論は更に、教唆、幇助犯の規定は基本的構成要件的行為(実行々為)着手前の予備的行為(企図行為)が独立して処罰される場合であつても、予備罪の教唆帯助行為について特に処罰する規定がない以上、適用はないから原判決が密出国企図罪の教唆罪、幇助罪の成立を認めたことは法令の解釈適用を誤つたものであると主張する。 しかし刑法六一条、六二条はいうまでもなく刑法総則規定であり、同法八条によれば、特に刑法総則規定の適用を除外していない出入国管理令の規定する密出国企図罪に適用されるべきことはむしろ当然である。刑法自身が六四条により適用を除外する場合に当らない本件において原判決が密出国企図罪の教唆罪、幇助罪の成立を認めたことに、法令の解釈適用を誤つた違法はなく、所論は理由がない。 四、 控訴趣意第四点について所論の要旨は、原判決の量刑につき、被告人Aに対し懲役六月の実刑を言渡した点を不当に重過ぎると主張するものである。記録によれば、被告人らは本件各自の犯行を全面的に否認し、犯行の動機を明らかにすることができないが、被告人らに教唆、幇助されて密出国を企てたOは懲役八月、二年間刑の執行猶予の判決を受け既に韓国に送還されていることが認められ、被告人Aに前科、非行前歴の見られないこと、幼児を擁した家庭事情等を考慮すれば、同被告人に対する本件による処断としては、今後を戒めて刑の執行を猶予することにより処刑の目的を達し得るものと認められるので、その意味において原判決を破棄すべく、 、幼児を擁した家庭事情等を考慮すれば、同被告人に対する本件による処断としては、今後を戒めて刑の執行を猶予することにより処刑の目的を達し得るものと認められるので、その意味において原判決を破棄すべく、所論は理由がある。 以上のとおり被告人Bの本件控訴はその理由がないので刑訴法三九六条によりこれを棄却すべく、被告人Aの本件控訴は理由があるので同法三九七条一項、三八一条により原判決中被告人Aに関する部分を破棄し、同法四〇〇条但書に従つて更に自判する。 原判決が適法に確定した罪となるべき事実第一に原判示のとおり法令を適用し、刑の選択をした刑期の範囲内において被告人Aを懲役六月に処し、刑法二五条一項によりこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。原審における訴訟費用の負担については刑訴法一八一条一項本文、一八二条を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判長判事高橋幹男判事寺内冬樹判事千葉裕)
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