主文 1 本件訴訟のうち、控訴人A(番号86)に関する部分は、同人が令和6年1月19日に死亡したことにより終了した。 2 控訴人ら(控訴人Aを除く。)の控訴をいずれも棄却する。 3 控訴費用(控訴人Aに関する部分を除く。)は、控訴人ら(控訴人Aを除く。)の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中、主文2項を取り消す。 2 被控訴人は、Bに対し、1601万2477円及びこれに対する令和元年11月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を大崎地域広域行政事務組合に支払うよう請求せよ。 第2 事案の概要 1 本件控訴本件は、地方自治法284条2項所定の一部事務組合である大崎地域広域行政事務組合(本件組合)を構成する地方公共団体の住民である控訴人らを含む原審原告らが、本件組合の管理者であるBが、本件組合の焼却施設において、放射性物質に汚染された牧草等の廃棄物の試験焼却(本件試験焼却)を実施するものとし、補正予算の執行(本件公金支出)をしたことが違法であると主張して、本件組合の執行機関である被控訴人に対し、不法行為を行ったBに対し、損害賠償として1601万2477円及びこれに対する令和元年11月6日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うよう請求することを求める住民訴訟である(以下では、本件組合の管理者として本件公金支出の判断をしたBを単に「B」と呼称する。)。 原審は、死亡した原審原告らに関する部分についてはその死亡により同原審原告らの係る訴訟は終了したとし、その余の原審原告らの請求については、本件試験焼却を実施して本件公金支出を行ったBの判断に、裁量権の範囲の逸脱又は濫用はな く、本件公金支出に財務会計法規に違反する らの係る訴訟は終了したとし、その余の原審原告らの請求については、本件試験焼却を実施して本件公金支出を行ったBの判断に、裁量権の範囲の逸脱又は濫用はな く、本件公金支出に財務会計法規に違反する違法はないとして、いずれも棄却した。 これに対し、控訴人ら及び控訴後に控訴を取り下げた原審原告Cほか9名が控訴した。 2 関係法令、前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張原判決「事実及び理由」の第2の2から5までのとおりであるから、これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 要旨当裁判所は、控訴人Aに関する訴訟は同人の死亡により終了し、その余の控訴人らの請求については、本件試験焼却実施に係る公金支出をしたBの判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用はなく、本件公金支出に財務会計法規の違反はないから、理由がないと判断する。同控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であり、同控訴人ら(以下、単に「控訴人ら」という。)の控訴はいずれも理由がない。その理由は次のとおりである。 2 認定事実次のとおり原判決を補正するほか、原判決「事実及び理由」第3の2のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決19頁19行目から20頁9行目までを次のとおり改める。 「ア平成23年3月11日、東北地方太平洋沖地震が発生した。これによって生じた津波により東京電力福島第一原子力発電所が浸水し、全電源喪失等に陥り、原子炉内部や使用済み核燃料プールへの注水が不可能となり、同月12日から15日にかけて、1号機、3号機及び4号機が爆発するに至った。この事故により、大量の放射性物質が大気中に放出され、東北地方を中心に土壌等が汚染され、本件組合を構成する各地方公共団体でもセシウム134やセシウム137による土壌汚染等が確認された。(公知の事実)イ廃棄物処理 の放射性物質が大気中に放出され、東北地方を中心に土壌等が汚染され、本件組合を構成する各地方公共団体でもセシウム134やセシウム137による土壌汚染等が確認された。(公知の事実)イ廃棄物処理法は、市町村に対し、一般廃棄物の適正な処理等を義務付けてい る(同法4条1項)が、放射性物質及びこれによって汚染された物を「廃棄物」から除外している(同法2条1項)ため、前記事故発生当時、原則として、市町村の廃棄物処理場でこれを処理することは許されなかった。もっとも、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律に基づき、原子力規制委員会規則で定める基準である100Bq/kg以下のものであり、その確認を受けたものについては、廃棄物処理法上、放射性物質により汚染された物ではないものとして扱うことが可能とされていた(平成24年法律第47号改正前の核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律61条の2第4項、製錬事業者等における工場等において用いた資材その他の物に含まれる放射性物質の放射能濃度についての確認等に関する規則2条等)。 東京電力福島第一原子力発電所の事故により、事故由来の放射性物質に汚染された廃棄物が大量に発生したことを受け、平成23年8月30日、特措法が制定され、同法17条、19条により、事故由来放射性物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しない廃棄物を指定廃棄物として、国が収集、運搬、保管及び処分を行うことが、同法22条により、当分の間、事故由来放射性物質で汚染された物(指定廃棄物等を除く)を、廃棄物処理法2条1項にいう「廃棄物」とし、市町村による処理を行うことがそれぞれ可能となった。また、原子力安全委員会は、平成23年6月3日、「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響を受けた廃棄物の処理処分等に にいう「廃棄物」とし、市町村による処理を行うことがそれぞれ可能となった。また、原子力安全委員会は、平成23年6月3日、「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響を受けた廃棄物の処理処分等に関する安全確保の当面の考え方について」を取りまとめた。 その上で、特措法施行規則14条は、特措法17条の基準を、セシウム134及びセシウム137の放射性濃度の合計が8000Bq/kgと定めた(以下「本件指定基準」という。)。(乙2、公知の事実)」⑵ 原判決21頁23行目から22頁23行目までを次のとおり改める。 「ア以上のとおり、特措法及び特措法施行規則によって、平成23年中には、セシウム134及びセシウム137の放射性濃度の合計が8000Bq/kg以下の廃棄物については、通常の処置方法でも、周辺住民、作業員ともに、その被ばく線 量が原子力安全委員会の示す目安である年間1mSvを下回るものとして、市町村において安全に処理できるものという扱いとなった。 イもっとも、宮城県の市町村では8000Bq/kg以下の農林業系廃棄物の処理は進まず、宮城県では、事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理が喫緊の課題となり、平成24年10月以降、国、県、市町村の連携を図るための会議として、宮城県指定廃棄物等処理促進市町村長会議が定期的に開催され、指定廃棄物の処分場の候補地や、放射性濃度の合計が8000Bq/kg以下の廃棄物の処理方針について議論が行われていたが、その処理方針が定まらないまま時が経過した。 この間、各市町村では、農林業系廃棄物を、公有地のみならず民有地にも中間保存することが行われており、民有地所有者の農作業に支障が生じるほか、時の経過により腐食する牧草ロールが発生するなどしていた。(弁論の全趣旨、公知の事実)ウ宮城県は 有地のみならず民有地にも中間保存することが行われており、民有地所有者の農作業に支障が生じるほか、時の経過により腐食する牧草ロールが発生するなどしていた。(弁論の全趣旨、公知の事実)ウ宮城県は、平成28年11月、前記会議において、環境省の協力を得て、各市町村に対し、焼却、ペレット化、圧縮成型、炭化・熱分解、エタノール生産、メタン発酵、農地へのすき込みや林地還元の各処理方法についてのメリット、デメリットの説明をし、「8000Bq/kg以下の汚染廃棄物に関する処理方針(案)」の作成に着手した。処理方針案は、①県内約3万6000トンの汚染廃棄物について、県内全ての自治体が協力して広域処理を行う、②処理方針は、通常の一般ごみとの「混焼」とし、生じた焼却灰は管理型最終処分場に埋め立てる、③排ガス・排水等の監視や環境モニタリングを適切に行い、安全性を十分に確認しながら慎重に処理を行う、④まずはごく低い濃度から試験焼却をスタートさせ、各処理施設における安全性を確認しながら慎重に処理を進める、⑤広域処理とは別に、各自治体が焼却以外の方法(堆肥化やすき込み等)によって独自に処理をすることは可能などとするものであり、自圏域内で農林業系廃棄物の処理を開始し、処理能力に余力を生み出すために一般ごみの受入れを全圏域で協力することなどを内容とするものであった。通常の一般ごみとの混焼による焼却が原則とされたのは、県内に約3万6 000トン存在する廃棄物を大量、迅速に処理するためには、焼却が最適であること、県内の焼却炉の多くにバグフィルターが設置されており、安全な処理が可能であると考えられることなどによる(乙20)。 なお、宮城県が焼却により安全な処理が可能であると考えた根拠は、塩化セシウムの融点は646℃であり、800℃以上で農林業系廃棄物を焼却した際に 理が可能であると考えられることなどによる(乙20)。 なお、宮城県が焼却により安全な処理が可能であると考えた根拠は、塩化セシウムの融点は646℃であり、800℃以上で農林業系廃棄物を焼却した際に気体又は液滴となるが、焼却施設では、燃焼ガスを150℃~200℃に急速冷却した後にバグフィルターを通過させるため、バグフィルター通過時点において、放射性セシウムは固体化し、煤塵に吸着され、捕捉率99.9%以上とされているバグフィルターのろ布において捕集可能であるという点にあった。(弁論の全趣旨、公知の事実)エその後、本件組合を構成する各地方公共団体は、前記処理方針を検討した上、平成29年7月15日の前記会議において、これに同意した。同処理方針に反対する地方公共団体はなかった。(乙3の4、20、弁論の全趣旨、公知の事実)オなお、本件組合を構成する各地方公共団体には、8000Bq/kg以下の農林業系廃棄物が1万5568トン存在しており、これが公有地8か所、私有地268か所で保管されていた。このうち、後に試験焼却が実施された大崎市三本木地区の公有地には、牧草736ロール(約155トン)が保管されていたが、時の経過により、平成30年には、うち8ロールが腐食した状態にあり、害虫や悪臭、汚泥化による地下水の汚染の危険が生じていた。また、大崎市内では、汚染稲わらを46か所の民有地で保管していた状況であり、平成29年11月には、JAや農家などから「放射性物質に汚染された廃棄物の早期処理を求める要望書」が大崎市に提出された。(乙21、弁論の全趣旨)」原判決23ページ13行目「ウ」を「カ」、同24頁3行目「エ」を「キ」、6行目「オ」を「ク」、9行目「カ」を「ケ」とそれぞれ改める。 原判決30頁17行目から18行目「下回っている」の次に、「。本 原判決23ページ13行目「ウ」を「カ」、同24頁3行目「エ」を「キ」、6行目「オ」を「ク」、9行目「カ」を「ケ」とそれぞれ改める。 原判決30頁17行目から18行目「下回っている」の次に、「。本件焼却施設では、試験焼却前後でモニタリングポストの空間線量に有意な差は認められな かった。また、本件最終処分場でも、同様に試験焼却前後で、モニタリングポスト、敷地内4地点での空間線量に有意な差は認められなかった」を加える。 3 判断枠組み次のとおり、原判決を補正するほか、原判決「事実及び理由」第3の3のとおりであるから、これを引用する。 原判決31頁3行目から12行目までを次のとおり改める。 「そして、一部事務組合の執行機関は、その事務を自らの判断と責任において、誠実に管理し及び執行する義務を負うのであるから(地方自治法292条、令和5年法律第19号による改正前の138条の2)、本件組合の執行機関であるBは、本件組合の管理者としてその事務である一般廃棄物の処理の方針を定めるにあたって、合理的な裁量を有するというべきである。したがって、本件公金支出が違法となるかどうかを判断するにあたっては、その前提となる本件試験焼却を実施するという判断が、裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱・濫用となり、このような支出を漫然と行い、本件組合に負担させるべき費用の支出をさせるものとして、地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項に違反するものとして、違法となるとすべきものと解するのが相当である。」 原判決32頁16行目「前記認定事実⑷カ」を「前記 の支出をさせるものとして、地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項に違反するものとして、違法となるとすべきものと解するのが相当である。」 原判決32頁16行目「前記認定事実⑷カ」を「前記認定事実⑷ケ」と改める。 4 本件覚書及び本件申し合わせについて⑴ 控訴人らは、Bが本件試験焼却を実施して本件公金支出をするという判断をしたことは、本件覚書及び本件申し合わせに違反するものであり、その裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものであると主張する。 ⑵ この点、本件覚書2条は、本件最終処分場に一切搬入しない廃棄物として、 「水質汚染のおそれのある重金属物質を含む廃棄物」と定めていることに照らすと、同条は、水銀、鉛、カドミウムなどの有害な重金属物質を念頭にしたものと考えられるから、重金属物質ではないセシウム134及びセシウム137について規定したものとは言い難い。また、本件覚書9条は、「本件覚書に定めのない事項、その他疑義が生じたとき」において、本件組合と本件水利組合が協議するという手続的事項を定めたものであり、本件組合に対して、本件最終処分場からの放流水によって水質汚染が生じるおそれのないことを客観的な根拠及び資料に基づいて説明し、住民の了解を得なければならないという義務を課したものとまでは解することはできない。 しかし、本件覚書は、本件最終処分場を建設するに当たり、施設からの処理水による周辺環境の汚染防止目的で、本件組合と本件水利組合との間で締結されたものである(甲3)から、周辺環境への悪影響や人の健康に被害を及ぼしうるセシウム134及びセシウム137についても、本件覚書2条の趣旨及び9条を踏まえた対応をすることが、本件組合の義務になるというべきである。 もっとも、東京電力福島第一原子力発電所の事故による大量の放射 ム134及びセシウム137についても、本件覚書2条の趣旨及び9条を踏まえた対応をすることが、本件組合の義務になるというべきである。 もっとも、東京電力福島第一原子力発電所の事故による大量の放射性物質の飛散という未曽有の事態により、宮城県内において、公有地のみならず私有地にも農林業系廃棄物が中間保存され、その処理が喫緊の課題となっていた状況の下、平成29年7月に、本件組合を構成する地方公共団体を含む宮城県内の全市町村が一致して、宮城県の「8000Bq/kg以下の汚染廃棄物に関する処理方針」に同意し、圏内処理のために試験焼却を開始することを予定していたことを考慮すると、本件覚書2条が直接的に規制対象としていないセシウム134やセシウム137を含む廃棄物を本件最終処分場に搬入することが一切許されないと解釈することは、大量に発生した農林業系廃棄物について、本件組合を構成する地方公共団体内において処理することを事実上不可能にすることになり、相当とはいえない。 以上を踏まえると、本件覚書によって本件組合が負う義務は、セシウム134及びセシウム137を含む廃棄物の本件最終処分場への搬入を決定するのに先立ち、 そのことによる周辺環境や人体への影響の有無のほか、搬入する場合に必要とされる安全対策などについて適切に検討した上で、その当否を判断し、かつ、適宜、本件水利組合に対し説明をし、その理解を得るべく十分な努力をするという内容と解するのが相当である。 ⑶ 次に、本件申し合わせの4項は、本件焼却施設について「機能・設備を変更する場合」には本件組合が地元住民に説明し、合意を得るものとすることを定めているところ、本件試験焼却を実施すること自体は、本件焼却施設の具体的な設備機器の変更や処理能力の変更を伴うものではないから、この「機能・設備を変更 が地元住民に説明し、合意を得るものとすることを定めているところ、本件試験焼却を実施すること自体は、本件焼却施設の具体的な設備機器の変更や処理能力の変更を伴うものではないから、この「機能・設備を変更する場合」に該当するとは言い難い。また、本件申し合わせの5項は、その規定文言に照らし、努力義務を定めたものであり、仮にその努力を怠っていると評価できるとしても、そのことによって、本件試験焼却の実施が直ちに違法になるものではない。 しかし、本件申し合わせは、本件焼却施設の運営に伴う環境保全に関する申し合わせであり、地元住民の環境を今後とも守ることを目的として、本件組合とDが合意したものである(甲4)。そして、本件焼却施設における試験焼却は、セシウム134及びセシウム137の施設外への放出の可能性を含むものであり、本件組合は、本件試験焼却に当たって、周辺環境への影響を考慮し、バグフィルターの交換時期を早め、空間線量のモニタリング調査を行うといった対策を取っている(弁論の全趣旨)ところ、これらの対策は、実質的に、本件焼却施設の機能や設備に変更を加えるものというべきであるから、本件組合は、本件申し合わせの4項、さらには5項に基づく義務を負うと解するのが相当である。 もっとも、同4項は、文言上、地元住民の同意をごみ焼却場の機能・設備を変更するための条件としたものではない上、合意の主体もDではなく「地元住民」と抽象的に定めているのみで、その範囲も特定されていない。したがって、同4項も、5項と同様、努力義務を定めたものというべきである。 以上を踏まえると、本件申し合わせの4項及び5項によって本件組合が負う義務は、セシウム134及びセシウム137を含む廃棄物の本件焼却設備における試験 焼却の実施を決定するのに先立ち、そのことによる周辺環境や人体へ 件申し合わせの4項及び5項によって本件組合が負う義務は、セシウム134及びセシウム137を含む廃棄物の本件焼却設備における試験 焼却の実施を決定するのに先立ち、そのことによる周辺環境や人体への影響の有無のほか、試験焼却をする場合に必要とされる安全対策などについて適切に検討した上で、その当否を判断し、かつ、適宜、地元の住民に対し説明をし、その理解を得るべく十分な努力をするという内容と解するのが相当である。 ⑷ したがって、本件公金支出の判断が違法であるかは、本件組合が本件覚書や本件申し合わせの4条及び5条に基づいて上記のような義務を負っていることを踏まえ、Bにおいて、本件最終処分場への廃棄物の搬入や本件焼却設備における試験焼却の実施を決定するのに先立ち、そのことによる周辺環境や人体への影響の有無のほか、搬入や試験焼却する場合に必要とされる安全対策などについて適切に検討した上で、搬入や試験焼却の当否を判断し、かつ、適宜、本件水利組合や地元の住民に対し説明をし、その理解を得るべく十分な努力をしたのかなどを検討した上で、本件試験焼却を実施するという判断をしたことが、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くかを吟味するべきである。以下、5ないし7において、本件組合が上記の義務を果たしたといえるかを検討し、Bが本件試験焼却を実施して本件公金支出をするという判断をしたことについて裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったかについて判断する。 5 本件指定基準及び本件試験焼却の安全性について⑴ 宮城県は、特措法及び特措法施行規則(以下「特措法等」ということがある。)の制定により、事故由来放射性物質を8000Bq/kg以下の値で含む廃棄物の処理を市町村で行うことが可能となったことを受け、県内の全市町村に働きかけ、圏域内で (以下「特措法等」ということがある。)の制定により、事故由来放射性物質を8000Bq/kg以下の値で含む廃棄物の処理を市町村で行うことが可能となったことを受け、県内の全市町村に働きかけ、圏域内での混焼を原則とする処理方針を定め、本件組合を構成する地方公共団体はこれに同意した。本件試験焼却は、上記処理方針に従い、混焼による処理の安全性を確認するために実施されたものである。 ⑵ この点、特措法等による本件指定基準の設定は、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けての暫定的なものであるものの、従前の基準とされていた100Bq/kgを大幅に変更したものであるから、同事故の被害者というべき立場にあ り、事故由来放射性物質による周辺環境の汚染に対して不安を抱きながら生活をすることを余儀なくされた控訴人らが、新たな不安を覚えることは当然である。 しかし、特措法等が基準値を変更したのは、同事故により大量の事故由来放射性物質が飛散し、土壌等を汚染したことによって、高濃度の放射性物質を含む大量の廃棄物の処理が余儀なくされたことによるものであって、日々発生する汚染廃棄物の処理を可能とするための緊急避難的措置である。そして、本件指定基準である8000Bq/kgの数値は、平成23年6月に原子力安全委員会が安全基準として示した1mSv/年という目安をもとに定められたものであり、ICRPが作成した長期汚染地域の居住する人々の放射線防護のための安全基準とも合致するものであって、同事故後に暫定的に定める基準として、合理性がある。 また、本件試験焼却の安全性についてみると、焼却はバグフィルターが設置された既存の焼却施設で一般ごみとの混焼により実施されることが予定され、焼却施設において空間線量及び排ガス測定が行われるとともに、埋立処分場においても空間線量 いてみると、焼却はバグフィルターが設置された既存の焼却施設で一般ごみとの混焼により実施されることが予定され、焼却施設において空間線量及び排ガス測定が行われるとともに、埋立処分場においても空間線量の測定や放流水の測定が行われることが予定されていたものであるところ、放射性セシウムは、燃焼ガスが冷却された際に、固体化して煤塵に吸着されるため、バグフィルターのろ布により捕集可能となることや、バグフィルターの捕捉率が99.9%以上であることが、安全性の基礎とされていたこと、上記廃棄物の焼却にあたっては、安全のため、焼却施設においても最終処分場においても空間線量や排ガス、放流水の測定が行われ、施設外への放射性セシウムの放出が監視される態勢となっていたこと、本件試験焼却に当たっては、一日最大1トンの処理を5日間行い、その後2~4週間の検証期間を経るという工程を6回繰り返すという慎重な手法が取られていたことからすると、本件試験焼却により、周辺環境や人体に影響を及ぼす可能性は相当程度に低いと考えることには合理性が認められる。実際、本件試験焼却に伴う本件各焼却施設での排ガス測定において、放射性物質は検出限界値を下回る不検出とされ、本件最終処分場からの放流水も、同様に、放射性物質は不検出とされ、本件各焼却施設の敷地内における空間線量の数値も、年間被ばく線量 が1mSv以下となるための基準値である0.23μSv/h以下となっており、かつ、事前測定結果と比較して優位な上昇があったとまでは認められなかったのである。 したがって、周辺環境や人体への影響の有無や安全対策などの面で、以上の緒事情を前提に本件試験焼却実施及び本件公金支出の判断をしたことについて、判断要素の選択や判断過程に合理性を欠く点があったとはいえない。 ⑶ これに対し、控訴人らは、① 安全対策などの面で、以上の緒事情を前提に本件試験焼却実施及び本件公金支出の判断をしたことについて、判断要素の選択や判断過程に合理性を欠く点があったとはいえない。 ⑶ これに対し、控訴人らは、①本件指定基準は、クリアランスレベルとされる100Bq/kgを大きく上回るもので、人体に有害といえる、②年間1mSvという数値は、原子力産業を利用促進することを目的とするICRPが設定したもので、アルファ線やベータ線による内部被ばくを考慮しない数値であるから信用性がない、③焼却により放出される放射性物質は不溶性であり、内部被ばくによる健康被害は無視できない程度に大きく、その不安を抱えながら生活することによる人格権侵害は明らかであると主張する。 この点、放射線による人体への影響については、確立した知見がなく、年間1mSvという基準に疑問を呈する立場も相応に有力である。しかし、大量に発生する事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理を可能とするために、従前の基準の見直しをする必要性があったことは否定できず、その際に、ICRPが公衆被ばくの安全基準とする年1mSvを上限値として基準値を定めることは合理的であり、暫定的な措置としてやむを得ないものであったというべきである。特措法等により定められた汚染廃棄物の処理の枠組みや、これに基づき定められた宮城県の処理方針に沿って、本件試験焼却の実施及び本件公金支出をした判断に合理性がなかったとはいえない。 また、事故由来放射性物質の中に不溶性のものがあり、これを体内に取り入れると長期間滞留する可能性があることは否定できないとしても、焼却により、不溶性の放射性物質が飛散していることや、飛散した放射性物質が人体に影響を及ぼす程度の濃度で飛散していることを適格に示す証拠はないのであるから、前記判断が、 否定できないとしても、焼却により、不溶性の放射性物質が飛散していることや、飛散した放射性物質が人体に影響を及ぼす程度の濃度で飛散していることを適格に示す証拠はないのであるから、前記判断が、 その可能性があることを判断要素としなかったとしても、同判断が合理性を欠くもものであったということはできない。 さらに、控訴人らは、本件各焼却施設におけるバグフィルターの捕捉率が99. 9%以上であることの証明はないとも主張するが、バグフィルターにより放射性セシウムが吸着したばいじんは、バグフィルター通過時に99.9%以上除去されるというのが環境省や独立行政法人国立環境研究所の知見であり(乙22、23の1)、実際に福島県の一般廃棄物焼却施設では、バグフィルターによる排ガス中の放射能の除去率は99.96%であったという検査結果が出ていること(乙25)に照らすと、本件各焼却施設のバグフィルターの捕捉率を改めて確認しないまま本件試験焼却を実施して本件公金支出をするという判断をしたことが合理性を欠くともいえない。 6 本件組合による説明について本件組合又は本件組合を構成する各地方公共団体は、本件試験焼却に先立ち、原判決別紙12及び同13のとおり、本件最終処分場の周辺住民を対象とした説明会及び本件水利組合との協議会を、本件焼却施設の周辺住民を対象とした説明会及びDとの協議会を開催し、焼却の判断に至った経緯や必要性、試験焼却の方法、安全性の確保の手法、根拠を説明するとともに、本件水利組合とは、事故由来放射性物質についての条項を覚書に追加することについての協議を行っているのであり、本件試験焼却に先立って行うべき説明や、D及び本件水利組合や周辺住民の理解を得るべく十分な努力を行ったと評価することができる。 この点、本件組合らが開催した説明会では ての協議を行っているのであり、本件試験焼却に先立って行うべき説明や、D及び本件水利組合や周辺住民の理解を得るべく十分な努力を行ったと評価することができる。 この点、本件組合らが開催した説明会では、説明に納得しない住民らから、本件指定基準に対する疑問やバグフィルターの除去率に対する疑問や不安のほか、焼却以外の処理方針を求める意見が出されることが多く、説明会等を経ても試験焼却に対する不安が払拭できなかった住民らが少なからずいたことは事実である(乙3の1~18、4の1~15)。 しかし、東京電力福島第一原子力発電所の事故が生じ、東北地方を中心に広範囲 で土壌等が汚染されたという現実を踏まえると、日々発生する事故由来放射性物質を含む廃棄物を、大量かつ迅速に処理する必要性は高く、そのために、暫定的に一定の基準を設け、基準値以下の廃棄物の処理方針として、早期処理に有用な焼却を第一の選択肢とすることは、やむを得ない選択であったといえる。特に、事故由来放射性物質の危険性に対する科学的知見は様々であり、住民が抱く不安も個別に異なるものであって、事故由来放射性物質を含む廃棄物の処理方針については、その事柄の性質上、周辺住民の不安を完全に払拭できるものではないことからすると、住民が提起する様々な不安を完全に解消できるまで焼却処理ができないとすることは、事実上、廃棄物の処理事業を不可能とすることに等しく、相当でない。 また、本件試験焼却は、法令で定められた基準の範囲内で行われるものであり、宮城県指定廃棄物等処理促進市町村長会議において全市町村の賛成で採用された「8000Bq/kg以下の汚染廃棄物に関する処理方針」が定めた焼却を原則とする方針に沿うものであるが、特別地方公共団体である本件組合は、一般廃棄物の処理に関する事業の実施にあたり、国や 採用された「8000Bq/kg以下の汚染廃棄物に関する処理方針」が定めた焼却を原則とする方針に沿うものであるが、特別地方公共団体である本件組合は、一般廃棄物の処理に関する事業の実施にあたり、国や宮城県から必要な技術的援助を受け、国や他の地方公共団体と相互に連携を図りながら協力することが予定されている(廃棄物処理法4条、4条の2参照)のであるから、本件組合において控訴人らが主張するような諸点を独自に調査し、住民らに説明するまでの義務を負うとは解しがたいし、Bが本件公金支出の判断をするに当たっても、国が定める本件指定基準の範囲内で焼却処理を原則とする処理方針が宮城県内で合意されていることは、重要な判断要素となるというべきである。 これらを踏まえると、本件組合らが、説明会において、本件指定基準や、これに基づき定められた宮城県の処理方針に沿った処理方針の安全性を説明する以上の責務を負うとは解しがたいというべきであり、その説明に不足する点があったとはいえない。 7 裁量権の範囲の逸脱又は濫用について以上のとおり、本件試験焼却は、大量に保管されている農林業系廃棄物の早期処 理のため、宮城県指定廃棄物等処理促進市町村長会議の議論状況や合意を踏まえ、法令により定められた本件安全基準を前提とし、人体に影響を及ぼさないと考えられる範囲で、8000Bq/kg以下の事故由来放射性物質を含む農林業系廃棄物を焼却したものであり、本件試験焼却前には、本件覚書や本件申し合わせの趣旨に沿った協議や説明が行われていたものである。 そうすると、本件試験焼却の実施及び本件公金支出についてのBの判断について、判断要素の選択や判断過程に合理性を欠く点があったということはできず、控訴人らが主張する裁量権の範囲の逸脱又は濫用は認められない。 8 人格権侵害 の実施及び本件公金支出についてのBの判断について、判断要素の選択や判断過程に合理性を欠く点があったということはできず、控訴人らが主張する裁量権の範囲の逸脱又は濫用は認められない。 8 人格権侵害について控訴人らは、Bは放射性物質に汚染された廃棄物の焼却の安全性に関する調査を尽くしていないことから、本件各焼却施設の周辺住民が平穏に生活するという権利を侵害するものであるなどとして、これがBの裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たると主張する。 この点、特措法により基準を大幅に緩和し、8000Bq/kg以下の汚染廃棄物を一般の廃棄物と同様に焼却することを可能とした扱いに対し、原発事故の被害者というべき住民が更なる不安を覚えることは当然である。 しかし、本件試験焼却により、セシウム134やセシウム137が相当程度排出される可能性は否定できず、これが拡散することによって周辺地域の住民に健康被害をもたらす抽象的な危険があることまでは否定し難いものの、他方で、本件試験焼却にあたっては、既に述べたとおり、相応の環境対策が講じられており、現実に排出される放射性物質は、年1mSV以下という基準を下回ることが予定されており、実際にも本件試験焼却前後の空間線量等の測定値にも有意な差は見受けられなかったことからすれば、本件試験焼却は、周辺住民に健康被害が発生する具体的な危険性を生じさせるものではなかったというべきである。 また、本件試験焼却は、東京電力福島第一原子力発電所の事故により大量に発生し、早期処理の必要性が高かった汚染廃棄物の焼却処理に先立って、安全性を確認 するための試験焼却であるから、実施することについての公共性や有用性は高いと評価することができるのであり、実施の必要性や安全性についての考え方は、既に認定説示のとおり、住民等に対 を確認 するための試験焼却であるから、実施することについての公共性や有用性は高いと評価することができるのであり、実施の必要性や安全性についての考え方は、既に認定説示のとおり、住民等に対しても繰り返し説明されていた。 そうすると、控訴人らが主張する本件試験焼却による健康被害については、侵害の態様とその程度、被侵害利益の性質とその内容、侵害行為の社会的有用性ないし公共性、被害の防止措置の有無・内容・効果など様々な事情を比較衡量したとき、社会生活上受忍すべき限度を超えるといえる具体的な健康被害の危険性があるものであったとはいえないから、本件試験焼却は、控訴人らの人格権又はそれと直結する平穏生活権に対する違法な侵害行為であるとまではいえない。 第4 結論以上によれば、本件訴訟のうち、控訴人A(番号86)に関する部分は、同人の死亡により修了したため、その旨を宣言することとし、控訴人らの請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、控訴人らの控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所第2民事部 裁判長裁判官見米正 裁判官鈴木桂子 裁判官本多幸嗣
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