平成14(ワ)996 否認権行使請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年7月26日 神戸地方裁判所
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判決文本文16,308 文字)

主文 1 被告は,原告に対し,金8万8508円及びこれに対する平成13年3月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 4 この判決の第1項は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 原告の請求被告は,原告に対し,金1億7062万6508円及び内金1億7053万8000円に対する平成13年3月19日から,内金8万8508円に対する同月23日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 争いのない事実(1) 当事者等ア破産者株式会社A(以下「破産会社」という。)は,食料品・日用雑貨品・衣料等の販売及び不動産の賃貸業を主な目的とする株式会社であるが,平成13年3月26日,神戸地方裁判所豊岡支部に自己破産申立てをなし,同年5月1日午前11時破産宣告を受け,同日,原告が破産管財人に選任された。 イ被告は,預金または定期預金の受入れ等を業務とする信用金庫であり,a支店は,破産会社a店の取引銀行であった。 ウ株式会社Bは,不動産の賃貸及び維持管理等を主な目的とする株式会社であり,破産会社は,株式会社Bの株主であるとともに,株式会社Bが運営する兵庫県養父郡a町に所在のショッピングセンター「G」(以下「本件ショッピングセンター」という。)に出店するテナントであった。 (2) 破産会社の被告に対する弁済破産会社は,平成13年3月19日,次のとおり,破産会社の被告に対する各債務の弁済として,合計1億7053万8000円を支払った。 ア同日現在残元本金2200万円の 弁済破産会社は,平成13年3月19日,次のとおり,破産会社の被告に対する各債務の弁済として,合計1億7053万8000円を支払った。 ア同日現在残元本金2200万円の手形貸付借入金につき残元本内金420万4765円の弁済(弁済後の残元金1779万5235円)イ同日現在残元本金2000万円の手形貸付借入金につき(ア) 残元本金2000万円全額の弁済(イ) 約定利息金19万9452円の弁済(ウ) 戻し利息金15万7808円の返戻ウ同日現在残元本金600万円の手形貸付借入金につき(ア) 残元本金600万円全額の弁済(イ) 戻し利息金6575円の返戻エ同日現在残元本金1億0536万5541円の証書貸付借入金につき(ア) 残元本1億0536万5541円全額の弁済(イ) 約定利息金71万9359円の弁済(ウ) 遅延損害金3万7384円の弁済オ同日現在残元本金1700万円の証書貸付借入金につき(ア) 残元本金1700万円全額の弁済(イ) 約定利息金7万2353円の弁済(ウ) 遅延損害金1万3400円の弁済カ同日現在残元本金1700万円の証書貸付借入金につき(ア) 残元本金1700万円全額の弁済(イ) 約定利息金7万0329円の弁済(ウ) 遅延損害金1万9800円の弁済 2 原告の主張(1) 弁済破産会社は,上記争いのない事実(2)の合計1億7053万8000円のほか,平成 弁済(ウ) 遅延損害金1万9800円の弁済 2 原告の主張(1) 弁済破産会社は,上記争いのない事実(2)の合計1億7053万8000円のほか,平成13年3月23日,被告に対し,上記争いのない事実(2)アの弁済後の手形貸付借入金の残元金1779万5235円につき,残元本内金の弁済として金8万8508円を支払った(以下,これら合計1億7062万6508円の弁済を「本件弁済」といい,そのうち,争いのない1億7053万8000円の弁済については「本件争いのない弁済」ともいう。)。 (2) 破産債権者を害する事情ア破産会社は,無謀ともいえる経営拡大等に起因した損失,新規店舗等との競合による売上の激しい落ち込み等により,平成7年ころより経営悪化の一途を辿り,平成13年2月には金11億円を超える債務を負担するにもかかわらず,手許資金は枯渇し,下記イの株式会社Bから支払を受けるべき立退料等を充てるか新規の融資を受けない限り,同年3月21日期日の手形の決済資金及び商品仕入等のための運転資金の調達はできず,第1回目の手形不渡及び営業の停止(支払停止)は避けられない状況にあった。 イ上記状況のもと,株式会社Bと破産会社とは,平成13年2月17日,株式会社Bと破産会社とが昭和55年6月10日付で締結した建物賃貸借並びに出店契約(以下「本件出店契約」という。)を終了させ,①株式会社Bは,破産会社に対し,立退料(営業補償費を含む)を支払い,本件出店契約に基づく出店保証金を返還するとともに,破産会社の所有する株式会社B株式を買い取ることとし,他方,②破産会社は,株式会社Bに対し,借入金,未払賃料等を支払うこととしたうえ,上記①及び②の債権債務を清算した結果,株式会社Bが破産会社に支 ,破産会社の所有する株式会社B株式を買い取ることとし,他方,②破産会社は,株式会社Bに対し,借入金,未払賃料等を支払うこととしたうえ,上記①及び②の債権債務を清算した結果,株式会社Bが破産会社に支払うべき1億6741万0609円は,破産会社が被告に対して負担する債務の弁済に充てる旨の合意をした。 そして,株式会社Bと破産会社とは,同年3月13日,上記合意を変更し,株式会社Bが破産会社に支払い,それをもって破産会社が被告に対し負担する債務の弁済に充てるべき金額を金1億7053万8000円とした。 ウ上記イの合意及び変更合意(以下これらを併せて「本件合意」という。)に基づき,株式会社Bは,平成13年3月19日,破産会社に対し,被告のa支店の破産会社名義の普通預金口座に振り込む方法により,金1億7053万8000円を支払い,破産会社は,被告に対し,同入金額全額をもって上記争いのない事実(2)のとおり弁済した。 (3) 破産会社の悪意破産会社の代表者であったCは,本件弁済に際し,一般債権者を害することを知っていた。 すなわち,Cは,本件合意をするにあたって,本件争いのない弁済は,その額の大きさ及び被告への担保設定状況からみて,いわゆる偏頗弁済であることを十分認識していただけでなく,本件争いのない弁済をなしたものの新たな融資を受けることができなかった場合には,平成13年3月21日期日の手形決済資金及び商品仕入等のための運転資金の調達ができず,第1回目の手形不渡及び営業の停止は避けられなくなることを十分認識していたにもかかわらず,被告その他から新たな融資を受ける確実な手だてを取らないまま,本件争いのない弁済を含む本件弁済をなしたものである。 (4) 受益者(被告)の悪 れなくなることを十分認識していたにもかかわらず,被告その他から新たな融資を受ける確実な手だてを取らないまま,本件争いのない弁済を含む本件弁済をなしたものである。 (4) 受益者(被告)の悪意被告は,本件弁済に際し,破産会社が支払停止の状況にあることを知っていた。 すなわち,被告は,本件争いのない弁済を受ける時点で,破産会社に対し,金2億5700万円を上回る貸付債権を有する主たる取引金融機関であったもので,破産会社の財務状況等を十分に認識していた。しかも,被告幹部は,本件争いのない弁済を被告が受けた後,被告が破産会社に新規融資をしなければ,破産会社が手形不渡を出すことは不可避であることを十分に認識したうえ,本件合意の交渉過程において深く関与し,Cに対し,新たな融資をほのめかしつつ,本件合意及びそれに基づく本件争いのない弁済に応じさせた。しかしながら,被告は,本件争いのない弁済を受けるや,破産会社に対し,新規融資はできない旨を通告した。 (5) まとめ以上のとおりで,破産会社の被告に対する本件弁済は,破産法72条1号又は2号のいずれかに該当するので,原告は本件弁済を否認し,被告に対し,金1億7062万6508円及び内金1億7053万8000円に対する平成13年3月19日から,内金8万8508円に対する同月23日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による利息の支払を求める。 3 被告の主張(1) 本件弁済の原資となった財産は,もともと破産債権者の共同担保となることが予定されていない財産であり,本件弁済は,破産債権者の共同担保を減損するものではなく,有害性も不当性もないから,故意否認,危機否認いずれの対象にもならない。 ア本件合意に基づき本件弁済が 定されていない財産であり,本件弁済は,破産債権者の共同担保を減損するものではなく,有害性も不当性もないから,故意否認,危機否認いずれの対象にもならない。 ア本件合意に基づき本件弁済がなされた経緯は以下のとおりである。 破産会社a店は,本件ショッピングセンターのキーテナントとして,食料品等の販売を行っていたが,株式会社Bに対し,多額の未払賃料債務及び借入金があったうえ,平成12年3月ころから,近隣に複合大型ショッピングセンターが出店したため,本件ショッピングセンター全体の来場者数及び売上が減少し始め,加えて,平成13年にも,近隣に大型商業施設が開店することとなり,更なる集客力の減少が予想される状況であった。 このような状況下で,破産会社は,平成12年夏ころ,本件ショッピングセンターからの撤退を決意し,今後は残るb店及びc店で営業を行って,その立て直しを図ることとし,そのころ,その旨を株式会社B及び被告a支店のD支店長に伝えた。 株式会社Bの代表者Eは,もともと株式会社BはEの先代とCの先代が作った会社であり,これまでの破産会社の本件ショッピングセンターへの貢献等も考慮し,破産会社a店の株式会社B及び被告に対する債務を大幅に減少させることによって,破産会社の本件ショッピングセンターからの退店と残る店舗での営業の継続による立て直しを応援し,併せて,破産会社に代わる新規テナントのスムーズな入店によって本件ショッピングセンターの建て直しを図り,a町の商業の沈下を回避すべきこと,そのためには株式会社Bが被告から融資を受けないことには無理である旨をD支店長に提案した。 その後,D支店長と株式会社Bにおいて協議の結果,上記実現の方策として,株式会社Bは,破産会社 めには株式会社Bが被告から融資を受けないことには無理である旨をD支店長に提案した。 その後,D支店長と株式会社Bにおいて協議の結果,上記実現の方策として,株式会社Bは,破産会社に対し,株式会社Bが破産会社から差し入れを受けている出店保証金2534万円のほか,本件ショッピングセンターからの立退料として2億9000万円,破産会社が所有する株式会社Bの株式を株式会社Bが買い取る代金1500万円,以上合計3億3034万円を支払うこととし,これと破産会社が株式会社Bに負担する未払賃料等合計約1億6000万円の債務と対当額で相殺し,相殺後の残額の約1億7000万円については,株式会社Bが被告から融資を受けてこれを破産会社に支払い,破産会社は,その支払を受けた全額をもって破産会社の被告に対する債務の支払に充てることとし,かつ,上記被告から株式会社Bへの融資,同融資金による株式会社Bからの破産会社に対する弁済,同弁済金による破産会社からの破産会社の被告に対する債務の支払が確実に履行され,他にその資金が流用されたりすることのないように,それら取引のすべてを,同一日時に,同一場所で行うこととした。 以上の協議結果に基づき,株式会社Bと破産会社は,平成13年2月17日,破産会社a店の本件ショッピングセンター退店の日を平成13年2月20日として,これに伴う債権債務の清算に関し,① 株式会社Bが破産会社に支払いすべきもの立退料(営業補償費を含む) 2億9000万円株式買取代金 1500万円出店保証金 2534万円合計 3億3034万 株式買取代金 1500万円出店保証金 2534万円合計 3億3034万円② 破産会社が株式会社Bに支払いすべきもの借入金 8629万1000円未払賃料等 5292万0313円H協同組合に対する未払費用2371万8078円合計 1億6292万9391円③ 株式会社Bが破産会社に支払う額1億6741万0609円この金額は株式会社Bが破産会社に代わって破産会社の被告に対する債務を代位弁済する。 との合意を覚書を作成して行い,その後,同年3月13日に,債権債務の清算額を① 株式会社Bが破産会社に支払いすべきもの立退料(営業補償費を含む) 2億9000万円株式買取代金 1500万円出店保証金 2534万円合計 3億3034万円② 破産会社が株式会社Bに支払いすべきもの借入金 8629万1000円未払賃料等 5106万4023円H協同組合 支払いすべきもの借入金 8629万1000円未払賃料等 5106万4023円H協同組合に対する未払費用2244万6977円合計 1億5980万2000円③ 株式会社Bが破産会社に支払う額1億7053万8000円この金額は株式会社Bが破産会社に代わって破産会社の被告に対する債務を代位弁済する。 との内容に変更する旨の覚書によって,上記合意を変更する合意をした。 上記各覚書による合意(本件合意)に基づき,株式会社Bは,平成13年3月19日,株式会社Bが破産会社に支払うべきものとされた3億3034万円と破産会社が株式会社Bに支払うべきものとされた1億5980万2000円とを対当額で相殺した後の残債務額1億7053万8000円につき,被告から融資を受けて,破産会社に支払い,破産会社は,その支払を受けた1億7053万8000円全額を被告に対する債務の弁済(本件争いのない弁済)に充てた。 イところで,株式会社Bは,本件合意によって,破産会社に対し立退料等合計3億3034万円の支払義務があることとされたが,法的には,破産会社の本件ショッピングセンター退店に際し,株式会社Bが破産会社に支払わなければならないような債務は何ら存しなかった。 すなわち,破産会社は本件ショッピングセンターから退店した平成13年3月当時,5000万円を超える未払賃料等があ が破産会社に支払わなければならないような債務は何ら存しなかった。 すなわち,破産会社は本件ショッピングセンターから退店した平成13年3月当時,5000万円を超える未払賃料等があったのであり,株式会社Bとしてはいつでも契約解除できる状況にあり,かつ,契約解除がなされれば,破産会社は,立退料も造作買取請求等もできない立場にあったことからして,本件合意当時,破産会社が有していた借家権に立退料等が発生するような財産的価値がなかったことは明らかである。また,本件合意当時破産会社が所有していた株式会社Bの株式の評価額はゼロであり,財産的価値はなかった。さらには,出店保証金2534万円も,いずれは未払賃料等の支払に充当されるべきものであり,5000万円を超える未払賃料等のあった本件では,その価値はゼロである。 それにもかかわらず,株式会社Bが,立退料,株式買取代金の各支払義務及び出店保証金返還義務を破産会社に対して負うものとする本件合意をしたのは,破産会社の本件ショッピングセンター退店後の営業継続を応援し,そのために必要な破産会社の株式会社B及び被告に対する債務の削減を実現させるためであり,株式会社Bは,破産会社に対し,恩恵的に3億3034万円の債務を負担したのである。 そして,破産会社の被告に対する債務の削減は,恩恵的に作り出された債務の履行という形を取った上で,株式会社Bから破産会社に弁済金として1億7053万8000円を振り込み,その振込金を破産会社が被告に振り込んで支払うことによって実行された。株式会社Bが破産会社に振り込むための金員は被告の融資に基づく金員であり,この融資は,上記のような方法で破産会社の債務の削減のためにのみ使用するとの約束で実行されたのである。その結果,破産会社の被告に対 会社Bが破産会社に振り込むための金員は被告の融資に基づく金員であり,この融資は,上記のような方法で破産会社の債務の削減のためにのみ使用するとの約束で実行されたのである。その結果,破産会社の被告に対する債務は1億7053万8000円減少した一方で,株式会社Bは,破産会社の債務減少分だけ被告に対する債務を増加させている。 ウ以上の一連の事実から明らかなとおり,本件合意によってなされた破産会社の株式会社B及び被告に対する債務の削減の実質は,株式会社Bの破産会社に対する債権の放棄並びに破産会社が被告に有する債務の株式会社Bによる代位弁済とそれに対する求償権の放棄あるいは株式会社Bによる破産会社への被告に対する債務を返済するための資金の贈与に他ならないが,債権放棄や贈与となれば,新たな税負担等の問題が生じるため,名目上,立退料等の支払義務を認める本件合意による方法がとられたのである。 そして,本件合意の履行については,被告から株式会社Bへの融資,同融資金による株式会社Bからの破産会社に対する弁済,同弁済金による破産会社からの被告に対する債務の支払が確実に履行され,他にその資金が流用されたりすることのないように,それら取引のすべてを,同一日時に,同一場所で行うことがあらかじめ合意され,実際にもこれが同時になされたもので,本件合意に違反して破産会社に振り込まれた金員を破産会社が他の使途に流用したり,第三者が差し押さえるなどして本件合意の履行ができなくなる可能性はまったくなかったのである。 エこのような事実関係のもとで,本件弁済として破産会社から被告に支払われた金員は,もともと破産会社の帳簿に計上できる類の金員ではなかった。また,他の債権者の共同担保財産となり得ることはまったく予定されていなかったし,他の債権者が共同 済として破産会社から被告に支払われた金員は,もともと破産会社の帳簿に計上できる類の金員ではなかった。また,他の債権者の共同担保財産となり得ることはまったく予定されていなかったし,他の債権者が共同担保財産として配当などを期待できる筋合のものでもなかった。もちろん,他の債権者の共同担保財産となるのであれば,破産者に帰属し得なかったはずの財産であった。万一配当するとすれば,他の債権者にとっては棚ぼた式の配当となり,他の債権者がこのような配当を期待することは著しく合理性を欠くものであり,本件弁済金を破産財団に属する財産とすることは著しく不衡平にして信義則に反する結果となる。 以上のとおり,本件弁済は,破産債権者の共同担保財産を減損するものではなく,共同担保財産を基礎とする債権者平等原則の対象外であるから,有害性はまったくない。 のみならず,本件弁済は,株式会社B,被告及び破産会社の三者間の合意により,株式会社Bが破産会社に対して債務を負担していることとして,株式会社B及び被告の破産会社に対する債権を減少させ,もって破産会社の事業継続を確保し,破産会社のみならず他の債権者や取引先にも利益を与え,社会的混乱を未然に防止するためになされたのであり,不当性も欠く。 よって,本件弁済は,故意否認,危機否認いずれの対象にもならない。 (2) 被告は,本件弁済を受けた当時,破産債権者を害することをまったく知らなかったものであり,悪意はなく,善意であったから,本件弁済は,故意否認,危機否認いずれの対象にもならない。 すなわち,以下の経過からも明らかなとおり,被告や他の仕入れ業者らも,破産会社が,本件ショッピングセンターから撤退後も,本件弁済を受けて,b店及びc店で営業を継続していくものと信じ すなわち,以下の経過からも明らかなとおり,被告や他の仕入れ業者らも,破産会社が,本件ショッピングセンターから撤退後も,本件弁済を受けて,b店及びc店で営業を継続していくものと信じていたもので,破産会社が,突然に支払を停止し,破産申立てを行うなどといったことは,予測不可能であった。そして,破産会社が交換呈示された小切手の決済を行わずに支払を停止したのは平成13年3月21日であり,かつ,そのことを被告が知ったのは,手形不渡処理簿を受領した同月23日ころであるから,被告が受けた本件弁済は,故意否認の対象にも,危機否認の対象にもならない。 ア破産会社は,平成12年夏ころ,本件ショッピングセンターからの撤退を決意し,その後は,残るb店及びc店で営業を行う旨を株式会社B及び被告に表明したことから,これを支援し,かつ,スムーズに実現させる方策として,被告の関与のもとに破産会社と株式会社Bは本件合意をなし,これに基づき,破産会社は,平成13年2月20日,本件ショッピングセンターから退店した。 イ破産会社は,上記退店後も,被告はもとより,仕入れ業者らに対しても,今後は,b店及びc店で営業を継続する意向を伝え,また,平成13年3月には,両店を改装して同年4月に再開店することを予定し,その旨のチラシを作成し,同月17日,18日には両店で改装のための売り尽くしセールを開催するなどしていたもので,破産会社自身,この時点では破産申立てなど考えてもいなかった。 ところが,同月19日に弁護士に相談した破産会社の代表者であったCは,弁護士から破産申立てを勧められ,この時点で初めて破産申立ての検討を始めた。しかし,Cは,そのことを誰にも明かすことはせず,同日,本件合意に基づき株式会社Bとの債権債務の清算を行 表者であったCは,弁護士から破産申立てを勧められ,この時点で初めて破産申立ての検討を始めた。しかし,Cは,そのことを誰にも明かすことはせず,同日,本件合意に基づき株式会社Bとの債権債務の清算を行ったうえ,被告に本件争いのない弁済を行った。そして,Cは,本件弁済を行った2日後の同月21日になって,弁護士に破産申立てを委任するとともに,同月21日に交換呈示された額面30万円の小切手2通の決済を行わず,支払を停止した。 ウ被告は,手形不渡処理簿によって,同月23日ころ初めて破産会社が,交換呈示された小切手の決済をせず,支払を停止したことを知った。 4 被告の主張に対する原告の反論(1) 本件合意に基づき株式会社Bが破産会社に支払義務を負った金員は,本件合意当時,法律上未だ消滅せずに破産会社に帰属していた借家権,出店保証金,株式会社Bの株式の対価であるが,被告は,それらは,本来,財産的には無価値であったことを前提にして,本件弁済は,破産債権者の共同担保を毀損するものではなく,有害性も不当性もないから,故意否認,危機否認いずれの対象にもならないと主張する。 しかし,たとえ賃料不払により契約解除される可能性のある借家権であっても,未だ解除されず法律上消滅しない状態のまま,その帰属主体が破産した場合,破産管財人と賃貸人との交渉によって何らかの対価が破産財団に確保される可能性があることは,自明のことであり,法律上消滅していない限り,何らかの価値を有しているといえる。出店保証金及び株式についても,同様であり,何らかの価値,対価を破産財団に確保することも可能である。したがって,一般論としても,破産会社に帰属していた上記借家権,出店保証金,株式がいずれも財産的価値がないものであったということはできない。 値,対価を破産財団に確保することも可能である。したがって,一般論としても,破産会社に帰属していた上記借家権,出店保証金,株式がいずれも財産的価値がないものであったということはできない。 そして,これを本件について具体的にみると,本件ショッピングセンターに占める破産会社の店舗面積の大きさからいって,その退店のための費用と時間は相当なものとなり,円滑な破産会社の退店ないしは新規テナントへの移行がなされないことには賃貸人である株式会社Bだけでなく,本件ショッピングセンターの他の店舗に与える影響も大きく,それらを円滑に処理するには破産管財人の協力を仰ぐほかなく,その結果,破産管財人が何らかの対価を破産財団に確保することが可能であったといえる。出店保証金についても,借家権の処理とともに,破産管財人の交渉次第によっては,破産財団に残るべき何らかの価値を確保するすることが十分可能であったといえる。さらに,株式についても,破産会社の有する株式数が株式会社Bの株式数2600株のうち750株と多いことから,株式会社Bとしても,破産管財人の換価に対応せざるを得ない関係にあり,破産管財人が何らかの対価を破産財団に確保することは十分に可能であったといえる。 また,被告は,破産会社の有する借家権は賃料不払により契約解除される運命にあったと主張するが,解除に伴う破産会社の混乱,破産会社の退店から新規テナント入居までの本件ショッピングセンターの混乱,新規テナント募集の困難性によって生じる不利益等を考えると,株式会社Bとしては,賃貸借契約を一方的に解除することは,現実問題としてはできず,破産会社に何らかの対価を支払って退店を円滑に進めるほかなかったと考えられる。 ところで,本件合意に基づく処理をせず,破産会社が本件ショッピン 解除することは,現実問題としてはできず,破産会社に何らかの対価を支払って退店を円滑に進めるほかなかったと考えられる。 ところで,本件合意に基づく処理をせず,破産会社が本件ショッピングセンターを立ち退かないまま破産した場合の不利益は,株式会社Bだけでなく,被告にも生じる関係にあったものである。すなわち,被告は,破産会社に対して貸金を有するだけでなく,株式会社Bにも多額の貸金を有していたことから,破産会社が本件ショッピングセンターから立ち退かないまま破産した場合,破産会社に対する債権だけでなく,株式会社Bに対する債権も不良化する関係にあったところ,本件合意に基づく処理によって,破産会社に対する債権が回収できたのである。もちろん,被告は,この回収額に相当する新たな貸金を株式会社Bに対して実行したわけであるが,これによって生じた債権の回収可能性は,破産会社に対してそのまま貸金を有していた場合に比べ,格段に高く,しかも破産会社の円滑な退店により,株式会社Bの経営の安定化も図れることにより,株式会社Bに対する債権の不良化を避けることができたのである。本件合意による処理の実質的利益の帰属主体は,むしろ被告であったともいえる。 要するに,株式会社Bは,被告から新たに借り入れた金員を超える利益があると判断したからこそ,本件合意に基づく処理に応じたのであり,被告も,株式会社Bに新たな貸金を実行したのであって,本件合意によって,借家権,出店保証金,株式の対価として株式会社Bが破産会社に支払う義務があるとされた合計3億3034万円は,まさに,それだけの経済的価値を有していたからこそ,そのような処理がなされたものというべきである。したがって,そのうち株式会社Bとの相殺後に残った1億7053万8000円は,破産会社が被告に弁済をし まさに,それだけの経済的価値を有していたからこそ,そのような処理がなされたものというべきである。したがって,そのうち株式会社Bとの相殺後に残った1億7053万8000円は,破産会社が被告に弁済をしていなければ,破産会社の手許に残ったはずのものであり,まさに破産財団に属すべき財産にほかならず,その被告への弁済は,共同担保を毀損するものであり,破産債権者を害する弁済にほかならない。 (2) 本件合意当時破産会社に帰属していた借家権,出店保証金,株式が財産的には無価値であったとの被告の主張は,上記のとおり根拠のないものであるが,上記被告の主張は,本件合意は,破産会社と株式会社Bが,本来,破産会社の有する借家権,出店保証金,株式は無価値であって,株式会社Bはそれらの対価を破産会社に支払う義務がないにもかかわらず,これらが存在するものと相通じてなした虚偽のものであるとも理解できる。 しかし,そうとすれば,破産会社と株式会社Bの本件合意に基づき支払われた立ち退き料等から自らの債権の満足を受けた被告は,本件合意の虚偽表示による無効を,善意の第三者である原告(破産管財人)には対抗できないから,本件合意を前提としてなされた株式会社Bから破産会社への立ち退き料等の支払はすべて有効なもの,すなわち,株式会社Bに支払うべき義務があったから支払われたものとして扱われるべきであり,そうとすれば,破産会社が行った被告への弁済は,破産債権者の共同担保を毀損するものとして,否認の対象となるといわざるを得ない。 第3 当裁判所の判断 1 平成13年3月19日の本件争いのない弁済について(1) 前記争いのない事実,証拠(甲4,6の1・2,7の2,8の1,11,乙7~9,10の1~7,11~13,18,証人D,同E,同C)及び弁論の全趣旨 19日の本件争いのない弁済について(1) 前記争いのない事実,証拠(甲4,6の1・2,7の2,8の1,11,乙7~9,10の1~7,11~13,18,証人D,同E,同C)及び弁論の全趣旨によれば,平成13年3月19日になされた合計1億7053万8000円の本件争いのない弁済は,破産会社が,平成12年夏ころ,本件ショッピングセンターから撤退し,残るb店及びc店で営業を継続してその建て直しを図る意向を表明したことが契機となって,被告の関与のもとに,破産会社の本件ショッピングセンターからの退店とこれに伴う新規テナントの入店及び破産会社と株式会社Bとの間の債権債務の清算等が協議され,その結果,破産会社の退店とそれに伴う株式会社Bとの債権債務の清算に関しては,平成13年2月17日付及び同年3月13日付の破産会社と株式会社Bとの本件合意によって,破産会社の本件ショッピングセンター退店日が平成13年2月20日と決定され,それに伴う清算として,株式会社Bは,破産会社に対して,立退料(営業補償費を含む)2億9000万円,株式会社Bの株式買取代金1500万円,出店保証金返還金2534万円の以上合計3億3034万円を支払う義務があり,一方,破産会社は,株式会社Bに対して,借入金8629万1000円,未払賃料等5106万4023円,H協同組合に対する未払費用2244万6977円の以上合計1億5980万2000円の支払義務があることが確認され,かつ,これを相殺の上,その差額である1億7053万8000円を,株式会社Bが被告から借入を行ってこれを破産会社に支払い,その支払を受けた破産会社はその全額を直ちに破産会社の被告に対する債務の弁済にあてることが合意されたことに基づきこれがなされたもので,破産会社の退店は,平成13年2月20日に実行され,同月21日 ,その支払を受けた破産会社はその全額を直ちに破産会社の被告に対する債務の弁済にあてることが合意されたことに基づきこれがなされたもので,破産会社の退店は,平成13年2月20日に実行され,同月21日には株式会社Fが新たなテナントとして入居することとなり,金銭の清算等は,株式会社Bが被告から借り入れて破産会社に支払う金員が,他に流用されたり,第三者から差押等を受けることのないように,本件争いのない弁済を含めすべてが平成13年3月19日に,被告a支店において,破産会社の代表者C,株式会社B代表者のE,D支店長らが立ち会ったうえ,上記本件合意に則って行われたことが認められる。 (2) 原告は,本件合意によって株式会社Bが破産会社に支払うべき義務があるとされた立退料(営業補償費を含む)2億9000万円,株式会社Bの株式買取代金1500万円,出店保証金返還金2534万円の以上合計3億3034万円は,破産会社が有していた借家権,株式,出店保証金につき,まさにそれだけの価値があったからであると主張するのに対し,被告は,本来,株式会社Bがそれら立ち退き料等を支払うべき義務はなかったとして,これを争うところ,確かに,上記本件合意においても確認されているとおり,破産会社は,当時5000万円を超える賃料等を未払にしていたもので,株式会社Bとしては,いつでも契約解除できる状況にあったことからして,破産会社が有していた借家権に2億9000万円の立退料(営業補償を含む)が発生するような価値があったとはにわかには認めがたいし,出店保証金についても,未払賃料等があれば,いずれはその支払に充当されるべきものであるから,5000万円を超える未払賃料が現にある本件では,その価値はゼロといわざるを得ない。また,破産会社が有していた株式会社Bの株式も,証拠(乙6)及び弁 いずれはその支払に充当されるべきものであるから,5000万円を超える未払賃料が現にある本件では,その価値はゼロといわざるを得ない。また,破産会社が有していた株式会社Bの株式も,証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば,その評価額はゼロであって,1500万円もの価値があったものとは認めがたい。 もっとも,原告が反論するとおり,賃料の未払が多額にあったとしても,また,株式等の評価額がゼロであったとしても,その立退きを得る困難性等諸般の事情から,立退料等が支払われる場合のあることもまま見られるところであり,上記したところから,破産会社が有した借家権,出店保証金,株式の財産的価値が直ちにゼロであるとまでは言い切れないことも事実であって,とりわけ,本件においては,破産会社の退店と新規テナントの入店が円滑に行われることが,本件ショッピングセンターの今後の運営にとって大きな要素であったことも認めざるを得ないところである。 しかし,そうとしても,破産会社は未払賃料以外にも株式会社Bに多額の負債及びH協同組合に対する未払費用をかかえていたもので,本件合意において破産会社が株式会社Bに支払うべき義務があるとされた金員は1億5980万2000円にものぼることを考慮すると,原告の主張する事情等を考慮しても,破産会社が株式会社Bに支払うべき前記金員と相殺したうえで,さらに株式会社Bが破産会社に1億7053万8000円もの金員を支払わなければならないほどの立退料や株式買取代金が発生すものとはにわかには認めがたい。むしろ,上記したところに加え,本件合意がなされるに至った経緯に関する証人D,同E,同Cの各証言をも総合すると,本件合意は,本件ショッピングセンターの今後の円滑な運営とともに,破産会社のこれまでの本件ショッピングセンター運営にお 本件合意がなされるに至った経緯に関する証人D,同E,同Cの各証言をも総合すると,本件合意は,本件ショッピングセンターの今後の円滑な運営とともに,破産会社のこれまでの本件ショッピングセンター運営における特別の貢献に鑑み,破産会社が本件ショッピングセンターを撤退するに際し,破産会社の株式会社Bに対する債務が残らないようにするとともに,破産会社の被告に対する債務についてもこれを減少させ,もって,本件ショッピングセンター撤退後の破産会社の営業継続を支援することに主眼があったものと認められる。 そうすると,被告が破産会社から本件争いのない弁済として受領した1億7053万8000円は,名目的には,株式会社Bから破産会社に対して立退料等として支払われた金員がその支払に充てられたものであるが,前記のとおり,破産会社が株式会社Bからそのような多額の立退料等の支払を受けられる関係にはないにもかかわらず,上記名目で株式会社Bから破産会社に支払がなされ,次いで破産会社から被告に支払がなされたのは,被告が主張するとおり,その支払の実質は,株式会社Bによる破産会社への支援であり,株式会社Bによる債務の肩代わり(代位弁済)とこれにより取得する求償権の放棄にほかならないところ,求償権の放棄によって生じることのある対税上の問題を回避するために,上記支払の形態を取ったものと認めるのが相当である。 したがって,本件争いのない弁済は,その原資が名目上は立退料等であることから,一般債権者の共同担保となるかのようであるが,その実質は,上記のとおりであることからすれば,一般債権者の共同担保となることが予定されたものではなかったし,また,本件合意の履行にあたっては,その支払われる金員が他の用途に流用されたり,第三者に差押等されることのないよう,関係者が からすれば,一般債権者の共同担保となることが予定されたものではなかったし,また,本件合意の履行にあたっては,その支払われる金員が他の用途に流用されたり,第三者に差押等されることのないよう,関係者が一同に会してその処理を行う等していることからも明らかなとおり,それが一般共同債権者の担保とされてしまうのであれば,その実行はなされなかったもので,破産会社には帰属することのなかった財産にほかならない。 以上からすれば,本件争いのない弁済は,破産債権者の共同担保財産を何ら減損するものではなく,破産債権者を害するものとは認められないから,故意否認,危機否認いずれの対象にもならないものと解される。 なお,原告は,株式会社Bは破産会社に立退料等を支払う義務はなかったにもかかわらず,支払義務があるものとして支払ったものであるとの被告の主張をもって,通謀虚偽表示の主張と解されるとして,善意の第三者である原告(破産管財人)に対しては,被告は,その,本件合意の無効を主張できないから,これが名目どおり立退料等として有効に支払われたものと扱うべきであり,したがって,本件弁済は,共同担保を毀損するものとして否認権の対象となると反論する。 しかし,被告は,本件合意に基づいてなされた財貨の移動を通謀虚偽表示により無効であるとして否定しているわけではなく,その財貨の移動はこれが有効であることを前提として,その実質が,株式会社Bによる破産会社に対する支援にほかならない旨を主張するものである。したがって,被告の主張をもって本件合意の無効を主張するものであることを前提とする原告の主張は採用できない。 (3) 以上によれば,本件争いのない弁済1億7053万8000円については,その余について判断するまでもなく,原告の請求は理由が 主張するものであることを前提とする原告の主張は採用できない。 (3) 以上によれば,本件争いのない弁済1億7053万8000円については,その余について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。 2 平成13年3月23日の弁済について証拠(甲5の6,乙21,証人D)及び弁論の全趣旨によれば,破産会社は,平成13年3月21日,交換に回った小切手の決済を行わずに支払を停止したところ,その2日後の平成13年3月23日,被告に対し,本件争いのない弁済とは別に,前記争いのない事実(2)アによる弁済後の手形貸付借入金の残元金1779万5235円につき,残元本内金の弁済として金8万8508円を支払ったこと,被告は,そのころまでには破産会社が支払を停止したことを知るに至っていたことが認められる。 そうすると,上記金8万8508円の弁済については,破産法72条2号に該当するものであり,原告の否認権行使は理由がある。 3 以上の次第で,原告の請求は,被告に対し,金8万8508円とこれに対する平成13年3月23日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから,その限度でこれを認容することとして,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判官上田昭典

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